JP4240900B2 - 非タンパク質l−アミノ酸の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、酵素を用いた生体内変換による非タンパク質L−アミノ酸の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
非タンパク質アミノ酸は、天然においてタンパク質生合成のための成分として使用されずかつ20種のタンパク質アミノ酸とは明確に区別される。本発明の範囲内で、絶対にタンパク質中に現れる極めて希なアミノ酸のL−セレノシステインは、非タンパク質アミノ酸に分類される。
【0003】
非タンパク質アミノ酸は、例えば薬理作用物質及び農薬作用物質の製造のための重要な化合物である。この非タンパク質アミノ酸は、分子の擬態の種類の作用物質として又は作用物質の一部として天然のアミノ酸の構造を模倣することができ、それにより例えばレセプター相互作用において天然の反応を調節することができる。さらに、この非タンパク質アミノ酸は全く一般的にキラル化合物としてキラルプール「chiral pool」の範囲内で合成成分として用いることができる。
【0004】
エナンチオマー純粋の形のこの非タンパク質アミノ酸の今までの製造方法は、大抵は煩雑な合成に基づいており、この合成はさらに大抵は特定の化合物だけを得ることができるにすぎない。出発化合物の簡単な交換により多様な化合物を製造することができるのはわずかな方法だけである。たいていの場合には、それ自体大抵すでにキラル成分から出発する化学合成である。他の方法はラセミ体の化学合成を、頻繁に酵素を用いて実施するラセミ分割と組み合わせる。
【0005】
その他に、プロキラル化合物から出発し、非タンパク質アミノ酸のステレオ選択合成を可能にする若干の酵素による方法も記載されている。
【0006】
トランスアミナーゼを用いて、α−ケト酸から、アミノ−ドナーとしてL−グルタミン酸を用いて多様な非タンパク質アミノ酸を製造することができる(Taylor et al. 1998, TIBTECH 16: 412-418)。他の方法は、ロイシン−デヒドロゲナーゼを用いたL−t−ロイシンの合成である(Drauz 1997, Chimia 51: 310-314)。
【0007】
微生物を用いた直接発酵による非タンパク質アミノ酸の製造のための特に簡単な方法は、特許出願DE10046934(同一出願人の2000年9月21日出願)に記載されている。この場合、制限解除されたシステイン−物質代謝を示し、従って高レベルのO−アセチル−L−システインを提供する微生物が使用される。この化合物はシステイン−物質代謝においてL−システインの生合成前駆体として用いられる。L−システインはβ位のアセテート基をチオール基に置換することにより生じる。β置換といわれるこの反応は、O−アセチル−L−セリン−スルフヒドリラーゼ[EC 4.2.99.8]の種類の酵素により触媒される。発酵の間での特定の種類の化合物(チオール、アゾールもしくはイソオキサゾリノン)の求核性化合物の添加により、これらの化合物がβ置換に導入され、非タンパク質L−アミノ酸の産生に達する。製造されたアミノ酸のそれぞれの基の構造は、従って供給された求核性化合物によって決定される。
【0008】
この方法の場合の問題は、供給される求核性化合物の供給量が高すぎてはならないことである、それというのもこの化合物自体により又は生じたタンパク質により、微生物の物質代謝に関して毒性の作用を引き起こしかねないためである。特に多くのチオール化合物に対してこのことが該当する、それというのも、このチオール化合物はレドックス活性物質として比較的高濃度で毒性を有するためである。さらに、発酵方法にチオール化合物を使用することは極めて問題である、それというのも発酵槽中への強力な通気の際に酸化する傾向があり、技術的予防対策なしに著しい臭気が生じるためである。求核性化合物の内でアジ化物又はシアン化物の供給も、これらの化合物をO−アセチル−L−セリン−スルフヒドリラーゼを用いたβ置換に導入することが公知であるが(Flint et al., 1996, J. Biol. Chem. 271:16053-16067)、その高い毒性のために不可能である。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、求核性化合物、特に毒性の化合物を高濃度で使用できる非タンパク質L−アミノ酸の製造方法を提供することであった。
【0010】
【課題を解決するための手段】
前記の課題は、O−アセチル−L−セリンを求核性化合物と、O−アセチル−L−セリン−スルフヒドリラーゼの触媒作用下に反応させて非タンパク質アミノ酸にする酵素による生体内変換法において、pH値をpH5.0〜7.4の範囲内で実施することを特徴とする方法より解決される。
【0011】
この方法により、多数の非タンパク質の、エナンチオマー純粋な、部分的に新規のL−アミノ酸を工業的規模で合成することが可能である。
【0012】
O−アセチル−L−セリン−スルフヒドリラーゼは公知である。これは今まで多様な植物及び微生物から単離されている。ネズミチフス菌(Salmonella typhimurium)の相応する細菌性酵素が最もよく調査されている。この生物中では2種のO−アセチル−L−セリン−スルフヒドリラーゼ−酵素が発現し、これらはOASS−AもしくはOASS−Bと命名されている。この所属する遺伝子は同様に公知であり、cysKもしくはcysMの名称を有する。両方の酵素は著しく類似の反応メカニズムを有するが、アミノ酸配列をベースとする同一性は45%にすぎない。
【0013】
OASS−B(CysM)は、OASS−A(CysK)とは反対に、O−アセチル−L−セリンをチオ硫酸塩と反応させてS−スルホシステインにする反応を触媒することができる。この反応は、唯一のイオウ源としてチオ硫酸塩を用いた細菌の成長の際に、重要な役割を有する。
【0014】
多様な生物からのO−アセチル−L−セリン−スルフヒドリラーゼ−遺伝子の配列比較は、さらに2種の系統発生的グループが存在することを示している(Kitabatake et al., 2000, J. Bacteriol. 182:143-145)。ネズミチフス菌(Salmonella typhimurium)及び大腸菌(Escherichia coli)のCysKは他のユーバクテリウ、メタン生成古細菌及び植物からのO−アセチル−L−セリン−スルフヒドリラーゼと一緒に大きなグループを形成する。それに対して、ネズミチフス菌(Salmonella typhimurium)及び大腸菌(Escherichia coli)のCysMは、超好熱性古細菌(例えば、Pyrococcus, Sulfolobus, Thermoplasma)からのO−アセチル−L−セリン−スルフヒドリラーゼと一緒に極めて小さな類縁グループにある。
