JP5878829B2 - 曲げ性に優れた高強度冷延鋼板およびその製造方法 - Google Patents
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例えば、特許文献1には、C:0.03〜0.2%、Si:0.05〜2%以下、Mn:0.5〜3.0%、P:0.1%以下、S:0.01%以下、SolAl:0.01〜0.1%、N:0.005%以下を含有し、残部Fe及び不可避不純物からなり、鋼板表層にフェライト体積率90%以上で厚さが10〜100μmの軟質層を有し、中心部の組織は焼戻しマルテンサイト体積率が30%以上で残部はフェライト相である超高強度冷延鋼板が開示されている。
また、特許文献2には、表層の厚さが1nm〜300μmで、該表層がフェライトを主体とした脱炭層であり、内層鋼の化学成分が質量%でC:0.1〜0.8%、Mn:0.5〜3%を含有し、引張強さが980N/mm2以上であることを特徴とする高強度自動車部材が開示されている。
質量%で(以下、化学成分について同じ。)、
C:0.05〜0.30%、
Si:3.0%以下(0%を含まない)、
Mn:0.1〜5.0%、
P:0.1%以下(0%を含まない)、
S:0.02%以下(0%を含まない)、
Al:0.01〜1.0%、
N:0.01%以下(0%を含まない)
を各々含み、残部が鉄および不可避的不純物からなる成分組成を有し、
軟質第1相であるフェライトを面積率で20〜50%含み、
残部が硬質第2相である、焼戻しマルテンサイトおよび/または焼戻しベイナイトからなる組織を有し、
鋼板表面から100μm深さまでの鋼板表層部のフェライトの面積率Vαsと、t/4〜3t/4(tは板厚)の中心部のフェライトの面積率Vαcとの差ΔVα=Vαs−Vαcが10〜50%であるとともに、前記鋼板表層部のフェライトの平均粒径が10μm以下である
ことを特徴とする曲げ性に優れた高強度冷延鋼板である。
成分組成が、更に、
Cr:0.01〜1.0%
を含むものである請求項1に記載の曲げ性に優れた高強度冷延鋼板である。
成分組成が、更に、
Mo:0.01〜1.0%、
Cu:0.05〜1.0%、
Ni:0.05〜1.0%の1種または2種以上
を含むものである請求項1または2に記載の曲げ性に優れた高強度冷延鋼板である。
成分組成が、更に、
Ca:0.0001〜0.01%、
Mg:0.0001〜0.01%、
Li:0.0001〜0.01%、
REM:0.0001〜0.01%の1種または2種以上
を含むものである請求項1〜3のいずれか1項に記載の曲げ性に優れた高強度冷延鋼板である。
請求項1〜4のいずれか1項に記載の高強度冷延鋼板を製造する方法であって、
請求項1〜4のいずれか1項に示す成分組成を有する鋼材を、下記(1)〜(4)に示す各条件で、熱間圧延した後、冷間圧延し、その後、焼鈍し、さらに焼戻しすることを特徴とする曲げ性に優れた高強度冷延鋼板の製造方法である。
(1) 熱間圧延条件
仕上げ圧延終了温度:Ar3点以上
巻取温度:600〜750℃
(2) 冷間圧延条件
冷間圧延率:20〜50%
(3) 焼鈍条件
(Ac1+Ac3)/2〜Ac3の焼鈍温度にて、60s以上3600s以下の焼鈍保持時間だけ保持した後、焼鈍温度から、730℃以下500℃以上の第1冷却終了温度までを1℃/s以上50℃/s未満の第1冷却速度で徐冷した後、Ms点以下の第2冷却終了温度までを50℃/s以上の第2冷却速度で急冷する。
(4) 焼戻し条件
焼戻し温度:300〜500℃
焼戻し保持時間:300℃〜焼戻し温度の温度範囲内に60〜1200s
上述したとおり、発明鋼板は、軟質第1相であるフェライトと、硬質第2相である焼戻しマルテンサイト等からなる複相組織をベースとするものであるが、特に、鋼板表面部と中心部のフェライト分率の差と、鋼板表面部のフェライト粒径が制御されている点を特徴とする。
