JP6085210B2 - 転動疲労特性に優れた肌焼鋼、及びその製造方法 - Google Patents
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粗大なNb炭窒化物は、転動疲労特性を悪化させる原因となる。そのため、鋼材中の粗大なNb炭窒化物は極力低減する必要がある。したがって粗大なNb炭窒化物の密度は、10個/cm2以下、好ましくは5個/cm2以下、より好ましくは1個/cm2以下である。
微細なNb炭窒化物は、母相の強化に有効に作用し、転動疲労特性の向上に寄与する。こうした効果を得るためには微細なNb炭窒化物が鋼材中に分散していることが必要である。したがって微細なNb炭窒化物の密度は1個/μm2以上、好ましくは3個/μm2以上、より好ましくは5個/μm2以上である。転動疲労特性向上の観点からは微細なNb炭窒化物の密度の上限は特に限定されない。例えばNb量を考慮して、好ましくは30個/μm2以下、より好ましくは25個/μm2以下である。
Cは鋼材に要求される内部硬さを上昇させ、静的強度を向上させるために必要な元素である。また十分な内部硬さを確保することで、転動疲労による内部破壊の発生を抑制できる。こうした効果を得るためには、C量は0.32%以上、好ましくは0.34%以上、より好ましくは0.36%以上である。一方、Cが過剰になると、浸炭が阻害されて転動疲労寿命が低下したり、鋼材の焼鈍時に粗大なFe炭化物(セメンタイト)が生成し、鋼材中に残存にした該粗大なFe炭化物が疲労破壊の起点となって、転動疲労寿命が低下する。そのため、C量は0.48%以下、好ましくは0.46%以下、より好ましくは0.44%以下である。
Siは固溶して鋼材の変形抵抗を増大させ、加工性を低下させることがある。またSiは浸炭を阻害するため、所望の焼入れ硬さが得られないことがある。したがってSiは低減することが望ましい。そのためSi量は、0.5%以下、好ましくは0.4%以下、より好ましくは0.3%以下である。なお、Siは鋼材中に不可避的に含まれる元素であり、Si量を0%にすることは工業生産上困難なため、0%を含まないとした。
Mnは鉄やセメンタイト中に固溶し、鋼材の変形抵抗を増大させ、加工性を低下させることがある。またMnが過剰になると浸炭焼入れ後に軟質な残留オーステナイト組織が残存し、焼入れ硬さが低下することがある。したがってMnは低減することが望ましい。そのため、Mn量は、1.5%以下、好ましくは1.2%以下、より好ましくは0.95%以下である。なお、MnはSiと同様、鋼材中に不可避的に含まれる元素であり、0%を含まないとした。
Pは、結晶粒界に偏析して転動疲労特性に悪影響を及ぼす不純物元素である。したがってPは低減することが望ましい。そのためP量は、0.03%以下、好ましくは0.02%以下、より好ましくは0.015%以下である。なお、Pは鋼材中に不可避的に含まれる元素であり、P量を0%にすることは工業生産上困難なため、0%を含まないとした。
Sは、硫化物(MnSなど)を生成し、転動疲労特性に悪影響を及ぼす不純物元素である。したがってSは低減することが望ましい。そのため、S量は、0.01%以下、好ましくは0.008%以下、より好ましくは0.005%以下である。SもPと同様、不可避的に含まれる元素であるため、0%を含まないとした。
Crは焼入れ性を増大させ、浸炭処理時の浸炭性を高めて部品強度を得るために必要な浸炭硬化層の確保に有効な元素である。このような効果を得るためにCr量は、0.85%以上、好ましくは0.90%以上であり、さらに好ましくは0.95%以上である。一方、Crが過剰になると、Cr炭化物が過剰に析出して十分な浸炭硬化層を形成できなくなり、強度が低下する。そのため、Cr量は1.50%以下、好ましくは1.35%以下、より好ましくは1.25%以下である。
Alは脱酸作用を有し、酸化物系介在物量を低減して転動疲労特性を高めるのに有効な元素である。こうした効果を得るために0.005%以上Alを含有させる必要があり、好ましくは0.01%以上、より好ましくは0.02%以上である。一方、Alが過剰になると、粗大な酸化物系介在物(Al2O3など)が生成し、転動疲労特性が低下する。そのため、Al量は0.06%以下、好ましくは0.05%以下、より好ましくは0.04%以下である。
Nは十分な密度の微細なNb炭窒化物の生成に寄与し、転動疲労特性向上に有効な元素である。こうした効果を得るには、Nは0.005%以上、好ましくは0.007%以上、さらに好ましくは0.009%以上である。一方、Nが過剰になるとTiNを生成し、転動疲労特性を悪化させる。そのため、N量は0.020%以下、好ましくは0.0180%以下、より好ましくは0.0150%以下である。
