JP4712838B2 - 耐水素脆化特性および加工性に優れた高強度冷延鋼板 - Google Patents

耐水素脆化特性および加工性に優れた高強度冷延鋼板 Download PDF

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Description

本発明は、自動車部品などに適する耐水素脆化特性および加工性に優れた高強度冷延鋼板に関する。
例えば自動車の骨格部品などに使用される冷延鋼板には、衝突安全性や車体軽量化による燃費軽減を両立させる目的で980MPa以上の高強度が求められるとともに、形状の複雑な骨格部品に加工するために優れた成形加工性も要求される。
ところが980MPa以上の高強度域では、水素脆化による遅れ破壊という弊害が新たに生じることが知られている。遅れ破壊は、高強度鋼において、腐食環境または雰囲気から発生した水素が、転位、空孔、粒界などの欠陥部へ拡散して材料を脆化させ、応力が付与された状態で破壊を生じる現象のことであり、その結果、金属材料の延性や靭性が低下する等の弊害をもたらす。
従来よりボルト、PC鋼線やラインパイプといった用途に多く用いられる高強度鋼では、引張強度が980MPa以上になると、鋼中への水素の侵入により水素脆化(酸洗脆性、めっき脆性、遅れ破壊など)が発生することが広く知られている。したがって、耐水素脆化特性を向上させる技術のほとんどは、上記ボルト等用の鋼材を対象とするものである。例えば非特許文献1には、金属組織を焼戻しマルテンサイト主体とし、Cr、Mo、Vといった焼戻し軟化抵抗性を示す元素を添加すれば、耐遅れ破壊性の向上に有効である旨報告されている。これは、合金炭化物を析出させて水素のトラップサイトとして活用することで、遅れ破壊形態を粒界から粒内破壊へ移行させ破壊を抑制する技術である。ところがこれらの知見は中炭素鋼に適用するものであり、溶接性や加工性が必要な低炭素含有量の薄鋼板にそのまま活用することができない。
そこで、本出願人らは、炭素量をC:0.25超〜0.60%を満たし、残部が鉄及び不可避不純物からなるものであって、加工率3%の引張加工後の金属組織が、全組織に対する面積率で、残留オーステナイト組織:1%以上、ベイニティックフェライト及びマルテンサイト:合計で80%以上、上記残留オーステナイト結晶粒の平均軸比(長軸/短軸):5以上を満たすことを特徴とした耐水素脆化特性に優れた超高強度薄鋼板を開発し、すでに特許出願を行った(特許文献1参照)。
上記薄鋼板は、優れた強度と伸びと耐水素脆化特性を示すものであるが、近年、ますます重要視されつつある伸びフランジ性については、残留オーステナイトが破壊の起点となり該伸びフランジ性を低下させる要因となるため、近年の伸びフランジ性に対する要望レベル(少なくとも70%、望ましくは90%)を確実に達成することが難しい状況にあった。
「遅れ破壊解明の新展開」(日本鉄鋼協会、1997年1月発行)p.111〜120 特開2006−207019号公報
そこで本発明の目的は、優れた耐水素脆化特性を確保しつつ、伸びフランジ性をも高めた高強度冷延鋼板を提供することにある。
請求項1に記載の発明は、
質量%で(以下、化学成分について同じ。)、
C:0.03〜0.30%、
Si:3.0%以下(0%を含む)、
Mn:0.1%超2.8%以下、
P:0.1%以下、
S:0.005%以下、
N:0.01%以下、
Al:0.01〜0.50%
V:0.001〜1.00%
を含み、残部が鉄および不可避的不純物からなる成分組成を有し、
焼戻しマルテンサイトが面積率で50%以上(100%を含む)を含み、残部がフェライトからなる組織を有し、
前記焼戻しマルテンサイト中における析出物の分布状態が、
円相当直径1〜10nmの析出物は、前記焼戻しマルテンサイト1μm当たり20個以上で、
円相当直径20nm以上のVを含む析出物は、前記焼戻しマルテンサイト1μm当たり10個以下である
ことを特徴とする耐水素脆化特性および加工性に優れた高強度冷延鋼板である。
請求項2に記載の発明は、
成分組成が、更に、
Cr:0.01〜1.0%、
Mo:0.01〜1.0%、
Cu:0.05〜1.0%、
Ni:0.05〜1.0%
の1種または2種以上
を含むものである請求項1に記載の耐水素脆化特性および加工性に優れた高強度冷延鋼板である。
請求項3に記載の発明は、
成分組成が、更に、
B:0.0001〜0.0050%
を含むものである請求項1または2に記載の耐水素脆化特性および加工性に優れた高強度冷延鋼板である。
請求項4に記載の発明は、
更に、
Ca:0.0005〜0.01%、
Mg:0.0005〜0.01%、
REM:0.0005〜0.01%
の1種または2種以上
を含むものである請求項1〜3のいずれか1項に記載の耐水素脆化特性および加工性に優れた高強度冷延鋼板である。
請求項5に記載の発明は、
前記焼戻しマルテンサイト中におけるセメンタイト粒子の分布状態が、
円相当直径0.02μm以上0.1μm未満のセメンタイト粒子は、前記焼戻しマルテンサイト1μm当たり10個以上で、
円相当直径0.1μm以上のセメンタイト粒子は、前記焼戻しマルテンサイト1μm当たり3個以下である
