JP2009052119A - 鋼の熱処理方法、機械部品の製造方法および機械部品 - Google Patents
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Abstract
【課題】処理効率の低下を抑制しつつ、オーステナイト結晶粒の微細化が可能な浸炭処理または浸炭窒化処理と焼入硬化処理とを含む鋼の熱処理方法、高い生産効率で浸炭処理または浸炭窒化処理と焼入硬化処理とを含む熱処理が実施され、オーステナイト結晶粒が微細化された機械部品およびその製造方法を提供する。
【解決手段】鋼の熱処理方法は、A1点以上の温度である浸炭温度T1において浸炭する浸炭工程と、浸炭工程の後、MS点を超え660℃以下の温度である冷却温度T2に冷却する冷却工程と、冷却工程の後、A1点以上浸炭温度T1以下の温度である再加熱温度T3に再加熱する再加熱工程と、再加熱工程の後、A1点以上の温度からMS点以下の温度に冷却して焼入を実施する工程とを備えている。
【選択図】図8
【解決手段】鋼の熱処理方法は、A1点以上の温度である浸炭温度T1において浸炭する浸炭工程と、浸炭工程の後、MS点を超え660℃以下の温度である冷却温度T2に冷却する冷却工程と、冷却工程の後、A1点以上浸炭温度T1以下の温度である再加熱温度T3に再加熱する再加熱工程と、再加熱工程の後、A1点以上の温度からMS点以下の温度に冷却して焼入を実施する工程とを備えている。
【選択図】図8
Description
本発明は鋼の熱処理方法、機械部品の製造方法および機械部品に関し、より特定的には、浸炭処理または浸炭窒化処理と焼入硬化処理とを含む鋼の熱処理方法、浸炭処理または浸炭窒化処理と焼入硬化処理とを含む熱処理が実施されて製造される機械部品およびその製造方法に関するものである。
鋼からなる機械部品の表層部の耐久性等を向上させる熱処理方法として、浸炭処理や浸炭窒化処理が知られている。この浸炭処理や浸炭窒化処理においては、鋼からなる被処理物(機械部品の概略形状に成形された鋼部材)が、所定の雰囲気中でA1点以上の温度である表面処理温度に加熱されることにより、当該被処理物の表面から炭素、または炭素および窒素が被処理物中に侵入し、内部へと拡散する。そして、炭素および窒素の被処理物中における拡散係数は、当該被処理物の温度が高いほど大きくなる。したがって、表面処理温度を高くすることにより、浸炭処理や浸炭窒化処理の処理効率を向上させることができる。しかし、表面処理温度を高くした場合、被処理物を構成する鋼のオーステナイト結晶粒が大きくなる。そして、完成品である機械部品のオーステナイト結晶粒(旧オーステナイト結晶粒)が粗大化した場合、当該機械部品の特性が劣化するという問題が生じる。
これに対し、浸炭処理後に2回焼入を実施する熱処理方法が提案されている(たとえば、特許文献1参照)。図10は、浸炭処理後に2回焼入を実施する熱処理方法を説明するための図である。図10において、横方向は時間を示しており、右に行くほど時間が経過していることを示している。また、図10において、縦方向は温度を示しており、上に行くほど温度が高いことを示している。図10を参照して、浸炭処理後に2回焼入を実施する従来の鋼の熱処理方法を説明する。
図10を参照して、従来の鋼の熱処理方法においては、浸炭工程、1次焼入工程、再加熱工程および2次焼入工程が順次実施される。浸炭工程においては、被処理物が所望のカーボンポテンシャル(CP)値の雰囲気中において、A1点以上の温度、たとえば940℃に加熱され、5時間保持される。このとき、被処理物を構成する鋼のオーステナイト結晶粒は、この高温での保持により粗大化する。1次焼入工程においては、浸炭処理された被処理物が、A1点以上の温度からMS点以下の温度(たとえば室温付近)まで、たとえば焼入油に浸漬されることにより冷却されて焼入硬化される(1次焼入)。これにより、被処理物を構成する鋼の組織は、オーステナイト組織からマルテンサイト組織に変態する。
