JP7139692B2 - 高周波焼入れ用鋼、高周波焼入れ部品の素形材及び高周波焼入れ部品 - Google Patents

高周波焼入れ用鋼、高周波焼入れ部品の素形材及び高周波焼入れ部品 Download PDF

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Description

本発明は、高周波焼入れ用鋼、高周波焼入れ部品の素形材及び高周波焼入れ部品に関する。
ディファレンシャルギアに代表される動力伝達部品に用いられる機械構造用部品には、面疲労強度の向上及び曲げ疲労強度の向上を目的として、表面硬化処理が施される場合がある。
代表的な表面硬化処理として、浸炭処理、窒化処理及び高周波焼入れ処理がある。浸炭処理は、母材の表層を高炭素化することで表面硬化する。浸炭処理は主として、歯車、CVT(無段変速機)部品、及びCVJ(等速ジョイント)部品に適用される。浸炭処理は、ガス雰囲気中でのバッチ処理が主流であり、930℃近傍で数時間以上、加熱保持する。そのため、多くのエネルギーとコストとが費やされる。また、実操業においては、インライン化が困難であるという問題もあった。実操業においてはさらに、大型部品の場合、浸炭効率が低い、といった問題もあった。
一方、高周波焼入れは、必要な部位のみ硬化させることができる。そのため、表面硬化処理時間の短縮やエネルギーの低減が可能であり、環境のクリーン化にも非常に有利である。そのため、動力伝達部品に用いられる部品には、高周波焼入れが施される場合が多い。以下、高周波焼入れされた部品を、高周波焼入れ部品という。
動力伝達部品はまた、切削等の機械加工により製造される。そのため、高周波焼入れ部品の素形材である高周波焼入れ用鋼には、高い被削性も要求される。
特許文献1(特開2007―131871号公報)、特許文献2(特開2007-332440号公報)及び特許文献3(特開2004―156071号公報)は、高周波焼入れ鋼を開示する。
特許文献1の高周波焼入れ用鋼材は、質量%で、C:0.35~0.65%、Si:0.50%以下、Mn:0.65~2.00%、P:0.015%以下、S:0.003~0.080%、Mo:0.05~0.50%、Al:0.10%以下、N:0.0070%以下及びO(酸素):0.0020%以下を含有し、残部はFe及び不純物からなり、さらに、マルテンサイトが面積分率で70%以上を占める組織を有する。これにより高周波焼入れ用鋼材の強度が高まると、特許文献1には記載されている。
特許文献2の高周波焼入れ用鋼材は、質量%で、C:0.35~0.6%、Si:0.01~1.0%、Mn:0.2~1.8%、S:0.001~0.15%、Al:0.001~0.05%、N:0.002~0.020%、P:0.025%以下、O:0.0025%以下を含有し、さらに、Cr:1.8%以下、Mo:1.5%以下、Ni:3.5%以下、B:0.006%以下、V:0.5%以下、Nb:0.04%以下、Ti:0.2%以下、の1種又は2種以上を含有し、残部が鉄及び不可避的不純物からなり、高周波焼入れ処理後において硬化層硬さがHV550以上であり、芯部のフェライト体積分率が50%以下であり、式で定義される指標Aが-11以上である。これにより低サイクル疲労特性が高まると、特許文献2には記載されている。
特許文献3の高周波焼入れ用成形部品は、質量%で、C:0.5~0.7%、Si:0.1~1.5%、Mn:0.2~1.5%、Cr:0~1.5%、V:0~0.10%、S:0.002~0.05%、Al:0.01~0.04%、N:0.005~0.012%を含有し、残部はFe及び不純物からなり、不純物中のTiが0.003%以下、Oが0.0015%以下、Pが0.020%以下である成形部品であって、表層領域において、初析フェライトの平均短径が8μm以下で、A=(MnMIN/MnAVE)(MnMIN:表層領域におけるMn濃度の下限値(質量%)、MnAVE:Mn濃度の平均値(質量%))で表されるA値が0.80以上であり、アスペクト比が3以下で、且つ短径が10μm以上であるMnS以外の介在物の個数が2個/mm以下である。これにより、転動疲労寿命が優れると、特許文献3には記載されている。
特開2007―131871号公報 特開2007-332440号公報 特開2004―156071号公報
しかしながら、特許文献1では、マルテンサイトの面積分率が70%以上であるため、加工性、特に被削性が低い。
特許文献2では、表面硬さが直接的に効く面疲労強度などの高サイクル疲労強度は必ずしも上昇しない。さらには、前組織にベイナイトを含み、高周波焼入れ前組織を代表する芯部硬さが高く、被削性が低い。
特許文献3では、合金元素添加の上限規定が高く、素材硬さが高まる。その結果、被削性が低い可能性がある。
また、従来の高周波焼入れ部品では、高周波焼入れされた焼入れ部の平均硬さは高いものの、局所的に硬さの低い部位が存在している。この場合、硬さの低い部位が破壊起点となることにより、面疲労強度及び回転曲げ疲労強度が低下する事象が多く認められた。この事象は高周波焼入れ部品における特異な事象であり、特許文献1~特許文献3のいずれの方法を用いても解決する事ができない。
本発明の目的は、被削性に優れ、かつ高周波焼入れ後の局所的な硬さ低下を抑制することによって、高い面疲労強度及び曲げ疲労強度を有する高周波焼入れ用鋼、高周波焼入れ部品の素形材及び高周波焼入れ部品を提供することである。
本実施形態による高周波焼入れ用鋼は、質量%で、C:0.40~0.70%、Si:0.15~2.10%、Mn:0.30~1.15%、Cr:0.01~0.50%未満、S:0.005~0.070%、N:0.0020~0.0200%、Al:0.005~0.100%、P:0.050%未満、Mo:0~1.00%、Ni:0~1.00%、Cu:0~1.00%、Ca:0~0.005%、Mg:0~0.005%、Te:0~0.2000%、Zr:0~0.0050%、希土類元素:0~0.0050%、Ti:0~0.200%、Nb:0~0.200%、V:0~0.35%、Sb:0~0.0150%、Pb:0~0.5000%、及び、残部:Fe及び不純物、からなり、式(1)~式(4)を満たす化学組成を有し、フェライト体積分率は40%以下である。
290C+50Si+430≧631.0 (1)
C+(1/7)Si+(1/5)Mn+(1/9)Cr+V+(1/25)Mo≦0.900 (2)
(1+0.7Si)×(1+3.3333Mn)×(1+2.16Cr)×(1+3.00Mo)×(1+1.73V)×(1+0.365Cu)×(1+0.363Ni)≧3.80 (3)
9.7Mnθ+32.4Crθ≦25.9 (4)
ここで、式(1)~式(3)中の各元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。式(4)中のMnθにはセメンタイト中のMnの濃度(質量%)が代入され、式(4)中のCrθにはセメンタイト中のCrの濃度(質量%)が代入される。
本実施形態による高周波焼入れ部品の素形材は、質量%で、C:0.40~0.70%、Si:0.15~2.10%、Mn:0.30~1.15%、Cr:0.01~0.50%未満、S:0.005~0.070%、N:0.0020~0.0200%、Al:0.005~0.100%、P:0.050%未満、Mo:0~1.00%、Ni:0~1.00%、Cu:0~1.00%、Ca:0~0.005%、Mg:0~0.005%、Te:0~0.2000%、Zr:0~0.0050%、希土類元素:0~0.0050%、Ti:0~0.200%、Nb:0~0.200%、V:0~0.35%、Sb:0~0.0150%、Pb:0~0.5000%、及び、残部:Fe及び不純物、からなり、式(1)~式(4)を満たす化学組成を有し、フェライト体積分率は40%以下である。
290C+50Si+430≧631.0 (1)
C+(1/7)Si+(1/5)Mn+(1/9)Cr+V+(1/25)Mo≦0.900 (2)
(1+0.7Si)×(1+3.3333Mn)×(1+2.16Cr)×(1+3.00Mo)×(1+1.73V)×(1+0.365Cu)×(1+0.363Ni)≧3.80 (3)
9.7Mnθ+32.4Crθ≦25.9 (4)
ここで、式(1)~式(3)中の各元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。式(4)中のMnθにはセメンタイト中のMnの濃度(質量%)が代入され、式(4)中のCrθにはセメンタイト中のCrの濃度(質量%)が代入される。
本実施形態による高周波焼入れ部品は、高周波焼入れが実施された部分である焼入れ部と、高周波焼入れが実施されていない部分である未焼入れ部と、を含む。焼入れ部において、マルテンサイト体積分率は90%以上である。未焼入れ部は、質量%で、C:0.40~0.70%、Si:0.15~2.10%、Mn:0.30~1.15%、Cr:0.01~0.50%未満、S:0.005~0.070%、N:0.0020~0.0200%、Al:0.005~0.100%、P:0.050%未満、Mo:0~1.00%、Ni:0~1.00%、Cu:0~1.00%、Ca:0~0.005%、Mg:0~0.005%、Te:0~0.2000%、Zr:0~0.0050%、希土類元素:0~0.0050%、Ti:0~0.200%、Nb:0~0.200%、V:0~0.35%、Sb:0~0.0150%、Pb:0~0.5000%、及び、残部:Fe及び不純物、からなり、式(1)~式(4)を満たす化学組成を有す。未焼入れ部において、フェライト体積分率は40%以下である。
290C+50Si+430≧631.0 (1)
C+(1/7)Si+(1/5)Mn+(1/9)Cr+V+(1/25)Mo≦0.900 (2)
(1+0.7Si)×(1+3.3333Mn)×(1+2.16Cr)×(1+3.00Mo)×(1+1.73V)×(1+0.365Cu)×(1+0.363Ni)≧3.80 (3)
9.7Mnθ+32.4Crθ≦25.9 (4)
ここで、式(1)~式(3)中の各元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。式(4)中のMnθにはセメンタイト中のMnの濃度(質量%)が代入され、式(4)中のCrθにはセメンタイト中のCrの濃度(質量%)が代入される。
本発明の高周波焼入れ用鋼、高周波焼入れ部品の素形材及び高周波焼入れ部品は、被削性に優れ、かつ高周波焼入れ後の局所的な硬さ低下を抑制することによって、高い面疲労強度及び曲げ疲労強度を有する。
図1は、実施例で作製したローラーピッチング試験片の平面図である。 図2は、ローラーピッチング試験の模式図である。 図3は、実施例で作製した小野式回転曲げ疲労試験片の側面図である。
