JP2019215016A - 転がり軸受 - Google Patents

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直哉 長谷川
良典 杉崎
Yoshinori Sugisaki
良典 杉崎
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Abstract

【課題】転動部の形状や寸法の自由度が大きく、かつ環境負荷が低く製造コストの増大を抑制可能であって、突起接触起因の転動疲労損傷と水素脆性起因の早期はく離の両方を防止することが可能な転がり軸受を提供する。【解決手段】風力発電装置に用いられる転がり軸受1であって、外輪11と内輪12と複数の転動体13とを備える。外輪11は内周面に外輪軌道面11Aを有する。内輪12は外周面に内輪軌道面12Aを有する。複数の転動体13は、外輪軌道面11Aおよび内輪軌道面12Aと接触する転動面13Aを有し、外輪軌道面11Aと内輪軌道面12Aとの間で転動する。外輪軌道面11A、内輪軌道面12Aおよび転動面13Aのうち少なくとも1つにモリブデン酸化物およびモリブデン酸塩を主成分とする複合被膜11B、12Bが形成されている。【選択図】図2

Description

本発明は、転がり軸受に関し、特に、風力発電装置に用いられる転がり軸受に関するものである。
転がり軸受は、転動体の転動面での油膜形成が不十分になる環境下(以下、希薄潤滑条件と称する)で使用されると、たとえば外輪軌道面または内輪軌道面の表面粗さにおける突起と転動面の表面粗さにおける突起とが接触する。当該突起の接触部では摩擦係数の上昇と応力集中が起こる。このため、転動面の応力状態が過酷化し、早期の転動疲労損傷(以下、突起接触起因の転動疲労損傷と称する)が発生する場合がある。
転がり軸受の潤滑状態の指標としては、転動面に形成される油膜厚さと、対向する2面(転動面と当該転動面に面する外輪軌道面または内輪軌道面)の二乗平均平方根粗さの二乗和の平方根との比で表される油膜パラメータΛがよく用いられる。論文「ころ軸受の疲れ寿命に及ぼす潤滑の影響」(非特許文献1)では、油膜パラメータΛが約1.2以下となる条件では、転がり軸受の寿命は潤滑状態を考慮しない場合の推定計算寿命より短くなることが記載されている。つまり、希薄潤滑条件下での転がり軸受の転動疲労損傷に対する対策としては、転動面の油膜パラメータΛを大きくすることが有効と考えられる。
油膜パラメータΛを大きくさせる方法としては、転動面と外輪軌道面または内輪軌道面との対向部(以下、転動部と称する)の油膜形成能力を向上させる方法と、転動部の表面粗さを改善する方法とがある。転動部の油膜形成能力を向上させる方法として最も一般的なものとして、潤滑油粘度の向上が挙げられる。だが、近年の省エネルギー化に伴って潤滑油はむしろ低粘度化が進められている。その他の油膜形成能力を向上させる方法として、特許第2997074号公報(特許文献1)には、針状ころ軸受の転動体の転動面または軌道輪の軌道面に特定の表面粗さパラメータの規格を達成するように微小なくぼみを形成することで、転動部での油膜形成能力を向上させる方法が記載されている。
後者の転動部の表面粗さを改善する方法として、たとえば、超仕上げ加工、バレル研磨加工またはバニシング加工などによって転動面や軌道面の表面粗さを小さくする方法が一般的である。しかし、処理部材である転動体などの形状や寸法によっては十分に転動面などの表面粗さを小さくできない場合がある。
この他、特開2016−196958号公報(特許文献2)には、軸受の使用により転動部の表面粗さにおける突起部の形状が滑らかになる現象(以下、突起のなじみと称する)を促進することによって、希薄潤滑条件下での転動面の表面損傷を抑制する転動装置が記載されている。一般的に、2面の接触においては表面粗さの突起先端の曲率半径が大きくなるほど、突起接触部の局所面圧が低下し、接触状態は改善される。突起接触部の接触状態の改善は、転動面表層の疲労進行の低減に繋がる。この結果、突起接触起因の転動疲労損傷を抑制することができる。特開2016−196958号公報(特許文献2)には、転動部の表面粗さの突起のなじみを促進するための方法として黒染処理が記載されている。
一方、転動部でのすべりを伴う条件下で転がり軸受が使用されると、潤滑材に混入した水や潤滑剤自身の分解によって水素が発生する。この水素が転動面内に侵入する事による水素脆性起因の早期はく離が発生することもある。そして、希薄潤滑条件下のように、転動面で突起接触が起きて摩耗による金属新生面の露出がある場合は、活性化された新生面の触媒作用により水や潤滑剤の分解による水素の発生が促進される。この結果、転動体を構成する鋼中への水素侵入も起きやすくなる。このような水素脆性起因の早期はく離への対策としては、摩耗の防止と水素の発生・侵入の防止という2つの方法が考えられる。
摩耗を防止する方法としては、前述の転動面の油膜パラメータΛを大きくする方法が同じく効果的である。一方、水素の発生・侵入を防止する方法として、例えば特開2005−112901号公報(特許文献3)では、転がり軸受の潤滑剤にモリブデン酸塩を主成分とする添加剤を含有させる方法が開示されている。この方法によれば、運転中に発生した新生面にモリブデン酸塩を主成分とする添加剤の反応膜が形成でき、新生面の触媒作用による水素の発生を防止できるとされている。
上記の突起接触起因の転動疲労損傷と水素脆性起因の早期はく離とのそれぞれの発生頻度は、転動面でのすべりによる摩耗の有無とその程度に依存して決まると考えられる。そのため、軸受の使用用途に応じてどちらか発生しやすい損傷モードに合わせた対策技術を適用することが望ましい。
