JP7460884B2 - 軸受用鋼 - Google Patents

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本発明は、浸炭処理により表層が硬化される軸受に用いられる、軸受用鋼に関する。
一般的に、自動車・建機・産機の軸受、歯車、シャフト、プーリー等に使用される鋼は、切削加工を施されて部品形状に加工されるため、優れた被削性が求められる。また、これらの部品に使用される鋼は、衝撃および摩擦等に対して優れた特性を有する必要があるため、優れた硬度、靭性、転動疲労強度および耐摩耗性が求められる。一般的に、表面硬度が高ければ高いほど転動疲労強度は向上するため、優れた転動疲労強度が求められる比較的大型の機械部品は、浸炭処理を施されてから使用される。
近年では、自動車の燃費向上を目的として、上記のような機械部品同士の間の潤滑液(油等)の量を減らす、あるいは粘度を下げる傾向がある。潤滑液の量を少なくすると、冷却効果の低下により表面温度が上昇し、より過酷な環境下で機械部品が使用されることになる。また、潤滑液の粘度を下げると液膜が薄くなることで冷却効果が低下するだけでなく、摩擦の増加により機械部品の表面温度が上昇する。機械部品の表面温度が上昇すると、使用されるうちに機械部品内部の組織が変化し、組織が変化した箇所が起点となって破壊が生じる場合がある。そのため、高温環境下で使用される機械部品は、表面温度が上昇した場合であっても組織が変化し難い特性を有する必要がある。
特許文献1には、質量%で、C:0.30~0.65%、Si:0.20~1.00%、Mn:0.20~0.60%、P:0.030%以下、S:0.030%以下、Cr:1.00~3.00%、Al:0.005~0.200%、N:0.0200%以下、O:0.0030%以下を含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなり、さらに、該鋼は上記組成のSi、Mn、Crの含有量から算出される4×Si+3Cr-Mnの値が6.00%以上を満足し、かつ、旧オーステナイト粒径を8.0μm以下としたことを特徴とする靭性および耐磨耗性に優れた鋼が開示されている。
特許文献2には、所定の化学組成を有し、鋼組織が、フェライト及びパーライトからなり、前記パーライトの面積率が85%以上であり、鋼中において、Al介在物及び複合介在物の総個数に対する、前記複合介在物の個数の比率は、20%以上であり、前記複合介在物は、質量%で、2.0%以上のSiO及び2.0%以上のCaOを含有し、残部の99%以上がAlである、高周波焼入れ用鋼が開示されている。
特許文献3には、所定の化学組成を有し、該鋼を浸炭焼入焼戻し又は浸炭窒化焼入焼戻した際の鋼材最表面から100~300μm位置の母相中に固溶したSi、Mn、Cr、NiおよびMoの合計が3.0%以上で、残留ローステナイト量が25~50vol%で残部はマルテンサイトを主とする組織の軸受用鋼が開示されている。
しかし、特許文献1および2では、鋼の表面温度が上昇することで生じる組織変化について何ら考慮されておらず、特許文献1および2に開示された鋼を高温環境下で使用される機械部品に適用した場合、鋼中に含まれるMnの作用により、潤滑液等に含まれる水素が鋼中に侵入し、拡散する事で組織変化が生じ、破壊が生じる場合がある。特許文献3では、残留オーステナイトを水素トラップとして活用することで耐組織変化特性を向上させると開示されているが、製造上、軟質な残留オーステナイトを安定して得ることができず、強度が不足して、破壊が生じる場合がある。
特許第5868099号公報 国際公開第2018/016502号 特開2018-53291号公報
本発明は、焼ならし後の被削性に優れ、且つ浸炭処理後において、優れた硬度、靭性、転動疲労強度、耐摩耗性および耐組織変化特性を有する軸受用鋼を提供することを目的とする。
本発明の要旨は、以下の通りである。
[1] 本発明の一態様に係る軸受用鋼は、化学組成が、質量%で、
C :0.15~0.30%、
Si:0.20~0.80%、
Mn:0.20%以上、0.40%未満、
Cr:1.60~2.00%、
V :0.02~0.30%、
Al:0.005~0.060%、
N :0.0020~0.0080%、
Ca:0.001~0.005%、
P :0.020%以下、
S :0.020%以下、および
O :0.0015%以下
を含有し、更に、
B :0.0040%以下、
Mo:0.80%以下、
Ti:0.050%以下、
Nb:0.050%以下、および
Ni:0.30%以下
からなる群から選択される1種または2種以上を含有し、
残部がFeおよび不純物からなり、且つ下記(1)式および下記(2)式を満足する。
C+Si/7+Mn/5+Cr/9+Mo/2.5≦0.800 ・・・ (1)
(Cr/Mn)+V≧5.00 ・・・ (2)
ただし、上記式中の元素記号は、当該元素の質量%での含有量を示し、当該元素を含有しない場合は0を代入する。
本発明によれば、焼ならし後の被削性に優れ、且つ浸炭処理後において、優れた硬度、靭性、転動疲労強度、耐摩耗性および耐組織変化特性を有する軸受用鋼を提供することができる。
