JP2007040503A - 鍔付ころ軸受 - Google Patents

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Abstract

【課題】 転動疲労寿命の向上と鍔部の静的破壊強度の向上とを両立させた鍔付ころ軸受を提供する。
【解決手段】 鍔付ころ軸受1は、軌道輪としての環状の外輪11と、外輪11の内側に配置される軌道輪としての内輪12と、外輪11と内輪12との間に配置される複数のころ13とを備えている。外輪11および内輪12はそれぞれ外輪鍔部15、15および内輪鍔部16を含んでいる。外輪鍔部15、15および内輪鍔部16に形成された外輪鍔ヌスミ部17、17および内輪鍔ヌスミ部18の表面における面粗さRtは8.0μm以下である。外輪11および内輪12には、表層部に窒素富化層が形成されており、窒素富化層におけるオーステナイト結晶粒の粒度番号が10番を超えており、外輪11および内輪12の水素含有量は0.5質量ppm以下である。
【選択図】 図1

Description

本発明は鍔付ころ軸受に関し、より特定的には、外輪または内輪の少なくとも一方に鍔部が形成された鍔付ころ軸受に関するものである。
軌道輪である外輪または内輪の少なくとも一方に鍔部が設けられた鍔付ころ軸受は、ラジアル荷重だけでなく、ある程度のアキシアル荷重を受けることができる。近年、鍔付ころ軸受が使用される製品は高出力化、高効率化が進められている。これに伴い、鍔付ころ軸受に対しても、小型化、軽量化などが求められている。鍔付ころ軸受が小型化された場合、負荷される荷重が大きくなり、かつ回転は高速化する。その結果、ころおよび軌道輪の転動疲労寿命の向上が必要となるとともに、鍔部については静的破壊強度を向上させる必要が生じる。一方、鍔付ころ軸受が使用される製品の価格競争力向上のため、鍔付ころ軸受に対しても製造コストの低減が要求されている。
ころおよび軌道輪の転動疲労寿命を向上させ、かつ鍔部の静的破壊強度を向上させるためには、鍔付ころ軸受の素材を、より転動疲労強度および静的破壊強度に優れた素材に変更する対策が考えられる。しかし、このような対策では素材の価格が上昇する結果、鍔付ころ軸受の製造コストが上昇するため、前述の製造コスト低減の要求に反するものとなる。
これに対し、素材に変更を加えることなく、転走面の転動疲労強度を向上させる方策として、浸炭窒化処理が提案されている。浸炭窒化処理を実施することにより、素材に変更を加えることなく、ころおよび軌道輪の転動疲労寿命を向上させることができる(たとえば特許文献1および特許文献2参照)。
特開平8−4774号公報 特開平11−101247号公報
上述した浸炭窒化処理は被処理物の表面から炭素および窒素を拡散させることにより、被処理物の表層部の炭素濃度および窒素濃度を上昇させる拡散処理である。そのため、たとえば高炭素鋼からなる被処理物に一般的に適用されている光輝熱処理にくらべて高温に保持される時間が長くなる。その結果、オーステナイト結晶粒の成長が進行し、被処理物の金属組織が粗くなる。さらに、雰囲気ガスに含まれる水素が被処理物中により多く侵入しやすくなり、被処理物が脆化する可能性がある。その結果、たとえば鍔付ころ軸受の鍔部を含む軌道輪に対して浸炭窒化処理を実施した場合、鍔部の静的破壊強度が低下するおそれがある。したがって、単に浸炭窒化処理を採用するのみでは、鍔付ころ軸受の転動疲労寿命の向上と軌道輪の鍔部の静的破壊強度の向上とを両立することはできない。
そこで、本発明の目的は、転動疲労寿命の向上と鍔部の静的破壊強度の向上とを両立させた鍔付ころ軸受を提供することである。
本発明者は鍔付ころ軸受の転動疲労寿命および鍔部の静的破壊強度に及ぼす外輪および内輪の表層部における窒素濃度、オーステナイト結晶粒の大きさ、水素含有量および軌道輪の鍔ヌスミ部における表面の粗さの影響を詳細に検討した。その結果、鍔付ころ軸受の転動疲労寿命を向上させ、かつ軌道輪における鍔部の静的破壊強度をも向上させるためには、鍔部を含む軌道輪の表層部に窒素富化層を形成し、窒素富化層におけるオーステナイト結晶粒度が粒度番号10番を超えるようにオーステナイト粒度を制御し、かつ鍔部を含む軌道輪の水素含有量を0.5質量ppm以下とするとともに、鍔ヌスミ部の表面における面粗さRtを8.0μm以下とすることが有効であることを見出した。
そこで、本発明に従った鍔付ころ軸受は、軌道輪としての環状の外輪と、外輪の内側に配置される軌道輪としての内輪と、外輪と内輪との間に配置される複数のころとを備えている。外輪または内輪の少なくとも一方は鍔部を含み、鍔部に形成された鍔ヌスミ部の表面における面粗さRtは8.0μm以下である。鍔部を含む軌道輪には、表層部に窒素富化層が形成されている。そして、窒素富化層におけるオーステナイト結晶粒の粒度番号が10番を超えており、鍔部を含む軌道輪の水素含有量は0.5質量ppm以下である。
ここで、鍔ヌスミ部とは、ころの端面外周部と鍔部の付け根部分とが干渉することを回避するために鍔部の付け根部分に形成される凹部をいう。また、面粗さRtとは、JIS B 0601に記載されている面粗さRtをいう。さらに、オーステナイト結晶粒の粒度番号とは、JIS G 0551に記載されたオーステナイト結晶粒の粒度番号をいう。また、窒素富化層とは、軌道輪の表層部に形成された軌道輪の芯部に比べて窒素含有量が高い層であって、たとえば浸炭窒化、窒化、浸窒などの処理によって形成することができる。さらに、表層部とは外輪または内輪の表面から深さ0.3mmの範囲をいう。また、窒素の含有量は、たとえばEPMA(波長分散型X線マイクロアナライザ)を用いて測定することができる。
本発明の鍔付ころ軸受は、鍔部を含む軌道輪の表層部において、窒素富化層が形成されているため金属疲労に対する抵抗性が向上し、オーステナイト結晶粒が小さくなっているため金属組織が微細化され、水素量が低減されているため金属組織の脆化が回避されている。そのため、軌道輪の転動疲労強度が向上し、鍔付ころ軸受の転動疲労寿命が向上している。さらに、鍔部を含む軌道輪の鍔ヌスミ部において、オーステナイト結晶粒が小さくなっているため金属組織が微細化され、水素量が低減されているため金属組織の脆化が回避され、鍔部の表面における面粗さRtは8.0μm以下であるため当該表面における応力の集中が緩和されて亀裂の発生および伝播が抑制されている。そのため、鍔部の静的破壊強度が向上している。以上の結果、本発明の鍔付ころ軸受によれば、転動疲労寿命の向上と鍔部の静的破壊強度の向上とを両立させた鍔付ころ軸受を提供することができる。
なお、鍔付ころ軸受の転動疲労寿命を一層向上させるためには、窒素富化層は鍔部を含む軌道輪の表面から0.2mm以上の厚みを有していることが好ましく、0.3mm以上の厚みを有していることがより好ましい。また、鍔付ころ軸受の転動疲労寿命および鍔部の静的破壊強度を一層向上させるためには、オーステナイト結晶粒の粒度番号が11番を超えていることが好ましく、水素量は4.0質量ppm以下であることが好ましい。また、鍔付ころ軸受の鍔部の静的破壊強度を一層向上させるためには、鍔部の表面における面粗さRtは6.0μm以下であることが好ましい。
上記鍔付ころ軸受において好ましくは、窒素富化層における残留オーステナイト量は、11体積%以上25体積%以下である。残留オーステナイトは軸受の外輪または内輪の転走面(表面)における損傷に起因した表面起点型の破損に対する転動疲労寿命の向上に顕著な効果を有しており、この効果を奏するためには少なくとも11体積%以上必要であり、15体積%以上とすることが好ましい。
