JP4904106B2 - 転動部品 - Google Patents

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この発明は、転動部品に関し、特に、製紙や鉄鋼関連の機械など、高温用途で用いられ、潤滑条件が厳しく、表面発熱があり、表面に引張応力が作用するとともに、冷却用の水がかかるような過酷な条件で使用される転動部品に関する。
製紙機械のカレンダロール支持軸受や鉄鋼圧延設備のロール支持軸受などでは、雰囲気温度が高いため、軸受潤滑油の粘度が低下し劣化が進む結果、潤滑が適切に行われない問題がある。さらに、軸受を構成する鉄鋼材料が冷却用の水、水蒸気の影響で早期剥離する問題がある。これは、高温のため、通常のせん断応力での転動疲労損傷に先行して、油膜切れにより生じる金属接触や、表面軟化により鋼材表面に生じる引張応力などの影響によって、表面損傷(ピーリング、異物噛みこみによる早期表面起点型剥離、割れ、摩耗)や、潤滑剤や水からの水素発生・侵入モードでの早期剥離が生じるためである。また、高温用途では、使用時の経年寸法変化、寸法変化によるクリープを避けるため大きなはめあいを与えて使用されることによる割れの発生、などの問題もある。
このような問題点に対し、素材の改良や熱処理の実施により、軸受の高強度化や長寿命化を達成する対策が提案されている(たとえば特許文献1〜6参照)。
特開平7−19252号公報 特開2000−144331号公報 特開2003−183771号公報 特開2005−291342号公報 特開2005−344783号公報 特開平5−179404号公報
これらは、主に高合金化およびこれに浸炭窒化を組み合わせて焼戻軟化抵抗性(耐熱性)を付与し、高温用途の転動疲労寿命を向上させ長寿命を図る技術である。しかしながら、合金成分が多いために、鋼材価格が高価、浸炭窒化されにくい、浸炭窒化層が硬く析出物も多いため加工性が劣る、炭化物が粗大化・偏析しやすく割れ強度が劣るなどの問題がある。また、水がかかるような用途や潤滑剤の分解がおこるような用途では水素感受性が高い問題もある。
それゆえに、この発明の主たる目的は、通常の転動疲労寿命の向上とともに、上記の高温用途特有の損傷(ピーリング、割れ、摩耗)や、高温での軸受使用時に問題になる潤滑剤の分解による雰囲気環境からの水素侵入モードでの強度低下による剥離に対して強い材質を、化学成分、熱処理技術面から開発することである。すなわち、化学成分と材質の最適化により、析出物を小さくし、加工性を保持しつつ耐熱性を確保し、水素侵入時の強度低下も抑えることが可能な材質を開発することを目的とする。
この発明に係る転動部品は、0.3質量%以上0.4%質量%以下の炭素と、0.2質量%以上0.5質量%未満の珪素と、0.3質量%以上0.8質量%以下のマンガンと、0.5質量%以上1.2質量%以下のニッケルと、1.6質量%以上2.5質量%以下のクロムと、0.1質量%以上0.7質量%以下のモリブデンと、0.3質量%以上0.8質量%以下のバナジウムとを含有し、残部鉄および不可避的不純物からなり、バナジウムの含有量はモリブデンの含有量以上であり、モリブデンの含有量とバナジウムの含有量との和は珪素の含有量の2倍以上であり、クロムの含有量とモリブデンの含有量とバナジウムの含有量との和は2.3質量%以上3.5質量%以下である鋼から構成される。そして、転動部品の表層部には、硬化処理層が形成される。硬化処理層の硬度は、Hv700以上780以下である。硬化処理層に分布する炭化物の最大粒径は、10μm以下、より好ましくは5μm以下である。硬化処理層における炭化物の面積率は、7%以上25%以下、より好ましくは20%以下である。硬化処理層より内側の領域である内部の硬度は、Hv500以上600以下である。
この場合は、著しい水素侵入条件下での強度低下に影響することが懸念される元素である珪素の含有量が低減されるとともに、バナジウム、ニッケル、モリブデンの3成分がバランス良く添加される。これにより、耐熱性、耐表面損傷性、耐摩耗性、靱性を確保しながら、耐水素侵入特性(耐水素脆性)を向上することができる。また、一般的な浸炭鋼に比べて素材の炭素量(炭素の含有量)を高めた鋼が採用され、当該鋼からなる部品に対して浸炭または浸炭窒化が実施される。それとともに、浸炭または浸炭窒化により表層部に形成される硬化処理層における炭化物の大きさ、および面積率が適切な範囲に調整される。これにより転動部品の表面に圧縮応力が形成され、かつ表層部が十分に硬化されるとともに、内部硬度も十分に確保される。さらに、大型の炭化物を応力集中源とする破損が抑制される。その結果、転動部品において、焼付、ピーリング、摩耗、表面起点の割れや剥離などの発生が抑制される。また、異物混入条件における強度が向上し表面への異物圧痕生成が抑制される。また、靭性が高められ、表面における応力集中による亀裂発生が抑制される。したがって、転動部品の耐久性が向上する。さらに、転動部品の静的割れ強度および疲労割れ強度の両立が図られるとともに、製造工程における加工の容易性(加工性)が向上し、かつ浸炭または浸炭窒化に要する時間が短縮されて生産性も向上することができる。
ここで、転動部品の表層部とは、転動部品の表面から深さ0.05mm〜0.1mmまでの層をいう。表層部には、浸炭焼入または浸炭窒化焼入と焼戻処理とによって、硬化処理層が形成される。硬化処理層とは、浸炭処理や浸炭窒化処理によって形成される、鋼が含有する炭素濃度や窒素濃度が高められた結果、鋼の硬度が向上した層をいう。焼戻後の硬化処理層の硬度をHv700以上(HRC60以上)とすることにより、転動部品の表面硬度を確保でき、転動疲労寿命を確保することができる。一方、炭化物の最大粒径および硬化処理層における炭化物の面積率の制限から、素材の炭素量が制限されるため、Hv780を超える硬化処理層の硬度は得られにくいことを考慮し、焼戻後の硬化処理層の硬度の上限値はHv780以下とする。なお、焼戻温度は180℃以上300℃以下、好ましくは220℃以上300℃以下、より好ましくは240℃以上300℃以下で焼戻処理される。
また、鋼の成分組成を考慮すると、炭化物を形成する傾向の強い元素(炭化物形成元素)が多いため、炭化物量が増加し、個々の炭化物も粗大化しやすい。そのため、硬化処理層に分布する炭化物の最大粒径を10μm以下とすることにより、粗大な炭化物が応力集中源となることを防止することができる。厳しい使用環境を考慮すると、炭化物は細かい方が応力集中源にならないので好ましく、炭化物の最大粒径を5μm以下にすればさらに優れたものにできる。また、硬化処理層における炭化物の面積率を25%以下とすることにより、過多な炭化物が加工性(研削性)や加工精度を阻害することを防止することができる。また、異物混入条件での転動疲労寿命低下を防止することができる。加工性の点からは、炭化物の面積率を20%以下に抑えると難加工の問題も出難いためより好ましい。一方、炭化物の面積率が7%未満では、転動疲労寿命が低下する可能性があるので、炭化物の面積率を7%以上25%以下の範囲とする。なお、炭化物とは、たとえばFeC(セメンタイト)またはクロムやモリブデンなどの鋼が含有する合金成分によってFeが置換された炭化物(MCと示される)、もしくはM23やMなどである。
さらに、硬化処理層より内側の領域、すなわち転動部品の表面から深さ1.0mm以上の領域である内部の硬度を、Hv600以下とすることにより、靱性を持たせ、異物に対する抵抗性を与えるとともに残留圧縮応力を表層に形成することができる。一方、内部の硬度をHv500以上とすることにより、衝撃荷重など過大な荷重が作用した場合にも内部割れの発生を防止することができる。
