JP4874199B2 - なじみ性に優れた歯車部品 - Google Patents

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Description

本発明は、歯車部品に関するものであり、殊に動力伝達部で使用される場合に、優れたなじみ性を発揮すると共に耐ピッチング性も良好な歯車部品に関するものである。
例えば自動車のトランスミッション等の動力伝達部で使用される歯車部品は、JIS G4104、JIS G4105、JIS G4103等に規定されているCr肌焼鋼(SCr材)、Cr−Mo肌焼鋼(SCM材)、Ni−Cr―Mo肌焼鋼(SNCM材)等の機械構造用鋼を用いて所定の形状に成形加工した後、浸炭処理や浸炭窒化処理(以下、単に「浸炭・浸炭窒化処理」と呼ぶことがある)等の表面硬化処理を施して作製されるのが一般的である。
近年、高出力化や小型軽量化に対する要望が高くなっていることから、動力伝達部に使用される歯車などの鋼材部品への負荷応力がますます増大する傾向にある。こうした状況の下、上述したような従来の機械構造用鋼や表面硬化処理鋼では、上記のような厳しい使用環境に対応し難いものとなっている。
こうしたことから、特にすべりを伴う接触環境下において、接触面圧の増加による接触面の剥離損傷(即ちピッチング損傷)を抑制するために、Siを添加して成分の適正化を図ったり、浸炭・浸炭窒化処理条件の最適化等によって鋼材表面硬さの向上を図る等が検討されている。
また上記浸炭・浸炭窒化処理においては、通常はその条件を制御することによって、鋼材表層部に炭化物が生成しないようにされているのであるが、例えば浸炭・浸炭窒化処理において鋼材表面へのC供給を増加させる雰囲気とすることによって、鋼材表層部の炭素濃度を高めて炭化物をあえて析出させて鋼材表層硬さを高める、いわゆる高濃度浸炭処理や高濃度浸炭窒化処理(以下、単に「高濃度浸炭・高濃度浸炭窒化処理」と呼ぶことがある)も提案されている(例えば、特許文献1)。
一方、歯車の表面硬さの増加と共に、歯車対の勘合する歯面の「なじみ性」の低下という問題も生じている。通常では、歯車対の勘合による摩擦によって、歯面の加工誤差や熱処理歪みによる歯形の変形が修正され、過剰な歯車への歯面への面圧力上昇が抑制されることになる。
しかしながら、上記のようなピッチング損傷を抑制するために、表面硬さを上昇させると、そのなじみ性に対する作用が低下してしまい、歯面の一部に過剰な面圧上昇が起こり、却ってピッチング損傷が早期に発生することがある。
ところで、通常の浸炭・浸炭窒化処理や高濃度浸炭・高濃度浸炭窒化処理では、粒界酸化層や不完全焼入れ層からなる浸炭異常層(以下、単に「異常層」と呼ぶことがある)が生成し、これが歯車の特性劣化(歯元曲げ疲労強度や耐ピッチング性等の低下)となって現れることになる。上記なじみ性を改善するという観点から、上記浸炭異常層を積極的に利用する技術も提案されているが(例えば特許文献2)、上記特性劣化を抑制するための根本的な対策となっているとはいえない。
従来の浸炭・浸炭窒化処理や高濃度浸炭・高濃度浸炭窒化処理に対して、減圧下での浸炭・浸炭窒化処理または高濃度浸炭・高濃度浸炭窒化処理(以下、「真空浸炭・浸炭窒化処理」と呼ぶことがある)を行うことも提案されている(例えば、非特許文献1、2)。こうした真空浸炭・浸炭窒化処理では、上記異常層が歯車表層に実質的に生成せず、表層の焼入れ性が確保できるので、表層硬さが向上して耐ピッチング性が改善されたものとなる。
しかしながら、これまで提案されている真空浸炭・窒化処理条件では、「なじみ性」が良好となるような表面性状の歯車が必ずしも得られているとは限らず、特に表層部のC量が過剰になることによるなじみ性劣化の傾向があるのが実情である。また減圧下での高濃度浸炭・高濃度浸炭窒化処理においても、これまで報告されている条件では、表層部の炭化物面積率が過剰となって、なじみ性の低下につながっている。
