JP2015232156A - 転がり軸受 - Google Patents

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雅子 堤
植田 光司
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光司 植田
宇山 英幸
Hideyuki Uyama
英幸 宇山
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Abstract

【課題】鋼材中の介在物の存在をある程度許容しつつ、より厳しい使用環境における介在物起点型剥離の発生を抑制することを目的とする。
【解決手段】内輪、外輪及び転動体の少なくとも1つが、特定組成の鋼材からなり、かつ、極値統計法で予測したときの、面積30000mmに存在する最大の酸化物系介在物の面積の平方根が30μm以下であり、被検面積320mmに存在する最大の硫化物系介在物の短径が5μm以下で、かつ、(アスペクト比/短径)の値が2.0以上であり、硫化物系介在物が、MnS、MnS+CaS、MnS+MgSまたはMnS+CaS+MgSであり、かつ、Caが1.0質量%以下で、Mgが1.0質量%以下であり、焼入れ・焼戻し後の表面の残留オーステナイト量が11〜20体積%である転がり軸受。
【選択図】図1

Description

本発明は、特定組成の鋼材からなり、介在物によるバタフライ型組織変化に起因する剥離を抑えた長寿命の転がり軸受に関する。
転がり軸受では、荷重が負荷されて長時間使用されることにより金属疲労が生じ、軌道面表面が剥離することがある。剥離の種類には、内輪や外輪、転動体を形成する鋼材の内部の介在物を起点として生じる「介在物起点型剥離」、ゴミ等の異物を噛み込んだ圧痕を起点として生じる「表面起点型剥離」、水素が鋼材中に侵入して水素脆性を生じ、白色組織と呼ばれる組織変化を起点として生じる「白色組織剥離」に大別される。
その中で「介在物起点型剥離」は、鋼材内部の介在物周辺に応力集中し、バタフライと呼ばれる組織変化(以下「バタフライ型組織変化」)が生じ、その界面に沿って疲労亀裂が発生及び進展して剥離に至る現象である。そのため、この「介在物起点型剥離」を防止するには、鋼材内部の介在物をより小さくしたり、介在物の量をより少なくすることが効果的である。また、軸受の主応力方向への介在物の投影面積を小さくすることも効果的である。
例えば、特許文献1には、被検面積320mmに存在する厚さ1μm以上の硫化物系介在物の個数と、酸化物系介在物の最大径を10μm以下に制御することにより、長寿命化した軸受用鋼が開示されている。また、特許文献2には、被検面積320mmに存在する酸化物系介在物の数を100〜200個に規定し、更に不純物元素であるSb量を規定して長寿命化した軸受用鋼が開示されている。
また、特許文献3には、極値統計法を用いて予測したときの、面積30000mmに存在する最大の酸化物系介在物の径を5μm以下に制御した軸受用鋼を用いることで長寿命化を図った転がり軸受が開示されている。また、特許文献4には、極値統計法を用いて予測したときの、面積30000mmに存在する最大の硫化物系介在物の径を40μm以下、更に酸化物系介在物及び窒化物系介在の最大径をそれぞれ60μm以下に制御することにより、優れた転動疲労寿命を持つ軸受用鋼が開示されている。
また、特許文献5には、硫化物系介在物の成分と、そのアスペクト比とを規定したJIS G 4805(2008)のSUJ2、SUJ3、SUJ4、SUJ5の合金成分を持つ圧延軸受鋼材が開示されている。
特許第3338761号公報 特許第3779078号公報 特開2003−232367号公報 特開2006−63402号公報 特開2012−62526号公報
しかしながら、特許文献1、2のように鋼材の微小面積中の介在物の数や大きさを規定しても、実際の軸受においては、軸受の高応力部に含まれる最大の介在物を起点として剥離が生じるため、介在物を起点する剥離寿命が予想外に早まることがある。
また、特許文献3のように酸化物系介在物を微細に制御するには、極めて清浄度の高い鋼材を製造しなければならないが、鋼材中の酸素量や硫黄量の低減は現在の工業レベルでは既に限界に達しており、更なる酸素量や硫黄量を低減するためには設備や工程の改良が必要になる。その結果、鋼材価格の上昇を招き、工業上広く利用することが難しくなることが十分に予測される。特許文献4のようにある程度の大きさの介在物を許容しても、使用条件が厳しくなると介在物を起点としてバタフライ型組織変化が起こり、剥離に至る場合もある。