ここで、この発明の転動部品を構成する鋼の成分範囲を上記の範囲に限定した理由について説明する。
炭素:0.3質量%以上0.4%質量%以下
割れ強度を確保し、表層に圧縮応力を付与するには浸炭軸受にする必要があるが、従来のような低炭素鋼では内部硬度が低く、大きな荷重や衝撃が作用した場合にかえって低強度になる。このため、炭素量の下限は内部硬度確保のため、0.3質量%とした。一方、素材の炭素量が高いと加工性が悪くなり、また浸炭後の表層圧縮応力や靱性を確保出来なくなるので、0.4質量%を上限とした。
珪素:0.2質量%以上0.5質量%未満
従来、珪素は安価でありながら、耐熱性を与える元素のため、積極的に活用してきた。しかし、高温用途など潤滑油膜が形成されない条件では、金属新生面が生じやすく、金属新生面が触媒となって潤滑油が分解することによる水素侵入が起こりやすい。その場合、珪素が多いと水素脆化しやすい懸念がある。また珪素は、素材の加工性を低下させるので、添加量を制限した。耐熱性を他の元素で補うことを考え、また、他の元素添加による加工性、旋削・研削性の低下をカバーするため、珪素の添加は0.5質量%未満とした。一方、焼戻軟化抵抗を増大させるため、珪素量の下限値を0.2質量%とした。
マンガン:0.3質量%以上0.8質量%以下
マンガンも転動部品の焼入性の向上、転動疲労寿命の向上のためには必須元素であるが、珪素同様、加工性を阻害するので、他の元素を増やすことによる焼入性向上、転動疲労寿命向上とのバランスから、添加量の上限を0.8質量%に制限した。しかしながら、製鋼過程での脱酸に必須の元素であり、通常の高合金鋼に含まれるレベルである0.3質量%を下限値とした。
ニッケル:0.5質量%以上1.2質量%以下
ニッケルは転動部品の高温での転動疲労寿命確保に必須であり、高温での腐食への耐性向上などにも効果がある。このため、0.5質量%を下限とした。一方、ニッケルが多いと焼入後の残留オーステナイト量が増え所定の硬度が確保できず、また鋼材コストが上昇する。このため上限を1.2質量%とした。
クロム:1.6質量%以上2.5質量%以下
クロムも転動部品の転動疲労寿命や耐焼付性、耐摩耗性、高温硬度の確保には必須の元素である。またクロムは、焼戻軟化抵抗性の維持のためにも必要な元素である。通常の軸受鋼でもクロムは1.5質量%程度含まれており、高温用途で十分な効果を出すには、これより多い添加が必要になるので、1.6質量%以上とした。一方、クロムの含有量が多い場合、モリブデンやバナジウムなど他の炭化物構成元素とのかねあいや、大きな炭化物を形成し転動疲労寿命や割れ強度を低下させるので、2.5質量%を上限とした。
モリブデン:0.1質量%以上0.7質量%以下
モリブデンも焼入性向上、炭化物形成による焼戻軟化抵抗性付与の点から、クロム同様に高温での転動部品の転動疲労寿命確保、耐焼付性、耐摩耗性の確保に必須である。また、異物が混入する条件での応力集中による材料の疲労(軟化)を抑制するので、異物が混入する場合の長寿命化に有効である。さらに、モリブデン炭化物や炭窒化物が水素をトラップするとも言われ、水素脆性に対しても効果がある。一方、モリブデンは高価な元素であり、コスト面からできるだけ添加は少なく抑える必要があるので、クロム、バナジウムの添加量との関係から下限を0.1質量%、上限を0.7質量%とした。
バナジウム:0.3質量%以上0.8質量%以下
バナジウムは微細な炭化物を形成、粒界に析出して結晶粒を微細化して、転動部品の強度や靱性を向上させる。さらに、特定の炭化物が水素侵入時のトラップサイトとして働くことから、水素感受性を抑える機能を有する。そのため、水素が侵入するおそれのある条件で使用される転動部品の高強度化、長寿命化に効果がある。今回の鋼のように、高温で浸炭処理され、高温焼戻する鋼でその効果が顕著になるので、特に重要な元素である。また、転動部品の転動疲労寿命の長寿命化と安定化にも効果がある。これらの効果を出すには0.3質量%以上の添加が必要なため、最低添加量を0.3質量%に決定した。一方、バナジウムは高価な元素であり、コスト面からできるだけ添加は少なく抑える必要があるので、クロム、モリブデンの添加量との関係から上限を0.8質量%とした。
なお、リン、硫黄、アルミニウム、チタンなどの不純物元素は、軸受用鋼では通常低いレベルに抑えられており、この発明の転動部品の鋼種でも同様である。一般的な値として、以下の範囲に限定する。
リン:0.03質量%以下
偏析による靱性低下、転動疲労寿命の低下を防ぐため0.03質量%以下とした。
硫黄:0.03質量%以下
マンガンと結びつきマンガンの効果をなくし、また非金属介在物を形成するので、0.03質量%以下とした。
アルミニウム:0.05質量%以下
耐熱性は与えるが、非金属介在物の原因になりやすいので0.05質量%以下とした。
チタン:0.003質量%以下
非金属介在物であるTiNを形成し、転動部品の転動疲労寿命低下の原因となるとともに、水素が関与した場合の剥離起点になるので、0.003質量%以下とした。
また、珪素が水素関与条件で悪影響を及ぼす懸念があることから、珪素の含有量を下げるとともに、珪素の含有量の低減による耐熱性、耐焼付性の低下をクロム、モリブデン、バナジウムの添加により補完する必要がある。また、バナジウムの炭化物を多く出すためにはモリブデンと結合する炭素を抑える必要がある。よって、クロム、バナジウム、モリブデン、珪素の含有量には、以下の関係が必要である。
バナジウムの含有量は、モリブデンの含有量以上とする。水素感受性抑制に効果のあるバナジウム炭化物をより多く形成させ、転動部品の耐水素脆性を向上させるためである。
モリブデンの含有量とバナジウムの含有量との和は、珪素の含有量の2倍以上とする。転動部品の耐熱性および耐水素脆性の向上のためである。
クロムの含有量とモリブデンの含有量とバナジウムの含有量との和は、転動部品の耐熱性および転動疲労寿命および耐異物寿命の向上のため、下限を2.3質量%以上とする。一方、多すぎると大きな炭化物が形成され、転動疲労寿命がかえって低下し、割れ強度も低下するため、上限を3.5質量%以下とする。
上記転動部品において好ましくは、500℃での高温焼戻後における硬化処理層の硬度は、Hv550以上650以下である。
この場合は、焼戻抵抗性を図る指針として500℃高温焼戻後における硬化処理層の硬度をHv550以上とすることによって、高温での寿命、強度を維持することができる。なお好ましくは、高温焼戻条件は500℃以上の温度において1時間以上保持する条件である。一方、炭化物の最大粒径および硬化処理層における炭化物の面積率の制限から、素材の炭素量が制限されるため、Hv650を超える500℃高温焼戻後における硬化処理層の硬度は得られにくい。そして、これを達成するためには、製造コストの上昇を招来する特殊な熱処理等が必要となる。そのため、500℃高温焼戻後の硬化処理層の硬度の上限値はHv650以下とする。
上記転動部品において好ましくは、モリブデンの含有量とバナジウムの含有量との和は0.6質量%以上1.5質量%以下である鋼から構成される。
この場合は、モリブデンの含有量とバナジウムの含有量との和の下限値を規定することにより、転動部品の耐熱性および耐水素脆性をより向上させることができる。一方コスト面からできるだけ添加は少なく抑える必要があるので、上限値を規定することにより、転動部品の製造コストを抑制することができる。
以上のように、この発明に係る転動部品では、耐水素侵入特性(耐水素脆性)を向上するとともに、焼付、ピーリング、摩耗、表面起点の割れや剥離などの発生を抑制することができる。したがって、耐久性の向上した転動部品を提供することができる。
以下、図面に基づいてこの発明の実施の形態を説明する。なお、以下の図面において、同一または相当する部分には同一の参照番号を付し、その説明は繰返さない。
