JP5151323B2 - 機械構造用部品 - Google Patents
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Description
しかしながら、過大なトルクや衝撃荷重が負荷されるこれらの部品においては、歯の変形量を極小化することが必要であり、そのためには剛性(耐力)を向上させる目的で、鋼材の炭素量を0.2%以上に高める必要が生じている。このことは非特許文献1にも記載されている。
0.40≦C≦0.70質量%、
0.10≦Si≦0.50質量%、
0.10≦Mn≦1.00質量%、
1.00≦Cr≦2.00質量%、
2.00≦Mo≦6.00質量%、及び、
0.30≦V≦1.50質量%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる鋼材(高剛性浸炭用鋼)の表面に浸炭層が形成されており、
前記浸炭層表面の炭素濃度Xcが0.6≦Xc≦0.7質量%であり、かつ、浸炭距離δcが0.8mm≦δc≦1.2mm、であり、
Moの偏析比aが1.00≦a≦1.30であり、
前記鋼材の残留γ量が10vol%以下であることを要旨とする。
0.005≦Ti≦0.050質量%、及び、
0.0005≦B≦0.0030質量%、を含有してもよく、
更に、
0.005≦Nb≦0.10質量%、を含有してもよい。
P≦0.015質量%、S≦0.005質量%、とするとよい。
本発明に係る機械構造用部品は、Moの偏析比aが、1.00≦a≦1.30であるから、偏析が少なく、耐力や靭性を向上させ得る。
本発明に係る機械構造用部品は、鋼材の残留γ量が10vol%以下であるから、材料硬さや耐力を向上させ得る。
以下に、本発明の一実施形態に係る機械構造用部品について説明する。
本発明の一実施形態に係る機械構造用部品は、必須元素として、C、Si、Mn、Cr、Mo、Vを含有し、任意元素として、Ti、B、Nbを含有し、残部がFe及び不可避的不純物(P、S等)からなる鋼材(高剛性浸炭用鋼)の表面に、浸炭焼入れによる浸炭層が形成されたものである。そして、これに更に窒化処理により窒化層が形成されていてもよい。
(1)C:0.40≦C≦0.70質量%。
Cは、鋼の硬さ、耐力を高めるために含有させる成分元素である。Cの含有量が少なすぎると、所望の硬さ、耐力が得られない。そこで、Cの含有量は、0.40質量%以上とする。一方、Cの含有量が過剰になると、靱延性を損なう。そこで、Cの含有量は、0.70質量%以下とする。
Siは、脱酸剤として含有させる。その効果を得るために、含有量をこの範囲とした。
Mnは、鋼の脱酸に有効であるとともに、鋼の焼入れ性を向上させるために含有させる成分元素である。そこで、Mnの含有量は、0.10質量%以上とする。一方、Mnの含有量が過剰になると、鋼の靭性を劣化させる。そこで、Mnの含有量は、1.00質量%以下とする。
Crは、浸炭や窒化時に炭化物や窒化物の形成を促進し、浸炭層や窒化層の硬さを高める元素であり、また、他方では、焼入れ性を高める作用がある。また、窒化層が形成される場合には、窒化層を硬化させる成分元素である。Crの含有量は、その効果を得るために、1.00質量%以上とする。一方、Crの含有量が過剰になると靭性を劣化させる。そこで、Crの含有量は、2.00質量%以下とする。
Moは、鋼材を400℃以上の温度で焼戻しをすることによって、Mo2Cなどの炭化物を析出させ、硬さを上げるのに有効な成分元素である(二次硬化)。また、窒化層が形成される場合には、窒化層を硬化させる成分元素である。また、焼入れ性向上にも寄与する。Moの含有量は、この効果を得るために2.00質量%以上とする。一方、Moの含有量が過剰になると、熱間加工性を低下させる。そこで、Moの含有量は、6.00質量%以下とする。
