JP2023056778A - 鋼材、及び、浸炭鋼部品 - Google Patents

鋼材、及び、浸炭鋼部品 Download PDF

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崇秀 梅原
Takahide Umehara
雅之 堀本
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Abstract

【課題】本発明は、ガス浸炭処理を実施して浸炭鋼部品とした場合に、優れた曲げ疲労強度及び優れた面疲労強度(ピッチング特性)が得られる鋼材を提供する。【解決手段】化学組成が質量%で、C:0.09~0.27%、Si:0.35超~0.90%未満、Mn:0.25~0.60%未満、P:0.030%以下、S:0.100%以下、Cr:1.45超~2.90%、Mo:0.010~0.150%以下、Al:0.045%以下、及びN:0.0250%下、を含有し、残部はFe及び不純物からなり、式(1)および式(2)を満たす鋼材。21≦(2Si+Mn+3Cr)/3Mo≦248 ・・・(1)1.6≦Al/N≦2.8 ・・・(2)ただし、(1)、(2)の式中の元素記号は、その元素の質量%での含有量を示す。【選択図】なし

Description

本発明は、浸炭鋼部品の素材に適した鋼材、及び、浸炭鋼部品に関する。
近年のエンジンやモータといったパワーユニットの高出力化及び小型化に伴い、パワーユニット及びパワーユニット周辺に利用される機械部品には、優れた曲げ疲労強度が求められている。これらの機械部品のうち、自動車や建設車両等に用いられる歯車では、短い周期で歯面同士が摺動する。そのため、歯面には、ピッチングの抑制が求められる。つまり、自動車や建設車両等に用いられる歯車に代表される機械部品には、曲げ疲労強度だけでなく、面疲労強度(ピッチング特性)も求められる。
機械部品の曲げ疲労強度及び面疲労強度を高める方法として、ガス浸炭処理が知られている。ここでいう「ガス浸炭処理」は、ガス浸炭処理だけでなく、ガス浸炭窒化処理も含む。
ガス浸炭処理では、機械部品の表層に硬化層(浸炭層又は浸炭窒化層)が形成される。この硬化層により、機械部品の曲げ疲労強度及び面疲労強度が高まることが知られている。そこで、浸炭鋼部品の素材となる鋼材には、ガス浸炭処理を実施して機械部品(浸炭鋼部品)とした場合に、曲げ疲労強度及び面疲労強度をより高めることができる性能が求められる。
ガス浸炭処理を実施して浸炭鋼部品としたときに曲げ疲労強度及び面疲労強度を高めることができる鋼材が、特許文献1及び特許文献2に提案されている。
特許文献1に開示された鋼材は、質量%で、C:0.15~0.25%、Si:0.40~0.80%、Mn:0.20~1.0%、P:0.030%以下、S:0.10%以下、Cu:0.30%以下、Ni:0.30%以下、Cr:0.8~1.8%、Mo:0.60%以下、Al:0.02~0.10%、N:0.005~0.03%、O:0.003%以下を含有し、残部がFe及び不可避不純物からなり、以下の式(1)及び式(2)を満たす。
1.8≦2×[Si]+[Cr]≦3.5 ・・・ (1)
114×[Si]+2×[Cr]+68×[Mo]≧50 ・・・ (2)
特許文献2に開示された鋼材は、質量%で、C:0.15~0.30%、Si:0.80%~2.00%、Mn:0.20~0.80%、P:0.003~0.030%、S:0.005~0.050%、Cr:1.00~1.80%未満、Mo:0.03~0.30%、Al:0.020~0.060%、N:0.0060~0.0300%、及び、O:0.0003~0.0025%を含有し、残部はFe及び不可避不純物からなり、以下の式(1)~式(3)を満たす。
〔%Si〕+(〔%Mn〕+〔%Cr〕+〔%Mo〕)/3≧1.5 ・・・ (1)
180-45〔%Mn〕-14〔%Cr〕-51〔%Mo〕+5〔%Si〕≧125 ・・・ (2)
√I≦80 ・・・ (3)
ここで、Iは、鋼材に浸炭焼入れ及び焼戻しを施し、その後回転曲げ疲労試験を行った後の破面における、フィッシュアイ中心部に位置する酸化物系介在物の面積(μm)を示す。
特開2010-185123号公報 特開2017-214642号公報
浸炭焼入れされた部品では、浸炭中に部品の最表面で、鋼中のSi,Mn,Crと雰囲気中のOにより粒界酸化層が形成されるとともに、その近傍では合金元素の欠乏により不完全焼入れ組織が形成される。不完全焼入れ組織は軟質であることから、部品の面疲労強度や曲げ疲労強度を低下させる。そのため、軟質な不完全焼入れ組織の形成を十分に抑制できる技術が望まれている。
このような問題に対し、上記従来技術では、不完全焼入れ組織の形成を十分に抑制できない場合があり、面疲労強度および曲げ疲労強度を大きく向上させるには至っていない。
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであって、優れた曲げ疲労強度及び優れた面疲労強度(ピッチング特性)が得られる鋼材、及び、曲げ疲労強度及び面疲労強度に優れる浸炭鋼部品を提供することを課題とする。
本発明の要旨は以下のとおりである。
(1)本発明の一態様に係る鋼材は、
化学組成が質量%で、
C :0.09~0.27%、
Si:0.35%超~0.90%未満、
Mn:0.25%以上、0.60%未満、
P :0.030%以下、
S :0.100%以下、
Cr:1.45%超、2.90%以下、
Mo:0.010~0.150%、
Al:0.045%以下、及び
N :0.0250%下、
を含有し、残部はFe及び不純物からなり、下記式(1)および式(2)を満たす。
21≦(2Si+Mn+3Cr)/3Mo≦248 ・・・(1)
1.6≦Al/N≦2.8 ・・・(2)
ただし、(1)、(2)の式中の元素記号は、その元素の質量%での含有量を示す。
(2)上記(1)に記載の鋼材は、さらに、質量%で、
Cu:0.50%以下、
Ni:0.05%未満、
V:0.50%以下、
W:0.50%以下、
Co:0.50%以下、
Nb:0.100%以下、
Ti:0.100%以下、及び
B :0.0010%以下、
からなる群から選択される1種以上を含有してもよい。
(3)上記(1)または(2)に記載の鋼材は、さらに、質量%で、
Ca:0.0100%以下、
Mg:0.0015%未満、及び、
希土類元素:0.0100%以下、
からなる群から選択される1種以上を含有してもよい。
(4)上記(1)~(3)の何れかに記載の鋼材は、さらに、質量%で、
Te:0.0080%未満、
Bi:0.500%以下、
Pb:0.09%以下、
Sn:0.015%以下、
Sb:0.015%以下、及び
からなる群から選択される1種以上を含有してもよい。
(5)本発明の一態様に係る浸炭鋼部品は、
硬化層と、
前記硬化層よりも内部の芯部とを備え、
前記芯部の化学組成は、質量%で、
C :0.09~0.27%、
Si:0.35%超、0.90%未満、
Mn:0.25%以上、0.60%未満、
P :0.030%以下、
S :0.100%以下、
Cr:1.45%超、2.90%以下、
Mo:0.010~0.150%、
Al:0.045%以下、及び
N :0.0250%下、
を含有し、残部はFe及び不純物からなり、下記式(1)および式(2)を満たし、
前記硬化層の表面から30μm深さまでの領域におけるC濃度は、質量%で0.60%以上であり、
前記浸炭鋼部品の表面から30μm深さ位置でのミクロ組織は、マルテンサイトからなる組織、もしくはマルテンサイトおよび残留オーステナイトからなる組織であり、
前記残留オーステナイトの体積分率は、0~50%である。
21≦(2Si+Mn+3Cr)/3Mo≦248 ・・・(1)
1.6≦Al/N≦2.8 ・・・(2)
ただし、上記式(1)、式(2)の式中の元素記号は、その元素の質量%での含有量を示す。
(6)上記(5)に記載の浸炭鋼部品は、さらに、芯部の組成が、質量%で、
Cu:0.50%以下、
Ni:0.05%未満、
V:0.50%以下、
W:0.50%以下、
Co:0.50%以下、
Nb:0.100%以下、
Ti:0.100%以下、及び
B :0.0010%以下、
からなる群から選択される1種以上を含有してもよい。
(7)上記(5)または(6)に記載の浸炭鋼部品は、さらに、芯部の組成が、質量%で、
Ca:0.0100%以下、
Mg:0.0015%未満、及び、
希土類元素:0.0100%以下、
からなる群から選択される1種以上を含有してもよい。
(8)上記(5)~(7)の何れかに記載の浸炭鋼部品は、さらに、芯部の組成が、質量%で、
Te:0.0080%未満、
Bi:0.500%以下、
Pb:0.09%以下、
Sn:0.015%以下、
Sb:0.015%以下、及び
からなる群から選択される1種以上を含有してもよい。
本発明によれば、優れた曲げ疲労強度及び優れた面疲労強度(ピッチング特性)が得られる鋼材を提供できる。また本発明によれば、優れた曲げ疲労強度及び優れた面疲労強度を有する浸炭鋼部品を提供できる。
図1は、ガス浸炭処理(ガス浸炭工程及び焼入れ工程)でのヒートパターンの一例を示す図である。 図2は、実施例で作製した小ローラ試験片の側面図である。 図3は、実施例で作製した回転曲げ疲労試験片の側面図である。 図4は、実施例で作製した大ローラ試験片の正面図である。 図5は、実施例における二円筒転がり疲労試験の模式図である。
本発明者らは、ガス浸炭処理(ガス浸炭窒化処理を含む)を施して浸炭鋼部品としたときに優れた曲げ疲労強度及び優れた面疲労強度(ピッチング特性)が得られる鋼材について、検討を行った。
ガス浸炭処理では、部品形状に成形した鋼部品をAc3変態点温度以上に加熱するため、鋼部品のミクロ組織はオーステナイトに変態する。そのため、得られる浸炭鋼部品の組織は、素材である鋼材の組織の影響がなくなる。そこで、本発明者らは、浸炭鋼部品の曲げ疲労強度及び面疲労強度を高める手段を、鋼材のミクロ組織の観点から検討するのではなく、ガス浸炭処理を実施しても変更されることのない化学組成の観点から検討した。
その結果、本発明者らは、面疲労強度(ピッチング特性)を高めるために、焼戻し軟化抵抗を高めるSi、Cr、Mn及びMoの含有量を高めることが有効であると考えた。そして、曲げ疲労強度と面疲労強度との両立を化学組成の観点で検討した結果、質量%で、C:0.09~0.27%、Si:0.35%超、0.90%未満、Mn:0.25%以上、0.60%未満、P:0.030%以下、S:0.100%以下、Cr:1.45%超、2.90%以下、Mo:0.010~0.150%、Al:0.045%以下、及び、N:0.0250%以下からなる化学組成を有する鋼材であれば、ガス浸炭処理を実施して浸炭鋼部品を製造した場合に、優れた曲げ疲労強度及び優れた面疲労強度が得られると考えた。
