JP2011074412A - 鋼の熱処理方法、機械部品の製造方法および機械部品 - Google Patents

鋼の熱処理方法、機械部品の製造方法および機械部品 Download PDF

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Abstract

【課題】所望の品質を付与しつつ、浸炭窒化処理におけるRXガスの流量を低減することによりCOの排出量を抑制することを可能とする鋼の熱処理方法、機械部品の製造方法および機械部品を提供する。
【解決手段】バッチ式の熱処理炉を用いた鋼の熱処理方法は、熱処理炉の扉を開け、高炭素クロム軸受鋼からなる被処理物を炉内に装入する工程と、扉を閉じる工程と、炉内にRXガスを供給しつつA点以上の温度である熱処理温度に炉内の雰囲気を加熱して、雰囲気のカーボンポテンシャル値を予め決定された値に調整する工程と、被処理物が熱処理温度に加熱されることにより、被処理物が浸炭窒化される工程とを備えている。そして、被処理物が浸炭窒化される工程では、ガス置換回数が0.05以上0.78未満となるように、炉内にRXガスが供給される。
【選択図】図6

Description

本発明は鋼の熱処理方法、機械部品の製造方法および機械部品に関し、より特定的には、高炭素クロム軸受鋼からなる被処理物の浸炭窒化処理に際して排出される二酸化炭素量の低減を可能とする鋼の熱処理方法、機械部品の製造方法および機械部品に関するものである。
熱処理炉において高炭素クロム軸受鋼の浸炭窒化処理を実施する場合、一酸化炭素(CO)ガスを含むRXガスなどの吸熱型ガスが雰囲気ガスとして用いられることが多い。この吸熱型ガス(RXガス)は、メタン(CH)やプロパン(C)などの炭化水素系ガスを原料ガスとし、変成炉内において、これを空気と混合した状態で高温の触媒中を通過させることにより生成させることができる。生成したRXガスは、成分としてCO、水素(H)、窒素(N)、二酸化炭素(CO)などを含んでいる。そして、このRXガスが、アンモニアガスなどの窒素源となるガスとともに熱処理炉内に導入され、鋼の浸炭窒化処理が実施される。被処理物を構成する鋼の表面では、以下の式(1)に示すようなブードア反応と呼ばれる平衡反応が起こる一方で、窒素の導入が進行する。すなわち、熱処理炉内の雰囲気ガスであるRXガス中のCOガスは、被処理物の表面に炭素(C)を供給し、COガスとなる。これにより、高炭素クロム軸受鋼からなる被処理物の表面における脱炭が抑制されつつ、表面に窒素が導入される。
2CO⇔<C>+CO…(1)
ここで、上記鋼の浸炭窒化処理においては、所定量のRXガスが絶えず熱処理炉内に導入されるとともに、それに対応する量の炉内ガスが排ガスとして炉外に放出される。これは以下のような理由による。すなわち、被処理物や熱処理用冶具によって炉内に持ち込まれた汚れにより、炉内のCOや水(HO)が増加する。また、被処理物や炉内構造物との浸炭反応によりRXガス中のCOが消費され、かつCOが増加する。そのため、熱処理炉内の雰囲気を維持する目的で新たなRXガスの導入および炉内ガスの放出が実施される。さらに、上記RXガスは、所定の割合で空気が混合し、かつ所定の温度に加熱されると発火し、爆発するおそれがある。そのため、熱処理炉内の圧力を大気圧以上に保ち熱処理炉内に空気が侵入することを防ぐ目的で、上記RXガスの導入および炉内ガスの放出が実施される。
そして、浸炭窒化処理において熱処理炉内に導入されるRXガスの流量は、バッチ式炉においては1時間あたり炉の容積の6〜15倍程度、連続炉においては1時間あたり炉の容積の3〜5倍程度とされるのが一般的である(たとえば、非特許文献1参照)。
日本熱処理技術協会編、日本金属熱処理工業会編、「熱処理技術入門」、全面改訂版、大河出版、2004年7月、p.191
しかしながら、熱処理炉内に導入されるRXガスに含まれるCOは、すべて浸炭窒化処理により消費されるわけではなく、その大半は未反応のままバーナーで燃焼され、COとなって熱処理炉から大気中に放出される。そして、従来の一般的なRXガスの流量の設定では、このように未反応のまま燃焼されるCOが多くなるため不経済であるだけでなく、温室効果ガスとして最近問題となっているCOの排出量も多いという問題があった。
そこで、本発明の目的は、所望の品質を付与しつつ、浸炭窒化処理におけるRXガスの流量を低減することによりCOの排出量を抑制することを可能とする鋼の熱処理方法、機械部品の製造方法および機械部品を提供することである。