更に、特許文献5のようにSUJ2、SUJ3、SUJ4またはSUJ5に規定された合金成分では、介在物周辺に生じるバタフライ型組織変化の形成を遅延させる効果が小さい。
そこで本発明は、鋼材中の介在物の存在をある程度許容しつつ、より厳しい使用環境における介在物起点型剥離の発生を抑制することを目的とする。
上記課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明者らは以下の知見を得た。
バタフライ型組織変化は、介在物周辺の応力集中によって生じる大きなせん断力が、基地のマルテンサイト組織に繰り返し負荷され、それによりマルテンサイト組織中の転位と固溶炭素が動かされ、徐々にマルテンサイト組織が壊れて超微細なフェライト組織に変化する現象である。しかし、鋼材の合金成分としてSi、Mn、Cr及びMoを最適な量添加することにより基地のマルテンサイト組織が安定化し、その結果、転位と固溶炭素が動き難くなってバタフライ型組織変化の形成が遅延され、長寿命化できることを見出した。
但し、介在物が大きすぎると、上記したSi等の合金成分を添加してもバタフライ型組織変化の形成を遅延する効果が少なくなる。そこで、極値統計法を用いて予測したときの、面積30000mmに存在する最大の酸化物系介在物の粒径を最適な範囲に規定した。基本的には、バタフライ型組織変化には酸化物系介在物が最も有害になるが、近年の製鋼技術の向上により酸化物系介在物の小径化が進んだ結果、相対的に硫化物系介在物の大きさも無視できなくなってきており、本発明では、硫化物系介在物の最大粒径の短径、アスペクト比と短径との比を最適な範囲に規定するとともに、硫化物系介在物の組織を規定した。
本発明はこのような知見に基づくものであり、本発明の転がり軸受は内輪、外輪及び転動体の少なくとも1つが、
C :0.85〜1.12質量%
Si:0.45〜0.81質量%
Mn:0.81〜1.49質量%
Cr:1.3〜1.9質量%
を必須成分として含み、任意成分として
Mo:0.1質量%以下(0質量%を含む)
Ni:0.3質量%以下(0質量%を含む)
Cu:0.2質量%以下(0質量%を含む)
S :0.025質量%以下(0質量%を含む)
P :0.020質量%以下(0質量%を含む)
O :15質量ppm以下(0質量ppmを含む)
を含み、残部が鉄及び不可避的不純物からなる鋼材組成を有するとともに、
極値統計法で予測したときの、面積30000mmに存在する最大の酸化物系介在物の面積の平方根が30μm以下であり、
被検面積320mmに存在する最大の硫化物系介在物の短径が5μm以下で、かつ、(アスペクト比/短径)の値が2.0以上であり、
硫化物系介在物が、MnS、MnS+CaS、MnS+MgSまたはMnS+CaS+MgSであり、かつ、Caが1.0質量%以下で、Mgが1.0質量%以下であり、
焼入れ・焼戻し後の表面の残留オーステナイト量が11〜20体積%であることを特徴とする。
本発明の転がり軸受は、介在物の存在をある程度許容しているため、新たな設備や工程を必要とせず、これまでの設備や工程をそのまま使用でき、コスト増を招くことなく、より厳しい使用環境においても介在物起点型剥離を防止することができる。
(アスペクト比/短径)の値と、寿命比との関係を示すグラフである。
以下、本発明に関して詳細に説明する。
本発明において転がり軸受の種類や構成には制限はなく、内輪、外輪及び転動体の少なくとも1つを下記に示す鋼材で形成する。
先ず、鋼材の合金組成について説明するが、鋼材はC、Si、Mn及びCrを必須成分として含む。
〔C:0.85〜1.12質量%〕
Cは焼入れによって基地に固溶し、硬さを向上させる元素であるが、鋼材中の含有量が0.85質量%未満であると焼入れ後の硬さが低下して、耐摩耗性や転がり疲労寿命が低下する。安定的に耐摩耗性や転がり疲労寿命を得るためには、C含有量を0.95質量%以上にすることが好ましい。但し、C含有量が1.12質量%を超えると、研削性の低下や破壊靭性値の低下が生じる。安定的に研削性を得るためには、C含有量を1.10質量%以下とすることが好ましい。
〔Si:0.45〜0.81質量%〕
