JP4032220B2 - 脂環式テトラカルボン酸化合物及びその製造法 - Google Patents
脂環式テトラカルボン酸化合物及びその製造法 Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、脂環式テトラカルボン酸化合物およびその製造法に関する。更に詳しくは、(置換)トリシクロ[4.2.1.02,5]ノナン骨格または(置換)トリシクロ[4.2.1.02,5]ノネン骨格を有するテトラカルボン酸化合物およびその製造法に関する。
【0002】
本発明のテトラカルボン酸化合物の中で、式[12]
【0003】
【化13】
【0004】
(R2は、水素原子又は炭素数1〜10のアルキル基を表す。)
で表される(置換)トリシクロ[4.2.1.02,5]ノナン−3,4,7,8−テトラカルボン酸−3,4:7,8−二無水物(以下、TCNDA化合物と呼ぶ)より得られるポリイミドは、優れた透明性、耐熱性、疎水性及び電気特性等を有し、液晶配向膜に代表される液晶デバイス用光学材料分野等で重要である。
【0005】
【従来の技術】
従来、代表的なTCNDA化合物の合成法としては、R2が水素原子の場合に、無水マレイン酸と式[13]
【0006】
【化14】
【0007】
で表されるビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2,3−ジカルボン酸無水物(以下、BHCAと略す。)を光反応によって得る方法[米国特許3,423,431号]が知られている。
【0008】
しかし、大量の光増感剤のアセトフェノンを存在させてもTCNDAの光効率が0.15mol%/(kW・h)と極めて低い結果になっている。従って、工業的には、生産性の低いコスト高の方法で実用的ではなかった。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
前記無水マレイン酸とBHCAの光付加反応とは異なる触媒反応及び熱反応によって、工業的に生産性の高いTCNDA化合物及びその中間体並びにそれらの製造法の提供を課題とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決するため、鋭意研究を行い本発明を完成した。
即ち、本発明は、テトラカルボン酸化合物として、以下の(1)〜(5)の化合物に関する。
(1) 式[1]
【0011】
【化15】
【0012】
(R1は、炭素数1〜10のアルキル基を表し、R2は、水素原子又は炭素数1〜10のアルキル基を表し、実線と破線の二重線は、単結合又は二重結合を表す。)
で表される(置換)トリシクロ[4.2.1.02,5]ノナン−3,4−ビス(アルコキシカルボニル)−7,8−ジカルボン酸無水物、及び(置換)トリシクロ[4.2.1.02,5]ノナ−3−エン−3,4−ビス(アルコキシカルボニル)−7,8−ジカルボン酸無水物。
(2) 式[2]
【0013】
【化16】
【0014】
(R1は、炭素数1〜10のアルキル基を表し、R2は、水素原子又は炭素数1〜10のアルキル基を表し、実線と破線の二重線は、単結合又は二重結合を表す。)
で表される(置換)トリシクロ[4.2.1.02,5]ノナン−3,4−ビス(アルコキシカルボニル)−7,8−ジカルボン酸、及び(置換)トリシクロ[4.2.1.02,5]ノナ−3−エン−3,4−ビス(アルコキシカルボニル)−7,8−ジカルボン酸。
(3) 式[3]
【0015】
【化17】
【0016】
(R1及びR3は、炭素数1〜10のアルキル基を表し、R2は、水素原子又は炭素数1〜10のアルキル基を表し、実線と破線の二重線は、単結合又は二重結合を表す。)
で表される(置換)トリシクロ[4.2.1.02,5]ノナン−3,4,7,8−テトラカルボン酸テトラアルキル、及び(置換)トリシクロ[4.2.1.02,5]ノナ−3−エン−3,4,7,8−テトラカルボン酸テトラアルキルに関する。
(4) 式[4]
【0017】
【化18】
【0018】
(R2は、水素原子又は炭素数1〜10のアルキル基を表し、実線と破線の二重線は、単結合又は二重結合を表す。)
で表される(置換)トリシクロ[4.2.1.02,5]ノナン−3,4,7,8−テトラカルボン酸、及び(置換)トリシクロ[4.2.1.02,5]ノナ−3−エン−3,4,7,8−テトラカルボン酸。
(5) 式[5]
【0019】
【化19】
【0020】
(R4は、炭素数1〜10のアルキル基を表す。)
で表される(置換)トリシクロ[4.2.1.02,5]ノナン−3,4,7,8−テトラカルボン酸−3,4:7,8−二無水物。
【0021】
また、本発明は以下の(6)〜(8)の製造法に関する。
(6) 式[6]
【0022】
【化20】
【0023】
(R2は、水素原子又は炭素数1〜10のアルキル基を表す。)
で表される(置換)ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2,3−ジカルボン酸無水物と式[7]
【0024】
【化21】
【0025】
(R1は、炭素数1〜10のアルキル基を表す。)
で表されるアセチレンジカルボン酸ジアルキル化合物をルテニウム触媒の存在下で反応させることを特徴とする式[8]
【0026】
【化22】
【0027】
(R1及びR2は、前記と同じ意味を表す。)
で表される(置換)トリシクロ[4.2.1.02,5]ノナ−3−エン−3,4−ビス(アルコキシカルボニル)−7,8−ジカルボン酸無水物の製造法。
(7) 前記の式[8]
で表される(置換)トリシクロ[4.2.1.02,5]ノナ−3−エン−3,4−ビス(アルコキシカルボニル)−7,8−ジカルボン酸無水物を水和し、式[9]
【0028】
【化23】
【0029】
(R1、R2は、前記と同じ意味を表す。)
で表される(置換)トリシクロ[4.2.1.02,5]ノナ−3−エン−3,4−ビス(アルコキシカルボニル)−7,8−ジカルボン酸を製造し、続いてこれを還元することを特徴とする式[10]
【0030】
【化24】
【0031】
(R1、R2は、前記と同じ意味を表す。)
