JP4066121B2 - グアノシン類及びその中間体の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、抗ウイルス剤、アンチセンス医薬などの原料として使用されるグアノシン類及びその中間体のグリオキサール−グアノシン類の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
グアノシン又は2’−デオキシグアノシンの製造方法としては、化学的合成の収率が極めて低いために、工業的製造法はDNA(デオキシリボ核酸)又はRNA(リボ核酸)の加水分解物からの抽出・単離が中心になっている。しかし、DNAの加水分解物中には目的の2’−デオキシグアノシン以外に2’−デオキシアデノシン、2’−デオキシシチジン、チミジンが含まれており、RNAの加水分解物中には目的のグアノシン以外にアデノシン、シチジン、ウリジンが含まれている。そのため、グアノシン又は2’−デオキシグアノシンのみを採取するためには抽出・分離工程が煩雑で、コスト高となってしまう。
【0003】
一方、ヌクレオシド又はデオキシヌクレオシドと核酸塩基を原料として、ヌクレオシドホスホリラーゼにより塩基交換反応を行わせ、希望するヌクレオシド又はデオキシヌクレオシドを得る方法が報告されている(Hori.N.,Watanabe,M.,Yamazaki,Y.,Mikami,Y.,Agric.Biol.Chem.,53,197〜202(1989))。この方法により、アデノシン及び2’−デオキシアデノシンは容易に調製される(特開平11−46790号公報、プリンヌクレオシド化合物の製造方法)。この酵素的合成反応法により、グアノシン又は2’−デオキシグアノシンを得るためには、まず、グアニンが少なくとも使用する酵素の使用可能なpH範囲で水に可溶でなければならない。一般に、酵素反応が円滑に行われるためには、反応基質の溶解度は少なくとも該酵素のミカエリス定数(Km)以上の濃度であることが望ましいとされている。しかしながら、グアニンは水に数ppmより溶けないために、実際上この酵素的合成法を利用することができなかった。以上のような状況から、グアノシン又は2’−デオキシグアノシンの効率良い製造方法の開発が望まれていた。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
従って、本発明の課題は、グアノシン又は2’−デオキシグアノシン(グアノシン類)を高収率で効率よく製造する方法、並びにその中間体であるグリオキサールグアノシン類を高収率で効率よく製造する方法を提供することである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
そこで本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、
(1)、水に数ppmより溶解しないグアニンをグリオキサールと反応させると
下記式(1)
【化9】
で示されるグリオキサール−グアニン(別称:6,7−ジヒドロ−6,7−ジヒドロキシイミダゾ[1,2−a]プリン−9(3H)−オン)を生成し、本化合物は水に溶けること、
(2)、リボース−1−リン酸または2−デオキシリボース−1−リン酸の何れか1つとグリオキサール−グアニンとに、プリンヌクレオシドホスホリラーゼ(EC2.4.2.1)を含有する微生物の菌体又は該微生物由来の酵素を作用させることにより、あるいは、ウリジン、2’−デオキシウリジンおよびチミジンからなる群より選ばれる何れか1つとグリオキサール−グアニンとに、リン酸イオンの存在下で、プリンヌクレオシドホスホリラーゼ(EC2.4.2.1)およびピリミジンヌクレオシドホスホリラーゼ(EC2.4.2.2)を含有する微生物の菌体又は該微生物由来の酵素を作用させることにより、
下記式(2)
【化10】
(式中、Rは水素原子又はヒドロキシル基を表す。)
で示されるグリオキサール−グアノシン類(グリオキサール−グアノシン[別称:3−(β−D−エリスロペントフラノシル)−6,7−ジヒドロ−6,7−ジヒドロキシイミダゾ[1,2−a]プリン−9(3H)−オン]、又はグリオキサール−2’−デオキシグアノシン[別称:3−(2−デオキシ−β−D−エリスロペントフラノシル)−6,7−ジヒドロ−6,7−ジヒドロキシイミダゾ[1,2−a]プリン−9(3H)−オン])が生成すること、すなわち、グリオキサール−グアニンはプリンヌクレオシドホスホリラーゼの基質となり得ること、