Vは、鋼材を400℃以上の温度で焼戻しをすることによって、VCなどの炭化物を析出させ、硬さを上げるのに有効な成分元素である(二次硬化)。また、窒化層が形成される場合には、窒化層を硬化させる成分元素である。Vの含有量は、この効果を得るために0.30質量%以上とする。一方、Vの含有量が過剰になると、熱間加工性を低下させる。そこで、Vの含有量は、1.50質量%以下とする。
Tiは、鋼の結晶粒を微細化する効果があり、また、Bの結晶粒の粒界強化という効果を発現させるために含有させ得る成分元素である。Tiを含有させなかったとしたならば、BはN(不純物レベルの極めて微量なN)と親和力が強いためBNを形成し、Bの結晶粒の粒界強化という効果が得られない。これに対し、Tiを含有させれば、TiがNを固定するため、BNが形成されず、Bを単体で固溶させることができる。そのため、Tiを含有させれば、Bの結晶粒の粒界強化という効果が得られる。従って、Bを添加する場合、Ti全量でN(不純物レベルのN)を全量結合させるように、N量が決められる。Tiの含有量は、これらの効果を得るために、0.005質量%以上とする。
一方で、Tiを過剰に含有させると、粗大な析出物が形成され、耐力や疲労特性を悪化させる。そこで、Tiの含有量は、0.050質量%以下とする。
Bは、結晶粒の粒界強化及び焼入れ性の向上のために含有させ得る成分元素である。Bの含有量は、結晶粒の粒界強化及び焼入れ性の効果が得られる0.0005質量%以上とする。一方、Bの含有量が過剰になると、焼入れ性向上の効果が飽和する。そこで、Bの含有量は、0.0030質量%以下とする。
Nbは、鋼の結晶粒を微細化し、靭性を高める効果があるため、含有させ得る成分元素である。Nbの含有量は、その効果が得られる0.005質量%以上とする。一方、Nbの含有量が過剰になると、結晶粒微細化の効果が飽和してしまう。そこで、Nbの含有量は、0.10質量%以下とする。
Pは、粒界に偏析し、粒界の結合力を弱めるほか、特に浸炭層の靭性を劣化させる成分元素である。そのため、Pの含有量は低いほうが望ましい。そこで、Pの含有量は、0.015質量%以下とする。
Sは、粒界の結合力を弱める元素であり、不純物として、その含有量が低い方が好ましい。そこで、Sの含有量は、0.005質量%以下とする。
(12)Moの偏析比a:1.00≦a≦1.30。
ある合金の成分元素Zの「偏析比」とは、偏析指数ともいい、その成分元素Zの最高濃度をCM、最低濃度をCmとすると、「成分元素Zの偏析比=CM/Cm」で定義され、ミクロ偏析の程度を示す指標となる。従って、Moの偏析比は、「Moの偏析比a=Moの最高濃度/Moの最低濃度」により求めることができる。
Moの偏析比aは、1.30を超えると、鋼の耐力、衝撃値が低下する。そこで、偏析比aは、1.00以上1.30以下とする。尚、Moの偏析比aを1.30以下とすることができたのは、2回以上の再溶解による。再溶解は、2回行う場合には、例えば、真空溶解と真空アーク溶解(VAR)によるものとなり、3回行う場合には、例えば、大気溶解、エレクトロスラグ溶解(ESR)、真空アーク溶解(VAR)などとなる。再溶解での溶解手法は何ら限定されるものではない。
「残留γ」とは、鋼中に未変態のまま残存しているオーステナイトをいい、鋼材の硬さを低減させる。そこで、残留γ量は、10vol%以下とする。
「浸炭層」とは、鋼材の表面に形成される炭素の濃度が高い層である。「浸炭距離δc」とは、ここでは、浸炭層表面から、炭素濃度が「鋼材の炭素濃度」と等しくなるところとの境目までの距離をいい、これを浸炭層の厚さと定義する。換言すれば、「浸炭層」とは、その炭素濃度が鋼材の炭素濃度よりも高い部分をいう。浸炭層表面の炭素濃度Xcや、浸炭距離δcの限定理由は、以下の通りである。
