JP5400589B2 - 転動疲労寿命に優れた鋼材 - Google Patents

転動疲労寿命に優れた鋼材 Download PDF

Info

Publication number
JP5400589B2
JP5400589B2 JP2009272005A JP2009272005A JP5400589B2 JP 5400589 B2 JP5400589 B2 JP 5400589B2 JP 2009272005 A JP2009272005 A JP 2009272005A JP 2009272005 A JP2009272005 A JP 2009272005A JP 5400589 B2 JP5400589 B2 JP 5400589B2
Authority
JP
Japan
Prior art keywords
less
rolling fatigue
grain size
fatigue life
based nitrogen
Prior art date
Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
Expired - Fee Related
Application number
JP2009272005A
Other languages
English (en)
Other versions
JP2011111667A (ja
Inventor
正樹 貝塚
智一 増田
亮廣 松ケ迫
Current Assignee (The listed assignees may be inaccurate. Google has not performed a legal analysis and makes no representation or warranty as to the accuracy of the list.)
Kobe Steel Ltd
Original Assignee
Kobe Steel Ltd
Priority date (The priority date is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the date listed.)
Filing date
Publication date
Application filed by Kobe Steel Ltd filed Critical Kobe Steel Ltd
Priority to JP2009272005A priority Critical patent/JP5400589B2/ja
Publication of JP2011111667A publication Critical patent/JP2011111667A/ja
Application granted granted Critical
Publication of JP5400589B2 publication Critical patent/JP5400589B2/ja
Expired - Fee Related legal-status Critical Current
Anticipated expiration legal-status Critical

Links

Landscapes

  • Heat Treatment Of Steel (AREA)

