JP7417059B2 - 高周波焼入れ窒化処理用鋼および高周波焼入れ窒化処理部品 - Google Patents

高周波焼入れ窒化処理用鋼および高周波焼入れ窒化処理部品 Download PDF

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Description

本発明は、高周波焼入れおよび窒化処理により表層が硬化される部品、すなわち高周波焼入れ窒化処理部品と、高周波焼入れ窒化処理部品に用いる鋼、すなわち高周波焼入れ窒化処理用鋼とに関する。なお、高周波焼入れ窒化処理部品は表層硬化部品ともいい、高周波焼入れ窒化処理用鋼は表層硬化用鋼ともいう。
一般的に、自動車の機械部品である等速ジョイント(CVJ:Constant Velocity Universal Joint)およびハブ等の機械部品は切削加工を施されて部品形状に加工されるため、優れた被削性が求められる。また、これらの機械部品は衝撃および摩擦、並びに腐食環境に対して優れた特性を有する必要があるため、優れた硬度、面疲労強度、耐食性および耐摩耗性が求められる。一般的に、表面硬度が高ければ高いほど面疲労強度は向上するため、優れた面疲労強度が求められる機械部品は、高周波焼入れ、必要に応じて窒化処理を施されてから使用される。
近年では、自動車の燃費向上を目的として、上記のような機械部品同士の間の潤滑液(油等)の量を減らす、あるいは粘度を下げる傾向がある。潤滑液の量を少なくすると、冷却効果の低下により表面温度が上昇し、より過酷な環境下で機械部品が使用されることになる。また、潤滑液の粘度を下げると液膜が薄くなることで冷却効果が低下するだけでなく、摩擦の増加により機械部品の表面温度が上昇する。機械部品の表面温度が上昇すると、使用されるうちに機械部品内部の組織が変化し、組織が変化した箇所が起点となって破壊が生じる場合がある。そのため、高温環境下で使用される機械部品は、表面温度が上昇した場合であっても組織が変化し難い特性を有する必要がある。
特許文献1には、質量%で、C:0.30~0.65%、Si:0.20~1.00%、Mn:0.20~0.60%、P:0.030%以下、S:0.030%以下、Cr:1.00~3.00%、Al:0.005~0.200%、N:0.0200%以下、O:0.0030%以下を含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなり、さらに、該鋼は上記組成のSi、Mn、Crの含有量から算出される4×Si+3Cr-Mnの値が6.00%以上を満足し、かつ、旧オーステナイト粒径を8.0μm以下としたことを特徴とする靭性および耐磨耗性に優れた鋼が開示されている。
特許文献2には、質量%で、C:0.5~0.7%、Si:0.1~1.5%、Mn:0.2~1.5%、Cr:0~1.5%、V:0~0.10%、S:0.002~0.05%、Al:0.01~0.04%およびN:0.005~0.012%を含有し、残部はFeおよび不純物からなり、不純物中のTiが0.003%以下、Oが0.0015%以下、Pが0.02%以下で、(1)式(X=C(%)+0.11×Si(%)+0.07×Mn(%)+0.08×Cr(%))で表されるX値が0.62~0.90である棒鋼であって、表層領域において、(2)式(A=(MnMIN/MnAVE))で表されるA値が0.80以上であり、アスペクト比が3以下で、且つ短径が10μm以上であるMnS以外の介在物の個数が2個/mm以下であることを特徴とする高周波焼入れ用棒鋼が開示されている。ただし、上記(1)式中のC(%)、Si(%)、Mn(%)、Cr(%)は、各元素の含有量(質量%)を意味し、上記(2)式中のMnMINは表層領域におけるMn濃度の下限値(質量%)を示し、MnAVEはMn濃度の平均値(質量%)を示す。
特許文献3には、所定の化学組成を有し、鋼組織が、フェライト及びパーライトからなり、前記パーライトの面積率が85%以上であり、鋼中において、Al介在物及び複合介在物の総個数に対する、前記複合介在物の個数の比率は、20%以上であり、前記複合介在物は、質量%で、2.0%以上のSiO及び2.0%以上のCaOを含有し、残部の99%以上がAlである、高周波焼入れ用鋼が開示されている。
しかし、特許文献1~3では、鋼の表面温度が上昇することで生じる組織変化について何ら考慮されておらず、特許文献1~3に開示された鋼を高温環境下で使用される機械部品に適用した場合、組織変化が生じることで破壊が生じる場合がある。また、特許文献1~3では、窒化処理後の鋼の耐食性および耐摩耗性について考慮されておらず、特許文献1~3に開示された鋼に窒化処理を行った場合、窒化処理時の焼戻し効果による硬度低下やCr等の窒化物形成により固溶Nが不足することで硬度が不足し、耐食性および耐摩耗性が劣る場合がある。
特許第5868099号公報 特許第4014042号公報 国際公開第2018/016502号
本発明は、高周波焼入れ後且つ窒化処理後において、優れた被削性、硬度、面疲労強度、耐食性、耐摩耗性および耐組織変化特性を有する表層硬化用鋼および表層硬化部品を提供することを目的とする。また、本発明では、表層硬化用鋼に要求される一般的な特性である、高周波焼入れを行っても焼割れが発生し難い特性を有した上で、上記の諸特性を有する表層硬化用鋼および表層硬化部品を提供することを目的とする。
本発明の要旨は、以下の通りである。
[1] 本発明の一態様に係る高周波焼入れ窒化処理用鋼は、
化学組成が、質量%で、
C:0.40~0.60%、
Si:0.60~1.20%、
Mn:0.20%以上、0.40%未満、
Cr:0.20~1.60%、
V:0.02~0.30%、
S:0.001~0.040%、
P:0.020%以下、
O:0.0015%以下、
Al:0.005~0.060%、
N:0.0020~0.0080%、および
Ca:0.0005~0.0050%
を含有し、残部がFeおよび不純物からなり、且つ下記(1)式および下記(2)式を満足することを特徴とする。
C+Si/7+Mn/5+Cr/9+Mo/2.5≦1.100 ・・・ (1)
(Cr+3×V)/Mn≧5.00 ・・・ (2)
ただし、上記式中の元素記号は、当該元素の質量%での含有量を示し、当該元素を含有しない場合は0を代入する。
[2] 上記[1]に記載の高周波焼入れ窒化処理用鋼は、
前記化学組成が、質量%で、
Mo:0.80%以下、