特開2004−285384号公報 特開2000−322536号公報 「熱処理」 37巻第3号、P154〜159、平成9年6月、日本熱処理技術協会発行 「石川島播磨技報」 Vol.45 No.1、P15〜20(2005−3)、石川島播磨重工業株式会社発行
本発明はこの様な事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、異常層を低減すると共に、歯車における表層部の炭化物分布を適切に制御することによって、耐ピッチング性と共になじみ性をも改善した歯車部品を提供することにある。
上記目的を達成することのできた本発明の歯車部品とは、C:0.10〜0.30%(質量%の意味、以下同じ)、Si:1.5%以下(0%を含まない)、Mn:1.5%以下(0%を含まない)、Cr:0.5〜2.5%、Mo:0.5%以下(0%を含まない)を夫々含有し、残部:鉄および不可避不純物からなる鋼材を所定形状に成形した後、浸炭処理または浸炭窒化処理した歯車部品であって、表面異常層の深さが5μm以下であると共に、歯面から50μm深さ位置での炭化物面積率Fmが3〜20%であり、且つ歯面から25μm深さ位置での炭化物面積率Fsと前記炭化物面積率Fmとの比(Fs/Fm)が0.3以上、1.0未満を満足するものである点に要旨を有するものである。この歯車部品においては、歯面から50μm深さ位置でのN濃度[Nm]が0.05〜1.0%であることが好ましい。
本発明の歯車部品を構成する鋼材には、必要によって更に他の元素として、(a)Ni:2.0%以下(0%を含まない)、(b)B:0.005%以下(0%を含まない)、(c)Al:0.05%以下(0%を含まない)、Nb:0.1%以下(0%を含まない)、Ti:0.1%以下(0%を含まない)およびV:0.1%以下(0%を含まない)よりなる群から選択される1種以上、(d)N:0.03%以下(0%を含まない)(e)S:0.04%以下(0%を含まない)、Ca:0.01%以下(0%を含まない)、Mg:0.01%以下(0%を含まない)、Pb:0.1%以下(0%を含まない)およびBi:0.05%以下(0%を含まない)よりなる群から選択される1種以上、等を含有させることも有効であり、含有させる元素の種類に応じて歯車部品の特性が更に改善されることになる。
本発明によれば、鋼材の化学成分組成を特定すると共に、高濃度浸炭・高濃度窒化処理条件を適切に制御することによって、表層異常層の深さを低減し、且つ歯面表層における炭化物分布を最適化することによって、耐ピッチング性と共になじみ性をも改善した歯車部品が実現でき、こうした歯車部品は動力伝達部で使用される歯車部品として極めて有用である。
本発明者は、真空浸炭・浸炭窒化処理を適用して異常層を低減する着想の下で、歯車部品における「なじみ性」を向上させるべく、かねてより検討を重ねてきた。そして、所定の化学成分組成を有する鋼材を用いると共に、真空浸炭・窒化処理の条件を適正化して処理し、歯面表層における炭素濃度分布を適切に制御してやれば、「なじみ性」を向上しえた歯車部品が実現できることを見出し、その技術的意義が認められたので先に出願している(特願2006−307093号)。
先に提案した技術では、鋼材表層部に炭化物を形成させないことを前提とし、鋼材表層部(特に、歯面表層部)の炭素濃度分布を適正化することによって、「なじみ性」を向上した歯車部品を実現したものである。本発明者は、通常の真空浸炭・浸炭窒化処理よりも高硬度が得られる減圧下での高濃度浸炭・高濃度浸炭窒化処理(以下、「真空高濃度浸炭・高濃度浸炭窒化処理」と呼ぶことがある)を適用し、鋼材表層部に積極的に炭化物を形成することを前提とし、その上で優れた「なじみ性」を発揮させる要件について検討した。その結果、所定の化学成分組成を有する鋼材を用いると共に、真空高濃度浸炭・高濃度浸炭窒化処理の条件を適正化して処理し、歯面表層における炭化物分布を上記のように制御してやれば、上記目的に適う歯車部品が実現できることを見出し、本発明を完成した。
