JP7257818B2 - 転動装置および転がり軸受 - Google Patents

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Description

本発明は、転動装置および転がり軸受に関し、特に、第1および第2の転動部品を備えた転動装置および転がり軸受に関するものである。
転がり軸受などの転動装置は転動部の潤滑状態が悪いために油膜形成が不十分になる環境で使用されると、ピーリング、焼き付きなどの表面損傷およびこの表面損傷を起点としたはく離が転動部の表面に発生する。これにより、転動装置の寿命は低下する。たとえば、論文「ころ軸受の疲れ寿命に及ぼす潤滑の影響」(非特許文献1)には、転がり軸受の内外輪と転動体との間で、潤滑状態の過酷さを示す油膜パラメータΛが約1.2以上になる条件では転がり軸受の寿命は長くなるが、油膜パラメータΛが1.2以下となる条件では転動部に表面起点型のはく離が起きるため転がり軸受の寿命は低下することが記載されている。
したがって、転動部の表面損傷の対策としては、油膜パラメータΛの値を上昇させることが有効である。油膜パラメータΛの値を上昇させる方法としては、油膜形成能力を向上させる方法と、表面粗さを改善する方法とがある。
油膜形成能力を向上させる方法としては、たとえば特開平4-265480号公報(特許文献1)に、針状ころ軸受の内外輪または転動体としての転動部に特定の表面粗さパラメータの規格を達成するように微小なくぼみを形成することにより、転動部での油膜形成能力を向上させる方法が開示されている。
なお表面粗さを改善する方法としては、たとえば超仕上げ加工、バレル研磨加工またはバニシング加工などにより転動部の表面粗さを小さくする方法がある。その他、たとえば特開2016-196958号公報(特許文献2)には、運転中の転動部の表面粗さのなじみを促進することにより、転動部の表面損傷を抑制し、転がり軸受の寿命を長くする転動装置が記載されている。特開2016-196958号公報には、転動部の表面粗さのなじみを促進する方法として、黒染処理が用いられている。
特開平4-265480号公報 特開2016-196958号公報
高田浩年,鈴木進,前田悦生,「ころ軸受の疲れ寿命に及ぼす潤滑の影響」,NSK Bearing Journal No.642,p.7-13
特開平4-265480号公報においては、特殊なバレル研磨によって転動部の表面に微小なくぼみが形成される。このためバレル研磨時の処理部材同士の接触により打ち傷が発生する危険性がある。また特開平4-265480号公報においては、転動部の形状によってはバレル研磨で微小なくぼみが形成できないという問題がある。さらに、特開平4-265480号公報によっては特殊なバレル研磨を必要とするため、加工工程が複雑であるという問題がある。
次に、特開2016-196958号公報に開示される黒染め処理は、140℃程度に加熱された強アルカリ、特に水酸化ナトリウムを主成分とする処理液中に処理部材が浸漬される方法によりなされる。しかしこの処理液の成分は毒劇物に該当し、処理作業者の安全性の確保が難しい。また処理液は環境負荷が高い。さらに、当該処理液は140℃程度の高温に保つために大量のエネルギが消費されるため、処理ラインの稼働コストが懸念される。
本発明は上記の課題に鑑みなされたものである。その目的は、特殊なバレル研磨工程および環境負荷の高い処理液を用いずに、転動装置および転がり軸受を提供することである。
本開示に従った転動装置は、第1の転動部品と、第2の転動部品とを備える。第2の転動部品は第1の転動部品に接触する。第1の転動部品の転動部である第1転動部の表面のロックウェル硬度は、第2の転動部品の転動部である第2転動部の表面のロックウェル硬度よりも低い。第1転動部の表面のロックウェル硬度は62HRC以下である。第1転動部の表面は、第1転動部の表面層の硬度がナノインデンテーション法で測定された際の除荷後残留変位量が、最大押し込み荷重を100μNとしたときに548nm以上である。
本開示に従った転がり軸受は、上記転動装置により構成される。当該転がり軸受は、外輪と、内輪と、複数の転動体とを備える。外輪は内周面に外輪軌道面を有する。内輪は外周面に内輪軌道面を有する。複数の転動体は外輪軌道面と内輪軌道面との間で転動する。外輪および内輪は第1の転動部品からなる。転動体は第2の転動部品からなる。
本開示に従った転がり軸受は、上記転動装置により構成される。当該転がり軸受は、外輪と、内輪と、複数の転動体とを備える。外輪は内周面に外輪軌道面を有する。内輪は外周面に内輪軌道面を有する。複数の転動体は外輪軌道面と内輪軌道面との間で転動する。外輪および内輪は第2の転動部品からなる。転動体は第1の転動部品からなる。
上記のような第1の転動部品および第2の転動部品の組み合わせにより、特殊なバレル研磨工程および環境負荷の高い処理液を用いずに、転動装置および転がり軸受を提供できる。
本発明の一実施の形態における深溝玉軸受の構成を示す概略断面図である。 図1のP部の構成を示す拡大図である。 実施例における二円筒試験機の構成を示す概略図である。 ナノインデンテーション法の際に微小圧子が測定対象に押し込まれる深さと押し込まれる際に加わる荷重との関係を模式的に示すグラフである。 転動疲労試験前の駆動側試験片D2の転動部以外の端面のロックウェル硬度と、転動疲労試験後の駆動側試験片D2の転動部の表面の特に突起部の先端の曲率半径の平均値βとの関係を示すグラフである。 転動疲労試験前の駆動側試験片D2の転動部以外の端面の表面層の硬度がナノインデンテーション法で測定されたときの除荷後残留変位量と、駆動側試験片D2の転動部の表面における突起部の頂点高さの標準偏差σ*の転動疲労試験前後間の変化量との関係を示すグラフである。 転動疲労試験後の駆動側試験片D2の転動部の表面のσ*/βの値と、転動疲労試験後の従動側試験片F2の転動部の表面の残留応力との関係を示すグラフである。
