JP5400591B2 - 冷間加工性に優れた軸受用鋼 - Google Patents
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(B)初析セメンタイトの面積率や大きさ(長径)、およびアスペクト比を所定の範囲とするためには、鋼材の圧延を低温(800〜950℃)で行なうと共に、仕上げ圧延温度をAr1変態点以下で行なうことが有効であること、
(C)鋼中の固溶N(固溶窒素)を所定量以下に抑制すれば、動的歪み時効が抑制されて冷間加工性が良好になること、
(D)鋼中の固溶N(固溶窒素)を所定量以下に抑制するためには、所定量のAlとNを含む鋼材を上記温度範囲で圧延することによって、好ましい形態のAl系窒素化合物が得られ、固溶N量も適切な値(0.003%以下)に抑制できること。
冷間加工性の指標の一つである球状化焼鈍後の変形抵抗は、初析セメンタイトの大きさを増加させることによって低減することができる。こうした観点から、初析セメンタイトの大きさは平均長径で1.5μm以上とする必要がある。しかしながら、初析セメンタイトの大きさが大きくなり過ぎると、冷間加工時に割れが生じやすくなり、また粗大な介在物は転動中に応力集中源となり、転動疲労寿命を低下させる原因ともなる。こうした観点から、初析セメンタイトの大きさは平均長径で5μm以下とする必要がある。尚、長径とは、初析セメンタイトの最も大きな部分の長さ(長径)を意味する。
上記のような初析セメンタイトは、アスペクト比(長径/短径)が10以下である必要がある。このアスペクト比(長径/短径)が10よりも大きくなると、界面で亀裂が発生して冷間加工時に割れが発生し易くなる。
冷間加工性を良好にするには、初析セメンタイトが適度に分散している必要があり、こうした観点から、面積率で0.6%以上とする必要がある。但し、この面積率が大きくなり過ぎると、転動疲労寿命が低下する可能性があるので、7%以下であることが好ましい。
本発明の軸受用鋼においては、冷間加工性を良好にする上で、固溶N量を低減することも重要な要件である。この固溶N量が0.003%よりも多くなると、冷間加工時に動的歪み時効が生じ、変形抵抗を増大させ、冷間加工性を低下させることになる。尚、固溶C(固溶炭素)は、Crと相互作用(CrがCの活量を下げるため)するため、動的歪み時効を生じさせない。
Cは、焼入硬さを増大させ、室温、高温における強度を維持し、セメンタイトを分散させて耐摩耗性を付与すると共に、冷間加工性を向上させるために必須の元素である。こうした効果を発揮させるためには、Cは0.8%以上(過共析鋼)含有させなければならず、好ましくは0.9%以上(より好ましくは0.95%以上)含有させることが望ましい。しかしながら、C含有量が多くなり過ぎると巨大炭化物が生成し易くなり、転動疲労特性に却って悪影響を及ぼす様になるので、C含有量は1.3%以下、好ましくは1.2%以下(より好ましくは1.1%以下)に抑えるべきである。
Siは、マトリックスの固溶強化および焼入れ性を向上させるために有用な元素である。こうした効果を発揮させるためには、Siは0.05%以上含有させる必要があり、好ましくは0.1%以上(より好ましくは0.15%以上)含有させることが望ましい。しかしながら、Si含有量が多くなり過ぎると冷間加工性や被削性が著しく低下するので、Si含有量は0.8%以下、好ましくは0.7%以下(より好ましくは0.6%以下)に抑えるべきである。
Mnは、マトリックスの固溶強化および焼入れ性向上に有用な元素である。こうした効果を発揮させるためには、Mnは0.1%以上含有させる必要があり、好ましくは0.15%以上(より好ましくは0.2%以上)含有させることが望ましい。しかしながら、Mn含有量が多くなり過ぎると冷間加工性や被削性が著しく低下するので、Mn含有量は2%以下、好ましくは1.6%以下(より好ましくは1.2%以下)に抑えるべきである。