高周波焼入れ部品の面疲労強度及び曲げ疲労強度を高めるためには、C含有量を高めればよい。たとえば、C含有量が0.40質量%以上であれば、高い面疲労強度及び曲げ疲労強度が得られる。しかしながら、C含有量を高めれば、切削前の高周波焼入れ用鋼の硬さが高くなり、被削性が低下する。
そこで、本発明者らは、高周波焼入れ用鋼において、面疲労強度及び曲げ疲労強度と被削性とを高いレベルで両立するために種々検討を行った。その結果、以下の知見を得た。
[面疲労強度及び曲げ疲労強度について]
本発明者らは、面疲労強度及び曲げ疲労強度についてさらに調査した。その結果、以下の知見を得た。
(a)高周波焼入れ部品表面の硬度は、鋼中のC含有量及びSi含有量と相関がある。また、高周波焼入れ部品表面の硬度が高いほど、面疲労強度が高まる。そのため、本発明者らは、鋼中のC含有量及びSi含有量と、面疲労強度との関係について種々調査を行った。その結果、鋼中のC含有量及びSi含有量が式(1)を満たせば、面疲労強度を高めることができることを見出した。
290C+50Si+430≧631.0 (1)
ここで、式(1)中の各元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。
FN1=290C+50Si+430と定義する。本発明者らは、FN1の値が、高周波焼入れ後300℃で焼戻した高周波焼入れ部品の表面のビッカース硬度にほぼ相当するものになることを見出した。
また、ローラーピッチング疲労試験での高周波焼入れ部品の面疲労強度は、300℃焼戻し硬さと正の相関があることが一般に知られている。ローラーピッチング疲労試験での面疲労強度と300℃焼戻し後のビッカース硬度との関係を調査したところ、300℃焼戻し後のビッカース硬度が631.0Hv以上の場合に、面疲労強度が満足できるものになることが分かった。すなわち、FN1が631.0以上であれば、面疲労強度が満足できるものとなる。一方、FN1の値が631.0未満では、面疲労強度が低下し、ピッチングが生じるおそれがある。
(b)高周波焼入れ部品が不完全焼入れ組織を含む場合には、局所的に硬さが低い部位がある。この場合、完全な焼入れ組織が得られた場合に比べて、面疲労強度及び曲げ疲労強度が低下する。不完全焼入れ組織を抑制するため、焼入れ性に関連するSi、Mn、Cr、Mo、V、Cu及びNiの含有量を適正な範囲に限定する必要がある。そのため、本発明者らは、これらの元素と、面疲労強度及び曲げ疲労強度との関係について種々調査を行った。その結果、これらの元素の含有量が式(3)を満たせば、不完全焼入れ組織の生成を抑制し、面疲労強度及び曲げ疲労強度を高めることができることを見出した。
(1+0.7Si)×(1+3.3333Mn)×(1+2.16Cr)×(1+3.00Mo)×(1+1.73V)×(1+0.365Cu)×(1+0.363Ni)≧3.80 (3)
ここで、式(3)中の各元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。
FN3=(1+0.7Si)×(1+3.3333Mn)×(1+2.16Cr)×(1+3.00Mo)×(1+1.73V)×(1+0.365Cu)×(1+0.363Ni)と定義する。FN3は、高周波焼入れ用鋼の焼入れ性の指標である。FN3が大きいほど焼入れ性が高まる。FN3と、高周波焼入れ時に発生する不完全焼入れ組織との関係を調査したところ、FN3が3.80以上になれば、高周波焼入れ時の不完全焼入れ組織が発生しないことが分かった。つまり、FN3が3.80以上であれば、高周波焼入れ時の不完全焼入れ組織の発生を抑制できる。一方、FN3が3.80未満の場合には、焼入れ性が低下し、不完全焼入れ組織が生じるおそれがある。
[被削性について]
高周波焼入れ前の鋼の硬さにはC、Si、Mn、Cr、V及びMoの含有量が影響する。また、鋼の硬さがある限界値を超えると、被削性が極端に低下する。したがって、良好な被削性を確保するためには、鋼の硬さを適正な範囲に制御する必要がある。そのため、本発明者らは、C、Si、Mn、Cr、V及びMoの含有量と被削性との関係について種々調査を行った。その結果、これらの元素の含有量が式(2)を満たせば、被削性を高めることができることを見出した。
C+(1/7)Si+(1/5)Mn+(1/9)Cr+V+(1/25)Mo≦0.900 (2)
ここで、式(2)中の各元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。
FN2=C+(1/7)Si+(1/5)Mn+(1/9)Cr+V+(1/25)Moと定義する。FN2は、高周波焼入れ用鋼の硬さの指標である。FN2が限界値を超えると、被削性が極端に低下する。FN2と被削性との関係を調査したところ、FN2が0.900以下であれば、良好な被削性を満足できることが判明した。つまり、FN2が0.900以下であれば、良好な被削性を得ることができる。一方、FN2が0.900を超えると、被削性が極端に低下する。FN2の好ましい上限は、0.890である。
[高周波焼入れ部品表面の硬さのばらつきについて]
しかしながら、上記の式(1)~式(3)を満たしても、まだ面疲労強度及び曲げ疲労強度が低い場合があった。そこで、本発明者らは、さらに面疲労強度及び曲げ疲労強度を高める方法について、種々検討を行った。
面疲労強度及び曲げ疲労強度が低い高周波焼入れ用部品について調査してみると、高周波焼入れを実施した焼入れ部の中でも、硬さにばらつきがあることが分かった。高周波焼入れ用部品において、局所的に硬さが低い部位(以下、硬さばらつきともいう)があれば、面疲労強度及び曲げ疲労強度が低下する。この理由は、硬さばらつきがあれば、硬さが低い部位を起点として、破壊が発生するからであると、本発明者らは考えた。
そこで、本発明者らは、面疲労強度及び曲げ疲労強度を高めるために、高周波焼入れ用部品の硬さばらつきを抑制する方法についてさらに検討を行った。その結果、硬い部分にはセメンタイトが溶け残っていることがわかった。さらに、硬い部分のセメンタイトを調べたところ、Mn濃度及びCr濃度が高いことがわかった。
本発明者らがさらに調査したところ、質量%で、C:0.40~0.70%、Si:0.15~2.10%、Mn:0.30~1.15%、Cr:0.01~0.50%未満、S:0.005~0.070%、N:0.0020~0.0200%、Al:0.005~0.100%、P:0.050%未満、Mo:0~1.00%、Ni:0~1.00%、Cu:0~1.00%、Ca:0~0.005%、Mg:0~0.005%、Te:0~0.2000%、Zr:0~0.0050%、希土類元素:0~0.0050%、Ti:0~0.200%、Nb:0~0.200%、V:0~0.35%、Sb:0~0.0150%、Pb:0~0.5000%、及び、残部:Fe及び不純物、からなる化学組成を有する高周波焼入れ用鋼において、セメンタイト中にMn及びCrが存在する場合、セメンタイトが固溶するのに必要な温度(溶体化温度)を高めることが分かった。
そこで本発明者らは、硬さばらつきは、高周波加熱時の固溶C量のばらつきにより発生すると考えた。具体的には、次のとおりである。浸炭処理等で行う炉加熱の場合、高温での加熱を長時間行うため、化学組成の平衡状態図に示される平衡状態となり、セメンタイトを完全に固溶させることができる。これにより、固溶C量のばらつきを抑制できる。しかしながら、高周波加熱時焼入れでの加熱は、炉加熱に比べ、ごく短時間であり、非平衡状態である。そのため、高周波加熱後にセメンタイトが溶け残り、固溶C量がばらつく。その結果、硬さばらつきが発生する。
高周波加熱中の固溶C量には、高周波焼入れ用鋼中のセメンタイトの溶体化温度が影響する。セメンタイト中のMn及びCrは、セメンタイトの溶体化温度を高める。セメンタイト中にMn及びCrが含有される場合、高周波加熱後にもセメンタイトが溶け残り、高周波焼入れ部品表面に硬さばらつきが発生する。
以上の知見から、セメンタイト中のMn濃度及びCr濃度を適切な範囲内に抑えることで、高周波焼入れ部品表面の硬さばらつきを抑制することができると、本発明者らは考えた。
上述のとおり、高周波焼入れ部品表面の硬さばらつきは、面疲労強度及び曲げ疲労強度と相関する。そのため、本発明者らは、高周波焼入れ用鋼において、セメンタイト中のMn濃度及びCr濃度と面疲労強度及び曲げ疲労強度との関係について種々調査を行った。その結果、セメンタイト中のMn濃度及びCr濃度が式(4)を満たせば、高周波焼入れ部品表面の硬さばらつきを抑制し、面疲労強度及び曲げ疲労強度を高めることができることを見出した。
9.7Mnθ+32.4Crθ≦25.9 (4)
ここで、式(4)中のMnθにはセメンタイト中のMnの濃度(質量%)が代入され、式(4)中のCrθにはセメンタイト中のCrの濃度(質量%)が代入される。
FN4=9.7Mnθ+32.4Crθと定義する。FN4は、セメンタイトの溶体化温度の指標である。FN4が大きいほど、溶体化温度が高まる。つまり、高周波焼入れ後にもセメンタイトが溶け残りやすくなり、硬さばらつきが発生しやすくなる。FN4が25.9を超えれば、高周波焼入れ後に未溶解のセメンタイトが残存する。その結果、硬さばらつきが発生する。
さらに、高周波加熱中の固溶C量には、高周波焼入れ用鋼のフェライト体積分率が影響する。高周波焼入れでは、熱処理時間が短いため、Cの拡散時間も短くなる。そのため、炭化物が溶ける時間も短くなる。その結果、フェライト体積分率が高くなりやすい。しかしながら、フェライト体積分率が高すぎると、高周波焼入れ後の組織にフェライトが残存する。フェライト体積分率が高すぎるとさらに、低炭素マルテンサイトの生成が発生する。これらにより、極端な硬さばらつきが発生する。そこで、本発明者らはさらに、高周波焼入れ用鋼のフェライト体積分率と、面疲労強度及び曲げ疲労強度との関係について種々調査を行った。その結果、フェライト体積分率が40%以下であれば、高周波焼入れ部品表面の硬さばらつきを抑制し、面疲労強度及び曲げ疲労強度を高めることができることを見出した。
フェライト体積分率が40%を超えれば、高周波焼入れ後の表層組織にフェライトが残存する。フェライト体積分率が40%を超えればさらに、高周波焼入れ後の組織に低炭素マルテンサイトが生成する。これらの場合、硬さが極端に低い部位を生成し、硬さバラツキが発生する。
