JP5999485B2 - 水素脆性型の面疲労強度に優れた浸炭窒化部品 - Google Patents

水素脆性型の面疲労強度に優れた浸炭窒化部品 Download PDF

Info

Publication number
JP5999485B2
JP5999485B2 JP2012150268A JP2012150268A JP5999485B2 JP 5999485 B2 JP5999485 B2 JP 5999485B2 JP 2012150268 A JP2012150268 A JP 2012150268A JP 2012150268 A JP2012150268 A JP 2012150268A JP 5999485 B2 JP5999485 B2 JP 5999485B2
Authority
JP
Japan
Prior art keywords
less
concentration
hydrogen embrittlement
surface layer
steel
Prior art date
Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
Active
Application number
JP2012150268A
Other languages
English (en)
Other versions
JP2014012870A (ja
Inventor
木南 俊哉
俊哉 木南
Current Assignee (The listed assignees may be inaccurate. Google has not performed a legal analysis and makes no representation or warranty as to the accuracy of the list.)
Daido Steel Co Ltd
Original Assignee
Daido Steel Co Ltd
Priority date (The priority date is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the date listed.)
Filing date
Publication date
Application filed by Daido Steel Co Ltd filed Critical Daido Steel Co Ltd
Priority to JP2012150268A priority Critical patent/JP5999485B2/ja
Publication of JP2014012870A publication Critical patent/JP2014012870A/ja
Application granted granted Critical
Publication of JP5999485B2 publication Critical patent/JP5999485B2/ja
Active legal-status Critical Current
Anticipated expiration legal-status Critical

Links

Images

Landscapes

  • Solid-Phase Diffusion Into Metallic Material Surfaces (AREA)
  • Heat Treatment Of Articles (AREA)