図1は、この発明の一実施の形態である転動部品を備える転がり軸受としての、深溝玉軸受の構成を示す断面模式図である。図2は、図1の要部を拡大して示す部分断面模式図である。図1および図2を参照して、この実施の形態における転がり軸受としての深溝玉軸受の構成について説明する。
図1において、この深溝玉軸受1は、転動部品としての環状の外輪2と、外輪2の内側に配置される転動部品としての環状の内輪3と、転動部品としての玉4と、円環状の保持器5とを備える。複数の玉4は、外輪2の内周面と内輪3の外周面とに接触し、かつ保持器5により周方向に所定のピッチで配置されることにより円環状の軌道上に転動自在に保持されている。以上の構成により、深溝玉軸受1の外輪2および内輪3は、互いに相対的に回転可能となっている。
この実施の形態の転動部品としての深溝玉軸受1の軌道輪(すなわち外輪2と内輪3)と、玉4とは、0.3質量%以上0.4%質量%以下の炭素と、0.2質量%以上0.5質量%未満の珪素と、0.3質量%以上0.8質量%以下のマンガンと、0.5質量%以上1.2質量%以下のニッケルと、1.6質量%以上2.5質量%以下のクロムと、0.1質量%以上0.7質量%以下のモリブデンと、0.3質量%以上0.8質量%以下のバナジウムとを含有し、残部鉄および不可避的不純物からなり、バナジウムの含有量はモリブデンの含有量以上であり、モリブデンの含有量とバナジウムの含有量との和は珪素の含有量の2倍以上であり、クロムの含有量とモリブデンの含有量とバナジウムの含有量との和は2.3質量%以上3.5質量%以下である鋼から構成される。
そして、転動部品の表層部には、硬化処理層が形成される。すなわち、図2において、外輪2の表層部に硬化処理層12が形成され、内輪3の表層部に硬化処理層13が形成され、玉4の表層部に硬化処理層14が形成される。硬化処理層12〜14の硬度は、Hv700以上780以下である。硬化処理層12〜14に分布する炭化物の最大粒径は、10μm以下である。硬化処理層12〜14における炭化物の面積率は、7%以上25%以下である。硬化処理層12〜14より内側の領域である内部の硬度は、Hv500以上600以下である。すなわち、転動部品は、耐熱性、耐表面損傷性、耐摩耗性、靱性を確保しながら、耐水素侵入特性(耐水素脆性)を向上する素材を用いている。そして深溝玉軸受1は、そのような転動部品を備えることから、高温かつ転動部品を構成する鋼中に水素が侵入する環境下においても、強度を保持することができ、そのため長寿命となっている。
さらに、この実施の形態の転動部品としての深溝玉軸受1の軌道輪(すなわち外輪2と内輪3)と、玉4とは、モリブデンの含有量とバナジウムの含有量との和は0.6質量%以上1.5質量%以下である鋼から構成される。そのため、耐熱性および耐水素脆性がより向上している。また、500℃での高温焼戻後における硬化処理層の硬度は、Hv550以上650以下である。そのため、高温の使用条件、たとえば200℃〜230℃の使用条件においても、製造コストの上昇を招来する特殊な熱処理等を実施することなく、深溝玉軸受1は十分な転動疲労寿命および強度を確保することができる。さらに、深溝玉軸受1の運転中に、油膜切れに伴う金属接触によって転動部品の転走面に生じる化学的に活性な金属新生面の触媒作用により、潤滑剤が分解され水素が発生する。または高温のため供給される冷却用の水から水素が発生する。そのため深溝玉軸受1は、雰囲気中に水素を含み、深溝玉軸受1を構成する鋼中に水素が侵入し得る雰囲気において運転される。このような苛酷な使用環境においても、耐水素侵入特性(耐水素脆性)を向上させた転動部品を備える深溝玉軸受1は、水素侵入による強度低下を抑制し強度を維持することができる。
図3は、転がり軸受の変形例であるスラストニードルころ軸受の構成を示す断面模式図である。図3を参照して、転がり軸受の変形例であるスラストニードルころ軸受の構成について説明する。図3において、スラストニードルころ軸受6は、基本的には図1および図2に基づいて説明した深溝玉軸受1と同様の構成を有している。しかし、スラストニードルころ軸受6は、軌道部材および転動体の構成において、深溝玉軸受1とは異なっている。
すなわち、スラストニードルころ軸受6は、円盤状の形状を有し、互いに一方の主面が対向するように配置される軌道部材としての一対の軌道輪8と、転動体としてのころ7と、円環状の保持器5とを備える。複数のころ7は、ころ転走面において、一対の軌道輪8の互いに対向する主面に形成される軌道輪転走面に接触し、かつ保持器5により周方向に所定のピッチで配置されることにより、円環状の軌道上に転動自在に保持される。以上の構成により、スラストニードルころ軸受6の一対の軌道輪8は、互いに相対的に回転可能となっている。
転動部品としてのスラストニードルころ軸受6の軌道輪8と、ころ7とは、図1に示される深溝玉軸受1の軌道輪(すなわち外輪2と内輪3)と玉4とに相当し、同様の構成を有する。図3においては図示されていないが、軌道輪8ところ7との表層部には、図2と同様の硬化処理層が形成される。そのため、スラストニードルころ軸受6は、高温かつ転動部品を構成する鋼中に水素が侵入する環境下においても、強度を保持することができ、そのため長寿命となっている。
図4は、転がり軸受の他の変形例である自動調心ころ軸受の構成を示す断面模式図である。図4を参照して、転がり軸受の他の変形例である自動調心ころ軸受の構成について説明する。図4において、自動調心ころ軸受9は、基本的には図1および図2に基づいて説明した深溝玉軸受1と同様の構成を有している。しかし、自動調心ころ軸受9は、外輪2の内周面は中心が軸受中心に一致する球面形状であり、内輪3の外周面には2列の軌道溝が形成され、外輪2と内輪3との間に、保持器5により保持される2列の樽型のころ7を有している。このような2列の樽型のころ7を有することにより、軸の傾きなどに対応する調心性が得られる。
転動部品としての自動調心ころ軸受9の軌道輪(すなわち外輪2と内輪3)と、ころ7とは、図1に示される深溝玉軸受1の軌道輪(すなわち外輪2と内輪3)と玉4とに相当し、同様の構成を有する。図4においては図示されていないが、外輪2と内輪3ところ7との表層部には、図2と同様の硬化処理層が形成される。そのため、自動調心ころ軸受9は、高温かつ転動部品を構成する鋼中に水素が侵入する環境下においても、強度を保持することができ、そのため長寿命となっている。したがって、自動調心ころ軸受9は、たとえば製紙機械のカレンダロール支持軸受に、特に好適に用いることができる。
図5は、転がり軸受のさらに他の変形例である四列円錐ころ軸受の構成を示す断面模式図である。図5を参照して、転がり軸受のさらに他の変形例である四列円錐ころ軸受の構成について説明する。図5において、四列円錐ころ軸受10は、基本的には図1および図2に基づいて説明した深溝玉軸受1と同様の構成を有している。しかし、四列円錐ころ軸受10は、環状の4つの外輪2と、外輪2の内側に配置される環状の2つの内輪3と、外輪2と内輪3との間に配置される複数の円錐状のころ7を有している。内輪3の外周面がそれぞれ2つの外輪2の内周面に対向するように、4つの外輪2と2つの内輪3とは配置される。さらに、複数のころ7は、外輪2の内周面のそれぞれに沿って、外輪2の内周面と内輪3の外周面とに接触し、周方向に所定のピッチで配置されることにより4列の円環状の軌道上に転動自在に保持される。以上の構成により、四列円錐ころ軸受10の外輪2および内輪3は、互いに相対的に回転可能となっている。