Ti:0.050%以下、
B:0.0040%以下、
Nb:0.050%以下、および
Ni:0.3000%以下
からなる群から選択される1種または2種以上を含有してもよい。
[3] 本発明の別の態様に係る高周波焼入れ窒化処理部品は、化学組成が、質量%で、
C:0.40~0.60%、
Si:0.60~1.20%、
Mn:0.20%以上、0.40%未満、
Cr:0.20~1.60%、
V:0.02~0.30%、
S:0.001~0.040%、
P:0.020%以下、
O:0.0015%以下、
Al:0.005~0.060%、
N:0.0020~0.0080%、および
Ca:0.0005~0.0050%
を含有し、残部がFeおよび不純物からなり、且つ下記(3)式および下記(4)式を満足し、
表面のビッカース硬さが750HV1以上であり、
表面~「前記表面から深さ方向に0.50~2.00mm位置」の領域のビッカース硬さが550HV1以上であり、
前記表面における残留応力が-400MPa以下であることを特徴とする。
C+Si/7+Mn/5+Cr/9+Mo/2.5≦1.100 ・・・ (3)
(Cr+3×V)/Mn≧5.00 ・・・ (4)
ただし、上記式中の元素記号は、当該元素の質量%での含有量を示し、当該元素を含有しない場合は0を代入する。なお、上記式(3)および(4)はそれぞれ、上記式(1)および(2)と同一である。
[4] 上記[3]に記載の高周波焼入れ窒化処理部品は、
前記化学組成が、質量%で、
Mo:0.80%以下、
Ti:0.050%以下、
B:0.0040%以下、
Nb:0.050%以下、および
Ni:0.3000%以下
からなる群から選択される1種または2種以上を含有してもよい。
本発明によれば、高周波焼入れを行っても焼割れが発生し難い特性を有し、且つ高周波焼入れ後且つ窒化処理後において、優れた被削性、硬度、面疲労強度、耐食性、耐摩耗性および耐組織変化特性を有する表層硬化用鋼および表層硬化部品を提供することができる。本発明に係る表層硬化用鋼は、表層硬化部品に加工され、例えば、CVJおよびハブ等の自動車部品に好適に用いることができる。
小ローラ試験片の側面図である。 大ローラ試験片の正面図である。 実施例で行った複合サイクル試験を説明する図である。
高温環境下で使用される機械部品は、すべりを伴う接触面圧を繰り返し負荷されるうちに、部品表層の組織が変化し、組織が変化した箇所が起点となって破壊が生じる場合がある。本発明者らは、高温環境下で使用される機械部品の組織変化について以下のように推察している。
機械部品が高温環境下で、すべりを伴いながら繰り返し面圧を負荷されると、部品表層に局所変形が生じ、その箇所には大きなひずみが導入されることにより白色組織が生じる。鋼内部に白色組織が生じると、この組織が起点となり微小亀裂が生じ、最終的には破壊が生じる場合がある。本発明者らは、高温環境下で潤滑液(油等)が分解されることにより生じた水素が鋼内部に侵入することが、高温環境下で局所破壊が生じる原因の一つであると推察している。
そこで本発明者らは、耐組織変化特性に優れた鋼の化学組成について鋭意研究した。なお、耐組織変化特性に優れるとは、高温環境下で使用されても白色組織への組織変化が生じ難いことを意味する。その結果、本発明者らは、Mn、CrおよびVのそれぞれの含有量を所定の範囲内に制御し、且つこれらの元素の含有量が所定の関係を満たすように制御することで、耐組織変化特性に優れた鋼を得ることができることを知見した。より具体的には、本発明者らは、Vを含有させて結晶粒を微細化することで、降伏強度を向上させて局所変形の発生を抑制し、Mn含有量を低減させて結晶粒界を強化することで亀裂の発生を抑制し、更に、Crを含有させることで、耐組織変化特性に優れた鋼を得ることができることを知見した。
更に本発明者らは、Caを含有させることで、腐食起点となるMnSを球状化して微細分散させることができ、鋼の耐食性を向上できることを知見した。
以上の知見に基づいてなされた本実施形態に係る表層硬化用鋼は、化学組成が、質量%で、C:0.40~0.60%、Si:0.60~1.20%、Mn:0.20%以上、0.40%未満、Cr:0.20~1.60%、V:0.02~0.30%、S:0.001~0.040%、P:0.020%以下、O:0.0015%以下、Al:0.005~0.060%、N:0.0020~0.0080%およびCa:0.0005~0.0050%を含有し、残部がFeおよび不純物からなり、且つ下記(1)式および下記(2)式を満足する。
C+Si/7+Mn/5+Cr/9+Mo/2.5≦1.100 ・・・ (1)
(Cr+3×V)/Mn≧5.00 ・・・ (2)
ただし、上記式中の元素記号は、当該元素の質量%での含有量を示し、当該元素を含有しない場合は0を代入する。
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は本実施形態に開示の構成のみに制限されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。以下に記載する数値限定範囲には、下限値および上限値がその範囲に含まれる。「未満」と示す数値には、その値が数値範囲に含まれない。また、化学組成についての%は全て質量%を示す。
なお、本実施形態における窒化処理とは、ガス窒化処理またはガス軟窒化処理を示し、部品とは高周波焼入れとそれに続く窒化処理を施した機械部品を示す。
C:0.40~0.60%
炭素(C)は、高周波焼入れ後の鋼の硬度を高める。C含有量が少ない場合は上記効果が得られないため、C含有量は0.40%以上とする。一方、C含有量が多い場合は高周波焼入れ時又は高周波焼入れ後に焼割れが発生するため、C含有量は0.60%以下とする。C含有量は、0.43%以上、0.45%以上が好ましく、また0.58%以下、0.57%以下が好ましい。
Si:0.60~1.20%
シリコン(Si)は鋼に焼入性を付与して強度を高める。更に、Siは、窒化処理時、および部品使用時の高温環境において軟化を抑制し、部品の面疲労強度を向上させる。Si含有量が少ない場合は、窒化処理後の硬度および面疲労強度が低下するため、Si含有量は0.60%以上とする。一方、Si含有量が多い場合は、成形時の硬度が上昇して、被削性が劣化する。そのため、Si含有量は1.20%以下とする。Si含有量は、0.70%以上、0.75%以上が好ましく、また1.10%以下、1.05%以下が好ましい。