で表される(置換)トリシクロ[4.2.1.02,5]ノナン−3,4−ビス(アルコキシカルボニル)−7,8−ジカルボン酸の製造法。
(8) 前記の式[10]で表される(置換)トリシクロ[4.2.1.02,5]ノナン−3,4−ビス(アルコキシカルボニル)−7,8−ジカルボン酸を加水分解によって、式[11]
【0032】
【化25】
【0033】
(R2は、前記と同じ意味を表す。)
で表される(置換)トリシクロ[4.2.1.02,5]ノナン−3,4,7,8−テトラカルボン酸を製造し、続いてこれを脱水閉環することを特徴とする式[12]
【0034】
【化26】
【0035】
(R2は、前記と同じ意味を表す。)
で表される(置換)トリシクロ[4.2.1.02,5]ノナン−3,4,7,8−テトラカルボン酸−3,4:7,8−二無水物の製造法。
【0036】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0037】
【発明の実施の形態】
本発明のTCNDA化合物の製造法は、下記の反応スキームで表される。
【0038】
【化27】
【0039】
(式中、R1及びR2は、前記と同じ意味を表す。)
即ち、式[6]の(置換)ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2,3−ジカルボン酸無水物(BHCA化合物と略す)と式[7]のアセチレンジカルボン酸ジアルキル化合物(DMA化合物と略す)をルテニウム触媒の存在下で反応させることにより式[8]の(置換)トリシクロ[4.2.1.02,5]ノナ−3−エン−3,4−ビス(アルコキシカルボニル)−7,8−ジカルボン酸無水物(TNAA化合物と略す)を製造し、これを水和し式[9]の(置換)トリシクロ[4.2.1.02,5]ノナ−3−エン−3,4−ビス(アルコキシカルボニル)−7,8−ジカルボン酸(TNEAC化合物と略す)とした後、還元により式[10]の(置換)トリシクロ[4.2.1.02,5]ノナン−3,4−ビス(アルコキシカルボニル)−7,8−ジカルボン酸(TNAC化合物と略す)とする。更にTNAC化合物を加水分解し式[11]の(置換)トリシクロ[4.2.1.02,5]ノナン−3,4,7,8−テトラカルボン酸(TNTC化合物と略す)を得た後、脱水閉環することを特徴とする式[12]のTCNDA化合物の製造法に関する。以下、第1工程から順に説明する。
【0040】
先ず原料であるBHCA化合物としては、ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2,3−ジカルボン酸無水物、メチルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2,3−ジカルボン酸無水物、エチルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2,3−ジカルボン酸無水物、n−プロピルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2,3−ジカルボン酸無水物、i−プロピルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2,3−ジカルボン酸無水物、n−ブチルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2,3−ジカルボン酸無水物、i−ブチルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2,3−ジカルボン酸無水物、t−ブチルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2,3−ジカルボン酸無水物、n−オクチルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2,3−ジカルボン酸無水物、n−デシルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2,3−ジカルボン酸無水物等を挙げることができる。
【0041】
もう一方の原料であるDMA化合物としては、種々の化合物が使用できる。例えば、具体的には、ジメチルアセチレンジカルボキシレート、ジエチルアセチレンジカルボキシレート、ジプロピルアセチレンジカルボキシレート、ジブチルアセチレンジカルボキシレート、ジペンチルアセチレンジカルボキシレート、ジヘキシルアセチレンジカルボキシレート、ジシクロペンチルアセチレンジカルボキシレート及びジシクロヘキシルアセチレンジカルボキシレート等が挙げられる。
【0042】
触媒として用いる周期律表第8族金属としては、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、白金、鉄、ニッケル及びコバルト等である。特に好ましいのはルテニウムである。触媒の形態としては、金属錯体、金属塩、金属単身、担持金属及び金属酸化物等が使用できる。
【0043】
金属錯体としては、ヒドリドカルボニルトリス(トリフェニルホスフィン)金属、ジヒドリドテトラキス(トリフェニルホスフィン)金属、ジヒドリドカルボニルトリス(トリフェニルホスフィン)金属、ハロゲノヒドリドカルボニルトリス(トリフェニルホスフィン)金属、ジハロゲノトリス(トリフェニルホスフィン)金属、ジハロゲノテトラキス(トリフェニルホスフィン)金属、ジハロゲノビスベンゾニトリル金属、トリス(アセチルアセトナト)金属、ジハロゲノシクロジエン金属、ホルマトジカルボニル金属、ドデカカルボニル三金属、カルボニルビス(トリフェニルホスフィン)金属及びテトラキストリフェニルホスフィン金属等が使用できる。
【0044】
金属塩としては、塩酸、硫酸、硝酸及び燐酸等の鉱酸塩、蟻酸、酢酸及びプロピオン酸等の有機酸塩が挙げられる。担持金属としては、炭素、アルミナ及び珪藻土等の担体に担持させた金属が使用できる。
【0045】