本発明の歯車部品においては、基本的には、歯面から50μm深さ位置での炭化物面積率Fmが3〜20%であり、且つ歯面から25μm深さ位置での炭化物面積率Fsと前記炭化物面積率Fmとの比(Fs/Fm)が1.0未満を満足するものであるが、これらの要件を規定した理由は次の通りである。
歯面から25μm深さ位置は、歯車対の勘合による摩耗で除去されやすく、ピッチング損傷等に影響する歯面の強度は、歯面から50μm深さ位置の炭化物面積率Fmに左右されることになる。こうした観点から、歯面から50μm深さ位置での炭化物面積率Fmを少なくとも3%以上として、歯面の強度を確保する必要がある。但し、上記炭化物面積率Fmが20%を超えると炭化物が粗大化し、却って歯面の強度を低下させることになる。尚、上記炭化物面積率Fmの好ましい下限は5%であり、好ましい上限は17%である。
また歯車部品におけるピッチング損傷を更に低減するという観点からして、歯面から50μm深さ位置のN濃度[Nm]が0.05〜1.0%となるように制御することが好ましい(その範囲設定理由はCの場合と同等)。歯面から50μm深さ位置のN濃度[Nm]を0.05%以上とすることによって、歯面の強度を更に高めることができる。但し、上記N濃度[Nm]が1.0%を超えると、粗大な窒化物が析出し、却って歯面の強度を低下させることになる。
一方、歯車のなじみ性については、歯車対の勘合による摩耗で除去されやすい位置(歯面から25μm深さ位置)での性状に影響されることになる。即ち、機械加工等で生じた凹凸が勘合による摩耗で少なくなり(即ち、表面粗さが小さくなり)、表面で生じる過剰な応力が低減され、その結果としてなじみ性が良好なものとなると考えられる。こうした状態を確保するためには、歯面から25μm深さ位置での炭化物面積率Fsと前記炭化物面積率Fmとの比(Fs/Fm)は、少なくとも1.0未満とする必要がある。尚、上記比(Fs/Fm)の好ましい下限は0.3であり、好ましい上限は0.9である。
本発明の歯車部品は、ピッチング損傷を低減するという観点から、異常層は極力低減したものであるが、こうした効果を発揮するためには、表面異常層の深さが5μm以下であることも必要である。但し、本発明の歯車部品を製造するには、真空高濃度浸炭・高濃度浸炭窒化処理を行うものであるので(詳細については、後述する)、基本的に表面異常層の深さが5μmよりも深くなることはない。尚、上記した「歯面から25μm(または50μm)深さ位置」とは、表面異常層が存在するときは、その厚さをも含めた趣旨である。
本発明の歯車部品では、その素材となる鋼材の化学成分組成も適切に制御する必要があるが、基本的な成分の範囲限定理由は下記の通りである。
[C:0.10〜0.30%]
Cは、機械構造用鋼部品としての芯部の硬さを確保するために必要な元素であり、こうした効果を発揮させるためには、少なくとも0.10%含有させる必要がある。しかしながら、C含有量が過剰になると、芯部の硬さが過大となって歯車の靭性を劣化させることになる。こうしたことから、C含有量は0.30%以下とする必要がある。C含有量の好ましい下限は0.15%であり、好ましい上限は0.25%である。
[Si:1.5%以下(0%を含まない)]
Siは、鋼の溶製時に脱酸性元素として有効に作用する他、耐摩耗性や耐ピッチング性を良好にする上でも有効に作用する。これらの作用はその含有量が増加するにつれて増大するが、Si含有量が過剰になると、それらの効果が飽和するばかりか被削性が悪化するので1.5%以下にするのが良い。Si含有量の好ましい下限は0.3%であり、好ましい上限は1.0%である。
[Mn:1.5%以下(0%を含まない)]
