JP2015090207A - 転がり軸受 - Google Patents

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慎治 藤田
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Abstract

【課題】生産性が良好であることに加えて、内部起点型剥離が生じにくく長寿命な転がり軸受を提供することを課題とする。
【解決手段】転がり軸受に用いられる鋼の成分組成に加え、鋼の硬さ、及び、体積35000mm中に存在する酸化物系介在物のうち、最大酸化物系介在物を極値統計法により予測し、前記予測した最大酸化物系介在物の面積の平方根を25μm以上19.7α+1.2μm以下に規定した。これらのことによって、本発明の転がり軸受は、生産性が良好であることに加えて、内部起点型剥離が生じにくく長寿命である。
【選択図】図2

Description

本発明は、転がり軸受に関する。
一般に、転がり軸受では、荷重が負荷されて長時間使用されることによって金属疲労が生じ、軌道面表面や転動体表面に剥離が生じる場合がある。剥離が生じるメカニズムとしては、従来から表面起点型剥離、白色組織剥離、及び、内部起点型剥離がよく知られている。表面起点型剥離は、潤滑油中に異物が混入することにより軌道面に生じた圧痕の圧痕ふちで応力集中が生じ、それを起点として疲労亀裂が生じて剥離に至る現象である。
白色組織剥離は、水素が鋼中に侵入し、金属組織の変化を引き起こすことにより、水素脆性を生じて、組織変化部と正常部の界面から疲労亀裂が生じて剥離に至る現象である。
内部起点型剥離は、材料内部の非金属介在物周辺に応力集中が生じた結果、バタフライと呼ばれる組織変化(以下は、バタフライ型組織変化と称する。)が生じ、その界面に沿って疲労亀裂が発生及び進展して剥離に至る現象である。
これらの剥離形態は、それぞれ異なるメカニズムで生じるため、それぞれ異なる対策が必要である。
内部起点型剥離の対策としては、材料内部の非金属介在物の大きさを小さくしたり、量を少なくしたりすることが効果的である。
例えば、特許文献1には、鋼の320mm中に含まれる厚み1μm以上の硫化物系非金属介在物の個数を規定し、酸化物系非金属介在物の最大径を10μm以下に規定することにより長寿命化した軸受用鋼が開示されている。
また、特許文献2には、鋼の320mm中に含まれる酸化物系非金属介在物の数を100〜200個と規定し、更に不純物元素であるアンチモン(Sb)量を規定することにより長寿命化した軸受用鋼が開示されている。
また、特許文献3には、極値統計法を用いて、鋼の30000mm中に含まれる酸化物系非金属介在物のうち最大の酸化物系非金属介在物の最大径を予測し、その予測最大径を5μm以下に規定した軸受用鋼を用いることにより長寿命化した転がり軸受が開示されている。
また、特許文献4には、極値統計法を用いて、鋼の30000mm中に含まれる硫化物系非金属介在物のうち最大の硫化物系非金属介在物の最大径を予測し、その予測最大径を40μm以下とし、更に、酸化物、硫化物及び窒化物の各介在物のうち最大の非金属系介在物の最大径を予測し、その予測最大径を60μm以下とすることにより、転動疲労寿命を向上した鋼材が開示されている。
また、特許文献5には、水素を鋼中に侵入させた試験片を用いた、引張試験による介在物検査方法が開示されている。
特許第3338761号公報 特許第3779078号公報 特開2003−232367号公報 特開2006−063402号公報 特開2010−217076号公報
しかしながら、特許文献1及び2のように、鋼中の微小な面積中に含まれる非金属介在物の数や大きさを制限しても、実際の転がり軸受においては、高応力部に含まれる最大の非金属介在物を起点として剥離が生じるため、非金属介在物を起点とする剥離が予測外に生じるという問題があった。
また、特許文献3のように、極めて清浄度の高い鋼材を製造するには、鋼中の酸素量や硫黄量の低減が不可欠である。しかし、現在の工業レベルでは、鋼中の酸素量や硫黄量を低減する技術はすでに限界に達しており、さらなる酸素量や硫黄量の低減のためには、設備や工程を更に改良することが必要となるため、鋼材価格の上昇を招き、工業上広く利用することが難しいという問題があった。
また、特許文献4のように、ある程度の大きさの非金属介在物を許容する場合、厳しい使用条件においては、許容した非金属介在物を起点としてバタフライ型組織変化が生じ、剥離に至る場合がある。
さらに、特許文献3及び4では、検査面積が100〜500mm程度であり、このように検査面積が小さい場合は、得られる非金属介在物と剥離の起点となる非金属介在物の種類が異なる場合がある。一方、検査面積を大きくすることや、検査回数を増やすことで非金属介在物のデータは高性能になるが、時間とコストがかかってしまうという問題があった。
