JP6939670B2 - 転動疲労特性に優れた鋼部品 - Google Patents
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Description
浸炭層又は浸炭浸窒層を含む表面硬化層を有し、
表面特性として、以下の(a)〜(f)を具備し、
(a)残留オーステナイト量が面積率で20〜50%、
(b)最大炭窒化物の長軸長さが15μm以下、
(c)円相当径0.1〜2.0μmの炭窒化物の個数が400,000個/mm2以上、
(d)Cs(C濃度)が1.5〜3.4%、
(e)Ns(N濃度)が0.5%以下、
(f)表面硬さが800HVを超え、かつ、
下記式1を満足する、転動疲労特性の優れた鋼部品にある。
式1:4×([Cs]+[Ns])−([Cr]+[Mo]+[V])<3.6、
(但し、式中における[Cs]は上記(d)のCsの値、[Ns]は上記(e)のNsの値、[Cr]、[Mo]及び[V]はCr、Mo及びVの含有率(質量%)を示す。)
上記転動疲労特性に優れた鋼部品は、質量比で、C:0.50〜1.20%、Si:0.20〜1.50%、Mn:0.20〜1.50%、Cr:5.00〜9.00%、Mo:0〜1.00%(0%を含む)、V:0〜1.00%(0%を含む)を含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなる。これらの各元素の含有範囲の限定理由は以下の通りである。
C(炭素)は、焼入れ処理後の硬さを向上させ、強度確保のための内部硬さを得るために必要な元素である。C含有率が、0.50%未満の場合には、焼入れ後の内部硬さが低くなり、曲げ疲労強度が低下するおそれがあり、一方、1.20%を超える場合には、粗大な炭窒化物が生成しやすくなり、転動疲労強度や曲げ疲労強度低下の原因となると共に、加工性も低下するおそれがある。
Si(ケイ素)は、製鋼時の脱酸剤として不可欠な元素であるとともに、焼もどし時に炭窒化物の生成を抑え、焼もどし軟化抵抗性を向上させる元素である。Si含有率が、0.20%未満の場合には、焼もどし軟化抵抗に関し、狙いのレベルを確保しにくくなり800HV超えの表面硬さを得ることができないおそれがあり、一方、1.50%を超える場合には、焼なまし後の硬さが上昇し、所定形状への加工性が低下するおそれがある。
Mn(マンガン)は製鋼時の脱酸剤として作用する元素であるとともに、焼入れ性向上に有効である元素である。Mn含有率が、0.20%未満の場合には、焼入れ性が低下し、硬さが低下するおそれがあり、一方、1.50%を超える場合には、焼なまし後の硬さが上昇し、加工性が低下するおそれがある。
Cr(クロム)は、焼入れ性を高めるとともに、微細な炭窒化物を生成させやすくする元素である。Cr含有率が、5.00%未満の場合には、炭窒化物が充分に生成せずに表面硬さが低下するおそれがあり、一方、9.00%を超える場合には、粗大な炭窒化物が生成し、転動疲労強度や曲げ疲労強度が低下するおそれがある。
Mo(モリブデン)は、任意添加元素であるので必ずしも添加する必要はない。ただし、Moは、CrよりもCとの親和力の強い元素であり、微細な炭窒化物を生成させやすくするため、熱処理後の表面微細炭窒化物量を増加させ、硬度を上昇させるために重要な元素である。従って、適量含有させる方が好ましい。Moを含有する場合、少量であっても上記効果が得られるが、好ましくは0.05%以上とするのがよく、より好ましくは0.10%以上とするのがよい。一方、Mo含有率が1.00%を超える場合には、効果が飽和するとともに、コスト高になるという問題がある。
なお、スクラップを原料として電気炉で製造する場合には、通常Moは、0.05%未満の範囲で不純物として含有される。
V(バナジウム)は、任意添加元素であるので必ずしも添加する必要はない。ただし、Vは、Cとの親和力が非常に強い元素であり、微細な炭窒化物を生成させやすくするため、熱処理後の表面微細炭窒化物量を増加させ、硬度を上昇させるために重要な元素であるため、添加する方が好ましい。Vを含有する場合、少量であっても上記効果が得られるが、好ましくは0.01%以上とするのがよく、より好ましくは0.05%以上、さらに好ましく、0.10%以上とするのがよい。一方、V含有率が1.00%を超える場合には、効果が飽和するとともに、コスト高になるという問題がある。