以上より、被削性を高め、かつ、硬さばらつきを抑制して、高周波焼入れ後の部品の面疲労強度及び曲げ疲労強度を高めるためには、C及Siの各含有量の関係を適正な値とし、かつ、適正な焼入れ性を確保するため、C、Si、Mn、Cr、Mo、V、Cu、Niの含有量を適正な範囲とし、かつ、フェライト体積分率を適正な範囲に限定し、かつ、セメンタイト中のMn濃度及びCr濃度を適正な値とし、かつ、素材硬さに関連するC、Si、Mn、Cr、V、Moの含有量を適正な範囲とすることが好ましいことを知見した。
以上の知見により完成した本実施形態による高周波焼入れ用鋼は、質量%で、C:0.40~0.70%、Si:0.15~2.10%、Mn:0.30~1.15%、Cr:0.01~0.50%未満、S:0.005~0.070%、N:0.0020~0.0200%、Al:0.005~0.100%、P:0.050%未満、Mo:0~1.00%、Ni:0~1.00%、Cu:0~1.00%、Ca:0~0.005%、Mg:0~0.005%、Te:0~0.2000%、Zr:0~0.0050%、希土類元素:0~0.0050%、Ti:0~0.200%、Nb:0~0.200%、V:0~0.35%、Sb:0~0.0150%、Pb:0~0.5000%、及び、残部:Fe及び不純物、からなり、式(1)~式(4)を満たす化学組成を有し、フェライト体積分率は40%以下である。
290C+50Si+430≧631.0 (1)
C+(1/7)Si+(1/5)Mn+(1/9)Cr+V+(1/25)Mo≦0.900 (2)
(1+0.7Si)×(1+3.3333Mn)×(1+2.16Cr)×(1+3.00Mo)×(1+1.73V)×(1+0.365Cu)×(1+0.363Ni)≧3.80 (3)
9.7Mnθ+32.4Crθ≦25.9 (4)
ここで、式(1)~式(3)中の各元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。式(4)中のMnθにはセメンタイト中のMnの濃度(質量%)が代入され、式(4)中のCrθにはセメンタイト中のCrの濃度(質量%)が代入される。
上記高周波焼入れ用鋼の化学組成は、Mo:0.01~1.00%、Ni:0.05~1.00%、及びCu:0.05~1.00%からなる群から選択される1種又は2種以上を含有してもよい。
上記高周波焼入れ用鋼の化学組成は、Ca:0.0003~0.005%、Mg:0.0003~0.005%、Te:0.0003~0.2000%、Zr:0.0003~0.0050%、及び、希土類元素:0.0003~0.0050%からなる群から選択される1種又は2種以上を含有してもよい。
上記高周波焼入れ用鋼の化学組成は、Ti:0.005~0.200%、Nb:0.005~0.200%、及び、V:0.005~0.35%からなる群から選択される1種又は2種以上を含有してもよい。
上記高周波焼入れ用鋼の化学組成は、Sb:0.0003~0.0150%、及び、Pb:0.0100~0.5000%からなる群から選択される1種以上を含有してもよい。
本実施形態による高周波焼入れ部品の素形材は、質量%で、C:0.40~0.70%、Si:0.15~2.10%、Mn:0.30~1.15%、Cr:0.01~0.50%未満、S:0.005~0.070%、N:0.0020~0.0200%、Al:0.005~0.100%、P:0.050%未満、Mo:0~1.00%、Ni:0~1.00%、Cu:0~1.00%、Ca:0~0.005%、Mg:0~0.005%、Te:0~0.2000%、Zr:0~0.0050%、希土類元素:0~0.0050%、Ti:0~0.200%、Nb:0~0.200%、V:0~0.35%、Sb:0~0.0150%、Pb:0~0.5000%、及び、残部:Fe及び不純物、からなり、式(1)~式(4)を満たす化学組成を有し、フェライト体積分率は40%以下である。
290C+50Si+430≧631.0 (1)
C+(1/7)Si+(1/5)Mn+(1/9)Cr+V+(1/25)Mo≦0.900 (2)
(1+0.7Si)×(1+3.3333Mn)×(1+2.16Cr)×(1+3.00Mo)×(1+1.73V)×(1+0.365Cu)×(1+0.363Ni)≧3.80 (3)
9.7Mnθ+32.4Crθ≦25.9 (4)
ここで、式(1)~式(3)中の各元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。式(4)中のMnθにはセメンタイト中のMnの濃度(質量%)が代入され、式(4)中のCrθにはセメンタイト中のCrの濃度(質量%)が代入される。
上記高周波焼入れ部品の素形材の化学組成は、Mo:0.01~1.00%、Ni:0.05~1.00%、及びCu:0.05~1.00%からなる群から選択される1種又は2種以上を含有してもよい。
上記高周波焼入れ部品の素形材の化学組成は、Ca:0.0003~0.005%、Mg:0.0003~0.005%、Te:0.0003~0.2000%、Zr:0.0003~0.0050%、及び、希土類元素:0.0003~0.0050%からなる群から選択される1種又は2種以上を含有してもよい。
上記高周波焼入れ部品の素形材の化学組成は、Ti:0.005~0.200%、Nb:0.005~0.200%、及び、V:0.005~0.35%からなる群から選択される1種又は2種以上を含有してもよい。
上記高周波焼入れ部品の素形材の化学組成は、Sb:0.0003~0.0150%、及び、Pb:0.0100~0.5000%からなる群から選択される1種以上を含有してもよい。
本実施形態による高周波焼入れ部品は、高周波焼入れが実施された部分である焼入れ部と、高周波焼入れが実施されていない部分である未焼入れ部と、を含む。焼入れ部において、マルテンサイト体積分率が90%以上である。未焼入れ部は、質量%で、C:0.40~0.70%、Si:0.15~2.10%、Mn:0.30~1.15%、Cr:0.01~0.50%未満、S:0.005~0.070%、N:0.0020~0.0200%、Al:0.005~0.100%、P:0.050%未満、Mo:0~1.00%、Ni:0~1.00%、Cu:0~1.00%、Ca:0~0.005%、Mg:0~0.005%、Te:0~0.2000%、Zr:0~0.0050%、希土類元素:0~0.0050%、Ti:0~0.200%、Nb:0~0.200%、V:0~0.35%、Sb:0~0.0150%、Pb:0~0.5000%、及び、残部:Fe及び不純物、からなり、式(1)~式(4)を満たす化学組成を有す。未焼入れ部において、フェライト体積分率は40%以下である。
290C+50Si+430≧631.0 (1)
C+(1/7)Si+(1/5)Mn+(1/9)Cr+V+(1/25)Mo≦0.900 (2)
(1+0.7Si)×(1+3.3333Mn)×(1+2.16Cr)×(1+3.00Mo)×(1+1.73V)×(1+0.365Cu)×(1+0.363Ni)≧3.80 (3)
9.7Mnθ+32.4Crθ≦25.9 (4)
ここで、式(1)~式(3)中の各元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。式(4)中のMnθにはセメンタイト中のMnの濃度(質量%)が代入され、式(4)中のCrθにはセメンタイト中のCrの濃度(質量%)が代入される。
上記高周波焼入れ部品の化学組成は、Mo:0.01~1.00%、Ni:0.05~1.00%、及びCu:0.05~1.00%からなる群から選択される1種又は2種以上を含有してもよい。
上記高周波焼入れ部品の化学組成は、Ca:0.0003~0.005%、Mg:0.0003~0.005%、Te:0.0003~0.2000%、Zr:0.0003~0.0050%、及び、希土類元素:0.0003~0.0050%からなる群から選択される1種又は2種以上を含有してもよい。
上記高周波焼入れ部品の化学組成は、Ti:0.005~0.200%、Nb:0.005~0.200%、及び、V:0.005~0.35%からなる群から選択される1種又は2種以上を含有してもよい。
上記高周波焼入れ部品の化学組成は、Sb:0.0003~0.0150%、及び、Pb:0.0100~0.5000%からなる群から選択される1種以上を含有してもよい。
本発明の高周波焼入れ用鋼、高周波焼入れ部品の素形材及び高周波焼入れ部品は、被削性に優れ、かつ高周波焼入れ後の局所的な硬さ低下を抑制することによって、優れた面疲労強度及び曲げ疲労強度特性を有する。
以下、高周波焼入れ用鋼、高周波焼入れ部品の素形材及び高周波焼入れ部品について詳述する。元素に関する「%」は、特に断りがない限り、質量%を意味する。
本実施形態において、高周波焼入れ用鋼とは、高周波焼入れ部品を得るために高周波焼入れに供される素材を指す。素材は焼きならしを実施したものであってもよい。また、高周波焼入れ部品の素形材とは、高周波焼入れ用鋼を熱間鍛造して、高周波焼入れ部品の粗形状に加工したものである。また、高周波焼入れ部品とは、高周波焼入れ用鋼に高周波焼入れ(ただし、高周波焼入れ後に焼戻ししても良い)を施したものを指す。高周波焼入れ部品は、高い面疲労強度や曲げ疲労強度が要求される部品を想定している。高周波焼入れ部品はたとえば、自動車用の動力伝達に使用されるディファレンシャルギアである。本実施形態による高周波焼入れ部品は、本実施形態の高周波焼入れ用鋼に対して、最高加熱温度が850~1100℃である高周波焼入れを施して得られる。
高周波焼入れ部品は、焼入れ部と、未焼入れ部とを含む。
焼入れ部とは、高周波焼入れ時に加熱した部位のことである。焼入れ部において、マルテンサイト体積分率が90%以上である。
未焼入れ部とは高周波焼入れ部品において、高周波焼入れ時の加熱の影響を受けていない部位のことであり、フェライトパーライトを主体とした組織からなるため、フェライト体積分率が40%以下であり、ビッカース硬さで350Hv以下の部位を指す。
[高周波焼き入れ用鋼について]
[化学組成]
本実施形態の高周波焼入れ用鋼の化学組成は、次の元素を含有する。
C:0.40~0.70%
炭素(C)は、鋼の曲げ疲労強度及び面疲労強度を高める。Cはさらに、高周波焼入れ前の組織においてフェライト体積分率を低減し、高周波焼入れ時の硬化能を向上させて、硬化層深さを大きくする。C含有量が0.40%未満であれば、これらの効果が得られない。一方、C含有量が0.70%を超えれば、被削性や鍛造性を著しく害するだけでなく、高周波焼入れ時に焼割れの発生する可能性が大きくなる。したがって、C含有量は0.40~0.70%である。C含有量の好ましい下限は0.45%であり、さらに好ましくは0.50%である。C含有量の好ましい上限は0.68%である。
Si:0.15~2.10%