(3)、上記(2)記載のグリオキサール−グアノシン類の製造方法において、基質又は塩基交換反応の際に生成する反応中間体であるリボース−1−リン酸又は2−デオキシリボース−1−リン酸の安定剤として、グリシン、イミノ二酢酸、ニトリロ三酢酸、エチレンジアミン四酢酸(以下、EDTAという)、エチレングリコールビス(β−アミノエチルエーテル)−N,N,N’,N’−四酢酸(以下、EGTAという)及びこれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種以上の化合物を添加するか、あるいは前記化合物をホウ酸またはその塩と組み合わせて添加すると、反応収率が向上すること、
(4)、上記(2)の製造方法に用いる酵素としては、原理的には各種生物由来のヌクレオシドホスホリラーゼで十分であるが、バチルス属、エシェリヒア属又はクレブシエラ属の微生物由来の酵素が適当であること、特に、バチルス・ステアロサーモフィルス JTS 859(FERM BP−6885)由来の耐熱性酵素が好ましいこと、
(5)、上記(2)の方法で得られたグリオキサール−グアノシン類にアルカリを作用させると、容易にグリオキサール部分が遊離して、グアノシン又は2’−デオキシグアノシンのグアノシン類が得られること、
(6)、上記(1)〜(5)の製造工程は1ポット反応が可能であること、
を見いだし、本発明を完成するにいたった。
【0006】
すなわち、本発明は以下に関するものである。
(1) リボース−1−リン酸または2-デオキシリボース−1−リン酸の何れか1つと、
下記式(1)
【化11】
で示されるグリオキサール−グアニンに、プリンヌクレオシドホスホリラーゼを作用させることにより、
下記式(2)
【化12】
(式中、Rは水素原子又はヒドロキシル基を表す。)
で示されるグリオキサール−グアノシン類を生成させることを特徴とするグリオキサール−グアノシン類の製造方法。
【0007】
(2) ウリジン、2’−デオキシウリジンおよびチミジンからなる群より選ばれる何れか1つと、
下記式(1)
【化13】
で示されるグリオキサール−グアニンに、リン酸イオンの存在下で、プリンヌクレオシドホスホリラーゼおよびピリミジンヌクレオシドホスホリラーゼを作用させることにより、
下記式(2)
【化14】
(式中、Rは水素原子又はヒドロキシル基を表す。)
で示されるグリオキサール−グアノシン類を生成させることを特徴とするグリオキサール−グアノシン類の製造方法。
【0008】
(3) リボース−1−リン酸または2-デオキシリボース−1−リン酸の何れか1つと、
下記式(1)
【化15】
で示されるグリオキサール−グアニンに、プリンヌクレオシドホスホリラーゼを作用させることにより、
下記式(2)
【化16】
(式中、Rは水素原子又はヒドロキシル基を表す。)
で示されるグリオキサール−グアノシン類を生成させ、次に該グリオキサール−グアノシン類をアルカリ分解することにより、グアノシン又は2’−デオキシグアノシンのグアノシン類を得ることを特徴とするグアノシン類の製造方法。
【0009】
(4) ウリジン、2’−デオキシウリジンおよびチミジンからなる群より選ばれる何れか1つと、
下記式(1)
【化17】
で示されるグリオキサール−グアニンに、リン酸イオンの存在下で、プリンヌクレオシドホスホリラーゼおよびピリミジンヌクレオシドホスホリラーゼを作用させることにより、
下記式(2)
【化18】
(式中、Rは水素原子又はヒドロキシル基を表す。)
で示されるグリオキサール−グアノシン類を生成させ、次に該グリオキサール−グアノシン類をアルカリ分解することにより、グアノシン又は2’−デオキシグアノシンのグアノシン類を得ることを特徴とするグアノシン類の製造方法。
【0010】
(5) 前記プリンヌクレオシドホスホリラーゼとして、当該酵素を含有する微生物の菌体又は該微生物由来の酵素を使用することを特徴とする(1)に記載のグリオキサール−グアノシン類の製造方法。
(6) 前記プリンヌクレオシドホスホリラーゼおよびピリミジンヌクレオシドホスホリラーゼとして、当該酵素を含有する微生物の菌体又は該微生物由来の酵素を使用することを特徴とする(2)に記載のグリオキサール−グアノシン類の製造方法。
【0011】
(7) 前記プリンヌクレオシドホスホリラーゼとして、当該酵素を含有する微生物の菌体又は該微生物由来の酵素を使用することを特徴とする(3)に記載のグアノシン類の製造方法。
(8) 前記プリンヌクレオシドホスホリラーゼおよびピリミジンヌクレオシドホスホリラーゼとして、当該酵素を含有する微生物の菌体又は該微生物由来の酵素を使用することを特徴とする(4)に記載のグアノシン類の製造方法。
【0012】
