JP6728612B2 - 軸受部品 - Google Patents
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Description
0.70≦Ca/O≦1.80・・・[1]
Ca/O≧1250S−5.80・・・[2]
20≦Mn/S≦170・・・[3]
3CaO + 2Al + 3S → Al2O3 + 3CaS
CaO + Mg + S → MgO + CaS
の反応を起こす。そのため、酸化物の組成に占めるCaOの比率が減少し、Al2O3およびMgOの比率が高くなる。特に、安定性の高いAlとMgの酸化物であるであるAl2MgO4が増加する。また、この反応により生ずるCaSは、酸化物の周囲に付着し、酸化物との複合介在物を形成する。
このように粗大な介在物が減少する結果、転動疲労寿命は向上する。
超音波疲労試験の破壊起点である介在物が、以下の(A)〜(D)を満たし、
表面から200μm深さの範囲での最大残留オーステナイト体積率が8〜20%であり、
表面から20μmの深さ位置での残留オーステナイト体積率と、表面から200μm深さの範囲で最大残留オーステナイト体積率との、比が0.7以下であり、
表面に厚さ1〜10μmの塑性流動組織を有する
ことを特徴とする軸受部品。
(A)鋼材の圧延方向と垂直方向に採取した超音波疲労試験片の破壊起点に観察される介在物径の分布を極値統計処理した時、被検体積144mm3中に予測される最大介在物径√areaが45μm以下である。
(B)超音波疲労試験の破壊起点に現れる介在物のうちの50%以上が、酸化物と硫化物をともに質量%で5%以上含む、酸化物と硫化物の複合介在物である。
(C)介在物中の酸化物をCaO−Al2O3−MgOの3元系酸化物と見なしたときに、その平均組成における質量%での含有量がCaO:0〜20%、MgO:10%超40%以下である。
(D)介在物全体の平均組成に占めるCaS、MnSの質量%での含有量がそれぞれ10〜60%、0〜20%の範囲にある。
(A)軸受鋼の化学組成
C:0.95〜1.2%
Cは、焼入れ時の硬さを確保して転動疲労寿命を向上させる元素であり、0.95%以上とする必要がある。しかしながら、Cの含有量が1.2%を超えると、転動疲労寿命は向上するものの、棒鋼圧延工程における加熱段階で、粗大な初析セメンタイトが多く分散することになり、冷間鍛造性の悪化を招く。また硬さの上昇を招き、切削加工時の工具寿命の低下、焼割れの原因となる。C含有量の好ましい下限は0.97%である。好ましい上限は1.1%である。
Siは、焼戻し軟化抵抗を高めて転動疲労寿命を向上させるのに必要な元素であり、0.05%以上含有させなければならない。しかしながら、0.25%を超えてSiを含有させると、母材の硬さが高くなる上、工具と鋼の凝着が起こりやすくなるため、切削時の工具磨耗を増大させる。Siの好ましい下限は0.10%である。好ましい上限は0.20%である。
Mnは、鋼の焼入性を高めるとともに、鋼中の残留オーステナイトを増加させる。その結果、部品の転動疲労特性が向上する。しかし、MnS含有量が0.2%以下では、この効果が得られない。一方、Mn含有量が0.5%を超えると、残留オーステナイトの安定性が高くなりすぎ、切削時に十分な加工誘起変態が生じない。Mnの好ましい下限は0.25%である。好ましい上限は0.45%である。
Pは、不純物として鋼中に含まれ、結晶粒界に偏析して転動疲労寿命を低下させる。特に、その含有量が0.025%を超えると、転動疲労寿命の低下が著しくなる。Pの含有量は、極力低くすることがよく、好ましくは0.020%以下である。
Sは、本発明を特徴づける、重要な元素である。Sは、鋼の凝固時に球状酸化物中のCaOと反応し、CaSを含む複合介在物を形成することによって、球状酸化物に占めるAl2O3およびMgOの比率を高める効果をもつ。そのため、Sの含有量は0.0005%以上が必要である。しかし、Sが0.010%以上含まれている場合には、Caに対して過剰となり、CaSを形成せずに残ったSは、凝固の最終段階で溶鋼中のMnとMnSを形成する。これは粗大な介在物となりやすいため、転動疲労寿命の向上という観点からは避けるべきである。好ましいSの含有量は0.006%以下、さらに望ましくは0.004%以下である。