請求項1〜4のいずれか1項に記載の耐水素脆化特性および加工性に優れた高強度冷延鋼板である。
請求項6に記載の発明は、
全組織中の転位密度が1×1015〜1×1016−2であり、
かつ、下記式1で定義されるSi等量が下記式2を満足する
請求項1〜4のいずれか1項に記載の耐水素脆化特性および加工性に優れた高強度冷延鋼板である。
式1:[Si等量]=[%Si]+0.36[%Mn]+7.56[%P]+0.15[%Mo]+0.36[%Cr]+0.43[%Cu]
式2:[Si等量]≧4.0− 5.3×10−8√[転位密度]
本発明によれば、焼戻しマルテンサイト単相組織またはフェライトと焼戻しマルテンサイトからなる二相組織において、焼戻しマルテンサイトの面積率、および該焼戻しマルテンサイト中に析出したVを含む析出物の分布状態を適正に制御することで、耐水素脆化特性を確保しつつ、伸びフランジ性をも改善することが可能となり、耐水素脆化特性と伸びフランジ性にともに優れる高強度薄鋼板を提供できるようになった。
本発明者らは、焼戻しマルテンサイト単相またはフェライトと焼戻しマルテンサイト(以下、単に「マルテンサイト」ということあり。)からなる二相組織を有する高強度鋼板に着目し、これに、合金元素としてVを添加することにより、水素のトラップサイトとして強く働くVの炭化物および炭窒化物(以下、「V含有析出物」と総称する。)をそのサイズを適正にしてマルテンサイト中に導入することで耐水素脆化特性を確保しつつ、伸びフランジ性を改善しうるものと考え、耐水素脆化特性および伸びフランジ性に及ぼす各種要因の影響を調査するなど鋭意検討を行ってきた。その結果、フェライトの割合を少なくすることに加え、V含有析出物を微細化することで、耐水素脆化特性を確保しつつ、伸びフランジ性を向上できることを見出し、該知見に基づいて本発明を完成するに至った。
以下、まず本発明鋼板を特徴づける組織について説明する。
〔本発明鋼板の組織〕
上述したとおり、本発明鋼板は、焼戻しマルテンサイト単相、または、二相組織(フェライト+焼戻しマルテンサイト)をベースとするものであるが、特に、該焼戻しマルテンサイト中のV含有析出物の分布状態が制御されている点に特徴を有する。
<焼戻しマルテンサイト:面積率で50%以上(100%を含む)>
焼戻しマルテンサイト主体の組織にすることで、フェライトと該焼戻しマルテンサイトの界面での破壊を防止し伸びフランジ性を確保できる。
上記作用を有効に発揮させるには、該焼戻しマルテンサイトは、面積率で50%以上、好ましくは60%以上、さらに好ましくは70%以上(100%を含む)とする。なお、残部はフェライトである。
<円相当直径1〜10nmの析出物:焼戻しマルテンサイト1μm当たり20個以上>
水素のトラップサイトとして有効に作用する微細なVの炭化物および炭窒化物を組織中に適切に分散させることで、耐水素脆化特性を向上させ、加工後の耐遅れ破壊性を確保することができる。つまり、特に比表面積の大きい微細なV含有析出物を多量に分散させることで、水素のトラップサイトを増加させたうえ、V含有析出物を微細にすることで、母相に対してV含有析出物の周囲に整合ひずみ場を付与し、ひずみ場に集まりやすい水素に対するトラップサイトとしての能力を高めることができ、耐水素脆化特性が改善される。なお、この粒径範囲(円相当直径1〜10nm)では、Vを含まない析出物はほとんど存在しないので、本規定では、下記円相当直径20nm以上の析出物の場合のようにVを含むものに限定せずに、すべての析出物を対象とした。
上記作用を有効に発揮させるには、円相当直径1〜10nmの微細な析出物は、焼戻しマルテンサイト1μm当たり20個以上、好ましくは50個以上、さらに好ましくは100個以上とする。上記微細な析出物のサイズ(円相当直径)の好ましい範囲は1〜8nm、さらに好ましい範囲は1〜6nmである。
なお、上記微細な析出物の円相当直径の下限を1nmとしたのは、これより微細な析出物は、水素のトラップサイトとしての効果が小さくなるためである。
<円相当直径20nm以上のVを含む析出物:焼戻しマルテンサイト1μm当たり10個以下>
VCなどのVを含む析出物は、母相に比べて剛性および臨界せん断応力が非常に高いため、析出物の周囲が変形しても析出物自体は変形しにくいため、20nm以上のサイズになると母相と析出物との界面に大きなひずみが生じ、破壊が発生するようになる。このため、20nm以上のVを含む粗大な析出物が多量に存在すると伸びフランジ性が劣化する。したがって、粗大なV含有析出物の存在密度を制限することで、伸びフランジ性を改善することができる。
上記作用を有効に発揮させるには、円相当直径20nm以上のVを含む粗大な析出物は、焼戻しマルテンサイト1μm当たり10個以下、好ましくは5個以下、さらに好ましくは3個以下に制限する。
本発明鋼板の組織は上記規定を満足させることを必須とするが、この必須組織規定に加えてさらに下記(a)または(b)の組織規定をも満足させることが推奨される。
<(a)円相当直径0.02μm以上0.1μm未満のセメンタイト粒子:焼戻しマルテンサイト1μm当たり10個以上、
