JP6728612B2 - 軸受部品 - Google Patents

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Description

本発明は、各種の産業機械や自動車に使用される「球軸受」や「コロ軸受」として好適に用いることができる、転動疲労寿命に優れた軸受部品に関する。
自動車用途の軸受部品においては、近年、エンジンの高出力化や部品の軽量化のニーズによって、使用条件が過酷なものとなっており、より長い転動疲労寿命が求められるようになってきた。軸受部品の疲労寿命を高める技術は、例えば、特許文献1〜5に開示されている。
特開2006−63402号公報 特開2014−15632号公報 特開2012−62526号公報 特開2015−7265号公報 特開2007−210070号公報
村上敬宜、金属疲労 微小欠陥と介在物の影響(1993)、養賢堂
特許文献1には、質量%で、Oが0.0010%以下であり、かつSが0.004%以下である高炭素クロム軸受鋼の鋼材であって、その鋼材の長手方向縦断面において、超音波疲労試験の破壊起点である介在物径の大きさ分布を極値統計処理したとき、144mm中に予測される最大介在物径√areaが45μm以下であり、かつ破壊起点である介在物中の平均のアスペクト比が7以下であり、さらに破壊起点である介在物が酸化物の場合、あるいは硫化物の場合、それぞれにおける介在物組成について限定した「圧延軸受鋼鋼材」が開示されている。
本発明者らも、特許文献2で、質量%で、C:0.95〜1.2%、Si:0.15〜0.35%、Mn:0.05〜0.5%、P:0.025%以下、S:0.010%以下、Cr:0.80〜1.80%、Al:0.005%を超えて0.040%以下、Ca:0.0003〜0.0012%およびO:0.0010%以下を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物からなり、下記の[1]〜[3]式を満足する化学成分を有する軸受鋼を提案した。
0.70≦Ca/O≦1.80・・・[1]
Ca/O≧1250S−5.80・・・[2]
20≦Mn/S≦170・・・[3]
特許文献3には、質量%で、Oが0.0010%以下であり、かつSが0.004%以下である高炭素クロム軸受鋼の鋼材であって、その鋼材の長手方向縦断面において、超音波疲労試験の破壊起点である介在物径の大きさ分布を極値統計処理した時、144mm3中に予測される最大介在物径√areaが45μm以下であり、かつ破壊起点である介在物の平均のアスペクト比が7以下であり、さらに破壊起点である介在物が酸化物の場合、あるいは硫化物の場合、それぞれにおける介在物組成について限定した「圧延軸受鋼鋼材」が開示されている。
これらの鋼の疲労破壊の起点になりうる粗大介在物のサイズを評価する方法としては、非特許文献1に、極値統計を利用したものが記載されている。
特許文献4には、ショットピーニングを施すことで転動疲労寿命を改善した転動軸が開示されている。特許文献4では、ショットピーニング処理を施して、表面硬化層を形成することで転動疲労寿命の向上を図っている。
特許文献5には、金属部材に対して、すくい面をネガティブ方向に30〜50°の範囲で傾けた工具を用いて旋削加工を施す技術が開示されている。特許文献5では、当該技術により、ショットピーニングのような工程を施さなくても、圧縮残留応力を付与して曲げ疲労強度を高めることができる、とされている。
特許文献1で開示されている鋼は、疲労破壊の起点となりうる酸化物系および硫化物系の介在物の組成を制御し、転動疲労特性を向上させたものである。しかし、組成や形態を制御した介在物からも疲労き裂が生成する問題があり、これらのき裂の進展の抑制については考慮されていない。
また、本発明者らが提案した特許文献2の軸受鋼は、溶鋼段階で起こるAl23の凝集および粗大化を抑制するために、Ca、OおよびS量を制御したものである。この発明鋼は、粗大なAl23の生成を抑制することで転動疲労寿命を向上させている。ただし、転動疲労寿命に影響する介在物組成については詳細に検討していない。
特許文献3で開示されている鋼は、疲労破壊の起点となりうる酸化物系および硫化物系の介在物の組成を制御し、転動疲労特性を向上させたものである。しかし、実際の破壊起点となる介在物は必ずしも酸化物あるいは硫化物として別個に存在するものではないという問題がある。また、粗大介在物を転動疲労特性に対して無害化するために必要な、溶鋼段階および凝固段階での介在物組成・形態の制御については考慮されていない。
特許文献4で開示されている部品は、ショットピーニング処理を施して、表面硬化層を形成することで転動疲労寿命の向上を図っている。しかし、コスト面からは、ショットピーニングを省略しながら、優れた転動疲労特性を得ることが求められている。
特許文献5で開示されている技術は、ショットピーニングのような工程を施さなくても、圧縮残留応力を付与して曲げ疲労強度を高めることができる、とされているが、転動疲労特性の向上には言及されていない。また、作業能率やコスト面からは、切削加工時に工具摩耗を抑制することも望まれる。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、鋼中の非金属介在物、特に溶鋼段階および凝固後の鋼材に含まれる酸硫化物の組成および形態を適切に制御した後、切削加工後の金属組織および算術平均粗さを制御することにより、ショットピーニングのような工程を施さなくても、転動部材の過酷な使用環境下において、優れた転動疲労寿命を確保でき、しかも被削性にも優れた軸受部品を提供することにある。
一般に、転動疲労破壊は、鋼材中に存在する介在物に繰返し荷重が加わり、応力集中によってき裂が生じ、その後、繰返し荷重によってき裂が徐々に進展し、最終的に剥離に至る現象である、と理解されている。
そこで、本発明者らは、介在物の組成と形態に及ぼすCaの影響に着目して検討を行い、下記の(a)〜(e)の重要な知見を得た。
(a)酸化物は転動疲労の応力集中限となる。鋼中の酸化物がAl23を主体とするものである場合には、Oの含有量を低減させた場合でも、凝集、合体して粗大な介在物として存在すると良好な転動疲労寿命が得られない場合がある。
(b)アルミキルド鋼(以下、「Alキルド鋼」という)の溶鋼にCaを添加した場合には、脱酸生成物Al23はCaと反応し、低融点酸化物の(Al、Ca)Oに変化する。このとき、溶鋼中で酸化物は球状化し、凝集粗大化が抑制される。
(c)さらに、Ca、S、Mgを添加したAlキルド鋼では、溶鋼の凝固時に、Sが液相に濃化するのに従い、始めに生成した球状の(Al、Ca)Oに含まれるCaOが、鋼中のAl、Mg、Sと
3CaO + 2Al + 3S → Al23 + 3CaS
CaO + Mg + S → MgO + CaS
の反応を起こす。そのため、酸化物の組成に占めるCaOの比率が減少し、Al23およびMgOの比率が高くなる。特に、安定性の高いAlとMgの酸化物であるであるAl2MgO4が増加する。また、この反応により生ずるCaSは、酸化物の周囲に付着し、酸化物との複合介在物を形成する。