【0015】
本発明の範囲内でO−アセチル−L−セリン−スルフヒドリラーゼ(O-Acetyl-L-Serin-Sulfhydrylase)は、O−アセチル−L−セリンとスルフィドとからのL−システインの合成を触媒することができることを特徴とする。CysM−類縁の並びにCysK−類縁の酵素は従って本発明の範囲内でO−アセチル−L−セリン−スルフヒドリラーゼである。
【0016】
CysK−グループのO−アセチル−L−セリン−スルフヒドリラーゼが比較的広い基質スペクトルを有していることが個々の文献(Ikegami & Murakoshi, 1994, Phytochemistry 35: 1089-1104; Flint et al., 1996,J. Biol. Chem. 271:16053-16067)に示されているにもかかわらず、今までに、非タンパク質アミノ酸の産生のための工業的使用の可能性は考慮されていなかった。
【0017】
非タンパク質アミノ酸の酵素による製造の工業的実現を今まで妨げていた決定的理由は、O−アセチル−L−セリン−スルフヒドリラーゼの活性範囲に該当するpH−範囲内でのO−アセチル−L−セリンの不安定性にある。
【0018】
O−アセチル−L−セリンはpHに依存してN−アセチル−L−セリンに異性化する。この反応は、不可逆的で、例えば7.6のpH値では1%×min- 1の速度で極端に急速である。この反応速度はpH値の低下と共に低下するため、この化合物は例えばpH4.0で安定である。この反応のメカニズムは、アシル基のカルボニル−炭素での脱プロトンしたアミノ基の分子内の求核攻撃に基づく(Tai et al. 1995, Biochemistry 34: 12311-12322)。
【0019】
それに対して、O−アセチル−L−セリン−スルフヒドリラーゼの最適pH値は、pH8.0の範囲内にあり(Ikegami & Murakoshi, 1994, Phytochemistry 35: 1089-1104; Tai et al.1995, Biochemistry 34:12311-12322)、従って、O−アセチル−L−セリンに関する異性化の範囲内で極めて不利である。
【0020】
この理由から、Ikegami & MurakoshiはO−アセチル−L−セリン、求核試薬、ピリドオキサルホスフェート及び金属イオン(有利にGa2+)を用いる非タンパク質アミノ酸のバイオミメティック合成を提案した。この反応は3.5〜5.5のpH範囲内で可能であり、従ってO−アセチル−L−セリンの安定性を保障する。<45%の最大収率によりこの方法は有効であるが、しかしながら極めて高くはない。酵素合成と比較した著しい欠点は、エナンチオ選択性の欠如である。
【0021】
従って、本発明により解決されるもう一つの課題は、O−アセチル−L−セリン−安定性と酵素活性スペクトルとの非相容性にもかかわらず、わずかな異性化で効果的な酵素転化率(>>45%)を保障する、エナンチオマー純粋の非タンパク質アミノ酸の酵素を用いた製造方法を提供することである。
【0022】
前記の課題は、本発明による方法により解決される、それというのも、
この反応はO−アセチル−L−セリン−スルフヒドリラーゼの最適pH値を下回って実施され、かつ
この酵素は十分に高い量で使用されるためである。
【0023】
本発明の範囲内で、非タンパク質アミノ酸の製造のための有利なpH範囲は、pH5.0〜7.4のpH範囲である。
【0024】
このpH範囲はpH6.0〜7.1の間にあるのが特に有利である。
【0025】
このpH範囲はpH6.0〜6.99の間にあるのがさらに特に有利である。
【0026】
このpH値は酢酸の化学量論的形成にも対抗するため、能動的pHコントロールにより一定に保持するのが有利である。能動的pHコントロールは有利に測定ユニット及び制御ユニットにより達成することができ、前記のユニットはpH値が規準値から逸れた場合にアルカリ液又は酸を供給することにより所望のpH値に調整する。
【0027】
今まで、O−アセチル−L−セリン−スルフヒドリラーゼを用いた非タンパク質アミノ酸の合成のための文献に記載された反応は、本発明による方法とは反対に、O−アセチル−L−セリン−スルフヒドリラーゼの最適pH値の範囲内で、能動的pHコントロールなしで単に分析的規模で実施された。さらに、例外なくCysK−酵素の系統分類グループの酵素を使用していた。
【0028】
従って、本発明は、O−アセチル−L−セリンを求核性化合物とO−アセチル−L−セリン−スルフヒドリラーゼの触媒作用下で反応させて非タンパク質L−アミノ酸にする非タンパク質L−アミノ酸の製造方法において、O−アセチル−L−セリン−スルフヒドリラーゼとしてCysMを使用する方法にも関する。
【0029】
この酵素の十分に高い用量は、酵素反応の最適pH値の範囲外でも十分な転化反応が行われることを保障する。このような酵素濃度は本発明にとって、O−アセチル−L−セリン−スルフヒドリラーゼの体積活性ACysがバッチ中で少なくとも2ユニット/mlである場合に特に有利である。2〜200ユニット/mlの活性が特に有利である。この活性測定は例3に記載された試験によって行った。
【0030】
本発明による方法の展開において、CysM−酵素の系統的グループからのO−アセチル−L−セリン−スルフヒドリラーゼも、非タンパク質アミノ酸の製造のための優れた酵素であることが観察される。基質として適した求核試薬のスペクトルはCysK−酵素のスペクトルよりもさらに広いことが意想外であった。
【0031】
本発明の特に有利な実施態様においてこの酵素反応は連続的方法として運転される。この場合、反応の間に持続的にO−アセチル−L−セリン、O−アセチル−L−セリン−スルフヒドリラーゼ及び求核試薬を供給し、同時にバッチから非タンパク質L−アミノ酸を含む溶液(生成物溶液)を取り出す。この取り出しは有利に反応バッチ中の体積は変化しないように行うのが有利である。この方法の特別な利点は、流量の平衡が調整されるため、バッチ中にはO−アセチル−L−セリンの持続的に低い濃度が存在し、従って異性化は回避される。バッチ中で<1.0g/lのO−アセチル−L−セリン−濃度を調整するのが有利である。この値は、溶液の反応バッチ中での平均滞留時間のバリエーションによって制御することができる。連続的反応のためのO−アセチル−L−セリンの貯蔵は、十分な安定性を保障するために酸性のpH値下に、有利にpH4〜5に保持される。