Mnは、脱酸剤・脱硫剤および焼入れ性向上元素として有効に作用する。これらの作用はその含有量が増加するにつれて増大するが、Mn含有量が過剰になると、高濃度浸炭・高濃度浸炭窒化処理後の残留オーステナイト量が増加し、硬さが低下するので、1.5%以下にする必要がある。Mn含有量の好ましい下限は0.3%であり、好ましい上限は1.2%である。
[Cr:0.5〜2.5%]
Crは、焼入れ性を向上させる上で有効な元素であり、こうした効果を発揮させるためには0.5%以上含有させる必要がある。しかしながら、Cr含有量が過剰になると、最表面の硬さが増大して良好ななじみ性が確保できなくなるので、2.5%以下とする必要がある。Cr含有量の好ましい下限は0.8%であり、好ましい上限は1.7%である。
[Mo:0.5%以下(0%を含まない)]
Moは、Crと同様に、焼入れ性を向上させる上で有効な元素であり、また歯車表層部における異常層を低減する効果も認められる。こうした効果はその含有量が増加するにつれて増大するが、Mo含有量が過剰になると、最表面の硬さが増大して良好ななじみ性が確保できなくなるので、0.5%以下とする必要がある。Mo含有量の好ましい下限は0.05%であり、好ましい上限は0.3%である。
本発明で規定する含有元素は上記の通りであって、残部は鉄および不可避不純物(例えば、P,O等)であるが、必要によって、下記元素を積極的に含有させて特性を一段と高めることも有効である。これらの元素を含有させるときの範囲限定理由は、次の通りである。
[Ni:2.0%以下(0%を含まない)]
Niは、歯車部品の疲労強度を向上させるのに有効な元素であり、必要によって含有させる。しかしながら、Ni含有量が過剰になると、最表層のなじみ性が低下するので、2.0%以下(より好ましくは1.0%以下)とすることが好ましい。尚、上記効果を発揮させるための好ましい下限は0.4%程度である。
[B:0.005%以下(0%を含まない)]
Bは、焼入性向上元素であり、表層部の粒界強化に働き、疲労強度向上に有効な成分である。しかしながら、B含有量が過剰になると、粒界を脆化させるので、0.005%以下(より好ましくは0.003%以下)とすることが好ましい。尚、上記効果を発揮させるための好ましい下限は0.001%程度である。
[Al:0.05%以下(0%を含まない)、Nb:0.1%以下(0%を含まない)、Ti:0.1%以下(0%を含まない)およびV:0.1%以下(0%を含まない)よりなる群から選択される1種以上]
Al,Nb,TiおよびVは、微細な炭窒化物を形成することによって、結晶粒を微細化する効果があり、歯車部品の疲労強度向上に寄与する。しかしながら、これらの元素の含有量が過剰になると、炭窒化物が粗大になって上記効果が低下するので、夫々上記の範囲で含有させることが好ましい。
[N:0.03%以下(0%を含まない)]
Nは、上記炭窒化物形成元素(Al,Nb,TiおよびV)等と炭窒化物を形成し、結晶粒を微細化する効果がある。しかしながら、N含有量が過剰になると、その効果が飽和するばかりか、靭性が低下するので0.03%以下とすることが好ましい。
[S:0.04%以下(0%を含まない)、Ca:0.01%以下(0%を含まない)、Mg:0.01%以下(0%を含まない)、Pb:0.1%以下(0%を含まない)およびBi:0.05%以下(0%を含まない)よりなる群から選択される1種以上]
S,Ca,Mg,PbおよびBiは、被削性を向上させる元素であり、必要によって含有される。しかしながら、これらの元素の含有量が過剰になると、その効果が飽和するばかりか、疲労強度が低下するので、夫々上記の範囲で含有させることが好ましい。