しかしながら、化学組成における各元素含有量が上述の範囲内である鋼材であっても、ガス浸炭処理を実施して浸炭鋼部品としたときに、曲げ疲労強度及び面疲労強度が十分に得られない場合があった。そこで、本発明者らはさらに調査及び検討を進めた。その結果、本発明者らは以下の知見(A)、(B)を得た。
(A)浸炭焼入れされた歯車部品では、浸炭中に鋼の最表面に、鋼中のSi,Mn,Crと雰囲気中のOによる粒界酸化層が形成され、さらにその近傍では合金元素の欠乏により不完全焼入れ組織が形成される。不完全焼入れ組織は軟質であることから、鋼部品の曲げ疲労強度を低下させる。このように、Si,Mn,Crはいずれも酸化物形成元素であるため、粒界酸化層形成の観点からは鋼への含有は好ましくない。
しかしながらこれらの元素はいずれも焼入れ性を高め、かつSiは軟化抵抗の向上に、MnやCrは浸炭性の向上に有効であることから、面疲労強度や曲げ疲労強度を高めるために必須である。一方、Moはこれらの元素に比べ合金コストが非常に高いものの、酸化物を形成させずに焼入れ性を大幅に向上される元素である。
そこで、酸化物形成元素であるSi,Mn,Crと、酸化物を形成せず焼入れ性を高め、不完全焼入れ組織の抑制に効果的なMoの含有比率を適正化することで、浸炭部品の軟化抵抗や浸炭性を向上させつつ、不完全焼入れ層を安定的に抑制できることを突き止めた。具体的には、これら元素の含有量に関し「F1=(2Si+Mn+3Cr)/3Mo」と定義した場合、F1が21~248であれば(つまり、以下に示す式(1)を満たせば)、Si、Mn、Cr含有量に対するMo含有量が適切な範囲であるため、ガス浸炭処理中における不完全焼入れ層の形成を抑制できる。その結果、化学組成中の各元素含有量が上述の範囲内であって、かつ後述の式(2)を満たすことを前提として、鋼材を素材として製造された浸炭鋼部品において、優れた曲げ疲労強度及び優れた面疲労強度が得られる。
21≦(2Si+Mn+3Cr)/3Mo≦248 ・・・(1)
(B)化学組成中の各元素含有量が上述の範囲内であっても、鋼材中にAl介在物が過剰に存在していれば、Al介在物が割れの起点となり得る。つまり、鋼材中にAl介在物が過剰に多く残存すれば、浸炭鋼部品の曲げ疲労強度が低下する場合がある。また、鋼材中のAlは、析出物(AlN)として析出し得る。粗大なAlN(析出物)は、Al介在物と同様に、割れの起点となり得る。そのため、鋼材中に粗大なAlN(析出物)が過剰に多く存在すれば、浸炭鋼部品の曲げ疲労強度が低下する場合がある。したがって、Al、Nの適正な含有量を見極める必要がある。具体的には、これら元素の含有量に関し、「F2=Al/N」と定義した場合、鋼材の化学組成の各元素含有量が上述の範囲内であることを前提として、F2が1.6~2.8であれば(つまり、以下に示す式(2)を満たせば)、Al介在物および粗大なAlNの過剰な形成を抑制できる。一方、鋼材の化学組成の各元素含有量が上述の範囲内であることを前提として、F2が1.6未満であれば、N含有量がAl含有量に対して過剰に多い組成となり、この場合、鋼材中の粗大なAlN(析出物)が過剰に多く形成されてしまう。その結果、浸炭鋼部品の曲げ疲労強度が低下する。一方、鋼材の化学組成の各元素含有量が上述の範囲内であることを前提として、F2が2.8を超えれば、Al含有量がN含有量よりも過剰に多い組成となり、この場合、Nと結合しなかったAl介在物(酸化系介在物)が過剰に多く形成される。そのため、この場合も、浸炭鋼部品の曲げ疲労強度が低下する。
1.6≦Al/N≦2.8 ・・・(2)
本実施形態の鋼材、及び、浸炭鋼部品は、以上の技術思想に基づいて完成したものである。
以下、本実施形態の鋼材及びその鋼材を素材として製造される浸炭鋼部品について詳述する。各元素の含有量の「%」は特に断りが無い限り「質量%」を意味する。
本実施形態に係る浸炭鋼部品は、部品の深さ方向の中心部である芯部(以下、単に「芯部」という場合がある。)と、部品の表層に位置する硬化層とを有する。
ここで芯部とは、ガス浸炭処理により炭素の侵入が及ばなかった部分を指す。すなわち、芯部とは、ガス浸炭処理を経たにも関わらず、化学組成および金属組織の変動がなく、もしくは変動が無視できる程度に小さい領域で、部品の母材と同等の成分組成を有する部位である。なお、芯部の組成とは、例えば、部品表面から深さ2.0mmにおける組成であるとも言える。なお、本実施形態でいう「真空浸炭処理」とは、真空浸炭窒化処理も含む。
[鋼材]
[化学組成]
本実施形態の鋼材の化学組成について説明する。なお、通常、浸炭鋼部品の芯部の成分は、部品の素材(鋼材)の成分と同じとなる。つまり、以下説明する化学組成は、芯部の化学組成とも言える。
C:0.09~0.27%
炭素(C)は、鋼の焼入れ性を高め、鋼材を素材として製造される浸炭鋼部品の芯部の硬さを高める作用を有する。そのため、浸炭鋼部品の曲げ疲労強度を高める。C含有量が0.09%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。一方、C含有量が0.27%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の被削性が低下する。したがって、C含有量は0.09~0.27%である。C含有量の好ましい下限は0.12%以上であり、より好ましくは0.15%以上であり、さらに好ましくは0.18%以上である。C含有量の好ましい上限は0.26%以下であり、より好ましくは0.25%以下であり、さらに好ましくは0.24%以下である。
Si:0.35%超、0.90%未満
シリコン(Si)は、鋼の焼戻し軟化抵抗を高め、その結果、鋼材を素材として製造される浸炭鋼部品の面疲労強度(ピッチング特性)を高める作用を有する。Si含有量が0.35%以下であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。一方、Si含有量が0.90%以上であると、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、ガス浸炭処理の温度域における鋼材表層のCの化学ポテンシャルを過剰に高める。この場合、ガス浸炭処理中において、Cの鋼材への侵入が抑制される。その結果、浸炭鋼部品の表層(硬化層)の深さが低下し、面疲労強度が低下する。また、Siは酸化物形成元素であるため、Si含有量が過剰に多いと、ガス浸炭時に雰囲気中のOと酸化反応することで部品表面の結晶粒界にSi酸化物が生成される。この酸化物近傍では合金元素が欠乏するため焼入れ性が低下する。その結果、軟質な不完全焼入れ層が生成され、部品の面疲労強度や曲げ疲労強度を低下させる。したがって、Si含有量は0.35%超、0.90%未満である。Si含有量の好ましい下限は0.40%以上であり、より好ましくは0.45%以上であり、さらに好ましくは0.50%以上である。Si含有量の好ましい上限は0.85%以下であり、より好ましくは0.80%以下であり、さらに好ましくは0.75%以下である。
Mn:0.25%以上、0.60%未満
マンガン(Mn)は、鋼の焼入れ性を高め、鋼材を素材として製造される浸炭鋼部品の芯部の硬さを高める作用を有する。そのため、浸炭鋼部品の曲げ疲労強度を高めることができる。Mnはさらに、鋼の焼戻し軟化抵抗を高め、その結果、鋼材を素材として製造される浸炭鋼部品の面疲労強度(ピッチング特性)を高める作用も有する。Mn含有量が0.25%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。一方、Mn含有量が0.60%以上であれば、ガス浸炭時に雰囲気中のOと酸化反応することで部品表面の結晶粒界にMn酸化物が生成される。この酸化物近傍では合金元素が欠乏するため焼入れ性が低下する。その結果、軟質な不完全焼入れ層が生成され、部品の曲げ疲労強度を低下させる。したがって、Mn含有量は0.25%以上、0.60%未満である。Mn含有量の好ましい下限は、0.30%以上であり、より好ましくは0.35%以上であり、さらに好ましくは0.40%以上である。Mn含有量の好ましい上限は0.57%以下であり、より好ましくは0.55%以下であり、さらに好ましくは0.53%以下である。
P:0.030%以下
リン(P)は不純物である。Pは、鋼材を素材として浸炭鋼部品を製造する場合のガス浸炭処理工程において、オーステナイト粒界に偏析して、浸炭鋼部品の曲げ疲労強度を低下させる作用を有する。P含有量が0.030%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、浸炭鋼部品の曲げ疲労強度が顕著に低下する。したがって、P含有量は0.030%以下である。P含有量の好ましい上限は0.029%以下であり、より好ましくは0.028%以下であり、さらに好ましくは0.025%以下である。P含有量はなるべく低い方が好ましい。しかしながら、P含有量を過剰に低減することは、製造コストを高くする。したがって、通常の工業生産を考慮した場合、P含有量の好ましい下限は0%超であり、より好ましくは0.001%以上であり、さらに好ましくは0.002%である。
S:0.100%以下
硫黄(S)は不純物である。S含有量が0.100%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、硫化物が粗大化する。この場合、浸炭鋼部品の曲げ疲労強度が低下する。したがって、S含有量は0.100%以下である。S含有量の好ましい上限は0.050%以下であり、より好ましくは0.025%以下であり、さらに好ましくは0.020%以下であり、さらにより好ましくは0.015%以下である。一方、Sは、Mnと結合してMnSを形成して、鋼材の被削性を高める。そのため、本発明の効果を阻害しない範囲でSを含有させてもよい。S含有量の好ましい下限は0%超であり、より好ましくは0.001%以上であり、さらに好ましくは0.002%以上であり、さらにより好ましくは0.005%以上である。
Cr:1.45%超、2.90%以下