(d)(c)に示した反応によりCaSが生成すると、相対的に粗大なMnSが減少する。
(e)以上の反応により、Al、S、Mgを含有する軸受用鋼にCaを添加すると、溶鋼段階ではAl23が低融点の(Al、Ca)Oに変化して凝集粗大化が抑制され、続く凝固段階では、CaS生成によって粗大なMnSの生成が抑制される。
このように粗大な介在物が減少する結果、転動疲労寿命は向上する。
なお、酸化物としては、SiO2、MnOなども生成するが、その酸化物全体に対する割合は低い。
さらに、本発明者は、残留オーステナイトの体積率および安定度を適切に制御した上で、仕上げ切削加工すると、軸受部品表面近傍の残留オーステナイトがマルテンサイトに加工誘起変態するため、内部介在物を起点として発生したき裂の部品表面近傍における進展が抑制され、結果として転動疲労寿命が向上するとの知見を得た。
本発明は、上記の技術的思想とそれに基づく知見によって完成されたものであり、その要旨は、下記に示す軸受鋼にある。
質量%で、C:0.95〜1.2%、Si:0.05〜0.25%、Mn:0.2〜0.5%、P:0.025%以下、S:0.0005〜0.01%、Cr:1.0〜1.8%、Al:0.005〜0.04%、Ca:0.0003〜0.0030%、Mg:0.0001〜0.003%、O:0.0003〜0.0030%、Cu:0〜1.0%、Ni:0〜3.0%、Mo:0〜0.15%、V:0〜0.30%、Nb:0〜0.10%、 B:0〜0.0030%およびTi:0〜0.10%を含み、残部はFeおよび不可避的不純物からなる組成を有し、かつ、
超音波疲労試験の破壊起点である介在物が、以下の(A)〜(D)を満たし、
表面から200μm深さの範囲での最大残留オーステナイト体積率が8〜20%であり、
表面から20μmの深さ位置での残留オーステナイト体積率と、表面から200μm深さの範囲で最大残留オーステナイト体積率との、比が0.7以下であり、
表面に厚さ1〜10μmの塑性流動組織を有する
ことを特徴とする軸受部品。
(A)鋼材の圧延方向と垂直方向に採取した超音波疲労試験片の破壊起点に観察される介在物径の分布を極値統計処理した時、被検体積144mm3中に予測される最大介在物径√areaが45μm以下である。
(B)超音波疲労試験の破壊起点に現れる介在物のうちの50%以上が、酸化物と硫化物をともに質量%で5%以上含む、酸化物と硫化物の複合介在物である。
(C)介在物中の酸化物をCaO−Al23−MgOの3元系酸化物と見なしたときに、その平均組成における質量%での含有量がCaO:0〜20%、MgO:10%超40%以下である。
(D)介在物全体の平均組成に占めるCaS、MnSの質量%での含有量がそれぞれ10〜60%、0〜20%の範囲にある。
本発明の軸受部品は、化学組成と、非金属介在物の組成および形態と、金属組織について改良を加えている。その結果、転動疲労寿命に優れ、各種の産業機械や自動車に使用される「球軸受」や「コロ軸受」といった転がり軸受部品として好適に用いることができる。
図1は、切削加工された転動疲労試験片から表層組織観察用の試験片を採取する際の、試験片および観察位置を示す図であり、(a)は組織観察用の試験片が切り取られた転動疲労試験片の正面図であり、(b)は切り取った組織観察用試験片の側面図である。 図2は、試験片のSEM像の一例を示す写真である。 図3は、丸棒から切り出し、溶接、焼ならし、高温保持、炉冷、球状化焼きなましが施された板材を示す正面図である。 図4は、図3に示す板材を示す平面図である。 図5は、粗加工の超音波疲労試験片を示す平面図である。 図6は、仕上げ加工がなされた超音波疲労試験片を示す平面図である。 図7は、転動疲労試験片の粗加工品を示す図であり、(a)はその正面図であり、(b)はその側面図である。 図8は、転動疲労試験片を示す図であり、(a)はその正面図であり、(b)はその側面図である。
以下、本発明の各要件について詳しく説明する。なお、各元素の含有量の「%」は、「質量%」を意味する。
<軸受部品>
(A)軸受鋼の化学組成
C:0.95〜1.2%
Cは、焼入れ時の硬さを確保して転動疲労寿命を向上させる元素であり、0.95%以上とする必要がある。しかしながら、Cの含有量が1.2%を超えると、転動疲労寿命は向上するものの、棒鋼圧延工程における加熱段階で、粗大な初析セメンタイトが多く分散することになり、冷間鍛造性の悪化を招く。また硬さの上昇を招き、切削加工時の工具寿命の低下、焼割れの原因となる。C含有量の好ましい下限は0.97%である。好ましい上限は1.1%である。
Si:0.05〜0.25%
Siは、焼戻し軟化抵抗を高めて転動疲労寿命を向上させるのに必要な元素であり、0.05%以上含有させなければならない。しかしながら、0.25%を超えてSiを含有させると、母材の硬さが高くなる上、工具と鋼の凝着が起こりやすくなるため、切削時の工具磨耗を増大させる。Siの好ましい下限は0.10%である。好ましい上限は0.20%である。
Mn:0.2〜0.5%
Mnは、鋼の焼入性を高めるとともに、鋼中の残留オーステナイトを増加させる。その結果、部品の転動疲労特性が向上する。しかし、MnS含有量が0.2%以下では、この効果が得られない。一方、Mn含有量が0.5%を超えると、残留オーステナイトの安定性が高くなりすぎ、切削時に十分な加工誘起変態が生じない。Mnの好ましい下限は0.25%である。好ましい上限は0.45%である。
P:0.025%以下
Pは、不純物として鋼中に含まれ、結晶粒界に偏析して転動疲労寿命を低下させる。特に、その含有量が0.025%を超えると、転動疲労寿命の低下が著しくなる。Pの含有量は、極力低くすることがよく、好ましくは0.020%以下である。
S:0.0005%以上0.010%未満
Sは、本発明を特徴づける、重要な元素である。Sは、鋼の凝固時に球状酸化物中のCaOと反応し、CaSを含む複合介在物を形成することによって、球状酸化物に占めるAl23およびMgOの比率を高める効果をもつ。そのため、Sの含有量は0.0005%以上が必要である。しかし、Sが0.010%以上含まれている場合には、Caに対して過剰となり、CaSを形成せずに残ったSは、凝固の最終段階で溶鋼中のMnとMnSを形成する。これは粗大な介在物となりやすいため、転動疲労寿命の向上という観点からは避けるべきである。好ましいSの含有量は0.006%以下、さらに望ましくは0.004%以下である。
Cr:1.00〜1.80%
Crは、鋼の焼入れ性を高めるとともに、セメンタイトを熱的に安定化させ、高温域におけるセメンタイトのマトリックス中への固溶を抑止する作用を有する。また、Crには、鋼材のMs点を低下させる効果がある。その結果、焼入れ後に残留オーステナイトが生成し、転動疲労寿命向上に有効な元素である。この効果はCrの含有量が1.00%以上で発揮される。しかしながら、Crの含有量が1.80%を超えると、残留オーステナイトの安定性が高くなりすぎ、切削時に十分な加工誘起変態が生じないため、転動疲労寿命の低下を招く。Cr含有量の好ましい下限は1.1%である。好ましい上限は1.6%である。
