JP5400589B2 - 転動疲労寿命に優れた鋼材 - Google Patents
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(B)鋼材中の固溶N(固溶窒素)量を所定量以下に抑制すること、
(C)所定量以上のサイズのAl系窒素化合物を所定の範囲内とすること。
Cは、焼入硬さを増大させる元素である。軸受の鋼球やころの疲労寿命は、焼入れ−焼戻し後の硬さに支配されるため、鋼球やころは所定値以上の硬さを有することが要求される。軸受に用いられる鋼材として、基本的な要求特性を満足させるためには、Cは0.65%以上含有させなければならず、好ましくは0.7%以上(より好ましくは0.8%以上)含有させることが望ましい。しかしながら、C含有量が多くなり過ぎると大きさ(円相当直径)で10μm以上の粗大の炭化物が残存し、この粗大炭化物が疲労寿命を劣化させるので、C含有量は1.3%以下、好ましくは1.2%以下(より好ましくは1.1%以下)に抑えるべきである。
Siは、溶製中の脱酸元素として有効であり、また鋼材のマトリックスを固溶強化させ、転動疲労寿命の向上に有効な元素である。こうした効果を発揮させるためには、Siは0.05%以上含有させる必要があり、好ましくは0.1%以上(より好ましくは0.15%以上)含有させることが望ましい。しかしながら、Si含有量が多くなり過ぎると変形能の劣化や被削性の低下を招くので、Si含有量は1.0%以下、好ましくは0.9%以下(より好ましくは0.8%以下)に抑えるべきである。
Mnは、溶製中の脱酸元素として有効であり、またSと結合することで鋼材の変形能を向上させるために有効な元素である。また、大きめのAl系窒素化合物を析出させる上でも有効な元素である。これらの効果を発揮させるためには、Mnは0.10%以上含有させる必要があり、好ましくは0.15%以上(より好ましくは0.2%以上)含有させることが望ましい。また、Mn含有量が0.10%未満になると、Sの影響が顕在化して、変形能が低下し、割れが生じやすくなる。しかしながら、Mn含有量が多くなり過ぎると鋼材の焼なまし硬さを高め、被削性が低下するので、Mn含有量は1.5%以下、好ましくは1.2%以下(より好ましくは1.0%以下)に抑えるべきである。
Pは、不可避的に不純物として含有する元素であるが、フェライト粒界に偏析し、変形能を劣化させる。またPは、フェライトを固溶強化させ、鋼材の硬さを増大させる。従って、Pは変形能の観点からは極力低減することが望ましいが、極端に低減することは製鋼コストの増大を招くことになる。こうしたことから、P含有量は、0.05%以下とした。好ましくは0.04%以下(より好ましくは0.03%以下)に低減するのが良い。尚、P含有量は少ないほど好ましいが、その含有量を0%とすることは、工業生産上、困難である。
Sは、不可避的に不純物として含有する元素であるが、Feと結合すると、FeSとして粒界上に析出するため、鋼材の変形能を劣化させる。従って、Sの全量をMnと結合させ、MnSとして析出させる必要がある。またMnSを析出させることによって、Al系窒素化合物のサイズを所定の範囲に制御することが可能となる。但し、MnSの析出量が過剰になると、Al系窒素化合物のサイズの制御が困難になるだけでなく、MnSが破壊の起点となるので、転動疲労寿命、変形能が低下する。こうしたことから、S含有量は、0.015%以下とする必要がある。好ましくは0.012%以下(より好ましくは0.011%以下)に低減するのが良い。一方、Sの極端な低減は被削性を劣化させるので、0.001%以上含有させることが推奨される。好ましくは0.002%以上(より好ましくは0.003%以上)含有させるのが良い。
Crは、セメンタイトに固溶することで耐摩耗性を向上させると共に、焼入れ性の向上に寄与する元素である。また、摺動面付近でセメンタイトが分解することによって生じる固溶Cを固着し、動的歪み時効を抑制する効果も発揮する。更に、微細なAl系窒素化合物を析出させる上でも有効な元素である。これらの効果を発揮させるには、Cr含有量は1.0%以上とする必要がある。好ましくは1.1%以上(より好ましくは1.2%以上)である。しかし、Cr含有量が過剰になると、粗大な炭化物が生成し、転動疲労寿命が却って低下する。従ってCr量は2.0%以下とする。好ましくは1.9%以下(より好ましくは1.8%以下)である。
