JPH1122733A - 転がり軸受 - Google Patents

転がり軸受

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JPH1122733A
JPH1122733A JP18889997A JP18889997A JPH1122733A JP H1122733 A JPH1122733 A JP H1122733A JP 18889997 A JP18889997 A JP 18889997A JP 18889997 A JP18889997 A JP 18889997A JP H1122733 A JPH1122733 A JP H1122733A
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JP
Japan
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bearing
rolling
lubricant
hardness
life
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JP18889997A
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English (en)
Inventor
Yoichi Matsumoto
洋一 松本
Takashi Nagato
孝 永戸
Kazuo Sekino
和雄 関野
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NSK Ltd
Original Assignee
NSK Ltd
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 外部から潤滑剤に水分が混入したり、或いは
潤滑剤中の水分濃度の影響を受ける使用状況下でも十分
なる軸受寿命を安価にして得ることができるようにし
た。 【解決手段】 転動体の転動面における表面硬さが、軌
道輪の軌道面における表面硬さよりも低く設定されてい
る。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は転がり軸受に関し、
より詳しくは、潤滑剤に水分が混入することを想定した
使用環境下で使用される転がり軸受に関する。
【0002】
【従来の技術】転がり軸受においては、一般に、潤滑剤
中に水分が混入するとその耐久性が大きく低下すること
が知られており、例えば、潤滑剤中に6%の水分が混入
した場合は、水分混入がない場合に比べ、軸受の転がり
疲れ寿命が数分の1から20分の1程度に低下すること
が報告されている(古村恭三郎、城田伸一、平川清:
「表面起点及び内部起点の転がり疲れについて」、NSK
Bearing Journal, No.636,pp. 1 - 10, 1977 ;以下
「文献1」という)。
【0003】水分の潤滑剤への混入は転がり軸受の寿命
特性(耐久性)に多大な影響を及ぼすことが上記文献1
からも明らかであり、従来より水分の潤滑剤への混入を
防止する技術が、前記転がり軸受の用途に応じて種々検
討され、開発されている。
【0004】潤滑剤に水分が浸入することを想定して使
用される転がり軸受としては、例えば、鉄鋼材料の圧延
機のワークロール用軸受がある。
【0005】該ワークロール用軸受は、従前においては
軸受を内有したチョック(軸受箱)に接触ゴムシールを
装着し、多量の圧延水がチョック内に浸入するのを防止
することにより軸受内部に封入されている潤滑剤に水分
が混入するのを防いでいたが、前記接触ゴムシールの劣
化や損傷が生じた場合はチョック内に水が浸入し、その
結果軸受内部の潤滑剤にも水分が混入し得る。このため
最近では軸受内部にも接触ゴムシールを装着することに
より、潤滑剤に水分が混入するのを回避しようとした技
術が提案されている(K. YAMAMOTO, M. YAMAZAKI, M. A
KIYAMA, K. FURUMURA : 「Introducing of Sealed Bear
ings for Work Roll Necks in RollingMills」、Procee
dings of the JSLE international Tribology Conferen
ce, pp.609 - 614, July 8 - 10, 1985, Tokyo, Japa
n;以下「第1の従来技術」という)。
【0006】該第1の従来技術によれば、軸受外部のチ
ョックに装着された接触ゴムシールと軸受内部に装着さ
れた接触ゴムシールとを併用することにより、前記チョ
ックに装着されたゴム接触シールのみで水分浸入を防い
でいた場合に比べ、潤滑剤中の水分濃度を40%から1
0%未満に減少することができ、また潤滑剤の消費量も
1/200に低減することができ、さらには毎年数回あ
った軸受の破損事故も皆無になったことが報告されてい
る。
【0007】また、上述したワークロール用軸受におい
て、潤滑剤への水分混入を防止する他の従来技術とし
て、圧搾空気をキャリアガスとして潤滑剤をチョックに
供給する技術も提案されている(NSK Technical Journa
l No. 654, pp. 54 - 56, 1992;以下「第2の従来技
術」という)。
【0008】該第2の従来技術においては、圧搾空気を
利用してチョック内の空気圧力を高く設定することによ
り、潤滑剤への水分混入を抑制することが可能となる。
【0009】また、潤滑剤中に水分が浸入し得る他の転
がり軸受の例としては、自動車エンジンの電装・補機用
軸受がある。自動車エンジンの電装・補機類用軸受と
は、オルタネータ用軸受、カークーラ電磁クラッチ用軸
受、アイドラプーリ用軸受、水ポンプ用軸受等、自動車
エンジンの外部にあるベルトにより駆動する補助機械用
の軸受を意味するが、これら電装・補機類用軸受は、路
面より跳ね上げられる泥水や雨水が軸受内部に浸入しや
すく、また水ポンプ用軸受についてはエンジン冷却用の
循環水が軸受内部に浸入し易い。
【0010】そこで、かかる観点から自動車エンジンの
電装・補機類用軸受においては、軸受内部における潤滑
剤への水分混入を防止する手段として、内蔵シールのシ
ール性を高性能化する技術が提案されている(NSK Tech
nical Journal No. 660, pp.15 - 22, 1995、同 No. 6
52, pp. 66 - 67, 1992;以下「第3の従来技術」とい
う)。
【0011】また、転がり軸受においては、一般に、振
動が負荷されたり、或いは軸受周りの剛性が弱い場合は
軸受の耐久寿命が大幅に低下することが報告されている
(村上保夫、武村浩道:「電装用軸受のフレーキング現
象の研究」、日本トライポロジ学会主催トライポロジ会
議予稿集(名古屋 1993年11月、pp. 295 - 298 ;以下
「文献2」という)。
【0012】すなわち、運転中に振動が負荷された場合
は軌道面と転動面との間の油膜形成が不十分となり接触
面に引張応力が負荷され、また回転軸と内輪とが強いし
ばりばめで嵌合されて軸受ハウジングの剛性が低下して
いる場合は軌道面に常時引張応力が作用し、その結果、
外部からの潤滑剤への水分混入がなくとも、潤滑剤に元
々含有されている水分の影響を受けて軸受の早期剥離を
招来し、軸受寿命Lの低下を来す虞がある。
【0013】しかるに、前記自動車エンジンの電装・補
機類用軸受は、振動の影響等を受けやすく、したがって
該振動により早期に剥離(フレーキング)が生じるのを
回避すべく、振動減衰効果に優れた緩衝剤のような作用
を奏するグリースを潤滑剤として使用することが提案さ
れている(NSK Technical Journal No. 657, pp. 49- 5
1, 1994;以下「第4の従来技術」という)。
【0014】また、潤滑剤中に水分が浸入し得るその他
の転がり軸受の例としては、自動車ホイール用軸受、鉄
鋼材料の連続鋳造設備のガイドロール用軸受や圧延機の