シリコン(Si)は、表面硬化層の焼戻し軟化抵抗を高め、焼入れ後の面疲労強度を高める。Si含有量が0.15%未満であれば、この効果が得られない。一方、Si含有量が2.10%を超えた場合、鍛造時や高周波焼入れ時の脱炭が著しくなる。脱炭が発生した場合、面疲労強度や曲げ疲労強度が低下する。したがって、Si含有量は0.15~2.10%である。Si含有量の好ましい下限は0.50%である。Si含有量の好ましい上限は1.95%である。
Mn:0.30~1.15%
マンガン(Mn)は、鋼の焼入れ性を高める。Mnはさらに、鋼中の硫黄(S)と結合してMnSを形成し、鋼中のSを無害化する。これにより、熱間延性が確保される。Mn含有量が0.30%未満であれば、これらの効果が得られない。一方、Mn含有量が1.15%を超えれば、素材が硬くなりすぎて、鋼の被削性が低下する。Mn含有量が1.15%を超えればさらに、セメンタイト中に固溶して、セメンタイトの溶体化温度を高める。これにより、過固溶の場合には高周波焼入れでセメンタイトが溶け残り、硬さばらつきが発生する。したがって、Mn含有量は0.30~1.15%である。Mn含有量の好ましい下限は0.40%であり、さらに好ましくは0.50%であり、さらに好ましくは0.60%であり、さらに好ましくは0.75%である。Mn含有量の好ましい上限は1.10%以下であり、さらに好ましくは1.00%以下である。
Cr:0.01~0.50%未満
クロム(Cr)は、鋼の焼入れ性を高める。Crはさらに、鋼の熱間延性を高める。Cr含有量が0.01%未満であれば、これらの効果が得られない。一方、Cr含有量が0.50%以上であれば、セメンタイト中に固溶するCr濃度が高くなり、セメンタイトの溶体化温度を上昇する。その結果、未固溶セメンタイトを生成する。未固溶セメンタイトが存在すると、高周波焼入れ後の硬さばらつきの原因になる固溶C量不足や不完全焼入れ組織を発生する。その結果、面疲労強度が低下する。また、他の合金元素とのバランスで式(2)の範囲を超える場合には、素材硬さが高くなり、被削性が低下する。したがって、Cr含有量は、0.01~0.50%未満である。鋼の焼入れ性及び引張強度を高める場合、Cr含有量の好ましい下限は、0.03%であり、さらに好ましくは、0.10%である。面疲労強度をさらに高める場合、Cr含有量の好ましい上限は0.40%であり、さらに好ましくは0.30%であり、さらに好ましくは0.20%であり、さらに好ましくは、0.15%である。
S:0.005~0.070%
硫黄(S)は鋼中のMnと結合してMnSを形成し、鋼の被削性を高める。S含有量が0.005%以下であれば、この効果が得られない。一方、S含有量が0.070%を超えれば、鋼の曲げ疲労強度が低下する。S含有量が0.070%を超えればさらに、高周波焼入れ後の熱間鍛造品に対して磁粉探傷試験を実施する場合、熱間鍛造品の表面に擬似模様が発生しやすくなる。したがって、S含有量は、0.005%~0.070%である。鋼の被削性を高める場合、S含有量の好ましい下限は0.010%であり、さらに好ましくは、0.015%である。S含有量の好ましい上限は、0.050%であり、さらに好ましくは、0.030%である。
N:0.0020~0.0200%
窒素(N)は、鋼中のAl等の窒化物生成元素と結合して窒化物を形成する。これにより、高周波焼入れ時のオーステナイト組織を細粒化する。その結果、曲げ疲労強度を高める。N含有量が0.0020%未満であれば、この効果が得られない。一方、N含有量が0.0200%を超えれば、鋼の熱間延性を著しく低下させる。したがって、N含有量は、0.0020~0.0200%である。鋼の結晶粒粗大化抑制による整粒を得る場合、N含有量の好ましい下限は0.0040%であり、さらに好ましくは0.0060であり、さらに好ましくは0.0080%である。N含有量の好ましい上限は、0.010%である。
Al:0.005~0.100%
アルミニウム(Al)は、窒化物として鋼中に析出分散することにより、高周波焼入れ時のオーステナイト組織の細粒化する。Alはさらに、焼入れ性を高めて、硬化層深さを大きくする。Alはさらに、被削性を高める。Alはさらに、窒化時にNと化合物を形成し、表層部のN濃度を高める。これにより、面疲労強度を高める。Al含有量が0.005%未満の場合、これらの効果が得られない。一方、Al含有量が0.100%を超えれば、高周波加熱時にオーステナイトへの変態が完了しにくく、焼入れ性が低下する。したがって、Al含有量は0.005~0.100%である。Al含有量の好ましい下限は、0.010%である。Al含有量の好ましい上限は、0.010%である。
P:0.050%未満
燐(P)は不可避に含有される不純物である。つまり、P含有量は0%超である。P含有量が0.050%以上であれば、靭性が低下する。P含有量が0.050%以上であればさらに、き裂伝播が促進し、曲げ疲労強度が低下する。したがって、P含有量は0.050%未満である。P含有量の好ましい上限は0.040%である。P含有量はなるべく低い方が好ましい。ただし、脱燐処理は時間とコストが掛かるため、工業生産性を考慮すれば、P含有量の好ましい下限は0.0001%である。
本実施形態による高周波焼入れ用鋼の化学組成の残部は、Fe及び不純物からなる。ここで、不純物とは、上記高周波焼入れ用鋼を工業的に製造する際に、原料としての鉱石、スクラップ、又は製造環境などから混入されるものを意味する。
[任意元素について]
本実施形態の高周波焼入れ用鋼はさらに、Feの一部に代えて、Mo、Ni、及び、Cuからなる群から選択される1種又は2種以上を含有してもよい。
Mo:0~1.00%
モリブデン(Mo)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Mo含有量は0%であってもよい。含有される場合、Moは、焼入れ層の焼戻し軟化抵抗を高める。その結果、面疲労強度が高まる。Moはさらに、焼入れ層を強靭化する。その結果、曲げ疲労強度が高まる。しかしながら、Mo含有量が1.00%を超えれば、上記の効果が飽和し、経済性が損なわれる。したがって、Mo含有量は、0~1.00%である。Mo含有量の好ましい下限は0.01%であり、さらに好ましくは0.05%である。Mo含有量の好ましい上限は0.30%であり、さらに好ましくは0.25%である。
Ni:0~1.00%
ニッケル(Ni)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Ni含有量は0%であってもよい。含有される場合、Niは、酸化する際に高周波焼入れ用鋼の表面に濃化し、後続の酸化反応を抑制する。しかしながら、Ni含有量が1.00%を超えれば、被削性が低下する。したがって、Ni含有量は、0~1.00%である。Ni含有量の好ましい下限は0.05%であり、さらに好ましくは0.10%である。Ni含有量の好ましい上限は0.80%であり、さらに好ましくは0.60%である。
Cu:0~1.00%
銅(Cu)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Cu含有量は0%であってもよい。含有される場合、Cuは、酸化する際に高周波焼入れ用鋼の表面に濃化し、後続の酸化反応を抑制する。しかしながら、Cu含有量が1.00%を超えれば、機械的性質の点では効果が飽和する。Cu含有量が1.00%を超えればさらに、熱間延性が低下するため、圧延時に疵が形成されやすくなる。したがって、Cu含有量は、0~1.00%である。Cu含有量の好ましい下限は0.05%であり、さらに好ましくは0.10%である。Cu含有量の好ましい上限は0.80%であり、さらに好ましくは0.60%である。
本実施形態の高周波焼入れ用鋼はさらに、Feの一部に代えて、Ca、Mg、Te、Zr、及び、希土類元素からなる群から選択される1種又は2種以上を含有してもよい。
Ca:0~0.005%
カルシウム(Ca)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Ca含有量は0%であってもよい。含有される場合、Caは、圧延時にMnSが延伸するのを抑制する。その結果、曲げ疲労強度が高まる。しかしながら、Ca含有量が0.005%を超えれば、その効果が飽和する。Ca含有量が0.005%を超えればさらに、熱間延性が低下する。したがって、Ca含有量は、0~0.005%である。Ca含有量の好ましい下限は0.0003%であり、さらに好ましくは0.0005%である。Ca含有量の好ましい上限は0.0030%であり、さらに好ましくは0.0025%である。
Mg:0~0.005%
マグネシウム(Mg)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Mg含有量は0%であってもよい。含有される場合、Mgは、圧延時にMnSが延伸するのを抑制する。その結果、曲げ疲労強度が高まる。しかしながら、Mg含有量が0.005%を超えれば、その効果が飽和する。Mg含有量が0.005%を超えればさらに、熱間延性が低下する。したがって、Mg含有量は、0~0.005%である。Mg含有量の好ましい下限は0.0003%であり、さらに好ましくは0.0005%である。Mg含有量の好ましい上限は0.0030%であり、さらに好ましくは0.0025%である。
Te:0~0.2000%
テルル(Te)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Te含有量は0%であってもよい。含有される場合、Teは、圧延時にMnSが延伸するのを抑制する。その結果、曲げ疲労強度が高まる。しかしながら、Te含有量が0.2000%を超えれば、その効果が飽和する。Te含有量が0.2000%を超えればさらに、熱間延性が低下する。したがって、Te含有量は、0~0.2000%である。Te含有量の好ましい下限は0.0003%であり、さらに好ましくは0.05%である。Te含有量の好ましい上限は0.15%であり、さらに好ましくは0.10%である。
Zr:0~0.0050%
ジルコニウム(Zr)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Te含有量は0%であってもよい。含有される場合、Zrは、窒化物として鋼中に析出分散することにより、高周波焼入れ時のオーステナイト組織を細粒化する。しかしながら、Zr含有量が0.0050%を超えれば、析出物が粗大化して疲労強度を大きく低下する。Zr含有量が0.0050%を超えればさらに、鋼が脆化する。したがって、Zr含有量は、0~0.0050%である。Zr含有量の好ましい下限は0.0003%であり、さらに好ましくは0.0005%であり、さらに好ましくは0.0010%である。Zr含有量の好ましい上限は0.0045%であり、さらに好ましくは0.0040%である。
