JP2015007265A - 転動軸 - Google Patents

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Abstract

【課題】転動疲労寿命を十分に確保できる支持軸4aを実現する。
【解決手段】支持軸4aを、炭素を0.1〜0.5質量%、クロムを2.0〜5.0質量%、モリブデンを0.1〜1.5質量%、マンガンを0.1〜1.5質量%、ケイ素を0.1〜1.5質量%、それぞれ含有し、残部がFeと不可避不純物から成る合金鋼から造り、浸炭窒化処理、高周波焼き入れ処理及び焼き戻し処理を施した後、ショットピーニング処理を施す事により、表面硬化層19を形成する。この表面硬化層19の表面硬度をHv900〜1000、残留オーステナイト量を20〜50容量%、圧縮残留応力を300〜1000MPa、炭素濃度と窒素濃度との和を0.8〜2.0質量%とし、芯部20の残留オーステナイト量を0容量%とする。
【選択図】図1

Description

本発明は、例えば無段変速機等の自動車用自動変速機やハイブリッドシステム、トランスアクスル等を構成する遊星歯車装置に組み込まれる遊星歯車を、キャリアに対して回転自在に支持する為の遊星歯車用支持軸等、高温度や潤滑不足、異物混入下等の厳しい環境で使用される転動軸の改良に関する。
自動車用自動変速機を構成する遊星歯車装置が従来から、例えば特許文献1〜4等、多くの刊行物に記載されて広く知られている。この従来から知られた遊星歯車装置は、例えば図2〜4に示す様に、外周面に歯1aを形成した太陽歯車1と、この太陽歯車1と同心に配置され、内周面に歯2aを形成したリング歯車2との間に、複数個(一般的には3〜4個)の遊星歯車3、3を、円周方向に関して等間隔に配置している。そして、これら複数個の遊星歯車3、3の外周面に形成した歯3aを、前記両歯1a、2aに噛合させている。
前記複数個の遊星歯車3、3は、それぞれ支持軸4の周囲に、それぞれ複数本ずつのニードル5、5を介して回転自在に支持している。即ち、前記遊星歯車3と、前記支持軸4と、これら各ニードル5、5とにより、転がり軸受(ラジアルニードル軸受)が構成されており、このうちの支持軸4が、転がり軸受の内輪に相当する。
前記各支持軸4の基端部(図3〜4の右端部)は、前記太陽歯車1を中心として回転自在なキャリア6の基板7に支持固定している。図示の例では、前記各支持軸4の基端部をこの基板7に形成した通孔8aに締まり嵌めで内嵌すると共に、これら各支持軸4と基板7との間に係止ピン9を掛け渡して、これら各支持軸4が前記通孔8aから脱落するのを防止している。
又、図示の例では、前記太陽歯車1を円筒状に形成し、前記基板7を、断面L字形で全体を円輪状に形成している。そして、図3に示す様に、この基板7の内周縁部に形成した円筒部10を、回転軸11の外周面にスプライン係合させている。前記太陽歯車1は、この回転軸11の周囲に、この回転軸11に対する相対回転を自在に支持している。又、前記リング歯車2は前記各部材1、6、11の周囲に、これら各部材1、6、11に対する相対回転を自在に支持している。
又、前記各支持軸4の先端部(図3〜4の左端部)は、前記基板7と共に前記キャリア6を構成する、円輪状に形成された連結板12に形成した通孔8bに内嵌固定し、前記各支持軸4の先端部同士を連結している。これら複数の支持軸4の中間部外周面で、前記キャリア6と前記連結板12との間部分は、円筒面状の内輪軌道13としている。一方、前記遊星歯車3の内周面は、円筒面状の外輪軌道14としている。そして、これら内輪軌道13と外輪軌道14との間部分に前記各ニードル5、5を設けて、前記遊星歯車3を、前記支持軸4の中間部周囲で連結板12とキャリア6との間部分に、回転自在に支持している。
尚、前記各支持軸4の内部には、図4に示す様に、通油孔として機能する軸方向孔15及び径方向孔16を設け、前記各ニードル5、5の設置部分に潤滑油を送り込み自在としている。即ち、前記各支持軸4の中心部に設けた、前記軸方向孔15の上流端を、前記キャリア6の基板7内に設けた潤滑油供給路17に通じさせると共に、前記径方向孔16の径方向両端部を、前記軸方向孔15の内周面と外周面とに開口させている。そして、遊星歯車式変速機の運転時に、前記各ニードル5、5の設置部分に潤滑油を送り込み自在としている。
上述の様な遊星歯車3及び支持軸4等を含んで構成する遊星歯車装置は、例えば、前記回転軸11を駆動軸又は従動軸とし、前記太陽歯車1又は前記リング歯車2の中心を従動軸又は駆動軸に結合する。そして、何れの歯車1、2、3を回転自在とし、何れの歯車1、2、3を回転不能とするかを切り換える事により、前記駆動軸と従動軸との間の変速並びに回転方向の変換を行う。この様な遊星歯車装置自体の構成及び作用は、従来から周知であり、本発明の要旨とも関係しないから、全体構造の図示並びに詳しい説明は省略する。