一方、窒素富化層においては窒素含有量が高いため、焼入を実施した際のマルテンサイト変態の開始温度が低下し、残留オーステナイト量が多くなる傾向にある。残留オーステナイトは軸受の使用中において経年的にマルテンサイトに変態する。そして、その変態に際しては体積の変化を伴うため、残留オーステナイトは外輪および内輪における寸法の経年的変化(経年寸法変化)の原因となる。残留オーステナイト量が25体積%を超えると経年寸法変化が一般的な寸法変化の許容値を超えるため、窒素富化層における残留オーステナイト量は25体積%以下とすることが好ましい。さらに、寸法変化に対する要求が厳格な用途に対しては、20体積%以下とすることがより好ましい。以上より、上記鍔付ころ軸受において、窒素富化層における残留オーステナイト量を11体積%以上25体積%以下とすることにより、表面起点型の破損に対する転動疲労寿命が向上し、かつ経年寸法変化を小さくすることができる。ここで、残留オーステナイト量の測定は、たとえばX線回折計(XRD)を用いて、マルテンサイトα(211)面とオーステナイトγ(220)面との回折強度とを測定することにより、算出することができる。
なお、上記鍔付ころ軸受において、表面からの深さが50μmの領域における窒素富化層の残留オーステナイト量は、11体積%以上25体積%以下としてもよい。上述のように、残留オーステナイトは軸受の外輪または内輪の転走面(表面)における損傷に起因した表面起点型の破損に対する転動疲労寿命の向上に顕著な効果を有している。この効果を奏するためには、特に表面起点型の破損に対する転動疲労強度への影響の大きい、表面からの深さが50μm付近の領域における残留オーステナイト量が重要となる。したがって、表面からの深さが50μmの領域における窒素富化層の残留オーステナイト量を11体積%以上25体積%以下とすることで、特に鍔付ころ軸受の表面起点型の破損に対する転動疲労寿命を向上させることができる。
上記鍔付ころ軸受において好ましくは、窒素富化層における窒素含有量は、0.1質量%以上0.7質量%以下である。窒素含有量が0.1質量%以下では、金属疲労に対する抵抗性が小さく、転動疲労寿命向上の効果、特に表面起点型の破損に対する転動疲労寿命向上の効果が小さい。さらに、顕著な転動疲労寿命向上のためには、窒素富化層における窒素含有量は0.2質量%以上であることが好ましい。一方、窒素含有量が0.7質量%を超えると、鍔部を含む軌道輪の表層部において微小な空孔であるボイドが発生するおそれがあり、かつ残留オーステナイト量が必要以上に増加して表面の硬度が低下する。そのため、鍔部を含む軌道輪の転動疲労強度が低下する。さらに、転動疲労寿命に対する要求特性の高い用途に使用される場合、窒素富化層における窒素含有量は0.6質量%以下とすることが好ましい。以上より、上記鍔付ころ軸受において、窒素富化層における窒素含有量を0.1質量%以上0.7質量%以下とすることにより、転動疲労寿命、特に表面起点型の破損に対する転動疲労寿命を向上させることができる。
なお、上記鍔付ころ軸受において、表面からの深さが50μmの領域における窒素富化層の窒素含有量は、0.1質量%以上0.7質量%以下としてもよい。上述のように、窒素富化層は特に軸受の外輪または内輪の転走面(表面)における表面起点型の破損に対する転動疲労寿命の向上に顕著な効果を有している。この効果を奏するためには、特に表面起点型の破損に対する転動疲労強度への影響の大きい、表面からの深さが50μm付近の領域における窒素含有量が重要となる。したがって、表面からの深さが50μmの領域における窒素富化層の窒素含有量を0.1質量%以上0.7質量%以下とすることにより、特に鍔付ころ軸受の表面起点型の破損に対する転動疲労寿命を向上させることができる。
以上の説明から明らかなように、本発明の鍔付ころ軸受によれば、転動疲労寿命の向上と鍔部の静的破壊強度の向上とを両立させた鍔付ころ軸受を提供することができる。
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付しその説明は繰返さない。
図1は、本発明の一実施の形態における鍔付ころ軸受の構成を示す概略断面図である。図1を参照して、本発明の一実施の形態における鍔付ころ軸受の構成について説明する。
図1を参照して、本実施の形態の鍔付ころ軸受1は、軌道輪としての環状の外輪11と、外輪11の内側に配置される軌道輪としての内輪12と、外輪11と内輪12との間に配置される複数のころ13と、環状の保持器14とを備えている。ころ13は外輪11と内輪12との間において、ころ13の側面であるころ転走面13Cが外輪11の内周面に形成された外輪転走面11Cおよび内輪12の外周面に形成された内輪転走面12Cに接触して配置されている。さらに、ころ13は保持器14により周方向に所定のピッチで配置され、かつ転動自在に保持されている。
外輪11の外周を取り囲むようにハウジングなどの外周部材21が配置され、外輪11の外周面11Aおよび一方の側面11Bと外周部材21とが接触するように嵌め込まれている。一方、内輪12の内側には軸などの内周部材22が配置され、内輪12の内周面12Aおよび一方の側面12Bと内周部材22とが接触するように嵌め込まれている。これにより、外輪11および内輪12は互いに相対的に回転することができ、これに伴い、軸などの内周部材22はハウジングなどの外周部材21に対して相対的に回転することができる。
ここで、外輪11は幅方向の両側に外輪鍔部15、15を含んでいる。一方、内輪12は幅方向の片側に内輪鍔部16を含んでいる。そして、外輪鍔部15、15の付け根部分に形成された外輪鍔ヌスミ部17、17および内輪鍔部16の付け根部分に形成された内輪鍔ヌスミ部18の表面における面粗さRtは8.0μm以下である。さらに、外輪11および内輪12には、表層部に窒素富化層が形成されている。窒素富化層におけるオーステナイト結晶粒の粒度番号は10番を超えており、かつ外輪11および内輪12における水素含有量は0.5質量ppm以下である。
これにより、本実施の形態の鍔付ころ軸受1は、外輪11および内輪12の表層部において窒素富化層が形成されているため金属疲労に対する抵抗性が向上し、窒素富化層においてオーステナイト結晶粒が小さくなっているため金属組織が微細化され、外輪11および内輪12において水素量が低減されているため金属組織の脆化が回避されている。そのため、外輪11および内輪12の転動疲労強度が向上し、鍔付ころ軸受1の転動疲労寿命が向上している。さらに、外輪鍔ヌスミ部17、17および内輪鍔ヌスミ部18において、オーステナイト結晶粒が小さくなっているため金属組織が微細化され、水素量が低減されているため金属組織の脆化が回避され、表面における面粗さRtは8.0μm以下であるため当該表面での応力の集中が緩和されて亀裂の発生および伝播が抑制されている。そのため、外輪鍔部15、15をおよび内輪鍔部16の静的破壊強度が向上している。以上の結果、本実施の形態における鍔付ころ軸受1は、転動疲労寿命の向上と鍔部の静的破壊強度の向上とを両立させた鍔付ころ軸受1となっている。
なお、外輪11、内輪12およびころ13の素材は、たとえば炭素鋼、クロム鋼、クロム−モリブデン鋼、ニッケル−クロム鋼、ニッケル−クロム−モリブデン鋼、高炭素軸受鋼などから選択することができる。鍔付ころ軸受1は上述の構成を有することにより、転動疲労寿命が向上し、かつ鍔部の静的破壊強度も向上している。そのため、外輪11、内輪12およびころ13の素材としては、鍔付ころ軸受1の製造コストが上昇するような高価な素材を採用することなく、十分な特性を有する鍔付ころ軸受1を得ることができる。したがって、安価な素材を選択することにより、製造コストを上昇させることなく、転動疲労寿命の向上と鍔部の静的破壊強度の向上とを両立させた鍔付ころ軸受1を提供することができる。