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、生産性が良好であることに加えて、内部起点型剥離が生じにくく長寿命な転がり軸受を提供することを課題とする。
以上の課題を解決するため、本発明の一態様に係る転がり軸受は、内輪と、外輪と、前記内輪と前記外輪との間に転動自在に配設された複数の転動体と、を備える転がり軸受において、前記内輪,前記外輪,及び前記転動体のうち少なくとも1つが、下記の4つの条件を満たす鋼で構成されていることを特徴とする。
条件1:濃度0.85質量%以上1.15質量%以下の炭素、濃度0.20質量%以上0.90質量%以下のケイ素、濃度0.20質量%以上1.40質量%以下のマンガン、濃度1.30質量%以上1.90質量%以下のクロム、濃度0.30質量%以下のモリブデン、濃度0.30質量%以下のニッケル、濃度0.20質量%以下の銅、濃度0.025質量%以下のイオウ、濃度0.020質量%以下のリン、濃度15質量ppm以下の酸素を含有し、残部が鉄及び不可避的不純物である。
条件2:焼入れ及び焼戻しが施されており、焼入れ焼戻し後の硬さがHv697以上800以下である。
条件3:ケイ素、マンガン、クロム及びモリブデンの各濃度(質量%)を、それぞれ[Si]、[Mn]、[Cr]、[Mo]とし、α=2[Si]+[Mn]+0.7[Cr]+3[Mo]とした時、2.5≦α≦3.8である。
条件4:体積35000mm中に存在する酸化物系介在物のうち極値統計法により予測される最大の酸化物系介在物の面積の平方根が、25μm以上19.7α+1.2μm以下である。
また、上記転がり軸受は、前記鋼の焼入れ及び焼戻し後の残留オーステナイト量を11体積%以上20体積%以下としてもよい。
本発明は、転がり軸受に用いられる鋼の成分組成に加え、鋼の硬さ、及び、体積35000mm中に存在する酸化物系介在物のうち、最大酸化物系介在物を極値統計法により予測し、前記予測した最大酸化物系介在物の面積の平方根を25μm以上19.7α+1.2μm以下に規定した。これらのことによって、本発明の転がり軸受は、生産性が良好であることに加えて、内部起点型剥離が生じにくく長寿命である。
本発明の一実施形態である転がり軸受の構造を示す部分縦断面図である。 αと、体積35000mm中に存在する酸化物系介在物のうち極値統計法により予測される最大の酸化物系介在物の面積の平方根の関係を示した図である。 比較例1の剥離部の近傍に観察された非金属介在物とバタフライ型組織変化を示した図である。 実施例2の剥離部の近傍に観察された非金属介在物とバタフライ型組織変化を示した図である。
本発明に係る転がり軸受の実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。図1は、本発明に係る転がり軸受の一実施形態である深溝玉軸受の構造を示す部分縦断面図である。
図1の深溝玉軸受は、外周面に軌道面1aを有する内輪1と、内輪1の軌道面1aに対向する軌道面2aを内周面に有する外輪2と、両軌道面1a,2a間に転動自在に配された複数の転動体3と、両軌道面1a,2a間に転動体3を保持する保持器4と、ゴムシール等の密封装置5,5と、を備えている。なお、保持器4及び密封装置5は、備えていなくてもよい。
また、本実施形態の転がり軸受は、内輪1、外輪2、及び、転動体3のうち少なくとも1つが下記の4つの条件を満たす鋼で構成されている。
条件1:濃度0.85質量%以上1.15質量%以下の炭素、濃度0.20質量%以上0.90質量%以下のケイ素、濃度0.20質量%以上1.40質量%以下のマンガン、濃度1.30質量%以上1.90質量%以下のクロム、濃度0.30質量%以下のモリブデン、濃度0.30質量%以下のニッケル、濃度0.20質量%以下の銅、濃度0.025質量%以下のイオウ、濃度0.020質量%以下のリン、濃度15質量ppm以下の酸素を含有し、残部が鉄及び不可避的不純物である。
条件2:焼入れ及び焼戻しが施されており、焼入れ焼戻し後の硬さがHv697以上800以下である。
条件3:ケイ素、マンガン、クロム及びモリブデンの各濃度(質量%)を、それぞれ[Si]、[Mn]、[Cr]、[Mo]とし、α=2[Si]+[Mn]+0.7[Cr]+3[Mo]とした時、2.5≦α≦3.8である。
条件4:体積35000mm中に存在する酸化物系介在物のうち極値統計法により予測される最大の酸化物系介在物の面積の平方根が、25μm以上19.7α+1.2μm以下である。
以下に、条件1〜4について説明する。
[炭素の含有量について]