(9) 前記微生物が、バチルス属、エシェリヒア属又はクレブシエラ属に属する微生物であることを特徴とする(5)または(6)のグリオキサール−グアノシン類の製造方法。
(10) 前記微生物が、バチルス属、エシェリヒア属又はクレブシエラ属に属する微生物であることを特徴とする(7)または(8)記載のグアノシン類の製造方法。
【0013】
(11) 前記微生物が、バチルス・ステアロサーモフィルス JTS 859(FERM BP−6885)、エシェリヒア・コリ IFO 3301、エシェリヒア・コリ IFO 13168又はクレブシエラ・ニューモニアエ IFO 3321であることを特徴とする(5)、(6)又は(9)記載のグリオキサール−グアノシン類の製造方法。
(12) 前記微生物が、バチルス・ステアロサーモフィルス JTS 859(FERM BP−6885)、エシェリヒア・コリ IFO 3301、エシェリヒア・コリ IFO 13168又はクレブシエラ・ニューモニアエ IFO 3321であることを特徴とする(7)、(8)又は(10)記載のグアノシン類の製造方法。
【0014】
(13) (1)、(2)、(5)、(6)、(9)又は(11)記載のグリオキサール−グアノシン類の製造方法であって、グリシン、イミノ二酢酸、ニトリロ三酢酸、エチレンジアミン四酢酸、エチレングリコールビス(β−アミノエチルエーテル)−N,N,N’,N’−四酢酸及びこれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種以上の化合物を添加するか、あるいは前記化合物をホウ酸もしくはその塩と組み合わせて添加することを特徴とするグリオキサール−グアノシン類の製造方法。
(14) (3)、(4)、(7)、(8)、(10)または(12)記載のグアノシン類の製造方法であって、グリシン、イミノ二酢酸、ニトリロ三酢酸、エチレンジアミン四酢酸、エチレングリコールビス(β−アミノエチルエーテル)−N,N,N’,N’−四酢酸及びこれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種以上の化合物を添加するか、あるいは前記化合物をホウ酸もしくはその塩と組み合わせて添加することを特徴とするグアノシン類の製造方法。
【0015】
(15) 前記製造方法が1ポット反応であることを特徴とする(1)、(2)、(5)、(6)、(9)、(11)又は(13)記載のグリオキサール−グアノシン類の製造方法。
(16) 前記製造方法が1ポット反応であることを特徴とする(3)、(4)、(7)、(8)、(10)、(12)又は(14)記載のグアノシン類の製造方法。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0017】
<原料>
本発明で原料として使用するグリオキサール−グアニン(別称:6,7−ジヒドロ−6,7−ジヒドロキシイミダゾ[1,2−a]プリン−9(3H)−オン)は、グアニンをグリオキサール水溶液に添加し、高温(好ましくは50〜75℃)で約15〜20時間加熱撹拌することにより、高収率で調製することができる。グリオキサール−グアニンの水に対する溶解度は温度とともに上昇する。反応終了後、冷却によりグリオキサール−グアニンは晶析し、ろ過により白色の固体として得られる。
【0018】
しかし、連続的にリボース供与体又は2−デオキシリボース供与体とヌクレオシドホスホリラーゼを添加して、1ポット反応を行う場合には、反応が終了した液をそのまま原料液として使用することも可能である。
【0019】
本発明においてリボース供与体として用いるリボース−1−リン酸、ウリジン、及び2−デオキシリボース供与体として用いる2-デオキシリボース−1−リン酸、2’−デオキシウリジン、チミジンは、例えばシグマ・アルドリッチ ジャパン(株)から市販されている。
【0020】
<酵素反応によるグリオキサール−グアノシン類の合成条件>
リボース供与体又は2−デオキシリボース供与体(以下、リボース類供与体という)とグリオキサール−グアニンをリン酸緩衝液(pH6〜8、好ましくはpH7)に加え、これにプリンヌクレオシドホスホリラーゼ、又はプリンヌクレオシドホスホリラーゼ及びピリミジンヌクレオシドホスホリラーゼを生産する微生物の菌体又は菌体由来酵素を添加して、該酵素の適温で24〜60時間撹拌すると「反応式1及び2」と「反応式3及び4」に例示するような反応が生じ、それぞれグリオキサール−2’−デオキシグアノシン又はグリオキサール−グアノシンが生成する。前半の「反応式1及び3」では酵素としてピリミジンヌクレオシドホスホリラーゼを用い、後半「反応式2及び4」ではプリンヌクレオシドホスホリラーゼを用いる反応が生じる。酵素の適温とは、例えば、バチルス・ステアロサーモフィルス(Bacillus stearothermophilus)JTS 859(FERM BP−6885)由来の酵素の場合、約40〜70℃である。
