JP5292896B2 - 転動疲労特性に優れた機械構造用部品およびその製造方法 - Google Patents
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Description
すなわち、化学成分を所定の組成に規定した鋼において、その鋼材に焼入れ処理を施し、焼入れ後の硬化層の粒径を12μm以下とすることによって、すべり転動疲労強度が大幅に向上することが判明した。具体的には、特にSiおよびMoを所定の範囲で添加すると、焼入れのための加熱時に、オーステナイトの核生成数が増加することに加え、オーステナイト粒成長が抑制されることにより焼入れ硬化層の粒径が微細化する効果が大きくなる。
(1)質量%で
C:0.35〜0.75%、
Si:0.15〜1.1%、
Mn:0.2〜2.0%、
P:0.020%以下、
S:0.06%以下、
Al:0.005〜0.25%、
Cr:0.2%以下、
Mo:0.05〜0.6%、
Ti:0.01〜0.1%および
B:0.0012〜0.006%
を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼組成を有し、焼入れ後の硬化層の平均旧オーステナイト粒径が12μm以下でかつ焼入れ硬化層の残留炭化物が面積率で2%以上10%以下であることを特徴とする転動疲労特性に優れた機械構造用部品。
Cu:1.0%以下、
Ni:0.05〜3.5%、
Co:0.01〜1.0%、
Nb:0.005〜0.1%および
V:0.01〜0.5%
から選ばれる1種または2種以上を含有する転動疲労特性に優れた機械構造用部品。
まず、本発明において、鋼の成分組成を上記範囲に限定した理由について説明する。なお、以下に示す成分に関する「%」は特に断らない限りは「質量%」意味する。
C:0.35〜0.75%、
Cは、焼入れ性への影響が最も大きい元素であり、焼入れ硬化層の硬さおよび深さを高めて、転動疲労強度を向上させる上で有用である。C含有量が0.35%に満たないと、必要とされる転動強度を確保するためには焼入れ硬化深さを飛躍的に高めねばならず、その際、焼割れの発生が顕著となる。さらに、ベイナイト組織も生成し難くなるために、0.35%以上で含有させる。一方、0.7%を超えて含有させると、粒界強度が低下し転動疲労強度が低下する。さらに、切削性、冷間鍛造性および耐焼き割れ性も低下する。このため、0.35〜0.75%の範囲とする。好ましくは、0.4%以上0.68%以下である。
Siは、焼入れ加熱時にオーステナイト核生成数を増加させるとともに、オーステナイト粒成長を抑制し焼入れ硬化層の粒径を微細化する作用により、すべり転動疲労強度を向上させる。かように、Siは非常に重要な元素であり、0.15%以上は必要であるが、1.1%を超えて添加すると、フェライトの固溶硬化により硬さが上昇し切削性および冷間鍛造性の低下を招く。従って、Siの含有量は0.15〜1.1%とする。好ましくは、0.4%以上1%以下である。
Mnは、焼入れ性を向上させて焼入れ時の硬化深さを確保する上で必須の成分であり、積極的に添加するが、0.2%未満の添加ではその効果に乏しく、一方2.0%を超えて添加すると、焼入れ後の残留オーステナイトを大幅に増加させることによりかえって表面硬度を低下させ、すべり転動疲労強度を低下させるため、2.0%以下とする。好ましくは、0.3%以上1.2%以下である。
Pは、オーステナイトの粒界に偏析し、粒界強度を低下させることによりすべり転動疲労強度を低下させ、また、焼割れを助長する。したがって、その含有量は極力低下させるのが望ましいが、0.020%までは許容される。
Sは、鋼中でMnSを形成して切削性を向上させる成分であり、好ましくは0.01%以上で含有させるが、0.06%を超えると、粒界に偏析して粒界強度を低下させるため、0.06%以下とする。好ましくは、0.04%以下とする。
Alは、脱酸に有効な元素である。また、焼入れ加熱時のオーステナイト粒成長を抑制することにより焼入れ硬化層の粒径を微細化するのに有効な元素である。0.005%未満の添加ではその効果が小さく、一方0.25%を超えて添加してもその効果が飽和し、成分コストの上昇を招くため、0.005%以上0.25%以下とする。好ましくは、0.02%以上0.06%以下とする。
Crは、炭化物を安定化させて残留炭化物の生成を促進し、すべり転動疲労特性を向上させるが、添加量が多いとコストの上昇をまねくため、0.2%を上限とする。好ましくは、0.10%以下である。
Moは、焼入れ前の組織においてベイナイト組織の生成を促進することにより焼入れ加熱時のオーステナイト粒径を微細化し、焼入れ硬化層を細粒化する作用がある。さらに、焼入れ加熱時のオーステナイト粒成長を抑制することにより、焼入れ硬化層の粒径を微細化する。また、焼入れ性の向上に有用な元素であり、焼入れ性を調整するためにも用いる。このように、Moは、非常に重要な元素であるが、0.05%未満ではその効果が小さいため、下限を0.05%とする。しかし、Moは炭化物生成を抑制し、炭化物による粒界強度の低下を抑制するため、上限を0.6%とする。好ましくは、0.1%以上0.6%以下とする。
Cu:1.0%以下
Cuは、焼入れ性の向上に有効であり、またフェライト中に固溶して強化に寄与するため、母材(未焼入れ部)の疲労強度を向上させる。そのためには、0.2%以上で添加することが好ましい。ただし、1.0%を超えて添加すると、熱間加工性を阻害するため、1.0%以下で添加することが好ましい。さらに好ましくは、0.5%以下とする。