実施例で使用した森式スラスト型転動疲労試験片を示す図である。 実施例で行った森式スラスト型転動疲労試験を説明する図である。
高温環境下で使用される機械部品は、すべりを伴う接触面圧を繰り返し負荷されるうちに部品表層の組織が変化し、組織が変化した箇所が起点となって破壊が生じる場合がある。本発明者らは、高温環境下で使用される機械部品の組織変化について以下のように推察している。
機械部品が高温環境下で、すべりを伴いながら繰り返し面圧を負荷されると、部品表層に局所変形が生じ、その箇所には大きなひずみが導入されることにより白色組織が生じる。鋼内部に白色組織が生じると、この組織が起点となり微小亀裂が生じ、最終的には破壊が生じる場合がある。本発明者らは、高温環境下で潤滑液(油等)が分解されることにより生じた水素が鋼内部に侵入することが、高温環境下で局所破壊が生じる原因の一つであると推察している。
そこで本発明者らは、耐組織変化特性に優れた鋼の化学組成について鋭意研究した。なお、耐組織変化特性に優れるとは、高温環境下で使用されても白色組織への組織変化が生じ難いことを意味する。その結果、本発明者らは、Mn、CrおよびVのそれぞれの含有量を所定の範囲内に制御し、且つこれらの元素の含有量が所定の関係を満たすように制御することで、耐組織変化特性に優れた鋼を得ることができることを知見した。より具体的には、本発明者らは、Vを含有させて結晶粒を微細化することで、降伏強度を向上させて局所変形の発生を抑制し、Mn含有量を低減させて結晶粒界を強化することで亀裂の発生を抑制し、更に、Crを含有させることで、耐組織変化特性に優れた鋼を得ることができることを知見した。
以上の知見に基づいてなされた本実施形態に係る軸受用鋼は、化学組成が、質量%で、C:0.15~0.30%、Si:0.20~0.80%、Mn:0.20%以上、0.40%未満、Cr:1.60~2.00%、V:0.02~0.30%、Al:0.005~0.060%、N:0.0020~0.0080%、P:0.020%以下、S:0.020%以下およびO:0.0015%以下を含有し、残部がFeおよび不純物からなり、且つ下記(1)式および下記(2)式を満足する。
C+Si/7+Mn/5+Cr/9+Mo/2.5≦0.800 ・・・ (1)
(Cr/Mn)+V≧5.00 ・・・ (2)
ただし、上記式中の元素記号は、当該元素の質量%での含有量を示し、当該元素を含有しない場合は0を代入する。
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は本実施形態に開示の構成のみに制限されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。「~」を挟んで記載する数値限定範囲には、下限値および上限値がその範囲に含まれる。「未満」と示す数値には、その値が数値範囲に含まれない。化学組成についての%は全て質量%を示す。
C:0.15~0.30%
炭素(C)は、軸受用鋼の浸炭時の焼入れ性を高める。C含有量が少ない場合は浸炭焼入れ時の焼入れ性が低下し、それに伴う硬さの低下を招く。従ってC含有量は0.15%以上とする。好ましくは0.20%以上である。一方、C含有量が多い場合は浸炭時の焼入れ性は確保できるが、靭性が低下するため、C含有量は0.30%以下とする。好ましくは、0.26%以下である。
Si:0.20~0.80%
シリコン(Si)は鋼に焼入性を付与して転動疲労強度を高める。更に、Siは焼戻し軟化抵抗を向上させる。すなわち、Siは、焼戻し処理および使用時の高温環境において軟化を抑制する。Si含有量が少ない場合は上記効果が得られないため、Si含有量は0.20%以上とする。好ましくは0.22%以上、0.30%以上である。一方、Si含有量が多い場合は、鋼の硬度が上昇して、被削性が劣化する。そのため、Si含有量は0.80%以下とする。好ましくは、0.75%以下、0.70%以下、0.65%以下である。
Mn:0.20%以上、0.40%未満
マンガン(Mn)は浸炭処理時の焼入れ性を高める。Mn含有量が少ない場合は上記効果が得られないため、Mn含有量は0.20%以上とする。好ましくは0.25%以上である。一方、Mn含有量が多い場合は、結晶粒界にMnが偏析することで、鋼の耐組織変化特性が劣化する。そのため、Mn含有量は0.40%未満とする。好ましくは0.35%以下である。
Cr:1.60~2.00%
クロム(Cr)は、鋼に焼入性を付与して強度を高める。また、Crは焼戻し軟化抵抗を向上させ、焼戻し処理および使用時の高温環境における軟化を抑制する。更に、Crは鋼の水素感受性を抑制することで、耐組織変化特性を向上させる。Cr含有量が少ない場合は上記効果が得られないため、Cr含有量は1.60%以上とする。好ましくは1.65%以上、1.70%以上、1.80%以上である。一方、Cr含有量が多い場合は、靭性が低下するとともに鋼の硬さが上昇して被削性が劣化する。そのため、Cr含有量は2.00%以下とする。好ましくは1.95%以下である。
V:0.02~0.30%