【0021】
本発明の酵素反応では、プリンヌクレオシドホスホリラーゼ、又はプリンヌクレオシドホスホリラーゼ及びピリミジンヌクレオシドホスホリラーゼを用いるが、リボース類供与体としてピリミジンヌクレオシド(ウリジン、2’−デオキシウリジン、チミジン)を使用する際には、前半の反応である「反応式1及び3」のように、ピリミジンヌクレオシドホスホリラーゼの存在下でリボース−1−リン酸又は2−デオキシリボース−1−リン酸を生成させるためピリミジンヌクレオシドホスホリラーゼを必須とする。一方、リボース類供与体としてリボース−1−リン酸又は2−デオキシリボース−1−リン酸を初めから使用する際には、「反応式1及び3」は不要なのでピリミジンヌクレオシドホスホリラーゼは必要としない。ただし、ピリミジンヌクレオシドホスホリラーゼの存在下でも全体の酵素反応には一向に差し支えない。
【0022】
反応式1〜4において、PYNPはピリミジンヌクレオシドホスホリラーゼを、PUNPはプリンヌクレオシドホスホリラーゼを意味する。
【0023】
(反応式1)
【化19】
【0024】
(反応式2)
【化20】
【0025】
(反応式3)
【化21】
【0026】
(反応式4)
【化22】
【0027】
本発明において、原料のリボース類供与体の初期濃度は5〜1000mM、好ましくは10〜100mMである。グリオキサール−グアニンは一度に多量溶解しないが、初期添加量が全て溶解すると仮定して表記すると、初期濃度は5〜1000mMであり、好ましくは10〜100mMである。リン酸イオンの初期濃度は1〜20mMあれば十分である。
【0028】
<デオキシリボース−1−リン酸等の安定剤>
本発明においては、原料としてヌクレオシド(ウリジン、2’−デオキシウリジン、チミジン)を用いた場合でも、上式に示したように反応中間体としてリボース−1−リン酸又は2−デオキシリボース−1−リン酸を経由する。これらリン酸化合物は本来不安定であり、放置すると経時的にリボース又は2−デオキシリボースとリン酸イオンに分解するが、反応系中にホスファターゼが存在すると、分解はさらに加速される。中間体の分解生成物であるリボース又は2−デオキシリボースはヌクレオシドホスホリラーゼの基質とならないために、グリオキサール−グアニンの生成効率は減少する。そこで、生成効率を上げるために、リボース−1−リン酸又は2−デオキシリボース−1−リン酸を安定化し、ホスファターゼ活性を阻害する物質を探索した。
【0029】
その結果、グリシン、イミノ二酢酸、ニトリロ三酢酸、EDTA、EGTA及びこれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種以上の化合物を添加すること、より好ましくは前記化合物とホウ酸又はその塩とを組合せて添加することが有効であることを見いだした。特に、ホウ酸又はその塩とEDTA又はその塩の組合せが著しい効果を示す。添加濃度としては、好ましくは、ホウ酸又はその塩 20〜200mM、前記化合物又はその塩(グリシン、イミノ二酢酸、ニトリロ三酢酸、EDTA、EGTA) 2〜10mMである。
【0030】
<グリオキサール−グアノシン類からのグアノシン類の生成>
グリオキサール−グアノシン類はアルカリ性水溶液の中で、グリオキサール部分を分解放出し、グアノシン類が生成する。アルカリ性水溶液は、例えば0.05〜0.5Nの水酸化ナトリウム水溶液を使用することができ、好ましくは0.1〜0.25Nの水酸化ナトリウム水溶液が使用される。本分解反応はpHと温度の上昇により加速されるが、リボース類との結合が切断されない穏和な条件を選択することが要件となる。すなわち、グリオキサール−グアノシン類はpH4〜8で比較的安定であるが、pH9以上で分解しグリオキサール部分を放出する。結論として、60〜80℃でpH9〜11の範囲で約1〜5時間分解し、グアノシン類を得るのが好ましい。
【0031】
<グアノシン類の分離・精製>
なお、反応液からの生成物の採取は、限外ろ過、イオン交換分離、吸着クロマトグラフィー、晶析などにより行うことができる。反応生成物の定量は、UV検出器を用いてHPLC法により行うことができる。
【0032】
<微生物及び酵素>