本発明の一の局面における鋼の熱処理方法は、開閉可能な扉を有することにより被処理物の炉内への挿入および炉内からの取り出しが可能なバッチ式の熱処理炉を用いた鋼の熱処理方法である。この鋼の熱処理方法は、熱処理炉の扉を開け、高炭素クロム軸受鋼からなる被処理物を炉内に装入する工程と、扉を閉じる工程と、炉内にRXガスを供給しつつ、高炭素クロム軸受鋼のA点以上の温度である熱処理温度に炉内の雰囲気を加熱して、雰囲気のカーボンポテンシャル値を予め決定された値に調整する工程と、カーボンポテンシャル値が調整された炉内で、被処理物が上記熱処理温度に加熱されることにより、被処理物が浸炭窒化される工程とを備えている。そして、上記被処理物が浸炭窒化される工程では、1時間あたりに炉内に供給されるRXガスの20℃、1気圧における体積を熱処理炉の容積で除した値であるガス置換回数が0.05以上0.78未満となるように、炉内にRXガスが供給される。
また、本発明の他の局面における鋼の熱処理方法は、開閉可能な扉を有することにより被処理物の炉内への挿入および炉内からの取り出しが可能なバッチ式の熱処理炉を用いた鋼の熱処理方法である。この鋼の熱処理方法は、熱処理炉の扉を開け、高炭素クロム軸受鋼からなる被処理物を炉内に装入する工程と、扉を閉じる工程と、炉内にRXガスを供給しつつ、高炭素クロム軸受鋼のA点以上の温度である熱処理温度に炉内の雰囲気を加熱して、雰囲気のカーボンポテンシャル値を予め決定された値に調整する工程と、カーボンポテンシャル値が調整された炉内で、被処理物が上記熱処理温度に加熱されることにより、被処理物が浸炭窒化される工程とを備えている。そして、被処理物が浸炭窒化される工程では、炉内における一酸化炭素の濃度が8.46×10−4(体積%/秒)以下の減少率で減少する。
本発明者は、連続炉のような炉扉が開放されている熱処理炉では、十分な炉内圧力を保てなくなるおそれがあり、現状よりもRXガスの流量を低減することは困難であるものの、バッチ式炉の場合は少ないRXガスの流量でも炉内圧力を保つことが比較的容易であり、RXガスの流量を低減する余地があると考え、ガス置換回数および炉内における一酸化炭素の減少率に着目した検討を行なった。その結果、高炭素クロム軸受鋼(JIS規格G4805)を浸炭窒化する場合、ガス置換回数を0.05以上とすることにより、ガス置換回数が6〜15程度であった従来の熱処理方法と遜色ない熱処理の効果が得られることが明らかとなった。一方、ガス置換回数を0.78以上としても、熱処理の効果が向上しないだけでなく、COの排出量の低減効果が小さくなる。上記一の局面における鋼の熱処理方法によれば、被処理物が浸炭窒化される工程において、ガス置換回数が0.05以上0.78未満となるように炉内にRXガスが供給されることにより、所望の品質を付与しつつ、浸炭窒化処理におけるCOの排出量を大幅に抑制することができる。
また、炉内における一酸化炭素の減少率に着目すると、高炭素クロム軸受鋼を浸炭窒化する場合、炉内における一酸化炭素の濃度の減少率が8.46×10−4(体積%/秒)以下であれば、炉内における一酸化炭素の濃度が減少しないように維持される従来の熱処理方法と遜色ない熱処理の効果が得られることが明らかとなった。一方、炉内における一酸化炭素の濃度が減少しないように炉内にRXガスを十分に供給しても、熱処理の効果が向上しないだけでなく、COの排出量の低減効果が小さくなる。これに対し、上記他の局面における鋼の熱処理方法によれば、被処理物が浸炭窒化される工程において、炉内における一酸化炭素の濃度が8.46×10−4(体積%/秒)以下の減少率で減少することにより、所望の品質を付与しつつ、浸炭窒化処理におけるCOの排出量を大幅に抑制することができる。
ここで、高炭素クロム軸受鋼に対する浸炭窒化においては、鋼の表層部における炭素濃度の上昇は必須のものではなく、脱炭が抑制されつつ窒素濃度が上昇すればよい場合もある。したがって、本願において「浸炭窒化」とは、鋼に対して炭素と窒素とが導入されて表層部における炭素および窒素の両方の濃度が上昇するものに限られず、炭素の減少(脱炭)が抑制されつつ窒素濃度のみが上昇する場合をも含む。
本発明に従った機械部品の製造方法は、高炭素クロム軸受鋼からなり、成形加工された鋼部材を準備する工程と、鋼部材に対して熱処理を実施する工程とを備えている。そして、当該熱処理は、上記本発明の鋼の熱処理方法を用いて実施される。
本発明の機械部品の製造方法によれば、COガスの排出量を低減可能な上記本発明の鋼の熱処理方法が採用されることにより、COガスの排出量を低減しつつ、機械部品を製造することができる。
本発明に従った機械部品は、上述の機械部品の製造方法により製造されている。上述した本発明の機械部品の製造方法により製造されていることにより、本発明の機械部品は、環境への負荷の小さい機械部品となっている。
