JP2024016808A - 鋼材、及び、浸炭機械構造用部品 - Google Patents

鋼材、及び、浸炭機械構造用部品 Download PDF

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Daisuke Takasaki
将人 祐谷
Masahito Suketani
豊 根石
Yutaka Neishi
崇秀 梅原
Takahide Umehara
裕嗣 崎山
Hirotsugu Sakiyama
美百合 梅原
Miyuri Umehara
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Abstract

【課題】優れた転動疲労寿命及び優れた被削性を有する鋼材を提供する。【解決手段】本実施形態による鋼材は、質量%で、C:0.15~0.45%、Si:0.05~0.80%、Mn:0.40~1.50%、P:0.015%以下、S:0.005%以下、Cr:0.05~0.50%未満、Mo:0.06~0.35%、V:0.10~0.40%、Al:0.005~0.100%、N:0.030%以下、及び、O:0.0015%以下、を含有し、残部がFe及び不純物からなり、式(1)~式(3)を満たす。Si/Cr≧0.45 (1)Mo+V≧0.25 (2)Mo/V>0.30 (3)ここで、式(1)~式(3)中の各元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。【選択図】なし

Description

本開示は、浸炭処理が施された機械構造用部品である、浸炭機械構造用部品の素材として適用可能な鋼材、及び、浸炭機械構造用部品に関する。
鉱山機械や、建設機械、自動車等には、鋼材を素材とした機械構造用部品が用いられる。機械構造用部品は例えば、軸受部品等である。軸受部品等の機械構造用部品の素材となる鋼材は、JIS G 4805(2008)に規定されたSUJ2に代表される。機械構造用部品は通常、鋼材を素材として次の製造工程で製造される。素材となる鋼材に対して熱間鍛造を実施して、所望の形状の中間品を製造する。中間品に対して切削加工を実施する。切削加工された中間品に対して熱処理を実施して、鋼材の硬さ及びミクロ組織を調整する。熱処理は例えば、焼入れ焼戻し、浸炭処理、又は、浸炭窒化処理等である。以上の製造工程により機械構造用部品が製造される。
機械構造用部品に疲労寿命の向上が求められる場合、機械構造用部品の上述の製造工程中の熱処理として、浸炭処理が実施される。浸炭処理では、鋼材の表層に硬化層(浸炭層)を形成して、鋼材の表層を硬化させる。これにより、機械構造用部品の疲労寿命が向上する。本明細書では、浸炭処理を施された機械構造用部品を「浸炭機械構造用部品」ともいう。
浸炭機械構造用部品の疲労寿命を高める技術が特開平8-49057号公報(特許文献1)に提案されている。
特許文献1に開示された転がり軸受は、軌道輪及び転動体の少なくとも一つが、C:0.1~0.7重量%、Cr:0.5~3.0重量%、Mn:0.3~1.2重量%、Si:0.3~1.5重量%、Mo:3重量%以下を含有し、さらに、V:0.8~2.0重量%を含有した鋼を素材とする。その素材を用いて形成した中間品に浸炭処理を実施して、軸受表面の炭素濃度を0.8~1.5重量%とし、且つ、軸受表面のV/C濃度比を1~2.5とする。この転がり軸受では、表面にV炭化物が生成して高温での硬さを高めることにより、転動疲労寿命を高めることができる、と特許文献1には記載されている。
ところで、機械構造用部品の中には、トランスミッション等の駆動部品に適用される軸受部品に代表される様に、潤滑油が循環する環境にて使用される機械構造用部品が存在する。
最近では、燃費向上を目的として、潤滑油の粘度を低下して摩擦抵抗及び伝達抵抗を低減したり、循環させる潤滑油の使用量を低減したりしている。そのため、軸受部品に代表される機械構造用部品の使用環境において、使用中に潤滑油が分解して水素が発生しやすくなっている。使用環境において水素が発生すると、外部から機械構造用部品内に水素が侵入する。侵入した水素は機械構造用部品のミクロ組織の一部において組織変化をもたらす。機械構造用部品の使用中での組織変化は、機械構造用部品の表面近傍部分に割れ(剥離)を引き起こし、機械構造用部品の転動疲労寿命を低下させる。以下、本明細書において、組織変化の要因となる水素が発生する環境を「水素発生環境」という。水素発生環境下で使用される機械構造用部品では、水素発生環境下での優れた転動疲労寿命が求められる。
水素発生環境下での疲労寿命を高める技術が特開2008-280583号公報(特許文献2)に提案されている。
特許文献2に開示された肌焼鋼は、質量%で、C:0.1~0.4%、Si:0.5%以下、Mn:1.5%以下、P:0.03%以下、S:0.03%以下、Cr:0.3~2.5%、Mo:0.1~2.0%、V:0.1~2.0%、Al:0.050%以下、O:0.0015%以下、N:0.025%以下、V+Mo:0.4~3.0%、及び、残部Fe及び不可避的不純物からなる組成を有する。この肌焼鋼は、浸炭処理された鋼であって、浸炭処理後の表層C濃度が0.6~1.2%で、表面硬さがHRC58以上64未満であり、かつ、表層のV系炭化物のうち粒径100nm未満の微細なV系炭化物の個数割合が80%以上である。機械構造用部品に侵入した水素を、表層の微細なV系炭化物にトラップさせることにより、水素発生環境下での水素脆性に起因した疲労寿命の低下を抑制できる、と特許文献2には記載されている。
特開平8-49057号公報 特開2008-280583号公報
最近の自動車等の電動化に伴い、軸受部品等の機械構造用部品はさらなる小型化が求められている。例えば、小型の軸受部品は従来よりも高速で回転するため、水素発生環境下において、高い負荷が掛かる場合がある。このように、小型化された機械構造用部品においても、水素発生環境下での転動疲労寿命の向上が求められる。
また、上述のとおり、鋼材を素材とした浸炭機械構造用部品の製造工程では、素材である鋼材に対して切削加工が施される。そのため、鋼材には優れた被削性も求められる。
特許文献1及び特許文献2では、鋼材を素材として製造された浸炭機械構造用部品の水素発生環境下の転動疲労寿命及び鋼材の被削性の両立について、検討されていない。
本開示の目的は、素材として用いられて製造された浸炭機械構造用部品において水素発生環境下で十分な転動疲労寿命が得られ、かつ、優れた被削性が得られる鋼材、及び、浸炭機械構造用部品を提供することである。
本開示による鋼材は、質量%で、
C:0.15~0.45%、
Si:0.05~0.80%、
Mn:0.40~1.50%、
P:0.015%以下、
S:0.005%以下、
Cr:0.05~0.50%未満、
Mo:0.06~0.35%、
V:0.10~0.40%、
Al:0.005~0.100%、
N:0.030%以下、及び、
O:0.0015%以下、を含有し、残部がFe及び不純物からなり、
式(1)~式(3)を満たす。
Si/Cr≧0.45 (1)
Mo+V≧0.25 (2)
Mo/V>0.30 (3)
ここで、式(1)~式(3)中の各元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。
本開示による鋼材は、質量%で、
C:0.15~0.45%、
Si:0.05~0.80%、
Mn:0.40~1.50%、
P:0.015%以下、
S:0.005%以下、
Cr:0.05~0.50%未満、
Mo:0.06~0.35%、
V:0.10~0.40%、
Al:0.005~0.100%、
N:0.030%以下、及び、
O:0.0015%以下、を含有し、
さらに、第1群~第4群からなる群から選択される1種以上を含有し、残部がFe及び不純物からなり、
式(1)~式(3)を満たす。
[第1群]
Ti:0.050%以下、及び、
Nb:0.050%以下、からなる群から選択される1種以上
[第2群]
B:0.0050%以下、
Cu:0.40%以下、及び、
Ni:0.30%以下、からなる群から選択される1種以上
[第3群]
Sn:0.100%以下
[第4群]
Ca:0.0050%以下、及び、
Mg:0.0050%以下、からなる群から選択される1種以上
Si/Cr≧0.45 (1)
Mo+V≧0.25 (2)
Mo/V>0.30 (3)
ここで、式(1)~式(3)中の各元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。
本開示による浸炭機械構造用部品は、
硬化層と、
前記硬化層よりも内部の芯部とを備え、
前記芯部の化学組成は、質量%で、
C:0.15~0.45%、
Si:0.05~0.80%、
Mn:0.40~1.50%、
P:0.015%以下、
S:0.005%以下、
Cr:0.05~0.50%未満、
Mo:0.06~0.35%、
V:0.10~0.40%、
Al:0.005~0.100%、
N:0.030%以下、及び、
O:0.0015%以下、を含有し、残部がFe及び不純物からなり、
式(1)~式(3)を満たす。
Si/Cr≧0.45 (1)
Mo+V≧0.25 (2)
Mo/V>0.30 (3)
ここで、式(1)~式(3)中の各元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。
本開示による浸炭機械構造用部品は、
硬化層と、
前記硬化層よりも内部の芯部とを備え、
前記芯部の化学組成は、質量%で、
C:0.15~0.45%、
Si:0.05~0.80%、
Mn:0.40~1.50%、
P:0.015%以下、
S:0.005%以下、
Cr:0.05~0.50%未満、
Mo:0.06~0.35%、
V:0.10~0.40%、
Al:0.005~0.100%、
N:0.030%以下、及び、
O:0.0015%以下、を含有し、
さらに、第1群~第4群からなる群から選択される1種以上を含有し、残部がFe及び不純物からなり、
式(1)~式(3)を満たす。
[第1群]
Ti:0.050%以下、及び、
Nb:0.050%以下、からなる群から選択される1種以上
[第2群]
B:0.0050%以下、
Cu:0.40%以下、及び、
Ni:0.30%以下、からなる群から選択される1種以上
[第3群]
Sn:0.100%以下
[第4群]
Ca:0.0050%以下、及び、
Mg:0.0050%以下、からなる群から選択される1種以上
Si/Cr≧0.45 (1)
Mo+V≧0.25 (2)
Mo/V>0.30 (3)
ここで、式(1)~式(3)中の各元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。
本開示による鋼材では、素材として用いられて製造された浸炭機械構造用部品において水素発生環境下で十分な転動疲労寿命が得られ、かつ、優れた被削性が得られる。本開示による浸炭機械構造用部品は、水素発生環境下で十分な転動疲労寿命を有する。
図1は、転動疲労寿命評価試験に用いるローラーピッチング疲労試験用試験片(小ローラー試験片)の側面図である。 図2は、ローラーピッチング疲労試験の模式図である。 図3は、図2中の大ローラー試験片の正面図である。
本発明者らは、素材として用いられて製造された浸炭機械構造用部品において水素発生環境下で十分な転動疲労寿命が得られ、かつ、優れた被削性が得られる鋼材について検討を行った。