Crは、鋼の焼入れ性を高めるとともに、セメンタイトを熱的に安定化させ、高温域におけるセメンタイトのマトリックス中への固溶を抑止する作用を有する。また、Crには、鋼材のMs点を低下させる効果がある。その結果、焼入れ後に残留オーステナイトが生成し、転動疲労寿命向上に有効な元素である。この効果はCrの含有量が1.00%以上で発揮される。しかしながら、Crの含有量が1.80%を超えると、残留オーステナイトの安定性が高くなりすぎ、切削時に十分な加工誘起変態が生じないため、転動疲労寿命の低下を招く。Cr含有量の好ましい下限は1.1%である。好ましい上限は1.6%である。
Alは、脱酸作用を有する。この効果を得るためには、Alを0.005%以上含有する必要がある。しかし、その含有量が0.040%を超えると粗大な酸化物として残存しやすくなり、転動疲労寿命および被削性の低下が著しくなる。Al含有量の好ましい下限は0.01%であり、好ましい上限は0.038%である。
Caは、酸化物として適量の(Al、Ca)Oを形成する。(Al、Ca)Oが形成されれば、溶鋼と介在物の間の界面エネルギーが低下し、酸化物の凝集力が低下する。そのため、鋼中の酸化物の粗大化が抑制され、転動疲労寿命が高まる。また、Caは鋼中のSと結びつき、CaSあるいは(Mn、Ca)Sを形成することによって、Sが最終凝固部に集まり、粗大なMnSを形成することを抑制している。上述したCaの各効果は、Caの含有量が0.0003%以上で発揮される。しかしながら、Caの含有量が0.0030%を超えると、上記効果が飽和するだけではなく、酸化物がCaOを多く含む粗大介在物を形成しやすい組成のものとなり、結果として転動疲労寿命の低下を招く場合がある。Ca含有量の好ましい上限は0.0025%、さらに好ましくは0.0020%である。
Mgは、凝固段階で酸化物中のOと結びつき、酸化物組成をCaOの多いものから(Al、Mg)Oの多いものに変化させる反応を促進する。このMgの効果は、Mgの含有量が0.0001%以上で発揮される。しかしながら、Mgが0.0030%を超えると、MgOの単独組成の酸化物が多量に形成され、転動疲労寿命の低下を招く場合がある。Mg量の好ましい上限は0.0010%、さらに好ましくは0.0008%である。
Oは、酸化物を形成する。Oは不可避的に鋼中に含有されるものであるが、本発明では意図的にCaOを形成させるために0.0003%以上のOが必要である。Oの含有量が多くなって、特に、0.0030%を超えると、酸化物が粗大化し、転動疲労寿命および被削性の低下を招く。Oの含有量の好ましい下限は、0.0005%であり、限好ましい上限は0.0020%、さらに好ましくは0.0015%である。
Nは、鋼中のAlと結合してAlNを形成し、焼入れ部の結晶粒粗大化を抑制する作用を持つ。この効果を得るためには、Nの含有量を0.003%以上とする必要がある。しかし、その含有量が0.030%を超えると粗大な窒化物を生成し、転動疲労寿命の低下を招くおそれがある。
Caが酸化物(Al、Ca)Oを形成し、酸化物の凝集および粗大化をより安定的に抑制するためには、Ca量とO量の含有量のバランスが重要である。そのため、0.7≦Ca/O≦2.0となるように制御することが好ましい。
Sは凝固段階で酸化物(Al、Ca)O中のCaと反応することによって、酸化物中のCaOを低下させる。そのためSは、溶鋼および酸化物内のCaとCaSを形成するだけの量が存在することが好ましい。その一方で、Caと反応する量を大きく超えてSが存在すると、粗大なMnS生成の原因となる。以上のことから、Ca量とS量の関係は、−0.0030<Ca−1.25S<0.0005を満たすのが好ましい。
本発明の軸受鋼は、上述の各元素を含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなるものである。なお、「不可避的不純物」とは、鋼を工業的に製造する際に、原料としての鉱石、スクラップ、または製造環境などから混入するものであって、本発明に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