ところで、上述の様な遊星歯車装置の運転時に、前記支持軸4の外周面(ラジアルニードル軸受の内輪軌道13)を含む表面層部分には、前記各ニードル5、5の転動面との転がり接触に基づいて大きな面圧(高面圧)が加わり、この表面層部分に、数GPa程度にも達する大きな接触応力が発生する。この為に従来から、前記支持軸4を構成する金属材料として、硬くて大きな負荷に耐えられ、転動疲労寿命が長く、且つ、滑りに対する耐摩耗性の良好なものを選択使用している。具体的には、SCM420(JISG 4105)等の肌焼き鋼、SK5(JISG 4401)等の炭素工具鋼、SUJ2〜4(JISG 4805)等の高炭素クロム軸受鋼、S70C(JISG 4802)等のばね用冷間圧延鋼が使用されている。
又、前記支持軸4の表面層部分は、前記各ニードル5、5の公転運動に基づき、高面圧下で繰り返し剪断応力を受ける為、転動疲労寿命確保の面から、厳しい使用条件となる。この為、上述の様な金属材料により造られる前記支持軸4の表面層部分には、浸炭処理や浸炭窒化処理等の表面熱処理を施して、前記繰り返し加わる剪断応力に拘らず(この剪断応力に耐えて)、前記表面層部分の転動疲労寿命を確保できる様にしている。更にこの表面層部分には、前記表面熱処理に加えて(この表面熱処理に引き続いて)高周波焼き入れ等により焼き入れ処理を施して焼き入れ硬化層を形成する事により、表面硬度を確保し、転動疲労寿命の一層の向上を図っている。
例えば特許文献4には、支持軸を、炭素を0.3質量%以上0.5質量%以下、クロムを2.0質量%以上5.0質量%以下、モリブデンを0.1質量%以上1.5質量%以下、マンガンを0.1質量%以上1.5質量%以下、ケイ素を0.1質量%以上1.5質量%以下含有する合金鋼から造り、浸炭窒化処理、高周波焼き入れ処理及び焼き戻し処理を施す事が記載されている。そして、焼き入れ硬化層の表面硬度をHv650以上Hv900以下、残留オーステナイト量を15容量%以上50容量%以下とし、芯部の残留オーステナイト量を0容量%とする事が記載されている。この様な特許文献4に記載された技術によれば、支持軸の転動疲労寿命を或る程度は確保できるが、転動疲労寿命の更なる向上を図る面からは未だ改良の余地がある。
特開2002−4003号公報 特開2005−291342号公報 特開2008−150672号公報 特開2008−223104号公報
本発明は、上述の様な事情に鑑みて、転動疲労寿命を十分に確保できる、転動軸を実現すべく発明したものである。
本発明の転動軸は、外周面のうち、少なくとも相手部材である転動体が転がり接触する軌道面に表面硬化層を有しており、次の(1)〜(6)の要件を総て満たす。
(1)炭素を0.1質量%以上0.5質量%以下、クロムを2.0質量%以上5.0質量%以下、モリブデンを0.1質量%以上1.5質量%以下、マンガンを0.1質量%以上1.5質量%以下、ケイ素を0.1質量%以上1.5質量%以下含有し、残部が鉄及び不可避的不純物である合金鋼で構成されている。
(2)前記表面硬化層が、浸炭窒化処理、高周波焼き入れ処理及び焼き戻し処理を施す事により形成された焼き入れ硬化層に、ショットピーニング処理を施す事により形成されている。
必要に応じて、浸炭窒化処理の後、高周波焼き入れ処理の前に、調質処理(高温焼き戻し処理)を施す。
(3)前記表面硬化層の表面硬度がHv900以上Hv1000以下である。
(4)前記表面硬化層の残留オーステナイト量が20容量%以上50容量%以下で、且つ、芯部の残留オーステナイト量が0容量%である。
(5)前記表面硬化層の圧縮残留応力が300MPa以上1000MPa以下である。
(6)前記表面硬化層の炭素濃度と窒素濃度との和が0.8質量%以上2.0質量%以下である。
又、本発明を実施する場合に好ましくは、例えば請求項2に記載した発明の様に、前記転動軸の軸方向端部の硬度を、Hv150以上Hv350以下とする。
上述の様な構成を有する本発明によれば、転動疲労寿命を十分に確保できる転動軸を実現できる。
即ち、本発明の場合には、転動軸の外周面の表面硬化層を、浸炭窒化処理、高周波焼き入れ処理及び焼き戻し処理を施す事により形成した焼き入れ硬化層にショットピーニング処理を施す事により形成したものとしている。この為、前記表面硬化層の表面硬度を十分に高くできると共に、当該部分に圧縮残留応力を発生させられる為、転動疲労強度及び耐ピーリング性を向上させて、早期剥離等の損傷を有効に防止する事ができる。又、静的強度を向上させる事もできる。
特に本発明の場合には、表面硬化層の表面硬度をHv900〜1000と十分な硬さにしている為、異物混入下に於いても、圧痕やピーリング等の発生を有効に防止できる。又、表面硬化層に300〜1000MPaの圧縮残留応力を付与している為、軌道面に発生したピーリングを起点とする早期剥離の発生を有効に防止できる。
又、本発明の場合には、ショットピーニング処理を施す事で、加工誘起マルテンサイト変態によって残留オーステナイト量は低下するものの、表面硬化層(となる部分)の炭素濃度と窒素濃度との和を0.8〜2.0質量%の範囲に規制している為、残留オーステナイトが加工誘起マルテンサイトへと変態する事を抑制できて、表面硬化層の残留オーステナイト量を20〜50容量%の範囲に規制できる。この為、異物混入下に於ける圧痕やピーリングの発生を有効に防止できると共に、転動軸の変形量(熱変形曲がり量)を小さく抑えられる。又、芯部の残留オーステナイト量を0容量%としている事によっても、転動軸の変形量を小さく抑える上で有利になる。