水素発生環境下での転動疲労寿命は、浸炭機械構造用部品の表面近傍部分で水素に起因した割れ(剥離)が発生することにより低下する。そこで、本発明者らは、水素発生環境下における水素に起因した割れ(剥離)の発生要因について検討を行った。
水素発生環境下では、浸炭機械構造用部品の表面近傍部分での割れ(剥離)は、次のメカニズムで生じると考えられる。上述のとおり、水素発生環境下において水素が発生すると、発生した水素が浸炭機械構造用部品内に侵入する。侵入した水素は凝集すると、組織変化を引き起こし、白色組織が形成される。この組織変化が浸炭機械構造用部品の表面近傍部分で生じた場合、表面近傍部分で割れ(剥離)が発生して、転動疲労寿命が低下する。
以上のとおり、水素発生環境下での水素に起因した割れ(剥離)は、水素が浸炭機械構造用部品内に侵入し(要因1)、侵入した水素が凝集する(要因2)ことで発生する。上述の特許文献2では、微細なV析出物を機械構造用部品の表層に生成し、微細なV析出物で侵入した水素をトラップすることにより、侵入した水素の凝集を抑制し、割れの発生を抑制している。つまり、特許文献2は、要因2に着目した手段を提案している。
ここで、本発明者らは、要因1に着目し、水素の侵入を抑制する手段について、検討を行った。そもそも、水素の浸炭機械構造用部品への侵入を抑制できれば、浸炭機械構造用部品内で水素が凝集することもない。そこで、水素発生環境下において水素の侵入を抑制する手段について、化学組成的観点で検討を行った。その結果、本発明者らは次の知見を得た。
上述の化学組成中の各元素のうち、Siは、水素発生環境下において、水素の鋼材(浸炭機械構造用部品)への侵入を抑制する元素である。一方、Crは、水素発生環境下において、水素の鋼材(浸炭機械構造用部品)への侵入を促進する元素である。したがって、鋼材の化学組成中のSi含有量をある程度の量で確保し、Cr含有量をなるべく低く抑えることにより、水素発生環境下での水素の侵入を抑制することができる。
以上の知見に基づいて、本発明者らは、鋼材の化学組成を検討した。その結果、質量%で、C:0.15~0.45%、Si:0.05~0.80%、Mn:0.40~1.50%、P:0.015%以下、S:0.005%以下、Cr:0.05~0.50%未満、Mo:0.06~0.35%、V:0.10~0.40%、Al:0.005~0.100%、N:0.030%以下、及び、O:0.0015%以下、を含有し、任意元素を含有する場合はさらに、Feの一部に代えて、上述の第1群~第4群からなる群から選択される1種以上を含有し、残部がFe及び不純物からなる鋼材であれば、十分な被削性が得られ、かつ、素材として用いられて製造された浸炭機械構造用部品において水素発生環境下で十分な転動疲労寿命が得られると考えた。
しかしながら、上述の化学組成を満たす鋼材では、十分な被削性が得られるものの、鋼材を素材として製造された浸炭機械構造用部品において水素発生環境下で十分な転動疲労寿命が得られない場合が生じた。そこで、本発明者らはさらに、化学組成中の各元素含有量の関係と、水素発生環境下での転動疲労寿命との関係に注目し、さらに調査検討を行った。その結果、本発明者らは次の知見を得た。
水素発生環境下での水素の鋼材への侵入に影響を与える2つの元素(Si及びCr)の比率は、水素発生環境下での転動疲労寿命に影響を与える。具体的には、F1=Si/Crと定義する。F1が0.45以上であれば、Cr含有量に対してSi含有量が十分に高い。この場合、水素発生環境下において、水素の侵入を十分に抑制できる。そのため、要因1の観点から、水素発生環境下での転動疲労寿命を高めることができる。そのため、F1(=Si/Cr)は式(1)を満たす範囲とする。
Si/Cr≧0.45 (1)
水素発生環境下での転動疲労寿命を高めるためには、要因1だけでなく、要因2についても考慮する必要がある。侵入した水素をトラップするには、析出物を生成することが有効である。Mo及びVは、鋼材を素材とした浸炭機械構造用部品において、析出物を生成し、侵入した水素をトラップする。そのため、Mo含有量及びV含有量の総量は、析出物の量に相関する。
F2=Mo+Vと定義する。F2が0.25以上であれば、侵入した水素をトラップするのに十分な量の析出物を生成することができる。そのため、F2(=Mo+V)は式(2)を満たす範囲とする。
Mo+V≧0.25 (2)
Mo及びVのうち、Moはさらに、析出物の微細化に寄与する。具体的には、MoはVと共に複合析出物を生成する。V含有量に対するMo含有量の比率が高ければ、Moの作用により、複合析出物が微細になりやすい。
F3=Mo/Vと定義する。F3が0.30よりも高ければ、V含有量に対してMo含有量が十分に高い。そのため、鋼材が上述の化学組成を有し、かつ、式(1)及び式(2)を満たすことを前提として、鋼材を素材とした浸炭機械構造用部品において微細な析出物を十分な量生成することができ、水素発生環境下での転動疲労寿命を高めることができる。そのため、F3(=Mo/V)は式(3)を満たす範囲とする。
Mo/V>0.30 (3)
本実施形態の鋼材、及び、浸炭機械構造用部品は以上の技術思想により完成したものであり、次の構成を有する。
[1]
質量%で、
C:0.15~0.45%、
Si:0.05~0.80%、
Mn:0.40~1.50%、
P:0.015%以下、
S:0.005%以下、
Cr:0.05~0.50%未満、
Mo:0.06~0.35%、
V:0.10~0.40%、
Al:0.005~0.100%、
N:0.030%以下、及び、
O:0.0015%以下、を含有し、残部がFe及び不純物からなり、
式(1)~式(3)を満たす、
鋼材。
Si/Cr≧0.45 (1)
Mo+V≧0.25 (2)
Mo/V>0.30 (3)
ここで、式(1)~式(3)中の各元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。
[2]
質量%で、
C:0.15~0.45%、
Si:0.05~0.80%、
Mn:0.40~1.50%、
P:0.015%以下、
S:0.005%以下、
Cr:0.05~0.50%未満、
Mo:0.06~0.35%、
V:0.10~0.40%、
Al:0.005~0.100%、
N:0.030%以下、及び、
O:0.0015%以下、を含有し、
さらに、第1群~第4群からなる群から選択される1種以上を含有し、残部がFe及び不純物からなり、
式(1)~式(3)を満たす、
鋼材。
[第1群]
Ti:0.050%以下、及び、
Nb:0.050%以下、からなる群から選択される1種以上
[第2群]
B:0.0050%以下、
Cu:0.40%以下、及び、
Ni:0.30%以下、からなる群から選択される1種以上
[第3群]
Sn:0.100%以下
[第4群]
Ca:0.0050%以下、及び、
Mg:0.0050%以下、からなる群から選択される1種以上
Si/Cr≧0.45 (1)
Mo+V≧0.25 (2)
Mo/V>0.30 (3)
ここで、式(1)~式(3)中の各元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。
[3]
[2]に記載の鋼材であって、
前記第1群を含有する、
鋼材。
[4]
[2]又は[3]に記載の鋼材であって、
前記第2群を含有する、
鋼材。
[5]
[2]~[4]のいずれか1項に記載の鋼材であって、
前記第3群を含有する、
鋼材。
[6]
[2]~[5]のいずれか1項に記載の鋼材であって、
前記第4群を含有する、
鋼材。
[7]
硬化層と、
前記硬化層よりも内部の芯部とを備え、
前記芯部の化学組成は、質量%で、
C:0.15~0.45%、
Si:0.05~0.80%、
Mn:0.40~1.50%、
P:0.015%以下、
S:0.005%以下、
Cr:0.05~0.50%未満、
Mo:0.06~0.35%、
V:0.10~0.40%、
Al:0.005~0.100%、
N:0.030%以下、及び、
O:0.0015%以下、を含有し、残部がFe及び不純物からなり、
式(1)~式(3)を満たす、
浸炭機械構造用部品。
Si/Cr≧0.45 (1)
Mo+V≧0.25 (2)
Mo/V>0.30 (3)
ここで、式(1)~式(3)中の各元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。
[8]
硬化層と、
前記硬化層よりも内部の芯部とを備え、
前記芯部の化学組成は、質量%で、
C:0.15~0.45%、
Si:0.05~0.80%、
Mn:0.40~1.50%、
P:0.015%以下、
S:0.005%以下、
Cr:0.05~0.50%未満、
Mo:0.06~0.35%、
V:0.10~0.40%、
Al:0.005~0.100%、
N:0.030%以下、及び、
O:0.0015%以下、を含有し、
さらに、第1群~第4群からなる群から選択される1種以上を含有し、残部がFe及び不純物からなり、
式(1)~式(3)を満たす、
浸炭機械構造用部品。
[第1群]
Ti:0.050%以下、及び、
Nb:0.050%以下、からなる群から選択される1種以上
[第2群]
B:0.0050%以下、
Cu:0.40%以下、及び、
Ni:0.30%以下、からなる群から選択される1種以上
[第3群]
Sn:0.100%以下
[第4群]
Ca:0.0050%以下、及び、
Mg:0.0050%以下、からなる群から選択される1種以上
Si/Cr≧0.45 (1)
Mo+V≧0.25 (2)
Mo/V>0.30 (3)
ここで、式(1)~式(3)中の各元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。
[9]
[8]に記載の浸炭機械構造用部品であって、
前記第1群を含有する、
浸炭機械構造用部品。
[10]
[8]又は[9]に記載の浸炭機械構造用部品であって、
前記第2群を含有する、
浸炭機械構造用部品。
[11]
[8]~[10]のいずれか1項に記載の浸炭機械構造用部品あって、
前記第3群を含有する、
浸炭機械構造用部品。
[12]
[8]~[11]のいずれか1項に記載の浸炭機械構造用部品であって、
前記第4群を含有する、
浸炭機械構造用部品。
[13]
[7]~[12]のいずれか1項に記載の浸炭機械構造用部品であって、
前記浸炭機械構造用部品の表面から100μm深さ位置における残留オーステナイトの体積率(%)をγと定義し、
前記浸炭機械構造用部品の表面から100μm深さ位置におけるC濃度(質量%)を[C]と定義したとき、
式(4)を満たす、
浸炭機械構造用部品。
0.15≦1.00-γ/(130×exp(-4.31+2.15[C]+0.54Mn+0.36Cr+0.50Mo))≦0.75 (4)
ここで、式(4)中のMn、Cr及びMoには、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。
以下、本実施形態による鋼材、及び、その鋼材を素材として製造される浸炭機械構造用部品について詳述する。なお、元素に関する「%」は、特に断りがない限り、質量%を意味する。
[本実施形態の鋼材の特徴]
本実施形態の鋼材は、次の特徴を含む。
(特徴1)