以下、本発明の一実施の形態について図に基づいて説明する。
(実施の形態1)
以下、本発明の一実施の形態の転動装置の一例としての転がり軸受の構成について説明する。また、本実施の形態では、転がり軸受の一例として深溝玉軸受について説明する。
図1は、本発明の一実施の形態における深溝玉軸受の構成を示す概略断面図である。図2は、図1のP部の構成を示す拡大図である。図1を参照して、本実施の形態の深溝玉軸受1は、環状の外輪11と、外輪11の内側に配置された環状の内輪12と、外輪11と内輪12との間に配置され、円環状の保持器14に保持された転動体としての複数の玉13とを備えている。外輪11は内周面に外輪軌道面11Aを有している。内輪12は外周面に内輪軌道面12Aを有している。つまり、外輪11の内周面には外輪軌道面11Aが形成されており、内輪12の外周面には内輪軌道面12Aが形成されている。そして、外輪軌道面11Aと内輪軌道面12Aとが互いに対向するように、外輪11と内輪12とは配置されている。
さらに、複数の玉13は外輪軌道面11Aと内輪軌道面12Aとの間で転動するように構成されている。複数の玉13は、外輪軌道面11Aおよび内輪軌道面12Aに、玉13の軌道面としての玉軌道面13Aにおいて接触し、かつ保持器14により周方向に所定のピッチで配置されることにより、円環状の軌道上に転動自在に保持されている。また、玉13においては、その表面全体が玉軌道面13Aである。以上の構成により、深溝玉軸受1の外輪11および内輪12は、互いに相対的に回転可能となっている。
外輪11および内輪12に挟まれる空間、より具体的には外輪軌道面11Aおよび内輪軌道面12Aに挟まれる空間である軌道空間には、図示しないグリース組成物が封入されている。このグリース組成物により外輪11および内輪12の各々と玉13との間に油膜が形成されている。
図2を参照して、深溝玉軸受1を構成する転動部品としての外輪11、内輪12および玉13について説明する。第1の転動部品としての外輪11および内輪12の各々に、第2の転動部品としての玉13は接触している。外輪11、内輪12および玉13のいずれもたとえば高炭素クロム軸受鋼からなっており、特にJIS規格SUJ2からなっていることが好ましいが、これに限られない。
外輪11および内輪12の各々の転動部である第1転動部の表面のロックウェル硬度は、玉13の転動部である第2転動部の表面すなわち軌道面(玉軌道面13A)のロックウェル硬度よりも低い。外輪11および内輪12の各々のロックウェル硬度は、玉13のロックウェル硬度よりも0.5以上低いことが好ましい。外輪11および内輪12の転動部である第1転動部の表面、すなわち外輪軌道面11Aおよび内輪軌道面12Aのロックウェル硬度は62HRC以下である。
外輪11および内輪12の転動部である第1転動部の表面は、当該第1転動部の表面層の硬度がナノインデンテーション法で測定された際の除荷後残留変位量が、当該測定時の最大押し込み荷重を100μNとしたときに548nm以上となる。ただし当該除荷後残留変位量は、当該測定時の最大押し込み荷重を100μNとしたときに602nm以上となることが好ましい。より具体的には、第1転動部の表面は、最大押し込み荷重100μNで、Berkovich圧子を用いてナノインデンテーション法により硬度測定したときの除荷後の残留変位量(hf)が548nm以上(より好ましくは602nm以上)であるような硬度またはヤング率を有している。なおここでの第1転動部の表面層とは、たとえば第1転動部の表面から深さ方向に5μm以内の領域を意味する。
本実施の形態の深溝玉軸受1においては、第1転動部の表面および第2転動部の表面の算術平均表面粗さは0.20μm以下であることが好ましい。
本実施の形態の深溝玉軸受1においては、第1転動部の表面は、回転砥石を用いた研削加工および研磨加工のいずれかのみにより仕上げられていることが好ましい。言い換えれば、本実施の形態の深溝玉軸受1における第1転動部の表面は、回転砥石を用いた研削加工および研磨加工のいずれかのみにより仕上げられたいわゆる砥石加工部であることが好ましい。すなわち、第1の転動部品である外輪11および内輪12の第1転動部の加工が、回転砥石を用いた研削加工または研磨加工のいずれかのみによりなされている。したがって、第1転動部には、当該研削加工または研磨加工の後に、超仕上げ加工、バレル研磨加工、バニシング加工のいずれもなされていない。さらに言いかえれば、深溝玉軸受1の第1転動部の表面は、回転砥石を用いた研削加工のみがなされその後に超仕上げ加工、バレル研磨加工、バニシング加工のいずれもなされていない研削加工部、または回転砥石を用いた研磨加工のみがなされその後に超仕上げ加工、バレル研磨加工、バニシング加工のいずれもなされていない研磨加工部のいずれかである。
本実施の形態においては、以上のような特徴を有する転動装置により構成される深溝玉軸受1としての転がり軸受は、上記のように、外輪11および内輪12は第1の転動部品からなり、玉13は第2の転動部品からなる。
当該転がり軸受においては、外輪軌道面11A、内輪軌道面12A、複数の玉13の軌道面としての玉軌道面13Aのそれぞれのロックウェル硬度は60HRC以上である。
当該転がり軸受においては、外輪11および内輪12の各々と玉13との間の潤滑における油膜パラメータが1.2以下であることが好ましい。すなわち当該転がり軸受は、外輪11と複数の玉13のそれぞれとの間の領域における油膜パラメータΛの値が1.2以下の条件で使用されることが好ましい。同様に、当該転がり軸受は、内輪12と複数の玉13のそれぞれとの間の領域における油膜パラメータΛの値が1.2以下の条件で使用されることが好ましい。