次に、本実施の形態における鍔付ころ軸受の製造方法について説明する。図2は本実施の形態における鍔付ころ軸受の製造方法の概略を示す図である。図1および図2を参照して、本実施の形態における鍔付ころ軸受の製造方法について説明する。
図2を参照して、まず、鍔付ころ軸受の外輪および内輪の形状に成形された成形部材を準備する成形部材準備工程が実施される。具体的には、たとえば棒鋼などの素材に対して鍛造、旋削などの加工が実施されることにより、図1に示した鍔付ころ軸受1の外輪11および内輪12の形状に成形された成形部材が準備される。
次に、図2を参照して、焼入硬化工程が実施される。具体的には、図1を参照して、成形部材準備工程において準備された成形部材としての外輪11および内輪12が焼入硬化される。このとき、外輪11および内輪12の表層部に窒素富化層を形成するための浸炭窒化処理が実施される。さらに、図2を参照して、焼入硬化された外輪11および内輪12に対して焼戻を行なう焼戻工程が実施される。この焼入工程および焼戻工程を有する熱処理工程の詳細については後述する。
さらに、図2を参照して、仕上げ加工工程が実施される。具体的には、図1を参照して、焼入硬化および焼戻が実施された外輪11および内輪12に対して研削加工、タンブラー加工などの仕上げ加工が実施されることにより、外輪11および内輪12が仕上げられる。そして、図2を参照して、組立工程が実施される。具体的には、図1を参照して、外輪11および内輪12と保持器14およびころ13などとを組み合わせることにより、鍔付ころ軸受1が組み立てられる。
次に、熱処理工程について詳細に説明する。図3は、本実施の形態の鍔付ころ軸受1における外輪11および内輪12に対して実施される熱処理工程の詳細を示す図である。図3において、横方向は時間を示しており右に行くほど時間が経過していることを示している。また、図3において、縦方向は温度を示しており上に行くほど温度が高いことを示している。図3を参照して、本実施の形態の鍔付ころ軸受1における外輪11および内輪12に対して実施される熱処理工程の詳細を説明する。
図3を参照して、成形部材準備工程において準備された成形部材としての外輪11および内輪12はA点以上の温度である800℃以上900℃以下の温度T、たとえば845℃に加熱され、60分間以上240分間以下の時間、たとえば150分間保持される。このとき、RXガスにアンモニア(NH)を添加した雰囲気において加熱されることにより、外輪11および内輪12の表層部の炭素濃度および窒素濃度は所望の濃度に調整される。その後、外輪11および内輪12は、たとえば油中に浸漬されることにより(油冷)、A点以上の温度からM点以下の温度に冷却される。これにより、1次焼入が完了する。さらに、1次焼入が実施された外輪11および内輪12はA点以上の温度である780℃以上820℃以下の温度T、たとえば800℃に再び加熱され、30分間以上60分間以下の時間、たとえば40分間保持される。このとき、浸炭窒化処理において調整された炭素濃度および窒素濃度が所望の濃度となるように、たとえば脱炭を防止するため、たとえばRXガスを含む雰囲気において加熱される。その後、外輪11および内輪12は、たとえば油冷されることにより、A点以上の温度からM点以下の温度に急冷されて焼入硬化される。これにより、2次焼入が完了する。さらに、2次焼入が完了した外輪11および内輪12はA点以下の温度である160℃以上200℃以下の温度、たとえば180℃に加熱され、60分間以上240分間以下の時間、たとえば120分間保持されて、その後冷却される。これにより、焼戻が完了し、熱処理工程が終了する。
ここで、温度TおよびTは、鋼中に侵入する水素濃度を低減する観点から前述のようにそれぞれ800℃以上850℃以下および780℃以上820℃以下とすることが望ましい。また、温度Tはオーステナイト結晶粒を小さくする観点から、Tよりも低い温度とすることが好ましい。
なお、A点とは鋼を加熱した場合に、鋼の組織がフェライトからオーステナイトに変態を開始する温度に相当する点をいう。また、M点とはオーステナイト化した鋼が冷却される際に、マルテンサイト化を開始する温度に相当する点をいう。
図4は、本実施の形態の鍔付ころ軸受1における外輪11および内輪12に対して実施される熱処理工程の変形例の詳細を示す図である。図4において、横方向は時間を示しており右に行くほど時間が経過していることを示している。また、図4において、縦方向は温度を示しており上に行くほど温度が高いことを示している。図4を参照して、本実施の形態の鍔付ころ軸受1における外輪11および内輪12に対して実施される熱処理工程の変形例の詳細を説明する。
図4を参照して、本変形例における図4に示す熱処理工程と上述の図3に示す熱処理工程とは基本的には同様の工程となっている。しかし、図4の熱処理工程においては浸炭窒化処理に引き続いて油冷を実施して1次焼入を完了するのではなく、まずA変態点以下の温度に冷却した後、再びA変態点以上の温度Tに加熱する点において、図3の熱処理工程とは異なっている。本変形例によれば、1度焼入を実施した後に再度温度Tまで加熱する場合に比べて再加熱に要する時間およびエネルギーを小さくすることが可能となるため、製造コストを低減し得る点において有利である。なお、浸炭窒化後に引き続く冷却温度はA変態点よりも低い温度であればよく、たとえば600℃以上700℃以下とすることができる。
上記熱処理工程により、外輪11および内輪12には、表層部に窒素富化層が形成される。そして、窒素富化層におけるオーステナイト結晶粒の粒度番号は10番を超えており、かつ外輪11および内輪12における水素含有量は0.5質量ppm以下とすることができる。さらに、窒素富化層、特に表面からの深さが50μmの領域における残留オーステナイト量を、11体積%以上25体積%以下とすることができる。また、窒素富化層、特に表面からの深さが50μmの領域における窒素含有量を、0.1質量%以上0.7質量%以下とすることができる。
図5は、本実施の形態における鍔付ころ軸受の外輪および内輪の表層部に形成された窒素富化層におけるミクロ組織、とくにオーステナイト粒を示す図である。ここでは、素材として軸受鋼(JIS規格SUJ2)を採用し、熱処理工程としては図3に示す工程を採用した場合の外輪について示している。一方、図6は、従来の鍔付ころ軸受の外輪および内輪の表層部におけるミクロ組織、とくにオーステナイト粒を示す図である。ここでは、素材として軸受鋼(JIS規格SUJ2)を採用し、熱処理工程としては従来の熱処理方法である光輝熱処理を採用した場合の外輪について示している。また、図7および図8は、上記図5および図6のオーステナイト結晶粒を模式的に示した図である。図5〜図8を参照して、本実施の形態における鍔付ころ軸受の外輪および内輪の表層部に形成された窒素富化層おけるオーステナイト結晶粒について説明する。
図5〜図8を参照して、従来の鍔付ころ軸受の外輪の表層部におけるオーステナイト結晶粒径は粒度番号で10番であるのに対し、本実施の形態における鍔付ころ軸受の外輪の表層部に形成された窒素富化層におけるオーステナイト結晶粒径は粒度番号で12番となっている。また、図5におけるオーステナイト結晶粒の平均粒径は、切片法で測定した結果、5.6μmであった。