従って、本発明によれば、以上の様な理由により、転動軸の転動疲労寿命を十分に確保できる。
又、請求項2に記載した発明によれば、軸方向端部の靱性を確保できる為、かしめ部を形成する際に、ひびや割れ等の損傷が発生する事を有効に防止できる。又、軸方向端部の強度を確保できる為、運転時にかしめ部が損傷する事を有効に防止できる。従って、転動軸をキャリア等の部材に固定する際に、かしめ部を好ましく使用できる。
本発明の実施の形態の1例である遊星歯車用支持軸を示す断面図。 遊星歯車装置の1例を、軸方向から見た状態で示す正面図。 図2のX−X断面図。 図3のY部に相当する部分の拡大断面図。
[実施の形態の1例]
図1は、本発明の実施の形態の1例を示している。本例の支持軸4aは、炭素(C)を0.1〜0.5質量%、クロム(Cr)を2.0〜5.0質量%、モリブデン(Mo)を0.1〜1.5質量%、マンガン(Mn)を0.1〜1.5質量%、ケイ素(Si)を0.1〜1.5質量%含有し、残部が鉄及び不可避的不純物である合金鋼で構成されている。以下、合金鋼中の各元素を、上述の様な値に規制した理由に就いて説明する。
[炭素(C)を0.1〜0.5質量%]
炭素(C)は、ラジアルニードル軸受の内輪軌道として機能する外周面を含む表面層部分の転動疲労寿命、及び、耐摩耗性を確保する為に添加する。即ち、炭素は、焼き入れによって基地に固溶し、内輪軌道として必要な硬さを向上させる元素である。又、炭素は、他の合金元素(例えば鉄、クロム、モリブデン、バナジウム等)と結合して鋼中に硬い炭化物を形成し、耐摩耗性を向上させる役割もある。但し、合金鋼中の炭素の含有量が0.1質量%未満であると、浸炭窒化処理の時間が長くなり、製造コストの上昇を招く。これに対して、炭素の含有量が0.5質量%を超えると、製鋼時に粗大な共晶炭化物が生成し易くなり、表面層部分の転動疲労寿命が低下する可能性があるだけでなく、鍛造性、冷間加工性、被削性等の加工性が低下する。そこで、合金鋼中の炭素の含有量を、0.1〜0.5質量%の範囲に規制している。
[クロム(Cr)を2.0〜5.0質量%]
クロム(Cr)は、基地に固溶して、焼き入れ性、焼き戻し軟化抵抗性、耐食性、転動疲労寿命を向上させると共に、炭素と結合して鋼中に硬い炭化物を形成し、耐摩耗性を向上させる元素である。又、炭素、窒素等の侵入型固溶元素を実質的に動きにくくして、基地の組織を安定化し、水素侵入時の寿命低下を大幅に抑制する作用も有している。更に、合金鋼中に微細に分布する炭化物が、より高硬度の(Fe,Cr)3 C、(Fe,Cr)7 3 、(Fe,Cr)236 等の炭化物からなる為に、耐摩耗性を高める作用も有している。但し、合金鋼中のクロムの含有量が、2.0質量%未満であると、前述の作用が十分に得られない場合があり、5.0質量%を超えると、冷間加工性、被削性、浸炭窒化性が低下してコストの上昇を招くおそれがある。更に、製鋼時に粗大な共晶炭化物が生成され易くなり、転動疲労寿命や強度が低下する場合がある。そこで、合金鋼中のクロムの含有量を、2.0〜5.0質量%の範囲に規制している。
[モリブデン(Mo)を0.1〜1.5質量%]
モリブデン(Mo)は、クロムと同様に、基地に固溶して焼き入れ性、焼き戻し軟化抵抗性、耐食性、及び、転動疲労寿命を高める作用を有する元素である。又、クロムと同様に、炭素、窒素等の侵入型固溶元素を実質的に動きにくくして、基地の組織を安定化し、水素侵入時の寿命低下を大幅に抑制する作用も有している。更に、合金鋼中に微細に分布する炭化物が、より高硬度のモリブデンの炭化物等からなる為に、耐摩耗性を高める作用も有している。但し、合金鋼中のモリブデンの含有量が0.1質量%未満であると、前述の作用が十分に得られない場合があり、1.5質量%を超えると、冷間加工性、被削性が低下して、コストの上昇を招くおそれがある。更に、製鋼時に粗大な共晶炭化物が生成され易くなり、転動疲労寿命や強度が低下する場合がある。そこで、合金鋼中のモリブデンの含有量を、0.1〜1.5質量に規制している。
[マンガン(Mn)を0.1〜1.5質量%]
マンガン(Mn)は、製鋼時に脱酸剤として作用する元素であり、0.1質量%以上添加する必要がある。又、クロムと同様に、基地に固溶してMs点を降下させて、多量の残留オーステナイトを確保したり、焼き入れ性を高めたりする作用を有している。但し、1.5質量%を超えて添加すると、冷間加工性、被削性が低下するだけでなく、マルテンサイト変態開始温度が低下して、浸炭窒化後に表面層部分の残留オーステナイト量が過剰になり、転がり軸受として必要な硬さを得られない場合がある。そこで、合金鋼中のマンガンの含有量を、0.1〜1.5質量%の範囲に規制している。
[ケイ素(Si)を0.1〜1.5質量%]
ケイ素(Si)は、マンガンと同様に、製鋼時に脱酸剤として作用する元素であり、0.1質量%以上添加する必要がある。又、クロム、マンガンと同様に、焼き入れ性を向上させると共に、基地のマルテンサイト化や残留オーステナイトの安定化を促進し、転動疲労寿命の向上に有効な元素である。更に、焼き戻し軟化抵抗性を高める作用も有している。但し、1.5質量%を超えて添加すると、鍛造性、冷間加工性、被削性、及び、浸炭処理性が低下する場合がある。そこで、合金鋼中のケイ素の添加量を、0.1〜1.5質量%の範囲に規制している。
