JP4576913B2 - 疲労特性および被削性に優れた機械構造用鋼材の製造方法 - Google Patents
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他方、近年、環境問題から自動車用部材に対する軽量化の要求が高く、この観点から自動車用部品における疲労強度の一層の向上が要求されている。
また、疲労強度の向上には、粒界強度の向上も有効であり、この観点からTiCを分散させることによって旧オーステナイト粒径を微細化する技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
しかしながら、上記のCD/Rを制御したとしても回転曲げ疲労の向上には限界があり、近年の疲労強度に対する要求には十分に応えられないものであった。
通常、疲労強度は材料の強度が上昇するにつれて上昇するが、特に焼き入れ部の硬さがHv500以上の高強度材では粒界破壊または非金属介在物を起点とした疲労破壊が支配的となり、材料の強度を上昇させても疲労強度が上昇しない。
そこで、焼入れ部の粒界強度の向上および非金属介在物の存在状態について検討を行い、以下の知見を得た。
すなわち、本発明の要旨構成は次のとおりである。
1.C:0.3〜0.7mass%、
Si:0.30mass%以下、
Mn:0.2〜2.0mass%、
Al:0.005〜0.25mass%、
Ti:0.005〜0.1mass%、
Mo:0.05〜0.6mass%、
B:0.0003〜0.006mass%、
S:0.06mass%以下、
P:0.020mass%以下および
O:0.0030mass%以下
を含有し、残部はFeおよび不可避不純物の組成になる素材の少なくとも一部分に高周波焼入れを少なくとも1回は施して機械構造用鋼材を製造するに当り、
前記高周波焼入れ前の素材に対して、800〜1000℃での総加工率が80%以上となる熱間加工工程と、該熱間加工工程後に700〜500℃の温度域を0.2℃/s以上の冷却速度で冷却する冷却工程とを施し、前記素材の高周波焼入れ前の鋼組織におけるベイナイト組織およびマルテンサイト組織のいずれか一方または両方の合計を10体積%以上に調整し、
前記高周波焼入れ時に、600〜800℃の昇温速度を300℃/s以上とし、800℃以上の滞留時間を5秒以下、到達温度を1000℃以下とすることを特徴とする疲労特性および被削性に優れた機械構造用鋼材の製造方法。
Cr:2.5mass%以下、
Cu:1.0mass%以下、
Ni:3.5mass%以下、
Co:1.0mass%以下、
Nb:0.1mass%以下、
V:0.5mass%以下、
Ta:0.5mass%以下、
Hf:0.5mass%以下および
Sb:0.015mass%以下
のうちから選んだ1種または2種以上を含有する組成になることを特徴とする、疲労特性および被削性に優れた機械構造用鋼材の製造方法。
W:1.0mass%以下、
Ca:0.005mass%以下、
Mg:0.005mass%以下、
Te:0.1mass%以下、
Se:0.1mass%以下、
Bi:0.5mass%以下、
Pb:0.5mass%以下、
Zr:0.01mass%以下および
REM:0.1mass%以下
のうちから選んだ1種または2種以上を含有する組成になることを特徴とする、疲労特性および被削性に優れた機械構造用鋼材の製造方法。
まず、本発明において、鋼材の成分組成を上記範囲に限定した理由について説明する。
C:0.3〜0.7mass%
Cは、焼入れ性への影響が最も大きい元素であり、焼入硬化層の硬さを高くおよび深さを深めて強度の向上に有効に寄与する。しかしながら、含有量が0.3mass%に満たないと必要とされる強度を確保するために焼入れ硬化深さを飛躍的に高めねばならず、その際焼割れの発生が顕著となるため、0.3mass%以上で添加する。一方、0.7mass%を超えて含有させると、粒界強度が低下し、それに伴い疲労強度が低下し、また、切削性、冷間鍛造性および耐焼割れ性も低下する。このため、Cは、0.3〜0.7mass%の範囲に限定した。
Siは、焼入れ加熱時にオーステナイトの核生成サイト数を増加させると共に、オーステナイトの粒成長を抑制し、焼入れ硬化層の粒径を微細化する作用を有する。また、炭化物生成を抑制し、炭化物による粒界強度の低下を抑制する作用も有する。このため疲労強度の向上に有効な元素である。しかしながら、Si量の増加に伴い被削性には不利となるため、被削性を確保するために、Siは0.30mass%以下とする。
