JP5860345B2 - 機械的特性ばらつきの小さい高強度冷延鋼板およびその製造方法 - Google Patents
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例えば、特許文献1には、A=Si+9×Alで定義するAが6.0≦A≦20.0を満たした、フェライトとマルテンサイトの二相組織鋼とし、この鋼板を製造するに際しては、再結晶焼鈍・焼戻処理を、Ac1以上Ac3以下の温度で10s以上保持し、500〜750℃までを20℃/s以下の冷却速度で緩冷却し、その後、100℃以下までを100℃/s以上の冷却速度で急冷し、300〜500℃で焼戻しを行うことで、鋼材のA3点を上昇させることにより、緩冷却終了時点の温度である急冷開始温度が変動したときの上記二相組織の安定性を高めて、機械的特性のばらつきを低減する方法が開示されている。
また、特許文献2には、予め鋼板の板厚、炭素含有量、リン含有量、焼入れ開始温度、焼入れ停止温度および焼入れ後の焼戻し温度と引張強度の関係を求めておき、対象鋼板の板厚、炭素含有量、リン含有量、焼入れ停止温度および焼入れ後の焼戻し温度を考慮して、目標引張強度に応じて焼入れ開始温度を算出し、求めた焼入れ開始温度で焼入れすることで、強度のばらつきを低減する方法が開示されている。
また、特許文献3には、3%以上の残留オーステナイトを含む組織を有する鋼板を製造するにあたり、熱延鋼板を冷間圧延した後の焼鈍処理において、800℃超Ac3点未満で30秒〜5分間均熱した後、450〜550℃の温度範囲まで一次冷却を行い、次いで450〜400℃までの一次冷却速度に比べて小さい冷却速度で二次冷却を行った後、さらに450〜400℃で1分間以上保持することで、板幅方向における伸び特性のばらつきを改善する方法が開示されている。
また、特許文献4には、平均結晶粒径10μm以下のフェライト相と体積分率30〜90%のマルテンサイト相を含み、板厚表層硬度の板厚中心硬度に対する比が0.6〜1であり、めっき層と鋼板の界面から鋼板側内部へ進展している亀裂および凹部の最大深さが0〜20μmであり、亀裂と凹部以外の平滑部面積率が60%〜100%である組織とすることで、高強度溶融亜鉛めっき鋼板の絞り成形性を改善する方法が開示されている。
質量%で(以下、化学成分について同じ。)、
C:0.05〜0.30%、
Si:3.0%以下(0%を含まない)、
Mn:0.1〜5.0%、
P:0.1%以下(0%を含まない)、
S:0.02%以下(0%を含まない)、
Al:0.01〜1.0%、
N:0.01%以下(0%を含まない)
を各々含み、残部が鉄および不可避的不純物からなる成分組成を有し、
軟質第1相であるフェライトを面積率で20〜50%含み、
残部が硬質第2相である、焼戻しマルテンサイトおよび/または焼戻しベイナイトからなる組織を有し、
鋼板表面から100μm深さまでの鋼板表層部のフェライトの面積率Vαsと、t/4〜3t/4(tは板厚)の中心部のフェライトの面積率Vαcとの差ΔVα=Vαs−Vαcが10%未満であるとともに、前記鋼板表層部の硬さHvsと前記中心部の硬さHvcとの比RHv=Hvs/Hvcが0.75〜1.0である
ことを特徴とする機械的特性ばらつきの小さい高強度冷延鋼板である。
成分組成が、更に、
Cr:0.01〜1.0%
を含むものである請求項1に記載の機械的特性ばらつきの小さい高強度冷延鋼板である。
成分組成が、更に、
Mo:0.01〜1.0%、
Cu:0.05〜1.0%、
Ni:0.05〜1.0%の1種または2種以上
を含むものである請求項1または2に記載の機械的特性ばらつきの小さい高強度冷延鋼板である。
成分組成が、更に、
Ca:0.0001〜0.01%、
Mg:0.0001〜0.01%、
Li:0.0001〜0.01%、
REM:0.0001〜0.01%の1種または2種以上
を含むものである請求項1〜3のいずれか1項に記載の機械的特性ばらつきの小さい高強度冷延鋼板である。
請求項1〜4のいずれか1項に記載の高強度冷延鋼板を製造する方法であって、
請求項1〜4のいずれか1項に示す成分組成を有する鋼材を、下記(1)〜(4)に示す各条件で、熱間圧延した後、冷間圧延し、その後、焼鈍し、さらに焼戻しすることを特徴とする機械的特性ばらつきの小さい高強度冷延鋼板の製造方法である。
