JP2013221207A - 転動軸 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】ピニオンシャフト5は、炭素を0.15質量%以上0.25質量%以下、クロムを2質量%以上4質量%以下、モリブデンを0.1質量%以上0.6質量%以下、マンガンを0.1質量%以上1.5質量%以下、ケイ素を0.1質量%以上1.5質量%以下含有する合金鋼で構成されている。ピニオンシャフト5は浸炭処理または浸炭窒化処理と焼入れと焼戻しとが施され硬化されてなる表層部が形成され、表面硬さHvが650以上900以下とされている。表層部の残留オーステナイト量が15体積%以上45体積%以下である。表層部の内側の芯部の残留オーステナイト量が3体積%以下である。表層部の炭素濃度と窒素濃度との和が0.8質量%以上2質量%以下である。
【選択図】図2
Description
このような遊星歯車装置のピニオンシャフトは、針状ころが転動する部分(転動面)には焼入れが施されて、ピニオンシャフトとして必要な硬さが付与されている。また、潤滑不良等による剥離寿命が問題となる場合には、ピニオンシャフトはその表層部に浸炭窒化処理等が施されて寿命が確保されている。
この転動軸は、相手部材である転動体に対して相対的に転動する転動軸において、下記の6つの条件を満足することを特徴とするものである。
条件1:炭素を0.3質量%以上0.5質量%以下、クロムを2質量%以上5質量%以下、モリブデンを0.1質量%以上1.5質量%以下、マンガンを0.1質量%以上1.5質量%以下、ケイ素を0.1質量%以上1.5質量%以下含有する合金鋼で構成されている。
条件2:前記転動体と摺動する表面には、浸炭処理または浸炭窒化処理と焼入れと焼戻しとが施され硬化されてなる表層部が形成されており、表面硬さHvが650以上900以下とされている。
条件3:前記表層部の残留オーステナイト量が5体積%以上45体積%以下である。
条件4:前記表層部の内側の芯部の残留オーステナイト量が5体積%以下である。
条件5:前記表層部の残留オーステナイト量は、前記芯部の残留オーステナイト量の6倍以上である。
条件6:前記表層部の炭素濃度と窒素濃度との和が0.8質量%以上2質量%以下である。
また、表層部の内側の芯部の残留オーステナイト量が比較的多いことから、使用条件が過酷(高荷重、高速回転、高温度)な環境下では熱変形曲がりが大きくなる。
条件1:炭素を0.15質量%以上0.25質量%以下、クロムを2質量%以上4質量%以下、モリブデンを0.1質量%以上0.6質量%以下、マンガンを0.1質量%以上1.5質量%以下、ケイ素を0.1質量%以上1.5質量%以下含有する合金鋼で構成されている。
条件2:前記転動体と摺動する表面には、浸炭処理または浸炭窒化処理と焼入れと焼戻しとが施され硬化されてなる表層部が形成されており、表面硬さHvが650以上900以下とされている。
条件3:前記表層部の残留オーステナイト量が15体積%以上45体積%以下である。
条件4:前記表層部の内側の芯部の残留オーステナイト量が3体積%以下である。
条件5:前記表層部の炭素濃度と窒素濃度との和が0.8質量%以上2質量%以下である。
図1に示す遊星歯車装置は、自動車用オートマチックトランスミッション等の遊星歯車機構に好適に使用されるものであり、図示しない軸が挿通されたサンギア1と、該サンギア1と同心に配されたリングギア2と、サンギア1およびリングギア2に噛み合いサンギア1の周りを公転する1個以上(図1においては3個)のピニオンギア3と、サンギア1およびリングギア2と同心に配されピニオンギア3を回転自在に支持するキャリヤ4と、を備えている。
そして、分岐孔13の開口部から導入された潤滑油が、中心孔11内を通って分岐孔12に至り、外周面の軸方向略中央に位置する開口部から吐出されるようになっている。吐出された潤滑油は、摺動するピニオンシャフト5の外周面と前記針状ころとの間の潤滑に供される。すなわち、分岐孔13の開口部は、中心孔11内に潤滑油を導入する潤滑油導入口として機能し、分岐孔12の開口部は、中心孔11内の潤滑油を吐出する潤滑油吐出口として機能する。
ピニオンシャフト5には、浸炭処理または浸炭窒化処理と焼入れと焼戻しとが施されているので、その外周面には硬化された表層部が形成されていて、表面硬さHvが650以上900以下とされている。よって、外周面のうち針状ころと摺動する部分(転動面)も、硬化された表層部が形成されている。
