JP6027925B2 - 水素脆性型の面疲労強度に優れた浸炭窒化軸受部品 - Google Patents

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Description

本発明は、水素脆性型の面疲労強度に優れた浸炭窒化軸受部品に関する。
近年、自動車や産業機器に用いられる歯車、新しい変速機構であるCVT、軸受部品等の面疲労負荷を受ける部品は高性能化、高速化に伴って使用条件が過酷化しており、更にCVTをはじめ使用される潤滑油の種類も多様化しており、こうした状況の下で従来とは異なる剥離形態による早期剥離を起す問題が生じている。
例えば、自動車のオルタネータ用軸受で、従来型の組織変化であるヘルツ応力場に起因した、傾きを有するホワイトバンド(30°バンド、80°バンド)とは異なる樹木状の白色層の組織変化を伴う早期剥離が生じる場合がある。これは、高振動、高荷重、急加減速等の厳しい負荷条件下で油膜厚さが不十分となって一部で金属接触を生じ、潤滑油が分解して転走面に水素が発生し、これが内部に侵入することにより水素脆性剥離が生じたためと考えられている。オルタネータ用軸受では潤滑油を変えることにより、この早期剥離に対処してきた。
しかし、単に潤滑油を変えるだけでは水素起因の早期剥離を抑制できなくなりつつあり、水素脆性に優れた材料開発が求められていた。
本出願人は、下記特許文献1に示されるように、Cr系窒化物及びMo系窒化物の水素トラップを用いた水素脆性型の面疲労強度に優れた浸炭窒化用鋼を開発している。この特許文献1に記載の浸炭窒化用鋼では、粒径300nm未満の微細なCr系窒化物及びMo系窒化物を多数分散析出させ、拡散性水素を良好にトラップすることにより、面疲労強度の向上を図るようにしている。
特開2011−225936号公報
しかし、面疲労負荷を受ける部品の高速回転化と高負荷化、使用条件の過酷化及び潤滑油の多様化等により、水素脆性による早期剥離が発生する部品や環境条件が増加する傾向にある。このため、水素脆性型の面疲労破壊を未だ十分には防止できておらず、水素脆性型の面疲労強度により一層優れた材料の開発が求められていた。特に、上記浸炭窒化鋼を適用した浸炭窒化軸受部品の使用環境は年々過酷化しており、この種の軸受部品の分野において、水素脆性型の面疲労強度の更なる改善が求められていた。
本発明は以上のような事情を背景としてなされたものであり、その目的は軸受部品に浸炭窒化処理を行うことにより、使用条件によって水素脆性剥離が生じるような場合においても、優れた面疲労強度を確保し得る浸炭窒化軸受部品を提供することにある。
本発明者らは、水素脆性剥離寿命を更なる長寿命化するためには微細な水素トラップサイトを増やす必要があると考えた。すなわち、水素脆性型の転動疲労において長寿命を得るための表層N濃度と表層C濃度の適正条件を各種試験により見出した。具体的には、表層C濃度は窒化に伴うCの拡散により低下してしまうので、通常の浸炭より高めの0.80〜2.00%が適している。一方、表層N濃度は高すぎると粗大な窒化物を形成してしまうので、0.10〜1.50%が適していることを明らかにした。さらに、表層C+N濃度は1.10〜3.00%が適していることを明らかにした。
また、水素トラップサイトとして有効な微細窒化物を増やすためには、単に表層窒素量を高めるだけではなく、化学成分を適正化した上で、生成する窒化物にも工夫が必要があることを各種試験により見出した。すなわち、微細窒化物としてCrNに加えて、同時に生成するMn系窒化物の生成量を最大化する必要があることを見出した。具体的には、Mn系窒化物はMnとSiの複合窒化物として生成するため、Si量を0.50〜1.50%、Mn量を0.80〜1.50%添加する必要があることを明らかにした。さらに、その効果を最大化するためSi+Mn量が1.8超〜2.50%、Mn+Cr量が3.00〜4.50%とする必要があることを明らかにした。