【0032】
O−アセチル−L−セリンは今までL−セリンのアセチル化による化学合成から得られており、高いL−セリン価格によって高価であった。2001年2月15日出願の同一出願人の出願明細書DE10107002は、O−アセチル−L−セリンの発酵による製造方法を記載している。従って、コストの低い製造システムは使用可能であるが、発酵ブイヨンから生成物の単離はO−アセチル−L−セリンの不安定性に基づき問題であった。
【0033】
本発明の利点は、例えばDE10107002により実施された発酵から得られたO−アセチル−L−セリン含有発酵ブイヨンを、O−アセチル−L−セリン−供給源として直接本発明による方法に使用することができることである。この方法は特に経済的であり、不安定な化合物の単離を回避できる。
【0034】
非タンパク質アミノ酸の合成のためのO−アセチル−L−セリン−スルフヒドリラーゼの製造は、有利に、当業者に周知であるような通常の組換えDNA技術を用いて行われる。
【0035】
O−アセチル−L−セリン−スルフヒドリラーゼをコードする遺伝子は、このため適当なベクター中にクローニングされ、引き続き適当な宿主を形質転換する。宿主として、組換えDNA技術に用いられる各微生物及び組換えタンパク質の発酵による製造のために適した各微生物が適している。
【0036】
O−アセチル−L−セリン−スルフヒドリラーゼの製造のために有利な微生物は大腸菌(Escherichia coli)である。
【0037】
原則として、組換えO−アセチル−L−セリン−スルフヒドリラーゼ遺伝子の染色体挿入並びに自己複製性のプラスミドベクターに関する使用も可能である。
【0038】
クローニングの際に、すでに、O−アセチル−L−セリン−スルフヒドリラーゼ−遺伝子の制御された著しく誘導可能な発現を可能にする遺伝的要素(例えば調節可能なプロモータ、ターミネータ)を有するベクターを使用するのが有利である。高いコピー数を有するプラスミド−ベクター、例えばEschericia coliベクターpUC18、pBR322、pACYC184及びこれらの誘導体が特に有利である。著しく誘導可能なプロモータとして、例えばlac−、tac−、trc−、lambda PL、ara−又はtet−プロモータが適している。
【0039】
O−アセチル−L−セリン−スルフヒドリラーゼの産生は例えば組換え微生物株の培養により発酵によって行う。この場合、当業者に公知の培養方法が適用され、この際、このプロセスパラメータはそれぞれの微生物株に適合させなければならない。培養基として、完全培地並びに最少培地を使用することができる。バッチプロセス並びにフィードバッチプロセス(fed-batch-Prozess)を適用することができる。誘導可能なプロモータ系を使用する場合、適当な時点でO−アセチル−L−セリン−スルフヒドリラーゼ−遺伝子の発現が、相応するインダクタの添加によりスイッチオンされる。十分な産生期間の後に、O−アセチル−L−セリン−スルフヒドリラーゼ含有細胞は公知の方法(遠心分離)によって収穫される。
【0040】
この方法により製造されたO−アセチル−L−セリン−スルフヒドリラーゼ−酵素はタンパク質精製の通常の方法によって単離することができる。この場合、典型的な方法(例えば、沈殿、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、等電点電気泳動)も使用可能であり並びに「アフィニティタグ(Affinitaetstags)」の使用下での近代的なアフィニティークロマトグラフィーも使用可能である。このアフィニティ付加物をコードする配列は、遺伝子のクローニングの際にコードされる領域と融合されていてもよく、その結果、相応するアフィニティ付加物を有する誘導タンパク質が得られる。これは次いで1工程精製(Ein-Schritt-Reinigung)において単離される。アフィニティ付加物とアフィニティ精製との適当な組合せの例は、StrepTagとストレプトアビジン−アフィニティクロマトグラフィーとの組合せであり、IBA, Goettingen, Dにより市販されている。
【0041】
本発明による方法において、O−アセチル−L−セリン−スルフヒドリラーゼは精製された形で使用することができる。溶液中での反応の他に、酵素を担体へ固定することも可能である。相応する方法は先行技術である。
【0042】
しかしながら、非タンパク質アミノ酸の製造のためのO−アセチル−L−セリン−スルフヒドリラーゼの単離は必須ではない。同様に、O−アセチル−L−セリン−スルフヒドリラーゼ−活性を有する微生物細胞を本発明による方法に直接使用することも可能である。このような微生物株の例は、大腸菌(Escherichia coli)株DH5α/pFL145及びBLR21(DE3)/pLE4である。これらは実施例1及び2に記載されており、ブラウンシュバイクのドイツ微生物及び細胞培養のための寄託機関DSMZ(Deutschen Sammlung fuer Mikroorganismen und Zellkulturen DSMZ in Braunschweig)に寄託番号DSM14088及び14089のもとで寄託されている。
【0043】
本発明による方法のこの変法において、O−アセチル−L−セリンの非タンパク質L−アミノ酸への生体内変換は休止細胞を用いて行う。O−アセチル−L−セリン及び求核性化合物の細胞への侵入は、この場合、反応生成物の非タンパク質L−アミノ酸の放出と同様に細胞を通して行われる。
【0044】
所望の場合には、細胞の易透化を引き起こす物質で細胞を処理することにより、細胞内部と反応媒体との間の物質代謝を高めることができる。このような物質は、例えばクロロホルム又はトルエンであり、この使用は当業者に公知である。
【0045】
この方法の有利な実施態様において、非タンパク質アミノ酸を、O−アセチル−L−セリン−スルフヒドリラーゼの触媒作用下でO−アセチル−L−セリンと求核性化合物との反応により生成し、その際、O−アセチル−L−セリン−スルフヒドリラーゼは微生物の細胞内に存在する。