再加熱工程では、被処理物がA1点以上の温度、たとえば810℃に再加熱され、30分間保持される。このとき、1次焼入により被処理物を構成する鋼中に導入された高密度の転位や多数の炭化物を核として、多数のオーステナイト結晶粒が生成する。その結果、被処理物を構成する鋼のオーステナイト結晶粒が微細化される。2次焼入工程では、被処理物が、A1点以上の温度からMS点以下の温度(たとえば室温付近)まで、たとえば焼入油に浸漬されることにより冷却されて焼入硬化される(2次焼入)。これにより、被処理物を構成する鋼の組織はオーステナイト組織からマルテンサイト組織に変態する。そして、再加熱工程において微細化したオーステナイト結晶粒の痕跡は、2次焼入完了後の被処理物を構成する鋼において、旧オーステナイト結晶粒として残存し、オーステナイト結晶粒の微細な被処理物が得られる。以上のプロセスにより、高い表面処理温度で迅速に浸炭を行ない、かつ微細なオーステナイト結晶粒を得ることが可能な鋼の熱処理方法を提供することができる。
特開平11−217626号公報
しかしながら、上記2回焼入を実施するためには、たとえば浸炭処理が実施された被処理物を浸炭炉から取り出し、焼入油中に浸漬してMS点以下の温度にまで冷却した後、さらに加熱炉に入れてA1点以上の温度まで加熱した上で、再度焼入油中に浸漬してMS点以下の温度にまで冷却する必要がある。このような煩雑なプロセスを生産現場において行なうことは、生産現場における生産効率の低下の要因となり、結果として生産コストの上昇を招来する。
そこで、本発明の目的は、処理効率の低下を抑制しつつ、オーステナイト結晶粒の微細化が可能な浸炭処理または浸炭窒化処理と焼入硬化処理とを含む鋼の熱処理方法、高い生産効率で浸炭処理または浸炭窒化処理と焼入硬化処理とを含む熱処理が実施され、オーステナイト結晶粒が微細化された機械部品およびその製造方法を提供することである。
本発明に従った鋼の熱処理方法は、A1点以上の温度である表面処理温度において浸炭または浸炭窒化する工程と、浸炭または浸炭窒化する工程の後、MS点を超え660℃以下の温度である冷却温度に冷却する工程と、上記冷却温度に冷却する工程の後、A1点以上表面処理温度以下の温度である再加熱温度に再加熱する工程と、再加熱する工程の後、A1点以上の温度からMS点以下の温度に冷却して焼入を実施する工程とを備えている。
本発明者は、生産現場において生産効率低下の要因となる2回焼入の実施を回避しつつ、浸炭処理または浸炭窒化処理と焼入硬化処理とを実施し、かつオーステナイト結晶粒の微細化が可能な熱処理方法について詳細な検討を行なった。その結果、浸炭処理または浸炭窒化処理の後、被処理物をMS点以下の温度にまで冷却して焼入を実施しなくても、660℃以下の温度に冷却したあとA1点以上表面処理温度以下の温度域に再加熱し、その後焼入硬化処理を実施することにより、オーステナイト結晶粒の微細化が可能であることを見出した。
本発明の鋼の熱処理方法においては、浸炭または浸炭窒化する工程の後、MS点を超え660℃以下の温度である冷却温度に冷却する工程が実施され、このとき焼入は実施されない。そのため、たとえば被処理物を焼入油に浸漬する工程(図10の1次焼入工程)に代えて、上記冷却温度に保持された雰囲気中に被処理物を移動させて、上記冷却温度に被処理物を冷却する工程を採用することができる。その結果、本発明の鋼の熱処理方法によれば、処理効率の低下を抑制しつつ、オーステナイト結晶粒の微細化が可能な浸炭処理または浸炭窒化処理と焼入硬化処理とを含む鋼の熱処理方法を提供することができる。
ここで、A1点とは鋼を加熱した場合に、鋼の組織がフェライトからオーステナイトに変態を開始する温度に相当する点をいう。また、MS点とはオーステナイト化した鋼が冷却される際に、マルテンサイト化を開始する温度に相当する点をいう。
上記鋼の熱処理方法において好ましくは、上記冷却温度は450℃以上である。本発明の鋼の熱処理方法において、上記冷却温度を450℃未満としても、オーステナイト結晶粒を微細化させる効果は飽和する。一方、上記冷却速度を450℃未満とした場合、その後に被処理物を再加熱するために必要な熱エネルギーが大きくなる。そのため、上記冷却温度は450℃以上であることが好ましい。
上記鋼の熱処理方法において好ましくは、上記冷却温度は550℃以下である。上述のように、本発明の鋼の熱処理方法においては、上記冷却温度を660℃以下とすることにより、オーステナイト結晶粒を微細化することが可能である。しかし、2回焼入を実施した場合と同等のオーステナイト結晶粒の微細化を達成するためには、上記冷却温度を550℃以下とする必要がある。そのため、上記冷却温度は550℃以下であることが好ましい。