Siは基地に固溶して焼入れ性及び焼戻し軟化抵抗性を向上させる効果があり、更に本発明において重要な基地組織のマルテンサイトを安定化させる効果があるため、介在物周辺に生じるバタフライ型組織変化の形成を遅延させて寿命を延長させる。但し、Si量が0.45質量%未満ではこの効果が得られない。また、0.81質量%を超えると球状化焼鈍後の硬さが上昇するため、旋削性及び冷間加工性が低下する。安定的に旋削性と冷間加工性を得るためには、Si量の上限を0.7質量%とすることが好ましい。
〔Mn:0.81〜1.49質量%〕
Mnは基地に固溶して焼入れ性を向上させる効果があり、更に本発明において重要な基地組織のマルテンサイトを安定化させる効果があるため、介在物周辺に生じるバタフライ型組織変化の形成を遅延させて寿命を延長させる。更に、熱処理後の残留オーステナイトを生成させる効果もある。残留オーステナイトは、表面起点型剥離に対して長寿命化する効果がある。但し、Mn量が0.81質量%未満ではこの効果が得られない。また、1.49質量%を超えると熱間鍛造時の変形抵抗が上昇して熱間鍛造性を低下させたり、残留オーステナイト量が過多になり、寸法安定性が低下する。安定的に熱間鍛造性と寸法安定性を得るために、Mn量の上限を1.30質量%とすることが好ましい。
〔Cr:1.3〜1.9質量%〕
Crは基地のマルテンサイト中に固溶する分と、球状化炭化物中に固溶する分とに分配される。基地に固溶したCrは、焼入れ性を向上させる効果があり、本発明においては更に基地組織のマルテンサイトを安定化させる効果があるため、介在物周辺に生じるバタフライ型組織変化の形成を遅延させて寿命を延長させる。但し、Cr量が1.3質量%未満ではこの効果が得られない。また、1.9質量%を超えると球状化焼鈍後の硬さが上昇するため、旋削性及び冷間加工性が低下する。安定的に旋削性と冷間加工性を得るためには、Cr量の上限を1.7質量%とすることが好ましい。
また、鋼材は任意成分としてMo、Ni、Cu、S、P及びOを含有する。
〔Mo:0.1質量%以下(0質量%を含む)〕
Moは基地に固溶して焼入れ性及び焼戻し軟化抵抗性を向上させる効果があり、更に本発明に置いて重要な基地組織のマルテンサイトを安定化させる効果があるため、介在物周辺に生じるバタフライ型組織変化の形成を遅延させて寿命を延長させる。しかし、Moは高価な元素であるため、その含有量を0.1質量%以下とする。
〔Ni:0.3質量%以下(0質量%を含む)〕
Niは焼入れ性と向上させる効果とオーステナイトを安定化させる効果と有し、多量に添加することにより靭性を向上させる。しかし、Niは非常に高価な元素であるため、鋼材コストを上昇させる。そのため、本発明ではNiを積極的に添加せず、0.3質量%以下とする。
〔Cu:0.2質量%以下(0質量%を含む)〕
Cuは焼入れ性と粒界強度を向上させる効果があるが、過多になると熱間鍛造性が低下する。そのため、本発明ではCu量を0.2質量%以下とする。
〔S:0.025質量%以下(0質量%を含む)〕
SはMnSを形成し、介在物として作用するため、鋼材中の添加量は少ない方が好ましい。しかし、S量を少なくするには鋼材の生産性が下がり、鋼材コストが上昇するため、工業上広く利用することが難しくなる。そのため、本発明ではS量を0.025質量%以下とする。
〔P:0.020質量%以下(0質量%を含む)〕
Pは結晶粒界に偏析して粒界強度や破壊靭性値を低下させるため、鋼材中の添加量は少ない方が好ましい。そのため、本発明ではP量を0.020質量%以下とする。
〔O:15質量ppm以下(0質量ppmを含む)〕
Oは、鋼材中でAl等の酸化物系の介在物を形成する。酸化物系介在物は剥離の起点となり、転動疲労寿命に影響を及ぼすのでO量は少ない方が好ましい。しかし、O量を少なくするには鋼材の生産性が下がり、鋼材コストが上昇するため、工業上広く利用することが難しくなる。そのため、本発明ではO量を15質量ppm以下とする。
鋼材の残部は鉄及び不可避的不純物であるが、更に下記の組織的特徴を備える。
〔極値統計法で予測したときの、面積30000mmに存在する最大の酸化物系介在物の面積の平方根が30μm以下〕
極値統計法は、正規分布、指数分布、対数分布等に従う集合に対して最大値及び最小値等の極値を予測する手法であり、鋼材中に含まれる介在物の最大径を予測する手法として非常に有効であることが知られている(「金属疲労 微小欠陥と介在物の影響」村上敬宣著、養賢堂(1993))。また、転がり軸受の介在物起点型剥離においては、極値統計法で予測した最大介在物径と転動疲労寿命には良い相関が見られることが知られている(長尾ら、Sanyo Technical Report,Vol.12,No.1,pp38(2005)).
