JP2015094021A - 水素脆性型の面疲労強度に優れた浸炭窒化鋼及びそれを用いた浸炭窒化部品 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】本発明の浸炭窒化鋼は、質量%で、C:0.10〜0.40%、Si:0.35〜0.50%、Mn:0.80〜1.50%、P:0.030%以下、S:0.030%以下、Cr:1.50〜2.50%、Al:0.050%以下、O:0.0015%以下、N:0.025%以下、Mn/Si:2.00以上、Mn+Cr:2.50〜4.00%、残部がFe及び不可避不純物からなる、浸炭窒化焼入れ焼戻し処理された浸炭窒化鋼であって、前記焼戻し処理後の表層C濃度が質量%で、0.80〜1.50%、表層N濃度が0.10〜1.00%、及び表面硬さがHRC58以上64未満であり、表層に分散析出した窒化物のうち粒径300nm未満のCr窒化物及びSi窒化物の個数が105個/mm2以上であることを特徴とする。
【選択図】図2
Description
(1)Cr量が約2.5%以下の場合に、Si量を添加するとCr系窒化物が減少し、Si系窒化物が生成するが、これはCrに対してSiの窒化物生成自由エネルギーが小さいためと考えられること。
(2)Si系窒化物は、Mnと複合したMnSiN2として析出すると考えられ、Cr系のCrNに比べて窒化物生成量が減少する一方で、粗大化しやすい傾向にあること。
(3)Mnと複合したMnSiN2として析出するSi系窒化物は、Mn添加量をSi添加量の2倍以上とすると微細化すること。
この場合、質量%で、Mo:0.50%以下、Ni:0.50%未満、Ti:0.50%以下、Nb:0.10%以下、のうちいずれか1種又は2種以上を更に含有している構成とすることもできる。
C(鋼材C濃度)は心部強度を確保するために必須の元素である。所定の熱処理後硬さを維持するためには0.10%以上の添加が必要であるため、C含有量の下限を0.10%とした。一方、C含有量が0.40%を超えると、鍛造や旋削加工等の製造性を低下させるため、C含有量の上限を0.40%とした。好ましくは0.15〜0.25%である。
Siは鋼を製造する際に脱酸剤として用いられ、鋼の強度を向上させるとともに、例えば転がり軸受として使用された場合には組織変化を抑制することで転動疲労寿命を向上させる。これらの効果を得るためには0.35%以上の添加が必要であるため、Si含有量の下限を0.35%とした。一方、Siの過度の添加は、鋼の靭性や熱間加工性を低下させる反面、水素脆性感受性を高める。0.50%を超えて添加すると水素脆性型の転動疲労寿命が低下するため、Si含有量の上限を0.50%とした。好ましくは0.40%以上である。
Mnは本発明において重要な添加元素である。Mnは浸炭窒化によりSiと窒化物(例えばMnSiN2など)を形成し、水素トラップサイトとして働き、水素脆性型面疲労強度を改善する。また、Mnは鋼を製造する際に脱酸剤として用いられる元素であるとともに、焼入れ性を改善する元素でもある。これらの効果を得るためにはMnを0.8%以上含有する必要がある。一方、1.50%を超えて多量にMnを含有すると被削性が大幅に低下するため、Mn含有量の上限を1.50%とした。好ましくは0.90%以上である。
Pは鋼のオーステナイト粒界に偏析し、靭性や転動疲労寿命の低下を招く。特に水素脆性型転動疲労の特徴である粒界強度を大きく低下させるため、P含有量の上限を0.030%とした。
Sは鋼の熱間加工性を害し、鋼中での非金属介在物を形成して靭性や転動寿命を低下させ、水素脆性型転動疲労強度を低下させるので、可及的に少なくすることが望ましいが、切削加工性を向上させる効果も有しているため、S含有量の上限を0.030%とした。