しかし、特に風力発電装置の増速機などに用いられる転がり軸受では、上記の両方のモードでの損傷が発生しやすいため、当該両方のモードでの損傷を防止できる対策技術が望まれる。突起接触起因の転動疲労損傷と水素脆性起因の早期はく離との両方を防止する方法として、例えば特開2009-250371号公報(特許文献4)では、転がり軸受の軌道輪の鋼材中の合金元素量を詳細に規定し、かつ軌道輪に浸炭窒化処理を施して、さらに浸炭窒化処理後のC+N量や残留オーステナイト量を規定することで、水素脆性起因のはく離およびピーリングと呼ばれる突起接触起因の転動疲労損傷の両方を抑制できる方法が示されている。
特許第2997074号公報 特開2016−196958号公報 特開2005−112901号公報 特開2009−250371号公報
高田浩年、鈴木進、前田悦生、「ころ軸受の疲れ寿命に及ぼす潤滑の影響」、NSK Bearing Journal No.642、p.7−13
特許第2997074号公報(特許文献1)に記載された方法では、転動部での突起接触の頻度を低下できるため、突起接触起因の転動疲労損傷だけでなく、摩耗の低減による水素脆性起因の早期はく離の防止にも一定の効果が期待できる。しかし、当該方法は特殊なバレル研磨によって転動面または軌道面に微小なくぼみを形成させるため、バレル研磨時に処理部材同士の接触により打ち傷が発生する可能性がある。また、転動面または軌道面の形状によってはバレル研磨で微小なくぼみを形成できない場合も考えられ、部品の形状の自由度が制限される。
特開2016−196958号公報(特許文献2)に記載された方法によっても、摩耗の低減による水素脆性起因の早期はく離の防止に一定の効果が期待できる。しかし、黒染処理には水酸化ナトリウムを主成分とする処理液が用いられる。この処理液は毒劇物に該当するため、黒染処理は環境負荷が高い。
特開2005−112901号公報(特許文献3)に記載された方法は、水素脆性起因の早期はく離対策であって、突起接触起因の転動疲労損傷に対応することができない。
特開2009−250371号公報(特許文献4)の方法では、上述した2つのモードの損傷を同時に防止するために鋼材中の合金元素量を特殊な数値範囲に規定しているため、当該鋼材を入手することが難しく製造コストが増大する恐れがある。
本発明はこれらの課題を解決するために発明されたものであり、その目的は、転動部の形状や寸法の自由度が大きく、かつ環境負荷が低く製造コストの増大を抑制可能であって、風力発電装置用の転がり軸受に発生し得る、突起接触起因の転動疲労損傷と水素脆性起因の早期はく離の両方を防止することが可能な転がり軸受を提供することである。
本開示に従った転がり軸受は、風力発電装置に用いられる転がり軸受であって、外輪と内輪と複数の転動体とを備える。外輪は内周面に外輪軌道面を有する。内輪は外周面に内輪軌道面を有する。複数の転動体は、外輪軌道面および内輪軌道面と接触する転動面を有し、外輪軌道面と内輪軌道面との間で転動する。外輪軌道面、内輪軌道面および転動面のうち少なくとも1つにモリブデン酸化物およびモリブデン酸塩を主成分とする複合被膜が形成されている。
上記によれば、上記の複合被膜を形成することによって、風力発電装置用の転がり軸受に発生し得る、突起接触起因の転動疲労損傷や水素脆性起因の早期はく離による寿命低下を防止することができる。以下に、それぞれの損傷モードに対する本開示に従った転がり軸受の作用を詳細に説明する。
突起接触起因の転動疲労損傷に対する作用:
本開示に従った転がり軸受について、例えば転動体の転動面に化成処理によって形成されたモリブデン酸化物およびモリブデン酸塩を主成分とする複合被膜を有する場合、転動体の転動面の突起のなじみは当該複合被膜を有しない場合よりも促進される。この場合、突起先端の曲率半径が大きくなるように当該突起は変形する。一般的に二面の接触において、表面粗さの突起先端の曲率半径が大きいほど、接触状態の改善の程度が大きくなる。このため、突起接触起因の転動疲労損傷による転がり軸受の寿命低下を抑制することができる。
水素脆性起因の早期はく離に対する作用:
本開示に従った転がり軸受では、内輪、外輪、転動体のうち少なくとも1つの部品の内輪軌道面、外輪軌道面または転動面に上述した複合被膜を有する事で、複合被膜を有しない場合よりも内輪軌道面、外輪軌道面または転動面への水素の侵入を抑制できる。また、内輪軌道面、外輪軌道面または転動面に上記複合被膜が残存しているうちは、こられの面において摩耗により鋼の新生面が露出しない。そのため、当該新生面の触媒作用による水素の発生および当該水素の鋼材への侵入を抑制できる。この結果、水素脆性起因の早期はく離による寿命低下を防止することができる。
さらに、上記複合被膜が摩耗によって消失した場合でも、潤滑油中に摩耗粉としてモリブデン酸化物やモリブデン酸塩が混入し得る。この場合、上述した特開2005−112901号公報(特許文献3)に開示された方法と同様に、運転中に発生した新生面にモリブデン酸塩などに起因する反応膜が形成される。この結果、新生面の触媒作用による水素の発生・侵入を抑制する効果が期待できる。なお、このような副次的な作用は、軸受の潤滑方法が循環給油方式の場合およびグリース潤滑方式である場合に特に顕著である。