本発明に従った機械部品の製造方法は、鋼からなり、機械部品の概略形状に成形された鋼部材を準備する工程と、当該鋼部材に対して、浸炭処理または浸炭窒化処理と焼入硬化処理とを含む熱処理を実施する工程とを備えている。そして、当該熱処理は、上記本発明の鋼の熱処理方法を用いて実施される。
本発明の機械部品の製造方法によれば、処理効率の低下を抑制しつつ、オーステナイト結晶粒の微細化が可能な本発明の鋼の熱処理方法が、鋼部材の熱処理を実施する工程において採用されることにより、高い生産効率で、浸炭処理または浸炭窒化処理と焼入硬化処理とを含む熱処理が実施され、オーステナイト結晶粒が微細化された機械部品を製造することができる。
本発明に従った機械部品は、上述の機械部品の製造方法により製造されている。上述した本発明の機械部品の製造方法により製造されていることにより、本発明の機械部品は、高い生産効率で製造されており、製造コストが低減されつつオーステナイト結晶粒が微細化されている。
上記本発明の機械部品は軸受を構成する部品として用いられてもよい。浸炭処理または浸炭窒化処理が実施されることにより表層部が強化されるとともに、オーステナイト結晶粒が微細化され、かつ製造コストが低減された本発明の機械部品は、疲労強度、耐摩耗性等が要求される機械部品である軸受を構成する部品として好適である。
なお、上述の機械部品を用いて、軌道輪と、軌道輪に接触し、円環状の軌道上に配置される転動体とを備えた転がり軸受を構成してもよい。すなわち、軌道輪および転動体の少なくともいずれか一方、好ましくは両方が、上述の機械部品である。浸炭処理または浸炭窒化処理が実施されることにより表層部が強化されるとともにオーステナイト結晶粒が微細化され、かつ製造コストが低減された本発明の機械部品を備えていることにより、当該転がり軸受によれば、製造コストが低減されるとともに、長寿命な転がり軸受を提供することができる。
以上の説明から明らかなように、本発明の鋼の熱処理方法によれば、処理効率の低下を抑制しつつ、オーステナイト結晶粒の微細化が可能な浸炭処理または浸炭窒化処理と焼入硬化処理とを含む鋼の熱処理方法を提供することができる。また、本発明の機械部品および機械部品の製造方法によれば、高い生産効率で浸炭処理または浸炭窒化処理と焼入硬化処理とを含む熱処理が実施され、オーステナイト結晶粒が微細化された機械部品およびその製造方法を提供することができる。
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付しその説明は繰り返さない。
(実施の形態1)
図1は、本発明の一実施の形態である実施の形態1における機械部品を備えた転がり軸受としての深溝玉軸受の構成を示す概略断面図である。図1を参照して、実施の形態1における転がり軸受としての深溝玉軸受について説明する。
図1は、本発明の一実施の形態である実施の形態1における機械部品を備えた転がり軸受としての深溝玉軸受の構成を示す概略断面図である。図1を参照して、実施の形態1における転がり軸受としての深溝玉軸受について説明する。
図1を参照して、深溝玉軸受1は、環状の外輪11と、外輪11の内側に配置された環状の内輪12と、外輪11と内輪12との間に配置され、円環状の保持器14に保持された転動体としての複数の玉13とを備えている。外輪11の内周面には外輪転走面11Aが形成されており、内輪12の外周面には内輪転走面12Aが形成されている。そして、内輪転走面12Aと外輪転走面11Aとが互いに対向するように、外輪11と内輪12とは配置されている。さらに、複数の玉13は、内輪転走面12Aおよび外輪転走面11Aに接触し、かつ保持器14により周方向に所定のピッチで配置されることにより円環状の軌道上に転動自在に保持されている。以上の構成により、深溝玉軸受1の外輪11および内輪12は、互いに相対的に回転可能となっている。
ここで、機械部品である外輪11、内輪12、玉13および保持器14のうち、特に、外輪11、内輪12および玉13には転動疲労強度や耐摩耗性が要求される。そのため、これらのうち少なくとも1つは本発明の機械部品であることにより、深溝玉軸受1の製造コストを低減しつつ、深溝玉軸受1を長寿命化することができる。
図2は、本発明の実施の形態1の第1変形例である機械部品を備えた転がり軸受としてのスラストニードルころ軸受の構成を示す概略断面図である。図2を参照して、実施の形態1の第1変形例における転がり軸受としてのスラストニードルころ軸受について説明する。
