JP4148612B2 - ホウレンソウの保存方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、MA(Modified Atmosphere)によるホウレンソウの鮮度保持を目的とする包装体に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ホウレンソウは200〜300gの単位で販売されることが多く、紐で束ねるか上部開放のポリプロピレン製袋に入れられている。個包装などの作業は産地で行われるのが一般的で、これらを段ボール箱に入れて輸送する。産地、流通段階ではそれぞれ予冷、保冷車、冷蔵車を使用するなど青果物の品質を保つための努力が徐々に行われているが、我が国のコールドチェーンシステムの構築はアメリカなどに較べると後れをとっており、収穫後の品質低下は避けられないのが現状である。
ホウレンソウは呼吸量が大きく蒸散も活発であるため非常に萎れやすく、低温多湿での保管が理想的である。小売店でのホウレンソウの陳列は、冷蔵ケースに陳列されている場合も見受けられるが、それでも萎れは生じやすいし、常温の棚で販売されていることも多い。店舗では常温数時間毎に萎れたホウレンソウに水を掛けて蘇生させる作業を行い、少しでも長持ちさせる努力を行っている。しかしホウレンソウは当日売り切るのが基本となっている。先に記したようにホウレンソウは呼吸量が大きく、萎れ、黄化などの劣化が発生しやすいく、流通中、販売中での品質低下が大きい。特に気温の上昇する夏場や長距離輸送が必要な場合は市場、小売店着荷時点で問題となることが多々ある。従って、産地、市場関係者、小売店などではホウレンソウの収穫直後から販売までの一貫した鮮度保持技術が望まれているが、これといった方法が見つかっていないのが現状である。
【0003】
青果物は凍結、低温障害が生じない範囲内では温度が低いほど呼吸量が低くなり日持ちも良くなることは一般的に知られているが、周囲のガス雰囲気が大気よりも低酸素濃度、高二酸化炭素濃度になった場合にも、呼吸量が小さくなりエネルギーの消耗が抑えられ、劣化、追熟等が抑制され鮮度が保持される。この植物の特性を利用したのがCA(Contrrolled Atmosphere)貯蔵である。CA貯蔵では低温管理に加えて青果物を入れた貯蔵庫内に人為的にガスを流し込み、庫内のガス組成をその青果物に最も適した低酸素、高二酸化炭素状態に保つことで青果物の鮮度保持を行う。ホウレンソウの場合CA貯蔵(0℃、酸素10%、二酸化炭素10%)での日持ちは3週間程度である。しかし、導入には莫大な設備費を要すし、あくまでも庫内に保管しなければならず、出庫後、つまり流通中、販売中でのホウレンソウの品質管理は全くできない。また0℃で正確に品温を維持するのは難しく、ホウレンソウが凍る恐れもある。
以上のようにホウレンソウは傷みやすく、これといった鮮度保持方法が開発されていないことから流通中の鮮度保持、貯蔵性の向上といった両方の点で実用性のある鮮度保持技術が待望されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、異臭を伴い且つホウレンソウ自身に悪影響を及ぼすエタノール、アセトアルデヒドが生じる原因である無気呼吸を起こさせずに、ホウレンソウの黄化、萎れ、腐敗を防ぐことが可能なMA効果を有するホウレンソウ用鮮度保持包装体を提供することである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
MA包装で青果物の鮮度を保持する仕組みは、先に述べたCA貯蔵と同様に青果物の周囲の環境を大気よりも低酸素、高二酸化炭素状態にすることである。ただ、CA貯蔵では大がかりな装置を使用して倉庫内のガス組成を調節するのに対して、MA包装では包装された青果物の呼吸によって排出された二酸化炭素を程良く包装体内に残し、同じく青果物の呼吸によって消費されて不足となった包装体内の酸素を包装体外から適量取り入れることで低酸素、高二酸化炭素状態が作り出される。つまり、青果物の呼吸量と包装体のガス透過量(包装袋内から大気、あるいは大気から包装体内へのガスの移動量)のバランスによって包装袋内の雰囲気、つまり青果物の周囲のガス雰囲気を調整することになる。