クロム(Cr)は、鋼の焼戻し軟化抵抗を高め、その結果、鋼材を素材として製造される浸炭鋼部品の面疲労強度(ピッチング特性)を高める作用を有する。Cr含有量が1.45%以下であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。一方、Cr含有量が2.90%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、ガス浸炭処理の温度域における鋼材表層のCの化学ポテンシャルが過剰に低下し、ガス浸炭処理においてCが過剰に鋼材に侵入及び拡散する。その結果、浸炭鋼部品の表層に軟質な残留オーステナイトが多量に形成されるため、浸炭鋼部品の曲げ疲労強度が低下する。また、ガス浸炭時に雰囲気中のOと酸化反応することで部品表面の結晶粒界にCr酸化物が生成される。この酸化物近傍では合金元素が欠乏し焼入れ性が低下するため、軟質な不完全焼入れ層が生成され、その結果、部品の曲げ疲労強度を低下させる。したがって、Cr含有量は1.45%超、2.90%以下である。Cr含有量の好ましい下限は1.50%以上であり、より好ましくは1.55%以上であり、さらに好ましくは1.60%以上である。Cr含有量の好ましい上限は2.80%以下であり、より好ましくは2.70%以下であり、さらに好ましくは2.60%以下であり、さらにより好ましくは2.50%以下であり、さらにより好ましくは2.40%以下である。
Mo:0.010~0.150%
モリブデン(Mo)は、鋼の焼入れ性を大幅に高め、かつ酸化物を形成しない元素である。そのため、ガス浸炭時に部品表面で粒界酸化層が形成され、その周囲でSiやCrが欠乏しても、不完全焼入れ組織を抑制することができ、部品の曲げ疲労強度および面疲労強度を高めることができる。Mo含有量が0.010%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。一方、Mo含有量が0.150%を超えれば、上記効果が飽和するだけでなく、鋼材の被削性が低下するほか、合金コストが嵩む。したがって、Mo含有量は0.010~0.150%である。Mo含有量の好ましい下限は0.020%以上であり、より好ましくは0.030%以上であり、さらに好ましくは0.040%以上である。Mo含有量の好ましい上限は0.140%以下であり、より好ましくは0.130%以下であり、さらに好ましくは0.120%以下である。
Al:0.045%以下
アルミニウム(Al)は鋼を脱酸する作用を有する。しかしながら、Al含有量が0.045%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、粗大なAl介在物(酸化物系介在物)が生成される。粗大なAl介在物は、浸炭鋼部品の曲げ疲労強度を低下させる。したがって、Al含有量は0.045%以下である。Al含有量の好ましい上限は、0.042%以下であり、より好ましくは0.039%以下であり、さらに好ましくは0.036%以下であり、さらにより好ましくは0.033%以下である。Al含有量はなるべく低い方が好ましい。Al量の下限値は特に限定しないが、脱酸作用を享受するために、0%超としてもよい。Al含有量の好ましい下限は0.001%以上であり、より好ましくは0.005%以上であり、さらに好ましくは0.010%以上である。
N:0.0250%以下
窒素(N)は不純物である。N含有量が0.0250%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、粗大な窒化物が生成する。粗大な窒化物は、浸炭鋼部品の曲げ疲労強度を低下させる。したがって、N含有量は0.0250%以下である。N含有量の好ましい上限は0.0230%以下であり、より好ましくは0.0210%以下であり、さらに好ましくは0.0200%以下である。N含有量はなるべく低い方が好ましい。しかしながら、N含有量を過剰に低減すれば、製造コストが高くなる。したがって、通常の工業生産を考慮すれば、N含有量の好ましい下限は0%超であり、より好ましくは0.0001%以上であり、さらに好ましくは0.0005%以上である。
本実施形態の鋼材および浸炭鋼部品の芯部の化学組成は、上記元素を含有し、残部は、Fe及び不純物からなる。ここで、不純物とは、鋼材を工業的に製造する際に、原料としての鉱石、スクラップ、又は製造環境などから混入されるものであって、意図的に含有されたものではない元素も含む。またここでいう不純物は、本実施形態の鋼材および浸炭鋼部品に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
[任意元素]
本実施形態の鋼材はさらに、Feの一部に代えて、Cu、Ni、V、W、Co、Nb、Ti及びBからなる群から選択される1種以上を含有してもよい。これらの元素はいずれも任意元素であり、鋼材を素材として製造された浸炭鋼部品の曲げ疲労強度を高める作用を有する。
Cu:0.50%以下
銅(Cu)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Cu含有量は0%であってもよい。含有される場合、つまり、Cu含有量が0%超の場合、Cuは鋼の焼入れ性を高めて、鋼材を素材として製造された浸炭鋼部品の芯部の硬さを高める。その結果、浸炭鋼部品の曲げ疲労強度が高まる。Cuが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。一方、Cu含有量が0.50%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の熱間加工性が低下する。したがって、Cu含有量は0~0.50%であり、含有される場合、0.50%以下である。Cu含有量の好ましい下限は0.01%以上であり、より好ましくは0.05%以上であり、さらに好ましくは0.08%以上であり、さらにより好ましくは0.10%である。Cu含有量の好ましい上限は0.48%以下であり、さらに好ましくは0.46%以下である。
Ni:0.05%未満
ニッケル(Ni)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Ni含有量は0%であってもよい。含有される場合、つまり、Ni含有量が0%超の場合、Niは鋼の焼入れ性を高めて、鋼材を素材として製造された浸炭鋼部品の芯部の硬さを高める。その結果、浸炭鋼部品の曲げ疲労強度が高まる。Niが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、Ni含有量が0.05%以上であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の強度が過剰に高くなる。この場合、鋼材の被削性が低下する。したがって、Ni含有量は0~0.05%未満であり、含有される場合、0.05%未満である。Ni含有量の好ましい下限は0.01%以上であり、さらに好ましくは0.02%以上である。Ni含有量の好ましい上限は0.04%以下であり、さらに好ましくは0.03%以下である。
V:0.50%以下
バナジウム(V)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、V含有量は0%であってもよい。含有される場合、つまり、V含有量が0%超の場合、Vは析出物(炭化物、窒化物、炭窒化物等)を形成し、ピンニング効果により、ガス浸炭処理時における鋼材の結晶粒の粗大化を抑制する。その結果、鋼材を素材として製造された浸炭鋼部品の曲げ疲労強度が高まる。Vが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、V含有量が0.50%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の硬さが過剰に高くなる。この場合、鋼材の被削性が低下する。したがって、V含有量は0~0.50%であり、含有される場合、0.50%以下である。V含有量の好ましい下限は0.01%以上であり、より好ましくは0.05%以上であり、さらに好ましくは0.10%以上である。V含有量の好ましい上限は0.40%以下であり、さらに好ましくは0.30%以下である。
W:0.50%以下
タングステン(W)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、W含有量は0%であってもよい。含有される場合、つまり、W含有量が0%超の場合、Wは鋼の焼入れ性を高めて、鋼材を素材として製造された浸炭鋼部品の芯部の硬さを高める。その結果、浸炭鋼部品の曲げ疲労強度が高まる。Wが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。一方、W含有量が0.50%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の強度が過剰に高くなる。この場合、鋼材の被削性が低下する。したがって、W含有量は0~0.50%であり、含有される場合、0.50%以下である。W含有量の好ましい下限は0.01%以上であり、より好ましくは0.05%以上であり、さらに好ましくは0.08%以上である。W含有量の好ましい上限は0.40%以下であり、さらに好ましくは0.30%以下である。
Co:0.50%以下
コバルト(Co)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Co含有量は0%であってもよい。含有される場合、つまり、Co含有量が0%超の場合、Coは鋼の焼入れ性を高めて、鋼材を素材として製造された浸炭鋼部品の芯部の硬さを高める。その結果、浸炭鋼部品の曲げ疲労強度が高まる。Coが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。一方、Co含有量が0.50%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の強度が過剰に高くなる。この場合、鋼材の被削性が低下する。したがって、Co含有量は0~0.50%であり、含有される場合、0.50%以下である。Co含有量の好ましい下限は0.01%以上であり、より好ましくは0.05%以上であり、さらに好ましくは0.08%以上である。Co含有量の好ましい上限は0.40%以下であり、さらに好ましくは0.30%以下である。
Nb:0.100%以下
ニオブ(Nb)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Nb含有量は0%であってもよい。含有される場合、つまり、Nb含有量が0%超の場合、Nbは析出物(炭化物、炭窒化物等)を形成し、ピンニング効果により、ガス浸炭処理時における鋼材の結晶粒の粗大化を抑制する。その結果、鋼材を素材として製造された浸炭鋼部品の曲げ疲労強度が高まる。Nbが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、Nb含有量が0.100%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、Nb析出物が粗大化して、ピンニング効果が得られなくなる。したがって、Nb含有量は0~0.100%であり、含有される場合、0.100%以下である。Nb含有量の好ましい下限は0.001%以上であり、さらに好ましくは0.005%以上である。Nb含有量の好ましい上限は0.060%以下であり、より好ましくは0.050%以下であり、さらに好ましくは0.040%以下であり、さらにより好ましくは0.030%以下である。