本発明では、この極値統計法により予測したときに、面積30000mmに存在する最大の酸化物系介在物の面積の平方根を30μm以下とする。最大の酸化物系介在物の面積の平方根が30μmを越えると転動疲労を受けた際に、バタフライ型組織変化が生じず、酸化物系介在物から直接疲労亀裂が発生するため、鋼材組成が上記を満足しても長寿命効果が得られない。
尚、酸化物系介在物の面積とは、近似的に酸化物系介在物を長方形と仮定して求め、その平方根を求めることで酸化物系介在物の粒径とする。また、極値統計を行う際には、日本トライボロジー学会の「軸受鋼における介在物の評価研究会」の提案に従う。即ち、鋼材断面の観察面積100mmに存在する最大の酸化物系介在物を求め、それを鋼材の30箇所の断面にて実施して、それぞれの観察断面における最大の酸化物系介在物を求め、小さい介在物から順に極値統計グラフにプロットし、最小二乗法を用いて最大介在物分布直線を求める。そして、同直線から、面積30000mmに存在する最大の酸化物系介在物を求める。
また、鋼材中に酸化物系介在物と硫化物系介在物とが混在する場合もあるが、その場合は個別に取り扱う。即ち、酸化物系介在物の部分は酸化物系介在物の大きさとして測定し、硫化物系介在物の部分は硫化物系介在物の大きさとして測定する。
〔被検面積320mmに存在する最大の硫化物系介在物の短径が5μm以下で、かつ、その(アスペクト比/短径)の値が2.0以上であり、かつ、硫化物系介在物の組成がMnS、MnS+CaS、MnS+MgSまたはMnS+CaS+MgSからなり、Caが1.0質量%以下で、Mgが1.0質量%以下である〕
近年の製鋼技術の向上により酸化物系介在物が小径化した結果、相対的に硫化物系介在物の大きさも無視できなくなってきている。また、本発明者らは非金属介在物が基地と隙間を生じないことが寿命に有効であることを発見した。非金属介在物と基地との隙間が生じない場合、転がり疲労を受けても非金属介在物が応力集中源とならず、バタフライ型組織変化が発生しにくくなる。しかし、非金属介在物と基地との間に隙間が生じると、隙間が空洞と同じように作用するため転がり疲労強度が低下する。介在物が粗大な場合、また、介在物のアスペクト比が小さい場合には、酸化物系介在物と同様に圧延や鍛造時に基地との隙間が生じやすい。
本発明では、硫化物系介在物の短径が5μmより大きい場合、または(アスペクト比/短径)の値が2より小さい場合は、基地との間に隙間が生じ、転がり疲労を受けた際に応力集中が生じてバタフライ型組織変化が生じやすくなり、転がり疲労寿命が低下する。尚、硫化物系介在物の短径が小さい場合は、硫化物系介在物のアスペクト比が小さくても基地との間に隙間が生じにくいため、(アスペクト比/短径)の値を2.0以上とした。
また、硫化物系介在物のアスペクト比を大きくするためには、硫化物系介在物の変形能が大きい方が良く、そのためには硫化物系介在物の変形能を小さくする介在物内のCa量、Mg量をそれぞれ1質量%以下とする。Ca量またはMg量が1質量%を超えると、硫化物系介在物の変形能が小さくなり、硫化物系介在物のアスペクト比が小さくなるため、基地と硫化物系介在物との間に隙間が生じやすくなる。
尚、本発明では、硫化物系介在物について、極値統計法による予測値ではなく、目視検査における被検面積320mmで規定している。短径が大きな硫化物系介在物が寿命に影響を及ぼす可能性が最も大きいため、被検面積320mmにおける短径が最大の硫化物系介在物について規定している。
好ましくは、被検面積320mmに存在する短径が最大の硫化物系介在物の短径が3μm以下で、かつ、介在物組成においてCa量が0.8質量%以下、Mg量が0.8質量%以下である。
〔焼入れ焼戻し後の残留オーステナイト量が11〜20体積%〕