炭素(C)は、焼入れによって基地に固溶し、転がり軸受として要求される硬さを得るための元素である。また、他の合金元素と結合して鋼中に硬い炭化物を形成し、耐摩耗性を向上させる効果も有する。こうした効果を得るためには、炭素の含有量は0.85質量%以上1.15質量%以下であることが必要であり、好ましくは0.95質量%以上1.10質量%以下である。炭素の含有量が0.85質量%未満であると、焼入れ後の硬さが低下して、転動疲労寿命と耐摩耗性が低下する恐れがある。一方、炭素の含有量が1.15質量%を超えると、鋼中に共晶炭化物が生成されやすくなって、転動疲労寿命が低下する恐れがある。また、冷間加工性、研削性、及び破壊靭性も低下する恐れがある。
[ケイ素の含有量について]
ケイ素(Si)は、基地に固溶して、焼入れ性を向上させるとともに焼戻し軟化抵抗性を向上させる元素である。また、本発明において重要な基地組織のマルテンサイトを安定化させるため、非金属介在物周辺に生じるバタフライ型組織変化を遅延させて転動疲労寿命を向上する効果がある。また、基地組織を強化し、転動疲労寿命と耐摩耗性を向上させる効果も有する。
こうした効果を得るためには、ケイ素の含有量は0.20質量%以上0.90質量%以下であることが必要である。ケイ素の含有量が0.20質量%未満であると、これらの効果が十分に得られない恐れがある。一方、ケイ素の含有量が0.9質量%を超えると、球状化焼きなまし後の硬さが上昇するため、冷間加工性及び旋削性が低下する恐れがある。なお、ケイ素の含有量は、好ましくは0.40質量%以上0.80質量%以下である。ケイ素の含有量が0.40質量%以上であると、転動疲労寿命をより向上することができ、0.80質量%以下であると、より十分な旋削性と冷間加工性を得られるからである。
[マンガンの含有量について]
マンガン(Mn)は、基地に固溶して、焼入れ性を向上させる元素である。また、本発明において重要な基地組織のマルテンサイトを安定化させ、非金属介在物周辺に生じるバタフライ型組織変化を遅延させて転動疲労寿命を向上する効果がある。さらに、熱処理後の鋼の表面の残留オーステナイトの形成を助け、安定化させる効果も有する。さらに、生成された残留オーステナイトは、表面起点型剥離を遅延させて転動疲労寿命を向上する効果がある。
こうした効果を得るためには、マンガンの含有量は0.20質量%以上1.40質量%以下であることが必要である。マンガンの含有量が0.20質量%未満であると、上記の効果が不十分となる恐れがある。一方、マンガンの含有量が1.40質量%を超えると、熱間鍛造時の変形抵抗が上昇するため、熱間鍛造性が低下する恐れがある。さらに、焼入後の残留オーステナイト量が多くなり過ぎて、寸法安定性が低下する恐れがある。
なお、マンガンの含有量は、好ましくは0.55質量%以上1.20質量%以下である。マンガンの含有量が0.55質量%以上であると、より十分な寸法安定性を得られるからであり、1.20質量%以下であると、より十分な熱間鍛造性を得られるからである。
[クロムの含有量について]
クロム(Cr)は、基地に固溶して、焼入れ性、耐食性等を向上させるとともに、炭素と結合して鋼中に硬い炭化物を形成し、耐摩耗性を向上させる元素である。また、炭化物と本発明において重要な基地組織のマルテンサイトを安定化させるため、非金属介在物周辺に生じるバタフライ型組織変化を遅延させる。
こうした効果を得るためには、クロムの含有量は1.30質量%以上1.90質量%以下であることが必要である。クロムの含有量が1.30質量%未満であると、上記の効果が不十分となる恐れがある。一方、クロムの含有量が1.90質量%を超えると、球状化焼きなまし後の硬さが上昇するため、冷間加工性及び旋削性が低下する恐れがある。なお、より十分な冷間加工性及び旋削性を得るためには、クロムの含有量は好ましくは、1.7質量%以下である。
[モリブデンの含有量について]
モリブデン(Mo)は、基地に固溶して、焼入れ性、耐食性、焼戻し軟化抵抗性等を向上させるとともに、炭素や窒素と結合して鋼中に硬い炭窒化物を形成し、耐摩耗性及び転動疲労寿命を向上させる元素である。また、本発明において重要な基地組織のマルテンサイトを安定化させるため、非金属介在物周辺に生じるバタフライ型組織変化を遅延させて転動疲労寿命を向上する効果がある。しかし、モリブデンの含有量が0.30質量%を超えると、モリブデンの一部が硬い炭化物を形成し、研削性が低下する恐れがある。また、モリブデンは非常に高価な元素であるため鋼材のコストアップが生じる。そのため、本実施形態では、添加されるモリブデンの含有量は0.30質量%以下とする。
[ニッケルの含有量について]
ニッケル(Ni)は、焼入れ性を向上させるとともに、オーステナイトを安定化させるのに有効な元素であり、鋼材の靭性を向上させる。しかし、非常に高価な元素であるため鋼材のコストアップが生じる。そのため、本実施形態では、添加されるニッケルの含有量は0.30質量%以下とする。