一方、表層窒素量を高めると粗大な窒化物が生成しやすくなる。粗大な窒化物生成により著しく寿命が低下するため、粗大な窒化物が生成されることを抑制する必要がある。このため、鋼材成分および浸炭窒化処理条件を適正化し、2μm以上の粗大な窒化物の生成を抑制し、その個数を10個/mm以下とする必要があることを明らかにした。
以上の知見に基づいた、本発明の水素脆性型の面疲労強度に優れた浸炭窒化軸受部品は、質量%で、C:0.10〜0.50%、Si:0.50〜1.50%、Mn:0.80〜1.50%、P:0.030%以下、S:0.030%以下、Cr:1.50〜3.50%、Al:0.050%以下、O:0.0015%以下、N:0.025%以下、Si+Mn:1.8超〜2.50%、Mn+Cr:3.00〜4.50%、残部がFe及び不可避不純物からな浸炭窒化軸受部品であって、浸炭窒化軸受部品の表面から深さ10μmの位置までのC濃度の最大値が質量%で、0.80〜2.00%、浸炭窒化軸受部品の表面から深さ10μmの位置までのN濃度の最大値が0.10〜1.50%、及びC濃度とN濃度との和であるC+N濃度の最大値が1.10〜3.00%であり、かつ表面硬さがHRC58以上64未満であり、浸炭窒化軸受部品の表面から深さ100μmの位置までに分散析出した窒化物のうち粒径2μm以上の粗大な窒化物の個数が10個/mm以下であることを特徴とする。この場合、質量%で、Mo:0.50%以下、Ni:0.50%未満、Ti:0.50%以下、Nb:0.10%以下、のうちいずれか1種又は2種以上を更に含有している構成とすることもできる。
本発明の浸炭窒化軸受部品によれば、水素トラップサイト及び窒化物の生成量を適正化し、さらには粗大な窒化物生成を抑制化することで、水素脆性型の面疲労強度を従来技術に比してより一層向上させることができる。
浸炭窒化条件の一例を示した説明図。 水素チャージスラスト転動疲労試験方法の説明図。 2円筒ころがり疲労試験方法の説明図。
以下、本発明の水素脆性型の面疲労強度に優れた浸炭窒化軸受部品の各化学成分の添加理由及び限定理由について説明する。
(1)C:0.10〜0.50%
C(鋼材C濃度)は、軸受部品としての例えば転がり軸受の心部硬さを確保するために必要な元素である。所定の熱処理後に必要な心部硬さを確保するためにはC含有量が0.10%以上は必要であるため、C含有量の下限を0.10%に規定した。一方、C含有量が0.50%を超えると、鍛造や旋削加工等の製造性を低下させるため、C含有量の上限を0.50%とした。好ましくは0.38〜0.43%である。
(2)Si:0.50〜1.50%
Siは、本発明において重要な添加元素であり、浸炭窒化によりMnと複合窒化物(例えばMnSiNなど)を形成して水素トラップサイトとして働き、水素脆性型面疲労強度を改善する。この効果を得るためにはSi含有量が0.50%以上は必要であるため、Si含有量の下限を0.50%に規定した。一方、Si含有量が1.50%を超えると、Cの場合と同様、鍛造や旋削加工等の製造性を低下させるため、Si含有量の上限を1.50%とした。好ましくは0.80〜1.00%である。
(3)Mn:0.80〜1.50%
Mnは、本発明において重要な添加元素であり、浸炭窒化によりSiとMn窒化物(例えばMnSiNなど)を形成して水素トラップサイトとして働き、水素脆性型面疲労強度を改善する。この効果を得るためにはMn含有量が0.80%以上は必要であるため、Mn含有量の下限を0.80%に規定した。一方、Mn含有量が1.50%を超えると、Siの場合と同様、鍛造や旋削加工等の製造性を低下させるため、Mn含有量の上限を1.50%とした。好ましくは0.90〜1.10%である。
(4)P:0.030%以下
Pは、鋼のオーステナイト粒界に偏析し、靭性や転動疲労寿命の低下を招く。特に水素脆性型転動疲労の特徴である粒界強度を大きく低下させるため、P含有量の上限を0.030%とした。
(5)S:0.030%以下