Mn:0.20%以上、0.40%未満
マンガン(Mn)は高周波焼入れ時の焼入れ性を高める。Mn含有量が少ない場合は上記効果が得られないため、Mn含有量は0.20%以上とする。一方、Mn含有量が多い場合は、結晶粒界にMnが偏析することで、鋼の耐組織変化特性が劣化する。そのため、Mn含有量は0.40%未満とする。Mn含有量は、0.25%以上が好ましく、また0.35%以下が好ましい。
Cr:0.20~1.60%
クロム(Cr)は、鋼に焼入性を付与して強度を高める。また、Crは、窒化処理時、および部品使用時の高温環境において軟化を抑制し、部品の面疲労強度を向上させる。更に、Crは鋼の水素感受性を抑制することで、耐組織変化特性を向上させる。Cr含有量が少ない場合は上記効果が得られないため、Cr含有量は0.20%以上とする。一方、Cr含有量が多い場合は、窒化処理においてNと結合することで、優れた面疲労強度を得るために必要な固溶N量が得られないため、Cr含有量は1.60%以下とする。Cr含有量は、0.30%以上、0.40%以上、0.50%以上が好ましく、また1.50%以下、1.40%以下が好ましい。
V:0.02~0.30%
バナジウム(V)は、微細なV窒化物、V炭化物、又はV炭窒化物を形成して高周波焼入れ時の結晶粒の粗大化を抑制することで鋼の降伏強度を向上させ、鋼内部で局所変形が生じることを抑制する。また、Vは部品の面疲労強度および耐組織変化特性を向上させる。これは、部品内部に侵入した水素をV析出物がトラップすることで、水素侵入による脆化を抑制することが原因の一つと考えられる。V含有量が少ない場合は上記効果が得られないため、V含有量は0.02%以上とする。一方、V含有量が多い場合は、鋼中に粗大なV析出物が形成され、鋼の靱性が低下する。そのため、V含有量は0.30%以下とする。V含有量は、0.05%以上、0.10%以上、0.15%以上が好ましく、また0.25%以下、0.21%以下が好ましい。
S:0.001~0.040%
硫黄(S)は被削性を向上させる元素である。鋼中に介在物(MnS)を形成し、被削性を向上させる反面、部品の面疲労強度を低下させる。したがって、被削性を確保するためにはS含有量は0.001%以上とする。一方、面疲労強度を確保するためにS含有量は0.040%以下にする。S含有量は0.035%以下、0.030%以下、0.020%以下が好ましい。S含有量を過度に低減しても精錬コストの増大に見合う効果が得られないため、S含有量は0.003%以上、0.005%以上が好ましい。
P:0.020%以下
リン(P)は不純物元素である。Pは結晶粒界に偏析して粒界を脆化させるため、高周波焼入れ後の鋼の面疲労強度を低下させる。したがって、P含有量は0.020%以下に制限する。P含有量は0.015%以下、0.011%以下が好ましい。P含有量は0%とすることが好ましいが、P含有量を過度に低減しても精錬コストの増加に見合う効果が得られないため、P含有量は0.003%以上、0.005%以上としてもよい。
O:0.0015%以下
酸素(O)は不純物元素である。OはAl、Si及びCaと結合して酸化物(又は酸化物系介在物)を形成し、部品の面疲労強度を低下させる。したがって、O含有量は0.0015%以下に制限する。O含有量は0.0014%以下、0.0011%以下が好ましい。O含有量は0%とすることが好ましいが、O含有量を過度に低減しても精錬コストの増大に見合う効果が得られないため、O含有量は0.0003%以上、0.0005%以上としてもよい。
Al:0.005~0.060%
アルミニウム(Al)は溶鋼を脱酸する。また、Alは鋼中のNと結合してAlNを形成し、高周波焼入れ時の結晶粒の粗大化を抑制する。Al含有量が少ない場合、上記効果が得られないため、Al含有量は0.005%以上とする。一方、Al含有量が多い場合、鋼中に粗大なAl介在物、および/または複数のAl介在物が凝集したAlクラスタが多量に生成し、高周波焼入れ後の鋼の面疲労強度が低下する。そのため、Al含有量は0.060%以下とする。Al含有量は0.008%以上、0.015%以上が好ましく、また0.050%以下、0.045%以下が好ましい。なお、本実施形態におけるAl含有量とは、全Alの含有量を意味する。
N:0.0020~0.0080%
窒素(N)はAlと結合して鋼中にAlNを形成し、高周波焼入れ時の結晶粒の粗大化を抑制することで、部品の面疲労強度を高める。N含有量が少ない場合、上記効果が得られないため、N含有量は0.0020%以上とする。一方、N含有量が多い場合、Nが過剰にフェライトに固溶してひずみ時効が生じ、鋼の冷間加工性が低下する。さらに、N含有量が多い場合、鋼中に粗大な窒化物が生成されて、鋼の被削性および面疲労強度が低下する。そのため、N含有量は0.0080%以下とする。N含有量は0.0025%以上、0.0028%以上が好ましく、また0.0070%以下、0.0060%以下が好ましい。
Ca:0.0005~0.0050%
カルシウム(Ca)は、腐食起点となる鋼中のMnSを球状化し、微細分散させることで、鋼の耐食性を向上させる。更に、Caは、Al介在物を改質して、複合介在物(Al-CaO-SiO)を形成する。Al介在物を改質して複合介在物を生成することにより、部品の面疲労強度を向上させる。Ca含有量が少ない場合、これらの効果が得られないため、Ca含有量は0.0005%以上とする。一方、Ca含有量が多い場合、鋼中に粗大な介在物が増加して、部品の面疲労強度が低下する。そのため、Ca含有量は0.0050%以下とする。Ca含有量は、0.0010%以上、0.0020%以上が好ましく、また0.0040%以下、0.0035%以下が好ましい。
本実施形態に係る表層硬化用鋼の化学組成の残部は、Fe及び不純物からなる。本実施形態において、不純物とは、表層硬化用鋼を工業的に製造する際に、原料としての鉱石、スクラップ、または製造環境等から混入されるものであって、本実施形態に係る表層硬化用鋼に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
本実施形態に係る表層硬化用鋼には、上述した元素に加えて、Mo、Ti、B、NbおよびNiからなる群から選択される1種または2種以上の元素を含有させてもよい。これらの元素は任意元素であり、含有させない場合の含有量は0%である。
Mo:0.80%以下