希土類元素:0~0.0050%
希土類元素(REM)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、REM含有量は0%であってもよい。含有される場合、REMは、圧延時にMnSが延伸するのを抑制する。その結果、曲げ疲労強度が高まる。しかしながら、REM含有量が0.0050%を超えれば、その効果が飽和する。REM含有量が0.0050%を超えればさらに、酸化物と硫化物の複合酸化物の生成を助長し、介在物サイズを粗大化する。その結果、疲労強度が大きく低下する。したがって、REM含有量は、0~0.0050%である。REM含有量の好ましい下限は0.0003%であり、さらに好ましくは0.0005%である。REM含有量の好ましい上限は0.0045%であり、さらに好ましくは0.0040%である。
本明細書におけるREMとは、原子番号39番のイットリウム(Y)、ランタノイドである原子番号57番のランタン(La)~原子番号71番のルテチウム(Lu)及び、アクチノイドである原子番号89番のアクチニウム(Ac)~原子番号103番のローレンシウム(Lr)からなる群から選択される1種以上の元素である。また、本明細書におけるREM含有量とは、これらの元素の合計含有量である。これらの元素の添加にあたっては、これらの元素が混在したミッシュメタルを用いても、何らその効果は変わるものではない。
本実施形態の高周波焼入れ用鋼はさらに、Feの一部に代えて、Ti、Nb及びVからなる群から選択される1種又は2種以上を含有してもよい。
Ti:0~0.200%
チタン(Ti)は、任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Ti含有量は0%であってもよい。含有される場合、Tiは、窒化物として鋼中に析出分散することにより、高周波焼入れ時のオーステナイト組織を細粒化する。しかしながら、Ti含有量が0.200%を超えれば、析出物が粗大化して疲労強度が低下する。Ti含有量が0.200%を超えればさらに、鋼が脆化する。したがって、Ti含有量は、0~0.200%である。Ti含有量の好ましい下限は0.005%であり、さらに好ましくは0.010%である。Ti含有量の好ましい上限は0.150%であり、さらに好ましくは0.100%である。
Nb:0~0.200%
ニオブ(Nb)は、任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Nb含有量は0%であってもよい。含有される場合、Nbは、窒化物として鋼中に析出分散することにより、高周波焼入れ時のオーステナイト組織を細粒化する。しかしながら、Nb含有量が0.200%を超えれば、その効果は飽和し、経済性が損なわれる。したがって、Nb含有量は、0~0.200%である。Nb含有量の好ましい下限は0.005%であり、さらに好ましくは0.010%である。Nb含有量の好ましい上限は0.100%であり、さらに好ましくは0.050%である。
V:0~0.35%
バナジウム(V)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、V含有量は0%であってもよい。含有される場合、Vは、窒化物として鋼中に析出分散することにより、高周波焼入れ時のオーステナイト組織を細粒化する。しかしながら、V含有量が0.35%を超えれば、その効果は飽和し、経済性が損なわれる。したがって、V含有量は、0~0.35%である。V含有量の好ましい下限は0.005%であり、さらに好ましくは0.010%である。V含有量の好ましい上限は0.30%であり、さらに好ましくは0.25%である。
本実施形態の高周波焼入れ用鋼はさらに、Feの一部に代えて、Sb及びPbからなる群から選択される1種以上を含有してもよい。
Sb:0~0.0150%
アンチモン(Sb)は、任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Sb含有量は0%であってもよい。含有される場合、Sbは、表面偏析傾向が強く、外部からの酸素の吸着による酸化を抑制する。しかしながら、Sb含有量が0.0150%を超えると鋼の靭性及び熱間延性が低下する。したがって、Sb含有量は、0~0.0150%である。Sb含有量の好ましい下限は0.0003%であり、さらに好ましくは0.0005%であり、さらに好ましくは0.0010%である。Sb含有量の好ましい上限は0.0100%であり、さらに好ましくは0.0080%である。
Pb:0~0.5000%
鉛(Pb)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Pb含有量は0%であってもよい。含有される場合、Pbは鋼の被削性を高める。しかしながら、Pb含有量が0.5000%を超えれば、鋼の靭性及び熱間延性が低下する。したがって、Pb含有量は0~0.5000%である。Pb含有量の好ましい下限は0.0100%であり、さらに好ましくは0.0400%である。Pb含有量の好ましい上限は0.4000%であり、さらに好ましくは0.3500%である。
[式(1)について]
上記化学組成はさらに、式(1)を満たす。
290C+50Si+430≧631.0 (1)
ここで、式(1)中の各元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。
FN1=290C+50Si+430と定義する。FN1は、鋼表面の硬さの指標である。FN1は、高周波焼入れ後300℃で焼戻した高周波焼入れ部品の表面のビッカース硬度にほぼ相当する。ローラーピッチング疲労試験での高周波焼入れ部品の耐久性は、300℃焼戻し硬さと正の相関がある。FN1が631.0以上であれば、その他の条件を満たすことを前提として、十分な面疲労強度が得られる。FN1が631.0未満であれば、面疲労強度が低下し、ピッチングが生じるおそれがある。FN1の好ましい下限は640.0である。FN1の好ましい上限は665.0である。
[式(2)について]
上記化学組成はさらに、式(2)を満たす。
C+(1/7)Si+(1/5)Mn+(1/9)Cr+V+(1/25)Mo≦0.900 (2)
ここで、式(2)中の各元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。
FN2=C+(1/7)Si+(1/5)Mn+(1/9)Cr+V+(1/25)Moと定義する。FN2は、高周波焼入れ部品の硬さの指標である。FN2が0.900以下であれば、良好な被削性が得られる。一方、FN2が0.900を超える場合には、被削性が極端に低下する。FN2の好ましい下限は0.800である。FN2の好ましい上限は0.890である。
[式(3)について]
上記化学組成はさらに、式(3)を満たす。
(1+0.7Si)×(1+3.3333Mn)×(1+2.16Cr)×(1+3.00Mo)×(1+1.73V)×(1+0.365Cu)×(1+0.363Ni)≧3.80 (3)
ここで、式(3)中の各元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。
FN3=(1+0.7Si)×(1+3.3333Mn)×(1+2.16Cr)×(1+3.00Mo)×(1+1.73V)×(1+0.365Cu)×(1+0.363Ni)と定義する。FN3は、高周波焼入れ用鋼の焼入れ性の指標である。FN3が3.80以上であれば、高周波焼入れ時の不完全焼入れ組織の発生を抑制できる。一方、FN3が3.80未満の場合には、焼入れ性が低下し、不完全焼入れ組織を生じるおそれがある。FN3の好ましい下限は4.00である。FN2の好ましい上限は15.00である。
[式(4)について]
本実施形態の高周波焼入れ用鋼は、式(4)を満たす。
9.7Mnθ+32.4Crθ≦25.9 (4)
ここで、式(4)中のMnθは、セメンタイト中のMnの濃度(質量%)が代入される。式(4)中のCrθは、セメンタイト中の濃度(質量%)が代入される。
なお、上記のセメンタイトは、高周波焼入れ用鋼のセメンタイトである。
FN4=9.7Mnθ+32.4Crθと定義する。FN4は、硬さばらつきの指標である。高周波焼入れは炉加熱に比べ、極短時間加熱であり、非平衡状態である。そのため、セメンタイトが溶け残る事で固溶C量のばらつきが生じる。その結果、硬さばらつきが発生する。
セメンタイトの溶体化温度を上昇し、セメンタイトの溶け残りに影響するセメンタイト中のMn濃度やCr濃度を適正値以下に制御すれば、上記のセメンタイトの溶け残りを低減できる。これにより、硬さばらつきを抑制できる。これにより、面疲労強度及び曲げ疲労強度が高まる。
FN4が25.9以下であれば、高周波焼入れ時の未溶解炭化物が残存しない。一方、FN4が25.9を超える場合には、セメンタイトの溶体化温度が上昇し、未溶解炭化物が残存するおそれがある。FN4の好ましい下限は3.00である。FN4の好ましい上限は20.00である。
[セメンタイト中のMn濃度及びCr濃度の測定方法]
セメンタイト中のMn濃度(質量%)及びCr濃度(質量%)は電解抽出残渣により測定する。具体的には、次のとおりである。高周波焼入れ用鋼の任意の位置から、測定用の試験片を採取する。試験片に対して、10%AA系電解液(10%アセチルアセトン、1%テトラアンモニウムクロライド-メタノール)を用いて電解する。電解後、0.2μmのフィルターで残渣を採取する。採取された残渣の質量を測定する。さらに、採取された残渣に対して、酸分解処理を実施する。酸分解処理後、ICP-AES(高周波誘導結合プラズマ原子分光分析)を行って、残渣中のFe、Cr、Mnの質量を測定する。残渣がすべてMC型の炭化物、つまり、セメンタイトであると仮定して、セメンタイト中のMn及びCrの質量を算出する。得られた結果から、セメンタイト中に固溶しているCr濃度及びMn濃度を算出する。
[フェライト体積分率:40%以下]
本実施形態による高周波焼入れ用鋼ではさらに、フェライト体積分率が40%以下である。高周波焼入れでは、熱処理時間が短いため、Cの拡散時間も短くなる。そのため、炭化物が溶ける時間も短くなる。その結果、フェライト体積分率が高くなりやすい。しかしながら、フェライト体積分率が40%を超えると、高周波焼入れ後の組織へのフェライトが残存する。フェライト体積分率が40%を超えるとさらに、低炭素マルテンサイトの生成が発生する。これらにより、極端な硬さばらつきが発生する。その結果、面疲労強度が低下する。したがって、フェライト体積分率は40%以下である。フェライト体積分率の好ましい上限は35%であり、さらに好ましくは30%である。フェライト体積分率の好ましい下限は5%である。
