JP6146381B2 - 転動疲労特性に優れた軸受用肌焼鋼およびその製造方法 - Google Patents

転動疲労特性に優れた軸受用肌焼鋼およびその製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、例えば水素ガス用のコンプレッサなど、特に水素雰囲気下で使用される軸受として用いることが可能な、転動疲労寿命に優れた軸受鋼および転動疲労寿命に優れた軸受鋼の製造方法に関する。
軸受は、自動車や産業機械などの回転部分に用いられる部品であり、優れた転動疲労寿命が要求される。しかし、自動車のオルターネーターなどの一部の軸受において、転送軌道直下に白色組織と呼ばれる組織が生成するため、規定寿命より短時間で剥離が発生すると言う問題が生じている。このような、白色組織生成にともなう軸受の短寿命剥離は、特許文献1に記載されているように、軸受に使用されているグリースや潤滑油、あるいは軸受に侵入した水がトライボケミカル反応により分解して水素を生成し、これらの水素が鋼中へと侵入、蓄積し、白色組織への変化を促進して引き起こされる。
特開2008−255399号公報
ところで、自動車においては、CO2削減の観点から、水素燃料自動車などの開発が進められている。水素ガス供給用の水素ガスコンプレッサーに使用される軸受などは、多量の水素ガス雰囲気中で使用される。潤滑剤に侵入した水素は、随時分解され鋼中へ侵入するため、上述の場合に比べ、白色組織への変化が大幅に促進される。特許文献1では、白色組織抑制にはCr添加が有効とされており、水素起因の白色組織の生成を抑制した鋼が記載されているが、この特許文献1に記載の鋼に対しても、さらに水素が侵入する環境下における転動疲労寿命を改善した軸受鋼が求められていた。
そこで、本発明は、特に、水素が侵入する環境下における転動疲労寿命を改善した軸受鋼に適した肌焼鋼について提案することを目的とする。
そこで、発明者らは鋭意検討を行ない、軸受鋼の組成と浸炭焼入れあるいは浸炭窒化焼入れ後の表層の硬化領域における炭化物形態を適正化することでコストを抑制しながら水素環境下での白層組織の生成が抑制され、転動疲労寿命が向上するとの結果を得た。さらに、衝撃荷重がかかるなどの靭性が要求される用途においては、鋼素材のCを低減し、浸炭または浸炭窒化により適正な表面硬さと炭化物分布を得ることによって、表面の硬さと芯部の靭性を両立し得ることを知見した。
本発明は以上の知見をもとになされたものであり、その要旨とするところは以下の通りである。
1.質量%で
C:0.1%超〜0.30%、
Si:0.15〜1.0%未満、
Mn:0.2〜1.2%、
Cr:6.0%〜10.5%未満、
P:0.025%以下、
S:0.02%以下、
Al:0.05%以下、
N:0.0100%以下および
O:0.0030%以下
を含有し、残部Fe及び不可避的不純物からなる成分組成を有する鋼に、浸炭焼入れまたは浸炭窒化焼入れされてなり、表面から少なくとも200μm深さにいたる表層領域は、硬さがHv670以上であり、前記表層領域に存在する炭化物の面積率が5〜30%、かつ該炭化物の平均直径が0.40〜0.70μmおよび平均アスペクト比(長径/短径)が2.0以下であり、前記表層領域における残留オーステナイト量が40%以下であることを特徴とする転動疲労特性に優れた軸受用肌焼鋼。
2.前記成分組成が、さらに質量%で、
Ti:0.03%以下、
Mo:1.0%未満、
Cu:1.0%以下、
Ni:1.0%以下、
W:1.0%以下、
B:0.003%以下、
V:0.3%以下および
Nb:0.05%以下
のうちから選ばれる1種もしくは2種以上を含有することを特徴とする前記1に記載の転動疲労特性に優れた軸受用肌焼鋼。
3.質量%で
C:0.1%超〜0.30%、
Si:0.15〜1.0%未満、
Mn:0.2〜1.2%、
Cr:6.0%〜10.5%未満、
P:0.025%以下、
S:0.02%以下、
Al:0.05%以下、
N:0.0100%以下および
O:0.0030%以下