Al:0.005〜0.040%
Alは、脱酸作用を有する。この効果を得るためには、Alを0.005%以上含有する必要がある。しかし、その含有量が0.040%を超えると粗大な酸化物として残存しやすくなり、転動疲労寿命および被削性の低下が著しくなる。Al含有量の好ましい下限は0.01%であり、好ましい上限は0.038%である。
Ca:0.0003〜0.0030%
Caは、酸化物として適量の(Al、Ca)Oを形成する。(Al、Ca)Oが形成されれば、溶鋼と介在物の間の界面エネルギーが低下し、酸化物の凝集力が低下する。そのため、鋼中の酸化物の粗大化が抑制され、転動疲労寿命が高まる。また、Caは鋼中のSと結びつき、CaSあるいは(Mn、Ca)Sを形成することによって、Sが最終凝固部に集まり、粗大なMnSを形成することを抑制している。上述したCaの各効果は、Caの含有量が0.0003%以上で発揮される。しかしながら、Caの含有量が0.0030%を超えると、上記効果が飽和するだけではなく、酸化物がCaOを多く含む粗大介在物を形成しやすい組成のものとなり、結果として転動疲労寿命の低下を招く場合がある。Ca含有量の好ましい上限は0.0025%、さらに好ましくは0.0020%である。
Mg:0.0001%以上0.0030%以下
Mgは、凝固段階で酸化物中のOと結びつき、酸化物組成をCaOの多いものから(Al、Mg)Oの多いものに変化させる反応を促進する。このMgの効果は、Mgの含有量が0.0001%以上で発揮される。しかしながら、Mgが0.0030%を超えると、MgOの単独組成の酸化物が多量に形成され、転動疲労寿命の低下を招く場合がある。Mg量の好ましい上限は0.0010%、さらに好ましくは0.0008%である。
O:0.0003〜0.0030%
Oは、酸化物を形成する。Oは不可避的に鋼中に含有されるものであるが、本発明では意図的にCaOを形成させるために0.0003%以上のOが必要である。Oの含有量が多くなって、特に、0.0030%を超えると、酸化物が粗大化し、転動疲労寿命および被削性の低下を招く。Oの含有量の好ましい下限は、0.0005%であり、限好ましい上限は0.0020%、さらに好ましくは0.0015%である。
N:0.003〜0.030%
Nは、鋼中のAlと結合してAlNを形成し、焼入れ部の結晶粒粗大化を抑制する作用を持つ。この効果を得るためには、Nの含有量を0.003%以上とする必要がある。しかし、その含有量が0.030%を超えると粗大な窒化物を生成し、転動疲労寿命の低下を招くおそれがある。
なお、焼入れ部の結晶粒粗大化の抑制効果を得るため、後述するVおよびNbのうちの1種以上を含有する場合には、これらの元素の窒化物を生成させる必要がある。そのため、VおよびNbのうちの1種以上を含有する場合には、N含有量の好ましい下限は0.0050%である。
また、焼入れ性向上効果を得るため、後述するように、BおよびTiを含有する場合には、BとNの結合を極力抑制する必要がある。そのため、BおよびTiを含有する場合には、N含有量の好ましい上限は0.010%であり、さらに好ましくは0.008%である。
0.7≦Ca/O≦2.0
Caが酸化物(Al、Ca)Oを形成し、酸化物の凝集および粗大化をより安定的に抑制するためには、Ca量とO量の含有量のバランスが重要である。そのため、0.7≦Ca/O≦2.0となるように制御することが好ましい。
−0.0030<Ca−1.25S<0.0005
Sは凝固段階で酸化物(Al、Ca)O中のCaと反応することによって、酸化物中のCaOを低下させる。そのためSは、溶鋼および酸化物内のCaとCaSを形成するだけの量が存在することが好ましい。その一方で、Caと反応する量を大きく超えてSが存在すると、粗大なMnS生成の原因となる。以上のことから、Ca量とS量の関係は、−0.0030<Ca−1.25S<0.0005を満たすのが好ましい。
残部
本発明の軸受鋼は、上述の各元素を含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなるものである。なお、「不可避的不純物」とは、鋼を工業的に製造する際に、原料としての鉱石、スクラップ、または製造環境などから混入するものであって、本発明に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
なお、本発明の軸受鋼鋼材には、上述のFeの一部に代えて、上述するように、Pb、Cu、Ni、Mo、VおよびNbから選択される1種以上の元素ならびに/または、BおよびTiを現有させてもよい。
[軸受部品の化学組成(任意選択的要件)]
Pb:0.5%以下
Pbは選択元素であり、含有されなくてもよい。Pbを含有した場合、工具摩耗の低減、及び切り屑処理性の向上などの被削性が良好となる。しかしながら、Pb含有量が高すぎれば、鋼の強度及び靱性が低下し、転動疲労寿命も低下するため、Pb含有量の上限は0.5%以下とすることが好ましい。このようなPbの効果を安定して得るためには、Pbの含有量は0.03%以上とすることが好ましい。Pb含有量のさらに好ましい上限は0.4%以下である。
Cu:1.0%以下
Cuは、CやMnと同様に、焼入れ後に転動部に必要な硬さを確保させる作用を有するため、含有させてもよい。しかしながら、Cuの含有量が1.0%を超えると、転動疲労寿命の低下を招き、また熱間加工性が低下する場合がある。一方、Cuの上記効果は、その含有量が0.05%以上の場合に安定して得られる。
Ni:0.3%以下
Niは、鋼の焼入れ性を高め、残留オーステナイトを増加させる。しかしながら、Niの含有量が0.3%を超えると、焼入れ及び焼戻し後の残留オーステナイトが過剰となり、切削加工時にも十分な加工誘起マルテンサイトが発生せず、部品の転動疲労寿命の低下を招く場合がある。一方、Niの上記効果は、その含有量が0.05%以上の場合に安定して得られる。
Mo:0.15%以下
Moも、CやMnと同様に、焼入れ後に転動部に必要な硬さを確保させる作用があるため、含有させてもよい。しかしながら、0.15%を超えてMoを含有させても上記効果は飽和する上、焼戻し後の残留オーステナイトが過剰となり、切削加工時にも十分な加工誘起マルテンサイトが発生せず、部品の転動疲労寿命の低下を招く場合がある。一方、Moの上記効果は、その含有量が0.02%以上の場合に安定して得られる。
上記のCu、NiおよびMoは、そのうちのいずれか1種のみ、または、2種以上を含有させることができる。これらの元素を複合して含有させる場合の合計量は、最大1.45%とすることができる。
本発明に係る軸受鋼は、焼入れ時に高温に加熱されるため、結晶粒粗大化抑制作用を有するVとNbの1種以上を以下に示す範囲で含有させてもよい。
V:0.30%以下
Vは、Nと結合して窒化物を形成するため、焼入れ部の結晶粒粗大化を抑制する作用がある。さらに、Vには、Cと結合することで母材の強度を上昇させる作用もある。したがって、Vを含有させてもよい。ただし、0.30%を超えてVを含有させても焼入れ部の結晶粒粗大化を抑制する効果が飽和し、さらに母材の強度が高くなりすぎて工具摩耗が増大してしまう場合がある。十分な被削性を確保するためのV含有量の上限は、好ましくは0.20%である。一方、Vの上記効果は、その含有量が0.01%以上の場合に安定して得られる。