鋼材中の残留オーステナイトは、基地組織であるマルテンサイトよりも軟質であるため、表面の圧痕縁への応力集中を緩和する。従って、圧痕縁を起点とした亀裂の発生を抑制できるので、表面起点型剥離寿命を延長する効果がある。残留オーステナイト量が11体積%未満では、介在物起点型剥離よりも表面起点型剥離が先に生じる可能性が高い。しかし、残留オーステナイト量が20体積%を超えると寸法安定性が低下する。従って、良好な寸法安定性と表面起点型剥離寿命を得るために、残留オーステナイト量を11〜20体積%とすることが好ましく、より好ましくは11〜15体積%とする。尚、残留オーステナイト量の測定は、軸受の軌道面の一部を切り出した後、軌道面表面を電解研磨してX線回折装置を用いて行うことができる。
但し、本発明の転がり軸受を高温条件下で使用する場合は、寸法安定性を重視して、残留オーステナイト量を10体積%未満に調整することが好ましい。
更に、本発明においては、焼入れ焼戻し後の硬さがHv697〜800であることが好ましい。バタフライ型組織変化は、介在物周辺の応力集中によって生じる大きなせん断力が、基地のマルテンサイト組織に繰り返し負荷され、それによりマルテンサイト組織中の転位と固溶炭素が動かされ、超微細なフェライト組織に変化する現象である。基地組織の硬さを向上させることは、せん断応力に対して転位と固溶炭素を動き難くすることにより、バタフライ型組織変化が生じるのを遅延させることができる。硬さがHv697未満では、この効果が十分ではなく、バタフライ型組織変化が生じやすくなり、転がり疲労寿命が低下する。しかし、Hv800を超えると硬すぎて研削性と破壊靭性値が低下する。
尚、本発明の転がり軸受を作製するには、上記した組成の鋼材を用い、熱間加工及び旋削加工により内輪や外輪、転動体を完成形状に近づけた後、焼入れ焼戻し処理を行って規定の表面硬さにする。その後、研削加工を行い、完成形状に仕上げる。
焼入れ焼戻し条件は、前記した残留オーステナイト量や硬さに調整できれば制限はないが、設備や生産性を考慮すると従来から広く使用されているSUJ2での処理条件に従うことが好ましい。即ち、焼入れは、820〜860℃で所定の時間保持した後、油冷する。安定的に残留オーステナイト量や硬さ、更には残存する球状化炭化物の割合を好適な範囲にするためには、保持温度を830〜850℃とする。また、焼戻しは、160〜200℃で所定の時間保持した後、空冷あるいは徐冷する。焼戻し温度が160℃未満であると、残留オーステナイト量が過多になり寸法安定性が低下する。一方、焼戻し温度が200℃を超えると、残留オーステナイト量が低下して表面起点型剥離の原因となる圧痕縁への応力集中を緩和する効果が得られなくなる。
但し、本発明の転がり軸受を高温条件下で使用する場合、寸法安定性を重視して残留オーステナイト量を10体積%未満に調整するには、200〜290℃で焼戻しを行う。
本発明において転がり軸受の種類に制限はなく、深溝玉軸受、アンギュラ玉軸受、スラスト玉軸受等の玉軸受、円筒ころ軸受や円錐ころ軸受、自動調心ころ軸受等のころ軸受、あるいはニードル軸受等に適用可能であるが、玉軸受の場合は、軌道輪の溝形状を以下のようにすると好適である。
転がり軸受では、寿命だけでなく、低トルクが求められる場合がある。玉軸受を低トルクにするためには、玉の直径に対する軌道溝の曲率半径の比を大きくして玉と軌道輪との接触面積を小さくすることが有効である。しかし、玉の直径に対する軌道溝の曲率半径の比を大きくして接触面積を小さくすると、接触面圧が大きくなる。そのため、材料内部の介在物を起点としてバタフライ型組織変化が発生しやすくなり、寿命が低下する。本発明の転がり軸受ではバタフライ型組織変化が起こり難いため、玉の直径に対する軌道溝の曲率半径の比を大きくしても寿命が低下し難い。従って、低トルクでの回転が求められる用途、例えば、モータ用軸受、自動車のトランスミッション用軸受や工作機械用軸受等に好適である。
具体的には、玉の直径に対する軌道溝の曲率半径の比は、通常の軸受鋼で形成された玉軸受では51〜53%である。しかし、本発明によればこの比を53〜54%に高めても、一般的な鋼で作製された玉の直径に対する軌道溝の曲率半径の比が52%の玉軸受と同等以上の寿命が得られるので、低トルク化を実現できる。