本発明は、上記MAの思想を取り入れたものであり、ホウレンソウの包装体において、包装体の酸素透過量をP(cc/g/day/atm)、保存温度をT(℃)とした場合、
0<T≦25かつ
17.763lnP−70.001≦T≦8.125lnP+0.2407(式1)
好ましくは、0<T≦25かつ
17.321lnP−60.621≦T≦17.172lnP−45.706(式2)
を満たす温度T(℃)で保存するホウレンソウの保存方法である。
(ここでlnPはPの自然対数を表す。)
好ましくは、前記包装体内の酸素濃度が10〜19%、二酸化炭素濃度が1〜10%、さらに好ましくは酸素15〜18%、二酸化炭素2〜6%であるホウレンソウの包装体である。
又本発明は、前記包装体が一部に孔径10〜300μm以下の微細孔または表面に傷を有する合成樹脂フィルムから成るホウレンソウの保存方法である。包装袋のガス透過量が不足しない場合はフィルムに微細孔、傷などの加工を施す必要はないが、現状の実流通ではまずあり得ない。
実際の青果物の流通では温度が上下する事が容易に推測されるため安全をみるのであれば式(2)の条件がより好ましい。
【0006】
【発明の実施の形態】
ホウレンソウは黄化、萎れ、腐敗が発生しやすく、25℃での日持ちは1日程度と短く、10℃でも3〜4日間が限界である。
産地では収穫後予冷を行うのが一般的になってきたものの、現在流通、販売中にホウレンソウの品温を10℃以下に管理することは非現実的であり、出荷後のホウレンソウは急速に品質が損なわれている。
【0007】
そこで、本発明者らは、ホウレンソウの劣化を抑制するためにホウレンソウ用MA包装体を開発した。その結果、上記式(1)の条件を満たす包装体でホウレンソウを包装すれば、これまでよりも日持ちを延長することが可能であることが突き止められた。
具体的には上記式(1)の条件を満たす包装によってホウレンソウの黄化、萎れ、腐敗が抑えられ、商品性保持期間も従来(大気中)より0℃で10日程度(大気中での日持ちは20日程度)、10℃では3〜6日間(大気中での日持ちは5〜6日程度)、25℃では2日間程度(大気中での日持ちは1〜2日間程度)延長することができた。本発明の包装袋は流通、販売中の品質劣化を防ぐ以外にも、出荷調整のために低温で1ヶ月程度の貯蔵を行うことも可能である。
【0008】
青果物は、一般的に過度な低酸素、高二酸化炭素条件になると無気呼吸を行い、アルコール、アセトアルデヒドを発生させる。ホウレンソウもこの例に漏れず同様の現象を起こす。
逆にガス雰囲気があまり大気に近すぎると呼吸量が抑制されず、鮮度が保持されなくなる。
よってMAで青果物の鮮度保持を行う場合には、ガス雰囲気を上記両者の中間帯となるようにしなければならない。
すなわち17.763lnP−70.001>Tになる条件では、ホウレンソウに呼吸障害が起こり品質低下が著しくなり、T>8.125lnP+0.2407となる場合は包装体内の酸素濃度がそれほど低くならないため、呼吸抑制が不十分になり、ホウレンソウの黄化、腐敗抑制効果も小さくなる。
MA包装でホウレンソウの鮮度を保持する場合のガス組成条件は、好ましくは酸素濃度が10〜19%、二酸化炭素濃度が1〜10%、さらに好ましくは酸素濃度15〜18%、二酸化炭素濃度2〜6%である。実際の流通で環境温度が予測しにくい場合は包装体内が嫌気、或いは酸素が19%より高くならないようするために安全をみて酸素15〜18%、二酸化炭素2〜6%に包装設計するのがよい。上記式(1)、式(2)に当てはまる包装体を使用すればこの条件が得られる。
【0009】
ホウレンソウは温度が0℃未満になると凍結の恐れがある。また、25℃より高温でも本発明の包装体を用いれば従来の条件よりも若干品質を良好に保つことができたが、ホウレンソウの腐敗が1〜2日程度で発生し実用に値するような鮮度保持効果は得られなかった。よって本発明の包装体を用いる場合の温度T(℃)は、0<T≦25である。
ただし、本発明の包装体を使用して、流通、販売中などに半日程度25℃を越えるようなことがあっても、青果物の呼吸量は青果物自身の品温が上昇しなければ変わらないし、包装体内は直ぐに嫌気的条件になるわけではないので、その後25℃以下で保たれれば特に差し支えない。
【0010】