を含有し、残部Fe及び不可避的不純物からなる成分組成を有する鋼に、カーボンポテンシャルが1.0〜1.5質量%の雰囲気中にて、880〜1100℃における保持時間を10h以上とする浸炭処理あるいは浸炭窒化処理を施し、その後の冷却過程または室温までの冷却後の再加熱にて850〜950℃で0.5h以上保持した後、20℃/s以上の冷却速度で冷却して焼入れし、その後焼戻しを行うことを特徴とする転動疲労特性に優れた軸受用肌焼鋼の製造方法。
4.前記成分組成が、さらに質量%で、
Ti:0.03%以下、
Mo:1.0%未満、
Cu:1.0%以下、
Ni:1.0%以下、
W:1.0%以下、
B:0.003%以下、
V:0.3%以下および
Nb:0.05%以下
のうちから選ばれる1種もしくは2種以上を含有することを特徴とする前記3に記載の転動疲労特性に優れた軸受用肌焼鋼の製造方法。
本発明によれば、水素環境下においても優れた転動疲労寿命を有する軸受用肌焼鋼を得ることができる。
以下、本発明の肌焼鋼について詳しく説明する。まず、肌焼鋼の成分組成における各成分の限定理由から順に説明する。なお、以下の説明において、各元素の含有量の単位「%」は全て「質量%」を意味する。
C:0.1%超〜0.30%
Cは、軸受用途に必要な表面硬さへ与える影響が最も大きい元素であり、軸受を焼入れした場合に焼入れ硬化層の硬さを高めて、転動疲労寿命を向上させる上で有用である。一方で、Cを素材として高濃度で含有すると、溶製後の鋼素材中に粗大な共晶炭化物が生成しやすくなり、球状化焼鈍後、ひいては焼入れ焼戻し後に、粗大な炭化物が残留することになる。すると、通常の転動疲労寿命および水素環境下での転動疲労寿命が大幅に低下してしまう。したがって、本発明においては、浸炭または浸炭窒化処理を実施することを前提として、鋼素材のC含有量は0.1%超え0.30%以下の添加とする。すなわち、鋼素材中のC含有量を0.1%以下とすると、鋼中の酸素量の低減が困難となるとともに浸炭焼入れ後の芯部強度が不足し、軸受部品の破断などの危険をもたらす。一方、0.30%を超えると冷間加工性を著しく阻害すると共に、芯部の硬さ上昇に伴う靭性低下をもたらすため、0.1%超〜0.30%以下とした。
Si:0.15〜1.0%未満
Siは、白色組織の生成抑制に有効な元素であり、本発明において重要な元素である。その添加量が0.15%未満になると、白色組織の生成抑制効果に乏しくなるため、0.15%以上の添加とする。しかし1.0%以上添加すると、軸受製造時の加工性(切断、成形鍛造など)を著しく劣化させる。また、浸炭時の鋼中へのC拡散を阻害し、さらに焼入れ焼戻し後の鋼組織中の残留γ量増大により、却って硬さを低下するために1.0%未満とする。したがって、Si量の範囲は0.15%以上1.0%未満とする。
Mn:0.2〜1.2%
Mnは、焼入れ性を向上させる成分であることから、その添加が必要である。Mnは、0.2%未満の添加ではその効果に乏しく、一方1.2%を超えて添加すると、軸受製造時の加工性(切断、成形鍛造など)を著しく劣化させる。また、浸炭焼入れ焼もどし後の鋼組織中の残留γ量増大により、硬さが低下するため、1.2%以下とする。したがって、Mn量の範囲を0.2%〜1.2%とする。
Cr:6.0%〜10.5%未満
Crは、白色組織の生成抑制に有効な元素であり本発明において重要な元素である。その添加量が6.0%未満であると、水素雰囲気下での白色組織の生成抑制効果が乏しくなるため6.0%以上の添加とする。しかし10.5%以上添加すると、コストアップとなるとともに、軸受製造時の加工性(切断、成形鍛造など)を著しく劣化させる。また、焼入れ加熱時の炭化物固溶が困難となり、焼入れ焼戻し後の硬さを低下するため、10.5%未満とする。したがって、Crの範囲を0.15%以上10.5%未満とする。
P:0.025%以下
Pは、オーステナイトの粒界に偏析し、粒界強度を低下させることにより、焼入れ時に焼割れを助長する。したがって、その含有量は極力低下させることが望ましいが、0.025%以下であれば許容される。なお、好ましくは0.020%以下とする。
S:0.02%以下
Sは、鋼中でMnSを形成し、切削性を向上させるため添加してもよいが、0.02%を超えて添加すると、転動疲労試験での破壊起点となり転動疲労強度が低下する可能性があるため、0.02%以下の添加とする。好ましくは0.01%以下とする。