図2を参照して、スラストニードルころ軸受2は、円盤状の形状を有し、互いに一方の主面が対向するように配置された転動部材としての一対の軌道輪21と、転動部材としての複数のニードルころ23と、円環状の保持器24とを備えている。複数のニードルころ23は、一対の軌道輪21の互いに対向する主面に形成された軌道輪転走面21Aに接触し、かつ保持器24により周方向に所定のピッチで配置されることにより円環状の軌道上に転動自在に保持されている。以上の構成により、スラストニードルころ軸受2の一対の軌道輪21は、互いに相対的に回転可能となっている。
ここで、機械部品である軌道輪21、ニードルころ23および保持器24のうち、特に、軌道輪21、ニードルころ23には転動疲労強度や耐摩耗性が要求される。そのため、これらのうち少なくとも1つは本発明の機械部品であることにより、スラストニードルころ軸受2の製造コストを低減しつつ、スラストニードルころ軸受2を長寿命化することができる。
図3は、本発明の実施の形態1の第2変形例である機械部品を備えた等速ジョイントの構成を示す概略部分断面図である。また、図4は、図3の線分IV−IVに沿う概略断面図である。また、図5は、図3の等速ジョイントが角度をなした状態を示す概略部分断面図である。なお、図3は、図4の線分III−IIIに沿う概略断面図に対応する。図3〜図5を参照して、実施の形態1の第2変形例における等速ジョイントについて説明する。
図3〜図5を参照して、等速ジョイント3は、軸35に連結されたインナーレース31と、インナーレース31の外周側を囲むように配置され、軸36に連結されたアウターレース32と、インナーレース31とアウターレース32との間に配置されたトルク伝達用のボール33と、ボール33を保持するケージ34とを備えている。ボール33は、インナーレース31の外周面に形成されたインナーレースボール溝31Aと、アウターレース32の内周面に形成されたアウターレースボール溝32Aとに接触して配置され、脱落しないようにケージ34によって保持されている。
インナーレース31の外周面およびアウターレース32の内周面のそれぞれに形成されたインナーレースボール溝31Aとアウターレースボール溝32Aとは、図3に示すように、軸35および軸36の中央を通る軸が一直線上にある状態において、それぞれ当該軸上のジョイント中心Oから当該軸上の左右に等距離離れた点Aおよび点Bを曲率中心とする曲線(円弧)状に形成されている。すなわち、インナーレースボール溝31Aおよびアウターレースボール溝32Aに接触して転動するボール33の中心Pの軌跡が、点A(インナーレース中心A)および点B(アウターレース中心B)に曲率中心を有する曲線(円弧)となるように、インナーレースボール溝31Aおよびアウターレースボール溝32Aのそれぞれは形成されている。これにより、等速ジョイントが角度をなした場合(軸35および軸36の中央を通る軸が交差するように等速ジョイントが動作した場合)においても、ボール33は、常に軸35および軸36の中央を通る軸のなす角(∠AOB)の2等分線上に位置する。
次に、等速ジョイント3の動作について説明する。図3および図4を参照して、等速ジョイント3においては、軸35、36の一方に軸まわりの回転が伝達されると、インナーレースボール溝31Aおよびアウターレースボール溝32Aに嵌め込まれたボール33を介して、軸35、36の他方の軸に当該回転が伝達される。ここで、図5に示すように軸35、36が角度θをなした場合、ボール33は、前述のインナーレース中心Aおよびアウターレース中心Bに曲率中心を有するインナーレースボール溝31Aおよびアウターレースボール溝32Aに案内されて、中心Pが∠AOBの二等分線上となる位置に保持される。ここで、ジョイント中心Oからインナーレース中心Aまでの距離と、アウターレース中心Bまでの距離とが等しくなるように、インナーレースボール溝31Aおよびアウターレースボール溝32Aが形成されているため、ボール33の中心Pからインナーレース中心Aおよびアウターレース中心Bまでの距離はそれぞれ等しく、△OAPと△OBPとは合同である。その結果、ボール33の中心Pから軸35、36までの距離Lは互いに等しくなり、軸35、36の一方が軸まわりに回転した場合、他方も等速で回転する。このように、等速ジョイント3は、軸35、36が角度をなした場合でも、等速性を確保することができる。なお、ケージ34は、軸35、36が回転した場合に、インナーレースボール溝31Aおよびアウターレースボール溝32Aからボール33が飛び出すことをインナーレースボール溝31Aおよびアウターレースボール溝32Aとともに防止すると同時に、等速ジョイント3のジョイント中心Oを決定する機能を果たしている。