フェライト−焼戻しマルテンサイト等の複相組織鋼では、変形は主として変形能の高いフェライトが受け持つ。そのため、フェライト−焼戻しマルテンサイト等の複相組織鋼の伸びは主としてフェライトの面積率で決定される。
鋼板表層部のフェライトの面積率を内部より高くすることで、曲げ加工時に表層部に掛る引張・圧縮応力を緩和して曲げ性を改善するためである。鋼板表層部と中心部のフェライトの面積率の差ΔVαが10%未満では、表層部に掛る引張・圧縮応力の緩和作用が十分に発揮されず、曲げ性の改善効果が得られない。一方、ΔVαが50%を超えると、フェライト結晶粒径が不均一になりやすく、曲げ性が劣化する。ΔVαの好ましい範囲は15〜45%、さらに好ましい範囲は20〜40%である。
ここで、鋼板表層部を鋼板表面から100μm深さまでの部分に限定したのは、100μmを超える深さまでフェライトを増加させると、強度の確保が困難になるためである。
鋼板表層部のフェライトを微細化することで、フェライト粒のサイズを均一にして曲げ性を改善するためである。鋼板表層部のフェライトの平均粒径が10μmを超えると、曲げ性が劣化する。上記フェライトの平均粒径の好ましい範囲は9μm以下、さらに好ましい範囲は8μm以下である。
まず、鋼板厚み全体における各相の面積率については、各供試鋼板を鏡面研磨し、3%ナイタール液で腐食して金属組織を顕出させた後、概略40μm×30μm領域5視野について倍率2000倍の走査型電子顕微鏡(SEM)像を観察し、点算法で1視野につき100点の測定を行って各フェライト粒の面積を求め、それらを合計してフェライトの面積を求めた。また、画像解析によってセメンタイトを含む領域を硬質第2相とし、残りの領域を、残留オーステナイト、マルテンサイト、および、残留オーステナイトとマルテンサイトの混合組織とした。そして、各領域の面積比率より各相の面積率を算出した。
また、中心部におけるフェライトの面積率については、t/4〜3t/4(tは板厚)の範囲において、上記〔鋼板厚み全体における各相の面積率の測定方法〕と同様にして、フェライトの面積率を求めた。
一方、鋼板表層部におけるフェライトの面積率については、鋼板表面から深さ30μmまでの範囲において、概略30μm×40μm領域5視野について上記〔鋼板厚み全体における各相の面積率の測定方法〕と同様にして、フェライトの面積率を求めた。
上記鋼板表層部におけるフェライトの面積率の測定の際に測定した各フェライト粒の面積から円相当直径を算出して求めた。
C:0.05〜0.30%
Cは、硬質第2相の面積率、延いてはフェライトの面積率に影響し、強度、伸びおよび伸びフランジ性に影響する重要な元素である。0.05%未満では強度が確保できなくなる。一方、0.30%超では溶接性が劣化する。C含有量の範囲は、好ましくは0.10〜0.25%、さらに好ましくは0.14〜0.20%である。
Siは、焼戻し時におけるセメンタイト粒子の粗大化を抑制する効果を有し、伸びと伸びフランジ性の両立に寄与する有用な元素である。3.0%超では加熱時におけるオーステナイトの形成を阻害するため、硬質第2相の面積率を確保できず、伸びフランジ性を確保できない。Si含有量の範囲は、好ましくは0.50〜2.5%、さらに好ましくは1.0〜2.2%である。
Mnは、上記Siと同様、焼戻し時におけるセメンタイトの粗大化を抑制する効果を有することに加え、硬質第2相の変形能を高めることで、伸びと伸びフランジ性の両立に寄与する。また、焼入れ性を高めることで、硬質第2相が得られる製造条件の範囲を広げる効果もある。0.1%未満では上記効果が十分に発揮されないため、伸びと伸びフランジ性を両立できず、一方、5.0%超とすると逆変態温度が低くなりすぎ、再結晶ができなくなるため、強度と伸びのバランスが確保できなくなる。Mn含有量の範囲は、好ましくは0.5〜2.5%、さらに好ましくは1.2〜2.2%である。
Pは不純物元素として不可避的に存在し、固溶強化により強度の上昇に寄与するが、旧オーステナイト粒界に偏析し、粒界を脆化させることで伸びフランジ性を劣化させるので、0.1%以下とする。好ましくは0.05%以下、さらに好ましくは0.03%以下である。