円相当直径0.1μm以上のセメンタイト粒子:焼戻しマルテンサイト1μm当たり3個以下>
上記V含有析出物の分散状態の制御に加えて、焼戻しの際にマルテンサイト中に析出したセメンタイト粒子のサイズと存在数を制御することで、伸びと伸びフランジ性をともに向上させることができる。つまり、マルテンサイト中に適度に微細なセメンタイトの粒子を多量に分散させて、転位の増殖源として働かせることで加工硬化指数を大きくし、伸びの向上に寄与させつつ、伸びフランジ変形時において破壊の起点となる粗大なセメンタイト粒子の数を減少させることで、伸びフランジ性をさらに改善することができる。
上記作用を有効に発揮させるには、円相当直径0.02μm以上0.1μm未満の適度に微細なセメンタイト粒子は、焼戻しマルテンサイト1μm当たり10個以上、さらに15個以上、特に20個以上とするとよいが、円相当直径0.1μm以上の粗大なセメンタイト粒子は、焼戻しマルテンサイト1μm当たり3個以下、さらに2.5個以下、特に2個以下に制限するのが推奨される。
なお、上記適度に微細なセメンタイト粒子の円相当直径の下限を0.02μmとしたのは、これより微細なセメンタイト粒子は、マルテンサイトの結晶構造に十分な歪みを与えられず、転位の増殖源としてはほとんど寄与しないと考えられるためである。
<(b)全組織中の転位密度:1×1015〜1×1016―2
[Si当量]≧4.0− 5.3×10−8√[転位密度]>
上記V含有析出物の分散状態の制御に加えて、全組織中に導入される転位密度を制御することで、伸びを確保しつつ、近年重要視されるようになってきた衝突安全性を評価する上で重要な降伏強度をも確保することができる。つまり、上記成分組成を有するC−Si−Mn系の低合金鋼において、焼戻し温度が400℃を超えるマルテンサイト主体の組織の降伏強度は、4つの強化機構(固溶強化、析出強化、微細化強化、転位強化)のなかでも特に転位強化に強く依存することを見出し、要望レベルである900MPa以上の降伏強度を確保するには、全組織中の転位密度を1×1015−2以上確保する必要があることがわかった。
一方、伸びは変形初期の転位密度に強い負の相関をもつことから、10%以上の伸びを確保するには、転位密度を1×1016−2以下に制限する必要があることがわかった。
よって、全組織中の転位密度は1×1015〜1×1016―2とするのが推奨される。
そして、上述のとおり、10%以上の伸びを確保するためには、全組織中に導入できる転位密度に上限が存在する。そこで、さらに検討を行った結果、900MPa以上の降伏強度を確実に得るためには、転位強化の次に降伏強度に寄与する固溶強化を活用する必要があることを見出した。
先ず、上記900MPa以上の降伏強度を確実に得るために必要な固溶強化量を表す指標として、下記式(1)に示すSi等量を導入した。このSi等量は、固溶強化作用を示す代表的な元素であるSiを基準にして、Si以外の各元素の固溶強化作用(藤田利夫ら訳:鉄鋼材料の設計と理論、丸善、(1981)、p.8参照)をSi濃度に換算して定式化したものである。
[Si等量]=[%Si]+0.36[%Mn]+7.56[%P]+0.15[%Mo]+0.36[%Cr]+0.43[%Cu]・・・式(1)
次に、転位強化による降伏強度の上昇量Δσは、Bailey−Hirshの式から転位密度ρの関数として、Δσ∝ √ρで表される(中島ら:「材料とプロセス」、Vol.17(2004)p.396−399参照)。そして、上記固溶強化による降伏強度の上昇効果と上記転位強化よる降伏強度の上昇効果との定量的な関係を実験的に検証した結果、下記式(2)を満足させることにより、900MPa以上の降伏強度が確実に得られることがわかった。
[Si等量]≧4.6−5.3×10−8√[転位密度] ・・・式(2)
以下、焼戻しマルテンサイトの面積率、析出物のサイズおよびその存在数、セメンタイト粒子のサイズおよびその存在数、ならびに、転位密度の各測定方法について説明する。
[マルテンサイトの面積率の測定方法]
まず、マルテンサイトの面積率については、各供試鋼板を鏡面研磨し、3%ナイタール液で腐食して金属組織を顕出させた後、概略40μm×30μm領域5視野について倍率2000倍の走査型電子顕微鏡(SEM)像を観察し、画像解析によってセメンタイトを含まない領域をフェライトとし、残りの領域をマルテンサイトとして、各領域の面積比率よりマルテンサイトの面積率を算出した。
[析出物のサイズおよびその存在数の測定方法]
析出物のサイズおよびその存在数については、薄膜法、または、抽出レプリカ法にて薄膜サンプルを作成し、このサンプルを電界放射型透過型電子顕微鏡(FE−TEM)を用いて100000倍から300000倍で2μm以上の領域を観察し、画像のコントラストから黒っぽい部分を析出物としてマーキングし、画像解析ソフトにて、前記マーキングした各析出物の面積から円相当直径を算出するとともに、単位面積あたりに存在する所定サイズの析出物の個数を求めた。
ただし、20nm以上の析出物については、FE−TEMに付随のEDXまたはEELSを用いて析出物中にVが存在していることを確認したものだけをカウントした。