また、上述したモリブデン酸化物およびモリブデン酸塩を主成分とする複合被膜の形成方法としては、任意の方法を用いることができるが、たとえば化成処理を用いることができる。当該化成処理の処理剤は、モリブデン酸成分と水性媒体とを含有する処理剤である。具体的には、上記の処理剤の中に被処理物(内輪、外輪、および転動体)を浸漬することで被処理物表面に上記の複合被膜が形成される。このような化成処理は、被処理物の形状や寸法によらず適用可能であり、被処理物としての内輪や外輪などの形状や寸法の自由度を大きくすることができる。
さらに、上記の処理剤を用いた化成処理は、毒劇物に該当する成分を含有しないため、処理作業者の安全性および処理剤の環境負荷性能という点において、黒染処理よりも優位であり、環境対策に要する費用も低減できるため、処理コストを削減できる。この結果、転がり軸受の製造コストの増大を抑制できる。
上記転がり軸受において、外輪と複数の転動体のそれぞれとの間の領域、および内輪と複数の転動体のそれぞれとの間の領域における油膜パラメータの値が1.2以下である。この場合、油膜パラメータΛが1.2以下の条件であることにより、本来であれば寿命低下が起こりやすい条件において、外輪軌道面および内輪軌道面の微小な突起と転動体の突起との接触による転動部の表面の損傷を抑制する効果を発揮することができる。したがって、突起のなじみによる転がり軸受の長寿命を実現することができる。
上記転がり軸受は、外輪と複数の転動体のそれぞれとの間、および内輪と複数の転動体のそれぞれとの間に相対的なすべりが発生する条件で用いられる。上述のように、相対的なすべりが発生する条件で転がり軸受が用いられた場合、水素脆性起因の早期はく離の発生確率が高くなる。このような条件で用いられる転がり軸受として、本開示に従った転がり軸受を適用すれば、上述の水素脆性起因の早期はく離による寿命低下を防止するという効果が特に顕著となる。
上記転がり軸受は、転動体の周囲に、循環給油方式により潤滑油が供給された状態で用いられる。この場合、上記複合被膜が摩耗によって消失した場合でも、潤滑油中に摩耗粉としてモリブデン酸化物やモリブデン酸塩が混入する。そのため、運転中に発生した新生面にモリブデン酸塩などに起因する反応膜が形成される。この結果、新生面の触媒作用による水素の発生・侵入を抑制する効果が期待できる。
上記転がり軸受は、転動体の周囲に、グリースが供給された状態で用いられる。この場合、上記複合被膜が摩耗によって消失した場合でも、グリース中に摩耗粉としてモリブデン酸化物やモリブデン酸塩が混入する。そのため、運転中に発生した新生面にモリブデン酸塩などに起因する反応膜が形成される。この結果、新生面の触媒作用による水素の発生・侵入を抑制する効果が期待できる。
転動部の形状や寸法の自由度を大きくでき、かつ環境負荷が低く製造コストの増大を抑制可能であって、風力発電装置用の転がり軸受に発生し得る、突起接触起因の転動疲労損傷と水素脆性起因の早期はく離の両方を防止することが可能な転がり軸受を提供できる。
本発明の実施の形態1における深溝玉軸受の構成を示す概略断面図である。 図1のP部の構成を示す拡大図である。 本発明の実施の形態2における図2に対応する深溝玉軸受の構成を示す概略拡大断面図である。 本発明の実施の形態3における風力発電装置の構成を示す概略図である。 図4に示した風力発電装置の増速機の概略断面図である。 本発明の実施の形態4における深溝玉軸受の構成を示す概略断面図である。 実施例における二円筒試験機の構成を示す概略図である。 S/S0と負荷回数との関係を示すグラフである。 比較例および実施例の突起先端の曲率半径の平均値を示すグラフである。
以下、本発明の実施の形態について図に基づいて説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付しその説明は繰返さない。
(実施の形態1)
まず、本発明の実施の形態の転動装置の一例としての転がり軸受の構成について説明する。当該転がり軸受は風力発電装置に用いられ、たとえば風力発電装置の増速機に適用される。また、本実施の形態では、転がり軸受の一例として深溝玉軸受について説明する。
図1を参照して、本実施の形態の深溝玉軸受1は、環状の外輪11と、外輪11の内側に配置された環状の内輪12と、外輪11と内輪12との間に配置され、円環状の保持器14に保持された転動体としての複数の玉13とを備えている。外輪11は内周面に外輪軌道面11Aを有している。内輪12は外周面に内輪軌道面12Aを有している。つまり、外輪11の内周面には外輪軌道面11Aが形成されており、内輪12の外周面には内輪軌道面12Aが形成されている。そして、外輪軌道面11Aと内輪軌道面12Aとが互いに対向するように、外輪11と内輪12とは配置されている。
さらに、複数の玉13は外輪軌道面11Aと内輪軌道面12Aとの間で転動するように構成されている。複数の玉13は、外輪軌道面11Aおよび内輪軌道面12Aに玉転動面13Aにおいて接触し、かつ保持器14により周方向に所定のピッチで配置されることにより、円環状の軌道上に転動自在に保持されている。また、玉13においては、その表面全体が玉転動面13Aである。以上の構成により、深溝玉軸受1の外輪11および内輪12は、互いに相対的に回転可能となっている。
外輪11および内輪12に挟まれる空間、より具体的には外輪軌道面11Aおよび内輪軌道面12Aに挟まれる空間である軌道空間には、図示しないグリース組成物が封入されている。このグリース組成物により外輪11および内輪12の各々と玉13との間に油膜が形成されている。