Mnは、焼入れ性を向上させ、焼入れ時の硬化深さを確保する上で不可欠の成分であり積極的に添加するが、含有量が0.2mass%未満ではその添加効果に乏しいため、0.2mass%以上とした。好ましくは0.3mass%以上である。一方、Mn量が2.0mass%を超えると、焼入れ後の残留オーステナイトが増加し、かえって表面硬度が低下し、ひいては疲労強度の低下をまねくため、Mnは2.0mass%以下とした。なお、Mnは含有量が多いと、母材の硬質化を招き、被削性に不利となるきらいがあるため、1.2mass%以下とするのが好適である。さらに好ましくは1.0mass%以下である。
Alは、脱酸に有効な元素である。また、焼入れ加熱時におけるオーステナイト粒成長を抑制する作用も有し、焼入れ硬化層の粒径を微細化する上でも有用な元素である。そのため、0.005mass%以上含有させるものとした。しかしながら、0.25mass%を超えて含有させてもその効果は飽和し、むしろ成分コストの上昇を招く不利が生じるので、0.25mass%以下に限定した。
Tiは、不可避的不純物として混入するNと結合することで、BがBNとなってBの焼入れ性向上効果が焼失するのを防止し、Bの焼入れ性向上効果を十分に発揮させる作用を有する。この効果を得るためには、少なくとも0.005mass%の含有を必要とするが、0.1mass%を超えて含有されるとTiNが多量に形成される結果、これが疲労破壊の起点となって回転曲げ疲労強度の著しい低下を招くので、Tiは0.005〜0.1mass%の範囲に限定した。
Moは、本発明において非常に重要な元素である。すなわち、Moは、焼入れ加熱時におけるオーステナイト粒径を微細化し、焼入れ硬化層の粒径を細粒化する作用がある。特にこの効果は、高周波焼入れ時の加熱温度を 800〜1000℃、より好ましくは 800〜950 ℃とすることにより、一層顕著となる。さらに、焼入れ性の向上に有用な元素であるため、焼入れ性を調整するために用いられる。加えて、Moは、炭化物の生成を抑制し、炭化物による粒界強度の低下を有効に阻止する元素でもある。
このように、Moは、本発明において非常に重要な元素であり、含有量が0.05mass%に満たないと、硬化層全厚にわたって旧オーステナイト粒径を7μm 以下の微細粒とすることが難しく、また、旧オーステナイト粒径が微細となったとしても、Moを0.05mass%以上で添加した程の疲労強度の向上効果は得られない。一方、0.6mass%を超えると、被削性が劣化するため、上限は0.6mass%とした。さらに好ましくは 0.2〜0.4 mass%の範囲である。
Bは、微量の添加によって焼入れ性を向上させ、焼入れ時の焼入れ深さを高めることにより回転曲げ疲労強度を向上させる効果がある。さらにBは、粒界に優先的に偏析して、粒界に偏析するPの濃度を低減し、粒界強度を向上させ、もって回転曲げ疲労強度を向上させる作用もある。
このため、本発明では、Bを積極的に添加するが、含有量が0.0003mass%に満たないとその添加効果に乏しく、一方0.006mass%を超えて含有させるとその効果は飽和し、むしろ成分コストの上昇を招くため、Bは0.0003〜0.006mass%の範囲に限定した。好ましくは0.0005〜0.004mass%の範囲である。
Sは、鋼中でMnSを形成し、切削性を向上させる有用元素であるが、0.06mass%を超えて含有させると、粒界に偏析して粒界強度を低下させるため、0.06mass%以下に制限した。
Pは、オーステナイトの粒界に偏析し、粒界強度を低下させることにより、回転曲げ疲労強度を低下させる。また、焼割れを助長する弊害もある。従って、Pの含有は極力低減することが望ましいが、0.020mass%までは許容される。
Oは、非金属介在物として鋼中に存在し、これが疲労破壊の起点となって回転曲げ疲労強度を低下させる作用を有する。本発明の鋼材では、後述するように硬化層の旧オーステナイト粒径を微細化し、硬化層の粒界強度を向上させて疲労強度を向上させている。しかしながら、硬化層の粒界強度が上昇すると、疲労破壊の起点が非金属介在物となる傾向になる。そこで、本発明ではO含有量を低減し、非金属介在物の粒径を微細化することで、疲労強度の向上をさせる。この意味で、Oの上限は0.0030mass%とする。なお、好ましいO量は0.0010mass%以下、さらに好ましいO含有量は0.0008mass%以下である。