Sは、鋼の熱間加工性を害し、鋼中での非金属介在物を形成して靭性や転動寿命を低下させ、水素脆性型転動疲労強度を低下させるので、可及的に少なくすることが望ましい。このため、S含有量の上限を0.030%とした。一方、Sは切削加工性を向上させる効果も有しているため、好ましくは下限を0.010%とする。
(6)Cr:1.50〜3.50%
Crは、浸炭窒化により窒化物を形成して水素トラップサイトとして働き、水素脆性型面疲労強度を改善する。また、Crは、焼入れ性の改善や炭化物による硬さの確保、寿命改善のために添加される。所定の炭窒化物を得るためには1.50%以上のCr量の添加が必要であるため、Cr含有量の下限を1.50%に規定した。一方、Cr含有量が3.50%を超えると、浸炭性を劣化させ、大型の炭窒化物を生成し、転動疲労寿命の低下を招来するため、Cr含有量の上限を3.50%とした。好ましくは2.80〜3.20%である。
(7)Al:0.050%以下
Alは、鋼の製造時の脱酸剤として使用されるが、硬質の非金属介在物を生成し、転動疲労寿命を低下させるため低減することが望ましい。Al含有量が0.050%を超えると、顕著な転動疲労寿命の低下が認められるため、Al含有量の上限を0.050%とした。なお、Al含有量を0.005%未満にすると鋼材のコストが上昇するため、Al含有量の下限を0.005%とすることが好ましい。
(8)O:0.0015%以下、N:0.025%以下
O及びNは、鋼中に酸化物、窒化物を形成し、非金属介在物として疲労破壊の起点となり、転動疲労寿命を低下させるため、O含有量の上限を0.0015%とし、N含有量の上限を0.025%とした。
(9)Si+Mn:1.8超〜2.50%
SiとMnは、浸炭窒化により複合窒化物を形成して水素トラップサイトとして働き、水素脆性型面疲労強度を改善する。この効果を得るためにはSi+Mn含有量が1.8%(単位を質量%とした上で小数第2位を四捨五入すると1.8になる程度の量)を超える必要があるため、Si+Mn含有量の下限を1.8超に規定した。一方、Si+Mn含有量が2.50%を超えると、粗大な(粒径の大きい)窒化物が形成されやすくなり、水素脆性型転動疲労強度を低下させるため、Si+Mn含有量の上限を2.50%とした。好ましくは1.90〜2.20%である。
(10)Mn+Cr:3.00〜4.50%
MnとCrは、単独添加でも水素脆性型の面疲労強度を改善するが、十分な効果を得るためには、両者を適正に複合添加することが必要である。Mn+Crの含有量が3.00%未満では、水素脆性に対する改善効果を十分に得ることができないため、下限を3.00%とした。一方、Mn+Crの含有量が4.50%を超えると、鍛造や旋削加工等の製造性が低下するため、上限を4.50%とした。好ましくは3.90〜4.30%である。
(11)表面硬さ:HRC58以上64未満
焼戻し後の表面硬さと転動疲労寿命には相関が認められ、表面硬さが高いほど転動疲労寿命は長くなる傾向がある。特に、焼戻し処理後の表面硬さがHRC58未満になると急激に転動疲労寿命が低下し、寿命のばらつきも大きくなるため、焼戻し処理後の表面硬さをHRC58以上とした。一方、表面硬さが高くなると水素脆性に対する感受性が高くなり、表面硬さがHRC64以上になると水素脆性型の面疲労強度が著しく低下するため、HRC64未満とした。なお、Hv硬さに換算すると約650Hv以上800Hv未満に相当する。
(12)粒径2μm以上の粗大な窒化物の個数が10個/mm以下
水素脆性型面疲労強度の改善には、微細窒化物を多数析出させることが必要である。すなわち、窒化物のうち水素トラップに有効な窒化物は、粒径300nm以下の微細なCr窒化物(例えばCrN)、及びMnとSiの複合窒化物(例えばMnSiN)である。しかし、表層N濃度や合金元素を高めると、粒径の大きい粗大な窒化物が形成されやすくなり、強度低下の要因となる。粒径2μm以上の粗大な窒化物の個数割合が10個/mmを超えると、著しく水素脆性型面疲労強度が低下するため、粒径2μm以上の粗大な窒化物の個数割合の上限を10個/mmとした。