Pは、不可避的に不純物として含有する元素であるが、粒界に偏析し、冷間加工性を低下させるため極力低減することが望ましいが、極端に低減することは製鋼コストの増大を招くことになる。こうしたことから、P含有量は、0.05%以下とした。好ましくは0.04%以下(より好ましくは0.03%以下)に低減するのが良い。
Sは、不可避的に不純物として含有する元素であるが、FeSとして粒界に析出し、冷間加工性を低下させる元素である。また、MnSとして析出し、転動疲労寿命を低下させるため極力低減することが望ましいが、極端に低減することは製鋼コストの増大を招くことになる。こうしたことから、S含有量は、0.05%以下とした。好ましくは0.04%以下(より好ましくは0.03%以下)に低減するのが良い。
Crは、Cと結びついて炭化物を形成し、耐摩耗性および冷間加工性を向上させると共に、焼入性の向上に寄与し、更にCの活量を低下させるため、固溶Cによる動的歪み時効を抑制する元素である。これらの効果を発揮させるには、Cr含有量は1%以上とする必要がある。好ましくは1.1%以上(より好ましくは1.2%以上)である。しかし、Cr含有量が過剰になると、粗大な炭化物が生成し、転動疲労寿命が却って低下する。従ってCr量は2%以下とする。好ましくは1.8%以下(より好ましくは1.6%以下)である。
Alは、本発明の鋼材において重要な役目を果たす元素であり、Nと結合することによって、Al系窒素化合物として鋼中に微細に分散し、鋼中の固溶Nを低減させ、鋼材の冷間加工性および転動疲労寿命を向上させる上で重要な元素である。微細なAl系窒素化合物を生成させるためには、少なくとも0.01%以上含有させる必要がある。しかしながら、Al含有量が過剰になって0.1%を超えると、析出するAl系窒素化合物の大きさおよび個数が増加し、鋳造や圧延時に割れや傷が生じやすくなる。また、結晶粒が細かくなり過ぎるため、焼入れ性が低下し、大型部品に適用できず、且つ転動疲労寿命が低下することになる。尚、Al含有量の好ましい下限は、0.013%(より好ましくは0.015%以上)であり、好ましい上限は0.08%(より好ましくは0.05%以下)である。
Nは上記Alと同様に、本発明の鋼材において重要な役目を果たす元素であり、Al系窒素化合物の微細分散による転動疲労寿命向上効果を発揮させる上で重要な元素である。しかしながら、N含有量が過剰になって0.015%を超えると、鋼材製造工程で固溶Nが残存し易くなり、冷間加工時の動的歪み時効によって、変形抵抗が大きくなる。また、析出するAl系窒素化合物の大きさおよび個数密度が増加し、鋳造や圧延時に割れ傷が生じやすくなる。更に、結晶粒が細かくなり過ぎるため、焼入れ性が低下し、大型部品に適用できず、且つ転動疲労寿命が低下することになる。N含有量の下限は、Al系窒素化合物を所定量析出できる限り特に限定されず、圧延後の冷却速度や、Nと結合する元素(Ti,V,Nb,B,Zr,Te等)の量およびAl含有量に応じて適宜設定すれば良い。例えば、N含有量が0.0035%以上になると、所定量のAl系窒素化合物を析出させることができる。尚、N含有量の好ましい下限は、0.004%(より好ましくは0.006%以上)であり、好ましい上限は0.013%(より好ましくは0.010%以下)である。
Tiは、鋼中のNと結合してTiNを生成し、転動疲労特性に悪影響を及ぼすばかりでなく、冷間加工性や熱間加工性も害する有害元素であり、極力低減することが望ましいが、極端に低減することは製鋼コストの増大を招くことになる。こうしたことから、Ti含有量は0.015%以下とする必要がある。尚、Ti含有量の好ましい上限は0.010%(より好ましくは0.005%以下)である。
Oは、鋼中の不純物の形態に大きな影響を及ぼし、転動疲労特性に悪影響を及ぼすAl2O3やSiO2等の介在物を形成するため、極力低減することが好ましいが、極端に低減することは製鋼コストの増大を招くことになる。こうしたことから、O含有量は0.0025%以下とする必要がある。尚、O含有量の好ましい上限は0.002%(より好ましくは0.0015%以下)である。