以上、基本成分について説明したが、本発明ではその他にも、以下に述べる元素を適宜含有させることができる。
Crは、焼入れ性の向上に有効であり、硬化深さを確保する上で有用な元素であるので添加してもよい。しかし、過度に含有されると炭化物を安定化させて残留炭化物の生成を助長し、粒界強度を低下させて疲労強度を劣化させる。従って、Crの含有は極力低減することが望ましいが、2.5mass%までは許容できる。好ましくは1.5mass%以下である。なお、焼入れ性の向上効果を発現させるためには、0.03mass%以上含有させることが好ましい。
Cuは、焼入れ性の向上に有効であり、またフェライト中に固溶し、この固溶強化によって、疲労強度を向上させる。また炭化物の生成を抑制することにより、炭化物による粒界強度の低下を抑制し、疲労強度を向上させる。しかしながら、含有量が1.0mass%を超えると熱間加工時に割れが発生するため、1.0mass%以下の添加とする。なお好ましくは0.5mass%以下である。なお、0.03mass%未満の添加では焼入れ性の向上効果および粒界強度の低下抑制効果が小さいので、0.03mass%以上含有させることが望ましい。好ましくは0.1〜1.0mass%である。
Niは、焼入れ性を向上させる元素であるので、焼入れ性を調整する場合に用いる。また、炭化物の生成を抑制し、炭化物による粒界強度の低下を抑制して、疲労強度を向上させる元素でもある。しかしながら、Niは極めて高価な元素であり、3.5mass%を超えて添加すると鋼材のコストが上昇するので、3.5mass%以下の添加とする。なお、0.05mass%未満の添加では焼入れ性の向上効果および粒界強度の低下抑制効果が小さいので、0.05mass%以上含有させることが望ましい。好ましくは0.1〜1.0mass%である。
Coは、炭化物の生成を抑制して、炭化物による粒界強度の低下を抑制し、疲労強度を向上させる元素である。しかしながら、Coは極めて高価な元素であり、1.0mass%を超えて添加すると鋼材のコストが上昇するので、1.0mass%以下の添加とする。なお、0.01mass%未満の添加では、粒界強度の低下抑制効果が小さいので、0.01mass%以上添加することが望ましい。好ましくは0.02〜0.5mass%である。
Nbは、焼入れ性の向上効果があるだけでなく、鋼中でC,Nと結合し析出強化元素として作用する。また、焼もどし軟化抵抗性を向上させる元素でもあり、これらの効果によって疲労強度を向上させる。しかしながら、0.1mass%を超えて含有させても効果は飽和するので、0.1mass%を上限とする。なお、0.005mass%未満の添加では、析出強化作用および焼もどし軟化抵抗性の向上効果が小さいため、0.005mass%以上添加することが望ましい。好ましくは0.01〜0.05mass%である。
Vは、鋼中でC,Nと結合し析出強化元素として作用する。また、焼もどし軟化抵抗性を向上させる元素でもあり、これらの効果によって疲労強度を向上させる。しかしながら、0.5mass%を超えて含有させてもその効果は飽和するので、0.5mass%以下とする。なお、0.01mass%未満の添加では、疲労強度の向上効果が小さいので、0.01mass%以上添加することが望ましい。好ましくは0.03〜0.3mass%である。
Taは、ミクロ組織変化の遅延に対して効果があり、疲労強度、特に転動疲労の劣化を防止する効果があるので、添加してもよい。しかし、その含有量が0.5mass%を超えて含有量を増加させても、それ以上強度向上に寄与しないので、0.5mass%以下とする。なお、疲労強度の向上作用を発現させるためには、0.02mass%以上とすることが好ましい。
Hfは、ミクロ組織変化の遅延に対して効果があり、疲労強度、特に転動疲労の劣化を防止する効果があるので、添加してもよい。しかし、その含有量が0.5mass%を超えて含有量を増加させても、それ以上強度向上に寄与しないので、0.5mass%以下とする。なお、疲労強度の向上作用を発現させるためには、0.02mass%以上とすることが好ましい。