(13)表層C濃度(表層炭素濃度):0.80〜2.00%
表層Cは、転がり軸受として強度を確保するために必須の元素であり、所定の熱処理後硬さを維持するためには表層C濃度が0.80%以上は必要であるため、表層C濃度の下限を0.80%に規定した。一方、表層C濃度が2.00%を超えると、大型の炭化物が生成し、転動疲労寿命の低下が生じることが判明したため、表層C濃度の上限を2.00%とした。好ましくは1.20〜1.40%である。
(14)表層N濃度(表層窒素濃度):0.10〜1.50%
表層Nは、微細な窒化物を表層に生成することにより水素トラップサイトとして働き、耐水素脆性を改善する。また、鋼の軟化抵抗性を改善することにより転動寿命を向上させる。これらの効果を得るためには表層N濃度が0.10%以上は必要であるため、表層N濃度の下限を0.10%とした。一方、表層N濃度が1.50%を超えると、残留オーステナイトの生成により表面硬さを低下させ、所定の表面硬さが得られなくなるため、表層N濃度の上限を1.50%とした。好ましくは0.60〜0.90%である。
(15)表層C+N濃度(表層炭素・窒素濃度):1.10〜3.00%
表層C+N濃度を適正化することで、必要な表層硬さと微細窒化物の析出を両立し、水素脆性面疲労強度を向上させることができる。この効果を得るためには表層C+N濃度が1.10%以上は必要であるため、表層C+N濃度の下限を1.10%に規定した。一方、表層C+N濃度が3.00%を超えると、粗大な炭窒化物が生成し、水素脆性型面疲労強度が低下するため、表層C+N濃度の上限を3.00%に規定した。好ましくは1.80〜2.30%である。
本発明では、更に以下の化学成分の1種又は2種以上を添加することができる。
(16)Mo:0.50%以下
Moは、粒界破壊を抑制することにより、水素脆性型の面疲労強度を向上させる。また、Moは鋼の焼入れ性を改善するとともに、炭化物中に固溶することにより、焼戻し時の硬さの低下を抑制する効果がある。一方、Mo含有量が0.50%を超えると、鋼材のコストが上昇する他、鍛造や旋削加工等の製造性が低下するため、Moの上限を0.50%とした。
(17)Ni:0.50%未満
Niは、転動疲労過程での組織変化を抑制し、転動疲労寿命を向上させる。また、Niの添加は靭性および耐食性の改善にも効果がある。一方、Ni含有量が0.50%を超えると、鋼の焼入れ時に多量の残留オーステナイトが生成し、所定の硬さが得られなくなるとともに、鋼材のコストが上昇するため、Ni含有量を0.50%未満とした。
(18)Ti:0.50%以下
Tiの炭化物は微細であり、水素トラップサイトとして有効に働くことにより、水素脆性型の面疲労強度が改善する。一方、Tiは鋼中に酸化物、窒化物を形成し、非金属介在物として疲労破壊の起点となり、転動疲労寿命を低下させるため、Ti含有量の上限を0.50%とした。
(19)Nb:0.10%以下
Nbの炭化物も微細であり、水素トラップサイトとして有効に働くことにより、水素脆性型の面疲労強度が改善する。また、Nbは結晶粒の粗大化を抑制する。結晶粒が微細化すれば、耐水素脆性の改善に有効となる。一方、Nb含有量が0.10%を超えてもその効果が飽和するため、Nb含有量の上限を0.10%とした。
(20)残部:Fe及び不可避不純物
ここでの不可避不純物(不可避的不純物)は、表1のNi,Moに代表される不純物レベルの化学成分を意味する。
以下、本発明の実施例について説明する。
表1に示す化学成分(表1中のNi、Moの欄の「−」は不純物レベルを示す。また表1において残部はFeである)の材料150kgを真空溶解で溶製し、熱間鍛造により直径70mmと直径28mmの棒鋼を製造した。この後、焼ならし処理として920℃に加熱し、2時間保持した後空冷した。さらに、球状化焼なまし処理として760℃に加熱し、3時間保持した後、−15℃/時間で650℃まで冷却した後空冷し、各試験の素材とした。