【0046】
発酵により得られる精製されていないO−アセチル−L−セリンを、求核性化合物と、O−アセチル−L−セリン−スルフヒドリラーゼによる触媒作用下で反応させることによる非タンパク質L−アミノ酸の製造は特に有利であり、その際、O−アセチル−L−セリン−スルフヒドリラーゼは微生物の細胞内に存在する。
【0047】
O−アセチル−L−セリン−スルフヒドリラーゼにより触媒されるβ−置換のための求核性化合物として、本発明による方法において、次のグループ:
【0048】
【化6】
【0049】
から選択される基を有する有利な化合物が使用される。
【0050】
反応バッチに、次の化合物
− チオ硫酸塩
− 一般式(1)
H−S−R1 (1)
[式中、R1は、1〜15個のC原子を有する一価の置換又は非置換のアルキル基、アルコキシ基、アリール基又はヘテロアリール基を表す]のチオール
− セレニド
− 一般式(2)
H−Se−R1 (2)
[式中、R1は式(1)に記載した意味を表す]のセレノール
− アジ化物
− シアン化物
− 一般式(3)又は(4)
【0051】
【化7】
【0052】
[式中、X及びYは同じ又は異なり、CR4又はNを表し、R4は−H、−COOH、−OH、−NH2、−NO2、−SH、−SO3 -、−F、−Cl、−Br、−I、C1〜C5−アルキルカルボニル−並びにそのエステル、アミド又は塩又はR1を表し、R1は式(1)について挙げられた意味を表し、
R2及びR3は同じ又は異なり、R4を表すか、又は式(4)中のC1及びC2はR2又はR3の置換基の代わりに架橋[−CR5R6−]aによって環を形成するように結合しており、その際、aは1、2、3又は4を表し、R5及びR6は同じ又は異なり、R4を表し、1個又は数個の隣接しない基[−CR5R6−]は酸素、硫黄又は場合によりC1〜C5アルキル置換されたイミノ基により置換されていてもよくかつ2個の隣接する基[−CR5R6−]は基[−CR5=CR6−]又は基[−CR5=N−]により置き換えられていてもよい]のアゾール
− 一般式(5)又は(6)
【0053】
【化8】
【0054】
[式中、X、R1、R2及びR3はすでに記載した意味を表し、式(6)中のC1及びC2は置換基R2及びR3の代わりに式(4)について定義された架橋を用いて1つの環を形成するように結合していてもよい]のイソキサゾリンノンのグループから選択される求核性化合物を添加するのが特に有利である。
【0055】
チオ硫酸塩の例は、チオ硫酸ナトリウム、チオ硫酸カリウム又はチオ硫酸アンモニウムである。
【0056】
チオールの例は、2−メルカプトエタノール、3−メルカプトプロパノール、3−メルカプトプロピオン酸、3−メルカプト−1−プロパンスルホン酸、メルカプトエタンスルホン酸、2−メルカプトエチルアミン、チオグリコール酸、チオ乳酸、チオ酢酸、メルカプトコハク酸、メルカプトピルビン酸、ジチオトレイトール、ジチオエリトリトール、1−チオグリセリン、チオフェノール、4−フルオロチオフェノール、4−クロロチオフェノール、4−メルカプトフェノール、p−チオクレゾール、5−チオ−2−ニトロ安息香酸、2−メルカプトチアゾール、2−メルカプトチアゾリン、2−メルカプトイミダゾール、3−メルカプト−1,2,4−チアゾール、2−チオフェンチオール、2−メルカプトピリジン、2−メルカプトピリミジン、2−チオシトシン、2−メルカプトニコチン酸、2−メルカプト−1−メチルイミダゾール、2−メルカプトベンゾチアゾール、2−メルカプトベンゾオキサゾール、6−メルカプトプリンのグループから選択される化合物である。
【0057】
セレノールの例は、メチルセレノール、エチルセレノール、プロピルセレノール、フェニルセレノールのグループから選択される化合物である。
【0058】
アジ化物の例は、アジ化ナトリウム、アジ化カリウム又はアジ化アンモニウムである。
【0059】
シアン化物の例は、シアン化カリウム、シアン化ナトリウム又はシアン化アンモニウムである。
【0060】
アゾールの例は、1,2−ピラゾール、3−メチルピラゾール、4−メチルピラゾール、3,5−ジメチルピラゾール、3−アミノピラゾール、4−アミノピラゾール、ピラゾール−4−カルボン酸、ピラゾール−3,5−ジカルボン酸、1,2,3−トリアゾール、1,2,4−トリアゾール、3−アミノ−1,2,4−トリアゾール、1,2,3,4−テトラゾール、インダゾール、インダゾール−3−カルボン酸、インダゾール−5−カルボン酸、5−アミノインダゾール、ベンゾトリアゾール、ベンゾトリアゾール−5−カルボン酸、5−アミノベンゾトリアゾール、アミノピラゾロピリミジン、8−アザグアニジン、8−アザアデニンのグループから選択される化合物である。
【0061】
イソオキサゾリノンの例は、イソオキサゾリン−5−オン、3−メチルイソオキサゾリン−5−オン、4−メチルイソオキサゾリン−5−オン、4,5−ジメチルイソオキサゾリン−2−オン、1,2,4−オキサジアゾリジン−3,5−ジオンのグループから選択される化合物である。
【0062】
求核性化合物の濃度はバッチ中で有利に、O−アセチル−L−セリンと等モル濃度で存在するように選択される。
【0063】
反応温度は有利に5℃〜70℃に選択される。特に有利な温度範囲は20℃〜40℃である。
【0064】
反応のための溶剤として有利に水が使用される。
【0065】
反応生成物として、有利にL配置の一般式(7)
【0066】
【化9】
【0067】
[式中、Zは次の式(8)〜(19)
【0068】
【化10】
【0069】
並びにそのエステル、エーテル又は塩から選択される一価の基を表し、及び
R1、R2、R3、R4、X及びYはすでに式(1)〜(6)に挙げられた意味を表す]のL−アミノ酸が生成される。
【0070】
可溶性の非タンパク質L−アミノ酸は本発明による方法の完了後及び有利に水溶液の分離後にバイオマス及び培養上澄液中で公知の方法を用いて培養上澄液から単離される。このようなアミノ酸の単離のための方法は同様に当業者に公知である。この方法は例えば濾過、遠心分離、抽出、吸着、イオン交換クロマトグラフィー、沈殿、晶出である。難溶性の非タンパク質アミノ酸が存在する場合に、有利に、当業者に公知のような慣用の遠心分離が実施され、その際、バイオマスはできる限り遠心分離上澄液中に残留する。分離された生成物は有利に慣用の方法により溶解及び再沈殿させる。
【0071】
【実施例】
次の実施例は、本発明をさらに詳説するために用いられる。
【0072】