バックアップロール用軸受、更には製紙機ドライヤロー
ル用軸受等がある。
【0015】自動車ホイール用軸受においては、路面の
泥水や雨水の影響を受けて潤滑剤中に水分が浸入し易
い。また、鉄鋼材料の連続鋳造設備のガイドロール用軸
受や圧延機のバックアップロール用軸受についても、冷
却水や圧延水が潤滑剤中に浸入し易い。さらに、製紙機
ドライヤロール用軸受は、水分を含んだ湿った紙を乾燥
する乾燥工程で使用されるため、軸受内に水蒸気が浸入
し易く、したがって、潤滑剤中の水分濃度が増加して軸
受の早期破損を生じやすい(M.J.Culter:「Paper mach
ine bearing failure 」、Tappi Journal, Vol. 79, N
o. 2, pp. 157 - 167, 1996;以下「文献3」とい
う)。
【0016】そこで、自動車ホイール用軸受において
は、上記第1の従来技術と同様、軸受外部の接触ゴムシ
ールと軸受に内蔵された接触ゴムシールを併用したり、
或いは高性能シールを単独使用する技術が提案されてお
り(NSK Technical Journal No. 647, pp. 55 - 57, 19
87)、また、ガイドロール用軸受や圧延機のバックアッ
プロール用軸受についても、接触ゴムシールを使用して
潤滑剤中への水分浸入を防止することが行われている。
また、製紙機ドライヤロール用軸受についても、上記文
献3から明らかなように水蒸気が軸受中に浸入し易いた
め水分浸入防止のための対策を講じる必要があるが、該
製紙機ドライヤロール用軸受は一般に高温条件下で使用
されるため、ワークロール用軸受や自動車用ホイール用
軸受に使用される接触ゴムシールを適用することは耐熱
性を考慮すると難しく、このため十分な耐熱性を有する
特殊な高温用ゴムを使用して水分の浸入を防止すること
が考えられている。
【0017】すなわち、これら自動車ホイール用軸受等
その他の転がり軸受についても、第1の従来技術や第3
の従来技術と略同様、原理的には接触ゴムシールを使用
して軸受内部の潤滑剤への水分混入を回避しようとして
いる(以下、これらその他の転がり軸受についての従来
技術を「第5の従来技術」という)。
【0018】一方、転がり軸受が搭載された機械類や自
動車等が運転を停止している場合に軸受のハウジング内
部の温度が低下して露点に到達したときは、軸受周辺の
水分が凝縮し、その結果水滴となって軸受に付着したり
或いは潤滑剤中に混入し、これにより軸受寿命Lの低下
を招来することが報告されており(内田権一:NSK Tech
nical Journal No. 632, pp. 40 - 45, 1973;以下「文
献4」という)、また潤滑剤が酸化劣化すると水分が発
生し、該発生した水分が軸受に付着して軸受寿命Lの低
下を招来することが報告されている(関雅夫:転がり疲
れシンンポジウム予稿集、pp. 125 - 130, 1993 ;以下
「文献5」という )。
【0019】これら文献4及び文献5によれば、外部か
ら直接的に潤滑剤に水分が混入しなくとも、環境変化等
により潤滑剤中に水分が含まれる状況になる場合があ
り、したがって軸受寿命Lの低下を防止するためには潤
滑剤への水分浸入対策として上述した接触ゴムシール以
外の手段も検討する必要がある。
【0020】そこで、かかる観点からは、軸受に使用さ
れる軸受材料としてマルテンサイト系ステンレス鋼(S
US440C)を使用することにより、軸受への水分付
着による錆の発生を防止し、耐久性が低下するのを回避
せんとしている(転がり軸受工学編集委員会編:転がり
軸受工学,pp. 71 - 72 、養賢堂(1976年);以下「第
6の従来技術」という)。
【0021】
【発明が解決しようとする課題】ところで、上記第1の
従来技術は、上述の如く潤滑剤中の水分濃度を40%か
ら10%未満に減少させることが可能であり、また、潤
滑剤の消費量を低減させることができ、その後のワーク
ロール用軸受の使用実績を調査した結果、焼き付き事故
は激減していることが判明したが、剥離発生までの使用
時間、すなわち軸受寿命Lは余り向上していないことが
判った。これは、前記焼き付き事故の減少は軸受に内蔵
された接触ゴムシールにより潤滑剤の外部への流出が減
少したためであり、前記軸受寿命Lが向上していないの
は潤滑剤への水分の混入により、軸受の転がり疲れ強さ
が大幅に低下するためと考えられる。
【0022】すなわち、100ppm程度の微量の水分
が潤滑剤中に混入した場合であっても軸受材料の転がり
疲れ強さは32〜48%も低下することが報告されてお
り(P.Schatzberg, I.M.Felsen:「Effects of water a
nd oxygen during rolling contact lubrication, wea
r, 12, pp. 331 - 342, 1968;以下「文献6」とい
う)、軸受外のチョックに装着された接触ゴムシールと
軸受に内蔵された接触ゴムシールとを併用した場合、潤
滑剤中の水分濃度が10%未満程度になるまでは抑制す
ることができるものの、潤滑剤への水分混入を完全には
防止することができず、文献6も指摘しているように軸
受材料の転がり疲れ強さが低下するのを避けることがで
きない。つまり、第1の従来技術では、潤滑剤への水分
を完全には防止できないため、軸受材料の転がり疲れ強
さが低下し、所望の耐久性を有する軸受寿命Lを得るこ
とができないという問題点がある。
【0023】また、第2の従来技術は、チョック内の空
気圧を高くすることにより水分の浸入を防止しているた
め、第1の従来技術のように接触ゴムシールの防水能力
には依存しないものの、潤滑剤中の水分濃度を100p
pm以下にするような略完璧に近い水分浸入防止を図る
のが困難であるという問題点がある。
【0024】また、第3の従来技術は、原理的には第1
の従来技術と同様、接触ゴムシールにより水分の浸入を
防止するものであり、上述したように潤滑剤中の水分濃
度を100ppm以下に抑制することは困難であり、所
望の耐久性を得ることができないという問題点がある。
【0025】また、第4の従来技術においても、近年の
自動車の高性能化により、電装・補機用軸受の使用温度
が高くなり、結果としてグリースが軟化して該グリース
の振動減衰能が低下するため、軸受の早期剥離を防止す
ることができず、上述した潤滑剤中への水分浸入と相俟
って軸受寿命低下の要因となり、所望の耐久性を得るこ
とができないという問題点がある。
【0026】また、第5の従来技術においても、原理的
には上記第1の従来技術と同様、接触ゴムシールを使用
したものであり、完璧な水分の浸入防止を図ることは困
難であるという問題点がある。
【0027】さらに、第6の従来技術については、ステ
ンレス鋼の熱伝導度が低合金鋼の熱伝導度に比べて低い
ため焼き付き破損が生じやすく、潤滑剤中に水分が混入
する上述のような潤滑条件の悪い転がり軸受への適用は
困難であるという問題点がある。また、前記ステンレス
鋼の耐食性は表面に生成される不動態皮膜により維持さ
れるものであるが、転がり軸受においては軌道輪の軌道
面と転動体の転動面とが接触すると前記不動態皮膜が破
られ、その結果選択的に腐食が進行して孔(ピット)が
生成されるため、該孔を起点とした剥離破損が生じやす
いという問題点もある。さらに、軸受を製造する場合に
おいても、ステンレス鋼の場合は焼入温度が1010〜
1070℃と高く、加熱炉としては塩浴炉を使用する必
要があるため、生産設備の高騰化を招く虞があるという
問題点もある(日本鉄鋼協会編:鋼の熱処理 改訂5版
pp. 563 - 568 (1989))。
【0028】さらに加えて、前記ステンレス鋼は上述し
たように熱伝導度が低いため、研削速度が低下して研削
コストが高価なものとなり、さらには前記ステンレス鋼
は高合金鋼であるため素材コストの高騰化をも招来する
という問題点もある。
【0029】本発明はこのような問題点に鑑みなされた
ものであって、外部から潤滑剤に水分が混入したり、或
