JP5439735B2 - 転動疲労特性に優れた機械構造用部品およびその製造方法 - Google Patents
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すなわち、化学成分を所定の組成に規定した鋼において、鋼中の介在物サイズを規定することにより、転動疲労寿命が大幅に向上することが判明した。具体的には、新規な方法で算出した鋼材における予測最大介在物径を11μm以下とする。
(1)質量%で
C:0.35〜0.75%、
Si:0.4〜1.1%、
Mn:0.2〜2.0%、
P:0.020%以下、
S:0.06%以下、
Al:0.005〜0.25%、
Cr:0.2%以下、
Mo:0.05〜0.6%、
Ti:0.01〜0.1%および
B:0.0010〜0.006%
を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼組成を有し、下記算出方法により算出される181.4mm3に相当する予測最大介在物径が11μm以下、かつ焼入れ後の硬化層の平均旧オーステナイト粒径が12μm以下であることを特徴とする転動疲労特性に優れた機械構造用部品。
記
予測最大介在物径の算出方法:超音波疲労試験により破壊した危険体積14.14mm 3 のサンプル13個について、起点部を電子顕微鏡(SEM)で観察し、破壊起点に観察される13個の介在物の径から、予測体積181.4mm 3 として予測最大介在物径を極値統計処理により算出する。
Cu:1.0%以下、
Ni:0.05〜3.5%、
Co:0.01〜1.0%、
Nb:0.005〜0.1%および
V:0.01〜0.5%
から選ばれる1種または2種以上を含有する転動疲労特性に優れた機械構造用部品。
記
予測最大介在物径の算出方法:超音波疲労試験により破壊した危険体積14.14mm 3 のサンプル13個について、起点部を電子顕微鏡(SEM)で観察し、破壊起点に観察される13個の介在物の径から、予測体積181.4mm 3 として予測最大介在物径を極値統計処理により算出する。
まず、本発明において、鋼の成分組成を上記範囲に限定した理由について説明する。なお、以下に示す成分に関する「%」は特に断らない限りは「質量%」を意味する。
C:0.35〜0.75%、
Cは、焼入れ性への影響が最も大きい元素であり、焼入れ硬化層の硬さおよび深さを高めて、転動疲労強度を向上させる上で有用である。C含有量が0.35%に満たないと、必要とされる転動強度を確保するためには焼入れ硬化深さを飛躍的に高めねばならず、その際、焼割れの発生が顕著となる。さらに、ベイナイト組織も生成し難くなるために、0.35%以上で含有させる。一方、0.75%を超えて含有させると、粒界強度が低下し転動疲労強度が低下する。さらに、切削性、冷間鍛造性および耐焼き割れ性も低下する。このため、0.35〜0.75%の範囲とする。好ましくは、0.4%以上0.68%以下である。
Siは、焼入れ加熱時にオーステナイト核生成数を増加させるとともに、オーステナイト粒成長を抑制し焼入れ硬化層の粒径を微細化する作用を有する。また、炭化物生成を抑制し、炭化物による粒界強度の低下を抑制する。さらに、ベイナイト組織の生成にも有用な元素であり、これらのことにより転動疲労強度を向上させる。かように、Siは非常に重要な元素であり、0.4%以上は必要であるが、1.1%を超えて添加すると、フェライトの固溶硬化により硬さが上昇し切削性および冷間鍛造性の低下を招く。従って、Siの含有量は0.4〜1.1%とする。好ましくは、1%以下である。
Mnは、焼入れ性を向上させて焼入れ時の硬化深さを確保する上で必須の成分であり、積極的に添加するが、0.2%未満の添加ではその効果に乏しく、一方2.0%を超えて添加すると、焼入れ後の残留オーステナイトを大幅に増加させることによりかえって表面硬度を低下させ、すべり転動疲労強度を低下させるため、2.0%以下とする。好ましくは、0.3%以上1.2%以下である。
Pは、オーステナイトの粒界に偏析し、粒界強度を低下させることによりすべり転動疲労強度を低下させ、また、焼割れを助長する。したがって、その含有量は極力低下させるのが望ましいが、0.020%までは許容される。