Al:0.05%以下
Alは、脱酸に有効な元素であり低酸素化のために有用な元素であるが、脱酸により生じた酸化物は転動疲労特性を著しく低下させるため、必要以上の添加は行わない方が良い。このため、0.05%以下の添加までを許容する。好ましくは0.03%以下とする。
O:0.0030%以下
Oは、硬質の酸化物系非金属介在物として存在し、O量の増大は酸化物系非金属介在物のサイズを粗大化させる。これらは、特に転動疲労特性に有害であるため、極力低減することが望ましく、少なくとも0.0030%以下に低減する必要がある。なお、好ましくは0.0010%以下とする。
N:0.0100%以下
Nは、AlやTiと窒化物あるいは炭窒化物を形成し、焼入れのための加熱時に、オーステナイトの成長を抑制する効果があるが、一方で、粗大な窒化物、炭窒化物は転動疲労寿命の低下を招くため0.0100%以下とする。
さらに、上記の基本成分に加えて、Ti、Mo、Cu、Ni、W、B、VおよびNbのうちの1種もしくは2種以上を、必要に応じて添加してもよい。
Ti:0.03%以下
Tiは、TiNとなってオーステナイト域でピンニング効果を発揮して粒成長を抑制するため、添加しても良いが、多量に添加するとTiNが多量析出することにより転動疲労寿命を低下させるため、その添加量を0.03%以下とすることが好ましい。
Mo:1.0%未満
Moは、表面硬さの上昇および転動環境における鋼組織変化を遅延させる効果を有しており、転動疲労寿命を向上させるために添加してもよいが、添加により製造コストが大幅に上昇するため、その添加量を1.0%未満とすることが好ましい。
Cu:1.0%以下
Cuは、焼入れ性を向上させる元素であるため添加しても良いが、1.0%を超えて添加すると熱間加工性を阻害する可能性があるため、1.0%以下の添加とすることが好ましい。
Ni:1.0%以下
Niは、焼入れ性を向上させる元素であるのため、焼入れ性を調整する場合に用いることができる。しかし、Niは高価な元素であるから、添加量が多くなると鋼材価格が高くなるため、1.0%以下の添加とすることが好ましい。
W:1.0%以下
Wは、焼入れ性を向上させる元素であるため、焼入れ性を調整する場合に用いることができる。しかし、Wは高価な元素であるのから、添加量が多くなると鋼材価格が高くなるため、1.0%以下の添加とすることが好ましい。
B:0.003%以下
Bは、焼入れ性を向上させる元素であるため、焼入れ性を調整する場合に用いることができる。しかし、0.003%を超えて添加しても効果が飽和するため、0.003%以下の添加とすることが好ましい。
V:0.3%以下
Vは、鋼中に微細な炭窒化物を形成し、浸炭焼入れ焼戻し後の硬さ上昇および水素侵入環境下の転動疲労寿命向上に有効であるため、必要に応じて添加することができる。しかし、多量の添加はコストの増大をもたらすばかりでなく、生成炭化物の影響で軸受の靭性を低下させるため、0.3%以下の添加とすることが好ましい。
Nb:0.05%以下
Nbは、鋼中に微細な炭窒化物を形成し、浸炭焼入れ焼戻し後の硬さ上昇および水素侵入環境下の転動疲労寿命向上に有効であるため、必要に応じて添加することができる。しかし、多量の添加はコストの増大をもたらすばかりでなく、生成炭化物の影響で軸受の靭性を低下させるため、0.05%以下の添加とすることが好ましい。
本発明における鋼の成分組成は、以上説明した元素以外の残部はFe及び不可避的不純物である。
本発明では、上述した成分組成の鋼に対し、浸炭焼入れまたは浸炭窒化焼入れを施し、表面から少なくとも200μm深さにいたる表層領域の硬さをHv670以上とすることが肝要である。この表層領域の硬さをHv670以上とするのは、Hv670未満では、水素侵入環境下において十分な転動疲労寿命の向上が認められないからである。ここで、表面から少なくとも200μm深さにいたる表層領域の硬さがHv670以上とは、表面から200μm深さまでの硬さ分布を深さ方向に測定した際に、硬さの最低値がHv670であることを意味する。