本発明の歯車部品では、歯面表層における炭化物分布を適切に制御したものであるが、こうした歯車部品を製造するには、例えば次のように行えば良い。上記した化学成分組成を満足する鋼材を所定の形状(歯車形状)に成形した後、高温(例えば、1000℃程度)での真空高濃度浸炭・高濃度浸炭窒化処理時に、浸炭ガス(例えば、アセチレンガス)を炉内に流す時間(浸炭時間:Cx)と、浸炭ガスを流した後に炭素を内部に拡散させる目的で高温状態のままで浸炭ガスを流さない時間(拡散時間:Dx)の時間比(Dx/Cx)を2.7よりも大きな値として操業する。
通常の真空浸炭・浸炭窒化処理では、処理温度が900〜950℃程度で行われており、処理温度を高くすると炭化物を形成するので、ガス流量を少なくしたり、処理時間を短くしたりして、炭化物の析出を回避するようにしている。これに対して本発明では、ガス流量や処理時間を調整し、高温状態で処理することになる。また、通常の真空浸炭・浸炭窒化処理では、その雰囲気は「カーボンポテンシャル」の概念を用いずに、ガス流量等を設定するようにしている(後記実施例ご参照)。
一方、上記時間比(Dx/Cx)は、従来では、浸炭効率化(浸炭時間の短縮・適正化)の観点から、1.5〜2.5程度にされていたが(例えば、前記非特許文献2)、拡散時間Dxの比率を大きくすることで、目的とする炭素物分布を得ることができる。即ち、拡散時間Dxの比率を大きくすることによって、歯面からより深い位置(歯面から50μm深さ位置)での炭化物面積率Fmを高くすると共に、比較的浅い位置(歯面から25μm深さ位置)での炭化物面積率Fsを少なくして、これらの比(Fs/Fm)を1.0未満とすることができる。
尚、本発明の歯車部品においては、歯面からより深い位置(歯面から50μm深さ位置)でのN濃度[Nm]を0.05〜1.0%程度にすることも好ましいが、こうしたN濃度を達成するには、上記拡散時にアンモニア(NH3)を適正に導入すれば良い(他の条件については上記と同様:後記実施例における「真空浸炭窒化処理」)。
上記のような真空高濃度浸炭・高濃度浸炭窒化処理を行った後は、熱処理歪抑制等の観点から、一旦860℃程度まで冷却した後(このときの温度を「焼入れ温度」と呼ぶ)、油冷等によって焼入れすれば良い。また、結晶粒の粗大化を防止するため、一旦600℃まで冷却し、再度860℃程度まで加熱し、油冷等によって焼入れしても良い。
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
下記表1に示す化学成分組成の鋼材を真空溶製炉で溶製し、鍛造、焼きならしを行い、部品に近い形状にブランク加工した後に、歯切り等の機械加工を行って、歯車部品を作製した。
Figure 0004874199
得られた歯車部品に、種々の真空高濃度浸炭・高濃度浸炭窒化処理を施した。このときの真空高濃度浸炭・高濃度浸炭窒化処理条件[浸炭炉、浸炭方法、浸炭雰囲気(ガス種、ガス流量)、浸炭温度、浸炭時間[Cx]、拡散時間[Dx]、比([Dx]/[Cx])]を下記表2に示す。
Figure 0004874199
そして歯車歯面の表層部における炭化物面積率(Fm、Fs)を走査顕微鏡(SEM)解析(2000倍)によって求めると共に、N濃度[Nm]をEPMA(Electron Probe Microanalyzer)を用いた分析によって測定した。また異常層の深さは歯面断面の走査型顕微鏡(SEM)観察によって求めた。
試験歯車(上記で作製した歯車部品)と相手歯車を組み合わせた動力循環式歯車試験を行った。このときの用いた歯車対の諸元と、歯車試験条件は下記の通りである。
[歯車対の諸元]
モジュール:試験歯車(2.5mm)、相手歯車(2.5mm)
圧力角 :試験歯車(20°)、相手歯車(20°)
歯数 :試験歯車(22)、相手歯車(25)
歯幅 :試験歯車(12mm)、相手歯車(25mm)
ねじれ角 :試験歯車(30°)、相手歯車(30°)
[歯車試験条件]
入力軸トルク:300N・m
入力軸回転数:1000rpm