次に、上記と一部重複する記載もあるが、本実施の形態の作用効果について説明する。
本実施の形態の転動装置としての深溝玉軸受(1)は、第1の転動部品(11,12)と、第2の転動部品(13)とを備えている。第2の転動部品(13)は第1の転動部品(11,12)に接触する。第1の転動部品(11,12)の転動部である第1転動部の表面(11A,12A)のロックウェル硬度が、第2の転動部品(13)の転動部である第2転動部の表面(13A)のロックウェル硬度よりも低い。第1転動部の表面(11A,12A)のロックウェル硬度は62HRC以下である。第1転動部の表面(11A,12A)は、第1転動部の表面層の硬度をナノインデンテーション法で測定された際の除荷後残留変位量が、最大押し込み荷重を100μNとしたときに548nm以上である。なお第1転動部の表面(11A,12A)は、第1転動部の表面層の硬度をナノインデンテーション法で測定された際の除荷後残留変位量が、最大押し込み荷重を100μNとしたときに602nm以上であることがより好ましい。
第1の転動部品および第2の転動部品をこのような組み合わせにすることにより、第1転動部の表面に多数存在する微小な突起部が第2転動部の表面に接触することで、当該微小な突起部がなじみを起こす。そのなじみの後に第1転動部の表面の形状、特に突起部の先端の曲率半径(の平均値)βが大きくなることが助長される。またこれにより、当該多数の突起部の頂点の高さ方向位置のばらつきすなわち標準偏差σ*が小さくなる。
一般的に、2つの面の接触においては、その表面に形成される突起部の先端の曲率半径βが大きいほど、また当該表面に形成される複数の突起部の頂点の高さ方向位置のばらつきとしての標準偏差σ*が小さいほど、一方の面の複数の突起部と他方の面との接触部での2つの面の接触状態が改善する。すなわち2つの面のうち一方の面の複数の突起部のうち、他方の面と弾性接触する突起部の数の割合が増加する。このような接触状態の改善は、転動部品の転動部の表面層での疲労の抑制、および転動部の表面層での摩耗量の低減をもたらす。これにより、第1転動部の表面および第2転動部の表面の損傷を抑制できる。その結果、転動部品の表面損傷による転動装置の寿命低下を抑制できる。
本実施の形態の転動装置としての深溝玉軸受(1)によれば、第1転動部の表面(11A,12A)および第2転動部の表面(13A)の算術平均表面粗さが0.20μm以下であることが好ましい。一般的な転がり軸受は、転動部の表面の算術平均粗さが0.50μmより大きくなる場合は少ない。転動部の表面の算術平均粗さが0.20μmより大きい場合には、たとえば第1転動部の表面に形成される複数の突起部になじみが起きたとしても、そのなじみの起こる程度が充分ではない。このため、第1転動部または第2転動部での表面損傷を防止できる信頼性が低下する。これに対して第1転動部の表面および第2転動部の表面の算術平均表面粗さが0.20μm以下であれば、第1転動部の突起部のなじみによって、第2転動部の表面損傷を抑制でき、転動装置全体の寿命が低下するリスクを低減できる。
本実施の形態の転動装置としての深溝玉軸受1によれば、第1転動部の表面(11A,12A)は、回転砥石を用いた研削加工および研磨加工のいずれかのみにより仕上げられた砥石加工部である。言い換えれば第1転動部の表面は、回転砥石を用いた研削加工のみがなされその後に超仕上げ加工、バレル研磨加工、バニシング加工のいずれもなされていない研削加工部、または回転砥石を用いた研磨加工のみがなされその後に超仕上げ加工、バレル研磨加工、バニシング加工のいずれもなされていない研磨加工部のいずれかである。すなわち、超仕上げ加工、バレル研磨加工、バニシング加工などの特殊な加工を行なうことによる加工工程の複雑化を抑制できる。さらに、これらの特殊な加工を省略することによって、加工のコストを低減できる。
本実施の形態の上記転動装置により構成される転がり軸受としての深溝玉軸受1は、内周面に外輪軌道面(11A)を有する外輪(11)と、外周面に内輪軌道面(12A)を有する内輪(12)と、外輪軌道面(11A)と内輪軌道面(12A)との間で転動する複数の転動体としての玉(13)とを備える。外輪(11)および内輪(12)は第1の転動部品からなり、玉(13)は第2の転動部品からなる。上記の硬度等の条件を有する転がり軸受1は、外輪11および内輪12のそれぞれと玉13との間の潤滑状態が良好でないために油膜形成性が良好でない条件で使用されても、外輪軌道面11Aと内輪軌道面12Aとの微小な突起部と玉13の突起部との接触による玉13の表面損傷を抑制できる。これにより、転がり軸受としての深溝玉軸受1の長寿命が実現できる。
本実施の形態の転がり軸受としての深溝玉軸受(1)においては、外輪軌道面(11A)、内輪軌道面(12A)、玉軌道面(13A)のそれぞれのロックウェル硬度は60HRC以上であることが好ましい。このようにすれば、上記外輪軌道面11Aなどの各軌道面の過度な表面硬度の低下による転がり軸受の転動疲労寿命の低下を抑制できる。ここでは特に、起点が上記各軌道面の表面から100μm以上300μm以下程度の深さ範囲にある損傷すなわち内部起点型剥離の発生による、深溝玉軸受1の寿命の低下を抑制できる。
本実施の形態の転がり軸受としての深溝玉軸受(1)においては、外輪(11)および内輪(12)の各々と玉(13)との間の潤滑における油膜パラメータΛが1.2以下であることが好ましい。上記の突起部のなじみという現象は、第1の転動部品または第2の転動部品の、油膜形成性が良好でない油膜パラメータΛが1.2以下の条件において特に進行しやすい。また油膜パラメータΛが1.2以下の条件においては、第1転動部の表面の突起部が第2転動部の表面に接触することにより、第2転動部の表面損傷による寿命低下が起こりやすい。このため本実施の形態では、油圧パラメータΛが1.2以下という本来であれば第2転動部の寿命低下が起こりやすい条件において、外輪軌道面11Aおよび内輪軌道面12Aの微小な突起部と玉13の微小な突起部との接触による、第1転動部または第2転動部の表面の損傷を抑制する効果が発揮される。このため上記突起部のなじみによる転がり軸受の長寿命が実現できる。
