JP2015014032A - 遊星歯車用支持軸の製造方法及び遊星歯車用支持軸 - Google Patents
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Abstract
【課題】外周面の中間部に設けた内輪軌道14の硬さを十分に確保し、しかも、軸方向端部の硬さを、この軸方向端部に形成するかしめ部の強度及び剛性を十分に確保できる程度の硬さに安定させる。【解決手段】所定の組成を有する鋼製の遊星歯車用支持軸4のうちで前記内輪軌道14として機能する部分は、この遊星歯車用支持軸の端部で前記塑性変形させるべき部分に防炭処理を施した状態で浸炭焼き入れ処理又は浸炭窒化焼き入れ処理とのうちの一方の焼き入れ処理と焼き戻し処理とを施す事により、表面硬度をHv700以上とする。これに対して、前記遊星歯車用支持軸4の端部で前記塑性変形させるべき部分は前記焼き入れ処理と前記焼き戻し処理とを施した後に焼鈍処理を施す事により、硬さをHv200〜350とする。【選択図】図4
Description
この発明は、例えば自動車用自動変速機やトランスアスクルを構成する遊星歯車装置に組み込まれる遊星歯車をキャリアに対して回転自在に支持する為の、遊星歯車用支持軸及びその製造方法の改良に関する。具体的には、遊星歯車用支持軸各部の性状を適正に規制する事で、前記キャリアに対するこの遊星歯車用支持軸の軸方向端部の支持強度を確保し、しかも、ラジアルニードル軸受の内輪軌道として機能する前記遊星歯車用支持軸の軸方向中間部外周面の転がり疲れ寿命の確保を図るものである。
自動車用自動変速機を構成する遊星歯車装置が従来から、例えば特許文献1等、多くの刊行物に記載されて広く知られると共に、広く実施されている。この従来から知られた遊星歯車装置は、例えば図1〜3に示す様に、外周面に歯1aを形成した太陽歯車1と、この太陽歯車1と同心に配置され、内周面に歯2aを形成したリング歯車2との間に、複数個(一般的には3〜4個)の遊星歯車3、3を、円周方向に関して等間隔に配置している。そして、これら各遊星歯車3、3の外周面に形成した歯3aを、前記両歯1a、2aに噛合させている。
前記各遊星歯車3、3は、それぞれ本発明の対象となる遊星歯車用支持軸4の周囲に、それぞれ複数本ずつのニードル5、5を備えたラジアルニードル軸受6により、回転自在に支持している。これら各遊星歯車用支持軸4の基端部(図2〜3の右端部)は、前記太陽歯車1を中心として回転自在なキャリア7の基板8に支持固定している。具体的には、前記各遊星歯車用支持軸4の基端部をこの基板8に形成した通孔9aに締まり嵌めで内嵌すると共に、これら各遊星歯車用支持軸4と基板8との間に係止ピン10を掛け渡して、これら各遊星歯車用支持軸4が前記通孔9aから脱落するのを防止している。
又、図示の例では、前記太陽歯車1を円筒状に形成し、前記基板8を、断面L字形で全体を円輪状に形成している。そして、図3に示す様に、この基板8の内周縁部に形成した円筒部11を、回転軸12の外周面にスプライン係合させている。前記太陽歯車1は、この回転軸12の周囲に、この回転軸12に対する相対回転を可能に支持している。又、前記リング歯車2は前記各部材1、7、12の周囲に、これら各部材1、7、12に対する相対回転を可能に支持している。
又、前記各遊星歯車用支持軸4の先端部(図2〜3の左端部)は、前記基板8と共に前記キャリア7を構成する、円輪状に形成された連結板13に形成した通孔9bに内嵌固定し、前記各遊星歯車用支持軸4の先端部同士を連結している。これら各遊星歯車用支持軸4の中間部外周面で、前記キャリア7と前記連結板13との間部分は、前記ラジアルニードル軸受6を構成する為の、円筒面状の内輪軌道14としている。一方、前記遊星歯車3の内周面は、円筒面状の外輪軌道15としている。そして、これら内輪軌道14と外輪軌道15との間部分に前記各ニードル5、5を設けて前記ラジアルニードル軸受6を構成し、前記遊星歯車3を、前記遊星歯車用支持軸4の中間部周囲で連結板13とキャリア7との間部分に、回転可能に支持している。尚、前記各遊星歯車用支持軸4の内部には、図3に示す様に、通油孔として機能する軸方向孔16及び径方向孔17を設け、前記各ニードル5、5を設置した前記ラジアルニードル軸受6の内部空間内に潤滑油を送り込み可能としている。即ち、前記各遊星歯車用支持軸4の中心部に設けた、前記軸方向孔16の上流端を、前記キャリア7の基板8内に設けた潤滑油供給路18に通じさせると共に、前記径方向孔17の両端部を、前記軸方向孔16の軸方向中間部で、前記遊星歯車用支持軸4の内周面と外周面とに、それぞれ開口させている。そして、遊星歯車式変速機の運転時に、前記ラジアルニードル軸受6内に潤滑油を送り込める様にしている。尚、前記軸方向孔16及び前記径方向孔17から成る通油孔の寸法及び形状は、前記特許文献1に記載される等により従来から各種知られている。又、本発明は、上述の様な通油孔の有無に拘らず実施できるので、この通油孔に関する詳しい説明は省略する。
上述の様な遊星歯車3及び遊星歯車用支持軸4等を含んで構成する遊星歯車装置は、例えば、前記回転軸12を駆動軸又は従動軸とし、前記太陽歯車1又は前記リング歯車2の中心を従動軸又は駆動軸に結合する。そして、何れの歯車1、2、3を回転可能とし、何れの歯車1、2、3を回転不能とするかを切り換える事により、前記駆動軸と従動軸との間の変速並びに回転方向の変換を行う。この様な遊星歯車装置自体の構成及び作用は、従来から周知であり、本発明の要旨とも関係しないから、全体構造の図示並びに詳しい説明は省略する。
