以下、図面を参照して、本実施の形態について説明する。
(実施の形態1)
まず図1および図2を用いて、本実施の形態の転動装置の一例としての転がり軸受の構成について説明する。なおここでは、転がり軸受の一例として円錐ころ軸受および円筒ころ軸受について説明するが、円錐ころ軸受および円筒ころ軸受以外の種類の転がり軸受についても以下と同様に本実施の形態を適用可能である。
図1を参照して、本実施の形態の円錐ころ軸受2は、環状の外輪20と、中心線Cに関して外輪20の内側に配置された環状の内輪21と、外輪20と内輪21との間に配置された転動体としての複数のころ22と、外輪20、内輪21および複数のころ22を保持する円環状の保持器23とを有している。
外輪20は、複数のころ22の外側において複数のころ22に接触するように配置されている。外輪20は、中心線Cに関する内側に形成される内周面に、外輪軌道面20Aを有している。内輪21は、複数のころ22の内側において複数のころ22に接触するように配置されている。内輪21は、中心線Cに関する外側に形成される外周面に、内輪軌道面21Aを有している。外輪軌道面20Aと内輪軌道面21Aとが互いに対向するように、外輪20と内輪21とが配置されている。
複数のころ22は、その表面にころ転動面22Aを有している。言い換えれば複数のころ22のそれぞれはその表面全体がころ転動面22Aである。複数のころ22は外輪軌道面20Aと内輪軌道面21Aとの間で転動するように構成されている。複数のころ22はころ転動面22Aにおいて、外輪軌道面20Aおよび内輪軌道面21Aに接触し、かつ保持器23により周方向にある間隔のピッチを有するように複数並んで配置される。これにより複数のころ22のそれぞれは、外輪20および内輪21の円環状の軌道上に転動自在に保持されている。
保持器23は合成樹脂からなっている。また、円錐ころ軸受2は、外輪転走面20Aを含む円錐、内輪転走面21Aを含む円錐、およびころ22が転動した場合の回転軸の軌跡を含む円錐のそれぞれの頂点が軸受の中心線上の1点で交わるように構成されている。以上の構成により、円錐ころ軸受2の外輪20および内輪21は、互いに相対的に回転可能となっている。
図2を参照して、本実施の形態の円筒ころ軸受3は、環状の外輪30と、中心線Cに関して外輪30の内側に配置された環状の内輪31と、外輪30と内輪31との間に配置された転動体としての複数のころ32と、外輪30、内輪31および複数のころ32を保持する円環状の保持器33とを有している。
外輪30は、複数のころ32の外側において複数のころ32に接触するように配置されている。外輪30は、中心線Cに関する内側に形成される内周面に、外輪軌道面30Aを有している。内輪31は、複数のころ32の内側において複数のころ32に接触するように配置されている。内輪31は、中心線Cに関する外側に形成される外周面に、内輪軌道面31Aを有している。外輪軌道面30Aと内輪軌道面31Aとが互いに対向するように、外輪30と内輪31とが配置されている。
複数のころ32は、円筒形状を有しており、その表面にころ転動面32Aを有している。言い換えれば複数のころ32のそれぞれはその表面全体がころ転動面32Aである。複数のころ32は外輪軌道面30Aと内輪軌道面31Aとの間で転動するように構成されている。複数のころ32はころ転動面32Aにおいて、外輪軌道面30Aおよび内輪軌道面31Aに接触し、かつ保持器33により周方向にある間隔のピッチを有するように複数並んで配置される。これにより複数のころ32のそれぞれは、外輪30および内輪31の円環状の軌道上に転動自在に保持されている。
保持器33は合成樹脂からなっている。以上の構成により、円筒ころ軸受3の外輪30および内輪31は、互いに相対的に回転可能となっている。
