JP2016069695A - 転がり軸受 - Google Patents

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佑貴 田中
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yusuke Morifuji
祐介 森藤
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Abstract

【課題】生産性向上とともに、白色組織剥離の発生をこれまでよりも抑えて長寿命化を図った転がり軸受を提供する。
【解決手段】内輪、前記外輪及び前記転動体の少なくとも一つが、C、Si、Mn、Cr等をそれぞれ特定量含有する鋼からなり、かつ、鋼中の円相当径10μm以上の酸化物系非金属介在物の数、焼入れ焼戻し後における表面硬さ及び残留オーステナイト量がそれぞれ特定値であり、鋼中のSi、Mn、Cr及びMoの各量が(1)式を満足し、焼入れ焼戻し後の球状炭化物のCr量([Cr])と基地のマルテンサイト中のCr量([Cr])と比率が(2)式を満足する転がり軸受。
0.5[Si]+0.2[Mn]+0.2[Cr]+0.7[Mo]≧0.95…(1)
5.0≦[Cr]/[Cr]≦7.0…(2)
【選択図】図1

Description

本発明は転がり軸受に関し、特に白色組織変化による寿命低下を抑制した転がり軸受に関する。
転がり軸受では、荷重が負荷されて長時間使用されることによって金属疲労が生じ、軌道面表面が剥離する場合がある。そのメカニズムは、従来から「内部起点型剥離」と「表面起点型剥離」がよく知られている。「内部起点型剥離」は、材料内部の非金属介在物周辺に応力集中が生じ、それを起点として疲労亀裂が生じて剥離に至る現象である。「表面起点型剥離」は、潤滑油中に異物が混入すると軌道面に圧痕が生じて圧痕縁に応力が集中し、それを起点として疲労亀裂が生じて剥離に至る現象である。
しかしながら、一部の用途では、潤滑油の分解によって水素が発生し、水素が鋼中に侵入して金属組織の変化を引き起こす場合がある。金属組織の変化が生じると、組織変化部と正常部との界面から疲労亀裂が生じて剥離が発生するため、転がり軸受の寿命が著しく低下する。この金属組織変化は、軸受鋼の基地組織であるマルテンサイトが、侵入した水素によって微細なフェライト粒に変化する現象である。エッチングを行って金属組織を観察すると、組織変化部が白く見えることから「白色組織」等とも呼ばれており、以降の説明ではこの白色組織による剥離を「白色組織剥離」と呼ぶ。この白色組織剥離は、上記の「内部起点型剥離」及び「表面起点型剥離」とは異なるメカニズムで生じるため、そのための対策も全く異なる。
白色組織剥離の対策としては、例えば特許文献1、2に示すように、Crを多量に添加した鋼材を用いることが行われている。しかしながら、Crを多量添加すると、鋼材の製造工程で割れ易くなり、更には軸受の製造工程においても必要な硬さを得るための焼入れ温度を高くしなければならず、軸受の製造に際しての生産性が低下する。
そこで、特許文献3では、Cr量とともに、C、Si、Mn、Mo量を調整して、生産性を維持しつつ、白色組織剥離の発生を抑制している。しかしながら、C量が多く、Crをはじめとする合金元素が炭化物として捕捉されて基地組織中の合金元素が減少してしまうため、合金元素による諸効果が十分に発揮されないという問題がある。
特開2005−147352号公報 特許第4273609号公報 特開2013−249500号公報
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、生産性向上とともに、白色組織剥離の発生をこれまでよりも抑えて長寿命化を図った転がり軸受を提供することを目的とする。