[銅の含有量について]
銅(Cu)は、焼入れ性を向上させるとともに、粒界強度を向上させる効果がある。しかし、含有量が多くなると熱間鍛造性を低下させる。そのため、本実施形態では、添加される銅の含有量を0.20質量%以下とする。
[イオウの含有量について]
イオウ(S)は、凝固時、熱処理時にマンガンと結合してMnSを形成し介在物として作用するため、鋼中のイオウの含有量は少ない方が好ましい。しかし、イオウの含有量を更に少なくしようとすると、設備や工程のさらなる改良が必要となるため、鋼材の生産性が下がり、鋼材コストが上昇するため、工業上広く利用することが難しくなる。そのため、本実施形態では、添加されるイオウの量を0.025質量%以下とする。
[リンの含有量について]
リン(P)は、結晶粒界に偏析して、粒界強度や破壊靭性値、ならびに転動疲労寿命を低下させることから、鋼中のリンの含有量は少ない方が好ましい。そのため、本実施形態では、添加されるリンの含有量を0.020質量%以下とする。
[酸素の含有量について]
酸素(O)は、酸化アルミニウム(Al)等の硬質の酸化物系非金属介在物を生成して剥離の起点となり、転動疲労寿命を低下させることから、鋼中の酸素の含有量は少ない方が好ましい。しかし、酸素の含有量を更に少なくしようとすると、設備や工程のさらなる改良が必要となるため、鋼材の生産性が下がり、鋼材コストが上昇するため、工業上広く利用することが難しくなる。そのため、本実施形態では、添加される酸素の含有量を15質量ppm以下とする。
[焼入れ焼戻し後の硬さがHv697以上800以下であることについて]
本発明者らは、バタフライ型組織変化は、非金属介在物周辺の応力集中によって生じる大きなせん断応力が、基地組織のマルテンサイトに繰り返し負荷され、マルテンサイト組織中の転位や固溶炭素が動かされることにより、超微細なフェライト組織に変化する現象であることに着目した。したがって、基地組織の硬さを向上することは、せん断応力によるマルテンサイト組織中の転位や固溶炭素の動きを抑制することにつながり、非金属介在物周辺に生じるバタフライ型組織変化を遅延させる効果がある。
こうした効果を得るためには、焼入れ焼戻し後の硬さがHv697以上800以下である必要がある。焼入れ焼戻し後の硬さがHv697未満であると、上記の効果が不十分となる恐れがある。そのため、バタフライ型組織変化が生じやすく、転動疲労寿命が低下する恐れがある。一方、焼入れ焼戻し後の硬さがHv800を超えると、研削性及び破壊靭性が不十分となる恐れがある。
[条件3について]
本発明者らは、種々の成分組成の鋼材を用いて、後述するバタフライ型組織変化による内部起点型剥離寿命評価試験を行った。これにより、内部起点型剥離寿命に及ぼす各合金元素の効果を定量化することに成功した。すなわち、すなわち、Si、Mn、Cr、Moの各合金元素の内部起点型剥離寿命を向上させる効果を含有量の比で表わすと、Si:Mn:Cr:Mo=2:1:0.7:3となることがわかった。
さらに、Si、Mn、Cr、Moの各濃度(質量%)を、それぞれ[Si]、[Mn]、[Cr]、[Mo]とした時、下記の式1により算出されるαの値が大きいほど、基地組織のマルテンサイトに固溶する合金元素の量が多くなるため、基地組織がより安定化し、バタフライ型組織変化の発生が遅延し内部起点型剥離寿命が向上する。
α=2[Si]+[Mn]+0.7[Cr]+3[Mo]・・・(式1)
SiとMoが、MnとCrよりも寿命を向上させる効果が大きいのは、原子半径の差が鉄と比して大きいため、置換元素として結晶構造中に固溶すると、転位及び固溶炭素の動きを抑制する効果がより大きいためと推測される。
また、上記αの値が、下記の式(式2)を満たすことにより、バタフライ型組織変化による内部起点型剥離寿命を向上することができる。
2.5≦α≦3.8・・・(式2)
上記αの値が2.5未満であると、バタフライ型組織変化による内部起点型剥離寿命を向上させる効果が不十分となる恐れがある。しかしながら、3.8を超えると、基地組織のマルテンサイトに固溶している合金元素量が過多になるため、研削性の低下や、残留オーステナイトが過多になることによる寸法安定性の低下の恐れがある。そのため、安定的に内部起点型剥離寿命を向上させ、良好な研削性を得るためには、αの値を2.5以上3.8以下とする。
[条件4について]
極値統計法は、正規分布、指数分布、対数分布などにしたがう集合に対して、最大値又は最小値などの極値を予測する手法であり、鋼中に含まれる非金属介在物の最大径を予測する手法として非常に有効であることが知られている[参考文献:金属疲労 微小欠陥と介在物の影響,村上敬宜著,養賢堂(1993)]。