Ti:0.100%以下
チタン(Ti)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Ti含有量は0%であってもよい。含有される場合、つまり、Ti含有量が0%超の場合、Tiは析出物(炭化物、窒化物、炭窒化物等)を形成し、ピンニング効果により、ガス浸炭処理時における鋼材の結晶粒の粗大化を抑制する。その結果、鋼材を素材として製造された浸炭鋼部品の曲げ疲労強度が高まる。Tiが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、Ti含有量が0.100%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、Ti析出物が粗大化して、ピンニング効果が得られなくなる。したがって、Ti含有量は0~0.100%であり、含有される場合、0.100%以下である。Ti含有量の好ましい下限は0.001%以上であり、より好ましくは0.005%以上であり、さらに好ましくは0.010%以上である。Ti含有量の好ましい上限は0.075%以下であり、さらに好ましくは0.050%以下である。
B:0.0010%以下
ボロン(B)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、B含有量は0%であってもよい。含有される場合、つまり、B含有量が0%超の場合、Bは鋼の焼入れ性を高めて、鋼材を素材として製造された浸炭鋼部品の芯部の硬さを高める。その結果、浸炭鋼部品の曲げ疲労強度が高まる。Bが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。一方、B含有量が0.0010%を超えれば、その効果が飽和する。したがって、B含有量は0~0.0010%であり、含有される場合、0.0010%以下である。B含有量の好ましい下限は0.0001%以上であり、より好ましくは0.0002%以上であり、さらに好ましくは0.0003%以上である。B含有量の好ましい上限は0.0009%以下であり、より好ましくは0.0008%以下であり、さらに好ましくは0.0007%以下である。
本実施形態の鋼材はさらに、Feの一部に代えて、Ca、Mg、及び、希土類元素(REM)からなる群から選択される1種以上を含有してもよい。これらの元素は任意元素であり、いずれも、浸炭鋼部品の曲げ疲労強度を高める作用を有する。
Ca:0.0100%以下
カルシウム(Ca)任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Ca含有量は0%であってもよい。含有される場合、つまり、Ca含有量が0%超の場合、Caは鋼材中の硫化物を改質し、熱間加工時において硫化物が延伸するのを抑制する。その結果、浸炭鋼部品の曲げ疲労強度が高まる。Caが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、Ca含有量が0.0100%を超えれば、上記効果が飽和する。したがって、Ca含有量は0~0.0100%であり、含有される場合、0.0100%以下である。Ca含有量の好ましい下限は0.0001%以上であり、さらに好ましくは0.0002%以上である。Ca含有量の好ましい上限は0.0075%以下であり、さらに好ましくは0.0050%以下である。
Mg:0.0015%未満
マグネシウム(Mg)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Mg含有量は0%であってもよい。含有される場合、つまり、Mg含有量が0%超の場合、Mgは鋼材中の硫化物を改質し、熱間加工時において硫化物が延伸するのを抑制する。その結果、浸炭鋼部品の曲げ疲労強度が高まる。Mgが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、Mg含有量が0.0015%以上であれば、上記効果が飽和する。したがって、Mg含有量は0%以上、0.0015%未満であり、含有される場合、0.0015%未満である。Mg含有量の好ましい下限は0.001%以上であり、さらに好ましくは0.002%以上である。Mg含有量の好ましい上限は0.0013%以下であり、さらに好ましくは0.0011%以下である。
希土類元素:0.0100%以下
希土類元素(REM)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、REM含有量は0%であってもよい。含有される場合、つまり、REM含有量が0%超の場合、REMは鋼材中の硫化物を改質し、熱間加工時において硫化物が延伸するのを抑制する。その結果、浸炭鋼部品の曲げ疲労強度が高まる。REMが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、REM含有量が0.0100%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、粗大な酸化物の形成が促進される。この場合、浸炭鋼部品の曲げ疲労強度が低下する。したがって、REM含有量は0~0.0100%であり、含有される場合、0.0100%以下である。REM含有量の好ましい下限は0.0001%以上であり、より好ましくは0.0010%以上であり、さらに好ましくは0.0020%以上である。REM含有量の好ましい上限は0.0098%以下であり、さらに好ましくは0.0097%以下である。
ここでいうREMは、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)の2元素と、ランタン(La)からルテチウム(Lu)までの15元素(ランタノイド)の総称を指す。本実施形態のREMは、これら希土類元素から選択される1種以上で構成されるものであってよい。また本実施形態のREM含有量とは、希土類元素の合計量である。
本実施形態の鋼材はさらに、Feの一部に代えて、Te、Bi、Pb、Sn及びSbからなる群から選択される1種以上を含有してもよい。これらの元素は任意元素であり、いずれも、鋼材の被削性を高める。
Te:0.0080%未満
テルル(Te)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Te含有量は0%であってもよい。含有される場合、つまり、Te含有量が0%超の場合、Teは鋼材の被削性を高める。Teが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、Te含有量が0.0080%以上であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の熱間加工性が低下する。したがって、Te含有量は0%以上、0.0080%未満であり、含有される場合、0.0080%未満である。Te含有量の好ましい下限は0.001%以上であり、さらに好ましくは0.002%以上である。Te含有量の好ましい上限は0.0075%以下であり、さらに好ましくは0.0070%以下である。
Bi:0.500%以下
ビスマス(Bi)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Bi含有量は0%であってもよい。含有される場合、つまり、Bi含有量が0%超の場合、Biは鋼の被削性を高める。Biが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、Bi含有量が0.500%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の熱間加工性が低下する。したがって、Bi含有量は0~0.500%であり、含有される場合0.500%以下である。Bi含有量の好ましい下限は0.001%以上であり、より好ましくは0.005%以上であり、さらに好ましくは0.010%以上である。Bi含有量の好ましい上限は0.400%以下であり、より好ましくは0.300%以下であり、さらに好ましくは0.200%以下であり、さらにより好ましくは0.100%以下であり、さらにより好ましくは0.080%以下であり、さらにより好ましくは0.070%以下である。
Pb:0.09%以下
鉛(Pb)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Pb含有量は0%であってもよい。含有される場合、つまり、Pb含有量が0%超の場合、Pbは鋼材の被削性を高める。Pbが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、Pb含有量が0.09%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の熱間加工性が低下する。したがって、Pb含有量は0~0.09%であり、含有される場合、0.09%以下である。Pb含有量の好ましい下限は0.01%以上であり、さらに好ましくは0.02%以上である。Pb含有量の好ましい上限は0.08%以下であり、さらに好ましくは0.07%以下である。
Sn:0.015%以下
すず(Sn)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Sn含有量は0%であってもよい。含有される場合、つまり、Sn含有量が0%超の場合、Snは鋼材の被削性を高める。Snが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、Sn含有量が0.015%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の熱間加工性が低下する。したがって、Sn含有量は0~0.015%であり、含有される場合、0.015%以下である。Sn含有量の好ましい下限は0.001%以上であり、さらに好ましくは0.005%以上である。Sn含有量の好ましい上限は0.013%以下であり、さらに好ましくは0.010%以下である。
Sb:0.015%以下
アンチモン(Sb)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Sb含有量は0%であってもよい。含有される場合、つまり、Sb含有量が0%超の場合、Sbは鋼材の被削性を高める。Sbが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、Sb含有量が0.015%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の熱間加工性が低下する。したがって、Sb含有量は0~0.015%であり、含有される場合、0.015%以下である。Sb含有量の好ましい下限は0.0001%以上であり、さらに好ましくは0.0005%以上である。Sb含有量の好ましい上限は0.013%以下であり、さらに好ましくは0.010%以下である。