上記本発明の機械部品は軸受を構成する部品として用いられてもよい。浸炭窒化が実施されることにより表層部が強化されるとともに環境への負荷が低減された本発明の機械部品は、耐久性の向上とともに環境への負荷の低減が要求される軸受を構成する部品として好適である。
なお、上述の機械部品を用いて、軌道輪と、軌道輪に接触し、円環状の軌道上に配置される転動体とを備えた転がり軸受を構成してもよい。すなわち、軌道輪および転動体の少なくともいずれか一方、好ましくは両方が、上述の機械部品である。
表層部が強化されるとともに環境への負荷が低減された本発明の機械部品を備えていることにより、当該転がり軸受によれば、耐久性が向上するとともに環境への負荷が低減された転がり軸受を提供することができる。
以上の説明から明らかなように、本発明の鋼の熱処理方法、機械部品の製造方法および機械部品によれば、所望の品質を付与しつつ、浸炭窒化処理におけるRXガスの流量を低減することによりCOの排出量を抑制することを可能とする鋼の熱処理方法、機械部品の製造方法および機械部品を提供することができる。
本発明の一実施の形態である機械部品を備えた深溝玉軸受の構成を示す概略断面図である。 本発明の一実施の形態である機械部品を備えたスラストニードルころ軸受の構成を示す概略断面図である。 本発明の一実施の形態である機械部品を備えた等速ジョイントの構成を示す概略部分断面図である。 図3の線分IV−IVに沿う概略断面図である。 図3の等速ジョイントが角度をなした状態を示す概略部分断面図である。 本発明の一実施の形態における機械部品および当該機械部品を備えた機械要素の製造方法の概略を示すフローチャートである。 保持時間とCO濃度との関係を示す図である。 保持時間とCO濃度との関係を示す図である。 保持時間とCO濃度との関係を示す図である。 試験片の表層部における炭素および窒素の濃度分布を示す図である。 試験片の表層部における炭素および窒素の濃度分布を示す図である。 CO消費率と炉内におけるCO濃度の変化率との関係を示す図である。
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付し、その説明は繰り返さない。
(実施の形態1)
まず、本発明の一実施の形態である実施の形態1における機械部品を備えた転がり軸受である深溝玉軸受について説明する。図1を参照して、深溝玉軸受1は、環状の外輪11と、外輪11の内側に配置された環状の内輪12と、外輪11と内輪12との間に配置され、円環状の保持器14に保持された転動体としての複数の玉13とを備えている。外輪11の内周面には外輪転走面11Aが形成されており、内輪12の外周面には内輪転走面12Aが形成されている。そして、内輪転走面12Aと外輪転走面11Aとが互いに対向するように、外輪11と内輪12とは配置されている。さらに、複数の玉13は、内輪転走面12Aおよび外輪転走面11Aに接触し、かつ保持器14により周方向に所定のピッチで配置されることにより円環状の軌道上に転動自在に保持されている。以上の構成により、深溝玉軸受1の外輪11および内輪12は、互いに相対的に回転可能となっている。
ここで、機械部品である外輪11、内輪12、玉13および保持器14のうち、特に、外輪11、内輪12および玉13には転動疲労強度や耐摩耗性などの耐久性が要求される。そのため、これらのうち少なくとも1つが高炭素クロム軸受鋼からなり、浸炭窒化が実施された本発明の機械部品であることにより、環境負荷を低減しつつ、深溝玉軸受1を長寿命化することができる。
次に、実施の形態1における第1の変形例であるスラストニードルころ軸受について説明する。図2を参照して、スラストニードルころ軸受2は、円盤状の形状を有し、互いに一方の主面が対向するように配置された軌道部材としての一対の軌道輪21と、転動体としての複数のニードルころ23と、円環状の保持器24とを備えている。複数のニードルころ23は、一対の軌道輪21の互いに対向する主面に形成された軌道輪転走面21Aに接触し、かつ保持器24により周方向に所定のピッチで配置されることにより円環状の軌道上に転動自在に保持されている。以上の構成により、スラストニードルころ軸受2の一対の軌道輪21は、互いに相対的に回転可能となっている。
ここで、機械部品である軌道輪21、ニードルころ23および保持器24のうち、特に、軌道輪21、ニードルころ23には転動疲労強度や耐摩耗性などの耐久性が要求される。そのため、これらのうち少なくとも1つが高炭素クロム軸受鋼からなり、浸炭窒化が実施された本発明の機械部品であることにより、環境負荷を低減しつつ、スラストニードルころ軸受2を長寿命化することができる。