図2を参照して、深溝玉軸受1を構成する転動部品としての外輪11、内輪12および玉13について説明する。第1の転動部材としての外輪11および内輪12の各々に第2の転動部材としての玉13は接触している。外輪11、内輪12および玉13のいずれもJIS規格のJIS G 4805:2008に規定されている高炭素クロム軸受鋼からなっている。外輪11、内輪12および玉13の各々は焼入れ処理された後に焼き戻し処理されている。
外輪11および内輪12の転動部の表面は焼き戻し処理された後に化成処理されている。化成処理によって、外輪11および内輪12の転動部の表面にモリブデン酸化物およびモリブデン酸塩を主成分とする複合被膜が形成されている。モリブデン酸化物およびモリブデン酸塩を主成分とする複合被膜11B、12Bは、外輪11および内輪12の転動部の表面の少なくとも一部に形成されている。モリブデン酸化物およびモリブデン酸塩を主成分とする複合被膜11B、12Bは、外輪11および内輪12の転動部の表面の全てに形成されていることが好ましい。
外輪11の転動部は外輪軌道面11Aを含む領域であって、外輪11の転動部の表面が外輪軌道面11Aを構成している。そして、外輪11の転動部の表面に複合被膜11Bが形成されている。内輪12の転動部は内輪軌道面12Aを含む領域であって、内輪12の転動部の表面が内輪軌道面12Aを構成している。そして、内輪12の転動部の表面に複合被膜12Bが形成されている。玉13の転動部は玉転動面13Aを含む領域であって、玉13の転動部の表面が玉転動面13Aを構成している。
外輪11および内輪12の転動部の表面の各々の算術平均粗さRaは、たとえば0.20μm以下である。外輪11および内輪12の転動部の表面は、回転砥石を用いた研削または研磨加工により仕上げられている。玉13の転動部の表面は、回転砥石を用いた研削または研磨加工により仕上げられている。
外輪11と玉13のそれぞれとの間の領域、および内輪12と玉13のそれぞれとの間の領域における油膜パラメータΛの値が1.2以下となっている。油膜パラメータΛは、油膜厚さと表面粗さとの比である。
続いて、モリブデン酸化物およびモリブデン酸塩を主成分とする複合被膜の形成について説明する。
これらの処理剤を用いたモリブデン酸化物およびモリブデン酸塩を主成分とする複合被膜の形成方法は、化成処理によって行われ、具体的には上記の処理剤の中に被処理物を浸漬することで被処理剤表面に上記の複合被膜が形成される。
上記の処理剤は、毒劇物に該当する成分およびりんを含有しないため、処理作業者の安全性および処理剤の環境負荷性能は、黒染処理およびリン酸塩処理よりも優位である。
次に、本実施の形態の作用効果について説明する。
本実施の形態の深溝玉軸受1によれば、外輪11および内輪12の各々の転動部の表面にモリブデン酸化物およびモリブデン酸塩を主成分とする複合被膜11B,12Bが形成されている。このため、風力発電装置用に用いられる深溝玉軸受1における突起接触起因の転動疲労損傷および水素脆性起因の早期はく離による寿命低下を防止することができる。以下、具体的に説明する。
突起接触起因の転動疲労損傷に関して、上述した複合被膜11B、12Bが形成されているため、外輪11および内輪12の転動部の表面に存在する表面粗さの突起部は、玉13の転動部の表面と接触することにより摩擦および塑性変形によってその形状が滑らかになり、その突起先端の曲率半径が大きくなるように変形する。これにより、外輪11および内輪12の転動部の表面の微小な粗さ突起と、この粗さ突起に接触する玉13の転動部の表面との局所面圧が低下する。つまり、突起干渉部の局所面圧が低下する。このため、接触状態が改善される。突起干渉部での接触状態の改善は転動部材の表層の疲労進行および摩耗量の低減に繋がるため、外輪11および内輪12の転動部の突起先端半径をなじみによって大きくすることで、表面粗さの突起干渉による外輪11、内輪12および玉13の転動部の突起接触起因の転動疲労損傷を抑制することができる。
また、水素脆性起因の早期はく離に関して、上述した複合被膜11B、12Bが形成されているため、複合被膜11B,12Bを有しない場合よりも内輪軌道面12Aおよび外輪軌道面11Aへの水素の侵入を抑制できる。また、外輪軌道面11Aおよび内輪軌道面12Aに上記複合被膜11B、12Bが残存しているうちは、こられの面において摩耗により鋼の新生面が露出しない。そのため、当該新生面の触媒作用による水素の発生および当該水素の鋼材への侵入を抑制できる。この結果、水素脆性起因の早期はく離による寿命低下を防止することができる。このように、本実施の形態の深溝玉軸受1は、突起接触起因の転動疲労損傷および水素脆性起因の早期はく離という2つのモードでの損傷の発生を抑制できるので、当該2つのモードでの損傷が発生しやすい風力発電装置の増速機に特に有利に適用される。
さらに、上記複合被膜11B、12Bが摩耗によって消失した場合でも、グリース中に摩耗粉としてモリブデン酸化物やモリブデン酸塩が混入し得る。この場合、運転中に発生した新生面にモリブデン酸塩などに起因する反応膜が形成される。この結果、新生面の触媒作用による水素の発生・侵入を抑制する効果が期待できる。
このようにして、外輪11、内輪12および玉13の転動部の表面損傷による深溝玉軸受1の寿命低下を抑制することができる。したがって、深溝玉軸受1の長寿命を実現することができる。さらに、外輪11、内輪12の転動部の表面にモリブデン酸化物およびモリブデン酸塩を主成分とする複合被膜が形成されている。したがって、たとえば環境負荷が高い黒染処理またはリン酸塩被膜を形成する処理よりも環境負荷を低くすることができる。