以上、本実施形態の鋼材および浸炭鋼部品の化学組成を説明したが、上記の例示される任意元素を含むことなく、本実施形態に係る浸炭鋼部品は、その課題を解決することができる。従って、上記に例示される任意元素の含有量の下限値は0%である。
[式(1)~式(2)について]
本実施形態の鋼材および浸炭鋼部品の芯部の化学組成は、曲げ疲労強度ならびに面疲労強度の両立の観点から、下記式(1)、(2)を満たすことが重要である。つまり、本実施形態の鋼材および浸炭鋼部品の芯部の化学組成は、各元素含有量が上述の本実施形態の範囲内であることを前提として、さらに、式(1)~式(2)を満たす。
21≦(2Si+Mn+3Cr)/3Mo≦248 ・・・(1)
1.6≦Al/N≦2.8 ・・・(2)
ただし、(1)、(2)の式中の元素記号は、その元素の質量%での含有量を示す。 以下、各式について説明する。
[式(1)について]
式(1)の左辺に関し、F1=(2Si+Mn+3Cr)/3Moと定義する。
F1は、鋼材を素材として浸炭鋼部品を製造する製造工程中のガス浸炭処理において、鋼材表面における軟質な不完全焼入れ層の生成のし易さを示す指標である。Si、Mn、及びCrはいずれも酸化物形成元素であるため、ガス浸炭処理において、鋼中に固溶しているこれらの元素と雰囲気中のOにより粒界酸化層が形成され、さらにその近傍では合金元素の欠乏により不完全焼入れ組織が形成される。不完全焼入れ組織は軟質であることから、鋼部品の曲げ疲労強度を低下させる。そのため、粒界酸化層形成の観点からは、Si、Mn、及びCrを鋼へ含有させることは好ましくない。しかしながらこれらの元素はいずれも焼入れ性を高め、かつ軟化抵抗の向上に有効であることから、面疲労強度を高めるために必須である。一方、Moはこれらの元素に比べ合金コストが非常に高いものの、酸化物を形成させずに焼入れ性を大幅に向上される元素である。そこで、酸化物形成元素であるSi,Mn,Crと、酸化物を形成せず焼入れ性を高め、不完全焼入れ組織の抑制に効果的なMoの含有比率を適正化することで、浸炭部品の軟化抵抗や浸炭性を向上させつつ、不完全焼入れ層を安定的に抑制できる。
本実施形態の鋼材の化学組成において、各元素含有量が上記の範囲内であることを前提として、F1が21~248であれば、つまり、上記式(1)を満たせば、Si、Mn、Cr含有量に対するMo含有量が適切な範囲となり、ガス浸炭処理中における不完全焼入れ層を抑制できる。その結果、化学組成中の各元素含有量が上述の範囲内であって、後述の式(2)を満たすことを前提として、鋼材を素材として製造された浸炭鋼部品において、優れた面疲労強度と曲げ疲労強度が得られる。
F1が21未満である場合、Moの含有量に対して、Si、Mn、及びCrの含有量が極めて低い。この場合、不完全焼入れ組織を抑制する効果が飽和するだけでなく、十分な焼戻し軟化抵抗を得られにくい。そのため、浸炭鋼部品の面疲労強度が低下する。一方、F1が248を超える場合、Moの含有量に対して、Si、Mn、及びCrの含有量が過剰に高い。この場合、ガス浸炭処理中において、鋼材表層で粒界酸化層が厚く形成されるため、これに伴い不完全焼き入れ組織層が形成されやすい。そのため、浸炭鋼部品の曲げ疲労強度が低下する。
F1の好ましい下限は25以上であり、より好ましくは30以上であり、さらに好ましくは35以上である。F1の好ましい上限は240以下であり、より好ましくは230以下であり、さらに好ましくは220以下であり、さらにより好ましくは210以下である。なお、F1は計算により得られた値の小数第一位を四捨五入して得られた値である。
[式(2)について]
式(2)の左辺に関し、F2=Al/Nと定義する。
F2は、曲げ疲労強度に影響するAl介在物(酸化物系介在物)と、析出物であるAlNとに関する指標である。Al介在物は、浸炭鋼部品の曲げ疲労において、割れの起点となる。また、粗大なAlN(析出物)も、浸炭鋼部品の曲げ疲労において、割れの起点となる。したがって、Al介在物及び粗大なAlN(析出物)の生成をなるべく抑える方が好ましい。そのためには、鋼材中のN含有量とAl含有量のバランスを最適させることが重要である。
本実施形態の鋼材の化学組成において、各元素含有量が上記の範囲内であることを前提として、F2が1.6未満であれば、N含有量がAl含有量に対して過剰に多い組成となり、この場合、鋼材中の粗大なAlN(析出物)が過剰に多くなる。そのため、浸炭鋼部品の曲げ疲労強度が低下する。
一方、本実施形態の鋼材の化学組成において、各元素含有量が上記の範囲内であることを前提として、F2が2.8を超えれば、Al含有量がNl含有量よりも過剰に多い組成となり、この場合、Nと結合しなかったAl介在物(酸化系介在物)が過剰に多くなる。そのため、この場合も、浸炭鋼部品の曲げ疲労強度が低下する。
本実施形態の鋼材の化学組成において、各元素含有量が上記の範囲内であることを前提として、F2が1.6~2.8であれば、鋼材中のAl介在物および、粗大なAlN(析出物)の生成を十分に抑制できる。そのため、式(1)を満たすことを前提として、浸炭鋼部品の曲げ疲労強度を高めることができる。
F2の好ましい下限は1.7以上であり、より好ましくは1.8以上であり、さらに好ましくは1.9以上である。F2の好ましい上限は2.7以下であり、より好ましくは2.6以下であり、さらに好ましくは2.5以下である。なお、F2は計算により得られた値の小数第二位を四捨五入して得られた値である。
[鋼材のミクロ組織]
本実施形態の鋼材のミクロ組織は特に限定されない。本実施形態の鋼材の課題は、鋼材を素材として浸炭鋼部品を製造した場合において、高い曲げ疲労強度及び高い面疲労強度を得ることである。そして、鋼材を素材として浸炭鋼部品を製造する製造工程において、後述するとおり、例えば、鋼材に対してガス浸炭処理が実施される。ガス浸炭処理では、部品形状に成形した鋼部品をAc3変態点温度以上に加熱するため、鋼部品のミクロ組織はオーステナイトに変態する。そのため、得られる浸炭鋼部品の組織は、素材である鋼材の組織の影響がなくなる。したがって、浸炭鋼部品の素材である鋼材のミクロ組織は特に限定せずともよい。鋼材のミクロ組織としては、例えば、フェライト、パーライト、およびベイナイトの1種以上からなる組織(もしくは混合組織)であってもよい。
本実施形態の鋼材は、化学組成中の各元素含有量が上述の範囲であって、さらに、式(1)~式(2)を満たすことが重要である。これにより、本実施形態の鋼材を素材として、ガス浸炭処理を実施して浸炭鋼部品を製造した場合、浸炭鋼部品において、高い曲げ疲労強度及び面疲労強度(ピッチング特性)が得られる。
[鋼材の用途]
本実施形態の鋼材は、ガス浸炭処理を施して製造される浸炭鋼部品の素材として好適である。特に、自動車や建設車両等の機械製品に利用される歯車に代表される、曲げ疲労強度と面疲労強度(ピッチング特性)とを求められる浸炭鋼部品の素材として好適である。
[浸炭鋼部品]
本実施形態の浸炭鋼部品は、上述の本実施形態の鋼材を素材としてガス浸炭処理(ガス浸炭処理又はガス浸炭窒化処理)を施して製造される。浸炭鋼部品は、例えば、自動車及び建設車両等に用いられる機械部品であり、例えば、歯車である。
本実施形態の浸炭鋼部品は、硬化層と、硬化層よりも内部の芯部とを備える。硬化層は、ガス浸炭処理によりCが侵入して硬化した層である。具体的には、ガス浸炭処理を実施した場合、硬化層は浸炭層に相当し、ガス浸炭窒化処理を実施した場合、硬化層は浸炭窒化層に相当する。芯部は、硬化層よりも内部の部分であって、ガス浸炭によるCの侵入及び拡散の影響がない領域である。硬化層と芯部とは周知のミクロ組織観察により区別可能であることは、当業者において周知の技術事項である。硬化層は、例えば、部品表面から深さ約1.5mmまでの領域である。
[芯部について]
本実施形態の浸炭鋼部品の芯部の化学組成は、上述の本実施形態の鋼材の化学組成と同じである。具体的には、本実施形態の浸炭鋼部品の芯部の化学組成は、質量%で、C:0.09~0.27%、Si:0.35%超、0.90%未満、Mn:0.25%以上、0.60%未満、P:0.030%以下、S:0.100%以下、Cr:1.45%超、2.90%以下、Mo:0.010~0.150%、Al:0.045%以下、及びN:0.0250%下、を含有し、残部はFe及び不純物からなり、式(1)および式(2)を満たす。
21≦(2Si+Mn+3Cr)/3Mo≦248 ・・・(1)
1.6≦Al/N≦2.8 ・・・(2)
ただし、(1)、(2)の式中の元素記号は、その元素の質量%での含有量を示す。
[硬化層について]
硬化層の構成は次のとおりである。
(i)浸炭鋼部品の表面から30μm深さまでの領域でのC濃度が質量%で0.60%以上である。
(ii)浸炭鋼部品の表面から30μm深さ位置でのミクロ組織は、マルテンサイトからなる組織、又は、マルテンサイト及び残留オーステナイトからなる組織であり、残留オーステナイトの体積率は0~50%である。
以下、各構成について説明する。
[表層領域のC濃度]
浸炭鋼部品の表面、つまり硬化層の表面から30μm深さまでの領域(以下、表層領域という)は、硬化層に含まれる。表層領域でのC濃度は質量%で0.60%以上である。硬化層のC濃度は芯部のC濃度よりも高い。表層領域でのC濃度が質量%で0.60%以上であれば、硬化層の硬さが十分に硬い。そのため、浸炭鋼部品において、十分な面疲労強度及び十分な曲げ疲労強度が得られる。
表層領域でのC濃度の好ましい下限は0.65%以上であり、より好ましくは0.70%以上であり、さらに好ましくは0.75%以上である。表層領域でのC濃度の上限は特に限定されない。表層領域でのC濃度の好ましい上限は例えば、1.30%以下であり、より好ましくは1.20%以下であり、さらに好ましくは1.10%以下である。
[表層のC濃度の測定方法]
表層領域のC濃度は次の方法で測定できる。
硬化層の表面から30μm深さまで切削加工を実施して、表面から30μm深さまでの表層領域の切粉を採取する。採取した切粉を用いて化学分析を実施する。具体的には、採取した切粉に対して、周知の高周波燃焼法(燃焼-赤外線吸収法)を実施して、C濃度を得る。より具体的には、上述の切粉を酸素気流中で高周波誘導加熱により燃焼して、発生した二酸化炭素,一酸化炭素を検出し、C濃度(質量%)を求める。得られたC濃度(質量%)を、浸炭鋼部品の表面から30μm深さまでの領域(表層領域)におけるC濃度(質量%)と定義する。