転動部品としての四列円錐ころ軸受10の軌道輪(すなわち外輪2と内輪3)と、ころ7とは、図1に示される深溝玉軸受1の軌道輪(すなわち外輪2と内輪3)と玉4とに相当し、同様の構成を有する。図5においては図示されていないが、外輪2と内輪3ところ7との表層部には、図2と同様の硬化処理層が形成される。そのため、四列円錐ころ軸受10は、高温かつ転動部品を構成する鋼中に水素が侵入する環境下においても、強度を保持することができ、そのため長寿命となっている。したがって、四列円錐ころ軸受10は、たとえば鉄鋼圧延設備のロール支持軸受に、特に好適に用いることができる。
次に、この発明の転動部品の製造方法を説明する。図6は、転動部品の製造方法の概略を示す流れ図である。図6を参照して、この発明の転動部品の製造方法を説明する。
まず工程(S100)において、0.3質量%以上0.4%質量%以下の炭素と、0.2質量%以上0.5質量%未満の珪素と、0.3質量%以上0.8質量%以下のマンガンと、0.5質量%以上1.2質量%以下のニッケルと、1.6質量%以上2.5質量%以下のクロムと、0.1質量%以上0.7質量%以下のモリブデンと、0.3質量%以上0.8質量%以下のバナジウムとを含有し、残部鉄および不可避的不純物からなり、バナジウムの含有量はモリブデンの含有量以上であり、モリブデンの含有量とバナジウムの含有量との和は珪素の含有量の2倍以上であり、クロムの含有量とモリブデンの含有量とバナジウムの含有量との和は2.3質量%以上3.5質量%以下である鋼から構成される鋼材を準備する鋼材準備工程が実施される。具体的には、たとえば上記成分を有する棒鋼や鋼線などが準備される。
次に工程(S200)において、上記鋼材を成形することにより、転動部品の概略形状に成形された成形部品を作製する成形工程が実施される。具体的には、たとえば上記棒鋼や鋼線などに対して鍛造、旋削などの加工が実施されることにより、図1に示される外輪2、内輪3、玉4などの概略形状に成形された成形部品が作製される。
次に工程(S300)において、成形部品を熱処理する熱処理工程が実施される。具体的には、成形工程(S200)において作製された成形部品に、浸炭または浸炭窒化処理後に焼入処理を施し、焼入処理後にさらに、焼戻温度180℃以上300℃以下、好ましくは220℃以上300℃以下、より好ましくは240℃以上300℃以下で焼戻処理される。この熱処理工程の詳細については後述する。
次に工程(S400)において、仕上げ工程が実施される。具体的には、熱処理工程が実施された成形部品に対して研削加工などの仕上げ加工が実施されることにより、外輪2、内輪3、玉4などが仕上げられる。これにより、この発明に係る転動部品としての外輪2、内輪3、玉4などが完成する。
次に、熱処理工程(S300)の詳細について説明する。図7は、転動部品の製造方法に含まれる熱処理工程における熱処理方法を説明する図である。図7において、横方向は時間を示しており右に行くほど時間が経過していることを示している。また、図7において、縦方向は温度を示しており上に行くほど温度が高いことを示している。図7を参照して、熱処理方法の詳細を説明する。
図7を参照して、成形工程(S200)において作製された成形部品は、A1点以上の温度である800℃以上1000℃以下の温度、たとえば950℃に加熱され、360分間以上600分間以下の時間、たとえば480分間保持される。このとき、成形部品は、雰囲気ガスのカーボンポテンシャルを成形部品の表層部が含有する炭素量以上に調整した雰囲気において加熱される。これにより、成形部品の表層部の炭素濃度が所望の濃度に調整される浸炭処理が実施される。その後、残留させる炭化物量や残留オーステナイト量を制御するために、一旦たとえば950℃から850℃程度まで温度を下げ、この温度でしばらく(たとえば30分間以上60分間以下の時間)保持して、組織を制御する。その後、成形部品が、たとえば油中に浸漬されることにより(油冷)、A1点以上の温度からMs点以下の温度に冷却される。これにより、浸炭焼入が完了し、成形部品は焼入硬化される。
ここで、A1点とは、鋼を加熱するときに、鋼の組織がフェライトからオーステナイトへ変態を開始する温度に相当する点を示す。また、Ms点とは、オーステナイト化した鋼を冷却するときに、鋼の組織がマルテンサイト化を開始する温度に相当する点を示す。また、カーボンポテンシャルとは、浸炭脱炭反応が平衡に達し鋼が含有する炭素濃度が一定の値となったときの、鋼の表層部が含有する炭素濃度を示し、鋼を加熱する雰囲気における浸炭能力を示す値である。すなわち、カーボンポテンシャルが高いほど浸炭能力が高い。雰囲気ガスのカーボンポテンシャルは、雰囲気ガスの温度と、雰囲気ガスの組成、すなわち一酸化炭素と酸素との濃度、あるいは一酸化炭素と二酸化炭素との濃度とを計測することにより、計算することができる。
さらに、焼入硬化された成形部品はA1点以下の温度である180℃以上300℃以下の温度、たとえば280℃に加熱され、30分間以上240分間以下の時間、たとえば120分間保持されて、その後室温の空気中で冷却される(空冷)。これにより、焼戻工程が完了する。以上の手順により、転動部品の熱処理工程(S300)が完了する。
図8は、転動部品の製造方法に含まれる熱処理工程における熱処理方法の変形例を説明する図である。図8において、横方向は時間を示しており右に行くほど時間が経過していることを示している。また、図8において、縦方向は温度を示しており上に行くほど温度が高いことを示している。図8を参照して、熱処理方法の変形例の詳細を説明する。
図8を参照して、成形工程(S200)において作製された成形部品は、A1点以上の温度である800℃以上1000℃以下の温度、たとえば950℃に加熱され、360分間以上600分間以下の時間、たとえば480分間保持される。このとき、成形部品は、雰囲気ガスのカーボンポテンシャルを成形部品の表層部が含有する炭素量以上に調整した雰囲気において加熱される。これにより、成形部品の表層部の炭素濃度が所望の濃度に調整される浸炭処理が実施される。その後、成形部品が、たとえば油中に浸漬されることにより(油冷)、A1点以上の温度からMs点以下の温度に冷却される。これにより、1次焼入が完了する。
さらに、1次焼入が実施された成形部品がA1点以上の温度である730℃以上900℃以下の温度、たとえば850℃に再び加熱される再加熱が実施され、その後30分間以上120分間以下の時間、たとえば50分間保持される。このとき、浸炭処理において調整された炭素濃度が所望の濃度となるように、たとえばRXガスを含む雰囲気において加熱される。さらに、成形部品が、たとえば油冷されることにより、A1点以上の温度からMs点以下の温度に急冷されて焼入硬化される。これにより、2次焼入が完了する。
さらに、2次焼入が完了した成形部品はA1点以下の温度である180℃以上300℃以下の温度、たとえば280℃に加熱され、30分間以上240分間以下の時間、たとえば120分間保持されて、その後室温の空気中で冷却される(空冷)。これにより、焼戻工程が完了する。以上の手順により、転動部品の熱処理工程(S300)が完了する。
上記の熱処理は、図7において説明した熱処理方法、すなわち浸炭処理に引き続いてそのまま1回焼入する熱処理方法(普通焼入)よりも、表層部を浸炭しつつ、割れ強度を向上させ、経年寸法変化率を減少することができる。また、オーステナイト結晶粒の粒径を普通焼入を行なう場合の2分の1以下としたミクロ組織を得ることができる。したがって、上記の熱処理により製造される転動部品は、転動疲労特性がより長寿命であり、割れ強度をより向上させ、経年寸法変化率をより減少させることができる。なお、オーステナイト結晶粒とは、焼入加熱中に相変態したオーステナイトの結晶粒のことであり、冷却によりマルテンサイトに変態した後も常温において残存しているものをいう。