ところで、上述の様な遊星歯車装置の運転時に前記遊星歯車用支持軸4の外周面(ラジアルニードル軸受の内輪軌道14)乃至表面層部分には、前記各ニードル5、5の転動面との転がり接触に基づいて大きな面圧(高面圧)が加わり、この表面層部分に、数GPa程度にも達する、大きな接触応力が発生する。この為に従来から、前記遊星歯車用支持軸4を構成する金属材料として、硬くて大きな負荷に耐えられ、転がり疲れ寿命が長く、且つ、滑りに対する耐摩耗性の良好なものを選択使用している。具体的には、SCM420(JIS G 4105)等の肌焼き鋼、SK5(JIS G 4401)等の炭素工具鋼、SUJ2〜4(JIS G 4805)等の高炭素クロム軸受鋼、S70C(JIS G 4802)等のばね用冷間圧延鋼が使用されている。
又、前記遊星歯車用支持軸4の外周面乃至は表面層部分は、前記各ニードル5、5の公転運動に基づき、高面圧下で繰り返し剪断応力を受ける為、転がり疲れ寿命確保の面から、厳しい使用条件となる。この為、上述の様な金属材料により造られる前記遊星歯車用支持軸4の表面層部分には、浸炭焼き入れ処理や浸炭窒化焼き入れ処理等の表面熱処理を施して、前記繰り返し加わる剪断応力に拘らず(この剪断応力に耐えて)、前記表面層部分の転がり疲れ寿命を確保できる様にしている。更にこの表面層部分には、前記表面熱処理に加えて(この表面熱処理に引き続いて)高周波焼き入れ等により焼き入れ処理を施して焼き入れ硬化層を形成する事により、表面硬度を確保して、転がり疲れ寿命の一層の向上を図っている。
例えば、前記特許文献1及び特許文献5には、遊星歯車用支持軸をSUJ2〜4等の高炭素クロム軸受鋼により造り、この遊星歯車用支持軸の表面層部分に浸炭焼き入れ処理や浸炭窒化焼き入れ処理等の表面熱処理を施した後、この遊星歯車用支持軸に高周波焼き入れ処理を施す事が記載されている。そして、硬度がHv700〜900で残留オーステナイト量γRが15〜40容量%である焼き入れ硬化層を形成すると共に、芯部の硬度をHv200〜500とする事が記載されている。又、前記特許文献1及び特許文献6には、高周波焼き入れ処理により表面層部分に、硬度がHv550以上である有効硬化層深さが、軸方向孔の内周面から外周面迄の距離の0.75倍以下である、焼き入れ硬化層を形成する事が記載されている。
ところで、前記遊星歯車用支持軸4の前記キャリア7に対する支持強度及び支持剛性を高くする為に、図4に示す様に、この遊星歯車用支持軸4の端部で前記通孔9a(又は9b)に内嵌している部分を径方向外方に塑性変形させ(かしめ拡げ)、かしめ部19を形成し、これら遊星歯車用支持軸4の端部外周面と通孔9a(又は9b)の内周面との当接圧を高くする事が、従来から行われている。前記遊星歯車用支持軸4の端部をかしめ拡げ、かしめ部19を形成する作業は、この遊星歯車用支持軸4の端面の外径寄り部分に、パンチの先端面に形成した、先の尖った円環状の突条を強く押し付ける(このパンチの先端面を強く打ち付ける)事により行う。この様にして前記遊星歯車用支持軸4の端部をかしめ拡げられる様にする為には、この前記遊星歯車用支持軸4の端部で前記通孔9a(又は9b)に内嵌すべき部分の硬度を、径方向外方に塑性変形可能な程度に低くしておく必要がある。
以上の説明から明らかな通り、前記遊星歯車用支持軸4の前記キャリア7に対する支持強度及び支持剛性を高くする構造を採用する為には、前記遊星歯車用支持軸4の外周面のうちで前記内輪軌道14として機能する部分の硬さを高くし、少なくともこの遊星歯車用支持軸4の軸方向一端部(両端にかしめ部19を形成する場合には両端部)の硬さを低く抑える必要がある。
この様に、前記遊星歯車用支持軸4の各部の硬さを必要な値に調節する為に従来から、例えば特許文献3、4には、この遊星歯車用支持軸4全体に浸炭窒化処理を行ってこの遊星歯車用支持軸4全体の硬さを向上させた後、一旦焼鈍してこの遊星歯車用支持軸4全体の硬さを低下させ、次いで、この遊星歯車用支持軸4のうちで前記内輪軌道14として機能する部分に高周波焼入れ処理を施して、この部分の硬さを向上させる技術が記載されている。この様な特許文献3、4に記載された従来技術の場合には、「浸炭窒化焼き入れ処理」→「焼鈍」→「高周波焼き入れ処理」を施す必要上、熱処理の段取りが悪いだけでなく、必要な熱エネルギが多くなり、前記遊星歯車用支持軸4の製造コストが嵩む。
又、特許文献2には、遊星歯車用支持軸4全体に浸炭窒化処理を行ってこの遊星歯車用支持軸4全体の硬さを向上させた後、この遊星歯車用支持軸4の端部にのみ高周波誘導加熱による焼鈍を施して、この端部の硬さを低くする技術が記載されている。但し、この様な特許文献2に記載された従来技術の場合には、前記内輪軌道14として機能する部分に必要な硬さを付与すべく、この内輪軌道14部分のC、N量(この内輪軌道14の表面層部分のC及びNの含有量)を確保した場合に、前記高周波誘導加熱による焼鈍だけでは、遊星歯車用支持軸4の端部の硬さを十分に(かしめ部19の強度及び剛性を確保できる程度に)低くする事は難しい。
本発明は、上述の様な事情に鑑みて、外周面の中間部に設けた内輪軌道の硬さを十分に確保し、しかも、軸方向端部の硬さを、この軸方向端部に形成するかしめ部の強度及び剛性を十分に確保できる程度の硬さに安定してできる遊星歯車用支持軸の製造方法及び遊星歯車用支持軸を実現すべく発明したものである。
本発明の対象となる遊星歯車用支持軸は、少なくとも軸方向一端部をキャリアに形成した円形の通孔の内側で、外径を拡げる方向に塑性変形させてこのキャリアに対し支持固定する。又、外周面のうちでこの塑性変形させた部分から外れた部分に、この部分をラジアルニードル軸受用の内輪軌道として機能させる為の焼き入れ硬化層を設けている。
特に、本発明の遊星歯車用支持軸の製造方法の発明の場合には、先ず、前記遊星歯車用支持軸を造るべき鋼製の素材の端部で前記塑性変形させるべき部分に防炭処理を施す。次いで、この遊星歯車用支持軸を造るべき鋼製の素材の表面に浸炭焼き入れ処理又は浸炭窒化焼き入れ処理とのうちの一方の焼き入れ処理と焼き戻し処理とを施す。その後、前記遊星歯車用支持軸を造るべき鋼製の素材の端部で前記塑性変形させるべき部分に焼鈍処理を施す。