Description

本発明は、水素脆性型の面疲労強度に優れた浸炭窒化部品に関する。
近年、自動車や産業機器に用いられる歯車、新しい変速機構であるCVT、軸受部品等の面疲労負荷を受ける部品は高性能化、高速化に伴って使用条件が過酷化しており、更にCVTをはじめ使用される潤滑油の種類も多様化しており、こうした状況の下で従来とは異なる剥離形態による早期剥離を起す問題が生じている。
例えば、自動車のオルタネータ用軸受で、従来型の組織変化であるヘルツ応力場に起因した、傾きを有するホワイトバンド(30°バンド、80°バンド)とは異なる樹木状の白色層の組織変化を伴う早期剥離が生じる場合がある。これは、高振動、高荷重、急加減速等の厳しい負荷条件下で油膜厚さが不十分となって一部で金属接触を生じ、潤滑油が分解して転走面に水素が発生し、これが内部に侵入することにより水素脆性剥離が生じたためと考えられている。オルタネータ用軸受では潤滑油を変えることにより、この早期剥離に対処してきた。
しかし、単に潤滑油を変えるだけでは水素起因の早期剥離を抑制できなくなりつつあり、水素脆性に優れた材料開発が求められていた。
本出願人は、下記特許文献1に示されるように、バナジウム(以下V)を添加することによりV系炭化物による水素トラップ技術を用いて水素脆性型の面疲労強度を改善した高炭素高クロム軸受鋼を既に開発している。
また、下記特許文献2に示されるように、鋼材の初期炭素量を下げ、Vとモリブデン(以下Mo)を複合添加することにより、水素脆性型の面疲労強度に優れ、かつ歯車、CVT部品等の幅広い部品に適用可能な肌焼鋼を開発している。
さらに、下記特許文献3に示されるように、Cr系窒化物及びMo系窒化物の水素トラップを用いた水素脆性型の面疲労強度に優れた浸炭窒化用鋼を開発している。
特開2006−213981号公報 特開2008−280583号公報 特開2011−225936号公報
しかし、同様の水素起因の早期剥離現象は、CVTのトラクション油を用いた場合にも発生しており、面疲労負荷を受ける部品の高速回転化と高負荷化、使用条件の過酷化及び潤滑油の多様化等により、水素脆性による早期剥離が発生する部品や環境条件が増加する傾向にある。このため、水素脆性型の面疲労破壊を未だ十分には防止できておらず、水素脆性型の面疲労強度により一層優れた材料の開発が求められていた。
一方、上記特許文献3に記載されたような鋼材中のC量が0.2%程度の肌焼鋼は、表層に所定のC濃度分布を形成するために長時間の浸炭処理が不可欠である。鋼材中のC量が高い炭素鋼ではこの長時間の浸炭処理を省略できるため、コストメリットが大きい。ところが、鋼材中のC量が高い炭素鋼では所定量のCr,Moを添加して浸炭窒化を行っても、水素脆性型の面疲労強度が向上しない場合があるという問題があった。
本発明は以上のような事情を背景としてなされたものであり、その目的は長時間の浸炭処理を省略可能なC量が高い炭素鋼をベースとして浸炭窒化処理を行うことにより、使用条件によって水素脆性剥離が生じるような場合においても優れた面疲労強度を確保し得る浸炭窒化部品を提供することにある。
本発明者らは上記問題の原因を調査した結果、鋼材中のC量が高い炭素鋼では、浸炭窒化処理後の表層からのC濃度分布が小さくなる場合があり、この場合には表層圧縮残留応力が低くなることに起因して水素脆性型の面疲労寿命が低下するものと考えた。そこで、鋼材中のC量が高い種々の炭素鋼を用いて、浸炭窒化処理により、あるいは浸炭窒化処理後にショットピーニング処理を行うことにより、それぞれ水素脆性型の面疲労寿命に及ぼす圧縮残留応力の影響について調査した。
その結果、鋼材中のC量が高い炭素鋼において表層からのC濃度分布が小さい場合でも、ショットピーニング処理により表層圧縮残留応力を付与することで、表層からのC濃度分布が大きい場合と同程度に水素脆性型の面疲労寿命が向上すること、そして表層圧縮残留応力が600MPa以上であると十分な水素脆性型の面疲労寿命が得られることを見出した。なお、上記調査では、ショットピーニング処理によって表層圧縮残留応力を付与したが、ショットピーニング処理に限らず、例えばコイニングなどの圧力付与による表層部の塑性変形や、高周波焼入れによる表層からの硬度分布を利用しても、上記と同様に表層圧縮残留応力を付与できるものと考える。
表層圧縮残留応力が水素脆性型の面疲労寿命を向上させる機構は以下のように考えられる。面疲労剥離は、せん断応力の影響を大きく受け、図1(A)に示されるように、表層から約0.2mmの深さ位置に生じる最大せん断応力により剥離が発生する。水素脆性型の剥離は、この剥離自体が水素によって加速され極めて早期に発生する。具体的には、転位との相互作用等によって水素が応力の高い位置(破損高応力部)に移動し、最大せん断応力位置に水素が集積し、早期剥離を引き起こす。
そして、図1(B)に示されるように、最表層に高い残留応力を付与すると、表層から侵入した水素が表層の転位や応力場にトラップされ、破壊起点である最大せん断応力深さ位置への移動が抑制されるので、水素脆性型の面疲労寿命が向上することとなる。
