JP5080215B2 - 等方性と伸びおよび伸びフランジ性に優れた高強度冷延鋼板 - Google Patents
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質量%で(以下、化学成分について同じ。)、
C:0.03〜0.30%、
Si:0.1〜3.0%、
Mn:0.1〜5.0%、
P:0.1%以下、
S:0.005%以下、
N:0.01%以下、
Al:0.01〜1.00%
を含み、残部が鉄および不可避的不純物からなる成分組成を有し、
硬さ380Hv以下の焼戻しマルテンサイトが面積率で50%以上(100%を含む)を含み、残部がフェライトからなる組織を有し、
前記焼戻しマルテンサイト中におけるセメンタイト粒子の分布状態として、円相当直径0.1μm以上のセメンタイト粒子が、前記焼戻しマルテンサイト1μm2当たり3個以下であり、かつ、
前記フェライトの(110)結晶面の最大集積度が1.7以下である
ことを特徴とする等方性と伸びおよび伸びフランジ性に優れた高強度冷延鋼板である。
成分組成が、更に、
Cr:0.01〜1.0%、および/または
Mo:0.01〜1.0%
を含むものである請求項1に記載の等方性と伸びおよび伸びフランジ性に優れた高強度冷延鋼板である。
成分組成が、更に、
Cu:0.05〜1.0%、および/または
Ni:0.05〜1.0%
を含むものである請求項1または2に記載の等方性と伸びおよび伸びフランジ性に優れた高強度冷延鋼板である。
更に、
Ca:0.0005〜0.01%、および/または
Mg:0.0005〜0.01%
を含むものである請求項1〜3のいずれか1項に記載の等方性と伸びおよび伸びフランジ性に優れた高強度冷延鋼板である。
上述したとおり、本発明鋼板は、上記特許文献2、3と同様の二相組織(フェライト+焼戻しマルテンサイト)をベースとするものであるが、特に、該焼戻しマルテンサイトの硬さが380Hv以下に制御されているとともに、該焼戻しマルテンサイト中に析出したセメンタイト粒子の分布状態が制御されている点で、上記特許文献2、3の鋼板とは相違している。
焼戻しマルテンサイトの硬さを制限して該焼戻しマルテンサイトの変形能を高めることで、フェライトと該焼戻しマルテンサイトの界面への応力集中を抑制し、該界面での亀裂の発生を防止して伸びフランジ性を確保するとともに、焼戻しマルテンサイト主体の組織にすることで、該焼戻しマルテンサイトの硬さを低下させても高強度を確保できる。
焼戻しの際にマルテンサイト中に析出したセメンタイト粒子のサイズと存在数を制御することで、伸びフランジ性を向上させることができる。つまり、伸びフランジ変形時において破壊の起点となる粗大なセメンタイト粒子の数を減少させることで、伸びフランジ性を改善することができる。また、このように、セメンタイト粒子の粗大化を防止することに伴い、マルテンサイト中に適切なサイズ(例えば0.02μm以上0.1μm未満)のセメンタイトの粒子が分散するので、これらが転位の増殖源として働くことで加工硬化指数が大きくなり、伸びの向上にも寄与する。
フェライトの(110)結晶面(以下、「(110)α」と表記することあり。)が特定方向に過度に集積すると、該特定方向と(110)結晶面があまり集積していない方向とで、応力が加わった際に作用するすべり系が変化するため、引張荷重の方向によって伸びに差異が発生してしまう。したがって、フェライトの(110)結晶面の集積度を制御することで、機械的特性、特に伸び(El)の異方性を小さくすることができる。
ただし、HvF=102+209[%P]+27[%Si]+10[%Mn]+4[%Mo]−10[%Cr]+12[%Cu](藤田利夫ら訳:「鉄鋼材料の設計と理論」(丸善株式会社)、昭和56年9月30日発行、p.10の図2.1から、低Cフェライト鋼の降伏応力の変化に及ぼす各合金元素量の影響の度合い(直線の傾き)を読み取って定式化を行った。なお、Al、Nなどその他の元素はフェライトの硬さに影響しないとした。)
ここに、HvF:フェライトの硬さ、VF:フェライトの面積率(%)、VM:マルテンサイトの面積率(%)、[%X]:成分元素Xの含有量(質量%)である。
C:0.03〜0.30%