図1における外輪20および内輪21に挟まれる空間、より具体的には外輪軌道面20Aおよび内輪軌道面21Aに挟まれる空間である軌道空間には、図示しないグリース組成物が封入されている。このグリース組成物により外輪20および内輪21の各々ところ22との間に油膜が形成されている。また外輪20と複数のころ22のそれぞれとの間の領域、および内輪21と複数のころ22のそれぞれとの間の領域における油膜パラメータΛの値が1.2以下となっている。なお詳細な説明を省略するが、図2においても上記図1と同様に、外輪軌道面30Aおよび内輪軌道面31Aに挟まれる空間である軌道空間にはグリース組成物が封入されている。
次に円錐ころ軸受2を構成する転動部品としての外輪20、内輪21およびころ22について説明する。第1の転動部品としての外輪20および内輪21のそれぞれに第2の転動部品としてのころ22が接触している。外輪20、内輪21はいずれも高炭素クロム軸受鋼であり、JIS規格SUJ3からなっている。ころ22も高炭素クロム軸受鋼であるが、JIS規格SUJ2からなっている。なお円筒ころ軸受3を構成する外輪30、内輪31およびころ32についても上記と同様である。
第1の転動部品の転動部は第2の転動部品に接触する部分であり、第2の転動部品の転動部は第1の転動部品に接触する部分である。本実施の形態においては、たとえば図1の外輪20の転動部は外輪軌道面20Aを含む領域であって、外輪20の転動部の表面が外輪軌道面20Aを構成している。また内輪21の転動部は内輪軌道面21Aを含む領域であって、内輪21の転動部の表面が内輪軌道面21Aを構成している。ころ22の転動部はころ転動面22Aを含む領域であって、ころ22の転動部の表面がころ転動面22Aを構成している。
本実施の形態においては、外輪軌道面20Aおよび内輪軌道面21Aのロックウェル硬度はころ転動面22Aのロックウェル硬度よりも低いことが好ましい。具体的には、外輪軌道面20Aおよび内輪軌道面21Aのロックウェル硬度は、ころ転動面22Aのロックウェル硬度よりも1.0HRC以上低いことが好ましい。
また本実施の形態においては、外輪軌道面20A、内輪軌道面21Aおよびころ転動面22AのJIS B 0601−2001に規格される算術平均粗さ(Ra)は0.50μm以下にされており、0.20μm以下にされていることが更に好ましい。
なお詳細な説明を省略するが、以上のロックウェル硬度および算術平均粗さの特徴は、図2の外輪30の外輪軌道面30A、内輪31の内輪軌道面31Aおよびころ32のころ転動面32Aに対しても同様に成り立つ。
次に図3および図4を用いて、以上の外輪20、内輪21およびころ22のそれぞれの加工方法について説明する。なお詳細説明を省略するが、外輪30、内輪31およびころ32の加工方法についても基本的に同様である。
図3を参照して、JIS規格SUJ3からなる第1の転動部品としての外輪20および内輪21が準備される(S01)。またJIS規格SUJ2からなる第2の転動部品としてのころ22が準備される(S02)。
図4(A)を参照して、第1の転動部品としての外輪20および内輪21については、材料であるJIS規格SUJ3が焼入れ処理(S11)された後に焼戻し処理(S12)される。このとき、外輪軌道面20Aおよび内輪軌道面21Aのロックウェル硬度は、ころ転動面22Aのロックウェル硬度よりも低くなるように加工される。
その後、外輪軌道面20Aおよび内輪軌道面21Aの加工がなされる(S13)。
具体的には、外輪軌道面20Aおよび内輪軌道面21Aのロックウェル硬度は、ころ転動面22Aのロックウェル硬度よりも1.0HRC以上低くなるように加工されることが好ましい。外輪軌道面20A、内輪軌道面21Aおよびころ転動面22Aの算術平均粗さは0.50μm以下となるように加工され、0.20μm以下になるように加工されることが更に好ましい。