また、上記複合被膜11B、12Bは、処理剤の中に被処理物としての外輪11および内輪12を浸漬する化成処理により形成される。このような化成処理は、外輪11および内輪12の形状や寸法によらず適用可能であり、外輪11や内輪12などの形状や寸法の自由度を大きくすることができる。
なお、本実施の形態の深溝玉軸受1では、玉13の転動部の表面にモリブデン酸化物およびモリブデン酸塩を主成分とする複合被膜が形成されていてもよい。この場合、玉13の転動部の表面に存在する突起の先端の曲率半径も外輪11、内輪12の転動部の表面と接触することにより大きくなるように変形する。このためこれらの部品の接触部の接触の過酷度をさらに低下することができる。つまり、接触状態の過酷の程度をさらに低下することができる。したがって、外輪11、内輪12および玉13の転動部の突起接触起因の転動疲労損傷および水素脆性起因の早期はく離による寿命低下を防止できる。
また、本実施の形態の深溝玉軸受1によれば、外輪11、内輪12の表面および玉13の転動部の各々の表面の算術平均粗さは、0.20μm以下であることが望ましい。一般的に、算術平均粗さが低いほうが、転動部の表面の突起の曲率半径が大きくなる傾向がある。この結果、算術平均粗さを低くしておくことで二面の接触状態が弾性的になるため、二面の疲労進行、摩耗などの損傷を防止できる可能性が高まる。これら二面の表面粗さの設計値は、外輪11、内輪12および玉13の表面の加工時の種々の制約(生産コストや加工可否の制約等)を鑑みて、可能な限りで小さくしておけばよい。
また、本実施の形態の深溝玉軸受1によれば、玉13の転動部の表面は、回転砥石を用いた研削または研磨加工により仕上げられている。言い換えれば、玉13の転動部の表面には、超仕上げ加工、バレル研磨加工、およびバニシング加工のいずれもなされなくてもよい。つまりこれらの加工を行なわなくても、なじみの作用によって玉13の転動部の表面粗さの突起先端の曲率半径を大きくすることができる。これにより、深溝玉軸受1の長寿命を実現することができる。
また、本実施の形態の深溝玉軸受1によれば、外輪11、内輪12の転動部の表面は、回転砥石を用いた研削または研磨加工により仕上げられている。言い換えれば、外輪11、内輪12の転動部の表面には、超仕上げ加工、バレル研磨加工、およびバニシング加工のいずれもなされなくてもよい。つまりこれらの加工を行なわなくても、なじみの作用によって外輪11、内輪12の転動部の表面粗さの突起先端の曲率半径を大きくすることができる。これにより、深溝玉軸受1の長寿命を実現することができる。
また、本実施の形態の深溝玉軸受1によれば、モリブデン酸化物およびモリブデン酸塩を主成分とする複合被膜11B,12Bの形成は、上述のように化成処理によってなされることが望ましい。化成処理を用いることで、モリブデン酸化物およびモリブデン酸塩を主成分とする複合被膜をコーティング、塗布等の方法で形成させた場合よりも、転動中のなじみを安定して発生させることができる。
また、本実施の形態の深溝玉軸受1によれば、外輪11および内輪12の各々と玉13との間の潤滑状態が悪いために油膜形成性が悪い条件で深溝玉軸受1が使用されても、外輪軌道面11Aおよび内輪軌道面12Aの微小な粗さ突起との接触による玉13の転動部の表面損傷を抑制することができる。これにより、深溝玉軸受1の長寿命を実現することができる。
また、本実施の形態の深溝玉軸受1によれば、外輪11と複数の玉13のそれぞれとの間の領域、および内輪12と複数の玉13のそれぞれとの間の領域における油膜パラメータΛの値が1.2以下である。上述のとおり突起のなじみという現象は、転動部品の油膜形成性が良好でない油膜パラメータΛが1.2以下の条件において特に進行しやすい。また油膜パラメータΛが1.2以下の条件においては、外輪11、内輪12の突起による接触によって玉13の表面損傷による寿命低下が起こりやすい。したがって、玉転動面13Aに表面起点型の剥離が起きるために深溝玉軸受1の寿命が低下しやすい条件において、外輪軌道面11Aおよび内輪軌道面12Aの微小な突起との接触による玉転動面13Aの損傷を抑制することができる。これにより、効果的に深溝玉軸受1の長寿命を実現することができる。
また、本実施の形態の深溝玉軸受1は、外輪11と複数の転動体としての玉13のそれぞれとの間、および内輪12と複数の玉13のそれぞれとの間に相対的なすべりが発生する条件で用いられる。このような水素脆性起因の早期はく離の発生確率が高い条件で用いられる転がり軸受として、本開示に従った深溝玉軸受1を適用すれば、上述の水素脆性起因の早期はく離による寿命低下を防止するという効果が特に顕著となる。
なお、上記の深溝玉軸受1において、外輪11、内輪12、および玉13などの転動部品のうち優先的に転動部に表面損傷が発生する部品が分かっている場合で、かつ、これらの部品の転動部が同じ加工方法で仕上げられ、算術平均粗さRaが同程度である場合は、転動部の表面に損傷が優先的に発生する部品に接触する相手側の部品(他の部品)に複合被膜を形成することが望ましい。このようにすれば、複合被膜が形成された相手側の部品の転動部の表面粗さの突起部のなじみによりその突起先端の曲率半径が大きくなることで、部品の転動部の表面損傷を抑制することができる。
また、上記の深溝玉軸受1において、外輪11、内輪12、および玉13などの転動部品のうち互いに接触する2つの転動部品の転動部の表面粗さパラメータ(例えば、算術平均粗さ、突起先端の曲率半径など)に有意な差がある場合は、転動部の表面粗さの大きい方の転動部品に複合被膜を形成することが望ましい。このようにすれば、複合被膜が形成された転動部品の転動部の表面粗さの突起部のなじみによりその突起先端の曲率半径が大きくなることで、互いに接触する転動部品の両方の転動部の表面損傷のリスクを軽減することができる。