この様な本発明の遊星歯車用支持軸の製造方法を実施する場合に、例えば請求項2に記載した発明の様に、前記防炭処理を、前記遊星歯車用支持軸を造るべき鋼製の素材の端部で前記塑性変形させるべき部分に軟質金属を投射してこの部分を被覆する事により行う。
更に、この様な、請求項2に記載した発明を実施する場合に、例えば請求項3に記載した発明の様に、前記軟質金属として、CuとNiとのうちの少なくとも一方の金属を含有する(Cu又はNiのみの場合も含む)粉末を使用する。
更に、この様な、請求項2に記載した発明を実施する場合に、例えば請求項3に記載した発明の様に、前記軟質金属として、CuとNiとのうちの少なくとも一方の金属を含有する(Cu又はNiのみの場合も含む)粉末を使用する。
又、上述の様な本発明の遊星歯車用支持軸の製造方法を実施する場合に、前記遊星歯車用支持軸を造るべき素材を構成する鋼として、Cを0.10〜0.45質量%、Siを0.1〜1.0質量%、Crを2.0〜5.0質量%、Mnを0.4〜1.5質量%、Moを0.1〜2.0質量%含むものを使用する。そして、前記遊星歯車用支持軸の外周面である前記内輪軌道部分のC+N量を1.0質量%以上、同じく残留オーステナイト量を25容量%以上とし、且つ、前記遊星歯車用支持軸の端部で前記塑性変形させるべき部分のC+N量(Cの含有量とNの含有量との和)を0.45質量%以下とする。
又、請求項4に記載した本発明の遊星歯車用支持軸に於いては、前記遊星歯車用支持軸のうちで前記内輪軌道として機能する部分を、この遊星歯車用支持軸を造るべき鋼製の素材の端部で前記塑性変形させるべき部分に防炭処理を施した状態で浸炭焼き入れ処理又は浸炭窒化焼き入れ処理とのうちの一方の焼き入れ処理と焼き戻し処理とを施す事により、表面硬度をHv700以上としている。又、前記遊星歯車用支持軸を造るべき鋼製の素材の端部で前記塑性変形させるべき部分は、前記焼き入れ処理と前記焼き戻し処理とを施した後、更に焼鈍処理を施す事により、硬さをHv200〜350としている。
上述の様に構成する本発明の遊星歯車用支持軸の製造方法及び遊星歯車用支持軸によれば、遊星歯車用支持軸の外周面の中間部に設けた内輪軌道の硬さを十分に確保し、しかも、軸方向端部の硬さを、この軸方向端部に形成するかしめ部の強度及び剛性を十分に確保できる程度の硬さに安定してできる。即ち、本発明の遊星歯車用支持軸の製造方法の場合には、この遊星歯車用支持軸の周囲に遊星歯車を回転自在に指示する為のラジアルニードル軸受の内輪軌道として機能する硬化層と、前記遊星歯車用支持軸の端部をキャリアに対し強固に固定すべく、この端部を径方向外方に塑性変形させ易くする為の軟質層とを確保する為の熱処理方法を工夫している。具体的には、前記遊星歯車用支持軸を造るべき鋼製の円柱状の中間素材の端部に防炭処理を施した状態で、この中間素材の表面に浸炭焼き入れ処理又は浸炭窒化焼き入れ処理とのうちの一方の焼き入れ処理と焼き戻し処理とを施すので、前記内輪軌道として機能する前記表面部分の硬度を、Hv700以上と、十分に高くできる。しかも、この表面部分を硬化する為の熱処理時に、前記遊星歯車用支持軸を造るべき鋼製の円柱状の中間素材の端部で前記塑性変形させるべき部分に防炭処理を施して、この端部の硬さが高くなり過ぎるのを防止するので、前記表面部分を硬化する為の熱処理後に前記端部に焼鈍処理を施す事により、この端部の硬さを、径方向外方に塑性変形させ易く、しかも塑性変形後の強度も十分に確保し易い、Hv200〜350にできる。要するに本発明の遊星歯車用支持軸の製造方法の場合には、前記中間素材の端部に防炭処理を施した状態で、この中間素材の表面に焼き入れ処理と焼き戻し処理とを施した後、この中間素材の端部にのみ焼鈍処理を施すので、前記内輪軌道として機能すべき外周面の表面層部分の炭素濃度を十分に高くしてこの表面部分の硬さ、延いては転がり疲れ寿命を確保すると同時に、前記端部の表面部分での初析炭化物や粒界酸化の発生を抑えて、かしめ部とすべき端部の炭素濃度(及び窒素濃度)を低く抑えられる。この為、浸炭焼き入れ処理又は浸炭窒化焼き入れ処理後に施す焼鈍工程でのオーステナイト化温度が高くなり、この焼鈍工程を高温で行う事ができて、前記端部を、前記かしめ部の加工に適した低硬度にできる。
又、本発明を実施する場合に、前記防炭処理を、前記中間素材の端部で前記塑性変形させるべき部分を、請求項2〜3に記載した発明の様に、Cu、Ni等の軟質金属の粒子を投射して前記端部を覆う事により行えば、必要とする部分の防炭処理を低コストで、しかも安定して行える。即ち、Cu或いはNiの如き比較的軟質の金属被膜で覆われた部分では、浸炭焼き入れ処理時又は浸炭窒化焼き入れ処理時に前記中間素材を覆う雰囲気ガス中の、C及びNが鋼中に侵入し難くなる為、焼き入れ硬さを低く抑えられる。その結果、前記中間素材の端部で前記塑性変形させるべき部分の硬さを、Hv200〜350と、低く抑える事が可能になる。尚、前記端部を覆う金属被膜の厚さは、好ましくは3〜10μmとする。前記端部を覆う金属被膜の厚さが3μm未満では、十分な防炭性能を発揮させることができない。一方、10μmを超えると、その効果が飽和する。尚、前記金属被膜を形成する為の金属粒子として、前記中間素材を構成する鋼よりも硬質の金属粒子を投射すると、被膜が形成されないだけでなく、この中間素材が変形してしまう。又、防炭処理として、Cuを電解メッキする事も考えられるが、前記中間素材の端部のみに施す事が難しく、後加工等が必要になる為、コストが嵩む。更に、防炭塗料を塗布する方法もあるが、やはり前記中間素材の端部のみに施す事が難しいたけでなく、浸炭焼き入れ処理後又は浸炭窒化焼き入れ処理後にこの防炭塗料を除去する為のショットブラスト処理が必要となり、コストが嵩む。これに対して、請求項2〜3に記載した発明の如く、軟質金属の投射により、前記防炭処理を施す方法によれば、前記中間素材のうちの前記端部以外の部分をマスキングして、この端部にのみ防炭処理を施す事が容易になり、しかも、極薄の防炭処理金属被膜は、浸炭焼き入れ処理後又は浸炭窒化焼き入れ処理後に除去する必要がない為、処理費用を安く抑えられる。