なお、前述のように、図1を参照して本実施の形態における鍔付ころ軸受1の外輪鍔ヌスミ部17、17および内輪鍔ヌスミ部18の表面における面粗さRtは8.0μm以下である。通常、外輪鍔ヌスミ部17、17および内輪鍔ヌスミ部18には、旋削加工などが実施された表面がそのまま残存している。これに対し、図2に示す仕上げ加工工程において、外輪鍔ヌスミ部17、17および内輪鍔ヌスミ部18に対してタンブラー加工、ラップ加工、旋削加工、研削加工、ショットピーニング加工などの仕上げ加工を実施することにより、面粗さRtを小さくすることもできる。しかし、図1に示すように外輪鍔ヌスミ部17、17および内輪鍔ヌスミ部18は外輪鍔部15および内輪鍔部16の付け根部分に形成される凹部であり、一般に外輪転走面11Cおよび内輪転走面12Cと同時に仕上げ加工を実施することは困難である。そのため、外輪鍔ヌスミ部17、17および内輪鍔ヌスミ部18に対して上記仕上げ加工を実施する場合、外輪転走面11Cおよび内輪転走面12Cの仕上げ加工とは別に仕上げ加工を実施する必要が生じ、製造コストが上昇する。
ここで、外輪鍔ヌスミ部17、17および内輪鍔ヌスミ部18の表面における面粗さRtを小さくすることは、外輪鍔部15、15および内輪鍔部16の静的破壊強度を確保するために必要な条件である。静的破壊強度に対しては当該表面の粗さのほか、オーステナイト結晶粒の大きさ、水素含有量も影響を及ぼす。すなわち、窒素富化層におけるオーステナイト結晶粒の大きさが大きい場合や軌道輪の水素含有量が大きい場合、外輪鍔ヌスミ部17、17および内輪鍔ヌスミ部18の表面における面粗さRtを一層小さくする必要がある。図2に示す成形部材準備工程において、外輪および内輪の旋削加工を量産的に実施した場合、旋削バイトが新品であれば外輪鍔ヌスミ部17、17および内輪鍔ヌスミ部18の表面における面粗さRtの上限値は2.0μm程度となる。その後、加工数の増加に伴い面粗さRtの上限値は大きくなるが、6.0〜7.0μm程度で安定する。そして、さらに加工を継続すると旋削バイトの摩耗限界を超えて、面粗さRtはさらに大きくなる。したがって、外輪鍔ヌスミ部17、17および内輪鍔ヌスミ部18の表面における面粗さRtを6.0μmよりも小さい値に抑制するためには旋削バイトの早期交換などが必要となり、製造コストが上昇する。
本実施の形態の鍔付ころ軸受1においては、前述の熱処理工程のよりオーステナイト結晶粒の粒度番号が10番を超えており、かつ水素含有量は0.5質量ppm以下に抑えられている。そのため、外輪鍔ヌスミ部17、17および内輪鍔ヌスミ部18の表面における面粗さRtを8.0μm以下とすることで、十分な静的破壊強度の鍔部を有する鍔付ころ軸受1を製造することができる。前述のように外輪11および内輪12の旋削加工を量産的に実施した場合、外輪鍔ヌスミ部17、17および内輪鍔ヌスミ部18の表面における面粗さRtの上限値は6.0〜7.0μm程度で安定するため、量産工程において旋削バイトの摩耗限界を超えないように旋削バイトの交換を実施していくことで、面粗さRtを8.0μm以下に抑制することは十分可能である。そして、このような管理を実施することで、仕上げ加工工程においてヌスミ部の仕上げ加工を行なうことなく、外輪鍔ヌスミ部17、17および内輪鍔ヌスミ部18の表面における面粗さRtを8.0μm以下とすることができる。すなわち、上述の熱処理工程によって窒素富化層が形成され、窒素富化層におけるオーステナイト結晶粒の粒度番号が10番を超えており、かつ軌道輪の水素含有量を0.5質量ppm以下に抑えることと、外輪鍔ヌスミ部17、17および内輪鍔ヌスミ部18の表面における面粗さRtを8.0μm以下に抑制することとの組み合わせにより、製造コストを上昇させることなく、転動疲労寿命の向上と鍔部の静的破壊強度の向上とを両立させた量産的に製造可能な鍔付ころ軸受1を得ることができる。
以下、本発明の実施例1について説明する。JIS規格SUJ2材(1.0質量%C−0.25質量%Si−0.4質量%Mn−1.5質量%Cr)を素材として用いて、熱処理工程における熱処理履歴が鍔付ころ軸受の外輪および内輪の各種特性に及ぼす影響を調査する試験を行なった。調査した特性は(1)水素含有量、(2)オーステナイト結晶粒度、(3)シャルピー衝撃値、(4)破壊応力値、(5)転動疲労寿命である。
試験の試料は試料A〜Hの8種類とした。各試料の熱処理履歴は次のとおりである。試料A〜D(本発明例)はRXガスとアンモニア(NH)ガスとの混合ガス雰囲気中において850℃の温度で150分間保持することにより浸炭窒化された。熱処理パターンは図3に示す熱処理工程と同様の工程を採用し、浸炭窒化処理温度である850℃から1次焼入された後、浸炭窒化処理温度より低い温度域である780℃〜830℃に加熱され、その後急冷されることにより2次焼入が実施された。なお、2次焼入温度が780℃の試料Aは十分に焼入硬化されなかったため、特性調査の試験対象から除外された。
また、試料EおよびF(比較例)については基本的には試料A〜Dと同様の熱処理が実施されたが、2次焼入温度が浸炭窒化温度である850℃以上の850℃〜870℃とされた。さらに、試料G(比較例;従来の浸炭窒化処理)についてはRXガスとアンモニアガスとの混合ガス雰囲気中において850℃の温度で150分間保持することにより浸炭窒化された。その後、浸炭窒化処理温度である850℃からそのまま急冷されて焼入が実施され、2次焼入は実施されなかった。また、試料H(比較例;通常の焼入)については、浸炭窒化処理は実施されず、850℃に加熱された後、急冷されることにより焼入が実施された。2次焼入は実施されなかった。
次に、各種特性を調査する試験の試験方法について説明する。
(1)水素含有量
水素含有量については、LECO社製DH−103型水素分析装置を用いて、鋼中の非拡散性水素量を分析した。拡散性水素量は測定してない。このLECO社製DH−103型水素分析装置の仕様は以下のとおりである。分析範囲は0.01〜50.00質量ppm、分析精度は±0.1質量ppmまたは±3質量%H(いずれか大きいほう)、分析感度は0.01質量ppm、検出方式は熱伝導度法である。また、試料質量範囲は10mg〜35mg(試料サイズは最大で直径12mm×長さ100mm)、加熱炉温度範囲は50℃〜1100℃、試薬はアンハイドロン Mg(ClO42、アスカライト NaOH、キャリアガスは窒素ガス、ガスドージングガスは水素ガスであり、いずれのガスも純度99.99質量%以上、圧力は40psi(2.8kgf/cm2)である。
測定手順の概要は以下のとおりである。専用のサンプラーで採取した試料をサンプラーごとに上記の水素分析装置に挿入する。内部の拡散性水素は窒素キャリアガスによって熱伝導度検出器に導かれる。この拡散性水素は本実施例では測定しない。次に、サンプラーから試料を取り出し、抵抗加熱炉内で加熱し、非拡散性水素を窒素キャリアガスによって熱伝導度検出器に導く。熱伝導度検出器において熱伝導度を測定することによって非拡散性水素量を知ることができる。
(2)オーステナイト結晶粒度
オーステナイト結晶粒度の測定は、JIS G 0551の鋼のオーステナイト結晶粒度試験方法に基づいて行なった。
(3)シャルピー衝撃値
シャルピー衝撃値の測定は、JIS Z 2242の金属材料のシャルピー衝撃試験方法に基づいて行なった。試験片は、JIS Z 2202に示されたUノッチ試験片(JIS規格3号試験片)を用いた。
(4)破壊応力値
図9は、破壊応力値を測定するための静圧壊強度試験の試験片を示す図である。図9を参照して、破壊応力値を測定するための静圧壊強度試験の試験方法について説明する。