モリブデン(Mo)は鋼中に固溶して、部品の面疲労強度をより向上させる。この効果を得るためには、Mo含有量を0.01%以上とすることが好ましい。一方、Mo含有量が多い場合、部品成形時の硬さが高くなり、被削性が低下する場合があるため、Mo含有量は0.80%以下とすることが好ましい。Mo含有量は0.07%以上、0.12%以上がより好ましく、また0.60%以下、0.50%以下がより好ましい。
Ti:0.050%以下
チタン(Ti)は、鋼中にTi窒化物又はTi炭化物を形成して、高周波焼入れ時の結晶粒の粗大化を抑制することで、部品の面疲労強度をより向上させる。この効果を得るためには、Ti含有量は0.010%以上とすることが好ましい。一方、Ti含有量が多い場合、鋼中に粗大なTi窒化物および/またはTi炭化物が生成して、鋼の被削性が低下する場合がある。そのため、Ti含有量は0.050%以下とすることが好ましい。Ti含有量は、0.015%以上、0.020%以上がより好ましく、また0.045%以下、0.040%以下がより好ましい。
B:0.0040%以下
ボロン(B)は鋼中に固溶して鋼の焼入れ性を高めることで、部品の面疲労強度をより向上させる。この効果を得るためには、B含有量は0.0005%以上とすることが好ましい。一方、B含有量が多い場合、上記効果が飽和するとともに、合金コストが増加する。そのため、B含有量は0.0040%以下とすることが好ましい。B含有量は、0.0010%以上がより好ましく、また0.0030%以下がより好ましい。
Nb:0.050%以下
ニオブ(Nb)は鋼中にNb窒化物、Nb炭化物又はNb炭窒化物を形成し、ピニング効果によって結晶粒の粗大化を抑制する。この効果を得るためには、Nb含有量を0.010%以上とすることが好ましい。一方、Nb含有量が多い場合、鋼中に粗大なNb析出物が形成され、鋼の靱性が低下する場合がある。したがって、Nb含有量は0.050%以下とすることが好ましい。Nb含有量は、0.020%以上、0.025%以上がより好ましく、また0.040%以下がより好ましい。
Ni:0.3000%以下
ニッケル(Ni)は鋼中に固溶して、部品の面疲労強度をより向上させる。この効果を得るためには、Ni含有量は0.0010%以上とすることが好ましい。一方、Ni含有量が多い場合、上記効果が飽和するとともに合金コストが増加する。そのため、Ni含有量は0.3000%以下とすることが好ましい。Ni含有量は、0.0015%以上がより好ましく、また0.2500%以下がより好ましい。
本実施形態に係る表層硬化用鋼は、上記化学組成を有し、且つ下記(1)式および下記(2)式を満たす。
C+Si/7+Mn/5+Cr/9+Mo/2.5≦1.100 ・・・ (1)
(Cr+3×V)/Mn≧5.00 ・・・ (2)
ただし、上記式中の元素記号は、当該元素の質量%での含有量を示し、当該元素を含有しない場合は0を代入する。以下に上記(1)式および上記(2)式について説明する。
C+Si/7+Mn/5+Cr/9+Mo/2.5≦1.100 ・・・ (1)
上記(1)式の左辺は、焼入れ性の指標(Ceq(%))を示す。Ceqが1.100を超えると、高周波焼入れ時又は高周波焼入れ後に焼割れが発生する。そのため、Ceq(上記(1)式の左辺)は1.100以下とする。Ceqは1.050以下、1.000以下、0.950以下が好ましい。
上述した本実施形態に係る化学組成を有する鋼であれば、表層硬化用鋼として所望される焼入れ性および窒化処理後の硬度を得ることができるため、Ceqの下限は特に限定しない。しかし、鋼の焼入れ性を確実に得るために、Ceqは0.500以上、0.650以上としてもよい。
(Cr+3×V)/Mn≧5.00 ・・・ (2)
上記(2)式の左辺は、本実施形態に係る鋼の耐組織変化特性の指標を示す。上記(2)式の左辺が5.00未満であると、鋼の耐組織変化特性が劣化し、高温環境下で使用された際に白色組織が生じ、破壊が生じ易くなる。そのため、上記(2)式の左辺は5.00以上とする。上記(2)式の左辺は、5.50以上、6.00以上が好ましい。上記(2)式の左辺は、本実施形態に係る表層硬化用鋼のCr含有量、Mn含有量、V含有量が取り得る値から、12.50以下としてもよい。
本実施形態に係る鋼は高周波焼入れが施されるため、制御されるべき金属組織は高周波焼入れ後の金属組織であり、本実施形態に係る表層硬化用鋼(高周波焼入れ前)の金属組織は特に限定されない。本実施形態に係る表面硬化用鋼の金属組織は、フェライト(初析フェライト)及びパーライトの合計面積率を97%以上とし、残部組織の面積率を3%以下としてもよい。また、残部組織を0%とし、フェライト及びパーライトの合計面積率を100%としてもよい。金属組織中の残部組織とは、例えばベイナイトである。ただし、本実施形態に係る鋼は上述の金属組織を有しなくてもよく、上述の金属組織を有しなくても本実施形態に係る表層硬化用鋼を得ることができる。
本実施形態に係る表層硬化用鋼は、適用する機械部品等に応じて適宜選択すればよく、棒鋼または線材であっても構わない。
次に、本実施形態に係る表層硬化用鋼を用いて製造される、表層硬化部品について説明する。本発明の別の態様に係る表層硬化部品は、本実施形態に係る表層硬化用鋼と同一の化学組成を有し、表面のビッカース硬さが750HV1以上であり、全硬化層深さが0.50~2.00mmであり、前記表面における残留応力が-400MPa以下である。
表面のビッカース硬さ:750HV1以上
表面のビッカース硬さが750HV1未満であると、硬度が不足し、CVJおよびハブ等の自動車部品として使用することが困難な場合がある。そのため、表面のビッカース硬さは750HV1以上とする。表面のビッカース硬さは、靭性低下による欠損抑制の観点から、900HV1以下としてもよい。
表面のビッカース硬さは、表層硬化部品、例えば図1に示す小ローラ試験片において、周面FP(図1に示した直径26mmの部分)のビッカース硬さを測定することで求める。具体的には、小ローラ試験片の周面FPの任意の3点に対して、試験力は9.8Nとして、JIS Z 2244:2009に準拠したビッカース硬さ試験を実施する。得られたビッカース硬さの3点の平均値を、表層硬化部品の表面のビッカース硬さと定義する。
全硬化層深さ:0.50~2.00mm
全硬化層深さが0.50mm未満であると、面疲労強度が低下する。一方、全硬化層深さが2.00mm超であると、焼割れが発生しやすくなる。そのため、全硬化層深さは0.50~2.00mmとする。