Pb:0.5%以下
Pbは選択元素であり、含有されなくてもよい。Pbを含有した場合、工具摩耗の低減、及び切り屑処理性の向上などの被削性が良好となる。しかしながら、Pb含有量が高すぎれば、鋼の強度及び靱性が低下し、転動疲労寿命も低下するため、Pb含有量の上限は0.5%以下とすることが好ましい。このようなPbの効果を安定して得るためには、Pbの含有量は0.03%以上とすることが好ましい。Pb含有量のさらに好ましい上限は0.4%以下である。
Cuは、CやMnと同様に、焼入れ後に転動部に必要な硬さを確保させる作用を有するため、含有させてもよい。しかしながら、Cuの含有量が1.0%を超えると、転動疲労寿命の低下を招き、また熱間加工性が低下する場合がある。一方、Cuの上記効果は、その含有量が0.05%以上の場合に安定して得られる。
Niは、鋼の焼入れ性を高め、残留オーステナイトを増加させる。しかしながら、Niの含有量が0.3%を超えると、焼入れ及び焼戻し後の残留オーステナイトが過剰となり、切削加工時にも十分な加工誘起マルテンサイトが発生せず、部品の転動疲労寿命の低下を招く場合がある。一方、Niの上記効果は、その含有量が0.05%以上の場合に安定して得られる。
Moも、CやMnと同様に、焼入れ後に転動部に必要な硬さを確保させる作用があるため、含有させてもよい。しかしながら、0.15%を超えてMoを含有させても上記効果は飽和する上、焼戻し後の残留オーステナイトが過剰となり、切削加工時にも十分な加工誘起マルテンサイトが発生せず、部品の転動疲労寿命の低下を招く場合がある。一方、Moの上記効果は、その含有量が0.02%以上の場合に安定して得られる。
Vは、Nと結合して窒化物を形成するため、焼入れ部の結晶粒粗大化を抑制する作用がある。さらに、Vには、Cと結合することで母材の強度を上昇させる作用もある。したがって、Vを含有させてもよい。ただし、0.30%を超えてVを含有させても焼入れ部の結晶粒粗大化を抑制する効果が飽和し、さらに母材の強度が高くなりすぎて工具摩耗が増大してしまう場合がある。十分な被削性を確保するためのV含有量の上限は、好ましくは0.20%である。一方、Vの上記効果は、その含有量が0.01%以上の場合に安定して得られる。
Nbは、Nと結合して窒化物を形成するため、焼入れ部の結晶粒粗大化を抑制する作用がある。さらに、Nbには、Cと結合することで母材の強度を上昇させる作用もある。したがって、Nbを含有させてもよい。ただし、0.10%を超えてNbを含有させても焼入れ部の結晶粒粗大化を抑制する効果が飽和し、さらに母材の強度が高くなりすぎて工具磨耗が増大してしまう場合がある。十分な被削性を確保するためのNb含有量の上限は、好ましくは0.05%である。一方、Nbの上記効果は、その含有量が0.01%以上の場合に安定して得られる。
Bは、微量の含有で鋼の焼入れ性を大きく向上させて、焼入れ後に転動部に必要な硬化層深さを一層大きくすることができる元素であるため、含有させてもよい。しかしながら、Bの含有量が0.0030%を超えてもその効果は飽和してしまう。一方、Bの上記効果は、その含有量が0.0005%以上の場合に安定して得られる。
Bを含有することによって焼入れ性が向上するのは、Bが化合物ではなく、固溶状態で存在する場合である。そのため、BがNと結合してBNを形成した場合には、Bによる焼入れ性向上効果は期待できない。したがって、上記の量のBを含有させる際、BよりもNとの親和力が大きく窒化物形成能が強いTiを複合して含有させる。しかしながら、0.10%を超える量のTiを含有させても、Nを固定する効果が飽和するばかりか、粗大なTiNが多量に生成してしまうため、転動疲労寿命が低下する場合がある。一方、Tiの上記効果は、その含有量が0.005%以上の場合に安定して得られる。
(B−1)非金属介在物のサイズ
本発明においては、鋼材の圧延方向と垂直方向に採取した超音波疲労試験片を疲労破壊させた際の、破壊起点に存在する介在物の径の分布を極値統計処理した時、被検体積144mm3中に予測される最大介在物径√areamaxが45μm以下でなければならない。ここで、被検体積144mm3とは、以下に説明するように、転動疲労試験片の被検体積である。
Fj=j/(n+1)