Description

本発明は、精密軸受、ミニアチュア軸受、小型軸受等の様に、転がり軸受の要素部材、例えばレース、ころ、鋼球等として用いられる鋼材に関するものであり、特に上記各種部材として用いたときに優れた転動疲労寿命を発揮する鋼材に関するものである。
上記各種用途に用いられる部品は、機械類の回転部や摺動部を支持する重要な部品であり、接触面圧が相当高く、また外力が変動することもあり、使用される環境が過酷である場合が多く、その素材である鋼材には、優れた耐久性が要求される。
一般的な軸受に用いられる鋼材(軸受鋼)としては、従来からJIS G 4805(1999)に規定されるSUJ2等の高炭素クロム軸受鋼が、自動車や各種産業機械等の種々の分野で用いられている軸受の素材として使用されている。近年、機械類の高性能化や軽量化が進められるに伴い、上記要求は年々厳しいものとなっている。軸部品の耐久性向上には、鋼材が転動疲労寿命に優れていることが特に重要な要件となる。
一般に、鋼材の転動疲労寿命は、鋼中に存在する硬質の酸化物系介在物が悪影響を及ぼすことが知られている。そこで、この酸化物系介在物の量を低減することによって、転動疲労寿命の向上を図るために、従来から主に鋼中酸素量を低減することが試みられてきた。現在までに、鋼中の酸素量を質量比で10ppm以下まで低減することが可能になっている。
酸化物系介在物を低減する技術として、これまでにも様々なものが提案されている。例えば特許文献1には、酸化物系介在物の単位体積当りの個数を一定量以下に制御することで、高い転動疲労寿命を実現する技術が提案されている。この技術では、転動疲労寿命を向上させるためには、酸化物系介在物の個数を低減するほど、その効果が得られることが開示されている。
しかしながら、酸化物系介在物の個数を低減する技術は、既に限界に達しており、これ以上酸化物系介在物を低減できたとしても、その製造コストに対する転動疲労寿命改善効果は僅かなものとなっている。
また、上記のような酸化物系介在物の低減に加えて、軸受表層の硬度を高める試みもなされている。例えば特許文献2には、TiやAlを鋼中に添加し、微細なTi炭化物、Ti炭窒化物、Al窒化物などの量を制御し、旧オーステナイト結晶粒(旧γ結晶粒)を微細化することによって、転動疲労寿命を向上させることが提案されている。
この技術では、表層の硬度を増加させることによって、転動疲労中のピッチング、フレーキングを抑制し、異物の発生・混入を低減することができるので、転動疲労寿命を改善できると報告されている。
上記の技術のように、表層の結晶粒を微細化することは、鋼材の延性を劣化させる懸念がある。また転動疲労中は、摺動面の温度上昇と歪みの蓄積によって、残留オーステナイトの変態、セメンタイトの分解という組織変化が生じ、その結果、固溶C(固溶炭素)量が増加し始める。この固溶Cは、動的歪み時効を生じさせ、鋼材を加工硬化させると共に、脆化が生じやすいという問題がある。そのため、高サイクル域では、鋼材が脆化するため、転動疲労寿命にバラツキが生じやすいという問題がある。
特開平3−126839号公報 特許第3591236号公報
本発明はこの様な事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、転動疲労中の動的歪み時効を抑制しつつ、良好な転動疲労寿命を安定して発揮できる鋼材を提供することにある。
上記目的を達成することのできた本発明に係る鋼材とは、C:0.65〜1.3%(質量%の意味、以下同じ)、Si:0.05〜1.0%、Mn:0.10〜1.5%、P:0.05%以下(0%を含まない)、S:0.001〜0.015%、Cr:1.0〜2.0%、Al:0.5%以下(0%を含まない)、N:0.020%以下(0%を含まない)、Ti:0.005%以下(0%を含まない)およびO:0.0025%以下(0%を含まない)を夫々含む他、固溶N量が0.001%以下(0%を含む)であり、残部が鉄および不可避不純物からなり、鋼中に分散する最大直径:10〜50nmのAl系窒素化合物が100μm2当り100個以上存在する点に要旨を有するものである。
尚、上記「最大直径」とは、各Al系窒素化合物の最も大きな部分の長さ(長径)を意味し、透過型電子顕微鏡(TEM)や走査型電子顕微鏡(SEM)の観察面上で認められるAl系窒素化合物のものである。また、本発明で対象とするAl系窒素化合物は、AlNは勿論のこと、Mn,Cr,S,Si等の元素を一部(合計含有量が30%程度まで)に含有するものも含む趣旨である(その詳細は後述する)。
本発明の鋼材においては、最大直径:200〜1000nmのAl系窒素化合物が100μm2当り20個以上存在すると共に、旧オーステナイトの平均円相当結晶粒径が6〜16μmであり、且つ旧オーステナイトの最大円相当結晶粒径と最小円相当結晶粒径の比(最大円相当結晶粒径/最小円相当結晶粒径)が2.0以下であることが好ましく、こうした要件を満足することによって、特性のバラツキを低減しつつ転動疲労寿命が更に優れたものとなる。
尚、上記「円相当結晶粒径」とは、各旧オーステナイトの大きさに着目して、その面積が等しくなるように想定した円の直径を求めたもので、光学顕微鏡や走査型電子顕微鏡(SEM)の観察面上で認められる旧オーステナイトのものである。
また、本発明の鋼材には、必要によって、更に他の元素として、(a)Mo:0.25%以下(0%を含まない)、(b)Cu:0.25%以下(0%を含まない)および/またはNi:0.25%以下(0%を含まない)、(c)Ca:0.05%以下(0%を含まない)、REM:0.05%以下(0%を含まない)、Mg:0.02%以下(0%を含まない)およびLi:0.02%以下(0%を含まない)よりなる群から選択される1種以上、等を含有させることも有用であり、含有される成分に応じて鋼材の特性が更に改善される。
本発明によれば、化学成分組成を適切に調整すると共に、所定の大きさのAl系窒素化合物を鋼材内に適切に分散させることによって、転動疲労寿命を更に向上させた鋼材が実現できるので、こうした鋼材を軸受等に適用したときには、過酷な環境で用いられても優れた転動疲労寿命を発揮できるものとなる。
微細(最大直径:10〜50nm)なAl系窒素化合物のミクロ組織(図面代用電子顕微鏡写真)およびEDX成分分析結果を示す図である。 大きめ(最大直径:200〜1000nm)のAl系窒素化合物のミクロ組織(図面代用電子顕微鏡写真)およびEDX成分分析結果を示す図である。 試験No.27で得られた鋼材(実施例)のミクロ組織を示す図面代用光学顕微鏡写真である。 疲労試験の回転数(回)と硬さの関係の代表例を示すグラフである。
本発明者らは、優れた転動疲労寿命を安定して発揮できる鋼材の実現を目指して、様々な角度から検討した。そして、鋼材の転動疲労寿命を向上させる上では、下記(A)〜(C)の要件を満足させることが有効であるとの知見が得られた。
(A)所定量のAl系窒素化合物が析出する様に、AlとNの含有量を高めると共に、Ti含有量を所定量以下に抑制すること、
(B)鋼材中の固溶N(固溶窒素)量を所定量以下に抑制すること、
(C)所定量以上のサイズのAl系窒素化合物を所定の範囲内とすること。
上記(A)の要件は、転動疲労寿命向上に有用なAl系窒素化合物を所定量生成させると共に、N化合物を全てAl系窒素化合物とする(Ti化合物を生成させない)上で有効な要件である。また、上記(B)の要件は、固溶Nによる動的歪み時効を抑制する上で有効で要件である。上記(C)の要件を満足させることによって、Al系窒素化合物が転動疲労寿命を向上させる効果を発揮することができる。
本発明者らは、上記知見に基づき、鋼材の転動疲労寿命を向上させるべく、更に鋭意研究を重ねた。その結果、Crを所定量以上含有させつつAlとNの含有量を高めとし、且つTi含有量や固溶N量を低減すれば、後述する所定の方法との組み合わせることで、鋼中に分散する最大直径:10〜50nmのAl系窒素化合物が100μm2当り100個以上存在するようにできること、そしてその結果鋼材の転動疲労寿命を著しく向上できることを見出し、本発明を完成した。