また、転がり軸受の内部起点型剥離においては、極値統計法で予測した最大介在物径と転動疲労寿命に高い相関が見られることが知られている[参考文献:長尾ら, Sanyo Technical Report, Vol.12,No.1,p.38(2005)]。特に、酸化物系の非金属介在物は、転動疲労寿命に最も悪影響をもたらすことが知られている。
軸受鋼における非金属介在物の評価については、日本トライボロジー学会の「軸受鋼における非金属介在物の評価法研究会(略称EIBS研究会)」において、2次元的な介在物検査方法が提案されており、鋼材断面の観察面積を3000mmとしている。ここで、検査面積が小さい場合あるいは検査回数が少ない場合においては、得られる極値統計グラフ(近似線)が折れ曲がる可能性があることが知られている(参考文献:鉄と鋼2009年,Vol.95,No.12,pp870−879)。
極値統計グラフ(近似線)が折れ曲がるということは、違う種類の介在物を検査していることを示しており、折れ曲がった極値統計グラフ(近似線)を用いて介在物寸法を予測することはできない。これらのことから、2次元検査を行う場合には、検査面積を大きくすることが望ましく、検査面積を3000mm以上とすることが望ましい。しかし、検査面積を3000mm以上とすることは実用的ではないと考えられる。そのため、極値統計を行う際には、2次元的な介在物検査方法よりも、3次元的な介在物検査方法が望ましい。
3次元的な介在物検査方法としては、疲労試験(参考文献:金属疲労 微小欠陥と介在物の影響 養賢堂)、あるいは水素を鋼中に侵入させた試験片を用いた引張試験(参考文献:鉄と鋼2009年,Vol.95,No.12,pp870−879)が好ましい。疲労試験及び水素を鋼中に侵入させた試験片の引張試験においては、Hv400以上の硬さの試験片を用いることにより、危険体積中に存在する最大の介在物を起点として試験片が破壊することが知られており、この現象を積極的に利用して3次元検査を行うことができる。
本実施形態の転がり軸受は、体積35000mm中に存在する酸化物系介在物のうち極値統計法により予測される最大の酸化物系介在物の面積の平方根を25μm以上19.7α+1.2μm以下としている(以下、19.7α+1.2を式3とする)。酸化物系介在物の大きさが大きいと、転動疲労を受けた際に、バタフライ型組織変化が生じることなく、酸化物系介在物から直接疲労亀裂が発生する場合があるため、鋼の成分組成が本実施形態で規定する範囲内であっても、長寿命効果が十分に得られない恐れがあるからである。
また、25μm未満とすることは、転動疲労寿命を向上する点からは好ましいが、鋼材の中で大きな介在物を含む部位を破棄する必要があるため、鋼材の歩留まりが低下し、工業上広く利用することが難しくなる恐れがある。ここで、酸化物系介在物の面積とは、近似的に、酸化物系介在物を楕円と仮定して求めることができる。
[焼入れ及び焼戻し後の残留オーステナイト量が11体積%以上20体積%以下であることについて]
基地組織中の残留オーステナイトは、基地組織であるマルテンサイトに比べて軟質であるため、鉄粉などの異物を噛み込んだ時に生じる圧痕ふちの応力集中を緩和する効果がある。したがって、圧痕ふちを起点とした亀裂の発生を抑制できるので、表面起点型剥離寿命を向上する効果がある。残留オーステナイト量が11体積%未満の場合には、内部起点型剥離よりも先に表面起点型剥離が生じてしまう恐れがある。しかし、残留オーステナイト量が20体積%を超えると寸法安定性が低下する恐れがある。したがって、焼入れ焼戻し後の残留オーステナイト量は、11体積%以上20体積%以下とすることが好ましい。
なお、より安定的に表面起点型剥離寿命を向上させ、良好な寸法安定性を得るためには、残留オーステナイト量は、11体積%以上16体積%以下とすることがより好ましい。なお、残留オーステナイト量の測定は、転がり軸受の軌道面の一部を切り出したあと、軌道面表面を電解研磨して、X線回折装置を用いて行うことができる。
また、本実施形態の転がり軸受を高温条件下、例えば150℃以上の環境下で使用する場合には、寸法安定性を重視して、残留オーステナイト量を11体積%未満とすることが好ましい。
[好適な熱処理条件について]
本実施形態の転がり軸受を製造する際には、鋼材に熱間加工及び旋削加工を施して内輪、外輪、転動体の完成形状に近づけた後、焼入れ焼戻し処理を行う。その後、研削加工を行い完成形状に仕上げる。
前述した硬さと残留オーステナイト量は、本実施形態で規定する成分組成からなる鋼材を使用し、さらに、焼入れ焼戻し条件を好適にすることによって得られる。
焼入れは、生産性をJIS規格のSUJ2と同等にするため、JIS規格のSUJ2と同条件で行うことが好ましい。すなわち、焼入れは820℃以上860℃以下で所定の時間保持した後、油冷することが好ましい。安定的に硬さと残留オーステナイト量を好適な範囲にするためには、より好ましくは、焼入れは830℃以上850℃以下で所定の時間保持した後、油冷することが好ましい。