(1) 熱間圧延条件
仕上げ圧延終了温度:Ar3点以上
巻取温度:600℃超750℃以下
(2) 冷間圧延条件
冷間圧延率:50%超80%以下
(3) 焼鈍条件
Ac1以上(Ac1+Ac3)/2未満の焼鈍温度にて、3600s以下の焼鈍保持時間だけ保持した後、焼鈍温度から、730℃以下500℃以上の第1冷却終了温度までを1℃/s以上50℃/s未満の第1冷却速度で徐冷した後、Ms点以下の第2冷却終了温度までを50℃/s以上の第2冷却速度で急冷する。
(4) 焼戻し条件
焼戻し温度:300〜500℃
焼戻し保持時間:300℃〜焼戻し温度の温度範囲内に60〜1200s
上述したとおり、発明鋼板は、軟質第1相であるフェライトと、硬質第2相である焼戻しマルテンサイト等からなる複相組織をベースとするものであるが、特に、鋼板表面部と中心部の、フェライト分率の差と硬さ比が制御されている点を特徴とする。
フェライト−焼戻しマルテンサイト等の複相組織鋼では、変形は主として変形能の高いフェライトが受け持つ。そのため、フェライト−焼戻しマルテンサイト等の複相組織鋼の伸びは主としてフェライトの面積率で決定される。
鋼板表層部と内部のフェライト分率をできるだけ揃えることで、下記鋼板表層部と内部の硬さを揃えることと相俟って、マクロ的に鋼板板厚方向の材質を均質にし、特性ばらつきを抑制するためである。上記効果を得るためには、鋼板表層部と中心部のフェライトの面積率の差ΔVαは10%未満(好ましくは8%以下、さらに好ましくは6%以下)とする必要がある。
ここで、鋼板表層部を鋼板表面から100μm深さまでの部分に限定したのは、一般的な製造方法で組織形態が特に変化しやすい領域であるからである。
鋼板表層部と中心部の硬さをできるだけ揃えることで、上記鋼板表層部と内部のフェライト分率を揃えることと相俟って、マクロ的に鋼板板厚方向の材質を均質にし、特性ばらつきを抑制するためである。上記効果を得るためには、硬さ比RHvは0.75以上(好ましくは0.77以上、さらに好ましくは0.79以上)とする必要がある。ただし、硬さ比RHvが1.0を超えると、例えば浸炭処理を施した場合のように表層部の方が内部より硬くなると、却って特性ばらつきが大きくなる。
まず、鋼板厚み全体における各相の面積率については、各供試鋼板を鏡面研磨し、3%ナイタール液で腐食して金属組織を顕出させた後、概略40μm×30μm領域5視野について倍率2000倍の走査型電子顕微鏡(SEM)像を観察し、点算法で1視野につき100点の測定を行って各フェライト粒の面積を求め、それらを合計してフェライトの面積を求めた。また、画像解析によってセメンタイトを含む領域を硬質第2相とし、残りの領域を、残留オーステナイト、マルテンサイト、および、残留オーステナイトとマルテンサイトの混合組織とした。そして、各領域の面積比率より各相の面積率を算出した。
また、中心部におけるフェライトの面積率については、t/4〜3t/4(tは板厚)の範囲において、上記〔鋼板厚み全体における各相の面積率の測定方法〕と同様にして、フェライトの面積率を求めた。
一方、鋼板表層部におけるフェライトの面積率については、鋼板表面から深さ30μmまでの範囲において、概略30μm×40μm領域5視野について上記〔鋼板厚み全体における各相の面積率の測定方法〕と同様にして、フェライトの面積率を求めた。
また、鋼板表層部および中心部における硬さについては、ビッカース硬さ試験機を用い荷重100gの条件にて、圧延方向に平行な板厚断面において、鋼板表層部は鋼板表面から0.05mm深さの位置で、中心部はt/4(t:板厚)の位置で、それぞれ、板厚方向に垂直な方向に5点の硬さを測定し、それら5点の測定値を算術平均して求めた。
C:0.05〜0.30%
Cは、硬質第2相の面積率、延いてはフェライトの面積率に影響し、強度、伸びおよび伸びフランジ性に影響する重要な元素である。0.05%未満では強度が確保できなくなる。一方、0.30%超では溶接性が劣化する。C含有量の範囲は、好ましくは0.10〜0.25%、さらに好ましくは0.14〜0.20%である。