(実施の形態2)
本実施の形態の転がり軸受としての深溝玉軸受は、基本的に図1および図2の深溝玉軸受1である。この深溝玉軸受1は、基本的に実施の形態1で説明したものと同様の転動装置により構成される。このため本実施の形態において実施の形態1と同様の特徴についてはその説明を繰り返さない。ただし本実施の形態においては、転動装置により構成される深溝玉軸受1としての転がり軸受は、実施の形態1とは逆に、外輪11および内輪12は第2の転動部品からなり、玉13は第1の転動部品からなる。
まず本実施の形態に係る転動装置において、第1の転動部品と第2の転動部品との2つの転動部品の表面粗さが同等である場合を考える。ここで表面粗さとは、たとえば算術平均粗さ、または転動部の表面にある微小な突起部の先端の曲率半径の平均値を意味する。この場合、転動部に表面損傷が優先的に発生する転動部品を第2の転動部品とすることが好ましい。すなわち、外輪軌道面11Aまたは内輪軌道面12Aに優先的に表面損傷が発生する場合には、本実施の形態のように外輪11および内輪12を第2の転動部品とすることが好ましい。逆に玉軌道面13Aに優先的に表面損傷が発生する場合には、実施の形態1のように玉13を第2の転動部品とすることが好ましい。このようにすれば、第1の転動部品の転動部の突起のなじみによって、第1の転動部品の転動部の突起に起因する第2の転動部品の転動部の表面損傷を抑制することができる。なじみにより第1の転動部品の転動部の突起と第2の転動部品の転動部との間の接触状態が改善されるためである。これにより、転動装置全体の寿命低下のリスクを低減できる。
次に、本実施の形態に係る転動装置において、第1の転動部品と第2の転動部品との2つの転動部品の転動部の表面粗さに有意な差がある場合を考える。ここで表面粗さとは、たとえば算術平均粗さ、または転動部の表面にある微小な突起部の先端の曲率半径の平均値を意味する。この場合、転動部の表面粗さの大きい方の転動部品を第1の転動部品とすることが好ましい。このようにすれば、第1の転動部品の転動部の表面粗さの突起部のなじみによりその突起部の先端の曲率半径が大きくなる。これにより、第1の転動部品の転動部の突起に起因する第2の転動部品の転動部の表面損傷を抑制することができる。なじみにより第1の転動部品の転動部の突起と第2の転動部品の転動部との間の接触状態が改善されるためである。したがって、転動装置全体の寿命低下のリスクを低減できる。
以下、本発明の実施例について説明する。
図3は、実施例における二円筒試験機の構成を示す概略図である。図3に示す二円筒試験機4を用いて、以下に述べる13種類の試験片を用いて転動疲労試験を行なった。図3を参照して、二円筒試験機4は、駆動側回転軸D1と、従動側回転軸F1と、給油用フェルトパッド5と、モータMとを主に備えている。
駆動側回転軸D1は図3の左右方向に延びる部材である。駆動側回転軸D1の図3の右端側には先端部が設けられている。先端部は、延びる方向である図3の左右方向に交差する断面積が、図の左側から右側に向けて漸次小さくなる形状を有する。駆動側回転軸D1の上記先端部と反対側、すなわち図3の左端側である末端部には、モータMが接続されている。このモータMにより駆動側回転軸D1は、図3の左右方向に延びる中心軸C1の周りに回転可能となるように構成されている。
図3における駆動側回転軸D1の先端部には、試験片としての駆動側試験片D2が固定された。駆動側試験片D2は、上記の各実施の形態における第1の転動部品に相当する部材である。駆動側試験片D2は、駆動側回転軸D1が中心軸C1の周りに回転すればこれと同様に中心軸C1の周りに回転可能とされた。
一方、従動側回転軸F1も図3の左右方向に延びる部材である。ただし従動側回転軸F1の配置は左右方向に関して駆動側回転軸D1と互いに逆である。すなわち従動側回転軸F1の図3の左端側には先端部が設けられている。先端部は、延びる方向である図3の左右方向に交差する断面積が、図の右側から左側に向けて漸次小さくなる形状を有する。また従動側回転軸F1は上記先端部と反対側、すなわち図3の右端側が末端部である。
図3における従動側回転軸F1の先端部には、試験片としての従動側試験片F2が固定された。従動側試験片F2は、上記の各実施の形態における第2の転動部品に相当する部材である。従動側試験片F2は、従動側回転軸F1が中心軸C2の周りに回転すればこれと同様に中心軸C2の周りに回転可能とされた。すなわち従動側回転軸F1は、図3の左右方向に延びる中心軸C2の周りに回転可能となるように構成されている。
ここで、駆動側回転軸D1の先端部は図3の右側を向いており、従動側回転軸F1の先端部は図3の左側を向いている。ただし駆動側回転軸D1の中心軸C1と従動側回転軸F1の中心軸C2とは図3の左右方向である軸方向に一致していない。すなわち中心軸C1と中心軸C2との間には図3の上下方向に示す間隔を有している。この間隔は、駆動側回転軸D1が回転していない状態において、駆動側試験片D2の中心軸C1から最も離れた外径面と、従動側試験片F2の中心軸C2から最も離れた外径面とが接触する間隔とした。
このため、駆動側回転軸D1およびこれに固定された駆動側試験片D2が中心軸C1周りに回転すれば、駆動側試験片D2に接触する従動側試験片F2、およびこれが固定される従動側回転軸F1が中心軸C2周りに回転するよう設置された。このことを可能とすべく、駆動側試験片D2および従動側試験片F2は、いずれも中心軸C1,C2に交差する方向から平面視した断面形状が円形である、全体が円筒形状であるものとした。互いに接触するように配置される駆動側試験片D2および従動側試験片F2は、これらの図3の紙面方向奥側すなわち真下に配置された給油用フェルトパッド5と接触する構成とされた。