図9は、転動部品の製造方法に含まれる熱処理工程における、熱処理方法の他の変形例を説明する図である。図9において、横方向は時間を示しており右に行くほど時間が経過していることを示している。また、図9において、縦方向は温度を示しており上に行くほど温度が高いことを示している。図9を参照して、熱処理方法の他の変形例の詳細を説明する。
図9を参照して、冷間加工などにより所定の寸法に仕上げられた成形部品は、A1点以上の温度である800℃以上1000℃以下の温度、たとえば920℃に加熱され、360分間以上600分間以下の時間、たとえば480分間保持される。このとき、成形部品は、雰囲気ガスのカーボンポテンシャルを、成形部品の表層部が含有する炭素量以上に保ち、さらに雰囲気ガスであるRXガスにアンモニアガスを添加した雰囲気において加熱される。これにより、成形部品の表層部の炭素濃度および窒素濃度が所望の濃度に調整される浸炭窒化処理が実施される。その後、成形部品をまずA1点以下の温度に冷却した後、室温(常温)まで冷却することなく再びA1点以上の温度である730℃以上860℃以下の温度、たとえば850℃に再び加熱される再加熱が実施され、その後30分間以上120分間以下の時間、たとえば50分間保持される。このとき、浸炭窒化処理において調整された炭素濃度および窒素濃度が所望の濃度となるように、たとえばRXガスを含む雰囲気において加熱される。さらに、成形部品が、たとえば油冷されることにより、A1点以上の温度からMs点以下の温度に急冷されて焼入硬化される。これにより、浸炭窒化焼入が完了する。
さらに、浸炭窒化焼入が完了した成形部品はA1点以下の温度である180℃以上300℃以下の温度、たとえば280℃に加熱され、30分間以上240分間以下の時間、たとえば120分間保持されて、その後室温の空気中で冷却される(空冷)。これにより、焼戻工程が完了する。以上の手順により、転動部品の熱処理工程(S300)が完了する。
これにより、一度焼入を実施し室温まで冷却した後に再加熱する場合に比べて、再加熱に要する時間およびエネルギーを小さくすることが可能となるため、製造コストを低減し得る点において有利である。なお、浸炭窒化後に引き続く冷却温度はA1点よりも低い温度、すなわち鉄のオーステナイトからフェライトへの変態点以下の温度であればよく、たとえば650℃以上700℃以下とすることができる。
上記熱処理工程(S300)により、転動部品の表層部には、硬化処理層が形成される。そして、硬化処理層の硬度はHv700以上780以下、硬化処理層に分布する炭化物の最大粒径は10μm以下、硬化処理層における炭化物の面積率は7%以上25%以下とし、また硬化処理層より内側の領域である内部の硬度は、Hv500以上600以下とすることができる。
以上説明した転動部品の製造方法により、著しい水素侵入条件下での強度低下に影響することが懸念される元素である珪素の含有量が低減されるとともに、バナジウム、ニッケル、モリブデンの3成分がバランス良く添加される。かつ、一般的な浸炭鋼に比べて炭素量を高めた鋼が素材として採用され、浸炭または浸炭窒化が実施されるとともに、浸炭または浸炭窒化により表層部に形成される硬化処理層における炭化物の大きさ、および面積率が適切な範囲に調整される。かつ、表層部および内部における硬度が適切な範囲に調整される。これにより、転動部品の表面に圧縮応力が形成され、かつ表層部が十分に硬化されるとともに、内部硬度も十分に確保される。よって、転動部品の静的割れ強度および疲労割れ強度の両立が図られる。さらに、大型の炭化物を応力集中源とする破損が抑制される。その結果、転動部品の耐熱性、靱性を確保しながら、耐水素侵入特性(耐水素脆性)を向上するとともに、焼付、ピーリング、摩耗、表面起点の割れや剥離などの発生が抑制される。したがって、高温かつ転動部品を構成する鋼中に水素が侵入する環境下においても、耐久性が向上し長寿命な転動部品および転がり軸受を製造することができる。さらに、製造工程における加工の容易性(加工性)が向上し、かつ浸炭または浸炭窒化に要する時間が短縮されて生産性(迅速浸炭性)も向上することができる。
以下、この発明の実施例1について説明する。まず、試験の対象となる試験片の作製方法について説明する。はじめに、表1に示す化学成分を有する鋼材を準備した。表1において、主要化学成分については、炭素(C)、珪素(Si)、マンガン(Mn)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)およびバナジウム(V)の各含有量が質量%で示されており、記載された成分の残部は鉄および不可避的不純物である。そして、上記鋼材を試験片の概略形状に成形し、成形部品とした。
Figure 0004904106
次に、図8に示す熱処理方法に基づき、熱処理を行なった。具体的には、成形部品を950℃に加熱し、このとき雰囲気ガスのカーボンポテンシャル=1.0となるよう調整して、浸炭処理を実施した。この温度で480分間保持し、浸炭処理および拡散処理を行なった。その後、温度を850℃に下げてから、成形部品を油中に浸漬して急冷し1次焼入を行なった。さらに成形部品を850℃に再加熱して50分間保持し、再度油中に浸漬して850℃から急冷し2次焼入を行なった。さらに、成形部品を280℃に加熱して120分間保持し、その後室温の空気中で冷却し、焼戻処理を行なった。
そして、熱処理後の成形部品に仕上げ加工を実施することにより、試験片を完成させた。なお、表1、表2および表3に示す通り、この発明に係る開発鋼に該当する鋼(No.1〜6)のほか、化学成分や材質が開発鋼と異なる鋼(No.7〜30)を比較鋼として評価した。それぞれの比較鋼が化学成分、材質において開発鋼と異なる点を、表1および表2の備考欄、表3の特徴欄に示した。また、一般的な軸受用鋼として、現用の軸受鋼JIS SUJ2(No.31)と、現用の浸炭鋼JIS SCM420(No.32)も併せて評価した。ただし、No.31とNo.32については、焼戻温度は180℃として試験片を作製した。
Figure 0004904106
Figure 0004904106
次に、試験条件について説明する。実施例1では上記試験片の硬度や炭化物の析出状態を調査する試験を行なった。後述する実施例2の転動疲労寿命試験用の試験片を用い、JIS Z2244に示される試験方法に基づいて、試験片の外周面のビッカース硬さ試験を行ない、試験片の表層部の硬さ(表層硬度)を調査した。また、試験片を切り出した断面についてビッカース硬さ試験を行ない、試験片の内部の硬さ(内部硬さ)を調査した。さらに、試験片を500℃に加熱し1時間保持した後、試験片の外周面のビッカース硬さ(500℃焼戻硬さ)を調査し、高温環境下で使用される場合を模擬した試験とした。
試験結果を表2に示す。表2において、表層硬度(単位:Hv)、内部硬さ(単位:Hv)、500℃焼戻硬さ(単位:Hv)が示されている。また、表層部に分布する炭化物の最大粒径(最大炭化物径、単位:μm)、表層部における炭化物の面積率(炭化物量、単位:%)が、併せて示されている。開発鋼(No.1〜6)は、いずれもHv700以上の表層硬度と、Hv500以上Hv600以下の内部硬さを有している。また、500℃焼戻硬度についても、開発鋼(No.1〜6)はいずれもHv570以上であり、高温焼戻後も硬度低下しにくいことを示している。一方、比較鋼の中には、表層硬度がHv700を満足できないものもある(No.29)。したがって、この発明に係る開発鋼が、転動部品として十分な表面硬度を確保することができ、靭性を持たせるとともに内部割れを防止できる内部硬さを有し、かつ高温での強度を維持することができることがわかる。なお、硬化処理層における炭化物の粒径は、転動部品を切り出した断面をピクリン酸アルコール溶液(ピクラル)を用いてエッチングした後に、光学顕微鏡により400倍に拡大して撮影した写真を用いて観察した。そして、任意の40視野分の写真において、写真中最大の炭化物の粒径を計測することにより、炭化物の最大粒径を求めた。また、硬化処理層における炭化物の面積率は、転動部品を切り出した断面を、ピクリン酸アルコール溶液(ピクラル)を用い腐食した後に、光学顕微鏡(400倍)で観察し、20視野分を画像解析し、0.5μm以上の粒径を有する炭化物を抽出することにより、炭化物の面積率を求めた。炭化物に関しては、一部の比較鋼で最大炭化物が粒径10μmより大きく(No.8、22、25)、炭化物量も25%を超えていた(No.7,8、25)。
