JP4109619B2 - 伸び、及び伸びフランジ性に優れた高強度鋼板 - Google Patents

伸び、及び伸びフランジ性に優れた高強度鋼板 Download PDF

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Description

本発明は、伸び、及び伸びフランジ性に優れた高強度鋼板に関し、詳細には、例えば約780MPa級以上(好ましくは約980MPa級以上)の高強度域における伸び(全伸び)が30%以上、伸びフランジ性(λ)が50%以上を満足する高強度鋼板を提供するものである。
自動車等の軽量化・安全性能の向上を狙って、約780MPa級以上、更には約980MPa以上の高強度鋼板であって、伸び(全伸び)及び伸びフランジ性[穴拡げ性(局部的な延性)]のバランスに優れた高強度鋼板の提供が切望されている。
従来より、強度と延性の両立を図った鋼板として、母相をフェライト組織とし、該フェライトの3重点に粗大な島状マルテンサイトが分散したフェライト・マルテンサイトの複合組織鋼板[Dual-Phase(DP)鋼板]が知られている(例えば特許文献1参照。)。上記DP鋼板は、低降伏比(YR)で引張強度(TS)が高く、しかも伸び(El)特性にも優れているが、粗大なマルテンサイトが破壊の起点となる為、伸びフランジ性(穴広げ性;λ)に劣るものであった。
また、最近ではTRIP鋼板(TRansformation Induced Plasticity;変態誘起塑性)が注目されている。TRIP鋼板は、組織中に残留オーステナイト(γ)を生成させ、このγが加工変形中に誘起変態(歪み誘起変態:TRIP)して優れた延性を発揮するものであり、例えば、ポリゴナルフェライト+ベイナイト+残留オーステナイト組織からなるTRIP型複合組織鋼(PF鋼)や、ベイネティックフェライト+残留オーステナイト+マルテンサイトからなるTRIP型ベイナイト鋼(BF鋼)が知られている。しかし、これらは伸びフランジ性に劣るという欠点を有している。
そこで、残留オーステナイトによる優れた強度・伸びのバランスを維持しつつ、しかも伸びフランジ性等の成形性にも優れた鋼板を提供すべく、種々の検討がなされている。本出願人も、この様な要求特性を兼ね備えた高強度鋼板として、焼戻マルテンサイト、焼戻ベイナイト等を母相組織とし、残留オーステナイトを第2相組織とするTRIP鋼板を既に開示している(特許文献2〜5)。これらの鋼板は、熱間圧延後の冷却速度を調整する等してマルテンサイト、ベイナイト(更にはフェライト)を導入し、フェライト−オーステナイト2相域温度から特定のパターンで冷却して残留オーステナイトを生成させることによって製造されている。
一方、微細な(ナノレベルの)第2相組織の形成により、機械的特性の改善を図った技術も提案されている。
例えば非特許文献1には、ナノレベル(破壊の起点とならない大きさ)サイズの炭化物(セメンタイト)で析出強化した高強度熱延鋼板における、スラブ加熱時の炭化物挙動について報告されている。この方法によれば、スラブ加熱時に全ての炭化物が溶解する熱処理を施しているので、ナノレベルの炭化物が結晶粒内に微細分散された熱延鋼板が得られることになり、その結果、伸びフランジ性も改善されると予想される。しかしながら、上記文献には、結晶粒内にナノレベルの炭化物を微細分散させる技術が開示されているに過ぎず、炭化物は硬質な為、所望の延性を得ることはできない。
また、非特許文献2のFig.10には、セメンタイトを粒内で球状化させる所謂球状化処理の活用により、第2相の残留オーステナイトを微細分散させたTRIP鋼板の写真が示されている。ところが当該残留オーステナイトは、Fig.9の模式図にも示す通り、マトリックス中に分散しておらず、しかも、この残留オーステナイトの周囲には硬質の炭化物が取巻いている為、強度は約590MPaと低いにも拘わらず、伸びは約25%と小さく、残留オーステナイトによる優れた延性効果が得られてないことが分かる(Table 2)。
特開昭55−122821号公報 特開2002−309334号公報 特開2002−302734号公報 特開2003−73773号公報 特開2003−171735号公報 材料とプロセス、2003年、16巻、1419頁 クラウス エバール、ピエール キャンチニーズ及びフィリップ ハーレット(Klaus Eberle, Pierre Cantineauz and Philippe Harlet)著、鋼研究(Steel Research)、「変態誘起塑性(TRIP)を示す高強度低合金多相鋼を製造する為の新しいサーモメカニカル戦略(New thermomechanical strategies for the production of high strength low alloyed multiphase steel showing a transformation induced plasticity (TRIP) effect)」、1999年、70巻、6号、p.233〜238頁
