JP5400590B2 - 転動疲労寿命の安定性に優れた鋼材 - Google Patents
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(B)Al系窒素化合物による分散強化を図るためには、Al系窒素化合物の量(個数密度)と大きさを規定する必要があること、
(C)Al系窒素化合物における分散度合い(個数密度)を達成するためには、鋼中のAlやNの含有量を厳密に制御することが重要であること、および鋼材の製造工程において、熱間圧延後にAl系窒素化合物の析出温度範囲である850〜650℃の温度範囲を除冷した後、冷却速度を速めることが有用であること、
(D)鋼材の研磨性を良好にするには、セメンタイトの面積率や大きさ(円相当直径)を所定の範囲とすることが有効であること、また上記Al系窒素化合物の大きさも研磨後の表面性状(研磨後の表面粗さ)に影響を及ぼすこと、
(E)セメンタイトの面積率や大きさ(円相当直径)を所定の範囲とするためには、部品形状加工前の球状化熱処理(球状化焼鈍)を適切に制御することが有効であること。
Cは、焼入硬さを増大させ、室温、高温における強度を維持して耐摩耗性を付与するために必須の元素である。こうした効果を発揮させるためには、Cは0.65%以上含有させなければならず、好ましくは0.8%以上(より好ましくは0.95%以上)含有させることが望ましい。しかしながら、C含有量が多くなり過ぎると巨大炭化物が生成し易くなり、研磨性および転動疲労特性に却って悪影響を及ぼす様になるので、C含有量は1.10%以下、好ましくは1.05%以下(より好ましくは1.0%以下)に抑えるべきである。
Siは、マトリックスの固溶強化および焼入れ性を向上させるために有用な元素である。こうした効果を発揮させるためには、Siは0.05%以上含有させる必要があり、好ましくは0.1%以上(より好ましくは0.15%以上)含有させることが望ましい。しかしながら、Si含有量が多くなり過ぎると加工性や被削性が著しく低下するので、Si含有量は1.0%以下、好ましくは0.9%以下(より好ましくは0.8%以下)に抑えるべきである。
Mnは、マトリックスの固溶強化および焼入れ性を向上させるために有用な元素である。こうした効果を発揮させるためには、Mnは0.1%以上含有させる必要があり、好ましくは0.15%以上(より好ましくは0.2%以上)含有させることが望ましい。しかしながら、Mn含有量が多くなり過ぎると加工性や被削性が著しく低下するので、Mn含有量は2%以下、好ましくは1.6%以下(より好ましくは1.2%以下)に抑えるべきである。
Pは、不可避的に不純物として含有する元素であるが、粒界に偏析し、加工性を低下させるため極力低減することが望ましいが、極端に低減することは製鋼コストの増大を招くことになる。こうしたことから、P含有量は、0.05%以下とした。好ましくは0.04%以下(より好ましくは0.03%以下)に低減するのが良い。
Sは、不可避的に不純物として含有する元素であるが、MnSとして析出し、転動疲労寿命を低下させるため極力低減することが望ましいが、極端に低減することは製鋼コストの増大を招くことになる。こうしたことから、S含有量は、0.05%以下とした。好ましくは0.04%以下(より好ましくは0.03%以下)に低減するのが良い。
Crは、Cと結びついて炭化物を形成し、耐摩耗性を付与すると共に、焼入性の向上に寄与する元素である。この様な効果を発揮させるには、Cr含有量は0.15%以上とする必要がある。好ましくは0.5%以上(より好ましくは0.9%以上)である。しかし、Cr含有量が過剰になると、粗大な炭化物が生成し、転動疲労寿命が却って低下する。従ってCr含有量は2.0%以下とする。好ましくは1.8%以下(より好ましくは1.6%以下)である。
Alは、本発明の鋼材において重要な役目を果たす元素であり、Nと結合することによって、Al系窒素化合物として鋼中に微細に分散し、分散強化によりマトリックスの強度差異を低減するのに重要な元素である。微細なAl系窒素化合物を生成させるためには、少なくとも0.01%以上含有させる必要がある。しかしながら、Al含有量が過剰になって0.1%を超えると、析出するAl系窒素化合物の大きさおよび個数が増加し、研磨時の表面性状を悪化させる。尚、Al含有量の好ましい下限は、0.013%(より好ましくは0.015%以上)であり、好ましい上限は0.08%(より好ましくは0.05%以下)である。