バナジウム(V)は、微細なV窒化物、V炭化物、又はV炭窒化物を形成して浸炭処理時の結晶粒の粗大化を抑制することで鋼の降伏強度を向上させ、圧力のかかる部品表層で局所変形が生じることを抑制する。また、Vは鋼の転動疲労強度および耐組織変化特性を向上させる。これは、鋼内部に侵入した水素をV析出物がトラップすることで、水素侵入による脆化を抑制することが原因の一つと考えられる。V含有量が少ない場合は上記効果が得られないため、V含有量は0.02%以上とする。好ましくは0.05%以上、0.10%以上、0.15%以上である。一方、V含有量が多い場合は、鋼中に粗大なV析出物が形成され、鋼の靱性が低下する。そのため、V含有量は0.30%以下とする。好ましくは、0.25%以下、0.21%以下である。
Al:0.005~0.060%
アルミニウム(Al)は溶鋼を脱酸する。また、Alは鋼中のNと結合してAlNを形成し、浸炭処理時の結晶粒の粗大化を抑制する。Al含有量が少ない場合、上記効果が得られないため、Al含有量は0.005%以上とする。好ましくは0.008%以上、0.015%以上である。一方、Al含有量が多い場合、鋼中に粗大なAl介在物、および/または複数のAl介在物が凝集したAlクラスタが多量に生成し、浸炭処理後の鋼の転動疲労強度が低下する。そのため、Al含有量は0.060%以下とする。好ましくは0.050%以下、0.045%以下である。
なお、本実施形態におけるAl含有量とは、全Alの含有量を意味する。
N:0.0020~0.0080%
窒素(N)はAlと結合して鋼中にAlNを形成し、浸炭処理時の結晶粒の粗大化を抑制することで、浸炭処理後の鋼の転動疲労強度を高める。N含有量が少ない場合、上記効果が得られないため、N含有量は0.0020%以上とする。好ましくは0.0025%以上、0.0028%以上である。一方、N含有量が多い場合、Nが過剰にフェライトに固溶してひずみ時効が生じ、鋼の冷間加工性が低下する。さらに、N含有量が多い場合、鋼中に粗大な窒化物が生成されて、鋼の被削性および転動疲労強度が低下する。そのため、N含有量は0.0080%以下とする。好ましくは0.0070%以下、0.0060%以下である。
P:0.020%以下
リン(P)は不純物元素である。Pは結晶粒界に偏析して粒界を脆化させるため、浸炭処理後の鋼の転動疲労強度を低下させる。したがって、P含有量は0.020%以下に制限する。P含有量は0.015%以下、0.011%以下が好ましい。P含有量は0%とすることが好ましいが、P含有量を過度に低減しても精錬コストの増加に見合う効果が得られないため、P含有量は0.003%以上、0.005%以上としてもよい。
S:0.020%以下
硫黄(S)は不純物元素である。Sは鋼中に粗大な介在物(MnS)を形成し、浸炭処理後の鋼の転動疲労強度を低下させる。したがって、S含有量は0.020%以下に制限する。S含有量は0.016%以下、0.013%以下、0.010%以下が好ましい。S含有量は0%とすることが好ましいが、S含有量を過度に低減しても精錬コストの増大に見合う効果が得られないため、S含有量は0.003%以上、0.005%以上としてもよい。
O:0.0015%以下
酸素(O)は不純物元素である。OはAl、Si及びCaと結合して酸化物(又は酸化物系介在物)を形成し、浸炭処理後の鋼の転動疲労強度を低下させる。したがって、O含有量は0.0015%以下に制限する。O含有量は0.0014%以下、0.0011%以下が好ましい。O含有量は0%とすることが好ましいが、O含有量を過度に低減しても精錬コストの増大に見合う効果が得られないため、O含有量は0.0003%以上、0.0005%以上としてもよい。
本実施形態に係る軸受用鋼の化学組成の残部は、Fe及び不純物である。本実施形態において、不純物とは、軸受用鋼を工業的に製造する際に、原料としての鉱石、スクラップ、または製造環境等から混入されるものであって、本実施形態に係る軸受用鋼に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
本実施形態に係る軸受用鋼には、残部のFeに代えて以下の任意元素の1種以上を含有させてもよい。下記任意元素を含有させない場合の含有量は0%である。
Ca:0.005%以下
カルシウム(Ca)は、腐食起点となる鋼中のMnSを球状化し、微細分散させることで、鋼の耐食性を向上させる。更に、Caは、Al介在物を改質して、複合介在物(Al-CaO-SiO)を形成する。Al介在物を改質して複合介在物を生成することにより、浸炭処理後の転動疲労強度を向上させる。これらの効果を確実に得るためには、Ca含有量は0.0005%以上とする。一方、Ca含有量が多い場合、鋼中に粗大な介在物が増加して、浸炭処理後の転動疲労強度が低下する。そのため、Ca含有量は0.005%以下とすることが好ましい。より好ましくは0.004%以下、0.003%以下である。
B:0.0040%以下
ボロン(B)は鋼中に固溶して鋼の焼入れ性を高めることで、浸炭処理後の鋼の転動疲労強度をより向上させる。この効果を確実に得るためには、B含有量は0.0005%以上とすることが好ましい。より好ましくは、0.0010%以上である。一方、B含有量が多い場合、上記効果が飽和するとともに、合金コストが増加する。そのため、B含有量は0.0040%以下とすることが好ましい。より好ましくは0.0030%以下である。