Nb:0.10%以下
Nbは、Nと結合して窒化物を形成するため、焼入れ部の結晶粒粗大化を抑制する作用がある。さらに、Nbには、Cと結合することで母材の強度を上昇させる作用もある。したがって、Nbを含有させてもよい。ただし、0.10%を超えてNbを含有させても焼入れ部の結晶粒粗大化を抑制する効果が飽和し、さらに母材の強度が高くなりすぎて工具磨耗が増大してしまう場合がある。十分な被削性を確保するためのNb含有量の上限は、好ましくは0.05%である。一方、Nbの上記効果は、その含有量が0.01%以上の場合に安定して得られる。
上記のVおよびNbは、そのうちのいずれか1種のみ、または、2種を含有させることができる。これらの元素を複合して含有させる場合の合計量は、最大0.40%とすることができる。本発明に係る軸受鋼鋼材には、より良好な焼入れ性を確保するために、VおよびNbを、次に述べる量のBとTiを複合して含有させてもよい。
B:0.0030%以下
Bは、微量の含有で鋼の焼入れ性を大きく向上させて、焼入れ後に転動部に必要な硬化層深さを一層大きくすることができる元素であるため、含有させてもよい。しかしながら、Bの含有量が0.0030%を超えてもその効果は飽和してしまう。一方、Bの上記効果は、その含有量が0.0005%以上の場合に安定して得られる。
Ti:0.10%以下
Bを含有することによって焼入れ性が向上するのは、Bが化合物ではなく、固溶状態で存在する場合である。そのため、BがNと結合してBNを形成した場合には、Bによる焼入れ性向上効果は期待できない。したがって、上記の量のBを含有させる際、BよりもNとの親和力が大きく窒化物形成能が強いTiを複合して含有させる。しかしながら、0.10%を超える量のTiを含有させても、Nを固定する効果が飽和するばかりか、粗大なTiNが多量に生成してしまうため、転動疲労寿命が低下する場合がある。一方、Tiの上記効果は、その含有量が0.005%以上の場合に安定して得られる。
(B)非金属介在物
(B−1)非金属介在物のサイズ
本発明においては、鋼材の圧延方向と垂直方向に採取した超音波疲労試験片を疲労破壊させた際の、破壊起点に存在する介在物の径の分布を極値統計処理した時、被検体積144mm3中に予測される最大介在物径√areamaxが45μm以下でなければならない。ここで、被検体積144mm3とは、以下に説明するように、転動疲労試験片の被検体積である。
以下に、非特許文献1に示されている極値統計処理によって、転動疲労試験片の被検体積中の最大介在物径√areamaxを予測する方法を説明する。
まず、鋼材の圧延方向と垂直方向に採取した超音波疲労試験片を用いた疲労試験を行い、疲労破壊後の破壊起点に存在する介在物の径である√areaを、各鋼種n本の試験片で評価する。nは10以上の整数である。√areaを評価する際には、介在物を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、介在物の長径と短径を測定し、√area=(長径×短径)1/2として、各試験片でそれぞれ起点介在物径√areaを求める。複数の介在物が連なって存在している場合には、まとめて1つの介在物と見なし評価する。但し、連なった介在物のうち小さい方の√areaより介在物間の隙間のほうが大きい場合には、両者を分断された介在物と見なし、隙間のほうが小さい場合には両者をまとめて1つの介在物とする。
予測体積である転動疲労試験の被検体積をV、検査基準体積である超音波疲労試験片の体積をV0とする。超音波疲労試験片n本の破壊起点に存在する介在物の径√areaを小さい方から並べ、それぞれ√areaj(j=1〜n)とする。これらに対して累積分布関数Fjおよび基準化変数yj
j=j/(n+1)
j=−ln(−ln(Fj))
の式により計算する。√areajとyjの間に直線関係が成り立つと見なし、最小二乗法で√areajとyjの関係を求め、最大介在物径の分布直線
√area=a×y+b ・・・[4]
を計算する。
そして、予測体積と検査基準体積から再帰期間Tおよびそれに対応する基準化変数yを
T=(V+V0)/V0
y=−ln[−ln[(T−1)/T]]
によって求め、yを上記[4]式の最大介在物分布直線に代入したときの√areaを、転動疲労試験片の被検体積中の、予測最大介在物径√areamaxとする。
転動疲労試験の被検体積(V)は、後述の実施例で用いる森式転動疲労試験の試験片10枚分の被検体積とする。転動疲労寿命をL10寿命によって評価しており、その際には転動疲労試験片10枚で試験を行うためである。試験に用いる転動体の直径は9.53mmで、最大接触応力は5230MPaであるため、ヘルツ応力がかかる軌道の幅は0.7mm、最大応力の90%以上がかかる深さは0.17mmである。また、軌道の半径は19.25mmであるため、試験片1枚分の被検体積は2π×19.25mm×0.7mm×0.17mm=14.4mm3である。従って転動疲労試験の被検体積Vは、14.4mm3×10P=144mm3である。
また、後述の実施例で用いた超音波疲労試験片では、最大応力の90%以上がかかる被検体積は46.1mm3であるため、V0=46.1mm3である。VおよびV0から、本発明の実施例の再帰期間に対応する基準化変数yを求めると、y=1.28となる。
(B−2)酸化物と硫化物の複合介在物の比率
以下では、各鋼種の、超音波疲労試験片に破壊起点に現れる介在物のうちの、酸化物と硫化物をともに質量%で5%以上含む複合介在物の比率を、「複合介在物の比率」と呼ぶ。本発明の鋼においては、複合介在物の比率が50%以上でなければならない。複合介在物の比率がこの範囲から外れることは、本発明を特徴づける介在物制御である、CaによるAl23酸化物凝集の抑制あるいは、CaOとSとの反応による組成変化が起こらず、粗大なクラスター状のAlや(Al、Ca)Oのまま残存した介在物が存在することを意味する。これらの介在物は、CaおよびSとの反応により酸化物組成が制御された複合介在物に比べ、転動疲労寿命に対し有害となるため、鋼材の転動疲労寿命が低下する。
(B−3)酸化物の平均組成
本発明においては、超音波疲労試験片の破壊起点に現れる介在物に含まれる酸化物をCaO−Al23−MgOの3元系酸化物と見なしたときに、その平均組成における質量%での含有量がCaO:0〜20%、MgO:10%超40%以下の範囲になければならない。
以下に、各酸化物組成の限定理由を示す。
CaO:0〜20%
Alキルド鋼の介在物において、CaOは、低融点の球状介在物である(Al、Ca)Oを形成する。CaOが20%以上存在する場合には、酸化物に占める(Al、Ca)Oの割合が半分以上と高くなるが、(Al、Ca)Oは鋼材のマトリックスと比較してヤング率が低い介在物であるため、転動疲労時には介在物周囲で負荷応力が局所的に増大し、疲労き裂の発生および進展が促進され、結果として転動疲労寿命が低下する。そのため、本発明の鋼において酸化物中に最終的に残存するCaOを、20%以下とした。