例1:StrepTag−配列を有する融合遺伝子としての大腸菌からのcysK−遺伝子もしくはcysM−遺伝子のクローニング
大腸菌からのcysK−遺伝子もしくはcysM−遺伝子のクローニングのために、まずPwo−DNA−ポリメラーゼを用いて次のホスホロチオエート保護したオリゴヌクレオチド−プライマー−ペアのポリメラーゼ連鎖反応を実施した。
【0073】
【外1】
【0074】
この場合、プライマー配列を介して制限エンドヌクレアーゼBsaI(下線のヌクレオチド)のための切断箇所を導入した。鋳型として、E. coli W3110(ATTC 27325)の染色体DNAを用いた。得られた増幅物を制限酵素BsaIを用いて消化し、引き続きEco31I−処理したベクターpASK−IBA3(institut fuer Bioanalytik, Goettingen, D)中にクローニングした。このベクターは、StrepTagIIの名称のアフィニティペプチド(WSHPQFEK 配列番号5)をコードする配列を3′末端に遺伝子融合物としてクローニングすることができる。tet−プロモータを用いたこの遺伝子融合物の発現はC末端StrepTagII−付属遺伝子を有するタンパク質を生じる。後者はタンパク質の単離のために利用することができる、それというのもStrepTagIIはストレプトアビジン−カラムへの結合を媒介するためである。
【0075】
例2:CysKタンパク質もしくはCysMタンパク質の精製
cysM−StrepTag−構築物(pFL145)を用いてE. coli株DH5α(Clonetech, Heidelberg, D)中で著しく良好な遺伝子発現を行うことができた。この場合、培養及び発現はInstitut fuer Bioanalytik社, Goettingen, Dの指示に従って実施した。株DH5α/pFL145はドイツ微生物及び細胞培養の寄託機関(DSMZ)にブタペスト条約に従い、寄託番号DSMZ14088で寄託されている。cysK−StrepTag−構築物(pLE1)の場合にはそれに対してこの発現は著しく弱い。XbaI−HindIII−フラグメントとしての遺伝子融合物をT7−プロモータ(pRSET5a)(Stratagene, Heidelberg, D)を有するベクター中へ再クローニングし、株BLR21(DE3)(Novagen, Darmstadt, D)中での発現により、この場合(pLE4)に遺伝子産物の良好な形成が達成された。株BLR21(DE3)/pLE4はドイツ微生物及び細胞培養の寄託機関(DSMZ)にブタペスト条約に従い、寄託番号DSMZ14089で寄託されている。CysKタンパク質もしくはCysMタンパク質の単離は、ストレプトアビジンカラムを用いたアフィニティクロマトグラフィーにより行い、その際、原則としてInstitut fuer Bioanalytik社, Goettingen, Dの製造元の指示に従って方法を実施した。収量は培養250mlを使用した場合、精製されたCysKタンパク質3mgもしくは精製されたCysMタンパク質4.5mgであった。両方のタンパク質はピリドオキサルホスフェート−コファクターに基づき、明らかに黄色の呈色を生じ、420nmでの最大吸光を示した。
【0076】
例3:酵素活性の測定
O−アセチル−L−セリン−スルフヒドリラーゼの活性の測定は、「天然の」反応生成物L−システイン(Cys)の検出により行うか又はCysMの場合には他にS−スルホ−L−システイン(S−Cys)として行った。両方の生成物は、著しく特異的にかつ著しく敏感にGaitonde(1967, Biochem. J. 104: 627-633)による試験を用いて測定される。両方の化合物に対して、別々の検量線を記録した、それというのもスルホシステインを用いた着色複合体は僅かな強度を有するためである。
【0077】
一般的な試験バッチは、O−アセチル−L−セリン(ナトリウム−スクシネート−緩衝液500mM中の株溶液200mMからの添加物、pH5.5)10mM、硫化ナトリウム又はチオ硫酸ナトリウム10mM、カリウム−ホスフェート−緩衝液(pH7.0)100mM、精製された酵素5μg/mlを含有し、これを37℃でインキュベートした。特異的活性Aをユニット/mgタンパク質で表示し、つまりμmol産物×min−1×mg−1タンパク質で表示した。ACysはスルフィドを用いたシステイン形成の特異的活性を意味する。AS−Cysはチオ硫酸塩を用いたS−スルホ−システイン形成の特異的活性を意味する。例2中で単離されたタンパク質を用いるこの特異的活性は次のようであった:
CysK:ACys 140ユニット/mg
CysM:ACys 199ユニット/mg
CysM:AS−Cys 145ユニット/mg
休止細胞中のO−アセチル−L−セリン−スルフヒドリラーゼの活性を測定する場合、まず、20.0の光学密度(600nmで測定)を有する細胞懸濁液を調整した。引き続き、この細胞をクロロホルムの添加により10体積%まで浸透させ、室温で5分間インキュベートした。次いで酵素試験のために1.0の光学密度を調整し、細胞を用いて上記したようにO−アセチル−L−セリン及びスルフィドもしくはチオ硫酸塩との反応を実施した。この細胞の特異的活性Aはこの場合μmol×min−1 (600nmで1.0の光学密度を有する細胞懸濁液ml);短縮形:ユニット/ml ODで示した。
【0078】
例4:O−アセチル−L−セリン−スルフヒドリラーゼCysKもしくはCysMの触媒作用能力の試験
O−アセチル−L−セリン−スルフヒドリラーゼを用いて非タンパク質アミノ酸を製造するために、他の求核性化合物をスルフィド又はチオ硫酸塩の代わりに反応中で使用した。この検出のために、アミノ酸に対する予備カラム誘導化(Vorsaeulenderivatisierung)を、オルト−フタルジアルデヒドを用いて実施した。この方法を用いて、精製された求核性基質の広範囲なスクリーニングを実施できた。
【0079】
このバッチはO−アセチル−L−セリン(Naスクシネート−緩衝液500mM中の株溶液200mMからの添加物、pH5.5)4mM、求核試薬20mM、K−ホスフェート−緩衝液100mM、pH7.0、精製された酵素、5μg/mlを含有した。この反応を酢酸(96%v/v)1/100体積を用いて停止し、HP Aminoquantカラム(200mm×2.1mm)を用いるHPLCによりHewlett Packard, Waldbronn, D,の製造元の指示に従って分析した。