Alは、溶製中の脱酸元素として有効であるばかりでなく、鋼中の固溶Nを低減させると共に、Al系窒素化合物を形成するのに重要な元素である。しかしながら、Al含有量が過剰になって0.5%を超えると、非金属介在物であるAl2O3が多く生成するようになり、転動疲労寿命が低下することになる。尚、上記の効果を発揮させるためには、Alは0.1%よりも多く含有させることが好ましい。より好ましくは0.13%以上(更に好ましくは0.15%以上)である。また好ましい上限は0.4%(より好ましくは0.3%以下)である。特に、Alは0.1%を超えて含有させることによって、MnSを起点とする比較的大きなAl系窒素化合物と、微細なAl系窒素化合物を生成させることができ、鋼材の転動疲労寿命を向上させることができる。
Nは上記Alと同様に、本発明の鋼材において重要な役目を果たす元素であり、Al系窒素化合物を所定量確保し、転動疲労寿命を向上させる効果を発揮させる上で重要な元素である。しかしながら、N含有量が過剰になって0.020%を超えると、鋼材製造工程で固溶Nが残存し易くなり、転動疲労中の動的歪み時効によって、鋼材を脆化させ、転動疲労寿命を劣化させる。上記の効果を発揮させるためにはNを0.007%以上含有させることが好ましく、これによってAl系窒素化合物を所定量範囲まで増加させることができ、転動疲労寿命を向上させることができる。またN含有量が0.007%未満となると、必要とされるAl系窒素化合物を確保することができない可能性がある。尚、N含有量のより好ましい下限は、0.0075%(更に好ましくは0.008%以上)であり、好ましい上限は0.019%(より好ましくは0.018%以下)である。
Tiは、比較的高温でTi系窒素化合物を形成し、冷却中に粗大化する。そのため、大型の介在物が増加することになり、転動疲労寿命を劣化させる。また、AlよりもTiの方が窒化物を形成する温度が高いので、Tiが過剰であると、Al系窒素化合物を形成するためのN量を低減させるという問題が生じる。こうしたことから、Ti含有量は極力低減する必要があり、0.005%以下と定めた。Ti含有量の好ましい上限は0.004%(より好ましくは0.003%以下)である。尚、Ti含有量は少ないほど好ましいが、その含有量を0%とすることは、工業生産上、困難である。
Oは、酸化物系介在物を形成し、転動疲労寿命を劣化させる弊害を生じさせる。特に、その含有量が0.0025%を超えると、転動疲労寿命の低下が著しくなる。こうしたことから、O含有量は0.0025%以下とする必要がある。O含有量は少ないほど好ましいが、極端な低減は疲労寿命の向上効果に対して製造コストの増大が大きくなる。また、その含有量を0%とすることは、工業生産上、困難である。O含有量の好ましい上限は0.002%(より好ましくは0.0018%以下)である。
固溶Nは、動的歪み時効を生じさせ、転動疲労寿命を劣化させるため、極力低減する必要がある。固溶N量を0.001%以下とすることで、動的歪み時効を抑制することができ、転動疲労寿命を向上させることができる。こうした観点から、固溶N量は0.001%以下に抑制する必要がある。尚、固溶N量の好ましい上限は0.0008%(より好ましくは0.0005%以下)である。固溶N量を低減する方法としては、窒素化合物元素との結合や、添加するN量の低減が挙げられるが、本発明においてはAl系窒素化合物を生成させることによって、固溶N量を低減する方法が用いられる。
Moは、鋼材の靭性を高め、転動疲労寿命を向上させる効果を有する元素である。しかしながら、Mo含有量が過剰になると、炭化物が安定化し過ぎて、硬さおよび転動疲労寿命を低下させてしまうことになる。またMoは高価な元素であるので、こうした点も考慮してその含有量は0.25%以下とすることが好ましい。より好ましくは0.20%以下(更に好ましくは0.15%以下である)。また上記の効果を有効に発揮させるためには、その含有量は0.02%以上とすることが好ましく、より好ましくは0.04%以上(更に好ましくは0.06%以上)である。
CuおよびNiは、いずれも鋼材の強度を高め、転動疲労寿命を向上させるのに有効な元素である。これらの効果は、いずれも0.03%以上含有させることによって有効に発揮される。しかしながら、いずれの含有量も0.25%を超えると、添加効果が飽和するばかりでなく、変形能、靭性が劣化し始める。尚、これらの元素のより好ましい下限は、いずれも0.05%(更に好ましくは0.07%以上)であり、より好ましい上限は0.20%(更に好ましくは0.15%以下)である。