いは潤滑剤中の水分濃度の影響を受ける使用状況下であ
っても、十分なる軸受寿命を安価にして得ることができ
る転がり軸受を提供することを目的とする。
【0030】
【課題を解決するための手段】本願出願人は、潤滑剤中
に水分を含んだ潤滑条件下で駆動しても優れた軸受け寿
命Lを有する転がり軸受を得るべく、鋭意研究をした結
果、転動体における転動面の表面硬さ(以下「転動面硬
さ」という)を軌道面における軌道面の表面硬さ(以下
「軌道面硬さ」という)より低く設定することが有効で
あるという知見を得た。
【0031】従来においては、転動面硬さを軌道面硬さ
よりも高く設定した場合は、転動面硬さを軌道面硬さよ
りも低く設定した場合に比べ、転がり疲れ強さの優れた
転がり軸受を得ることができるとされており、具体的に
は転動面硬さから軌道面硬さを減算した硬さ偏差ΔHR
C(HRCはロックウェルC硬さを示す)が+1.5程
度となるように転動面硬さ及び軌道面硬さを設定するの
が最も好ましいとされている(特殊鋼倶楽部「特殊鋼ガ
イド編集委員会」編:「軸受の疲れ寿命と破損、特殊鋼
ガイド、第5編、pp. 92 - 104, 1979;以下「文献7」
という) 。
【0032】しかしながら、本願出願人の研究によれ
ば、潤滑剤中に水分が混入している場合は、上記文献7
のように転動面硬さを軌道面硬さよりも高く設定する
と、その水分含有量が微量の場合であっても転がり疲れ
強さ、すなわち軸受寿命Lが低下し、その一方で、転動
面硬さを軌道面硬さよりも低く設定した場合は前記軸受
寿命Lを向上させることが可能であるということが判明
した。すなわち、文献7のように転動面硬さを軌道面硬
さよりも高く設定すると表面硬さに劣る軌道輪の軌道面
が摩耗することとなるが、この場合潤滑剤中に水分を含
んでいると軌道面上における酸化物等の非金属介在物が
脱落して該軌道面に孔を形成し、孔内に水が滞留して孔
の底部で応力腐食割れが生じ、続いて水素発生型の腐食
反応が生じ、その結果軌道輪内部に水素が吸収され、軌
道輪が水素脆化して軸受の早期剥離を招来し、軸受寿命
Lが低下する。
【0033】これに対して、転動面硬さを軌道面硬さよ
りも低く設定した場合は転動体の転動面が摩耗すること
となるが、転動体の自転速度は軌道輪の自転速度よりも
遙に速いため、たとえ転動面に孔が形成されても孔内に
は水分が滞留しにくく、したがって水素発生型の腐食反
応が抑制され、転動体内部への水素吸収が回避され、軸
受寿命Lの向上に寄与する。
【0034】本発明は斯かる知見に基づきなされたもの
であって、本発明に係る転がり軸受は、外輪と内輪とか
らなる軌道輪と、前記外輪と前記内輪との間に転動自在
に配設された転動体とを備えた転がり軸受において、前
記転動体の転動面における表面硬さが、前記軌道輪の軌
道面における表面硬さよりも低く設定されていることを
特徴としている。
【0035】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態を説明
する。
【0036】上述の如く、潤滑剤中に水分を含んだ潤滑
条件下では軸受材料の転がり疲れ強さの低下を招くこと
が知られているが、その機構については定説がなく、水
分の潤滑剤への混入が転がり疲れ強さを低下させる理由
については不明とされている(E.Ioannides, B.Jacobso
n :「Dirty lubricants-reduced bearing life 」,Ba
ll Bearing Journal Special '89, pp. 22 - 27, 198
9)。
【0037】そこで、本願出願人はまず上記機構を理論
的に解明することに着手した。
【0038】水分が潤滑剤中に混入した場合は該水分量
が微量の場合であっても油膜の形成が困難となり、転動
体と軌道輪とはその転動面及び軌道面との間で金属接触
する。そして、この場合、所謂公転滑りや差動滑り等の
滑りが発生し、その結果転動体又は軌道輪のうち柔らか
い材料で形成された接触面が摩耗することとなる。した
がって、文献7に従い、軌道輪の軌道面硬さを転動体の
転動面硬さよりも低く設定した場合は、軌道輪の軌道面
が摩耗することとなる。
【0039】図1は斯かる金属接触による摩耗により形
成される孔の発生機構を示した図である。
【0040】図1(a)において、1は軌道輪、2は転
動体を示し、軌道輪1の軌道面3には、不可避的な酸化
物、硫化物等の非金属介在物4a、4bが形成されてい
る。この状態で軸受が駆動し軌道面3と転動面5とが金
属接触すると、転動体2よりも表面硬さの低い軌道輪1
の軌道面3が摩耗し、その結果前記非金属介在物4a、
4bが軌道面3から脱落(或いは、一部脱落)し、図1
(b)に示すように、軌道面3には孔6a、6bが形成
される。そして、軌道面3と転動面5の間に作用する摩
擦力により軌道面3や転動面5には引張応力が繰り返し
て負荷されると、軌道輪1の軌道面3に形成された孔6
a、6bに潤滑剤中の水分が浸入し、該孔6a、6bに
水分が滞留してこれら孔6a、6bの底部7a、7bを
起点とした応力腐食割れが発生する。
【0041】この現象を詳しく説明すると以下のように
なる。
【0042】すなわち、水分が孔6a、6bに滞留する
と孔内で腐食反応が進行する。そして、転動面との摩擦
による引張応力が孔内の表面に作用するので局部的な腐
食進行、すなわち応力腐食割れが進行する。そして、例
えば、孔6aのように孔深さが比較的浅いうちは軌道面
3から酸素が供給されるため化学反応式(1)(2)に
示すような酸素消費型の腐食反応が起こる。
【0043】
【化1】 つまり、孔6aのように孔深さが比較的浅いうちは、孔
6aへの酸素供給が比較的容易になされるため、化学反
応式(1)に示すように、アノード側ではFeと水とが
反応して電子を放出する酸化反応を呈する一方、カソー
ド側では、水中に含まれる溶存酸素を消費して電子を獲
得する還元反応を呈する。
【0044】しかしながら、摩擦力の繰り返し負荷によ
り応力腐食割れが徐々に進展し、その結果6bのように
孔深さが深くなると孔6bの低部7bへの酸素供給が困
難となり、化学反応式(3)〜(6)に示すような水素
発生型の腐食反応が起こる。
【0045】
【化2】 ここで、H(ads) は孔6bの内面に吸着する水素原子を
示し、H(abs) は軌道輪1の内部に吸収される水素原子
を示している。
【0046】すなわち、アノード(陽極)側では、化学
反応式(3)に示すように、酸素消費型の腐食反応と同
様の化学反応を呈するが、孔6bの内部に酸素が供給さ
れなくなると、カソード(陰極)側では、化学反応式
(4)に示すように、孔6bの内表面に水素が吸着し、
次いで化学反応式(5)に示すように、該吸着した水素
の一部は軌道輪1の内部に拡散して吸収され、前記吸着
した水素のその他は、化学反応式(6)に示すように、
孔6bの内表面に吸着された水素原子同士が結合して水
素分子(ガス)を形成し該水素分子が外部に放出され
る。そして、前記化学反応式(5)に示す化学反応が進
行し、水素原子が軌道輪1の内部に吸収されると軌道輪
材料の水素脆化を招来し、その結果軌道輪材料の転がり
疲れ寿命の低下を来すこととなる。
【0047】このような応力腐食割れは、特に、非回転
側軌道輪(以下「固定輪」という)の軌道面に顕著に進
行するが、内輪と回転軸とが所謂しまりばめで嵌合され
ているときは、内輪が回転側軌道輪(以下「回転輪」と
いう)の場合であっても軌道面3には常時引張応力が作
用するため、孔6bの低部7bには更なる大きな引張応
力が負荷され、その結果割れの進展速度が加速され、前
記水素発生型の腐食反応の開始時期が早まる。
【0048】次に、本願出願人は、潤滑剤に水分が混入
した場合の軸受材料の剥離特性について検討した。
【0049】〔発明が解決しようとする課題〕の項でも
述べたように、潤滑剤中に水分が混入すると転がり軸受
が剥離するまでに要する時間、すなわち軸受寿命Lが低
下するが、剥離が発生する軸受の構成部位としては一般
には固定輪が最も顕著であり、次いで回転輪、転動体の