[セメンタイト粒子のサイズおよびその存在数の測定方法]
セメンタイト粒子のサイズおよびその存在数については、各供試鋼板を鏡面研磨し、ピクラールで腐食して金属組織を顕出させた後、マルテンサイト内部の領域を解析できるよう、100μm領域の視野について倍率10000倍の走査型電子顕微鏡(SEM)像を観察し、画像のコントラストから白い部分をセメンタイト粒子と判別してマーキングし、画像解析ソフトにて、前記マーキングした各セメンタイト粒子の面積から円相当直径を算出するとともに、単位面積あたりに存在する所定のサイズのセメンタイト粒子の個数を求めた。
[転位密度の測定方法]
また、転位密度については、板厚の1/4深さ位置を測定できるよう試料を調整した後、標準試料としてSi粉末を試料表面に塗布し、これをX線回折装置(理学電機製、RAD−RU300)に掛け、X線回折プロファイルを採取した。そして、このX線回折プロファイルを元に、中島らが提案した解析法にしたがって転位密度を算出した(中島ら:「材料とプロセス」、Vol.17(2004)p.396−399参照)。
次に、本発明鋼板を構成する成分組成について説明する。以下、化学成分の単位はすべて質量%である。
〔本発明鋼板の成分組成〕
C:0.03〜0.30%
Cは、マルテンサイトの面積率に影響し、強度および伸びフランジ性に影響する重要な元素である。また、Vと結合することで、V炭化物およびV炭窒化物を形成するので、V含有量とC含有量のバランスが変化することで、熱処理中のV炭化物およびV炭窒化物の析出、消失、粗大化の挙動に影響し、水素脆化特性および伸びフランジ性に影響する。0.03%未満ではマルテンサイトの面積率が不足するため強度が確保できず、一方、0.30%超では焼鈍の際の加熱時にV炭化物およびV炭窒化物が安定になりすぎるため微細な析出物が得られなくなり、水素脆化特性が確保できない。C含有量の範囲は、好ましくは0.05〜0.25%、さらに好ましくは0.07〜0.20%である。
Si:3.0%以下(0%を含む)
Siは、固溶強化元素として、伸びを劣化させずに高強度化できる有用な元素である。3.0%超では加熱時におけるオーステナイトの形成を阻害するため、マルテンサイトの面積率を確保できず、伸びフランジ性を確保できない。Si含有量の範囲は、好ましくは2.5%以下、さらに好ましくは2.0%以下(0%を含む)である。
Mn:0.1%超2.8%以下
Mnは、焼入れ性を高めて焼鈍の際の加熱後の急速冷却時にマルテンサイト面積率を確保することで、強度と伸びフランジ性を高める効果を有する有用な元素である。0.1%以下では焼入れのための急速冷却時にベイナイトが形成され、マルテンサイト面積率が不足するため、強度と伸びフランジ性が確保できない。一方、2.8%超とすると焼入れ時(焼鈍加熱後の冷却時)にオーステナイトが残存し、伸びフランジ性を低下させる。Mn含有量の範囲は、好ましくは0.30〜2.5%、さらに好ましくは0.50〜2.2%である。
P:0.1%以下
Pは不純物元素として不可避的に存在し、固溶強化により強度の上昇に寄与するが、 旧オーステナイト粒界に偏析し、粒界を脆化させることで伸びフランジ性を劣化させるので、0.1%以下とする。好ましくは0.05%以下、さらに好ましくは0.03%以下である。
S:0.005%以下
Sも不純物元素として不可避的に存在し、MnS介在物を形成し、穴拡げ時に亀裂の起点となることで伸びフランジ性を低下させるので、0.005%以下とする。より好ましくは0.003%以下である。
N:0.01%以下
Nも不純物元素として不可避的に存在し、ひずみ時効により伸びと伸びフランジ性を低下させるので、低い方が好ましく、0.01%以下とする。
Al:0.01〜0.50%
AlはNと結合してAlNを形成し、歪時効の発生に寄与する固溶Nを低減させることで伸びフランジ性の劣化を防止するとともに、固溶強化により強度向上に寄与する。0.01%未満では鋼中に固溶Nが残存するため、ひずみ時効が起こり、伸びと伸びフランジ性を確保できず、一方、0.50%超では加熱時におけるオーステナイトの形成を阻害するため、マルテンサイトの面積率を確保できず、伸びフランジ性を確保できなくなる。
V:0.001〜1.00%
Vは、大気中で生成するさびの中でも熱力学的に安定で保護性があるといわれている酸化鉄であるα−FeOOHの生成を促進させるとともに、微細な炭化物および炭窒化物として鋼中に存在することにより水素のトラップサイトとして働くことから、耐水素脆化特性向上のための重要な元素である。0.001%未満では耐水素脆化特性の改善効果が十分に得られない。一方、1.00%超では、焼鈍の際の加熱時に鋼中に未固溶で存在し、粗大に成長するV炭化物またはV炭窒化物が増加するため伸びフランジ性が劣化する。V含有量の範囲は、好ましくは0.01%以上0.50%未満、さらに好ましくは0.02%以上0.30%未満である。
本発明の鋼は上記成分を基本的に含有し、残部が実質的に鉄および不純物であるが、その他、本発明の作用を損なわない範囲で、以下の許容成分を添加することができる。
Cr:0.01〜1.0%、
Mo:0.01〜1.0%、