Crは本発明において重要な添加元素である。Crは浸炭窒化により窒化物(例えばCrN)を形成し、水素トラップサイトとして働き、水素脆性型面疲労強度を改善する。また、Crは焼入れ性の改善や炭化物による硬さの確保、寿命改善のために添加される。所定の窒化物を得るためには1.50%以上の添加が必要であるため、Cr含有量の下限を1.50%とした。一方、2.50%を超えて含有すると、浸炭性を劣化させ、大型の窒化物が生成し、転動疲労寿命の低下が生じるため、Cr含有量の上限を2.50%とした。好ましくは1.80%以上である。
Alは鋼の製造時の脱酸剤として使用されるが、硬質の非金属介在物を生成し、転動疲労寿命を低下させるため低減することが望ましい。0.050%を超えて多量にAlを含有すると顕著な転動疲労寿命の低下が認められるため、Al含有量の上限を0.050%とした。なお、Al含有量を0.005%未満とするためには鋼製造コストの上昇が生じるため、Al含有量の下限を0.005%とすることが好ましい。
O及びNは鋼中に酸化物、窒化物を形成し、非金属介在物として疲労破壊の起点となり、転動疲労寿命を低下させるため、O含有量の上限を0.0015%とし、N含有量の上限を0.025%とした。
Siを添加すると、浸炭窒化時の窒化物がCrNからSi系窒化物に変化し、窒化物数も減少するため、耐水素脆性は低下する。しかし、MnはSi系窒化物と複合化するものの、このSi系窒化物を微細化するため、結果として耐水素脆性が向上するようになる。この効果を得るためにはMn/Siの比が少なくとも2.00以上は必要であるため、Mn/Siの下限値を2.00とした。好ましくは2.50以上である。
MnとCrは単独添加でも水素脆性型の面疲労強度を改善するが、十分な効果を得るためには両者を適正に複合添加することが必要である。Mn+Crの含有量が2.50%未満では水素脆性に対する改善効果を十分に得ることができないためMn+Cr含有量の下限を2.50%とした。一方、Mn+Cr含有量が4.00%を超えると、鍛造や旋削性等の製造性が低下するため、Mn+Cr含有量の上限を4.00%とした。好ましくは2.80〜3.50%である。
焼戻し後の表面硬さと転動疲労寿命には相関が認められ、表面硬さが高いほど転動疲労寿命は長くなる傾向がある。特に、焼戻し処理後の表面硬さがHRC58未満になると急激に転動疲労寿命が低下し、寿命のばらつきも大きくなるため、焼戻し処理後の表面硬さをHRC58以上とした。一方、表面硬さが高くなると水素脆性に対する感受性が高くなり、表面硬さがHRC64以上になると水素脆性型の面疲労強度が著しく低下するため、HRC64未満とした。なお、Hv硬さに換算すると約650Hv以上800Hv未満に相当する。
窒化物のうち水素トラップに有効な窒化物は、Cr窒化物であるCrNと、Si窒化物であるMnSiN2である。窒化物は水素をトラップすることにより、水素脆性型の面疲労剥離を抑制する効果がある。その効果を得るためには、微細な窒化物を多数析出させる必要がある。窒化物生成数が少ない場合や粒径300nm以上の窒化物が多数生成し、粒径300nm未満の微細な窒化物が105/mm2未満となると、水素トラップによる水素脆性型面疲労強度の改善効果が急速に低下する。このため、粒径300nm未満の窒化物の下限を105/mm2とした。好ましくは4×105〜40×105個/mm2、より好ましくは4×105〜20×105個/mm2である。
表層Cは、例えば転がり軸受としての強度を確保するために必須の元素であり、所定の熱処理後硬さを維持することや、窒化により最表層のC濃度が低下すること等を考慮に入れて、表層C濃度の下限を0.80%とした。一方、表層C濃度が1.50%を超えて含有された場合、大型の炭化物が生成し、転動疲労寿命の低下が生じることが判明したため、表層C濃度の上限を1.50%とした。好ましくは1.00〜1.20%である。