以上の知見に基づいた、本発明の水素脆性型の面疲労強度に優れた浸炭窒化部品は、質量%で、C:0.42〜1.30%、Si:0.05〜0.35%、Mn:0.40〜1.50%、P:0.030%以下、S:0.030%以下、Cr:1.50〜3.00%、Al:0.050%以下、O:0.0015%以下、N:0.025%以下、Mn+Cr:2.50〜4.00%、残部がFe及び不可避不純物からな浸炭窒化部品であって表層C濃度が0.80〜1.50質量%、表層N濃度が0.10〜1.00質量%で表面硬さがHRC58以上64未満であり、表層に分散析出した全窒化物に対する粒径300nm未満のCr窒化物及びMn窒化物の個数割合が70%以上かつ該個数が10個/mm以上であり、表層圧縮残留応力が600MPa以上であることを特徴とする。この場合、質量%で、Mo:0.50%以下、Ni:0.50%未満、Ti:0.500%以下、Nb:0.100%以下、のうちいずれか1種又は2種以上を更に含有している構成とすることもできる。また表層C濃度と鋼材C濃度(鋼材中(心部)のC量)との差が、質量%で0.40%以上である構成とすることもできる。
本発明の浸炭窒化部品によれば、上述したとおり、最表層に付与される高い圧縮残留応力により、表層から侵入した水素が表層の転位や応力場にトラップされ、破壊起点である最大せん断応力深さ位置への移動が抑制されるため、水素脆性型の面疲労強度を従来技術に比してより一層向上させることができる。
(A)は水素脆性型の面疲労剥離に際して最大せん断応力位置に水素が集積する状態を示す説明図。(B)は圧縮残留応力により水素が表層の転位や応力場にトラップされる状態を示す説明図。 浸炭窒化焼入れ焼もどし処理における温度、保持時間、カーボンポテンシャル、アンモニア濃度及び冷却条件の一例を示した説明図。 転動疲労試験方法の説明図。 2円筒ころがり疲労試験方法の説明図。
以下、本発明の水素脆性型の面疲労強度に優れた浸炭窒化部品の各化学成分の添加理由及び限定理由について説明する。
(1)C:0.30〜1.30%
C(鋼材C濃度)は、通常必要とされる心部強度に応じて添加する。浸炭処理を長時間実施しなくても0.80%以上の表層C濃度が得られるようにするためには0.30%以上含有させる必要があるため、C含有量の下限を0.30%に規定した。一方、C量を1.30%を超えて含有させた場合、鍛造や旋削加工等の製造性を低下させるため、C含有量の上限を1.30%とした。好ましくは0.60〜1.10%である。
(2)Si:0.05〜0.35%
Siは鋼を製造する際に脱酸剤として用いられる。Siは鋼の強度、転動疲労寿命を向上させるために0.05%以上含有させる。一方、Siは鋼の靭性を低下させるとともに熱間加工性を低下させ、水素脆性感受性を高める。0.35%を超えて添加すると水素脆性型の転動疲労寿命が低下するため、Si含有量の上限を0.35%とした。
(3)Mn:0.40〜1.50%
Mnは本発明において重要な添加元素である。Mnは浸炭窒化によりMn窒化物、Mn複合窒化物(例えばMnSiNなど)を形成して水素トラップサイトとして働き、水素脆性型面疲労強度を改善する。また、Mnは鋼を製造する際に脱酸に用いられる元素であるとともに、焼入れ性を改善する元素である。これらの効果を得るためにはMnを0.40%以上含有させる必要がある。一方、1.50%を超えて多量にMnを含有させると鍛造や旋削加工等の製造性を低下させるため、Mn含有量の上限を1.50%とした。好ましくは0.80〜1.50%である。
(4)P:0.030%以下
Pは鋼のオーステナイト粒界に偏析し、靭性や転動疲労寿命の低下を招く。特に水素脆性型転動疲労の特徴である粒界強度を大きく低下させるため、P含有量の上限を0.030%とした。
(5)S:0.030%以下
Sは鋼の熱間加工性を害し、鋼中での非金属介在物を形成して靭性や転動寿命を低下させ、水素脆性型転動疲労強度を低下させるので、可及的に少なくすることが望ましい。このため、S含有量の上限を0.030%とした。一方、Sは切削加工性を向上させる効果も有しているため、好ましくは下限を0.010%とする。
(6)Cr:1.50〜3.00%
Crは本発明において重要な添加元素である。Crは浸炭窒化により窒化物を形成して水素トラップサイトとして働き、水素脆性型面疲労強度を改善する。また、Crは焼入れ性の改善と炭化物による硬さの確保と転動寿命改善とのために添加される。所定の炭窒化物を得るためには1.50%以上の添加が必要であるため、Cr含有量の下限を1.50%に規定した。一方、3.00%を超えて多量にCrを含有させると浸炭性を劣化させ、大型の炭窒化物を生成して転動疲労寿命を低下させるため、Cr含有量の上限を3.00%とした。好ましくは2.00〜3.00%である。
(7)Al:0.050%以下