以上の様な合金鋼により構成される本例の支持軸4aは、丸棒状で、その外径寸法が、例えば15mm程度で一定であり、図1に示す様に、軸方向孔15aと、複数個(本例の場合3個)の径方向孔16a、16bと、1対の円形凹部18a、18bとを有する。このうちの円形凹部18a、18bは、円すい台状で、前記支持軸4aの軸方向両端面に形成されている。前記軸方向孔15aは、前記支持軸4aの中心部に形成されており、その軸方向一端部(図1の左端部)を、一方の円形凹部18aの底部に開口させると共に、軸方向他端部(図1の右端部)を、前記支持軸4aの軸方向中間部の他端寄り部分に位置させている。又、この支持軸4aの軸方向中央部に、この支持軸4aを直径方向に貫通する様にして1対の径方向孔16a、16aを形成すると共に、この支持軸4aの軸方向他端寄り部分に、1つの径方向孔16bを形成している。これら各径方向孔16a、16bは、それぞれの径方向内端部を前記軸方向孔15aの内周面に開口させると共に、それぞれの径方向外端部を前記支持軸4aの外周面に開口させている。
又、前記支持軸4aの外周面のうち軸方向両端部を除いた軸方向中間部には、浸炭窒化処理、調質処理、高周波焼き入れ処理、及び、焼き戻し処理を施す事により形成した焼き入れ硬化層に、更にショットピーニング処理を施して、軸方向に亙りほぼ均一の深さを有する表面硬化層19を形成している。又、前記支持軸4aの軸方向両端部で、前記両円形凹部18a、18bと軸方向に整合する部分(円形凹部18a、18bの周囲部分)は、焼き入れ硬化せずに生のままである。
本例の場合、前記表面硬化層19の表面硬度を、Hv900〜1000の範囲に規制している。異物混入下に於いて転動疲労特性が低下するのは、異物の噛み込みによって、圧痕やピーリングが形成され、当該部分に応力集中が生じる事が一因と考えられる。従って、前記表面硬化層19の表面硬度がHv900〜1000の範囲であれば、内輪軌道13の硬さが十分となり、圧痕が形成されにくくなる。硬度がHv900未満であると、表面硬さが不十分である為、圧痕が形成される場合がある。一方、硬度がHv1000を超えると、高周波焼き入れ温度を高くする必要が生じる為、結晶粒径の粗大化により靱性が低下する場合がある。
又、前記表面硬化層19の圧縮残留応力を、300MPa以上1000MPa以下としている。圧縮残留応力は、ピーリング(微小な亀裂)が進展するのを抑制し、白色組織剥離に至るまでの時間を延長する効果がある。この様な効果を得る為には、前記表面硬化層19の圧縮残留応力を、300MPa以上確保する必要がある。これに対し、1000MPaを超えると、表面粗さが悪化したり、圧縮残留応力と釣り合う大きさで内部に発生する引張応力の作用によって、亀裂の進展が促進される場合がある。尚、圧縮残留応力は、浸炭窒化処理によって、基地組織への炭素の固溶濃度に表面と内部で勾配を持たせたり、ショットピーニング処理によって付与することができる。従って、圧縮残留応力の大きさは、浸炭窒化処理時の保持温度を変えて、固溶炭素の濃度勾配を変える事によって調整する事もできるし、ショットピーニング処理時のドラムの回転速度と加工時間を変える事によっても調整できる。
又、前記表面硬化層19(となる部分)の炭素濃度と窒素濃度との和を、0.8〜2.0質量%の範囲に規制している。炭素濃度と窒素濃度との和が0.8質量%未満であると、耐摩耗性の向上に有利になる炭窒化物の析出が不十分となり、耐摩耗性が低下する可能性がある。又、ショットピーニング処理に起因した加工誘起マルテンサイト変態によって残留オーステナイト量が低下する為、前記表面硬化層19の残留オーステナイト量が20容量%未満となって、転動疲労寿命の低下を招く可能性がある。これに対し、2.0質量%を超えると、耐摩耗性の向上に関しては有利になるが、初析炭化物がネット状に発生して転動疲労寿命が低下する可能性がある。又、熱処理の生産性が低下したり、熱処理後の研削加工性が低下する可能性があると共に、Ms点が下がりすぎて、残留オーステナイト量が50容量%を超えてしまう可能性がある。
又、前記表面硬化層19の残留オーステナイト量を、20〜50容量%の範囲に規制している。比較的軟らかい金属組織であり、緩衝作用を有する残留オーステナイトを適正量含有させる事で、摩耗粉等の硬い異物が混入した潤滑油での潤滑を行う等、厳しい使用条件下でも圧痕やピーリングの発生を抑え、転動疲労寿命を確保できる。但し、残留オーステナイト量が20容量%未満の場合には、前記作用・効果を十分に得られない。これに対して、50容量%を越えると、残留オーステナイトの分解に伴う前記支持軸4aの変形や寸法変化を抑えにくくなる。
又、本例の場合、調質処理を施す事により、前記支持軸4aのうち、前記表面硬化層19よりも径方向内側に存在する芯部20及び軸方向両端部の残留オーステナイト量を0容量%としている。この様に芯部20の残留オーステナイト量を0容量%としている為、残留オーステナイトの分解に伴う前記支持軸4aの変形や寸法変化を抑えられて、長期間に亙る使用によっても、この支持軸4aによる遊星歯車3(図2〜4参照)の支持精度を良好な状態に維持できる。