順に剥離の発生頻度は少なくなる。このように転動体に
おける剥離発生頻度が軌道輪における剥離発生頻度より
も少ないのは転動体の水素吸収量が軌道輪の水素吸収量
よりも少ないためであると解されるが、その理由として
は以下のことが考えられる。
【0050】(1)転がり軸受の自転速度は、転動体の
方が軌道輪よりも遙に速いため、たとえ転動体の転動面
に孔が形成されても孔に侵入した水分は遠心力により弾
き飛ばされ、その結果腐食反応の進行が抑制され、材料
内部に浸入する水素の吸収量が少ない。
【0051】(2)一般には上記文献7に記載されてい
るように、転動面硬さを軌道面硬さよりも高い硬度に設
定して軸受の各構成部位が製造されるため、転動面は軌
道面に比べて摩耗しにくく、したがって剥離の発生頻度
も軌道面に比べ少ない。
【0052】(3)転動体の鋳造素材(インゴット、ブ
ルーム、ビレット等)からの加工比は軌道輪の鋳造素材
からの加工比よりも大きいため、転動体の転動面に存在
する非金属介在物は軌道輪の軌道面に存在する非金属介
在物に比べて小さく、その結果たとえ転動面の非金属介
在物が転動面から脱落しても孔深さが浅く、水素発生型
の腐食反応が生じにくい。
【0053】等の理由が考えられる。
【0054】また、軌道輪に関し、回転輪の方が固定輪
に比べて剥離発生頻度が少ないのは以下の理由による。
すなわち、回転輪においては、軌道面に形成された孔に
水分が浸入しても弾き飛ばされ易いため固定輪に比べて
水素吸収量が少なく、したがって剥離発生頻度も少なく
なると考えられるからである。但し、内輪と回転軸とが
しばりばめにより嵌合されているときは、回転輪の軌道
面には常時引張応力が作用するため、内輪が回転輪の場
合であっても応力腐食割れが促進され、上述したカソー
ド反応(化学反応式(4)〜(6))が活発に進行して
回転輪の水素吸収量も増加し、このため剥離の発生頻度
も多くなる。特に、締代が回転軸の軸径の7/1000
0を超える場合やテーパ穴軸受をしばりばめで使用する
場合は、回転輪の剥離発生頻度は固定輪の剥離発生頻度
と同等か、又は同等以上に多いものとなる。尚、内輪が
固定輪であって且つ該内輪と回転軸とがしばりばめによ
り嵌合されている場合はすきまばめにより嵌合されてい
る場合に比べ、水素吸収量が多くなるのはいうまでもな
い。
【0055】このように剥離が発生する軸受の構成部位
の検討結果から、本願出願人は、さらに研究を重ね、そ
の結果、軌道輪の水素吸収を安価且つ簡易に抑制するた
めには、転動面硬さを軌道面硬さより低く設定する必要
があるということが判った。その理由は以下のとおりで
ある。
【0056】転がり軸受においては、軌道輪の軌道面と
転動体の転動面には公転滑りや差動滑り等の滑りが必ず
生じるが、潤滑剤に水分が混入している場合や潤滑剤中
の水分濃度の影響を受けて良好な油膜を形成することが
できない場合(例えば、軸受の運転開始直後や運転停止
直前を含む低速回転運転時、使用温度が高く表面粗さの
悪い場合、振動を受けたり潤滑剤の分量が少ない場合)
においては、転動面と軌道面とが接触すると転動面及び
軌道面のうちの表面硬さの低い方の面が摩耗する。
【0057】したがって、上記文献7のように軌道面硬
さを転動面硬さよりも低く設定して軸受に組み込むと軌
道面側が摩耗することとなる。そしてその結果、軌道面
に存在する非金属介在物が脱落して孔を形成し、孔の底
部を起点にして応力腐食割れが発生し、水素発生型の腐
食反応が進行して軌道輪の水素脆化により早期剥離を招
来し、軸受寿命Lの低下を来すこととなる。
【0058】これに対して、転動面硬さを軌道面硬さよ
りも低く設定して、即ち硬さ偏差ΔHRC(=転動面硬
さ−軌道面硬さ)を「0」未満に設定して軸受を組み込
むと転動面側が摩耗し、転動面に存在する非金属介在物
が脱落して転動面上に孔が形成されることとなる。しか
しながら、転動体の自転速度は軌道輪の自転速度よりも
遙に速いため孔が軌道面に形成された場合に比べ、水分
が孔内に滞留しにくく水素発生型の腐食反応が進行しに
くくなる。そしてその結果、転動体の転動面は摩耗はす
るものの転動体への水素の吸収はなされにくく、剥離発
生頻度が抑制されて軸受寿命L(耐久性)が向上する。
【0059】尚、実験室的な使用を除き一般の産業機械
等に転がり軸受を使用する場合は、通常は転動面と軌道
面との接触を避けることができないのは周知事実であ
る。
【0060】ところで、この場合、転動体の摩耗は避け
られないこととなるが、転動体の著しい摩耗は避ける必
要があり、そのためには転動面の金属組織を、マルテン
サイト及び必要に応じて残留オーステナイトや炭化物を
加えた組織(以下、この組織を「マルテンサイト組
織」、この組織を有する鋼を「マルテンサイト鋼」とい
う。)で構成する必要がある。
【0061】また、上述した硬さ偏差ΔHRCは、−
1.0〜−10.0の範囲に設定するのが望ましい。
【0062】すなわち、硬さ偏差ΔHRCが「0」未
満、例えば、「−0.1」になると硬さ偏差ΔHRCが
「0」以上の場合に比べ、軸受寿命Lは改善されるが、
より安定した長寿命化を達成し得る軸受寿命Lを得るた
めには硬さ偏差ΔHRCを「−1.0」以下に設定する
必要がある。一方、硬さ偏差ΔHRCが「−10.0」
以下になると、転動体の摩耗が著しくなり、硬さ偏差Δ
HRCが「0」以上の場合と略同程度まで軸受寿命Lが
低下する。したがって、硬さ偏差ΔHRCを−1.0〜
−10.0、好ましくは−1.0〜−8.2の範囲に設
定するのが望ましい。
【0063】上述したマルテンサイト鋼の表面硬さを調
整する方法としては、例えば以下の方法がある。
【0064】(1)焼入性を向上させると同時に、炭化
物生成能の高いCr、Mo等の元素と炭化物生成能の低
いNi等の元素の添加量比を調整し、マルテンサイイト
組織を維持しながら該マルテンサイト組織中に占める炭
化物量を調整する。
【0065】炭化物生成能の高い元素の添加量比が増加
すると炭化物が多くなるため表面硬さが上昇する。一
方、炭化物生成能の低い元素の添加量比が増加すると炭
化物が少なくなるため表面硬さが低下する。尚、Mnは
焼入性を向上させ且つ炭化物生成能も高いが、柔らかい
組織である残留オーステナイトの濃度も増加するため硬
さには余り影響しない。
【0066】(2)柔らかい組織である残留オーステナ
イトの濃度を調整する。
【0067】残留オーステナイトの濃度が30 vol%を
超えた場合は、残留オーステナイトの濃度が増加すれば
するほど、マルテンサイト鋼は柔らかくなる。
【0068】斯かる残留オーステナイトの濃度調整は、
焼入れによりオーステナイトがマルテンサイトに変態す
る開始温度(Ms点)を調整することにより行うことが
できる。ここで、Ms点は素材鋼の化学成分や、浸炭又
は浸炭窒化により付加される表面炭素濃度や表面窒素濃
度、焼入処理前の金属組織、焼入温度、焼入処理時間、
等により決定される。例えば、素材鋼のNi含有率が高
くなればなるほど残留オーステナイトの濃度は高くな
り、また焼入処理前に浸炭処理を施して既に残留オース
テナイトの濃度が高くなっていればいるほど残留オース
テナイトの濃度は高くなる。また、炭化物の粒径が小さ
ければ小さい程、また焼入温度が高ければ高い程、更に
は焼入過度での保持時間が長ければ長い程残留オーステ
ナイトの濃度は高くなる。また、焼入時の冷却速度につ
いても該冷却速度が遅いほど残留オーステナイトの濃度
は高くなる。
【0069】(3)焼戻温度を調整する。
【0070】焼戻温度が高ければ高い程、マルテンサイ
ト鋼は柔らかくなる。
【0071】(4)所謂サブゼロ処理を実施する。
【0072】室温以下に深冷するサブゼロ処理を実施す
ることによりマルテンサイト鋼は硬くなる。
【0073】(5)所謂加工硬化を実施する。
【0074】例えば、ショットピーニング等の加工硬化
を実施することによりマルテンサイト鋼は硬くなる。
【0075】(6)軸受材料に含有される炭素含有率を
調整する。
【0076】軸受材料の表面に固溶する炭素濃度が0.