化学組成が、質量%で、C:0.15~0.45%、Si:0.05~0.80%、Mn:0.40~1.50%、P:0.015%以下、S:0.005%以下、Cr:0.05~0.50%未満、Mo:0.06~0.35%、V:0.10~0.40%、Al:0.005~0.100%、N:0.030%以下、及び、O:0.0015%以下、を含有し、残部がFe及び不純物からなる。任意元素を含有する場合、化学組成が、質量%で、C:0.15~0.45%、Si:0.05~0.80%、Mn:0.40~1.50%、P:0.015%以下、S:0.005%以下、Cr:0.05~0.50%未満、Mo:0.06~0.35%、V:0.10~0.40%、Al:0.005~0.100%、N:0.030%以下、及び、O:0.0015%以下、を含有し、さらに、上述の第1群~第4群からなる群から選択される1種以上を含有し、残部がFe及び不純物からなる。
(特徴2)
化学組成が式(1)~式(3)を満たす。
Si/Cr≧0.45 (1)
Mo+V≧0.25 (2)
Mo/V>0.30 (3)
ここで、式(1)~式(3)中の各元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。
以下、各特徴について説明する。
[(特徴1)化学組成について]
本実施形態の鋼材の化学組成は、次の元素を含有する。
C:0.15~0.45%
炭素(C)は、鋼材の焼入れ性を高める。そのため、鋼材を素材として製造された浸炭機械構造用部品の強度を高める。Cはさらに、鋼材を素材として浸炭機械構造用部品を製造する工程中の浸炭処理時において、Mo及びVと結合して析出物を生成する。これらの析出物は、水素発生環境下での浸炭機械構造用部品の使用時において、鋼材に侵入した水素をトラップする。そのため、侵入水素によるミクロ組織の変化が抑制され、変化したミクロ組織に起因した浸炭機械構造用部品の表面近傍部分の剥離が抑制される。その結果、水素発生環境下での浸炭機械構造用部品の転動疲労寿命が高まる。C含有量が0.15%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。
一方、C含有量が0.45%を超えれば、鋼材が硬くなりすぎて被削性が低下したり、粗大な析出物が生成したりする場合がある。粗大な析出物は、水素発生環境下での浸炭機械構造用部品の使用時において、割れの起点となりやすい。そのため、水素発生環境下での浸炭機械構造用部品の転動疲労寿命が低下する場合がある。
したがって、C含有量は0.15~0.45%である。
C含有量の好ましい下限は0.16%であり、さらに好ましくは0.18%であり、さらに好ましくは0.23%である。
C含有量の好ましい上限は0.44%であり、より好ましくは0.43%であり、さらに好ましくは0.42%である。
Si:0.05~0.80%
シリコン(Si)は、鋼材の焼入れ性を高める。Siはさらに、鋼材を素材として製造された浸炭機械構造用部品の硬化層の焼戻し軟化抵抗を高める。Siはさらに、水素発生環境下での浸炭機械構造用部品の転動疲労寿命を高める。Si含有量が0.05%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。
一方、Si含有量が0.80%を超えれば、鋼材が硬くなりすぎ、鋼材の被削性が低下する。
したがって、Si含有量は0.05~0.80%である。
Si含有量の好ましい下限は0.08%であり、さらに好ましくは0.10%であり、さらに好ましくは0.15%である。
Si含有量の好ましい上限は0.75%であり、さらに好ましくは0.70%であり、さらに好ましくは0.65%である。
Mn:0.40~1.50%
マンガン(Mn)は、鋼材の焼入れ性を高め、鋼材を素材として製造された浸炭機械構造用部品の芯部の強度を高める。そのため、水素発生環境下での浸炭機械構造用部品の転動疲労寿命が高まる。Mn含有量が0.40%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。
一方、Mn含有量が1.50%を超えれば、鋼材の硬さが高くなりすぎ、鋼材の被削性が低下する。
したがって、Mn含有量は0.40~1.50%である。
Mn含有量の好ましい下限は0.45%であり、さらに好ましくは0.50%であり、さらに好ましくは0.55%であり、さらに好ましくは0.60%である。
Mn含有量の好ましい上限は1.45%であり、さらに好ましくは1.40%であり、さらに好ましくは1.35%であり、さらに好ましくは1.30%であり、さらに好ましくは1.20%である。
P:0.015%以下
りん(P)は不可避に含有される不純物である。つまり、P含有量は0%超である。Pは粒界に偏析して粒界強度を低下させる。P含有量が0.015%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、Pが粒界に過剰に偏析する。この場合、粒界強度が低下する。その結果、水素発生環境下での浸炭機械構造用部品の転動疲労寿命が低下する。
したがって、P含有量は0.015%以下である。
P含有量はなるべく低い方が好ましい。しかしながら、P含有量を過度に低減すれば、製造コストが高くなる。したがって、通常の工業生産を考慮した場合、P含有量の好ましい下限は0.001%であり、さらに好ましくは0.002%であり、さらに好ましくは0.003%である。
P含有量の好ましい上限は0.012%であり、さらに好ましくは0.010%であり、さらに好ましくは0.008%である。
S:0.005%以下
硫黄(S)は不可避に含有される不純物である。つまり、S含有量は0%超である。Sは、硫化物系介在物を生成する。粗大な硫化物系介在物は、水素発生環境下での浸炭機械構造用部品の使用中に、割れの起点となりやすい。S含有量が0.005%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、硫化物系介在物が粗大となる。その結果、水素発生環境下での浸炭機械構造用部品の転動疲労寿命が低下する。
したがって、S含有量は0.005%以下である。
S含有量はなるべく低い方が好ましい。しかしながら、S含有量を過度に低減すれば、製造コストが高くなる。したがって、通常の工業生産を考慮した場合、S含有量の好ましい下限は0.001%であり、さらに好ましくは0.002%である。
S含有量の好ましい上限は0.004%であり、より好ましくは0.003%である。
Cr:0.05~0.50%未満
クロム(Cr)は、鋼の焼入れ性を高め、鋼材を素材として製造された浸炭機械構造用部品の芯部の強度を高める。そのため、水素発生環境下での浸炭機械構造用部品の転動疲労寿命が高まる。Cr含有量が0.05%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。
一方、上述のとおり、Crは水素の鋼材への侵入を促進する。Cr含有量が0.50%以上であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、水素発生環境下での浸炭機械構造用部品の使用中に、水素の鋼材への侵入を十分に抑制できなくなる。その結果、水素発生環境下での浸炭機械構造用部品の転動疲労寿命が低下する。
したがって、Cr含有量は0.05~0.50%未満である。
Cr含有量の好ましい下限は0.08%であり、さらに好ましくは0.10%であり、さらに好ましくは0.15%である。
Cr含有量の好ましい上限は0.49%であり、さらに好ましくは0.48%であり、さらに好ましくは0.47%であり、さらに好ましくは0.46%であり、さらに好ましくは0.45%であり、さらに好ましくは0.44%であり、さらに好ましくは0.43%である。
Mo:0.06~0.35%
モリブデン(Mo)は、鋼材を素材として浸炭機械構造用部品を製造する工程中の浸炭処理時において、C及びVとともに析出物を生成する。これらの析出物は、水素発生環境下での浸炭機械構造用部品の使用時において、鋼材に侵入した水素をトラップする。そのため、侵入水素による白色組織の形成が抑制され、白色組織の形成に起因した浸炭機械構造用部品の表面近傍部分の剥離が抑制される。その結果、水素発生環境下での浸炭機械構造用部品の転動疲労寿命が高まる。Mo含有量が0.06%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。
一方、Mo含有量が0.35%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の硬さが過剰に高くなる。そのため、鋼材の被削性が低下する。
したがって、Mo含有量は0.06~0.35%である。
Mo含有量の好ましい下限は0.08%であり、さらに好ましくは0.12%であり、さらに好ましくは0.16%である。
Mo含有量の好ましい上限は0.33%であり、より好ましくは0.30%であり、さらに好ましくは0.28%である。
V:0.10~0.40%
バナジウム(V)は、鋼材を素材として浸炭機械構造用部品を製造する工程中の浸炭処理時において、C及びMoとともに析出物を生成する。これらの析出物は、水素発生環境下での浸炭機械構造用部品の使用時において、鋼材に侵入した水素をトラップする。そのため、侵入水素による白色組織の形成が抑制され、白色組織の形成に起因した浸炭機械構造用部品の表面近傍部分の剥離が抑制される。その結果、水素発生環境下での浸炭機械構造用部品の転動疲労寿命が高まる。V含有量が0.10%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。
一方、Vの含有量が0.40%を超えれば、粗大な析出物が生成する場合がある。粗大な析出物は、水素発生環境下での浸炭機械構造用部品の使用時において、割れの起点となりやすい。そのため、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、水素発生環境下での浸炭機械構造用部品の転動疲労寿命が低下する場合がある。V含有量が0.40%を超えればさらに、鋼材の被削性が低下する。
したがって、V含有量は0.10~0.40%である。
V含有量の好ましい下限は0.12%であり、さらに好ましくは0.14%であり、さらに好ましくは0.16%である。
V含有量の好ましい上限は0.38%であり、さらに好ましくは0.37%であり、さらに好ましくは0.35%である。
Al:0.005~0.100%
アルミニウム(Al)は、製鋼工程において鋼を脱酸する。Alはさらに、鋼材中のNと結合してAlNを形成し、固溶Nによる鋼材の被削性の低下を抑制する。Al含有量が0.005%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。
一方、Al含有量が0.100%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、クラスター化した粗大な酸化物が生成する。クラスター化した粗大な酸化物は、水素発生環境下での浸炭機械構造用部品の使用時において、割れの起点となる。そのため、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、水素発生環境下での浸炭機械構造用部品の転動疲労寿命が低下する。
したがって、Al含有量は0.005~0.100%である。
Al含有量の好ましい下限は0.008%であり、さらに好ましくは0.010%である。