Cu:0.05〜1.0%、
Ni:0.05〜1.0%
の1種または2種以上
これらの元素は、焼入れ性を高めてマルテンサイト面積率の確保に寄与することで、強度と伸びフランジ性を高めるのに有用な元素である。また、これらの元素のうち、CrとMoは、焼き戻し時に水素のトラップサイトとなりうる合金炭化物および炭窒化物を形成することで、CuとNiは、Vと同様、α−FeOOHの生成を促進させることで、いずれも耐水素脆化特性をも改善する効果を有する。各元素とも、上記各下限値未満の添加では上記のような作用を有効に発揮しえず、一方、1.0%を超える添加では、Cr、Mo、Cuではマルテンサイトの硬さが高くなりすぎ、Niでは焼入れ時にオーステナイトが残存し、いずれも伸びフランジ性が低下してしまう。
B:0.0001〜0.0050%
Bは、鋼中に固溶状態でオーステナイト粒界に存在することで、焼入れ性を高め、マルテンサイト面積率を高めるのに有用な元素である。0.0001%未満の添加では上記のような作用を有効に発揮しえず、一方、0.0050%を超えて過剰に添加するとFe23(CB)を形成し、固溶Bが存在しなくなり焼入れ性改善効果が得られなくなってしまう。
Ca:0.0005〜0.01%、
Mg:0.0005〜0.01%、
REM:0.0005〜0.01%
の1種または2種以上
これらの元素は、介在物を微細化し、破壊の起点を減少させることで、伸びフランジ性を向上させるのに有用な元素である。各元素とも0.0005%未満の添加では上記のような作用を有効に発揮しえず、一方、各元素とも0.01%を超える添加では逆に介在物が粗大化し、伸びフランジ性が低下してしまう。
なお、REMは、希土類元素、すなわち、周期律表の3A属元素を指す。
次に、本発明鋼板を得るための好ましい製造方法を以下に説明する。
〔本発明鋼板の好ましい製造方法〕
上記のような冷延鋼板を製造するには、まず、上記成分組成を有する鋼を溶製し、造塊または連続鋳造によりスラブとしてから熱間圧延(熱延)を行なう。
[熱間圧延条件]
熱間圧延条件としては、熱延加熱温度を900℃以上、熱延仕上圧延温度を800℃以上に設定し、適宜冷却を行った後、450℃以下の温度で巻き取るのが推奨される。
このような温度条件で熱間圧延を行うことで、Vを加熱段階で完全に固溶させ、熱間圧延中における析出や巻取り中におけるVの炭化物や炭窒化物の析出を抑制し、焼鈍の際の加熱時に粗大なVの炭化物や炭窒化物が残存しないようにすることができる。
熱間圧延終了後は酸洗してから冷間圧延を行うが、冷間圧延率は30%程度以上とするのがよい。
そして、上記冷間圧延後、引き続き、焼鈍、さらには焼戻しを行う。
[焼鈍条件]
焼鈍条件としては、焼鈍加熱温度:[−9500/{log([%C]・[%V])−6.72}−273]℃以上でかつ[(Ac+Ac)/2]〜1000℃に加熱し、焼鈍保持時間:20〜3600s保持した後、焼鈍加熱温度から直接Ms点以下の温度まで50℃/s以上の冷却速度で急冷するか、または、焼鈍加熱温度から、焼鈍加熱温度未満で600℃以上の温度(第1冷却終了温度)まで1℃/s以上50℃/s未満の冷却速度(第1冷却速度)で徐冷した後、Ms点以下の温度(第2冷却終了温度)まで50℃/s以上の冷却速度(第2冷却速度)で急冷するのがよい。
<焼鈍加熱温度Ta(℃):[−9500/{log([%C]・[%V])−6.72}−273]℃以上でかつ[(Ac+Ac)/2]〜1000℃、焼鈍保持時間:20〜3600s>
Ta(℃)≧[−9500/{log([%C]・[%V])−6.72}−273]℃とするのは、焼鈍加熱時にV炭化物等を完全に固溶させることで、20nm以上の粗大なV含有析出物の存在密度を低下させるとともに、焼鈍加熱時に十分にオーステナイトに変態させることで、その後の冷却時にオーステナイトから変態生成するマルテンサイトの面積率を50%以上確保するためである。
焼鈍加熱温度Ta(℃)<[−9500/{log([%C]・[%V])−6.72}−273]℃、すなわち、log[%V]<[−9500/(Ta+273)]−log[%C]では、焼鈍加熱時に未固溶のV炭化物等が残存しこれが粗大化して、伸びフランジ変形時において破壊の起点が増加するため、伸びフランジ性が低下するので好ましくない。なお、上記Ta(℃)≧[−9500/{log([%C]・[%V])−6.72}−273]℃の関係式は、日本鉄鋼協会編:第3版 鉄鋼便覧、第I巻 基礎、p.412の図7.43中に示された、[V]・[C]の溶解度積の温度依存性を表す直線プロットを読み取り、これをVが完全に固溶する温度を計算できるように変形して求めた。
また、焼鈍加熱温度が[(Ac+Ac)/2]℃未満では、焼鈍加熱時においてオーステナイトへの変態量が不足するため、その後の冷却時にオーステナイトから変態生成するマルテンサイトの量が減少して面積率50%以上を確保できなくなり、一方、1000℃を超えると、オーステナイト組織が粗大化して鋼板の曲げ性や靭性が劣化するとともに、焼鈍設備の劣化をもたらすため好ましくない。
また、焼鈍保持時間が20s未満ではV炭化物等を完全に固溶させることができなくなり、一方3600sを超えると、生産性が極端に悪化するので好ましくない。