Nb、VおよびBは、いずれもNと結合することで、窒素化合物を形成して、結晶粒の整粒化し、転動疲労寿命を向上させる上で有効な元素である。しかしながら、NbまたはVで0.5%を超えると、或はBで0.005%を超えると、結晶粒が微細化し、不完全焼入れ相が生成しやすくなる。尚、より好ましい上限はNbおよびVで0.3%(更に好ましくは0.1%以下)、Bで0.003%(更に好ましくは0.001%以下)である。
Ca、REM(希土類元素)、Mg、LiおよびZrは、いずれも酸化物系介在物を球状化させ、転動疲労寿命向上に寄与する元素である。これらの効果は、Ca、REMで0.0005%以上、Mg、LiおよびZrで0.0001%以上含有させることによって、より一層有効に発揮される。しかしながら、過剰に含有させても効果が飽和し、含有量に見合う効果が期待できず不経済となるので、夫々上記範囲内とするべきである。尚、より好ましい上限は、CaまたはREMで0.03%(更に好ましくは0.01%以下)、MgまたはLiで0.01%(更に好ましくは0.005%以下)、Zrで0.15%(更に好ましくは0.10%以下)である。
Pb、BiおよびTeは、いずれも被削性向上元素である。これらの効果は、Pb、Biで0.01%以上、Teで0.01%以上含有させることによって、より一層有効に発揮される。しかし、Pb、Biの含有量が0.5%を超えるか、Teの含有量が0.1%を超えると、圧延傷の発生等、製造上の問題が生じることになる。尚、より好ましい上限はPbおよびBiで0.3%(更に好ましくは0.2%以下)、Teで0.075%(更に好ましくは0.05%以下)である。
(a)圧延後の試験片を長手方向に対して垂直に切断した。
(b)その断面が観察できるように樹脂に埋め込み、エメリー紙による研磨、ダイヤモンドバフによる研磨および電解研磨を順次行なって、観察面を鏡面に仕上げた。
(c)ナイタール(3%硝酸エタノール溶液)で腐食した。
(d)試験片(直径:70mm、厚さ:10mmの円盤)のD/4(Dは直径)の位置を走査型電子顕微鏡の倍率:6000倍で観察し、4箇所撮影した。
(e)撮影した写真から、粒界に沿って析出している初析セメンタイトをトレースし、粒子解析ソフト[「粒子解析III for Windows. Version3.00 SUMITOMO METAL TECHNOLOGY製」(商品名)]を用い、長径が1.5〜5μmの初析セメンタイトの面積率、アスペクト比を求め、4視野の平均値を初析セメンタイトの面積率(平均面積率)、アスペクト比(平均アスペクト比)とした。また各初析セメンタイトの大きさから長径を算出し、4視野の平均値を求めた(「平均長径」として採用)。
各試験片の固溶N量は、JIS G 1228に準拠し、鋼中の全N量から全N化合物中のN量を差し引くことで算出した値である。
(b)前記全N化合物量は、アンモニア蒸留分離インドフェノール青吸光光度法を用いて決定した値である。10%AA系電解液(鋼表面に不働態皮膜を生成させない非水溶媒系の電解液であり、具体的には、10%アセチルアセトン、10%塩化テトラメチルアンモニウムを溶かしたメタノール溶液)中で、供試鋼素材から切り出したサンプルを電極にして定電流電解を行った。約0.5gのサンプルを溶解させ、不溶解残渣(N化合物)を、穴サイズが0.05μmのポリカーボネート製のフィルタでろ過した。不溶解残渣を、硫酸、硫酸カリウム、および純Cuチップ中で加熱して分解し、ろ液に合わせた。この溶液を水酸化ナトリウムでアルカリ性にした後、水蒸気蒸留を行い、留出したアンモニアを希硫酸に吸収させた。フェノール、次亜塩素酸ナトリウム、及びペンタシアノニトロシル鉄(III)酸ナトリウムを加えて青色錯体を生成させ、光度計を用いて、その吸光度を測定することで、全N化合物量を決定した。