上記課題を解決するために本発明者らが検討したところ、Cr等の合金元素だけでなく、Cの最適な添加量を規定し、炭化物として取り込まれる合金元素を少なくして、合金元素を基地組織中に多く残存させることが有効であることを見出した。また、白色組織の形成過程は、基地のマルテンサイトが超微細粒フェライトになる現象に加えて、炭化物が溶解して超微細粒フェライト中に溶け込む現象が重畳することに着目し、Crを基地と炭化物とに最適に分配することにより基地のマルテンサイト及び球状炭化物の両方を強化して白色組織の形成を送らせることが有効であることを見出した。本発明は、これらの知見に基づくものである。
即ち、本発明は下記の転がり軸受を提供する。
(1)内輪と、外輪と、前記内輪と前記外輪との間に配置される複数の転動体と、前記転動体を転動自在に保持する保持器とを備える転がり軸受において、
前記内輪、前記外輪及び前記転動体の少なくとも一つが、
C :0.50〜0.80質量%、
Si:0.4〜0.9質量%、
Mn:0.3〜1.2質量%、
Cr:1.7〜2.4質量%、
以下、任意成分として、
Mo:0.45質量%以下(0質量%を含む)
V :0.45質量%以下(0質量%を含む)
Ni:1.8質量%以下(0質量%を含む)
Cu:0.30質量%以下(0質量%を含む)
S :0.020質量%以下(0質量%を含む)
P :0.020質量%以下(0質量%を含む)
O :15質量ppm下(0質量ppmを含む)
を含み、残部が鉄及び不可避的不純物からなる鋼からなり、かつ、前記鋼に存在する円相当径が10μm以上である酸化物系非金属介在物が、320mm中に10個以下であり、
焼入れ焼戻し後における、表面の硬さがHV674〜772(HC59〜63)で、残留オーステナイト量が11〜20体積%であり、
前記鋼に含まれるSi、Mn、Cr及びMoの量(質量%)をそれぞれ[Si]、[Mn]、[Cr]及び[Mo]とし、焼入れ焼戻し後に残存する球状炭化物のCr量(質量%)を[Cr]、焼入れ焼戻し後の基地のマルテンサイトに含まれるCr量(質量%)を[Cr]とするとき、下記(1)式及び(2)式を満足することを特徴とする転がり軸受。
0.5[Si]+0.2[Mn]+0.2[Cr]+0.7[Mo]≧0.95…(1)
5.0≦[Cr]/[Cr]≦7.0…(2)
本発明の転がり軸受は、Cr等の合金元素量の規定とともに、Cの含有量を低くすることにより、基地組織中に添加元素を多く残存させることにより、添加元素の諸効果が向上し、水素による組織変化が遅延されて長寿命になる。また、標準的な軸受に用いられるJIS SUJ2鋼と同等の加工性を有するため、生産性が低下することもない。
A値と、白色組織剥離寿命との関係(但し、縦軸は対数目盛)を示すグラフである。 A値と、白色組織剥離寿命との関係(但し、縦軸は普通目盛)を示すグラフである。 B値と、白色組織剥離寿命との関係を示すグラフである。 式3と、白色組織剥離寿命との関係を示すグラフである
以下、本発明に関して詳細に説明する。
本発明の転がり軸受は、内輪、外輪及び転動体の少なくとも一つ、好ましくは内輪、外輪及び転動体の全てが、下記に示す特定の鋼材で形成されている限り、その種類には制限はない。例えば、深溝玉軸受やアンギュラ玉軸受等の玉軸受、円筒ころ軸受や円錐ころ軸受、自動調心ころ軸受等のころ軸受、ボールねじ、リニアガイド等にも適用することができる。以下に、合金組成や特性等の本発明で規定する各要件について説明する。
(C:0.50〜0.80質量%)
C(炭素)は焼入れによって基地に固溶し、硬さを向上ざせる元素である。鋼材中のC量が0.50質量%未満では、焼入れ後の硬さが低下して耐摩耗性や転がり疲労寿命が低下する。しかし、0.80質量%を超えると基地中のCr等の合金元素が炭化物として捕捉されて基地組織中の合金元素が減少しまう。好ましくは、安定的に寿命を向上させるために、C量を0.60〜0.80質量%とする。
(Si:0.4〜0.9質量%)