Al含有量の好ましい上限は0.080%であり、さらに好ましくは0.070%であり、さらに好ましくは0.060%である。
N:0.030%以下
窒素(N)は不可避に含有される不純物である。つまり、N含有量は0%超である。Nは鋼材中に固溶して、鋼材の熱間加工性を低下させる。N含有量が0.030%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の熱間加工性が顕著に低下する。
したがって、N含有量は0.030%以下である。
N含有量はなるべく低い方が好ましい。しかしながら、N含有量を過度に低減すれば、製造コストが高くなる。したがって、通常の工業生産を考慮した場合、N含有量の好ましい下限は0.001%であり、さらに好ましくは0.002%である。
N含有量の好ましい上限は0.028%であり、さらに好ましくは0.025%であり、さらに好ましくは0.020%である。
O:0.0015%以下
酸素(O)は不可避に含有される不純物である。つまり、O含有量は0%超である。Oは鋼中の他の元素と結合して粗大な酸化物(クラスター化による粗大化も含む)を生成する。粗大な酸化物は、水素発生環境下での割れの起点となる。そのため、水素発生環境下での浸炭機械構造用部品の転動疲労寿命が低下する。O含有量が0.0015%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、水素発生環境下での浸炭機械構造用部品の転動疲労寿命が顕著に低下する。
したがって、O含有量は0.0015%以下である。
O含有量はなるべく低い方が好ましい。しかしながら、O含有量を過度に低減すれば、製造コストが高くなる。したがって、通常の工業生産を考慮した場合、O含有量の好ましい下限は0.0001%であり、さらに好ましくは0.0003%であり、さらに好ましくは0.0005%である。
Oの含有量の好ましい上限は0.0013%以下であり、さらに好ましくは0.0011%であり、さらに好ましくは0.0009%である。
本実施形態による鋼材の化学組成の残部は、Fe及び不純物からなる。ここで、化学組成における不純物とは、鋼材を工業的に製造する際に、原料としての鉱石、スクラップ、又は製造環境などから混入されるものであって、意図せずに含有されるものであり、本実施形態による鋼材に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
[任意元素(Optional Elements)について]
本実施形態の鋼材の化学組成はさらに、Feの一部に代えて、第1群~第4群からなる群から選択される1種以上を含有してもよい。
[第1群]
Ti:0.050%以下、及び、
Nb:0.050%以下、からなる群から選択される1種以上
[第2群]
B:0.0050%以下、
Cu:0.40%以下、及び、
Ni:0.30%以下、からなる群から選択される1種以上
[第3群]
Sn:0.100%以下
[第4群]
Ca:0.0050%以下、及び、
Mg:0.0050%以下、からなる群から選択される1種以上
これらの元素はいずれも任意元素であり、含有されなくてもよい。以下、これらの任意元素について説明する。
[第1群:Ti及びNb]
本実施形態の鋼材の化学組成はさらに、Feの一部に代えて、Ti及びNbからなる群から選択される1種以上を含有してもよい。これらの元素は任意元素であり、いずれも析出物を生成し、析出強化により、鋼材を素材として製造された浸炭機械構造用部品の強度を高める。
Ti:0.050%以下
チタン(Ti)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Ti含有量は0%であってもよい。
含有される場合、つまり、Ti含有量が0%超である場合、Tiは、炭化物、窒化物、及び、炭窒化物等のTi析出物を生成する。Ti析出物は析出強化により、鋼材を素材として製造された浸炭機械構造用部品の強度を高める。Tiが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。
しかしながら、Ti含有量が0.050%を超えれば、粗大な析出物が生成する場合がある。この場合、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、水素発生環境下での浸炭機械構造用部品の転動疲労寿命が低下する。
したがって、Ti含有量は0~0.050%であり、含有される場合、0.050%以下である。
Ti含有量の好ましい下限は0.001%であり、さらに好ましくは0.002%であり、さらに好ましくは0.004%である。
Ti含有量の好ましい上限は0.045%であり、さらに好ましくは0.040%であり、さらに好ましくは0.035%であり、さらに好ましくは0.030%である。
Nb:0.050%以下
ニオブ(Nb)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Nb含有量は0%であってもよい。
含有される場合、つまり、Nb含有量が0%超である場合、Nbは、炭化物、窒化物、及び、炭窒化物等のNb析出物を生成する。Nb析出物は析出強化により、鋼材を素材として製造された浸炭機械構造用部品の強度を高める。Nbが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。
しかしながら、Nb含有量が0.050%を超えれば、粗大な析出物が生成する場合がある。この場合、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、水素発生環境下での浸炭機械構造用部品の転動疲労寿命が低下する。
したがって、Nb含有量は0~0.050%であり、含有される場合、0.050%以下である。
Nb含有量の好ましい下限は0.001%であり、さらに好ましくは0.005%であり、さらに好ましくは0.010%である。
Nb含有量の好ましい上限は0.045%であり、さらに好ましくは0.040%であり、さらに好ましくは0.035%である。
[第2群:B、Cu及びNi]
本実施形態の鋼材の化学組成はさらに、Feの一部に代えて、B、Cu及びNiからなる群から選択される1種以上を含有してもよい。これらの元素は任意元素であり、いずれも鋼材の焼入れ性を高め、鋼材の強度を高める。
B:0.0050%以下
ボロン(B)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、B含有量は0%であってもよい。
含有される場合、つまり、B含有量が0%超である場合、Bは鋼材の焼入れ性を高め、Pの粒界偏析を抑制し、鋼材の強度を高める。その結果、鋼材を素材として製造された浸炭機械構造用部品の水素発生環境下での転動疲労寿命を高める。Bが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。
しかしながら、B含有量が0.0050%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の硬さが過剰に高くなる。そのため、鋼材の被削性が低下する。
したがって、B含有量は0~0.0050%であり、含有される場合、B含有量は0.0050%以下である。
B含有量の好ましい下限は0.0001%であり、さらに好ましくは0.0002%であり、さらに好ましくは0.0005%であり、さらに好ましくは0.0010%である。
B含有量の好ましい上限は0.0040%であり、さらに好ましくは0.0030%であり、さらに好ましくは0.0020%であり、さらに好ましくは0.0010%である。
Cu:0.40%以下
銅(Cu)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Cu含有量は0%であってもよい。
含有される場合、つまり、Cu含有量が0%超である場合、Cuは鋼材の焼入れ性を高め、鋼材の強度を高める。その結果、鋼材を素材として製造された浸炭機械構造用部品の水素発生環境下での転動疲労寿命を高める。Cuが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。
しかしながら、Cu含有量が0.40%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の硬さが過剰に高くなり、鋼材の被削性が低下する。
したがって、Cu含有量は0~0.40%であり、含有される場合、0.40%以下である。
Cu含有量の好ましい下限は0.01%であり、さらに好ましくは0.02%である。
Cu含有量の好ましい上限は0.30%であり、さらに好ましくは0.25%であり、さらに好ましくは0.20%である。
Ni:0.30%以下
ニッケル(Ni)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Ni含有量は0%であってもよい。
含有される場合、つまり、Ni含有量が0%超である場合、Niは鋼材の焼入れ性を高め、鋼材の強度を高める。その結果、鋼材を素材として製造された浸炭機械構造用部品の水素発生環境下での転動疲労寿命を高める。Niが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。
しかしながら、Ni含有量が0.30%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の硬さが過剰に高くなり、鋼材の被削性が低下する。
したがって、Ni含有量は0~0.30%であり、含有される場合、Ni含有量は0.30%以下である。
Ni含有量の好ましい下限は0.01%であり、さらに好ましくは0.02%である。
Ni含有量の好ましい上限は0.25%であり、さらに好ましくは0.20%である。
[第3群:Sn]
本実施形態の鋼材の化学組成はさらに、Feの一部に代えて、Snを含有してもよい。
Sn:0.100%以下
スズ(Sn)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Sn含有量は0%であってもよい。
含有される場合、つまり、Sn含有量が0%超である場合、Snは、鋼材の被削性を高める。Snが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。
しかしながら、Sn含有量が0.100%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の熱間加工性が低下する。
したがって、Sn含有量は0~0.100%であり、含有される場合、0.100%以下である。
Sn含有量の好ましい下限は0.001%であり、さらに好ましくは0.002%であり、さらに好ましくは0.005%である。
Sn含有量の好ましい上限は0.090%であり、さらに好ましくは0.080%であり、さらに好ましくは0.060%であり、さらに好ましくは0.040%であり、さらに好ましくは0.030%であり、さらに好ましくは0.025%である。
[第4群:Ca及びMg]
本実施形態の鋼材の化学組成はさらに、Feの一部に代えて、Ca及びMgからなる群から選択される1種以上を含有してもよい。これらの元素は任意元素であり、いずれも鋼材中の硫化物を微細化し、鋼材を素材として製造された浸炭機械構造用部品の水素発生環境下での転動疲労寿命を高める。
Ca:0.0050%以下