上記のような最大直径:10〜50nmのAl系窒素化合物(以下、「微細なAl系窒素化合物」と呼ぶことがある)は、母相に所定量分散させることで、特にセメンタイト粒界近傍のCr欠乏層(後述する)を改善し、良好な転動疲労寿命を達成することができる。この微細なAl系窒素化合物のサイズが、最大直径で10nm未満となると、Al系窒素化合物が転位によって分断され、固溶N量が増加することによって、固溶Nによる動的歪み時効の影響が現れ始めることになる。
一方、微細なAl系窒素化合物のサイズが、最大直径で50nmを超えると、セメンタイト粒界近傍のCr量を十分確保することができず、固溶Cによる動的歪み時効の影響が現れ始めることになる。また、セメンタイト粒界近傍のCr量を十分に確保するためには、最大直径:10〜50nmのAl系窒素化合物を100μm2当り100個以上確保する必要がある。このAl系窒素化合物が100μm2当り100個未満になると、セメンタイト粒界近傍のCr量を十分に確保することができず、固溶Cによる動的歪み時効の影響が現れ始める。
尚、微細なAl系窒素化合物のサイズは、好ましくは12nm以上(より好ましくは15nm以上)であり、好ましくは45nm以下(より好ましくは40nm以下)である。また、このAl系窒素化合物の個数は100μm2当り120個以上であることが好ましく、より好ましくは150個以上である。
ところで、上記のような微細なAl系窒素化合物について、本発明者らは、EDX(エネルギー分散型X線検出法)によって成分分析した。その結果、AlやNの他、Crが多く濃化していることが明らかになった。Crは一般的に、セメンタイトに濃化し易いために、セメンタイトと母相との界面で上記したようなCr欠乏層が生成することになる。転動疲労中は、セメンタイトと母相の界面で最も歪みが蓄積され易く、歪みの蓄積に伴ってセメンタイトが分解し、Cが固溶するようになる。
上記のようなCr欠乏層中の固溶Cが増加すると、容易に動的歪み時効が生じ、またその発生領域は局所的であるので、セメンタイトと母相の界面が硬化し、割れが発生し易くなる。上記のような微細なAl系窒素化合物は、Crを内包しつつ母相全体に均一に分散することになるので、Cr欠乏層においてもCrを供給することができる。このCrは、固溶Cによる動的歪み時効抑制効果があるので、セメンタイトと母相の界面における割れを抑制することができ、転動疲労寿命を向上させることができると考えられた。
微細なAl系窒素化合物のミクロ組織(図面代用電子顕微鏡写真)およびEDX成分分析結果を図1[図1(a)はミクロ組織、図1(b)はEDX分析結果]に示す。尚、この結果は、後記実施例の試験No.27のものである。
一般的な軸受鋼では、転動疲労中に温度が上がることによって、硬さが低下し始め、或る程度疲労が進行すると、セメンタイトの分解に伴う固溶Cの増加によって、動的歪み時効が生じるようになり、硬さが逆に増加し、早期に破断に至ることになる。こうした鋼材に対して、本発明の鋼材では、上記のような条件を満足することによって、転動疲労中に硬さが増加しにくくなる。その結果として、転動疲労による歪みの蓄積を鋼材全体で緩和することができ、転動疲労寿命を格段に向上させることができることになる。
本発明者らは、鋼材の転動疲労寿命をより一層向上させる要件として、更に検討を重ねたところ、(a)Mnを所定量含有して最大直径:200〜1000nmとなるAl系窒素化合物を所定量分散させることや、(b)旧オーステナイト(旧γ)の結晶粒径(平均円相当結晶粒径)を所定の範囲とすると共に、旧オーステナイトの結晶粒径のバラツキを低減すること、等も有用な要件であることを見出している。上記(a)、(b)の要件を満足させることによって、均一な焼入れ性を確保すると共に、動的歪み時効の更なる抑制を図ることができる。
上記のような最大直径:200〜1000nmのAl系窒素化合物(以下、「大きめのAl系窒素化合物」と呼ぶことがある)は、結晶粒(旧オーステナイトの結晶粒)の整粒化に有効である。通常のAl系窒素化合物のように、結晶粒の整粒効果を有しない一般鋼の場合は、製造工程における焼ならし時に結晶粒サイズにバラツキが生じることになる。結晶粒サイズがばらつくと、その後の焼入れ工程において、各結晶粒で焼入れの度合いに差が生じることになる。結晶粒が大きい場合には、パーライト変態が遅延されるために、全面がマルテンサイトになり易くなるが、結晶粒が細かい場合は、焼入れ能が下がるために、ベイナイト等、その他の相に変態することが多くなる。そのため、結晶粒を或る程度の大きさとし、且つ大きさを揃えることによって、鋼材全体の焼入れ能を高め、均一な組織を得ることができ、これによって転動疲労寿命を向上させることができる。
上記のような効果を発揮させるためには、大きめのAl系窒素化合物のサイズは最大直径で200〜1000nmとすることが有効である。この大きさが200nmよりも小さくなると、結晶粒の整粒効果が十分に得られず、転動疲労寿命を却って低下させることになる。また、大きさが1000nmよりも大きくなると、Al系窒素化合物の存在自体が疲労特性に対して有害となり始め、転動疲労寿命を低下させることになる。
また、大きめのAl系窒素化合物による結晶粒の整粒効果を発揮させるためには、最大直径:200〜1000nmのAl系窒素化合物を100μm2当り20個以上確保する必要がある。このAl系窒素化合物が100μm2当り20個未満になると、結晶粒の整粒効果が十分に得られず、転動疲労寿命が低下することになる。
尚、大きめのAl系窒素化合物のサイズは、好ましくは250nm以上(より好ましくは300nm以上)であり、好ましくは900nm以下(より好ましくは800nm以下)である。また、このAl系窒素化合物の個数は100μm2当り25個以上であることが好ましく、より好ましくは30個以上である。
上記のような大きめのAl系窒素化合物についても、本発明者らは、EDXによって成分分析した。その結果、AlやNの他、MnやSが多く濃化していることが明らかになった。即ち、大きめのAl系窒素化合物は、MnSを起点(核)として生成していることが分かる。MnSを核としているために、このAl系窒素化合物のサイズは、比較的大きなものとなる。
大きめのAl系窒素化合物のミクロ組織(図面代用電子顕微鏡写真)およびEDX成分分析結果を、図2[図2(a)はミクロ組織、図2(b)はEDX成分分析結果]に示す。尚、この結果は、後記実施例の試験No.27のものである。
上記した微細なAl系窒素化合物は、結晶粒の整粒化に十分な効果を発揮することができないが(但し、非常に微細な結晶粒を形成する場合には有効となる)、或る程度の大きさを有するAl系窒素化合物は、結晶粒を整粒化する効果を発揮する。結晶粒を微細化し過ぎると、動的歪み時効が発生し易くなるため、転動疲労寿命向上効果が有効に発揮されにくくなる。また、結晶粒が整粒化されていないと、焼入れ性にムラが生じるために、鋼材の硬さバラツキが大きくなり、転動疲労寿命が低下する。
MnSが多量に生成するような成分系では、個々のMnSが成長し過ぎるために、Al系窒素化合物の核となるべきMnSを確保することができなくなる。またMnSが少な過ぎても、Al系窒素化合物の核が十分に生成しないために、結晶粒を整粒化することが困難になる。
上記のような大きめのAl系窒素化合物を適切に分散させることによって、旧オーステナイトの結晶の整粒化が図れるものとなるが、このようにして得られる結晶組織は下記の要件を満足することが好ましい。即ち、旧オーステナイトの平均円相当結晶粒径が6〜16μmであり、且つ旧オーステナイトの最大円相当結晶粒径と最小円相当結晶粒径の比(最大円相当結晶粒径/最小円相当結晶粒径)が2.0以下であるという要件を満足することも好ましい。
旧オーステナイト(旧γ)の結晶粒径は、転動疲労寿命に影響を与える要件である。旧γの結晶粒径(平均円相当結晶粒径)を6〜16μmの範囲とすることによって、鋼材の硬さを高めて転動疲労寿命を更に改善することができる。旧γの結晶粒径は小さいほど、その向上効果は大きくなるが、6μmよりも小さくなると、転動疲労中に転位が蓄積し、鋼材の剥離が発生し易くなるため、転動疲労寿命の向上効果が得られない。旧γの最大円相当結晶粒径と最小円相当結晶粒径の比[最大円相当結晶粒径/最小円相当結晶粒径]が2.0を超え易くなり、鋼材の焼入れ性が結晶粒毎に変化するために、硬さにバラツキが生じ易くなる。一方、旧γの結晶粒径(平均円相当結晶粒径)が16μmを超えると、転動疲労中の歪みが局在化し易くなり、転動疲労寿命を却って低下させることになる。旧γの結晶粒径(平均円相当結晶粒径)は、より好ましくは8μm以上(更に好ましくは9μm以上)であり、より好ましくは14μm以下(更に好ましくは13μm以下)である。