(実施の形態2)
次に、本発明の実施の形態2について説明する。なお、特に言及しない限り、本実施形態の深溝玉軸受1は上記の本実施の形態1における深溝玉軸受1と同一の構成を備えているため、その説明を繰り返さない。
図3を参照して、本発明の実施の形態2の深溝玉軸受1は、玉転動面13Aにモリブデン酸化物およびモリブデン酸塩を主成分とする複合被膜13Bが形成される一方、外輪11および内輪12には複合被膜は形成されていない。この点において、本実施の形態の深溝玉軸受1は、実施の形態1の深溝玉軸受1と異なっている。
本実施の形態の深溝玉軸受1によれば、風力発電装置のたとえば増速機に当該深溝玉軸受1が適用され、外輪11および内輪12の各々と玉13との間の潤滑状態が悪いために油膜形成性が悪い条件で深溝玉軸受1が使用されても、玉転動面13Aの微小な粗さ突起との接触による外輪軌道面11Aおよび内輪軌道面12Aの損傷および水素脆性起因の早期はく離の発生を抑制することができる。これにより、深溝玉軸受1の長寿命を実現することができる。
(実施の形態3)
図4は、本発明の実施の形態の転がり軸受を適用した風力発電装置100の構成を概略図である。図5は、図4に示した風力発電装置の増速機の概略断面図である。図4および図5を参照して、本実施の形態の風力発電装置100および当該風力発電装置100に搭載される増速機140の構成を説明する。
図4に示されるように、風力発電装置100は、主軸110と、主軸軸受120と、ブレード130と、増速機140と、発電機150とを備える。主軸軸受120、増速機140、および発電機150は、ナセル160に格納される。ナセル160は、タワー170によって支持される。
主軸110は、ナセル160内において増速機140の入力軸に接続される。主軸110は、主軸軸受120によって回転自在に支持される。主軸110は、風力を受けたブレード130により発生する回転トルクを増速機140の入力軸へ伝達する。ブレード130は、主軸110の先端に設けられ、風力を回転トルクに変換して主軸110に伝達する。
主軸軸受120は、転がり軸受を含んで構成される。主軸軸受120は、たとえば、自動調芯ころ軸受、円すいころ軸受、円筒ころ軸受、および玉軸受などを含む。これらの軸受は、単列のものでも複列のものでもよい。上述した風力発電装置に適用される転がり軸受として、本発明の実施の形態の転がり軸受を適用することができる。
増速機140は、主軸110と発電機150との間に設けられ、主軸110の回転速度を増速して発電機150へ出力する。一例として、増速機140は、図5に示すように遊星歯車や中間出力軸等を含む歯車増速機構によって構成される。この増速機140内に、複数の軸を回転自在に支持する複数の転がり軸受が設けられている。なお、増速機140の具体的な構成については後述する。
発電機150は、増速機140の出力軸に接続され、増速機140から受ける回転トルクによって回転し発電する。発電機150は、たとえば、誘導発電機を含んで構成される。なお、この発電機150内にも、ロータを回転自在に支持する転がり軸受が設けられている。
図5に示すように、増速機140は、入力軸1401と出力軸1402との間に、一次増速機となる遊星歯車機構1403と、2次増速機1404とを設けたものである。遊星歯車機構1403は、入力軸1401と一体のキャリア1405に遊星歯車1406を設置し、遊星歯車1406を内歯のリングギヤ1407と、太陽歯車1408に噛み合わせ、太陽歯車1408と一体の軸を中間出力軸1409とするものである。2次増速機1404は、中間出力軸1409の回転を出力軸1402に複数の歯車1411〜1414を介して伝達する歯車列からなる。上記遊星歯車1406や、この遊星歯車1406を支持する軸受1415、リングギヤ1407、2次増速機1404の歯車1411となる各転動部品が、ハウジング1430内の潤滑油貯留槽1430aの潤滑油1431内に浸漬される。潤滑油貯留槽1430aは、ポンプおよび配管からなる循環給油手段(図示せず)によって循環させられる。なお、循環給油手段は必ずしも設けなくても良く、油浴潤滑形式としても良い。
上記軸受1415では、内輪、外輪および転動体の少なくともいずれかの表面にモリブデン酸化物およびモリブデン酸塩を主成分とする複合被膜が形成されている。すなわち軸受1415は本発明の実施の形態に係る転がり軸受である。
次に、本実施の形態の作用効果について説明する。
このような本発明の実施の形態に係る軸受1415が適用された増速機140では、上述した実施の形態1および実施の形態2で説明したように、当該増速機140での使用において発生し得る、突起接触起因の転動疲労損傷や水素脆性起因の早期はく離による軸受1415の寿命低下を防止することができる。このため、当該増速機140および風力発電装置の信頼性を高めることができる。
また、軸受1415は、転動体の周囲に、循環給油方式により潤滑油1431が供給された状態で用いられる。この場合、上記複合被膜が摩耗によって消失した場合でも、潤滑油中に摩耗粉としてモリブデン酸化物やモリブデン酸塩が混入する。そのため、運転中に発生した新生面にモリブデン酸塩などに起因する反応膜が形成される。この結果、軸受1415での新生面の触媒作用による水素の発生・侵入を抑制する効果が得られる。
(実施の形態4)