Alは鋼の製造時の脱酸剤として使用されるが、硬質の非金属介在物を生成し、転動疲労寿命を低下させるため低減することが望ましい。0.050%を超えてAlを多量に含有させると顕著な転動疲労寿命の低下が認められるため、Al含有量の上限を0.050%とした。なお、Al含有量を0.005%未満にすると鋼材のコストが上昇するため、Al含有量の下限を0.005%とすることが好ましい。
(8)O:0.0015%以下、N:0.025%以下
O及びNは鋼中に酸化物、窒化物を形成し非金属介在物として疲労破壊の起点となり、転動疲労寿命を低下させるため、O含有量の上限を0.0015%とし、N含有量の上限を0.025%とした。
(9)Mn+Cr:2.50〜4.00%
MnとCrは単独添加でも水素脆性型の面疲労強度を改善するが、十分な効果を得るためには両者を適正に複合添加することが必要である。Mn+Crの含有量が2.50%未満では水素脆性に対する改善効果を十分に得ることができないため、下限を2.50%とした。一方、Mn+Crの含有量が4.00%を超えると鍛造や旋削加工等の製造性が低下するため、上限を4.00%とした。好ましくは2.80〜4.00%である。
(10)表面硬さ:HRC58以上64未満
焼戻し後の表面硬さと転動疲労寿命には相関が認められ、表面硬さが高いほど転動疲労寿命は長くなる傾向がある。特に、焼戻し処理後の表面硬さがHRC58未満になると急激に転動疲労寿命が低下し、寿命のばらつきも大きくなるため、焼戻し処理後の表面硬さをHRC58以上とした。一方、表面硬さが高くなると水素脆性に対する感受性が高くなり、表面硬さがHRC64以上になると水素脆性型の面疲労強度が著しく低下するため、HRC64未満とした。なお、Hv硬さに換算すると約650Hv以上800Hv未満に相当する。
(11)粒径300nm未満のCr窒化物及びMn窒化物の個数割合、個数:全窒化物の70%以上、10個/mm以上
窒化物のうち、水素トラップに有効な窒化物はCr窒化物であるCrNと、Mn窒化物であるMnSiNである。全窒化物に対するCr窒化物及びMn窒化物の個数割合が70%未満になると水素トラップの効果が低下し、水素脆性型面疲労強度の改善効果が得られなくなる。このため、上記個数割合を70%以上とした。
窒化物は水素をトラップすることにより、水素脆性型の面疲労剥離を抑制する効果がある。その効果を得るためには、微細な窒化物を多数析出させる必要がある。窒化物生成数が少ない場合や、粒径300nm以上の窒化物が多数生成することで粒径300nm未満の微細な窒化物が10個/mm未満となる場合には、水素トラップによる水素脆性型面疲労強度の改善効果が急速に低下する。このため、粒径300nm未満の窒化物を10個/mm以上含有させることとした。
(12)表層C濃度:0.80〜1.50%
Cは転がり軸受として強度を確保するために必須の元素であり、所定の熱処理後硬さを維持するためには0.80%以上含有させる必要があるため、C含有量の下限を0.80%に規定する。一方、C含有量が1.50%を超えて含有された場合、大型の炭化物が生成し、転動疲労寿命の低下が生じることが判明したため、C含有量の上限を1.50%とした。
(13)表層N濃度:0.10〜1.00%
Nは鋼の軟化抵抗性を改善することにより転動寿命を向上させる。また、微細な窒化物を表層に生成することにより水素トラップサイトとして働き、耐水素脆性を改善する。これらの効果を得るためにはNを0.10%以上含有させる必要があるため、下限を0.10%とした。一方、N含有量が1.00%を超えると残留オーステナイトγの生成により表面硬さを低下させ、所定の表面硬さが得られなくなるため、N含有量の上限を1.00%とした。
(14)表層圧縮残留応力:600MPa以上
表層圧縮残留応力の増加は水素脆性型面疲労強度の改善に効果がある。これは、圧縮残留応力によって亀裂の発生や伝播が抑制されるとともに、表層から侵入した水素の破壊起点部への拡散が抑制されると考えられるからである。この効果を得るためには表層圧縮残留応力が少なくとも600MPa以上必要であるため、表層圧縮残留応力の下限を600MPaとした。好ましくは700MPa以上である。
本発明では、更に以下の化学成分の1種又は2種以上を添加することができる。
(15)Mo:0.50%以下
Moは粒界破壊を抑制することにより、水素脆性型の面疲労強度を向上させる。また、Moは鋼の焼入れ性を改善するとともに、炭化物中に固溶することにより、焼戻し時の硬さの低下を抑制する効果がある。一方、0.50%を超えて多量にMoを含有させると鋼材のコストが上昇する他、鍛造や旋削加工等の製造性が低下するため、Moの上限を0.50%とした。
(16)Ni:0.50%未満
Niは転動疲労過程での組織変化を抑制し、転動疲労寿命を向上させる。また、Niの添加は靭性および耐食性の改善にも効果がある。一方、0.50%を超えて多量にNiを含有させると鋼の焼入れ時に多量の残留オーステナイトγを生成し、所定の硬さが得られなくなるとともに、鋼材のコストが上昇するため、Ni含有量を0.50%未満とした。
(17)Ti:0.500%以下
