JP4324227B1 - 降伏応力と伸びと伸びフランジ性に優れた高強度冷延鋼板 - Google Patents
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Abstract
【課題】降伏応力と伸びと伸びフランジ性をいずれも高めた、衝突安全性に優れつつ、より成形性に優れた高強度冷延鋼板を提供する。
【解決手段】質量%で、C:0.03〜0.30%、Si:0.1〜3.0%、Mn:1.0〜5.0%、Cr:0.5%超、3.0%以下、P:0.1%以下、S:0.005%以下、N:0.01%以下、Al:0.01〜1.00%を含み、残部が鉄および不可避的不純物からなる成分組成を有し、焼戻しマルテンサイトを面積率で70%以上(100%を含む)含み、上記焼戻しマルテンサイト中のセメンタイトの面積率f(%)と該セメンタイトの平均円相当直径Dθ(μm)とが下記式1の関係を満足するとともに、示差走査型熱量計(DSC)で測定された、400℃から600℃の間に発生する熱量が1J/g以下であることを特徴とする降伏応力と伸びと伸びフランジ性に優れた高強度冷延鋼板。
式1:(0.9f-1/2-0.8)×Dθ≦6.5×10-1(ここに、f=[%C]/6.69である。)
【選択図】なし
Description
このため、伸び(全伸び;El)と伸びフランジ性(穴広げ率;λ)がともに高められた高強度鋼板の提供が切望されており、例えば引張強度980MPa級の鋼板に対しては全伸び10%以上で穴広げ率100%以上のものが要望されている。
質量%で(以下、化学成分について同じ。)、
C:0.03〜0.30%、
Si:0.1〜3.0%、
Mn:1.0〜5.0%、
Cr:0.5%超、3.0%以下
P:0.1%以下、
S:0.005%以下、
N:0.01%以下、
Al:0.01〜1.00%
を含み、残部が鉄および不可避的不純物からなる成分組成を有し、
焼戻しマルテンサイトが面積率で70%以上(100%を含む)を含み、残部がフェライトからなる組織を有し、
上記焼戻しマルテンサイト中のセメンタイトの面積率f(%)と該セメンタイトの平均円相当直径Dθ(μm)とが下記式1の関係を満足するとともに、
示差走査型熱量計(DSC)で測定された、400℃から600℃の間に発生する熱量が1J/g以下である
ことを特徴とする降伏応力と伸びと伸びフランジ性に優れた高強度冷延鋼板である。
式1:(0.9f−1/2−0.8)×Dθ≦6.5×10−1
ここに、f=[%C]/6.69である。
成分組成が、更に、
Mo:0.01〜1.0%、
Cu:0.05〜1.0%、
Ni:0.05〜1.0%、
B:0.0002〜0.0050%、
の1種または2種以上を含むものである
請求項1に記載の降伏応力と伸びと伸びフランジ性に優れた高強度冷延鋼板である。
成分組成が、更に、
Ca:0.0005〜0.01%、
Mg:0.0005〜0.01%、
REM:0.0005〜0.01%、
の1種または2種以上を含むものである
請求項1または2に記載の降伏応力と伸びと伸びフランジ性に優れた高強度冷延鋼板である。
上述したとおり、本発明鋼板は、焼戻しマルテンサイト単相、または、上記特許文献2、3と同様の二相組織(フェライト+焼戻しマルテンサイト)をベースとするものであるが、特に、該焼戻しマルテンサイト中におけるセメンタイトの面積率とそのサイズ、および、該焼戻しマルテンサイト中の固溶炭素量が制御されている点で、上記特許文献2、3の鋼板とは相違している。
焼戻しマルテンサイト主体の組織にすることで、軟質相であるフェライトへの歪集中を抑制し、応力付与時に先に軟質なフェライトが降伏することを防止して降伏強度を向上させることができる。
焼戻しマルテンサイトの降伏強度は、固溶強化、転位強化、ブロック界面による粒界強化、および、セメンタイトによる析出強化といった4つの強化機構によって決定される。この4つの強化機構のうち、セメンタイトによる析出強化は転位の移動を強く止めることから降伏強度向上への寄与が非常に大きい。ここで、析出強化量はセメンタイトの平均粒子間隔に反比例することが知られている。そして、平均粒子間距離はセメンタイト面積率f(%)とセメンタイトの平均円相当直径Dθ(μm)とで決定され、(0.9f−1/2−0.8)×Dθで表される(高木ら:鉄鋼の析出メタラジー最前線、日本鉄鋼協会編、(2001)p.69参照)。
ここに、f=[%C]/6.69である。