8wt%以下の場合は軸受素材鋼に含有される炭素含有率
を低く設定すればする程、マルテンサイト鋼は柔らかく
なる。
【0077】また、軌道輪1の内部への水素の吸収を抑
制して水素脆化が生じるのを極力回避するためには、上
述した化学反応式(4)に示す化学反応が進行するのを
抑制するのも効果的である。
【0078】具体的には、潤滑剤の水素イオン濃度を下
げることによって、換言すると潤滑剤の水素イオン指数
pHを上げることによって、化学反応式(4)の反応速
度を低下させることができ、これにより水素脆化が生じ
るのを回避することができ耐久性向上を可能とする。こ
の場合の水素イオン指数pHの最適範囲は7〜13であ
る。
【0079】すなわち、水分は大気中に微量に含有され
る二酸化炭素を溶解し、その結果水素イオン指数が7以
下の酸性になることが多く、潤滑剤にアルカリ性物質を
添加することにより水素イオン指数pHを上げて行くこ
とができるが、化学反応式(4)の反応速度を低下させ
て軌道輪材料への水素吸収の十分なる抑制を達成し、こ
れにより軸受寿命Lを改善するためには、水素イオン指
数pHを少なくとも7以上に設定することが必要であ
る。一方、水素イオン指数pHが13を超えるとアルカ
リ腐食により軌道面3や転動面5が摩耗し、転がり軸受
の駆動中における振動が次第に顕著となる。したがっ
て、本実施の形態では潤滑剤の水素イオン指数pHを7
〜13に限定した。
【0080】また、〔発明が解決しようとする課題〕の
項でも述べたように、軸受材料としてステンレス鋼(S
US440C)のような高合金鋼を使用して腐食反応を
抑制することは、技術的に困難であり、また経済的にも
不利であるため、軸受の素材鋼としては低合金鋼を使用
するのが好ましい。例えば、各軸受部位の素材鋼として
は、その化学成分が、例えば、C:0.10〜1.10
wt%、Si:0.75wt%以下、Mn:1.70wt%以
下、Cr:1.80wt%以下、Mo:1.50wt%以
下、Ni:4.50wt%以下、Cu:0.30wt%以
下、Al:0.050wt%以下、残部:Fe及び不可避
不純物(O、S、Ti等)等からなる低合金鋼を使用す
ることができる。そして、これら素材鋼に所望の熱処理
を施すことにより所望の表面硬さを有する軸受部位を得
ることができる。
【0081】また、転がり軸受の内、特に鉄鋼圧延機の
ロールネック用軸受は、一般に、衝撃荷重を受ける環境
下で使用されるため、軌道輪は低炭素鋼(肌焼鋼)に浸
炭処理又は浸炭窒化処理を施して軌道面近傍の表面を硬
化させる一方、その芯部近傍を柔らかくすることによ
り、転がり接触応力及び衝撃応力の双方に耐え得るよう
に製造される。しかしながら、耐水素脆性を向上させる
ためには軌道面の引張応力を小さくすることが重要であ
り、そのためには軌道輪材料として炭素含有率が0.1
0〜0.45wt%とされた低炭素鋼を使用するのが望ま
しい。これは、内輪と回転軸の締代が軸径の7/100
00においても軌道面に確実に圧縮残留応力を付与する
ためには、炭素含有率を0.45wt%以下に設定する必
要がある一方で、低炭素鋼の炭素含有率を0.10wt%
以下に設定すると浸炭又は浸炭窒化に要する処理時間が
長くなるため、処理効率を考慮すると炭素含有率の下限
を0.10wt%に限定するのが望ましいからである。
尚、転動体が中実形状の場合は引張応力が表面には作用
しにくいので、ずぶ焼き鋼を使用しても良い。
【0082】また、応力腐食割れを防ぐには非金属介在
物の生成を抑制して、上述した孔の形成を極力回避する
のが望ましいが、そのためには軌道輪材料の酸素、イオ
ウ及びチタンの含有率の総計を100ppm以下にする
のが好ましい。
【0083】さらに、浸炭処理又は浸炭窒化処理を施す
場合は、処理工程中において水素が鋼中に浸入するた
め、浸炭処理後又は浸炭窒化処理後に不活性ガス、真空
中、大気中でA1 変態点より30〜150℃低い温度範
囲で脱水素のための焼鈍処理を実施するのが好ましい。
【0084】
【実施例】以下、本発明の実施例を具体的に説明する。
【0085】〔第1の実施例〕本願出願人は、所定の熱
処理を施した種々の化学成分を有する軌道輪及び転動体
を作製し、円錐ころ軸受を組み立て、硬さ偏差ΔHRC
と軸受寿命Lとの関係を測定した。
【0086】表1は本発明実施例の軸受材料(軌道輪及
び転動体)における化学成分、熱処理条件(熱処理方
法、焼入温度、焼戻温度)を示しており、表2は比較例
の軸受材料(軌道輪及び転動体)における化学成分、熱
処理条件(熱処理方法、焼入温度、焼戻温度)を示して
いる。
【0087】
【表1】
【0088】
【表2】 軌道輪中、実施例10及び比較例54は外輪及び内輪が
異なる化学成分で構成され、その他の軌道輪は外輪及び
内輪が同一の化学成分で構成されている。
【0089】また、表1中、ΔNi、ΔCr、ΔMo
は、転動体に含有されるNi、Cr、Moの各含有率か
ら軌道輪に含有されるNi、Cr、Moの各含有率を減
算した含有率偏差を示している。尚、内輪と外輪とで組
成範囲の異なる実施例10及び比較例54は、Niにつ
いては高い方の含有率を使用してΔNi含有率偏差を算
出し、Cr及びMoはついては低い方の含有率を使用し
てΔCr含有率偏差及びΔMo含有率偏差を算出してい
る。
【0090】また、軌道輪の熱処理は、実施例1〜5、
10〜13、及び比較例52〜54については表面硬化
法を施した。
【0091】すなわち、これらの実施例及び比較例につ
いては、所定の成分範囲を有する軌道輪素材に対して全
浸炭深さが1.2mmになるまで所定温度下、浸炭処理を
施し、次いで室温に到達するまで放冷した後、窒素雰囲
気下、加熱温度650℃、加熱時間5時間の条件で焼鈍
処理を施した。該焼鈍処理は、主として脱水素作用を施
すためであるが、比較例53及び54のように2.5wt
%以上のNi含有率を有する軌道輪材料の場合は焼入前
の金属組織中に粗大な残留オーステナイトが残存するこ
とを防止することもできる。すなわち、Niは残留オー
ステナイトを著しく安定にする元素であるため、焼入前
の金属組織中に粗大な残留オーステナイトが残存した場
合は、焼入後に当該残存部分の硬さが低下して摩耗し易
くなるが、焼鈍処理を施することにより斯かる粗大な残
留オーステナイトの残存を防止することができる。尚、
焼鈍処理の処理効率を向上させるために浸炭処理後室温
まで放冷することなく直ちに焼鈍処理を行う等温焼鈍処
理を施してもよい。そして、上述した焼鈍処理を施した
後、加熱温度820〜860℃、加熱時間30分の条件
下で焼入処理を施し、その後加熱温度160℃、加熱時
間2時間の条件下で焼戻処理を施した。また、焼入油
は、80℃の油を使用した。
【0092】実施例6〜9及び比較例51の軌道輪につ
いては完全焼入・焼戻を施した。すなわち、加熱温度8
40℃、加熱時間30分の条件下で焼入処理を施し、そ
の後加熱温度160℃、加熱時間2時間の条件下で焼戻
処理を施した。
【0093】一方、転動体の熱処理は、実施例1〜5、
8〜13、及び比較例53については表面硬化法を施し