また、材料成形性がよく、かつ、使用条件が過酷な環境下でも熱変形曲がりが小さく、さらに加工コストを抑えることができる。
0.8質量%未満であると、耐摩耗性の向上に有効な炭窒化物の析出が不十分となり、耐摩耗性が低下するおそれがある。また、表層部の残留オーステナイト量が15体積%未満となって、転動疲労寿命の低下を引き起こすおそれがある。一方、2質量%超過であると、耐摩耗性の向上に対しては有利であるが、初析炭化物がネット状に発生して転がり寿命が低下したり、熱処理の生産性が低下したり、あるいは熱処理後の研削加工性が低下したりするおそれがある。また、Ms点が下がりすぎて残留オーステナイト量が45体積%超過となってしまい、その結果、表面硬さHvが650未満となるおそれがある。耐摩耗性、耐転動疲労性、耐熱性等の性能をより高くするためには、表層部の炭素濃度と窒素濃度との和が1質量%以上1.8質量%以下であることが好ましい。
〔炭素の含有量について〕
炭素(C)は、基地に固溶して焼入れ、焼戻し後の硬さを向上させて強度を向上させるとともに、鉄、クロム、モリブデン、バナジウム等の炭化物形成元素と結合して炭化物を形成し耐摩耗性を高める作用を有する元素である。
耐転動疲労性に必要な硬さを得るために行う浸炭窒化処理の時間が長くなるとコストアップを招くことから、処理時間の短縮のために、炭素の含有量は0.15質量%以上である必要がある。ただし、0.25質量%超過であると、製鋼時に粗大な共晶炭化物が生成されやすくなり、転動疲労寿命や強度が低下する場合がある。また、炭素量が0.25質量%超過であると鍛造性、冷間加工性、被削性が低下して、加工コストの上昇を招く場合がある。さらに、炭素量が0.25質量%超過であると、芯部の残留オーステナイトが多くなり、熱変形曲がりが大になって、転動疲労寿命が低下するとともに、棒材成型性が悪く、特に軸径φ15mm以下は塑性加工困難で成型時に割れやクラックが発生する。
クロム(Cr)は、基地に固溶して焼入れ性、焼戻し軟化抵抗性、耐食性,および転動疲労寿命を高める作用を有する元素である。また、炭素,窒素等の侵入型固溶元素を実質的に動きにくくして基地の組織を安定化し、水素侵入時の寿命低下を大幅に抑制する作用も有している。さらに、合金鋼中に微細に分布する炭化物が、より高硬度の(Fe,Cr)3 C、(Fe,Cr)7 C3 、(Fe,Cr)23C6 等の炭化物からなるために、耐摩耗性を高める作用も有している。さらに、残留オーステナイトが熱により分解しにくくなり、結果として塑性変形し難い。
モリブデン(Mo)は、クロムと同様に基地に固溶して焼入れ性,焼戻し軟化抵抗性,耐食性,および転動寿命を高める作用を有する元素である。また、クロムと同様に炭素,窒素等の侵入型固溶元素を実質的に動きにくくして基地の組織を安定化し、水素侵入時の寿命低下を大幅に抑制する作用も有している。さらに、合金鋼中に微細に分布する炭化物が、より高硬度のモリブデンの炭化物等からなるために、耐摩耗性を高める作用も有している。
マンガン(Mn)は、製鋼時に脱酸剤として作用する元素であり、0.1質量以上添加する必要がある。また、クロムと同様に基地に固溶してMs点を降下させて、多量の残留オーステナイトを確保したり、焼入れ性を高める作用を有している。ただし、多量に添加すると、冷間加工性、被削性が低下するだけでなく、マルテンサイト変態開始温度が低下して、浸炭窒化後に多量の残留オーステナイトが残存し十分な硬さが得られない場合がある。このため、マンガン(Mn)の添加量は1.5質量%以下にする必要がある。
ケイ素(Si)は、マンガンと同様に製鋼時に脱酸剤として作用する元素であり、0.1質量以上添加する必要がある。また、クロム,マンガンと同様に焼入れ性を向上させるとともに、基地のマルテンサイト化や残留オーステナイトの安定化を促進し、軸受寿命の向上に有効な元素である。さらに、焼戻し軟化抵抗性を高める作用も有している。ただし、多量に添加すると、鍛造性、冷間加工性、被削性および浸炭処理性が低下する場合がある。このため、ケイ素(Si)の添加量は1.5質量%以下にする必要がある。
得られたピニオンシャフトの性状、すなわち表層部の硬さHvおよび残留オーステナイト量、芯部の硬さHvおよび残留オーステナイト量、表層部の炭素濃度と窒素濃度との和を表2に示す。
また、表2に、転がり寿命評価後ピニオンシャフト塑性変形曲がり量、転動疲労寿命、軸径φ15以下の成型性を併せて示す。
変態点よりも低い温度に冷却することが好ましい。