また、鋼材の硬さのバラツキを抑制し、転動疲労寿命を向上させるためには、旧γの最大円相当結晶粒径と最小円相当結晶粒径の比[円相当最大結晶粒径/円相当最小結晶粒径]が2.0以下であることが好ましい。この値が小さいほど、鋼材の硬さのバラツキが小さくなるため、疲労寿命向上効果は大きくなる。しかし、上記比が2.0を超えるようになると、鋼材の硬さバラツキが大きくなり、転動疲労中に歪みが局在化し易くなるため、転動疲労寿命が低下することになる。上記比は、より好ましくは1.8以下(更に好ましくは1.6以下)である。
本発明の鋼材は、上記したAl、NおよびTiの含有量を含め、その化学成分組成(C、Si、Mn、P、S、Cr、Al、N、Ti、O)も適切に調整する必要があるが、これらの成分の範囲限定理由は下記の通りである。
[C::0.65〜1.3%]
Cは、焼入硬さを増大させる元素である。軸受の鋼球やころの疲労寿命は、焼入れ−焼戻し後の硬さに支配されるため、鋼球やころは所定値以上の硬さを有することが要求される。軸受に用いられる鋼材として、基本的な要求特性を満足させるためには、Cは0.65%以上含有させなければならず、好ましくは0.7%以上(より好ましくは0.8%以上)含有させることが望ましい。しかしながら、C含有量が多くなり過ぎると大きさ(円相当直径)で10μm以上の粗大の炭化物が残存し、この粗大炭化物が疲労寿命を劣化させるので、C含有量は1.3%以下、好ましくは1.2%以下(より好ましくは1.1%以下)に抑えるべきである。
[Si:0.05〜1.0%]
Siは、溶製中の脱酸元素として有効であり、また鋼材のマトリックスを固溶強化させ、転動疲労寿命の向上に有効な元素である。こうした効果を発揮させるためには、Siは0.05%以上含有させる必要があり、好ましくは0.1%以上(より好ましくは0.15%以上)含有させることが望ましい。しかしながら、Si含有量が多くなり過ぎると変形能の劣化や被削性の低下を招くので、Si含有量は1.0%以下、好ましくは0.9%以下(より好ましくは0.8%以下)に抑えるべきである。
[Mn:0.10〜1.5%]
Mnは、溶製中の脱酸元素として有効であり、またSと結合することで鋼材の変形能を向上させるために有効な元素である。また、大きめのAl系窒素化合物を析出させる上でも有効な元素である。これらの効果を発揮させるためには、Mnは0.10%以上含有させる必要があり、好ましくは0.15%以上(より好ましくは0.2%以上)含有させることが望ましい。また、Mn含有量が0.10%未満になると、Sの影響が顕在化して、変形能が低下し、割れが生じやすくなる。しかしながら、Mn含有量が多くなり過ぎると鋼材の焼なまし硬さを高め、被削性が低下するので、Mn含有量は1.5%以下、好ましくは1.2%以下(より好ましくは1.0%以下)に抑えるべきである。
[P:0.05%以下(0%を含まない)]
Pは、不可避的に不純物として含有する元素であるが、フェライト粒界に偏析し、変形能を劣化させる。またPは、フェライトを固溶強化させ、鋼材の硬さを増大させる。従って、Pは変形能の観点からは極力低減することが望ましいが、極端に低減することは製鋼コストの増大を招くことになる。こうしたことから、P含有量は、0.05%以下とした。好ましくは0.04%以下(より好ましくは0.03%以下)に低減するのが良い。尚、P含有量は少ないほど好ましいが、その含有量を0%とすることは、工業生産上、困難である。
[S:0.001〜0.015%]
Sは、不可避的に不純物として含有する元素であるが、Feと結合すると、FeSとして粒界上に析出するため、鋼材の変形能を劣化させる。従って、Sの全量をMnと結合させ、MnSとして析出させる必要がある。またMnSを析出させることによって、Al系窒素化合物のサイズを所定の範囲に制御することが可能となる。但し、MnSの析出量が過剰になると、Al系窒素化合物のサイズの制御が困難になるだけでなく、MnSが破壊の起点となるので、転動疲労寿命、変形能が低下する。こうしたことから、S含有量は、0.015%以下とする必要がある。好ましくは0.012%以下(より好ましくは0.011%以下)に低減するのが良い。一方、Sの極端な低減は被削性を劣化させるので、0.001%以上含有させることが推奨される。好ましくは0.002%以上(より好ましくは0.003%以上)含有させるのが良い。
[Cr:1.0〜2.0%]
Crは、セメンタイトに固溶することで耐摩耗性を向上させると共に、焼入れ性の向上に寄与する元素である。また、摺動面付近でセメンタイトが分解することによって生じる固溶Cを固着し、動的歪み時効を抑制する効果も発揮する。更に、微細なAl系窒素化合物を析出させる上でも有効な元素である。これらの効果を発揮させるには、Cr含有量は1.0%以上とする必要がある。好ましくは1.1%以上(より好ましくは1.2%以上)である。しかし、Cr含有量が過剰になると、粗大な炭化物が生成し、転動疲労寿命が却って低下する。従ってCr量は2.0%以下とする。好ましくは1.9%以下(より好ましくは1.8%以下)である。
[Al:0.5%以下(0%を含まない)]
Alは、溶製中の脱酸元素として有効であるばかりでなく、鋼中の固溶Nを低減させると共に、Al系窒素化合物を形成するのに重要な元素である。しかしながら、Al含有量が過剰になって0.5%を超えると、非金属介在物であるAl23が多く生成するようになり、転動疲労寿命が低下することになる。尚、上記の効果を発揮させるためには、Alは0.1%よりも多く含有させることが好ましい。より好ましくは0.13%以上(更に好ましくは0.15%以上)である。また好ましい上限は0.4%(より好ましくは0.3%以下)である。特に、Alは0.1%を超えて含有させることによって、MnSを起点とする比較的大きなAl系窒素化合物と、微細なAl系窒素化合物を生成させることができ、鋼材の転動疲労寿命を向上させることができる。
[N:0.020%以下(0%を含まない)]
Nは上記Alと同様に、本発明の鋼材において重要な役目を果たす元素であり、Al系窒素化合物を所定量確保し、転動疲労寿命を向上させる効果を発揮させる上で重要な元素である。しかしながら、N含有量が過剰になって0.020%を超えると、鋼材製造工程で固溶Nが残存し易くなり、転動疲労中の動的歪み時効によって、鋼材を脆化させ、転動疲労寿命を劣化させる。上記の効果を発揮させるためにはNを0.007%以上含有させることが好ましく、これによってAl系窒素化合物を所定量範囲まで増加させることができ、転動疲労寿命を向上させることができる。またN含有量が0.007%未満となると、必要とされるAl系窒素化合物を確保することができない可能性がある。尚、N含有量のより好ましい下限は、0.0075%(更に好ましくは0.008%以上)であり、好ましい上限は0.019%(より好ましくは0.018%以下)である。
[Ti:0.005%以下(0%を含まない)]
Tiは、比較的高温でTi系窒素化合物を形成し、冷却中に粗大化する。そのため、大型の介在物が増加することになり、転動疲労寿命を劣化させる。また、AlよりもTiの方が窒化物を形成する温度が高いので、Tiが過剰であると、Al系窒素化合物を形成するためのN量を低減させるという問題が生じる。こうしたことから、Ti含有量は極力低減する必要があり、0.005%以下と定めた。Ti含有量の好ましい上限は0.004%(より好ましくは0.003%以下)である。尚、Ti含有量は少ないほど好ましいが、その含有量を0%とすることは、工業生産上、困難である。
[O:0.0025%以下(0%を含まない)]
Oは、酸化物系介在物を形成し、転動疲労寿命を劣化させる弊害を生じさせる。特に、その含有量が0.0025%を超えると、転動疲労寿命の低下が著しくなる。こうしたことから、O含有量は0.0025%以下とする必要がある。O含有量は少ないほど好ましいが、極端な低減は疲労寿命の向上効果に対して製造コストの増大が大きくなる。また、その含有量を0%とすることは、工業生産上、困難である。O含有量の好ましい上限は0.002%(より好ましくは0.0018%以下)である。