(a)残留オーステナイト量が面積率で20〜50%、
表面における残留オーステナイトは、上述したように、異物噛み込み時の塑性変形形状を応力集中しずらい形状に制御するのに有効である。表面から観察した残留オーステナイトの量が、面積率で20%未満の場合には、上述した異物噛み込み時の塑性変形形状制御効果が十分に得られないおそれがあり、一方、50%を超える場合には、柔らかい残留オーステナイト相の割合が多すぎて、微細炭窒化物の多量析出による効果を考慮しても、800HV超の硬さを確保できなくなり、転動疲労強度向上効果が低下するおそれがある。
転動疲労強度の向上には、微細な炭窒化物の分散による表面硬さの向上が有効である。炭窒化物としては、Cr系炭窒化物の他、MoあるいはVが添加されている場合には、Mo系炭窒化物あるいはV系炭窒化物も同様の効果を発揮する。これらの炭窒化物のうち微細なものの必要個数は後述するとおりであるが、微細炭窒化物を増加させて硬さの向上を図っても、粗大な炭窒化物が存在すると、それが応力集中の起点となり、転動疲労強度向上に悪影響を及ぼす。したがって、表面観察により観察される最大炭窒化物の長軸長さが15μm以下となるように制御することが重要である。特に、最大炭窒化物の長軸長さが15μmを超える場合には、応力集中による悪影響が大きくなり、寿命低下の原因となるおそれが高くなるため、避ける必要がある。
上述したように、転動疲労強度の向上には微細な炭窒化物の分散による硬さの向上が不可欠である。表面観察において、硬さ向上に効果的な微細な炭窒化物の大きさは、円相当径が0.1〜2.0μmの炭窒化物であるため、このサイズの微細な炭窒化物の個数を400,000個/mm2以上存在させることによって、その効果が十分に発揮される。一方、微細な炭窒化物の個数が400,000個/mm2未満の場合には、上述した残留オーステナイト量を確保した場合における硬さ向上効果を十分に得ることができないおそれがある。
Csは、表面において測定したC(炭素)濃度を示すものである。この範囲の炭素濃度を確保するためには、後述するように、例えば、高濃度ガス浸炭処理または高濃度ガス浸炭浸窒処理を行えばよい。そして、上記した成分からなる鋼に対して、Csを上記範囲となるように制御しつつ、浸炭又は浸炭浸窒処理することにより、上述した微細な炭窒化物が析出し、かつ粗大な炭窒化物の生成を抑制した鋼部品を得ることができる。Csが3.4%を超える場合には、粗大な炭窒化物が生成し、その粗大な炭窒化物が破壊の起点となるおそれがあり、一方、1.5%未満の場合には、硬さが800HV超を得るのに十分な量の炭窒化物を確保することが困難となる。
Nsは、表面において測定したN(窒素)濃度を示すものであり、浸窒処理を行った場合に、表面に窒素を拡散させ、転動疲労特性を改善することができる。しかし、N濃度が高すぎる場合には、炭窒化物の粗大化が促進され、かえって転動疲労特性が低下するおそれがある。そのため、炭窒化物の粗大化を阻止するために、Nsを0.5%以下にすることが重要である。なお、Nは、鋼中に不純物として含有する元素であるため、浸窒処理しない場合でも、少量含有される。
表面硬さを向上させることは、転動疲労特性を向上させるための基本的な要件である。本願における鋼部品においては、従来以上の特性を得ることを目的とするため、800HVを超えることを必須とする。
また、上記した成分範囲、表面におけるC濃度、N濃度の条件を満足することに加えて、式1:4×([Cs]+[Ns])−([Cr]+[Mo]+[V])<3.6、を満たすことが、炭窒化物の粗大化をより確実に阻止し、優れた転動疲労特性を得るために有効である。式1の左辺の値が、3.6以上の場合には、粗大な炭窒化物の生成の可能性が残るが、3.6未満とすることによって、より確実に粗大な炭窒化物の生成を阻止することができる。
なお、上述したように、式中における[Cs]は上記(d)のCsの値、[Ns]は上記(e)のNsの値、[Cr]、[Mo]及び[V]はCr、Mo及びVの含有率(質量%)を示す。
上記鋼部品においては、好ましくは、内部の特性、つまり、表面硬化層よりも内部である表面硬化処理の影響が及ばない断面位置での特性として、残留オーステナイト量が面積率で10%以下である、という要件を具備することが好ましい。