Nは上記Alと同様に、本発明の鋼材において重要な役目を果たす元素であり、Al系窒素化合物の微細分散によりマトリックスの強度差異を低減するのに重要な元素である。しかしながら、N含有量が過剰になって0.025%を超えると、析出するAl系窒素化合物の大きさおよび個数密度が増加し、研磨時の表面性状を悪化させる。尚、N含有量の好ましい下限は、0.005%(より好ましくは0.006%以上)であり、好ましい上限は0.02%(より好ましくは0.015%以下)である。
Tiは、鋼中のNと結合して粗大なTiNを生成し易いため、研磨時の表面性状への悪影響が大きい有害元素であり、極力低減することが望ましいが、極端に低減することは製鋼コストの増大を招くことになる。こうしたことから、Ti含有量は0.002%以下とする必要がある。尚、Ti含有量の好ましい上限は0.0019%である。
Oは、鋼中の不純物の形態に大きな影響を及ぼし、転動疲労特性に悪影響を及ぼすAl2O3やSiO2等の介在物を形成するため、極力低減することが好ましいが、極端に低減することは製鋼コストの増大を招くことになる。こうしたことから、O含有量は0.0025%以下とする必要がある。尚、O含有量の好ましい上限は0.002%(より好ましくは0.0015%以下)である。
Cu、NiおよびMoは、いずれも母相の焼入性向上元素として作用し、硬さを高めて転動疲労特性の向上に寄与する元素である。これらの効果は、いずれも0.03%以上含有させることによって有効に発揮される。しかしながら、いずれの含有量も0.25%を超えると加工性が劣化することになる。
Nb、VおよびBは、いずれもNと結合することで、窒素化合物を形成して、結晶粒の整粒化し、転動疲労寿命を向上させる上で有効な元素である。しかしながら、NbおよびVで0.5%を超えると、Bで0.005%を超えると、結晶粒が微細化し、不完全焼入れ相が生成しやすくなる。尚、より好ましい上限はNbおよびVで0.3%(更に好ましくは0.1%以下)、Bで0.003%(更に好ましくは0.001%以下)である。
Ca、REM(希土類元素)、Mg、LiおよびZrは、いずれも酸化物系介在物を球状化させ、転動疲労寿命向上に寄与する元素である。これらの効果は、Ca、REMで0.0005%以上、Mg、Li、Zrで0.0001%以上含有させることによって有効に発揮される。しかしながら、過剰に含有させても効果が飽和し、含有量に見合う効果が期待できず不経済となるので、夫々上記範囲内とするべきである。尚、より好ましい上限は、CaおよびREMで0.03%(更に好ましくは0.01%以下)、Mg、Liで0.01%(更に好ましくは0.005%以下)、Zrで0.15%(更に好ましくは0.10%以下)である。
Pb、BiおよびTeは、いずれも被削性向上元素である。これらの効果は、Pb、Biで0.01%以上、Teで0.0001%以上含有させることによって有効に発揮される。しかし、Pb、Biの含有量が0.5%を超えるか、Teの含有量が0.1%を超えると、圧延傷の発生等、製造上の問題が生じることになる。尚、より好ましい上限はPbおよびBiで0.3%(更に好ましくは0.2%以下)、Teで0.075%(更に好ましくは0.05%以下)である。
Al系窒素化合物の分散状況の確認方法としては、熱処理後の試験片を切断し、この断面を研磨した後、その面にカーボン蒸着を行い、FE−TEM(電界放出型透過型電子顕微鏡)によりレプリカ観察を実施した。この際、TEMのEDX(エネルギー分散型X線検出器)によりAl、Nを含むAl系窒素化合物の成分を特定し、30000倍の倍率にてその視野の観察を行なった。このとき、1視野を16.8μm2とし、任意の3視野について観察し(合計50.4μm2)、粒子解析ソフト[「粒子解析III for Windows. Version3.00 SUMITOMO METAL TECHNOLOGY製」(商品名)]を用い、その平均円相当直径および個数(個数はμm2当りに換算)を求めた。
(a)試験片を長手方向に対して垂直に切断した。
(b)その断面が観察できるように樹脂に埋め込み、エメリー紙による研磨、ダイヤモンドバフによる研磨および電解研磨を順次行なって、観察面を鏡面に仕上げた。
(c)ナイタール(3%硝酸エタノール溶液)で腐食した。