本発明は上記事情に着目してなされたものであって、その目的は、伸び、及び伸びフランジ性のバランスを、従来よりも更に高いレベルにて満足し得る高強度TRIP鋼板を提供することにある。
上記課題を解決し得た本発明に係る伸び、及び伸びフランジ性に優れた高強度鋼板は、結晶粒内に、第2相組織として、平均粒径が500nm以下の残留オーステナイト及び/又はマルテンサイトを、全組織に対する占積率で3〜20%含有するところに要旨を有するものである。
上記第2相組織は、オーステナイト安定化元素(例えばCo、N1、Cu、Ag、Au、Pt、及びPdよりなる群から選択される少なくとも一種)を含有しており、該第2相組織に占めるオーステナイト安定化元素の含有率は、鋼板全体に占めるオーステナイト安定化元素の含有率に比べて20質量%以上高いものである。
本発明によれば、結晶粒内に、ナノサイズ(500nm以下)の第2相組織(残留オーステナイト及び/又はマルテンサイト)を含有しているので、伸びと伸びフランジ性のバランスに極めて優れた高強度鋼板を製造することができる。
本発明者らは、高強度鋼板における伸び及び伸びフランジ性を更に高めるに当たり、「従来のDP鋼板やTRIP鋼板が、延性(伸び)は良好であるのに伸びフランジ性(λ)に劣る理由は、これら鋼板の第2相組織(残留オーステナイト及び/又はマルテンサイト)が粗大な為、破壊の起点として作用するからである」という問題点に着目して検討してきた。その結果、所望の特性を得る為には、
(i)上記第2相組織のサイズをナノレベルまで微細化させ、マトリックス(母相組織)と第2相組織との界面における応力集中を低減すれば、当該第2相組織は破壊の起点として作用しなくなること;
(ii)しかも、この様なナノサイズの第2相組織は、脆弱なマトリックス界面(粒界)ではなく、マトリックス内(結晶粒内)に生成させれば良い
という知見のもと、「如何にして、ナノレベルの第2相組織を安定して結晶粒内に分散させることができるか」という観点に基づき、更に検討を重ねてきた。その結果、上記知見を具現化する為には、予め、結晶粒内に、数nm〜数百nmサイズで、オーステナイト安定化元素/炭素/マルテンサイト安定化元素の偏析部(濃化域)を導入しておけば良く、その後の熱処理工程で、当該偏析部が消失しない様に留意して熱処理を行えば、伸び、特に伸びフランジ性が顕著に優れた高強度鋼板が得られることを見出した。
具体的には、
(a)鋼中にCu、Ni等のオーステナイト安定化元素を添加することにより、結晶粒内に、当該オーステナイト安定化元素を微細に偏析(濃化)させた後、所定の熱処理を施すことにより、ナノサイズの残留オーステナイト(更にマルテンサイト)を結晶粒内に含有するTRIP鋼板を製造する方法;
(b)ベイナイト(特に下部ベイナイト);若しくは球状セメンタイトの活用により、結晶粒内に、ナノレベルで炭素の濃化域を導入した後、所定の熱処理を施すことにより、ナノサイズの残留オーステナイト(更にマルテンサイト)を結晶粒内に含有するTRIP鋼板を製造する方法;
(c)鋼中にマルテンサイト生成促進元素を添加することにより、結晶粒内に、当該マルテンサイト生成促進元素を微細に偏析(濃化)させた後、所定の熱処理を施すことにより、ナノサイズのマルテンサイトを結晶粒内に含むDP鋼板を製造する方法
等の方法を採用すれば良いことに到達し、本発明を完成した。
以下、本発明の高強度鋼板について詳述する。
上述した通り、本発明の特徴部分は、「結晶粒内に、第2相組織として、平均粒径が500nm以下の残留オーステナイト及び/又はマルテンサイトを生成させた」点にある。これにより、伸び、特に伸びフランジ性を著しく高めることができる。まず、本発明における第2相組織について説明する。
ここで、上記「結晶粒内」とは、結晶粒界を除いた結晶粒内を意味し、例えば結晶粒内のブロック界面や当該ブロック内のラス界面等も包含される。但し、伸びや伸びフランジ性を一層向上させる為には、これらのブロック界面やラス界面を除く領域とすることが推奨される。
また、本発明における「第2相組織」は、残留オーステナイト及び/又はマルテンサイトである。具体的には、当該第2相組織は母相組織との関係で決定され得るが、本発明では、DP鋼板、及びTRIP鋼板(前述した特許文献2〜5に記載の鋼板)の両方を対象としている為、
(I)DP鋼板(母相組織がベイナイトまたはフェライト)の場合は、第2相組織はマルテンサイトとなり;
(II)TRIP鋼板(母相組織が焼戻マルテンサイト若しくはベイナイトの単独組織;または、焼戻マルテンサイトとフェライト若しくはベイナイトとフェライトの混合組織)の場合は、第2相組織は、残留オーステナイト、または残留オーステナイトとマルテンサイト