MgO:10%超40%以下
鋼の凝固段階で、濃化した溶存SとCaOが反応しCaSが生成して、CaOが減少する方向に酸化物組成を変化させる。この反応は、酸化物Al2MgO4が形成する条件において最も促進される。凝固後の段階で酸化物中のMgOが10%以下となる条件では、酸化物中のCaOの減少が十分に起こっておらず、転動疲労寿命に有害な(Al、Ca)Oが残存している。また、MgOの酸化物全体に占める割合が、Al2MgO4に占めるMgOの割合である28%を大きく越える条件、特に40%を超える場合には、単独のMgOが生成しやすく、これらは凝集して粗大なクラスターとなりやすい。
(B−4)介在物中に占める硫化物の含有量
さらに、本発明においては、超音波疲労試験片の起点に現れる介在物全体の平均組成に占めるCaS、MnSの質量%での含有量がそれぞれ10〜60%、0〜20%の範囲になければならない。以下に、各硫化物の含有量の限定理由を示す。
CaS:10〜60%
本発明で規定する鋼は、溶鋼の段階でAl23の凝集がCaにより抑制され、酸化物が(Al、Ca)Oとなった後に、凝固の段階で酸化物中のCaがSと反応し、Al23,MgOの割合が高い酸化物とCaSの複合介在物となることを特徴とする鋼である。凝固段階で生成したCaSの一部は、酸化物に付着し、複合介在物となるため、介在物の組成および形態制御が適切に行われた際には、超音波疲労起点に現れる複合介在物にCaSが含まれる。最終的な酸化物の組成が(B−3)で規定する範囲に含まれていても、介在物全体に占めるCaSの含有量が10%未満である場合には、溶鋼の段階から凝固終了後までの間、酸化物中に含まれるCaが少ないままであり、Al23の凝集のCaによる抑制が不十分であることが考えられる。また、CaSの含有量が60%を超える場合には、溶鋼の段階で酸化物中のCaの含有量が高く、単独のCaOが存在していており、酸化物の凝集の抑制が不十分であると考えられる。
MnS:0〜20%
溶鋼中のSの中で、酸化物中のCaとCaSを形成しなかったものは、凝固最終段階でMnSを形成する。超音波疲労試験の破壊起点となった介在物の平均組成が、20%を超えるMnSを含有している場合には、酸化物やCaS、およびそれらの複合介在物だけではなく、MnSを主体とする介在物が粗大な介在物として存在する。これらのMnSを主体とする粗大な介在物は、転動疲労寿命に害を与えるものであり、よって、MnS生成量を20%以下に抑える必要がある。MnSは起点に現れる介在物中に全く含まれなくてもよい。
なお、(B−2)に示した複合介在物の判別や、(B−3)、(B−4)に示した酸化物組成および介在物中の硫化物の含有量の測定は、以下の(1)〜(7)に示す方法で介在物の各成分の量を求めることによって行う。
(1)超音波疲労試験片の破壊起点に現れた介在物すべてを含むようにエネルギー分散型X線分光法の面分析を行い、介在物の平均組成に対応するスペクトルを得る。
(2)得られたスペクトルから介在物中のMg、Al、S、Ca、Mnのモル分率を求める。以下では各元素のモル分率を[Mg]、[Al]、[S]、[Ca]、[Mn]とする。
(3)Mnは優先的にSと結びつくため、[S]、[Mn]のうち少ない方を、介在物全体に占めるMnSのモル分率とする。以下ではこれを{MnS}とする。
(4)残ったSはCaと結びつくため、[S]−{MnS}、[Ca]のうち少ない方をCaSのモル分率とする。以下ではこれを{CaS}とする。
(5)CaSを形成しなかったCaは酸化物を形成する。そのため[Ca]−{CaS}を、CaOのモル分率とする。
(6)Mg、Alは超音波疲労起点の介在物では酸化物を形成するため、[Mg]、[Al]/2をそれぞれMgO、Al23のモル分率とする。
(7)各試験片の破壊起点の介在物について、(3)〜(6)で求めた各化合物のモル分率から各化合物の質量分率を求め、これを各試験片から得られた破壊起点介在物について平均することにより、酸化物の組成および介在物中に占めるCaS、MnSの含有量を求める。
[軸受部品の組織]
本実施形態に係る軸受部品は、その表面から20μmの深さの組織が、マルテンサイト及び残留オーステナイトからなり、表面から200μm深さの範囲での最大残留オーステナイト体積率(R1)が8〜20%であり、表面から20μmの深さ位置(以下、単に「基準位置」と称する場合がある)での残留オーステナイト体積率(R2)と、表面から200μm深さの範囲で最大残留オーステナイト体積率との、比(M)が0.7以下であり、表面に厚さ1〜10μmの塑性流動組織を有する。
残留オーステナイトはマルテンサイト相中に含まれるため、光学顕微鏡による組織観察では、マルテンサイトと残留オーステナイトを区別することができない。そこで、部品の残留オーステナイトの体積率を、次の方法で測定する。
即ち、部品の表面にφ3mmの穴が開いたマスキングを施し、電解研磨を施す。11.6%の塩化アンモニウムと、35.1%のグリセリンと、53.3%の水とを含有する電解液を準備する。この電解液を用いて、基準位置を含む表面を、+20Vの電圧で電解研磨する。電解研磨の時間を変化させることで研磨量を調整し、20μm深さの穴を開ける。
続いて、電解研磨された穴底面の残留オーステナイト量を測定する。測定には市販のX線回折装置を使用することができる。光源にはCr管球を使用する。X線回折により得られたbcc構造の(221)面と、fcc構造の(220)面の回折ピークの積分強度比に基づいて、残留オーステナイトの体積率を測定する。
(表面から200μm深さの範囲での最大残留オーステナイト体積率(R1):8〜20%)
残留オーステナイトは、切削加工時に加工誘起マルテンサイト変態を発生する。その結果、表面の強度が上昇し、部品の転動疲労寿命が上昇する。このような効果を得るためには、最大残留オーステナイト体積率(R1)が少なくとも8%存在しなければならない。一方、残留オーステナイトは軟質であるため体積率(R1)が20%を超えるとかえって強度が低下する。従って、体積率(R1)は8〜20%に限定する。体積率(R1)は10〜18%とすることが好ましい。なお、上述した電解研磨方法と同じ方法を用いて、表面から10μmピッチで200μm深さまで測定した残留オーステナイトの体積率のうち最大の値を、最大残留オーステナイト体積率(R1)とした。
(基準位置での残留オーステナイト体積率(R2)と、表面から200μm深さの範囲で最大残留オーステナイト体積率(R1)との、比(M(=R2/R1))が0.7以下)
Mは、切削加工時の加工誘起マルテンサイト変態の程度を表す。Mが小さいと、切削加工時により多くの加工誘起マルテンサイト変態が発生したことを意味し、部品の転動疲労特性が向上する。上記の効果を得るためにはMが0.7以下でなければならない。なお、好ましいMの値は0.65以下である。
(表面に厚さ1〜15μmの塑性流動組織が存在すること)