図9を参照して、静圧壊強度試験片51は外径60mm、内径45mm、幅15mmの円環状の形状を有している。そして、荷重方向52の向きに荷重が徐々に負荷されて、静圧壊強度試験片51が破壊された時点における荷重が測定される。その後、得られた破壊荷重が、下記に示す曲がり梁の応力計算式(A)〜(C)により応力値に換算される。なお、静圧壊強度試験片51は図9に示す試験片に限られず、他の形状の静圧壊強度試験片51を用いてもよい。
図9の試験片の凸表面における繊維応力をσ、凹表面における繊維応力をσとすると、σおよびσは下記の式によって求められる(機械工学便覧A4編材料力学A4−40参照)。ここで、Nは静圧壊強度試験片51の軸を含む断面の軸力、Aは横断面積、eは外半径、eは内半径(図9参照)を表わす。また、κは曲がり梁の断面係数である。
σ=(N/A)+{M/(Aρ)}[1+e/{κ(ρ+e)}]・・・(A)
σ=(N/A)+{M/(Aρ)}[1−e/{κ(ρ−e)}]・・・(B)
κ=−(1/A)∫A{η/(ρ+η)}dA・・・(C)
(5)転動疲労寿命
転動疲労寿命試験の試験条件を表1に示す。
Figure 2007040503
表1を参照して、直径12mm、長さ22mmの円筒状の試験片が用いられ、3/4インチ(19.05mm)の鋼球と接触面圧5.88GPaで接触しつつ、1分間に46240回の荷重が負荷される。そして、試験片に剥離が発生するまでの荷重の負荷回数(寿命)が調査される。得られた寿命は統計的に解析され、累積破損確率が10%となる寿命(L10寿命)が算出される。また、試験数は各試料について10回とし、潤滑油にはタービンVG68が採用され強制循環により給油される。
次に、転動疲労寿命試験の試験機について説明する。図10は、転動疲労寿命試験機の概略正面図である。また、図11は、転動疲労寿命試験機の概略側面図である。図10および図11を参照して、転動疲労試験の試験機について説明する。
図10および図11を参照して、転動疲労寿命試験機60は、駆動ロール61と、案内ロール62と、鋼球63とを備えている。そして、転動疲労寿命試験片69は、駆動ロール61によって駆動され、鋼球63と接触して回転する。鋼球63は、案内ロール62にガイドされて、転動疲労寿命試験片69との間で高い面圧を及ぼし合いながら転動する。
次に試験結果について説明する。表2に上記(1)〜(5)の試験結果を示す。
Figure 2007040503
(1)水素含有量
表2を参照して、2次焼入が実施されていないの従来の浸炭窒化処理品である試料Gは、0.72質量ppmと非常に高い値となっている。これは、浸炭窒化処理の雰囲気に含まれるアンモニア(NH)が分解して水素が鋼中に浸入したためと考えられる。これに対し、試料B〜Dは、水素量は0.37〜0.40質量ppmと半分近くまで減少している。この水素量は通常の焼入品である試料Hと同レベルである。
上記の水素含有量の低減により、水素の固溶に起因する鋼の脆化を軽減することができる。すなわち、水素含有量の低減により、本発明例の試料B〜Dのシャルピー衝撃値は試料Gに比べて大きく改善されている。
(2)オーステナイト結晶粒度
表2を参照して、2次焼入温度が浸炭窒化処理時の焼入(1次焼入)の温度より低い場合、すなわち試料B〜Dの場合、オーステナイト結晶粒度は粒度番号11〜12と顕著に微細化されている。一方、2次焼入温度が1次焼入温度以上である試料EおよびFならびに2次焼入が実施されていない試料Gおよび試料Hの場合、オーステナイト結晶粒度は粒度番号10であり、本発明例の試料B〜Dより粗大な結晶粒となっている。
(3)シャルピー衝撃値
表2を参照して、従来の浸炭窒化処理品である試料Gのシャルピー衝撃値は5.33J/cm2であるのに対して、本発明例の試料B〜Dのシャルピー衝撃値は6.30〜6.65J/cmと高くなっている。さらに、この中でも2次焼入温度の低い試料ほどシャルピー衝撃値が高くなる傾向がある。通常の焼入品である試料Hのシャルピー衝撃値は6.70J/cm2と高くなっている。
(4)破壊応力値
この破壊応力値は、軌道輪の静的破壊強度に相当する。表2を参照して、従来の浸炭窒化処理品である試料Gの破壊応力値は2330MPaとなっている。これに対して、試料B〜Dの破壊応力値は2650〜2840MPaと改善された値となっている。一方、通常の焼入品である試料Hの破壊応力値は2770MPaである。この破壊応力値と水素含有量およびオーステナイト結晶粒度との関係から、試料B〜Dの改善された静的破壊強度は、オーステナイト結晶粒の微細化と並んで、水素含有量の低減による効果が大きいと推定される。
(5)転動疲労寿命
表2を参照して、通常の焼入品である試料Hは窒素富化層を表層部に有していない。そのため、転動疲労寿命L10は最も短い。これに対して、従来の浸炭窒化処理品である試料Gの転動疲労寿命は3.1倍となった。さらに、試料B〜Fのうち、2次焼入が浸炭窒化処理温度より低い温度で実施された試料B〜Dの転動疲労寿命は従来の浸炭窒化処理品である試料Gよりも大幅に向上した。一方、2次焼入が浸炭窒化処理温度以上の温度で実施された試料E,Fは、従来の浸炭窒化処理品である試料Gと同等か、それより低い値となった。
以上の試験結果より、本発明例の試料B〜Dは、表層部に窒素富化層が形成され、結晶粒が細かく、かつ水素含有量も少ないので、他の試料に比べて耐衝撃強度、静的破壊強度および転動疲労寿命にすぐれたものとなっていることが分かる。
以下、本発明の実施例2について説明する。JIS規格SUJ2材(1.0質量%C−0.25質量%Si−0.4質量%Mn−1.5質量%Cr)を素材として用いて、熱処理工程における熱処理履歴が鍔付ころ軸受の外輪および内輪の各種特性に及ぼす影響を調査する試験を行なった。調査した特性は(1)転動疲労寿命、(2)シャルピー衝撃値、(3)静的破壊靭性値、(4)破壊応力値、(5)経年寸法変化率、(6)異物混入下における転動疲労寿命である。
試験の試料はX材、Y材およびZ材の3種類とした。各試料の熱処理履歴は次のとおりである。X材(比較例;通常の焼入)については、浸炭窒化処理は実施されずに焼入が実施された。2次焼入は実施されなかった。Y材(比較例;従来の浸炭窒化処理)についてはRXガスとアンモニアガスとの混合ガス雰囲気中において845℃の温度で150分間保持されることにより浸炭窒化された。その後、浸炭窒化処理温度である845℃からそのまま急冷されて焼入が実施され、2次焼入は実施されなかった。Z材(本発明例)はRXガスとアンモニアガスとの混合ガス雰囲気中において845℃の温度で150分間保持されることにより浸炭窒化された。熱処理パターンは図3に示す熱処理工程が採用され、浸炭窒化処理温度である845℃から1次焼入された後、浸炭窒化処理温度より低い温度域である800℃に加熱されたあと急冷されることにより2次焼入が実施された。
次に、試験方法および試験結果について説明する。
(1)転動疲労寿命
試験条件および試験装置は、実施例1と同様である。試験結果を表3に示す。
Figure 2007040503
表3を参照して、浸炭窒化が実施され、窒素富化層が形成されたY材(比較例)のL10寿命(統計的に試験片10個中1個が破損するまでの寿命)は、通常の焼入のみが実施されたX材(比較例)のL10寿命の3.1倍となり、窒素富化層の形成による長寿命化の効果が認められる。これに対して、本発明例であるZ材は、Y材の1.74倍、またX材の5.4倍の長寿命となった。この長寿命化の主因は窒素富化層の形成による長寿命化に加えて、オーステナイト結晶粒の細粒化に起因した鋼組織(ミクロ組織)の微細化であると考えられる。