Ca、REM(希土類元素)、MgおよびLiは、MnS等の硫化物系介在物を球状化させ、鋼材の変形能を高めると共に、被削性を向上させるのに有効な元素である。これらの効果は、CaまたはREMで0.0005%以上、Mg、Liで0.0001%以上含有させることによって有効に発揮される。しかしながら、過剰に含有させても効果が飽和し、含有量に見合う効果が期待できず不経済となるので、夫々上記範囲内とするべきである。尚、より好ましい上限は、CaまたはREMで0.015%(更に好ましくは0.01%以下)、Mg、Liで0.01%(更に好ましくは0.005%以下)である。また、より好ましい下限は、CaまたはREMで0.001%(更に好ましくは0.0015%以上)、MgまたはLiで0.0003%(更に好ましくは0.0005%以上)である。
圧延材を1000℃以上に加熱・保持することで、Al系窒素化合物の一部を母相に溶け込ませると共に、結晶粒の整粒化が図れることになる。このときの加熱温度が1000℃未満となると、Al系窒素化合物を母相に十分に溶け込ませることができず、その後の工程で微細なAl系窒素化合物が十分に得られず、また旧γ結晶粒が微細化し過ぎる等の組織上の弊害が生じることになる。加熱温度が高いほど、Al系窒素化合物の溶け込み量は増加するが、1250℃を超えると、Al系窒素化合物が全量固溶するため、結晶粒の整粒化が困難になる。また、鋼材の温度が上がり過ぎるため、ビレットの端部が熱変形するといった製造上の弊害も生じることになる。尚、このときの加熱時間については、製造工程に従って適宜設計することができる。また、加熱温度の好ましい下限は1025℃(より好ましくは1050℃以上)であり、好ましい上限は1225℃(より好ましくは1200℃以下)である。
この工程では、結晶粒径を調整することができる。800〜1000℃の温度範囲で熱間圧延または熱間鍛造を実施することで、本発明で規定する旧γの結晶粒径(平均円相当結晶粒径で6〜16μm)に調整することができる。このときの温度が800℃未満では、圧延や鍛造自体が困難になるばかりでなく、動的再結晶によって、結晶粒が細かくなり過ぎる。一方、このときの温度が1000℃を超えると、Al系窒素化合物が再固溶し始めるため、所望のAl系窒素化合物の形態を得ることができなくなる。尚、このときの加熱温度の好ましい下限は825℃(より好ましくは850℃以上)であり、好ましい上限は975℃(より好ましくは950℃以下)である。
熱間圧延や熱間鍛造を行なった後は、鋼材の加工発熱によって、鋼材温度が上昇することになる。ここでは、鋼材温度が上昇したときの温度で保持することが重要である。保持温度が低い場合には、固溶Nが加工によって発生する転位に引き寄せられるため、Al系窒素化合物が十分に生成せず、また固溶N量も所定量まで低減し難くなる。圧延材を3分以上保持することによって、微細なAl系窒素化合物を析出させることができ、また固溶N量を0.001%以下とすることができる。このときの保持時間が3分よりも短くなると、微細なAl系窒素化合物の析出量が不十分となり、固溶N量も増加するために、所望の組織が得られず、転動疲労寿命の向上が望めない。尚、保持時間は長時間化させてもよいが、製造条件に合わせて適宜決定することができる。また、保持時間の好ましい下限は5分(より好ましくは7分以上)である。
熱間圧延または熱間鍛造後の冷却速度を0.5〜2.0℃/秒とすることによって、所望のAl系窒素化合物サイズとすることができる。冷却速度が0.5℃/秒よりも遅くなった場合には、微細なAl系窒素化合物が更に成長し易く、所望のAl系窒素化合物サイズとすることができない。冷却速度が2.0℃/秒よりも速くなった場合には、Al系窒素化合物のサイズは変化しないものの、球状化後の硬さが高くなるため、加工が困難になるといった弊害が生じ始めることになる。尚、このときの冷却速度の好ましい下限は0.7℃/秒(より好ましくは0.8℃/秒以上)であり、好ましい上限は1.8℃/秒(より好ましくは1.6℃/秒以下)である。
Al系窒素化合物の分散状況の確認方法としては、熱処理後の試験片を切断し、この断面を研磨した後、その面にカーボン蒸着を行い、FE−TEM(電界放出型透過型電子顕微鏡)によりレプリカ観察を実施した。この際、TEMのEDX(エネルギー分散型X線検出器)によりAl系窒素化合物の成分を特定し、30000倍の倍率にてその視野の観察を行なった。このとき、1視野を16.8μm2とし、任意の3視野について観察し(合計50.4μm2)、粒子解析ソフト[「粒子解析III for Windows. Version3.00 SUMITOMO METAL TECHNOLOGY製」(商品名)]を用い、微細なAl系窒素化合物(最大直径:10〜50nmのAl系窒素化合物)の大きさ、個数(いずれも3視野の平均値)と、大きめのAl系窒素化合物(最大直径:200〜1000nmのAl系窒素化合物)の大きさ、個数(個数は100μm2当りに換算)を求めた。
各試験片の固溶N量は、JIS G 1228に準拠し、鋼中の全N量から全N化合物中のN量を差し引くことで算出した値である。