<Ms点以下の温度まで50℃/s以上の冷却速度で急冷>
冷却中にオーステナイトからフェライトやベイナイト組織が形成されることを抑制し、マルテンサイト組織を得るためである。
Ms点より高い温度で急冷を終了させたり、冷却速度が50℃/s未満になると、ベイナイトが形成されるようになり、鋼板の強度が確保できなくなる。
<加熱温度未満で600℃以上の温度まで1℃/s以上50℃/s未満の冷却速度で徐冷>
面積率で50%未満のフェライト組織を形成させることにより、伸びフランジ性を確保したまま伸びの改善が図れるためである。
600℃未満の温度または1℃/s未満の冷却速度ではフェライトが形成されず、強度と伸びフランジ性が確保できなくなる。
以上、熱間圧延条件および焼鈍条件について推奨条件を説明したが、組織規定に関わらずすべての鋼板について共通である。しかしながら、以下説明する焼戻し条件については、上記必須組織規定のみを満足する鋼板と、上記必須組織規定に加えて上記(a)または(b)の推奨組織規定をも満足する鋼板とで、推奨する焼戻し条件が異なるので、以下、分けて説明を行う。
[必須組織規定のみを満足する鋼板の焼戻し条件]
必須組織規定のみを満足する鋼板の焼戻し条件としては、上記焼鈍冷却後の温度から焼戻し加熱温度Tt(℃):480℃以上で、かつ焼戻し保持時間t(s)が、Pg=exp[−13123/(Tt+273)]×t<1.8×10−5となる条件で保持した後、冷却すればよい。
焼戻し中にV炭化物等を析出させるには480℃以上に加熱する必要があり、析出物のサイズを制御するには加熱温度と保持時間との関係を適切に制御する必要がある。
ここで、Pg=exp[−13123/(Tt+273)]×tは、杉本孝一ら:材料組織学[朝倉書店出版]、p106の 式(4.18)に記載の析出物の粒成長モデルを元に変数の設定および簡略化を行った、析出物のサイズを規定するパラメータである。
Pg=exp[−13123/(Tt+273)]×t≧1.8×10−5となる条件では、析出物の粗大化が進行して、20nm以上の粗大な析出物の個数が多くなりすぎるため、伸びフランジ性が確保できなくなる。
[必須組織規定に加えて上記(a)の組織規定をも満足する鋼板の焼戻し条件]
必須組織規定に加えて上記(a)の組織規定をも満足する鋼板の焼戻し条件としては、上記[必須組織規定のみを満足する鋼板の焼戻し条件]を満たしつつ、以下の条件をも満たすことが推奨される。
すなわち、上記焼鈍冷却後の温度から1段目の焼戻し加熱温度:325〜375℃まで、100〜325℃の間を5℃/s以上の平均加熱速度で加熱し、1段目の焼戻し保持時間:50s以上保持した後、さらに、2段目の焼戻し加熱温度T:400℃以上まで加熱し、2段目の焼戻し保持時間t(s)が、3.2×10−4<P=exp[−9649/(T+273)]×t<1.2×10−3となる条件で保持した後、冷却すればよい。なお、2段目の保持中に温度Tを変化させる場合は、下記式(2)を用いればよい。
マルテンサイトからのセメンタイトの析出が最も速くなる温度域である350℃付近で保持してマルテンサイト組織中に均一にセメンタイト粒子を析出させた後、より高い温度域に加熱・保持することで、セメンタイト粒子を適切なサイズに成長させることができるためである。
<1段目の焼戻し加熱温度:325〜375℃まで、100〜325℃の間を5℃/s以上の平均加熱速度で加熱>
1段目の焼戻し加熱温度が325℃未満もしくは375℃超え、または、100〜325℃の間の平均加熱速度が5℃/s未満の場合は、マルテンサイト中にセメンタイト粒子の析出が不均一に起こるため、その後の2段目の加熱・保持中における成長により、粗大なセメンタイト粒子の割合が増加し、伸びフランジ性が得られなくなる。
<2段目の焼戻し加熱温度T:400℃以上まで加熱し、2段目の焼戻し保持時間t(s)が、3.2×10−4<P=exp[−9649/(T+273)]×t<1.2×10−3 となる条件で保持>
ここで、P=exp[−9649/(T+273)]×tは、杉本孝一ら:材料組織学[朝倉書店出版]、p106の 式(4.18)に記載の析出物の粒成長モデルを元に変数の設定および簡略化を行った、析出物としてのセメンタイト粒子のサイズを規定するパラメータである。
2段目の焼戻し加熱温度Tを400℃未満とすると、セメンタイト粒子を十分なサイズに成長させるために必要な保持時間tが長くなりすぎる。
P=exp[−9649/(T+273)]×t≦3.2×10−4では、セメンタイト粒子が十分に成長せず、適度に微細なセメンタイト粒子の数が確保できないため、伸びが確保できなくなる。
P=exp[−9649/(T+273)]×t≧1.2×10−3では、セメンタイト粒子が粗大化し、0.1μm以上のセメンタイト粒子の数が多くなりすぎるため、伸びフランジ性が確保できなくなる。
[必須組織規定に加えて上記(b)の組織規定をも満足する鋼板の焼戻し条件]
必須組織規定に加えて上記(b)の組織規定をも満足する鋼板の焼戻し条件としては、上記[必須組織規定のみを満足する鋼板の焼戻し条件]を満たしつつ、以下の条件をも満たすことが推奨される。