図4(B)を参照して、第2の転動部品としてのころ22については、材料であるJIS規格SUJ2が焼入れ処理(S21)された後に焼戻し処理(S22)される。その後ころ22のころ転動面22Aの算術平均粗さが0.50μm以下となるように加工され、0.20μm以下になるように加工されることが更に好ましい(S23)。
以上の工程(S13)および工程(S23)における各軌道面の加工は、回転砥石を用いた研削または研磨加工により仕上げられている。特に第1の転動部品としての外輪軌道面20A、内輪軌道面21Aに対して超仕上げ加工、バレル研磨加工、およびバニシング加工のような表面粗さを改善する加工はいずれもなされなくてもよい。たとえば外輪軌道面20Aおよび内輪軌道面21Aが、その形状および寸法による制約のために、表面粗さを小さくする超仕上げ加工などを行なうことが困難である場合においても、第1の転動部品と第2の転動部品の鋼種および硬度の組み合わせを上記の組合せとすればよい。また、当然これらの表面粗さを改善する加工が行われてもよいが、これらの加工によって外輪軌道面20A、内輪軌道面21Aの表面粗さが十分に改善できず、結果的に算術平均粗さが0.20〜0.50μm程度になっていたとしてもよい。
このようにすれば、外輪軌道面20Aおよび内輪軌道面21Aの突起の先端曲率をなじみによって小さくすることができる。このためころ転動面22Aに、ピーリングなどの転動疲労による損傷が発生する可能性を低減することができ、当該損傷による転動装置の寿命の低下を抑制することができる。
次に、本実施の形態の作用効果について説明する。
本実施の形態の円錐ころ軸受2は、外輪20および内輪21はJIS規格SUJ3を材料としており、一方で転動する相手となるころ22はJIS規格SUJ2を材料としている。また、外輪20の転動部の表面としての外輪軌道面20Aおよび内輪21の転動部の表面としての内輪軌道面21Aのロックウェル硬度が、ころ22の転動部の表面としてのころ転動面22Aのロックウェル硬度よりも1.0HRC以上低くなっている。
具体的な材料と硬度を上記の組み合わせとすることにより、たとえば外輪20および内輪21の材料がころ22と同じJIS規格SUJ2である場合と比べて、外輪軌道面20Aおよび内輪軌道面21Aに多数存在する表面粗さの微小な突起部がなじみやすくなる。また、外輪20および内輪21の各々の転動部の表面のロックウェル硬度をころ転動面22Aの硬度よりも低くすることにより、外輪軌道面20Aおよび内輪軌道面21Aに存在する微小な突起部をさらになじみやすくすることができる。
上記2つの作用により、円錐ころ軸受2の運転開始から短時間経過後において、外輪軌道面20Aおよび内輪軌道面21Aがころ転動面22Aと接触することにより、外輪軌道面20Aおよび内輪軌道面21Aに存在する表面粗さの突起部を摩耗または塑性変形させる。これにより、外輪軌道面20Aおよび内輪軌道面21Aに存在する突起のなじみが促進され、当該突起の先端曲率が小さくされる。これにより、外輪軌道面20Aおよび内輪軌道面21Aの微小な突起と、この突起に接触するころ転動面22Aの平坦面または微小な突起若しくは凹部との局所的な接触面圧が低下する。このため、たとえば外輪軌道面20Aおよび内輪軌道面21Aの微小な突起の接触に起因するころ転動面22Aの損傷の発生を抑制することができる。したがって、たとえばころ転動面22Aなどの表面に微小な凹部をランダムに形成したり、さらにそこへ固体潤滑剤を被覆したりするなどの方法を用いなくても、ころ転動面22Aの損傷による円錐ころ軸受2の寿命の低下を抑制することができる。よって、円錐ころ軸受2の長寿命を実現することができる。
本実施の形態の円錐ころ軸受2において、外輪軌道面20A、内輪軌道面21Aおよびころ転動面22Aの算術平均粗さ(Ra)はそれぞれ0.50μm以下である。これより算術平均粗さが大きい場合には、外輪軌道面20Aおよび内輪軌道面21Aの突起のなじみによって、外輪軌道面20A、内輪軌道面21Aおよびころ転動面22Aの表面損傷を防止する効果が薄れる。