表層硬化部品の全硬化層深さは、JIS G 0599:2008に準拠して測定する。限界硬さはビッカース硬さで550HV1とする。本実施形態において、全硬化層深さが0.50~2.00mmであるとは、例えば、図1に示す小ローラ試験片の長手方向に対して垂直な断面において、表面~「表面から深さ方向に0.50~2.00mm位置」の領域のビッカース硬さが550HV1以上であることを意味する。例えば、全硬化層深さが0.70mmであるとは、図1に示す小ローラ試験片の長手方向に対して垂直な断面において、表面~表面から深さ方向に0.70mm位置の領域のビッカース硬さが550HV1以上であることを意味する。
表面における残留応力:-400MPa以下
表面における残留応力が-400MPa超(-400MPaを含まず、-400MPaよりも正の値)であると、面疲労強度が低下する。そのため、表面における残留応力は-400MPa以下(-400MPaを含み、-400MPaより負の値)とする。表面における残留応力は、低いほど良いが、製造上実現できる残留応力は-1500MPa以上であるため、上限は-1500MPaとしてもよい。
表層硬化部品の表面における残留応力は、硬化面においてX線応力測定装置により測定する。測定部において酸化スケールの付着が著しい場合は、直径3mmの範囲について電解研磨を行い、硬化面上の酸化スケールを除去した後に、表面~表面から深さ方向に0.2mmの範囲で残留応力を測定する。得られた表面~表面から深さ方向に0.2mmの範囲における残留応力の平均値を算出することで、表面における残留応力を得る。
本実施形態に係る表面硬化部品の金属組織は特に限定されない。本実施形態に係る表面硬化部品の金属組織は、フェライト、パーライトの合計面積率を80%以上とし、残部組織の面積率を20%以下としてもよい。また、残部組織を0%とし、フェライト、パーライトおよびベイナイトの合計面積率を100%としてもよい。金属組織中の残部組織とは、例えばベイナイトである。ただし、本実施形態に係る表面硬化部品は上述の金属組織を有しなくてもよく、上述の金属組織を有しなくても本実施形態に係る表面硬化部品を得ることができる。
次に、本実施形態に係る表層硬化用鋼の製造方法の一例について説明する。
本実施形態では、表層硬化用鋼として、表層硬化用鋼の棒鋼又は線材の製造方法の一例を説明する。しかしながら、本実施形態に係る表層硬化用鋼は、棒鋼又は線材に限定されない。
製造方法の一例は、溶鋼を精錬し、鋳造して素材(鋳片又はインゴット)を製造する製鋼工程と、素材を熱間加工して表層硬化用鋼を製造する熱間加工工程とを備える。以下、それぞれの工程について説明する。
[製鋼工程]
製鋼工程は、精錬工程と鋳造工程とを含む。
精錬工程では初めに、周知の方法で製造された溶銑に対して転炉での精錬(一次精錬)を実施する。転炉から出鋼した溶鋼に対して、二次精錬を実施する。二次精錬において、成分調整の合金元素を添加して、上述した化学組成を満たす溶鋼を製造する。
上記精錬工程により製造された溶鋼を用いて、素材(鋳片又はインゴット)を製造する(鋳造工程)。具体的には、溶鋼を用いて連続鋳造法により鋳片を製造する、又は、溶鋼を用いて造塊法によりインゴットを製造する。
[熱間加工工程]
製造された素材を熱間加工して、表層硬化用鋼(棒鋼又は線材)を製造する。熱間加工工程は、粗圧延工程と、仕上げ圧延工程とを含む。粗圧延工程では、素材を熱間加工してビレットを製造する。粗圧延工程では例えば、分塊圧延機により素材に対して分塊圧延を実施して、ビレットを製造する。
粗圧延工程において分塊圧延を実施する際、加熱炉での加熱温度及び保持時間は次の通りとする。
加熱温度:1150~1300℃
上記加熱温度での保持時間:1.5~40.0時間
ここで、加熱温度は、加熱炉の炉温(℃)である。また、保持時間は、加熱炉の炉温が1150~1300℃での保持時間(時間)である。
加熱温度が1150℃未満、又は、加熱温度が1150~1300℃での保持時間が1.5時間未満であれば、素材中のV炭化物及びV複合炭化物が十分に固溶しない。そのため、V窒化物、V炭化物、又はV炭窒化物が粗大化し、高周波焼入れ時の結晶粒の粗大化を抑制することができない。一方、加熱温度が1300℃を超えたり、1150~1300℃での保持時間が40.0時間を超えれば、原単位が過剰に高くなり、製造コストが高くなる。
加熱温度が1150~1300℃であり、かつ、1150~1300℃での保持時間が1.5~40.0時間であれば、素材中のV窒化物、V炭化物、又はV炭窒化物が十分に固溶する。
仕上げ圧延工程では、始めに加熱炉を用いてビレットを加熱する。加熱後のビレットに対して、連続圧延機を用いて熱間圧延を実施して、表面硬化用鋼である棒鋼又は線材を製造する。
仕上げ圧延工程における加熱炉での加熱温度及び保持時間は次の通りとする。
加熱温度:1100~1300℃
上記加熱温度での保持時間:0.5~5.0時間
ここで、加熱温度は、加熱炉の炉温(℃)である。また、保持時間は、加熱炉の炉温が1100~1300℃での保持時間(時間)である。
仕上げ圧延工程では、なるべく、仕上げ圧延工程中にV炭化物等及びV複合炭化物等が析出するのを抑制する。仕上げ圧延工程の加熱炉での加熱温度が1100℃未満であったり、1100~1300℃での保持時間が0.5時間未満であれば、仕上げ圧延時において圧延機に掛かる負荷が過剰に大きくなる。一方、加熱温度が1300℃を超えたり、1100~1300℃での保持時間が5.0時間を超えれば、原単位が過剰に高くなり、製造コストが高くなる。
仕上げ圧延工程での加熱温度が1100~1300℃であり、かつ、1100~1300℃での保持時間が0.5~5.0時間であれば、素材中のV炭化物等及びV複合炭化物等が十分に固溶する。
仕上げ圧延後の表面硬化用鋼は、室温になるまで冷却する。このとき、表面硬化用鋼の表面温度が800~500℃になるまでの平均冷却速度を1.0℃/秒以下として、フェライト、パーライトの合計面積率が80%以上であり、残部組織の面積率が20%以下である金属組織とすることが好ましい。
以上説明した一例の製造方法により、本実施形態に係る表層硬化用鋼を製造することができる。
本実施形態に係る表層硬化用鋼は、表層硬化部品に加工され、CVJおよびハブ等の自動車部品に好適に使用される。これらの自動車部品として使用される表層硬化部品は一般的に、以下の方法により製造される。