本実施形態において、ミクロ組織の残部は、ベイナイト及び/又はパーライトである。ベイナイトの体積分率は10%以下であるのが好ましい。ベイナイトの体積分率が10%以下であれば、鋼が硬くなりすぎるのを防ぐことができる。そのため、被削性が低下するのを抑制できる。
[フェライト体積分率の測定方法]
高周波焼入れ用鋼からミクロ組織観察用の試験片を採取する。試験片の表面のうち、高周波焼入れ用鋼の軸方向に垂直な断面(以下、観察面という)を研磨する。ナイタール腐食液を用いて、研磨後の観察面をエッチングする。エッチングされた観察面において、フェライトを特定する。特定されたフェライトの面積率を、JIS G 0555(2003)に準拠した点算法で測定する。測定された面積率は、体積分率に等しいと考えられるため、これをフェライト体積分率(vol%)と定義する。ベイナイトの体積分率についても同様に測定できる。
[高周波焼入れ部品の素形材について]
高周波焼入れ部品の素形材とは、高周波焼入れ用鋼を熱間鍛造して、高周波焼入れ部品の粗形状に加工したものである。したがって、本実施形態による高周波焼入れ部品の素形材の化学組成は、本実施形態による高周波焼入れ用鋼の化学組成と同じである。したがって、高周波焼入れ部品の素形材の化学組成は、式(1)~式(3)を満たす。本実施形態の高周波焼入れ部品の素形材はさらに、式(4)を満たす。本実施形態の高周波焼入れ部品の素形材においてさらに、フェライト体積分率は40%以下である。
本実施形態による高周波焼入れ部品の素形材のセメンタイト中のMn濃度及びCr濃度の測定方法の方法は、高周波焼入れ用鋼と同様である。本実施形態による高周波焼入れ部品の素形材のミクロ組織の観察方法も、高周波焼入れ用鋼と同様である。
[高周波焼入れ部品について]
本実施形態による高周波焼入れ部品とは、ディファレンシャルギアに代表される動力伝達部品に用いられる機械構造用部品である。
本実施形態による高周波焼入れ部品は、高周波焼入れが実施された部分である焼入れ部と、高周波焼入れが実施されていない部分である未焼入れ部と、を含む。
焼入れ部において、マルテンサイト体積分率が90%以上である。焼入れ部におけるマルテンサイト体積分率は、組織観察により、コントラストから測定可能である。未焼入れ部において、フェライト体積分率は40%以下である。
本実施形態による高周波焼入れ用鋼に高周波焼入れを行っても、化学組成は変化しない。そのため、本実施形態による高周波焼入れ部品の化学組成は、本実施形態による高周波焼入れ用鋼の化学組成と同じである。したがって、高周波焼入れ部品の化学組成は、式(1)~式(3)を満たす。本実施形態による高周波焼入れ部品の未焼入れ部はさらに、式(4)を満たす。
また、本実施形態による高周波焼入れ部品は、本実施形態による高周波焼入れ用鋼に対して、高周波焼入れを行って得られる。したがって、本実施形態による高周波焼入れ部品は、残留γや窒化物、及び粒界酸化を含む不均質な表層異常層を有していない。又は、本実施形態による高周波焼入れ部品は、表層異常層の生成が最小限に抑制されたものとなる。本実施形態による高周波焼入れ部品はさらに、300℃焼戻しを行った後でも表面から50μm深さにおいて、ビッカース硬度で631Hv以上の硬さを有するものとなる。
高周波焼入れ部品において、セメンタイト中のMn濃度及びCr濃度を測定する場合、高周波焼入れ処理が実施されていない部分である未焼入れ部から、測定用の試験片を採取する。その後の手順は、上記の高周波焼入れ用鋼の場合と同じである。
高周波焼入れ部品において、フェライト体積分率を測定する場合、高周波焼入れ処理が実施されていない部分である未焼入れ部から、測定用の試験片を採取する。その後の手順は、上記の高周波焼入れ用鋼の場合と同じである。
[製造方法]
[高周波焼入れ用鋼の製造方法]
本実施形態の高周波焼入れ用鋼の製造方法の一例は次のとおりである。なお、本実施形態の高周波焼入れ用鋼の製造方法はこれに限定されない。しかしながら、下記に説明する製造方法は、本実施形態の高周波焼入れ用鋼の製造方法の好適な例である。
[鋳造工程]
鋳造工程では、溶鋼を用いて、周知の鋳造方法により鋳片(スラブ又はブルーム)又は鋼塊(インゴット)を製造する。鋳造方法はたとえば、連続鋳造法や造塊法である。鋳造条件はたとえば、次のとおりである。220×220mm角の鋳型を用いる。タンディッシュ内の溶鋼のスーパーヒート(溶鋼温度と溶鋼の凝固温度との差)を10~50℃とする。鋳込み速度を1.0~1.5m/分とする。鋳片又は鋼塊は、上記化学組成及び式(1)~式(3)を満たす。
[熱間加工工程]
熱間加工工程では、上記鋳造工程で製造された鋳片又は鋼塊に対して、熱間加工を実施して、本実施形態の高周波焼入れ用鋼を製造する。本実施形態の高周波焼入れ用鋼はたとえば、棒鋼及び線材である。以下に、高周波焼入れ用鋼が棒鋼及び線材である場合の製造方法の一例を示す。
熱間加工工程は、仕上げ圧延を実施する仕上げ圧延工程を含む。仕上げ圧延はたとえば、連続圧延機を用いた仕上げ圧延である。連続圧延機ではたとえば、一対の水平ロールを有する水平スタンドと、一対の垂直ロールを有する垂直スタンドとが交互に一列に配列される。
熱間加工工程ではたとえば、ビレットを1250~1300℃の加熱温度で1.5時間以上加熱した後、仕上げ温度を900~1100℃として熱間圧延する。上記の加熱温度及び加熱時間はそれぞれ、炉内の平均温度及び在炉時間を意味する。熱間圧延の仕上げ温度は、複数のスタンドを備える圧延機の最終スタンド出口での棒鋼及び線材の表面温度を意味する。
仕上げ圧延を行った後は、大気中で、冷却速度が放冷以下となる条件で冷却する。仕上げ圧延後の冷却は、空冷、油冷及び水冷のいずれでもよい。ただし、セメンタイト中のMn濃度及びCr濃度が式(4)を満たすようにするためには、各元素の添加量にもよるが、一例として、次のとおり冷却を実施する。セメンタイト生成開始温度である700℃から合金元素拡散の下限温度である300℃の温度範囲においては、平均冷却速度は0.1~1.0℃/秒とするのが好ましい。700℃から300℃の温度範囲においての平均冷却速度が0.1℃/秒未満の場合、セメンタイト中のMn濃度及びCr濃度が増加し、式(4)を満たさなくなる場合がある。この場合、硬さばらつきが発生する。700℃から300℃の温度範囲においての平均冷却速度が1.0℃/秒を超える場合、ベイナイト及びマルテンサイト生成量が増加する。この場合、被削性が低下する場合がある。仕上げ圧延後の冷却速度は、棒鋼及び線材の表面での冷却速度を指す。
セメンタイト中のMn濃度及びCr濃度の調整は、上記の製造方法には限定されない。上記の化学組成及び式(1)~式(4)を満たすものであれば、特に上記の製造方法には限定されない。
仕上げ圧延後の棒鋼及び線材に対して、焼ならし処理を実施してもよい。焼ならし処理を実施する場合、焼ならし処理での冷却速度が、上記のとおりである。
以上の製造工程により、上記の高周波焼入れ用鋼が製造される。
[高周波焼入れ部品の素形材の製造方法]
上記の高周波焼入れ用鋼(棒鋼又は線材)を熱間鍛造して、高周波焼入れ部品(たとえばディファレンシャルギア)の粗形状の素形材を製造する。製造された素形材を大気中で放冷する。
放冷後の素形材に対して、調質処理や焼ならし処理を実施してもよい。焼ならし処理の条件はたとえば、以下のとおりである。放冷後の素形材に対して、850℃で1時間の加熱を行う。加熱後の素形材を、冷却する。冷却の方法は、空冷、油冷及び水冷のいずれでもよい。ただし、各元素の添加量にもよるが、セメンタイト生成開始温度である700℃から合金元素拡散の下限温度である300℃の温度範囲においては、平均冷却速度は0.1~1.0℃/秒とするのが好ましい。700℃から300℃の温度範囲においての平均冷却速度が0.1℃/秒未満の場合、セメンタイト中のMn濃度及びCr濃度が増加し、式(4)を満たさなくなる場合がある。この場合、硬さばらつきが発生する。700℃から300℃の温度範囲においての平均冷却速度が1.0℃/秒を超える場合、ベイナイト及びマルテンサイト生成量が増加する。この場合、被削性が低下する場合がある。
[高周波焼入れ部品の製造方法]
本実施形態の高周波焼入れ用鋼を用いた高周波焼入れ部品の製造方法の一例は次のとおりである。
素形材に対して機械加工を実施し、素形材を所定の形状にする。機械加工はたとえば、切削や穿孔である。
機械加工後の素形材に対して高周波焼入れを実施し、素形材の表面を硬化する。これにより、素形材の表面に表面硬化層が形成される。高周波焼入れされた素形材に対して仕上げ加工を実施する。仕上げ加工は、研削や研磨である。
高周波焼入れでは、焼入れ温度(最高加熱温度)を850~1100℃とし、この温度域から冷却を行う。焼入れ温度が850℃未満である場合、高周波焼入れにより素形材に十分な焼入れを施すことができない。この場合、初析フェライトが出現し、表面硬化層の硬さが不均一になる。その結果、面疲労強度が高まらない。焼入れ温度が850℃未満である場合さらに、表層部が十分にオーステナイト化せず、所望の焼入れ層深さを得ることができない。一方、焼入れ温度が1100℃を超えた場合、表層部の酸化が著しくなり、表面性状の円滑さが充分に確保されない。この場合、面疲労強度が低下する。また、十分に表層をオーステナイト化するためには、850℃以上となる時間が、0.5秒~1分であることが好ましい。
以上の工程により、高周波焼入れ部品が製造される。高周波焼入れ部品は、本実施形態の高周波焼入れ用鋼と同じ化学成分を有する。以上の工程により製造された高周波焼入れ部品の表面硬化層には、未固溶のセメンタイトが残存しない。
以下に本発明を実施例によって具体的に説明する。実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明は、この一条件例のみに限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得る。
[実験方法]
表1及び表2に示す化学組成を有する鋼を150kgインゴットで溶製した。インゴットを、1200~1250℃の加熱温度で1.5時間以上加熱した。加熱したインゴットに対して熱間鍛伸を実施し、直径30~100mmの棒鋼を製造した。
Figure 0007139692000001
Figure 0007139692000002
製造した棒鋼に対して、焼ならしを実施した。焼ならしの条件は次のとおりであった。製造した棒鋼を850℃で1時間加熱した。加熱した棒鋼を、空冷、油冷又は水冷により冷却した。平均冷却速度は、セメンタイト生成開始温度である700℃から、合金元素拡散の下限温度である300℃の温度範囲を、0.1~1.0℃/秒の範囲で調整した。各試験番号の平均冷却速度は、表3及び表4の「焼ならし冷却速度」欄に記載のとおりであった。以上により、試験番号1~試験番号56の高周波焼入れ用鋼を製造した。