又、本例の場合には、前記支持軸4aの軸方向両端部で前記両円形凹部18a、18bと軸方向に整合する部分(未焼き入れの部分)の硬度を、Hv150〜350の範囲に規制している。この様な硬度に規制する事により、前記支持軸4aの軸方向端部を径方向外方に塑性変形させて、例えばキャリア等の他の部材に対してかしめ固定することができる。この結果、遊星歯車装置の構造を簡素にする事ができて、小型軽量化を図る事ができる。又、遊星歯車装置の高速化にも有利になる。硬度がHv350を超えると、塑性変形させにくくなるので、かしめ加工性が低下し、ひびや割れ等の損傷が発生し易くなるといった問題を生じる可能性がある。これに対し、硬度がHv150未満であると、かしめ強度が不十分となり、使用条件によっては、前記支持軸4aがキャリア等から脱落したり、取付精度が低下したりする可能性がある。但し、軸方向端部の硬度をHv350以上とした場合には、前述した従来構造の場合の様に、支持軸とキャリアとの間に掛け渡すピンを使用して、支持軸をキャリアに対して支持固定する態様を採用できる。
前記表面硬化層19の径方向厚さ寸法は、前記支持軸4aの直径の15%以下である事が好ましい。この様に規制すれば、この支持軸4aの塑性曲がりや膨張が生じにくくなる為、これらに起因した寿命低下を抑制できる。又、前記表面硬化層19の径方向厚さ寸法が、前記支持軸4aの直径の15%を超えると、残留オーステナイト量の絶対値が多くなる為、残留オーステナイトの分解に起因した塑性変形の影響が大きくなる可能性がある。尚、前記表面硬化層19の径方向厚さ寸法とは、有効硬化層深さであり、表面(外周面)から硬度がHv500以上である部分までの径方向寸法である。
次に、本例の支持軸4aの製造方法に就いて簡単に説明する。
本例の支持軸4aを造るには、上記組成の合金鋼からなる線材に、旋削加工、熱処理、外径粗研削、外径仕上げ研削(超仕上げ研削)、ショットピーニング処理の順に加工を施すか、或いは、外径仕上げ研削(超仕上げ研削)とショットピーニング処理とを入れ替えて加工を施す。以下、各工程に就いて、順番に説明する。
先ず、前述の様な組成を有する合金鋼から造られ、所定の外径を有する長尺な素材(断面円形の線材)を、アンコイラから引き出して、所定長さ(完成後の長さに、軸方向両端面の形状を整える為に必要とする削り代を加えた長さ)に切断する。尚、合金鋼自体の(焼き入れせずに生のままの状態での)硬さは、例えばHv150〜350のものを使用する。
所定長さに切断した素材は、その後、鍛造等の塑性加工或いは旋削等の切削加工を施す事により、軸方向両端面に前記各円形凹部18a、18bが形成された第一中間素材とする。この第一中間素材は、焼き入れ硬化層を未だ形成しておらず、全体が生のままである。
この様な第一中間素材には、続く工程で、軸方向中間部の1乃至複数個所(本例の場合3個所)に前記各径方向孔16a、16bを、前記第一中間素材のほぼ中心部まで形成して第二中間素材とする。尚、これら各径方向孔16a、16bを穿設する作業は、ボール盤等を使用した切削加工により行うが、前記第一中間素材は、焼き入れ硬化せずに全体が生のままである為、この切削加工は容易に行える。又、前記各径方向孔16a、16bの内径は、例えば1mm以上(例えば1〜4mm程度)とする。
次いで、前記第二中間素材に、前記軸方向孔15aを形成して、第三中間素材とする。この様な軸方向孔15aは、ボール盤等を使用した切削加工により、前記第二中間素材の軸方向端面に形成した一方の円形凹部18aの底面中心部から、前記支持軸4aの軸方向中間部の他端寄り部分に達した部分にまで形成する。又、前記軸方向孔15aの内径は、例えば1mm以上(例えば1〜4mm)とする。尚、前記第二中間素材も、焼き入れ硬化されていない生のままの状態であるから、前記軸方向孔15aを形成する作業は容易に行える。又、前記各径方向孔16a、16bと前記軸方向孔15aとの形成順序は逆にする事もできる。
次いで、前記第三中間素材に熱処理を施して第四中間素材とする。本例の場合には、熱処理として、浸炭窒化処理、調質処理、高周波焼き入れ処理、及び、焼き戻し処理を施す。これにより、第四中間素材の軸方向中間部外周面に、焼き入れ硬化層を形成する。
[浸炭窒化処理]
このうちの浸炭窒化処理は、前記第三中間素材を、RXガス(N2 、H2 、CO、CO2 などの混合ガス)、エンリッチガス、アンモニアガスなどを含有する雰囲気下で、820℃以上950℃以下の温度で、3時間以上5時間以下の条件で加熱処理を行う事により施す。尚、雰囲気としては、RXガス、エンリッチガス、及び、アンモニアガスの混合ガスからなる雰囲気とすることが好ましい。又、この雰囲気ガス内のアンモニア流量を0.3m3 /h以上0.8m3 /h未満とする事が好ましい。アンモニア流量が0.3m3 /h未満では、表層部の窒素含有量を十分に高くする事ができず、0.8m3 /h以上になると、研削性等の加工特性に問題が生じる。このアンモニア流量に就いては、雰囲気ガスが、アンモニアガス以外のガスを含む場合、全体の窒素量をアンモニア量に換算した場合の数値を意味するものとする。