となる。尚、本発明における組織(母相及び第2相)は、実質的に上述した組織で形成されているのが好ましいが、製造工程で不可避的に残存する他の組織(パーライト、母相組織が焼戻マルテンサイトである場合におけるベイナイト、母相組織がベイナイトである場合における焼戻マルテンサイトなど)や析出物の混入を排除するものではない。
更に上記「第2相組織」の平均粒径は、500nm以下を満足するものである。平均粒径の測定は以下の様にして行われる。まず、鋼板をナイタールで腐食し、透過型電子顕微鏡(TEM;倍率40,000倍)観察によって上記第2相組織を同定した後、2.3μm×1.9μmの視野に存在する当該第2相組織の粒径(最大径)の平均値を算出する。同様にして合計5視野における平均粒径を算出し、これらの平均値を、本発明における「第2相組織の平均粒径」として定めた。この様にして測定される第2相組織の平均粒径が500nmを超えると、当該第2相組織が破壊の起点となり、所望の伸び、及び伸びフランジ性が得られない。上記第2相組織の平均粒径は小さければ小さい程良く、特に下限は規定しない。従って、上述した第2相組織の観察方法(40,000倍のTEM観察)によって組織を同定し得、平均粒径を算出し得る限度のものが、その下限となり得る。
更に、全組織に対する上記「第2相組織」の占積率は3〜20%である。第2相組織の占積率が3%未満では、第2相組織形成による延性等の向上作用を有効に発揮させることができない。一方、第2相組織の占積率が20%を超えると、第2相粒子同士が近接若しくは合体してクラスターを形成してしまい、破壊の起点となってしまう。
次に、本発明における母相組織について説明する。
上述した通り、本発明はDP鋼板及びTRIP鋼板の両方を対象としており、DP鋼板における母相組織はベイナイトまたはフェライトであり、一方、TRIP鋼板における母相組織は、焼戻マルテンサイト若しくはベイナイトの単独組織;または、焼戻マルテンサイトとフェライト若しくはベイナイトとフェライトの混合組織の合計四種類が挙げられる。
このうちTRIP鋼板における母相組織の一つである焼戻マルテンサイトは、前述した特許文献2〜5に記載した通りであり、当該焼戻マルテンサイトは、所望の特性(伸びと伸びフランジ性)を確保するのに極めて有用である。本発明における焼戻マルテンサイトは、結晶粒がラス状になっており硬度は高いが、通常のマルテンサイトに比べると転位密度が少なく軟質である点に特徴がある。本発明における「焼戻マルテンサイト」と、通常の「マルテンサイト」とは、例えば透過型電子顕微鏡(TEM)観察等によって区別できる。
更にTRIP鋼板における母相組織には、これら焼戻マルテンサイト及びベイナイトに加えてフェライトを含む混合組織も包含される。上記フェライトは、正確にはポリゴナルフェライト、即ち転位密度の少ないフェライトを意味し、フェライトの生成により、伸びフランジ性を一層高めることができる。
本発明のDP鋼板及びTRIP鋼板における上記母相組織の占積率は、上述した第2相組織とのバランスによって制御され、所望の特性が得られる様、適切に調整することが推奨される。
以上、本発明を特徴付ける第2相組織、更に母相組織について説明した。
次に、本発明鋼板における成分について説明する。以下、化学成分の単位はすべて質量%である。
C:0.05〜0.6%
Cは、強度の確保に有用であり、特にTRIP鋼板の場合は、所定の残留オーステナイトを確保する為に必須の元素である。好ましくはC量を0.08%以上、より好ましくは0.10%以上とする。一方、Cが過剰になると、その効果が飽和するのみならず、鋳造段階で中心偏析による欠陥が生じ易くなる。従ってC量は0.6%以下、好ましくは0.5%以下、さらに好ましくは0.4%以下とする。なおC量が0.3%を超えると溶接性が低下する様になる。溶接性も考慮するならば、C量は0.3%以下、好ましくは0.28%以下、さらに好ましくは0.25%以下とすることが推奨される。
Si:0.5〜3.5%
Siはフェライト相中の固溶C量を減少させ、伸び等の延性向上に寄与すると共に、固溶強化元素としても有用な元素である。一方、TRIP鋼板では、Siは残留オーステナイトの生成に寄与する元素である。好ましくは1.0%以上、より好ましくは1.2%以上である。但し、3.5%を超えて添加すると、割れが生じる恐れがあり、加工性も劣化する様になる。好ましくは3%以下、より好ましくは2.5%以下、更により好ましくは2.0%以下である。
Mn:0.7〜4%
MnもSiと同様、固溶強化元素として有用であり、冷却過程における変態を抑制してオーステナイト相を安定化する為に必要な元素である。また、TRIP鋼板の場合は、Siと同様、残留オーステナイトの生成に寄与する元素である。この様な作用を有効に発揮させる為には、0.7%以上添加することが必要である。好ましくは1.0%以上、より好ましくは1.5%以上である。但し、4%を超えて添加すると上記効果が飽和してしまい、経済的に無駄である。好ましくは3.0%以下、より好ましくは2.0%以下である。