Siは、基地に固溶して焼入れ性を向上させる効果がある。また、基地組織中のマルテンサイトを安定化させるため、水素による組織変化を遅延させて寿命を延ばす効果がある。鋼中のSi量が0.4質量%未満では、組織変化を遅延させる効果が得られない。しかし、0.9質量%を超えると旋削性が低下する。好ましくは、安定的に良好な旋削性をえるために、Si量を0.4〜0.7質量%とする。
(Mn:0.30〜1.2質量%)
Mnは、基地に固溶して焼入れ性を向上させる効果がある。また、基地組織中のマルテンサイトを安定化させるため、水素による組織変化を遅延させて寿命を延ばす効果がある。更に、残留オーステナイトを生成しやすくする効果もある。残留オーステナイトは、鋼中での水素の拡散・集積を遅延させるため、組織変化が局所的に生じるのを遅延させて寿命を延ばす効果がある。鋼中のMn量が0.30質量%未満ではこのような効果が得られない。しかし、1.2質量%を超えると残留オーステナイトが過多になり、寸法安定性が低下する。好ましくは、安定的に寿命を向上させるために、Mn量を0.6〜1.2質量%とする。
(Cr:1.7〜2.4質量%)
Crの一部は基地に固溶して焼入れ性を向上させる効果があり、残りはCと結合して炭化物を形成して耐摩耗性を向上させる効果がある。また、炭化物と基地組織のマルテンサイトの両方を安定化させるため、水素による組織変化を遅延させる効果もある。鋼中のCr量が1.7質量%未満では、このような効果が得られない。しかし、2.4質量%を超えると、焼入れ温度を高くしないと必要な硬さが得られない等の理由により生産性が低下する。好ましくは、安定的に組織変化を遅延させるために、Cr量を1.8〜2.3質量%とする。
以下は任意成分であり、Mo、V、Ni、Cu、S、P及びOを含んでもよい。即ち、何れも下限は0質量%もしくは0質量ppmである。
(Mo:0.45質量%以下)
Moは、基地に固溶して焼入れ性及び焼戻し軟化抵抗性を向上させる効果と、鋼中に硬い炭化物を生成して耐摩耗性及び転がり疲労寿命を向上させる効果がある。更に、炭化物と基地中のマルテンサイトとを安定化させるため、水素による組織変化を遅延させる効果もある。しかし、Moは高価な元素であるため、選択的に添加する。好ましくは、安定的に組織変化を遅延させるために、Mo量を0.15〜0.45質量%とする。
(V:0.45質量%以下)
Vは、鋼中に硬くて微細な炭化物を形成して耐摩耗性を向上させる効果がある。また、Vを含み炭化物は、鋼中のトラップサイトになるため、水素の拡散係数を低下させる効果もある。このように、Vを含む炭化物は、水素が局所的に集積するのを遅延させる効果があるため、Vを添加することにより組織変化の発生を遅延させて寿命を延ばすことができる。しかし、鋼中のV量が0.45質量%を超えるとこのような効果が飽和する、また、Vは非常に高価な元素であるため、選択的に添加する。好ましくは、前記効果と経済性のバランスを考慮して、V量を0.25質量%以下とする。
(Ni:1.8質量%以下)
Niは、焼入れ性を向上させる効果と、オーステナイトを安定化させる効果とを有し、更には多量に添加することにより靭性を向上させることもできる。しかし、鋼中のNi量が1.8質量を超えると、このような効果が飽和する。また、Niは非常に高価な元素であるため鋼材コストを上昇させるほか、残留オーステナイトが過剰になり寸法安定性が低下するため、選択的に添加する。好ましくは、良好な寸法安定性を得るために、Ni量を0.90質量%以下とする。
(Cu:0.30質量%以下)
Cuは、焼入れ性を向上させる効果と、粒界強度を向上せる効果とを有する。しかし、量が多くなると熱間鍛造性が低下する。そのため、鋼中のCu量を0.30質量%以下とする。好ましくは、安定的に熱間鍛造性を得るために、Cu量を0.20質量%とする。
(S:0.020質量%以下)
Sは、MnSを形成して非金属介在物として作用するため、鋼中のS量は少ない方が好ましく、0.020質量%以下とする。好ましくは、非金属介在物の有害度をより下げるために、S量を0.010質量%以下とする。