Mo:0.80%以下
モリブデン(Mo)は鋼中に固溶して、浸炭処理後の鋼の転動疲労強度をより向上させる。この効果を確実に得るためには、Mo含有量を0.01%以上とすることが好ましい。より好ましくは0.07%以上、0.12%以上である。一方、Mo含有量が多い場合、焼きならし後の硬さが高くなり、被削性が低下する場合があるため、Mo含有量は0.80%以下とすることが好ましい。より好ましくは0.60%以下、0.50%以下である。
Ti:0.050%以下
チタン(Ti)は、鋼中にTi窒化物又はTi炭化物を形成して、浸炭処理時の結晶粒の粗大化を抑制することで、浸炭処理後の鋼の転動疲労強度をより向上させる。この効果を確実に得るためには、Ti含有量は0.010%以上とすることが好ましい。より好ましくは0.015%以上、0.020%以上である。一方、Ti含有量が多い場合、鋼中に粗大なTi窒化物および/またはTi炭化物が生成して、鋼の被削性が低下する場合がある。そのため、Ti含有量は0.050%以下とすることが好ましい。より好ましくは0.045%以下、0.040%以下である。
Nb:0.050%以下
ニオブ(Nb)は鋼中にNb窒化物、Nb炭化物又はNb炭窒化物を形成し、ピニング効果によって結晶粒の粗大化を抑制する。この効果を確実に得るためには、Nb含有量を0.010%以上とすることが好ましい。より好ましくは0.020%以上、0.025%以上である。一方、Nb含有量が多い場合、鋼中に粗大なNb析出物が形成され、鋼の靱性が低下する場合がある。したがって、Nb含有量は0.050%以下とすることが好ましい。より好ましくは0.040%以下である。
Ni:0.30%以下
ニッケル(Ni)は鋼中に固溶して、浸炭処理後の鋼の転動疲労強度をより向上させる。この効果を確実に得るためには、Ni含有量は0.001%以上とすることが好ましい。より好ましくは0.01%以上である。一方、Ni含有量が多い場合、上記効果が飽和するとともに合金コストが増加する。そのため、Ni含有量は0.30%以下とすることが好ましい。より好ましくは0.25%以下がより好ましい。
本実施形態に係る軸受用鋼は、上記化学組成を有し、且つ下記(1)式および下記(2)式を満たす。
C+Si/7+Mn/5+Cr/9+Mo/2.5≦0.800 ・・・ (1)
(Cr/Mn)+V≧5.00 ・・・ (2)
ただし、上記式中の元素記号は、当該元素の質量%での含有量を示し、当該元素を含有しない場合は0を代入する。以下に上記(1)式および上記(2)式について説明する。
C+Si/7+Mn/5+Cr/9+Mo/2.5≦0.800 ・・・ (1)
上記(1)式の左辺は、焼入れ性の指標(Ceq)を示す。Ceqが0.800を超えると、鋼の焼入れ性が過度に高くなり、圧延後の軸受用鋼の金属組織の一部に、硬質なベイナイトが生成する。これにより、鋼の被削性が劣化する。そのため、Ceq(上記(1)式の左辺)は0.800以下とする。Ceqは0.700以下、0.650以下、0.600以下が好ましい。
上述した本実施形態に係る化学組成を有する鋼であれば、軸受用鋼として所望される焼入れ性ならびに浸炭処理後の硬度を得ることができるため、Ceqの下限は特に限定しない。しかし、鋼の焼入れ性を確実に得るために、Ceqは0.450以上、0.500以上としてもよい。
(Cr/Mn)+V≧5.00 ・・・ (2)
上記(2)式の左辺は、本実施形態に係る軸受用鋼の耐組織変化特性の指標を示す。上記(2)式の左辺が5.00未満であると、鋼の耐組織変化特性が劣化し、高温環境下で使用された際に白色組織が生じ、破壊が生じ易くなる。そのため、上記(2)式の左辺は5.00以上とする。上記(2)式の左辺は、5.50以上、6.00以上が好ましい。上記(2)式の左辺は、本実施形態に係る軸受用鋼のCr含有量、Mn含有量、V含有量が取り得る値から、10.30以下としてもよい。
上述した軸受用鋼の化学組成は、ICP-AES(Inductively Coupled Plasma-Atomic Emission Spectrometry)を用いて測定すればよい。CおよびSは燃焼-赤外線吸収法を用い、Nは不活性ガス融解-熱伝導度法を用い、Oは不活性ガス融解-非分散型赤外線吸収法を用いて測定すればよい。
本実施形態に係る鋼は軸受用鋼であり、制御されるべき金属組織は浸炭処理後の金属組織であるため、本実施形態に係る軸受用鋼(浸炭処理前)の金属組織は特に限定されない。本実施形態に係る鋼の金属組織は、フェライト(初析フェライト)、パーライト及びセメンタイトの合計面積率を90%以上とし、残部組織の面積率を10%以下としてもよい。また、残部組織を0%とし、フェライト及びセメンタイトの合計面積率を100%としてもよく、フェライト、パーライト及びセメンタイトの合計面積率を100%としてもよい。金属組織中の残部組織とは、例えばベイナイトである。ただし、本実施形態に係る軸受用鋼は上述の金属組織を有さなくても、本実施形態に係る軸受用鋼の特性を得ることができる。