本発明は上記成分を基本的に含有し、残部:実質的に鉄であるが、鋼中に、原料、資材、製造設備等の状況によって持ち込まれる不可避不純物として、Pを0.02%以下、Sを0.01%以下、Nを0.008%以下等の範囲で含んでも良い。また、本発明の作用に悪影響を与えない範囲で、更に下記元素を積極的に含有させることも可能である。
Co、Ni、Cu、Ag、Au、Pt、及びPdよりなる群から選択される少なくとも一種
これらの元素は強度−延性バランスを高く保持したまま、高強度化を実現するのに有効な元素であり、特にTRIP鋼板では、オーステナイト安定化元素として有用である。上記元素は単独で添加しても良いし、2種以上を併用しても構わない。特にTRIP鋼板の場合、Ni及び/又はCuの使用が推奨され、Ni:0.1%以上、及び/又はCu:0.1%以上添加することが好ましい。一方、これらの元素を過剰に添加すると、熱延時に割れが生じる等生産性が劣化することから、これら元素の合計を10%以下(好ましくは、Ni:2%以下、及び/又はCu:2%以下)に抑えるのが良い。
Cr:1.0%以下(0%を含まない)
Crは強度向上に寄与する元素であり、この様な作用を有効に発揮させる為には、Cr:0.1%以上(より好ましくは0.2%以上)、添加することが好ましい。しかしながら、Crを過剰に添加しても効果が飽和してしまい、延性が劣化する。また、TRIP鋼板の場合、Crを過剰に添加すると炭化物を生成し、残留オーステナイトの生成が低下する。かかる観点からすれば、Crを1%以下に抑えることが好ましい。より好ましくは0.8%以下である。
Al:2.0%以下
Alは、脱酸に寄与する元素であるが、2.0%を超えると連鋳による割れが生じてしまう。より好ましくは1.0%以下である。
Ti、Nb、及びVよりなる群から選択される少なくとも1種:合計で0.1%以下
これらの元素はいずれも、析出強化作用を有している。この様な作用を有効に発揮させる為には、上記元素の少なくとも一種(1種でも良いし、2種以上併用しても良い)を、合計で0.01%以上(より好ましくは0.05%以上)添加することが推奨される。但し、上記元素の合計量が0.1%を超えると炭化物が生成し、所望のγ量が得られない。より好ましくは、合計で0.08%以下である。
以上、本発明における化学成分について説明した。
次に、本発明鋼板の製造方法について説明する。
本発明において、所望の第2相組織を結晶粒内に安定して微細分散させる方法としては、前述した(a)〜(c)の方法が挙げられる。以下、順次説明する。
I:残留オーステナイト(更にマルテンサイト)を粒内に生成させる方法]
(a)オーステナイト安定化元素の活用
この方法はまず、鋼中にオーステナイト安定化元素(具体的にはCo、Ni、Cu、Ag、Au、Pt、及びPdよりなる群から選択される少なくとも一種)を添加することにより、これら元素が過飽和に固溶したマトリックスを生成させた後、次いで、所定の時効処理により、当該オーステナイト安定化元素を金属相または炭化物相として析出させ、ナノサイズ(数nm〜数百nm)の偏析部(濃化域)を導入した(a−1)後、最後に、当該偏析部が消失しない様に留意しながら所定の熱処理(前述した特許文献2〜5に記載の方法)を施す(a−2)ことにより、所望の第2相組織を含むTRIP鋼板を製造する方法である。本発明法において、上述した特許文献2〜5に記載の方法と大きく異なる点は、本発明では熱延前に、予め、オーステナイト安定化元素が過飽和に固溶したマトリックスを生成させ、当該オーステナイト安定化元素がナノサイズで析出した偏析部(濃化域)を導入する工程[具体的には、後記する溶体化処理、(必要に応じて)焼入れ処理、及び時効処理]を付加した点である。
上記(a)の工程は、オーステナイト安定化元素は炭素に比べて拡散が遅いという特性を活用したものである。即ち、オーステナイト安定化元素は置換型元素であって、炭素の様な侵入型元素に比べて拡散係数が遅い為、熱処理中でも炭素等に比べて拡散し難い為、結晶粒内に所望の残留オーステナイトを生成させることが容易である。
以下、各工程に従って説明する。
(a−1)マトリックス中に、ナノサイズのオーステナイト安定化元素の偏析部(濃化域)を導入する工程
まず、上述した化学成分(但し、オーステナイト安定化元素を必須成分とする)を含む鋼材を溶体化処理する。この溶体化処理(ソーキング)は、Mn等による中心偏析を防止し、鋼中成分を全て均一に溶解させる手段として極めて有用であり、最終的にオーステナイト安定化元素の偏析にも寄与し得る為、重要な工程である。