準備された駆動側試験片D2および従動側試験片F2のそれぞれの寸法、およびそれぞれの試験片の試験前の初期状態における外径面の軸方向(図3の左右方向)の表面粗さを表1に示す。なおここで表面粗さとは、算術平均粗さRaを意味する。
Figure 0007257818000001
表1に示すように、駆動側試験片D2は、平面視した外径(直径)が40mmであり、厚さ(軸方向に延びる寸法)が12mm、駆動側試験片D2の軸方向の副曲率半径が60mmの円筒形状である。従動側試験片F2は、平面視した外径(直径)が40mmであり、厚さ(軸方向に延びる寸法)が12mm、駆動側試験片D2の軸方向の副曲率半径が存在しない(0mmである)円筒形状である。なお表1に示さないが、駆動側試験片D2および従動側試験片F2は、いずれも平面視した内径(直径)は20mmである。
表1に示すように、駆動側試験片D2は外径面の軸方向の算術平均粗さが0.20μmに仕上げられ、従動側試験片F2は外径面の軸方向の算術平均粗さが0.02μmに仕上げられた。具体的には、駆動側試験片D2の外径面は、回転砥石を用いて、周方向に加工目が形成されるように研削加工されることにより仕上げられた。従動側試験片F2の外径面は、回転砥石を用いて、周方向に加工目が形成されるように研削加工されることにより仕上げられ、その後さらに超仕上げ加工が施された。
以上の駆動側試験片D2および従動側試験片F2を用いて実施された転動疲労試験の実施条件を表2に示す。
Figure 0007257818000002
表2に示すように、二円筒試験機4には潤滑油として、無添加ポリ-α―オレフィン油(VG6相当)が用いられた。この潤滑油は給油用フェルトパッド5内に含浸されており、そこから駆動側試験片D2および従動側試験片F2の外径面に塗布供給された。また試験条件として、従動側試験片F2に加えられる荷重W(図3参照)の値は230kgfとされた。ここで荷重Wとは、駆動側回転軸D1の回転時に、従動側回転軸F1が、図3の矢印に示す荷重Wの方向すなわち駆動側回転軸D1に近づく方向に、従動側試験片F2に対して加える力を意味する。駆動側回転軸D1がモータMにより中心軸C1周りに回転することに伴い、従動側回転軸F1が中心軸C2周りに、駆動側回転軸D1とは互いに逆方向に回転した。このように回転したのは、駆動側試験片D2の外径面と従動側試験片F2の外径面とが互いに接触しているためである。以上の駆動条件と、表1に示した駆動側試験片D2および従動側試験片F2のそれぞれの寸法、形状、表面粗さの条件とした。一般的に、駆動側試験片D2の外径面(転動部の表面)に存在する微小な凸部が従動側試験片F2の外径面(転動部の表面)に接触することで、従動側試験片F2の転動部の表面に転動疲労が発生しやすくなる。
また試験は断続運転条件とし、試験すなわち駆動側回転軸D1の回転の開始から2分経過時までは、駆動側回転軸D1の回転数は500min-1とした。駆動側回転軸D1の回転の開始から2分経過した時点で一度回転が中断され、駆動側回転軸D1が停止された。この時点は、駆動側試験片D2および従動側試験片F2に加わる負荷回数が1000回に達した時点である。駆動側回転軸D1が1回転するごとに、駆動側試験片D2および従動側試験片F2には1回の負荷が加わるためである。その後、駆動側回転軸D1の回転を再開し、2000min-1の回転数で駆動側回転軸D1が2分間回転された。これにより最終的に、駆動側試験片D2および従動側試験片F2に加わる総負荷回数が5000回に達した時点で試験が終了された。
なお駆動側回転軸D1を最初に500min-1で2分間回転させたのは、この2分間の回転がなされる間に駆動側試験片D2の転動部に存在する微小な凸部のなじみを進行させる目的による。この500min-1での2分間回転と、その後の2000min-1での2分間回転の際に、駆動側試験片D2および従動側試験片F2の転動部すなわち外径面は転動疲労を起こす。回転時に駆動側試験片D2と従動側試験片F2との外径面同士が繰り返し高速で接触による負荷を受けるためである。本試験では、駆動側回転軸D1の回転数を2000min-1に高めて2分間追加で回転させた後の、駆動側試験片D2の転動部の表面における表面粗さと従動側試験片F2の転動部の表面に発生した疲労の程度が評価された。これにより、各評価品すなわち各条件の駆動側試験片D2の転動部の表面の微小な凸部のなじみが、従動側試験片F2の転動部の表面の疲労進行に及ぼす影響が評価できる。
本実施例においては、以上に述べた二円筒試験機4および上記の手順を用いて、本実施の形態の特徴に基づく4種類の駆動側試験片D2および従動側試験片F2の条件の組み合わせを用いた4種類の転動疲労試験、および9種類の駆動側試験片D2および従動側試験片F2の標準品の組み合わせを用いた9種類の比較例としての転動疲労試験が行なわれた。以下においては、本実施の形態の特徴に基づく上記4種類の条件の組み合わせを用いた4種類の試験のそれぞれを実施例1~4で示している。また以下においては標準品、すなわち本実施の形態の規格外である駆動側試験片D2および従動側試験片F2の組み合わせを用いた9種類の試験を比較例1~9で示している。次の表3は、比較例1~9、および実施例1~4のそれぞれの試験片の材質、端面の硬度、形成条件を示している。
Figure 0007257818000003