「浸炭層表面の炭素濃度」とは、浸炭部品の表面層から約50μm奥に入った箇所の炭素濃度をいう。
浸炭層表面の炭素濃度Xcの下限を0.6質量%としたのは、それ未満だと、機械構造用部品の接触面の摩耗強度が悪化してしまうからである。一方、浸炭層表面の炭素濃度Xcの上限を0.7質量%としたのは、それを超えると、炭化物が網目状に析出して耐力や衝撃値を低下させるからである。
浸炭距離δcの下限を0.8mmとしたのは、それ未満だと、機械構造用部品の接触面の摩耗強度が低下するからである。一方で、浸炭距離δcの上限を1.2mmとしたのは、これを超えると、靭性が悪化するからである。
「窒化層」とは、鋼材の表面に形成される窒素の濃度が高い層である。「窒化距離δn」とは、ここでは、窒化層表面から、窒化濃度が「鋼材の窒素濃度」と等しくなるところとの境目までの距離をいう。換言すれば、「窒化層」とは、その窒素濃度が鋼材の窒素濃度よりも高い部分をいう。窒化層表面の窒素濃度Xnや、窒化距離δnの限定理由は、以下の通りである。
「窒化層表面の窒素濃度」とは、浸炭部品の表面層から約50μm奥に入った箇所の窒素濃度をいう。
窒化層表面の窒素濃度Xnの下限を0.7質量%としたのは、それ未満だと、機械構造用部品の接触面の摩耗強度が悪化してしまうからである。一方、浸炭層表面の炭素濃度Xcの上限を3.0質量%としたのは、それを超えると、窒化物が析出して耐力や衝撃値を低下させるからである。
窒化距離δnの下限を0.05mmとしたのは、それ未満だと、機械構造用部品の接触面の摩耗強度が低下するからである。一方で、窒化距離δnの上限を0.2mmとしたのは、これを超えると、窒化時間が長くなり、鋼全体がなまってしまうからである。
本発明の一実施形態に係る機械構造用部品の製造方法を説明する。
本発明の一実施形態に係る機械構造用部品は、(1)真空溶解(一次溶解)→(2)二次溶解→(3)鍛造→(4)析出処理→(5)球状化焼鈍し→(6)浸炭焼入れ→(7)サブゼロ処理→(8)焼戻し処理という工程を経て製造される。尚、上記(4)の析出処理及び上記(5)の球状化焼戻しは、必要に応じて実施すればよい。
以下、これらの各工程の一例を説明する。
真空溶解(一次溶解)では、真空誘導炉に上記の成分元素を入れ、真空中(減圧下)において1450℃以上で溶解した後、造塊する工程が行われる。
二次溶解では、真空誘導炉から出鋼して造塊し、VAR等の二次溶解炉で再溶解する工程が行われる。
これにより、鋼材は、主に酸化物や介在物といった不純物が除去され、清浄度が高まるともに、鋼材中のMo等の偏析が軽減される。
鍛造では、二次溶解で得られた鋼材を、更に偏析を軽減するために1100℃から1300℃(例えば、1250℃)で8時間以上均熱後、鍛造し、その後、徐冷する工程が行われる。
このとき、鍛造時において、鋼材の表層と内部の冷却速度が異なるため、鍛造直後では、その鋼塊の結晶粒の大きさが表層と鋼材内部とでは不均一になる。
析出処理は、必要に応じて行われる。析出処理では、鍛造後の鋼材をA1点以下までの適当な温度(例えば、600℃)に加熱し、その温度に数時間(例えば、3時間)保持した後、空冷する工程が行われる。
(5)球状化焼鈍し
球状化焼鈍しは、必要に応じて行われる。球状化焼鈍しでは、鍛造後の鋼材をA3点以上からA1点以下までの適当な温度(例えば、850℃)に加熱し、その温度に0.5時間以上(例えば、2時間)保持した後、炉冷する工程が行われる。このとき、600℃までの冷却速度は、15℃/時間以下の冷却速度とするとよい。