Sbは、ミクロ組織変化の遅延に対して効果があり、疲労強度、特に転動疲労の劣化を防止する効果があるので、添加してもよい。しかし、その含有量が0.015mass%を超えて含有量を増加させると靭性が劣化するので、0.015mass%以下、好ましくは0.010mass%以下とする。なお、疲労強度の向上作用を発現させるためには、0.005mass%以上とすることが好ましい。
Wは、脆化作用により被削性を向上させる元素である。しかしながら、1.0mass%を超えて添加しても、効果が飽和する上、コストが上昇し、経済的に不利となるため、1.0mass%以下で含有させることが好ましい。なお、被削性の改善のためには、Wは0.005mass%以上含有させることが好ましい。
Caは、MnSと共に硫化物を形成し、これがチップブレーカーとして作用することにより被削性を改善するので必要に応じて添加することができる。しかしながら、0.005mass%を超えて含有させても、効果が飽和する上、成分コストの上昇を招くので、0.005mass%以下とした。なお、0.0001mass%未満では、含有されていても被削性改善効果が小さいので、0.0001mass%以上含有させることが好ましい。
Mgは、脱酸元素であるだけでなく、応力集中源となって被削性を改善する効果があるので、必要に応じて添加することができる。しかしながら、過剰に添加すると効果が飽和する上、成分コストが上昇するため、0.005mass%以下とした。なお、0.0001mass%未満では、含有されていても被削性改善効果が小さいので、0.0001mass%以上含有させることが好ましい。
Se:0.1mass%以下
SeおよびTeはそれぞれ、Mnと結合してMnSeおよびMnTeを形成し、これがチップブレーカーとして作用することにより被削性を改善する。しかしながら、含有量が0.1 mass%を超えると、効果が飽和する上、成分コストの上昇を招くので、いずれも0.1 mass%以下で含有させるものとした。また、被削性の改善のためには、Seを 0.003mass%以上およびTeを0.003mass%以上で含有させることが好ましい。
Biは、切削時の溶融、潤滑および脆化作用により、被削性を向上させるので、この目的で添加することができる。しかしながら、0.5mass%を超えて添加しても効果が飽和するばかりか、成分コストが上昇するため、0.5mass%以下とした。なお、0.01mass%未満では、含有されていても被削性改善効果が小さいので、0.01mass%以上含有させることが好ましい。
Pbは、切削時の溶融、潤滑および脆化作用により、被削性を向上させるので、この目的で添加することができる。しかしながら、0.5mass%を超えて添加しても効果が飽和するばかりか、成分コストが上昇するため、0.5mass%以下とした。なお、0.01mass%未満では、含有されていても被削性改善効果が小さいので、0.01mass%以上含有させることが好ましい。
Zrは、MnSと共に硫化物を形成し、これがチップブレーカーとして作用することにより被削性を改善する。しかしながら、0.01mass%を超えて含有させても、効果が飽和する上成分コストの上昇を招くので、0.01mass%以下とした。なお、0.003mass%未満では、含有されていても被削性改善効果が小さいので、0.003mass%以上含有させることが好ましい。
REMは、MnSと共に硫化物を形成し、これがチップブレーカーとして作用することにより被削性を改善する。しかしながら、REMを0.1mass%を超えて含有させても、効果が飽和する上、成分コストの上昇を招くので、それぞれ上記の範囲で含有させるものとした。なお、被削性の改善のためには、REM は0.0001mass%以上含有させることが好ましい。
すなわち、高周波焼入れ後の硬化層に関し、その平均旧オーステナイト粒径を7μm以下とする必要がある。というのは、焼入れ硬化層の平均旧オーステナイト粒径が7μmを超えると、十分な粒界強度が得られず、満足いくほどの疲労強度の向上が望めないからである。なお、好ましくは5μm以下、さらに好ましくは3μm以下である。
高周波焼入れ後の本発明の鋼材では、高周波焼入れした部分の鋼材最表面は面積率で100%のマルテンサイト組織を有する。そして、表面から内部にいくに従い、ある深さまでは100%マルテンサイト組織の領域が続くが、ある深さから急激にマルテンサイト組織の面積率が減少する。