更に、本発明を実施する場合に、前記遊星歯車用支持軸を造るべき素材を構成する鋼として、Cを0.10〜0.45質量%、Siを0.1〜1.0質量%、Crを2.0〜5.0質量%、Mnを0.4〜1.5質量%、Moを0.1〜2.0質量%含むものを使用して、前記遊星歯車用支持軸の外周面である前記内輪軌道部分のC+N量を1.0質量%以上、同じく残留オーステナイト量を25容量%以上とし、且つ、前記遊星歯車用支持軸の端部で前記塑性変形させるべき部分のC+N量を0.45質量%以下とすれば、前記遊星歯車用支持軸の外周面の中間部に設ける内輪軌道の硬さの確保と、軸方向端部に形成するかしめ部の強度及び剛性の確保とを、より十分に図れる。以下、前記鋼の組成及び熱処理後の性状を規制した理由に就いて説明する。
[前記鋼中のCの含有量 : 0.10〜0.45質量%]
Cは、焼き入れ処理によって基地に固溶し、硬さを向上させる元素である為、ラジアルニードル軸受6の内径側軌道輪部材として機能する、遊星歯車用支持軸4に必要な硬さを確保する為に添加する。鋼中のCの含有量が0.10質量%未満であると、焼き入れ後に於ける芯部の硬さが不足して、前記遊星歯車用支持軸4の剛性が低下(不足)する場合がある。これに対して、Cを0.45質量%超えて添加すると、この遊星歯車用支持軸4の端部の硬さを、前記かしめ部19を形成できる程度に抑えられなくなる場合がある。そこで好ましくは、前記鋼中のCの含有量を、0.10〜0.45質量%の範囲に規制する。
Cは、焼き入れ処理によって基地に固溶し、硬さを向上させる元素である為、ラジアルニードル軸受6の内径側軌道輪部材として機能する、遊星歯車用支持軸4に必要な硬さを確保する為に添加する。鋼中のCの含有量が0.10質量%未満であると、焼き入れ後に於ける芯部の硬さが不足して、前記遊星歯車用支持軸4の剛性が低下(不足)する場合がある。これに対して、Cを0.45質量%超えて添加すると、この遊星歯車用支持軸4の端部の硬さを、前記かしめ部19を形成できる程度に抑えられなくなる場合がある。そこで好ましくは、前記鋼中のCの含有量を、0.10〜0.45質量%の範囲に規制する。
[前記鋼中のSiの含有量 : 0.1〜1.0質量%]
Siは、基地に固溶して焼き入れ性及び焼き戻し軟化抵抗性を向上させる効果がある為、軸受部品として機能する、前記遊星歯車用支持軸4に必要な硬さを確保する為に添加する。且つ、Siは、基地組織中のマルテンサイトを安定化させ、水素による前記遊星歯車用支持軸4の軌道面である部分の白色組織変化を遅延させて、前記白色組織剥離の発生を遅延させ、この前記遊星歯車用支持軸4を組み込んだ転がり軸受の寿命延長に寄与する。この様な、白色組織変化の遅延による寿命延長効果は、Si量が0.1質量%未満の場合には十分には得られない。一方、Siの含有量が1.0質量%を超えると、浸炭性及び浸炭窒化性が低下するだけでなく、球状化焼鈍後の硬さが上昇する為、旋削性及び冷間加工性が低下する場合がある。そこで好ましくは、前記鋼中のSiの含有量を、0.1〜1.0質量%の範囲に規制する。
Siは、基地に固溶して焼き入れ性及び焼き戻し軟化抵抗性を向上させる効果がある為、軸受部品として機能する、前記遊星歯車用支持軸4に必要な硬さを確保する為に添加する。且つ、Siは、基地組織中のマルテンサイトを安定化させ、水素による前記遊星歯車用支持軸4の軌道面である部分の白色組織変化を遅延させて、前記白色組織剥離の発生を遅延させ、この前記遊星歯車用支持軸4を組み込んだ転がり軸受の寿命延長に寄与する。この様な、白色組織変化の遅延による寿命延長効果は、Si量が0.1質量%未満の場合には十分には得られない。一方、Siの含有量が1.0質量%を超えると、浸炭性及び浸炭窒化性が低下するだけでなく、球状化焼鈍後の硬さが上昇する為、旋削性及び冷間加工性が低下する場合がある。そこで好ましくは、前記鋼中のSiの含有量を、0.1〜1.0質量%の範囲に規制する。
[前記鋼中のCrの含有量 : 2.0〜5.0質量%]
Crの添加により、鋼中に微細に分布する炭化物を、より高硬度の(Fe,Cr)3C、(Fe,Cr)7C3、(Fe,Cr)23C6等の炭化物とする事ができる為、耐摩耗性を高める効果がある。又、残留オーステナイトが熱により分解し難くなり、結果として、剛性を向上させるという効果がある。更に、Crも、上述したSiの場合と同様に、炭化物と基地組織のマルテンサイトを安定化させる為、水素による組織変化を遅延させて、寿命を延長する効果がある。この様な効果は、Crの含有量が2.0質量%未満の場合には、十分には得られない。一方、Crの含有量が5.0質量%を超えると、浸炭性及び浸炭窒化性が低下し、軌道面の硬さを確保する為に要する温度が高くなって、前記遊星歯車用支持軸4の生産性を低下させるだけでなく、球状化焼鈍後の硬さが上昇する為、旋削性及び冷間加工性が低下し、又、端部の硬さを低く抑える事が難しくなる。そこで好ましくは、前記鋼中のCrの含有量を、2.0〜5.0質量%の範囲に規制する。
Crの添加により、鋼中に微細に分布する炭化物を、より高硬度の(Fe,Cr)3C、(Fe,Cr)7C3、(Fe,Cr)23C6等の炭化物とする事ができる為、耐摩耗性を高める効果がある。又、残留オーステナイトが熱により分解し難くなり、結果として、剛性を向上させるという効果がある。更に、Crも、上述したSiの場合と同様に、炭化物と基地組織のマルテンサイトを安定化させる為、水素による組織変化を遅延させて、寿命を延長する効果がある。この様な効果は、Crの含有量が2.0質量%未満の場合には、十分には得られない。一方、Crの含有量が5.0質量%を超えると、浸炭性及び浸炭窒化性が低下し、軌道面の硬さを確保する為に要する温度が高くなって、前記遊星歯車用支持軸4の生産性を低下させるだけでなく、球状化焼鈍後の硬さが上昇する為、旋削性及び冷間加工性が低下し、又、端部の硬さを低く抑える事が難しくなる。そこで好ましくは、前記鋼中のCrの含有量を、2.0〜5.0質量%の範囲に規制する。