まず、上述した一例の製造方法により製造した表層硬化用鋼に対して熱間鍛造を実施して、中間品を製造する。中間品に対して、必要に応じて、応力除去焼きなまし処理を実施する。熱間鍛造後又は応力除去焼きなまし処理後の中間品に対して切削加工を実施して、部品形状に加工することで、粗製品を得る。その後、粗製品に対して、高周波焼入れおよび窒化処理を実施する。
高周波焼入れは所望の表面硬さ、全硬化層深さおよび表面における残留応力を得るためにあたり、表面温度が800℃~1100℃の温度となるように、高周波誘電加熱により加熱した後、焼入れする。なお、本実施形態では、必要に応じて更に低温焼戻し処理(例えばは130℃~200℃で30~120分程度の加熱処理)を施してもよい。
窒化処理は周知のガス窒化処理を実施する。窒化中に炉内に導入するガスは、NHのみであってもよいし、NHと、Nおよび/またはHとを含有する混合気体であってもよい。ガス窒化処理を実施する場合、例えば、吸熱型変成ガス(RXガス)とアンモニアガスとを1:1に混合した雰囲気中で、均熱温度を550~600℃として1~3時間均熱すればよい。
窒化処理後、更に研削加工を実施することで、表層硬化部品を製造することができる。本実施形態に係る表層硬化用鋼を用いて製造された表層硬化部品は、上記のような自動車部品として好適に使用することができる。なお、本発明の別の態様に係る表層硬化部品は、CVJおよびハブ等の自動車部品のみに限定されない。
次に、実施例により本発明の一態様の効果を更に具体的に説明するが、実施例での条件は、本発明の実施可能性および効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明はこの一条件例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
以下の方法により、表層硬化用棒鋼を製造した。
まず、周知の方法で製造された溶銑に対して転炉で一次精錬を実施した。転炉から出鋼した溶鋼に対して、二次精錬を実施した。二次精錬において、成分調整の合金元素を添加して、化学組成を調整した。二次精錬後の溶鋼を用いて、連続鋳造法により、400mm×300mmの横断面を有する鋳片を製造した。この鋳片を1250℃に加熱して1.5~40.0時間保持した後、分塊圧延にて162mm×162mmの横断面を有する鋼片を製造した。製造された鋼片を常温(25℃)まで空冷した後、再び加熱温度:1100~1300℃、当該加熱温度での保持時間:0.5~5.0時間の条件で加熱した。加熱された鋼片に対して連続圧延機を用いて、加熱温度:1100~1300℃、当該加熱温度での保持時間:0.5~5.0時間の条件で熱間圧延(仕上げ圧延)を行い、その後常温(25℃)まで冷却することで、直径70mmの表層硬化用棒鋼を得た。なお、仕上げ圧延後、常温までの冷却において、表層硬化用棒鋼の表面温度が800~500℃になるまでの平均冷却速度は1.0℃/秒以下とした。
得られた表層硬化用棒鋼の化学組成を表1に示す。なお、表層硬化用棒鋼の化学組成は、ICP(Inductively Coupled Plasma)発光分光分析法により分析した。また、表1のCeqは、下記(1)式の左辺である。
C+Si/7+Mn/5+Cr/9+Mo/2.5≦1.100 ・・・ (1)
Figure 0007417059000001
[評価試験]
[試験片の作製]
得られた表層硬化用棒鋼を用いて、機械部品(表層硬化部品)を模擬した試験片を以下の方法で作製した。なお、試験片の化学組成は、表面硬化用棒鋼の化学組成と同一である。
まず、得られた表層硬化用棒鋼を、1200℃で30分加熱した後、仕上げ温度を950℃以上として熱間鍛造し、表面温度が800~500℃になるまでの平均冷却速度を1℃/秒以下となるように冷却し、直径35mmの丸棒を製造した。直径35mmの丸棒を機械加工して、複数個の小ローラ試験片を作製した。具体的には、図1に示す小ローラ試験片を複数個作製した。
作製された各試験片に対して、高周波焼入れを実施した。具体的には、小ローラ試験片の周面FP(図1に示す直径26mmの部分)に対して、出力20kW、周波数50kHzの高周波加熱装置を用いて、加熱時間を5~10秒の範囲内で調整して高周波焼入れを実施した。その際、小ローラ試験片表面の加熱温度は900~1100℃であった。その後、窒化炉を用いて、吸熱型変成ガス(RXガス)とアンモニアガスとを1:1に混合した雰囲気中で、均熱温度を550~600℃として1~3時間均熱後に100℃の油中で冷却した。以上の方法により、小ローラ試験片を作製した。
[ビッカース硬さ試験]
窒化処理後の各小ローラ試験片の周面FP(図1に示す直径26mmの部分)のビッカース硬さを測定した。具体的には、小ローラ試験片の周面FPの任意の3点に対して、JIS Z 2244:2009に準拠したビッカース硬さ試験を実施した。このときの試験力は9.8Nとした。得られたビッカース硬さの3点の平均値を、表面のビッカース硬さ(HV1)と定義した。ビッカース硬さが750HV1以上の場合を硬度に優れるとして合格と判定し、ビッカース硬さが750HV1未満の場合を硬度に劣るとして不合格と判定した。測定結果を表2に示す。
[全硬化層深さおよび表面における残留応力]
全硬化層深さおよび表面における残留応力は上述の方法により測定した。全硬化層深さが0.50~2.00mmの場合、本発明の範囲内であるとして合格と判定し、0.50~2.00mmの範囲外である場合、本発明の範囲外であるとして不合格と判定した。また、表面における残留応力が-400MPa以下の場合、本発明の範囲内であるとして合格と判定し、-400MPa超である場合、本発明の範囲外であるとして不合格と判定した。
[焼割れの有無]
窒化処理後の各小ローラ試験片において、焼割れの有無を確認した。深さ0.02mm以上の焼割れが確認されなかった場合、表層硬化用鋼として所望される特性を有するとして合格と判定し、表2に「無」と記載し、深さ0.02mm以上の焼割れが確認された場合、表層硬化用鋼として所望される特性を有しないとして不合格と判定し、表2に「有」と記載した。深さ0.02mm以上の焼割れが確認された比較例は、後述する評価試験を行わなかった。
[面疲労強度評価試験]