Cは、マルテンサイトの面積率およびマルテンサイト中に析出するセメンタイト量に影響し、強度および伸びフランジ性に影響する重要な元素である。0.03%未満では強度が確保できず、一方、0.30%超ではマルテンサイトの硬さが高くなりすぎて伸びフランジ性が確保できない。C含有量の範囲は、好ましくは0.05〜0.25%、さらに好ましくは0.07〜0.20%である。
Siは、焼戻し時におけるセメンタイト粒子の粗大化を抑制する効果を有し、粗大なセメンタイト粒子の生成を防止することで、伸びフランジ性の両立に寄与する有用な元素である。0.10%未満では焼戻し中にセメンタイト粒子が粗大化するため、伸びフランジ性が確保できず、一方、3.0%超では加熱時におけるオーステナイトの形成を阻害するため、マルテンサイトの面積率を確保できず、やはり伸びフランジ性を確保できない。Si含有量の範囲は、好ましくは0.30〜2.5%、さらに好ましくは0.50〜2.0%である。
Mnは、上記Siと同様、焼戻し時におけるセメンタイトの粗大化を抑制する効果を有し、粗大なセメンタイト粒子の生成を防止することで、伸びフランジ性の向上に寄与するとともに、焼入れ性を確保するのに有用な元素である。0.1%未満では焼戻し中にセメンタイト粒子が粗大化するため、伸びフランジ性を確保できず、一方、5.0%超とすると焼入れ時(焼鈍加熱後の冷却時)にオーステナイトが残存し、伸びフランジ性を低下させる。Mn含有量の範囲は、好ましくは0.30〜2.5%、さらに好ましくは0.50〜2.0%である。
Pは不純物元素として不可避的に存在し、固溶強化により強度の上昇に寄与するが、 旧オーステナイト粒界に偏析し、粒界を脆化させることで伸びフランジ性を劣化させるので、0.1%以下とする。好ましくは0.05%以下、さらに好ましくは0.03%以下である。
Sも不純物元素として不可避的に存在し、MnS介在物を形成し、穴拡げ時に亀裂の起点となることで伸びフランジ性を低下させるので、0.005%以下とする。より好ましくは0.003%以下である。
Nも不純物元素として不可避的に存在し、歪時効により伸びと伸びフランジ性を低下させるので、低い方が好ましく、0.01%以下とする。
AlはNと結合してAlNを形成し、歪時効の発生に寄与する固溶Nを低減させることで伸びフランジ性の劣化を防止するとともに、固溶強化により強度向上に寄与する。0.01%未満では鋼中に固溶Nが残存するため、歪時効が起こり、伸びと伸びフランジ性を確保できず、一方、1.00%超では加熱時におけるオーステナイトの形成を阻害するため、マルテンサイトの面積率を確保できず、伸びフランジ性を確保できなくなる。
これらの元素は、セメンタイトの代わりに微細な炭化物として析出することで、伸びフランジ性の劣化を抑えつつ、析出強化量を高めるのに有用な元素である。各元素とも0.01%未満の添加では上記のような作用を有効に発揮しえず、一方、各元素とも1.0%を超える添加では析出強化が過剰となり、マルテンサイトの硬さが高くなりすぎ伸びフランジ性が低下してしまう。
これらの元素は、セメンタイトの成長を抑制することで、適度に微細なセメンタイトが得られやすくなり、伸びと伸びフランジ性のバランスを改善するのに有用な元素である。CuとNiでは0.05%未満、Bでは0.0002%未満の添加では上記のような作用を有効に発揮しえず、各元素とも0.05%未満の添加では上記のような作用を有効に発揮しえず、一方、各元素とも1.0%を超える添加では焼入れ時にオーステナイトが残存し、伸びフランジ性を低下させる。
これらの元素は、介在物を微細化し、破壊の起点を減少させることで、伸びフランジ性を向上させるのに有用な元素である。各元素とも0.0005%未満の添加では上記のような作用を有効に発揮しえず、一方、各元素とも0.01%を超える添加では逆に介在物が粗大化し、伸びフランジ性が低下する。
上記のような冷延鋼板を製造するには、まず、上記成分組成を有する鋼を溶製し、造塊または連続鋳造によりスラブとしてから熱間圧延を行う。熱間圧延条件としては、仕上げ圧延の終了温度をAr3点以上に設定し、適宜冷却を行った後、450〜700℃の範囲で巻き取る。熱間圧延終了後は酸洗してから冷間圧延を行うが、冷間圧延率は30%程度以上とするのがよい。