本実施形態に係る軸受用鋼は、適用する機械部品等に応じて適宜選択すればよく、棒鋼または線材であっても構わない。
次に、本実施形態に係る軸受用鋼の製造方法の一例について説明する。
本実施形態では、軸受用鋼の一例として、浸炭処理用の棒鋼又は線材の製造方法について説明する。しかしながら、本実施形態に係る軸受用鋼は、棒鋼又は線材に限定されない。
製造方法の一例は、溶鋼を精錬し、鋳造して素材(鋳片又はインゴット)を製造する製鋼工程と、素材を熱間加工して軸受用鋼を製造する熱間加工工程とを備える。以下、それぞれの工程について説明する。
[製鋼工程]
製鋼工程は、精錬工程と鋳造工程とを含む。
精錬工程では初めに、周知の方法で製造された溶銑に対して転炉での精錬(一次精錬)を実施する。転炉から出鋼した溶鋼に対して、二次精錬を実施する。二次精錬において、成分調整の合金元素を添加して、上述した化学組成を満たす溶鋼を製造する。
上記精錬工程により製造された溶鋼を用いて、素材(鋳片又はインゴット)を製造する(鋳造工程)。具体的には、溶鋼を用いて連続鋳造法により鋳片を製造する、又は、溶鋼を用いて造塊法によりインゴットを製造する。
[熱間加工工程]
製造された素材を熱間加工して、軸受用鋼(棒鋼又は線材)を製造する。熱間加工工程は、粗圧延工程と、仕上げ圧延工程とを含む。粗圧延工程では、素材を熱間加工してビレットを製造する。粗圧延工程では例えば、分塊圧延機を用いる。分塊圧延機により素材に対して分塊圧延を実施して、ビレットを製造する。
粗圧延工程において分塊圧延を実施する際、加熱炉での加熱温度及び保持時間は次の通りとする。
加熱温度:1150~1300℃
上記加熱温度での保持時間:1.5~40.0時間
ここで、加熱温度は、加熱炉の炉温(℃)である。また、保持時間は、加熱炉の炉温が1150~1300℃での保持時間(時間)である。
加熱温度が1150℃未満、又は、1150~1300℃での保持時間が1.5時間未満であれば、素材中のV炭化物及びV複合炭化物が十分に固溶しない。そのため、V窒化物、V炭化物、又はV炭窒化物が粗大化し、浸炭処理時の結晶粒の粗大化を抑制することができない。一方、加熱温度が1300℃を超えたり、1150~1300℃での保持時間が40.0時間を超えれば、原単位が過剰に高くなり、製造コストが高くなる。
粗圧延工程の加熱温度が1150~1300℃であり、かつ、1150~1300℃での保持時間が1.5~40.0時間であれば、素材中のV窒化物、V炭化物、又はV炭窒化物が十分に固溶する。
仕上げ圧延工程では、始めに加熱炉を用いてビレットを加熱する。加熱後のビレットに対して、連続圧延機を用いて熱間圧延を実施して、軸受部品用鋼材である棒鋼又は線材を製造する。
仕上げ圧延工程における加熱炉での加熱温度及び保持時間は次の通りとする。
加熱温度:1100~1300℃
上記加熱温度での保持時間:0.5~5.0時間
ここで、加熱温度は、加熱炉の炉温(℃)である。また、保持時間は、加熱炉の炉温が1100~1300℃での保持時間(時間)である。
仕上げ圧延工程では、なるべく、仕上げ圧延工程中にV炭化物等及びV複合炭化物等が析出するのを抑制する。仕上げ圧延工程の加熱炉での加熱温度が1100℃未満であったり、1100~1300℃での保持時間が0.5時間未満であれば、仕上げ圧延時において圧延機に掛かる負荷が過剰に大きくなる。一方、加熱温度が1300℃を超えたり、1100~1300℃での保持時間が5.0時間を超えれば、原単位が過剰に高くなり、製造コストが高くなる。
仕上げ圧延工程での加熱温度が1100~1300℃であり、かつ、1100~1300℃での保持時間が0.5~5.0時間であれば、素材中のV炭化物等及びV複合炭化物等が十分に固溶する。
仕上げ圧延後の軸受用鋼は、室温になるまで冷却する。このとき、軸受用鋼の表面温度が800~500℃になるまでの平均冷却速度を1.0℃/秒以下として、フェライト、パーライト及びセメンタイトを主体(面積分率の合計で90%以上)とする金属組織とすることが好ましい。
製造された軸受用鋼に対して、必要に応じて焼準処理(ノルマ処理)や球状化焼鈍処理を実施してもよい。以上説明した一例の製造方法により、本実施形態に係る軸受用鋼を製造することができる。
本実施形態に係る軸受用鋼は、浸炭処理部品に加工され、軸受、歯車、シャフト、プーリー等の自動車部品に好適に使用される。これらの自動車部品として使用される浸炭処理部品は一般的に、以下の方法により製造される。
まず、軸受用鋼に対して熱間鍛造を実施して、中間品を製造する。中間品に対して、必要に応じて、応力除去焼きなまし処理を実施する。熱間鍛造後又は応力除去焼きなまし処理後の中間品に対して切削加工を実施して、部品形状に加工することで、粗製品を得る。その後、粗製品に対して、浸炭処理を実施する。浸炭処理の条件は、温度を830℃~1000℃、カーボンポテンシャルを0.7%~1.1%、浸炭時間を30分以上とすればよい。浸炭処理後、必要に応じて焼戻しまたは焼きなましを実施し、更に研削加工を実施することで、浸炭処理部品を製造することができる。