(b)前記全N化合物量は、アンモニア蒸留分離インドフェノール青吸光光度法を用いて決定した値である。10%AA系電解液(鋼表面に不働態皮膜を生成させない非水溶媒系の電解液であり、具体的には、10%アセチルアセトン、10%塩化テトラメチルアンモニウムを溶かしたメタノール溶液)中で、供試鋼素材から切り出したサンプルを電極にして定電流電解を行った。約0.5gのサンプルを溶解させ、不溶解残渣(N化合物)を、穴サイズが0.05μmのポリカーボネート製のフィルタでろ過した。不溶解残渣を、硫酸、硫酸カリウム、および純Cuチップ中で加熱して分解し、ろ液に合わせた。この溶液を水酸化ナトリウムでアルカリ性にした後、水蒸気蒸留を行い、留出したアンモニアを希硫酸に吸収させた。フェノール、次亜塩素酸ナトリウム、及びペンタシアノニトロシル鉄(III)酸ナトリウムを加えて青色錯体を生成させ、光度計を用いて、その吸光度を測定することで、全N化合物量を決定した。
(a)熱処理後の試験片を長手方向に対して垂直に切断した。
(b)その断面が観察できるように樹脂に埋め込み。
(c)エメリー紙、ダイヤモンドバフで試料表面を鏡面研磨した。
(d)旧オーステナイト粒界現出腐食を行ない、表層から150μm深さ位置を4箇所撮影した(400倍)。
(e)粒子解析ソフト[「粒子解析III for Windows. Version3.00 SUMITOMO METAL TECHNOLOGY製」(商品名)]を用い、画像を2値化し、各結晶粒径の円相当直径を算出し、その平均値を求めた(「平均結晶粒径」として採用)。
(f)夫々の視野の最大円相当結晶粒径、および最小円相当結晶粒径を求め、それらの比(最大円相当結晶粒径/最小円相当結晶粒径:「γ(大)/γ(小)」と表記)を算出した。
(g)4視野の平均値を、平均結晶粒径、最大円相当結晶粒径/最小円相当結晶粒径とした。
転動疲労試験で使用する一部の試験片については、疲労試験前の硬さを測定すると共に、各繰り返し負荷回数で試験を中断し、そのときの硬さを測定した。試験片を切断、断面を研磨し、ビッカース硬さ試験機を用い、試験片の硬さを測定した。このときの測定荷重は、300gfとし、硬さ測定位置は表層から0.2mm内部位置とした。
スラスト型転動疲労試験機にて、繰り返し速度:1500rpm、面圧:5.3GPa、中止回数:2×108回の条件にて、各鋼材(試験片)につき転動疲労試験を各16回ずつ実施し、疲労寿命L10(ワイプル確率紙にプロットして得られる累積破損確率10%における疲労破壊までの応力繰り返し数)を評価した。このとき、疲労寿命L10で5.0×106回以上を合格とした。
Claims (4)
- C:0.65〜1.3%(質量%の意味、以下同じ)、Si:0.05〜1.0%、Mn:0.10〜1.5%、P:0.05%以下(0%を含まない)、S:0.001〜0.015%、Cr:1.0〜2.0%、Al:0.5%以下(0%を含まない)、N:0.020%以下(0%を含まない)、Ti:0.005%以下(0%を含まない)およびO:0.0025%以下(0%を含まない)を夫々含む他、固溶N量が0.001%以下(0%を含む)であり、残部が鉄および不可避不純物からなり、鋼中に分散する下記に定義されるAl系窒素化合物で、最大直径:10〜50nmの前記Al系窒素化合物が100μm2当り100個以上存在し、最大直径:200〜1000nmの前記Al系窒素化合物が100μm 2 当り20個以上存在すると共に、旧オーステナイトの平均円相当結晶粒径が6〜16μmであり、且つ旧オーステナイトの最大円相当結晶粒径と最小円相当結晶粒径の比(最大円相当結晶粒径/最小円相当結晶粒径)が2.0以下であることを特徴とする転動疲労寿命に優れた鋼材。
Al系窒素化合物:AlN、およびAlNにMn,Cr,SまたはSiを一部(合計含有量が30%まで)に含有する化合物。 - 更に他の元素として、Mo:0.25%以下(0%を含まない)を含む請求項1に記載の転動疲労寿命に優れた鋼材。
- 更に他の元素として、Cu:0.25%以下(0%を含まない)および/またはNi:0.25%以下(0%を含まない)を含む請求項1または2に記載の転動疲労寿命に優れた鋼材。
- 更に他の元素として、Ca:0.05%以下(0%を含まない)、REM:0.05%以下(0%を含まない)、Mg:0.02%以下(0%を含まない)およびLi:0.02%以下(0%を含まない)よりなる群から選択される1種以上を含む請求項1〜3のいずれかに記載の転動疲労寿命に優れた鋼材。
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