[固溶N量:0.001%以下(0%を含む)]
固溶Nは、動的歪み時効を生じさせ、転動疲労寿命を劣化させるため、極力低減する必要がある。固溶N量を0.001%以下とすることで、動的歪み時効を抑制することができ、転動疲労寿命を向上させることができる。こうした観点から、固溶N量は0.001%以下に抑制する必要がある。尚、固溶N量の好ましい上限は0.0008%(より好ましくは0.0005%以下)である。固溶N量を低減する方法としては、窒素化合物元素との結合や、添加するN量の低減が挙げられるが、本発明においてはAl系窒素化合物を生成させることによって、固溶N量を低減する方法が用いられる。
本発明で規定する含有元素は上記の通りであって、残部は鉄および不可避不純物であり、該不可避不純物として、原料、資材、製造設備等の状況によって持ち込まれる元素の混入が許容され得る。尚、転動疲労寿命を高めるため、下記元素を規定範囲内で積極的に含有させることも可能である。
[Mo:0.25%以下(0%を含まない)]
Moは、鋼材の靭性を高め、転動疲労寿命を向上させる効果を有する元素である。しかしながら、Mo含有量が過剰になると、炭化物が安定化し過ぎて、硬さおよび転動疲労寿命を低下させてしまうことになる。またMoは高価な元素であるので、こうした点も考慮してその含有量は0.25%以下とすることが好ましい。より好ましくは0.20%以下(更に好ましくは0.15%以下である)。また上記の効果を有効に発揮させるためには、その含有量は0.02%以上とすることが好ましく、より好ましくは0.04%以上(更に好ましくは0.06%以上)である。
[Cu:0.25%以下(0%を含まない)および/またはNi:0.25%以下(0%を含まない)]
CuおよびNiは、いずれも鋼材の強度を高め、転動疲労寿命を向上させるのに有効な元素である。これらの効果は、いずれも0.03%以上含有させることによって有効に発揮される。しかしながら、いずれの含有量も0.25%を超えると、添加効果が飽和するばかりでなく、変形能、靭性が劣化し始める。尚、これらの元素のより好ましい下限は、いずれも0.05%(更に好ましくは0.07%以上)であり、より好ましい上限は0.20%(更に好ましくは0.15%以下)である。
[Ca:0.05%以下(0%を含まない)、REM:0.05%以下(0%を含まない)、Mg:0.02%以下(0%を含まない)およびLi:0.02%以下(0%を含まない)よりなる群から選択される1種以上]
Ca、REM(希土類元素)、MgおよびLiは、MnS等の硫化物系介在物を球状化させ、鋼材の変形能を高めると共に、被削性を向上させるのに有効な元素である。これらの効果は、CaまたはREMで0.0005%以上、Mg、Liで0.0001%以上含有させることによって有効に発揮される。しかしながら、過剰に含有させても効果が飽和し、含有量に見合う効果が期待できず不経済となるので、夫々上記範囲内とするべきである。尚、より好ましい上限は、CaまたはREMで0.015%(更に好ましくは0.01%以下)、Mg、Liで0.01%(更に好ましくは0.005%以下)である。また、より好ましい下限は、CaまたはREMで0.001%(更に好ましくは0.0015%以上)、MgまたはLiで0.0003%(更に好ましくは0.0005%以上)である。
焼入れ・焼戻し後に上記のようなAl系窒素化合物を分散させて、本発明の鋼材を得るためには、次の手順に従えば良い。まず鋼材の製造工程において、上記成分組成を満たす鋳片を用いて圧延した後、圧延材を1000〜1250℃に加熱(焼ならし工程)することで、析出しているAl系窒素化合物の一部を母相に溶け込ませると共に、旧γ結晶粒の整粒化を図る。その後、800〜1000℃で熱間圧延または熱間鍛造を実施し、結晶粒径を調整する。その後、熱間圧延または熱間鍛造後に、3分以上保持することで、残存しているAl系窒素化合物を成長させると共に、微細なAl系窒素化合物を析出させ、且つ固溶N量を0.001%以下とする。その後、Al系窒素化合物のサイズが変化しないように、0.5〜2.0℃/秒の冷却速度で冷却する。この製造方法において、各工程における条件設定理由は次の通りである。
[焼ならしでの加熱温度:1000〜1250℃]
圧延材を1000℃以上に加熱・保持することで、Al系窒素化合物の一部を母相に溶け込ませると共に、結晶粒の整粒化が図れることになる。このときの加熱温度が1000℃未満となると、Al系窒素化合物を母相に十分に溶け込ませることができず、その後の工程で微細なAl系窒素化合物が十分に得られず、また旧γ結晶粒が微細化し過ぎる等の組織上の弊害が生じることになる。加熱温度が高いほど、Al系窒素化合物の溶け込み量は増加するが、1250℃を超えると、Al系窒素化合物が全量固溶するため、結晶粒の整粒化が困難になる。また、鋼材の温度が上がり過ぎるため、ビレットの端部が熱変形するといった製造上の弊害も生じることになる。尚、このときの加熱時間については、製造工程に従って適宜設計することができる。また、加熱温度の好ましい下限は1025℃(より好ましくは1050℃以上)であり、好ましい上限は1225℃(より好ましくは1200℃以下)である。
[熱間圧延または熱間鍛造の温度:800〜1000℃]
この工程では、結晶粒径を調整することができる。800〜1000℃の温度範囲で熱間圧延または熱間鍛造を実施することで、本発明で規定する旧γの結晶粒径(平均円相当結晶粒径で6〜16μm)に調整することができる。このときの温度が800℃未満では、圧延や鍛造自体が困難になるばかりでなく、動的再結晶によって、結晶粒が細かくなり過ぎる。一方、このときの温度が1000℃を超えると、Al系窒素化合物が再固溶し始めるため、所望のAl系窒素化合物の形態を得ることができなくなる。尚、このときの加熱温度の好ましい下限は825℃(より好ましくは850℃以上)であり、好ましい上限は975℃(より好ましくは950℃以下)である。
[熱間圧延または熱間鍛造後の保持時間:3分以上]
熱間圧延や熱間鍛造を行なった後は、鋼材の加工発熱によって、鋼材温度が上昇することになる。ここでは、鋼材温度が上昇したときの温度で保持することが重要である。保持温度が低い場合には、固溶Nが加工によって発生する転位に引き寄せられるため、Al系窒素化合物が十分に生成せず、また固溶N量も所定量まで低減し難くなる。圧延材を3分以上保持することによって、微細なAl系窒素化合物を析出させることができ、また固溶N量を0.001%以下とすることができる。このときの保持時間が3分よりも短くなると、微細なAl系窒素化合物の析出量が不十分となり、固溶N量も増加するために、所望の組織が得られず、転動疲労寿命の向上が望めない。尚、保持時間は長時間化させてもよいが、製造条件に合わせて適宜決定することができる。また、保持時間の好ましい下限は5分(より好ましくは7分以上)である。
[熱間圧延または熱間鍛造後の冷却速度:0.5〜2.0℃/秒]
熱間圧延または熱間鍛造後の冷却速度を0.5〜2.0℃/秒とすることによって、所望のAl系窒素化合物サイズとすることができる。冷却速度が0.5℃/秒よりも遅くなった場合には、微細なAl系窒素化合物が更に成長し易く、所望のAl系窒素化合物サイズとすることができない。冷却速度が2.0℃/秒よりも速くなった場合には、Al系窒素化合物のサイズは変化しないものの、球状化後の硬さが高くなるため、加工が困難になるといった弊害が生じ始めることになる。尚、このときの冷却速度の好ましい下限は0.7℃/秒(より好ましくは0.8℃/秒以上)であり、好ましい上限は1.8℃/秒(より好ましくは1.6℃/秒以下)である。
本発明の鋼材は、球状化焼鈍の後、所定の部品形状にされ、引き続き焼入れ・焼戻しされて軸受部品等に製造されるものであるが、鋼材段階の形状についてはこうした製造に適用できるような線状・棒状のいずれも含むものであり、そのサイズも、最終製品に応じて適宜決めることができる。