Sは、鋼中でMnSを形成して切削性を向上させる成分であり、好ましくは0.01%以上で含有させるが、0.06%を超えると、粒界に偏析して粒界強度を低下させるため、0.06%以下とする。好ましくは、0.04%以下とする。
Alは、脱酸に有効な元素である。また、焼入れ加熱時のオーステナイト粒成長を抑制することにより焼入れ硬化層の粒径を微細化するのに有効な元素である。0.005%未満の添加ではその効果が小さく、一方0.25%を超えて添加してもその効果が飽和し、成分コストの上昇を招くため、0.005%以上0.25%以下とする。好ましくは、0.02%以上0.06%以下とする。
Crは、炭化物を安定化させて残留炭化物の生成を促進し、すべり転動疲労特性を向上させるが、添加量が多いとコストの上昇をまねくため、0.2%を上限とする。好ましくは、0.10%以下である。
Moは、焼入れ前の組織においてベイナイト組織の生成を促進することにより焼入れ加熱時のオーステナイト粒径を微細化し、焼入れ硬化層を細粒化する作用がある。さらに、焼入れ加熱時のオーステナイト粒成長を抑制することにより、焼入れ硬化層の粒径を微細化する。また、焼入れ性の向上に有用な元素であり、焼入れ性を調整するためにも用いる。さらに、Moは炭化物生成を抑制し、炭化物による粒界強度の低下を抑制する。このように、Moは、非常に重要な元素であるが、0.05%未満ではその効果が小さいため、下限を0.05%とする。しかし、Moは、0.6%を超えて添加すると圧延材の硬さが著しく増加して加工性を低下させるため、上限を0.6%とする。好ましくは、0.1%以上0.6%以下とする。
Cu:1.0%以下
Cuは、焼入れ性の向上に有効であり、またフェライト中に固溶して強化に寄与するため、母材(未焼入れ部)の疲労強度を向上させる。そのためには、0.2%以上で添加することが好ましい。ただし、1.0%を超えて添加すると、熱間加工性を阻害するため、1.0%以下で添加することが好ましい。さらに好ましくは、0.5%以下とする。
Niは、焼入れ性を向上させる元素であり、焼入れ性を調整する場合に用いることができる。その際、0.05%未満の添加では、その効果が小さいことから、0.05%以上で添加することが好ましい。一方、Niは極めて高価な元素であるため、3.5%を超えて添加すると、鋼材のコストが上昇するため3.5%以下とすることが好ましい。さらに好ましくは、0.1%以上1.0%以下である。また、Cuの熱間脆性を抑制するため、Cu添加時にはその1/2以上の量のNiを添加することが望ましい。
Coは、炭化物生成を抑制することにより炭化物による粒界強度の低下を抑制し、焼入れ部の曲げ疲労強度などを向上させる元素であり、0.01%以上で添加してもよい。一方、極めて高価な元素であり、1.0%を超えて添加すると、鋼材のコストが上昇するため1.0%以下の添加とすることが望ましい。さらに、好ましくは、0.02%以上0.5%以下とする。
Nbは、焼入れ性を向上するとともに、鋼中でC、Nと結合し析出強化元素として作用する。また、焼戻し軟化抵抗を向上させる元素である。これらのことにより焼入れ部の曲げ疲労強度を向上させる。0.005%未満の添加ではその効果が小さく、また0.1%を超えて添加してもその効果が飽和するため、0.005〜0.1%の添加とすることが好ましい。さらに好ましくは、0.01%以上0.05%以下とする。
Vは、鋼中でCおよびNと結合し、析出強化元素として作用する。また焼戻し軟化抵抗を向上させる元素である。これらのことにより焼入れ部の曲げ疲労強度を向上させる。0.01%未満の添加ではその効果が小さく、また0.5%を超えて添加しても、その効果が飽和するため、0.01〜0.5%の範囲で添加することが好ましい。さらに好ましくは、0.03%以上0.3%以下とする。
Tiは、Nと結合することにより、転動疲労寿命を劣化させることがあるため、0.1%を上限とする。ただし、BがBNとなりBの焼入れ性を向上する効果が消失するのを防止し、Bの焼入れ性向上効果を十分発揮させるために、0.01%以上で添加する。さらに好ましくは、0.07%以下とする。
Bは、ベイナイト組織あるいはマルテンサイト組織の生成を促進する効果を有するため0.0010%以上で添加する。また、Bは微量の添加により焼入れ性を向上させ、焼入れ時の焼入れ深さを高めて、すべり転動疲労強度を向上させる。しかし、0.006%を超えて添加しても、その効果が飽和し成分コストの上昇を招くため、0.006%以下で添加する。