yj=−ln(−ln(Fj))
の式により計算する。√areajとyjの間に直線関係が成り立つと見なし、最小二乗法で√areajとyjの関係を求め、最大介在物径の分布直線
√area=a×y+b ・・・[4]
を計算する。
T=(V+V0)/V0
y=−ln[−ln[(T−1)/T]]
によって求め、yを上記[4]式の最大介在物分布直線に代入したときの√areaを、転動疲労試験片の被検体積中の、予測最大介在物径√areamaxとする。
以下では、各鋼種の、超音波疲労試験片に破壊起点に現れる介在物のうちの、酸化物と硫化物をともに質量%で5%以上含む複合介在物の比率を、「複合介在物の比率」と呼ぶ。本発明の鋼においては、複合介在物の比率が50%以上でなければならない。複合介在物の比率がこの範囲から外れることは、本発明を特徴づける介在物制御である、CaによるAl2O3酸化物凝集の抑制あるいは、CaOとSとの反応による組成変化が起こらず、粗大なクラスター状のAl2O3や(Al、Ca)Oのまま残存した介在物が存在することを意味する。これらの介在物は、CaおよびSとの反応により酸化物組成が制御された複合介在物に比べ、転動疲労寿命に対し有害となるため、鋼材の転動疲労寿命が低下する。
本発明においては、超音波疲労試験片の破壊起点に現れる介在物に含まれる酸化物をCaO−Al2O3−MgOの3元系酸化物と見なしたときに、その平均組成における質量%での含有量がCaO:0〜20%、MgO:10%超40%以下の範囲になければならない。
CaO:0〜20%
Alキルド鋼の介在物において、CaOは、低融点の球状介在物である(Al、Ca)Oを形成する。CaOが20%以上存在する場合には、酸化物に占める(Al、Ca)Oの割合が半分以上と高くなるが、(Al、Ca)Oは鋼材のマトリックスと比較してヤング率が低い介在物であるため、転動疲労時には介在物周囲で負荷応力が局所的に増大し、疲労き裂の発生および進展が促進され、結果として転動疲労寿命が低下する。そのため、本発明の鋼において酸化物中に最終的に残存するCaOを、20%以下とした。
鋼の凝固段階で、濃化した溶存SとCaOが反応しCaSが生成して、CaOが減少する方向に酸化物組成を変化させる。この反応は、酸化物Al2MgO4が形成する条件において最も促進される。凝固後の段階で酸化物中のMgOが10%以下となる条件では、酸化物中のCaOの減少が十分に起こっておらず、転動疲労寿命に有害な(Al、Ca)Oが残存している。また、MgOの酸化物全体に占める割合が、Al2MgO4に占めるMgOの割合である28%を大きく越える条件、特に40%を超える場合には、単独のMgOが生成しやすく、これらは凝集して粗大なクラスターとなりやすい。
さらに、本発明においては、超音波疲労試験片の起点に現れる介在物全体の平均組成に占めるCaS、MnSの質量%での含有量がそれぞれ10〜60%、0〜20%の範囲になければならない。以下に、各硫化物の含有量の限定理由を示す。
本発明で規定する鋼は、溶鋼の段階でAl2O3の凝集がCaにより抑制され、酸化物が(Al、Ca)Oとなった後に、凝固の段階で酸化物中のCaがSと反応し、Al2O3,MgOの割合が高い酸化物とCaSの複合介在物となることを特徴とする鋼である。凝固段階で生成したCaSの一部は、酸化物に付着し、複合介在物となるため、介在物の組成および形態制御が適切に行われた際には、超音波疲労起点に現れる複合介在物にCaSが含まれる。最終的な酸化物の組成が(B−3)で規定する範囲に含まれていても、介在物全体に占めるCaSの含有量が10%未満である場合には、溶鋼の段階から凝固終了後までの間、酸化物中に含まれるCaが少ないままであり、Al2O3の凝集のCaによる抑制が不十分であることが考えられる。また、CaSの含有量が60%を超える場合には、溶鋼の段階で酸化物中のCaの含有量が高く、単独のCaOが存在していており、酸化物の凝集の抑制が不十分であると考えられる。
溶鋼中のSの中で、酸化物中のCaとCaSを形成しなかったものは、凝固最終段階でMnSを形成する。超音波疲労試験の破壊起点となった介在物の平均組成が、20%を超えるMnSを含有している場合には、酸化物やCaS、およびそれらの複合介在物だけではなく、MnSを主体とする介在物が粗大な介在物として存在する。これらのMnSを主体とする粗大な介在物は、転動疲労寿命に害を与えるものであり、よって、MnS生成量を20%以下に抑える必要がある。MnSは起点に現れる介在物中に全く含まれなくてもよい。