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で変更を加えて実施することは勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
下記表1〜3に示す各種化学成分組成の鋼材(試験No.1〜74)を加熱炉で1200℃に加熱した後、熱間鍛造して断面が155mm×155mmのビレットとした。得られたビレットを1000〜1250℃に加熱して焼ならしした後、800〜1000℃に加熱して熱間圧延または熱間鍛造を行い(熱間圧延の場合には、ダミービレットに溶接)、直径:70mmの丸棒材を作製した。引き続き、様々な時間で保持した後、様々な冷却速度(平均冷却速度)で冷却して圧延材または鍛造材を得た。このときの製造条件を下記表4〜6に示す。
上記圧延材または鍛造材を、795℃(保持時間:6時間)で球状化焼鈍を施した後、切削によって皮削りを行なった。その後、直径:60mm、厚さ:5mmの円盤を切り出し、840℃で30分間加熱後の油焼入れを実施し、160℃で120分間焼戻しを実施した。最終的に仕上げ研磨を施して、表面粗さがRa(算術平均粗さ)で0.04μm以下となる試験片を作製した。
上記で得られた試験片を用い、下記の条件にてAl系窒素化合物の大きさ、個数、固溶N量、旧オーステナイト(旧γ)の結晶粒径[平均円相当結晶粒径、最大円相当結晶粒径、最小円相当結晶粒径、およびこれらの比(最大円相当結晶粒径/最小円相当結晶粒径)]を測定すると共に、試験片の硬さおよび転動疲労寿命を評価した。
[Al系窒素化合物の大きさ、個数の測定]
Al系窒素化合物の分散状況の確認方法としては、熱処理後の試験片を切断し、この断面を研磨した後、その面にカーボン蒸着を行い、FE−TEM(電界放出型透過型電子顕微鏡)によりレプリカ観察を実施した。この際、TEMのEDX(エネルギー分散型X線検出器)によりAl系窒素化合物の成分を特定し、30000倍の倍率にてその視野の観察を行なった。このとき、1視野を16.8μm2とし、任意の3視野について観察し(合計50.4μm2)、粒子解析ソフト[「粒子解析III for Windows. Version3.00 SUMITOMO METAL TECHNOLOGY製」(商品名)]を用い、微細なAl系窒素化合物(最大直径:10〜50nmのAl系窒素化合物)の大きさ、個数(いずれも3視野の平均値)と、大きめのAl系窒素化合物(最大直径:200〜1000nmのAl系窒素化合物)の大きさ、個数(個数は100μm2当りに換算)を求めた。
[固溶N量の測定]
各試験片の固溶N量は、JIS G 1228に準拠し、鋼中の全N量から全N化合物中のN量を差し引くことで算出した値である。
(a)前記全N量は、不活性ガス融解法−熱伝導度法を用いて決定した値である。供試鋼素材から切り出したサンプルをるつぼに入れ、不活性ガス気流中で融解してNを抽出し、熱伝導度セルに搬送して熱伝導度の変化を測定することで、全N量を決定した。
(b)前記全N化合物量は、アンモニア蒸留分離インドフェノール青吸光光度法を用いて決定した値である。10%AA系電解液(鋼表面に不働態皮膜を生成させない非水溶媒系の電解液であり、具体的には、10%アセチルアセトン、10%塩化テトラメチルアンモニウムを溶かしたメタノール溶液)中で、供試鋼素材から切り出したサンプルを電極にして定電流電解を行った。約0.5gのサンプルを溶解させ、不溶解残渣(N化合物)を、穴サイズが0.05μmのポリカーボネート製のフィルタでろ過した。不溶解残渣を、硫酸、硫酸カリウム、および純Cuチップ中で加熱して分解し、ろ液に合わせた。この溶液を水酸化ナトリウムでアルカリ性にした後、水蒸気蒸留を行い、留出したアンモニアを希硫酸に吸収させた。フェノール、次亜塩素酸ナトリウム、及びペンタシアノニトロシル鉄(III)酸ナトリウムを加えて青色錯体を生成させ、光度計を用いて、その吸光度を測定することで、全N化合物量を決定した。
[旧オーステナイト(旧γ)の結晶粒径の測定]
(a)熱処理後の試験片を長手方向に対して垂直に切断した。
(b)その断面が観察できるように樹脂に埋め込み。
(c)エメリー紙、ダイヤモンドバフで試料表面を鏡面研磨した。
(d)旧オーステナイト粒界現出腐食を行ない、表層から150μm深さ位置を4箇所撮影した(400倍)。
(e)粒子解析ソフト[「粒子解析III for Windows. Version3.00 SUMITOMO METAL TECHNOLOGY製」(商品名)]を用い、画像を2値化し、各結晶粒径の円相当直径を算出し、その平均値を求めた(「平均結晶粒径」として採用)。
(f)夫々の視野の最大円相当結晶粒径、および最小円相当結晶粒径を求め、それらの比(最大円相当結晶粒径/最小円相当結晶粒径:「γ(大)/γ(小)」と表記)を算出した。
(g)4視野の平均値を、平均結晶粒径、最大円相当結晶粒径/最小円相当結晶粒径とした。
[試験片の硬さの測定]
転動疲労試験で使用する一部の試験片については、疲労試験前の硬さを測定すると共に、各繰り返し負荷回数で試験を中断し、そのときの硬さを測定した。試験片を切断、断面を研磨し、ビッカース硬さ試験機を用い、試験片の硬さを測定した。このときの測定荷重は、300gfとし、硬さ測定位置は表層から0.2mm内部位置とした。
[疲労寿命の測定]
スラスト型転動疲労試験機にて、繰り返し速度:1500rpm、面圧:5.3GPa、中止回数:2×108回の条件にて、各鋼材(試験片)につき転動疲労試験を各16回ずつ実施し、疲労寿命L10(ワイプル確率紙にプロットして得られる累積破損確率10%における疲労破壊までの応力繰り返し数)を評価した。このとき、疲労寿命L10で5.0×106回以上を合格とした。
Al系窒素化合物の大きさ、個数、固溶N量、旧オーステナイト(旧γ)の結晶粒径(平均円相当結晶粒径、最大円相当結晶粒径、最小円相当結晶粒径、γ(大)/γ(小))を下記表7〜9に、試験片の硬さ(転動疲労試験前および転動疲労試験中の硬さ)、および転動疲労試験結果を下記表10〜12に、夫々示す。尚、疲労試験中の硬さについては、代表的なものとして疲労試験を1.0×107回転後の硬さを示した。
これらの結果から、次のように考察することができる。即ち、試験No.1、3〜5、7〜11、13〜15、17、20、21、23、25〜48、50〜53、70〜74のものは、本発明で規定する要件(化学成分組成、Al系窒素化合物の大きさ、個数)を満足するものであり(総合判定「◎」)、いずれも優れた転動疲労寿命が達成されていることが分かる。尚、試験No.49のものは、本発明で規定する好ましい要件(化学成分組成、大きめのAl系窒素化合物の大きさ、個数)を外れるものであるが、良好な転動疲労寿命が発揮していることが分かる(総合判定「○」)。
これに対し、試験No.2、6、12、16、18、19、22、24、54〜69のものは、本発明で規定する要件のいずれかが外れているため、いずれも転動疲労寿命が低くなっている(総合判定「×」)。
このうち、試験No.2、6、12、16、18、19、22、24のものは、製造条件(焼きならし加熱温度、圧延/鍛造温度)が適切でないので、Al系窒素化合物の大きさや個数、旧γ結晶粒径が本発明で規定する範囲(または好ましい範囲)を外れているものであり(製造条件の判定「×」)、いずれも転動疲労寿命が低くなっている。
試験No.54〜69のものは、本発明で規定する化学成分組成を外れるものであり(化学成分組成の判定「×」)、いずれも転動疲労寿命が低くなっている。
試験No.27で得られた鋼材(実施例)のミクロ組織(旧γ平均結晶粒径:10.3μm、最大結晶粒径/最小結晶粒径:1.9のもの)を、図3(図面代用光学顕微鏡写真)に示す。また、試験No.27のもの(実施例)と、試験No.67のものに(比較例)について、疲労試験の回転数(回)と硬さの関係の代表例として、図4に示す。
図4の結果から明らかなように、本発明鋼材(実施例)のものでは、回転数の増加に伴って、硬さが低下しているために、転動疲労寿命が向上しているものと考えられる。これに対して、比較例のものでは、一旦硬さが低下するものの、回転数の増加に伴い、セメンタイトの分解によって生じた固溶Cによる動的歪み時効が生じるため、硬さが増加し、転動疲労寿命が低下するものと考えられる。