(P:0.020質量%以下)
Pは、結晶粒界に偏析して粒界強度や破壊靭性値を低下させるため、鋼中のP量は少ない方が好ましく、0.020質量%以下とする。好ましくは、安定的に粒界強度や破壊靭性を得るために、P量を0.015質量%以下とする。
(O:15質量ppm下)
Oは、鋼中でAl等の酸化物系の非金属介在物を形成する。酸化物系の非金属介在物は、剥離の起点になって転がり疲労寿命に悪影響を及ぼすため、鋼中のO量は少ない方が好ましく、15質量ppm以下とする。好ましくは、酸化物系非金属介在物の有害度をより下げるため、O量を10質量ppm以下とする。
(残部)
鋼の残部は、鉄及び不可避的不純物である。
(鋼に存在する円相当径が10μm以上である酸化物系非金属介在物が、320mm中に10個以下)
使用中に鋼中に水素が侵入するような使用条件では、基地の金属組織が変化し、組織変化部から亀裂が生じて剥離に至る。しかし、大きな非金属介在物が存在すると、非金属介在物のまわりに応力集中が起こり、そこから剥離に至る「内部起点型剥離」が生じる。その場合、破壊起点となる可能性が高い非金属介在物の種類は、Al、MgO、CaO等の酸化物系介在物であり、円相当径で10μm以上の大径粒子が特に有害となる。また、このような大径の酸化物系非金属介在物が多くなるほど、寿命が低下する可能性が高くなる。
一方、非金属介在物が酸化物以外の場合や、酸化物系非金属介在物であっても粒径が小さい場合には、介在物から亀裂が生じるまでの時間が長くなる。水素による組織変化に由来する亀裂の発生の方が、介在物からの亀裂発生よりも著しく早いため、酸化物系以外の非金属介在物や、粒径の小さい酸化物系非金属介在物は、実質的に有害にはならない。
そこで、本発明では、有害となる円相当径が10μm以上の大径の、酸化物系非金属介在物について、その存在密度を規定する。具体的には、320mm中に10個を超えると介在物から亀裂が発生する確率が高くなり、転がり疲労寿命が低下する。好ましくは、7個/320mm以下である。
尚、酸化物系非金属介在物の測定は、軸受の一部を切断し、切断面を鏡面に研磨して光学顕微鏡または走査型電子顕微鏡を用いて視野内に存在する円相当径が10μm以上の大径粒子を計数し、320mm当たりに換算する。
(焼入れ焼戻し後における、表面の硬さがHV674〜772(HC59〜63))
本発明者らは、水素による組織変化が、局所的に塑性変形が生じることにより引き起こされることを見出した。従って、組織変化が生じるのを遅延させるには、硬さを高めて塑性変形に対する抵抗性を向上させることが必要である。硬さがHV674未満では硬さが不足し、組織変化が生じやすくなり、転がり疲労寿命が低下する。しかし、HV772を超えると破壊靭性値が低下する。好ましくは、硬さをHV705〜764とする。尚、HV674〜772は、HC59〜63に相当する。
(焼入れ焼戻し後における、残留オーステナイト量が11〜20体積%)
水素は原子半径が小さいため、鋼中で容易に拡散する。更に、応力が大きい箇所に集積しやすいことが知られている。従って、転がり軸受では、軌道面直下に大きなせん断応力が作用するため、その部分に水素が局所的に集積して組織変化が発生する。一方、金属組織中の残留オーステナイトは、基地組織であるマルテンサイトと結晶構造が異なるため、水素の拡散係数を低下させる効果がある。即ち、残留オーステナイトは、水素が局所的に集積するのを遅延させて組織変化の発生を遅延させる効果がある。しかし、残留オーステナイト量が11体積%未満では、組織変化を遅延させる効果が得られない。また、残留オーステナイト量が20体積%を超えると、寸法安定性が低下する。好ましくは、残留オーステナイト量を13〜20体積%とする。
尚、残留オーステナイト量の測定は、軸受の軌道面の一部を切り出した後、軌道面表面を電解研磨してX線回折装置を用いて組織分析すればよい。