Al系窒素化合物の分散状況の確認方法としては、圧延材を切断し、この断面を研磨した後、その面にカーボン蒸着を行い、FE−TEM(電界放出型透過型電子顕微鏡)によりレプリカ観察を実施した。この際、TEMのEDX(エネルギー分散型X線検出器)によりAl、Nを含むAl系窒素化合物の成分を特定し、30000倍の倍率にてその視野の観察を行なった。このとき、1視野を16.8μm2とし、任意の3視野について観察し(合計50.4μm2)、粒子解析ソフト[「粒子解析III for Windows. Version3.00 SUMITOMO METAL TECHNOLOGY製」(商品名)]を用い、その大きさ[(a×b)1/2で示される平均粒径]および粒径が70〜200nmのAl系窒素化合物の個数密度(個数密度はμm2当りに換算)を求めた。
球状化後の鋼材の中心部から、直径:10mm、厚さ:16mmの円盤(試験片)を切り出し、プレス試験機を用いて、加工率(圧縮率):80%で冷間加工した後、試験片の側面を光学顕微鏡で観察し(倍率:20倍)、割れ発生の有無を確認し、変形能を評価した。また、その際の変形抵抗(MPa)を測定し、冷間加工性の評価を行った。尚、上記加工率は[{1−(L/L0)}×100(%)](但し、L:加工前の試験片長さ、L0:加工後試験片長さ)で示されるものである。このとき、変形抵抗で850MPa以下を合格とした。
スラスト型転動疲労試験機にて、繰り返し速度:1500rpm、面圧:5.3GPa、中止回数:2×108回の条件にて、各鋼材(試験片)につき転動疲労試験を各16回ずつ実施し、疲労寿命L10(ワイプル確率紙にプロットして得られる累積破損確率10%における疲労破壊までの応力繰り返し数)を評価した。このとき、疲労寿命L10(L10寿命)で1.0×107回以上を合格基準とした。
Claims (4)
- C:0.8〜1.3%(質量%の意味、以下同じ)、Si:0.05〜0.8%、Mn:0.1〜2%、P:0.05%以下(0%を含まない)、S:0.05%以下(0%を含まない)、Cr:1〜2%、Al:0.01〜0.1%、N:0.015%以下(0%を含まない)、Ti:0.015%以下(0%を含まない)およびO:0.0025%以下(0%を含まない)を夫々含む他、固溶N量が0.003%以下(0%を含む)であり、残部が鉄および不可避不純物からなり、
初析セメンタイトのアスペクト比が10以下、平均長径が1.5〜5μmであると共に、長径が1.5〜5μmである初析セメンタイトの面積率が0.6%以上であり、
且つ鋼中に分散する下記に定義されるAl系窒素化合物の長径をa、短径をbとしたとき、(a×b) 1/2 で示される平均粒径が70nm以上、200nm以下であると共に、粒径が70〜200nmのAl系窒素化合物の個数密度が0.7〜4.0個/μm 2 であることを特徴とする冷間加工性に優れた軸受用鋼。
Al系窒素化合物:AlN、およびAlNにMn,Cr,SまたはSiを一部(合計含有量が30%まで)に含有する化合物。 - 更に他の元素として、Nb:0.5%以下(0%を含まない)、V:0.5%以下(0%を含まない)およびB:0.005%以下(0%を含まない)よりなる群から選択される1種以上を含む請求項1に記載の冷間加工性に優れた軸受用鋼。
- 更に他の元素として、Ca:0.05%以下(0%を含まない)、REM:0.05%以下(0%を含まない)、Mg:0.02%以下(0%を含まない)、Li:0.02%以下(0%を含まない)およびZr:0.2%以下(0%を含まない)よりなる群から選択される1種以上を含む請求項1または2に記載の冷間加工性に優れた軸受用鋼。
- 更に他の元素として、Pb:0.5%以下(0%を含まない)、Bi:0.5%以下(0%を含まない)およびTe:0.1%以下(0%を含まない)よりなる群から選択される1種以上を含む請求項1〜3のいずれかに記載の冷間加工性に優れた軸受用鋼。
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