カルシウム(Ca)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Ca含有量は0%であってもよい。
含有される場合、つまり、Ca含有量が0%超である場合、Caは、鋼材中の硫化物を微細化する。さらに、Caは鋼材中の硫化物の球状化を促進する。その結果、鋼材を素材として製造された浸炭機械構造用部品の水素発生環境下での転動疲労寿命を高める。Caが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。
しかしながら、Ca含有量が0.0050%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材中に粗大なCa酸化物が形成される場合がある。この場合、水素発生環境下での浸炭機械構造用部品の転動疲労寿命が低下する。
したがって、Ca含有量は0~0.0050%であり、含有される場合、0.0050%以下である。
Ca含有量の好ましい下限は0.0001%であり、さらに好ましくは0.0002%であり、さらに好ましくは0.0005%であり、さらに好ましくは0.0010%である。
Ca含有量の好ましい上限は0.0040%であり、さらに好ましくは0.0035%であり、さらに好ましくは0.0030%である。
Mg:0.0050%以下
マグネシウム(Mg)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Mg含有量は0%であってもよい。
含有される場合、つまり、Mg含有量が0%超である場合、Mgは鋼材中の硫化物を微細化する。さらに、Mgは鋼材中の硫化物の球状化を促進する。その結果、鋼材を素材として製造された浸炭機械構造用部品の水素発生環境下での転動疲労寿命を高める。Mgが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。
しかしながら、Mg含有量が0.0050%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材中に粗大なMg酸化物が形成される場合がある。この場合、水素発生環境下での浸炭機械構造用部品の転動疲労寿命が低下する。
したがって、Mg含有量は0~0.0050%であり、含有される場合、0.0050%以下である。
Mg含有量の好ましい下限は0.0001%であり、さらに好ましくは0.0002%であり、さらに好ましくは0.0005%であり、さらに好ましくは0.0010%であり、さらに好ましくは0.0015%である。
Mg含有量の好ましい上限は0.0040%であり、さらに好ましくは0.0035%であり、さらに好ましくは0.0030%である。
[(特徴2)式(1)~式(3)について]
本実施形態の鋼材の化学組成はさらに、式(1)~式(3)を満たす。
Si/Cr≧0.45 (1)
Mo+V≧0.25 (2)
Mo/V>0.30 (3)
ここで、式(1)~式(3)中の各元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。
以下、式(1)~式(3)について説明する。
[式(1)について]
F1=Si/Crと定義する。上述のとおり、Siは、水素発生環境下において、水素の鋼材への侵入を抑制する。一方、Crは、水素発生環境下において、水素の鋼材への侵入を促進する。したがって、水素発生環境下での水素の鋼材への侵入を抑制するという観点では、F1が高い方が好ましい。
F1が0.45未満であれば、鋼材が特徴1を満たし、かつ、式(2)及び式(3)を満たしていても、水素発生環境下での浸炭機械構造用部品において、十分な転動疲労寿命が得られない。
F1が0.45以上であれば、鋼材が特徴1を満たし、かつ、式(2)及び式(3)を満たすことを前提として、水素発生環境下での浸炭機械構造用部品において、十分な転動疲労寿命が得られる。
F1の好ましい下限は0.46であり、さらに好ましくは0.47であり、さらに好ましくは0.48であり、さらに好ましくは0.49であり、さらに好ましくは0.50である。
F1の好ましい上限は特に限定されないが、鋼材が特徴1を満たす場合、F1の上限は16.00である。F1の好ましい上限は13.00であり、さらに好ましくは10.00であり、さらに好ましくは8.50である。
なお、F1は、得られた数値の小数第三位を四捨五入して得られた値(つまり、小数第二位の値)とする。
[式(2)について]
F2=Mo+Vと定義する。F2は、鋼材を素材として製造された浸炭機械構造用部品において、水素発生環境下での使用中に鋼材に侵入した水素をトラップするための析出物の量の指標である。
上述のとおり、鋼材を素材とした浸炭機械構造用部品の製造工程中の浸炭焼入れ時において、Mo及びVはCと結合して析出物を形成する。これらの析出物が、水素発生環境下で浸炭機械構造用部品を使用しているときに鋼材(浸炭機械構造用部品)に侵入する水素をトラップし、水素発生環境下での浸炭機械構造用部品の転動疲労寿命を高める。したがって、これらの析出物は侵入水素をトラップするだけの十分な量が必要となる。
F2が0.25以上であれば、十分な量の析出物を生成するだけのMo含有量及びV含有量が確保されている。そのため、鋼材が特徴1を満たし、式(1)及び式(3)を満たすことを前提として、水素発生環境下での浸炭機械構造用部品において、優れた転動疲労寿命を得ることができる。
F2の好ましい下限は0.26であり、さらに好ましくは0.27であり、さらに好ましくは0.28であり、さらに好ましくは0.29であり、さらに好ましくは0.30である。
F2の好ましい上限は特に限定されないが、鋼材が特徴1を満たす場合、F2の上限は0.75である。F2の好ましい上限は0.73であり、さらに好ましくは0.71である。
なお、F2は、得られた数値の小数第三位を四捨五入して得られた値(つまり、小数第二位の値)とする。
[式(3)について]
F3=Mo/Vと定義する。F3は鋼材を素材として製造された浸炭機械構造用部品において、水素発生環境下での使用中に鋼材に侵入した水素をトラップするための析出物の水素トラップ能に関する指標である。
Mo及びVのうち、Moはさらに、析出物の微細化に寄与する。具体的には、MoはVと共に複合析出物を生成する。V含有量に対するMo含有量の比率が高ければ、Moの作用により、複合析出物が微細になりやすい。F3が0.30以下である場合、F2が0.25以上であっても、微細な複合析出物が十分に生成しない。そのため、水素発生環境下での浸炭機械構造用部品において、十分な転動疲労寿命が得られない。
F3が0.30よりも高ければ、V含有量に対してMo含有量が十分に高い。そのため、鋼材が特徴1を満たし、式(1)及び式(2)を満たすことを前提として、微細な複合析出物が十分な量で生成する。そのため、水素発生環境下での浸炭機械構造用部品において、優れた転動疲労寿命を得ることができる。
F3の好ましい下限は0.31であり、さらに好ましくは0.33であり、さらに好ましくは0.36であり、さらに好ましくは0.39であり、さらに好ましくは0.42であり、さらに好ましくは0.44である。
F3の上限は特に限定されないが、鋼材が特徴1を満たす場合、F3の上限は3.50である。F3の好ましい上限は3.20であり、さらに好ましくは3.10である。
なお、F3は、得られた数値の小数第三位を四捨五入して得られた値(つまり、小数第二位の値)とする。
[本実施形態の鋼材の効果]
本実施形態の鋼材は、特徴1及び特徴2を満たす。そのため、鋼材を素材として製造された浸炭機械構造用部品において、水素発生環境下で十分な転動疲労寿命が得られる。
[鋼材のミクロ組織について]
本実施形態による鋼材のミクロ組織は特に限定されない。本実施形態では、上述のとおり、鋼材を素材として製造された浸炭機械構造用部品において水素発生環境下で十分な転動疲労寿命が得られ、かつ、鋼材において十分な被削性が得られる。これらの効果は、鋼材を素材とした浸炭機械構造用部品の製造工程時、又は、鋼材を素材として製造された浸炭機械構造用部品に求められる特性である。通常、鋼材を素材とした浸炭機械構造用部品の製造工程中の熱間加工時には、鋼材はAc3点以上に加熱され、鋼材のミクロ組織はオーステナイトに変態する。そのため、本実施形態による鋼材は、ミクロ組織によらず、上記効果を奏する。
[本実施形態の鋼材の形状]
本実施形態の鋼材は、棒鋼又は線材である。棒鋼又は線材は、棒状に延びる鋼材である。鋼材はコイル状に巻かれたものであってもよいし、所定の長さに切断されたものであってもよい。
[本実施形態の鋼材の用途]
本実施形態の鋼材は、特徴1及び特徴2を満たすことにより、水素発生環境下での十分な転動疲労寿命が得られる。そのため、本実施形態の鋼材は、自動車や産業機械等に使用される機械構造用部品の素材として使用可能である。特に、本実施形態の鋼材は、浸炭処理が施されて製造される浸炭機械構造用部品の素材に適する。浸炭機械構造用部品は例えば、浸炭軸受部品である。
[鋼材の製造方法]
本実施形態の鋼材の製造方法の一例を説明する。以降に説明する鋼材の製造方法は、本実施形態の鋼材を製造するための一例である。したがって、上述の構成を有する鋼材は、以降に説明する製造方法以外の他の製造方法により製造されてもよい。しかしながら、以降に説明する製造方法は、本実施形態の鋼材の製造方法の好ましい一例である。本実施形態では、鋼材の一例として、棒鋼の製造方法を説明する。
本実施形態の鋼材の製造方法の一例は、次の工程を含む。
(工程1)素材準備工程
(工程2)熱間加工工程
以下、各工程について説明する。
[(工程1)素材準備工程]
素材準備工程では、本実施形態の鋼材の素材を準備する。具体的には、化学組成が特徴1及び特徴2を満たす溶鋼を製造する。精錬方法は特に限定されず、周知の方法を用いればよい。例えば、周知の方法で製造された溶銑に対して転炉での精錬(一次精錬)を実施する。転炉から出鋼した溶鋼に対して、周知の二次精錬を実施する。二次精錬において、合金元素を溶鋼に添加して成分を調整し、特徴1及び特徴2を満たす化学組成を有する溶鋼を製造する。
上述の精錬方法により製造された溶鋼を用いて、周知の鋳造法により素材を製造する。例えば、溶鋼を用いて造塊法によりインゴットを製造する。また、溶鋼を用いて連続鋳造法によりブルーム又はビレットを製造してもよい。以上の方法により、素材(インゴット、ブルーム又はビレット)を製造する。
[(工程2)熱間加工工程]
製造された素材を熱間加工して、鋼材を製造する。熱間加工工程では通常、1又は複数回の熱間加工を実施する。複数回熱間加工を実施する場合、最初の熱間加工は例えば、分塊圧延又は熱間鍛造を用いた圧延であり、次回以降の熱間加工は、連続圧延機を用いた圧延であってもよい。連続圧延機は、一列に配列された複数の圧延スタンドを備える。熱間加工後の鋼材を室温まで冷却する。分塊圧延及び連続圧延機を用いた圧延により、ビレットを製造し、その後、そのビレットを再加熱して、連続圧延機を用いた仕上げ圧延をさらに実施して、所望のサイズの鋼材を製造してもよい。また、熱間鍛造のみにより素材から鋼材を製造してもよい。熱間加工時の素材の加熱温度は特に限定されないが、例えば、1000~1300℃である。
[本実施形態の浸炭機械構造用部品について]
本実施形態の浸炭機械構造用部品は、浸炭処理がされた機械構造用部品を意味する。本実施形態の浸炭機械構造用部品は、本実施形態の鋼材を素材として製造される。本実施形態の浸炭機械構造用部品は、硬化層と、硬化層よりも内部の芯部とを備える。