本実施の形態の円錐ころ軸受2においては、外輪20および内輪21は第1の転動部品であり、複数のころ22は第2の転動部品である。外輪20および内輪21のそれぞれと複数のころ22との間の潤滑状態が良好でないために油膜形成性が良好でない条件で円錐ころ転がり軸受2が使用されても、外輪軌道面20Aと内輪軌道面21Aの微小な突起と複数のころ22の突起との接触による複数のころ22の転動部の表面損傷を抑制することができる。これにより、円錐ころ軸受2の長寿命を実現することができる。
さらに本実施の形態の円錐ころ軸受2においては、外輪20と複数のころ22のそれぞれとの間の領域、および内輪21と複数のころ22のそれぞれとの間の領域における油膜パラメータΛの値が1.2以下である。したがって、ころ転動面22Aに表面起点型の剥離が起きるために円錐ころ軸受2の寿命が低下しやすい条件において、外輪軌道面20Aおよび内輪軌道面21Aの微小な突起との接触によるころ転動面22Aの損傷を抑制することができる。これにより、効果的に円錐ころ軸受2の長寿命を実現することができる。
本実施の形態の円錐ころ軸受2の製造方法においては、第1の転動部品としての外輪20および内輪21の外輪軌道面20Aおよび内輪軌道面21Aのロックウェル硬度は、第2の転動部品としてのころ22のころ転動面22Aのロックウェル硬度よりも1.0HRC以上低くなるように加工される。これにより、上記のように円錐ころ軸受2の長寿命を実現することができる。
本実施の形態の円錐ころ軸受2の製造方法においては、外輪軌道面20A、内輪軌道面21Aおよびころ転動面22Aの算術平均粗さ(Ra)はそれぞれ0.50μm以下になるように外輪20、内輪21およびころ22の各々が加工される。これより算術平均粗さが大きい場合には、外輪軌道面20Aおよび内輪軌道面21Aの突起のなじみによって、外輪軌道面20A、内輪軌道面21Aおよびころ転動面22Aの表面損傷を防止する効果が薄れる。
以上の手法によりころ転動面22Aの損傷が抑制されるため、本実施の形態においては、外輪軌道面20A、内輪軌道面21Aは回転砥石を用いた研削または研磨加工により仕上げられている。したがって、外輪軌道面20A、内輪軌道面21Aに超仕上げ加工、バレル研磨加工、およびバニシング加工のいずれもなされる必要がなくなる。つまりこれらの加工を行なわなくても、なじみの作用によって外輪軌道面20A、内輪軌道面21Aの表面粗さの突起の先端曲率を小さくすることができる。これにより、円錐ころ軸受2の長寿命を実現することができる。また、円錐ころ軸受2の加工工程を簡略化させることができるため、そのコストを低減させることができる。
(実施の形態2)
本発明の実施の形態2の円錐ころ軸受2は、基本的に実施の形態1の円錐ころ軸受2と同一の図面を用いて同様に説明可能であるため詳細な説明を省略する。ただし本実施の形態の円錐ころ軸受2は、ころ22が第1の転動部品として、外輪20および内輪21が第2の転動部品として、それぞれ配置されている。この点において本実施の形態の円錐ころ軸受2は、実施の形態1の円錐ころ軸受2と異なっている。
したがって、本実施の形態においては、ころ22はJIS規格SUJ3を材料としており、外輪20および内輪21はJIS規格SUJ2を材料としている。また、ころ転動面22Aのロックウェル硬度は、外輪軌道面20Aおよび内輪軌道面21Aのロックウェル硬度よりも1.0HRC以上低くなっている。
なお円筒ころ軸受3についても、円錐ころ軸受2と同様に、ころ32を第1の転動部品、外輪30および内輪31を第2の転動部品として適用させることができる。なおこれらの円錐ころ軸受2および円筒ころ軸受3の製造方法は、第1および第2の転動部品が実施の形態1とは互いに逆になっているものの、基本的に実施の形態1と同様であるため詳細な説明を省略する。