(d)試験片(円盤)のD/4(Dは直径)の位置をSEMの倍率:2000倍で観察し、4箇所撮影した。
(e)上記粒子解析ソフト[「粒子解析III for Windows. Version3.00 SUMITOMO METAL TECHNOLOGY製」(商品名)]を用いて、フェライト相を白色、セメンタイトを黒色とし(即ち、2値化し)、セメンタイトの面積率を求め、4視野の平均値をセメンタイトの面積率とした。また各セメンタイトの大きさから円相当直径を算出し、4視野の平均値を求めた(「平均円相当直径」として採用)。
上記で得られた試験片(円盤)のD/4(Dは直径)の位置から、断面:4mm×4mmの角棒(長さ:5mm)を切り出し、横断面(4mm×5mmの面)を試験面にしてベークライト樹脂に埋め込み、自動研磨機(「テグラフォール・テグラフォース」商品名:丸本ストルアス社製)を用いて、荷重:30N、研磨速度:3m/秒(粗研磨、仕上げ研磨とも)の条件で研磨を行なった。粗研磨は♯180耐水ペーパーで10分、仕上げ研磨はダイヤモンドペースト(ダイヤモンドバフ)で1時間行なった。粗研磨後、ビッカースの圧痕を打ち、寸法を測定し、仕上げ研磨後に、ビッカースの圧痕の寸法を再測定して、研磨量(μm/時)に換算して研磨効率の指標とした。研磨量が0.40μm/時以上のときに、研磨効率が良好であると判断できる。
スラスト型転動疲労試験機にて、繰り返し速度:1500rpm、面圧:5.3GPa、中止回数:2×108回の条件にて、各鋼材(試験片)につき16個の試料を用いて転動疲労特性を実施した。疲労寿命の安定性の指標として、ワイプル係数mの値を用いた。この値は、試験結果をワイプル確率紙にプロットした際の近似曲線の傾き(寿命傾き)である。この傾きの値が、大きいほど疲労寿命の安定性に優れていることを示し、寿命傾きが0.6以上のときを寿命安定性に優れていると評価した。
Claims (5)
- C:0.65〜1.10%(質量%の意味、以下同じ)、Si:0.05〜1.0%、Mn:0.1〜2%、P:0.05%以下(0%を含まない)、S:0.05%以下(0%を含まない)、Cr:0.15〜2.0%、Al:0.01〜0.1%、N:0.025%以下(0%を含まない)、Ti:0.002%以下(0%を含まない)およびO:0.0025%以下(0%を含まない)を夫々含み、残部が鉄および不可避不純物からなり、鋼中に分散する下記に定義されるAl系窒素化合物の平均円相当直径が86nm以上であると共に、円相当直径で25〜200nmのAl系窒素化合物の個数密度が1.5個/μm2以上であり、且つ下記に定義されるセメンタイトの面積率が12%以下であると共に、セメンタイトの平均円相当直径が0.60μm以下であることを特徴とする転動疲労寿命の安定性に優れた鋼材。
Al系窒素化合物:AlN、およびAlNにMn,Cr,SまたはSiを一部(合計含有量が30%まで)に含有する化合物。
セメンタイト:Fe 3 C、およびFe 3 CにMnまたはCrを一部(合計含有量が20%まで)に含有する硬質介在物。 - 更に他の元素として、Cu:0.25%以下(0%を含まない)、Ni:0.25%以下(0%を含まない)およびMo:0.25%以下(0%を含まない)よりなる群から選択される1種以上を含む請求項1に記載の転動疲労寿命の安定性に優れた鋼材。
- 更に他の元素として、Nb:0.5%以下(0%を含まない)、V:0.5%以下(0%を含まない)およびB:0.005%以下(0%を含まない)よりなる群から選択される1種以上を含む請求項1または2に記載の転動疲労寿命の安定性に優れた鋼材。
- 更に他の元素として、Ca:0.05%以下(0%を含まない)、REM:0.05%以下(0%を含まない)、Mg:0.02%以下(0%を含まない)、Li:0.02%以下(0%を含まない)およびZr:0.2%以下(0%を含まない)よりなる群から選択される1種以上を含む請求項1〜3のいずれかに記載の転動疲労寿命の安定性に優れた鋼材。
- 更に他の元素として、Pb:0.5%以下(0%を含まない)、Bi:0.5%以下(0%を含まない)およびTe:0.1%以下(0%を含まない)よりなる群から選択される1種以上を含む請求項1〜4のいずれかに記載の転動疲労寿命の安定性に優れた鋼材。
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