また、硬さをHv670以上とする表層領域を、表面から少なくとも200μm深さにいたる領域とするのは、表面から200μm深さ未満では、転動寿命が低下するためである。
さらに、本発明では、この表層領域における、炭化物の面積率、炭化物の平均直径、炭化物のアスペクト比および残留オーステナイト量を、それぞれ以下の範囲とすることが必要である。
炭化物の面積率:5〜30%
浸炭焼入れあるいは浸炭窒化焼入れによる硬化を施した表層領域における、炭化物の面積率は5〜30%に規定する。すなわち、炭化物面積率が5%未満では十分な水素トラップ効果が得られず、一方30%を超える過剰な量の残留炭化物は転動環境下における応力集中源となり、却って転動疲労寿命を低減することになる。
炭化物の平均直径:0.40〜0.70μm
浸炭焼入れまたは浸炭窒化焼入れによる硬化を施した表層領域における、炭化物の平均直径は0.40〜0.70μmに規定する。肌焼鋼中の炭化物は、鋼中に侵入してきた水素のトラップサイトとして働く。この炭化物の平均直径が0.40μmより小さい場合、トラップサイトとなる炭化物表面積の体積比が大きくなり、トラップしうる水素量が増大する反面、使用環境下における炭化物そのものの安定度が低下し、使用中の炭化物消失、すなわち組織変化が起きやすくなってしまう。そのため、結果的に炭化物表面にトラップし得る水素量が低減し、侵入した水素における拡散性水素量の割合が増加し、結果として白色組織への変化を抑制できない。一方、炭化物の平均直径が0.70μmより大きい場合、炭化物体積に対して表面積が小さくなることでトラップし得る水素量が低下すると共に、粗大な球状化炭化物が応力集中源となり、母相/炭化物界面への割れの発生を助長するため、通常雰囲気での転動疲労寿命および水素雰囲気下での転動疲労寿命の双方が低下する。そのため、炭化物の平均直径は0.40〜0.70μmに規定する。
炭化物のアスペクト比:1.0〜2.0
浸炭焼入れまたは浸炭窒化焼入れによる硬化を施した表層領域における、炭化物のアスペクト比の平均は1.0〜2.0とする。すなわち、アスペクト比が2.0を超えてしまうと、トラップサイトとなる炭化物表面積の総面積が小さくなるため、トラップする水素量が少なくなってしまう。そのため、侵入した水素における拡散性水素量が増加し、結果として白色組織への変化を抑制できない。
残留オーステナイト量:40%以下
浸炭焼入れまたは浸炭窒化焼入れによる硬化を施した表層領域における、残留オーステナイト量(以下、残留γ量という)は40%以下とする。すなわち、残留γ量が40%を超えると、相対的にマルテンサイト組織の分率が低下し、必要な硬さを得られなくなる。また転動疲労環境下で残留γの一部がマルテンサイト変化を起こし、部品の寸法変化を来して寿命を大幅に低下させることになる。
次に、本発明の製造方法について説明する。
本発明は、浸炭焼入れまたは浸炭窒化焼入れによる硬化を施した表層領域における、炭化物の状態および残留γ量を上述した特定の範囲に調整することによって、水素の侵入する環境下において転動疲労寿命を向上させるものであるが、そのためには上述した鋼に対して浸炭焼入れまたは浸炭窒化焼入れを行う際の、浸炭時または浸炭窒化時の条件、浸炭後または浸炭窒化後の所定温度範囲における保持条件、さらには浸炭後または浸炭窒化後の所定温度範囲での保持後の冷却速度を調整とすることが重要である。以下にそれぞれの条件について説明する。
浸炭または浸炭窒化時の加熱温度:880〜1100℃
浸炭または浸炭窒化時の加熱温度を880〜1100℃とすることによって、所望の熱処理後組織を得ることが容易となる。すなわち、加熱温度が880℃未満では、鋼中へのC拡散が十分に進行せず、十分な表面硬さが得られず、同時に必要な炭化物分布が得られなくなる。一方、1100℃超の温度では炭化物の固溶が過剰に進行し、焼入れ後に必要とする炭化物分布を得ることが困難となり、同時に焼入れ後の残留γ量の増大をもたらす。
浸炭または浸炭窒化時のカーボンポテンシャル:1.0〜1.5質量%