Sも不純物元素として不可避的に存在し、MnS介在物を形成し、穴拡げ時に亀裂の起点となることで伸びフランジ性を低下させるので、0.02%以下とする。好ましくは0.018%以下、さらに好ましくは0.016%以下である。
Alは脱酸元素として添加され、介在物を微細化する効果を有する。また、Nと結合してAlNを形成し、歪時効の発生に寄与する固溶Nを低減させることで伸びや伸びフランジ性の劣化を防止する。0.01%未満では鋼中に固溶Nが残存するため、歪時効が起こり、伸びと伸びフランジ性を確保できず、一方、1.0%超では加熱時におけるオーステナイトの形成を阻害するため、硬質第2相の面積率を確保できず、伸びフランジ性を確保できなくなる。
Nも不純物元素として不可避的に存在し、歪時効により伸びと伸びフランジ性を低下させるので、低い方が好ましく、0.01%以下とする。
Crは、セメンタイトの成長を抑制することで、伸びフランジ性を改善できる有用な元素である。0.01%未満の添加では上記のような作用を有効に発揮しえず、一方、1.0%を超える添加では粗大なCr7C3が形成されるようになり、伸びフランジ性が劣化してしまう。
Cu:0.05〜1.0%、
Ni:0.05〜1.0%の1種または2種以上
これらの元素は、固溶強化により成形性を劣化させずに強度を改善するのに有用な元素である。各元素とも上記各下限値未満の添加では上記のような作用を有効に発揮しえず、一方、各元素とも1.0%を超える添加ではコストが高くなりすぎる。
Mg:0.0001〜0.01%、
Li:0.0001〜0.01%、
REM:0.0001〜0.01%の1種または2種以上
これらの元素は、介在物を微細化し、破壊の起点を減少させることで、伸びフランジ性を向上させるのに有用な元素である。各元素とも0.0001%未満の添加では上記のような作用を有効に発揮しえず、一方、各元素とも0.01%を超える添加では逆に介在物が粗大化し、伸びフランジ性が低下する。
上記のような冷延鋼板を製造するには、まず、上記成分組成を有する鋼を溶製し、造塊または連続鋳造によりスラブとしてから熱間圧延を行い、酸洗してから冷間圧延を行う。
熱間圧延条件としては、仕上げ圧延の終了温度をAr3点以上に設定し、適宜冷却を行った後、600〜750℃の範囲で巻き取るのがよい。
巻取り温度を高めの600℃以上(より好ましくは610℃以上)にすることで、熱延板表層部に粒界酸化を生じさせるためである。後段の酸洗でこの粒界酸化を除去することで表面に凹凸を形成した後、冷間圧延することで表面近傍により多くの歪を導入し、さらに焼鈍することで表層部のフェライトを微細化かつ増加させることができる。ただし、巻取り温度を高くしすぎると、熱延板の組織サイズが大きくなりすぎるので、750℃以下(より好ましくは700℃以下)とする。
冷間圧延条件としては、冷間圧延率(以下、「冷延率」ともいう。)を20〜50%の範囲とするのがよい。
冷延率を20%以上(より好ましくは30%以上)とすることで、酸洗で粒界酸化を除去して形成した鋼板表面の凹凸を利用して表面近傍により多くのひずみを導入するためである。ただし、冷延率を高くしすぎると、均一にひずみが導入されてしまうので、50%以下(より好ましくは45%以下)とする。
焼鈍条件としては、(Ac1+Ac3)/2〜Ac3の焼鈍温度にて、3600s以下の焼鈍保持時間だけ保持した後、焼鈍温度から、730℃以下500℃以上の第1冷却終了温度(徐冷終了温度)までを1℃/s以上50℃/s未満の第1冷却速度(徐冷速度)で徐冷した後、Ms点以下の第2冷却終了温度(急冷終了温度)までを50℃/s以上の第2冷却速度(急冷速度)で急冷するのがよい。
2相域の高温側で保持することで、オーステナイトを核生成しやすくして、細かいフェライトを残存させるとともに、面積率50%以上の領域をオーステナイトに変態させることにより、その後の冷却時に十分な量の硬質第2相を変態生成させるためである。