(0.5[Si]+0.2[Mn]+0.2[Cr]+0.7[Mo]≧0.95)
上記したように、Si、Mn、Cr及びMoは、何れも組織変化を遅延させ、白色組織剥離に対する寿命を向上させる効果がある。また、Si及びMnは置換型元素としてマルテンサイト組織の基地に固溶し、Cr及びMoは一部が置換型元素として基地に固溶し、残りがCと結合して炭化物となる。組織変化が生じる際には、マルテンサイト組織の基地に固溶した炭素が拡散して微細なフェライト粒になり、同時に炭化物も溶解して超微細粒フェライトの粒界に析出する。これらの置換型元素は、基地組織のマルテンサイト組織を安定化させて固溶した炭素の拡散を遅らせるため、組織変化の進行を遅らせる効果がある。また、CrやMoを含む炭化物は化学的に安定であるため、溶解しにくく、組織変化の進行を遅らせる効果がある。
本発明者らは、後述する実施例に示すように、種々の合金組成の鋼材を用いて寿命試験を行い、各合金元素の量と白色組織剥離寿命との関係を回帰分析して、白色組織剥離寿命に及ぼす各合金元素の効果を定量化した。その結果、Si、Mn、Cr、Moの各合金元素の添加量の効果は、Si:Mn:Cr:Mo=5:2:2:7になることが判明した。そして、Si、Mn、Cr、Moの各合金元素量(質量%)をそれぞれ[Si]、[Mn]、[Cr]、[Mo]としたときに、「0.5[Si]+0.2[Mn]+0.2[Cr]+0.7[Mo]」で表される値(A値)を0.95以上にする、即ち下記(1)式を満足することにより、軸受用鋼材として標準的に用いられているJIS SUJ2と比較して、白色組織剥離寿命を3倍以上にすることができる。
0.5[Si]+0.2[Mn]+0.2[Cr]+0.7[Mo]≧0.95…(1)
A値が0.95未満では、白色組織剥離寿命がSUJ2と比較して3倍以上にはならず、明確な寿命延長効果が得られない。寿命を安定的に向上させるために、A値を1.00以上にすることが好ましく、A値が大きいほど白色組織寿命を延ばす効果に優れるようになる。但し、Si等の合金元素は、生産性や寸法安定性等によりそれぞれの含有量の上限が上記のように規定されており、それぞれの含有量の上限を超えないようにする必要がある。
(5.0≦[Cr]/[Cr]≦7.0)
上記したように、白色組織の形成は、水素によって基地のマルテンサイトが超微細粒フェライトになる現象と、球状炭化物が溶解して超微細粒フェライト界面に溶け込む現象の2つの重畳によって起こり、Crは基地のマルテンサイトと球状化炭化物の両方を安定化して、白色組織が形成するのを遅延させる効果がある。そこで本発明では、鋼中のCrを、基地のマルテンサイトと球状炭化物の両方にバランスよく分配させることに着目し、焼入れ焼戻し後に残存する球状炭化物のCr量(質量%)を[Cr]、焼入れ焼戻し後の基地のマルテンサイトに含まれるCr量(質量%)を[Cr]とするとき、[Cr]/[Cr]の値(B値)が、5.0以上7.0以下である、即ち下記(2)式を満足することが重要であることを見出した。
5.0≦[Cr]/[Cr]≦7.0…(2)
B値が5.0未満では、基地のマルテンサイトに比べて球状炭化物に含まれるCr量が相対的に少なすぎて、水素によって球状炭化物が溶解しやすくなり、白色組織が形成しやすくなる。一方、B値が7.0を超えると、基地のマルテンサイトに比べて球状炭化物に含まれるCr量が相対的に多くなりすぎて、水素によって基地のマルテンサイトが超微細粒フェライトに変化しやすくなり、同様に白色組織が形成しやすくなる。これに対し、B値を5.0以上7.0以下の範囲にすることにより、Crが基地のマルテンサイトと球状炭化物の両方にバランスよく配分され、白色組織の形成をより効果的に遅延させる。好ましくは、このような効果がより安定的に得られるように、B値を5.5以上6.5以下にする。尚、B値は、合金成分、熱処理条件によって調整する。