C:0.41%、Si:0.50%、Mn:0.78%、Mo:0.46%、Ti:0.02%およびB:0.0021%を含み、残部Feおよび不可避不純物の組成になる供試鋼から、60mmφ×5mm厚さの円盤状試験片を作製した。この試験片は、850℃で15分の加熱保持後、高周波焼入れを行うか、あるいはさらに170℃で80分間保持する焼戻し処理を行って、いずれも試験面を鏡面に仕上げた。かくして得られた試験片は、日産アルティア製のスラスト転動疲労試験機を用いて、直径約38mmの円周上を試験体である鋼球が転がるようにし、5.8GPaのヘルツ最大接触応力がかかるようにして転動疲労試験に供した。
すなわち、平均旧オーステナイト粒径12μm以下にするとともに、予測最大介在物径を11μm以下にすることによって、B10寿命を格段に向上させることが可能になるのである。
本発明の機械構造用部品は、前述した成分組成を有する鋼素材を溶製し、これに、熱間圧延や熱間鍛造等の熱間加工を施し、機械構造用部品の形状に成形され、転動疲労が要求される部位に対して焼入れ焼戻し処理が施されて、さらに必要に応じて切削等の仕上加工が施されて製品となる。
また、2回以上の繰り返し焼入れを行うことによって、1回の焼入れの場合に比べて、さらに微細な硬化層粒径が得られる。なお、加熱温度は、800℃以上950℃以下とすることが好ましい。
表1に示す化学組成の鋼を、転炉−連続鋳造プロセスにより溶製し、断面が300×400mmの鋳片を得た。この鋳片を、ブレークダウン工程にて175mm丸ビレットに圧延したのち、65mmφの棒鋼に圧延した。次いで、鋼中介在物の予測最大径を求めるために、この棒鋼の中心部より長手方向に超音波疲労試験片を13本採取し、850℃で15分間加熱した後、焼入れを行い、さらに170℃で80分間焼戻して、スケールを除去した後、超音波疲労試験に供した。
表2には、この値についても示す。
Claims (5)
- 質量%で
C:0.35〜0.75%、
Si:0.4〜1.1%、
Mn:0.2〜2.0%、
P:0.020%以下、
S:0.06%以下、
Al:0.005〜0.25%、
Cr:0.2%以下、
Mo:0.05〜0.6%、
Ti:0.01〜0.1%および
B:0.0010〜0.006%
を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼組成を有し、下記算出方法により算出される181.4mm3に相当する予測最大介在物径が11μm以下、かつ焼入れ後の硬化層の平均旧オーステナイト粒径が12μm以下であることを特徴とする転動疲労特性に優れた機械構造用部品。
記
予測最大介在物径の算出方法:超音波疲労試験により破壊した危険体積14.14mm 3 のサンプル13個について、起点部を電子顕微鏡(SEM)で観察し、破壊起点に観察される13個の介在物の径から、予測体積181.4mm 3 として予測最大介在物径を極値統計処理により算出する。 - 請求項1において、前記鋼組成がさらに質量%で
Cu:1.0%以下、
Ni:0.05〜3.5%、
Co:0.01〜1.0%、
Nb:0.005〜0.1%および
V:0.01〜0.5%
から選ばれる1種または2種以上を含有する転動疲労特性に優れた機械構造用部品。 - 請求項1または2に記載の鋼組成を有し、かつ下記算出方法により算出される181.4mm3に相当する予測最大介在物径が11μm以下の鋼素材に熱間加工を施し、加熱温度を800℃以上1000℃以下として高周波焼入れを行い、焼入れ後の硬化層の平均旧オーステナイト粒径を12μm以下とすることを特徴とする転動疲労特性に優れた機械構造用部品の製造方法。
記
予測最大介在物径の算出方法:超音波疲労試験により破壊した危険体積14.14mm 3 のサンプル13個について、起点部を電子顕微鏡(SEM)で観察し、破壊起点に観察される13個の介在物の径から、予測体積181.4mm 3 として予測最大介在物径を極値統計処理により算出する。 - 請求項3において、前記高周波焼入れを2回以上繰り返す転動疲労特性に優れた機械構造用部品の製造方法。
- 請求項3または4において、前記高周波焼入れの加熱時間を5秒以下とする転動疲労特性に優れた機械構造用部品の製造方法。
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