Figure 0007139692000003
Figure 0007139692000004
[被削性評価試験]
各試験番号の高周波焼入れ用鋼を用いて、被削性を評価した。まず、ドリル被削性評価のために、直径30~100mmの棒鋼の中心から試験片を採取し、円筒断面で高さ21mmの被削性評価用試験片に切削加工した。
工具は、株式会社不二越製、型番SD3.0のドリルを使用した。1回転当たりの送り量を0.25mmとし、1穴の穿孔深さを9mmとした。潤滑剤として、水溶性の切削油を用いた。ドリル穿孔試験を行い、各試験番号の高周波焼入れ用鋼の被削性を評価した。
評価指標には、累積穴深さ1000mmまで切削可能な最大切削速度VL1000を採用した。最大切削速度VL1000で40m/分以上を被削性に優れると評価した。最大切削速度VL1000で40m/分未満を被削性が悪いと評価し、表3及び表4に×と示した。
なお、被削性に優れると評価したもののうち、最大切削速度VL1000で50m/分以上をAと、表3及び表4に示した。最大切削速度VL45~49m/分をBと、表3及び表4に示した。最大切削速度VL40~44m/分をCと、表3及び表4に示した。
[セメンタイト中のCr濃度及びMn濃度測定]
セメンタイト中のMn濃度(質量%)及びCr濃度(質量%)は電解抽出残渣により測定した。具体的には、次のとおりであった。ドリル試験片の残材の任意の位置から、測定用の試験片を採取した。試験片に対して、10%AA系電解液(10%アセチルアセトン、1%テトラアンモニウムクロライド-メタノール)を用いて電解した。電解後、0.2μmのフィルターで残渣を採取した。採取された残渣の質量を測定した。さらに、採取された残渣に対して、酸分解処理を実施した。酸分解処理後、ICP-AES(高周波誘導結合プラズマ原子分光分析)を行って、残渣中のFe、Cr、Mnの質量を測定した。残渣がすべてMC型の炭化物、つまり、セメンタイトであると仮定して、セメンタイト中のCr及びMnの質量を算出した。得られた結果から、セメンタイト中に固溶しているCr濃度及びMn濃度を算出した。
なお、各試験番号の高周波焼入れ用鋼に対して、熱間鍛造を実施し、同様の冷却方法を実施して得られた高周波焼入れ部品の素形材に対しても、高周波焼入れ用鋼と同様の結果が得られた。後述の高周波焼入れ部品についても、同様にセメンタイト中に固溶しているCr濃度及びMn濃度を測定した。ただし、試験片は、未焼入れ部から採取した。
[フェライト体積分率測定]
各試験番号のドリル試験片の残材からミクロ組織観察用の試験片を採取した。試験片の表面のうち、残材の軸方向に垂直な断面(以下、観察面という)を研磨した。ナイタール腐食液を用いて、研磨後の観察面をエッチングした。エッチングされた観察面において、フェライトを特定した。特定されたフェライトの面積率を、JIS G 0555(2003)に準拠した点算法で測定した。測定された面積率は、体積分率に等しいと考え、これをフェライト体積分率(vol%)と定義した。
なお、各試験番号の高周波焼入れ用鋼に対して、熱間鍛造を実施し、同様の冷却方法を実施して得られた高周波焼入れ部品の素形材に対しても、高周波焼入れ用鋼と同様の結果が得られた。後述の高周波焼入れ部品についても、同様にフェライト体積分率を測定した。ただし、試験片は、未焼入れ部から採取した。
[ローラーピッチング疲労試験]
各試験番号の高周波焼入れ用鋼から、面疲労強度評価のためのローラーピッチング疲労試験用試験片を加工した。試験片は、直径80mm未満の場合は中心から採取し、加工した。直径80mm以上の場合は、直径の1/4が中心になるよう加工した。
ローラーピッチング疲労試験用試験片は、図1に示す形状を有した。図1中の数値は寸法を示す。ローラーピッチング疲労試験用試験片は円柱状であり、中央に直径26mmの平行部を有していた。ローラーピッチング疲労試験用試験片の平行部以外の直径は22mmであった。ローラーピッチング疲労試験用試験片は、図2中の小ローラー試験片200であった。
小ローラー試験片200に対して、加熱温度1000℃×20秒の高周波焼入れを行った後、150℃で1時間の焼戻しを行い、ローラーピッチング試験で面疲労強度を評価した。具体的には次のとおりである。
図2は、ローラーピッチング試験の模式図である。図2に示すとおり、小ローラー試験片200に大ローラー試験片100を上記面圧で押し当てながら小ローラー試験片200を回転させた。小ローラー試験片200は上記試験片の作製で作製したローラーピッチング試験片であった。大ローラー試験片100はJIS G 4053(2016)に規定のSCM722に相当する化学組成を有する鋼を用いて、浸炭後に表面研磨したものを使用した。大ローラー試験片100の半径は130mmであった。
ローラーピッチング疲労試験は、小ローラー試験片200に種々のヘルツ応力の面圧で大ローラー試験片100を押し付けた。接触部での両ローラー試験片の周速方向を同一方向とし、滑り率を-40%(小ローラー試験片200よりも大ローラー試験片100の方が接触部の周速が40%大きい)として回転させて試験を行った。上記接触部に潤滑油として供給するATF(AT用潤滑油)の油温は80℃とし、大ローラー試験片100と小ローラー試験片200との接触応力を3000~3300MPaとした。試験打ち切り回数を1000万回(10回)とし、小ローラー試験片200においてピッチングが発生せずに1000万回の回転数に達した場合、面疲労強度が十分高く、小ローラー試験片200の耐久性(ローラーピッチング疲労耐久性)が十分確保されたと判断した。面疲労強度が高いと判断したもののうち、3300MPa耐久をAと、表3及び表4に示す。3200MPa耐久をBと、表3及び表4に示す。3100MPa耐久をCと、表3及び表4に示す。3000MPa耐久をDと、表3及び表4に示す。1000万回の回転数に達するまでにピッチングが生じたものを、面疲労強度が低いと評価し、表3及び表4に×と示す。
なお、ピッチング発生の検出は試験機に備え付けてある振動計によって行い、振動検出後に両ローラー試験片の回転を停止させてピッチングの発生と回転数を確認した。
[小野式回転曲げ疲労試験]
各試験番号の高周波焼入れ用鋼から、図3に示す、曲げ疲労強度評価のための小野式回転曲げ試験片を加工した。試験片は、切り欠き底での試験片横断面の直径は9mmであった。小野式回転曲げ試験片に対して、1000℃で5秒の高周波焼入れを行った後、150℃で1時間の焼戻しを行った。
高周波焼入れ後の小野式回転曲げ試験片を用いて、小野式回転曲げ疲労試験を行った。小野式回転曲げ疲労試験は、所定の曲げ応力となるよう負荷荷重を調整し、試験打ち切り回数を1000万回(10回)とし、小野式回転曲げ疲労試験片において破断せずに1000万回の回転数に達した場合、曲げ疲労強度が十分高く、曲げ疲労強度が十分確保されたと判断した。曲げ疲労強度が十分確保されたと判断した中でも、680MPa耐久をAと、表3及び表4に示す。665MPa耐久をBと、表3及び表4に示す。650MPa耐久をCと、表3及び表4に示す。1000万回の回転数に達するまでに破断したものを、曲げ疲労強度が低いと評価し、表3及び表4に×と示す。
[試験結果]
試験結果を表3及び表4に示す。
表1~表4を参照して、試験番号2、3、6、7、9、12、13、16、17、20、21、24~28、30、31、33、34、36、37、39~53では、化学組成が適切であり、FN1~FN3も適切であった。そのため、被削性、面疲労強度及び曲げ疲労強度に優れた。さらに、製造条件が適切であったため、FN4及びフェライト体積分率が適切であった。そのため、面疲労強度及び曲げ疲労強度に優れたことから、高周波焼入れ後の硬さばらつきが抑制できたと判断できる。
一方、試験番号1では、C含有量が高すぎた。そのため、被削性が低かった。さらに、焼割れが発生した。
試験番号4では、C含有量が低すぎた。そのため、面疲労強度及び曲げ疲労強度特性が低かった。
試験番号5では、Si含有量が高すぎた。そのため、面疲労強度及び曲げ疲労強度特性が低かった。
試験番号8では、Mn含有量が低すぎた。そのため、熱鍛割れが発生したため、評価を行わなかった。
試験番号10では、Crを含有しなかった。さらに、FN3が3.80未満であった。そのため、熱鍛割れが発生したため、評価を行わなかった。
試験番号11では、S含有量が高すぎた。そのため、曲げ疲労強度が低かった。
試験番号14では、S含有量が低すぎた。そのため、被削性が低かった。
試験番号15では、N含有量が高すぎた。そのため、熱鍛割れが発生したため、評価を行わなかった。
試験番号18では、N含有量が低すぎた。そのため、曲げ疲労強度が低かった。
試験番号19では、Al含有量が高すぎた。そのため、面疲労強度及び曲げ疲労強度が低かった。
試験番号22では、Al含有量が低すぎた。そのため、曲げ疲労強度が低かった。
試験番号23では、P含有量が高すぎた。そのため、曲げ疲労強度が低かった。
試験番号29では、FN1が式(1)の下限未満であった。そのため、面疲労強度が低かった。
試験番号32では、FN2が式(2)の上限を超えた。そのため、被削性が低かった。
試験番号35では、FN3が式(3)の下限未満であった。そのため、面疲労強度及び曲げ疲労強度が低かった。
試験番号54では、焼ならし後の冷却速度が遅かった。そのため、FN4が式(4)の上限を超えた。その結果、面疲労強度及び曲げ疲労強度が低かった。したがって、高周波焼入れ後の硬さばらつきが発生したと考えられる。
試験番号56では、Cr含有量が低すぎた。そのため、熱鍛割れが発生したため、評価を行わなかった。
以上、本発明の実施形態を説明した。しかしながら、上記した実施形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。したがって、本発明は上記した実施形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上記した実施形態を適宜変更して実施することができる。
本実施形態の高周波焼入れ用鋼は、被削性に優れ、高周波焼入れ部品となった場合に面疲労強度及び曲げ疲労強度に優れたものとなる。
100 大ローラー試験片
200 小ローラー試験片

Claims (15)

  1. 質量%で、
    C:0.40~0.70%、
    Si:0.15~1.95%、
    Mn:0.30~1.15%、
    Cr:0.01~0.50%未満、
    S:0.005~0.070%、
    N:0.0020~0.0200%、