ローラピッティング試験により、面疲労強度を求めた。ローラピッティング試験は、上記の小ローラ試験片と図2の大ローラ試験片とを組合せて実施した。図2は大ローラ試験片の正面図である。大ローラ試験片は、JIS G4052:2016に規定されたSCM420Hの規格を満たす鋼からなり、一般的な製造工程、つまり、焼きならし、試験片加工、ガス浸炭炉による共析浸炭、低温焼戻し及び研磨、の製造工程によって作製した。ガス浸炭は、Cp値0.80、浸炭期950℃240分、拡散期860℃30分の条件で行い、焼入れは油焼入れとした。焼戻しは大気中で160℃90分、研磨は大ローラ試験片の最終粗さRa1.6μmとなるように加工した。ローラピッティング試験の条件は次のとおりである。ローラピッティング試験機はコマツエンジニアリング株式会社製RP201を用いたが、他のメーカーの試験機を用いても、同様に比較することができる。
試験機:ローラピッティング試験機
試験片:小ローラ試験片(摺動部の直径26mm)
大ローラ試験片(直径130mm)、接触部の曲率150mmR
最大面圧:3600MPa
試験数 :6個
すべり率:-40%
小ローラ回転数:2000rpm
周速:小ローラ試験片:2.72m/s、大ローラ試験片:3.81m/s
潤滑油温度:90℃
使用オイル:オートマチック用オイル
各鋼番号について、予測されるピッティング発生面圧を含む100MPa間隔の6水準の面圧でローラピッティング試験を行い、縦軸に面圧S、横軸に小ローラ試験片におけるピッティング発生までの繰り返し数NをとったS-N線図を作成した。N=2.0×10回まで小ローラ試験片表面にピッティングが発生しない最大の面圧をS-N曲線から読み取り、これを面疲労強度とした。なお、小ローラ試験片の表面が損傷している箇所のうち、最大のものの面積が1mm以上になった場合をピッティング発生と定義した。
また、JIS G 4051:2016に規定されたS53C鋼を用いて、上記の小ローラ加工条件と同じ条件で小ローラ試験片を作製し、上記の試験条件でローラピッティング試験を行った。得られたS53Cの面疲労強度を比較基準とした。
表2に、ローラピッティング試験により得られた面疲労強度を示す。表2中の面疲労強度では、S53Cの面疲労強度を基準値(100%)とした。そして、各鋼番号の面疲労強度を、基準値に対する比(%)で示した。面疲労強度が120%以上の場合を、優れた面疲労強度を有するとして合格と判定した。一方、面疲労強度が120%未満の場合を、優れた面疲労強度を有しないとして不合格と判定した。
[耐食性評価試験]
耐食性は、高周波焼入れおよび窒化処理を施した試験片を用いて複合サイクル試験により評価した。試験片形状は直径26mm×長さ28mm(腐食評価面積=22cm)とし、両端面はマスキングした。評価条件は図3に示すように、温度50℃、湿度98%で2時間保持した後、温度35℃の5%塩水を2時間噴霧し、温度60℃、湿度25%で4時間保持の計8時間を1サイクルとし、連続して3サイクル行った。腐食試験前の試験片重量Wと腐食生成物を除いた試験片重量Wとの差ΔW(=W-W)を腐食減量と定義し、腐食減量が10g未満の場合を耐食性に優れるとして合格と判定し、表2に「Good」と記載し、腐食減量が10g以上の場合を耐食性に劣るとして不合格と判定し、表2に「Bad」と記載した。
[耐摩耗性評価試験]
耐摩耗性は、高周波焼入れおよびガス軟窒化処理を施した上記小ローラ試験片を用いて2円筒転がり疲労試験により評価した。試験片形状は図1の通りである。試験条件は、潤滑環境下で面圧3.0GPa、滑り率40%、回転数1500rpm、繰り返し数1×10回で試験を実施した後、試験片の摺動部(直径26mmの部分)の粗さを測定した。試験後の試験片の摺動部の粗さは、円周方向に対して90°ピッチにて4カ所で測定した。粗さプロファイルから摩耗深さを求め、測定4カ所の摩耗深さの平均値(以降、平均摩耗深さ)を耐摩耗性の評価指標とした。平均摩耗深さが10μm以下の場合を耐摩耗性に優れるとして合格と判定し、表2に「Good」と記載し、平均摩耗深さ10μm未満の場合を耐摩耗性に劣るとして不合格と判定し、表2に「Bad」と記載した。
[耐組織変化特性評価試験]
前記面疲労強度評価試験用と同じ小ローラ試験片、大ローラ試験片を用いて、下記の条件でローラピッティング試験を実施した後、小ローラ試験片の摺動部表層断面の組織を光学顕微鏡にて観察し、組織変化を評価した。耐組織変化特性評価試験におけるローラピッティング試験の条件は次のとおりである。
試験機:ローラピッティング試験機
試験片:小ローラ試験片(摺動部の直径26mm)
大ローラ試験片(直径130mm)、接触部の曲率150mmR
最大面圧:3000MPa
試験数 :5個
すべり率:-40%
小ローラ回転数:2000rpm
周速:小ローラ試験片:2.72m/s、大ローラ試験片:3.81m/s
潤滑油温度:90℃
使用オイル:オートマチック用オイル
各鋼番号について、ローラピッティング試験における試験数は5とした。
白色組織発生の有無は、小ローラ試験片の摺動部中央部を試験片長手方向に直角に切断した断面上で判定した。観察断面を研磨した後、3%硝酸アルコール(ナイタル腐食液)にてエッチングした。エッチングされた観察面上の摺動面から深さ500μm位置において周方向全周を500倍の光学顕微鏡にて観察した。観察面内において最大長さが5μmを超える白色組織が観察されなかった場合、耐組織変化特性に優れるとして合格と判定し、表2に「無」と記載し、最大長さが5μmを超える白色組織が観察された場合、耐組織変化特性に劣るとして不合格と判定し、表2に「有」と記載した。
[切削試験]
鋼の被削性は、ドリル加工による切削試験により評価した。具体的には、まずS53Cの鋼において、合計1000mmの穴開けが可能な最大切削速度を求め、各鋼番号の鋼を用いてこの最大切削速度で加工穴深さが1000mmとなるまで加工できるか否かにより評価した。より具体的には、JIS G4051:2016に規定された直径35mmのS53Cの鋼を930℃に加熱した後に650℃にて120秒保持し、ビッカース硬さが175HV1となるように焼ならしを行った。この丸棒を長さ130mmに切断したものを素材とし、直径10mm、長さ300mmのTiCコーティングの超硬ドリルを用い、水溶性切削油で潤滑しながら送り速度0.2mm/revにて深さ100mmまで穿孔を行い、加工穴深さ1000mmの穿孔が可能な最大切削速度VL1000(m/min)を求めた。最大切削速度VL1000は、通常、工具寿命の評価指標として用いられており、最大切削速度VL1000が大きいほど工具寿命が良好であると判断できる。各鋼番号の鋼を上述のS53Cと同じ焼ならしを行い、S53Cにて求めた最大切削速度VL1000でドリル加工を実施し、加工穴深さが1000mmとなるまで加工できた場合を被削性に優れるとして合格と判定し、表2に「Good」と記載し、加工穴深さが1000mmとなるまで加工できなかった場合を被削性に劣るとして不合格と判定し、表2に「Bad」と記載した。