浸炭焼入れでは、浸炭した後、焼入れが行われる。浸炭条件は、ガス浸炭、真空浸炭、プラズマ浸炭等が挙げられる。例えば、真空浸炭では、種々の炭化水素ガスを用いて1000〜1050℃程度の温度で数時間(例えば、2時間)所望の表面の炭素濃度Xc及び浸炭距離δcが得られる様、浸炭処理が行われる。そして、浸炭終了後の焼入れでは、適当な冷媒(60℃程度の油、水等)を用いて鋼材を急冷し、マルテンサイト変態をさせる操作が行われる。以上の浸炭焼入れにより、鋼材はその表面に硬化層が形成される。
サブゼロ処理では、鋼材を室温以下の低温(−80℃以下)に冷却する操作がなされる。
このサブゼロ処理により、鋼材中の残留γがマルテンサイト変態し、これにより焼入れ後10〜30vol%あった残留γが10vol%以下に低減される。また、鋼材は、その材料硬さや耐力が向上する。
焼戻しでは、鋼材をA1点以下の温度(例えば、450〜650℃)に加熱し、その温度で数十分から数時間(例えば、1時間)保持し、冷却する操作が行われる。
これにより、Cなどを過飽和に固溶したマルテンサイト組織から炭化物等が析出し、安定な組織に近づくとともに、靭性が回復する。
この焼戻しは、複数回行ってもよい。更に、この焼戻しは、アンモニアガスを含む雰囲気中で行ってもよい。アンモニアガスを含む雰囲気中で行えば、鋼材の表面が窒化され硬化層として窒化層を形成させることができる。硬化層として窒化層を形成させる方法は特に限定されるものではなく、周知の手法(イオン窒化、ガス軟窒化法等)を用いてもよい。
表1に示した実施例1〜5及び比較例1〜7についてそれぞれ該当する成分組成(残部はFe及び不可避的不純物からなる)の原料を準備し、(1)真空溶解(一次溶解)→(2)二次溶解→(3)鍛造→(4)析出処理→(5)球状化焼鈍し→(6)浸炭焼入れ(引張試験片及びシャルピー試験片については浸炭せずに焼入れのみ)→(7)サブゼロ処理→(8)焼戻しを行った。これにより、表1に示した実施例1〜5及び比較例1〜7について、試験片として、
(1)歯曲がり試験用の歯車試験片(モジュール3.5、歯数20、歯幅10mm、圧力角25°の平歯車)、
(2)歯元疲労試験用の歯車試験片(駆動側歯車:モジュール1.5、歯数35、歯幅11.9mm、圧力角17.5°、従動側歯車:モジュール1.5、歯数44、歯幅17mm、圧力角17.5°)、及び、
(3)ローラーピッティング試験片(小ローラー(直径26mm))を作製した。
また、実施例1〜5及び比較例1〜7について、
(4)焼戻し及び球状化焼鈍し後、浸炭せず、焼入れのみを行い、サブゼロ処理、焼戻しを行った鋼材から引張試験片、及びシャルピー試験片を採取した。
引張試験片:JIS Z 2201 4号試験片。
シャルピー試験片:長さ55mm、高さと幅が10mmの正方形断面で深さ2mmの10Rノッチとした。
(1)真空溶解(一次溶解)では、真空誘導炉に該当する成分元素を入れて真空中(減圧下(0.18torr))、1540℃で溶解した後、造塊した。
(2)二次溶解では、真空アーク溶解炉(VAR)にて再溶解し、造塊した。
(3)鍛造は、1250℃に加熱し、鍛錬比4.25の割合で行い、徐冷により常温まで冷却した。VAR後の鋼塊(φ510)をプレスにてφ120の棒材とした。
(4)析出処理では、鋼材を600℃に加熱して、その温度に3時間保持した後、空冷した。
(5)球状化焼鈍しでは、850℃に加熱して、その温度に2時間保持した後、600℃までの冷却速度を15℃/時間以下として、炉冷した。
(6)浸炭焼入れでは、真空浸炭炉を用い、1025℃で0.5時間の均熱後、浸炭ガスとしてプロパンガスを使用し、200Pa、1025℃下、3分の浸炭と、1025℃で30分の拡散とを5回繰り返し行い、焼入れ油に投入した。尚、引張試験片及びシャルピー試験片については浸炭せず、ソルト炉にて1025℃に30分保持後、焼入れのみを行った。