表層Nは微細な窒化物を表層に生成することにより水素トラップサイトとして働き、耐水素脆性を改善する。また、鋼の軟化抵抗性を改善することにより転動寿命を向上させる。これらの効果を得るためには表層N濃度が0.10%以上は必要であるため、表層N濃度の下限を0.10%とした。一方、表層N濃度が1.00%を超えると、残留オーステナイトの生成により表面硬さを低下させ、所定の表面硬さが得られなくなることや、粗大な窒化物が形成されやすくなること等を考慮に入れて、表層N濃度の上限を1.00%とした。好ましくは0.30〜0.60%である。
(15)Mo:0.50%以下
Moは粒界破壊を抑制することにより、水素脆性型の面疲労強度を向上させる。また、Moは鋼の焼入れ性を改善するとともに、炭化物中に固溶することにより、焼戻し時の硬さの低下を抑制する効果がある。一方、0.50%を超えて多量に含有すると、鋼材のコストが上昇し、熱間加工性や切削性が低下するため、Mo含有量の上限を0.50%とした。
Niは転動疲労過程での組織変化を抑制し、転動疲労寿命を向上させる。また、Niの添加は靭性および耐食性の改善にも効果がある。一方、0.50%を超えて多量に含有すると、鋼の焼入れ時に多量の残留オーステナイトが生成し、所定の硬さが得られなくなるとともに、鋼材のコストが上昇するため、Ni含有量を0.50%未満とした。
Tiの炭化物は微細であり、水素トラップサイトとして有効に働くことにより、水素脆性型の面疲労強度が改善する。一方、Tiは鋼中に酸化物、窒化物を形成し、非金属介在物として疲労破壊の起点となり、転動疲労寿命を低下させるため、Ti含有量の上限を0.50%とした。
Nbの炭化物も微細であり、水素トラップサイトとして有効に働くことにより、水素脆性型の面疲労強度が改善する。また、Nbは結晶粒の粗大化を抑制する。結晶粒が微細化すれば、耐水素脆性の改善に有効となる。一方、0.10%を超えて多量にNbを含有してもその効果が飽和するため、Nb含有量の上限を0.10%とした。
表1では不可避不純物(不可避的不純物)を「その他」の欄の「−」で表している。
表1に示す化学成分の材料を50kgの真空溶解で溶製し、熱間鍛造により直径28mmの棒鋼を製造した。この後、焼ならし処理として920℃に加熱し、2時間保持した後空冷した。さらに、球状化焼なまし処理として760℃に加熱し、3時間保持した後、−15℃/時間で650℃まで冷却した後空冷し、各試験の供試材とした。
2 Cr系窒化物
10、18 試験片
Claims (3)
- 質量%で、
C:0.10〜0.40%、
Si:0.35〜0.50%、
Mn:0.80〜1.50%、
P:0.030%以下、
S:0.030%以下、
Cr:1.50〜2.50%、
Al:0.050%以下、
O:0.0015%以下、
N:0.025%以下、
Mn/Si:2.00以上、
Mn+Cr:2.50〜4.00%、
残部がFe及び不可避不純物からなる、浸炭窒化焼入れ焼戻し処理された浸炭窒化鋼であって、前記焼戻し処理後の表層C濃度が質量%で、0.80〜1.50%、表層N濃度が0.10〜1.00%、及び表面硬さがHRC58以上64未満であり、表層に分散析出した窒化物のうち粒径300nm未満のCr窒化物及びSi窒化物の個数が105個/mm2以上であることを特徴とする水素脆性型の面疲労強度に優れた浸炭窒化鋼。 - 請求項1において、質量%で、
Mo:0.50%以下、
Ni:0.50%未満、
Ti:0.50%以下、
Nb:0.10%以下、
のうちいずれか1種又は2種以上を更に含有していることを特徴とする水素脆性型の面疲労強度に優れた浸炭窒化鋼。 - 請求項1又は2の浸炭窒化鋼を用いて形成されたことを特徴とする浸炭窒化部品。
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