Figure 0007417059000002
鋼1~9を使用した試験番号1~9は、化学組成が本発明の範囲内であるため、表面のビッカース硬さ、全硬化層深さおよび表面における残留応力が本発明の範囲内となり、面疲労強度、耐食性、耐摩耗性および耐組織変化特性のいずれも合格基準を満足し、また焼割れが発生しなかった。一方、鋼10~24を使用した試験番号10~24は、焼割れが発生したか、被削性、表面のビッカース硬さ、全硬化層深さ、表面における残留応力、面疲労強度、耐食性、耐摩耗性および耐組織変化特性のうち1つ以上が合格基準を満足しないものとなった。
鋼10を使用した試験番号11は、Si含有量およびCr含有量が少なく、Mn含有量が多く、VおよびCaを含まず、更に(Cr+3×V)/Mn(以下、(2)式の左辺)が5.00未満であったため、ビッカース硬さ、面疲労強度、耐食性、耐摩耗性および耐組織変化特性が劣った例である。
鋼11を使用した試験番号11は、Ceqが1.100超であったため、全硬化層深さが大きくなり、焼割れが発生した例である。
鋼12を使用した試験番号12は、Mn含有量およびCa含有量が多かったため、面疲労強度および耐組織変化特性が劣った例である。
鋼13を使用した試験番号13は、Cr含有量が少なかったため、全硬化層深さが小さくなり、ビッカース硬さ、面疲労強度および耐食性が劣った例である。
鋼14を使用した試験番号14は、C含有量が多かったため、被削性が劣化し、全硬化層深さが大きくなり、焼割れが発生した例である。
鋼15を使用した試験番号15は、(2)式の左辺が5.00未満であったため、面疲労強度、耐摩耗性および耐組織変化特性が劣った例である。
鋼16を使用した試験番号16は、Mn含有量が少なかったため、ビッカース硬さ、面疲労強度が劣った例である。
鋼17を使用した試験番号17は、Vを含まなかったため、ビッカース硬さ、面疲労強度、耐摩耗性および耐組織変化特性が劣った例である。
鋼18を使用した試験番号18は、S含有量が多かったため、面疲労強度が劣った例である。
鋼19を使用した試験番号19は、C含有量が少なかったため、ビッカース硬さ、面疲労強度および耐摩耗性が劣った例である。
鋼20を使用した試験番号20は、Si含有量が多かったため、被削性が劣った例である。
鋼21を使用した試験番号21は、Si含有量が少なかったため、ビッカース硬さ、面疲労強度および耐摩耗性が劣った例である。
鋼22を使用した試験番号22は、Mn含有量が多かったため、耐組織変化特性が劣った例である。
鋼23を使用した試験番号23は、Cr含有量が多かったため、面疲労強度が劣った例である。
鋼24を使用した試験番号24は、V含有量が多かったため、被削性が劣った例である。

Claims (4)

  1. 化学組成が、質量%で、
    C:0.40~0.60%、
    Si:0.60~1.20%、
    Mn:0.20%以上、0.40%未満、
    Cr:0.20~1.60%、
    V:0.02~0.30%、
    S:0.001~0.040%、
    P:0.020%以下、
    O:0.0015%以下、
    Al:0.005~0.060%、
    N:0.0020~0.0080%、および
    Ca:0.0005~0.0050%
    を含有し、残部がFeおよび不純物からなり、且つ下記(1)式および下記(2)式を満足することを特徴とする高周波焼入れ窒化処理用鋼。
    C+Si/7+Mn/5+Cr/9+Mo/2.5≦1.100 ・・・ (1)
    (Cr+3×V)/Mn≧5.00 ・・・ (2)
    ただし、上記式中の元素記号は、当該元素の質量%での含有量を示し、当該元素を含有しない場合は0を代入する。
  2. 前記化学組成が、質量%で、
    Mo:0.80%以下、
    Ti:0.050%以下、
    B:0.0040%以下、
    Nb:0.050%以下、および
    Ni:0.3000%以下
    からなる群から選択される1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載の高周波焼入れ窒化処理用鋼。
  3. 化学組成が、質量%で、
    C:0.40~0.60%、
    Si:0.60~1.20%、
    Mn:0.20%以上、0.40%未満、
    Cr:0.20~1.60%、
    V:0.02~0.30%、
    S:0.001~0.040%、
    P:0.020%以下、
    O:0.0015%以下、
    Al:0.005~0.060%、
    N:0.0020~0.0080%、および
    Ca:0.0005~0.0050%
    を含有し、残部がFeおよび不純物からなり、且つ下記(3)式および下記(4)式を満足し、
    表面のビッカース硬さが750HV1以上であり、
    表面~「前記表面から深さ方向に0.50~2.00mm位置」の領域のビッカース硬さが550HV1以上であり、
    前記表面における残留応力が-400MPa以下であることを特徴とする高周波焼入れ窒化処理部品。
    C+Si/7+Mn/5+Cr/9+Mo/2.5≦1.100 ・・・ (3)
    (Cr+3×V)/Mn≧5.00 ・・・ (4)
    ただし、上記式中の元素記号は、当該元素の質量%での含有量を示し、当該元素を含有しない場合は0を代入する。
  4. 前記化学組成が、質量%で、
    Mo:0.80%以下、
    Ti:0.050%以下、
    B:0.0040%以下、
    Nb:0.050%以下、および
    Ni:0.3000%以下
    からなる群から選択される1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項3に記載の高周波焼入れ窒化処理部品。
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