Tiの炭化物は微細であり、水素トラップサイトとして有効に働くことにより、水素脆性型の面疲労強度が改善する。一方、Tiは鋼中に酸化物、窒化物を形成し、非金属介在物として疲労破壊の起点となり、転動疲労寿命を低下させるため、Ti含有量の上限を0.500%とした。
(18)Nb:0.100%以下
Nbの炭化物も微細であり、水素トラップサイトとして有効に働くことにより、水素脆性型の面疲労強度が改善する。また、Nbは結晶粒の粗大化を抑制する。そして結晶粒の微細化により耐水素脆性の改善に有効である。一方、0.100%を超えて多量にNbを含有させてもその効果が飽和するため、Nb含有量の上限を0.100%とした。
(19)焼戻し処理後の表層C濃度と鋼材C濃度との差:0.40%以上
焼戻し処理後の表層C濃度と鋼材C濃度との差は表層からのC分布及び硬さ分布を決めるもので、表層C濃度が鋼材C濃度に比べて高いほど表層には高い圧縮残留応力を付与することができる。このため水素脆性寿命の改善に有効である。この効果を得るためには、焼戻し処理後の表層C濃度と鋼材C濃度との差を質量%で0.40%以上にする必要があるため、下限値を0.40%とした。好ましくは0.50%以上である。
(20)残部:Fe及び不可避不純物
ここでの不可避不純物(不可避的不純物)は、表1のNi,Moに代表される不純物レベルの化学成分を意味する。
以下、本発明の実施例について説明する。
表1に示す化学成分(表1中のNi、Moの欄の「−」は不純物レベルを示す。また表1において残部はFeである)の材料50kgを真空溶解で溶製し、熱間鍛造により直径28mmの棒鋼を製造した。この後、焼ならし処理として920℃に加熱し、2時間保持した後空冷した。さらに、球状化焼なまし処理として760℃に加熱し、3時間保持した後、−15℃/時間で650℃まで冷却した後空冷し、各試験の素材とした。
その素材から直径25mm、長さ100mmの試験片を削り出し、種々の浸炭窒化条件で処理を行った。浸炭窒化処理は、浸炭ガス(ここではRXガスを使用)にアンモニアガスを加えた混合雰囲気中で各種浸炭窒化条件(浸炭窒化温度、浸炭窒化時間、カーボンポテンシャル、アンモニア濃度)で処理を行い、焼入れ焼戻し処理を行った。図2は浸炭窒化条件の一例を示している。図2中CPはカーボンポテンシャルを、OQは油焼入れを、ACは空冷をそれぞれ表している。
Figure 0005999485
上記浸炭窒化焼入れ焼戻し処理を行った各試験片に対して、ショットピーニング処理を行った。ショットピーニング処理は、種々の条件(投射材、カバレージ(圧痕面積と被加工物の総面積との比)、投射圧)で行った。一例として、硬さ約700Hv、粒径約0.8mmの投射材を用いて、投射圧0.2MPaで行った場合は、約0.6mmAのアークハイト(試験板の反りの大きさ)であった。
ショットピーニング処理を行った各試験片に対して、外周を深さ0.1mm研削し、5点平均でロックウェル硬さ(JIS Z2245に準拠)を求めた。その後、同試験片の縦断面を埋め込んで研磨仕上げし、表層部の表層C濃度と表層N濃度をEPMAで分析した。ここで、表層C濃度と表層N濃度は、最表層から深さ10μmの位置までのC濃度、N濃度の最大値(ピーク値)とした。
さらに、X線残留応力測定装置を用いて、各試験片の周方向と軸方向の圧縮残留応力を測定した。測定法は並傾法は用い、特性X線はCr管球を用い、照射面積1mmで測定した。また、イオンミリング(イオンビームを使った試料作製方法)を行って薄膜を作製し、透過型電子顕微鏡を用いて表層の窒化物のマッピングを行い、一定領域に存在する粒径10nm以上300nm未満の窒化物を全て同定し、観察領域の面積で除して、粒径300nm未満の微細な窒化物の個数密度(個/mm)を求めた。また、EDX分析により窒化物の組成分析を行い、Cr窒化物、Cr複合窒化物、Mn窒化物、Mn複合窒化物(例えばMnSiNなど)、Si窒化物、Si複合窒化物、Al窒化物、Al複合窒化物あるいはその他の窒化物であるかを判定し、Cr窒化物、Cr複合窒化物、Mn窒化物及びMn複合窒化物の個数割合を求めた。
また、同素材から直径12.2mm、長さ22.6mmの転動疲労試験片を粗加工し、各鋼種をそれぞれ前述と同じ浸炭窒化処理条件で浸炭窒化焼入れ焼戻し処理を行い、ショットピーニング処理後に試験表面を直径12mmに研削仕上げし、長さ22mmの試験片を作製した。同試験片を3%塩化ナトリウム溶液1L中に3gのチオシアン酸アンモニウム溶解した電解液を用い、電流密度0.2mA/cmで24時間の陰極チャージを行った。水素チャージ後、10分以内に転動疲労試験を開始した。
転動疲労試験は、図3(A),3(B)に示されるように、試験片10に対してSUJ2製のボール12を相手球として2個所定の面圧で押し付け、ガイドローラ14によるガイドの下で、駆動ローラ16により試験片10を転動させるものである。試験条件は、面圧5.9GPaで、潤滑はタービン#68を飛沫給油し、負荷速度46240rpmで試験を行った。同一条件で10点の試験を行い、ワイブル分布の累積破損確率が10%となるL10寿命を求めて評価寿命とした。なお、水素脆性型の面疲労はすべりに伴い、潤滑油の分解、新生面の生成等により水素侵入することが原因と考えられている。水素を陰極チャージした試験片10を用いた転動疲労試験で、水素脆性型の早期剥離現象を再現できることが確認されている。