Claims (4)

  1. C:0.65〜1.3%(質量%の意味、以下同じ)、Si:0.05〜1.0%、Mn:0.10〜1.5%、P:0.05%以下(0%を含まない)、S:0.001〜0.015%、Cr:1.0〜2.0%、Al:0.5%以下(0%を含まない)、N:0.020%以下(0%を含まない)、Ti:0.005%以下(0%を含まない)およびO:0.0025%以下(0%を含まない)を夫々含む他、固溶N量が0.001%以下(0%を含む)であり、残部が鉄および不可避不純物からなり、鋼中に分散する下記に定義されるAl系窒素化合物で、最大直径:10〜50nmの前記Al系窒素化合物が100μm2当り100個以上存在し、最大直径:200〜1000nmの前記Al系窒素化合物が100μm 2 当り20個以上存在すると共に、旧オーステナイトの平均円相当結晶粒径が6〜16μmであり、且つ旧オーステナイトの最大円相当結晶粒径と最小円相当結晶粒径の比(最大円相当結晶粒径/最小円相当結晶粒径)が2.0以下であることを特徴とする転動疲労寿命に優れた鋼材。
    Al系窒素化合物:AlN、およびAlNにMn,Cr,SまたはSiを一部(合計含有量が30%まで)に含有する化合物。
  2. 更に他の元素として、Mo:0.25%以下(0%を含まない)を含む請求項に記載の転動疲労寿命に優れた鋼材。
  3. 更に他の元素として、Cu:0.25%以下(0%を含まない)および/またはNi:0.25%以下(0%を含まない)を含む請求項1または2に記載の転動疲労寿命に優れた鋼材。
  4. 更に他の元素として、Ca:0.05%以下(0%を含まない)、REM:0.05%以下(0%を含まない)、Mg:0.02%以下(0%を含まない)およびLi:0.02%以下(0%を含まない)よりなる群から選択される1種以上を含む請求項1〜のいずれかに記載の転動疲労寿命に優れた鋼材。
JP2009272005A 2009-11-30 2009-11-30 転動疲労寿命に優れた鋼材 Expired - Fee Related JP5400589B2 (ja)