[硬化層のミクロ組織]
浸炭鋼部品、つまり硬化層の表面から30μm深さ位置は、硬化層に含まれる。浸炭鋼部品の表面から30μm深さ位置でのミクロ組織は、マルテンサイトからなる組織、又は、マルテンサイト及び残留オーステナイトからなる組織であり、残留オーステナイトの体積率は0~50%である。つまり、ミクロ組織がマルテンサイト及び残留オーステナイトからなる場合、残留オーステナイトの体積率は50%以下である。
浸炭鋼部品の表面から30μm深さ位置での残留オーステナイトの体積率が50%を超えれば、硬化層の硬さが低下する。この場合、浸炭鋼部品の曲げ疲労強度が低くなる。一方、浸炭鋼部品の表面から30μm深さ位置での残留オーステナイトの体積率が50%以下であれば、硬化層が十分な硬さを有する。そのため、浸炭鋼部品の曲げ疲労強度が高まる。浸炭鋼部品の表面から30μm深さ位置での残留オーステナイトの体積率の好ましい上限は40%以下であり、より好ましくは35%以下であり、さらに好ましくは30%以下である。残留オーステナイトの体積率は低い方が好ましい。しかしながら、残留オーステナイトを0%にすることは困難で、製造コストも高くなる。したがって、工業生産を考慮した場合、残留オーステナイトの好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは1%以上である。なお、浸炭鋼部品の30μm深さ位置より浅い領域は、30μm深さ位置よりも浸炭の影響を強く受けるものの、部品表面に近いため残留オーステナイトの周囲の組織による拘束力が小さい。また、当該領域は、粒界酸化層起因の合金元素の欠乏に伴う不完全焼入れ組織を生じ得る領域でもある。これらのことから、当該領域では30μm深さ位置よりも残留オーステナイト量が小さくなる。したがって、浸炭鋼部品の表面から30μm深さ位置での残留オーステナイトの体積率が50%以下であれば、30μm深さ位置より浅い領域の残留オーステナイトの体積率も50%以下である。
[残留オーステナイトの体積率の測定方法]
残留オーステナイトの体積率は、次の方法で測定される。
浸炭鋼部品の表面から30μm深さ位置まで電解研磨で研磨して、表面から30μm深さ位置を露出させる。次いで、X線回折装置を用いて、露出させた面の任意の位置にX線を照射して、残留オーステナイトの体積率(%)を測定する。残留オーステナイトの体積率はX線回折で得られた(211)bccの回折ピークの積分強度と、(220)fccの回折ピークの積分強度との比(積分強度比)から算出する。具体的には、残留オーステナイトの体積率(%)は、(211)bcc(α相)の積分強度をIαとし、(220)fcc(γ相)の積分強度をIγとしたとき、次の式から求めることができる。
残留オーステナイトの体積率=Iγ/(RIα+Iγ)
ここで、R=0.36746である。
以上の構成を有する浸炭鋼部品は、芯部の化学組成中の各元素含有量が上述の範囲内であり、かつ、式(1)~式(2)を満たす。さらに、浸炭鋼部品の表面から30μm深さまでの領域(表層領域)でのC濃度が0.60%以上であり、浸炭鋼部品の表面から30μm深さ位置でのミクロ組織は、マルテンサイトからなる組織、又は、マルテンサイト及び残留オーステナイトからなる組織であり、残留オーステナイトの体積率は0~50%である。そのため、本実施形態の浸炭鋼部品は高い曲げ疲労強度及び高い面疲労強度を有する。
[鋼材の製造方法]
本実施形態の鋼材の製造方法の一例を説明する。以降に説明する鋼材の製造方法は、本実施形態の鋼材を製造するための一例である。したがって、上述の構成を有する鋼材は、以降に説明する製造方法以外の他の製造方法により製造されてもよい。しかしながら、以降に説明する製造方法は、本実施形態の鋼材の製造方法の好ましい一例である。
本実施形態の鋼材の製造方法の一例は、素材を準備する工程(素材準備工程)と、素材を熱間加工して鋼材を製造する工程(熱間加工工程)とを備える。以下、各工程について説明する。
[素材準備工程]
素材準備工程では、本実施形態の鋼材の素材を準備する。具体的には、化学組成中の各元素含有量が本実施形態の範囲内であり、かつ、式(1)~式(2)を満たす溶鋼を製造する。精錬方法は特に限定されず、周知の方法を用いればよい。例えば、周知の方法で製造された溶銑に対して転炉での精錬(一次精錬)を実施する。転炉から出鋼した溶鋼に対して、周知の二次精錬を実施する。二次精錬において、成分調整の合金元素の添加を実施して、各元素含有量が本実施形態の範囲内であり、かつ、式(1)~式(2)を満たす化学組成を有する溶鋼を製造する。
上述の精錬方法により製造された溶鋼を用いて、周知の鋳造法により鋼材の素材を製造する。例えば、溶鋼を用いて造塊法によりインゴットを製造する。また、溶鋼を用いて連続鋳造法によりブルームを製造してもよい。以上の方法により、鋼材の素材(インゴット又はブルーム)を製造する。
[熱間加工工程]
熱間加工工程では、素材準備工程にて準備された素材(インゴット又はブルーム)に対して、熱間加工を実施して、本実施形態の鋼材(例えば、棒鋼)を製造する。熱間加工方法は、熱間鍛造でもよいし、熱間圧延でもよい。以下の説明では、熱間加工が熱間圧延である場合について説明する。この場合、熱間加工工程は例えば、分塊圧延工程と、仕上げ圧延工程とを含む。
(分塊圧延工程)
分塊圧延工程では、素材を熱間圧延してビレットを製造する。具体的には、分塊圧延工程では、分塊圧延機により素材に対して熱間圧延(分塊圧延)を実施して、ビレットを製造する。分塊圧延機の下流に連続圧延機が配置されている場合、分塊圧延後のビレットに対してさらに、連続圧延機を用いて熱間圧延を実施して、さらにサイズの小さいビレットを製造してもよい。分塊圧延工程での加熱温度は周知の範囲で足りる。加熱温度は例えば、1000~1300℃である。
(仕上げ圧延工程)
仕上げ圧延工程では、分塊圧延工程で製造されたビレットに対して連続圧延機を用いて熱間圧延を実施して、鋼材(例えば、棒鋼)を製造する。仕上げ圧延工程での加熱温度は周知の温度で足りる。加熱温度は例えば900~1250℃である。熱間圧延後の鋼材は常温まで冷却される。冷却方法は特に限定されないが、例えば、放冷である。
以上の製造方法により、本実施形態の鋼材が製造される。なお、上述の製造方法は、本実施形態の鋼材を製造するための製造方法の一例である。したがって、上述の製造方法以外の他の方法により、本実施形態の鋼材を製造してもよい。つまり、化学組成中の各元素含有量が本実施形態の範囲内であり、式(1)~式(2)を満たす鋼材であれば、製造方法は限定されない。
上述の製造方法の一例では、素材準備工程を実施した後、熱間加工工程を実施している。しかしながら、本実施形態の鋼材の製造方法は、素材準備工程を実施した後、熱間加工工程を実施しなくてもよい。つまり、本実施形態の鋼材は、鋳造材(インゴット又はブルーム、ビレット)であってもよい。
また、素材準備工程後の鋼材、又は、熱間加工工程後の鋼材に対して、周知の焼準処理、及び/又は、周知の球状化焼鈍を実施してもよい。球状化焼鈍では例えば、焼鈍温度を720~780℃とし、焼鈍温度での保持時間を3~8時間とする。さらに、焼鈍温度から600℃までの冷却時間を4時間以上(8時間以下)とする。その後、放冷する。
[浸炭鋼部品の製造方法]
本実施形態の浸炭鋼部品の製造方法の一例を説明する。以降に説明する浸炭鋼部品の製造方法は、本実施形態の鋼材を素材として用いて浸炭鋼部品を製造するための一例である。したがって、上述の構成を有する浸炭鋼部品は、以降に説明する製造方法以外の他の製造方法により製造されてもよい。しかしながら、以降に説明する製造方法は、本実施形態の浸炭鋼部品の製造方法の好ましい一例である。
浸炭鋼部品の製造方法は、熱間加工工程又は冷間加工工程と、機械加工工程と、熱処理工程とを備える。熱間加工工程及び冷間加工工程は、いずれかの工程が実施される。
[熱間加工工程]
熱間加工工程が実施される場合、本実施形態の鋼材に対して熱間加工を実施して、所定の形状に成形して中間品を製造する。熱間加工は例えば、熱間鍛造である。熱間加工工程での加熱温度は例えば、1000~1300℃である。熱間加工後の鋼材は放冷(空冷)される。
[冷間加工工程]
冷間加工工程が実施される場合、本実施形態の鋼材に対して周知の焼ならしや球状化焼鈍(上記参照)を実施した後、冷間加工を実施して、所定の形状に成形して中間品を製造する。冷間加工は、例えば、冷間鍛造である。冷間加工の条件は特に制限されない。
[機械加工工程]
熱間加工工程もしくは冷間加工工程後の中間品に対し、さらに機械加工を実施してもよい。機械加工工程では、中間品に対して、機械加工を実施して、所定形状の中間品を製造する。機械加工を実施することにより、熱間加工工程又は冷間加工工程だけでは困難な、精密形状を浸炭鋼部品に付与することができる。機械加工は例えば、切削や穿孔である。部品が歯車の場合には、例えば、ブローチ加工等により加工する。
[熱処理工程]
得られた中間品に対して、熱処理を実施する。ここで、「熱処理」とは、ガス浸炭処理工程と、焼戻し工程とを含む。ガス浸炭処理工程は、ガス浸炭工程及び焼入れ工程を含む。以下、熱処理工程の一例として、ガス浸炭処理工程を説明する。
[ガス浸炭処理工程]
ガス浸炭処理工程は、ガス浸炭工程と、焼入れ(急冷)工程とを含む。以下、ガス浸炭工程、焼入れ工程について説明する。
(ガス浸炭工程)
図1は、ガス浸炭工程S10及び焼入れ工程S20でのヒートパターンの一例を示す図である。図1の縦軸はガス浸炭処理時における処理温度(℃)であり、横軸は時間(分)である。ガス浸炭工程S10は、加熱工程S0と、浸炭工程S1と、拡散工程S2とを含む。
加熱工程S0では、炉内に装入された中間品を浸炭温度Tcまで加熱する。加熱工程S0での浸炭温度Tcは、例えば900~1100℃である。
浸炭工程S1では、所定のカーボンポテンシャルCP1の雰囲気中において、上記浸炭温度Tcで中間品を所定時間(保持時間t1)保持して、浸炭処理を実施する。浸炭工程S1におけるカーボンポテンシャルCP1は、例えば0.6~1.3%であり、浸炭温度Tcでの保持時間t1は、例えば60分以上である。
拡散工程S2では、所定のカーボンポテンシャルCP2の雰囲気中において、浸炭温度Tcで所定時間(保持時間t2)保持する。ここで、拡散工程S2でのカーボンポテンシャルCP2は例えば0.6~1.3%であり、浸炭温度Tcでの保持時間t2は、例えば30分以上である。拡散工程S2でのカーボンポテンシャルCP2は、浸炭工程S1でのカーボンポテンシャルCP1よりも低くする方が好ましい。
(焼入れ工程)