本発明では、高周波焼入れした部分について、鋼材表面から、マルテンサイト組織の面積率が98%に減少するまでの深さ領域を硬化層と定義する。
そして、この硬化層について、表面から硬化層の1/5位置、1/2位置、4/5位置それぞれの位置について同視野数の組織観察を行い、それぞれの平均旧オーステナイト粒径を測定し、これら各位置での平均旧オーステナイト粒径の平均値が7μm以下である場合に、硬化層の平均旧オーステナイト粒径が7μm以下であるとする。
そこで後述する実施例の表1における鋼1の成分に従う鋼材を圧延後、850℃で80%、750℃で25%の鍛造を行い空冷(冷却速度:0.8℃/s)した高周波焼入れ前の素材から透過電子顕微鏡観察用の試料を採取し、微細析出物の状況について観察を実施した。透過電子顕微鏡観察用の試料は、素材中央部より平板試料を採取し、過塩素酸―メタノール系の電解液を用いた電解研磨により薄膜化して準備した。観察領域が薄すぎると析出粒子の脱落頻度が高まり、厚すぎると析出粒子の認識が困難になるため、観察領域の厚みが50〜100nmの範囲となるようにした。ここで、試料厚みは電子エネルギー損失スペクトルから見積もった。図1に実際に得られた透過電子顕微鏡像の一例を示す。この視野の試料厚み約0.1μmを考慮すると、直径5〜10nm程度の微細な析出物が1μm3当たり約3000個の高密度で分散していることが判明した。
上記した所定の成分組成に調整した鋼材を、棒鋼圧延または熱間鍛造などの熱間加工後、必要に応じて冷間圧延や冷間鍛造を施し、次いで切削加工を施したのち、高周波焼入れを施して鋼材製品とする。
以下、各規制について詳しく説明する。
熱間加工の際の800〜1000℃での総加工率を80%以上とし、その後700〜500℃の温度域を0.2℃/s以上の速度で冷却する。この条件により、焼入れ前の組織を均一微細なベイナイトおよび/またはマルテンサイト組織とすることができ、その後の高周波焼入の加熱時にオーステナイト粒が微細化する。
ベイナイト並びにマルテンサイトは、フェライト−パーライト組織に比べて炭化物が微細に分散した組織であるため、高周波焼入れ加熱時にオーステナイトの核生成サイトであるフェライト/炭化物の界面の面積が増えて、生成したオーステナイトが微細化する。このため、ベイナイトとマルテンサイトとの合計の組織分率は10体積%以上、好ましくは20体積%以上が必要であるが、700〜500℃の温度域の冷却速度が0.2℃/s未満では、ベイナイトとマルテンサイトとの合計の組織分率を10体積%以上とすることができず、より好ましくは、冷却速度を0.5℃/s以上とする。なお、ベイナイトとマルテンサイトの体積分率の比はおおむねベイナイト:マルテンサイト=100:0〜40:60が好ましい。焼入れ前の組織は、高周波焼入れ後による硬化層のマルテンサイトの旧オーステナイト粒径微細化のためにはマルテンサイト組織が好適である。しかし、マルテンサイトは硬質であるため母相に多量に含まれると被削性が低下する。従って、ベイナイトとマルテンサイトの分率比はベイナイト:マルテンサイト=100:0〜40:60が好ましい。
加熱温度を800〜1000℃とし、600〜800℃を300℃/s以上の昇温速度で昇温する。加熱温度が800℃未満の場合、オーステナイト組織の生成が不充分となり、硬化層を得ることができない。一方、加熱時の到達温度が1000℃を超える場合と600〜800℃の昇温速度が300℃/s未満の場合にはオーステナイト粒の成長が促進されると同時に粒の大きさのばらつきが大きくなり、疲労強度の低下を招く。すなわち、最終的に得られる硬化層の旧オーステナイト粒径は、焼入れ加熱時にオーステナイト域でいかに粒成長を防止するかが重要となる。前組織を上述のように微細なベイナイトあるいはマルテンサイトを有する組織としておくことで、オーステナイトへの逆変態の核生成サイトは多数あるので、多数生成したオーステナイト粒が成長しないうちに冷却を開始することで、焼入れ組織の平均旧オーステナイト粒径を微細化できる。オーステナイト粒の成長は高温であればあるほど、またオーステナイト域における保持時間が長ければ長いほど進行するので、粒成長を防止して、最終的に平均粒径が7μm以下の旧オーステナイト粒を得るためには、加熱時の到達温度は1000℃以下、600〜800℃の昇温速度は300℃/s以上とする。