【0080】
生成された生成物を特性決定するために、HPLC−MSを用いて分子量を検出した。このために、移動層としてギ酸(0.1%v/v)を用いるLuna-C18-カラム(Phenomenex, Aschaffenburg, D)を用いた。イオン化を正のエレクトロスプレー法で実施した。
【0081】
次の表は多様な求核試薬に対する2つの酵素CysKもしくはCysMの反応性及びHPLC−MS−分析(MH+)での測定量を示した。
【0082】
【表1】
【0083】
* +++ 30分後に70%を越える転化率、 ++ 30分後に40%を越える転化率、 + 30分後に10%を越える転化率、 − 30分後に5%未満の転化率。
【0084】
例5:O−アセチル−L−セリン−スルフヒドリラーゼCysMの発酵による製造
発酵のため予備培養として、付加的にアンピシリン100ml/lを含有するLB培地(トリプトン10g/l、酵母抽出物5g/l、NaCl 10g/l)20mlに、株DH5α/pFL145(上記参照)を接種し、30℃で150rpmで振盪器中で一晩中インキュベートした。引き続き全体のバッチを、グルコース5g/l、ビタミンB1 0.5mg/l及びアンピシリン100mg/lを補充したSM1培地(K2HPO4 12g/l;KH2PO4 3g/l;(NH4)2SO4 5g/l;MgSO4×7H2O 0.3g/l;CaCl2×2H2O 0.015g/l;FeSO4×7H2O 0.002g/l;Na3シトレート×2H2O 1g/l;NaCl 0.1g/l;Na2MoO4×2H2O 0.15g/l;Na3BO3 2.5g/l;CoCl2×6H2O 0.7g/l;CuSO4×5H2O 0.25g/l;MnCl2×4H2O 1.6g/l;ZnSO4×7H2O 0.3g/lからなる微量元素溶液1ml/l)100mlに移した。この予備培養をさらに30℃で8時間150rpmでインキュベーションした。
【0085】
発酵槽として、2リットルの最大培養容量を有するBraun Biotech (Melsungen, D)社のBiostat M-装置を用いた。記載した予備培養(600nmでの約2の光学密度)を用いて、発酵培地(グルコース15g/l;トリプトン10g/l;酵母抽出物5g/l;(NH4)2SO4 5g/l;KH2PO4 1.5g/l;NaCl 0.5g/l;MgSO4×7H2O 0.3g/l;CaCl2×2H2O 0.015g/l;FeSO4×7H2O 0.075g/l;Na3シトレート×2H2O 1g/l及び前記のような微量元素溶液1ml/l、ビタミンB1 5mg/l及びアンピシリン100mg/l、25%アンモニアを用いてpH7.0に調整)900mlを有する発酵槽に接種した。発酵の間に32℃の温度を調整し、pH値をアンモニア25%v/vの添加により7.0の値に一定に保持した。この培養に除塵した圧縮空気を1.5vol/vol/minで通気し、200rpmの撹拌機回転数で撹拌した。酸素飽和が50%の値に低下した後、回転数を制御装置を介して1200rpmの値にまで高め、酸素飽和50%を維持した(pO2センサを用いて測定、900rpmで100%飽和に校正)。発酵槽中のグルコース含有量が最初15g/lから約5〜10g/lに低下するまで、グルコース溶液56%w/vの添加を行った。この培養を3〜6ml/hの流動速度で行い、その際、発酵槽中のグルコース濃度を0.5〜10g/lの間に維持した。グルコース測定をYSI社(Yellow Springs, Ohio, USA)のグルコース分析機を用いて実施した。光学密度30に到達した際に酵素生産をテトラサイクリン3mg/lの添加により誘導した。誘導時間は7時間であった。この時間の後に、試料を取り出し、細胞を培地の遠心分離により分離し、洗浄した。生じた細胞懸濁液を例3に記載したように分析した。チオ硫酸塩を用いて測定したO−アセチル−L−セリン−スルフヒドリラーゼ−活性AS - Cysは12ユニット/ml ODであった。
【0086】
この細胞を遠心分離により精製し、液体窒素中で衝撃冷凍し、−20℃で貯蔵した。
【0087】
例6:O−アセチル−L−セリン−スルフヒドリラーゼCysKの発酵による製造
CysK−酵素の製造のために原則として例5に記載したと同様に行った。もちろんこの場合に株BLR21(DE3)/pLE4を使用した。装入されたグルコース15g/lの消費後に、60%(v/v)グリセリン溶液を用いた培養を行った。流動速度は9.5ml/hであった。同時に酵素産生をイソプロパノール−β−チオガラクトシド(IPTG)0.4mMの添加により誘導した。21時間の誘導時間の後に試料を取り出し、培養基の遠心分離により細胞を分離し、洗浄した。得られた細胞懸濁液を例3に記載されたと同様に分析した。スルフィドACysを用いて測定した特異的O−アセチル−L−セリン−スルフヒドリラーゼ−活性は2ユニット/ml ODであった。
【0088】
細胞を遠心分離により分離し、液体窒素中に衝撃冷凍し、−20℃で貯蔵した。
【0089】
例7:休止細胞を用いたS−フェニル−L−システインの酵素による製造
pHセンサ及びpH制御装置を備えた温度調節可能な容器中に、まずO−アセチル−L−セリン−ヒドロクロリド(Sigma, Deisenhofen, D)を水100mlに溶かし、その結果、O−アセチル−L−セリン200mM(29.4g/l)の最終濃度が生じた。その後、撹拌しながらチオフェノール200mMを添加した。引き続きこのバッチを5M NaOHの滴定により素早く6.7のpH値にもたらし、すぐにCysM産生株DH5α/pFL145の細胞懸濁液を混入した。この細胞懸濁液は12ユニット/ml ODの特異的活性AS - Cysを有していた。バッチ中の細胞の光学密度(600nmで測定)は2.0であり、従ってO−アセチル−L−セリン−スルフヒドリラーゼ−活性は24ユニット/mlのAS - Cysの値であった。反応の間にpH値を5M NaOHの供給によりpH制御システムを用いて一定に保持した。
【0090】
反応の間に白色沈殿物の形成が確認された。30分後に試料を取り出し、1%(v/v)酢酸を添加した。沈殿物を遠心分離により分離し、同じ体積の21%(v/v)リン酸中に溶かし、HPLCにより分析した。遠心分離の上澄液を同様にクロマトグラフィーにかけた。この分析はLUNA 5μ C18(2)−カラム(Phenomenex, Aschaffenburg, D)の逆相HPLCを用いて実施した。溶離剤として、0.5ml/minの流動速度で希釈したリン酸(0.1ml濃リン酸/l)を用いた。