本実施形態に係る転がり軸受の構成を図6に基づいて説明する。図6では、転がり軸受の一例である深溝玉軸受1の概略断面図が示されている。図6に示した深溝玉軸受1は、基本的には図1および図2に示した深溝玉軸受1と同様の構成を備えるが、外輪11、内輪12、玉13の全てに、モリブデン酸化物およびモリブデン酸塩を主成分とする複合被膜11B、12B,13Bが形成されている点、グリース7を封入するためのシール部材6を備える点が、図1および図2に示した深溝玉軸受1と異なっている。シール部材6により、内輪12および外輪11の間における軸方向両端開口部がシールされる。このシール部材6によりシールされた軸受空間にグリース7が封入されている。玉13の周囲に封入されるグリース7としては、転がり軸受用の公知のグリースを使用できる。
次に、本実施形態に係る深溝玉軸受1の作用効果について説明する。
図6に示した深溝玉軸受1では、図1および図2に示した深溝玉軸受1と同様の効果を得られる。さらに、シール部材6により軸受空間にグリース7が封入されているので、複合被膜11B,12B,13Bが摩耗によって消失した場合でも、グリース7中に摩耗粉としてモリブデン酸化物やモリブデン酸塩が混入する。そのため、運転中に発生した新生面にモリブデン酸塩などに起因する反応膜が形成される。この結果、新生面の触媒作用による水素の発生・侵入を抑制する効果が得られる。
以上に述べた各実施の形態の構成による作用効果を調べるため、二円筒試験機を用いた転動疲労性能の評価試験が行なわれた。
図7を参照して、転動疲労性能の評価試験に用いられた二円筒試験機200について説明する。図7は二円筒試験機200の概略図を示している。二円筒試験機200は、駆動側回転軸D1と、従動側回転軸F1とを有している。
駆動側回転軸D1は、図7の左右方向に延びる部材であり、図7における左側の末端部にモータMが接続されている。このモータMにより駆動側回転軸D1は、図7の左右方向に延びる中心軸C1に対して回転可能となるように構成されている。図7における駆動側回転軸D1の右側の先端部には駆動側試験片D2が取り付けられている。駆動側試験片D2は、第1の転動部品に相当する部材であり、駆動側回転軸D1の回転に伴い中心軸C1の周りに回転可能となるように、駆動側回転軸D1の右側の先端部に固定されている。
一方、従動側回転軸F1は、図7の左右方向に延びる部材であり、図7の左右方向に延びる中心軸C2の周りに回転可能となるように構成されている。図7において従動側回転軸F1は、駆動側回転軸D1とは逆に、左側が先端部に、右側が末端部になっている。図7における従動側回転軸F1の左側の先端部には従動側試験片F2が取り付けられている。従動側試験片F2は、第2の転動部品に相当する部材であり、従動側回転軸F1の回転に伴い中心軸C2の周りに回転可能となるように、従動側回転軸F1の左側の先端部に固定されている。
駆動側回転軸D1の先端部は図7の右側を、従動側回転軸F1の先端部は図7の左側を向いている。しかし駆動側回転軸D1の中心軸C1と従動側回転軸F1の中心軸C2とは軸方向に一致しておらず、駆動側回転軸D1の中心軸C1と従動側回転軸F1の中心軸C2とは図7の上下方向に間隔を有している。このため駆動側回転軸D1の先端部に固定された駆動側試験片D2と、従動側回転軸F1の先端部に固定された従動側試験片F2とは、駆動側回転軸D1および従動側回転軸F1のそれぞれの外径面同士が、これらの回転していない状態において外径面接触部DFにて互いに接触するように配置されている。なお互いに接触するように配置される駆動側試験片D2および従動側試験片F2は、これらの下に敷いている、給油用フェルトパッド203と接触している。
以上のように設置された二円筒試験機200の設備の駆動条件を表1に示す。
表1に示すように、二円筒試験機200には潤滑油として無添加ポリ−α−オレフィン油(VG6相当)が用いられた。この潤滑油は給油用フェルトパッド203内に含浸されており、そこから駆動側試験片D2および従動側試験片F2の外径面に供給された。また試験条件として、駆動側回転軸D1の中心軸C1周りの回転数は2000rpmとし、従動側試験片F2に加えられる荷重W(図7参照)の値は230kgfとされた。ここで荷重Wとは、駆動側回転軸D1の回転時に従動側回転軸F1が図7の矢印に示す方向すなわち駆動側回転軸D1に近づく方向に従動側試験片F2に対して加える荷重を意味する。駆動側回転軸D1がモータMにより中心軸C1周りに回転するのに伴い、従動側回転軸F1が中心軸C2周りに、駆動側回転軸D1とは互いに逆方向に回転した。これは駆動側試験片D2と従動側試験片F2とが互いに接触しているためである。
以上の条件は、従動側試験片F2の転動部の表面に疲労の進行が起きやすい条件である。
試験の途中、一定の負荷回数で試験を中断して後述の各種分析を行った。最終的に従動側試験片F2に加わる総負荷回数が50万回に達した時点で試験が終了された。
試験は計2回行い、それぞれの試験において材質の異なる駆動側試験片D2が用いられた。
2回の試験に用いられた駆動側試験片D2および従動側試験片F2のそれぞれの形状、寸法および材質について表2および表3に示す。ここで2種類の試験とは、本実施の形態の規格外の試験である比較例と実施例を意味する。
駆動側試験片D2について、比較例と実施例とはJIS−SUJ3製である。また、これら全ての駆動側試験片D2は、一般的な焼入れ、焼戻しの方法によって端面のロックウェル硬度が62.3〜62.4HRCになるようにした。
試験に用いた全ての従動側試験片F2はJIS−SUJ2製であり、一般的な焼入れ、焼戻しの方法によって端面のロックウェル硬度が63.3〜63.5HRCになるようにした。