(7)サブゼロ処理では、−85℃の雰囲気(ドライアイス)下で鋼材を12時間保持した。
(8)焼戻しでは、ソルト炉内450〜600℃で1時間保持し、空冷した。更に、実施例5については、アンモニアガスを含んだ炉内で450〜600℃の温度に5時間保持し、空冷した後ソルト炉内450〜600℃で2時間保持した。
以上の工程により、歯車試験片、及び、ローラーを作製した。
実施例1〜5及び比較例1〜7の各種試験片を用いて各種特性の測定を行ったのでそれらについて説明する。表2に、測定結果をまとめて示す。
歯曲がり試験(後述する)に用いた歯車試験片のうち、試験に用いなかった歯の歯元表層より2mmの深さの位置まで炭素濃度を測定した(表2に示すのは浸炭層表面の炭素濃度のみ)。併せて、浸炭距離δcを確認した。
(窒化層)
歯曲がり試験(後述する)に用いた歯車試験片のうち、試験に用いなかった歯の歯元表層より2mmの深さの位置まで窒素濃度を測定した(表2に示すのは窒化層表面の窒素濃度のみ)。併せて、窒化距離δnを確認した。
歯曲がり試験(後述する)に用いた歯車試験片のうち、試験に用いなかった歯を切断し、鍛造方向の面をEPMAで面分析することにより、歯の内部のMo濃度の板厚方向の分布を求めた。この分布に基づいて、「Moの最大濃度/Moの最小濃度」を求め、Moの偏析比aを算出した。
歯曲がり試験(後述する)片の歯元部でX線回折を行った。これにより、残留γ量を測定した。
JIS Z 2241により0.2%耐力を測定した。
JIS Z 2242により衝撃値を測定した。
機械構造浸炭部品の一例として歯車を想定し、大きな荷重が負荷された時の変形量を歯曲がり試験にて調査した。また、過大なトルクが連続的に負荷された場合における歯元疲労特性を歯元疲労試験にて調査した。その他歯車として必要な特性として歯面疲労強度があり、ローラーピッティング試験にて評価を行った。以下、これらについて説明する。尚、試験結果は、表2にまとめて示す。
歯曲がり試験は、瞬間的に大きなトルクがかかる環境下での変形量を評価する試験である。歯曲がり試験では、既述の歯車試験片(モジュール3.5、歯数20、歯幅10mm、圧力角25°の平歯車)を二枚用意し、一方の固定して設置した歯車試験片の歯一枚に他方の歯車試験片から荷重が負荷されるようにこれらを組み合わせて歯元に一回荷重を負荷した。そして、歯車試験片毎に様々な荷重を与えてそれぞれの試験片の全歯丈の歯元から70%のところの歯の変形量を測定し、歯の倒れ量が0となる最大衝撃荷重を測定した。
歯元疲労試験は、大きな荷重が連続的に負荷される場合における変形による疲労強度の悪化を歯元で調査する試験である。歯元疲労試験では、既述の二枚の歯車試験片、すなわち、駆動側歯車(モジュール1.5、歯数35、歯幅11.9mm、圧力角17.5°)と、従動側歯車(モジュール1.5、歯数44、歯幅17mm、圧力角17.5°)とを噛み合わせ、105回、回転させても歯が破損しない負荷応力を歯元曲げ疲労強度として求めた。歯元疲労試験では、回転数を4000rpmとし、油温を80℃とした。
ローラーピッティング試験は、歯面疲労特性を評価するための試験である。ローラーピッティング試験では、既述の小ローラーとSUJ2にて作製した直径130mm、曲率半径150mmの大ローラーとを組み合わせ、設定面圧を4.3GPaとして回転させた。そして、小ローラーにピッティングが発生する時点での回転数を測定した。ローラーピッティング試験では、小ローラーの回転数を1500rpm、すべり率を−40%とし、油温を約80℃とした。
実施例1〜5に関しては、いずれも良好な結果が得られたが、比較例1〜7に関しては、いずれも良好な結果が得られなかった。