表層の塑性流動組織の厚さは次の方法で測定される。図1は、切削加工された転動疲労試験片から表層組織観察用の試験片を採取する際の、試験片および観察位置を示す図であり、(a)は組織観察用の試験片が切り取られた転動疲労試験片の正面図であり、(b)は切り取った組織観察用試験片の側面図である。同図に示すように、転動疲労試験片11から表層組織観察用試験片12を切り出すに際し、図1に示すような、試験片11の表面を含み、円の接線に平行かつ表面に垂直な面が観察面(12a)になるような試験片12を採取する。鏡面研磨した試験片を、5%ナイタール溶液で腐食する。腐食された面を、倍率5000倍の走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察する。得られたSEM像の一例を図2に示す。同図において、塑性流動組織21は、中心部22に対して組織が試験片の周方向(図2において紙面の右方向から左方向)に湾曲している部分であり、試験片の表面から湾曲した組織の端までの距離を塑性流動組織21の厚さと定義した。
本実施形態に係る軸受部品を製造する際には、切削加工時に、表層に大きな変形が生じ、塑性流動組織が形成される。この塑性流動組織は硬質であり、厚さが1μm以上になると部品の転動疲労寿命が向上する。しかし、塑性流動組織は脆いため、その厚さが薄い場合にはある程度変形が可能であるが、厚さが10μmを超えると、割れが生じて亀裂の発生起点となるため、部品の転動疲労寿命が逆に低下する。さらに、厚さが10μmを超えると、仕上げ加工時の工具への負担が大きくなり、工具寿命が著しく低下する。従って、表層の塑性流動組織の厚さは1〜10μmに限定した。
以上示したように、本実施形態に係る軸受部品では、介在物の害を小さくした特定の成分の鋼材に対して加工誘起変態を発生させて硬質の加工誘起マルテンサイトを十分に存在させることで、転動疲労寿命、及び被削性を高めることができる。
<軸受部品の製造方法>
次に、上述の軸受部品の製造方法の一例を説明する。
[精錬工程]
精錬工程では、溶鋼を精錬する。精錬はたとえば、RH(Ruhrstahl−Heraeus)を用いた真空脱ガス処理である。本実施形態に係る軸受鋼の製造方法では、溶鋼を精錬する際の脱酸剤の投入順序が重要となる。本発明では、脱酸時に加える元素であるC、Al、Caの原料を、この順に加えることを特徴とする。
溶鋼をCで脱酸し、生成するCOを系外に排出した後、溶鋼にAlを投入し、溶鋼をAl脱酸する。好ましくは、Al脱酸後の溶鋼中のO含有量(全酸素量)を0.0030%以下にする。そしてAl脱酸後、Caを溶鋼に投入して脱酸を行う。Caによる脱酸にはたとえば、Ca−Si合金の添加や、CaO−CaF2フラックスを用いることができる。Caによる脱酸後、真空脱ガス処理を含む精錬をさらに実施してもよい。以上の工程により、上記の化学成分および介在物をもつ溶鋼を製造する。
最初にC脱酸を行うのは、Al脱酸前に酸素をCOとして系外に排出することによって、Al脱酸で生成する酸化物の量を低減させるためである。
また、Al脱酸の後、Caによる脱酸を行うのは、Al23酸化物が(Al、Ca)Oに変化し、凝集が抑制されるためである。また、Alより先にCa添加をすると、単独のCaOが生成し、粗大なクラスターとなり鋼材内に残りやすく、転動疲労寿命に対し有害となるためでもある。
なお、MgOを形成する強脱酸元素である微量Mgの添加の方法および順序については、特に規定しない。例えば、MgOを含む炉壁の一部が還元されてMgが溶鋼中に混入し、本発明の請求項で規定したMg量の条件を満たしたものでもよい。
[鋳造工程]
精錬後の溶鋼を用いて、鋳片を製造する。
本実施形態では、鋳込み中の鋳片の冷却速度RCを、50℃/分以下とするのが好ましい。冷却速度とは、溶鋼を鋳型内で凝固させる際、鋳型短辺中央の内側面から鋳型中心までの距離の1/2部において、液相線温度から固相線温度までの平均冷却速度である。冷却速度RCが50℃/分を超えれば、鋳込み中において、生成した粗大酸化物系介在物が浮上する前にトラップされ、その結果、介在物径が粗大となりやすくなる。また、溶鋼中で未凝固部に濃化したSとの反応が十分に起こらないまま周囲の鋼が凝固するため、酸化物がCaOを多く含んだまま残存する。RCは数値計算によって容易に求めることができる。
製造された鋳片や鋼塊を、熱間加工して、ビレットを製造する。ビレットを、熱間加工により棒鋼にする。この際には、圧下比が6以上の圧延を行うのが望ましい。圧下比が大きいほど比較的軟質な介在物は延伸する傾向があるが、圧下比が6以上であれば、圧延方向と平行な断面で測定した予測最大介在物径√areamaxに大きな差は生じない。圧下比は、鋳片の断面積を最終の圧下によって得られた圧延軸受鋼鋼材の断面積で除した値を示すものである。
棒鋼には、恒温保持した後、徐冷して球状炭化物を析出させる、球状化焼なましを施す。球状化焼なまし後は、棒鋼を空冷する。
[粗加工品の製造工程]
上記の棒鋼を加工して粗加工品を製造する。加工方法は周知の方法でよい。例えば、熱間加工、冷間加工、切削加工等を用いることができる。粗加工品は、最終部品に近い形状とする。
(恒温保持処理)
粗加工後、恒温保持処理を施す。恒温保持処理は、次の条件で行う。
恒温保持温度(T1):810〜880℃
恒温保持温度T1が低すぎれば、カーボンポテンシャル等の雰囲気制御が困難になり、残留オーステナイトの体積率が調整しにくい。一方、T1が高すぎれば、焼入れ時に生じる歪みが増大して、焼割れが発生する場合がある。従って、恒温保持温度T1は、例えば810〜880℃とすることができる。
カーボンポテンシャル(Cp):0.5〜1.2%
恒温保持処理時におけるカーボンポテンシャルCpが低すぎれば、Cが外部に放出されて焼入れ後の残留オーステナイトが少なくなり、表層硬さが低下し、部品の転動疲労特性が低下する。一方、Cpが高すぎれば、硬質な初析セメンタイトが多く析出して切削加工時の工具摩耗が増大し、被削性が低下する。従って、Cpは、例えば0.5〜1.2%とすることができる。
恒温保持時間(t1):30〜120分
恒温保持時間t1が短すぎれば、温度が均一にならず、焼入れ時に生じる歪みが増大して、焼割れが生じる場合がある。一方、t1が長すぎれば、生産性が低下する。従って、t1は、例えば30〜120分とすることができる。
(焼入れ処理)
上記恒温保持処理後、周知の方法で焼入れ処理を施す。焼入れ処理としては、例えば、油焼入れが挙げられる。
(焼戻し処理)
上記焼入れ処理を施した後、焼戻し処理を施す。焼戻し処理を行えば、製品部材の靱性が高まる。さらに、Cが拡散して炭化物の前駆体を生成するため、残留オーステナイトが不安定化して、切削加工時に加工誘起マルテンサイト変態が発生しやすくなる。焼戻し処理は次の条件で行われる。
焼戻し温度(T2):150〜200℃
焼戻し温度T2が低すぎれば、上記焼戻しによる効果が得られない。一方、焼戻し温度が高すぎれば、残留オーステナイトが著しく不安定化して、焼戻し中に残留オーステナイトが分解する。さらに、分解せずに残留したオーステナイトは、熱処理歪みから解放されて安定化するため、切削加工時に十分な加工誘起マルテンサイト変態が発生しない。従って、T2は、例えば150〜200℃とすることができる。
焼戻し時間(t2):60〜180分