また、浸炭または浸炭窒化時のカーボンポテンシャルは1.0〜1.5質量%とする。すなわち、カーボンポテンシャルが1.0質量%未満では十分な表層近傍のC濃度を得ることができず、必要な炭化物の生成が得られず、十分な硬さも得られない。一方で1.5質量%を超えると焼入れ後の残留γ量が高まり、40%以下とすることが困難となる。また、表層に形成する炭化物が網目状をなしやすくなり、安定的に炭化物アスペクト比2.0以下を得ることが困難となる。
浸炭または浸炭窒化時の保持時間:10h以上
上記した加熱温度およびカーボンポテンシャルでの保持時間が10hに満たない場合には、所望の表層近傍の炭化物分布の形成と深さ方向へのCの十分な拡散が困難となるため、浸炭または浸炭窒化時の保持時間、すなわち、800〜1100℃およびカーボンポテンシャル1.0〜1.5質量%の雰囲気下での保持時間は10h以上とする。なお、上限は、200hとすることが好ましい。
浸炭または浸炭窒化後の保持温度:850〜950℃
また、上記した条件における浸炭処理または浸炭窒化処理後、冷却過程の途中段階にて、あるいは室温まで放冷後再加熱にて850〜950℃の温度域で0.5h以上保持した後の段階にて、後述する冷却速度条件による焼入れを行う。850〜950℃の温度域で0.5h以上保持することにより、本発明にて必要とする炭化物の安定的な生成と球状化の進行を図ることが可能となる。この温度範囲における保持時間が0.5h未満であると炭化物の生成および球状化の進行が十分とならない。また、炭化物の球状化850℃未満の温度からの焼入れにおいては、特に芯部にフェライトを生成しやすく、十分な強度を得ることが困難となる。一方で950℃超での保持は、保持中の炭化物固溶を過剰に促進し、必要な炭化物分布を安定的に得ることが困難となる。
焼入れ時の冷却速度:20℃/s以上
850〜950℃の温度域で保持後は、この温度域から20℃/s以上の冷却速度にてMs点以下まで冷却する。冷却速度が20℃/s未満では、硬化領域に十分な硬さを得ること、すなわち、硬化領域の硬さをHv670以上とすることができない。
以下、本発明を実施例に基づいて説明する。
表1に示す化学組成の鋼を溶製し、ブレークダウン工程を経て150mm角ビレットに圧延したのち、1050℃に再加熱後、直径70mmの棒鋼に圧延し、空冷した。当該素材を球状化焼鈍(SA)後、棒鋼から直径60mmで厚さ5.5mmの粗試験片を採取し、表2に示す種々の浸炭条件および焼入れ条件にて浸炭焼入れを行い、それぞれ180℃で1hの焼戻しを行った。浸炭処理時の保持温度、カーボンポテンシャル(Cp)、保持時間、焼入れ時の保持温度並びに保持時間を表2に示す。また、焼入れの際には、保持温度から40℃/sの冷却速度にて室温まで冷却を行った。粗試験片に浸炭焼入れ焼戻しを施した丸棒について、炭化物分布および残留オーステナイトを確認するために、輪切りサンプルを採取した後、粗研磨および鏡面研磨仕上げをし、ピクラール腐食液にて腐食した。炭化物観察は、素材の表面から30〜180μm深さにわたる部分にてSEM観察を5000倍で10視野で行い、撮影したSEM像を画像解析し、各炭化物の面積率、平均炭化物直径およびアスペクト比(長径/短径)を求めた。
転動疲労試験には、浸炭焼入れ焼戻し後のサンプルを5mm厚に研磨(試験面は▽▽▽▽仕上げ)仕上げした試験片を用いた。試験片は、試験実施前に、転動疲労試験に影響しない位置にてビッカース硬さ計を用いて、表面から50μm深さ位置、100μm深さ位置、150μm深さ位置および200μm深さ位置を、10kgfの荷重にてそれぞれ測定し、硬さ測定値の最低値を求めた。
転動疲労試験はスラスト型転動疲労試験機を使用し、試験片に処理を実施しないまま(通常雰囲気模擬)の転動疲労試験と、試験片を濃度20%のチオシアン酸アンモニウム水溶液(液温50℃)中に24時間浸漬した後、30分以内に試験を実施する水素環境での使用を模擬した試験の2種類で実施した。通常雰囲気を模擬した試験では、へルツ応力5.2GPa、応力負荷速度1800cpm、FBK#68タービン油潤滑(室温)の条件で試験を実施した。また、水素雰囲気を模擬した試験ではへルツ応力3.8GPa、応力負荷速度3600cpm、FBK#68タービン油潤滑(室温)の条件で試験を実施した。各条件につき10回試験を行い、ワイブルプロットによる整理を実施して、B10寿命を求めた。