本実施形態に係る軸受用鋼を用いて製造された浸炭処理部品は、軸受、歯車、シャフト、プーリー等の自動車部品として好適に使用することができる。
次に、実施例により本発明の一態様の効果を更に具体的に説明するが、実施例での条件は、本発明の実施可能性および効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明はこの一条件例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
以下の方法により、軸受用棒鋼を製造した。
まず、周知の方法で製造された溶銑に対して転炉で一次精錬を実施した。転炉から出鋼した溶鋼に対して、二次精錬を実施した。二次精錬において、成分調整の合金元素を添加して、化学組成を調整した。二次精錬後の溶鋼を用いて、連続鋳造法により、400mm×300mmの横断面を有する鋳片を製造した。この鋳片を1250℃に加熱し、1.5~40.0時間保持した後、分塊圧延にて162mm×162mmの横断面を有する鋼片を製造した。製造された鋼片を常温(25℃)まで空冷した後、再び加熱温度:1100~1300℃、当該加熱温度での保持時間:0.5~5.0時間の条件で加熱した。加熱された鋼片に対して連続圧延機を用いて熱間圧延(仕上げ圧延)を行い、その後常温(25℃)まで冷却することで、直径70mmの軸受用棒鋼を得た。なお、仕上げ圧延後、常温までの冷却において、軸受用棒鋼の表面温度が800~500℃になるまでの平均冷却速度は1.0℃/秒以下とした。この軸受用棒鋼を更に球状化焼鈍を実施した。840℃で6時間保持した後、690℃まで-10℃/hの平均冷却速度で冷却し、その後、放冷した。
得られた軸受用棒鋼の化学組成を表1に示す。なお、軸受用棒鋼の化学組成は、ICP-AES(Inductively Coupled Plasma-Atomic Emission Spectrometry)を用いて測定した。CおよびSは燃焼-赤外線吸収法を用い、Nは不活性ガス融解-熱伝導度法を用い、Oは不活性ガス融解-非分散型赤外線吸収法を用いて測定した。
なお、表1のCeqは、下記(1)式の左辺である。
C+Si/7+Mn/5+Cr/9+Mo/2.5≦0.800 ・・・ (1)
Figure 0007460884000001
[ロックウェル硬さ試験]
得られた軸受用棒鋼を用いて、機械部品(浸炭処理部品)を模擬した試験片を以下の方法で作製した。なお、試験片の化学組成は、軸受用棒鋼の化学組成と同一である。
まず、得られた軸受用棒鋼を、1200℃で30分加熱した後、仕上げ温度を950℃以上として熱間鍛造し、直径70mmの丸棒を製造した。直径60mmの丸棒を機械加工して、直径70mm、厚さ5.5mmの中間品を複数個作製した。なお、中間品の厚さ方向を丸棒の長手方向とした。
作製された中間品に対して、浸炭処理を実施した。具体的には、作成された中間品に対して、カーボンポテンシャルが0.8%~1.0%、温度が930℃で浸炭時間が5時間である処理を施した後、870℃で1時間保持し、60℃の油で焼入れる浸炭処理を実施した。その後、通常の熱処理炉を用いて160℃で1時間の焼戻しを行った。浸炭処理後の中間品に対して研削加工及びラッピング加工を実施して、図1に示す直径58mm、厚さ5.0mmの森式スラスト型転動疲労試験片を作製した。以上の方法により、森式スラスト型転動疲労試験片を作製した。
得られた森式スラスト型転動疲労試験片の円筒上面のロックウェル硬さを測定した。具体的には、森式スラスト型転動疲労試験片の上面の任意の3点に対して、JIS Z 2245:2016に準拠したロックウェル硬さHRC試験を実施した。このときの試験力は1471Nとした。得られたロックウェル硬さの3点の平均値を、表面のロックウェル硬さ(HRC1)と定義した。表面のロックウェル硬さが58HRC1超、65HRC1以下の場合を硬度に優れるとして合格と判定し、表面のロックウェル硬さが58HRC1以下、あるいは65HRC1超の場合を硬度に劣るとして不合格と判定した。測定結果を表2に示す。
[切削試験]
鋼の被削性は、ドリル加工による切削試験により評価した。具体的には、まずSUJ2の鋼において、合計1000mmの穴開けが可能な最大切削速度を求め、各鋼番号の鋼を用いてこの最大切削速度で加工穴深さが1000mmとなるまで加工できるか否かにより評価した。より具体的には、JIS G 4805:2008に規定された直径35mmのSUJ2の鋼を温度820℃、時間10時間加熱した後に温度690℃まで1.0℃/min以下で徐冷後、大気中で放冷を行った。この丸棒を長さ130mmに切断したものを素材とし、直径10mm、長さ300mmのTiCコーティングの超硬ドリルを用い、水溶性切削油で潤滑しながら送り速度0.2mm/revにて深さ100mmまで穿孔を行い、加工穴深さ1000mmの穿孔が可能な最大切削速度VL1000(m/min)を求めた。