以下、この発明の実施例2に付いて説明する。上述した作製方法により作製した試験片を用い、転動疲労寿命試験を行なった。転動疲労寿命試験の試験条件を表4に示す。
Figure 0004904106
転動疲労寿命試験は、φ12点接触試験試験機を用いて行なわれた。図10は、φ12点接触試験機の主要部の構成を示す概略正面図である。また、図11は、φ12点接触試験機の主要部の構成を示す概略側面図である。図10および図11を参照して、転動疲労寿命試験の試験機について説明する。
図10および図11を参照して、φ12点接触試験機20は、駆動ローラ22と、案内ローラ23と、鋼球24とを備えている。そして、転動疲労寿命試験片21は、駆動ローラ22によって駆動され、鋼球24と接触して回転する。鋼球24は、案内ローラ23にガイドされて、転動疲労寿命試験片21との間で高い面圧を及ぼし合いながら転動する。潤滑油は強制循環により給油される。以上のようにφ12点接触試験機20を運転し、5個の試験片を用いて、1個の試験片で場所を変えて2回の試験ができるので試験数は10回とし、試験片に剥離が発生するまでの荷重の負荷回数(寿命)を調査した。得られた寿命を統計的に解析し、累積破損確率が10%となる寿命を算出した。
次に試験結果について説明する。試験結果を表3に示す。表3には、各試験片の転動疲労寿命の、現用の軸受鋼(No.31)を1としたときの比を表している。また表3の備考欄に記載の通り、比較鋼および現用の軸受鋼・現用の浸炭鋼について、開発鋼より大きく劣る結果を下線により示す。開発鋼(No.1〜6)、比較鋼(No.7〜30)は全て、現用の軸受鋼(No.31)および現用の浸炭鋼(No.32)より長寿命であるが、比較鋼の中には現用の軸受鋼(No.31)の転動疲労寿命の2倍以下と比較的短寿命のものもある(No.7、8、10、24、28、30)。一方、開発鋼はいずれも現用の軸受鋼(No.31)の2.5倍以上の転動疲労寿命を有している。したがって、この発明に係る開発鋼の転動疲労寿命が、現用鋼から大きく改善されていることがわかる。
以下、この発明の実施例3に付いて説明する。上述した作製方法により作製した試験片を用い、圧痕相手の転動疲労寿命試験を行なった。異物が混入した場合の表面起点剥離強度を推定できる試験である。転動疲労寿命試験の試験条件を表5に示す。
Figure 0004904106
圧痕相手の転動疲労寿命試験は、2円筒型試験機を用いて行なわれた。図12は、2円筒型試験機の主要部の構成を示す模式図である。図13は、2円筒型試験機の転走面の圧痕を示す模式図である。図12および図13を参照して、圧痕相手の転動疲労寿命試験の試験機について説明する。
図12および図13を参照して、2円筒型試験機30は、駆動ローラ32を備え、駆動ローラ32の転走面には、ロックウェルダイヤ圧子を押圧して生じた凹み部である直径180μm、深さ9μmのロックウェル圧痕33が、周方向に均等に、矢印34により示される転走面上の位置に配置される。そして、駆動ローラ32の転走面が、圧痕相手の転動疲労寿命試験片31の外周面と接触して回転する。以上のように2円筒型試験機30を運転し、10個の試験片を用いて試験数は10回とし、試験片に剥離が発生するまでの荷重の負荷回数(寿命)を調査した。得られた寿命を統計的に解析し、累積破損確率が10%となる寿命を算出した。
次に試験結果について説明する。試験結果を表3に示す。表3には、各試験片の圧痕相手の転動疲労寿命の、現用の軸受鋼(No.31)を1としたときの比を表している。開発鋼(No.1〜6)、比較鋼(No.7〜30)ともに、現用の軸受鋼(No.31)および現用の浸炭鋼(No.32)より長寿命の傾向を示す。しかし一部の比較鋼では、表層部の炭化物の最大粒径が大きく、また炭化物量も多いため、現用鋼と同等もしくは現用鋼を下回る寿命となっている(No.7、8、25)。一方、開発鋼はいずれも現用の軸受鋼(No.31)の2倍以上の圧痕相手の転動疲労寿命を有している。したがって、この発明に係る開発鋼の圧痕相手の転動疲労寿命が現用鋼から大きく改善され、異物が混入した場合の表面起点剥離強度が向上していることがわかる。
以下、この発明の実施例4に付いて説明する。上述した作製方法により作製した試験片を用い、摩耗試験を行なった。高温のために潤滑条件が悪い場合の摩耗現象を推定できる試験である。摩耗試験の試験条件を表6に示す。
Figure 0004904106
摩耗試験は、サバン型摩耗試験機を用いて行なわれた。図14は、サバン型摩耗試験機の主要部の構成を示す概略正面図である。また、図15は、サバン型摩耗試験機の主要部の構成を示す概略側面図である。図14および図15を参照して、摩耗試験の試験機について説明する。
図14および図15を参照して、サバン型摩耗試験機40は、ロードセル43とエアスライダ44とを備える。平板形状の摩耗試験片41はエアスライダ44に保持され、摩耗試験時に負荷される重錘42による荷重はロードセル43により検出される。そして、摩耗試験片41の鏡面研磨された表面と、相手材45の外周面とを接触させ、相手材45を回転させる。摩耗試験片41と相手材45との接触面には直接潤滑油が供給されず、相手材45の一部が潤滑油46に浸漬される。以上のようにサバン型摩耗試験機40を運転し、相手材を60分間回転させた後の試験片の摩耗体積を計測することにより、摩耗強度を調査した。
次に試験結果について説明する。試験結果を表3に示す。表3には、各試験片の摩耗体積の、現用の軸受鋼(No.31)を1としたときの比の逆数を表している。開発鋼(No.1〜6)、比較鋼(No.7〜30)ともに、現用の軸受鋼(No.31)および現用の浸炭鋼(No.32)より耐摩耗性が優れる傾向を示す。しかし一部の比較鋼では、表層部の炭化物の最大粒径が大きく、また炭化物量も多いため、高硬度にもかかわらず現用鋼と同等もしくは現用鋼を下回る耐摩耗性となっている(No.8、22、25)。一方、開発鋼はいずれも現用の軸受鋼(No.31)の1.8倍以上の耐摩耗性を有している。したがって、この発明に係る開発鋼の耐摩耗性が現用鋼から大きく改善され、潤滑条件が悪い場合でも適用可能であることがわかる。
以下、この発明の実施例5に付いて説明する。上述した作製方法により作製した試験片を用い、超音波疲労試験を行なった。引張−圧縮モードでの高速疲労試験で、表面滑りなどによる表面引張応力に対する疲労強度がわかる。また、短時間で評価できるので、電解チャージなどにより水素を鋼中に侵入させた状態で試験できる。これにより、水素脆性に対する抵抗性を推定できる試験である。大気中における超音波疲労試験の試験条件を表7に、水素侵入後を模擬した水素チャージ条件下における超音波疲労試験の試験条件を表8に、水素チャージ条件を表9に示す。
Figure 0004904106
Figure 0004904106
Figure 0004904106