本願における鋼部品は、少なくとも熱間加工を施して粗部品を形成し、該粗部品に焼きなまし処理及び粗切削加工を施した後、表面硬化処理を施し、その後、仕上げ切削加工を施すことにより製造することができる。そして、上記表面硬化処理は、例えば、高濃度ガス浸炭処理、高濃度ガス浸炭浸窒処理、高濃度真空浸炭処理、高濃度真空浸炭浸窒処理等を採用することができる。
表面及び内部の残留オーステナイト(γ)量は、微小部X線残留応力装置(PSPC)(リガク製)を用い、管球:Cr管球、X線:Kα1、加速電圧20kV、照射電流:40mAの条件設定で測定した値を用いた。
光学顕微鏡を用い、倍率:×1000、測定範囲:約0.0045mm2、測定視野数:10視野、の条件で表面を観察し、観察領域の中で長軸長さが最長のものを選んでその値を最大炭窒化物長軸長さとした。
SEMを用い、倍率:×10000で観察し、円相当径が0.1〜2.0μmのものの個数を画像処理により数えた。400,000個以上/mm2を指標とする。
表面炭素濃度、表面窒素濃度は、EPMA(X線マイクロアナライザー)を用いて測定(浸窒処理を行っていない試験材は、Cs(%)のみ測定)した。
表面硬さは、試験片1における切削済みの表面を、ビッカース硬さ試験機を用いて、荷重20kgfの条件で測定した。
B10寿命特性(転動疲労寿命特性)試験は、森式スラスト型転動疲労試験機を用い、最大接触面圧:5.3GPa、回転数:1500rpm、潤滑油:マシン油#30、ボールサイズ3/8インチ、ボール個数3個、温度:室温という条件に加え、異物としてハイス鋼粉末(硬さ730HVV、粒径100〜150μm)を混入させる条件で行った。転動疲労寿命の評価は、ワイブル分析により折損しない確率が90%と定義されるB10寿命を求め、従来鋼SUJ2(試験No.31)の結果を基準として、これに対する比率を寿命比として求めた。そして、従来鋼SUJ2に対し、4倍以上の寿命が得られた場合を合格と判断した。
これにより、B10寿命に優れ、すべて、異物を有する厳しい条件であるにもかかわらず、従来鋼(試験No.31)より4倍以上優れた寿命特性(転動疲労特性)を発揮した。ここで、実施例のうち、試験No.6〜8は、温度差の値の影響をみるため、同一成分で温度差を変化させた結果を示すが、温度差が大きいほど微細炭窒化物の数が増加し、その結果表面硬さが上昇し、B10寿命が改善されることがわかった。
Claims (2)
- 質量比で、C:0.50〜1.20%、Si:0.20〜1.50%、Mn:0.20〜1.50%、Cr:5.00〜9.00%、Mo:0〜1.00%(0%を含む)、V:0〜1.00%(0%を含む)を含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなり、
浸炭層又は浸炭浸窒層を含む表面硬化層を有し、
表面特性として、以下の(a)〜(f)を具備し、
(a)残留オーステナイト量が面積率で20〜50%、
(b)最大炭窒化物の長軸長さが15μm以下、
(c)円相当径0.1〜2.0μmの炭窒化物の個数が400,000個/mm2以上、
(d)Cs(C濃度)が1.5〜3.4%、
(e)Ns(N濃度)が0.5%以下、
(f)表面硬さが800HVを超え、かつ、
下記式1を満足する、転動疲労特性に優れた鋼部品。
式1:4×([Cs]+[Ns])−([Cr]+[Mo]+[V])<3.6、
(但し、式中における[Cs]は上記(d)のCsの値、[Ns]は上記(e)のNsの値、[Cr]、[Mo]及び[V]はCr、Mo及びVの含有率(質量%)を示す。) - 上記表面硬化層よりも内部の残留オーステナイト量が面積率で10%以下である、請求項1に記載の転動疲労特性に優れた鋼部品。
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JP2018053669A JP6939670B2 (ja) | 2018-03-21 | 2018-03-21 | 転動疲労特性に優れた鋼部品 |
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JP2018053669A Active JP6939670B2 (ja) | 2018-03-21 | 2018-03-21 | 転動疲労特性に優れた鋼部品 |
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