JP6073167B2 - 面疲労強度と冷間鍛造性に優れた肌焼用鋼材 - Google Patents
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(2)フェライトは、面積分率が高く、結晶粒が粗大なほど、球状化焼鈍後の変形抵抗が低くなる。しかし、フェライトの面積分率が高く結晶粒が粗大なほど、炭化物の分散性が悪化して変形能が低下する。
(3)パーライトの面積分率が高いほど、球状化焼鈍した際にアスペクト比の大きい炭化物量が多くなり、割れの起点となるため、変形能が低下する。しかしながら、低すぎる場合には粗大な炭化物量が少なくなるため、変形抵抗が増大する。
(A)フェライトの面積分率が37〜65%であること、
(B)ベイナイトの面積分率が30〜60%であること、
(C)パーライトの面積分率が3〜10%であること、
(D)フェライト結晶粒度番号が7〜9であること。
フェライトの面積分率が高いほど、球状化焼鈍後の鋼材の変形抵抗が低くなる。こうした効果を発揮させるためには、フェライトの面積分率は37%以上とする必要がある。しかしながら、フェライトの面積分率が65%を超えると、球状化焼鈍後の炭化物の分散性が悪化するために変形能が低下する。フェライトの面積分率の好ましい下限は40%以上(より好ましくは45%以上)、好ましい上限は62%以下(より好ましくは55%以下)である。
ベイナイトの面積分率が高いほど、球状化焼鈍後に炭化物が球状化しやすくなり、鋼材の変形能は向上する。こうした効果を発揮させるためには、ベイナイトの面積分率は30%以上とする必要がある。しかしながら、ベイナイトの面積分率が60%を超えると、微細な炭化物量が増大するため、変形抵抗が高くなる。ベイナイトの面積分率の好ましい下限は32%以上(より好ましくは34%以上)、好ましい上限は50%以下(より好ましくは40%以下)である。
パーライトの面積分率が高いほど、球状化焼鈍した際にアスペクト比の大きい炭化物量が多くなり、割れの起点となるため、鋼材の変形能が低下する。そのため、パーライトの面積分率は10%以下とする必要がある。しかしながら、パーライトの面積分率が少なくなり過ぎると、粗大な炭化物量が少なくなるため、変形抵抗が高くなる。そのため、パーライトの面積分率は3%以上とする必要がある。パーライトの面積分率の好ましい下限は4%以上(より好ましくは5%以上)、好ましい上限は8%以下(より好ましくは6%以下)である。
フェライト結晶粒が粗大なほど、球状化焼鈍後の変形抵抗が低くなる。そのような効果を発揮させるためには、フェライト結晶粒度番号を9以下とする必要がある。しかしながら、フェライト結晶粒度番号が7未満となるとフェライトの結晶粒が粗大になって、炭化物の分散性が悪化し、変形能が低下する。フェライト結晶粒度番号は、好ましくは7.5以上、8.5以下である。
Cは、強度付与元素であり、0.15%未満では必要な強度が得られない。一方、0.25%を超えると冷間鍛造性の低下(変形能の低下)、被削性および靱性の低下となるので、0.25%を上限とする。尚、C含有量の好ましい下限は0.17%以上(より好ましくは0.19%以上)であり、好ましい上限は0.23%以下(より好ましくは0.21%以下)である。
Siは、鋼材の軟化抵抗性を向上させて面疲労強度を高める元素として作用し、本発明では積極的に含有させる。こうした作用を有するSiを含有させることによって、歯車などにおいて駆動中に接触部位の温度が上昇した際に、軟化の抑制が図れて高い硬さを維持し、ピッチングに対する面疲労強度向上、および耐摩耗性向上に寄与する。こうした効果を発揮させる為には、Siは0.40%以上含有させる必要がある。しかしながら、Si含有量が過剰になると強度上昇が著しくなって、冷間鍛造性および被削性が低下することになる。また粒界酸化層が増大し、表面の硬さ低下の一因となり、面疲労強度を低下させる。こうした観点から、Si含有量の上限を0.6%以下とする。尚、Si含有量の好ましい下限は0.43%以上(より好ましくは0.45%以上)であり、好ましい上限は0.55%(より好ましくは0.53%以下)である。