マルテンサイトは焼入れ時に固溶炭素を多量に含有する。これを焼戻すことで固溶炭素が微細なセメンタイトとして析出し、析出強化により降伏強度の上昇に寄与する。一方、固溶炭素自身も固溶強化により降伏強度の上昇に強く寄与する。しかし、炭素による固溶強化と他の強化手段とを比較検討したところ、炭素による固溶強化は転位の移動能を大きく低下させ、延性(特に伸び)を劣化させるため、成形性が求められる成形用薄鋼板ではマルテンサイト中の固溶炭素を極力低下させ、他の強化手段(特に析出強化)により降伏強度を確保した方がよいことが明らかになった。
C:0.03〜0.30%
Cは、マルテンサイトの面積率、マルテンサイト中のセメンタイト量および固溶炭素量に影響し、降伏強度および伸びフランジ性に影響する重要な元素である。0.03%未満ではマルテンサイト中のセメンタイト量が不足して降伏強度が確保できず、一方、0.30%超では薄鋼板に要求される溶接性が確保できない。C含有量の範囲は、好ましくは0.05〜0.25%、さらに好ましくは0.07〜0.20%である。
Siは、固溶強化元素として、伸びを劣化させずに降伏強度を高めるとともに、焼戻し時における、マルテンサイト中に存在するセメンタイト粒子の粗大化を抑制する作用も有し、このような粗大なセメンタイト粒子の生成を防止することで、伸びフランジ性を向上させる効果も有する有用な元素である。0.10%未満では上記のような作用を有効に発揮しえず、一方、3.0%超では加熱時におけるオーステナイトの形成を阻害するため、マルテンサイトの面積率を確保できず、降伏強度と伸びフランジ性が確保できない。Si含有量の範囲は、好ましくは0.30〜2.5%、さらに好ましくは0.50〜2.0%である。
Mnは、上記Siと同様、固溶強化元素として、伸びを劣化させずに降伏強度を高めるとともに、焼戻し時におけるセメンタイトの粗大化を抑制する作用も有し、粗大なセメンタイト粒子の生成を防止して伸びフランジ性を向上させる効果も有するのに有用な元素である。また、焼入れ性を高めてマルテンサイト面積率の確保に寄与することで、降伏強度と伸びフランジ性を高める効果も有する。1.0%未満では、固溶強化作用およびセメンタイト粗大化抑制作用を有効に発揮しえないうえ、焼入れのための急速冷却時にベイナイトが形成され、マルテンサイト面積率が不足するため、降伏強度と伸びフランジ性が確保できない。一方、5.0%超とすると焼入れ時(焼鈍加熱後の冷却時)にオーステナイトが残存し、伸びフランジ性を低下させる。Mn含有量の範囲は、好ましくは1.2〜4.0%、さらに好ましくは1.5〜3.0%である。
鋼板の延性を確保すべく、鋼板中に固溶炭素をできるだけ残存させないようにするには、高温で焼戻しを行う必要があるが、高温で焼戻しを行うと固溶炭素から析出したセメンタイトが粗大化し、伸びフランジ性が低下するとともに、析出物の平均自由工程の拡大により降伏強度も低下する問題がある。
Pは不純物元素として不可避的に存在し、固溶強化により強度の上昇に寄与するが、旧オーステナイト粒界に偏析し、粒界を脆化させることで伸びフランジ性を劣化させるので、0.1%以下とする。好ましくは0.05%以下、さらに好ましくは0.03%以下である。
Sも不純物元素として不可避的に存在し、MnS介在物を形成し、穴拡げ時に亀裂の起点となることで伸びフランジ性を低下させるので、0.005%以下とする。より好ましくは0.003%以下である。なお、Sの下限は上記観点からはできるだけ低くするのが望ましいが、工業的には0.0003%以下にすることは困難である。
Nも不純物元素として不可避的に存在し、歪時効により伸びと伸びフランジ性を低下させるので、低い方が好ましく、0.01%以下とする。
AlはNと結合してAlNを形成し、歪時効の発生に寄与する固溶Nを低減させることで伸びフランジ性の劣化を防止するとともに、固溶強化により強度向上に寄与する。0.01%未満では鋼中に固溶Nが残存するため、歪時効が起こり、伸びと伸びフランジ性を確保できず、一方、1.00%超では加熱時におけるオーステナイトの形成を阻害するため、マルテンサイトの面積率を確保できず、伸びフランジ性を確保できなくなる。
Cu:0.05〜1.0%、
Ni:0.05〜1.0%、
B:0.0002〜0.0030%、
の1種または2種以上
これらの元素は、焼入れ性を高めてマルテンサイト面積率の確保に寄与することで、降伏強度と伸びフランジ性を高めるのに有用な元素である。各元素とも、上記各下限値未満の添加では上記のような作用を有効に発揮しえず、一方、上記各上限値を超える添加では焼入れ時にオーステナイトが残存し、伸びフランジ性を低下させる。