本発明に用いられるプリンヌクレオシドホスホリラーゼ(EC2.4.2.1)及びピリミジンヌクレオシドホスホリラーゼ(EC2.4.2.2)は、原理的にはいかなる起源のものでもかまわない。特に、後述する本発明の微生物により産生される酵素が好ましい。本発明で使用される微生物としては、上記酵素を著量生産する微生物であれば特に限定されない。
【0033】
しかし、上記反応式に見られるように、本反応は基質としてヌクレオシド又は2’−デオキシヌクレオシドを用い必ずリン酸化合物を反応中間体として生じるので、ヌクレオシダーゼ及び/又はホスファターゼ活性の強い菌株は利用することができない。
【0034】
これらの条件を満たす微生物としては、バチルス属、エシェリヒア属又はクレブシエラ属に属する微生物である。さらに具体的菌株としては、バチルス・ステアロサーモフィルス(Bacillus stearothermophilus)JTS 859(FERM BP−6885)、エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)IFO 3301、エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)IFO 13168、クレブシエラ・ニューモニアエ(Klebsiella pneumoniae) IFO 3321である。
【0035】
本反応は、原料の溶解度と溶解速度が大きい方が収率と反応速度は高くなるので、高温が有利である。従って、好熱性菌、耐熱性酵素の使用がより好ましい。上記菌株の中では、バチルス・ステアロサーモフィルス(Bacillus stearothermophilus) JTS 859が最も好ましい菌である。
【0036】
IFOは財団法人・発酵研究所(Institute for Fermentation、Osaka(IFO)、2−17−85,zyusohonmachi,yodogawa−ku,Osaka−shi,532−0024 Japan)の保存菌株であることを示す。IFO菌株は誰でもが入手可能である。バチルス・ステアロサーモフィルス(Bacillus stearothermophilus)JTS 859は通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所特許微生物寄託センターに国際寄託され、その寄託番号はFERM BP−6885である。
【0037】
これらの微生物は通常の細菌用培地に生育するが、トリプトン、酵母エキス、グルコースなどを添加するとさらによく生育し該酵素を生産する。さらに、培地にイノシンなどの核酸化合物を添加することは酵素活性を高めるうえで有効である。培養した菌体はそのまま粗酵素として利用可能であるが、常法(超音波又はミルによる破砕、遠心分離、硫安分離、膜分離など)により粗酵素を得てこれを用いることもできる。
【0038】
寄託菌株の菌学的性質を、バージェイス・マニュアル・オブ・デターミナティブ・バクテリオロジー第2巻(1984年)に準じて検討した結果は、次のようである。なお、実験は主として長谷川武治編著、改訂版「微生物の分類と同定」(学会出版センター、1985年)記載の方法により行った。
【0039】
バチルス・ステアロサーモフィルス(Bacillus stearothermophilus)JTS 859(FERM BP−6885)
1.形態的性質
(1)細胞の形及び大きさ:桿菌、5.4〜6.5μm×0.7〜0.9μm
(2)胞子:楕円形の胞子形成、1細胞に1個、位置は末端
2.培養的性質
(1)肉汁液体培養:62℃、2日間培養
(2)肉汁寒天平板培養:白色わずかに黄色を含む。光沢あり、不透明、盛り上がらない。コロニーの形は円形波状。
【0040】
(3)肉汁寒天斜面培養:白色わずかに黄色を含む。光沢あり、不透明、盛り上がらない。生育は中程度。
【0041】
以上の性質に基づき、本菌株はバチルス・ステアロサーモフィルス(Bacillus stearothermophilus)と同定される。
【0042】
<1ポット反応>
本発明のグリオキサール−グアノシン類の製造方法、およびグアノシン類の製造方法は、何れも1ポット反応により行うことができる。具体的には、グアノシンとグリオキサール水溶液を反応させて出発反応液として、この反応液に、リボース類供与体(および好ましく安定剤)、必要に応じてリン酸イオン、および反応に必要な酵素液を加えて反応させ、1ポット反応でグリオキサール−グアノシン類を製造することができる。更にこの反応生成物をアルカリ分解することにより、1ポット反応でグアノシン類を製造することもできる。
【0043】
【実施例】
以下、製造例、実験例及び実施例により本発明を更に詳しく説明する。
【0044】
製造例1 グリオキサール−グアニンの合成