次に、実施の形態1における第2の変形例である等速ジョイントについて説明する。なお、図3は、図4の線分III−IIIに沿う概略断面図に対応する。
図3〜図5を参照して、等速ジョイント3は、軸35に連結されたインナーレース31と、インナーレース31の外周側を囲むように配置され、軸36に連結されたアウターレース32と、インナーレース31とアウターレース32との間に配置されたトルク伝達用のボール33と、ボール33を保持するケージ34とを備えている。ボール33は、インナーレース31の外周面に形成されたインナーレースボール溝31Aと、アウターレース32の内周面に形成されたアウターレースボール溝32Aとに接触して配置され、脱落しないようにケージ34によって保持されている。
インナーレース31の外周面およびアウターレース32の内周面のそれぞれに形成されたインナーレースボール溝31Aとアウターレースボール溝32Aとは、図3に示すように、軸35および軸36の中央を通る軸が一直線上にある状態において、それぞれ当該軸上のジョイント中心Oから当該軸上の左右に等距離離れた点Aおよび点Bを曲率中心とする曲線(円弧)状に形成されている。すなわち、インナーレースボール溝31Aおよびアウターレースボール溝32Aに接触して転動するボール33の中心Pの軌跡が、点A(インナーレース中心A)および点B(アウターレース中心B)に曲率中心を有する曲線(円弧)となるように、インナーレースボール溝31Aおよびアウターレースボール溝32Aのそれぞれは形成されている。これにより、等速ジョイントが角度をなした場合(軸35および軸36の中央を通る軸が交差するように等速ジョイントが動作した場合)においても、ボール33は、常に軸35および軸36の中央を通る軸のなす角(∠AOB)の2等分線上に位置する。
次に、等速ジョイント3の動作について説明する。図3および図4を参照して、等速ジョイント3においては、軸35、36の一方に軸まわりの回転が伝達されると、インナーレースボール溝31Aおよびアウターレースボール溝32Aに嵌め込まれたボール33を介して、軸35、36の他方の軸に当該回転が伝達される。ここで、図5に示すように軸35、36が角度θをなした場合、ボール33は、前述のインナーレース中心Aおよびアウターレース中心Bに曲率中心を有するインナーレースボール溝31Aおよびアウターレースボール溝32Aに案内されて、中心Pが∠AOBの二等分線上となる位置に保持される。ここで、ジョイント中心Oからインナーレース中心Aまでの距離と、アウターレース中心Bまでの距離とが等しくなるように、インナーレースボール溝31Aおよびアウターレースボール溝32Aが形成されているため、ボール33の中心Pからインナーレース中心Aおよびアウターレース中心Bまでの距離はそれぞれ等しく、三角形OAPと三角形OBPとは合同である。その結果、ボール33の中心Pから軸35、36までの距離Lは互いに等しくなり、軸35、36の一方が軸まわりに回転した場合、他方も等速で回転する。このように、等速ジョイント3は、軸35、36が角度をなした場合でも、等速性を確保することができる。なお、ケージ34は、軸35、36が回転した場合に、インナーレースボール溝31Aおよびアウターレースボール溝32Aからボール33が飛び出すことをインナーレースボール溝31Aおよびアウターレースボール溝32Aとともに防止すると同時に、等速ジョイント3のジョイント中心Oを決定する機能を果たしている。
ここで、機械部品であるインナーレース31、アウターレース32、ボール33およびケージ34のうち、特に、インナーレース31、アウターレース32およびボール33には疲労強度や耐摩耗性などの耐久性が要求される。そのため、これらのうち少なくとも1つが高炭素クロム軸受鋼からなり、浸炭窒化が実施された本発明の機械部品であることにより、環境負荷を低減しつつ、等速ジョイント3を長寿命化することができる。
次に、本実施の形態における上記機械部品、および上記機械部品を備えた転がり軸受、等速ジョイントなどの機械要素の製造方法について説明する。図6を参照して、まず、工程(S10)として、鋼部材準備工程が実施される。この工程(S10)では、JIS規格SUJ2、SUJ3などの高炭素クロム軸受鋼からなる棒鋼、鋼線などに対して切断、鍛造、旋削などの加工が実施されることにより、機械部品としての外輪11、軌道輪21、インナーレース31などの機械部品の概略形状に成形加工された鋼部材が準備される。