浸炭窒化処理の温度が820℃未満であるか、処理時間が3時間未満である場合には、前記第三中間素材の表面に窒素及び炭素が十分に含浸できず、炭素濃度と窒素濃度との和が0.8質量%未満となり、浸炭窒化の効果が十分に得られない可能性がある。一方、温度が950℃を超えるか、処理時間が5時間を超える場合には、必要以上に窒素と炭素が含浸して、炭素濃度と窒素濃度との和が2.0質量%を超えて、初析炭化物がネット状に発生して転動疲労寿命が低下したり、熱処理の生産性が低下したり、或いは、熱処理後の研削加工性が低下する可能性がある。
[調質処理]
浸炭窒化処理の後には、450℃以上800℃以下の温度で、保持時間を1〜3時間程度(例えば2時間)とする、調質処理(高温焼き戻し、第1次焼き戻し)を施す。これにより、前記第三中間素材の芯部及び軸方向両端部の残留オーステナイト量を、0容量%とする。
[高周波焼き入れ処理]
次いで、950℃以上1050℃以下の温度で、保持時間を1秒以上20秒以下とする、高周波焼き入れ処理を施す。
[焼き戻し処理]
そして最後に、150℃以上180℃以下の温度で、保持時間を1〜2時間程度(例えば1.5時間)とする、焼き戻し処理(低温焼き戻し、第2次焼き戻し)を施す。
以上の様な熱処理工程により、前記第三中間素材の軸方向中間部外周面に焼き入れ硬化層が形成された第四中間素材には、次いで、外径粗研削、外径仕上げ研削(超仕上げ研削)を施して、第五中間素材とする。
そして、この様な第五中間素材に、ショットピーニング処理を施し、前述した様な特性を有する前記表面硬化層19が形成された前記支持軸4aを得る。ショットピーニング処理に使用する投射材(ショット材)の種類としては、例えば、硬鋼カットワイヤ製であり、粒径が300〜600μm程度であり、硬度がHv700程度であるものを使用できる。又、投射速度は20〜30m/s程度とする事ができる。この様な条件でショットピーニング処理を施す事により、焼き入れ硬化層の表面硬度を向上させて、Hv900以上Hv1000以下となる表面硬化層19を形成する。又、この表面硬化層19に、300MPa以上1000MPa以下の圧縮残留応力を発生させる。尚、ショットピーニング処理は、上述した様な外径仕上研削を施す以前に実施する事も可能ではあるが、外径仕上研削の以後に実施する事が好ましい。この理由は、投射速度を遅くできると共に、粒径の小さい投射材を使用できる為、投射材が破砕する事を防止できると共に、装置を構成する部品に摩耗や損傷を生じさせず、素材の表面に安定して圧縮残留応力を付与できる為である。又、投射条件を厳しくする必要がない為、投射材の摩耗や損傷を防止できると共に、安価な装置を使用する事が可能になり、製造コストの低減も図れる為である。
以上の様な構成を有する本例の支持軸4aによれば、転動疲労寿命を十分に確保できる。
即ち、本例の場合には、前記支持軸4aの外周面の表面硬化層19を、浸炭窒化処理、調質処理、高周波焼き入れ処理及び焼き戻し処理を施す事により形成した焼き入れ硬化層に、ショットピーニング処理を施す事により形成している。この為、前記表面硬化層19の表面硬度を十分に高くできると共に、当該部分に圧縮残留応力を発生させられる為、転動疲労強度及び耐ピーリング性を向上させて、早期剥離等の損傷を有効に防止する事ができる。又、静的強度を向上させる事もできる。
特に本例の場合には、前記表面硬化層19の表面硬度をHv900〜1000と十分な硬さにしている為、異物混入下に於いても、圧痕やピーリング等の発生を有効に防止できる。又、前記表面硬化層19に300〜1000MPaの圧縮残留応力を付与している為、内輪軌道13に発生したピーリングを起点とする早期剥離の発生を有効に防止できる。
又、本例の場合には、ショットピーニング処理を施す事で、加工誘起マルテンサイト変態によって残留オーステナイト量は低下するものの、前記表面硬化層19(となる部分)の炭素濃度と窒素濃度との和を0.8〜2.0質量%の範囲に規制している為、残留オーステナイトが加工誘起マルテンサイトへと変態する事を抑制できて、前記表面硬化層19の残留オーステナイト量を20〜50容量%の範囲に規制できる。この為、異物混入下に於ける圧痕やピーリングの発生を有効に防止できると共に、前記支持軸4aの変形量(熱変形曲がり量)を小さく抑えられる。又、芯部20の残留オーステナイト量を0容量%としている事によっても、前記支持軸4aの変形量を小さく抑える上で有利になる。
次に、本発明の効果を確認する為に行った試験に就いて説明する。
先ず試験を行う為に、表1に示す8種類の合金鋼A〜Hを用いて、表2に示す実施例1〜12及び比較例1〜11の特性を有する支持軸を作製すると共に、SUJ2(高炭素クロム軸受鋼2種)を用いて比較例12の特性を有する支持軸を作製した。尚、合金鋼A〜Hを構成する各元素の含有量は、何れも本発明の範囲に属するものである。実施例1〜12は、前述した本例の条件で、合金鋼A〜Hからなる線材に、旋削加工、熱処理(温度、時間条件等は前記の通り)、外径粗研削、外径仕上げ研削(超仕上げ研削)、ショットピーニング処理の順に加工を施す事により作製した。これに対し、比較例1〜11は、実施例1〜12の場合の場合とは、熱処理条件及びショットピーニング条件を異ならせて作製した。具体的には、比較例1は、高周波焼き入れ処理の保持時間を短くして作製した。この為、表面硬化層の残留オーステナイト量が15容量%と本発明の下限値よりも低くなっている。