グアニン(東京化成工業(株)製)22.65g、40%グリオキサール水溶液(東京化成工業(株)製)21.75gを950mLの純水に加えて、70℃で18時間、加熱・撹拌した。次に、4℃まで冷却した後、ろ過して得られた白色固体を乾燥し、グリオキサール−グアニン30.7gを得た。核磁気共鳴スペクトルの測定結果は次のとおりであった。
【0045】
1H−NMR(DMSO−d6、200MHz)δ8.52(bs、1H)、7.70(bs、1H)、7.16(d、1H)、6.39(d、1H)、5.46(d、1H)、4.83(d、1H)。
【0046】
製造例2 ヌクレオシドホスホリラーゼを含む菌体懸濁液の調製
プリンヌクレオシドホスホリラーゼ(以下、PUNPという)とピリミジンヌクレオシドホスホリラーゼ(以下、PYNPという)の生産菌であるバチルス・ステアロサーモフィルス(Bacillus stearothermophilus)JTS 859(FERM BP−6885)を、次の手順で培養した。
【0047】
菌の培養には、バクトトリプトン10g、酵母エキス5g、グルコース3g、食塩3g、イノシン1g、及び水1LよりなるpH6.2の培地を用いた。本培地100mLを入れた500mL容三角フラスコに、該菌のスラントより1白金耳接種し、65℃、200rpmで回転振盪しつつ16時間前培養を行った。同一培地1.2Lを入れた2L容培養槽に、前培養液60mLを接種し、撹拌翼(直径42mm、上下各2枚)を650rpmで回転させつつ、通気量1vvm、培養温度65℃、pH6.5〜7.0(シュタット)で6時間培養した。培養終了後、遠心分離(10,000G、4℃、15分)により菌体を得て、全菌体を10mMリン酸カリウム溶液(pH7)40mLに懸濁したものを、PUNPとPYNPを含む酵素液(以下、酵素液という)とした。
【0048】
1分間に1μmolの基質を生成物に転換する酵素活性の量を1Uと定義し、60℃で常法により酵素活性を測定した。1mLの酵素液は、PUNP活性が66U、PYNP活性が166Uであった。
【0049】
実験例1 グアニンとグリオキサール−グアニンの溶解度
各化合物の過剰量を水に懸濁させ、各温度で1時間撹拌した後、静置し、液層をUV検出器を装着したHPLCで下記の条件で分析した。結果は表1のとおりであった。
【0050】
HPLC分析法の条件:
検出器:UV(260nm)
カラム:Superiorex ODS(資生堂製)
溶離液:0.1Mリン酸二水素アンモニウム溶液:メタノール=97:3(v/v)
流速:1mL/min
サンプル:20μL。
【0051】
【表1】
【0052】
実施例1 ヌクレオシドホスホリラーゼによるグリオキサール−2’−デオキシグアノシンの合成
30mM2’−デオキシウリジン、30mMグリオキサール−グアニン、100mMホウ酸、4mMエチレンジアミン四酢酸二ナトリウムを含む5mMリン酸緩衝液(pH7)99mLに、製造例2で得た酵素液1mLを加え、全量100mLとし、50℃で48時間反応させた。60℃でろ過後、4℃に冷却し、ろ過により白色結晶(収率80%)を得て、スペクトロメトリーを行った。結果は以下のようであり、文献値(Chung、F.,Hecht,S.S.,Carcinogenesis,6,1671−1673(1985))に照らして、グリオキサール−2’−デオキシグアノシンであることが確認された。
【0053】
UV(pH7)、λmax(nm)248,272(shoulder)
1H−NMR(DMSO−d6+D2O、200MHz)、δ7.95(s、1H、2−H)、6.12(t、1H、1’−H)、5.50(s、1H、7−H)、4.90(s、1H、6−H)、4.35(bs、1H、3’−H)、3.83(bs、1H、4’−H)、3.54(m、2H、5’−H)、2.52(m、1H、2’−H)、2.28(m、2H、2’−H)。
【0054】
実施例2 グリオキサール−2’−デオキシグアノシンから2’−デオキシグアノシンの合成
上記実施例1で得られたグリオキサール−2’−デオキシグアノシン0.1gを、0.2N水酸化ナトリウム溶液に加え、70℃で2時間撹拌した。中和後、実験例1の条件でHPLC法により分析し、定量的に2’−デオキシグアノシンが得られることを確認した。更に、クロマトグラフィーと晶析により白色結晶を得て、結晶が2’−デオキシグアノシンであることを各種スペクトルにより確認した。
【0055】
実施例3 グリオキサール−2’−デオキシグアノシンの生成における安定剤の効果