【0091】
S−フェニル−L−システインの含有量は上澄液中で1.6g/l、沈殿物中で24.8g/lであった。これはO−アセチル−L−セリンに対して67%の全反応収率に相当した。このバッチをO−アセチル−L−セリン−スルフヒドリラーゼの使用を12もしくは2ユニット/mlに減少させながらも実施した。しかしながら、これは延長された酵素反応を生じ、O−アセチル−L−セリンの異性化に基づき52%もしくは15%の収率に低下した。
【0092】
例8:O−アセチル−L−セリン−含有の発酵ブイヨン及び休止細胞を用いたS−フェニル−L−システインの酵素を用いた製造
純粋物質としてのO−アセチル−L−セリンの代わりに、O−アセチル−L−セリン−含有の発酵ブイヨン中でこの試験を実施した。このブイヨンはDE10107002特許出願明細書に記載されたと同様に発酵により得られた。発酵の完了時に、O−アセチル−L−セリンの安定化は21%(v/v)リン酸を用いてpH値4.0が調整された。この細胞を遠心分離により分離し、発酵ブイヨンを蒸発によりO−アセチル−L−セリンの濃度を30g/lにした。引き続きブイヨン100mlにチオフェノール200mMを添加し、pH6.7に滴定した後、CysM−産生株DH5α/pFL145を混入した。この活性AS - Cysは24ユニット/mlであった。その後、例7によるように実施した。O−アセチル−L−セリンに対する収率は65%であった。
【0093】
CysK−産生株BLR21(DE3)/pLE4の細胞を有する同様のバッチを供給し、ACys 38ユニット/mlの使用で72%の収率が得られた。
【0094】
例9:O−アセチル−L−セリン−含有の発酵ブイヨン及び休止細胞を有するS−フェニル−L−システインの連続的な酵素による製造
反応実施の目標は、高価でかつ不安定な原料のO−アセチル−L−セリンに対してできる限り高い収率を達成することである。これを保障するために、連続的方法が行われる。この場合、まず例8に記載されたと同様に実施し、単にCysM活性AS - Cysに関する使用が48ユニット/mlに高められた。20分の反応時間の後に供給ユニットを介してO−アセチル−L−セリン−含有の発酵ブイヨン(30g/l)、チオフェノール及びCysM産生株DH5α/pFL145(600nmで240OD、リン酸カリウム緩衝液中でpH7.0)の細胞懸濁液を添加した。流動速度は150、2.5もしくは3ml/hであった。同時に、連続的に生成物溶液を反応容器から155.5ml/hの流速で取り出すことで開始した。この流速は、反応器中の反応体積が一定に保持され、反応器中の平均滞留時間が30分であるように選択される。この方法を用いて、バッチ中で一定のO−アセチル−L−セリン−濃度で1.0g/lの流動速度が生じた。この低い濃度に基づき(この酵素はそのなお低いKM値に基づきなお極めて良好な活性を有する)N−アセチル−L−セリンへの異性化が効果的に最小化することができる。このO−アセチル−L−セリンに対する反応収率は85%である。
【0095】
例10:O−アセチル−L−セリン−含有の発酵ブイヨン及び休止細胞を用いたアジ化−L−アラニンの酵素による製造
この例において、原則として例8と同様にCysM−含有細胞を用いて実施した。チオフェノールに代わり、アジ化ナトリウム200mMを使用した。バッチ中で72ユニット/mlの活性に相当する細胞を用いた30分の反応時間の後に45%の転化率が測定された。
【0096】
例11:O−アセチル−L−セリン−含有の発酵ブイヨン及び休止細胞を用いたシアノ−L−アラニンの酵素による製造
この例において、原則として例8と同様にCysM−含有細胞を用いて実施した。チオフェノールに代わり、シアン化カリウム200mMを使用した。シアン化物の添加をまず行い、バッチを6.7のpH値に調整した。バッチ中で72ユニット/mlの活性の細胞を用いた30分の反応時間の後に65%の転化率が測定された。
【0097】
例12:O−アセチル−L−セリン−含有の発酵ブイヨン及び休止細胞を用いたS−スルホ−L−システインの酵素による製造
この例において、原則として例8と同様にCysM−含有細胞を用いて実施した。チオフェノールに代わり、チオ硫酸ナトリウム200mMを使用した。バッチ中で16ユニット/mlの活性に相当する細胞を用いた30分の反応時間の後に91%の転化率が測定された。
【0098】
例13:O−アセチル−L−セリン−含有の発酵ブイヨン及び休止細胞を用いたS−チアゾール−2−イル−L−システインの酵素による製造
この例において、原則として例8と同様にCysM−含有細胞を用いて実施した。チオフェノールに代わり、2−メルカプトチアゾール200mMを使用した。バッチ中で72ユニット/mlの活性に相当する細胞を用いた30分の反応時間の後に62%の転化率が測定された。
【0099】
例14:O−アセチル−L−セリン−含有の発酵ブイヨン及び休止細胞を用いたS−1,2,4−チアゾール−3−イル−L−システインの酵素による製造
この例において、原則として例8と同様にCysM−含有細胞を用いて実施した。チオフェノールに代わり、3−メルカプト−1,2,4−チアゾール200mMを使用した。バッチ中で72ユニット/mlの活性に相当する細胞を用いた30分の反応時間の後に74%の転化率が測定された。
【0100】
例15:O−アセチル−L−セリン−含有の発酵ブイヨン及び休止細胞を用いたセレノ−L−システインの酵素による製造
この例において、原則として例8と同様にCysM−含有細胞を用いて実施した。チオフェノールに代わり、セレン化ナトリウム200mMを使用した。セレン化ナトリウムはホウ水素化ナトリウムを用いる亜セレン酸ナトリウムの還元により製造した。バッチ中で72ユニット/mlの活性に相当する細胞を用いた30分の反応時間の後に75%の転化率が測定された。
【0101】
例16:O−アセチル−L−セリン−含有の発酵ブイヨン及び休止細胞を用いたフェニル−セレノ−L−システインの酵素による製造
この例において、原則として例8と同様にCysM−含有細胞を用いて実施した。チオフェノールに代わり、フェニルセレノール200mMを使用した。バッチ中で72ユニット/mlの活性に相当する細胞を用いた30分の反応時間の後に62%の転化率が測定された。
【0102】
例17:O−アセチル−L−セリン−含有の発酵ブイヨン及び休止細胞を用いた1,2,4−チアゾール−1−イル−L−アラニンの酵素による製造