この様な作用を有効に発揮させる為には、溶体化処理の温度と時間を適切に制御することが重要であり、本発明では、1270℃以上にて5時間以上の溶体化処理を施す。1270℃未満では溶解度曲線に達することができず、所望の効果が得られない。また、5時間未満では、溶質原子が均一分布するまでの拡散時間が不足する為、やはり、所望の効果が得られない。これら温度と時間は、両者が適切に制御されて始めて所望の効果を発揮するものであるが、好ましくは1300℃以上にて10時間以上、より好ましくは1350℃以上にて15時間以上の溶体化処理をすることが推奨される。尚、その上限はMnの偏析防止等といった観点からすれば特に限定されず、処理温度も処理時間も大きい程良いが、生産性、コスト面等を考慮すると、1430℃以下にて25時間以下(より好ましくは1400℃以下にて20時間以下)に制御することが推奨される。
次に、熱間圧延、及び必要に応じて冷間圧延を施して薄鋼板を製造した後、必要に応じて焼入れ処理、更に時効処理を行なう。
このうち焼入処理は、オーステナイト安定化元素が過飽和に固溶したマトリックスを得る目的で実施するものであり、前述した溶体化処理により、当該マトリックスが既に得られている場合には、この焼入れ処理を省略することも可能である。上記焼入処理は特に限定されず、通常実施される条件(オーステナイト化温度まで加熱した後、急冷する)を採用することができる。
次いで、時効処理を施すことにより、マトリックス中に過飽和に固溶したオーステナイト安定化元素は、数〜数百nmの金属層または炭化物層としてマトリックス中に析出し、当該オーステナイト安定化元素の偏析部(濃化域)が生成する。上記時効処理は最終的に、500nm以下の残留オーステナイト等を結晶粒内に安定して微細分散させるのに極めて重要であり、当該時効処理を省略すると、結晶粒内ではなく結晶粒界やラス界面に、500nmを超える粗大な残留オーステナイト等が生成してしまい、所望の伸び、及び伸びフランジ性が得られないことを実験により確認している(後記する表1のNo.7を参照)。
上記時効処理の条件(温度及び時間)は、添加するオーステナイト安定化元素の種類や含有量等によっても変化し得、また、当該時効処理の条件によって、得られる残留オーステナイト等の大きさも変化し得る為、一義的に決められないが、概ね、400〜750℃で20〜720分間の時効処理を施すことが推奨される。
(a−2)マトリックス内に、ナノサイズの残留オーステナイト等を生成させると共に、所望の母相組織を得る工程
以上の処理を行なった後は、所定の熱延処理により、オーステナイト安定化元素がナノサイズで偏析(濃化)したオーステナイトを生成させ、必要に応じて冷延処理を行なうことにより、ベイナイトまたはフェライトを母相組織とし、目的とする第2相組織を兼ね備えたTRIP鋼板が得られる。更に上記工程の後、所定の焼鈍を行うことにより、焼戻マルテンサイト(フェライトを含んでいても良い)を母相組織とし、目的とする第2相組織を兼ね備えたTRIP鋼板が得られる。いずれの場合においても、前記(a)の方法により、マトリックス中に形成されたオーステナイト安定化元素の偏析部(濃化域)は、その後の熱処理によって拡散して消失しない様に、特に熱延温度等を制御して熱処理している為、所望のTRIP鋼板を得ることができる。
以下、母相組織の態様毎に、製造方法を分けて説明する。
(a−2−1)母相組織が、焼戻マルテンサイト(フェライトを含んでいても良い)の場合
(i)熱延処理
この熱延処理は、マルテンサイト(焼戻されていないマルテンサイト)を得ると共に、オーステナイト安定化元素の偏析部(濃化部)が導入されたオーステナイトを得ることを目的として実施される。
まず、鋼板をオーステナイト領域に加熱する。加熱温度及び時間の上限は概ね、加熱温度を800〜1000℃、加熱時間を1〜20分とする。高温で長時間加熱すると、せっかく、上記(a)の工程によって生成されたオーステナイト安定化元素の偏析部が拡散し、消失してしまうからである。
次いで、上記鋼板を、Ms点以下の温度まで急冷し、マルテンサイトを生成させる。尚、マルテンサイトに加えて、更にフェライトも生成させたい場合は、連続冷却変態曲線(CCT曲線)におけるフェライト変態領域を通過するように冷却速度を制御すればよい。但し、パーライト組織は本発明にとっては望ましくない為、パーライト変態領域を避ける様にして冷却速度を適切に制御する。
上記冷却速度は、マルテンサイトのみ生成させたい(フェライトの生成なし)場合には、所定温度まで急冷する方法(一段冷却)が簡便であるが、更にフェライトも生成させたい場合には、一段冷却でフェライトを安定に生成させることは困難である為、冷却速度を複数回に分けて設定する多段冷却法を採用するのが推奨され、特にオーステナイト−フェライト2相域温度で保持した後、再度冷却を開始する方法が推奨される。上述した一段冷却、及び多段冷却法のいずれの冷却パターンを採用する場合でも、冷却速度は、例えば10℃/秒以上(好ましくは20℃/秒以上)とすることが推奨される。