球状炭化物のCr量が多いと、炭化物が化学的に安定化するため、溶解しにくくなり、白色組織の形成を遅延させることができるが、[Cr]が9質量%以上でより効果的となる。しかし、球状炭化物のCr量が多すぎると、相対的に基地中のCr量が少なくなり、マルテンサイトが超微粒フェライトに変化しやすくなり、[Cr]が15質量%を超えると顕著になる。そのため、[Cr]を9質量%以上15質量%以下とすることが好ましい。
尚、[Cr]及び[Cr]の測定は、EPMA(Electron Probe Micro Analyser)を用いて行うことができる。その際、[Cr]は、直径1μm以上の球形炭化物を10個以上選び、そのCr量を測定して平均値を求める。また、[Cr]は、球状炭化物の無い場所を10カ所以上選び、そのCr量を測定して平均値を求める。
(転がり軸受の好適な用途)
白色組織剥離は潤滑剤が分解して水素が発生することにより起こるが、水素の発生しやすさは潤滑剤の種類により異なり、例えばトラクション係数を上げたり、摩耗を防止するために添加剤を多く含む潤滑剤は、水素を発生しやすい。自動車や産業機械の変速機に使用される潤滑油は、添加剤を多く含み、水素が発生しやすいものが多く、本発明の転がり軸受はこれらの用途に好適である。
また、軸受内部に電流が流れても潤滑油の分解が促進され、水素が発生しやすくなる。例えば、ゴムベルトとプーリーを用いて回転を伝達する機構では、ゴムベルトとプーリー間の摩擦により静電気が発生する。静電気による電位差は、プーリーに嵌合するシャフトを伝わり、シャフトを支持する軸受の軌道輪と転動体間の電位差となる。軌道輪と転動体間は油膜が形成されて絶縁されているが、回転速度の変動や振動によって軌道輪と転動体間で金属接触が生じると電流が流れる。そして、電流により金属表面が局所的に溶解して化学的に活性な新生面が露出し、潤滑油の分解が加速されて水素が発生しやすくなる。即ち、ゴムベルトとプーリーとの間で回転を伝達する機構では水素が発生しやすく、本発明の転がり軸受はこのような用途にも好適である。例えば、自動車のオルタネータ等の電装補機ではエンジンからの回転をゴムベルトとプーリーで伝達しているため、そこに使用される転がり軸受には、静電気による水素が発生しやすいが、本発明の転がり軸受はこのエンジン補機用転がり軸受として好適である。
また、軸受内部に電流が流れる用途としては、電気モータ用軸受や発電機用軸受がある。電気モータや発電機からの電流がシャフトを伝わって軸受内部に伝わると、静電気と同様に潤滑油の分解が加速されて水素が発生しやすくなるため、本発明の転がり軸受を好適に使用できる。
(転がり軸受の製造方法)
本発明の転がり軸受を製造するには、上記合金組成で、酸化物系非金属介在物の密度の鋼材を用い、熱間加工及び旋削加工により軸受の完成形状に近づけた後、焼入れ焼戻しを行い、焼入れ焼戻し後の硬さ及び残留オーステナイト量、並びに(1)式及び(2)式が上記したそれぞれの要件を満足するようにする。その後、研削加工を行い、完成形状に仕上げる。
好ましい熱処理条件を示すと、生産性をJIS SUJ2と同等にするために、SUJ2と同条件で焼入れを行う。即ち、焼入れは830〜850℃で所定時間保持した後、油冷却することが好ましい。また、焼戻しもSUJ2と同条件で行うことが好ましく、160〜200℃で所定時間保持した後、空冷または炉冷する。焼戻し温度が160℃未満であると、残留オーステナイト量が20体積%よりも多くなり、寸法安定性が低下する。焼戻し温度が200℃を超えると、残留オーステナイト量が11体積%よりも少なくなり、組織変化を遅延させる効果が得られなくなる。
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明を更に説明するが、本発明はこれにより何ら制限されるものではない。
(試料の調製)
表1に示す合金組成にて製鋼した。表1には、A値、鋼材に存在する円相当径が10μm以上の酸化物系非金属介在物の密度(個/320mm)を併記する。また、表1の鋼種SはJIS SUJ2、鋼種TはJIS SUJ5である。