次に、上記鋼部材に対して浸炭窒化処理を含む熱処理を実施する熱処理工程が実施される。この熱処理工程は、工程(S20)として実施される装入工程、工程(S30)として実施される熱処理炉閉鎖工程、工程(S40)として実施される雰囲気調整工程、工程(S50)として実施される浸炭窒化工程、工程(S60)として実施される焼入硬化工程および工程(S70)として実施される焼戻工程を含んでいる。この熱処理工程の詳細については後述する。
次に、工程(S80)として、熱処理工程が実施された鋼部材に対して、仕上げ加工などが施される仕上げ工程が実施される。具体的には、たとえば、熱処理工程が実施された鋼部材の内輪転走面12A、軌道輪転走面21A、アウターレースボール溝32Aなどに対する研磨加工が実施される。これにより、本実施の形態における機械部品は完成し、本実施の形態における機械部品の製造方法は完了する。
さらに、工程(S90)として、完成した機械部品が組合わされて機械要素が組立てられる組立て工程が実施される。具体的には、上述の工程により製造された本実施の形態における機械部品である、たとえば外輪11、内輪12および玉13と保持器14とが組合わされて、深溝玉軸受1が組立てられる。以上の手順により、本発明の機械部品を備えた機械要素が製造される。
次に、上記熱処理工程の詳細について説明する。ここで、以下の工程(S20)〜(S50)は、開閉可能な扉を有することにより被処理物の炉内への装入および炉内からの取り出しが可能なバッチ式の熱処理炉を用いて実施される。図6を参照して、本実施の形態における熱処理工程においては、まず、工程(S20)として装入工程が実施される。この工程(S20)では、熱処理炉の扉が開けられ、工程(S10)において準備された被処理物としての鋼部材が炉内に装入される。
次に、工程(S30)として、熱処理炉閉鎖工程が実施される。この工程(S30)では、工程(S20)において開けられた熱処理炉の扉が閉じられることにより、鋼部材が配置された熱処理炉内と外気との間が遮断される。
次に、工程(S40)として、雰囲気調整工程が実施される。この工程(S40)では、熱処理炉内にRXガスおよびアンモニアガスが供給されつつ、鋼部材を構成する高炭素クロム軸受鋼のA点以上の温度である熱処理温度に炉内の雰囲気が加熱される。このとき、当該雰囲気のカーボンポテンシャル値が予め決定された値に調整される。より具体的には、たとえば、赤外線式ガス濃度測定装置を用いて雰囲気中のCOおよびCOの濃度が測定され、測定データからカーボンポテンシャル値が算出される。そして、予め決定された目標のカーボンポテンシャル値との差に基づいて、エンリッチガスとしてのプロパン(C)ガス、ブタンガス(C10)などが雰囲気中に供給されることにより、雰囲気のカーボンポテンシャル値が調整される。さらに、窒素源として、所定量のアンモニアガス(NH)が雰囲気中に供給され、たとえば雰囲気中における未分解アンモニア濃度が所定の値に調整される。
そして、工程(S50)として浸炭窒化工程が実施される。この工程(S50)では、工程(S40)においてカーボンポテンシャル値および未分解アンモニア濃度が調整された熱処理炉内で、被処理物である鋼部材が上記熱処理温度に加熱されることにより、浸炭窒化される。なお、工程(S40)におけるカーボンポテンシャル値および未分解アンモニア濃度の調整は、浸炭窒化処理の効果を確実なものとするため、工程(S50)においても引き続き実施され、所望のカーボンポテンシャル値および未分解アンモニア濃度が維持されることが好ましい。
次に、工程(S60)として、焼入硬化工程が実施される。この工程(S60)では、工程(S50)において浸炭窒化処理された鋼部材が、鋼部材を構成する鋼のA点以上の温度からM点以下の温度に冷却されることにより焼入硬化される。より具体的には、A点以上の温度に加熱された鋼部材が、所定の温度に維持された油中に浸漬されて急冷されることにより、鋼部材を焼入硬化することができる。なお、A点とは鋼を加熱した場合に、鋼の組織がフェライトからオーステナイトに変態を開始する温度に相当する点をいう。また、M点とはオーステナイト化した鋼が冷却される際に、マルテンサイト化を開始する温度に相当する点をいう。
次に、工程(S70)として焼戻工程が実施される。この工程(S70)では、工程(S60)において焼入硬化された鋼部材がA変態点未満の温度に加熱され、所定時間保持された後冷却されることにより焼戻処理される。これにより、鋼部材の焼入硬化処理による残留応力を緩和し、熱処理によるひずみが抑制される等の効果が得られる。これにより、本実施の形態の熱処理工程は完了する。