(2)得られたスペクトルから介在物中のMg、Al、S、Ca、Mnのモル分率を求める。以下では各元素のモル分率を[Mg]、[Al]、[S]、[Ca]、[Mn]とする。
(3)Mnは優先的にSと結びつくため、[S]、[Mn]のうち少ない方を、介在物全体に占めるMnSのモル分率とする。以下ではこれを{MnS}とする。
(4)残ったSはCaと結びつくため、[S]−{MnS}、[Ca]のうち少ない方をCaSのモル分率とする。以下ではこれを{CaS}とする。
(5)CaSを形成しなかったCaは酸化物を形成する。そのため[Ca]−{CaS}を、CaOのモル分率とする。
(6)Mg、Alは超音波疲労起点の介在物では酸化物を形成するため、[Mg]、[Al]/2をそれぞれMgO、Al2O3のモル分率とする。
(7)各試験片の破壊起点の介在物について、(3)〜(6)で求めた各化合物のモル分率から各化合物の質量分率を求め、これを各試験片から得られた破壊起点介在物について平均することにより、酸化物の組成および介在物中に占めるCaS、MnSの含有量を求める。
本実施形態に係る軸受部品は、その表面から20μmの深さの組織が、マルテンサイト及び残留オーステナイトからなり、表面から200μm深さの範囲での最大残留オーステナイト体積率(R1)が8〜20%であり、表面から20μmの深さ位置(以下、単に「基準位置」と称する場合がある)での残留オーステナイト体積率(R2)と、表面から200μm深さの範囲で最大残留オーステナイト体積率との、比(M)が0.7以下であり、表面に厚さ1〜10μmの塑性流動組織を有する。
残留オーステナイトは、切削加工時に加工誘起マルテンサイト変態を発生する。その結果、表面の強度が上昇し、部品の転動疲労寿命が上昇する。このような効果を得るためには、最大残留オーステナイト体積率(R1)が少なくとも8%存在しなければならない。一方、残留オーステナイトは軟質であるため体積率(R1)が20%を超えるとかえって強度が低下する。従って、体積率(R1)は8〜20%に限定する。体積率(R1)は10〜18%とすることが好ましい。なお、上述した電解研磨方法と同じ方法を用いて、表面から10μmピッチで200μm深さまで測定した残留オーステナイトの体積率のうち最大の値を、最大残留オーステナイト体積率(R1)とした。
Mは、切削加工時の加工誘起マルテンサイト変態の程度を表す。Mが小さいと、切削加工時により多くの加工誘起マルテンサイト変態が発生したことを意味し、部品の転動疲労特性が向上する。上記の効果を得るためにはMが0.7以下でなければならない。なお、好ましいMの値は0.65以下である。
表層の塑性流動組織の厚さは次の方法で測定される。図1は、切削加工された転動疲労試験片から表層組織観察用の試験片を採取する際の、試験片および観察位置を示す図であり、(a)は組織観察用の試験片が切り取られた転動疲労試験片の正面図であり、(b)は切り取った組織観察用試験片の側面図である。同図に示すように、転動疲労試験片11から表層組織観察用試験片12を切り出すに際し、図1に示すような、試験片11の表面を含み、円の接線に平行かつ表面に垂直な面が観察面(12a)になるような試験片12を採取する。鏡面研磨した試験片を、5%ナイタール溶液で腐食する。腐食された面を、倍率5000倍の走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察する。得られたSEM像の一例を図2に示す。同図において、塑性流動組織21は、中心部22に対して組織が試験片の周方向(図2において紙面の右方向から左方向)に湾曲している部分であり、試験片の表面から湾曲した組織の端までの距離を塑性流動組織21の厚さと定義した。
次に、上述の軸受部品の製造方法の一例を説明する。
精錬工程では、溶鋼を精錬する。精錬はたとえば、RH(Ruhrstahl−Heraeus)を用いた真空脱ガス処理である。本実施形態に係る軸受鋼の製造方法では、溶鋼を精錬する際の脱酸剤の投入順序が重要となる。本発明では、脱酸時に加える元素であるC、Al、Caの原料を、この順に加えることを特徴とする。