Figure 2016069695
(白色組織剥離寿命試験)
表1の鋼材を用いて、直径65mm、厚さ6mmの円盤を旋削加工で作成し、その後、焼入れ焼戻し、平面の検索加工及びラップ加工を行って転動疲労試験の試験片とした。焼入れ焼戻しは表2に示す温度で行った。表2には、焼入れ焼戻し後における硬さ及び残留オーステナイト(γ)量、B値を併記する。
試験前に、試験片を50℃の30質量%チオシアン酸アンモニウム水溶液に24時間浸漬して、水素を鋼中に侵入させた(水素チャージ)。水素チャージ後の試験片をスラスト型転動疲労試験機にセットし、転動疲労試験を行った。潤滑油は一般鉱油(ISO−VG68)を用い、最大面圧を3.8GPa、回転速度を2500min−1とし、1鋼種につき4〜7回の試験を行い、累積破損確率が50%となる寿命を求めた。結果を表2に、比較例9に対する相対値にて示す。
Figure 2016069695
表2に示すように、実施例は何れも、本発明に従う合金組成、A値及び酸化物系非金属介在物密度を満たす鋼材を用い、焼入れ焼戻し後の硬さや残留オーステナイト量、B値を満たしており、寿命比がSUJ2(比較例9)の3倍以上に大幅に延びている。特に、実施例1〜7では、比較例9の4倍以上に寿命が延びている。
これに対し、比較例1は、C量及びCr量が本発明の規定量よりも少ないため、白色組織の形成を遅延させる効果が小さく、寿命が短い。更に、焼入れ焼戻し後の硬さ及び残留オーステナイト量も規定量よりも低いため、組織変化が生じやすく、寿命が短い。
比較例2は、Si量が規定量より少なく、白色組織の形成を遅延させる効果が小さく、寿命が短い。また、O量が規定量より多く、鋼中の酸化物系非金属介在物の量が多くなっており、この介在物を起点とする剥離が発生して寿命が短くなっている。
比較例3は、Mn量が規定量よりも少なく、A値も規定値よりも小さくなっている。そのため、白色組織を遅延させる効果が小さく、寿命が短い。
比較例4は、Cr量が規定量よりも少なく、B値が規定値よりも高くなっており、白色組織を遅延させる効果が小さく、寿命が短い。
比較例5は、Si量が規定量よりも少なく、A値が規定値よりも高くなっており、白色組織を遅延させる効果が小さく、寿命が短い。
比較例6は、C量が規定量より高く、焼入れ焼戻し後の硬さが高いため、破壊靭性値と基地中の合金元素量が低下する。また、B値が規定値よりも高く、白色組織の形成を遅延させる効果が小さく、寿命が短い。
比較例7は、C量、Si量、Mn量、Cr量及びMo量は規定量の範囲であるものの、A値が規定値よりも小さいので、白色組織の形成を遅延させる効果が小さく、寿命が短い。
比較例8は、O量が規定量よりも多く、酸化物系非金属介在物が多すぎるため、酸化物系非金属介在物を起点とする剥離が発生して寿命が短くなっている。
比較例9はJIS SUJ2製であり、比較例10はJIS SuJ5製であるが、合金元素量が規定量が少なく、A値も規定値よりも小さい。そのため、白色組織を遅延させる効果が小さく、寿命が短い。
図1に、A値と白色組織剥離寿命比との関係をグラフ化して示す。尚、縦軸(白色組織剥離寿命比)は対数目盛表示である。図示されるように、白色組織剥離寿命比は、A値と良い相関性を持っている。但し、比較例4、6は、B値が規定値外であるため、A値との相関が悪い。また、比較例2、8は、酸化物系非金属介在物が規定量より多く、白色組織剥離ではなく、介在物起点の剥離が生じているのでA値との相関が悪い。
また、図2は図1の縦軸を普通目盛表示に換算したものであるが、A値が0.95以上であれば、比較例9のJIS SUJ2製と比較して3倍以上の寿命が得られることがわかる。特に、A値が1.0以上では、安定的に長寿命が得られている。従って、本発明ではA値を0.95以上、好ましくは1.0以上とする。