Priority Applications (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2009272005A JP5400589B2 (ja) 2009-11-30 2009-11-30 転動疲労寿命に優れた鋼材

Applications Claiming Priority (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2009272005A JP5400589B2 (ja) 2009-11-30 2009-11-30 転動疲労寿命に優れた鋼材

Publications (2)

Publication Number Publication Date
JP2011111667A JP2011111667A (ja) 2011-06-09
JP5400589B2 true JP5400589B2 (ja) 2014-01-29

Family

ID=44234232

Family Applications (1)

Application Number Title Priority Date Filing Date
JP2009272005A Expired - Fee Related JP5400589B2 (ja) 2009-11-30 2009-11-30 転動疲労寿命に優れた鋼材

Country Status (1)

Country Link
JP (1) JP5400589B2 (ja)

Families Citing this family (2)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP5868099B2 (ja) * 2011-09-27 2016-02-24 山陽特殊製鋼株式会社 靭性、耐磨耗性に優れる鋼
CN115216587B (zh) * 2022-06-02 2023-11-24 大冶特殊钢有限公司 一种改善高碳铬轴承钢大型模铸钢锭锻材成分与组织均匀性的方法及高碳铬轴承钢

Family Cites Families (4)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP3591236B2 (ja) * 1997-09-04 2004-11-17 日本精工株式会社 転がり軸受
JP3889931B2 (ja) * 2001-01-26 2007-03-07 Jfeスチール株式会社 軸受材料
JP4608979B2 (ja) * 2003-09-29 2011-01-12 Jfeスチール株式会社 疲労特性に優れた鋼材および高周波焼入れ用鋼素材
JP2007297677A (ja) * 2006-04-28 2007-11-15 Jfe Steel Kk 疲労特性に優れた軸受用鋼部品

Also Published As

Publication number Publication date
JP2011111667A (ja) 2011-06-09

Similar Documents

Publication Publication Date Title
JP4709944B2 (ja) 肌焼鋼、浸炭部品、及び肌焼鋼の製造方法
EP1669469B1 (en) Steel parts for machine structure, material therefor, and method for manufacture thereof
KR101367350B1 (ko) 냉간 가공성, 절삭성, 침탄 담금질 후의 피로 특성이 우수한 표면 경화 강 및 그 제조 방법
JP5114689B2 (ja) 肌焼鋼及びその製造方法
WO2011040587A1 (ja) 機械構造用鋼とその製造方法、及び、肌焼鋼部品とその製造方法
JP5484103B2 (ja) 高強度機械部品用素材鋼板およびその製造方法並びに高強度機械部品製造方法
JP5400591B2 (ja) 冷間加工性に優れた軸受用鋼
WO2008032816A1 (fr) Acier à outils pour formage à chaud présentant d'excellentes qualités de rigidité et de résistance à des températures élevées, et son procédé de production
JP4923776B2 (ja) 転がり、摺動部品およびその製造方法
JP5260460B2 (ja) 肌焼鋼部品およびその製造方法
CN111411293A (zh) 高速工具及其制造方法
JP5262740B2 (ja) 浸炭時の粗大粒防止特性と疲労特性に優れた肌焼鋼とその製造方法
JP4899902B2 (ja) 高温浸炭用鋼材
JP2011117009A (ja) 転動疲労寿命に優れた鋼材
EP3467133B1 (en) Case-hardened steel and manufacturing method therefor as well as gear component manufacturing method
JP4569961B2 (ja) ボールネジまたはワンウェイクラッチ用部品の製造方法
JP5050515B2 (ja) クランクシャフト用v含有非調質鋼
JP5400589B2 (ja) 転動疲労寿命に優れた鋼材
JP5402711B2 (ja) 浸炭窒化層を有する鋼製品およびその製造方法
WO2015115336A1 (ja) 肌焼鋼及びこれを用いた浸炭部品
JP5976581B2 (ja) 転動疲労特性に優れた軸受用鋼材、および軸受部品
JP2021127504A (ja) 軸受軌道用鋼材、および軸受軌道
JP2021127503A (ja) 軸受軌道用鋼材、および軸受軌道
JP6705344B2 (ja) 浸炭時の粗大粒防止特性と疲労特性に優れた肌焼鋼およびその製造方法
JP6172378B2 (ja) 肌焼鋼鋼線

Legal Events

Date Code Title Description
A621 Written request for application examination

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A621

Effective date: 20110901

A131 Notification of reasons for refusal

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A131

Effective date: 20130806

A521 Written amendment

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A523

Effective date: 20131003

TRDD Decision of grant or rejection written
A01 Written decision to grant a patent or to grant a registration (utility model)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A01

Effective date: 20131022

A61 First payment of annual fees (during grant procedure)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A61

Effective date: 20131025

R150 Certificate of patent or registration of utility model

Ref document number: 5400589

Country of ref document: JP

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R150

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R150

LAPS Cancellation because of no payment of annual fees