ここで、上記工程(S50)では、1時間あたりに熱処理炉内に供給されるRXガスの20℃、1気圧における体積を熱処理炉の容積で除した値であるガス置換回数が0.05以上0.78未満となるように、炉内にRXガスが供給される。より具体的には、熱処理炉において浸炭窒化を実施する反応室に接続された配管に設置されたマスフローコントローラなどの流量調整部材により、熱処理炉内へのRXガスの供給量が調整されることにより、置換回数が制御される。これにより、本実施の形態における鋼の熱処理方法を含む機械部品の製造方法によれば、製造される機械部品に所望の品質を付与しつつ、浸炭窒化処理におけるCOの排出量を大幅に抑制することができる。
(実施の形態2)
次に、本発明の他の実施の形態である実施の形態2について説明する。実施の形態2における機械部品およびその製造方法は、基本的には上記実施の形態1の場合と同様の構成を有し、同様の効果を奏する。しかし、実施の形態2の機械部品の製造方法に含まれる鋼の熱処理方法は、工程(S50)として実施される浸炭窒化工程におけるRXガスの流量の管理指標において実施の形態1の場合とは異なっている。
すなわち、図6を参照して、実施の形態2における工程(S50)では、熱処理炉内におけるCOの濃度が8.46×10−4(体積%/秒)以下の減少率で減少するように、炉内にRXガスが供給される。より具体的には、熱処理炉において浸炭窒化を実施する反応室に接続された配管に設置されたマスフローコントローラなどの流量調整部材により、熱処理炉内へのRXガスの供給量が調整されることにより、COの濃度の減少率が制御される。これにより、本実施の形態における鋼の熱処理方法を含む機械部品の製造方法によれば、製造される機械部品に所望の品質を付与しつつ、浸炭窒化処理におけるCOの排出量を大幅に抑制することができる。
以下、本発明の実施例1について説明する。浸炭窒化処理における熱処理炉内へのRXガスの供給量の下限値を調査する実験を行なった。実験の手順は以下のとおりである。
実験に用いた熱処理炉は、容積120L(リットル)のバッチ式熱処理炉である。また、炉内の雰囲気の組成は、当該熱処理炉に接続された以下の表1に示す分析装置により分析した。さらに、上記熱処理炉には、配管を介してベースガス供給装置が接続されている。このベースガス供給装置は、N、CO、H、COの純ガスボンベにそれぞれ接続されており、マスフローコントローラを用いて各ガスの流量を調整して混合し、RXガスを模擬した雰囲気ガスを作製して熱処理炉に供給することが可能な構成を有している。
Figure 2011074412
上記熱処理炉およびベースガス供給装置を用いて、JIS規格SUJ2からなる試験片を浸炭窒化処理する実験を行なった。試験片の形状は外径φ63.5mm、内径φ51mm、高さt17mmのリング状とした。表2に浸炭窒化処理の処理温度および保持時間を示す。
Figure 2011074412
表2を参照して、本実験においては、JIS規格SUJ2からなる試験片が処理温度である850℃に加熱されて9000秒間保持される条件で実験が実施された。このとき、浸炭窒化処理される試験片の数量を変化させることにより試験片の表面積(試験片の表面積の総和)を変化させるとともに、熱処理炉内に導入されるRXガスの流量を変化させることによりガス置換回数を変化させた。具体的条件を表3に示す。なお、ガス置換回数5.75は本発明の範囲外の浸炭窒化条件に該当し、0.05、0.125および0.5は本発明の浸炭窒化条件に該当する。また、本実験では、試験片が装入された熱処理炉内の温度を上昇させ、処理温度である850℃に到達した時点における炉内のCO分率を20体積%とし、その後所定のガス置換回数に応じたRXガスを炉内に導入した。
Figure 2011074412
次に、実験結果について説明する。図7〜図9は、それぞれ試験片の表面積を25089.9mm、157794mmおよび355036.5mmとした場合における炉内のCO分率の推移を示している。図7〜図9において、横軸は保持時間、縦軸は炉内のCO分率である。ここで、保持時間は、試験片を装入した熱処理炉内の温度を上昇させ、処理温度である850℃に到達した時点からの経過時間である。また、図7〜図9において、二点鎖線はガス置換回数0.05の場合、一点鎖線はガス置換回数0.125の場合、破線はガス置換回数0.5の場合、実線はガス置換回数5.75の場合を示している。