この例において、原則として例8と同様に実施した。チオフェノールに代わり、1,2,4−チアゾール200mMを使用した。この反応のために細胞を10%(v/v)クロロホルムを用いた処理により易透化した。バッチ中で72ユニット/mlの活性に相当する細胞を用いた30分の反応時間の後に48%の転化率が測定された。
【0103】
例18:O−アセチル−L−セリン−含有の発酵ブイヨン及び休止細胞を用いた5−カルボキシ−1,2,3−ベンゾトリアゾール−2−イル−L−アラニンの酵素による製造
この例において、原則として例8と同様に実施した。チオフェノールに代わり、1,2,4−オキサジアゾリジン−2,5−ジオン200mMを使用した。この反応のために細胞を10%のクロロホルムを用いた処理により易透化した。バッチ中で72ユニット/mlの活性に相当する細胞を用いた30分の反応時間の後に11%の転化率が測定された。
【0104】
例19:O−アセチル−L−セリン−含有の発酵ブイヨン及び休止細胞を用いた1,2,4−オキサジアゾリジン−3,5−ジオニル−L−アラニン(キスカル酸)の酵素による製造
この例において、原則として例8と同様に実施した。チオフェノールに代わり、5−カルボキシ−1,2,3−ベンゾトリアゾール200mMを使用した。この反応のために細胞を10%のクロロホルムを用いた処理により易透化した。バッチ中で72ユニット/mlの活性に相当する細胞を用いた30分の反応時間の後に54%の転化率が測定された。
【0105】
【配列表】
【0106】
【外2】
【0107】
【外3】
Claims (9)
- O−アセチル−L−セリンを求核性化合物とO−アセチル−L−セリン−スルフヒドリラーゼの触媒作用下で反応させて非タンパク質L−アミノ酸にする非タンパク質L−アミノ酸の製造方法において、
求核性化合物としてチオ硫酸塩、一般式(1)
H−S−R1 (1)
[式中、R1は置換又は非置換の一価の、1〜15個のC原子を有するアルキル基、アルコキシ基、アリール基又はヘテロアリール基を表す]のチオール、セレニド、一般式(2)
H−Se−R1 (2)
[式中、R1は置換又は非置換の一価の、1〜15個のC原子を有するアルキル基、アルコキシ基、アリール基又はヘテロアリール基を表す]のセレノール、アジ化物、シアン化物、一般式(3)又は(4)
R2及びR3は同じ又は異なり、R4を表すか、又は式(4)中のC1及びC2はR2又はR3の置換基の代わりに架橋[−CR5R6−]aによって環を形成するように結合しており、その際、aは1、2、3又は4を表し、R5及びR6は同じ又は異なり、R4を表し、1個又は数個の隣接しない基[−CR5R6−]は酸素、硫黄、イミノ基又はC1〜C5アルキル置換されたイミノ基により置換されていてもよくかつ2個の隣接する基[−CR5R6−]は基[−CR5=CR6−]又は基[−CR5=N−]により置き換えられていてもよい]のアゾール、一般式(5)又は(6)
O−アセチル−L−セリン−スルフヒドリラーゼ活性を有する休止微生物細胞を使用して生体内変換を行い、O−アセチル−L−セリン−スルフヒドリラーゼとしてCysM又はCysKを使用し、前記の反応をpH6.0〜6.99の範囲内のpH値で実施することを特徴とする、非タンパク質L−アミノ酸の製造方法。 - O−アセチル−L−セリン−スルフヒドリラーゼがバッチ中で少なくとも2ユニット/mlの体積活性ACysを有する、請求項1項記載の方法。
- O−アセチル−L−セリンとしてO−アセチル−L−セリン−含有発酵ブイヨンを使用することを特徴とする、請求項1又は2項記載の方法。
- 求核性化合物が、2−メルカプトエタノール、3−メルカプトプロパノール、3−メルカプトプロピオン酸、3−メルカプト−1−プロパンスルホン酸、メルカプトエタンスルホン酸、2−メルカプトエチルアミン、チオグリコール酸、チオ乳酸、チオ酢酸、メルカプトコハク酸、メルカプトピルビン酸、ジチオトレイトール、ジチオエリトリトール、1−チオグリセリン、2−メルカプトチアゾール、2−メルカプトチアゾリン、2−メルカプトイミダゾール、3−メルカプト−1,2,4−トリアゾール、2−チオフェンチオール、2−メルカプトピリジン、2−メルカプトピリミジン、2−チオシトシン、2−メルカプトニコチン酸、2−メルカプト−1−メチルイミダゾール、2−メルカプトベンゾチアゾール、2−メルカプトベンゾオキサゾール、6−メルカプトプリン、チオ硫酸ナトリウム、チオ硫酸カリウム、チオ硫酸アンモニウム、アジ化ナトリウム、アジ化カリウム、アジ化アンモニウム、シアン化カリウム、シアン化ナトリウム、シアン化アンモニウム、メチルセレノール、エチルセレノール、プロピルセレノール、フェニルセレノール、1,2−ピラゾール、3−メチルピラゾール、4−メチルピラゾール、3,5−ジメチルピラゾール、3−アミノピラゾール、4−アミノピラゾール、ピラゾール−4−カルボン酸、ピラゾール−3,5−ジカルボン酸、1,2,3−トリアゾール、1,2,4−トリアゾール、3−アミノ−1,2,4−トリアゾール、1,2,3,4−テトラゾール、インダゾール、インダゾール−3−カルボン酸、インダゾール−5−カルボン酸、5−アミノインダゾール、ベンゾトリアゾール、ベンゾトリアゾール−5−カルボン酸、5−アミノベンゾトリアゾール、アミノピラゾロピリミジン、8−アザグアニン、8−アザアデニン、イソオキサゾリン−5−オン、3−メチルイソオキサゾリン−5−オン、4−メチルイソオキサゾリン−5−オン、4,5−ジメチルイソオキサゾリン−2−オン、1,2,4−オキサジアゾリジン−3,5−ジオンのグループから選択される、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
- 求核性化合物の濃度が、O−アセチル−L−セリンに対して等モル濃度で存在するように選択される、請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
- 5℃〜70℃の温度で実施する、請求項1から5までのいずれか1項記載の方法。
- 非タンパク質L−アミノ酸を方法の完了後に公知の方法を用いて単離する、請求項1から7までのいずれか1項記載の方法。
- 単離を濾過、遠心分離、抽出、吸着、イオン交換クロマトグラフィー、沈殿又は晶出を用いて行う、請求項8記載の方法。
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