油種 :ATF(オートマチック用トランスミッションオイル)
油温 :80℃
規定回数である200万回回転させた試験歯車の90°毎(軸芯に対して90°)の歯の歯面において、歯幅の1/4、2/4、3/4の各位置での表面粗さRa(算術平均粗さ)を測定した。このときの、幅方向の測定位置を図1に示す(1/4位置=A、2/4位置=B、3/4位置=Cに対応)。そして、これらの平均値を歯面粗さRaとした。
更に、継続して歯車試験を実施し、ピッチング寿命を求めた。このとき、ピッチング寿命は、いずれか1歯の面に1mm2以上のピッチングが生じたときの回数とした。これらの試験結果を、N濃度[Nm]および異常層深さと共に、下記表3に示す。
Figure 0004874199
これらの結果から明らかなように、製造条件を適切にして表層部における炭化物分布を適切にしたもの(試験No.1〜7)では、いずれも表面粗さRaが小さくなっており、摩耗によるなじみ性向上が確認できる。またピッチング寿命も良好な結果となっている。
これに対して、試験No.8〜17のものでは、本発明で規定するいずれかの要件を満足しておらず、表面粗さRaは大きな値を示しており、またピッチング寿命も低下している。
これらの結果に基づいて、上記比(Fs/Fm)が、歯面表面粗さRa(200万回回転後の表面粗さRa)とピッチング寿命に与える影響を、図2に示す。図2から明らかなように、上記比(Fs/Fm)を適切な範囲(1.0未満)とすることによって、なじみ性と共に耐ピッチング性も良好になっていることが分かる。
歯面に表面粗さRaを測定するときの幅方向の測定位置を示した模式図である。 比(Fs/Fm)が、歯面表面粗さRaとピッチング寿命に与える影響を示すグラフである。

Claims (7)

  1. C:0.10〜0.30%(質量%の意味、以下同じ)、Si:1.5%以下(0%を含まない)、Mn:1.5%以下(0%を含まない)、Cr:0.5〜2.5%、Mo:0.5%以下(0%を含まない)を夫々含有し、残部:鉄および不可避不純物からなる鋼材を所定形状に成形した後、浸炭処理または浸炭窒化処理した歯車部品であって、表面異常層の深さが5μm以下であると共に、歯面から50μm深さ位置での炭化物面積率Fmが3〜20%であり、且つ歯面から25μm深さ位置での炭化物面積率Fsと前記炭化物面積率Fmとの比(Fs/Fm)が0.3以上、1.0未満を満足するものであることを特徴とするなじみ性に優れた歯車部品。
  2. 歯面から50μm深さ位置でのN濃度[Nm]が0.05〜1.0%である請求項1に記載の歯車部品。
  3. 前記鋼材は、更に他の元素として、Ni:2.0%以下(0%を含まない)を含有するものである請求項1または2に記載の歯車部品。
  4. 前記鋼材は、更に他の元素として、B:0.005%以下(0%を含まない)を含有するものである請求項1〜3のいずれかに記載の歯車部品。
  5. 前記鋼材は、更に他の元素として、Al:0.05%以下(0%を含まない)、Nb:0.1%以下(0%を含まない)、Ti:0.1%以下(0%を含まない)およびV:0.1%以下(0%を含まない)よりなる群から選択される1種以上を含有するものである請求項1〜4のいずれかに記載の歯車部品。
  6. 前記鋼材は、更に他の元素として、N:0.03%以下(0%を含まない)を含有するものである請求項1〜5のいずれかに記載の歯車部品。
  7. 前記鋼材は、更に他の元素として、S:0.04%以下(0%を含まない)、Ca:0.01%以下(0%を含まない)、Mg:0.01%以下(0%を含まない)、Pb:0.1%以下(0%を含まない)およびBi:0.05%以下(0%を含まない)よりなる群から選択される1種以上を含有するものである請求項1〜6のいずれかに記載の歯車部品。
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