た。
【0094】すなわち、これらの実施例及び比較例につ
いては、所定の成分範囲を有する転動体素材に対して全
浸炭深さ又は全浸炭窒化深さが1.2mmになるまで所定
温度下、浸炭処理又は浸炭窒化処理を施し、次いで室温
に到達するまで放冷した。その後、実施例2、10及び
11のように2.5wt%以上のNi含有率を有する転動
体材料の場合は、窒素雰囲気下、加熱温度650℃、加
熱時間5時間の条件で焼鈍処理を施した後、焼入・焼戻
処理を施した。すなわち、焼入前の金属組織中に粗大な
残留オーステナイトが残存するのを防止すべく焼鈍処理
を施し、これにより焼入後の表面硬さにバラツキが生じ
るのを防止した。一方、〔発明の実施の形態〕の項で述
べたように、潤滑剤に水分が混入している場合であって
も、転動体の場合は使用中における鋼中への水素の吸収
が殆どないため、脱水素のための焼鈍処理を施す必要は
なく、Ni含有率が2.5wt%以下の転動体素材につい
ては焼鈍処理を省略して焼入・焼戻処理を施した。焼入
・焼戻処理条件は、上述した軌道輪材料と同様であり、
加熱温度800〜860℃、加熱時間30分の条件下で
焼入処理を施し、その後加熱温度160℃、加熱時間2
時間の条件下で焼戻処理を施した。
【0095】実施例6、7、比較例51、52及び54
の転動体については完全焼入・焼戻を施した。すなわ
ち、上記軌道輪材料の場合と同様、加熱温度840℃、
加熱時間30分の条件下で焼入処理を施し、その後加熱
温度160〜240℃、加熱時間2時間の条件下で焼戻
処理を施した。
【0096】次に、このようにして熱処理された軌道輪
及び転動体の表面硬さHRC(軌道面硬さ及び転動面硬
さ)を算出すると共に、内輪を回転輪、外輪を固定輪と
して回転体に組み込み、耐久寿命試験を行って寿命特性
(耐久性)を評価した。尚、保持器としては、冷間圧延
鋼材(SPCC)で形成されたプレス保持器を使用し、
各軸受(実施例1〜13及び比較例51〜54)毎に各
々10個宛を作製して耐久寿命試験を行った。
【0097】軸受仕様は以下の通りである。 〔軸受仕様〕 呼び番号 : HR32017XJ 外輪の外径D : φ130mm 内輪の内径d : φ85mm 組立幅t : 29mm 基本動定格荷重C: 143000N 表3及び表4は、上述した実施例1〜実施例13及び比
較例51〜54の表面炭素濃度、表面窒素濃度、表面残
留オーステナイトγR 濃度、表面硬さHRC及び軸受寿
命L等を示す。
【0098】
【表3】
【0099】
【表4】 表3及び表4から明らかなように、軌道輪及び転動体の
表面炭素濃度は0.57〜1.14wt%の範囲にあり、
浸炭窒化を施した場合の表面窒素濃度は0.07〜0.
11wt%であった。尚、浸炭窒化処理を施していない軌
道輪又は転動体の表面窒素濃度は0.01〜0.02wt
%であった。
【0100】表面残留オーステナイトγR 濃度は周知の
X線分析法により測定した。また、ΔγR は転動体の表
面残留オーステナイト濃度から軌道輪の表面残留オース
テナイト濃度を減算した残留オーステナイト濃度偏差で
あって、内輪と外輪とで表面残留オーステナイトγR
異なる場合は高い方の表面残留オーステナイトγR を使
用して残留オーステナイト偏差ΔγR を算出した。
【0101】また、転動体及び軌道輪の表面硬さHRC
は、ロックウェル硬さ試験機のCスケールで5回測定
し、その平均値である平均表面硬さHavを算出し、数式
(1)を使用して算出した。
【0102】HRC=Hav+ΔH …(1) ここで、ΔHは円筒面の硬さを平面に換算する硬さ補正
値であって、数式(2)で表される。
【0103】 ΔH=(14.8/rx)×(1−Hav/160)2 …(2) (但し、x=a、b、c) ここで、rxは円筒面の曲率半径(mm)であって、図2
に示すように、転動体11が外輪12と内輪13との間
に転動自在に配設されている場合において、外輪軌道面
の平均半径をr1、内輪軌道面の平均半径をr2、転動
体11の平均半径をr3、軸芯と外輪軌道面との成す角
度をα1、軸芯と内輪軌道面との成す角度をα2とする
と、外輪軌道面の曲率半径ra、内輪軌道面の曲率半径
rb、転動体11の曲率半径rcは数式(3)〜(5)
で表される。
【0104】ra=−r1/cos α1 …(3) rb=r2/cos α2 …(4) rc=r3/cos {(α1−α2)/2}…(5) すなわち、外輪の表面硬さを算出する場合は、数式
(3)で算出された曲率半径raを数式(2)に代入し
て硬さ補正値ΔHを算出し、斯く算出された硬さ補正値
ΔHを数式(1)に代入して外輪の表面硬さHRCを算
出した。同様に、内輪の表面硬さを算出する場合は、数
式(4)で算出された曲率半径rbに基づき数式(1)
(2)を使用して内輪の表面硬さHRCを算出した。ま
た、転動体の表面硬さを算出する場合は、数式(5)で
算出された曲率半径rcに基づき数式(1)(2)を使
用して転動体の表面硬さHRCを算出した。
【0105】また、硬さ偏差ΔHRCは、転動体の表面
硬さから軌道輪の表面硬さを減算して算出した。内輪と
外輪とで表面硬さが異なるときは、低い方の値を用い
て、ΔHRCを算出した。
【0106】尚、表面硬さHRCは、軌道面硬さや転動
面硬さの代わりに鏡面仕上げした垂直断面の0.1mm深
さ位置におけるビッカース表面硬さHvを測定荷重1kg
fで5回測定してその平均値を算出し、該平均値から換
算してもよいが、表面硬さの数値で重要なのは転動面硬
さと軌道面硬さの絶対値ではなく、転動面硬さと軌道面
硬さの間の相対値にあるため同一軸受での各構成部位の
硬さ測定は同一方法で行う必要がある。
【0107】次に、耐久寿命試験について説明する。
【0108】図3は本実施例に使用した耐久試験装置の
要部断面図であって、外輪12をハウジング14に組み
込むと共に、内輪13を回転軸15に嵌合し、1時間当
たり10ccの水を図3に示すように軸受内部に注入する
一方、アキシャル荷重Fs及びラジアル荷重Frを軸受
に負荷し、回転軸15を回転させながら耐久寿命試験を
行った。尚、外輪12とハウジング14とはすきまばめ
により組み込まれ、ハウジング14の内径は外輪12の
外径Dに比べて10〜15μmだけ大きく形成されてい
る。また、内輪13と回転軸15とはしばりばめにより
嵌合され、内輪13の内径dは回転軸15の軸径に比べ
て8〜15μmだけ小さく形成されている。
【0109】耐久寿命試験の試験条件は以下の通りであ
る。
【0110】〔耐久寿命試験〕 ラジアル荷重Fr :71500N アキシャル荷重Fa :15680N 回転軸の回転数n :2500rpm 潤滑種 :特性グリース(表5参照) グリース量 :60g 軸受内部に注入する水分量:10cc/hr 表5は、本耐久寿命試験に使用された潤滑剤としての特
性グリースの仕様を示したものである。すなわち、40
℃での動粘度197mm2 /sec の鉱油を基油に使用し、
リチウムセッケンを増稠剤として12%添加してグリー
スを作製した。
【0111】尚、グリースのpH値は、次の方法で測定