Nbは本発明において特に重要な役割を果たす元素であり、鋼中のNおよびCと結合して窒化物や炭化物もしくは炭窒化物を生成する。特に本発明では微細なNb炭窒化物を鋼材中に分散させることで母相の金属組織を強靭化し、転動疲労特性を改善するために必要な元素である。またNbは、浸炭処理時の結晶粒粗大化を抑制し、衝撃特性の低下を防ぐ効果を有する元素である。こうした効果を得るには、Nb量は、0.01%以上、好ましくは0.02%以上、より好ましくは0.03%以上である。一方、Nbが過剰になると、粗大なNb炭窒化物が多く生成され、かえって転動疲労特性を低下させる。そのため、Nb量は0.09%以下、好ましくは0.08%以下、より好ましくは0.06%以下である。
Cu、Ni、およびMoは、いずれも焼入性向上元素として作用し、硬さを高めて転動疲労特性の向上に寄与する元素である。更にこれら元素は夫々以下の特有の効果を有している。
Cuは、耐食性の向上に有効に作用する元素である。こうした効果を得るには、Cu量は好ましくは0.15%以上、より好ましくは0.2%以上である。一方、Cuが過剰になると、熱間圧延性を低下させる。そのためCu量は好ましく0.5%以下、より好ましくは0.4%以下、更に好ましくは0.3%以下である。
Niは、靭性を高めて、衝撃特性の向上に有効な元素である。こうした効果を得るには、Ni量は好ましくは0.15%以上、より好ましくは0.2%以上である。一方、Niは高価であり、コスト面から削減が望ましい。またNiが過剰になると被削性を低下させる。そのためNi量は、好ましく0.5%以下、より好ましくは0.4%以下、好ましくは0.3%以下である。
Moは、焼入れ性を向上させ、機械的強度を高めるのに有効な元素である。こうした効果を得るには、Mo量は好ましくは0.15%以上、より好ましくは0.2%以上である。一方、Moは高価であり、コスト面から削減が望ましい。またMoが過剰になると被削性を低下させる。そのためMo量は、好ましく0.85%以下、より好ましくは0.45%以下である。
Tiは鋼中のNと結合してTiNを生成し、転動疲労特性に悪影響を及ぼす元素である。したがってTiは低減することが望ましい。そのためTi量は好ましく0.005%以下、より好ましくは0.004%以下、更に好ましくは0.003%以下である。Tiは、不可避的に含まれる元素であるため、0%を含まないとした。
まず、鋼を溶製し、鋳片を作製する。溶製にあたっては取鍋中の溶鋼にNbやAlなどを添加して化学成分組成を上記所定の範囲となるように調整する。この際、Alなど脱酸作用を有する元素を添加して溶鋼の溶存酸素量を低減することで酸化物系介在物の生成を抑制できると共に、酸化物系介在物の√Area Maxの予測値も40μm以下に制御できる。
続いて鋳片に均熱処理を施してから熱間鍛造する。本発明では分塊圧延工程において、粗大なNb炭窒化物を固溶させると共に、微細なNb炭窒化物を必要な密度で析出させている。上記鋳造工程において冷却速度を制御しても鋳片には粗大なNb炭窒化物が残存しており、その密度は本発明の規定を上回っている。そのため粗大なNb炭窒化物を更に低減する必要がある。したがって以下の温度条件で均熱処理することが推奨される。
上記熱間鍛造後の鋼片は、再加熱して熱間加工(例えば、棒鋼圧延などの熱間圧延)することによって本発明の肌焼鋼が得られる。本発明では、この再加熱時の温度は特に限定されない。例えば900℃〜1100℃とし、180分以下の処理を行えばよい。
供試材(肌焼鋼)を用いて粗大なNb炭窒化物の密度を測定した。具体的には供試材表面からD/4位置(Dは直径または厚み)における鋼断面をEPMA(Electron Probe Micro−Analysis)を用いて4視野(1視野当たり1cm2)測定した。この際、組織をX線で分析してNb炭窒化物を判別し、平均粒子径2μm以上のNb炭窒化物の個数を算出する。なお、粒径は円相当直径に換算したものである。算出した4視野分の粗大なNb炭窒化物の合計個数を、1cm2当たりの個数に換算する。得られた平均密度を表2、4中に記載した(「粗大Nb炭窒化物」欄)。本発明では、粗大なNb炭窒化物の密度が10個/cm2以下を合格と評価した。また該密度が5個/cm2以下をより望ましい合格基準とし、更に1個/cm2以下を最も望ましい合格基準とした。
供試材(肌焼鋼)を用い、レプリカ抽出法にて透過型電子顕微鏡(TEM)観察用サンプルを作製する。観察用サンプルの任意の領域において、TEMにて倍率5万倍で4視野分の写真(4視野の合計面積21.0μm2)を撮影し、平均粒子径0.01〜0.1μmの微細なNb炭窒化物の個数を算出する。なお、粒径は円相当直径に換算したものである。算出した4視野分の微細なNb炭窒化物の合計個数を、1μm2当たりの個数に換算する。得られた平均密度を表2、4中に記載した(「微細Nb炭窒化物」欄)。本発明では、微細なNb炭窒化物の密度が1個/μm2以上を合格と評価した。該密度が3個/μm2以上をより望ましい合格基準とし、更に5個/μm2以上を最も望ましい合格基準とした。