比較例5の試験片は、実施例1及び実施例5の試験片と組成成分は同一であるが、浸炭を行わなかったため、実施例1及び実施例5と比較すると、浸炭層表面の炭素濃度Xcが低く、浸炭距離δcが短かった。
(窒化層)
実施例5の試験片は、実施例1の試験片と組成成分が同一であり、いずれも同一条件で浸炭層が形成されているが、実施例1と異なり表面を窒化した分、実施例1に比べて歯曲がり試験衝撃荷重試験や歯元疲労試験でより良い結果が得られた。
比較例6の試験片は、実施例1及び実施例5の試験片と組成成分はほぼ同一であるが、二次溶解を行わなかったため、実施例1及び実施例5と比較すると、偏析比aが高かった。これについて、図1を参照して説明する。同図は、実施例1の試験片と、比較例6の試験片のMo濃度分布をEPMAで観察した写真であり、同図(a)が実施例1の試験片、同図(b)が比較例6の試験片についての写真である。これらの図に示したように、同図(a)の実施例1の試験片では、濃淡の度合いが全体にほぼ均一になったことから、Mo濃度分布がほぼ均一になり偏析比が比較的低いことがわかった。一方、同図(b)の比較例6の試験片では、濃淡の度合いが縞状で不均一になったことから、Mo濃度分布が不均一になり偏析比が比較的高いことがわかった。
比較例7の試験片は、実施例1及び実施例5の試験片と組成成分は同一であるが、サブゼロ処理を行わなかったため、実施例1及び実施例5と比較すると、残留γ量が高かった。
比較例5〜7と実施例1及び実施例5とをそれぞれ他の試験結果(歯曲がり試験、ローラーピッティング試験、歯元疲労試験)により比較すると、比較例5〜7は、実施例1及び実施例5よりも良い結果を得ることができなかった。このことから、浸炭層を形成させること、偏析比及び残留γ量を所定範囲とすることが重要であることがわかった。また、窒化層を形成させてもより良い効果が得られることがわかった。
実施例1〜5の引張試験片は、いずれも1650MPaを超える良好な結果が得られたが、比較例1〜7の引張試験片は、いずれも1800MPaを下回る結果だった。実施例1〜5は、比較例1〜4との比較から、C、Cr、Mo、Vを所定量含有させることによって、所望の耐力が得られることがわかった。特に、実施例2の引張試験片は、C量を最も高めたものであるが、耐力が最も高かった。また、実施例2は、比較例6との比較から、偏析比aが所定範囲にあるため、所望の耐力が得られることがわかった。実施例2は、比較例7との比較から、残留γ量が少ないため、所望の耐力が得られることがわかった。
実施例1〜5のシャルピー衝撃試験は、300J/cm2以上と良好な結果が得られた。
そして、0.2%耐力の結果と衝撃値の結果とを併せると、実施例1〜5の歯車試験片は、耐力に優れ、耐力が高くても衝撃特性の劣化を抑制することができることがわかった。
実施例1〜5の歯車試験片は、いずれも良好な結果が得られたが、比較例1〜7の歯車試験片は、いずれも良好な結果が得られなかった。実施例1〜5は、比較例1〜4との比較から、鋼に所定成分(特に、C、Cr、Mo、V)を所定量含有させたため、その耐力や衝撃値が高くなり、「その鋼を歯車に加工したときに歯の変形開始荷重」が高くなることがわかった。また、実施例1〜5は、鋼に所定成分を所定量含有させただけでなく、所定の浸炭状態で(比較例5と比較)、偏析比を小さく(比較例6と比較)、残留γを少なく(比較例7と比較)したものであるから、「その鋼を歯車に加工したときに歯の変形開始荷重」が高くなることがわかった。従って、実施例1〜5の歯車試験片は、瞬間的に大きな衝撃や入力トルクがかかる環境下においても、優れた疲労特性を示すことがわかった。