した。すなわち、トルエンと2−プロパノールと水とが
体積比でトルエン:2−プロパノール:水=500:4
95:5に調整された溶剤を作製し、25℃において前
記グリース0.1gを前記溶剤50mgに溶かし、pH
メータで水素イオン指数pHを測定し、該水素イオン指
数pHが7.0の特性グリースを得た。
【0112】
【表5】 耐久寿命試験は、実施例1〜13及び比較例51〜54
の各軸受を各10個宛作製して行い、最初に剥離した軸
受の運転時間を軸受寿命Lとし、軸受の定格寿命L10
比較して軸受の耐久寿命を評価した。
【0113】軸受の定格寿命L10とは、同一サイズの同
一ロットの軸受を同一条件で回転させたとき、その全数
のうちの90%の個数の軸受が転がり疲れによる剥離を
起こさないで回転させることができる総回転数に相当す
る計算時間をいい、円錐ころ軸受の場合、基本動定格荷
重C(N)、ラジアル荷重Fr(N)、回転軸15の回
転数n(rpm)から数式(6)で示されることが知ら
れている。
【0114】 L10=(C/Fr)10/3×106 /(60n)…(6) 素材鋼や加工に関する現代技術を利用して作製した軸受
は、転動体の転動面及び軌道輪の軌道面間に十分な油膜
が形成されているときは定格寿命L10以下の運転時間で
剥離することは皆無であると考えられている。
【0115】したがって、潤滑剤中に水分が混入してい
る場合の転がり軸受の耐久性評価としては少なくとも定
格寿命L10を満足する必要がある。すなわち、外部から
軸受内部に水分が混入した場合、或いは外部から軸受内
部に水分が混入しなくとも潤滑剤中の水分が大きく影響
する状況で使用される場合(例えば、低速回転時、潤滑
剤の粘度が低いとき、振動を受けるとき等転動体の転動
面と軌道輪の軌道面との間における油膜形成が不十分な
場合、回転軸と内輪が強いしばりばめで嵌合されている
ためや、ハウジングの剛性が低いために前記軌道面に常
時引張応力が作用する場合)は、定格寿命L10以下の運
転時間で剥離の発生することが多い。したがって、耐久
性評価としては剥離の発生する時間が少なくとも定格寿
命L10以上である必要がある。本実施例の場合、基本動
定格荷重C=143000N、ラジアル荷重Fr=71
500N、回転軸15の回転数n=2500rpmであ
るから、数式(6)より軸受の定格寿命L10は67時間
であり、剥離発生までの寿命時間が定格寿命L10を超え
るか否かが基準となる。
【0116】しかして、表4の比較例51〜54から明
らかなように、転動面の表面硬さ(転動面硬さ)が軌道
面の表面硬さ(軌道面硬さ)より高い場合、すなわち硬
さ偏差ΔHRCが、ΔHRC≧0の場合は、いずれも軸
受寿命Lが定格寿命L10(=67時間)以下となり(1
6〜32時間)、耐久性を確保できないのに対し、表3
の実施例1〜13は硬さ偏差ΔHRCが、ΔHRC<0
となっていずれも軸受寿命Lが定格寿命L10(=67時
間)を超えており(68〜373時間)、優れた耐久性
を有する転がり軸受を得ることができることが判る。
【0117】図4は硬さ偏差ΔHRCと軸受寿命Lとの
関係を示す特性図である。
【0118】硬さ偏差ΔHRCがΔHRC≧0のとき
は、軌道面が摩耗して該軌道面上の非金属介在物が脱落
する。そして、孔を形成して孔深さが深くなると軌道面
表面からの酸素供給が困難となり、その結果水素発生型
の腐食反応が進行して水素脆化が生じ、定格寿命L10
到達するまでに剥離による破損が生じる。
【0119】これに対して、硬さ偏差ΔHRCがΔHR
C<0の場合は硬さ偏差ΔHRCがΔHRC≦−0.1
になると軸受寿命Lは定格寿命L10を上回り、特に硬さ
偏差ΔHRCが−8.2≦ΔHRC≦−1.0のときは
軸受寿命Lは300時間を超え、極めて良好な耐久性を
得ることができる。また、硬さ偏差ΔHRCがΔHRC
<−8.2以下になると軸受寿命Lは急激に低下し、硬
さ偏差ΔHRCが「0」以上の場合と同等程度にまで低
下する。
【0120】表面残留オーステナイト濃度γR も軸受寿
命Lに影響を与える。すなわち、実施例4と実施例6と
の比較、実施例2と実施例7との比較から明らかなよう
に、硬さ偏差ΔHRCが同一の場合であっても、残留オ
ーステナイト偏差ΔγR が、ΔγR ≧0の場合は、Δγ
R <0の場合に比べて良好な軸受寿命Lを得ることがで
きるのが判る。
【0121】さらに、表1及び表2に示すΔMoの値も
軸受寿命Lに影響を与える。すなわち、実施例8と実施
例9との比較から明らかなように、硬さ偏差ΔHRCが
同一の場合であっても、ΔMo≦0の場合は、ΔMo>
0の場合に比べて良好な軸受寿命Lを得ることが判る。
【0122】図5は(ΔNi−ΔCr−ΔMo)と硬さ
偏差ΔHRCとの関係を示す特性図である。
【0123】この図5から明らかなように、(ΔNi−
ΔCr−ΔMo)が1.4≦(ΔNi−ΔCr−ΔM
o)≦4.7の範囲にあるときは、硬さ偏差ΔHRCが
確実に−10.0≦ΔHRC≦−0.1の範囲となり、
軸受寿命Lが向上する。
【0124】以上のことから潤滑剤中に水分が混入して
いる場合の潤滑条件下で長寿命を有する転がり軸受を得
るためには、少なくとも、硬さ偏差ΔHRCを0未満に
することが必要であり、硬さ偏差ΔHRCの範囲として
は、好ましくは−10.0≦ΔHRC≦−0.1である
ことが必要である。
【0125】また、これらの条件に加えて、硬さ偏差Δ
HRCが−8.2≦ΔHRC≦−1.0、オーステナイ
ト偏差ΔγR がΔγR ≧0、ΔMo≦0、1.4≦(Δ
Ni−ΔCr−ΔMo)≦4.7であることが好まし
い。
【0126】〔第2の実施例〕本願出願人は、潤滑剤中
に外部からの水分混入がなくとも潤滑剤中の水分の影響
を受ける状況下を想定し、かかる場合の硬さ偏差ΔHR
Cと軸受寿命Lとの関係を調べた。
【0127】すなわち、本願出願人は、軌道輪及び転動
体を共に高炭素クロム軸受鋼2種(SUJ2)で作製す
る一方(比較例61)、軌道輪を高炭素クロム軸受鋼2
種(SUJ2)、転動体を高炭素クロム軸受鋼3種(S
UJ3)で作製し(実施例21)、深溝玉軸受を組立て
た。
【0128】表6は、実施例21及び比較例61の鋼素
材に含有される化学成分、熱処理条件(熱処理方法、焼
入温度、焼戻温度)を示している。
【0129】
【表6】 表6中、ΔNi、ΔCr、ΔMoは、前記第1の実施例
と同様、転動体のNi、Cr、Moの含有率から軌道輪
のNi、Cr、Moの含有率を減算した含有率偏差を示
している。
【0130】また、素材鋼は、実施例21及び比較例6
1のいずれについても完全焼入・焼戻により熱処理を施
した。すなわち、加熱温度820〜840℃、加熱時間
30分の条件下で焼入処理を施し、その後加熱温度14
0〜180℃、加熱時間2時間の条件下で焼戻処理を施
した。尚、焼入油は80℃の油を使用した。
【0131】次いで、このようにして熱処理された軌道
輪及び転動体の表面硬さHRCを算出すると共に、内輪
を回転輪、外輪を固定輪として回転体に組み込み、耐久
寿命試験を行って耐久性を評価した。尚、保持器として