本実施の形態においても、基本的に実施の形態1と同様に、第2の転動部品である外輪軌道面20Aおよび内輪軌道面21Aへの損傷を抑制する効果を高めることができる。
以下、本発明の実施例について説明する。6種類の試験片を用いて6種類の二円筒型転動疲労試験を行った。以下、図5〜図7を用いてこの試験の内容および結果について説明する。
図5を参照して、耐ピーリング性能評価試験に用いられた二円筒試験機4を説明する。二円筒試験機4は、駆動側回転軸D1と、従動側回転軸F1とを備えている。
駆動側回転軸D1は、図5の左右方向に延びる部材であり、図5における左側の末端部にモータMが接続されている。このモータMにより駆動側回転軸D1は、図5の左右方向に延びる中心軸C1の周りに回転可能となるように構成されている。図5における駆動側回転軸D1の右側の先端部には駆動側試験片D2が取り付けられている。駆動側試験片D2は、上記の各実施の形態における第1の転動部品に相当する部材であり、駆動側回転軸D1の回転に伴い中心軸C1の周りに回転可能となるように、駆動側回転軸D1の右側の先端部に固定されている。
一方、従動側回転軸F1は、図5の左右方向に延びる部材であり、図5の左右方向に延びる中心軸C2の周りに回転可能となるように構成されている。図5において従動側回転軸F1は、駆動側回転軸D1とは逆に、左側が先端部に、右側が末端部になっている。図5における従動側回転軸F1の左側の先端部には従動側試験片F2が取り付けられている。従動側試験片F2は、上記の各実施の形態における第2の転動部品に相当する部材であり、従動側回転軸F1の回転に伴い中心軸C2の周りに回転可能となるように、従動側回転軸F1の左側の先端部に固定されている。
駆動側回転軸D1の先端部は図5の右側を向いており、従動側回転軸F1の先端部は図5の左側を向いている。しかし駆動側回転軸D1の中心軸C1と従動側回転軸F1の中心軸C2とは軸方向に一致しておらず、駆動側回転軸D1の中心軸C1と従動側回転軸F1の中心軸C2とは図5の上下方向に間隔を有している。このため駆動側回転軸D1の先端部に固定された駆動側試験片D2と、従動側回転軸F1の先端部に固定された従動側試験片F2とは、駆動側回転軸D1および従動側回転軸F1のそれぞれの外径面同士が、これらの回転していない状態において外径面接触部DFにて互いに接触するように配置されている。なお互いに接触するように配置される駆動側試験片D2および従動側試験片F2は、これらの下に敷いている、給油用フェルトパッド5と接触している。
以上のように設置された駆動側試験片D2および従動側試験片F2の各々の形状、寸法および外径面の表面粗さを表1に示す。
表1に示すように、駆動側試験片D2および従動側試験片F2は、これらがセットされた駆動側回転軸D1または従動側回転軸F1をその先端側から平面視したときに円形を有する円筒形状である。その外径の直径は、各比較例および各実施例のいずれにおいても同一の40mmであり、その内径の直径は各比較例および各実施例のいずれも20mmである。以下同様に、各比較例および各実施例のいずれも軸方向の寸法に相当する幅が12mmである。また、駆動側試験片D2には外径面に軸方向の副曲率R60mmが設けられており、従動側試験片F2には副曲率はない。駆動側試験片D2および従動側試験片F2の外径面の軸方向の算術平均粗さ(Ra)は、それぞれ0.20μm、0.02μmに仕上げられている。この際、駆動側試験片D2の外径面は回転砥石を用いて周方向に加工目がつくように研削加工することで仕上げられた。また、従動側試験片F2の外径面にも、同様に周方向に加工目がつくように研削加工が行われ、研削加工後にさらに超仕上げ加工が施されている。
以上の駆動側試験片D2および従動側試験片F2を用いて実施された二円筒試験の駆動条件を表2に示す。