Niは、焼入れ性を向上させる元素であり、焼入れ性を調整する場合に用いることができる。その際、0.05%未満の添加では、その効果が小さいことから、0.05%以上で添加することが好ましい。一方、Niは極めて高価な元素であるため、3.5%を超えて添加すると、鋼材のコストが上昇するため3.5%以下とすることが好ましい。さらに好ましくは、0.1%以上1.0%以下である。また、Cuの熱間脆性を抑制するため、Cu添加時にはその1/2以上の量のNiを添加することが望ましい。
Coは、炭化物生成を抑制することにより炭化物による粒界強度の低下を抑制し、焼入れ部の曲げ疲労強度などを向上させる元素であり、0.01%以上で添加してもよい。一方、極めて高価な元素であり、1.0%を超えて添加すると、鋼材のコストが上昇するため1.0%以下の添加とすることが望ましい。さらに、好ましくは、0.02%以上0.5%以下とする。
Nbは、焼入れ性を向上するとともに、鋼中でC、Nと結合し析出強化元素として作用する。また、焼戻し軟化抵抗を向上させる元素である。これらのことにより焼入れ部の曲げ疲労強度を向上させる。0.005%未満の添加ではその効果が小さく、また0.1%を超えて添加してもその効果が飽和するため、0.005〜0.1%の添加とすることが好ましい。さらに好ましくは、0.01%以上0.05%以下とする。
Vは、鋼中でCおよびNと結合し、析出強化元素として作用する。また焼戻し軟化抵抗を向上させる元素である。これらのことにより焼入れ部の曲げ疲労強度を向上させる。0.01%未満の添加ではその効果が小さく、また0.5%を超えて添加しても、その効果が飽和するため、0.01〜0.5%の範囲で添加することが好ましい。さらに好ましくは、0.03%以上0.3%以下とする。
Tiは、Nと結合することにより、転動疲労寿命を劣化させることがあるため、0.1%を上限とする。ただし、BがBNとなりBの焼入れ性を向上する効果が消失するのを防止し、Bの焼入れ性向上効果を十分発揮させるために、0.01%以上で添加する。さらに好ましくは、0.07%以下とする。
Bは、ベイナイト組織あるいはマルテンサイト組織の生成を促進する効果を有するため0.0012%以上で添加する。また、Bは微量の添加により焼入れ性を向上させ、焼入れ時の焼入れ深さを高めて、すべり転動疲労強度を向上させる。しかし、0.006%を超えて添加しても、その効果が飽和し成分コストの上昇を招くため、0.006%以下で添加する。
上記した所定の成分組成に調整した鋼材を、棒鋼圧延または熱間鍛造などの熱間加工後、必要に応じて冷間圧延や冷間鍛造を施し、次いで切削加工を施したのち、球状化焼鈍を経てから高周波焼入れを施して機械構造用部品とする。
また、2回以上の繰り返し焼入れを行うことによって、残留炭化物量を変えることができる。なお、加熱温度は、800℃以上950℃以下とすることが好ましい。
表1に示す化学組成の鋼を、転炉−連続鋳造プロセスにより溶製し、断面が300×400mmの鋳片を得た。この鋳片を、ブレークダウン工程にて175mm丸ビレットに圧延したのち、65mmφの棒鋼に圧延した。この圧延ままの丸棒と、丸棒を740℃×4時間均熱し、その後15℃/hで冷却する球状化焼鈍を施したものとから、その中心部よりすべり転動疲労試験片(粗加工)を採取した。試験片は、焼入れ・焼戻し後の焼入れ深さ(ビッカース硬度(荷重300gf)で測定した時、Hv500以上である領域)が3.8mm〜4.3mmになるように高周波焼入れした後、図1に示す形状に仕上げて、すべり転動疲労試験に供した。
以上の測定並びに評価結果を、表2に示す。
Claims (5)
- 質量%で
C:0.35〜0.75%、
Si:0.15〜1.1%、
Mn:0.2〜2.0%、
P:0.020%以下、
S:0.06%以下、
Al:0.005〜0.25%、
Cr:0.2%以下、
Mo:0.05〜0.6%、
Ti:0.01〜0.1%および
B:0.0012〜0.006%
を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼組成を有し、焼入れ後の硬化層の平均旧オーステナイト粒径が12μm以下でかつ焼入れ硬化層の残留炭化物が面積率で2%以上10%以下であることを特徴とする転動疲労特性に優れた機械構造用部品。 - 請求項1において、前記鋼組成がさらに質量%で
Cu:1.0%以下、
Ni:0.05〜3.5%、
Co:0.01〜1.0%、
Nb:0.005〜0.1%および
V:0.01〜0.5%
から選ばれる1種または2種以上を含有する転動疲労特性に優れた機械構造用部品。 - 請求項1または2に記載の鋼組成を有する鋼素材に、730〜800℃で1時間以上均熱後、20℃/h以下の冷却速度で徐冷する条件にて球状化焼鈍を施し、加熱温度を800℃以上1000℃以下として高周波焼入れを行い、焼入れ後の硬化層の平均旧オーステナイト粒径を12μm以下かつ焼入れ硬化層の残留炭化物を面積率で2%以上10%以下とすることを特徴とする転動疲労特性に優れた機械構造用部品の製造方法。
- 請求項3において、前記高周波焼入れを2回以上繰り返す転動疲労特性に優れた機械構造用部品の製造方法。
- 請求項3または4において、前記高周波焼入れの加熱時間を5秒以下とする転動疲労特性に優れた機械構造用部品の製造方法。
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