この様な熱延処理により、マルテンサイト(更にはフェライト)が導入された鋼板であって、マトリックス内に、オーステナイト安定化元素の偏析部(濃化部)を有する鋼板が得られる。
(ii)焼鈍
次に、上記鋼板をA点以上の温度で加熱する。これにより、オーステナイト安定化元素の偏析部のみが逆変態によってオーステナイト化し、当該偏析部を除く部分は、マルテンサイト(焼戻マルテンサイト)のまま維持される。
ここで、加熱温度の上限は1000℃とすることが好ましい。加熱温度が高いと、前述した(a)の方法により、マトリックス中に形成されたオーステナイト安定化元素の偏析部(濃化域)が拡散し、消失してしまうからである。
また、加熱時間は、目的とする第2相組織(残留オーステナイト等)の設定量に応じて適宜選択することができ、加熱温度やその後の冷却速度等によっても異なってくることから、一律に規定することは困難であるが、例えば10秒以上(好ましくは20秒以上、さらに好ましくは30秒以上)、600秒以下(好ましくは500秒以下、さらに好ましくは400秒以下)の範囲から選択できる。加熱時間が短かいと残留オーステナイトが不足してしまう。一方、加熱時間が長いと、焼戻マルテンサイトが不足するか、或いは、焼戻マルテンサイトの特徴であるラス状組織が損なわれてしまうと共に、残留オーステナイトの粗大化、残留オーステナイトの分解による炭化物の生成が生じ易くなる。
次いで、上記鋼板を、フェライト変態、及びパーライト変態を避けながら室温まで空冷する。これにより、前述の加熱によって生成したオーステナイト部分がオーステナイト(残留オーステナイト)のまま維持して冷却されることになり、最終的に、焼戻マルテンサイトを母相とし、所望の第2相組織(結晶粒内に、500nm以下の残留オーステナイトを含む)を含むTRIP鋼板が得られる。
上記の様にして得られる第2相組織には、オーステナイト安定化元素が偏析(濃化)している。具体的には、第2相組織に占めるオーステナイト安定化元素の含有率は、鋼板全体に占めるオーステナイト安定化元素の含有率に比べて20質量%以上と高いものである。
ちなみに前述した非特許文献2〜5の方法では、焼鈍工程において、「C濃化域を生成させて残留オーステナイトを安定化させる」という目的で、所謂オーステンパ処理を施しているが、本発明法(オーステナイト安定化元素を活用する態様の場合)では、当該オーステンパ処理は必ずしも必須工程ではない。本発明では、オーステナイト安定化元素の添加により、予め、当該オーステナイトの濃化域が生成されている為、上記非特許文献の如くC濃化域を積極的に付与するオーステンパ処理を施さなくとも、残留オーステナイトは安定化するからである。勿論、残留オーステナイトを一層安定化させる目的で、本発明において上記オーステンパ処理を施しても構わない。
実操業を考慮すると、冷間圧延後の上記焼鈍処理は、連続焼鈍設備またはバッチ式焼鈍設備を用いて行うのが簡便である。また冷間圧延板にめっきを施す場合には、めっき条件が上記熱処理条件を満足するように設定し、該めっき工程で上記熱処理を行ってもよい。
(a−2−2)母相組織が、ベイナイトまたはフェライトの場合
この場合は、まず、上記鋼板を、前述の(i)と同様にして加熱した後、Ms点以上Bs点以下の温度まで、フェライト変態及びパーライト変態を避けながら急冷し、当該温度で所定のオーステンパ処理(ベイナイト変態)を行なうことにより、ベイナイトが生成すると共に、オーステナイト安定化元素の偏析部はオーステナイトのまま維持される。
尚、ベイナイトに加えて、更にフェライトも生成させたい場合は、連続冷却変態曲線(CCT曲線)におけるフェライト変態領域を通過するように冷却速度を制御すればよい。但し、パーライト組織は本発明にとっては望ましくない為、パーライト変態領域を避ける様にして冷却速度を適切に制御する。上記冷却速度は、前述した(i)と同様に制御すればよい。
ここで、Ms点以上Bs点以下の温度[例えば300℃以上(好ましくは350℃以上)480℃以下(好ましくは450℃以下)の温度]まで冷却した後、当該温度域で所定時間保持(オーステンパ処理)するのは、母相をベイナイト変態させつつ所望の残留オーステナイト量を確保するためである。当該温度域での保持時間は、目的とするTRIP鋼板における残留オーステナイトの設定量に応じて適宜設定でき、一律に規定することは困難であるが、例えば10秒以上(好ましくは50秒以上)とする。なお保持時間が長すぎるとベイナイト変態が進行し、残留オーステナイト量が減少する。従って保持時間は、1200秒以下、好ましくは600秒以下に制御することが推奨される。
更に上記オーステンパ処理の後、室温まで空冷すれば、オーステナイト安定化元素の偏析部がそのまま維持されて所望の残留オーステナイトを含む第2相組織が得られる。一方、上記オーステンパ処理の後、室温まで急冷すれば、オーステナイト安定化元素の偏析部がマルテンサイト化し、マルテンサイトとなる。