Mg:0.0005〜0.01%、
REM:0.0005〜0.01%、
の1種または2種以上
これらの元素は、介在物を微細化し、破壊の起点を減少させることで、伸びフランジ性を向上させるのに有用な元素である。各元素とも0.0005%未満の添加では上記のような作用を有効に発揮しえず、一方、各元素とも0.01%を超える添加では逆に介在物が粗大化し、伸びフランジ性が低下する。
上記のような冷延鋼板を製造するには、まず、上記成分組成を有する鋼を溶製し、造塊または連続鋳造によりスラブとしてから熱間圧延を行なう。熱間圧延条件としては、仕上げ圧延の終了温度をAr3点以上に設定し、適宜冷却を行った後、450〜700℃の範囲で巻き取る。熱間圧延終了後は酸洗してから冷間圧延を行うが、冷間圧延率は30%程度以上とするのがよい。
焼鈍条件としては、焼鈍加熱温度:[0.3×Ac1+0.7×Ac3]〜1000℃に加熱し、焼鈍保持時間:3600s以下保持した後、焼鈍加熱温度から直接Ms点以下の温度まで 50℃/s以上の冷却速度で急冷するか、または、焼鈍加熱温度から、焼鈍加熱温度未満で620℃以上の温度(第1冷却終了温度)まで1℃/s以上の冷却速度(第1冷却速度)で徐冷した後、Ms点以下の温度(第2冷却終了温度)まで50℃/s以下の冷却速度(第2冷却速度)で急冷するのがよい。
焼鈍加熱時に十分にオーステナイトに変態させ、その後の冷却時にオーステナイトから変態生成するマルテンサイトの面積率を70%以上確保するためである。
冷却中にオーステナイトからフェライトやベイナイト組織が形成されることを抑制し、マルテンサイト組織を得るためである。
面積率で30%未満のフェライト組織を形成させることにより、伸びフランジ性を確保したまま伸びの改善が図れるためである。
焼戻し条件としては、上記焼鈍冷却後の温度から加熱温度T:520℃以上まで加熱し、その温度Tにて、保持時間t(s)が、8×10−4<P=exp[−9649/(T+273)]×t<2.0×10−3となる条件で保持した後、冷却すればよい。なお、保持中に温度Tを変化させる場合は、下記式(2)を用いればよい。
ここで、P=exp[−9649/(T+273)]×tは、杉本孝一ら:材料組織学[朝倉書店出版]、p106の 式(4.18)に記載の析出物の粒成長モデルを元に変数の設定および簡略化を行った、析出物としてのセメンタイト粒子のサイズを規定するパラメータである。
これを熱間圧延で厚さ25mmにした後、再度、熱間圧延で厚さ3.2mmとした。これを酸洗した後、厚さ1.6mmに冷間圧延して供試材とし、表2に示す条件にて熱処理を施した。
Claims (3)
- 質量%で(以下、化学成分について同じ。)、
C:0.03〜0.30%、
Si:0.1〜3.0%、
Mn:1.0〜5.0%、
Cr:0.5%超、3.0%以下
P:0.1%以下、
S:0.005%以下、
N:0.01%以下、
Al:0.01〜1.00%
を含み、残部が鉄および不可避的不純物からなる成分組成を有し、
焼戻しマルテンサイトが面積率で70%以上(100%を含む)を含み、残部がフェライトからなる組織を有し、
上記焼戻しマルテンサイト中のセメンタイトの面積率f(%)と該セメンタイトの平均円相当直径Dθ(μm)とが下記式1の関係を満足するとともに、
示差走査型熱量計(DSC)で測定された、400℃から600℃の間に発生する熱量が1J/g以下である
ことを特徴とする降伏応力と伸びと伸びフランジ性に優れた高強度冷延鋼板。
式1:(0.9f−1/2−0.8)×Dθ≦6.5×10−1
ここに、f=[%C]/6.69である。 - 成分組成が、更に、
Mo:0.01〜1.0%、
Cu:0.05〜1.0%、
Ni:0.05〜1.0%、
B:0.0002〜0.0050%、
の1種または2種以上を含むものである
請求項1に記載の降伏応力と伸びと伸びフランジ性に優れた高強度冷延鋼板。 - 成分組成が、更に、
Ca:0.0005〜0.01%、
Mg:0.0005〜0.01%、
REM:0.0005〜0.01%、
の1種または2種以上を含むものである
請求項1または2に記載の降伏応力と伸びと伸びフランジ性に優れた高強度冷延鋼板。
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