焼戻し時間t2が短すぎれば、上記焼戻しの効果が得られない。一方、焼戻し時間t2が長すぎれば、残留オーステナイトが著しく不安定化して、焼戻し中に残留オーステナイトが分解する。さらに、分解せずに残留したオーステナイトは、熱処理歪みから解放されて安定化するため、切削加工時に十分に加工誘起マルテンサイト変態が発生しない。従って、t2は、例えば60〜180分とする。
[切削加工工程]
上記焼戻し処理を経た後、切削加工工程を行う。切削加工工程により、製品部材の形状に仕上げつつ、表層に加工誘起マルテンサイト変態を生じさせる。これにより、部品の転動疲労寿命が高まる。切削加工工程は、次の条件で行う。
切削工具のすくい角α:−30°<α≦−5°
すくい角αが−5°よりも大きければ、切削加工時に加工誘起マルテンサイト変態が十分に発生しない。そのため、部品の転動疲労寿命が低下する。一方、αが−30°以下であれば、切削抵抗が大きくなりすぎる。この場合、工具摩耗が増大し、場合によっては工具が欠損する。従って、αは、例えば−30°<α≦−5°とすることができる。より好ましいαの範囲は−25°以上−15°以下である。
工具のノーズr:0.4〜1.2mm
工具のノーズrが小さければ表面粗さが大きくなる。表面粗さが大きくなった場合には、仕上げ研磨の削り代が大きくなりすぎ、切削加工の効果が得られず、部品の転動疲労寿命が低下する。一方、工具のノーズrが大きければ、切削抵抗が大きくなるため、工具摩耗が増大する。従って、rは、例えば0.4〜1.2mmとすることができる。
送りf:0.1〜0.4mm/rev
送りfが小さければ、切削抵抗、つまり、工具が被削材に押し付けられる力が小さくなり、十分な加工誘起マルテンサイト変態が発生しない。そのため、部品の転動疲労寿命が低下する。一方、送りが大きければ、切削抵抗が大きくなって工具摩耗が大きくなる。従って、fは、例えば0.1〜0.4mm/revとすることができる。
切削速度v:50〜150m/分
切削速度vが大きければ、切削温度が上昇し、凝着摩耗が発生して工具摩耗が増大する。さらに、発熱によってオーステナイトの加工誘起変態が抑制され、部品の転動疲労寿命が低下する。一方、vが小さければ、切削能率が低下する。従って、切削速度vは、例えば50〜150m/分とすることができる。
切り込みd:0.05〜0.2mm
切り込みdが小さければ、切削抵抗が小さくなるため、十分な加工誘起マルテンサイト変態が発生しない。そのため、部品の転動疲労寿命が低下する。一方、切り込みdが大きければ、切削抵抗が大きくなり、工具摩耗が大きくなる。従って、dは、例えば0.05〜0.2mmとすることができる。
以上に示す軸受部品の製造方法では、特に、精錬工程及び切削加工工程における上述した諸条件設定により、化学組成、介在物と、金属組織について改良を加えられた軸受部品が得られる。従って、当該製造方法により得られた軸受部品は、転動疲労寿命、被削性を、高いレベルで発現することができる。
表1に示すJIS G 4805(2008)に記載の高炭素クロム軸受鋼SUJ2の化学組成を有する鋼A〜Q、AA〜ATを、真空溶解炉を用いて溶製し、SiO2製の坩堝に鋳込み、鋼塊を作製した。この鋼の脱酸時に添加した元素の順序および、その後の鋳込み時の冷却速度RCを、表2に示す。鋼A〜Q、AA〜AN、AQ〜ATの溶製に際しては、C脱酸を行った後にAlで脱酸処理を施し、その後に、Ca−Si合金を加えてCa量を調整した。鋼AOは、C脱酸の後、先に脱酸元素としてCaを添加してから、Alの添加を実施した。鋼APは、脱酸元素としてAlを添加した後、Cを添加し、その後Ca処理を行った。
以上の工程で得られた鋳片を、一旦室温まで冷却した後、1200〜1300℃の温度域まで加熱し、仕上げ温度を1000℃以上として熱間鍛造して、直径80mmの丸棒とした。なお、熱間鍛造後の冷却は大気中の放冷とした。
上記のようにして得た鋼A〜Q、AA〜ATの丸棒の、長手方向横断面に対して表面と中心の中間位置であるR(半径)/2部の図3に示す位置から厚さ(t)が14mmの板材を切り出した後、板材の幅方向両側に、レーザービームでSM490の板材を溶接し、幅(W)を90mmとした。この溶接した板材31は、溶接時の影響をなくすために860℃で1時間焼ならしを実施した後、795℃まで加熱し1.5時間保持した後、4時間かけて650℃まで炉冷し、球状化焼なましを行った。
その後、図4に示す、板材31の試験部の中心が板材31の幅方向中心に重なる位置から、図5に示す形状の粗加工の超音波疲労試験片を各鋼種10Pずつ採取し、830℃で40分間保持した後油焼入れし、180℃で1時間焼き戻しを行った。粗加工試験片を、図6に示す形状に仕上げ加工し、超音波疲労試験片を得た。なお、図3〜6に示す図の寸法の単位はいずれもmmである。
上記の仕上げ加工を行った超音波疲労試験片で、超音波疲労試験を実施した。具体的には、周波数20kHz、応力振幅800MPa、応力比−1の条件で破壊が起こるまで疲労試験を実施した。繰り返し数が107になるまで破断しなかった場合は、応力比を50〜100MPa上昇させて疲労試験を実施した。破断した試験片の起点介在物径である√areaは、介在物を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、上記方法で求めた。
超音波疲労試験片の被検体積は、最大応力の90%以上の応力がかかる46.1mm3である。そして、非特許文献1を参考にして、転動疲労試験片10Pに相当する144mm3中の、予測最大介在物径√areamaxを極値統計によって求めた。
超音波疲労試験片の破壊起点に現れた介在物すべてを含むようにエネルギー分散型X線分光法の面分析を行い、介在物の平均組成に対応するスペクトルを得た。これらの介在物に含まれるCaS、MnSの含有量および、酸化物の平均組成を各起点において求め、この結果から各鋼種の複合介在物の比率を求めた。そして、各鋼種の起点介在物10Pでこれらの値の算術平均をとり、鋼種毎のCaS、MnSの含有量および、酸化物の平均組成を求めた。
上記の介在物評価の結果を、表3に示す。鋼A〜Qは、表1に示す化学組成および表3に示す介在物の組成および形態が本発明で規定する範囲内にある鋼である。鋼AA〜ANは、表1に示す化学組成が本発明で規定する範囲から外れた比較例の鋼である。また、鋼AO〜AQは、表1に示す化学組成が本発明で規定する範囲内にあるものの、表2に示す脱酸元素の添加順序あるいは冷却速度が好ましい値ではないため、表3に示す介在物の組成もしくは形態が本発明で規定する範囲から外れている鋼である。鋼AR〜ATは、表1に示す化学組成が本発明で規定する範囲にあるものの、CaとO量の関係およびCaとS量の関係が好ましい値ではないため、表3に示す介在物の組成もしくは形態が本発明で規定する条件から外れている鋼である。
また、鋼A〜ATの直径80mmの丸棒の中心部を切断し、795℃にて6時間保持した後、炉冷して球状化焼なましを行った。その後、図7に示す転動疲労試験片の粗部材を採取した。転動疲労試験片の粗部材は、丸棒の長手方向が素形材の厚みとなるようにスライスして採取した、直径が60mmで厚みが6mmのものである。また、放冷後の丸棒に対して機械加工をほどこして、直径30mm、長さ300mmの棒状の被削性試験片の粗部材を製造した。