硬化層は、浸炭機械構造用部品の表層に形成されており、浸炭処理によりCが侵入して硬化した層である。硬化層は、浸炭機械構造用部品の表面から所定の深さまで形成されている。
芯部は、硬化層よりも内部の部分であって、浸炭処理によるCの侵入及びCの拡散の影響がない領域である。硬化層と芯部とは周知のミクロ組織観察により区別可能であることは、当業者において周知の技術事項である。
本実施形態の浸炭機械構造用部品は、次の特徴3及び特徴4を含む。
(特徴3)
芯部の化学組成が、質量%で、C:0.15~0.45%、Si:0.05~0.80%、Mn:0.40~1.50%、P:0.015%以下、S:0.005%以下、Cr:0.05~0.50%未満、Mo:0.06~0.35%、V:0.10~0.40%、Al:0.005~0.100%、N:0.030%以下、及び、O:0.0015%以下、を含有し、残部がFe及び不純物からなる。任意元素を含有する場合、芯部の化学組成が、質量%で、C:0.15~0.45%、Si:0.05~0.80%、Mn:0.40~1.50%、P:0.015%以下、S:0.005%以下、Cr:0.05~0.50%未満、Mo:0.06~0.35%、V:0.10~0.40%、Al:0.005~0.100%、N:0.030%以下、及び、O:0.0015%以下、を含有し、さらに、上述の第1群~第4群からなる群から選択される1種以上を含有し、残部がFe及び不純物からなる。
(特徴4)
芯部の化学組成がさらに、式(1)~式(3)を満たす。
Si/Cr≧0.45 (1)
Mo+V≧0.25 (2)
Mo/V>0.30 (3)
ここで、式(1)~式(3)中の各元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。
特徴3中の各元素の作用については、本実施形態の鋼材の特徴1で説明した対応する元素の作用と同じである。また、特徴4中の式(1)~式(3)の技術的意義は、本実施形態の鋼材の特徴2で説明した内容と同じである。
[本実施形態の浸炭機械構造用部品の効果]
以上のとおり、本実施形態の浸炭機械構造用部品は特徴3及び特徴4を含む。そのため、本実施形態の浸炭機械構造用部品は、水素発生環境下で十分な転動疲労寿命を有する。
[本実施形態の浸炭機械構造用部品の好ましい形態]
好ましくは、本実施形態の浸炭機械構造用部品は上述の特徴3及び特徴4に加えて、次の特徴5を含む。
(特徴5)
浸炭機械構造用部品の表面から100μm深さ位置における残留オーステナイトの体積率(%)をγと定義し、
浸炭機械構造用部品の表面から100μm深さ位置におけるC濃度(質量%)を[C]と定義したとき、
式(4)を満たす。
0.15≦1.00-γ/(130×exp(-4.31+2.15[C]+0.54Mn+0.36Cr+0.50Mo))≦0.75 (4)
ここで、式(4)中のMn、Cr及びMoには、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。
以下、特徴5について説明する。
[(特徴5)式(4)について]
浸炭機械構造用部品の硬化層のミクロ組織は、マルテンサイトだけでなく、残留オーステナイトをある程度含有する。残留オーステナイトは、V及びMoの析出物と同様に、浸炭機械構造用部品に侵入した水素をトラップする。そのため、残留オーステナイトは、侵入水素による白色組織の形成を抑制し、浸炭機械構造用部品の転動疲労寿命を高める。
ところで、残留オーステナイトには、安定した残留オーステナイトと、不安定な残留オーステナイトとが存在する。安定した残留オーステナイトとは、外力を受けたときに加工誘起マルテンサイト変態しにくい組織である。不安定な残留オーステナイトとは、外力を受けたときに加工誘起マルテンサイト変態しやすい組織である。
不安定な残留オーステナイトは、浸炭機械構造用部品の使用中に、外力により加工誘起マルテンサイト変態する場合がある。加工誘起マルテンサイト変態時に、近傍に水素が存在すれば、残留オーステナイトと加工誘起マルテンサイトとの界面に水素が過剰に凝集し、き裂の発生起点となりやすい。さらに、残留オーステナイトと加工誘起マルテンサイトとの界面では白色組織の形成が促進される。したがって、残留オーステナイト中に占める不安定な残留オーステナイト量を抑制できる方が好ましい。
F4=1.00-γ/(130×exp(-4.31+2.15[C]+0.54Mn+0.36Cr+0.50Mo))と定義する。F4の第2項の分母は、浸炭処理後の残留オーステナイトの体積率(%)の理論値である。したがって、F4は、浸炭処理後の残留オーステナイト量に対する、不安定な残留オーステナイトの減少率を表す指標である。F4が0未満のときは、浸炭機械構造用部品の硬化層における残留オーステナイト量が、理論値よりも多いことを意味する。
F4が0.15以上であれば、不安定な残留オーステナイトが十分に減少している。さらに、F4が0.75以下であれば、安定した残留オーステナイトが十分に残っている。したがって、F4が0.15~0.75であれば、水素発生環境下での浸炭機械構造用部品において、さらに優れた転動疲労寿命が得られる。
F4のさらに好ましい下限は0.20であり、さらに好ましくは0.24であり、さらに好ましくは0.27であり、さらに好ましくは0.30である。
F4のさらに好ましい上限は0.71であり、さらに好ましくは0.68であり、さらに好ましくは0.65であり、さらに好ましくは0.60であり、さらに好ましくは0.55である。
[表面から100μm深さ位置における残留オーステナイトの体積率γの測定方法]
残留オーステナイトの体積率は、X線回折法(XRD:X-Ray Diffraction)により求める。具体的には、浸炭機械構造用部品の表面から100μm深さ位置を観察面に含む試験片を採取する。試験片の大きさは特に限定されないが、例えば、3mm×3mm×厚さ2mmである。この場合、試験片には、試験片の厚さ方向が浸炭機械構造用部品の表面からの深さ方向に相当する箇所が含まれる。観察面は3mm×3mmであり、観察面の中心位置の法線方向は、浸炭機械構造用部品の表面からの深さ方向と平行とする。観察面における100μm深さ位置が、観察面の中心位置となるように、試験片を作製する。
得られた試験片を用いて、α相の(211)面、γ相の(220)面の各々のX線回折強度を測定し、各相の積分強度を算出する。X線回折強度の測定において、X線回折装置のターゲットをCrとし(CrKα線)、出力を40kV-40mAとする。
算出後、式(I)を用いて残留オーステナイトの体積率γ(%)を算出する。
γ=1/{0.36746×(Iα/Tα)/(Iγ/Tγ)+1} (I)
ここで、Iαはα相の積分強度である。Tαはα相の計測時間である。Iγはγ相の積分強度である。Tγはγ相の計測時間である。なお、本明細書において、Tαを4min、Tγを12minとする。なお、残留オーステナイトの体積率は、得られた数値の小数第二位を四捨五入して、小数第一位の値とする。
[表面から100μm深さ位置におけるC濃度[C]の測定方法]
表面から100μm深さ位置におけるC濃度は、電子線マイクロアナライザ(EPMA:Electron Probe MicroAnalyser)により求める。具体的には、浸炭機械構造用部品の表面から100μm深さ位置を観察面に含む試験片を採取する。試験片の大きさは、上述の100μm深さ位置が中心に位置する50μm×50μmの測定領域を観察面に含んでいれば、特に限定されない。なお、測定領域を含む観察面の中心位置の法線方向は、浸炭機械構造用部品の表面からの深さ方向と平行とする。
得られた試験片の観察面において、EPMAを用いてC濃度(質量%)を測定する。具体的には、浸炭機械構造用部品の表面から100μm深さ位置に相当する観察面のうち、上述の測定領域の面分析を実施する。測定領域は50μm×50μmとする。得られた測定領域でのC濃度(質量%)の算術平均値を、表面から100μm深さ位置におけるC濃度[C](質量%)と定義する。表面から100μm深さ位置におけるC濃度[C]は、得られた数値の小数第三位を四捨五入して、小数第二位の値とする。なお、EPMAの面分析では、加速電圧を15kV、照射電流を500nAとし、電子ビーム径を3μm、測定ピッチを5μmとする。
[本実施形態の浸炭機械構造用部品の用途]
浸炭機械構造用部品は、転動疲労寿命が求められる分野に広く適用可能である。浸炭機械構造用部品は例えば、浸炭軸受部品として好適である。軸受部品は、転がり軸受の部品を意味する。軸受部品は例えば、軌道輪、軌道盤、転動体等である。軌道輪は内輪であっても外輪であってもよく、軌道盤は軸軌道盤やハウジング軌道盤、中央軌道盤、調心ハウジング軌道盤であってもよい。軌道輪及び軌道盤は、軌道面を有する部材であれば、特に限定されない。転動体は玉でもころでもよい。ころは例えば、円筒ころ、棒状ころ、針状ころ、円すいころ、凸面ころ等である。
[本実施形態の浸炭機械構造用部品の製造方法]
本実施形態の浸炭機械構造用部品は、上述の本実施形態の鋼材を素材として、例えば、次の製造方法により製造される。
(工程3)熱間加工工程
(工程4)浸炭工程
以下、各工程について説明する。
[(工程3)熱間加工工程]
熱間加工工程では、本実施形態の鋼材に対して熱間加工を実施して、所定の形状を有する中間品を製造する。熱間加工は例えば、周知の熱間鍛造である。熱間加工工程では、鋼材をAc3点以上に加熱した後、鋼材を加工する。したがって、鋼材のミクロ組織は、熱間加工工程の加熱時にリセットされる。加熱温度は周知の温度であり、例えば、1000~1300℃である。熱間加工後の中間品を常温まで冷却する。必要に応じて、熱間加工後の中間品に対して、切削加工を実施する。なお、熱間加工後又は切削加工後の中間品に対して、周知の熱処理を実施してもよい。周知の熱処理は例えば、焼準処理及び/又は球状化処理である。
[(工程4)浸炭工程]
浸炭工程では、製造された中間品に対して、周知の浸炭処理を実施して、浸炭機械構造用部品を製造する。浸炭処理は、浸炭焼入れと、焼戻しとを含む。浸炭焼入れでは、周知の浸炭変成ガスを含有する雰囲気中において、中間品をAc3変態点以上に加熱及び保持した後、急冷する。焼戻しでは、浸炭焼入れされた中間品を、例えば100~200℃の温度範囲内で所定時間保持する。ここで、浸炭変成ガスとは、周知の吸熱型変成ガス(RXガス)を意味する。RXガスは、ブタン、プロパン等の炭化水素ガスを空気と混合させ、加熱されたNi触媒を通過させて反応させたガスであり、CO、H、N等を含む混合ガスである。
以上の工程により、特徴3及び特徴4を含む浸炭機械構造用部品が製造される。
[浸炭機械構造用部品の好ましい製造方法]
浸炭機械構造用部品が特徴3及び特徴4とともに、特徴5を含む場合、浸炭機械構造用部品の製造方法はさらに、次の要件を満たす。
(好ましい要件1)
浸炭工程の焼戻し温度を150~200℃にする。
(好ましい要件2)
浸炭工程後に、サブゼロ処理工程(工程5)を実施する。
以下、これらの要件について説明する。
[好ましい要件1について]
浸炭工程の焼戻しにおいて、焼戻し温度を150~200℃とする。焼戻し温度が150℃以上であれば、C(炭素)が鋼材中の残留オーステナイトに十分に濃化する。そのため、残留オーステナイトの安定性が高まる。したがって、焼戻し温度を150~200℃とする。