は、冷間圧延鋼材(SPCC)で形成されたプレス保持
器を使用し、各軸受(実施例21及び比較例61)を各
10個宛を作製し、異なる運転条件でもって耐久試験を
行った。
【0132】軸受仕様は以下の通りである。 〔軸受仕様〕 呼び番号 : 6206 外輪の外径D : φ62mm 内輪の内径d : φ30mm 組立幅t : 16mm 基本動定格荷重C: 19500N 表7は、実施例21及び比較例61の表面残留オーステ
ナイトγR 濃度、表面硬さHRC及び軸受寿命L等を示
す。
【0133】
【表7】 表7中、表面残留オーステナイトγR 濃度は、上記第1
の実施例と同様、周知のX線分析法により測定した。
【0134】また、表面硬さHRCは、鏡面仕上げした
垂直断面の0.1mm深さ位置におけるビッカース硬さH
vを測定荷重1kgf で5回測定してその平均値を算出
し、該平均値から換算して算出した。
【0135】耐久寿命試験は、上記第1の実施例と同
様、図3の耐久試験装置を使用して行い、外輪12とハ
ウジング14とはすきまばめにより、内輪13と回転軸
15とはしばりばめにより耐久試験装置に組み付けた。
ただし、回転軸およびハウジングは、6206軸受用の
ものを用いた。
【0136】耐久寿命試験は、運転条件を変えて行っ
た。すなわち、条件1は回転軸15の回転数nを一定に
して行い、条件2は回転軸15の回転数nを可変にして
行った。
【0137】耐久寿命試験の試験条件は以下の通りであ
る。
【0138】 〔耐久寿命試験〕 (1)条件1 ラジアル荷重Fr :9800N アキシャル荷重Fa:0N 回転軸の回転数n :2000rpm(一定) 潤滑方法 :強制循環給油 潤滑油 :FBK−RO46(日本石油(株)製) (2)条件2 ラジアル荷重Fr :9800N アキシャル荷重Fa:0N 回転軸の回転数n :平均1000rpm(可変) (0〜2000rpmを30秒で加速した後、直ちに 減速し、30秒後に0rpmとする。このサイクル を1サイクルとして加減速運転を行う) 潤滑方法 :強制循環給油 潤滑油 :FBK−RO46(日本石油(株)製) 尚、本第2の実施例では軸受内部の潤滑油への水分添加
は行わなかったものの潤滑油は大気中より吸湿するので
潤滑油には水分が混入すると考えられる。かかる点に鑑
み、試験後潤滑油中の水分濃度をカールフィッシャー水
分計で測定したところ、平均値で0.010wt%(10
0ppm)であった。
【0139】また、定格寿命L10は、上記数式(6)を
使用して算出することができ、条件1では定格寿命L10
は66時間、条件2では定格寿命L10は131時間であ
る。表7から明らかなように、条件2では加減速運転し
て耐久寿命試験を行っているため水分の影響を受け、硬
さ偏差ΔHRCの値が軸受寿命Lに大きく影響すること
が判る。
【0140】すなわち、条件1では軸受中に水分が添加
されておらず、水分の影響を殆ど受けない状況の下で運
転しているため、実施例21及び比較例61共、同等の
耐久性を得ることができ、定格寿命L10(=66時間)
の3倍の時間が経過しても軸受に剥離が生じない。
【0141】しかしながら、水分の影響を受ける条件2
の使用条件下では、比較例61は転動体の転動面硬さの
方が軌道輪の軌道面硬さに比べて高いので軌道面の摩耗
に起因した剥離が発生し、定格寿命L10(=131時
間)以下の軸受寿命Lしか得られない。
【0142】これに対して、実施例21は転動体の転動
面硬さの方が軌道輪の軌道面硬さに比べて低いので定格
寿命L10(=131時間)の3倍の時間が経過しても剥
離が生じず、優れた耐久特性を得ることができる。
【0143】このように、転動面硬さが軌道面硬さより
も高いときは0.010wt%程度の極微量の水分が潤滑
油中に含まれている場合であっても水分の影響を受けて
軸受の短寿命化を招来するのに対して、転動面硬さが軌
道面硬さよりも低いときは水分の影響を受けず、軸受の
耐久性向上を図ることができることが判った。
【0144】
【発明の効果】以上詳述したように本発明に係る転がり
軸受は、外輪と内輪とからなる軌道輪と、前記外輪と前
記内輪との間に転動自在に配設された転動体とを備えた
転がり軸受において、前記転動体の転動面における表面
硬さが、前記軌道輪の軌道面における表面硬さよりも低
く設定されているので、潤滑剤に水分が混入した場合で
あっても軸受の早期剥離を回避して転がり軸受の耐久性
向上を図ることができる。すなわち、本発明の場合、転
動体の転動面が摩耗することとなるが、転動体の自転速
度は軌道輪の自転速度よりも遙に速いため、非金属介在
物の脱落により転動面に孔が形成されても該孔の内部に
は水が滞留しにくく、したがって水素発生型の腐食反応
が抑制され、水素脆化が生じるのを回避することがで
き、軸受寿命の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】軌道輪の摩耗により孔が形成される状態を説明
するための説明図である。
【図2】軌道輪及び転動体と曲率半径の関係を説明する
ための図である。
【図3】耐久試験装置の要部断面図である。
【図4】硬さ偏差ΔHRCと軸受寿命Lとの関係を示す
特性図である。
【図5】(ΔNi−ΔCr−ΔMo)と硬さ偏差ΔHR
Cとの関係を示す特性図である。
【符号の説明】
11 転動体 12 外輪 13 内輪

Claims (1)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 外輪と内輪とからなる軌道輪と、前記外
    輪と前記内輪との間に転動自在に配設された転動体とを
    備えた転がり軸受において、 前記転動体の転動面における表面硬さが、前記軌道輪の
    軌道面における表面硬さよりも低く設定されていること
    を特徴とする転がり軸受。
JP18889997A 1997-07-01 1997-07-01 転がり軸受 Pending JPH1122733A (ja)

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Cited By (4)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP2008260993A (ja) * 2007-04-11 2008-10-30 Nsk Ltd 転がり軸受構成部材の製造方法および転がり軸受
JP2008266683A (ja) * 2007-04-17 2008-11-06 Nsk Ltd 転がり軸受構成部材の製造方法および転がり軸受
JP2014012870A (ja) * 2012-07-04 2014-01-23 Daido Steel Co Ltd 水素脆性型の面疲労強度に優れた浸炭窒化部品
JP2019183982A (ja) * 2018-04-11 2019-10-24 Ntn株式会社 転動装置、転がり軸受および転動装置の製造方法

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