Mnは、脱酸・脱硫剤および焼入れ性向上元素として作用し、またベイナイトの生成にも有効な元素である。こうした効果を発揮させるためには、Mnは0.20%以上含有させる必要がある。しかしながら、Mnの含有量が過剰になると、球状化焼鈍後における変形抵抗が高くなって冷間鍛造性や靱性の低下を招くと共に、被削性も劣化する。また粒界酸化層が増大して、表面の硬さ低下の一因となり、面疲労強度を低下させることにもなる。こうした観点から、Mn含有量は0.49%以下とする。尚、Mn含有量の好ましい下限は0.3%以上(より好ましくは0.4%以上)であり、好ましい上限は0.47%以下(より好ましくは0.45%以下)である。
Pは、不可避的に不純物として含有する元素である。Pは粒界に偏析し、熱間加工性、面疲労強度を低下させるため、極力低減することが望ましい。しかしながら、極端に低減することは製鋼コストの増大を招くことになる。こうしたことから、Pの含有量は、0.015%以下とした。好ましくは0.010%以下(より好ましくは0.008%以下)に低減するのが良い。
Sは、不可避的に不純物として含有する元素である。SはMnSとして析出し、面疲労強度および衝撃特性を低下させるため極力低減することが望ましい。しかしながら、極端に低減することは製鋼コストの増大を招くことになる。こうしたことから、S含有量は、0.02%以下とした。好ましくは0.015%以下(より好ましくは0.010%以下)に低減するのが良い。
CrはMnと同様に、焼入れ性向上元素として作用し、また球状化焼鈍後の炭化物のアスペクト比を低減させ、冷間鍛造時に割れが発生するのを防止する効果がある。こうした効果を発揮させるためには、Crは1.25%以上含有させる必要がある。しかしながら、Crの含有量が過剰になると、球状化焼鈍後における変形抵抗が高くなって冷間鍛造性や靱性の低下を招くと共に、被削性も劣化する。また粒界酸化層が増大し、表面の硬さ低下の一因となり、疲労強度を低下させることにもなる。こうした観点から、Cr含有量は1.6%以下とする必要がある。尚、Cr含有量の好ましい下限は1.30%以上(より好ましくは1.35%以上)であり、好ましい上限は1.5%以下(より好ましくは1.4%以下)である。
MoはMnと同様に、焼入れ性を向上元素として作用し、またベイナイトの生成に有効な元素である。更に浸炭後の不完全焼入層の生成を抑制する効果も有する。こうした効果を発揮させるためには、Moは0.40%以上含有させる必要がある。しかしながら、Moを過剰に含有させると球状化焼鈍後における変形抵抗が高くなって冷間鍛造性が劣化すると共に、被削性を低下させる。こうした観点から、Mo含有量の上限は0.80%以下とする必要がある。尚、Moの好ましい下限は0.45%以上(より好ましくは0.50%以上)であり、好ましい上限は0.75%以下(より好ましくは0.70%以下)である。
Alは脱酸剤であると同時に、微細な窒化物形成により結晶粒を微細化し、靱性を向上させる元素である。こうした効果を有効に発揮させるためには、少なくとも0.01%以上含有させる必要がある。しかしながら、Alの含有量が過剰になると、鋳造および圧延時に窒化物の粗大化によって、靱性に悪影響を及ぼし、加工性を低下することになる。こうした観点から、Alの含有量は0.050%以下とする必要がある。尚、Al含有量の好ましい下限は0.015%以上(より好ましくは0.020%以上)であり、好ましい上限は0.040%以下(より好ましくは0.035%以下)である。
Nは、Al等と窒化物を形成し、結晶粒を微細化し、靱性を向上させる元素である。こうした効果を発揮させるためには、Nは少なくとも0.008%以上含有させる必要がある。しかしながら、N含有量が過剰になると、歪み時効により、冷間鍛造性が低下するので、その含有量は0.025%以下とする。尚、N含有量の好ましい下限は0.011%以上(より好ましくは0.015%以上)であり、好ましい上限は0.022%以下(より好ましくは0.020%以下)である。