[好ましい要件2について]
サブゼロ処理工程では、焼戻し後の中間品を、Ms点以下の温度(サブゼロ処理温度という)まで冷却し、サブゼロ処理温度で保持する。サブゼロ処理温度はMs点以下であれば特に限定されない。サブゼロ処理温度は例えば、-200~-70℃である。サブゼロ処理工程では、残留オーステナイトが、マルテンサイトに変態することにより減少する。このとき、不安定な残留オーステナイトが優先的にマルテンサイトへ変態する。
本実施形態の浸炭機械構造用部品の好ましい形態では、安定な残留オーステナイトがある程度残っていることが好ましい。したがって、サブゼロ処理工程は、残留オーステナイトを安定化させる焼戻し工程の後に実施される。
以上の工程により、好ましい形態の浸炭機械構造用部品が製造される。
表1(表1-1及び表1-2)に示す化学組成を有する鋼材を以下の方法で製造した。
Figure 2024016808000001
Figure 2024016808000002
具体的には、真空溶製により100kgのインゴットを製造した。製造したインゴットに対して熱間鍛造を実施して、直径60mmの鋼材(棒鋼)を製造した。熱間鍛造前のインゴットの加熱温度は1000~1300℃であった。熱間鍛造後の鋼材を常温まで空冷した。以上の製造工程により、各試験番号の鋼材(直径60mmの棒鋼)を製造した。
[評価試験について]
製造された鋼材に対して、次の評価試験を実施した。
(試験1)被削性評価試験
(試験2)水素発生環境下での転動疲労寿命評価試験
以下、試験1及び試験2について説明する。
[(試験1)被削性評価試験]
各試験番号の鋼材の被削性を次の方法で評価した。初めに、各試験番号の鋼材(直径60mmの棒鋼)に対して、焼準処理を実施した。焼準処理では、鋼材を925℃で180分保持し、保持時間経過後の鋼材を空冷した。
焼準処理後の鋼材に対して、外周旋削加工を実施して、工具寿命を評価した。具体的には、各試験番号の鋼材に対して、次の条件で外周旋削加工を実施した。使用した切削工具は、JIS B 4053:2013に規定のP10に相当する切削用超硬質工具材料とした。切削速度を150m/分とし、送り速度を0.15/revとし、切込み量を1.0mmとした。なお、旋削時には潤滑剤を使用しなかった。以上の切削条件にて外周旋削加工を実施して、切削工具の逃げ面摩耗量が0.2mmになるまでの時間を工具寿命(時間)と定義した。
得られた工具寿命に基づいて、被削性を次のとおり評価した。JIS G 4053:2016のSCM420の規格を満たす試験番号42の鋼材の工具寿命を基準鋼材の工具寿命とした。そして、各試験番号の鋼材での工具寿命の、基準鋼材での工具寿命に対する比を、工具寿命比とした。つまり、次式により、工具寿命比を求めた。
工具寿命比=各試験番号での鋼材の工具寿命/基準鋼材(試験番号42)での工具寿命
得られた工具寿命比に基づいて、鋼材の被削性を次のとおり評価した。
評価E(Excellent):工具寿命比≧0.80
評価B(Bad) :工具寿命比<0.80
評価Eである場合、十分な被削性が得られたと判断した。一方、評価Bである場合、十分な被削性が得られなかったと判断した。
評価結果を表2中の「被削性」欄に示す。
Figure 2024016808000003
[(試験2)水素発生環境下での転動疲労寿命評価試験]
各試験番号の模擬浸炭機械構造用部品であるローラーピッチング疲労試験用試験片(小ローラー試験片)を作製して、転動疲労寿命を以下の方法で調査した。
各試験番号の鋼材(直径60mmの棒鋼)から、図1に示す転動疲労寿命評価試験のための小ローラー試験片の中間品を複数加工した。図1中の数値は、寸法(単位はmm)を示す。図中の「φ」は直径を意味する。
具体的には、各試験番号の鋼材(直径60mmの棒鋼)を、加熱温度1200℃、保持時間30分の条件で加熱した。その後、仕上げ温度を950℃以上として熱間加工(熱間鍛造)し、直径35mmの棒鋼を製造した。熱間加工後の棒鋼を常温まで空冷した。製造された直径35mmの棒鋼を、加熱温度925℃、保持時間60分の条件で焼準処理し、焼準処理した棒鋼を常温まで空冷した。その後、直径35mmの棒鋼を機械加工(切削加工)して、ローラーピッチング疲労試験用試験片の中間品を加工した。中間品に対して、浸炭処理(浸炭焼入れ及び焼戻し)を実施して、図1に示す小ローラー試験片を各試験番号ごとに複数作製した。
浸炭処理は次の方法で実施した。各試験番号の中間品を、カーボンポテンシャルCp1が1.00%の雰囲気中において、930℃で80分加熱した。続いて、カーボンポテンシャルCp2が0.80%の雰囲気中において、930℃で60分加熱した。その後、900℃で30分加熱し、60℃の油で油冷した。油冷後の試験片に対して、焼戻し温度180℃、保持時間120分で焼戻しを実施した。保持時間経過後の中間品を空冷した。以上のガス浸炭方法により、小ローラー試験片の表面のC濃度を0.80質量%程度に調整した。
(ローラーピッチング疲労試験)
作製した小ローラー試験片を用いて、次のローラーピッチング疲労試験を実施した。
図2は、ローラーピッチング疲労試験の模式図である。図2に示すとおり、小ローラー試験片200に大ローラー試験片100を後述する面圧で押し当てながら小ローラー試験片200を回転させた。小ローラー試験片200は上記方法で作製したもの(ローラーピッチング疲労試験用試験片)を使用した。大ローラー試験片100は図3に示す形状を有した。図3中の数値は、寸法(単位はmm)を示す。図中の「R150」は外周面の曲率半径が150mmであったことを示す。
大ローラー試験片100は次の方法で作製した。JIS G 4805(2019)に規定のSUJ2に相当する化学組成を有し、図3の形状を有する中間品を準備した。中間品に対して、焼入れ及び焼戻しを実施した。焼入れでは、中間品を840℃で30分保持し、その後、130℃の油で冷却した。焼戻しでは、中間品を160℃で180分保持し、その後、空冷した。焼戻し後の中間品に対して表面研磨を実施して、図3に示す大ローラー試験片100を作製した。大ローラー試験片100の直径は130mmであった。
水素発生環境を模擬するため、小ローラー試験片200に対して水素チャージ処理を実施した。具体的には、3%NaCl+3g/Lチオシアン酸アンモニウム(NHSCN)水溶液中に小ローラー試験片200を浸漬させたまま96時間保持した。保持中の水溶液の温度を20℃とした。以上の条件で水素チャージ処理を実施した。水素チャージ処理後の小ローラー試験片200を用いて、以下に示すローラーピッチング疲労試験を実施した。
ローラーピッチング疲労試験では、小ローラー試験片200に種々のヘルツ応力の面圧で大ローラー試験片100を押し付けた。接触部での両ローラー試験片の周速方向を同一方向とし、滑り率を-40%(小ローラー試験片200よりも大ローラー試験片100の方が接触部の周速が40%大きい)として回転させて試験を行った。上記接触部に潤滑油として供給するATF(AT用潤滑油)の油温は90℃であり、大ローラー試験片100と小ローラー試験片200との接触応力の最大面圧は2800MPaであった。試験打ち切り回数を2000万回(2.0×10回)とした。以上の条件に基づいてローラーピッチング疲労試験を実施して、試験結果をワイブル分布上にプロットした。そして、10%破損確率を示すL10寿命を、転動疲労寿命とした。
得られた転動疲労寿命に基づいて、水素発生環境下での転動疲労寿命を次のとおり評価した。JIS G 4053:2016のSCM420の規格を満たす試験番号42の鋼材の転動疲労寿命を、基準鋼材の転動疲労寿命とした。各試験番号の鋼材の転動疲労寿命の、基準鋼材の転動疲労寿命に対する比を、転動疲労寿命比とした。つまり、次式により、転動疲労寿命比を求めた。
転動疲労寿命比=各試験番号の鋼材の転動疲労寿命/基準鋼材(試験番号42)の転動疲労寿命
得られた転動疲労寿命比に基づいて、水素発生環境下での転動疲労寿命を次のとおり評価した。
評価E(Excellent):転動疲労寿命比≧1.50、又は、繰返し負荷数2000万回まで未剥離
評価B(Bad) :転動疲労寿命比<1.50
評価Eである場合、十分な転動疲労寿命が得られたと判断した。一方、評価Bである場合、十分な転動疲労寿命が得られなかったと判断した。
評価結果を表2中の「転動疲労寿命」欄に示す。
[試験結果]
表2に試験結果を示す。表1(表1-1及び表1-2)及び表2を参照して、試験番号1~30の鋼材は特徴1及び特徴2を満たし、浸炭機械構造用部品を模擬した小ローラー試験片は特徴3及び特徴4を満たした。そのため、十分な被削性が得られた。さらに、水素発生環境下での転動疲労寿命評価試験において、十分な転動疲労寿命が得られた。
一方、試験番号31では、Cr含有量が高すぎた。そのため、水素発生環境下での転動疲労寿命評価試験において、十分な転動疲労寿命が得られなかった。
試験番号32では、Mo含有量が高すぎた。そのため、被削性評価試験において、十分な被削性が得られなかった。
試験番号33では、V含有量が高すぎた。そのため、被削性評価試験において、十分な被削性が得られなかった。さらに、水素発生環境下での転動疲労寿命評価試験において、十分な転動疲労寿命が得られなかった。
試験番号34では、Ti含有量が高すぎた。そのため、水素発生環境下での転動疲労寿命評価試験において、十分な転動疲労寿命が得られなかった。
試験番号35では、Ni含有量が高すぎた。そのため、被削性評価試験において、十分な被削性が得られなかった。
試験番号36及び37では、F1が低すぎた。そのため、水素発生環境下での転動疲労寿命評価試験において、十分な転動疲労寿命が得られなかった。
試験番号38及び39では、F2が低すぎた。そのため、水素発生環境下での転動疲労寿命評価試験において、十分な転動疲労寿命が得られなかった。
試験番号40及び41では、F3が低すぎた。そのため、水素発生環境下での転動疲労寿命評価試験において、十分な転動疲労寿命が得られなかった。
実施例1で製造された試験番号7、9、12、16、21、23の鋼材を用いて、以下の方法で模擬浸炭機械構造用部品(小ローラー試験片)を作製した。
具体的には、表3を参照して、試験番号7A、7B及び7Sでは、表1(表1-1及び表1-2)に示す試験番号7の鋼材を用いた。試験番号9A及び9Sでは、表1に示す試験番号9の鋼材を用いた。試験番号12A及び12Sでは、表1に示す試験番号12の鋼材を用いた。試験番号16A及び16Sでは、表1に示す試験番号16の鋼材を用いた。試験番号21A、21B及び21Sでは、表1に示す試験番号21の鋼材を用いた。試験番号23A及び23Sでは、表1に示す試験番号23の鋼材を用いた。
Figure 2024016808000004
各試験番号の鋼材に対して、実施例1の[(試験2)水素発生環境下での転動疲労寿命評価試験]に記載の方法で、図1に示す小ローラー試験片の中間品を加工した。中間品に対して、浸炭処理(浸炭焼入れ処理及び焼戻し)を実施して、図1に示す小ローラー試験片を作製した。
浸炭処理は次の方法で実施した。各試験番号の中間品を、カーボンポテンシャルCp1が1.00%の雰囲気中において、930℃で80分加熱した。続いて、カーボンポテンシャルCp2が0.80%の雰囲気中において、930℃で60分加熱した。その後、900℃で30分加熱し、60℃の油で油冷した。油冷後の試験片に対して、表3の「焼戻し温度(℃)」欄に記載の焼戻し温度で、保持時間を120分として焼戻しを実施した。保持時間経過後の中間品を空冷した。以上のガス浸炭方法により、中間品(小ローラー試験片)の表面のC濃度を0.80質量%程度に調整した。