二円筒試験機4には潤滑油として無添加ポリ−α−オレフィン油(VG6相当)が用いられた。この潤滑油は給油用フェルトパッド5内に含浸されており、そこから駆動側試験片D2および従動側試験片F2の外径面に塗布供給された。また試験条件として、従動側試験片F2に加えられる荷重W(図5参照)の値は230kgfとされた。ここで荷重Wとは、駆動側回転軸D1の回転時に従動側回転軸F1が図5の矢印に示す方向すなわち駆動側回転軸D1に近づく方向に従動側試験片F2に対して加える荷重を意味する。駆動側回転軸D1がモータMにより中心軸C1周りに回転するのに伴い、従動側回転軸F1が中心軸C2周りに、駆動側回転軸D1とは互いに逆方向に回転した。これは駆動側試験片D2と従動側試験片F2とが互いに接触しているためである。以上の駆動条件と表1に示した試験片の形状、寸法および表面粗さとすることで、駆動側試験片D2の転動部の表面に存在する微小な凸部が従動側試験片F2の転動部の表面に接触を起こし、従動側試験片F2の転動部の表面に転動疲労が発生しやすい条件となる。
また、試験は断続運転条件とし、試験開始から2分経過までは駆動側回転軸D1の回転数は500min−1とし、2分が経過した時点、つまり駆動側試験片D2および従動側試験片F2に加わる負荷回数が1000回に達した時点で一度試験を中断した。その後、試験を再開し、駆動側回転軸D1の回転数を2000min−1で2分間の運転を行った。最終的に、駆動側試験片D2および従動側試験片F2に加わる総負荷回数が5000回に達した時点で試験が終了された。本試験後に、駆動側試験片D2の転動部の表面粗さと従動側試験片F2の転動部表層に発生した疲労の程度を評価することで、各評価品の駆動側試験片の転動部の微小な凸部のなじみが、従動側試験片F2の転動部表層の疲労進行に及ぼす影響を評価できるようになっている。
次に6種類の試験のそれぞれに用いられた駆動側試験片D2および従動側試験片F2の材料および端面のロックウェル硬度について表3を用いて説明する。ここで6種類の試験とは、本実施の形態の規格外の試験である各比較例、および本実施の形態に基づく試験である各実施例を意味する。
まず表3を用いて、6種類の試験のそれぞれに用いられた駆動側試験片D2の材料および端面のロックウェル硬度について説明する。
比較例1、比較例2、比較例4の駆動側試験片D2の材料はJIS規格SUJ2とした。そして実施例1、比較例3、実施例2の駆動側試験片D2の材料はJIS規格SUJ3とした。これらの駆動側試験片D2には、いずれも一般的な焼入れ処理がされた後に焼戻し処理がなされているが、焼戻しの条件はそれぞれで異なり、結果的にその幅面のロックウェル硬度は表3に示される値にされている。ここで、焼戻しの条件は全部で3種類とし各焼戻し条件の詳細は省略するが、比較例1と実施例1、比較例2と比較例3、比較例4と実施例2はそれぞれ同じ焼戻し条件で処理されている。
次に表3を用いて、6種類の試験のそれぞれに用いられた従動側試験片F2の材料および端面のロックウェル硬度について説明する。
上記6種類の試験のそれぞれに用いられた従動側試験片F2材料は全てJIS規格SUJ2であり、これらにはいずれも一般的な焼入れ処理がされた後に、駆動側試験片D2のうち比較例1と実施例1の試験に用いられたものと同じ焼戻し条件(表3中の条件1)で焼戻し処理が施された。この結果、上記6種類の試験のそれぞれに用いられた従動側試験片F2の幅面のロックウェル硬度は全て63.4±0.1HRCで同等となるようにされた。