また、同素材から粗加工後、各鋼種を各々前述と同じ浸炭窒化処理後にショットピーニング処理を行い、試験面直径26mmの円筒試験片を作製し、その試験片を用いて、2円筒ころがり疲労試験を行った。2円筒ころがり疲労試験は、図4に示されるように、円筒形状の試験片18に対して相手円筒20を所定面圧で押し付け、その状態でモータ22により軸部24を介して試験片18を回転させるとともに、モータ22の回転をギア26,28を介して軸30に伝達して、相手円筒20を回転させるものである。相手円筒20は、SUJ2製の焼入れ焼戻し材からなり、軸方向に曲率半径150mmのクラウニングを有する直径130mmの形状に形成されている。
試験条件は、水素脆性型の面疲労剥離を再現する条件で行った。具体的には、水素脆性の生じる潤滑油を用い、水素脆性型の早期転動疲労破壊が生じる試験条件(油温90℃、すべり率−60%、面圧3GPa、回転数1500rpm)で試験を行った。ここで、すべり率とは、試験片18と相手円筒20の周速の差と、試験片18の周速との比率である。試験は同一条件で4点行い、平均寿命を求めた。表2に試験結果を示す。
Figure 0005999485
発明例は、いずれも表面硬さHRC58以上64未満であり、粒径300nm未満の微細な窒化物を10個/mm以上含有する。表層C濃度は0.80〜1.50質量%の範囲、表層N量は0.10〜1.00質量%の範囲である。
発明例の水素チャージ材の転動疲労のL10寿命は、31.0×10回(鋼種No.5)〜51.2×10回(鋼種No.7)と優れる。一方、比較例では、同L10寿命は0.7×10回(鋼種No.7)〜8.5×10回(鋼種No.13)と、いずれも水素脆性型の早期転動疲労破壊が生じて低寿命である。本発明により水素脆性型の転動寿命が1オーダ程度改善していることが分かる。
また、発明例の2円筒試験の平均寿命は、25.6×10回(鋼種No.3)〜39.5×10回(鋼種No.8)と優れる。一方、比較例では、同平均寿命は0.2×10回(鋼種No.5)〜7.2×10回(鋼種No.12)と、いずれも水素脆性により低寿命である。本発明により水素脆性型の転動寿命が1オーダ程度改善していることが分かる。
表2において、比較例の鋼種No.12,14はCr量が低いため、鋼種No.13はMn+Cr量が低いため、いずれも低寿命となった例である。また、比較例の鋼種No.1〜No.7は、化学成分は請求範囲内にあるが以下の理由により低寿命となった例である。すなわち、鋼種No.1,3,4,6は、鋼材C濃度が高いものの、表層C濃度と鋼材C濃度との差が小さく、ショットピーニング処理等を行わなかったために表層圧縮残留応力が600MPa未満となり、低寿命となった例である。
ここで、鋼種No.4は表層C濃度と鋼材C濃度とをほぼ同じ大きさに設定したものであるが、この鋼種No.4を用いた発明例と比較例とでは、表層圧縮残留応力以外の条件である、表面硬さ、表層C濃度、表層N濃度、粒径300nm未満のCr窒化物及びMn窒化物の個数割合や個数がほぼ同じであるにもかかわらず、水素チャージ材の転動疲労のL10寿命及び2円筒試験の平均寿命に顕著な差が生じた。これにより、鋼材C濃度が高く、かつ表層C濃度と鋼材C濃度との差が小さい場合でもショットピーニング処理等を行って600MPa以上の表層圧縮残留応力を付与すれば、上記両寿命を良好に向上させ得ることが分かる。
また、比較例の鋼種No.2,5は浸炭窒化条件が適性でないため、表層の300nm未満の窒化物が10個/mm未満であり、低寿命となった例である。この鋼種No.2は表層N濃度が適正な条件を満たしているものの、窒化物が大径化し、300nm未満の窒化物個数が不足した例である。また、鋼種No.7は表層C濃度が低いため、低寿命となった例である。
上述したように、鋼種No.1,3,6を用いた比較例は、鋼材C濃度が高いものの、表層C濃度と鋼材C濃度との差が小さく、ショットピーニング処理等を行わなかったために表層圧縮残留応力が600MPaに達しなかったものであるが、これらの鋼種No.1,3,6を用いてショットピーニング処理等は行わずに、表層C濃度と鋼材C濃度との差を大きくする浸炭窒化処理を行い、表層圧縮残留応力と上記両寿命との関係を求める試験を行った。表3に試験結果を示す。
Figure 0005999485
表3からショットピーニング処理等を行わなくても、浸炭窒化時の表層C濃度を高め、表層C濃度と鋼材C濃度との差を0.40%以上にすると、表層圧縮残留応力が600MPa以上となって、水素チャージ材の転動疲労のL10寿命及び2円筒試験の平均寿命が改善することが分かる。
以上の説明からも明らかなように、最表層での圧縮残留応力を高めるようにした本発明の浸炭窒化部品によれば、水素脆性型の面疲労強度を従来技術に比してより一層向上させることができる。
10,18 試験片