肩落し冷却時に核生成するフェライトのサイズを上記2相域で生成したフェライトとほぼ同じサイズにするとともに、それらを合わせて面積率で20〜50%のフェライト組織を形成させることにより、伸びフランジ性を確保したまま伸びの改善が図れるためである。
冷却中にオーステナイトからフェライトが形成されることを抑制し、硬質第2相を得るためである。
本願発明は、フェライトと焼戻しマルテンサイト等からなる複相組織鋼の表面と内部のフェライト分率の差異に着目し、曲げ性改善について検討した結果完成されたものであり、組織分率に影響を及ぼさない焼戻し条件については、特に限定されるものではない。ただし、焼戻し条件により強度や特性が変化するため、引張強度980MPa以上を確保するためには、焼戻し温度を500℃以下にすることが好ましい。また、焼戻し温度が低いと強度が高くなるが、伸びや穴拡げ率(伸びフランジ性)が低下するため、成形性が必要な場合は、焼戻し温度を300℃以上にすることが好ましい。また、その際の焼戻し保持時間については60〜1200sとし、その後、冷却すればよい。
式2:Ac3(℃)=910−203√[C]+44.7[Si]+31.5[Mo]−15.2[Ni]
ただし、[ ]は、各元素の含有量(質量%)を示す。
Claims (5)
- 質量%で(以下、化学成分について同じ。)、
C:0.05〜0.30%、
Si:3.0%以下(0%を含まない)、
Mn:0.1〜5.0%、
P:0.1%以下(0%を含まない)、
S:0.02%以下(0%を含まない)、
Al:0.01〜1.0%、
N:0.01%以下(0%を含まない)
を各々含み、残部が鉄および不可避的不純物からなる成分組成を有し、
軟質第1相であるフェライトを面積率で20〜50%含み、
残部が硬質第2相である、焼戻しマルテンサイトおよび/または焼戻しベイナイトからなる組織を有し、
鋼板表面から100μm深さまでの鋼板表層部のフェライトの面積率Vαsと、t/4〜3t/4(tは板厚)の中心部のフェライトの面積率Vαcとの差ΔVα=Vαs−Vαcが10〜50%であるとともに、前記鋼板表層部のフェライトの平均粒径が10μm以下である
ことを特徴とする曲げ性に優れた高強度冷延鋼板。 - 成分組成が、更に、
Cr:0.01〜1.0%
を含むものである請求項1に記載の曲げ性に優れた高強度冷延鋼板。 - 成分組成が、更に、
Mo:0.01〜1.0%、
Cu:0.05〜1.0%、
Ni:0.05〜1.0%の1種または2種以上
を含むものである請求項1または2に記載の曲げ性に優れた高強度冷延鋼板。 - 成分組成が、更に、
Ca:0.0001〜0.01%、
Mg:0.0001〜0.01%、
Li:0.0001〜0.01%、
REM:0.0001〜0.01%の1種または2種以上
を含むものである請求項1〜3のいずれか1項に記載の曲げ性に優れた高強度冷延鋼板。 - 請求項1〜4のいずれか1項に記載の高強度冷延鋼板を製造する方法であって、
請求項1〜4のいずれか1項に示す成分組成を有する鋼材を、下記(1)〜(4)に示す各条件で、熱間圧延した後、冷間圧延し、その後、焼鈍し、さらに焼戻しすることを特徴とする曲げ性に優れた高強度冷延鋼板の製造方法。
(1) 熱間圧延条件
仕上げ圧延終了温度:Ar3点以上
巻取温度:600〜750℃
(2) 冷間圧延条件
冷間圧延率:20〜50%
(3) 焼鈍条件
(Ac1+Ac3)/2〜Ac3の焼鈍温度にて、60s以上3600s以下の焼鈍保持時間だけ保持した後、焼鈍温度から、730℃以下500℃以上の第1冷却終了温度までを1℃/s以上50℃/s未満の第1冷却速度で徐冷した後、Ms点以下の第2冷却終了温度までを50℃/s以上の第2冷却速度で急冷する。
(4) 焼戻し条件
焼戻し温度:300〜500℃
焼戻し保持時間:300℃〜焼戻し温度の温度範囲内に60〜1200s
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