すなわち、上記焼鈍冷却後の温度から焼戻し加熱温度:550〜650℃まで加熱し、同温度範囲にて、焼戻し保持時間:1〜20s保持した後、冷却すればよい。
焼戻し時において、転位密度は、加熱温度が高く、その保持時間が長くなるほど減少する。また、10nm以下の微細な析出物の存在密度は、その保持時間が長くなるほど増加する。
しかしながら、転位密度の減少速度および微細な析出物の存在密度の増加速度に対する温度依存性および時間依存性は大きく異なっており、転位密度の減少速度は時間依存性の方が強いのに対し、微細な析出物の存在密度の増加速度は温度依存性の方が強い。
このため、転位密度と微細な析出物の存在密度という2つのパラメータの値をともに適正範囲内とするには、転位密度を従来鋼より高めにするために、従来鋼に対する焼戻し保持時間よりも短い保持時間とし、このように短い保持時間の焼戻しでも微細な析出物の存在密度を20個/μm以上に増加させるために、従来鋼に対する焼戻し加熱温度よりも高い加熱温度で焼戻しを行うことが有効である。
ただし、650℃を超える温度で焼戻しを行うと短時間処理でも転位密度が急速に減少して不足する。また、30sを超えて長時間保持すると転位密度が減少しすぎて不足し、やはり降伏強度が得られなくなる。一方、550℃を下回る温度、または、3s未満の保持時間で焼戻しを行うと、微細な析出物が十分に増加せず、耐水素脆化特性が不足する。
下記表1に示す成分の鋼を溶製し、厚さ120mmのインゴットを作成した。
これを熱間圧延で厚さ25mmにした後、再度、熱間圧延で厚さ3mmとした。これを酸洗した後、厚さ1.2mmに冷間圧延して供試材とし、表2〜4に示す条件にて熱処理を施した。
上記熱処理後の各鋼板について、上記[発明を実施するための最良の形態]の項で説明した測定方法により組織の定量化を行った。具体的には、表2〜4に示す各熱処理条件で熱処理した全鋼板について、マルテンサイトの面積率、ならびに、析出物のサイズおよびその存在数(存在密度)を測定した。そして、表3に示す熱処理No.a−1〜e−1の条件で熱処理した鋼板についてのみ、さらにセメンタイト粒子のサイズおよびその存在数(存在密度)を測定した。また、表4に示す熱処理No.a−2〜d−2の条件で熱処理した鋼板についてのみ、さらに転位密度を測定した。
また、上記各鋼板について、機械的特性を評価するため、引張強度TS、伸びEl、伸びフランジ性λを測定し、さらに、耐水素脆化特性を評価するため、水素脆化危険度指数を測定した。
なお、引張強度TSと伸びElは、圧延方向と直角方向に長軸をとってJIS Z 2201に記載の5号試験片を作成し、JIS Z 2241に従って測定を行った。
また、伸びフランジ性λは、鉄連規格JFST1001に則り、穴拡げ試験を実施して穴拡げ率の測定を行い、これを伸びフランジ性とした。
水素脆化危険度指数は、板厚1 .2mmの平板試験片を用いて、ひずみ速度が1×1 0−4/sの低ひずみ速度引張試験(SSRT)を行い、下記の定義式により水素脆化危険度指数を算出した。
水素脆化危険度指数(%)=100×(1−E/E
ここで、Eは、実質的に鋼中に水素を含まない状態の試験片の破断時の伸びを示し、Eは、硫酸中で電気化学的に水素をチャージさせた鋼材(試験片)の破断時の伸びを示している。なお、上記水素チャージは、鋼材(試験片)をH SO(0.5mol/L)とKSCN(0.01mol/L)の混合溶液中に浸漬し、室温かつ定電流(100A/m)の条件で行った。
上記水素脆化危険度指数は、15%を超えると使用中に水素脆化を起こす危険があるので、本発明では、15%以下を耐水素脆化特性に優れると評価した。
上記機械的特性および耐水素脆化特性の測定結果を表5〜7に示す。
まず、表5に示すように、本発明の必須構成要件(上記成分組成規定および上記必須組織規定)を充足する発明鋼(鋼No.2〜4、6、7、10、11、14〜16、21〜25、30)は、いずれも、引張強度TSが980MPa以上、伸びフランジ性(穴広げ率)λが70%以上で、かつ、水素脆化危険度指数が15%以下を満足する、加工性と耐水素脆化特性とを兼備した高強度冷延鋼板が得られた。
これに対して、本発明の必須構成要件(上記成分組成規定および上記必須組織規定)のうち少なくとも一つを欠く比較鋼(鋼No.1、5、8、9、12、13、17、20、26〜29、31、32)は、上記機械的特性と耐水素脆化特性のうちいずれかの特性が劣っている(なお、鋼No.18、19は、いずれの特性も満足するものであるが、成分組成[PまたはS]が本発明の規定範囲を外れるため、比較鋼とした。)。
例えば、鋼No.1は、円相当直径1〜6nmの微細な析出物の存在数(存在密度)が不足するため、引張強度と伸びフランジ性には優れているものの、耐水素化脆化特性が劣っている。
また、鋼No.5は、V含有量が高すぎることにより、円相当直径20nm以上の粗大な析出物の数が過大になるため、引張強度と耐水素化脆化特性には優れているものの、伸びフランジ性が劣っている。
また、鋼No.8は、Si含有量が高すぎることにより、マルテンサイト面積率が不足するため、耐水素化脆化特性には優れているものの、引張強度と伸びフランジ性が劣っている。