靭性は、球状化焼鈍後の棒鋼から全体形状10×10×55mm、10R2mm深さノッチの衝撃試験片を採取し、これを表2に示す種々の浸炭条件および焼入れ条件にて浸炭焼入れを行い、それぞれ180℃で1hの焼戻しを行った後、シャルピー衝撃試験を実施することで調査した。試験は、各条件について5本ずつ室温で行い、試験時の衝撃吸収エネルギーについて5本の平均値を求めた。
各特性の調査結果を表2に示す。本発明の条件を満足する発明例は、鋼組成あるいは製造条件が本発明の条件を満足しない比較例と較べて、いずれも、通常雰囲気および水素雰囲気のどちらの場合にあっても、優れた転動疲労寿命を有することがわかる。
Figure 0006146381
Figure 0006146381

Claims (4)

  1. 質量%で
    C:0.1%超〜0.30%、
    Si:0.15〜1.0%未満、
    Mn:0.2〜1.2%、
    Cr:6.0%〜10.5%未満、
    P:0.025%以下、
    S:0.02%以下、
    Al:0.05%以下、
    N:0.0100%以下および
    O:0.0030%以下
    を含有し、残部Fe及び不可避的不純物からなる成分組成を有する鋼に、浸炭焼入れまたは浸炭窒化焼入れされてなり、表面から少なくとも200μm深さにいたる表層領域は、硬さがHv670以上であり、前記表層領域に存在する炭化物の面積率が5〜30%、かつ該炭化物の平均直径が0.40〜0.70μmおよび平均アスペクト比(長径/短径)が2.0以下であり、前記表層領域における残留オーステナイト量が40体積%以下であることを特徴とする転動疲労特性に優れた軸受用肌焼鋼。
  2. 前記成分組成が、さらに質量%で、
    Ti:0.03%以下、
    Mo:1.0%未満、
    Cu:1.0%以下、
    Ni:1.0%以下、
    W:1.0%以下、
    B:0.003%以下、
    V:0.3%以下および
    Nb:0.05%以下
    のうちから選ばれる1種もしくは2種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載の転動疲労特性に優れた軸受用肌焼鋼。
  3. 質量%で
    C:0.1%超〜0.30%、
    Si:0.15〜1.0%未満、
    Mn:0.2〜1.2%、
    Cr:6.0%〜10.5%未満、
    P:0.025%以下、
    S:0.02%以下、
    Al:0.05%以下、
    N:0.0100%以下および
    O:0.0030%以下
    を含有し、残部Fe及び不可避的不純物からなる成分組成を有する鋼に、カーボンポテンシャルが1.0〜1.5質量%の雰囲気中にて、880〜1100℃における保持時間を10h以上とする浸炭処理あるいは浸炭窒化処理を施し、その後の冷却過程または室温までの冷却後の再加熱にて850〜950℃で0.5h以上保持した後、20℃/s以上の冷却速度で冷却して焼入れし、その後焼戻しを行うことを特徴とする、表面から少なくとも200μm深さにいたる表層領域は、硬さがHv670以上であり、前記表層領域に存在する炭化物の面積率が5〜30%、かつ該炭化物の平均直径が0.40〜0.70μmおよび平均アスペクト比(長径/短径)が2.0以下であり、前記表層領域における残留オーステナイト量が40体積%以下である転動疲労特性に優れた軸受用肌焼鋼の製造方法。
  4. 前記成分組成が、さらに質量%で、
    Ti:0.03%以下、
    Mo:1.0%未満、
    Cu:1.0%以下、
    Ni:1.0%以下、
    W:1.0%以下、
    B:0.003%以下、
    V:0.3%以下および
    Nb:0.05%以下
    のうちから選ばれる1種もしくは2種以上を含有することを特徴とする請求項3に記載の転動疲労特性に優れた軸受用肌焼鋼の製造方法。
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