比較例2は、浸炭窒化処理による窒素及び炭素の含浸量を多くすると共に、高周波焼き入れ処理の保持時間を長くして作製した。この為、表面硬化層の残留オーステナイト量が55容量%と本発明の上限値よりも多くなっている。比較例3は、高周波焼き入れ処理の保持温度を低くすると共に、焼き戻し処理の保持温度を高くして作製した。この為、焼き入れ硬化層の表面硬度がHv880と本発明の下限値よりも低くなっている。比較例4は、高周波焼き入れ処理の保持温度を高くすると共に、焼き戻し処理の保持温度を低くして作製した。この為、焼き入れ硬化層の表面硬度がHv1020と本発明の上限値よりも高くなっている。比較例5は、浸炭窒化処理による窒素及び炭素の含浸量を少なくして作製した。この為、表面硬化層の残留オーステナイト量が10容量%と本発明の下限値よりも少なくなっている。比較例6は、調質処理の高温焼き戻し温度を低くして作製した。この為、軸方向端面の硬さがHv360と本発明の上限値よりも高くなっている。比較例7は、調質処理の高温焼き戻し温度を高くして作製した。この為、軸方向端面の硬さがHv140と本発明の下限値よりも低くなっている。比較例8は、調質処理の高温焼き戻し温度を十分に低くして作製した。この為、芯部の残留オーステナイト量が7容量%と本発明の値よりも多くなっている。比較例9は、ショットピーニング処理の条件をゆるく(低く)して作成した。この為、圧縮残留応力が250MPaと本発明の下限値よりも低くなっている。比較例10は、ショットピーニング処理の条件を厳しくして作成した。この為、圧縮残留応力が1050MPaと本発明の上限値よりも高くなっている。比較例11は、高周波焼き入れ処理の保持温度を低くすると共に、ショットピーニング処理の条件をゆるくして作成した。この為、焼き入れ硬化層の表面硬度がHv830と本発明の下限値よりも低くなっていると共に、圧縮残留応力が200MPaと本発明の下限値よりも低くなっている。更に、比較例12は、SUJ2製の試料に、浸炭窒化処理及び調質処理は施さずに、高周波焼き入れ処理及び焼き戻し処理を施す事により作製した。そして、この様な試料を用いて、後述する条件にて、転動疲労寿命試験及びかしめ部耐久性試験(割れ試験、疲労試験)を行った。
Figure 2015007265
Figure 2015007265
[転動疲労寿命試験]
転動疲労寿命試験の条件は、次の通りである。
試験機:NSK製プラネタリニードル試験機
支持軸の外径:14.17mm
支持軸の長さ:70mm
ニードルの材質:高炭素クロム軸受鋼2種(SUJ2)
ニードルの外径:2.5mm
ニードルの長さ:24.8mm
保持器材質:JIS規格SCM415に浸炭窒化処理を施したもの
基本動定格荷重:15500N
基本静定格荷重:16700N
ラジアル荷重:6000N
ピニオン自転数:8000min−1
計算寿命:49.3時間
潤滑油:ATF
潤滑油量:30cc/min
潤滑油温度:130℃
上述の条件で、表2に示す実施例1〜12及び比較例1〜12の試料毎に、転動疲労寿命試験を行った。この試験は、これら各試料を前記NSK製プラネタリニードル試験機に装着した状態、即ち、遊星歯車の中心孔に試料である支持軸を挿通し、この支持軸の外周面とこの遊星歯車の内周面との間に、複数のニードルを保持器により保持した状態で転動自在に設け、この遊星歯車を前記支持軸に対して回転自在に支持した状態で行った。そして、ニードル、支持軸、及び、遊星歯車のうち、少なくとも一つの部材が破損した時点で試験を中止し、その時点までの試験稼働時間を転動疲労寿命とした。尚、上述の様な状態で行う試験に於いて、ニードル、支持軸及び遊星歯車のうち、支持軸が、最も破損し易い部材である事は事前に行った予備試験により確認している。又、試験結果に就いては、比較例12の転動疲労寿命を1(基準)とした場合の比として記載している。又、表2中、転動疲労寿命を示す欄の左側に示した塑性変形曲がり量(熱変形曲がり量)は、上述の様な転動疲労寿命試験を実施した後に、各試料の外周面の反りを測定した値である。
[かしめ部耐久性試験]
かしめ部耐久性試験では、軸方向端部の硬さをHv150〜350の範囲に収めた実施例2、3、6〜8、10、11と、この範囲から外れる比較例6、7の試料を用いて、かしめ部割れ試験とかしめ部疲労試験との2種類の試験を行った。このうちのかしめ部割れ試験は、試料である支持軸をキャリアにかしめ固定した後に、靱性不足に基づくひびや割れの発生の有無を確認した。具体的には、NSK製かしめプレス試験機を使用して、かしめ荷重2.2t、かしめ速度45mm/secの同一条件で各試料の軸方向端部にかしめ部を形成し、かしめ部の破損(ひび、割れ)の有無を確認した。
又、かしめ部疲労試験は、試料である支持軸をキャリアにかしめ固定した状態で運転し、強度不足に起因した破損の有無を確認した。具体的には、NSK製油圧式変動加振試験機を使用して、抜け荷重4.7kN、加振周波数35Hz、試験サイクル100万回の同一条件で運転を行い、各試料のかしめ部の破損の有無を確認した。
[評価]