以上の各試験片を用いた各比較例および各実施例について、試験後の第2の転動部品に相当する従動側試験片F2の転動部の表面に形成された残留応力の値をそれぞれ図6に示す。ここで、残留応力はX線回折分析によって測定した。また、X線回折分析の際、異なる3方向からX線入射を行い、それぞれの入射に対して得られた回折情報をもとにして従動側試験片F2の転動部の表面に形成された残留応力をvon Misesの相当応力の形で算出した。一般的に転動部材の表層部には転動中に転動部の直下に様々な方向を持つ垂直応力およびせん断応力が同時に発生する。von Misesの相当応力はこのように同時に作用する多軸応力を単一応力に変換するための考えであり、多軸応力が作用する材料の塑性変形および疲労の挙動を検討する際に有効と考えられている。加えて、転動によって材料に残留応力が形成ということは、転動によって材料に塑性変形が発生したことを意味しており、形成される残留応力の大きさに差がある場合、残留応力値が大きい方がより塑性変形が進行していたと考えられる。これらの考えから、本実施例での作用の評価にはvon Misesの相当応力の形で各試験に用いた従動側試験片F2の転動部の表面に試験後に形成された残留応力を比較することで、疲労の進行の違いを間接的に評価することにした。また、図6に示した各試験での試験後の従動側試験片F2の残留応力は、各試験に用いた従動側試験片F2の外径面の転動跡周内の中からランダムに抽出された5か所分について測定した結果の平均値を示している。このように5か所分測定することで、各試験における残留応力の形成状態の違いが有意なものであるかを検定できるようにした。
図6の結果を参照して、まず比較例1と実施例1の試験結果を比較すると、実施例1の方が試験後の従動側試験片F2の表面の残留応力値が小さかった。また、有意差検定によってこの残留応力の差は99%優位なものであると判定された。これら2種の試験に用いた試験片材質の違いは、駆動側試験片D2の材料と硬度であり、実施例1ではJIS−SUJ3を用いており、さらに端面のロックウェル硬度が小さい。次に、比較例2と比較例3の試験結果を比較すると、比較例3の試験後の駆動側試験片D2の残留応力値が小さく、この差も99%優位であった。これらの2種の試験片材質の違いについても比較例3のみ駆動側試験片D2の材料がJIS−SUJ3であり、端面のロックウェル硬度は比較例2よりも小さい。さらに、比較例4と実施例2の試験結果を比較すると、実施例2の試験後の駆動側試験片D2の残留応力値が小さく、やはりこの差は99%優位であった。これらの2種の試験片材質の違いは、実施例2のみ駆動側試験片D2の材料がJIS−SUJ3であるが、端面のロックウェル硬度は比較例4よりも大きい。上記3つの試験結果の比較から、駆動側試験片D2の材料をSUJ3とすることで、その相手面である従動側試験片F2に形成される残留応力値が小さくなることがわかり、これは相手面の疲労の進行を遅延できることを示している。ここで、比較例1と実施例1、および比較例2と比較例3の比較結果から、駆動側試験片D2の硬度が低くなるほど相手面の残留応力の形成も小さくなることが考えられる。しかしながら、比較例4と実施例2の比較では、実施例2の方が駆動側試験片D2の硬度が高いにもかかわらず、相手面の残留応力の形成は小さいことから、相手面の残留応力の形成に及ぼす影響は、駆動側試験片D2の材料変更によるものが主体であると判断できる。
また、実施例1、実施例2および比較例3では駆動側試験片D2の材料をSUJ3としているが、実施例1および実施例2に比べて比較例3では残留応力が大きくなっている。比較例3では、駆動側試験片D2のロックウェル硬度が従動側試験片F2のロックウェル硬度よりも大きくなっている。これに対して、実施例1および実施例2では、駆動側試験片D2のロックウェル硬度が従動側試験片F2のロックウェル硬度よりも小さくなっている。したがって、駆動側試験片D2の材料がSUJ3の場合に、駆動側試験片D2のロックウェル硬度が従動側試験片F2のロックウェル硬度よりも小さくなることで、残留応力が小さくなると判断できる。さらに、実施例1および実施例2では、残留応力が大幅に小さくなっている。実施例1および実施例2では、駆動側試験片D2のロックウェル硬度が従動側試験片F2のロックウェル硬度よりも1.0HRC以上低くなっている。これにより、駆動側試験片D2の材料がSUJ3の場合に、駆動側試験片D2のロックウェル硬度が従動側試験片F2のロックウェル硬度よりも1.0HRC以上低くなることで、残留応力が大幅に小さくなると判断できる。