(2)シャルピー衝撃値
試験方法は実施例1と同様である。試験結果を表4に示す。
Figure 2007040503
表4を参照して、従来の浸炭窒化処理が実施されたY材(比較例)のシャルピー衝撃値は、通常の焼入れが実施されたX材(比較例)よりも低い値となった。一方、Z材(本発明例)はX材と同等の値となった。
(3)静的破壊靭性値
図12は静的破壊靭性値を測定するための試験方法を説明するための図である。図12を参照して、静的破壊靭性値を測定するための試験方法を説明する。
図12を参照して、静的破壊靭性値測定装置70は、下部支持用ころ71、71と、荷重負荷用ころ72とを備えている。一方、静的破壊靭性試験片79は長さA、高さWの四角柱状の形状を有している。そして、長手方向に沿う面の1つから、反対側の面に向けてノッチ79Aが形成されている。ノッチ79Aは当該長手方向に沿う面の1つに隣り合い、かつ長手方向に沿う2つの面に貫通するように形成されている。さらに、ノッチ79Aの先端には長さ約1mmの予き裂79Bが形成され、前述の長手方向に沿う面から予き裂79Bの先端までの距離はaとなっている。
次に、試験手順について説明する。図12を参照して、2つの下部支持用ころ71、71が間隔2Lをおいて配置され、下部支持用ころ71、71の上に接触するように静的破壊靭性試験片79が前述の長手方向に沿う面の1つが下になるようにセットされる。このとき、ノッチ79Aの開口から2つの下部支持用ころ71、71までの距離が等しくなるように静的破壊靭性試験片79はセットされる。さらに、前述の長手方向に沿う面の1つとは反対側の面に接触するように、荷重負荷用ころ72がセットされる。この荷重負荷用ころ72は前述の長手方向に沿う面の1つとは反対側の面において予き裂79Bの先端から最も近い位置に配置される。そして、荷重負荷方向73の向きに荷重が徐々に負荷され(3点曲げ)、静的破壊靭性試験片79が破壊した時点における荷重(破壊荷重P)が測定される。破壊靭性値(K1C値)の算出には以下に示す式(D)を用いる。試験結果を表5に示す。
1C=(PL√a/BW){5.8−9.2(a/W)+43.6(a/W)−75.3(a/W)+77.5(a/W)}・・・(D)
Figure 2007040503
表5を参照して、予き裂深さaが浸炭窒化層深さよりも大きくなったため、比較例であるX材とY材との破壊靭性値には差異は見られなかった。一方、本発明例であるZ材は比較例であるX材およびY材に対して約1.2倍の破壊靭性値を有していた。
(4)破壊応力値
試験方法は実施例1と同様である。試験結果を表6に示す。
Figure 2007040503
表6を参照して、従来の浸炭窒化処理が実施されたY材の破壊応力値は、通常の焼入が実施されたX材よりもやや低い値となった。一方、本発明例のZ材は、Y材よりも破壊応力値が向上しており、X材と遜色ないレベルとなっている。
(5)経年寸法変化率
130℃の温度で500時間保持した場合の、試験片の寸法変化率を測定した。測定結果を、表面硬度、残留オーステナイト量(試験片の表面から50μmの深さにおける測定値)と併せて表7に示す。
Figure 2007040503
表7を参照して、残留オーステナイト量の多いY材の寸法変化率に比べて、本発明例のZ材の寸法変化率は大きく抑制されていることがわかる。
(6)異物混入下における転動疲労寿命
玉軸受6206(JIS B 1513に記載)を用い、所定の異物を所定量潤滑油中に混入させた異物混入下での転動疲労寿命を評価した。試験条件を表8に、試験結果を表9に示す。
Figure 2007040503
Figure 2007040503
表9を参照して、浸炭窒化処理が実施されていないX材に比べて、従来の浸炭窒化処理が実施されたY材は寿命が約2.5倍となった。一方、本発明例のZ材は寿命がX材の約2.3倍となった。本発明例のZ材は、比較例のY材に比べて残留オーステナイト量が少ないものの、窒素富化層におけるオーステナイト結晶粒が微細であるため、鋼組織(ミクロ組織)が微細化されている。その結果、本発明例のZ材は比較例のY材とほぼ同等の長寿命となった。
以上の結果より、Z材、すなわち本発明例は、従来の浸炭窒化処理では困難であった転動疲労寿命の長寿命化、破壊応力値の向上、経年寸法変化率の低減の3項目を同時に満足することができることがわかる。
以下、本発明の実施例3について説明する。JIS規格SUJ2材(1.0質量%C−0.25質量%Si−0.4質量%Mn−1.5質量%Cr)を素材として用いて、熱処理工程における熱処理履歴が鍔付ころ軸受の軌道輪の各種特性に及ぼす影響を調査する試験を行なった。調査した特性は(1)オーステナイト結晶粒度、(2)水素含有量、(3)残留オーステナイト量、(4)窒素含有量、(5)表面硬さ、(6)転動疲労寿命、(7)鍔部の静的割れ強度である。
試験の試料は試料3A〜3Dの4種類とした。まず、試験の対象となる試料の作成方法を説明する。いずれの試料についても、JIS規格SUJ2材の棒鋼が素材として用いられ、当該棒鋼から旋削加工により幅方向の一方に鍔部を有する鍔付ころ軸受の内輪の形状を有する成形部材が作製された。内輪の形状は、内径φ30mm、転走部外径φ39mm、鍔部外径φ42mm、幅19mm、鍔部幅2.5mmである。
各試料の熱処理履歴は次のとおりである。試料3A(本発明例)はRXガスとアンモニア(NH)ガスとの混合ガス雰囲気中において850℃の温度で150分間保持されることにより浸炭窒化された。熱処理パターンは図3に示す熱処理工程と同様の工程が採用され、浸炭窒化処理温度である850℃から1次焼入された後、浸炭窒化処理温度より低い温度域である800℃に加熱されて30分間保持され、その後急冷されることにより2次焼入が実施された。さらに、180℃の温度で90分間保持されることにより、焼戻された。
試料3B(比較例;通常の焼入)については、浸炭窒化処理は実施されず、RXガス雰囲気中において840℃の温度で30分間保持された後、急冷されることにより焼入が実施された。2次焼入は実施されなかった。さらに、180℃の温度で90分間保持されることにより、焼戻された。また、試料3C(比較例;従来の浸炭窒化処理)についてはRXガスとアンモニアガスとの混合ガス雰囲気中において850℃の温度で150分間保持することにより浸炭窒化された。その後、浸炭窒化処理温度である850℃からそのまま急冷されて焼入が実施され、2次焼入は実施されなかった。さらに、180℃の温度で90分間保持されることにより、焼戻された。試料3D(比較例;高温2次焼入)については、基本的には試料3Aと同様の熱処理が実施されたが、2次焼入温度が浸炭窒化温度と同じ850℃とされた。
上記熱処理の後、通常の鍔付ころ軸受の製造工程と同様に研削加工などの仕上げ加工が実施された。このとき、鍔ヌスミ部には仕上げ加工は実施されておらず、鍔ヌスミ部の表面は上記の旋削加工後の面粗さ(Rt=4.0μm)を保持している。
次に、試験方法について説明する。オーステナイト結晶粒度の評価、水素含有量の測定については上述の実施例1と同様に実施された。残留オーステナイト量は、X線回折計(XRD)を用いて、マルテンサイトα(211)面とオーステナイトγ(220)面との回折強度とを測定し、両者を比較することにより算出した。測定部位は表面からの深さ50μmの領域とした。窒素含有量は、EPMA(波長分散型X線マイクロアナライザ)を用いて、表面からの深さ50μmの領域を測定した。表面硬さは、ビッカース硬度計を用いて測定荷重1kgfの条件で測定した。