    Al:0.005~0.100%、
    P:0.050%未満、
    Mo:0~1.00%、
    Ni:0~1.00%、
    Cu:0~1.00%、
    Ca:0~0.005%、
    Mg:0~0.005%、
    Te:0~0.2000%、
    Zr:0~0.0050%、
    希土類元素:0~0.0050%、
    Ti:0~0.0400%、
    Nb:0~0.0300%、
    V:0~0.10%、
    Sb:0~0.0150%、
    Pb:0~0.5000%、及び、
    残部:Fe及び不純物、からなり、式(1)~式(4)を満たす化学組成を有し、
    組織において、フェライト体積分率が40%以下であり、残部はベイナイト及び/又はパーライトからなる、高周波焼入れ用鋼。
    290C+50Si+430≧631.0 (1)
    C+(1/7)Si+(1/5)Mn+(1/9)Cr+V+(1/25)Mo≦0.900 (2)
    (1+0.7Si)×(1+3.3333Mn)×(1+2.16Cr)×(1+3.00Mo)×(1+1.73V)×(1+0.365Cu)×(1+0.363Ni)≧3.80 (3)
    9.7Mnθ+32.4Crθ≦25.9 (4)
    ここで、式(1)~式(3)中の各元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入され、式(4)中のMnθにはセメンタイト中のMnの濃度(質量%)が代入され、式(4)中のCrθにはセメンタイト中のCrの濃度(質量%)が代入される。
  2. 請求項1に記載の高周波焼入れ用鋼であって、
    前記化学組成は、
    Mo:0.01~1.00%、
    Ni:0.05~1.00%、及び、
    Cu:0.05~1.00%からなる群から選択される1種又は2種以上を含有する、高周波焼入れ用鋼。
  3. 請求項1又は請求項2に記載の高周波焼入れ用鋼であって、
    前記化学組成は、
    Ca:0.0003~0.005%、
    Mg:0.0003~0.005%、
    Te:0.0003~0.2000%、
    Zr:0.0003~0.0050%、及び、
    希土類元素:0.0003~0.0050%からなる群から選択される1種又は2種以
    上を含有する、高周波焼入れ用鋼。
  4. 請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の高周波焼入れ用鋼であって、
    前記化学組成は、
    Ti:0.005~0.0400%、
    Nb:0.005~0.0300%、及び、
    V:0.005~0.10%からなる群から選択される1種又は2種以上を含有する、
    高周波焼入れ用鋼。
  5. 請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の高周波焼入れ用鋼であって、
    前記化学組成は、
    Sb:0.0003~0.0150%、及び、
    Pb:0.0100~0.5000%からなる群から選択される1種以上を含有する、
    高周波焼入れ用鋼。
  6. 質量%で、
    C:0.40~0.70%、
    Si:0.15~1.95%、
    Mn:0.30~1.15%、
    Cr:0.01~0.50%未満、
    S:0.005~0.070%、
    N:0.0020~0.0200%、
    Al:0.005~0.100%、
    P:0.050%未満、
    Mo:0~1.00%、
    Ni:0~1.00%、
    Cu:0~1.00%、
    Ca:0~0.005%、
    Mg:0~0.005%、
    Te:0~0.2000%、
    Zr:0~0.0050%、
    希土類元素:0~0.0050%、
    Ti:0~0.0400%、
    Nb:0~0.0300%、
    V:0~0.10%、
    Sb:0~0.0150%、
    Pb:0~0.5000%、及び、
    残部:Fe及び不純物、からなり、式(1)~式(4)を満たす化学組成を有し、
    組織において、フェライト体積分率が40%以下であり、残部はベイナイト及び/又はパーライトからなる、高周波焼入れ部品の素形材。
    290C+50Si+430≧631.0 (1)
    C+(1/7)Si+(1/5)Mn+(1/9)Cr+V+(1/25)Mo≦0.
    900 (2)
    (1+0.7Si)×(1+3.3333Mn)×(1+2.16Cr)×(1+3.
    00Mo)×(1+1.73V)×(1+0.365Cu)×(1+0.363Ni)≧
    3.80 (3)
    9.7Mnθ+32.4Crθ≦25.9 (4)
    ここで、式(1)~式(3)中の各元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が
    代入され、式(4)中のMnθにはセメンタイト中のMnの濃度(質量%)が代入され、
    式(4)中のCrθにはセメンタイト中のCrの濃度(質量%)が代入される。
  7. 請求項6に記載の高周波焼入れ部品の素形材であって、
    前記化学組成は、
    Mo:0.01~1.00%、
    Ni:0.05~1.00%、及び、
    Cu:0.05~1.00%からなる群から選択される1種又は2種以上を含有する、
    高周波焼入れ部品の素形材。
  8. 請求項6又は請求項7に記載の高周波焼入れ部品の素形材であって、
    前記化学組成は、
    Ca:0.0003~0.005%、
    Mg:0.0003~0.005%、
    Te:0.0003~0.2000%、
    Zr:0.0003~0.0050%、及び、
    希土類元素:0.0003~0.0050%からなる群から選択される1種又は2種以
    上を含有する、高周波焼入れ部品の素形材。
  9. 請求項6~請求項8のいずれか1項に記載の高周波焼入れ部品の素形材であって、
    前記化学組成は、
    Ti:0.005~0.0400%、
    Nb:0.005~0.0300%、及び、
    V:0.005~0.10%からなる群から選択される1種又は2種以上を含有する、
    高周波焼入れ部品の素形材。
  10. 請求項6~請求項9のいずれか1項に記載の高周波焼入れ部品の素形材であって、
    前記化学組成は、
    Sb:0.0003~0.0150%、及び、
    Pb:0.0100~0.5000%からなる群から選択される1種以上を含有する、
    高周波焼入れ部品の素形材。
  11. 高周波焼入れが実施された部分である焼入れ部と、
    高周波焼入れが実施されていない部分である未焼入れ部と、を含み、
    前記焼入れ部において、マルテンサイト体積分率が90%以上であり、
    前記未焼入れ部は、
    質量%で、
    C:0.40~0.70%、
    Si:0.15~1.95%、
    Mn:0.30~1.15%、
    Cr:0.01~0.50%未満、
    S:0.005~0.070%、
    N:0.0020~0.0200%、
    Al:0.005~0.100%、
    P:0.050%未満、
    Mo:0~1.00%、
    Ni:0~1.00%、
    Cu:0~1.00%、
    Ca:0~0.005%、
    Mg:0~0.005%、
    Te:0~0.2000%、
    Zr:0~0.0050%、
    希土類元素:0~0.0050%、
    Ti:0~0.0400%、
    Nb:0~0.0300%、
    V:0~0.10%、
    Sb:0~0.0150%、
    Pb:0~0.5000%、及び、
    残部:Fe及び不純物、からなり、式(1)~式(4)を満たす化学組成を有し、
    組織において、フェライト体積分率が40%以下であり、残部はベイナイト及び/又はパーライトからなる、高周波焼入れ部品。
    290C+50Si+430≧631.0 (1)
    C+(1/7)Si+(1/5)Mn+(1/9)Cr+V+(1/25)Mo≦0.
    900 (2)
    (1+0.7Si)×(1+3.3333Mn)×(1+2.16Cr)×(1+3.
    00Mo)×(1+1.73V)×(1+0.365Cu)×(1+0.363Ni)≧
    3.80 (3)
    9.7Mnθ+32.4Crθ≦25.9 (4)
    ここで、式(1)~式(3)中の各元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が
    代入され、式(4)中のMnθにはセメンタイト中のMnの濃度(質量%)が代入され、
    式(4)中のCrθにはセメンタイト中のCrの濃度(質量%)が代入される。
  12. 請求項11に記載の高周波焼入れ部品であって、
    前記化学組成は、
    Mo:0.01~1.00%、
    Ni:0.05~1.00%、及び、
    Cu:0.05~1.00%からなる群から選択される1種又は2種以上を含有する、
    高周波焼入れ部品。
  13. 請求項11又は請求項12に記載の高周波焼入れ部品であって、
    前記化学組成は、
    Ca:0.0003~0.005%、
    Mg:0.0003~0.005%、
    Te:0.0003~0.2000%、
    Zr:0.0003~0.0050%、及び、
    希土類元素:0.0003~0.0050%からなる群から選択される1種又は2種以
    上を含有する、高周波焼入れ部品。
  14. 請求項11~請求項13のいずれか1項に記載の高周波焼入れ部品であって、
    前記化学組成は、
    Ti:0.005~0.0400%、
    Nb:0.005~0.0300%、及び、
    V:0.005~0.10%からなる群から選択される1種又は2種以上を含有する、
    高周波焼入れ部品。
  15. 請求項11~請求項14のいずれか1項に記載の高周波焼入れ部品であって、
    前記化学組成は、
    Sb:0.0003~0.0150%、及び、
    Pb:0.0100~0.5000%からなる群から選択される1種以上を含有する、
    高周波焼入れ部品。
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