実施例1〜5の歯車試験片は、いずれも良好な結果が得られたが、比較例1〜7の歯車試験片は、いずれも良好な結果が得られなかった。実施例1〜5の歯車試験片は、炭素濃度を上げて耐力を高めることにより、歯曲がり量を減らすことができるため、疲労強度にも優れるといえる。これは、実施例1〜5では、鋼に所定成分(特に、C、Cr、Mo、V)を所定量含有させることにより、400℃以上の温度で焼戻しをすることによって、炭化物が析出し、硬さを上げることができたためと考えられる。この点は、C、Cr、Mo、Vの含有量が少ない比較例1〜4が、実施例1〜5に比べて歯元疲労試験の結果が悪かったことから裏付けられるといえる。
従来の一般的な鋼であれば、このようにして耐力を高めると靭性を落とし、高めた耐力を活かすことができないが、実施例1〜5の歯車試験片は、耐力を高めても、歯元疲労試験において良好な結果が得られた。その理由は、球状化した微細な炭化物を分散させ、疲労起点をなくしたことによると考えられる。
従って、実施例1〜5によれば、その鋼を加工して得られる歯車等の機械構造用部品は、耐力が高く、かつ、衝撃強度の劣化を抑制することができることがわかった。
実施例1〜5の歯車試験片は、107回以上をクリアすることができた。一方、比較例1〜7の歯車試験片は、107回以上をクリアすることができなかった。その理由は、歯曲がり試験の場合と同様である。
上記実施形態においては、高剛性浸炭用鋼を歯車として適用した例を示したが、これに限定されるものではない。例えば、本実施形態に係る高剛性浸炭用鋼は、シャフト等に適用することができる。
また、上記実施形態における浸炭焼入れは、浸炭した後、そのまま焼入れを行うという手順によるが、これに限定されるものではない。例えば、浸炭焼入れの前に焼入れを予め行い、マルテンサイト組織を形成させ、それから浸炭焼入れを行う手順によるものも本発明の技術的思想に含まれる。
Claims (5)
- 0.40≦C≦0.70質量%、
0.10≦Si≦0.50質量%、
0.10≦Mn≦1.00質量%、
1.00≦Cr≦2.00質量%、
2.00≦Mo≦6.00質量%、及び、
0.30≦V≦1.50質量%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる鋼材(高剛性浸炭用鋼)の表面に浸炭層が形成されており、
前記浸炭層表面の炭素濃度Xcが0.6≦Xc≦0.7質量%であり、かつ、浸炭距離δcが0.8mm≦δc≦1.2mm、であり、
Moの偏析比aが1.00≦a≦1.30であり、
前記鋼材の残留γ量が10vol%以下であることを特徴とする機械構造用部品。 - 前記鋼材は、更に、
0.005≦Ti≦0.050質量%、及び、
0.0005≦B≦0.0030質量%、を含有することを特徴とする請求項1に記載の機械構造用部品。 - 前記鋼材は、更に、
0.005≦Nb≦0.10質量%、を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の機械構造用部品。 - 前記鋼材は、前記不可避的不純物のうち、P及びSについては、
P≦0.015質量%、S≦0.005質量%、としたことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の機械構造用部品。 - 前記機械構造用部品は、前記鋼材の表面に前記浸炭層とともに窒化層が形成されており、
前記窒化層表面の窒素濃度Xnが0.7≦Xn≦3.0質量%であり、かつ、窒化距離δnが0.05mm≦δn≦0.2mm、であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の機械構造用部品。
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