本発明に用いる包装体の材質としては、青果物の包装に用いることのできるものであれば特に限定しないが、一般には無延伸ポリプロピレン、延伸ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル等が用いられる。加えてこれ以外のポリアミド、ポリエステル、ポリカーボネイト等のフィルム、さらにはこれらの複合フィルムであってもよく、さらには、これらのフィルム表面にシーラント層を設けたものでも、防曇処理したフィルムであっても良い。また、これらのフィルムの厚さは20〜60μmのものが好ましい。さらに、これらのフィルムは透明であっても良く、また表面に印刷を付したものでも良い。
これらの素材をそのまま包装体として使用したのでは、上記式の条件を満たす酸素透過量が得られないので、包装体の酸素透過量を大きくするため、使用するフィルムに酸素透過性を付与する必要がある。
包装体の酸素透過量調整法方はどのような方法でも差し支えない。具体的に例を挙げると、上記フィルムに平均孔径10〜300μmの微孔を開けることにより、包装体をホウレンソウの保存に必要なガス透過量に調整することができる。 上記微孔に関しては、その平均孔径が10μm未満であると加工が困難であり、300μmを超えると1パックあたりの孔数が少なくなるために、袋内のガス組成の調節が難しくなる。よって、バランス的に平均孔径10〜300μmが好ましい。包装するホウレンソウの量、あるいは保管する温度帯によっては包装体に必要な酸素透過量が小さくなるので、その場合平均孔径は10〜100μmが好ましい。
また、フィルム表面に傷を付けてガス透過量を調整することもできる。これらの場合、包装体の酸素透過量は、材質自体の酸素透過量と上記微孔の大きさ、数、あるいは、傷のサイズ、深さ、数によって決まる酸素透過量との和になる。
【0011】
本発明に用いる包装体はMA効果を得るために、密封する必要がある。袋を使用する際は、密封方法はヒートシール、結束帯、輪ゴム、かしめ、バックシーラー、ジッパー袋等どんな方法でも良い。包装形態としては袋だけに限られず、例えばトレイ容器にトップシールを施すような物でもよく、発泡スチーロール容器、タッパーに上記式(1)の条件が当てはまるように加工を施したものでも良い。また、段ボール箱に本発明の包装袋を一体化させたMA段ボール箱としても使用できる。
本発明の使用目的は、流通、小売り時の鮮度保持に限らず、低温での長期貯蔵も揚げられる。
【0012】
以下、実施例で本発明を説明する。
【実施例】
《参考例1》
サイズ、縦200mm、横400mmで、酸素透過量が14.0cc/24h・atm・grとなるように微孔(平均孔径80μm、14個)を開けた、30μmの防曇延伸ポリプロピレン(防曇OPP)からなる袋に、ホウレンソウ約200grを詰めて密封し、2℃で25日間保存した。そのときのホウレンソウの品質評価の結果を表1に示す。n数=4であり、以下同様の個数で評価した。
(Pが14.0の場合、式1によると0<T≦21.7である。)
《参考例2》
サイズ、縦200mm、横400mmで、酸素透過量が19.5cc/24h・atm・grとなるように微孔(平均孔径80μm、20個)を開けた、30μmの防曇延伸ポリプロピレン(防曇OPP)からなる袋に、ホウレンソウ約200grを詰めて密封し、10℃で15日間保存した。そのときのホウレンソウの品質評価の結果を表1に示す。n数=4であり、以下同様の個数で評価した。
(Pが19.5の場合、式1によると0<T≦24.4である。)
《実施例3》
サイズ、縦200mm、横400mmで、酸素透過量が71.2cc/24h・atm・grとなるように微孔(平均孔径100μm、46個)を開けた、30μmの防曇延伸ポリプロピレン(防曇OPP)からなる袋に、ホウレンソウ約200grを詰めて密封し、20℃で7日間保存した。そのときのホウレンソウの品質評価の結果を表1に示す。n数=4であり、以下同様の個数で評価した。
(Pが71.2の場合、式1によると5.6≦T≦25である。)
《実施例4》
サイズ、縦200mm、横400mmで、酸素透過量が94.0cc/24h・atm・grとなるように微孔(平均孔径100μm、61個)を開けた、30μmの防曇延伸ポリプロピレン(防曇OPP)からなる袋に、ホウレンソウ約200grを詰めて密封し、25℃で5日間保存した。そのときのホウレンソウの品質評価の結果を表1に示す。n数=4であり、以下同様の個数で評価した。
(Pが94.0の場合、式1によると10.7≦T≦25である。)