また、鋼No.9は、C含有量が低すぎることにより、マルテンサイト面積率が不足するため、耐水素化脆化特性には優れているものの、引張強度と伸びフランジ性が劣っている。
また、鋼No.12は、C含有量が高すぎることにより、20nm以上の粗大な析出物の数が過大になるため、引張強度と耐水素化脆化特性には優れているものの、伸びフランジ性が劣っている。
また、鋼No.13は、Mn含有量が低すぎることにより、マルテンサイト面積率が不足するため、耐水素化脆化特性には優れているものの、引張強度と伸びフランジ性が劣っている。
また、鋼No.17は、Mn含有量が高すぎることにより、残留オーステナイトが残存するため、引張強度には優れているものの、伸びフランジ性と耐水素化脆化特性が劣っている。
また、鋼No.20は、Al含有量が高すぎるため、耐水素化脆化特性には優れているものの、引張強度と伸びフランジ性が劣っている。
また、鋼No.26〜29、31、32は、焼鈍条件または焼戻し条件が推奨範囲を外れていることにより、本発明の組織を規定する要件のうち少なくとも一つを満たさず、いずれかの特性が劣っている。
つぎに、表6に示すように、本発明の必須構成要件(上記成分組成規定および上記必須組織規定)に加え、上記推奨組織規定(a)をも充足する推奨鋼(鋼No.34、40、42、44、46)は、いずれも、引張強度TSが980MPa以上、伸びElが10%以上、伸びフランジ性(穴広げ率)λが100%以上で、かつ、水素脆化危険度指数が15%以下を満足し、上記発明鋼よりもさらに加工性に優れた高強度冷延鋼板が得られることがわかった。
また、表7に示すように、本発明の上記必須構成要件(上記成分組成規定および上記必須組織規定)に加え、上記推奨構成要件(b)をも充足する推奨鋼(鋼No.48、53、55、57)は、いずれも、降伏強度が900MPa以上、引張強度TSが980MPa以上、伸びElが10%以上、伸びフランジ性(穴広げ率)λが90%以上で、かつ、水素脆化危険度指数が15%以下を満足し、上記発明鋼よりもさらに加工性に優れるとともに、衝突安全性にも優れた高強度冷延鋼板が得られることがわかった。

Claims (6)

  1. 質量%で(以下、化学成分について同じ。)、
    C:0.03〜0.30%、
    Si:3.0%以下(0%を含む)、
    Mn:0.1%超2.8%以下、
    P:0.1%以下、
    S:0.005%以下、
    N:0.01%以下、
    Al:0.01〜0.50%
    V:0.001〜1.00%
    を含み、残部が鉄および不可避的不純物からなる成分組成を有し、
    焼戻しマルテンサイトが面積率で50%以上(100%を含む)を含み、残部がフェライトからなる組織を有し、
    前記焼戻しマルテンサイト中における析出物の分布状態が、
    円相当直径1〜10nmの析出物は、前記焼戻しマルテンサイト1μm当たり20個以上で、
    円相当直径20nm以上のVを含む析出物は、前記焼戻しマルテンサイト1μm当たり10個以下である
    ことを特徴とする耐水素脆化特性および加工性に優れた高強度冷延鋼板。
  2. 成分組成が、更に、
    Cr:0.01〜1.0%、
    Mo:0.01〜1.0%、
    Cu:0.05〜1.0%、
    Ni:0.05〜1.0%
    の1種または2種以上
    を含むものである請求項1に記載の耐水素脆化特性および加工性に優れた高強度冷延鋼板。
  3. 成分組成が、更に、
    B:0.0001〜0.0050%
    を含むものである請求項1または2に記載の耐水素脆化特性および加工性に優れた高強度冷延鋼板。
  4. 更に、
    Ca:0.0005〜0.01%、
    Mg:0.0005〜0.01%、
    REM:0.0005〜0.01%
    の1種または2種以上
    を含むものである請求項1〜3のいずれか1項に記載の耐水素脆化特性および加工性に優れた高強度冷延鋼板。
  5. 前記焼戻しマルテンサイト中におけるセメンタイト粒子の分布状態が、
    円相当直径0.02μm以上0.1μm未満のセメンタイト粒子は、前記焼戻しマルテンサイト1μm当たり10個以上で、
    円相当直径0.1μm以上のセメンタイト粒子は、前記焼戻しマルテンサイト1μm当たり3個以下である
    請求項1〜4のいずれか1項に記載の耐水素脆化特性および加工性に優れた高強度冷延鋼板。
  6. 全組織中の転位密度が1×1015〜1×1016−2であり、
    かつ、下記式1で定義されるSi等量が下記式2を満足する
    請求項1〜4のいずれか1項に記載の耐水素脆化特性および加工性に優れた高強度冷延鋼板。
    式1:[Si等量]=[%Si]+0.36[%Mn]+7.56[%P]+0.15[%Mo]+0.36[%Cr]+0.43[%Cu]
    式2:[Si等量]≧4.0− 5.3×10−8√[転位密度]
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