浸炭処理後の中間品のうち、試験番号7B、21B、7S、9S、12S、16S、21S及び23Sの中間品に対してさらに、サブゼロ処理を実施した(表3中の「サブゼロ処理」欄で「実施」と表示)。具体的には、浸炭処理後の中間品を-196℃のサブゼロ処理温度で60分保持した。その後、中間品を大気中で常温まで昇温した。一方、試験番号7A、9A、12A、16A、21A及び23Aについては、サブゼロ処理を実施しなかった(表3中の「サブゼロ処理」欄で「不実施」と表示)。
以上の製造工程により、各試験番号の小ローラー試験片を各試験番号ごとに複数作製した。
各試験番号の小ローラー試験片を用いて、上述の[表面から100μm深さ位置における残留オーステナイトの体積率γの測定方法]に記載の方法により、小ローラー試験片の表面から100μm深さ位置における残留オーステナイトの体積率γを求めた。得られた残留オーステナイトの体積率γ(体積%)を表3中の「γ(体積%)」欄に示す。
また、各試験番号の小ローラー試験片を用いて、[表面から100μm深さ位置におけるC濃度[C]の測定方法]に記載の方法により、表面から100μm深さ位置におけるC濃度[C]を求めた。得られたC濃度[C](質量%)を、表3中の「[C](質量%)」欄に示す。
なお、表3中に各試験番号のF4値を「F4」欄に示す。
[水素発生環境下での転動疲労寿命評価試験]
作製した小ローラー試験片に対して、実施例1中の[(試験2)水素発生環境下での転動疲労寿命評価試験]の(ローラーピッチング疲労試験)に記載の方法と同じ方法により、水素発生環境を模擬したローラーピッチング疲労試験を実施した。ただし、本実施例では、実施例1でのローラーピッチング疲労試験の試験条件と比較して、試験の打ち切り回数を5000万回(5.0×10回)まで拡張し、その他の試験条件は実施例1と同じとした。得られた試験結果をワイブル分布上にプロットし、10%破損確率を示すL10寿命を、転動疲労寿命とした。
得られた転動疲労寿命に基づいて、水素発生環境下でのサブゼロ処理を実施した試験番号7B、21B、7S、9S、12S、16S、21S及び23Sの転動疲労寿命を次のとおり評価した。
サブゼロ処理を実施しなかった試験番号7Aを、試験番号7Aと同じ化学組成でありサブゼロ処理を実施した試験番号7B、7Sの基準試験片とした。同様に、試験番号9Aを、試験番号9Sの基準試験片とした。試験番号12Aを、試験番号12Sの基準試験片とした。試験番号16Aを、試験番号16Sの基準試験片とした。試験番号21Aを、試験番号21B、21Sの基準試験片とした。試験番号23Aを、試験番号23Sの基準試験片とした。
次式に示すとおり、サブゼロ処理を実施した試験番号(7B、21B、7S、9S、12S、16S、21S及び23S)の小ローラー試験片の転動疲労寿命の、基準試験片の転動疲労寿命に対する比を、転動疲労寿命比と定義した。
転動疲労寿命比=サブゼロ処理を実施した試験番号の小ローラー試験片の転動疲労寿命/基準試験片の転動疲労寿命
得られた転動疲労寿命比に基づいて、水素発生環境下での転動疲労寿命を次のとおり評価した。
評価S(Superior) :転動疲労寿命比≧1.50
評価E´(Excellent):転動疲労寿命比<1.50
評価Sである場合、サブゼロ処理によりさらに優れた転動疲労寿命が得られたと判断した。評価結果を表3中の「転動疲労寿命」欄に示す。
なお、表3に示す各試験番号では、実施例1の試験2の基準鋼材(試験番号42)に対する転動疲労寿命比がいずれも1.50以上であった。つまり、表3に示す全ての試験番号では、本実施形態の浸炭機械構造用部品として十分な転動疲労寿命が得られており、いずれも、本発明例に相当した。
[試験結果]
表3を参照して、試験番号7S、9S、12S、16S、21S及び23Sはいずれも、特徴1~特徴4を満たし、さらに、特徴5を満たした。そのため、水素発生環境下での転動疲労寿命評価試験において、さらに優れた転動疲労寿命が得られた。
以上、本開示の実施の形態を説明した。しかしながら、上述した実施の形態は本開示を実施するための例示に過ぎない。したがって、本開示は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変更して実施することができる。

Claims (13)

  1. 質量%で、
    C:0.15~0.45%、
    Si:0.05~0.80%、
    Mn:0.40~1.50%、
    P:0.015%以下、
    S:0.005%以下、
    Cr:0.05~0.50%未満、
    Mo:0.06~0.35%、
    V:0.10~0.40%、
    Al:0.005~0.100%、
    N:0.030%以下、及び、
    O:0.0015%以下、を含有し、残部がFe及び不純物からなり、
    式(1)~式(3)を満たす、
    鋼材。
    Si/Cr≧0.45 (1)
    Mo+V≧0.25 (2)
    Mo/V>0.30 (3)
    ここで、式(1)~式(3)中の各元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。
  2. 質量%で、
    C:0.15~0.45%、
    Si:0.05~0.80%、
    Mn:0.40~1.50%、
    P:0.015%以下、
    S:0.005%以下、
    Cr:0.05~0.50%未満、
    Mo:0.06~0.35%、
    V:0.10~0.40%、
    Al:0.005~0.100%、
    N:0.030%以下、及び、
    O:0.0015%以下、を含有し、
    さらに、第1群~第4群からなる群から選択される1種以上を含有し、残部がFe及び不純物からなり、
    式(1)~式(3)を満たす、
    鋼材。
    [第1群]
    Ti:0.050%以下、及び、
    Nb:0.050%以下、からなる群から選択される1種以上
    [第2群]
    B:0.0050%以下、
    Cu:0.40%以下、及び、
    Ni:0.30%以下、からなる群から選択される1種以上
    [第3群]
    Sn:0.100%以下
    [第4群]
    Ca:0.0050%以下、及び、
    Mg:0.0050%以下、からなる群から選択される1種以上
    Si/Cr≧0.45 (1)
    Mo+V≧0.25 (2)
    Mo/V>0.30 (3)
    ここで、式(1)~式(3)中の各元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。
  3. 請求項2に記載の鋼材であって、
    前記第1群を含有する、
    鋼材。
  4. 請求項2に記載の鋼材であって、
    前記第2群を含有する、
    鋼材。
  5. 請求項2に記載の鋼材であって、
    前記第3群を含有する、
    鋼材。
  6. 請求項2に記載の鋼材であって、
    前記第4群を含有する、
    鋼材。
  7. 硬化層と、
    前記硬化層よりも内部の芯部とを備え、
    前記芯部の化学組成は、質量%で、
    C:0.15~0.45%、
    Si:0.05~0.80%、
    Mn:0.40~1.50%、
    P:0.015%以下、
    S:0.005%以下、
    Cr:0.05~0.50%未満、
    Mo:0.06~0.35%、
    V:0.10~0.40%、
    Al:0.005~0.100%、
    N:0.030%以下、及び、
    O:0.0015%以下、を含有し、残部がFe及び不純物からなり、
    式(1)~式(3)を満たす、
    浸炭機械構造用部品。
    Si/Cr≧0.45 (1)
    Mo+V≧0.25 (2)
    Mo/V>0.30 (3)
    ここで、式(1)~式(3)中の各元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。
  8. 硬化層と、
    前記硬化層よりも内部の芯部とを備え、
    前記芯部の化学組成は、質量%で、
    C:0.15~0.45%、
    Si:0.05~0.80%、
    Mn:0.40~1.50%、
    P:0.015%以下、
    S:0.005%以下、
    Cr:0.05~0.50%未満、
    Mo:0.06~0.35%、
    V:0.10~0.40%、
    Al:0.005~0.100%、
    N:0.030%以下、及び、
    O:0.0015%以下、を含有し、
    さらに、第1群~第4群からなる群から選択される1種以上を含有し、残部がFe及び不純物からなり、
    式(1)~式(3)を満たす、
    浸炭機械構造用部品。
    [第1群]
    Ti:0.050%以下、及び、
    Nb:0.050%以下、からなる群から選択される1種以上
    [第2群]
    B:0.0050%以下、
    Cu:0.40%以下、及び、
    Ni:0.30%以下、からなる群から選択される1種以上
    [第3群]
    Sn:0.100%以下
    [第4群]
    Ca:0.0050%以下、及び、
    Mg:0.0050%以下、からなる群から選択される1種以上
    Si/Cr≧0.45 (1)
    Mo+V≧0.25 (2)
    Mo/V>0.30 (3)
    ここで、式(1)~式(3)中の各元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。
  9. 請求項8に記載の浸炭機械構造用部品であって、
    前記第1群を含有する、
    浸炭機械構造用部品。
  10. 請求項8に記載の浸炭機械構造用部品であって、
    前記第2群を含有する、
    浸炭機械構造用部品。
  11. 請求項8に記載の浸炭機械構造用部品であって、
    前記第3群を含有する、
    浸炭機械構造用部品。
  12. 請求項8に記載の浸炭機械構造用部品であって、
    前記第4群を含有する、
    浸炭機械構造用部品。
  13. 請求項7~12のいずれか1項に記載の浸炭機械構造用部品であって、
    前記浸炭機械構造用部品の表面から100μm深さ位置における残留オーステナイトの体積率(%)をγと定義し、
    前記浸炭機械構造用部品の表面から100μm深さ位置におけるC濃度(質量%)を[C]と定義したとき、
    式(4)を満たす、
    浸炭機械構造用部品。
    0.15≦1.00-γ/(130×exp(-4.31+2.15[C]+0.54Mn+0.36Cr+0.50Mo))≦0.75 (4)
    ここで、式(4)中のMn、Cr及びMoには、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。
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