続いて、図6の結果を参照にして、比較例1と比較例2と比較例4の3種類の試験結果を比較すると、試験後の従動側試験片F2の表面の残留応力は比較例2>比較例1>比較例4となっており、これらの残留応力値の差は99%優位と判断された。これらの3種類の試験間での試験片材質の違いは駆動側試験片D2の硬度であり、比較例2>比較例1>比較例4の順に硬度が大きくなっている。また、実施例1と比較例3と実施例2の3種類の試験結果を比較すると、試験後の従動側試験片F2の表面の残留応力は比較例3>実施例1>実施例2となっており、やはりこれらの差は99%優位であった。これらの3種類の試験間での試験片材質の違いも駆動側試験片D2の硬度であり、比較例3>実施例1>実施例2の順に硬度が大きくなっている。上記2つの試験結果の比較から、駆動側試験片D2の材料が同じ場合でも、そのロックウェル硬度が小さくなるほど相手面である従動側試験片F2の疲労の進行を抑制できることがわかる。
次に6種類の試験に用いたそれぞれの駆動側試験片D2について、試験後に転動部に存在する微小な表面粗さの凸部の突起先端曲率を測定した結果を図7に示す。ここで突起先端曲率は、各駆動側試験片D2の転動部の表面形状をレーザー顕微鏡で測定した後に、三谷商事株式会社製の表面粗さ解析ソフト「Surftop eye」を用いて算出した。そして、一方向にトレースした表面形状プロファイルから算出される線粗さではなく二次元的にトレースした表面形状をもとに算出される面粗さパラメータとして突起先端曲率を算出した。
図7の結果を参照して、比較例1と実施例1、比較例2と比較例3および比較例4と実施例2のそれぞれの組合せについて駆動側試験片D2の試験後の表面粗さの突起先端曲率値を比較すると、比較例1>実施例1,比較例2>比較例3,比較例4>実施例2となっており、これらの3つの試験結果の比較は全て95%以上の有意差があると判定された。そしてこれらの3つの試験結果の比較すべてにおいて、駆動側試験片D2の材料がJIS規格SUJ3を用いている場合の方が試験後の駆動側試験片D2の転動部の突起先端曲率が小さくなっていた。これは駆動側試験片D2の材料にJIS規格SUJ3を用いる事で、突起先端のなじみを促進できることを表す。
次に、図7の結果を参照して、比較例1と比較例2と比較例4の3種類の試験後の突起先端曲率を比較すると、その値は比較例2>比較例1>比較例4の順となった。また、実施例1と比較例3と実施例2の3種類の試験後の突起先端曲率の比較では、その値は比較例3>実施例1>実施例2の順となった。上記の2つの試験結果の比較から、駆動側試験片D2の材料が同じ場合でも、そのロックウェル硬度が小さいほど、試験後の突起先端曲率をなじみによって小さくできることが示された。
上記の結果から、従動側試験片F2の材料のロックウェル硬度が同じである場合、駆動側試験片D2の材料をSUJ2ではなくSUJ3にすることで、駆動側試験片D2の転動部の表面粗さの突起先端曲率がなじみの促進によって小さくでき、相手面である従動側試験片F2の疲労の進行を抑制できると言える。さらに、駆動側試験片D2の材料がSUJ2またはSUJ3のどちらの場合でも、焼戻し条件を変更することでそのロックウェル硬度を相手面である従動側試験片F2より小さくすれば、駆動側試験片D2の転動部の表面粗さの突起先端曲率がなじみの促進によって小さくでき、相手面である従動側試験片F2の疲労の進行を抑制できると言える。このとき、駆動側試験片D2の硬度が低い程よりなじみが促進され、相手面の疲労進行の抑制効果は大きい。
今回開示された各実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることを意図される。