ここで、機械部品であるインナーレース31、アウターレース32、ボール33およびケージ34のうち、特に、インナーレース31、アウターレース32およびボール33には疲労強度や耐摩耗性が要求される。そのため、これらのうち少なくとも1つは本発明の機械部品であることにより、等速ジョイント3の製造コストを低減しつつ、等速ジョイント3を長寿命化することができる。
次に、実施の形態1における上記機械部品、および上記機械部品を備えた転がり軸受、等速ジョイントなどの機械要素の製造方法について説明する。図6は、本発明の一実施の形態である実施の形態1における機械部品および当該機械部品を備えた機械要素の製造方法の概略を示す図である。
図6を参照して、まず、鋼からなり、機械部品の概略形状に成形された鋼部材を準備する鋼部材準備工程が実施される。具体的には、たとえば、棒鋼、鋼線などを素材とし、当該棒鋼、鋼線などに対して切断、鍛造、旋削などの加工が実施されることにより、機械部品としての外輪11、軌道輪21、インナーレース31などの機械部品の概略形状に成形された鋼部材が準備される。
次に、鋼部材準備工程において準備された上述の鋼部材に対して、浸炭処理と焼入硬化処理とを含む熱処理を実施する熱処理工程が実施される。この熱処理工程の詳細については後述する。
さらに、熱処理工程が実施された鋼部材に対して、仕上げ加工などが施される仕上げ工程が実施される。具体的には、たとえば、熱処理工程が実施された鋼部材の内輪転走面12A、軌道輪転走面21A、アウターレースボール溝32Aなどに対する研削加工が実施される。これにより、実施の形態1における機械部品は完成し、実施の形態1における機械部品の製造方法は完了する。
さらに、完成した機械部品が組合わされて機械要素が組立てられる組立て工程が実施される。具体的には、上述の工程により製造された本発明の機械部品である、たとえば外輪11、内輪12、玉13と保持器14とが組合わされて、深溝玉軸受1が組立てられる。これにより、本発明の機械部品を備えた機械要素が製造される。
次に、上述の熱処理工程の詳細について説明する。図7は、実施の形態1における機械部品の製造方法の熱処理工程のうち、浸炭処理および焼入硬化処理を実施するための熱処理炉の構成を示す概略図である。また、図8は、実施の形態1における熱処理工程を説明するための図である。図8において、横方向は時間を示しており右に行くほど時間が経過していることを示している。また、図8において、縦方向は温度を示しており上に行くほど温度が高いことを示している。図7および図8を参照して、実施の形態1における機械部品の製造方法に含まれる熱処理工程について説明する。
図7を参照して、実施の形態1における熱処理炉9は、被処理物を浸炭処理または浸炭窒化処理するための高温室91と、高温室91に対して接続路93により接続された低温室92とを備えている。高温室91および低温室92の各々は、雰囲気を介して被処理物を加熱するための加熱部材91A,92Aと、高温室91および低温室92の各々の内部の雰囲気を調整するための雰囲気調節装置(図示しない)とを備えている。これにより、熱処理炉9の高温室91および低温室92の各々は、その内部の温度および雰囲気を所望の状態とすることが可能となっている。
次に、実施の形態1における機械部品の製造方法に含まれる熱処理工程の具体的手順について説明する。図8を参照して、実施の形態1における機械部品の製造方法の熱処理工程においては、まず、被処理物としての鋼部材に対して浸炭処理が実施される浸炭工程が実施される。具体的には、図7および図8を参照して、加熱部材91AによりA1点以上の温度である表面処理温度としての浸炭温度T1に保持され、所望のCP値に雰囲気が調整された高温室91内に、鋼部材が挿入される。その結果、鋼部材は浸炭温度T1まで昇温され、その後、浸炭時間t1だけ保持される。これにより、鋼部材の表層部に炭素が侵入して拡散し、鋼部材が浸炭処理される。ここで、高温室91内のCP値は1.0以上1.4以下、たとえば1.2とされる。また、高温室91内にはRXガスを含む浸炭ガスが導入され、エンリッチガスなどにより雰囲気のCP値が調整される。さらに、浸炭温度T1は、880℃以上1000℃以下、たとえば940℃とされる。また、浸炭時間t1は、15分間以上6000分間以下、たとえば300分間とされる。