図7〜図9を参照して、グラフの傾きであるCOの体積分率の変化率は、試験片の表面積には大きな影響を受けない一方、ガス置換回数に大きな影響を受けていることが分かる。そして、試験片の表面積にかかわらず、ガス置換回数が0.05の場合、炉内のCO分率(濃度)が緩やかに低下するものの保持時間9000秒(150分)の時点においても10%以上のCO分率が維持されている。また、ガス置換回数が0.125の場合、CO分率(濃度)の低下はさらに緩やかになり、ガス置換回数が0.5以上の場合、炉内のCO分率は低下することなく維持されている。なお、9000秒という保持時間は高炭素クロム軸受鋼の浸炭窒化時間として十分な時間であり、一般的な浸炭窒化処理においては、これより短い保持時間で浸炭窒化処理を実施することができる。
ここで、試験片の表面積が355036.5mm、ガス置換回数が0.05の場合および5.75の場合における試験片表層部の炭素濃度分布および窒素濃度分布を調査した。ガス置換回数が0.05の場合の調査結果を図10に、ガス置換回数が5.75の場合の調査結果を図11にそれぞれ示す。図10および図11において、横軸は表面からの深さ、縦軸は炭素濃度および窒素濃度を示している。図10および図11を参照して、ガス置換回数が0.05の場合における炭素濃度分布および窒素濃度分布は、ガス置換回数が5.75の場合における炭素濃度分布および窒素濃度分布と遜色ないことが確認される。つまり、ガス置換回数を従来の条件から低減した場合でも、ガス置換回数が0.05以上であれば、従来と同様の品質を得ることができることが分かった。
一方、浸炭窒化処理中に熱処理炉内が負圧(大気圧以下)となった場合、熱処理炉内に外部から空気等が侵入するおそれがある。ここで、上述のように、浸炭窒化処理においては以下の式(1)に示すブードア反応が右辺側に進行する。そのため、浸炭窒化処理の進行に伴い、ガスのモル数が減少して炉内の全圧が低下する。そこで、通常RXガスは1.05気圧程度の圧力で熱処理炉内に供給されることを考慮して、熱処理中に炉内が負圧とならないCO濃度の変化率の許容限界値(許容CO変化率)を算出した。算出結果を表4に示す。
2CO⇔<C>+CO…(1)
Figure 2011074412
表4を参照して、熱処理炉内におけるCOの減少率が10.5821×10−4(体積%/秒)以下であれば、炉内が正圧に保たれる。
ここで、横軸にCOの消費率、縦軸にCO濃度の変化率をとった図12を作成し、上記実験の結果を整理した。ここでCOの消費率は、試験片を構成する鋼に侵入する単位時間あたりの炭素のモル数C(mol/s)と、単位時間あたりの炭素の炉内への供給モル数C(mol/s)との比C/Cで定義される。また、CO濃度の変化率は、単位時間あたりのCO濃度の変化率で定義される。さらに、図12において、丸印はガス置換回数が5.75の場合、四角印はガス置換回数が0.5の場合、三角印はガス置換回数が0.125の場合、バツ印はガス置換回数が0.05の場合をそれぞれ示し、破線は、上記許容CO変化率を示している。また、鋼に侵入する単位時間あたりの炭素のモル数Cは、EPMA分析(Electron Probe Micro Analysis)で調査した試験片の炭素濃度分布から求めた炭素侵入量と試験片の表面積とから算出した。なお、ガス置換回数が同じであれば、単位時間あたりの炭素の炉内への供給モル数Cは同じであるため、ガス置換回数が同じ場合、CO消費率の違いは試験片の表面積の違いに対応している。
図12を参照して、ガス置換回数が0.05の場合における熱処理炉内のCOの減少率は8.46052×10−4(体積%/秒)となっている。したがって、ガス置換回数が0.05の場合でも、炉内は正圧に保たれることが確認された。
以上の検討結果から、被処理物の表面積(処理量)にかかわらず、浸炭窒化処理においてガス置換回数を0.05まで低減しても従来の条件での処理と遜色ない浸炭窒化処理が可能であることが明らかとなった。また、別の観点から検討すると、ガス置換回数0.05の条件に相当する熱処理炉内のCOの減少率が8.46052×10−4(体積%/秒)以下の条件で浸炭窒化処理を実施することにより、従来の条件での処理と遜色ない浸炭窒化処理が可能であるといえる。
さらに、本発明に含まれる条件であるガス置換回数0.05の場合(COの減少率が8.46052×10−4(体積%/秒)の場合)、本発明の範囲外であるガス置換回数5.75および0.78の場合について、熱処理1回(1バッチ)あたりのCOの排出量、およびガス置換回数5.75の場合に対するCO排出量の削減率を算出した結果を表5に示す。
Figure 2011074412