Siは、焼戻し時におけるセメンタイト粒子の粗大化を抑制する効果を有し、伸びと伸びフランジ性の両立に寄与する有用な元素である。3.0%超では加熱時におけるオーステナイトの形成を阻害するため、硬質第2相の面積率を確保できず、伸びフランジ性を確保できない。Si含有量の範囲は、好ましくは0.50〜2.5%、さらに好ましくは1.0〜2.2%である。
Mnは、上記Siと同様、焼戻し時におけるセメンタイトの粗大化を抑制する効果を有することに加え、硬質第2相の変形能を高めることで、伸びと伸びフランジ性の両立に寄与する。また、焼入れ性を高めることで、硬質第2相が得られる製造条件の範囲を広げる効果もある。0.1%未満では上記効果が十分に発揮されないため、伸びと伸びフランジ性を両立できず、一方、5.0%超とすると逆変態温度が低くなりすぎ、再結晶ができなくなるため、強度と伸びのバランスが確保できなくなる。Mn含有量の範囲は、好ましくは0.5〜2.5%、さらに好ましくは1.2〜2.2%である。
Pは不純物元素として不可避的に存在し、固溶強化により強度の上昇に寄与するが、旧オーステナイト粒界に偏析し、粒界を脆化させることで伸びフランジ性を劣化させるので、0.1%以下とする。好ましくは0.05%以下、さらに好ましくは0.03%以下である。
Sも不純物元素として不可避的に存在し、MnS介在物を形成し、穴拡げ時に亀裂の起点となることで伸びフランジ性を低下させるので、0.02%以下とする。好ましくは0.018%以下、さらに好ましくは0.016%以下である。
Alは脱酸元素として添加され、介在物を微細化する効果を有する。また、Nと結合してAlNを形成し、歪時効の発生に寄与する固溶Nを低減させることで伸びや伸びフランジ性の劣化を防止する。0.01%未満では鋼中に固溶Nが残存するため、歪時効が起こり、伸びと伸びフランジ性を確保できず、一方、1.0%超では加熱時におけるオーステナイトの形成を阻害するため、硬質第2相の面積率を確保できず、伸びフランジ性を確保できなくなる。
Nも不純物元素として不可避的に存在し、歪時効により伸びと伸びフランジ性を低下させるので、低い方が好ましく、0.01%以下とする。
Crは、セメンタイトの成長を抑制することで、伸びフランジ性を改善できる有用な元素である。0.01%未満の添加では上記のような作用を有効に発揮しえず、一方、1.0%を超える添加では粗大なCr7C3が形成されるようになり、伸びフランジ性が劣化してしまう。
Cu:0.05〜1.0%、
Ni:0.05〜1.0%の1種または2種以上
これらの元素は、固溶強化により成形性を劣化させずに強度を改善するのに有用な元素である。各元素とも上記各下限値未満の添加では上記のような作用を有効に発揮しえず、一方、各元素とも1.0%を超える添加ではコストが高くなりすぎる。
Mg:0.0001〜0.01%、
Li:0.0001〜0.01%、
REM:0.0001〜0.01%の1種または2種以上
これらの元素は、介在物を微細化し、破壊の起点を減少させることで、伸びフランジ性を向上させるのに有用な元素である。各元素とも0.0001%未満の添加では上記のような作用を有効に発揮しえず、一方、各元素とも0.01%を超える添加では逆に介在物が粗大化し、伸びフランジ性が低下する。
上記のような冷延鋼板を製造するには、まず、上記成分組成を有する鋼を溶製し、造塊または連続鋳造によりスラブとしてから熱間圧延を行い、酸洗してから冷間圧延を行う。
熱間圧延条件としては、仕上げ圧延の終了温度をAr3点以上に設定し、適宜冷却を行った後、600超750℃以下の範囲で巻き取るのがよい。
巻取り温度を高めの600℃超(より好ましくは620℃以上、特に好ましくは640℃以上)にすることで、組織のサイズを全体的に大きく均一にすることができるとともに、フェライト+パーライト(α+P)の2相のみの組織とすることができる。ただし、巻取り温度を高くしすぎると、熱延板の組織サイズが大きくなりすぎるので、750℃以下(より好ましくは730℃以下、特に好ましくは710℃以下)とする。
冷間圧延条件としては、冷間圧延率(以下、「冷延率」ともいう。)を50%超80%以下の範囲とするのがよい。
冷延率を50%超(より好ましくは55%以上)とすることで、冷延時に強い加工を施すことで、表層部と内部に導入されるひずみ量をほぼ同等にすることができる。ただし、冷延率を高くしすぎると、冷延時の変形抵抗が高くなりすぎ、圧延速度が低下することによって生産性が極端に悪化するので、80%以下(より好ましくは75%以下)とする。