次に、図8を参照して、冷却工程が実施される。具体的には、図7および図8を参照して、鋼部材が、高温室91から、加熱部材92AによりMS点を超え660℃以下の温度である冷却温度T2に保持された低温室92内に、接続路93を介して移動される。その結果、鋼部材は冷却温度T2まで冷却され、その後、冷却時間t2だけ保持される。これにより、鋼部材を構成する鋼の組織はオーステナイトからパーライトまたはベイナイトに変化し、組織中には多数の炭化物(炭化鉄;Fe3C等)が析出する。ここで、低温室92内には、窒素などの非酸化性ガスが導入され、低温室92内は非酸化性ガス雰囲気とされている。さらに、冷却温度T2は、400℃以上660℃以下、たとえば500℃とされる。また、冷却時間t2は、20分間以上120分間以下、たとえば60分間とされる。
次に、図8を参照して、再加熱工程が実施される。具体的には、図7および図8を参照して、低温室92の温度がA1点以上浸炭温度T1未満の温度である再加熱温度T3に昇温されるとともに、RXガスを含む浸炭ガスが低温室92内に導入される。その結果、鋼部材は再加熱温度T3まで昇温され、その後、再加熱時間t3だけ保持される。これにより、鋼部材を構成する鋼の組織は再度オーステナイトに変化する。このとき、冷却工程において析出した多数の炭化物の周辺からオーステナイト結晶が成長するため、オーステナイト結晶粒が微細化される。ここで、低温室92内のCP値は0.4以上0.9以下、たとえば0.8とされる。また、低温室92内にはRXガスを含む浸炭ガスが導入され、エンリッチガスなどにより雰囲気のCP値が調整される。さらに、再加熱温度T3は、780℃以上850℃以下、たとえば810℃とされる。また、再加熱時間t3は、15分間以上70分間以下、たとえば30分間とされる。
次に、図8を参照して、焼入工程が実施される。具体的には、図7および図8を参照して、再加熱工程が実施された鋼部材が、A1点以上の温度からMS点以下の温度に冷却されて焼入硬化される。焼入工程は、たとえば再加熱工程が実施された鋼部材が、焼入油中に浸漬されることにより、実施される(油冷)。
次に、図8を参照して、焼入工程が実施された鋼部材に対して、A1点以下の温度に加熱することにより鋼部材の靭性等を向上させる焼戻工程が実施される。具体的には、焼入硬化された鋼部材が、焼戻用の熱処理炉においてA1点以下の温度である焼戻温度T4に加熱され、焼戻時間t4だけ保持され、その後室温の空気中で冷却される(空冷)。ここで、焼戻温度T4は、150℃以上220℃以下、たとえば180℃とされる。また、焼戻時間t4は、60分間以上800分間以下、たとえば120分間とされる。以上の工程により、実施の形態1における機械部品の製造方法に含まれる熱処理工程の熱処理(鋼の熱処理方法)は完了する。
以上のように、実施の形態1の機械部品の製造方法およびこれに含まれる鋼の熱処理方法においては、浸炭工程の後、MS点を超え660℃以下の温度である冷却温度T2に冷却する冷却工程が実施され、このとき焼入は実施されない。そのため、鋼部材を焼入油に浸漬する工程に代えて、冷却温度T2に保持された低温室92中に鋼部材を移動させて、冷却温度T2に鋼部材を冷却する冷却工程を採用することができる。その結果、実施の形態1の機械部品の製造方法によれば、処理効率の低下を抑制しつつ、オーステナイト結晶粒の微細化が可能な浸炭処理と焼入硬化処理とを含む鋼の熱処理方法を実施することにより、高い生産効率で浸炭処理と焼入硬化処理とを含む熱処理が実施され、オーステナイト結晶粒が微細化された機械部品を製造することができる。
(実施の形態2)
次に、本発明の一実施の形態である実施の形態2における機械部品の製造方法について説明する。図9は、実施の形態2における機械部品の製造方法に含まれる熱処理工程を説明するための図である。図9において、横方向は時間を示しており、右に行くほど時間が経過していることを示している。また、図9において、縦方向は温度を示しており、上に行くほど温度が高いことを示している。図9を参照して、実施の形態2における機械部品の製造方法にについて説明する。