転動疲労寿命は、上述の内輪に、外輪、ころおよび保持器を組み合わせて鍔付ころ軸受を組立て、所定の荷重を負荷しつつ回転させて破損が発生するまでの寿命を調査した。図13は、実施例3の転動疲労寿命試験を実施した試験機の概略断面図である。図13を参照して、転動疲労寿命試験の試験方法について説明する。
図13を参照して、転動寿命試験機80は、2つの玉軸受81、81と、玉軸受81、81の内輪である玉軸受内輪81Bの内周に嵌入された回転軸82とを備えている。玉軸受81、81の外輪である玉軸受外輪81Aは玉軸受81、81の外周を取り囲むように配置された玉軸受ハウジング85、85に固定されており、回転軸82は玉軸受内輪81Bと一体に軸まわりに回転自在に軸支されている。さらに、転動寿命試験機80は、被試験軸受の外輪を固定するための固定用ハウジング83と、固定用ハウジング83を介して被試験軸受に荷重を負荷するための荷重負荷部材84とを備えている。
次に、試験手順について説明する。図13に示すように、上述のように準備された内輪92に、外輪91、ころ93および保持器94が組み合わされて試験対象となる試験用鍔付ころ軸受9が組み立てられる。そして、内輪92に回転軸82が嵌入され、かつ外輪91が外輪91の外周を取り囲むように配置された固定用ハウジング83により固定される。これにより、内輪92は回転軸82と一体に軸まわりに回転自在に軸支される。そして、上述のように被試験軸受である試験用鍔付ころ軸受9が転動寿命試験機80にセットされた状態で、荷重負荷部材84に荷重負荷方向αに沿って荷重が負荷され、負荷された荷重は固定用ハウジング83を介して試験用鍔付ころ軸受9に伝達される。この状態で、回転軸82が回転軸回転方向βに沿って回転する。そして、図示しない破損検出手段により試験用鍔付ころ軸受9の破損(剥離)が検出されて、転動疲労寿命が評価される。なお、本転動疲労寿命試験は、荷重Fr=8.79kN、回転速度5000回転/分、潤滑はタービン56油浴給油の条件のもとで実施された。
鍔部の静的割れ強度は、上述の内輪の鍔部に荷重を徐々に負荷して、破損が発生した時点における荷重により評価した。図14は実施例3における鍔部の静的割れ強度の測定方法を説明するための図である。図14を参照して、実施例3における鍔部の静的割れ強度の試験手順を説明する。
図14を参照して、静的割れ強度測定治具30は保持治具31と、円筒状の荷重負荷用ころ32とを備えている。まず、前もって内輪鍔ヌスミ部98の表面粗さRtが測定された内輪92は内輪鍔部96を有する側の端面が保持治具31の水平部31Aの表面に接触するようにセットされる。さらに、水平部31Aの表面に接触した側とは反対側の内輪鍔部96の側壁に端面が接触するように荷重負荷用ころ32がセットされる。そして、内輪鍔部96の側壁に接触した側とは反対側の荷重負荷用ころ32の端面に対して、当該端面に垂直な荷重負荷方向40に沿った向きに徐々に荷重が負荷され、内輪鍔部96が破損した時点における荷重が測定される。
次に、試験結果について説明する。表10に、上述の試験の試験結果を示す。
Figure 2007040503
(1)オーステナイト結晶粒度
本発明例である試料3Aのオーステナイト結晶粒度は、粒度番号12であり金属組織が顕著に微細化されている。これに対し、通常の焼入が実施された試料3Bおよび従来の浸炭窒化処理が実施された試料3Cのオーステナイト結晶粒度は、粒度番号8〜9であり、試料3Aよりも金属組織が粗くなっている。また、2次焼入温度の高い試料3Dのオーステナイト結晶粒度は、2次焼入を実施したにもかかわらず、粒度番号9.5であり試料3Aよりも金属組織が粗く、試料3Bおよび3Cに近い結晶粒度となっている。これは、オーステナイト結晶粒度が焼入の際の加熱温度および加熱時間に依存するため、2次焼入温度の高い試料3Dは、試料3Aよりもむしろ最終的な焼入温度の近い試料3Bおよび3Cと同等のオーステナイト結晶粒度となったものと考えられる。
(2)水素含有量
試料3A、3Bおよび3Dの水素含有量は、0.5質量ppm以下であるのに対し、従来の浸炭窒化処理が実施された試料3Cの水素含有量は0.68質量ppmと非常に高い値となっている。検出された水素は、焼入の際の雰囲気中に含まれるアンモニアおよびメタンやエタンなどの炭化水素の分解などによって生成した水素が鋼中に侵入したものであると考えられる。したがって、焼入の際の加熱時間が短い試料3Bの水素含有量は低くなっている。また、試料3Aおよび試料3Dの1次焼入における加熱時間は試料3Cと同じであるが、試料3Aおよび試料3Dは一度冷却された後再加熱されており、このとき鋼中の水素が放出されている。そのため、2次焼入が実施された試料3Aおよび試料3Dの水素含有量は2次焼入の加熱温度および加熱時間に応じた量となり、0.5体積ppm以下となったものと考えられる。
(3)残留オーステナイト量
本発明例である試料3Aの残留オーステナイト量は18体積%であり、適度な残留オーステナイト量となっている。これに対し、試料3Cおよび3Dの残留オーステナイト量は25体積%を超えており、経年寸法変化が大きくなるおそれがあるため、好ましい残留オーステナイト量であるとはいえない。一方、試料3Bの残留オーステナイト量は11体積%未満となっており、転動疲労寿命、特に表面起点型の破損に対する転動疲労寿命の向上を考慮すると、好ましい残留オーステナイト量であるとはいえない。
(4)窒素含有量
浸炭窒化処理が実施されていない試料3Bの窒素含有量は0質量%であり、転動疲労寿命の向上を考慮すると、好ましいとはいえない。一方、試料3A、3Cおよび3Dの窒素含有量はいずれも好ましい範囲の窒素(0.1質量%以上0.7質量%以下)を含有している。なお、浸炭窒化処理後に2次焼入が実施された試料3Aおよび3Dは、アンモニアを含まない雰囲気中で再加熱されているため、従来の浸炭窒化処理が実施され、2次焼入が実施されなかった試料3Cに比べて、窒素含有量が若干低い傾向にあった。
(5)表面硬さ
試料3A〜3Dの表面硬さは740〜780HVとなっており、一般的に軸受部品として機能するために必要とされる表面硬さを有していることが確認された。
(6)転動疲労寿命
通常の焼入が実施された試料3Bに対して、試料3Cは2.9倍、試料3Dは3.4倍、試料3Aは5.7倍の寿命を有していた。このことから、窒素富化層が形成され、水素含有量が0.5質量ppm以下とされ、さらにオーステナイト結晶粒の粒度番号が10番を超えることで転動疲労寿命が向上することが確認された。
(7)鍔部の静的割れ強度
通常の浸炭窒化処理が実施された試料3Cに対して、試料3Dは1.18倍、試料3Bは1.40倍、試料3Aは1.48倍の静的割れ強度を有していた。このことから、水素含有量が低減され、オーステナイト結晶粒が細粒化されることにより、鍔部の静的割れ強度が向上することが分かった。
以上より、鍔部の静的割れ強度が本発明例の試料3Aに近い試料3Bは、転動疲労寿命が向上しておらず、本発明例の試料Aのみが鍔部の静的割れ強度の向上と転動疲労寿命の向上との両方の要求を満足することが分かった。
さらに、上述の試料3A〜3Dを用いて、鍔付ころ軸受における軌道輪の鍔部の静的割れ強度に及ぼす鍔ヌスミ部の表面粗さRtの影響を調査する試験を行なった。すなわち、上述の鍔部の静的割れ強度試験において、鍔ヌスミ部の表面粗さの異なる試料について試験を実施し、鍔ヌスミ部の表面粗さと鍔部の静的割れ強度との関係を調査した。