直径28mmの素材から直径25mm、長さ100mmの試験片を削り出し、種々の浸炭窒化条件で処理を行った。浸炭窒化処理は、浸炭ガス(ここではRXガスを使用)にアンモニアガスを加えた混合雰囲気中で、各種浸炭窒化条件(浸炭窒化温度、浸炭窒化時間、カーボンポテンシャル、アンモニア濃度)で処理を行い、焼入れ焼戻し処理を行った。
Figure 0006027925
通常、オーステナイト中のN濃度が高くなるとマルテンサイト変態開始温度(Ms点)が低下し、焼入れ後の残留オーステナイト量が増加する。このため、残留オーステナイト量の増加により、表層硬さが不足する場合には、表層硬さを所定の範囲に高めるため、850℃で2次焼入れを行なった。図1に、この実施例で用いた浸炭窒化条件の一例を示す。なお、必要に応じて2次焼き入れ前に650℃で1時間保持する中間焼鈍を行なった。
浸炭窒化焼入れ焼戻し処理を行った後、試験片の外周を深さ0.1mmだけ研削し、浸炭窒化軸受部品を作製した。この浸炭窒化軸受部品の表面において、5点平均でロックウェル硬さ(JIS Z2245に準拠)を求めた。その後、浸炭窒化軸受部品の縦断面を埋め込んで研磨仕上げし、表層部の表層C濃度と表層N濃度をEPMAで分析した。ここで、表層C濃度と表層N濃度は、浸炭窒化軸受部品の表面から深さ10μmの位置までのC濃度、N濃度の最大値(ピーク値)とした。
さらに、走査型電子顕微鏡を用いて、埋め込み研磨した浸炭窒化軸受部品の表面から深さ100μmの位置までに存在する粒径2μm以上の窒化物の個数を測定し、観察領域の面積で除して、粒径2μm以上の粗大な窒化物の個数密度(個/mm)を求めた。
また、上記直径70mmの素材から直径61mm、厚さ6mmのスラスト型転動疲労試験片を粗加工し、各鋼種をそれぞれ前述と同じ浸炭窒化処理条件で浸炭窒化焼入れ焼戻し処理を行い、試験表面を厚さ5.5mmに研削仕上げし、バフ仕上げして試験片を作製した。同試験片を1L中に1.4gのチオシアン酸アンモニウムを溶解した希硫酸電解液を用い、電流密度0.4mA/cmで20時間の陰極チャージ(水素チャージ)を行った。水素を陰極チャージ後、ペーパー研磨仕上げして転動疲労試験を開始した。
転動疲労試験は、図2に示されるように、円盤型の試験片13を取り付けた油槽に潤滑油15を注入し、テーブル14を押し上げ、保持器に支持された鋼球12をスラスト軸受11で受けることで所定面圧を負荷し、その状態でモータからの動力を伝達する軸10を回転させるものである。
試験条件は面圧4.9GPaで、潤滑はナフテン系鉱油を用い、負荷速度1800rpmで試験を行った。同一条件で約10点の試験を行い、ワイブル分布の累積破損確率が10%となるL10寿命を求めて評価寿命とした。
また、直径28mmの素材から粗加工後、各鋼種を各々前述と同じ浸炭窒化処理を行い、試験面直径26mmの円筒試験片を作製し、その試験片を用いて2円筒ころがり疲労試験を行った。2円筒ころがり疲労試験は、図3に示されるように、円筒形状の試験片18に対して相手円筒20を所定面圧で押し付け、その状態でモータ22により軸部24を介して試験片18を回転させるとともに、モータ22の回転をギア26,28を介して軸30に伝達して、相手円筒20を回転させるものである。相手円筒20は、SUJ2製の焼入れ焼戻し材からなり、軸方向に曲率半径150mmのクラウニングを有する直径130mmの形状に形成されている。
試験条件は、水素脆性型の面疲労剥離を再現する条件で行った。具体的には、水素脆性の生じる潤滑油を用い、水素脆性型の早期転動疲労破壊が生じる試験条件(油温90℃、すべり率−60%、面圧3GPa、回転数1500rpm)で試験を行った。ここで、すべり率とは、試験片18と相手円筒20の周速の差と、試験片18の周速との比率である。試験は同一条件で4点行い、平均寿命を求めた。表2に試験結果を示す。表2の比較例のうち鋼種No.1〜No.4は、化学成分を発明例の鋼種No.1〜No.4とそれぞれ同じとする一方、浸炭窒化条件を発明例の鋼種No.1〜No.4とそれぞれ異ならせたものである。