次に、本発明の一実施の形態である実施の形態2における機械部品の製造方法について説明する。図9は、実施の形態2における機械部品の製造方法に含まれる熱処理工程を説明するための図である。図9において、横方向は時間を示しており、右に行くほど時間が経過していることを示している。また、図9において、縦方向は温度を示しており、上に行くほど温度が高いことを示している。図9を参照して、実施の形態2における機械部品の製造方法にについて説明する。
実施の形態2における機械部品の製造方法は、実施の形態1における機械部品の製造方法と基本的には同様の構成を有している。しかし、図9を参照して、実施の形態2における機械部品の製造方法においては、熱処理工程において、浸炭工程に代えて浸炭窒化工程が実施される点で、実施の形態1とは異なっている。
すなわち、実施の形態2における機械部品の製造方法に含まれる熱処理工程では、まず、被処理物としての鋼部材に対して浸炭窒化処理が実施される浸炭窒化工程が実施される。具体的には、図7および図9を参照して、加熱部材91AによりA1点以上の温度である表面処理温度としての浸炭窒化温度T4に保持され、所望のCP値に雰囲気が調整されるとともにアンモニアガスが導入された高温室91内に、鋼部材が挿入される。その結果、鋼部材は浸炭窒化温度T4まで昇温され、その後、浸炭窒化時間t4だけ保持される。これにより、鋼部材の表層部に炭素および窒素が侵入して拡散し、鋼部材が浸炭窒化処理される。ここで、高温室91内のCP値は1.0以上1.4以下、たとえば1.2とされる。また、高温室91内にはRXガスを含む浸炭ガスが導入され、エンリッチガスなどにより雰囲気のCP値が調整されるとともに、アンモニアガスが導入される。さらに、浸炭窒化温度T5は、880℃以上1000℃以下、たとえば940℃とされる。また、浸炭窒化時間t5は、15分間以上6000分間以下、たとえば300分間とされる。
その後、図9を参照して、冷却工程、再加熱工程、焼入工程および焼戻工程が、実施の形態1の場合と同様に実施される。ここで、冷却温度T6、冷却時間t6、再加熱温度T7、再加熱時間t7、焼戻温度T8および焼戻時間t8は、それぞれ実施の形態1における冷却温度T2、冷却時間t2、再加熱温度T3、再加熱時間t3、焼戻温度T4および焼戻時間t4と同様の条件を採用することができる。
実施の形態2の機械部品の製造方法によれば、処理効率の低下を抑制しつつ、オーステナイト結晶粒の微細化が可能な浸炭窒化処理と焼入硬化処理とを含む鋼の熱処理方法を実施することにより、高い生産効率で浸炭窒化処理と焼入硬化処理とを含む熱処理が実施され、オーステナイト結晶粒が微細化された機械部品を製造することができる
なお、上記実施の形態においては、本発明の機械部品の一例として、深溝玉軸受、スラストニードルころ軸受、等速ジョイントを構成する機械部品について説明したが、本発明の機械部品はこれに限られず、表層部の疲労強度、耐摩耗性が要求される機械部品、たとえばハブ、ギア、シャフト等を構成する機械部品であってもよい。また、本発明の機械部品を構成する鋼には、たとえばJIS規格SNCM420、SNCM625、SNCM815、SCr420、SCM420などの浸炭鋼を採用することができる。
なお、上記実施の形態においては、本発明の機械部品の一例として、深溝玉軸受、スラストニードルころ軸受、等速ジョイントを構成する機械部品について説明したが、本発明の機械部品はこれに限られず、表層部の疲労強度、耐摩耗性が要求される機械部品、たとえばハブ、ギア、シャフト等を構成する機械部品であってもよい。また、本発明の機械部品を構成する鋼には、たとえばJIS規格SNCM420、SNCM625、SNCM815、SCr420、SCM420などの浸炭鋼を採用することができる。
以下、本発明の実施例1について説明する。上記本発明の実施の形態1における鋼の熱処理方法と同様の熱処理方法を実施し、冷却工程における冷却温度と熱処理後の鋼の特性との関係を調査する実験を行なった。実験の手順は以下のとおりである。