表5を参照して、ガス置換回数を0.05にまで低減することにより、ガス置換回数5.75の場合に比べてCOの排出量を92%以上削減することができる。一方、ガス置換回数が0.78を超えるとCOの排出量の排出量が80%程度以下となり、効果が十分とはいえない。また、図7〜図9を参照して、ガス置換回数が0.5を超えると炉内のCO分率は低下することなく維持され、ガス置換回数をこれ以上大きくしても浸炭窒化処理の品質向上には寄与しないと考えられる一方、COの排出量の排出量が大きくなる。このことを考慮すると、ガス置換回数は0.5以下とすることが好ましい。また、COの排出量をさらに低減するためには、ガス置換回数は0.125以下としてもよい。
なお、上記実験は容積120Lのバッチ式熱処理炉を用いて実施したが、容積が異なるバッチ式熱処理炉においては、上記ガス置換回数に応じてガスの導入量を調整することにより、上記本発明の効果を得ることができる。また、上記実施例ではJIS規格SUJ2を素材とする試験片を用いた実験について説明したが、他の高炭素クロム軸受鋼(SUJ3、SUJ4、SUJ5など)についても同様の実験結果が得られる。
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
本発明の鋼の熱処理方法、機械部品の製造方法および機械部品は、鋼に対して浸炭窒化が実施される鋼の熱処理方法、機械部品の製造方法および機械部品に、特に有利に適用され得る。
1 深溝玉軸受、2 スラストニードルころ軸受、3 等速ジョイント、11 外輪、11A 外輪転走面、12 内輪、12A 内輪転走面、13 玉、14,24 保持器、21 軌道輪、21A 軌道輪転走面、23 ニードルころ、31 インナーレース、31A インナーレースボール溝、32 アウターレース、32A アウターレースボール溝、33 ボール、34 ケージ、35,36 軸。

Claims (5)

  1. 開閉可能な扉を有することにより被処理物の炉内への挿入および前記炉内からの取り出しが可能なバッチ式の熱処理炉を用いた鋼の熱処理方法であって、
    前記熱処理炉の前記扉を開け、高炭素クロム軸受鋼からなる前記被処理物を前記炉内に装入する工程と、
    前記扉を閉じる工程と、
    前記炉内にRXガスを供給しつつ、前記高炭素クロム軸受鋼のA点以上の温度である熱処理温度に前記炉内の雰囲気を加熱して、前記雰囲気のカーボンポテンシャル値を予め決定された値に調整する工程と、
    前記カーボンポテンシャル値が調整された前記炉内で、前記被処理物が前記熱処理温度に加熱されることにより、前記被処理物が浸炭窒化される工程とを備え、
    前記被処理物が浸炭窒化される工程では、1時間あたりに前記炉内に供給される前記RXガスの20℃、1気圧における体積を前記熱処理炉の容積で除した値であるガス置換回数が0.05以上0.78未満となるように、前記炉内に前記RXガスが供給される、鋼の熱処理方法。
  2. 開閉可能な扉を有することにより被処理物の炉内への挿入および前記炉内からの取り出しが可能なバッチ式の熱処理炉を用いた鋼の熱処理方法であって、
    前記熱処理炉の前記扉を開け、高炭素クロム軸受鋼からなる前記被処理物を前記炉内に装入する工程と、
    前記扉を閉じる工程と、
    前記炉内にRXガスを供給しつつ、前記高炭素クロム軸受鋼のA点以上の温度である熱処理温度に前記炉内の雰囲気を加熱して、前記雰囲気のカーボンポテンシャル値を予め決定された値に調整する工程と、
    前記カーボンポテンシャル値が調整された前記炉内で、前記被処理物が前記熱処理温度に加熱されることにより、前記被処理物が浸炭窒化される工程とを備え、
    前記被処理物が浸炭窒化される工程では、前記炉内における一酸化炭素の濃度が8.46×10−4(体積%/秒)以下の減少率で減少する、鋼の熱処理方法。
  3. 高炭素クロム軸受鋼からなり、成形加工された鋼部材を準備する工程と、
    前記鋼部材に対して熱処理を実施する工程とを備え、
    前記熱処理は、請求項1または2に記載の鋼の熱処理方法を用いて実施される、機械部品の製造方法。
  4. 請求項3に記載の機械部品の製造方法により製造された、機械部品。
  5. 軸受を構成する部品として使用される、請求項4に記載の機械部品。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
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JP2014070254A (ja) * 2012-09-28 2014-04-21 Dowa Thermotech Kk 浸炭処理方法

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