本発明の範囲に属する実施例1〜12は何れも、比較例12に比べて、塑性変形曲がり量を十分に小さく抑えられている。又、転動疲労寿命は、基準である比較例12の転動疲労寿命よりも、少なくとも8倍以上(最大で10倍)延びている事が確認された。又、かしめ部耐久性試験を行った実施例2、3、6〜8、10、11の何れも、かしめ部形成時にひびや割れが発生する事はなく、又、運転時にかしめ部に破損が発生する事もなかった。
比較例1は、表面硬化層の残留オーステナイト量が15容量%と本発明の範囲よりも低くなっている為、圧痕やピーリングの発生を十分に抑える事ができず、実施例1〜12の場合に比べて転動疲労寿命が短くなっていると考えられる。
比較例2は、表面硬化層の炭素濃度と窒素濃度との和が2.1質量%と本発明の範囲よりも高く、その結果、表面硬化層の残留オーステナイト量が55容量%と本発明の範囲よりも多くなっている。この為、塑性変形曲がり量が7μmと大きくなり、実施例1〜12の場合に比べて転動疲労寿命が短くなっていると考えられる。
比較例3は、焼き入れ硬化層の表面硬度がHv880と本発明の範囲よりも低くなっている為、内輪軌道として機能する外周面の表面硬度が不足し、実施例1〜12の場合に比べて転動疲労寿命が短くなっていると考えられる。
比較例4は、焼き入れ硬化層の表面硬度がHv1020と本発明の範囲よりも高くなっている為、相手部材であるニードルへの攻撃性が高くなり、実施例1〜12の場合に比べて転動疲労寿命が短くなっていると考えられる。
比較例5は、表面硬化層の炭素濃度と窒素濃度との和が0.7質量%と本発明の範囲よりも低く、その結果、表面硬化層の残留オーステナイト量が10容量%と本発明の範囲よりも少なくなっている。この為、圧痕やピーリングの発生を十分に抑える事ができず、実施例1〜12の場合に比べて転動疲労寿命が短くなっていると考えられる。
比較例6は、軸方向端面の硬さがHv360と高い為、かしめ部形成時に割れが発生した。
比較例7は、軸方向端面の硬さがHv140と低い為、かしめ部形成時にひびや割れは発生しなかったが、運転時にかしめ部に破損が発生した。
比較例8は、芯部の残留オーステナイト量が7容量%と本発明の範囲よりも多い為、塑性変形曲がり量が9μmと大きくなっており、実施例1〜12の場合に比べて転動疲労寿命が短くなっていると考えられる。
比較例9は、圧縮残留応力が250MPaと本発明の範囲よりも低い為、ピーリングを起点とする早期剥離の発生を十分に防止できず、実施例1〜12の場合に比べて転動疲労寿命が短くなっていると考えられる。
比較例10は、圧縮残留応力が1050MPaと本発明の範囲よりも高い為、表面粗さが悪化したり、圧縮残留応力と釣り合う大きさで内部に発生する引張応力の作用によって亀裂の進展が促進したと考えられ、実施例1〜12の場合に比べて転動疲労寿命が短くなっていると考えられる。
比較例11は、焼き入れ硬化層の表面硬度がHv830と本発明の範囲よりも低くなっていると共に、圧縮残留応力が200MPaと本発明の範囲よりも低い為、転動疲労強度及び耐ピーリング性が十分でなく、実施例1〜12の場合に比べて転動疲労寿命が短くなっていると考えられる。
最後に比較例12は、合金鋼の組成が本発明の範囲から外れると共に、表面硬度、残留オーステナイト量、及び、圧縮残留応力が、本発明の範囲から外れる為、塑性変形曲がり量が過大になると共に、転動疲労強度及び耐ピーリング性が不十分となり、実施例1〜12の場合に比べて転動疲労寿命が短くなっていると考えられる。
1 太陽歯車
1a 歯
2 リング歯車
2a 歯
3 遊星歯車
3a 歯
4、4a 支持軸
5 ニードル
6 キャリア
7 基板
8a、8b 通孔
9 係止ピン
10 円筒部
11 回転軸
12 連結板
13 内輪軌道
14 外輪軌道
15、15a 軸方向孔
16、16a、16b 径方向孔
17 潤滑油供給路
18a、18b 円形凹部
19 焼き入れ硬化層
20 芯部

Claims (2)

  1. 外周面のうち少なくとも相手部材である転動体が転がり接触する軌道面に表面硬化層を有する転動軸であって、
    (1)炭素を0.1質量%以上0.5質量%以下、クロムを2.0質量%以上5.0質量%以下、モリブデンを0.1質量%以上1.5質量%以下、マンガンを0.1質量%以上1.5質量%以下、ケイ素を0.1質量%以上1.5質量%以下含有し、残部が鉄及び不可避的不純物である合金鋼で構成されており、
    (2)前記表面硬化層が、浸炭窒化処理、高周波焼き入れ処理及び焼き戻し処理を施す事により形成された焼き入れ硬化層に、ショットピーニング処理を施す事により形成されており、
    (3)前記表面硬化層の表面硬度がHv900以上Hv1000以下であり、
    (4)前記表面硬化層の残留オーステナイト量が20容量%以上50容量%以下で、且つ、芯部の残留オーステナイト量が0容量%であり、
    (5)前記表面硬化層の圧縮残留応力が300MPa以上1000MPa以下であり、
    (6)前記表面硬化層の炭素濃度と窒素濃度との和が0.8質量%以上2.0質量%以下である
    事を特徴とする転動軸。
  2. 軸方向端部の硬度がHv150以上Hv350以下である、請求項1に記載した転動軸。
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