供試材(肌焼鋼)を用いて酸化物系介在物の最大サイズは極値分布(ここではワイブル分布)に従うと仮定し、極値統計法(Extreme Value Statistics Method)を用いて算出した。まず、供試材の表面を光学顕微鏡(倍率100倍×20視野:1視野当たり15mm2、合計視野面積300mm2)を用いて観察する。各視野において最大の酸化物系介在物の投影面積の平方根(√area max)を測定する。測定した20視野の最大の酸化物系介在物の√area maxの値を用い、極値確率紙を用いて、基準化変数:Y=8.11となるとき(予測面積:100万mm2に相当)の値を予測される最大サイズとした。なお、上記測定方法は公知であり、上記以外の測定条件については、常法に従って設定すればよい。測定方法に関して例えば「JIS点算法の問題点と極値統計法による介在物評価とその応用 鉄と鋼Vol.79(1993)No.12」も参照文献である。本実施例において酸化物系介在物の√area maxの予測値は、40μm以下を合格と評価し、更に35μm以下をより望ましい合格基準とし、更に30μm以下を最も望ましい合格基準とした。
試験片の転動疲労寿命を測定し、転動疲労特性を評価した。スラスト型転動疲労試験機にて、繰り返し速度:1500rpm、面圧:5.3GPa、中止回数:2×108回の条件にて、各試験片につき転動疲労試験を16回ずつ実施し、転動疲労寿命(L10寿命:ワイブル確率紙にプロットして得られる累積破損確率10%における疲労破壊までの応力繰り返し数)を測定した。転動疲労寿命(L10寿命)が15×百万回(cycle)を超えた場合に、転動疲労特性に優れる(合格)と評価した。また転動疲労寿命が20×百万回以上の場合を転動疲労特性により優れると評価した。
鋼を溶製し、鋳造して表1に示す化学成分組成の鋳片を作製した後、表2記載の平均冷却速度で溶鋼の凝固開始温度(液相線温度)から凝固終了温度(固相線温度)まで冷却した(表中、「鋳造時の平均冷却速度」)。得られた鋳片を所定の均熱温度(表中、「分塊圧延時の加熱温度」)に加熱して該温度で所定時間保持(表中、「分塊圧延時の加熱保持時間」)した後、900〜1200℃で熱間鍛造し、室温まで冷却した。次いで900〜1100℃まで再加熱して熱間圧延することによって、直径65mmの丸棒鋼(肌焼鋼:供試材)を製造した。この供試材を用いて粗大なNb炭窒化物の密度、微細なNb炭窒化物の密度、および酸化物系介在物の√Area Maxの予測値を測定した。
上記実施例1における鋳片の化学成分組成を表3に変更した。また鋳造時の平均冷却速度を300℃/時間、分塊圧延時の加熱温度を1250℃、分塊圧延時の加熱保持時間を30分とした以外は上記実施例1と同様にして供試材、及び試験片を製造した。
Claims (3)
- 最大の酸化物系介在物の投影面積の平方根(√area max)の予測値が40μm以下に制御された肌焼鋼であって、
C :0.32〜0.48%(%は「質量%」の意味、化学成分組成について以下同じ)、
Si:0.5%以下(0%を含まない)、
Mn:1.5%以下(0%を含まない)、
P :0.03%以下(0%を含まない)、
S :0.01%以下(0%を含まない)、
Cr:0.85〜1.50%、
Al:0.005〜0.06%、
Nb:0.01〜0.09%、
Ti:0.005%以下(0%を含まない)、および
N :0.005〜0.020%
を含有し、残部が鉄および不可避不純物からなり、
平均粒子径が2μm以上のNb炭窒化物の密度が10個/cm2以下であり、且つ
平均粒子径が0.01〜0.1μmのNb炭窒化物の密度が1個/μm2以上であることを特徴とする浸炭後の転動疲労特性に優れた肌焼鋼。 - 更に、
Cu:0.5%以下(0%を含まない)、
Ni:0.5%以下(0%を含まない)、および
Mo:0.85%以下(0%を含まない)
よりなる群から選択される少なくとも一種を含有するものである請求項1に記載の肌焼鋼。 - 請求項1または2に記載の肌焼鋼の製造方法であって、
溶製した鋼の凝固開始温度から凝固終了温度までの平均冷却速度を150℃/時間以上、1200℃/時間以下として鋳片を得る鋳造工程、
前記鋳片を1250℃以上、1350℃以下の温度域で20分以上、8時間以下保持する均熱処理を施してから熱間鍛造を行う分塊圧延工程、及び
前記熱間鍛造で得られた鋼片を再加熱して熱間加工する棒鋼圧延工程、を有することを特徴とする転動疲労特性に優れた肌焼鋼の製造方法。
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