焼鈍条件としては、Ac1以上(Ac1+Ac3)/2未満の焼鈍温度にて、3600s以下の焼鈍保持時間だけ保持した後、焼鈍温度から、730℃以下500℃以上の第1冷却終了温度(徐冷終了温度)までを1℃/s以上50℃/s未満の第1冷却速度(徐冷速度)で徐冷した後、Ms点以下の第2冷却終了温度(急冷終了温度)までを50℃/s以上の第2冷却速度(急冷速度)で急冷するのがよい。
2相域の低温側で均熱することで、サイズの揃った比較的大きめのフェライトと微細オーステナイトからなる組織を形成させるためである。
肩落し冷却時に核生成するフェライトのサイズを上記2相域で生成したフェライトとほぼ同じサイズにするとともに、それらを合わせて面積率で20〜50%のフェライト組織を形成させることにより、伸びフランジ性を確保したまま伸びの改善が図れるためである。
冷却中にオーステナイトからフェライトが形成されることを抑制し、硬質第2相を得るためである。
焼戻し条件としては、上記焼鈍冷却後の温度から焼戻し温度:300〜500℃まで加熱し、300℃〜焼戻し温度の温度範囲内に焼戻し保持時間:60〜1200s滞在させた後、冷却すればよい。
式2:Ac3(℃)=910−203√[C]+44.7[Si]+31.5[Mo]−15.2[Ni]
ただし、[ ]は、各元素の含有量(質量%)を示す。
Claims (5)
- 質量%で(以下、化学成分について同じ。)、
C:0.05〜0.30%、
Si:3.0%以下(0%を含まない)、
Mn:0.1〜5.0%、
P:0.1%以下(0%を含まない)、
S:0.02%以下(0%を含まない)、
Al:0.01〜1.0%、
N:0.01%以下(0%を含まない)
を各々含み、残部が鉄および不可避的不純物からなる成分組成を有し、
軟質第1相であるフェライトを面積率で20〜50%含み、
残部が硬質第2相である、焼戻しマルテンサイトおよび/または焼戻しベイナイトからなる組織を有し、
鋼板表面から100μm深さまでの鋼板表層部のフェライトの面積率Vαsと、t/4〜3t/4(tは板厚)の中心部のフェライトの面積率Vαcとの差ΔVα=Vαs−Vαcが10%未満であるとともに、前記鋼板表層部の硬さHvsと前記中心部の硬さHvcとの比RHv=Hvs/Hvcが0.75〜1.0である
ことを特徴とする機械的特性ばらつきの小さい高強度冷延鋼板。 - 成分組成が、更に、
Cr:0.01〜1.0%
を含むものである請求項1に記載の機械的特性ばらつきの小さい高強度冷延鋼板。 - 成分組成が、更に、
Mo:0.01〜1.0%、
Cu:0.05〜1.0%、
Ni:0.05〜1.0%の1種または2種以上
を含むものである請求項1または2に記載の機械的特性ばらつきの小さい高強度冷延鋼板。 - 成分組成が、更に、
Ca:0.0001〜0.01%、
Mg:0.0001〜0.01%、
Li:0.0001〜0.01%、
REM:0.0001〜0.01%の1種または2種以上
を含むものである請求項1〜3のいずれか1項に記載の機械的特性ばらつきの小さい高強度冷延鋼板。 - 請求項1〜4のいずれか1項に記載の高強度冷延鋼板を製造する方法であって、
請求項1〜4のいずれか1項に示す成分組成を有する鋼材を、下記(1)〜(4)に示す各条件で、熱間圧延した後、冷間圧延し、その後、焼鈍し、さらに焼戻しすることを特徴とする機械的特性ばらつきの小さい高強度冷延鋼板の製造方法。
(1) 熱間圧延条件
仕上げ圧延終了温度:Ar3点以上
巻取温度:600℃超750℃以下
(2) 冷間圧延条件
冷間圧延率:50%超80%以下
(3) 焼鈍条件
Ac1以上(Ac1+Ac3)/2未満の焼鈍温度にて、3600s以下の焼鈍保持時間だけ保持した後、焼鈍温度から、730℃以下500℃以上の第1冷却終了温度までを1℃/s以上50℃/s未満の第1冷却速度で徐冷した後、Ms点以下の第2冷却終了温度までを50℃/s以上の第2冷却速度で急冷する。
(4) 焼戻し条件
焼戻し温度:300〜500℃
焼戻し保持時間:300℃〜焼戻し温度の温度範囲内に60〜1200s
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