最大切削速度VL1000は、通常、工具寿命の評価指標として用いられており、最大切削速度VL1000が大きいほど工具寿命が良好であると判断できる。各鋼番号の鋼を上述のSUJ2と同じ焼ならしを行い、SUJ2にて求めた最大切削速度VL1000でドリル加工を実施し、加工穴深さが1000mmとなるまで加工できた場合を被削性に優れるとして合格と判定し、表2に「Good」と記載し、加工穴深さが1000mmとなるまで加工できなかった場合を被削性に劣るとして不合格と判定し、表2に「Bad」と記載した。加工穴深さが1000mmとなるまで加工できなかった比較例は後述する評価試験(転動疲労評価試験、耐摩耗性評価試験および耐組織変化特性評価試験)を行わなかった。
[転動疲労評価試験]
ロックウェル硬さ試験のときと同様の方法により、森式スラスト型転動疲労試験片を作製した。得られた森式スラスト型転動疲労試験片および森式スラスト型転動疲労試験機を用いて、転動疲労評価試験を行った。森式スラスト型転動疲労試験は次の方法で実施した。図2は、森式スラスト型転動疲労試験を説明する図である。森式スラスト型転動疲労試験片1と上レース2としての呼び番号#51305のスラスト軸受レースと、直径9.525mmの鋼球3とを組み合わせて、森式スラスト型転動疲労試験を実施した。なお、鋼球3は、JIS G 4805:2008に規定されたSUJ2の規格を満たす鋼からなり、一般的な製造工程、つまり、球状化焼なまし、試験片加工、油焼入れ、低温焼戻し及び研磨、の製造工程によって作製した。焼入れは840℃30分の条件で行い、焼入れは60℃の油焼入れとした。焼戻しは通常の熱処理炉を用いて160℃で1時間とした。焼戻し処理後の鋼球を研削加工及びラッピング加工を実施して直径9.525mmの鋼球3を製造した。
森式スラスト型転動疲労試験では、試験荷重を400kgf、最大面圧を5.23GPa、回転数を1200rpm、潤滑油をクリセフH8に浸漬した状態で、耐久回数を200×106とした試験を10回繰返した。試験結果をワイブル確率紙上にプロットし、50%破損確率を示すL50寿命を「転動疲労寿命」とみなした。また、JIS G 4805:2008に規定されたSUJ2鋼を用いて同様の試験を行い、SUJ2鋼の「転動疲労寿命」を求め、これを「従来鋼の転動疲労寿命」とみなした。
得られた「転動疲労寿命」と「従来鋼の転動疲労寿命」とから、転動疲労強度(=「転動疲労寿命」/「従来鋼の転動疲労寿命」×100)を算出した。転動疲労強度が120%以上の場合を、転動疲労強度に優れるとして合格と判定した。転動疲労強度が120%未満の場合を、転動疲労強度に劣るとして不合格と判定した。
[靭性評価]
まず、軸受用棒鋼を、1200℃で30分加熱した後、仕上げ温度を950℃以上として熱間鍛造し、直径60mmの丸棒を製造した。直径60mmの丸棒を機械加工して、直径40mmの中間品を複数個作製した。
得られた中間品に対して、浸炭処理を実施した。具体的には、930℃で浸炭時間が5時間である処理を施した後、870℃で1時間保持し、60℃の油で焼入れる浸炭処理を実施した。上記処理を施した中間品から、Uノッチを有するシャルピー試験片を作製した。シャルピー試験片は、試験片長手方向が丸棒の長手方向と平行になるように作製した。
上記シャルピー試験片を用いて、JIS Z 2242:2018に準拠して、室温にてシャルピー衝撃試験を行った。シャルピー衝撃試験により得られた吸収エネルギーを、切欠き部の原断面積(シャルピー衝撃試験前のシャルピー衝撃片の切欠き部の断面積)で除することで、衝撃値vE20(J/cm)を算出した。衝撃値vE20(J/cm)が30J/cm以上の場合を、靭性に優れるとして合格と判定し、30J/cm未満の場合を、靭性に劣るとして不合格と判定した。
[耐摩耗性評価試験]
耐摩耗性は、転動疲労評価試験と同様の方法により森式スラスト型転動疲労試験片を作製し、この森式スラスト型転動疲労試験片を用いて森式スラスト型転動疲労試験を行うことにより評価した。試験片形状は図1の通りである。試験条件は、潤滑環境下で最大接触面圧5.23GPa、回転数1200rpm、繰り返し数1×10回で試験を実施した。その他の条件は、転動疲労評価試験と同様の条件とした。森式スラスト型転動疲労試験を行った後、試験片の接触部の粗さを測定した。試験後の試験片の接触部の粗さは、円周方向に対して90°ピッチにて4カ所で測定した。粗さプロファイルから摩耗深さを求め、測定4カ所の摩耗深さの平均値(以降、平均摩耗深さ)を耐摩耗性の評価指標とした。平均摩耗深さが5μm以下の場合を耐摩耗性に優れるとして合格と判定し、表2に「Good」と記載し、平均摩耗深さ5μm超の場合を耐摩耗性に劣るとして不合格と判定し、表2に「Bad」と記載した。
[耐組織変化特性評価試験]
耐組織変化特性評価試験は、転動疲労評価試験と同様の方法により森式スラスト型転動疲労試験片を作製し、下記の条件で陰極電解チャージ法により水素を導入した後、森式スラスト型転動疲労試験を実施することにより評価した。鋼中への水素導入は陰極電解法を用いて実施した。具体的には森式スラスト型転動疲労試験片を濃度3g/lのNHSCNを添加した3%NaCl水溶液中で電流密度0.2mA/cm、48時間の陰極電解チャージを実施した後、鋼中の水素濃度が均一になるように室温で24時間放置した。その後、鋼中からの水素放出を防止するため、森式スラスト型転動疲労試験開始まで液体窒素中で保管した。