転動疲労試験片の粗部材、ならびに上記被削性試験片の粗部材に対して、表4に示す条件a〜gに基づいて、恒温保持処理、焼入れ処理および焼戻し処理を施した。表に示す、Cp、T1、T2,t1、t2は、それぞれ、上述したカーボンポテンシャル、温度、時間である。
転動疲労試験片の焼入れ材の試験面に対して、表5に示す条件で切削加工を施して、転動疲労試験片を得た。切削加工は、1パス、すなわち表5に示す切り込み量を1回だけ適用した。
切削工具には、cBN粒子を主成分とし、セラミックスを結合材とした焼結材の表面に、TiAlNベースのセラミックコーティングを施したcBN焼結工具を利用した。
そして、上記の切削加工を施した後、切削した側の面を鏡面加工し、逆側の面を研削することによって、図8に示す、厚さ5mmの転動疲労試験片を作成した。仕上げ加工後の転動疲労試験片の表面の算術平均粗さRaは0.05μm以下であった。
転動疲労試験片は、試験前に、後述する方法で、残留オーステナイトの体積率の測定、塑性流動組織の厚さ測定を行った。
[残留オーステナイトの体積率(RF)の測定]
転動疲労試験片表面に対して、電解研磨を施した。具体的には、試験片表面に穴の直径3mmのマスキングを施し、11.6%の塩化アンモニウムと、35.1%のグリセリンと、53.3%の水とを含有する電解液中において、試験片を陽極として、20Vの電圧で電解研磨を施し、表面から20μm深さの位置の表面(以下、観察面という)を露出させた。
観察面に対して、上述の方法でX線回折を実施し、表面から20μm位置の残留オーステナイトの体積率(R2)を求めた。
観察面に対して、同様の方法で電解研磨を実施し、穴の深さを10μm深くして30μmとし、その表面に対して上述の方法でX線回折を実施し、表面から30μm位置の残留オーステナイトの体積率を求めた。この過程を繰り返すことで、10μmずつ穴を深くし、その都度残留オーステナイトの体積率(R2)を測定することを、穴の深さが200μmとなるまで繰り返した。そして20μmの深さから200μmの深さまでの範囲で得られた最大の残留オーステナイト体積率をR1とした。
[塑性流動組織の厚さ測定]
部品相当の試験片において、塑性流動組織の厚さを、上述した方法で測定した。
[転動疲労試験]
転動疲労試験は、鏡面加工した面が試験面となるようにして、スラスト型の転動疲労試験機を用いて、最大接触面圧5230MPa、繰返し速度1800cpm(cycle per minute)の条件で行った。試験部は、試験片の中心から半径19.25mmの環状領域とした。鋼球としては、JIS G 4805に規定されたSUJ2調質材を用いた。表6に、疲労試験の詳細条件を示す。
転動疲労試験結果は、ワイブル分布確率紙上にプロットし、10%破損確率を示すL10寿命を「転動疲労寿命」として評価した。なお、転動疲労寿命の長寿命化の判断については、L10寿命が80×106以上を満足した場合を長寿命化として、これを目標とした。表7に、上記の方法で求めた転動疲労寿命を示した。
[工具摩耗測定]
切削工具の工具摩耗を逃げ面摩耗量(μm)によって評価した。方法は以下の通りである。即ち、焼入れ及び焼戻し後の被削性試験片を、表5に示す粗加工品と同じ切削条件で、1本あたり1パスの切削加工を行った。複数の試験片について切削加工を繰り返し、合計の切削時間が5分となるまで切削加工した後に、切削工具の逃げ面摩耗幅を測定した。逃げ面摩耗幅の測定には、マイクロスコープを用いた。工具逃げ面が測定物台と平行になるように工具を設置し、倍率200倍で摩耗部を観察した。この時の、摩耗部中心付近で摩耗が最大となる部分の切れ刃から摩耗先端部までの距離を測定し、逃げ面摩耗量とした。本測定においては、逃げ面摩耗量が50μm以下の場合が、従来技術に対して切削加工時の工具摩耗を抑制することができるという点で合格である。
[試験結果]
以上に説明した各試験等に関する結果を表7に示す。
表7から明らかなように、所定の製造方法によって得られた部品であって本願所定の条件を満たす(即ち、部品の化学組成,非金属介在物と、金属組織とについて改良を加えている)試験番号1〜23については、転動疲労寿命、被削性を、すべて高いレベルで発現することができていることが判る。
これに対し、表7から明らかなように、所定の製造方法によって得られていない部品であって本願所定の条件を満たさない(即ち、軸受部品の化学組成,非金属介在物と、金属組織との少なくともいずれかについて改良を加えていない)試験番号101〜130については、転動疲労寿命、被削性、の少なくともいずれかについて、優れた結果が得られていないことが判る。
本発明に係る軸受部品は、転動疲労による破損に対して良好な耐久性を有し、転動疲労寿命が長く、被削性にも優れている。従って、本発明に係る軸受部品は、自動車などの部品として好適に用いることができる点で有望である。
11 部品
12 試験片
12a 観察面
21 塑性流動組織
22 中心部
31 溶接した板材

Claims (1)

  1. 質量%で、C:0.95〜1.2%、Si:0.05〜0.25%、Mn:0.2〜0.5%、P:0.025%以下、S:0.0005%以上0.010%未満、Cr:1.0〜1.8%、Al:0.005〜0.04%、Ca:0.0003〜0.0030%、Mg:0.0001〜0.003%、O:0.0003〜0.0030%、N:0.003〜0.030%、Cu:0〜1.0%、Ni:0〜0.3%、Mo:0〜0.15%、V:0〜0.30%、Nb:0〜0.10%、 B:0〜0.0030%およびTi:0〜0.10%を含み、残部はFeおよび不可避的不純物からなる組成を有し、かつ、
    超音波疲労試験片の破壊起点である介在物が、以下の(A)〜(D)を満たし、
    表面から30〜200μm深さの範囲での最大残留オーステナイト体積率が8〜20%であり、
    表面から20μmの深さ位置での残留オーステナイト体積率と、表面から30〜200μm深さの範囲での最大残留オーステナイト体積率との、比が0.7以下であり、
    表面に厚さ1〜10μmの塑性流動組織を有する
    ことを特徴とする軸受部品。
    (A)鋼材の圧延方向と垂直方向に採取した超音波疲労試験片の破壊起点に観察される介在物径の分布を極値統計処理した時、被検体積144mm3中に予測される最大介在物径√areaが45μm以下である。
    (B)超音波疲労試験片の破壊起点に現れる介在物個数のうちの50%以上が、酸化物と硫化物をともに質量%で5%以上含む、酸化物と硫化物の複合介在物である。
    (C)介在物中の酸化物をCaO−Al23−MgOの3元系酸化物と見なしたときに、その平均組成における質量%での含有量がCaO:0〜20%、MgO:10%超40%以下である。
    (D)介在物全体の平均組成に占めるCaS、MnSの質量%での含有量がそれぞれ10〜60%、0〜20%の範囲にある。
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