ガス浸炭工程S10後の中間品に対して焼入れ工程S20を実施する。焼入れ工程S20では、ガス浸炭工程S10後の中間品をAr3点以上の焼入れ温度Tsで保持後、中間品を急冷して焼入れする。焼入れ温度Tsでの保持時間t3は特に限定されないが、例えば、15分~60分である。焼入れ温度Tsは、浸炭温度Tcよりも低い方が好ましい。焼入れ処理における冷却方法は、油冷又は水冷である。具体的には、冷却媒体である油又は水を入れた冷却浴に、焼入れ温度に保持された中間品を浸漬して急冷する。
[焼戻し工程]
焼入れ工程後の中間品に対して、周知の焼戻し工程を実施する。焼戻し温度は例えば、100~200℃である。焼戻し温度での保持時間は例えば、90分~150分である。
[その他の工程]
本実施形態の浸炭鋼部品の製造方法はさらに、ショットピーニング工程及び仕上げ研削加工工程を含んでもよい。これらの工程は任意の工程である。
(ショットピーニング工程)
ショットピーニング工程は任意の工程であり、実施しなくてもよい。実施する場合、ショットピーニング工程では、熱処理工程後の中間品に対して、ショットピーニング処理を実施する。ショットピーニング処理を実施することにより、浸炭鋼部品の硬化層中の残留オーステナイトが加工誘起変態してマルテンサイトとなる。その結果、硬化層中の残留オーステナイト体積率を低下させることができる。ショットピーニング処理は例えば、直径が1.0mm以下のカットワイヤ又はショット粒を用い、アークハイトが0.3mm以上とし、カバレージを300%以上とするのが好ましい。
(仕上げ研削加工工程)
仕上げ研削加工工程は任意の工程であり、実施しなくてもよい。実施する場合、仕上げ研削加工では、熱処理工程後又はショットピーニング工程後の中間品に対して、仕上げ切削加工を実施して、表面性状を整える。
以上の製造工程により、本実施形態の浸炭鋼部品を製造できる。なお、上述の製造方法は、本実施形態の浸炭鋼部品を製造するための製造方法の一例である。したがって、上述の製造方法以外の他の方法により、本実施形態の浸炭鋼部品を製造してもよい。つまり、浸炭鋼部品の芯部の化学組成中の各元素含有量が本実施形態の範囲内であり、式(1)~式(2)を満たし、浸炭鋼部品の表面から30μm深さまでの領域でのC濃度が0.60%以上であり、浸炭鋼部品の表面から30μm深さ位置でのミクロ組織はマルテンサイトからなり、又は、マルテンサイト及び残留オーステナイトからなり、残留オーステナイトの体積率は0~50%であれば、浸炭鋼部品の製造方法は特に限定されない。
以下、実施例により本実施形態の鋼材及び浸炭鋼部品の効果をさらに具体的に説明する。以下の実施例での条件は、本実施形態の鋼材及び浸炭鋼部品の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例である。したがって、本実施形態の鋼材及び浸炭鋼部品はこの一条件例に限定されない。
[鋼材の製造]
表1に示す化学組成を有する溶鋼を製造した。
Figure 2023056778000001
表1の溶鋼を用いて、造塊法によりインゴットを製造した。インゴットの長手方向に垂直な断面は180mm×180mmの矩形であった。製造したインゴットを常温まで放冷した。なお、表1における下線は、本発明の範囲外の組成であることを示し、空欄は、対応する元素含有量が、実施形態に規定の有効数字(最小桁までの数値)において、0%であることを意味する。また、表1の「F1」欄の「*」は、Mo含有量が他の実施例における有効数字において0%であったため、式(1)を計算できなかったことを意味する。
得られたインゴットを1200℃で2時間加熱した。加熱後のインゴットに対して熱間加工(熱間鍛伸)を実施して、直径40mm、長さ1000mmの鋼材(棒鋼)を製造した。熱間加工後の鋼材を常温まで放冷した。放冷後の鋼材に対して、焼準処理を実施した。焼準処理での処理温度は925℃とし、処理温度での保持時間は90分であった。保持時間経過後の鋼材を放冷した。放冷時の鋼材の冷却速度は0.3~0.9℃/秒であった。以上の工程により、各試験番号の鋼材(棒鋼)を製造した。
なお、試験番号36の鋼材の化学組成は、JIS G 4805(2019)に規定されたSCr420に相当する化学組成である。本実施例では、後述する各種試験において、試験番号36の鋼材を「基準鋼材」として評価した。
[浸炭鋼部品試験片の製造]
製造された各試験番号の鋼材を用いて、各試験番号において、以下の3種類の浸炭鋼部品試験片を作製した。
(1)小ローラ試験片
図2に本実施例で作製した小ローラ試験片の側面図を示す。図2中の数字は、寸法(単位はmm)を示す。図2中の「φ」は直径を意味する。図2中の逆三角形の記号は、JIS B 0601(1982)の解説表1に記載されている表面粗さを示す「仕上げ記号」を意味する。仕上げ記号に付した「G」は、JIS B 0122(1978)に規定の研削を示す加工方法の略号を意味する。小ローラ試験片は、面疲労強度を測定するための試験片である。小ローラ試験片は各試験番号で複数本用意した。
具体的には、まず、各試験番号の鋼材を機械加工して、小ローラ試験片の粗形状を有する粗試験片を製造した。粗試験片の中心軸は、棒鋼の中心軸と同軸とした。粗試験片に対して、ガス浸炭処理(ガス浸炭焼入れ及び焼戻し)を実施した。具体的には、カーボンポテンシャルCPが1.0%の雰囲気中において、粗試験片を930℃で180分保持した(浸炭工程)。その後、カーボンポテンシャルCPを0.8%とし、粗試験片を930℃で120分保持した(拡散工程)。その後、粗試験片を870℃まで降温し、870℃で30分保持した後、60℃の油で油冷した(焼入れ工程)。油冷後の粗試験片に対して、焼戻し処理を実施した。焼戻し温度は180℃であり、焼戻し温度での保持時間は120分であった。
焼戻し後、粗試験片の中央部の円筒部に対して研削加工を実施して、図2に示す直径26mmの円筒部(試験面部)に仕上げた。このとき、JIS B 0601(2001)に準拠し、算術平均粗さRaが0.6~0.8μm、最大高さRzが2.0~4.0μmとなるように、直径26mmの円筒部の表面を仕上げた。研削深さは約10μmであった。なお、小ローラ試験片を用いた実際のローラーピッチング試験では、直径26mmの円筒部(試験面部)を大ローラと接触させ、所定の面圧を加えたうえで回転させる。
さらに、一部の試験番号の粗試験片に対して、ショットピーニングを実施した(表2中の「ショットピーニング」欄で「有」と記載)。ショットピーニングでは、市販の直径0.6mmのラウンドカットワイヤを投射材とした。さらに、アークハイトを0.4mmとし、カバレージを300%とした。ショットピーニングは、図2に示す直径26mmの円筒部の外周面に対して実施した。残りの試験番号の粗試験片に対しては、ショットピーニングを実施しなかった(表2中の「ショットピーニング」欄で「無」と記載)。以上の製造工程により、小ローラ試験片を作製した。
(2)回転曲げ疲労試験片
図3に本実施例で作製した回転曲げ疲労試験片の側面図を示す。図3中の数字は、寸法(単位はmm)を示す。図3中の「φ」は直径を意味する。図3中の「R」は曲率半径を意味する。回転曲げ疲労試験片は、回転曲げ疲労強度を測定するための試験片である。
具体的には、まず、各試験番号の鋼材を機械加工して、回転曲げ疲労試験片の粗試験片を製造した。粗試験片の中心軸は、棒鋼の中心軸と同軸とした。粗試験片に対して、ガス浸炭処理(ガス浸炭焼入れ及び焼戻し)を実施した。具体的には、カーボンポテンシャルCPが1.0%の雰囲気中において、粗試験片を930℃で180分保持した(浸炭工程)。その後、カーボンポテンシャルCPを0.8%とし、粗試験片を930℃で120分保持した(拡散工程)。その後、粗試験片を870℃まで降温し、870℃で30分保持した後、60℃の油で油冷した(焼入れ工程)。油冷後の粗試験片に対して、焼戻し処理を実施した。焼戻し温度は180℃であり、焼戻し温度での保持時間は120分であった。
さらに、一部の試験番号に対して、焼戻し後の粗試験片に対して、ショットピーニング処理を実施した(表2中の「ショットピーニング」欄で「有」と記載)。ショットピーニング処理では、市販の直径0.6mmのラウンドカットワイヤを投射材とした。さらに、アークハイトを0.4mmとし、カバレージを300%とした。ショットピーニング処理は、回転曲げ疲労試験片の切り欠き部に相当する場所に対して実施した。残りの試験番号の粗試験片に対しては、ショットピーニング処理を実施しなかった(表2中の「ショットピーニング」欄で「無」と記載)。
ショットピーニング処理後、又は、焼戻し処理後の粗試験片の表面に対して切削加工を実施して、図3に示す寸法の回転曲げ疲労試験片を作製した。なお、回転曲げ疲労試験片の長手方向中央位置に形成された切り欠き部には、表面性状を整える切削加工は実施しなかった。以上の製造工程により、回転曲げ疲労試験片を作製した。
(3)硬化層調査用試験片
硬化層調査用試験片は各試験番号で2本用意した。硬化層調査用試験片は直径26mm長さ100mmの円柱状の試験片とした。
具体的には、まず、各試験番号の鋼材を機械加工して、直径26mm、長さ100mmの円柱状の粗試験片を2本作製した。粗試験片の中心軸は、棒鋼の中心軸と同軸とした。粗試験片に対して、ガス浸炭処理(ガス浸炭焼入れ及び焼戻し)を実施した。具体的には、カーボンポテンシャルCPが1.0%の雰囲気中において、粗試験片を930℃で180分保持した(浸炭工程)。その後、カーボンポテンシャルCPを0.8%とし、粗試験片を930℃で120分保持した(拡散工程)。その後、粗試験片を870℃まで降温し、870℃で30分保持した後、60℃の油で油冷した(焼入れ工程)。油冷後の粗試験片に対して、焼戻し処理を実施した。焼戻し温度は180℃であり、焼戻し温度での保持時間は120分であった。その後、小ローラ試験片と同様に、粗試験片の外周面に対して研削加工を実施して、外周面を仕上げた。このとき、JIS B 0601(2001)に準拠し、算術平均粗さRaが0.6~0.8μm、最大高さRzが2.0~4.0μmとなるように、直径26mmの粗試験片の外周面を仕上げた。研削深さは約10μmであった。
さらに、一部の試験番号の粗試験片に対して、ショットピーニング処理を実施した(表2中の「ショットピーニング」欄で「有」と記載)。ショットピーニング処理では、市販の直径0.6mmのラウンドカットワイヤを投射材とした。さらに、アークハイトを0.4mmとし、カバレージを300%とした。ショットピーニング処理は、粗試験片の外周面に対して実施した。残りの試験番号の粗試験片に対しては、ショットピーニング処理を実施しなかった(表2中の「ショットピーニング」欄で「無」と記載)。以上の製造工程により、硬化層調査用試験片を作製した。
[二円筒転がり疲労試験に用いる大ローラ試験片の製造]
さらに、面疲労強度を測定するための二円筒転がり疲労試験に用いる大ローラ試験片を次の方法で製造した。