図16は、超音波疲労試験機の主要部の構成を示す模式図である。図16を参照して、超音波疲労試験機について説明する。
図16を参照して、超音波疲労試験機50は、超音波疲労試験片51が固定される部位に連結されるホーン部52と、ホーン部52に接続されるPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)振動子53と、PZT振動子53に接続される増幅器54と、増幅器54に接続されたパーソナルコンピュータなどの制御装置55とを備える。さらに、超音波疲労試験機50は、超音波疲労試験片51がセットされた状態において、超音波疲労試験片51のホーン部52に連結される側とは反対側の端部に対向するようにすき間ゲージ56が配置され、すき間ゲージ56はオシロスコープ57に接続される。
そして、超音波疲労試験片51を超音波疲労試験機50にセットし、制御装置55により出力を制御しつつ、増幅器54を介してPZT振動子53に電力を入力することにより、超音波振動を発生させる。この超音波振動をホーン部52を介して超音波疲労試験片51に伝達することにより超音波疲労試験片51を共振させる。このとき、超音波疲労試験片51の直径が最も細い部分において、軸方向の引張圧縮の応力振幅が最大となる。一方、オシロスコープ57に接続されたすき間ゲージ56により、超音波疲労試験片51の振動の状態を管理する。
以上のように超音波疲労試験機50を運転し、超音波疲労試験片51が剥離または破断するまでの応力の繰り返し数を調査した。さらに、当該調査を種々の応力について実施し、その結果が正規分布に従うとの仮定の下、当該結果を統計的に解析して10%の試験片が応力の繰り返し数10回で破断すると予測される応力(10回疲労強度)を算出した。超音波疲労試験片51として、上述した作製方法により作製したものと、さらに表9に示す条件により水素チャージを行ない水素を鋼中に侵入させたものとを用いた。
次に試験結果について説明する。試験結果を表3に示す。表3には、各試験片の疲労強度の、現用の浸炭鋼(No.32)を1としたときの比を表している。水素チャージがない条件では、開発鋼(No.1〜6)、比較鋼(No.7〜30)ともに、現用の浸炭鋼(No.32)と同等以上の疲労強度(10回強さ)を示す。
水素チャージがある条件では、比較鋼の中には強度低下し現用鋼を下回るものが多い(No.21、26、27、29)。一方、開発鋼はいずれも現用の浸炭鋼(No.32)の1.6倍以上の疲労強度を有している。したがって、この発明に係る開発鋼は、現用鋼から大きく改善された疲労強度を有し、特に水素を鋼中に侵入させた条件において優れており、潤滑剤や水から水素が発生する環境において特に好適に用いられることがわかる。
以下、この発明の実施例6に付いて説明する。上述した作製方法により作製した試験片を用い、ピーリング試験を行なった。粗面相手の転動試験で潤滑油膜が切れる条件で転動し、表面に金属接触による疲れ損傷(ピーリング)を起こさせるもので、潤滑条件が悪いときの対表面損傷特性がわかる。ピーリング試験の試験条件を表10に示す。
Figure 0004904106
図17は、ピーリング試験機の主要部の構成を示す模式図である。図17を参照して、ピーリング試験機について説明する。
図17を参照して、ピーリング試験機60は、駆動軸63まわりに回転可能な駆動側試験片61(相手試験片)と、従動軸64まわりに回転可能な従動側試験片62(試験片)とを備える。駆動側試験片61と従動側試験片62とは、双方の軸、すなわち駆動軸63と従動軸64とが平行になるように配置される。駆動軸63には駆動側試験片61が図示しないナットで固定され、従動軸64には従動側試験片62が図示しないナットで固定され、駆動側試験片61の外周面と従動側試験片62の外周面とは接触するように配置される。また、駆動軸63の他方の端部には、回転速度計65とスリップリング66とが備えられる。従動軸64の他方の端部には、回転速度計65とスリップリング66とが備えられる。
そして、駆動側試験片61に潤滑油が滴下されつつ、駆動軸63が回転する。これにより、駆動側試験片61が回転するとともに、従動側試験片62が駆動側試験片61と接触しつつ回転する。以上のようにピーリング試験機60を運転し、所定の回転数である4.8×10回の回転が終了したところで駆動軸63の回転を停止した。そして、従動側試験片62がピーリング試験機60から取り外され、従動側試験片62の外周面に発生したピーリングの面積が調査され、従動側試験片62の外周面の面積に対するピーリングの面積の割合(ピーリング面積率)を算出した。
次に試験結果について説明する。試験結果を表3に示す。表3には、各試験片のピーリング面積率の、現用の軸受鋼(No.31)を1としたときの比の逆数を表している。比較鋼の中には、現用鋼と同等もしくは下回る耐ピーリング性を示すものがある(No.7、8、22、23、25)。一方、開発鋼はいずれも現用鋼や比較鋼に比べ、優れた耐ピーリング性を示す。したがって、この発明に係る開発鋼は、潤滑油膜が切れ潤滑が適切に行なわれない条件においても、高い耐ピーリング性を有することがわかる。
以下、この発明の実施例7に付いて説明する。上述した作製方法により作製した試験片を用い、静圧壊強度試験を行なった。図18は、静圧壊強度試験の試験片を示す模式図である。図18を参照して、静圧壊強度試験について説明する。
図18を参照して、静圧壊強度試験片71は外径60mm、内径45mm、幅15mmの円環状の形状を有している。そして、荷重方向72の向きに荷重が徐々に負荷されて、静圧壊強度試験片71が破壊された時点における荷重が測定される。その後、得られた破壊荷重が、下記に示す曲がり梁の応力計算式(A)〜(C)により応力値に換算される。
図18の静圧壊強度試験片71の凸表面(静圧壊強度試験片71の中心線から+eなる距離にある面)における繊維応力をσ、凹表面(静圧壊強度試験片71の中心線から−eなる距離にある面)における繊維応力をσとすると、σおよびσは下記の式によって求められる(機械工学便覧A4編材料力学A4−40参照)。ここで、Nは静圧壊強度試験片71の軸を含む断面の軸力、Aは横断面積、eは外半径、eは内半径(図18参照)を表わす。また、κは曲がり梁の断面係数である。
σ=(N/A)+{M/(Aρ)}[1+e/{κ(ρ+e)}]・・・(A)
σ=(N/A)+{M/(Aρ)}[1−e/{κ(ρ−e)}]・・・(B)
κ=−(1/A)∫{η/(ρ+η)}dA・・・(C)
次に試験結果について説明する。試験結果を表3に示す。表3には、各試験片の静圧壊強度(破壊時の応力値;圧壊値)の、現用の軸受鋼(No.31)を1としたときの比を表している。開発鋼は、現用の軸受鋼(No.31)に近い静圧壊強度を示し、現用の浸炭鋼(No.32)よりも高強度である。現用の浸炭鋼(No.32)は、表2に示されるように内部硬度が低いため、大きな荷重条件では内部が塑性変形するので、低強度である。
以下、この発明の実施例8に付いて説明する。上述した作製方法により作製した試験片を用い、リング回転割れ疲労試験を行なった。上述した静圧壊強度試験の試験片と同一寸法、同一形状の試験片を用いた。リング回転割れ疲労試験の試験条件を表11に示す。
Figure 0004904106
図19は、リング回転割れ疲労試験機の主要部の構成を示す模式図である。図19を参照して、リング回転割れ疲労試験機について説明する。
図19を参照して、リング回転割れ疲労試験機80は、円筒状の形状を有する駆動ローラ82と、負荷ローラ83と、案内ローラ84とを備える。駆動ローラ82、負荷ローラ83および案内ローラ84は、回転軸が平行になるとともに、外周面がリング回転割れ疲労試験片81に接触可能なように配置される。そして、リング回転割れ疲労試験機80は、給油ノズル86をさらに備え、当該給油ノズル86によりパッド85に給油され、リング回転割れ疲労試験片81に対して潤滑油を給油可能な構成となっている。