図3に、B値と白色組織剥離寿命比との関係をグラフ化して示すが、合金組成及びB値が規定の範囲内であると、白色組織剥離寿命が長くなっている。また、比較例7は、A値が規定値外であるため、B値との相関が悪い。
(軸受試験)
上記の白色組織剥離寿命試験で特に寿命が長かった実施例1〜7と、JIS SUJ2を用いた比較例9の鋼材を用い、深溝玉軸受6303(外径:47mm、内径:17mm、幅:14mm)の内輪及び外輪を作製し、その後、焼入れ焼戻し及び研削を行った。尚、焼入れ焼戻し条件は、表2に示す通りであり、白色組織剥離寿命試験と同等とした。また、ボールには、SUJ2に浸炭窒化処理を施したものを用いた。そして、上記の内外輪、ボール及びナイロン製保持器を用い、同一のグリースを充填して試験軸受とした。
そして、試験軸受について、NSK Technical Journal No.679, p.28に記載されているオルタネータシミュレート試験機を用いて累積破損確率が50%となる寿命を求めた。尚、この試験機はプーリーとゴムベルトでシャフトの回転を伝達しており、試験中にプーリーとゴムベルト間に静電気が生じ、グリースを分解して水素が発生しやすい状態を模している。実施例1〜7では各3個、比較例9では7個の試験軸受について同一条件で試験を行った。結果を表2に示す。
実施例1〜7では、3個の試験軸受の何れも1000時間経過しても剥離が生じなったため、試験を打ち切った。また、試験後の軸受断面を観察したところ、少量の白色組織が発生していたが、剥離には至らなかった。一方、比較例9では260時間で寿命に至っており、7個の試験軸受全てに白色組織が発生していた。
更に、A値とB値とを乗じた下記式3と、寿命比との間に相関関係があることを見出した。表2に式3の値、並びに図4に式3の値と白色組織剥離寿命比との関係を示すが、合金組成が規定の範囲であり、式3の値が5.1〜7.4であれば、白色組織剥離が抑えられて長寿命となり、特に式3の値が6.3〜7.1でより長寿命になっている。
式3=A値×B値

Claims (1)

  1. 内輪と、外輪と、前記内輪と前記外輪との間に配置される複数の転動体と、前記転動体を転動自在に保持する保持器とを備える転がり軸受において、
    前記内輪、前記外輪及び前記転動体の少なくとも一つが、
    C :0.50〜0.80質量%、
    Si:0.4〜0.9質量%、
    Mn:0.3〜1.2質量%、
    Cr:1.7〜2.4質量%、
    以下、任意成分として、
    Mo:0.45質量%以下(0質量%を含む)
    V :0.45質量%以下(0質量%を含む)
    Ni:1.8質量%以下(0質量%を含む)
    Cu:0.30質量%以下(0質量%を含む)
    S :0.020質量%以下(0質量%を含む)
    P :0.020質量%以下(0質量%を含む)
    O :15質量ppm下(0質量ppmを含む)
    を含み、残部が鉄及び不可避的不純物からなる鋼からなり、かつ、前記鋼に存在する円相当径が10μm以上である酸化物系非金属介在物が、320mm中に10個以下であり、
    焼入れ焼戻し後における、表面の硬さがHV674〜772(HC59〜63)で、残留オーステナイト量が11〜20体積%であり、
    前記鋼に含まれるSi、Mn、Cr及びMoの量(質量%)をそれぞれ[Si]、[Mn]、[Cr]及び[Mo]とし、焼入れ焼戻し後に残存する球状炭化物のCr量(質量%)を[Cr]、焼入れ焼戻し後の基地のマルテンサイトに含まれるCr量(質量%)を[Cr]とするとき、下記(1)式及び(2)式を満足することを特徴とする転がり軸受。
    0.5[Si]+0.2[Mn]+0.2[Cr]+0.7[Mo]≧0.95…(1)
    5.0≦[Cr]/[Cr]≦7.0…(2)
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