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明を更に説明するが、本発明はこれにより何ら制限されるものではない。
(1)旋削性評価試験
表1に示す合金組成の鋼材(残部は鉄及び不可避的不純物)を用いて球状化焼鈍を行った後、旋削試験を行った。この旋削試験では、各鋼材からなる棒の外周を、下記条件にて20分間旋削し、そのときの切削工具の逃げ面摩耗量を測定した。
・切削工具:超硬(P20)
・周速:150m/min
・切り込み:1.0mm
・送り:0.2mm/rev
・潤滑:乾式
また、鋼材断面を観察し、極値統計法を用いて30000mmに存在する最大酸化物系介在物の平方根を求めた。更に、320mmに存在する最大の硫化物系介在物を抽出し、その短径及び(アスペクト比/短径)値を算出するとともに、化学分析によりCa量及びMg量を測定した。結果を表2に示す。
旋削性評価試験の結果を、表2の旋削量に示す。比較例5はJIS−SUJ2と同成分の鋼材Oを使用しているが、実施例1〜10の鋼材は本発明の組成範囲であり、品質(最大酸化物系介在物の面積の平方根、最大硫化物系介在物の短径及び(アスペクト比/短径)、硫化物系介在物の組成、残留オーステナイト量)も本発明の範囲内であり、球状化焼鈍後の旋削性は比較例5とほぼ同程度のレベルである。これに対し比較例1はSi量が本発明で規定する量よりも多いため、旋削試験における工具の逃げ摩耗量が大きく、旋削性に劣る。また、比較例2はCr量が本発明で規定する量より多いため、旋削試験における工具の逃げ摩耗量が大きく、旋削性に劣る。
(2)熱処理試験
表1に示す合金組成の鋼材を用いて球状化焼鈍を行った後、直径60mm、厚さ6mmの円板試験片を作製した。この円板試験片を表2に示す焼入れ温度及び焼戻し温度にて熱処理を行った、尚、焼入れ時の保持時間は40分、焼戻し時の保持時間は2時間である。この熱処理条件は、JIS−SUJ2の熱処理条件とほぼ同条件である。
焼入れ焼戻し後の残留オーステナイト量を表2に示すが、実施例1〜10では、JIS−SUJ2と同等の条件で熱処理しても良好な残量オーステナイト量が得られている。これに対し比較例3及び比較例8は、合金組成が本発明の範囲外であり、残留オーステナイト量が本発明の範囲よりも大きくなっている。そのため、寸法安定性に劣り、転がり軸受として長時間使用することができないと考えられる。
(3)研削性試験
表1に示す合金組成の鋼材を用いて、深溝玉軸受6206(内径30mm、外径62mm、幅16mm)の内輪及び外輪を作製した。その際、鋼材に球状化焼鈍を行った後、旋削加工及び焼入れ焼戻しを行い、最後に研削加工を行って最終形状とした。そして、研削加工後の溝の粗さを測定して研削性の評価とした。尚、溝粗さの測定では、算術平均粗さ(Ra)を指標とし、内輪と外輪の溝を軸方向3ケ箇所について測定し、その平均値を算出した。
結果を表2の溝粗さに示すが、実施例1〜10では、溝粗さがJIS−SUJ2と同成分の比較例5と同程度の値であり、研削性に優れている。一方、比較例7の鋼材は、C量が本発明で規定する量よりも多く、硬さが実施例よりも高いため、溝粗さが悪くなっており研削性に劣っている。そのため、転がり軸受として長時間使用することができないと考えられる。
(4)軸受寿命試験
表1に示す合金組成の鋼材を用いて、深溝玉軸受6206(内径30mm、外径62mm、幅16mm)の内輪及び外輪を作製し、JIS−SUJ2製の玉(玉径9.525mm)及び樹脂製保持器を組み合わせて試験軸受を作製した。そして、下記条件にて寿命試験を行い、累積破損確率が10%となる寿命(L10寿命)を求めた。尚、試験軸受の個数は実施例及び比較例とも4〜8個であり、その平均寿命を求めた。
・ラジアル荷重:13.8kN
・回転数:3900min−1
・潤滑油:ISO−VG68相当の鉱油(強制循環方式)
但し、旋削性に劣る比較例1及び比較例2、寸法安定性に劣る比較例3及び比較例8、研削性に劣る比較例7については、他の試験による評価に劣るため、寿命試験を行っていない。