全ての駆動側試験片D2は、上記の熱処理後に駆動側試験片D2の平面視における円形の外径面の軸方向に関する算術平均粗さRaの値が0.20μmとなるように研磨加工を行った。
全ての従動側試験片F2は、上記の熱処理後に駆動側試験片D2の平面視における円形の外径面の軸方向に関する算術平均粗さRaの値が0.015μmとなるように超仕上げ加工を行った。
実施例においては、駆動側試験片D2の外径面の焼入れ処理および焼戻し処理の後に研磨加工を施し、その後さらにモリブデン酸化物およびモリブデン酸塩を主成分とする複合被膜を付与するための化成処理を行なった。以後、この化成処理をモリブデン酸処理と称する。これに対し、比較例の駆動側試験片D2には、モリブデン酸処理は行っていない。また、従動側試験片F2に関しては比較例および実施例ともにモリブデン酸処理は行っていない。
実施例におけるモリブデン酸処理の具体的な工程は、脱脂・洗浄後にモリブデン酸塩を主成分とする溶液中に駆動側試験片D2を浸漬させた。
以上の各試験片を用いた比較例および実施例のそれぞれについて、従動側試験片F2の転動部の表層の試験中の疲労の進行を、X線応力測定装置を用いて調査した。
ここで、X線応力測定装置にはパルステック工業株式会社製のμX−360を用いた。この装置は二次元検出器を有しており、従動側試験片F2の転動部へのX線照射で発生するX線回折環の情報を一度に得ることができる。今回の試験では、疲労の進行の程度を表すパラメータとして、回折環内での回折ピーク強度のばらつきを表すパラメータS/Sを用いた。ここで、Sは一定回数の負荷を受けた従動円筒の回折環のピーク強度の標準偏差を表し、Sは試験前のSを表す。S/Sの増加は転動面の結晶配向の進行を示す。
図8に比較例および実施例のそれぞれについて、従動側試験片F2の転動部の表層の試験中のS/Sの変化を示す。疲労の進行の程度は、比較例より実施例の方が小さくなっている。したがって、実施例において疲労の進行が抑制されていることがわかる。
次に、図9に、以上の各試験片を用いた比較例および実施例のそれぞれについて、試験前と負荷回数5000回時点での、駆動側試験片D2の転動部の表面に存在する突起の頂点近傍の曲率半径の平均値を示す。ここで、表面の突起は研磨加工に由来した方向性をもっているため、その頂点近傍の形状は半楕円で近似することができる。図9に示した曲率半径は楕円の短軸方向の曲率半径であり、短軸方向は駆動側試験片D2の軸方向とほぼ一致する。この結果、試験前と5000回負荷後ともに実施例において比較例よりも突起頂点の曲率半径の平均値が大きくなった。これは、モリブデン酸処理には、処理することで突起頂点近傍の曲率半径を大きくする効果と、処理後の非処理物の転動中のなじみを促進し突起頂点近傍の曲率半径を大きくする効果の両方があることを示している。
これらの結果から、表面粗さが大きい駆動側試験片D2の転動部にモリブデン酸処理を施すことで、処理後および転動によるなじみが完了した後の駆動側試験片D2の表面に存在する突起の頂点近傍の曲率半径を無処理の場合よりも大きくすることができ、その結果相手面である従動側試験片F2の転動部の疲労の進行を抑制できることが証明された。
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることを意図される。
1 深溝玉軸受、6 シール部材、7 グリース、11 外輪、11A 外輪軌道面、11B,12B,13B 複合被膜、12 内輪、12A 内輪軌道面、13 玉、13A 玉転動面、14 保持器、100 風力発電装置、110 主軸、120 主軸軸受、130 ブレード、140 増速機、150 発電機、160 ナセル、170 タワー、200 二円筒試験機、203 フェルトパッド、1401 入力軸、1402 出力軸、1403 遊星歯車機構、1404 2次増速機、1405 キャリア、1406 遊星歯車、1407 リングギヤ、1408 太陽歯車、1409 中間出力軸、1411〜1414 歯車、1415 軸受、1430 ハウジング、1430a 潤滑油貯留槽、1431 潤滑油。

Claims (5)

  1. 風力発電装置に用いられる転がり軸受であって、
    内周面に外輪軌道面を有する外輪と、
    外周面に内輪軌道面を有する内輪と、
    前記外輪軌道面および前記内輪軌道面と接触する転動面を有し、前記外輪軌道面と前記内輪軌道面との間で転動する複数の転動体とを備え、
    前記外輪軌道面、前記内輪軌道面および前記転動面のうち少なくとも1つにモリブデン酸化物およびモリブデン酸塩を主成分とする複合被膜が形成されている、転がり軸受。
  2. 前記外輪と複数の前記転動体のそれぞれとの間の領域、および前記内輪と複数の前記転動体のそれぞれとの間の領域における油膜パラメータの値が1.2以下である、請求項1に記載の転がり軸受。
  3. 前記外輪と複数の前記転動体のそれぞれとの間、および前記内輪と複数の前記転動体のそれぞれとの間に相対的なすべりが発生する条件で用いられる、請求項1または2に記載の転がり軸受。
  4. 前記転動体の周囲に、循環給油方式により潤滑油が供給された状態で用いられる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の転がり軸受。
  5. 前記転動体の周囲に、グリースが供給された状態で用いられる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の転がり軸受。
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