[前記鋼中のMnの含有量 : 0.4〜1.5質量%]
Mnは、基地に固溶して焼き入れ性を向上させる効果がある。このような効果は、Mnの含有量が0.4質量%未満の場合には、十分には得られない。一方、Mnの含有量が1.5質量%を超えると、かしめ性が悪化する場合がある。そこで好ましくは、前記鋼中のMnの含有量を、0.4〜1.5質量%の範囲に規制する。尚、上記効果をより確実に得るためには、Mnの含有量を0.6〜1.0質量%の範囲に規制する事がより好ましい。
Mnは、基地に固溶して焼き入れ性を向上させる効果がある。このような効果は、Mnの含有量が0.4質量%未満の場合には、十分には得られない。一方、Mnの含有量が1.5質量%を超えると、かしめ性が悪化する場合がある。そこで好ましくは、前記鋼中のMnの含有量を、0.4〜1.5質量%の範囲に規制する。尚、上記効果をより確実に得るためには、Mnの含有量を0.6〜1.0質量%の範囲に規制する事がより好ましい。
[前記鋼中のMoの含有量 : 0.1〜2.0質量%]
Moは、基地に固溶して、焼き入れ性及び焼き戻し軟化抵抗性を向上させる効果がある。このような効果は、Moの含有量が0.1質量%未満の場合には、十分には得られない。一方、Moの含有量が2.0質量%を超えると、かしめ性が悪化する場合がある。そこで好ましくは、前記鋼中のMoの含有量を、0.1〜2.0質量%の範囲に規制する。尚、上記効果をより確実に得るためには、Moの含有量を0.1〜0.4質量%の範囲に規制する事がより好ましい。
Moは、基地に固溶して、焼き入れ性及び焼き戻し軟化抵抗性を向上させる効果がある。このような効果は、Moの含有量が0.1質量%未満の場合には、十分には得られない。一方、Moの含有量が2.0質量%を超えると、かしめ性が悪化する場合がある。そこで好ましくは、前記鋼中のMoの含有量を、0.1〜2.0質量%の範囲に規制する。尚、上記効果をより確実に得るためには、Moの含有量を0.1〜0.4質量%の範囲に規制する事がより好ましい。
[前記遊星歯車用支持軸4の外周面である内輪軌道14部分の硬さ : Hv700以上]
遊星歯車装置の運転に伴って前記内輪軌道14には、前記遊星歯車3から前記各ニードル5、5を介して、繰り返しラジアル荷重及び、これら各ニードル5、5の公転方向の力(接線力)を受ける。そして、前記内輪軌道14部分の硬さが不足すると、これら荷重や力に基づいて、この内輪軌道14に表面疲労型の剥離を生じる。そこで、この内輪軌道14部分にこの様な剥離が生じる事を防止し、前記遊星歯車用支持軸4の耐久性を十分に確保する為に、前記内輪軌道14部分の硬さをHv700以上とする。尚、前記内輪軌道14部分の硬さの上限値は、この内輪軌道14部分の硬さの研削性を確保する観点から、Hv850とする事が好ましい。
遊星歯車装置の運転に伴って前記内輪軌道14には、前記遊星歯車3から前記各ニードル5、5を介して、繰り返しラジアル荷重及び、これら各ニードル5、5の公転方向の力(接線力)を受ける。そして、前記内輪軌道14部分の硬さが不足すると、これら荷重や力に基づいて、この内輪軌道14に表面疲労型の剥離を生じる。そこで、この内輪軌道14部分にこの様な剥離が生じる事を防止し、前記遊星歯車用支持軸4の耐久性を十分に確保する為に、前記内輪軌道14部分の硬さをHv700以上とする。尚、前記内輪軌道14部分の硬さの上限値は、この内輪軌道14部分の硬さの研削性を確保する観点から、Hv850とする事が好ましい。
[前記遊星歯車用支持軸4の外周面である内輪軌道14部分の残留オーステナイト量 : 25容量%以上]
残留オーステナイトは、通常軟質な組織である。この為、前記内輪軌道14に付いた傷や圧痕の周辺のエッジ部に発生する応力集中を緩和し、クラックの発生を抑える効果を有する。この様な効果により、前記表面疲労型の剥離を抑えられる。この様な効果は、前記内輪軌道14部分の残留オーステナイト量が25容量%未満の場合には十分には得られない。これに対して、前記内輪軌道14表面の位置の残留オーステナイト量が50容量%を超えると、応力集中を緩和する効果が飽和するだけでなく、前記内輪軌道14の硬さが過剰に低下し、この内輪軌道14の転がり疲れ寿命の確保が難しくなり、却って遊星歯車用支持軸4の耐久性の確保が難しくなる。そこで好ましくは、内輪軌道14表面の位置の残留オーステナイト量を、25容量%以上、好ましくは50容量%以下に規制した。
残留オーステナイトは、通常軟質な組織である。この為、前記内輪軌道14に付いた傷や圧痕の周辺のエッジ部に発生する応力集中を緩和し、クラックの発生を抑える効果を有する。この様な効果により、前記表面疲労型の剥離を抑えられる。この様な効果は、前記内輪軌道14部分の残留オーステナイト量が25容量%未満の場合には十分には得られない。これに対して、前記内輪軌道14表面の位置の残留オーステナイト量が50容量%を超えると、応力集中を緩和する効果が飽和するだけでなく、前記内輪軌道14の硬さが過剰に低下し、この内輪軌道14の転がり疲れ寿命の確保が難しくなり、却って遊星歯車用支持軸4の耐久性の確保が難しくなる。そこで好ましくは、内輪軌道14表面の位置の残留オーステナイト量を、25容量%以上、好ましくは50容量%以下に規制した。
[内輪軌道14部分のC+N量 : 1.0質量%以上]