JIS G 4805(2008)に規定のSUJ2に相当する化学組成を有する、直径140mmの円柱素材から、図4に示す形状を有する大ローラ試験片の粗試験片を切り出した。図4中の数値は、寸法(単位はmm)を示す。また、図4中の逆三角形の記号は、JIS B 0601(1982)の解説表1に記載されている表面粗さを示す「仕上げ記号」を意味する。仕上げ記号に付した「G」は、JIS B 0122(1978)に規定の研削を示す加工方法の略号を意味する。
切り出した粗試験片に対して、焼入れを実施した。焼入れ温度は870℃とし、焼入れ温度での保持時間は90分とした。保持時間経過後、60℃の油で急冷した。焼入れ後の粗試験片の外周面に対して切削加工を実施して仕上げた。算術平均粗さRaが0.6~0.8μm、最大高さRzが2.0~4.0μmとなるように、外周面を仕上げた。以上の製造工程により、大ローラ試験片を作製した。
[評価試験]
上記各種試験片を用いて、以下の評価試験を実施した。
(硬化層のC濃度測定試験)
各試験番号の硬化層調査用試験片を用いて、試験片の表面から30μm深さまでの領域におけるC濃度を次の方法で測定した。
まず、硬化層調査用試験片の表面から30μm深さまで旋削加工を実施して、切粉を採取した。採取した切粉を用いて化学分析を実施した。具体的には、採取した切粉を酸に溶解させて溶液を得た。得られた溶液に対して、周知の高周波燃焼法(燃焼-赤外線吸収法)を実施して、C濃度を得た。より具体的には、上述の溶液を酸素気流中で高周波誘導加熱により燃焼して、発生した二酸化炭素を検出し、C濃度(質量%)を求めた。得られたC濃度(質量%)を、浸炭鋼部品の表面から30μm深さまでの領域(表層領域)におけるC濃度(質量%)と定義した。
(硬化層の残留オーステナイト体積率測定試験)
各試験番号の硬化層調査用試験片を用いて、浸炭鋼部品の表面から20μm深さ位置での残留オーステナイトの体積率を次の方法で求めた。
まず、浸炭鋼部品の表面から20μm深さ位置まで電解研磨で研磨して、表面から20μm深さ位置を露出させた。次に、X線回折装置を用いて、露出させた面の任意の位置にX線を3回照射して、平均の残留オーステナイトの体積率(%)を測定した。残留オーステナイトの体積率はX線回折で得られた(211)bccの回折ピークの積分強度と、(220)fccの回折ピークの積分強度との比(積分強度比)から算出した。具体的には、残留オーステナイトの体積率(%)は、(211)bcc(α相)の積分強度をIαとし、(220)fcc(γ相)の積分強度をIγとしたとき、次の式から求めた。
残留オーステナイトの体積率=Iγ/(RIα+Iγ)
ここで、R=0.36746とした。
(面疲労強度測定試験(二円筒転がり疲労試験))
小ローラ試験片及び大ローラ試験片を用いた二円筒転がり疲労試験を実施して、面疲労強度を次のとおり求めた。なお、試験機として、コマツエンジニアリング株式会社製のローラーピッチング試験機「RP201」を用いた。
図5に示すとおり、小ローラ試験片10の直径26mmの円筒部と、大ローラ試験片20の外周面中央位置(直径130mmの外周部分)とを接触させながら転動させた。接触時の面圧はヘルツ面圧で1800~3500MPaとした。小ローラ試験片10の回転数を1500rpmとした。小ローラ試験片10の周速は123m/分とし、大ローラ試験片10の周速は172m/分とした。試験中、小ローラ試験片と大ローラ試験片との接触部分に潤滑油を供給した。潤滑油はオートマチック用オイルとし、油温を100℃、油量を1.0L/分とした。すべり率は-40%とした。
試験での打切繰り返し回数は、一般的な鋼の疲労限度を示す2.0×10回とした。小ローラ試験片においてピッチングが発生せずに2.0×10回に達した最大面圧(MPa)を、小ローラ試験片の疲労限度とした。
ピッチング発生の検出は、試験機に備え付けられた振動計によって行った。振動発生後に、小ローラ試験片と大ローラ試験片の両方の回転を停止させ、ピッチング発生と回転数を確認した。
本実施例においては、歯車部品への適用を想定し、試験番号36のSCr420規格を満たす鋼材(基準鋼材)の小ローラ試験片の疲労限度を基準値とした。疲労限度が基準鋼材の1.15倍以上であった場合、面疲労強度に優れると判断した(表2中の「面疲労強度」欄で「○」)。一方、疲労限度が基準鋼材の1.15倍未満であった場合、面疲労強度が低いと判断した(表2中の「面疲労強度」欄で「×」)。
(回転曲げ強度測定試験(回転曲げ疲労試験))
回転曲げ疲労試験片を用いて、JIS Z 2274(1978)に規定の「金属材料の回転曲げ疲れ試験方法」に準拠した回転曲げ疲労試験を実施した。試験は常温、大気雰囲気中で実施し、回転数を3000rpmとした。応力負荷繰り返し回数が10サイクル後において破断しなかった最大応力を、曲げ疲労強度(MPa)とした。得られた曲げ疲労強度が、基準鋼材である試験番号37の曲げ疲労強度の1.10倍以上であれば、曲げ疲労強度に優れると判断した(表2中の「曲げ疲労強度」欄で「○」)。一方、得られた曲げ疲労強度が、基準鋼材である試験番号37の曲げ疲労強度の1.10倍未満であれば、曲げ疲労強度が低いと判断した(表2中の「曲げ疲労強度」欄で「×」)。
[評価結果]
試験結果を表2に示す。
Figure 2023056778000002
表2を参照して、試験番号1~19の鋼材の化学組成中の各元素含有量は適切であり、さらに、F1およびF2が式(1)および式(2)を満たした。そのため、ガス浸炭処理して製造した浸炭鋼部品では、浸炭鋼部品の表面から30μm深さまでの領域におけるC濃度が質量%で0.60%以上であり、浸炭鋼部品の表面から30μm深さ位置でのミクロ組織は、マルテンサイトと残留オーステナイトとからなり、残留オーステナイトの体積率は50%以下であった。その結果、優れた曲げ疲労強度及び優れた面疲労強度が得られた。
一方、試験番号20~35の鋼材では、化学組成中の各元素含有量が本発明の範囲を外れているか、F1もしくがF2が式(1)、式(2)を満たさなかった。そのため、面疲労強度や曲げ疲労強度が低かった。
以上、本発明の実施の形態を説明した。しかしながら、上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。したがって、本発明は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変更して実施することができる。

Claims (8)

  1. 質量%で、
    C :0.09~0.27%、
    Si:0.35%超、0.90%未満、
    Mn:0.25%以上、0.60%未満、
    P :0.030%以下、
    S :0.100%以下、
    Cr:1.45%超、2.90%以下、
    Mo:0.010~0.150%、
    Al:0.045%以下、及び
    N :0.0250%下、
    を含有し、残部はFe及び不純物からなり、下記式(1)および式(2)を満たす、鋼材。
    21≦(2Si+Mn+3Cr)/3Mo≦248 ・・・(1)
    1.6≦Al/N≦2.8 ・・・(2)
    ただし、(1)、(2)の式中の元素記号は、その元素の質量%での含有量を示す。
  2. さらに、質量%で、
    Cu:0.50%以下、
    Ni:0.05%未満、
    V:0.50%以下、
    W:0.50%以下、
    Co:0.50%以下、
    Nb:0.100%以下、
    Ti:0.100%以下、及び
    B :0.0010%以下、
    からなる群から選択される1種以上を含有する、請求項1に記載の鋼材。
  3. さらに、質量%で、
    Ca:0.0100%以下、
    Mg:0.0015%未満、及び、
    希土類元素:0.0100%以下、
    からなる群から選択される1種以上を含有する、請求項1または2に記載の鋼材。
  4. さらに、質量%で、
    Te:0.0080%未満、
    Bi:0.500%以下、
    Pb:0.09%以下、
    Sn:0.015%以下、
    Sb:0.015%以下、及び
    からなる群から選択される1種以上を含有する、請求項1~3の何れか一項に記載の鋼材。
  5. 浸炭鋼部品であって、
    硬化層と、
    前記硬化層よりも内部の芯部とを備え、
    前記芯部の組成が、質量%で、
    C :0.09~0.27%、
    Si:0.35%超、0.90%未満、
    Mn:0.25%以上、0.60%未満、
    P :0.030%以下、
    S :0.100%以下、
    Cr:1.45%超、2.90%以下、
    Mo:0.010~0.150%、
    Al:0.045%以下、及び
    N :0.0250%下、
    を含有し、残部はFe及び不純物からなり、下記式(1)および式(2)を満たし、
    前記硬化層の表面から30μm深さまでの領域におけるC濃度は、質量%で0.60%以上であり、
    前記浸炭鋼部品の表面から30μm深さ位置でのミクロ組織は、マルテンサイトからなる組織、もしくはマルテンサイトおよび残留オーステナイトからなる組織であり、
    前記残留オーステナイトの体積分率は、0~50%であることを特徴とする、浸炭鋼部品。
    21≦(2Si+Mn+3Cr)/3Mo≦248 ・・・(1)
    1.6≦Al/N≦2.8 ・・・(2)
    ただし、上記式(1)、式(2)の式中の元素記号は、その元素の質量%での含有量を示す。
  6. さらに、芯部の組成が、質量%で、
    Cu:0.50%以下、
    Ni:0.05%未満、
    V:0.50%以下、
    W:0.50%以下、
    Co:0.50%以下、
    Nb:0.100%以下、
    Ti:0.100%以下、及び
    B :0.0010%以下、
    からなる群から選択される1種以上を含有する、請求項5に記載の浸炭鋼部品。
  7. さらに、芯部の組成が、質量%で、
    Ca:0.0100%以下、
    Mg:0.0015%未満、及び、
    希土類元素:0.0100%以下、
    からなる群から選択される1種以上を含有する、請求項5または6に記載の浸炭鋼部品。
  8. さらに、芯部の組成が、質量%で、
    Te:0.0080%未満、
    Bi:0.500%以下、
    Pb:0.09%以下、
    Sn:0.015%以下、
    Sb:0.015%以下、及び
    からなる群から選択される1種以上を含有する、請求項5~7の何れか一項に記載の浸炭鋼部品。
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