20mM2’−デオキシウリジン、20mMグリオキサール−グアニン、表2に示す安定剤(表中における*は4mM、その他は100mM濃度を表す)、製造例2で調製した酵素液1mLを含む5mMリン酸緩衝液(pH7)100mLを、50℃で38時間反応させた。反応液中に含まれるグリオキサール−2’−デオキシグアノシンを、アルカリ分解して定量的に2’−デオキシグアノシンとし、濃度を定量した。なお、安定剤の代わりにトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン塩酸(以下、トリスという)100mMを加えた以外は上記と同様に調製した液をトリス(対照)とした。その結果、ホウ酸とEDTA類似の錯体形成化合物との組合せが、反応収率の向上に有効であることが分かった。
【0056】
【表2】
【0057】
実施例4 各菌株由来酵素によるグリオキサール−2’−デオキシグアノシンの合成
3個の2L容三角フラスコに製造例2で用いたのと同じ培地500mLをそれぞれ入れ、エシェリヒア・コリ IFO 3301、エシェリヒア・コリ IFO 13168又はクレブシエラ・ニュウモニアエ IFO 3321の保存スラントより1白金耳をそれぞれ接種した。37℃、200rpmで16時間振盪培養し、遠心分離(10,000G、4℃、15分)により菌体を得て、10mLの10mMリン酸カリウム緩衝液(pH7)に懸濁したものを酵素液として使用した。
【0058】
これらの酵素液、及び製造例2で得られたバチルス・ステアロサーモフィルスJTS 859酵素液を用いて、以下の条件で2’−デオキシウリジンとグリオキサール−グアニンからグリオキサール−2’−デオキシグアノシンを合成した。すなわち、30mM2’−デオキシウリジン、30mMグリオキサール−グアニン、100mMホウ酸、4mMエチレンジアミン四酢酸二ナトリウムを含む5mMリン酸緩衝液(pH7)98mLに、各酵素液2mL(培養液100mL分の湿菌体)を加え、各反応温度で48時間反応させた。結果を表3に示す。
【0059】
【表3】
【0060】
実施例5 種々のリボース類供与体を用いたグリオキサール−グアノシン類の合成
20mMの表4に示す各種リボース類供与体(ただし、表中の*は10mMである。)、20mMグリオキサール−グアニン、100mMホウ酸、4mMエチレンジアミン四酢酸二ナトリウムを含む5mMリン酸緩衝液(pH7)に、製造例2で得た酵素液0.25mLを加え全量を10mLにし、50℃で48時間反応させた。結果は表4のようであった。
【0061】
【表4】
【0062】
実施例6 バチルス・ステアロサーモフィルス JTS 859由来酵素による製造における基質濃度の効果
基質塩基として表5に示す各濃度のグアニン又はグリオキサール−グアニン、リボース類供与体として各基質塩基濃度と同濃度の2’−デオキシウリジン、100mMホウ酸、4mMエチレンジアミン四酢酸ナトリウムを含む5mMリン酸緩衝液(pH7)99mLに、製造例2で得た酵素液1mLを加え、50℃で48時間反応させた。その結果を表5に示す。なお、グリオキサール−グアニンを基質塩基としたときは、生成したグリオキサール−2’−デオキシグアノシンをアルカリ分解し、2’−デオキシグアノシンを得て、これを定量した。また、表中、グアニン濃度が50mM以上の場合は実施しなかった。
【0063】
【表5】
【0064】
実施例7 1ポット反応による合成
グアノシン0.45g、40%グリオキサール水溶液0.44gを10mLの水に加えて70℃で18時間、撹拌した。次にこの反応液に各物質と水を加え、最終的に30mM2’−デオキシウリジン、100mMホウ酸、4mMエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム、5mMリン酸カリウム(pH7)を含む99mLの水溶液とした。これに製造例2で得た酵素液1mLを加え、全量100mLとし、50℃で48時間反応させた。反応液中に含まれるグリオキサール−2’−デオキシグアノシンをアルカリ分解して2’−デオキシグアノシンとし、濃度をHPLCで測定した結果、収率は80%であった。
【0065】
実施例8 グリオキサール−グアノシンの合成
50mMウリジン、50mMグリオキサール−グアニン、100mMホウ酸、4mMエチレンジアミン四酢酸二ナトリウムを含む5mMリン酸緩衝液(pH7)99mLに、製造例2で得た酵素液1mLを加え、全量100mLとし、50℃で48時間反応させた。熱時ろ過後、4℃に冷却し、ろ過により白色結晶(収率72%)を得て、スペクトロメトリーを行った。結果は以下のようであり、実施例1のグリオキサール−2’−デオキシグアノシンのスペクトルと比較してグリオキサール−グアノシンであることが確認された。