この内輪軌道14部分のC+N量は、この内輪軌道14部分の残留オーステナイト量を確保する為に必要である。即ち、鋼製の前記遊星歯車用支持軸4に焼き入れ及び焼き戻し処理を施した後に於ける、前記内輪軌道14部分の硬さや残留オーステナイト量には、浸炭焼き入れ処理乃至は浸炭窒化焼き入れ処理により合金鋼中に浸入したCとNとの量が影響する。特に、前記内輪軌道14の表面から転動体(前記各ニードル5、5)の直径の1%深さ位置では、これら内輪軌道14と各ニードル5、5の転動面との転がり接触に基づいて発生する、周方向の摩擦力に基づく剪断応力が、ほぼ最大になる。そして、この最大剪断応力位置の硬さが不十分であると、前記の内径側軌道輪部材として機能する、遊星歯車用支持軸4の軌道面の転がり疲れ寿命を低下させてしまう。
又、前記1%深さ位置のC+N量を1.0質量%以上とする事によって、この1%深さ位置の残留オーステナイト量を好適にする事が可能になる。即ち、この1%深さ位置の残留オーステナイト量を、好適値である25〜50容量%にできる。又、この1%深さ位置の残留オーステナイトは、水素をトラップして局所的な集積を防ぎ、白色組織の発生を抑制する効果がある。
この内輪軌道14部分のC+N量は、この内輪軌道14部分の残留オーステナイト量を確保する為に必要である。即ち、鋼製の前記遊星歯車用支持軸4に焼き入れ及び焼き戻し処理を施した後に於ける、前記内輪軌道14部分の硬さや残留オーステナイト量には、浸炭焼き入れ処理乃至は浸炭窒化焼き入れ処理により合金鋼中に浸入したCとNとの量が影響する。特に、前記内輪軌道14の表面から転動体(前記各ニードル5、5)の直径の1%深さ位置では、これら内輪軌道14と各ニードル5、5の転動面との転がり接触に基づいて発生する、周方向の摩擦力に基づく剪断応力が、ほぼ最大になる。そして、この最大剪断応力位置の硬さが不十分であると、前記の内径側軌道輪部材として機能する、遊星歯車用支持軸4の軌道面の転がり疲れ寿命を低下させてしまう。
又、前記1%深さ位置のC+N量を1.0質量%以上とする事によって、この1%深さ位置の残留オーステナイト量を好適にする事が可能になる。即ち、この1%深さ位置の残留オーステナイト量を、好適値である25〜50容量%にできる。又、この1%深さ位置の残留オーステナイトは、水素をトラップして局所的な集積を防ぎ、白色組織の発生を抑制する効果がある。
尚、前記1%深さ位置のC+N量が1.0質量%未満の場合には、前記内輪軌道14の硬さが不十分になり、この内輪軌道14の転がり疲れ寿命の確保が難しくなるだけでなく前記1%深さ位置の残留オーステナイト量を確保する事が難しくなる。これに対し、前記位置のC+N量の上限値は特に規制しないが、2.0質量%を超えて多くすると、効果が飽和するだけでなく、浸炭焼き入れ処理乃至は浸炭窒化焼き入れ処理に要する時間が徒に長くなり、且つ、前記内輪軌道14が不必要に硬くなり、この前記内輪軌道14の仕上加工が面倒になる等、コスト上昇の原因となる。又、前記遊星歯車用支持軸4の端部の硬さを抑える事も難しくなる。そこで好ましくは、前記1%深さ位置部分のC+N量を1.0〜2.0質量%の範囲に規制する。
[前記遊星歯車用支持軸4の端部のC+N量 : 0.45質量%以下]
この遊星歯車用支持軸4の端部は、この遊星歯車用支持軸4を前記キャリア7の基板8又は連結板13に結合固定する際に、径方向外方に塑性変形させる事により、かしめ部19とする。従って、前記遊星歯車用支持軸4の端部の硬さは高過ぎてはいけない。この遊星歯車用支持軸4の端部のC+N量は、素材である前記鋼のC量に加え、この遊星歯車用支持軸4に焼き入れ処理を施した際に前記端部に侵入したC及びNの総和である。そして、C+N量が高いと焼き入れ処理後の硬さが上昇する。前記遊星歯車用支持軸4の端部の硬さを焼鈍により低下させられる程度には限界があり、この遊星歯車用支持軸4の端部のC+N量が0.40質量%を超えると、この端部の硬さを次述するHv350以下に抑えられなくなり、この端部を径方向外方に塑性変形して成るかしめ部19のかしめ強度を十分に確保できなくなる。尚、前記遊星歯車用支持軸4の端部のC+N量の下限値は、この端部の硬さを次述するHv200以上とするため、0.1質量%とする事が好ましい。
この遊星歯車用支持軸4の端部は、この遊星歯車用支持軸4を前記キャリア7の基板8又は連結板13に結合固定する際に、径方向外方に塑性変形させる事により、かしめ部19とする。従って、前記遊星歯車用支持軸4の端部の硬さは高過ぎてはいけない。この遊星歯車用支持軸4の端部のC+N量は、素材である前記鋼のC量に加え、この遊星歯車用支持軸4に焼き入れ処理を施した際に前記端部に侵入したC及びNの総和である。そして、C+N量が高いと焼き入れ処理後の硬さが上昇する。前記遊星歯車用支持軸4の端部の硬さを焼鈍により低下させられる程度には限界があり、この遊星歯車用支持軸4の端部のC+N量が0.40質量%を超えると、この端部の硬さを次述するHv350以下に抑えられなくなり、この端部を径方向外方に塑性変形して成るかしめ部19のかしめ強度を十分に確保できなくなる。尚、前記遊星歯車用支持軸4の端部のC+N量の下限値は、この端部の硬さを次述するHv200以上とするため、0.1質量%とする事が好ましい。
[前記遊星歯車用支持軸4の端部の硬さ : Hv200〜350]
この遊星歯車用支持軸4の端部は、この遊星歯車用支持軸4を前記キャリア7の基板8又は連結板13に結合固定する際に、径方向外方に塑性変形させる事により、かしめ部19とする。このかしめ部19の加工作業は、低荷重で容易に、しかも端部に亀裂等の損傷を発生させずに行う必要がある。この為、前記遊星歯車用支持軸4の端部の硬さをHv350以下とした。一方、この端部を径方向外方に塑性変形させる事により形成されたかしめ部19が遊星歯車装置の運転に伴って緩まない様に、このかしめ部19に必要とされる強度及び剛性を確保してこのかしめ部19の耐久性を確保する為には、前記遊星歯車用支持軸4の端部の硬さを或る程度確保する必要がる。そこで、前記遊星歯車用支持軸4の端部の硬さを、Hv200〜350の範囲に規制した。