まず、JIS規格SNCM420からなり、直径φ12mm、高さ22mmの円筒形状を有する試験片を準備した。この試験片に対して、上記実施の形態1において図7および図8に基づいて説明した熱処理方法のうち、浸炭工程、冷却工程、再加熱工程および焼入工程を実施した。このとき、浸炭温度T1は940℃、浸炭時間t1は300分間、冷却時間t2は60分間、再加熱温度T3は810℃、再加熱時間t3は30分間とし、冷却温度T2を400℃〜660℃の範囲で変化させた。また、浸炭工程におけるCP値は1.2、再加熱工程におけるCP値は0.8とした(実施例A〜F)。一方、比較のため、上記背景技術において図10に基づいて説明した熱処理方法のうち、浸炭工程および1次焼入工程のみを実施した比較例(比較例A;浸炭後直接焼入)および浸炭工程、1次焼入工程、再加熱工程および2次焼入工程を実施した比較例(比較例B;浸炭後2回焼入)を行なった。
そして、熱処理後の試験片の表面から深さ0.2mmの位置における硬度、オーステナイト結晶粒度および残留オーステナイト量を測定した。硬度は、ビッカース硬度計を用いて測定した。また、オーステナイト結晶粒度の測定は、JIS G 0551の鋼のオーステナイト結晶粒度試験方法に基づいて行なった。さらに、残留オーステナイト量の測定は、X線回折計(XRD)を用いて、マルテンサイトα(211)面とオーステナイトγ(220)面との回折強度を測定することにより、算出した。
次に、実験結果について説明する。上記実験の結果を表1に示す。表1を参照して、本発明の実施例である実施例A〜Fは、硬度および残留オーステナイト量において、浸炭後2回焼入を行なった比較例Bと同等の特性を有している。また、実施例A〜Fは、浸炭後に直接焼入を行なった比較例Aに比べて、オーステナイト結晶が微細化している。このことから、本発明の鋼の熱処理方法によれば、浸炭後に2回焼入を実施しなくても、浸炭後に直接焼入を行なう従来の方法に比べて、オーステナイト結晶粒を微細化可能であることが確認される。さらに、冷却温度が550℃以下である実施例A〜Dにおいては、浸炭後に2回焼入を行なった比較例Bと同等のオーステナイト結晶粒度が得られている。このことから、冷却工程における冷却温度は、550℃以下とすることが好ましいといえる。一方、冷却温度を450℃未満としてもオーステナイト結晶粒度の微細化は飽和している。したがって、再加熱時のエネルギーを抑制する観点から、冷却温度は450℃以上が好ましいといえる。
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
本発明の鋼の熱処理方法、機械部品の製造方法および機械部品は、浸炭処理または浸炭窒化処理と焼入硬化処理とを含む鋼の熱処理方法、浸炭処理または浸炭窒化処理と焼入硬化処理とを含む熱処理が実施されて製造される機械部品およびその製造方法に、特に有利に適用され得る。
1 深溝玉軸受、2 スラストニードルころ軸受、3 等速ジョイント、9 熱処理炉、11 外輪、11A 外輪転走面、12 内輪、12A 内輪転走面、13 玉、14,24 保持器、21 軌道輪、21A 軌道輪転走面、23 ニードルころ、31 インナーレース、31A インナーレースボール溝、32 アウターレース、32A アウターレースボール溝、33 ボール、34 ケージ、35,36 軸、91 高温室、91A,92A 加熱部材、92 低温室、93 接続路。
Claims (6)
- A1点以上の温度である表面処理温度において浸炭または浸炭窒化する工程と、
浸炭または浸炭窒化する工程の後、MS点を超え660℃以下の温度である冷却温度に冷却する工程と、
前記冷却温度に冷却する工程の後、A1点以上前記表面処理温度以下の温度である再加熱温度に再加熱する工程と、
前記再加熱する工程の後、A1点以上の温度からMS点以下の温度に冷却して焼入を実施する工程とを備えた、鋼の熱処理方法。 - 前記冷却温度は、450℃以上である、請求項1に記載の鋼の熱処理方法。
- 前記冷却温度は、550℃以下である、請求項1または2に記載の鋼の熱処理方法。
- 鋼からなり、機械部品の概略形状に成形された鋼部材を準備する工程と、
前記鋼部材に対して、浸炭処理または浸炭窒化処理と焼入硬化処理とを含む熱処理を実施する工程とを備え、
前記熱処理は、請求項1〜3のいずれか1項に記載の鋼の熱処理方法を用いて実施される、機械部品の製造方法。 - 請求項4に記載の機械部品の製造方法により製造された、機械部品。
- 軸受を構成する部品として用いられる、請求項5に記載の機械部品。
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