まず駆動側試験片D2について説明する。表3に示すように、比較例1~3においては、駆動側試験片D2の材料はJIS規格SUJ2とした。これらの駆動側試験片D2はすべて同じ温度等の条件で焼入れがなされ、その後、それぞれ表3に示した温度で焼戻しがなされた。具体的には、比較例1では180℃で、比較例2では150℃で、比較例3では230℃で、焼戻しがなされた。その結果、これらの駆動側試験片D2はそれぞれ表3に示した端面硬度となった。ここで端面とは各駆動側試験片D2の転動部である外径面以外の表面を意味する。また端面硬度は、各駆動側試験片D2の転動部である外径面以外の端面のロックウェル硬度(単位はHRC)を意味する。具体的には、比較例1では63.5HRC、比較例2では65.0HRC、比較例3では60.9HRCとなった。なお比較例1は本実施の形態の規格外の標準品のなかでも特に、もっとも汎用的な転がり軸受の材質等である。このため以降に述べる結果の説明は比較例1の結果を基準として検証されている。
比較例4~7においては、駆動側試験片D2の材料はJIS規格SUJ3とした。これらの比較例の駆動側試験片D2のうち、比較例4~6の駆動側試験片D2には同じ温度等の条件で焼入れがなされた。ただし比較例7の駆動側試験片D2のみ、比較例4~6の駆動側試験片D2よりも高い温度により焼入れがなされた。その後、それぞれ表3に示した温度で焼戻しがなされた。具体的には、比較例4では150℃で、比較例5では180℃で、比較例6では230℃で、比較例7では180℃で、焼戻しがなされた。その結果、これらの駆動側試験片D2はそれぞれ表3に示した端面硬度となった。具体的には、比較例4では64.5HRC、比較例5では62.4HRC、比較例6では61.3HRC、比較例7では62.3HRCとなった。
実施例1,2においては、駆動側試験片D2の材料はJIS規格SNCM815とした。これらの駆動側試験片D2はいずれも同じ温度等の条件で焼入れがなされ、その後、中間焼鈍しおよび二次焼入れがなされた。さらにその後、これらの駆動側試験片D2はそれぞれ表3に示した温度で焼戻しがなされた。具体的には、実施例1では150℃で、実施例2では180℃で、焼戻しがなされた。その結果、これらの駆動側試験片D2はそれぞれ表3に示した端面硬度となった。具体的には、実施例1では60.1HRC、実施例2では58.8HRCとなった。
比較例8および実施例3においては、駆動側試験片D2の材料はJIS規格SNCM420とした。これらの駆動側試験片D2はいずれも同じ温度等の条件で焼入れがなされ、その後、それぞれ表3に示した温度で焼戻しがなされた。具体的には、比較例8では150℃で、実施例3では180℃で、焼戻しがなされた。その結果、これらの駆動側試験片D2はそれぞれ表3に示した端面硬度となった。具体的には、比較例8では62.7HRC、実施例3では60.8HRCとなった。
比較例9および実施例4においては、駆動側試験片D2の材料はJIS規格SCM420とした。これらの駆動側試験片D2はいずれも同じ温度等の条件で焼入れがなされ、その後、それぞれ表3に示した温度で焼戻しがなされた。具体的には、比較例9では150℃で、実施例4では180℃で、焼戻しがなされた。その結果、これらの駆動側試験片D2はそれぞれ表3に示した端面硬度となった。具体的には、比較例9では63.5HRC、実施例4では61.8HRCとなった。
次に従動側試験片F2について説明する。表3に示すように、比較例1~9および実施例1~4のすべてにおいて、従動側試験片F2の材料はJIS規格SUJ2とした。これらの従動側試験片F2はすべて一般的な温度等の条件で焼入れ処理がされた後に、180℃にて焼戻しされた。その結果、これらの従動側試験片F2はすべて端面硬度が63.4±0.2HRCとほぼ同等とされた。
当該比較例1~9および実施例1~4の各駆動側試験片D2および各従動側試験片F2は、上記の転動疲労試験の前に、各試験片の端面についてのロックウェル硬度がロックウェル硬さ試験機によって測定された。これに加え、比較例1~3および比較例5~7と、実施例2~4の各駆動側試験片D2については、各試験片の端面の表面層の硬度がナノインデンテーション法で測定された。図4はナノインデンテーション法の際に微小圧子が測定対象に押し込まれる深さと押し込まれる際に加わる荷重との関係を模式的に示すグラフである。図4の横軸はナノインデンテーション法の際に微小圧子が測定対象に押し込まれる深さを示している。したがって後述する除荷後残留変位量hfはこの横軸に表される。図4の縦軸はナノインデンテーション法の際に微小圧子が測定対象に加える荷重を示している。
図4を参照して、ナノインデンテーション法を用いた測定時に微小圧子が測定対象を押し込めば、その測定が終了しても(すなわち押し込み荷重が加わらなくなっても)、測定対象の表面には押し込まれた際に生じた変位が残留する。この残留量が図4では除荷後残留変位量hfとして示されている。また本測定では、特に比較例1~3および比較例5~7と、実施例2~4の各駆動側試験片D2の端面について、微小圧子による表面層への最大押し込み荷重Pmaxが100μNとされて表面層の硬度が測定された後の除荷後の残留変位量hfが測定された。なおここで各駆動側試験片D2について残留変位量hfが測定される端面は、転動疲労試験がなされる転動部(外径面)とは別の面である。すなわち転動疲労試験による疲労などの影響を受けない領域について、ナノインデンテーション法による圧痕が残る測定がなされている。ただし当該端面の硬度は転動部である外径面の表面と同じロックウェル硬度を有していると仮定している。このため端面の硬度を測定すればそれは転動部(第1転動部の表面および第2の転動部の表面)の硬度を測定することと同じ結果が得られる。
この除荷後残留変位量hf(単位nm)は、比較例1~3および比較例5~7と、実施例2~4との各駆動側試験片D2について異なる20か所ずつについて測定された。各試験片の20か所の除荷後残留変位量hfの平均値がその試験片の除荷後残留変位量hfとして記録された。なお測定に用いられた微小圧子はBerkovich圧子とした。