Cuは、鋼材の焼入れ性を高める効果があるが、添加しなくても目的とする性能が得られる場合もあるので、必要に応じて少量添加して使用できる。Cuを含有させる場合には、0.03%以上(より好ましくは0.05%以上)含有させることが好ましい。但し、Cuを多量に含有させると、熱間圧延性、冷間鍛造性を劣化させるので、0.1%以下とすることが好ましい。より好ましくは、0.07%以下である。
Nbは、浸炭後の結晶粒を微細化させ、鋼材の靱性を向上させると共に面疲労強度を向上させる効果がある。Nbを含有させる場合には、0.003%以上(より好ましくは0.005%以上)含有させることが好ましい。しかしながら、Nbを多量に含有させると、鋳造、熱間圧延時に炭窒化合物を形成し、加工性を劣化させると共に、球状化焼鈍後の変形抵抗を増大させ、冷間加工性も低下させる。こうした観点から、Nbの好ましい含有量は0.02%未満(より好ましくは0.017%以下)を上限とした。
各圧延材について、760℃まで2時間で昇温した後、その温度で5時間保持し、その後650℃までを5℃/時の平均冷却速度で徐冷する条件で球状化処理した。
球状化焼鈍後の鋼材の中心部から、直径:20mm、厚さ:30mmの円盤(試験片)を切り出し、プレス試験機を用いて、加工率(圧縮率):80%で冷間鍛造した後、試験片の側面を光学顕微鏡で観察し(倍率:20倍)、割れ発生の有無を確認し、変形能を評価した。また加工率50%で冷間鍛造した後の変形抵抗(MPa)を測定し、変形抵抗の評価を行った。尚、上記加工率は[{1−(L/L0)}×100(%)](但し、L:加工前の試験片厚さ(mm)、L0:加工後試験片厚さ(mm))で示されるものである。このとき、SCM420H相当鋼(鋼種A)の変形抵抗値である677MPaを下回る場合を合格とした。
下記表2、3に示した試験No.1、2、14〜27、30、33、36、37〜40、43で得られた各圧延材から、ローラピッチング試験片を下記の手順で作製し、得られた試験片について、面圧:2.7、3.0、3.3(GPa)、回転数:1500rpm、すべり率:−40%、オートマチックオイル(油温:80℃)使用の条件で、ローラピッチング試験を行ない、100万回強度により、ピッチング強度を評価した。このとき用いた相手ローラーは、SUJ2からなる調質品(表面硬さ:HV700、クラウニングR:150mm)を用いた。そして、100万回強度が3.1GPa以上(鋼種Aを用いたときの1.1倍以上)を合格とした。
上記鋼材(圧延材)の表面を研磨し、カーボンポテンシャルが0.80%の浸炭ガス雰囲気中で浸炭処理(温度:930℃×5時間)した後油冷し、更に170℃で2時間の焼戻し処理を行った。こうして得られたローラピッチング試験片の試験部の最終形状は直径:26mmである。
Claims (3)
- C :0.15〜0.25%(質量%の意味、成分組成について、以下同じ)、
Si:0.40〜0.6%、
Mn:0.20〜0.49%、
P :0.015%以下(0%を含まない)、
S :0.02%以下(0%を含まない)、
Cr:1.25〜1.6%、
Mo:0.40〜0.80%、
Al:0.01〜0.050%、および
N:0.008〜0.025%、
を夫々含み、残部が鉄および不可避不純物からなり、
フェライトの面積分率:37〜65%、ベイナイトの面積分率:30〜60%、パーライトの面積分率:3〜10%であり、フェライト、ベイナイト、パーライト以外の組織は5面積%以下であると共に、フェライト結晶粒度番号が7〜9であることを特徴とする球状化焼鈍後の面疲労強度と冷間鍛造性に優れた肌焼用鋼材。 - 更に、Cu:0.1%以下(0%を含まない)および/またはNi:0.1%以下(0%を含まない)を含有するものである請求項1に記載の肌焼用鋼材。
- 更に、Nb:0.02%未満(0%を含まない)を含有するものである請求項1または2に記載の肌焼用鋼材。
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