また、焼戻しも、JIS規格のSUJ2と同条件で行なうことが好ましい。すなわち、焼戻しは160℃以上200℃以下で所定の時間保持した後、空冷あるいは炉冷することが好ましい。160℃未満であると、残留オーステナイト量が過多になり寸法安定性が低下する恐れがある。一方、焼戻し温度が200℃を超えると、残留オーステナイト量が低下し、前述した表面起点型剥離の原因となる圧痕ふちの応力集中を緩和する効果が十分に得られなくなる恐れがある。
ただし、本実施形態の転がり軸受を高温条件下、例えば150℃以上の環境下で使用する場合には、寸法安定性を重視して、焼き戻しは200℃以上290℃以下の温度で行い、残留オーステナイト量を11体積%未満にして使用してもよい。
[好適な軌道輪の溝形状について]
本実施形態の転がり軸受は、深溝玉軸受、アンギュラ玉軸受、スラスト玉軸受などの玉軸受、円筒ころ軸受、円すいころ軸受、自動調心ころ軸受などのころ軸受、あるいはニードル軸受など、軸受の形式に制限されず適用可能であるが、玉軸受の場合には軌道輪の溝形状を下記のようにすると好適である。
転がり軸受においては、転動疲労寿命だけでなく、低トルクが求められる場合がある。玉軸受を低トルクにするためには、玉の直径に対する軌道溝の曲率半径の比を大きくして、玉と軌道輪の接触面積を小さくすることが有効である。しかし、玉の直径に対する軌道溝の曲率半径の比を大きくして接触面積を小さくすると、接触面圧が大きくなる。このため、材料内部の非金属介在物を起点としてバタフライ型組織変化が発生しやすくなり、転動疲労寿命が低下する。
一方、本実施形態の転がり軸受は、バタフライ型組織変化が発生しにくいため、玉の直径に対する軌道溝の曲率半径の比を大きくしても、転動疲労寿命が低下しにくい。したがって、低トルクでの回転が求められる用途、例えば、モータ用軸受、自動車のトランスミッション用軸受、工作機械用軸受などに好適である。
玉の直径に対する軌道溝の曲率半径の比は通常51〜52%程度であるが、本実施形態の転がり軸受においては、玉の直径に対する軌道溝の曲率半径の比を53%以上54%以下にした場合でも、一般的な鋼で作製された玉の直径に対する軌道溝の曲率半径の比52%の軸受と同様の寿命が得られるので、低トルク化が可能である。
[好適な介在物検査方法について]
まず、金属材料製の引張試験片を用意して、引張試験(静的な試験)又は引張疲労試験(動的な試験)を行い、引張試験片を破断させる。
なお、引張試験片に水素を侵入させてもよい(以降においては、水素チャージと記すこともある)。水素チャージの方法は特に限定されるものではないが、引張試験片を酸性の水溶液(例えばチオシアン酸アンモニウム水溶液)に浸漬する方法、引張試験片を水素ガスに暴露する方法、引張試験片を電解液(例えば、塩化ナトリウムとチオシアン酸アンモニウムの水溶液や硫酸と亜ヒ酸の水溶液)に浸漬しながら電流を印加する方法などがあげられる。なお、引張試験片に水素チャージを施してもよいが、引張試験片の形状に加工する前の金属材料に水素チャージを施して、水素チャージされた金属材料から引張試験片を製作してもよい。
水素チャージを施した引張試験片は、水素の影響を受けて、引張試験片の危険体積中での最大の非金属介在物を起点とした破壊が生じやすくなっているので、水素チャージを施していないものと比べて低荷重で破断する。このとき、水素は引張試験片の危険体積中に均一に存在することが好ましい。
なお、水素チャージは引張試験前に行ってもよいが、引張試験中に引張試験片に水素チャージを行ってもよい。すなわち、引張試験片を酸性の水溶液(例えばチオシアン酸アンモニウム水溶液)に浸漬する方法、引張試験片を水素ガスに暴露する方法、あるいは、引張試験片を電解液(例えば、塩化ナトリウムとチオシアン酸アンモニウムの水溶液や硫酸と亜ヒ酸の水溶液)に浸漬する方法により、引張試験片に水素チャージを行いながら引張試験を行ってもよい。
次に、破断した引張試験片中の非金属介在物の分析を行う。すなわち、引張試験片の危険体積中に存在する、破壊の起点となった非金属介在物の種類を同定するとともに、酸化物系介在物の寸法を測定し、酸化物系介在物の寸法の分布関数を求める。このようにして得られた分布関数により、金属材料の清浄度を評価することができる。このような評価方法によれば、酸化物系介在物の評価を短時間且つ低コストで行うことができるとともに、安定した評価が可能である。
なお、危険体積とは、試験片において、破壊の起点となり得るような高い応力の作用する部分の体積を意味する。引張試験や疲労試験において通常使用される試験片においては、応力が入力される両端部の間に位置する平行部の体積が危険体積に相当する。平行部が円柱状の試験片の場合は、危険体積Vsは、(円柱の半径)×π×平行部長さ、で表すことができる。