表3に示す試験片を用いて比較例1~9および実施例1~4の転動疲労試験が行なわれた後、比較例1~9および実施例1~4の各駆動側試験片D2の転動部の表面に形成されている突起の先端曲率半径の平均値βを測定した。また各駆動側試験片D2の転動部の表面に形成されている突起の頂点の高さの標準偏差σ*を測定した。これらにより突起のなじみの程度が評価された。ここで、βおよびσ*は、各駆動側試験片D2の転動部の三次元表面形状をレーザー顕微鏡で測定した後に、表面粗さ解析ソフトを用いて算出した。なおこれらのβおよびσ*の値は二次元すなわち線の粗さではなく、三次元すなわち面の粗さのパラメータである。
上記の駆動側試験片D2の転動部の表面のβおよびσ*の測定に加え、比較例1~3および比較例5~7と、実施例2~4との各駆動側試験片D2は、上記5000回の負荷を与える断続運転試験(転動疲労試験)の後のみならず、転動疲労試験の前にも、駆動側試験片D2の転動部の表面の標準偏差σ*が測定された。そして転動疲労試験の前と後との各駆動側試験片D2の標準偏差σ*の変化量が算出された。
また上記のβ、σ*の測定、表面層の硬度の測定、および除荷後残留変位量hfの測定に加え、比較例1~9および実施例1~4の各駆動側試験片D2および各従動側試験片F2の転動部の、転動疲労試験の後の残留応力が測定された。ここで残留応力はX線回折分析により測定された。またX線回折分析の際、異なる3方向から転動部にX線を入射し、それぞれの方向からのX線の入射に対して得られた回折情報を基にして、従動側試験片F2の転動部の表面層(表面から深さ5μm以内の領域)の残留応力が、von Misesの相当応力の形で算出された。一般的に転動中の転動部の表層には、様々な方向を向く垂直応力とせん断応力とが同時に発生する。von Misesの相当応力は、このように同時に作用する多軸応力が単一応力に変換されたものである。von Misesの相当応力は、多軸応力が作用する材料の塑性変形および疲労の挙動を検討する際に有効と考えられている。また転動部で残留応力が形成されることは、転動部に塑性変形が発生したことを意味している。すなわち、形成される残留応力の大きさは塑性変形の程度を表し、残留応力が大きい方が塑性変形の程度も大きいと考えられる。
<試験結果>
図5は、転動疲労試験前の駆動側試験片D2の転動部以外の端面のロックウェル硬度と、転動疲労試験後の駆動側試験片D2の転動部の表面のβとの関係を示すグラフである。図5の横軸は転動疲労試験前に測定された、駆動側試験片D2の転動部以外の端面のロックウェル硬度を示す(単位HRC)。図5の縦軸は上記のβを示す。図5中の黒い三角印は比較例1における値を示す。図5中の黒い丸印は比較例2~9のそれぞれにおける値を示す。図5中の白抜きの丸印は実施例1~4のそれぞれにおける値を示す。図5を参照して、上記転動疲労試験前に測定された駆動側試験片ロックウェル硬度と上記βとの間には線形相関があることがわかる。また図5から、ロックウェル硬度が低いほどなじみ後のβが大きくなるといえる。すなわち、なじみにより、転動部の表面の突起の先端の曲率半径βが増加する。そして、少なくともロックウェル硬度が62HRC以下である実施例1~4の試験においてはいずれも、試験後のβの値が基準値を示す比較例1と同等以上の値を示している。曲率半径βが大きくなれば、上記のように、転動部品の転動部の表面層での疲労の抑制、および転動部の表面層での摩耗量の低減をもたらす。これにより、第1転動部の表面および第2転動部の表面の損傷を抑制できる。その結果、転動部品の表面損傷による転動装置の寿命低下を抑制できる。以上より、駆動側試験片D2に相当する第1の転動部品の表面のロックウェル硬度は62HRC以下が好ましいことがわかる。
図6は、転動疲労試験前の駆動側試験片D2の転動部以外の端面の表面層の硬度がナノインデンテーション法で測定されたときの除荷後残留変位量と、駆動側試験片D2の転動部の表面の標準偏差σ*の転動疲労試験前後間の変化量との関係を示すグラフである。図6の横軸は、転動疲労試験前の駆動側試験片D2の転動部の表面層の硬度がナノインデンテーション法で測定されたときの除荷後残留変位量hfを「残留ひずみ」として示している(単位nm)。図6の縦軸は、駆動側試験片D2の転動部の表面の標準偏差σ*の転動疲労試験前後間の変化量を示している(単位μm)。図6中の黒い三角印は比較例1における値を示す。図6中の黒い丸印は比較例2,3,5,6,7における値を示す。図6中の白い丸印は実施例2,3,4における値を示す。なお図6中の黒い丸印のうち、残留ひずみが約525nm、σ*の変化量が約0.022μmである位置には、比較例3および比較例6に係る黒い丸印がほぼ重なっている。
上記の記載内容より、第1転動部の表面および第2転動部の表面の損傷を抑制しその寿命の低下を抑制する観点からは、標準偏差σ*の値は小さいことが好ましい。ただしこれは使用により微小な突起部がなじみを起こした後における話である。なじみを起こす前の初期状態(すなわち転動疲労試験前)に比べてなじみを起こす後(すなわち転動疲労試験後)に標準偏差σ*が小さくなっていればよい。つまりたとえ初期状態にてσ*が大きくてもその後のなじみによりσ*が大幅に減少すれば、寿命低下抑制の効果を高められる。この場合はσ*の変化量(減少量)が大きく、好ましいデータであるといえる。この観点から、グラフの縦軸が示す試験前後でのσ*の変化量が大きい方が、本願発明の作用効果を奏する上で好ましい。