Claims (3)

  1. 質量%で、
    C:0.42〜1.30%、
    Si:0.05〜0.35%、
    Mn:0.40〜1.50%、
    P:0.030%以下、
    S:0.030%以下、
    Cr:1.50〜3.00%、
    Al:0.050%以下、
    O:0.0015%以下、
    N:0.025%以下、
    Mn+Cr:2.50〜4.00%、
    残部がFe及び不可避不純物からな浸炭窒化部品であって表層C濃度が0.80〜1.50質量%、表層N濃度が0.10〜1.00質量%で表面硬さがHRC58以上64未満であり、表層に分散析出した全窒化物に対する粒径300nm未満のCr窒化物及びMn窒化物の個数割合が70%以上かつ該個数が10個/mm以上であり、表層圧縮残留応力が600MPa以上であることを特徴とする水素脆性型の面疲労強度に優れた浸炭窒化部品。
  2. 請求項1において、質量%で、
    Mo:0.50%以下、
    Ni:0.50%未満、
    Ti:0.500%以下、
    Nb:0.100%以下、
    のうちいずれか1種又は2種以上を更に含有していることを特徴とする水素脆性型の面疲労強度に優れた浸炭窒化部品。
  3. 請求項1又は2において表層C濃度と鋼材C濃度との差が、質量%で0.40%以上であることを特徴とする水素脆性型の面疲労強度に優れた浸炭窒化部品。
JP2012150268A 2012-07-04 2012-07-04 水素脆性型の面疲労強度に優れた浸炭窒化部品 Active JP5999485B2 (ja)