さらに、前記破壊の起点となった酸化物系介在物の寸法を、酸化物系介在物の投影面積の平方根とすることが好ましい。すなわち、前記破壊の起点となった酸化物系介在物について、引張試験の引張軸方向から見た場合の投影面積areaを測定し、この投影面積areaの平方根√areaを算出して、この値の分布関数により金属材料の清浄度を評価することができる。このとき、投影面積の平方根√areaを極値統計法で解析すれば、金属材料中に存在する酸化物系介在物のうち最大の酸化物系介在物の寸法を予測することができる。
なお、投影面積areaの平方根√areaは、等価欠陥寸法に相当する。疲労試験の場合は、破壊の起点となった酸化物系介在物について、疲労試験の主応力方向から見た場合の投影面積を測定し、これを投影面積areaとする。
以下に、実施例を示して、本発明をさらに具体的に説明する。
表1に示す成分組成の鋼材A〜Zから円板試験片を製作し、熱処理を施して硬さを調査した。また、鋼材A〜Zを用いて引張試験片を作製し、酸化物系介在物評価試験を行った。さらに、これらの鋼材を用いて実施例及び比較例に係る転がり軸受である深溝玉軸受を作製し、転動疲労寿命試験(内部起点型剥離寿命評価試験)を行なった。
表1には、各鋼材の成分組成と、これらの鋼材を用いて作製した実施例及び比較例の酸化物系介在物評価試験及び転動疲労寿命試験(内部起点型剥離寿命評価試験)の結果を示す。なお、表において、「式(3)の合否」とは、本発明における条件4に記載された条件、つまり、「25μm以上19.7α+1.2(式(3))以下」の条件を満たすか否かを意味する。
また、表において、「平方根の値(μm)」とは、「体積35000mm中に存在する酸化物系介在物のうち極値統計法により予測される最大の酸化物系介在物の面積の平方根の値」を意味する。
[1.熱処理試験]
表1に示す成分組成の鋼材A〜Zを用いて、球状化焼鈍を行なった後、直径60mm、厚さ6mmの円板試験片を作製した。これらの円板試験片を、JIS規格のSUJ2と同様の熱処理条件、すなわち、焼入れ時の温度を820〜860℃、保持時間は40分とし、焼戻し時の温度を160〜200℃、保持時間は2時間として熱処理を行なった。焼入れ焼戻し後に円板試験片の断面の硬さを測定した。結果を表1に示す。
表1から、鋼材A〜Sは、鋼の成分組成が好適な範囲であるため、JIS規格のSUJ2と同条件で熱処理しても本実施形態で規定した良好な硬さが得られることがわかる。
[2.酸化物系介在物評価試験]
表1に示す成分組成の鋼材A〜Zを用いて引張試験片を作製し、該引張試験片に円板試験片と同様の熱処理を施したのち、上記「好適な介在物検査方法について」に記載した方法で水素チャージを行った。これらの引張試験片を用いて引張試験を行い、引張試験片を破断させた。次に、上記「好適な介在物検査方法について」に記載した方法で破断した引張試験片中の酸化物系介在物を観察し、体積35000mm中に存在する酸化物系介在物のうち最大の酸化物系介在物の面積を極値統計法により予測した。予測した最大の酸化物系介在物の面積の平方根の値を表1に併記する。なお、本評価試験における危険体積は、(引張試験片の平行部の半径)×π×引張試験片の平行部長さ=3.5×π×30mm=1155mmである。また、極値統計法によって得られる体積35000mmは、後述する実施例の転がり軸受の危険体積1000個分に相当する。
[3.転動疲労寿命試験(内部起点型剥離寿命評価試験)]
鋼材A〜Sを用いて深溝玉軸受6206の内輪と外輪を作製し、JIS規格のSUJ2製のボール(玉径9.52mm)とナイロン製樹脂保持器とを組み合わせて実施例1〜19の転がり軸受とした。また、鋼材T〜Zを用いて深溝玉軸受6206の内輪と外輪を作製し、JIS規格のSUJ2製のボール(玉径9.52mm)とナイロン製樹脂保持器とを組み合わせて比較例1〜7の転がり軸受とした。
各実施例及び各比較例においてはそれぞれ4〜8個の転がり軸受を用いて、転動疲労寿命試験を下記の条件で実施し、累積破損確率が10%となる寿命(L10寿命)を求め、比較例1の寿命を1.0とした場合の相対値である転動疲労寿命比を算出した。
「試験条件」
ラジアル荷重:13818N
転動体直径:3/8インチ
回転速度:3900min−1
潤滑油:ISO−VG68相当の鉱油(強制循環方式)
計算寿命(Lcal)=57時間
本試験条件では、危険体積は、最大せん断応力の90%の応力が負荷される体積である。本試験条件における危険体積は、35mmである。
上記の試験において、剥離した試験片の剥離部の表面には、剥離を引き起こすような圧痕は見られなかった。また、剥離部断面には、水素によって生じる白色組織は観察されなかった。一方、剥離部断面の近傍には、介在物を起点とするバタフライ型組織変化が観察された。したがって、各転がり軸受には内部起点型剥離が生じたものと推定される。