図15は、鍔ヌスミ部の表面粗さと鍔部の静的割れ強度との関係を示す図である。図15において、横軸は鍔ヌスミ部の表面粗さであり、縦軸は鍔部の静的割れ強度である。また、黒丸は試料3A、白丸は試料3B、白三角は試料3C、白四角は試料3Dの測定値を示しており、図中の実線、点線、一点鎖線および二点鎖線はそれぞれ試料3A、3B、3Cおよび3Dの測定値から1次近似により求めた近似直線である。図15を参照して、軌道輪の鍔部の静的割れ強度に及ぼす鍔ヌスミ部の表面粗さRtの影響について説明する。
図15を参照して、いずれの試料においても、鍔ヌスミ部の表面粗さRtが大きくなるにつれて、鍔部の静的割れ強度が低下している。ここで、本実施例3の内輪が鍔部の静的割れ強度に対する要求特性の高い用途に使用される場合を想定すると、鍔部の静的割れ強度は6kN以上必要である。6kN以上の鍔部の静的割れ強度を確実に確保するためには、図15の測定値のバラツキを考慮すると、試料3A、3B、3Cおよび3Dにおいて鍔ヌスミ部の表面粗さRtはそれぞれ8μm以下、7μm以下、2.5μm以下および4.5μm以下とすることが好ましいことが分かる。
次に、鍔ヌスミ部の表面粗さRtを好ましい範囲に抑制するための量産工程における管理方法について検討する。図16は、本実施例3の内輪を旋削加工した場合の旋削個数と鍔ヌスミ部の表面粗さRtとの関係を示す図である。図16において、横軸は内輪の旋削個数であり、縦軸は内輪の鍔ヌスミ部の表面粗さRtである。また、図16中において、上側の曲線はバラツキの上限、下側の曲線はバラツキの下限を示している。図16を参照して、鍔ヌスミ部の表面粗さRtを好ましい範囲に抑制するための管理方法について説明する。
図16を参照して、バラツキの上限を示す上側の曲線に着目すると、鍔ヌスミ部の表面粗さRtは、旋削個数が100個以下では2.0μm以下であるが、100個から600個の範囲で増大して6.0μm程度となり、その後1200個程度までは6.0〜7.0μmの範囲に停滞する。そして、1200個を超えると再度増大を開始し、1400個で8.0μm以上となって、その後急激に増大する。このことから、鍔ヌスミ部の表面粗さRtを6.0μm以下に管理するためには、旋削バイトの早期交換を実施するか、またはタンブラー加工などの仕上げ加工を別途実施する等の対策が必要となり、鍔付ころ軸受の製造コストが上昇する。一方、上述のように鍔ヌスミ部の表面粗さRtは6.0〜7.0μmの範囲に停滞域が存在することから、7.0μm以下に管理することは比較的容易であり、低コストで実施することができる。
ここで、上述の試料3A、3B、3Cおよび3Dにおける鍔ヌスミ部の表面粗さRtの好ましい値について検討すると、8μm以下および7μm以下である試料3Aおよび3Bについては鍔ヌスミ部の表面粗さRtを比較的容易に好ましい範囲に管理することができるが、2.5μm以下および4.5μm以下である試料3Cおよび3Dについては製造コストを上昇させることなく管理することは困難である。
以上の試験結果より、転動疲労寿命向上の要求を満足することができる試料3A、3Cおよび3Dのうち、試料3Cおよび3Dは製造コストを上昇させることなく鍔部の静的破壊強度を向上させることが困難であるのに対し、最も転動疲労寿命が向上した試料3Aは、比較的容易な管理により鍔部の静的破壊強度を向上させることが可能であることが分かった。すなわち、鍔付ころ軸受の軌道輪において、表層部に窒素富化層が形成されており、窒素富化層におけるオーステナイト結晶粒の粒度番号が10番を超えており、かつ軌道輪の水素含有量が0.5質量ppm以下であることに加えて鍔ヌスミ部の表面粗さRtが8.0μm以下であることにより、転動疲労寿命の向上と鍔部の静的破壊強度の向上とを両立させた鍔付ころ軸受を比較的安価に提供することができることが明らかとなった。
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
本発明の鍔付ころ軸受は、軌道輪としての環状の外輪と、外輪の内側に配置される軌道輪としての内輪と、外輪と内輪との間に配置される複数のころとを備え、外輪または内輪の少なくとも一方が鍔部を含む鍔付ころ軸受に特に有利に適用され得る。
本発明の一実施の形態における鍔付ころ軸受の構成を示す概略断面図である。 実施の形態における鍔付ころ軸受の製造方法の概略を示す図である。 実施の形態の鍔付ころ軸受における外輪および内輪に対して実施される熱処理工程の詳細を示す図である。 実施の形態の鍔付ころ軸受における外輪および内輪に対して実施される熱処理工程の変形例の詳細を示す図である。 実施の形態における鍔付ころ軸受の外輪および内輪の表層部に形成された窒素富化層におけるミクロ組織、とくにオーステナイト粒を示す図である。 従来の鍔付ころ軸受の外輪および内輪の表層部におけるミクロ組織、とくにオーステナイト粒を示す図である。 図5のオーステナイト結晶粒を模式的に示した図である。 図6のオーステナイト結晶粒を模式的に示した図である。 破壊応力値を測定するための静圧壊強度試験の試験片を示す図である。 転動疲労寿命試験機の概略正面図である。 転動疲労寿命試験機の概略側面図である。 静的破壊靭性値を測定するための試験方法を説明するための図である。 実施例3の転動疲労寿命試験を実施した試験機の概略断面図である。 実施例3における鍔部の静的割れ強度の測定方法を説明するための図である。 鍔ヌスミ部の表面粗さと鍔部の静的割れ強度との関係を示す図である。 実施例3の内輪を旋削加工した場合の旋削個数と鍔ヌスミ部の表面粗さRtとの関係を示す図である。
符号の説明
1 鍔付ころ軸受、9 試験用鍔付ころ軸受、11 外輪、11A 外輪の外周面、11B 外輪の一方の側面、11C 外輪転走面、12 内輪、12A 内輪の内周面、12B 内輪の一方の側面、12C 内輪転走面、13 ころ、13C ころ転走面、14 保持器、15 外輪鍔部、16 内輪鍔部、17 外輪鍔ヌスミ部、18 内輪鍔ヌスミ部、21 外周部材、22 内周部材、30 静的割れ強度測定治具、31 保持治具、31A 保持治具の水平部、40 荷重負荷方向、51 静圧壊強度試験片、52 荷重方向、60 転動疲労寿命試験機、61 駆動ロール、62 案内ロール、63 鋼球、69 転動疲労寿命試験片、70 静的破壊靭性値測定装置、71 下部支持用ころ、72 荷重負荷用ころ、73 荷重負荷方向、79 静的破壊靭性試験片、79A ノッチ、79B 予き裂、80 転動寿命試験機、81 玉軸受、81A 玉軸受外輪、81B 玉軸受内輪、82 回転軸、83 固定用ハウジング、84 荷重負荷部材、85 玉軸受ハウジング、91 外輪、92 内輪、93 ころ、94 保持器、96 内輪鍔部、98 内輪鍔ヌスミ部。

Claims (3)

  1. 軌道輪としての環状の外輪と、
    前記外輪の内側に配置される軌道輪としての内輪と、
    前記外輪と前記内輪との間に配置される複数のころとを備え、
    前記外輪または前記内輪の少なくとも一方は鍔部を含み、
    前記鍔部に形成された鍔ヌスミ部の表面における面粗さRtは8.0μm以下であり、
    前記鍔部を含む軌道輪には、表層部に窒素富化層が形成されており、
    前記窒素富化層におけるオーステナイト結晶粒の粒度番号が10番を超えており、
    前記鍔部を含む前記軌道輪の水素含有量が0.5質量ppm以下である、鍔付ころ軸受。
  2. 前記窒素富化層における残留オーステナイト量は、11体積%以上25体積%以下である、請求項1に記載の鍔付ころ軸受。
  3. 前記窒素富化層における窒素含有量は、0.1質量%以上0.7質量%以下である、請求項1または2に記載の鍔付ころ軸受。
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