Priority Applications (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2012150268A JP5999485B2 (ja) 2012-07-04 2012-07-04 水素脆性型の面疲労強度に優れた浸炭窒化部品

Applications Claiming Priority (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2012150268A JP5999485B2 (ja) 2012-07-04 2012-07-04 水素脆性型の面疲労強度に優れた浸炭窒化部品

Publications (2)

Publication Number Publication Date
JP2014012870A JP2014012870A (ja) 2014-01-23
JP5999485B2 true JP5999485B2 (ja) 2016-09-28

Family

ID=50108710

Family Applications (1)

Application Number Title Priority Date Filing Date
JP2012150268A Active JP5999485B2 (ja) 2012-07-04 2012-07-04 水素脆性型の面疲労強度に優れた浸炭窒化部品

Country Status (1)

Country Link
JP (1) JP5999485B2 (ja)

Families Citing this family (3)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP6027925B2 (ja) * 2013-03-25 2016-11-16 株式会社不二越 水素脆性型の面疲労強度に優れた浸炭窒化軸受部品
JP6735589B2 (ja) * 2016-03-30 2020-08-05 大同特殊鋼株式会社 製造性と耐水素脆性に優れた耐環境用軸受鋼
JPWO2019026909A1 (ja) * 2017-08-03 2020-06-25 アイシン精機株式会社 鋼部品の製造方法および鋼部品

Family Cites Families (6)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JPH1122733A (ja) * 1997-07-01 1999-01-26 Nippon Seiko Kk 転がり軸受
JP4853777B2 (ja) * 2006-05-16 2012-01-11 愛知製鋼株式会社 塑性結合部材及びその製造方法
JP2008151236A (ja) * 2006-12-15 2008-07-03 Nsk Ltd 転がり軸受
JP2008267403A (ja) * 2007-04-16 2008-11-06 Nsk Ltd 転動装置
JP5160316B2 (ja) * 2008-06-09 2013-03-13 本田技研工業株式会社 等速ジョイント用ボール及びその製造方法
JP5644166B2 (ja) * 2010-04-20 2014-12-24 大同特殊鋼株式会社 水素脆性型の面疲労強度に優れた浸炭窒化鋼

Also Published As

Publication number Publication date
JP2014012870A (ja) 2014-01-23

Similar Documents

Publication Publication Date Title
JP5644166B2 (ja) 水素脆性型の面疲労強度に優れた浸炭窒化鋼
JP5026625B2 (ja) 表面硬化用機械構造用鋼、及び、機械構造用鋼部品とその製造方法
JP2008280583A (ja) 水素脆性型の面疲労強度に優れた肌焼鋼
WO2014192117A1 (ja) 軟窒化高周波焼入れ鋼部品
US20050045248A1 (en) Contact pressure-resistant member and method of making the same
JPWO2012077705A1 (ja) 面疲労強度に優れたガス浸炭鋼部品、ガス浸炭用鋼材およびガス浸炭鋼部品の製造方法
WO2013084800A1 (ja) 転がり軸受およびその製造方法
JP2009215597A (ja) 転動部品及びその製造方法
JP5728844B2 (ja) 転がり軸受
JP2018141218A (ja) 部品およびその製造方法
JP2018141216A (ja) 部品およびその製造方法
JP4998054B2 (ja) 転がり軸受
JP2008001943A (ja) 転がり、摺動部品およびその製造方法
JP5999485B2 (ja) 水素脆性型の面疲労強度に優れた浸炭窒化部品
JP6027925B2 (ja) 水素脆性型の面疲労強度に優れた浸炭窒化軸受部品
JP6238124B2 (ja) 水素脆性型の面疲労強度に優れた浸炭窒化鋼及びそれを用いた浸炭窒化部品
JP6007562B2 (ja) 転がり軸受
JP2019167551A (ja) 転動疲労特性に優れた鋼部品
JP2012031456A (ja) 転がり軸受
JP5076274B2 (ja) 転がり軸受
JP6448405B2 (ja) 水素脆性型の面疲労強度に優れた浸炭窒化軸受部品
JP2018021654A (ja) 転がり摺動部材、その製造方法、浸炭用鋼材及び転がり軸受
JP5991026B2 (ja) 転がり軸受の製造方法
WO2017170435A1 (ja) 製造性と耐水素脆性に優れた耐環境用軸受鋼
JP2019056141A (ja) 浸炭窒化用鋼材および浸炭窒化軸受部品

Legal Events

Date Code Title Description
A621 Written request for application examination

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A621

Effective date: 20150525

A131 Notification of reasons for refusal

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A131

Effective date: 20160126

A977 Report on retrieval

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A971007

Effective date: 20160129

A521 Written amendment

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A523

Effective date: 20160311

TRDD Decision of grant or rejection written
A01 Written decision to grant a patent or to grant a registration (utility model)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A01

Effective date: 20160805

A61 First payment of annual fees (during grant procedure)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A61

Effective date: 20160818

R150 Certificate of patent (=grant) or registration of utility model

Ref document number: 5999485

Country of ref document: JP

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R150