焼鈍条件としては、Ac3点以上に加熱し(必要により2回以上繰り返しAc3点以上に加熱してもよい)、十分にオーステナイト単相化を行ったのち、200℃以下に冷却する。その冷却方法は任意である。これにより、フェライトの(110)結晶面の特定方向への集積が抑制される。
再焼鈍条件としては、再焼鈍加熱温度:[(Ac1+Ac3)/2]〜1000℃に加熱し、再焼鈍保持時間:3600s以下保持した後、再焼鈍加熱温度から直接Ms点以下の温度まで 50℃/s以上の冷却速度で急冷するか、または、再焼鈍加熱温度から、再焼鈍加熱温度未満で600℃以上の温度(第1冷却終了温度)まで1℃/s以上の冷却速度(第1冷却速度)で徐冷した後、Ms点以下の温度(第2冷却終了温度)まで50℃/s以下の冷却速度(第2冷却速度)で急冷するのがよい。
再焼鈍加熱時に十分にオーステナイトに変態させ、その後の冷却時にオーステナイトから変態生成するマルテンサイトの面積率を50%以上確保するためである。
冷却中にオーステナイトからフェライトやベイナイト組織が形成されることを抑制し、マルテンサイト組織を得るためである。
面積率で50%未満のフェライト組織を形成させることにより、伸びフランジ性を確保したまま伸びの改善が図れるためである。
焼戻し条件としては、上記再焼鈍冷却後の温度から1段目の焼戻し加熱温度:325〜375℃まで、100〜325℃の間を5℃/s以上の平均加熱速度で加熱し、1段目の焼戻し保持時間:50s以上保持した後、さらに、2段目の焼戻し加熱温度T:400℃以上まで加熱し、2段目の焼戻し保持時間t(s)が、Pg=exp[−9649/(T+273)]×t<1.2×10−3、かつ、Pt=(T+273)[log(t)+17]となる条件で保持した後、冷却すればよい。なお、2段目の保持中に温度Tを変化させる場合は、Pgとして下記式(2)を用いればよい。
1段目の焼戻し加熱温度が325℃未満もしくは375℃超え、または、100〜325℃の間の平均加熱速度が5℃/s未満の場合は、マルテンサイト中にセメンタイト粒子の析出が不均一に起こるため、その後の2段目の加熱・保持中における成長により、粗大なセメンタイト粒子の割合が増加し、伸びフランジ性が得られなくなる。
ここで、Pg=exp[−9649/(T+273)]×tは、杉本孝一ら:材料組織学[朝倉書店出版]、p106の 式(4.18)に記載の、析出物の粒成長モデルを元に変数の設定および簡略化を行った、析出物としてのセメンタイト粒子のサイズを規定するパラメータである。
これを熱間圧延で厚さ25mmにした後、再度、熱間圧延で厚さ3.2mmとした。これを酸洗した後、厚さ1.6mmに冷間圧延して供試材とし、表2に示す条件にて熱処理を施した。
Claims (4)
- 質量%で(以下、化学成分について同じ。)、
C:0.03〜0.30%、
Si:0.1〜3.0%、
Mn:0.1〜5.0%、
P:0.1%以下、
S:0.005%以下、
N:0.01%以下、
Al:0.01〜1.00%
を含み、残部が鉄および不可避的不純物からなる成分組成を有し、
硬さ380Hv以下の焼戻しマルテンサイトが面積率で50%以上(100%を含む)を含み、残部がフェライトからなる組織を有し、
前記焼戻しマルテンサイト中におけるセメンタイト粒子の分布状態として、円相当直径0.1μm以上のセメンタイト粒子が、前記焼戻しマルテンサイト1μm2当たり3個以下であり、かつ、
前記フェライトの(110)結晶面の最大集積度が1.7以下である
ことを特徴とする等方性と伸びおよび伸びフランジ性に優れた高強度冷延鋼板。 - 成分組成が、更に、
Cr:0.01〜1.0%、および/または
Mo:0.01〜1.0%
を含むものである請求項1に記載の等方性と伸びおよび伸びフランジ性に優れた高強度冷延鋼板。 - 成分組成が、更に、
Cu:0.05〜1.0%、および/または
Ni:0.05〜1.0%
を含むものである請求項1または2に記載の等方性と伸びおよび伸びフランジ性に優れた高強度冷延鋼板。 - 更に、
Ca:0.0005〜0.01%、および/または
Mg:0.0005〜0.01%
を含むものである請求項1〜3のいずれか1項に記載の等方性と伸びおよび伸びフランジ性に優れた高強度冷延鋼板。
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