Figure 0006027925
発明例は、いずれも表面硬さHRC58以上64未満であり、表層C濃度は0.80〜2.00質量%の範囲、表層N濃度は0.10〜1.50質量%の範囲、表層C+N濃度は1.10〜3.00質量%の範囲であり、粒径2μm以上の粗大な窒化物を10個/mm以下である。
発明例の水素チャージ材の転動疲労のL10寿命は、10.45×10回(鋼種No.3)〜18.63×10回(鋼種No.4)と優れる。一方、比較例では、同L10寿命は1.60×10回(比較例鋼種No.3)〜3.44×10回(比較例鋼種No.1)と、いずれも水素脆性型の早期転動疲労破壊が生じて低寿命である。本発明により水素脆性型の転動寿命が改善していることが分かる。
また、発明例の2円筒試験の平均寿命は、17.9×10回(鋼種No.11)〜20以上×10回(鋼種No.3等)と優れる。一方、比較例では、同平均寿命は0.7×10回(比較例鋼種No.4)〜3.1×10回(比較例鋼種No.1)と、いずれも水素脆性により低寿命である。本発明により水素脆性型の転動寿命が1オーダ程度改善していることが分かる。
表2の比較例のうち、鋼種No.14は化学成分中のSi量が低いため、鋼種No.15はMn量が低いため、鋼種No.16はSi+Mn量が低いため、いずれも低寿命となった例である。また、比較例のうち鋼種No.1〜No.4は、化学成分は請求範囲内にあるが、浸炭窒化条件が適正でないため低寿命となった例である。
すなわち、比較例の鋼種No.1は表層C濃度が低くなったため、比較例の鋼種No.2は表層N濃度が低くなったため、比較例の鋼種No.3は表層C+N濃度が低くなったため、比較例の鋼種No.4は粒径2μm以上の窒化物が10個/mm以上となったため、いずれも低寿命となった例である。
以上の説明からも明らかなように、水素トラップサイト及び窒化物の生成量を適正化し、さらには粗大な窒化物生成を抑制化するようにした本発明の浸炭窒化軸受部品によれば、水素脆性型の面疲労強度を従来技術に比してより一層向上させることができる。
13、18 試験片

Claims (2)

  1. 質量%で、
    C:0.10〜0.50%、
    Si:0.50〜1.50%、
    Mn:0.80〜1.50%、
    P:0.030%以下、
    S:0.030%以下、
    Cr:1.50〜3.50%、
    Al:0.050%以下、
    O:0.0015%以下、
    N:0.025%以下、
    Si+Mn:1.8超〜2.50%、
    Mn+Cr:3.00〜4.50%、
    残部がFe及び不可避不純物からな浸炭窒化軸受部品であって、前記浸炭窒化軸受部品の表面から深さ10μmの位置までのC濃度の最大値が質量%で、0.80〜2.00%、前記浸炭窒化軸受部品の表面から深さ10μmの位置までのN濃度の最大値が0.10〜1.50%、及び前記C濃度と前記N濃度との和であるC+N濃度の最大値が1.10〜3.00%であり、かつ表面硬さがHRC58以上64未満であり、前記浸炭窒化軸受部品の表面から深さ100μmの位置までに分散析出した窒化物のうち粒径2μm以上の粗大な窒化物の個数が10個/mm以下であることを特徴とする水素脆性型の面疲労強度に優れた浸炭窒化軸受部品。
  2. 請求項1において、質量%で、
    Mo:0.50%以下、
    Ni:0.50%未満、
    Ti:0.50%以下、
    Nb:0.10%以下、
    のうちいずれか1種又は2種以上を更に含有していることを特徴とする水素脆性型の面疲労強度に優れた浸炭窒化軸受部品。
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