この遊星歯車用支持軸4の端部は、この遊星歯車用支持軸4を前記キャリア7の基板8又は連結板13に結合固定する際に、径方向外方に塑性変形させる事により、かしめ部19とする。このかしめ部19の加工作業は、低荷重で容易に、しかも端部に亀裂等の損傷を発生させずに行う必要がある。この為、前記遊星歯車用支持軸4の端部の硬さをHv350以下とした。一方、この端部を径方向外方に塑性変形させる事により形成されたかしめ部19が遊星歯車装置の運転に伴って緩まない様に、このかしめ部19に必要とされる強度及び剛性を確保してこのかしめ部19の耐久性を確保する為には、前記遊星歯車用支持軸4の端部の硬さを或る程度確保する必要がる。そこで、前記遊星歯車用支持軸4の端部の硬さを、Hv200〜350の範囲に規制した。
本発明の遊星歯車用支持軸の製造方法及び遊星歯車用支持軸の特徴は、この遊星歯車用支持軸を構成する鋼の組成と、熱処理後の各部の性状とを工夫する事により、遊星歯車用支持軸の外周面の中間部に設けた内輪軌道の硬さを十分に確保し、しかも、軸方向端部の硬さを、この軸方向端部に形成するかしめ部の強度及び剛性を十分に確保できる程度の硬さに安定させる点にある。図面に表れる構造に就いては、前述の図1〜3に示した特許文献1に記載された構造を含め、従来から広く知られている、端部をかしめる事によりキャリアに対し結合固定する各種遊星歯車用支持軸と同様であるから、説明を省略する。
発明の効果を確認しつつ、本発明を完成する過程で行った実験に就いて説明する。実験には、次の表1に示した、本発明の技術的範囲に属する試料を造る13種類の鋼(実施例1〜13)と、本発明の技術的範囲からは外れる試料を造る9種類の鋼(比較例1〜9)との22種類の鋼を用意し、それぞれの鋼により、円柱状の中間素材を各1本ずつ造り、この中間素材に所定の熱処理を施して遊星歯車用支持軸とし、この遊星歯車用支持軸を遊星歯車装置に組み込んだ。そして、組み込む過程、及び組み込み後に、後述するかしめ試験及び耐久試験を施して、得られた遊星歯車用支持軸の適否を判定した。
先ず、前記22種類の鋼により造った、円柱状の中間素材に浸炭窒化焼き入れ処理又は浸炭焼き入れ処理(実施例7のみ)を施して、内輪軌道14と成るべき外周面部分を含めて表面を硬化させた。前記浸炭窒化焼き入れ処理は、炉内に収納した前記中間素材の表面を890〜930℃に加熱した状態(890〜930℃に加熱した炉内)で3〜5h、Rx(6m3/h)+C3H8(0.03m3/h)+NH3(0.5m3/h)ガス雰囲気中で処理した後、油中にダイレクト・クエンチグし、180℃で焼き戻す事により行った。一方、前記浸炭焼き入れ処理は、炉内に収納した前記中間素材の表面を890〜930℃に加熱した状態(890〜930℃に加熱した炉内)で3〜5hr、Rx(6m3/h)+C3H8(0.03m3/h)ガス雰囲気中で処理した後、油中にダイレクト・クエンチグし、180℃で焼き戻す事により行った。尚、実施例1〜13及び比較例1〜3、5〜7、9に関しては、端部にCu又はNiによる防炭処理を施してから、比較例4、8に関しては防炭処理を施さずに、前記浸炭窒化焼き入れ処理又は浸炭焼き入れ処理(実施例7のみ)を施して、内輪軌道14となるべき外周面部分を含めて表面を硬化させた。その後、前記中間素材の端部を、次の表2に記載した条件で高周波焼鈍した。この高周波焼鈍時に於ける、前記中間素材の端部の加熱温度は、実施例1〜13で750〜800℃であった.
尚、前記防炭処理の為の金属(Cu又はNi)被膜の形成には、ショットピーニング装置を使用し、投射材としては平均粒径が45μm(JIS R 6001の規定による)のCu又はNiの粉末を用いた。噴射圧力は0.196〜0.882MPa、噴射時間は1minとした。
上述の様にして内輪軌道14となるべき外周面部分を含めて表面を硬化させた中間素材に関して、この外周面部分に研削仕上げを施して22種類の遊星歯車用支持軸4とし、各遊星歯車用支持軸4に就いて、表面のX線回折による残留オーステナイト測定、軸断面のEPMA分析、(Hv)硬さの測定、後述の耐久試験、及び次述するかしめ割れ試験を実施した。
上述の様にして内輪軌道14となるべき外周面部分を含めて表面を硬化させた中間素材に関して、この外周面部分に研削仕上げを施して22種類の遊星歯車用支持軸4とし、各遊星歯車用支持軸4に就いて、表面のX線回折による残留オーステナイト測定、軸断面のEPMA分析、(Hv)硬さの測定、後述の耐久試験、及び次述するかしめ割れ試験を実施した。
このうちのかしめ割れ試験は、前記各遊星歯車用支持軸4を前記キャリア7に固定すべく、この遊星歯車用支持軸4の端部を径方向外方に塑性変形させてかしめ部19とする際に、この遊星歯車用支持軸4の端部の靭性不足によりかしめ部19にクラックや割れ等の損傷が発生するか否かを目視により観察して、損傷が発生しなかった試験片に関して、前記表2のかしめ性の欄に「〇」を、損傷が発生したものに関しては「×」を、それぞれ記載した。尚、前記かしめ割れ試験は、出願人会社製の「かしめプレス試験機」を使用し、かしめ荷重19.6kN、かしめ速度45mm/secの条件(各試験片毎に同じ)で行った。
又、前記耐久試験は、出願人会社製の寿命試験機である、プラネタリニードル試験機を使用して実施した。試験条件は次の通りである。
基本動定格荷重C : 15400N
基本静定格荷重C0 : 16600N
ラジアル荷重 : 6000N
遊星歯車3の自転速度 : 8000min−1
計算寿命L10=49h
潤滑油の種類 :オートマチックトランスミッションフルード(ATF)
潤滑油量 : 10cc/min/遊星歯車3
潤滑油の温度 : 100℃
上述の様な条件で行った耐久試験では、前記ラジアルニードル軸受6を構成する少なくとも何れか1個の部材(ニードル5、5、遊星歯車用維持軸4、遊星歯車3)が破損した時点で、前記ラジアルニードル軸受7が寿命に達したとして試験を中止した。この試験の結果については、前記表2中に、遊星歯車用支持軸4の端部の硬さが上限値を超えていたため、塑性変形することができなかったものを「−」、前記ラジアルニードル軸受の寿命が計算寿命以下であったものを「×」、計算寿命の2倍以上であったものを「○」、計算寿命の5倍以上であったものを「◎」として、それぞれ記載した。