尚、この軸受寿命試験において剥離した試験軸受について、剥離部の表面を観察したところ、剥離を引き起こす圧痕は見られず、剥離部断面にも水素によって生じる白色組織も見られなかった。しかし、剥離部断面の近傍に、介在物を起点とするバタフライ型組織変化が見られた。これらのことから、試験軸受には、介在物を起点する剥離が生じたものと推定される。
結果を比較例5の寿命に対する相対値で示すが、実施例1〜10では、合金組成及び品質が本発明の範囲であるため、介在物起点型剥離に対して長寿命である。中でも、実施例1〜4は、合金組成、最大硫化物系介在物の短径及び組成(Ca量、Mg量)、残留オーステナイト量がより好ましい範囲であり、特に長寿命となっている。
これに対し比較例4、5、6では、合金組成が本発明の範囲外であるため、バタフライ型組織変化が起こり易く寿命も短い。また、比較例9及び比較例14は、硬さが本発明で規定する値よりも低く、介在物周辺への応力集中によってバタフライ型組織変化が生じやすく、寿命が短くなっている。また、比較例10は酸化物系介在物が本発明の範囲よりも大きく、比較例11及び比較例12は硫化物系介在物の短径が本発明の範囲よりも大きいため、何れも寿命が短くなっている。また、比較例13は、硫化物系介在物の(アスペクト比/短径)及び組成が本発明の範囲外であり、寿命が短くなっている。
また、比較例5及び実施例3について剥離部の近傍を観察したところ、比較例5では硫化物系介在物の周辺にバタフライ型組織変化と見られる白い部分が見えたのに対し、実施例3で硫化物系介在物の粒径は同程度であるものの、白い部分が小さく、バタフライ型組織変化の形成が遅延していると推定される。
Figure 2015232156
Figure 2015232156
また、図1に(アスペクト比/短径)の値と寿命との関係を示すが、(アスペクト比/短径)の値が、2.0以上で長寿命になっている。
以上より、鋼材組成、極値統計法で予測される最大酸化物系介在物の大きさ(平方根)、最大硫化物系介在物の短径及び(アスペクト比/短径)、組成、残留オーステナイト量を本発明の範囲にすることにより、介在物周辺でのバタフライ型組織変化の形成を遅延させて、介在物起点型剥離に対して長寿命の転がり軸受を提供することができることがわかる。

Claims (1)

  1. 内輪と外輪との間に、保持器を介して配設される転動体を備える転がり軸受において、
    内輪、外輪及び転動体の少なくとも1つが、
    C :0.85〜1.12質量%
    Si:0.45〜0.81質量%
    Mn:0.81〜1.49質量%
    Cr:1.3〜1.9質量%
    を必須成分として含み、任意成分として
    Mo:0.1質量%以下(0質量%を含む)
    Ni:0.3質量%以下(0質量%を含む)
    Cu:0.2質量%以下(0質量%を含む)
    S :0.025質量%以下(0質量%を含む)
    P :0.020質量%以下(0質量%を含む)
    O :15質量ppm以下(0質量ppmを含む)
    を含み、残部が鉄及び不可避的不純物からなる鋼材組成を有するとともに、
    極値統計法で予測したときの、面積30000mmに存在する最大の酸化物系介在物の面積の平方根が30μm以下であり、
    被検面積320mmに存在する最大の硫化物系介在物の短径が5μm以下で、かつ、(アスペクト比/短径)の値が2.0以上であり、
    硫化物系介在物が、MnS、MnS+CaS、MnS+MgSまたはMnS+CaS+MgSであり、かつ、Caが1.0質量%以下で、Mgが1.0質量%以下であり、
    焼入れ・焼戻し後の表面の残留オーステナイト量が11〜20体積%であることを特徴とする転がり軸受。
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WO2016088724A1 (ja) * 2014-12-04 2016-06-09 日本精工株式会社 洗濯機用転がり軸受

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