【0013】
《比較例1》
サイズ、縦200mm、横400mmで、酸素透過量が1.0cc/24h・atm・grである、30μmの防曇延伸ポリプロピレン(防曇OPP)からなる袋に、ホウレンソウ約200grを詰めて密封し、2℃で25日間保存した。そのときのホウレンソウの品質評価の結果を表2に示す。n数=4であり、以下同様の個数で評価した。
(Pが1.0の場合、式1によると0<T≦0.2である。)
《比較例2》
使用した袋の酸素透過量が69.6cc/24h・atm・grとなるように微孔(平均孔径100μm、45個)を開けた以外は参考例1と同様にホウレンソウを25日間保存した。そのときのホウレンソウの品質評価の結果を表2に示す。
(Pが100.1の場合、式1によると5.4≦T≦25である。)
《比較例3》
使用した袋の酸素透過量が2.9cc/24h・atm・grとなるように微孔(平均孔径80μm、2個)を開けた以外は参考例2と同様にホウレンソウを15日間保存した。そのときのホウレンソウの品質評価の結果を表2に示す。
(Pが2.9の場合、式1によると0<T≦8.8である。)
《比較例4》
使用した袋の酸素透過量が100.1cc/24h・atm・grとなるように微孔(平均孔径100μm、65個)を開けた以外は参考例2と同様にホウレンソウを15日間保存した。そのときのホウレンソウの品質評価の結果を表2に示す。
(Pが100.1の場合、式1によると11.8≦T≦25である。)
《比較例5》
使用した袋の酸素透過量が6.6cc/24h・atm・grとなるように微孔(平均孔径80μm、6個)を開けた以外は実施例3と同様にホウレンソウを7日間保存した。そのときのホウレンソウの品質評価の結果を表2に示す。
(Pが6.6の場合、式1によると0<T≦15.5である。)
《比較例6》
使用した袋の酸素透過量が255.2cc/24h・atm・grとなるように微孔(平均孔径150μm、74個)を開けた以外は実施例3と同様にホウレンソウを7日間保存した。そのときのホウレンソウの品質評価の結果を表2に示す。
(Pが255.2の場合、式1によるとT>25である。)
《比較例7》
使用した袋の酸素透過量が12.1cc/24h・atm・grとなるように微孔(平均孔径80μm、12個)を開けた以外は実施例4と同様にホウレンソウを5日間保存した。そのときのホウレンソウの品質評価の結果を表2に示す。(Pが12.1の場合、式1によると0<T≦20.5である。)
《比較例8》
使用した袋の酸素透過量が275.8cc/24h・atm・grとなるように微孔(平均孔径150μm、80個)を開けた以外は実施例4と同様にホウレンソウを5日間保存した。そのときのホウレンソウの品質評価の結果を表2に示す。
(Pが275.8の場合、式1によるとT>25である。)
《比較例9》
使用した袋に直径5mmの穴が4個開いている以外は参考例2と同様にホウレンソウを15日間保存した。そのときのホウレンソウの品質評価の結果を表2に示す。
【0014】
表中の記号は以下の通りである。
○:新鮮、□:僅かに変化、△:商品性の限界、×:食用に適さない
(△×は△と×の中間)
表中臭気の表現は以下の通りである
アルコ―ル:嫌気によるアルコール臭発生
【0015】
【表1】
【0016】
【表2】
【0017】
【発明の効果】
本発明の保存法方によれば、容易に条件設定が可能なMA効果を有する包装体により、安定した品質のホウレンソウを供給でき、かつ萎れ、黄化、腐敗、異臭の発生などを防止することによってその後のシェルフライフを延長できる。
Claims (2)
- ホウレンソウの包装体において、包装体が孔径10〜300μm以下の微細孔を有するフィルムからなり、包装体内の酸素濃度が10〜19%、二酸化炭素濃度が1〜10%であり、包装体の酸素透過量をP(cc/g/day/atm)、保存温度をT(℃)とした場合、
20≦T≦25かつ
17.321 lnP −60.621≦T≦8.125lnP+0.2407(式1)
を満たす温度T(℃)で保存することを特徴とするホウレンソウの保存方法。 - 包装体が表面に酸素透過性を高めるために設けた傷を有するフィルムから成る請求項1記載のホウレンソウの保存方法。
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