また、高周波加熱時において800℃以上の滞留時間が長くなるとオーステナイト粒が粒成長して、最終の旧オーステナイト粒径が7μm超にまで大きくなる傾向にあるので、800℃以上の滞留時間は5秒以下とすることが好ましい。より好ましい加熱時間は3秒以下である。
ここで、図2に示した結果は以下のようにして得られたものである。
すなわち、下記(a)または(b)に示す成分組成の鋼素材を150kg真空溶解炉にて溶製し、150mm角に熱間鍛造後、ダミービレットを製造し、850℃で80%の熱間加工を行った後、700℃〜500℃の温度範囲を0.7℃/sで冷却し、棒鋼圧延材を製造した。さらに、一部の棒鋼には、第2加工として、前記冷却の前に750℃で20%の加工、あるいは、前記冷却の後に冷間で20%の加工を施した。
(a)C:0.48mass%、Si:0.2mass%、Mn:0.78mass%、P:0.011mass%、S:0.019mass%、Al:0.024mass%、Ti:0.017mass%、B:0.0013mass%、N:0.0043mass%、O:0.0015mass%、残部Feおよび不可避不純物。
(b)C:0.48mass%、Si:0.2mass%、Mn:0.79mass%、P:0.011mass%、S:0.021mass%、Al:0.024mass%、N:0.0039mass%、Mo:0.45mass%、Ti:0.021mass%、B:0.0024mass%、O:0.0015mass%、残部Feおよび不可避不純物。
これに対し、成分組成、硬化層粒径、および酸化物系介在物の最大径のいずれかが本発明の条件を満足しない比較例は、回転曲げ疲労強度あるいは被削性が劣っている。
Claims (4)
- C:0.3〜0.7mass%、
Si:0.30mass%以下、
Mn:0.2〜2.0mass%、
Al:0.005〜0.25mass%、
Ti:0.005〜0.1mass%、
Mo:0.05〜0.6mass%、
B:0.0003〜0.006mass%、
S:0.06mass%以下、
P:0.020mass%以下および
O:0.0030mass%以下
を含有し、残部はFeおよび不可避不純物の組成になる素材の少なくとも一部分に高周波焼入れを少なくとも1回は施して機械構造用鋼材を製造するに当り、
前記高周波焼入れ前の素材に対して、800〜1000℃での総加工率が80%以上となる熱間加工工程と、該熱間加工工程後に700〜500℃の温度域を0.2℃/s以上の冷却速度で冷却する冷却工程とを施し、前記素材の高周波焼入れ前の鋼組織におけるベイナイト組織およびマルテンサイト組織のいずれか一方または両方の合計を10体積%以上に調整し、
前記高周波焼入れ時に、600〜800℃の昇温速度を300℃/s以上とし、800℃以上の滞留時間を5秒以下、到達温度を1000℃以下とすることを特徴とする疲労特性および被削性に優れた機械構造用鋼材の製造方法。 - 請求項1において、さらに、前記冷却工程の前に700〜800℃未満の温度域で20%以上の加工を施すか、あるいは該冷却工程の後にA1変態点以下の温度域で20%以上の加工を施す第2加工工程を追加することを特徴とする疲労特性および被削性に優れた機械構造用鋼材の製造方法。
- 請求項1または2のいずれかにおいて、前記素材が、さらに
Cr:2.5mass%以下、
Cu:1.0mass%以下、
Ni:3.5mass%以下、
Co:1.0mass%以下、
Nb:0.1mass%以下、
V:0.5mass%以下、
Ta:0.5mass%以下、
Hf:0.5mass%以下および
Sb:0.015mass%以下
のうちから選んだ1種または2種以上を含有する組成になることを特徴とする、疲労特性および被削性に優れた機械構造用鋼材の製造方法。 - 請求項1乃至3のいずれかにおいて、前記素材が、さらに
W:1.0mass%以下、
Ca:0.005mass%以下、
Mg:0.005mass%以下、
Te:0.1mass%以下、
Se:0.1mass%以下、
Bi:0.5mass%以下、
Pb:0.5mass%以下、
Zr:0.01mass%以下および
REM:0.1mass%以下
のうちから選んだ1種または2種以上を含有する組成になることを特徴とする、疲労特性および被削性に優れた機械構造用鋼材の製造方法。
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