【0066】
1H−NMR(DMSO−d6、200MHz)、δ8.85(s、1H、5−H)、8.00(s、1H、2−H)、7.27(d、1H、7−OH)、6.50(d、1H、6−OH)、5.71(d、1H、1’−H)、5.49(d、1H、7−H)、5.44(d、1H、3’−OH)、5.18(d、1H、2’−OH)、5.06(s、1H、5’−OH)、4.88(d、1H、6−H)、4.41(m、1H、2’−H)、4.10(d、1H、3’−H)、3.90(d、1H、4’−H)、3.57(m、2H、5’−H)
また、本化合物から実施例2と同様の手順によりグアノシンが得られ、このことによっても本化合物がグリオキサール−グアノシンであることが確認された。
【0067】
【発明の効果】
本発明によれば、リボース類供与体とグリオキサール−グアニンから微生物の酵素反応により生成したグリオキサール−グアノシン類をアルカリ分解することにより、グアノシン又は2’−デオキシグアノシンのグアノシン類を高収率で効率よく製造することができる。
Claims (16)
- 前記プリンヌクレオシドホスホリラーゼとして、当該酵素を含有する微生物の菌体又は該微生物由来の酵素を使用することを特徴とする請求項1に記載のグリオキサール−グアノシン類の製造方法。
- 前記プリンヌクレオシドホスホリラーゼおよびピリミジンヌクレオシドホスホリラーゼとして、当該酵素を含有する微生物の菌体又は該微生物由来の酵素を使用することを特徴とする請求項2に記載のグリオキサール−グアノシン類の製造方法。
- 前記プリンヌクレオシドホスホリラーゼとして、当該酵素を含有する微生物の菌体又は該微生物由来の酵素を使用することを特徴とする請求項3に記載のグアノシン類の製造方法。
- 前記プリンヌクレオシドホスホリラーゼおよびピリミジンヌクレオシドホスホリラーゼとして、当該酵素を含有する微生物の菌体又は該微生物由来の酵素を使用することを特徴とする請求項4に記載のグアノシン類の製造方法。
- 前記微生物が、バチルス属、エシェリヒア属又はクレブシエラ属に属する微生物であることを特徴とする請求項5または6記載のグリオキサール−グアノシン類の製造方法。
- 前記微生物が、バチルス属、エシェリヒア属又はクレブシエラ属に属する微生物であることを特徴とする請求項7または8記載のグアノシン類の製造方法。
- 前記微生物が、バチルス・ステアロサーモフィルス JTS 859(FERM BP−6885)、エシェリヒア・コリ IFO 3301、エシェリヒア・コリ IFO 13168又はクレブシエラ・ニューモニアエ IFO 3321であることを特徴とする請求項5、6又は9記載のグリオキサール−グアノシン類の製造方法。
- 前記微生物が、バチルス・ステアロサーモフィルス JTS 859(FERM BP−6885)、エシェリヒア・コリ IFO 3301、エシェリヒア・コリ IFO 13168又はクレブシエラ・ニューモニアエ IFO 3321であることを特徴とする請求項7、8又は10記載のグアノシン類の製造方法。
- 請求項1、2、5、6、9又は11記載のグリオキサール−グアノシン類の製造方法であって、グリシン、イミノ二酢酸、ニトリロ三酢酸、エチレンジアミン四酢酸、エチレングリコールビス(β−アミノエチルエーテル)−N,N,N’,N’−四酢酸及びこれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種以上の化合物を添加するか、あるいは前記化合物をホウ酸もしくはその塩と組み合わせて添加することを特徴とするグリオキサール−グアノシン類の製造方法。
- 請求項3、4、7、8、10または12記載のグアノシン類の製造方法であって、グリシン、イミノ二酢酸、ニトリロ三酢酸、エチレンジアミン四酢酸、エチレングリコールビス(β−アミノエチルエーテル)−N,N,N’,N’−四酢酸及びこれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種以上の化合物を添加するか、あるいは前記化合物をホウ酸もしくはその塩と組み合わせて添加することを特徴とするグアノシン類の製造方法。
- 前記製造方法が1ポット反応であることを特徴とする請求項1、2、5、6、9、11又は13記載のグリオキサール−グアノシン類の製造方法。
- 前記製造方法が1ポット反応であることを特徴とする請求項3、4、7、8、10、12又は14記載のグアノシン類の製造方法。
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