上記の様にして得られる第2相組織には、結晶粒内に、500nm以下の残留オーステナイトを所定量含有するものである。
尚、上述した一連の熱処理は、連続焼鈍設備またはバッチ式焼鈍設備を用いて行うのが簡便である。また冷間圧延板にめっきを施す場合には、めっき条件が上記熱処理条件を満足するように設定し、該めっき工程で上記熱処理を行ってもよい。
(b)ベイナイト組織の活用
この方法は、前記(a)の「オーステナイト安定化元素を活用する方法」とは異なり、鋼中にオーステナイト安定化元素を添加する代わりに、熱延前に、前組織として予め、微細な炭化物を内部に含むベイナイトを導入しておき、これらの組織を活用することにより、結晶粒内に、炭素の濃化域を導入した後、所定の熱処理を施すことにより、目的とする残留オーステナイト等の第2相組織を含むTRIP鋼板を製造するというものである。この方法は、オーステナイトが、炭素の偏析部(濃化域)の生成によって安定化するという特性を利用したものであり、熱延処理の前に、予め、炭素の濃化域を導入しておけば良い。
その為には、例えばパーライト組織を活用する方法も考えられるが、本発明で目的とする第2相の残留オーステナイトを得る為には、結晶粒内にセメンタイトを生成させる必要があり、パーライトではこの目的を達成できない。従って、上記(b)の方法では、ベイナイトを活用する。このうちベイナイトは、フェライト結晶粒内(ラス内)に微細な炭化物(セメンタイト)を含有しており、とりわけ、微細な炭化物を多く含有している下部ベイナイトの使用が推奨される。
尚、上記(b)の方法は、鋼材として、オーステナイト安定化元素を添加しない鋼材を用いること以外、実質的に前述した(a)の方法を採用することができる。但し、炭素はオーステナイト安定化元素に比べて拡散係数が非常に早い為、生成した炭素等の濃化域が拡散して消失しない様に、特に時効処理の温度及び時間、焼鈍時の加熱速度等の管理を、より厳格に行なうことが必要である。加熱時間が長いと、せっかく濃化した炭素が拡散により均一な濃度となってしまい、一方、加熱時間が短いと炭化物のまま残存してしまい、所望の残留オーステナイトを含む第2相組織が得られないからである。
II:第2相組織として、マルテンサイトを含むDP鋼板を得る方法
(c)マルテンサイト生成促進元素の活用
この方法は、鋼中にマルテンサイト生成促進元素を添加することにより、結晶粒内に、当該マルテンサイト生成促進元素を微細に偏析(濃化)させた後、所定の熱処理を施すことにより、ナノサイズのマルテンサイトを結晶粒内に含むDP鋼板を製造する方法である。上記方法は、前述した(a)の方法において、鋼材として、オーステナイト安定化元素を添加した鋼材を使用する代わりに、マルテンサイト生成促進元素を添加した鋼材を使用すること以外、実質的に前述した(a)の方法を採用することができる。即ち、所定の溶体化処理、必要に応じて焼入れ処理、及び時効処理を施すことにより、マトリックス内に、マルテンサイト生成促進元素の偏析部(濃化域)を導入した後、次いで、通常採用されている方法によってDP鋼板を製造するに当たっては、当該偏析部が拡散しない様に、加熱速度等の加熱条件等に特に留意しながら、所望のDP鋼板を製造すればよい。
以下実施例に基づいて本発明を詳述する。ただし、下記実施例は本発明を制限するものではなく、前・後記の趣旨を逸脱しない範囲で変更実施することは全て本発明の技術範囲に包含される。
以下の実施例は、オーステナイト安定化元素の添加によって、焼戻マルテンサイト/ベイナイトを母相とするTRIP鋼板を製造したものであり、オーステナイト安定化元素、C元素の含有量、及び時効処理が機械的特性に及ぼす影響について検討した。
具体的には、表1に記載の成分組成からなるNo.1〜7の鋼材(表中の単位は質量%であり、残部:鉄及び不可避不純物である)を夫々、後記する条件で熱処理し、得られた鋼板の組織分率、及び機械的特性を、以下の方法によって測定した。
まず、鋼板の引張強さ(TS)及び全伸び(El)は、JIS5号試験片を用いて測定した。
また、伸びフランジ性は、縦70mm×横70mm×厚さ2.0mmの試験片を作製し、中央に直径10mmの穴をパンチ打ち抜きした後、60°円錐パンチでばり上にて穴広げ加工し、亀裂貫通時点での穴広げ率(λ)を測定することによって評価した(鉄鋼連盟規格JFST 1001)。
また、組織の観察は、以下の様にして行なった。
各鋼材中の母相組織(焼戻マルテンサイト及びベイナイト)の面積率は、鋼材をナイタールで腐食し、走査型電子顕微鏡(SEM:倍率1000倍若しくは2000倍)観察により組織を同定した後、測定した。
尚、残留オーステナイトは、飽和磁化測定法によって体積率(%)を測定した[特開2003−90825号公報、R&D神戸製鋼技報/Vol.52, No.3 (Dec. 2002)を参照]。