実施例1〜19は、鋼の成分組成、酸化物系介在物の大きさ、硬さ、及び、αの値が、実施形態で規定する範囲内にあるため、内部起点型剥離に対して長寿命である。
一方、比較例1は、αの値が実施形態で定めた範囲より小さいため寿命が短い。比較例2は、αの値が実施形態で定めた範囲より大きいため、研削性が著しく低く、かつ寿命が短い。比較例3〜7は、式(3)の値が、本発明の条件4で定めた範囲外であり、かつ、極値統計法で予測した酸化物系介在物の大きさが実施形態で定めた範囲より大きいため寿命が短い。つまり、内輪あるいは外輪の軌道面直下には大きな酸化物系介在物が存在すると推定され、バタフライ型組織変化が生じる過程を経ずに、介在物から直接疲労亀裂が発生してしまうため、鋼の成分組成を規定した効果が得られず、寿命が短いと考えられる。
図2に、αと、体積35000mm中に存在する酸化物系介在物のうち極値統計法により予測される最大の酸化物系介在物の面積の平方根の関係を示す。図2において四角で囲まれている範囲は、本発明の要件を満たす範囲を示したものであり、また、四角印は転動疲労寿命比が2以上のものを示しており、丸印は転動疲労寿命比が2未満のものを示している。四角印は実施例の転がり軸受であり、丸印は比較例の転がり軸受であることから、実施例の転がり軸受が転動疲労寿命に優れていることがわかる。また、表1に記載した転動疲労寿命試験結果から、本発明で定めた、α及び体積35000mm中に存在する酸化物系介在物のうち極値統計法により予測される最大の酸化物系介在物の面積の平方根の規定を満たさない比較例の転がり軸受の転動疲労寿命は、極めて低いことがわかる。
図3は、比較例1の剥離部の近傍に観察された酸化物系介在物とバタフライ型組織変化を示した図である。また、図4は、実施例2の剥離部の近傍に観察された酸化物系介在物とバタフライ型組織変化を示した図である。
図3から、比較例1には、酸化物系介在物の周辺に、白く見えるバタフライ型組織変化が大きく発生していることがわかる。一方、図4における実施例2には、比較例1と同程度の大きさの酸化物介在物を確認できるが、発生したバタフライ型組織変化は小さく、組織変化が遅延していると推測される。
以上より、鋼の成分組成、鋼中に存在する酸化物系介在物のうち極値統計法により予測される最大の酸化物系介在物の面積の平方根、鋼の硬さ、および式(2)及び式(3)の値を本発明で規定する範囲内とすることによって、介在物周辺に形成するバタフライ型組織変化の形成を遅延させて、内部起点型剥離に対して長寿命な軸受を提供することができることがわかる。
なお、上記の実施例として深溝玉軸受を用いたが、アンギュラ玉軸受やスラスト玉軸受などのその他の玉軸受、円筒ころ軸受、円すいころ軸受、自動調心ころ軸受、ニードル軸受などのころ軸受においても同様の効果が得られる。また、転がり軸受に限らず、ボールねじやリニアガイドなどの転動部材においても、同様の効果が得られることは言うまでもない。
1 内輪
2 外輪
3 転動体

Claims (2)

  1. 内輪と、外輪と、前記内輪と前記外輪との間に転動自在に配設された複数の転動体と、を備える転がり軸受において、前記内輪,前記外輪,及び前記転動体のうち少なくとも1つが、下記の4つの条件を満たす鋼で構成されていることを特徴とする転がり軸受。
    条件1:濃度0.85質量%以上1.15質量%以下の炭素、濃度0.20質量%以上0.90質量%以下のケイ素、濃度0.20質量%以上1.40質量%以下のマンガン、濃度1.30質量%以上1.90質量%以下のクロム、濃度0.30質量%以下のモリブデン、濃度0.30質量%以下のニッケル、濃度0.20質量%以下の銅、濃度0.025質量%以下のイオウ、濃度0.020質量%以下のリン、濃度15質量ppm以下の酸素を含有し、残部が鉄及び不可避的不純物である。
    条件2:焼入れ及び焼戻しが施されており、焼入れ焼戻し後の硬さがHv697以上800以下である。
    条件3:ケイ素、マンガン、クロム及びモリブデンの各濃度(質量%)を、それぞれ[Si]、[Mn]、[Cr]、[Mo]とし、α=2[Si]+[Mn]+0.7[Cr]+3[Mo]とした時、2.5≦α≦3.8である。
    条件4:体積35000mm中に存在する酸化物系介在物のうち極値統計法により予測される最大の酸化物系介在物の面積の平方根が、25μm以上19.7α+1.2μm以下である。
  2. 前記鋼の焼入れ及び焼戻し後の残留オーステナイト量が11体積%以上20体積%以下である請求項1に記載の転がり軸受。
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