基本動定格荷重C : 15400N
基本静定格荷重C0 : 16600N
ラジアル荷重 : 6000N
遊星歯車3の自転速度 : 8000min−1
計算寿命L10=49h
潤滑油の種類 :オートマチックトランスミッションフルード(ATF)
潤滑油量 : 10cc/min/遊星歯車3
潤滑油の温度 : 100℃
上述の様な条件で行った耐久試験では、前記ラジアルニードル軸受6を構成する少なくとも何れか1個の部材(ニードル5、5、遊星歯車用維持軸4、遊星歯車3)が破損した時点で、前記ラジアルニードル軸受7が寿命に達したとして試験を中止した。この試験の結果については、前記表2中に、遊星歯車用支持軸4の端部の硬さが上限値を超えていたため、塑性変形することができなかったものを「−」、前記ラジアルニードル軸受の寿命が計算寿命以下であったものを「×」、計算寿命の2倍以上であったものを「○」、計算寿命の5倍以上であったものを「◎」として、それぞれ記載した。
遊星歯車用支持軸4の性状と共に上述の様な試験の結果を表した表2の記載から分かる様に、本発明の遊星歯車用支持軸の製造方法によれば、遊星歯車用支持軸の外周面の中間部に設けた内輪軌道の硬さを十分に確保してこの内輪軌道の転がり疲れ寿命を十分に確保し、しかも、軸方向端部の硬さを適正にして、キャリアに対する前記遊星歯車用支持軸の維持強度及び剛性を十分に、しかも安定して確保できる。
1 太陽歯車
1a 歯
2 リング歯車
2a 歯
3 遊星歯車
3a 歯
4、4a 遊星歯車用支持軸
5 ニードル
6 ラジアルニードル軸受
7 キャリア
8 基板
9a、9b 通孔
10 係止ピン
11 円筒部
12 回転軸
13 連結板
14 内輪軌道
15 外輪軌道
16 軸方向孔
17 径方向孔
18 潤滑油供給路
19 かしめ部
1a 歯
2 リング歯車
2a 歯
3 遊星歯車
3a 歯
4、4a 遊星歯車用支持軸
5 ニードル
6 ラジアルニードル軸受
7 キャリア
8 基板
9a、9b 通孔
10 係止ピン
11 円筒部
12 回転軸
13 連結板
14 内輪軌道
15 外輪軌道
16 軸方向孔
17 径方向孔
18 潤滑油供給路
19 かしめ部
Claims (4)
- 少なくとも軸方向一端部をキャリアに形成した円形の通孔の内側で、外径を拡げる方向に塑性変形させてこのキャリアに対し支持固定すると共に、外周面のうちでこの塑性変形させた部分から外れた部分に、この部分をラジアルニードル軸受用の内輪軌道として機能させる為の焼き入れ硬化層を設けている遊星歯車用支持軸の製造方法であって、
この遊星歯車用支持軸を造るべき鋼製の素材の端部で前記塑性変形させるべき部分に防炭処理を施した状態で、前記内輪軌道として機能する部分に浸炭焼き入れ処理又は浸炭窒化焼き入れ処理とのうちの一方の焼き入れ処理と焼き戻し処理とを施し、前記塑性変形させるべき部分に前記焼き入れ処理と前記焼き戻し処理とを施した後、更に焼鈍処理を施す事を特徴とする遊星歯車用支持軸の製造方法。 - 前記防炭処理は、前記遊星歯車用支持軸を造るべき鋼製の素材の端部で前記塑性変形させるべき部分に軟質金属を投射してこの部分を被覆する事により行う、請求項1に記載した遊星歯車用支持軸の製造方法。
- 前記軟質金属が、CuとNiとのうちの少なくとも一方の金属を含有する粉末である、請求項2に記載した遊星歯車用支持軸の製造方法。
- 少なくとも軸方向一端部をキャリアに形成した円形の通孔の内側で、外径を拡げる方向に塑性変形させてこのキャリアに対し支持固定すると共に、外周面のうちでこの塑性変形させた部分から外れた部分に、この部分をラジアルニードル軸受用の内輪軌道として機能させる為の焼き入れ硬化層を設けている遊星歯車用支持軸に於いて、
前記内輪軌道として機能する部分は、この遊星歯車用支持軸を造るべき鋼製の素材の端部で前記塑性変形させるべき部分に防炭処理を施した状態で、前記鋼製の素材に浸炭焼き入れ処理又は浸炭窒化焼き入れ処理とのうちの一方の焼き入れ処理と焼き戻し処理とを施す事により、表面部分の硬さをHv700以上としたものであり、
前記塑性変形させた部分は、前記鋼製の素材の端部で前記塑性変形させるべき部分に防炭処理を施した状態で、前記鋼製の素材に浸炭焼き入れ処理又は浸炭窒化焼き入れ処理とのうちの一方の焼き入れ処理と焼き戻し処理とを施した後、前記塑性変形させるべき部分に焼鈍処理を施す事により、硬さをHv200〜350としたものである事を特徴する遊星歯車用支持軸。
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Cited By (4)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
CN106283093A (zh) * | 2016-08-17 | 2017-01-04 | 安徽江淮车轮有限公司 | 一种叉车钢圈表面处理工艺 |
CN106399915A (zh) * | 2016-12-14 | 2017-02-15 | 天津天海同步科技有限公司 | 同步器结合齿轮的渗碳组合工装及热处理方法 |
CN110904324A (zh) * | 2019-12-20 | 2020-03-24 | 江阴全华丰精锻有限公司 | 行星齿轮热处理工艺 |
CN112899612A (zh) * | 2021-01-20 | 2021-06-04 | 重庆齿轮箱有限责任公司 | 一种齿轮渗碳淬火工艺 |
-
2013
- 2013-07-05 JP JP2013142079A patent/JP2015014032A/ja active Pending
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