この様にして得られた結果を表1に併記する。尚、表には、母相組織の面積率は省略しているが、100から、第2相組織(残留オーステナイト)の体積率を引いた値が、当該母相組織の面積率である。
No.1(本発明例)
表1に示すNo.1の鋼材を溶製し、1350℃で10時間溶体化処理した後、鋼材表面を研削し、熱間圧延(加熱温度1200℃、仕上温度850℃、巻取温度約600℃)により、2mm厚の熱延鋼板を得た後、冷間圧延によって1.5mm厚の冷延鋼板を得た。次に、この冷延鋼板を、950℃で5分間加熱した後、水焼き入れし、その後、450℃で240分間時効処理した。更に上記鋼板を、950℃で5分間加熱した後水焼き入れし、赤外線加熱炉にて800℃まで急速加熱した後、当該温度にて10秒間保持してから、空冷することによりNo.1の鋼板を得た。
その結果は表1に示す通りであり、母相組織が焼戻マルテンサイトで、第2相組織は、結晶粒内に約300nmの残留オーステナイトが15%分散したTRIP鋼板であって、伸び、及び伸びフランジ性に優れた約980MPa級の高強度鋼板が得られた。
No.2(実施例1の比較例)
上記No.1において、オーステナイト安定化元素であるCu及びNiを添加しなかったこと以外はNo.1と同様の製造方法により、No.2の鋼板を得た。
その結果は表1に示す通りであり、No.2はオーステナイト安定化元素を含有していない為、残留オーステナイトが全く得られず、伸びが低下した。
No.3(No.1の比較例)
上記No.1において、鋼中のCを0.30%としたこと以外はNo.1と同様の製造方法により、No.3の鋼板を得た。
その結果は表1に示す通りであり、No.3は鋼中のC量が多い為、残留オーステナイトの生成が多く、伸び、及び伸びフランジ性が低下した
No.4(No.1の比較例)
上記No.1において、時効処理を省略したこと、及び赤外線加熱炉による加熱以降の工程を、「赤外線加熱炉にて800℃まで急速加熱した後、当該温度にて5分間保持し、更に400℃で3分間保持した」こと以外は、No.1と同様の製造方法により、No.4の鋼板を得た。
その結果は表1に示す通りであり、No.4は、所定の時効処理を施していない為、ラス界面に、800nmの粗大な残留オーステナイトが生成し、伸び、及び伸びフランジ性が低下した。
No.5(本発明例2)
上記No.1の鋼材を用い、No.1と同様の方法により、時効処理までの操作を実施した。その後、上記鋼板を950℃で5分間加熱した後、500℃(ベイナイト生成温度域)まで冷却し、当該温度で3分間保持してから、空冷することによりNo.5の鋼板を得た。
その結果は表1に示す通りであり、母相組織がベイナイトで、第2相組織は、結晶粒内に約400nmの残留オーステナイトが17%分散したTRIP鋼板であって、伸び、及び伸びフランジ性に優れた約980MPa級の高強度鋼板が得られた。
No.6(No.5の比較例)
上記No.5において、オーステナイト安定化元素であるCu及びNiを添加しなかったこと以外はNo.5と同様の製造方法により、No.6の鋼板を得た。
その結果は表1に示す通りであり、No.6はオーステナイト安定化元素を含有していない為、残留オーステナイトが全く得られず、伸びが低下した。
No.7(本発明例3)
No.1において、鋼中のCが0.08%であること以外はNo.1と同じ組成の鋼材を用い、No.1と同様の製造方法により、No.7の鋼板を得た。
その結果は表1に示す通りであり、母相組織が焼戻マルテンサイトで、第2相組織は、結晶粒内に約200nmの残留オーステナイトが5%分散したTRIP鋼板であって、伸び、及び伸びフランジ性に優れた約780MPa級の高強度鋼板が得られた。
Figure 0004109619

Claims (2)

  1. C:0.05〜0.6%(質量%の意味、以下同じ)、
    Si:0.5〜3.5%、及び
    Mn:0.7〜4%
    を含有し、
    さらにオーステナイト安定化元素としてNi及びCuを含有し、これら元素の合計が10%以下(0%を含まない)であり、
    残部は鉄及び不可避不純物であり、
    組織は、母相組織と第2相組織を有し、不可避的に存在する他の組織を有していてもよく、
    前記母相組織焼戻マルテンサイト又はベイナイトであり、前記母相組織の結晶粒内に、前記第2相組織として、平均粒径が500nm以下の残留オーステナイトを、全組織に対する占積率で3〜20%含有することを特徴とする伸び、及び伸びフランジ性に優れた780MPa以上の高強度鋼板。
  2. 前記第2相組織は、Ni及びCuを含有しており、該第2相組織に占めるNi及びCuの含有率(x)は、鋼板全体に占めるNi及びCuの含有率(y)に比べて20質量%以上高い(x≧y+20)ものである請求項1に記載の高強度鋼板。
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