ピニオンシャフトを日本精工株式会社製のスラストニードル試験機に装着した。すなわち、ピニオンギアの中心穴にピニオンシャフトを挿通し、ピニオンシャフトの外周面とピニオンギアの内周面との間に、複数の針状ころを転動自在に介装した。これにより、ピニオンギアはピニオンシャフトを軸として回転自在とされる。この針状ころは、高炭素クロム鋼(SUJ2)製であり、その寸法は直径3mm、長さ6mmである。また、針状ころは、JIS鋼種SCM415製の保持器で保持されてケージアンドローラとされている。なお、保持器には浸炭窒化処理が施されている。
・試験軸受:PCD 50mm、針状ころ φ3mm×6mm
・基本動定格荷重C:24000N
・基本静定格荷重C0:55000N
・スラスト荷重 :6000N
・相対回転数:5000rpm
・計算寿命L10=340時間
・潤滑油の種類:オートマチックトランスミッションフルード
・潤滑油の温度:100℃
比較例1は、表層部の残留オーステナイト量が多く、表面硬さがHv650未満であるため、耐摩耗性、耐転動疲労性、耐熱性が不十分となって、転動疲労寿命が短くなった。さらに、表層部の炭素濃度と窒素濃度との和が高いため、耐摩耗性の向上に対しては有利であるが、初析炭化物がネット状に発生して転動疲労寿命が低下した。
比較例2は、芯部の残留オーステナイト量が多く、塑性曲がりが大きくなり転動疲労寿命が短かった。さらに、比較例2は、炭素量が0.25質量%を超えて、0.4室量%と多いため、芯部の残留オーステナイトが多くなり、熱変形曲がりが大となって転動疲労寿命が短くなった。
比較例3は、表面硬さがHv650未満であり、さらに、表層部の炭素濃度と窒素濃度との和が低いため、耐摩耗性、耐転動疲労性、耐熱性が不十分となって、転動疲労寿命が短くなった。
比較例5は、表面硬さがHv650未満であり、さらに、表層部の炭素濃度と窒素濃度との和が低いため、耐摩耗性、耐転がり疲労性、耐熱性が不十分となって、転動疲労寿命が短くなった。
比較例6、7は、芯部の残留オーステナイト量が多く、塑性曲がりが大きくなり転動疲労寿命が短かった。さらに、比較例6,7は、炭素量が0.25質量%を超えて、それぞれ0.3質量%、0.5質量%と多いため、芯部の残留オーステナイトが多くなり、熱変形曲がりが大となって転動疲労寿命が短くなった。
比較例8は、表層部の残留オーステナイト量が少なく、表面疲労を緩和する応力集中軽減効果が不十分であり、さらに、芯部の残留オーステナイト量が多く、塑性曲がりが大きくなり転動疲労寿命が短かった。
サーフコム形状測定機を用いて、前述の転動疲労寿命試験を終えた後のピニオンシャフトの曲がり量を測定した。測定値は、ピニオンシャフトの両端部を結ぶ線と該線から最も離れた部分との間の荷重負荷方向(ピニオンシャフトの軸方向に垂直な方向)の距離である。結果を表2に示す。
また、比較例1では、芯部の残留オーステナイト量は実施例1、2と等しいが、表面硬さが低く、表層部の残留オーステナイト量が多いので、塑性曲がりが大きくなったと思われる。
一方、比較例3、4では、芯部の残留オーステナイト量が少ないので、塑性曲がりは実施例1〜5とほぼ等しくなったと思われる。
表2から分かるように、実施例1〜5は、比較例2、6、7と比べて成型性が優れていた。
比較例2、6、7は、炭素量が0.25質量%を超えて、それぞれ0.4質量%、0.3質量%、0.5質量%と多いため、棒材成型性が悪く、特に軸径φ15mm以下は塑性加工困難で成型時に割れやクラックが発生した。
2 リングギア
3 ピニオンギア
4 キャリヤ
5 ピニオンシャフト(転動軸)
Claims (1)
- 相手部材である転動体に対して相対的に転動する転動軸において、下記の5つの条件を満足することを特徴とする転動軸。
条件1:炭素を0.15質量%以上0.25質量%以下、クロムを2質量%以上4質量%以下、モリブデンを0.1質量%以上0.6質量%以下、マンガンを0.1質量%以上1.5質量%以下、ケイ素を0.1質量%以上1.5質量%以下含有する合金鋼で構成されている。
条件2:前記転動体と摺動する表面には、浸炭処理または浸炭窒化処理と焼入れと焼戻しとが施され硬化されてなる表層部が形成されており、表面硬さHvが650以上900以下とされている。
条件3:前記表層部の残留オーステナイト量が15体積%以上45体積%以下である。
条件4:前記表層部の内側の芯部の残留オーステナイト量が3体積%以下である。
条件5:前記表層部の炭素濃度と窒素濃度との和が0.8質量%以上2質量%以下である。
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