水素導入後、液体窒素中で保存した森式スラスト型転動疲労試験片を流水で室温に戻した後、直ちに下記の条件で森式スラスト型転動疲労試験を実施した後、森式スラスト型転動疲労試験片の接触部表層断面の組織を、光学顕微鏡にて観察し、組織変化を評価した。森式スラスト型転動疲労試験は、試験数を5個とし、繰り返し数を1×10回とした点以外の条件は、転動疲労評価試験のときと同様の条件とした。繰り返し数が1×10回に到達せずに破壊した試験片については、途中で試験を中止して、後述の方法により白色組織の有無を観察した。
白色組織発生の有無は、森式スラスト型転動疲労試験片の接触部中央部を試験片厚さ方向に切断した断面上で判定した。観察断面を研磨した後、3%硝酸アルコール(ナイタル腐食液)にてエッチングした。エッチングされた観察面上の摺動面から深さ0~500μm位置において周方向全周を500倍の光学顕微鏡にて観察した。観察面内において最大長さが5μmを超える白色組織が観察されなかった場合、耐組織変化特性に優れるとして合格と判定し、表2に「無」と記載し、最大長さが5μmを超える白色組織が観察された場合、耐組織変化特性に劣るとして不合格と判定し、表2に「有」と記載した。なお、繰り返し数が1×10回に到達せずに破壊した全ての試験片は、最大長さが5μmを超える白色組織が観察された。
Figure 0007460884000002
鋼1~9を使用した試験番号1~9は、化学組成が本発明の範囲内であるため、被削性、表面のロックウェル硬さ、靭性、転動疲労特性、耐摩耗性および耐組織変化特性のいずれも合格基準を満足している。一方、鋼10~23を使用した試験番号10~23は、いずれか1つ以上の特性が合格基準を満足しないものとなった。
鋼10を使用した試験番号10はC含有量、P含有量およびS含有量が高かったため、靭性、転動疲労強度および耐摩耗性が劣った例である。
鋼11を使用した試験番号11はCeqが高かったため、被削性が劣った例である。
鋼12を使用した試験番号12はMn含有量が高かったため、転動疲労強度および耐組織変化特性が劣った例である。
鋼13を使用した試験番号13は式(2)の左辺が低かったため、転動疲労強度、耐摩耗性および耐組織変化特性が劣った例である。
鋼14を使用した試験番号14はC含有量が低かったため、表面のロックウェル硬さ、転動疲労強度および耐摩耗性が劣った例である。
鋼15を使用した試験番号15はC含有量が高かったため、靭性が劣った例である。
鋼16を使用した試験番号16はSi含有量が低かったため、転動疲労強度および耐摩耗性が劣った例である。
鋼17を使用した試験番号17はSi含有量が高かったため、被削性が劣った例である。
鋼18を使用した試験番号18はMn含有量が低かったため、表面のロックウェル硬さ、転動疲労強度および耐摩耗性が劣った例である。
鋼19を使用した試験番号19はCr含有量が低かったため、転動疲労強度および耐組織変化特性が劣った例である。
鋼20を使用した試験番号20はCr含有量が高かったため、被削性が劣った例である。
鋼21を使用した試験番号21はVを含まなかったため、転動疲労強度、耐摩耗性および耐組織変化特性が劣った例である。
鋼22を使用した試験番号22はV含有量が高かったため、靭性が劣った例である。
鋼23を使用した試験番号23はMn含有量が高く、Cr含有量が低く、またVを含まなかったため、転動疲労強度および耐組織変化特性が劣った例である。
本発明によれば、焼ならし後の被削性に優れ、浸炭処理後において、優れた硬度、靭性、転動疲労強度、耐摩耗性および耐組織変化特性を有する浸炭軸受用鋼を提供することができる。
1 森式スラスト型転動疲労試験片
2 上レース
3 鋼球

Claims (1)

  1. 化学組成が、質量%で、
    C :0.15~0.30%、
    Si:0.20~0.80%、
    Mn:0.20%以上、0.40%未満、
    Cr:1.60~2.00%、
    V :0.02~0.30%、
    Al:0.005~0.060%、
    N :0.0020~0.0080%、
    Ca:0.001~0.005%、
    P :0.020%以下、
    S :0.020%以下、および
    O :0.0015%以下
    を含有し、更に、
    B :0.0040%以下、
    Mo:0.80%以下、
    Ti:0.050%以下、
    Nb:0.050%以下、および
    Ni:0.30%以下
    からなる群から選択される1種または2種以上を含有し、
    残部がFeおよび不純物からなり、且つ下記(1)式および下記(2)式を満足することを特徴とする軸受用鋼。
    C+Si/7+Mn/5+Cr/9+Mo/2.5≦0.800 ・・・ (1)
    (Cr/Mn)+V≧5.00 ・・・ (2)
    ただし、上記式中の元素記号は、当該元素の質量%での含有量を示し、当該元素を含有しない場合は0を代入する。
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