精錬後の溶鋼を用いて、鋳片を製造する。
上記の棒鋼を加工して粗加工品を製造する。加工方法は周知の方法でよい。例えば、熱間加工、冷間加工、切削加工等を用いることができる。粗加工品は、最終部品に近い形状とする。
粗加工後、恒温保持処理を施す。恒温保持処理は、次の条件で行う。
恒温保持温度T1が低すぎれば、カーボンポテンシャル等の雰囲気制御が困難になり、残留オーステナイトの体積率が調整しにくい。一方、T1が高すぎれば、焼入れ時に生じる歪みが増大して、焼割れが発生する場合がある。従って、恒温保持温度T1は、例えば810〜880℃とすることができる。
恒温保持処理時におけるカーボンポテンシャルCpが低すぎれば、Cが外部に放出されて焼入れ後の残留オーステナイトが少なくなり、表層硬さが低下し、部品の転動疲労特性が低下する。一方、Cpが高すぎれば、硬質な初析セメンタイトが多く析出して切削加工時の工具摩耗が増大し、被削性が低下する。従って、Cpは、例えば0.5〜1.2%とすることができる。
恒温保持時間t1が短すぎれば、温度が均一にならず、焼入れ時に生じる歪みが増大して、焼割れが生じる場合がある。一方、t1が長すぎれば、生産性が低下する。従って、t1は、例えば30〜120分とすることができる。
上記恒温保持処理後、周知の方法で焼入れ処理を施す。焼入れ処理としては、例えば、油焼入れが挙げられる。
上記焼入れ処理を施した後、焼戻し処理を施す。焼戻し処理を行えば、製品部材の靱性が高まる。さらに、Cが拡散して炭化物の前駆体を生成するため、残留オーステナイトが不安定化して、切削加工時に加工誘起マルテンサイト変態が発生しやすくなる。焼戻し処理は次の条件で行われる。
焼戻し温度T2が低すぎれば、上記焼戻しによる効果が得られない。一方、焼戻し温度が高すぎれば、残留オーステナイトが著しく不安定化して、焼戻し中に残留オーステナイトが分解する。さらに、分解せずに残留したオーステナイトは、熱処理歪みから解放されて安定化するため、切削加工時に十分な加工誘起マルテンサイト変態が発生しない。従って、T2は、例えば150〜200℃とすることができる。
焼戻し時間t2が短すぎれば、上記焼戻しの効果が得られない。一方、焼戻し時間t2が長すぎれば、残留オーステナイトが著しく不安定化して、焼戻し中に残留オーステナイトが分解する。さらに、分解せずに残留したオーステナイトは、熱処理歪みから解放されて安定化するため、切削加工時に十分に加工誘起マルテンサイト変態が発生しない。従って、t2は、例えば60〜180分とする。
上記焼戻し処理を経た後、切削加工工程を行う。切削加工工程により、製品部材の形状に仕上げつつ、表層に加工誘起マルテンサイト変態を生じさせる。これにより、部品の転動疲労寿命が高まる。切削加工工程は、次の条件で行う。
すくい角αが−5°よりも大きければ、切削加工時に加工誘起マルテンサイト変態が十分に発生しない。そのため、部品の転動疲労寿命が低下する。一方、αが−30°以下であれば、切削抵抗が大きくなりすぎる。この場合、工具摩耗が増大し、場合によっては工具が欠損する。従って、αは、例えば−30°<α≦−5°とすることができる。より好ましいαの範囲は−25°以上−15°以下である。
工具のノーズrが小さければ表面粗さが大きくなる。表面粗さが大きくなった場合には、仕上げ研磨の削り代が大きくなりすぎ、切削加工の効果が得られず、部品の転動疲労寿命が低下する。一方、工具のノーズrが大きければ、切削抵抗が大きくなるため、工具摩耗が増大する。従って、rは、例えば0.4〜1.2mmとすることができる。
送りfが小さければ、切削抵抗、つまり、工具が被削材に押し付けられる力が小さくなり、十分な加工誘起マルテンサイト変態が発生しない。そのため、部品の転動疲労寿命が低下する。一方、送りが大きければ、切削抵抗が大きくなって工具摩耗が大きくなる。従って、fは、例えば0.1〜0.4mm/revとすることができる。
切削速度vが大きければ、切削温度が上昇し、凝着摩耗が発生して工具摩耗が増大する。さらに、発熱によってオーステナイトの加工誘起変態が抑制され、部品の転動疲労寿命が低下する。一方、vが小さければ、切削能率が低下する。従って、切削速度vは、例えば50〜150m/分とすることができる。