そして、リング回転割れ疲労試験片81が、駆動ローラ82、負荷ローラ83および案内ローラ84に外周面において接触するように配置される。そして、駆動ローラ82および負荷ローラ83により径方向に圧縮される応力を負荷されつつ、駆動ローラ82が回転することにより駆動され、案内ローラ84に案内されて回転する。以上のようにリング回転割れ疲労試験機80を運転し、10個の試験片を用いて試験数は10回とし、リング回転割れ疲労試験片81の外周面に割れが発生するまでの時間を調査し、当該時間を割れ寿命とした。得られた寿命を統計的に解析し、累積破損確率が10%となる寿命を算出した。
次に試験結果について説明する。試験結果を表3に示す。表3には、各試験片の割れ寿命の、現用の軸受鋼(No.31)を1としたときの比を「10疲労強度」と表している。開発鋼(No.1〜6)、比較鋼(No.7〜30)ともに、現用の軸受鋼(No.31)より長寿命の傾向を示す。しかし一部の比較鋼では、比較的短寿命となっている(No.9、25)。適度の残留応力と内部硬度の影響と考えられる。一方、開発鋼はいずれも現用の軸受鋼(No.31)の2.5倍以上の割れ寿命を有し、内部硬度が高いにもかかわらず現用の浸炭鋼(No.32)と同等以上の割れ寿命を示している。したがって、この発明に係る開発鋼の割れ寿命が現用鋼から大きく改善していることがわかる。
なお、これまでの説明においては、浸炭焼入を実施した試験片を用いて実施した試験結果について実施例として説明したが、浸炭窒化焼入を実施した他の試験片を用いて同様に試験を実施した。その結果、浸炭焼入を実施した試験片以上の焼戻抵抗性を示すとともに、材質および機械的特性において遜色ない結果を示すことを確認している。浸炭窒化焼入の具体的な熱処理方法は以下の通りである。すなわち、成形部品を920℃に加熱し、このとき雰囲気ガスのカーボンポテンシャル=1.0となるよう調整して、この温度で480分間保持した。その内300分間は、雰囲気ガスであるRXガスにアンモニアガスを、RXガス比5体積%の量を添加した。これにより、浸炭窒化処理および拡散処理を行なった。その後、温度を850℃に下げてから、成形部品を油中に浸漬して急冷し1次焼入を行なった。さらに成形部品を850℃に再加熱して50分間保持し、再度油中に浸漬して850℃から急冷し2次焼入を行なった。さらに、成形部品を280℃に加熱して120分間保持し、その後室温の空気中で冷却し、焼戻処理を行なった。
また、転動部品としての軌道輪(内輪と外輪)と、転動体(玉またはころ)とを備える転がり軸受を例に説明したが、この発明は種々の転動部品に適用することができる。たとえば、ボールねじにおけるねじ軸およびナット、リニアガイド装置における案内レールおよびスライダ、直動ベアリングにおける軸および外筒などに適用することができる。
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。この発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
この発明の転動部品および転がり軸受は、製紙機械のカレンダロール支持軸受や鉄鋼圧延設備のロール支持軸受など、高温かつ鋼中に水素が侵入する環境下で使用される転動部品および転がり軸受に、特に有利に適用され得る。
この発明の一実施の形態である転動部品を備える転がり軸受としての、深溝玉軸受の構成を示す断面模式図である。 図1の要部を拡大して示す部分断面模式図である。 転がり軸受の変形例であるスラストニードルころ軸受の構成を示す断面模式図である。 転がり軸受の他の変形例である自動調心ころ軸受の構成を示す断面模式図である。 転がり軸受のさらに他の変形例である四列円錐ころ軸受の構成を示す断面模式図である。 転動部品の製造方法の概略を示す流れ図である。 転動部品の製造方法に含まれる熱処理工程における熱処理方法を説明する図である。 熱処理方法の変形例を説明する図である。 熱処理方法の他の変形例を説明する図である。 φ12点接触試験機の主要部の構成を示す概略正面図である。 φ12点接触試験機の主要部の構成を示す概略側面図である。 2円筒型試験機の主要部の構成を示す模式図である。 2円筒型試験機の転走面の圧痕を示す模式図である。 サバン型摩耗試験機の主要部の構成を示す概略正面図である。 サバン型摩耗試験機の主要部の構成を示す概略側面図である。 超音波疲労試験機の主要部の構成を示す模式図である。 ピーリング試験機の主要部の構成を示す模式図である。 静圧壊強度試験の試験片を示す模式図である。 リング回転割れ疲労試験機の主要部の構成を示す模式図である。
符号の説明
1 深溝玉軸受、2 外輪、3 内輪、4 玉、5 保持器、6 スラストニードルころ軸受、7 ころ、8 軌道輪、9 自動調心ころ軸受、10 四列円錐ころ軸受、12,13,14 硬化処理層、20 φ12点接触試験機、21 転動疲労寿命試験片、22 駆動ローラ、23 案内ローラ、24 鋼球、30 2円筒型試験機、31 圧痕相手の転動疲労寿命試験片、32 駆動ローラ、33 ロックウェル圧痕、34 ロックウェル圧痕配置位置、40 サバン型摩耗試験機、41 摩耗試験片、42 重錘、43 ロードセル、44 エアスライダ、45 相手材、46 潤滑油、50 超音波疲労試験機、51 超音波疲労試験片、52 ホーン部、53 PZT振動子、54 増幅器、55 制御装置、56 すき間ゲージ、57 オシロスコープ、60 ピーリング試験機、61 駆動側試験片、62 従動側試験片、63 駆動軸、64 従動軸、65 回転速度計、66 スリップリング、71 静圧壊強度試験片、72 荷重方向、80 リング回転割れ疲労試験機、81 リング回転割れ疲労試験片、82 駆動ローラ、83 負荷ローラ、84 案内ローラ、85 パッド、86 給油ノズル。

Claims (3)

  1. 0.3質量%以上0.4%質量%以下の炭素と、0.2質量%以上0.5質量%未満の珪素と、0.3質量%以上0.8質量%以下のマンガンと、0.5質量%以上1.2質量%以下のニッケルと、1.6質量%以上2.5質量%以下のクロムと、0.1質量%以上0.7質量%以下のモリブデンと、0.3質量%以上0.8質量%以下のバナジウムとを含有し、残部鉄および不可避的不純物からなり、バナジウムの含有量はモリブデンの含有量以上であり、モリブデンの含有量とバナジウムの含有量との和は珪素の含有量の2倍以上であり、クロムの含有量とモリブデンの含有量とバナジウムの含有量との和は2.3質量%以上3.5質量%以下である鋼から構成され、
    表層部には、硬化処理層が形成され、
    前記硬化処理層の硬度は、Hv700以上780以下であり、
    前記硬化処理層に分布する炭化物の最大粒径は、10μm以下であり、
    前記硬化処理層における前記炭化物の面積率は、7%以上25%以下であり、
    前記硬化処理層より内側の領域である内部の硬度は、Hv500以上600以下であることを特徴とする、転動部品。
  2. 500℃での高温焼戻後における前記硬化処理層の硬度は、Hv550以上650以下であることを特徴とする、請求項1に記載の転動部品。
  3. モリブデンの含有量とバナジウムの含有量との和は0.6質量%以上1.5質量%以下である鋼から構成されることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の転動部品。
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