以上を踏まえ図6を参照して、除荷後残留変位量hfが大きいほどなじみによるσ*の変化量が大きくなるという好ましい結果が現れる傾向がある。なお図中の2本の破線は、hfとσ*の変化量との間に線形相関があると仮定した場合の予測区間の上限値および下限値を示す。また図中の2本の鎖線は、hfとσ*の変化量との間に線形相関があると仮定した場合の信頼区間の上限値および下限値を示す。上記の予測区間および信頼区間はともに危険率が5%の値をプロットしている。なじみによるσ*の変化量を基準値となる比較例1と同等以上とする観点から、信頼区間の下限値より、hfは548nm以上が要求されることがわかる(図6中の点A参照)。またなじみによるσ*の変化量を基準値となる比較例1と同等以上とする観点から、予測区間の下限値より、hfは602nm以上がより好ましいことがわかる(図6中の点B参照)。
図7は、転動疲労試験後の駆動側試験片D2の転動部の表面のσ*/βの値と、転動疲労試験後の従動側試験片F2の転動部の表面の残留応力との関係を示すグラフである。図7中の黒い丸印は比較例1における値を示し、黒いX印は比較例2~9および実施例1~4のうちのいずれかであり、駆動側試験片D2の端面のロックウェル硬度が従動側試験片F2の端面のロックウェル硬度よりも高い試験片のデータである。また図7の白抜きのひし形は、比較例2~9および実施例1~4のうちのいずれか上記黒い丸印およびバツ印のいずれとも異なるものであり、駆動側試験片D2の端面のロックウェル硬度が従動側試験片F2の端面のロックウェル硬度に比べて同等以下である試験片のデータである。
図7を参照して、白抜きのひし形のデータは、グラフの比較的下方、すなわち従動側試験片F2の転動部表面の残留応力が比較的低くなっている。このため、従動側試験片F2への残留応力の生成(すなわち塑性変形)を抑制するために、転動疲労試験前の駆動側試験片D2の(端面の)硬度を転動疲労試験前の従動側試験片F2の(端面の)硬度よりも低くすることが有効である。また図7のグラフにおいては、σ*/βが小さいほど従動側試験片F2の残留応力が小さくなる傾向がある。この結果は、なじみにより転動疲労試験後のσ*が小さくなるか、あるいは転動疲労試験後のβの増加の割合が大きくなるかのいずれかにより、従動側試験片F2の転動部の表面の塑性変形を抑制できることを示している。
以上に述べた各実施の形態(に含まれる各例)に記載した特徴を、技術的に矛盾のない範囲で適宜組み合わせるように適用してもよい。
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
1 深溝玉軸受、4 二円筒試験機、5 給油用フェルトパッド、11 外輪、11A 外輪軌道面、12 内輪、12A 内輪軌道面、13 玉、13A 玉軌道面、14 保持器、D1 駆動側回転軸、D2 駆動側試験片、F1 従動側回転軸、F2 従動側試験片、M モータ、W 荷重。

Claims (8)

  1. 第1の転動部品と、
    前記第1の転動部品に接触する第2の転動部品とを備え、
    前記第1の転動部品の転動部である第1転動部の表面のロックウェル硬度が、前記第2の転動部品の転動部である第2転動部の表面のロックウェル硬度よりも低く、
    前記第1転動部の表面のロックウェル硬度は62HRC以下であり、
    前記第1転動部の表面は、前記第1転動部の表面層の硬度がナノインデンテーション法で測定された際の除荷後残留変位量が、最大押し込み荷重を100μNとしたときに548nm以上であり、
    前記除荷後残留変位量の最小値は、前記除荷後残留変位量と、前記第1転動部の表面の突起部の頂点の高さ方向位置のばらつきである標準偏差の転動前後の変化量との間に線形相関があると仮定した場合の、前記標準偏差の転動前後の変化量の信頼区間の下限値が、前記標準偏差の転動前後の変化量の基準値と等しくなったときの残留ひずみの値である第1値から求められ
    前記除荷後残留変位量は、前記信頼区間の下限値での前記標準偏差の転動前後の変化量の値が、前記第1値での前記標準偏差の転動前後の変化量の値以上となときの残留ひずみの数値範囲である、転動装置。
  2. 前記第1転動部の表面は、前記第1転動部の表面層の硬度がナノインデンテーション法で測定された際の除荷後残留変位量が、最大押し込み荷重を100μNとしたときに602nm以上である、請求項1に記載の転動装置。
  3. 前記第1転動部の表面および前記第2転動部の表面の算術平均表面粗さは0.20μm以下である、請求項1または2に記載の転動装置。
  4. 前記第1転動部の表面は、回転砥石を用いた研削加工および研磨加工のいずれかのみにより仕上げられた砥石加工部である、請求項1~3のいずれか1項に記載の転動装置。
  5. 請求項1~4のいずれか1項に記載の転動装置により構成される、転がり軸受であって、
    内周面に外輪軌道面を有する外輪と、
    外周面に内輪軌道面を有する内輪と、
    前記外輪軌道面と前記内輪軌道面との間で転動する複数の転動体とを備え、
    前記外輪および前記内輪は前記第1の転動部品からなり、前記転動体は前記第2の転動部品からなる、転がり軸受。
  6. 請求項1~4のいずれか1項に記載の転動装置により構成される、転がり軸受であって、
    内周面に外輪軌道面を有する外輪と、
    外周面に内輪軌道面を有する内輪と、
    前記外輪軌道面と前記内輪軌道面との間で転動する複数の転動体とを備え、
    前記外輪および前記内輪は前記第2の転動部品からなり、前記転動体は前記第1の転動部品からなる、転がり軸受。
  7. 前記外輪軌道面、前記内輪軌道面、前記複数の転動体の軌道面のそれぞれのロックウェル硬度は60HRC以上である、請求項5または6に記載の転がり軸受。
  8. 前記外輪および前記内輪の各々と前記転動体との間の潤滑における、油膜パラメータが1.2以下である、請求項5~7のいずれか1項に記載の転がり軸受。
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