切り込みdが小さければ、切削抵抗が小さくなるため、十分な加工誘起マルテンサイト変態が発生しない。そのため、部品の転動疲労寿命が低下する。一方、切り込みdが大きければ、切削抵抗が大きくなり、工具摩耗が大きくなる。従って、dは、例えば0.05〜0.2mmとすることができる。
転動疲労試験片表面に対して、電解研磨を施した。具体的には、試験片表面に穴の直径3mmのマスキングを施し、11.6%の塩化アンモニウムと、35.1%のグリセリンと、53.3%の水とを含有する電解液中において、試験片を陽極として、20Vの電圧で電解研磨を施し、表面から20μm深さの位置の表面(以下、観察面という)を露出させた。
部品相当の試験片において、塑性流動組織の厚さを、上述した方法で測定した。
転動疲労試験は、鏡面加工した面が試験面となるようにして、スラスト型の転動疲労試験機を用いて、最大接触面圧5230MPa、繰返し速度1800cpm(cycle per minute)の条件で行った。試験部は、試験片の中心から半径19.25mmの環状領域とした。鋼球としては、JIS G 4805に規定されたSUJ2調質材を用いた。表6に、疲労試験の詳細条件を示す。
切削工具の工具摩耗を逃げ面摩耗量(μm)によって評価した。方法は以下の通りである。即ち、焼入れ及び焼戻し後の被削性試験片を、表5に示す粗加工品と同じ切削条件で、1本あたり1パスの切削加工を行った。複数の試験片について切削加工を繰り返し、合計の切削時間が5分となるまで切削加工した後に、切削工具の逃げ面摩耗幅を測定した。逃げ面摩耗幅の測定には、マイクロスコープを用いた。工具逃げ面が測定物台と平行になるように工具を設置し、倍率200倍で摩耗部を観察した。この時の、摩耗部中心付近で摩耗が最大となる部分の切れ刃から摩耗先端部までの距離を測定し、逃げ面摩耗量とした。本測定においては、逃げ面摩耗量が50μm以下の場合が、従来技術に対して切削加工時の工具摩耗を抑制することができるという点で合格である。
以上に説明した各試験等に関する結果を表7に示す。
12 試験片
12a 観察面
21 塑性流動組織
22 中心部
31 溶接した板材
Claims (1)
- 質量%で、C:0.95〜1.2%、Si:0.05〜0.25%、Mn:0.2〜0.5%、P:0.025%以下、S:0.0005%以上0.010%未満、Cr:1.0〜1.8%、Al:0.005〜0.04%、Ca:0.0003〜0.0030%、Mg:0.0001〜0.003%、O:0.0003〜0.0030%、N:0.003〜0.030%、Cu:0〜1.0%、Ni:0〜0.3%、Mo:0〜0.15%、V:0〜0.30%、Nb:0〜0.10%、 B:0〜0.0030%およびTi:0〜0.10%を含み、残部はFeおよび不可避的不純物からなる組成を有し、かつ、
超音波疲労試験片の破壊起点である介在物が、以下の(A)〜(D)を満たし、
表面から30〜200μm深さの範囲での最大残留オーステナイト体積率が8〜20%であり、
表面から20μmの深さ位置での残留オーステナイト体積率と、表面から30〜200μm深さの範囲での最大残留オーステナイト体積率との、比が0.7以下であり、
表面に厚さ1〜10μmの塑性流動組織を有する
ことを特徴とする軸受部品。
(A)鋼材の圧延方向と垂直方向に採取した超音波疲労試験片の破壊起点に観察される介在物径の分布を極値統計処理した時、被検体積144mm3中に予測される最大介在物径√areaが45μm以下である。
(B)超音波疲労試験片の破壊起点に現れる介在物個数のうちの50%以上が、酸化物と硫化物をともに質量%で5%以上含む、酸化物と硫化物の複合介在物である。
(C)介在物中の酸化物をCaO−Al2O3−MgOの3元系酸化物と見なしたときに、その平均組成における質量%での含有量がCaO:0〜20%、MgO:10%超40%以下である。
(D)介在物全体の平均組成に占めるCaS、MnSの質量%での含有量がそれぞれ10〜60%、0〜20%の範囲にある。
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