更に、具体的にはジヒドリドテトラキス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム、ジヒドリドカルボニルトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム、クロロヒドリドカルボニルトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム、ジクロロトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム、ジブロモトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム、ジヨウドトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム、ジクロロテトラキス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム、トリス(アセチルアセトナト)ルテニウム、ジクロロ(η−1,5−シクロオクタジエン)ルテニウム、ホルマトジカルボニルルテニウム及びドデカカルボニル三ルテニウム、ヒドリドカルボニルトリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム、ジクロロビス(ベンゾニトリル)パラジウム、カルボニルビス(トリフェニルホスフィン)ニッケル、テトラキストリフェニルホスフィンパラジウム、三塩化ルテニウム、三臭化ルテニウム、三沃化ルテニウム、ルテニウム/活性炭、ルテニウム/アルミナ、パラジウム/活性炭、ルテニウム黒及び酸化ルテニウム等が挙げられる。
【0046】
これらの中で特に好ましいものは、空気中でも安定で経済的な、ジクロロトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム、ジブロモトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム、ジヨウドトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム、ジクロロテトラキス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム、ジブロモテトラキス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム及びジヨウドテトラキス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム等と、実用的にはハロゲン化ルテニウムで特に安価な三塩化ルテニウム及び三臭化ルテニウム等である。
【0047】
その使用量は、原料のBHCA化合物に対し0.1〜30モル%、特には0.5〜20モル%が好ましい。三塩化ルテニウム及び三臭化ルテニウムは、トリフェニルホスフィン存在下で使用することもできる。その際のトリフェニルホスフィンの添加量は、トリハロゲン化ルテニウムに対して1〜10モル当量が好ましく、特には3〜6モル当量が好ましい。
【0048】
本反応では溶媒を使用しなくとも、反応は進行するが、使用する事もできる。溶媒としては例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン及びキュメン等の芳香族炭化水素類、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)及びN−メチルピロリドン(NMP)等のアミド類、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、12−クラウン−4−エーテル、15−クラウン−5−エーテル、18−クラウン−6−エーテル、ジベンゾ−18−クラウン−6−エーテル及び1,2−ジメトキシエタン等のエーテル類等が特に好ましいが、他の溶媒例えばヘキサンやヘプタン等の脂肪族炭化水素類でも進行する。更にこれらの溶媒を組み合わせて使用することもできる。
【0049】
その使用量は、溶媒量が多くなると反応進行が遅くなるが、無溶媒では、反応進行に伴い高粘稠になることから、BHCA化合物に対し1〜20質量倍、特には1〜5質量倍が経済的にも好ましい。また、本反応の原料であるBHCA化合物やDMA化合物の反応中の重合を抑制するために重合禁止剤を添加することもできる。
【0050】
重合禁止剤としては例えば、ジフェニルピクリルヒドラジン、トリ−p−ニトロフェニルメチル、N−(3−N−オキシアニリノ−1,3−ジメチルブチリデン)アニリンオキシド、p−ベンゾキノン、p−t−ブチルカテコール、ニトロベンゼン、ピクリン酸、ジチオベンゾイルジスルフィド、ヒドロキノン、p−メトキシフェノール、2,4−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール及び塩化銅(II)等が挙げられる。重合禁止剤の添加量は、BHCA化合物やDMA化合物に対して0.01〜1モル%が好ましい。
【0051】
反応温度は、高温ほど反応が速いが重合等の副反応を伴うので、通常50〜180℃の範囲、好ましくは60〜150℃の範囲である。
【0052】
反応終了後は、濃縮により溶媒を留去してからその残渣をそのままシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製するか、酢酸エチルとn−ヘプタンの混合溶媒系から再結晶させることにより、目的のTNAA化合物が得られる。
【0053】
第2工程のTNAA化合物からTNEAC化合物への水和反応は、水の存在下で加温するだけで容易に目的物が得られる。その際、TNAA化合物と水を溶解する1,4−ジオキサン、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)及びN−メチルピロリドン(NMP)等の溶媒を共存させることもできる。
【0054】
第3工程のTNEAC化合物からTNAC化合物への還元反応は、二重結合を単結合に変換する種々の一般的還元法が適用できる。
【0055】
例えば、(1)金属および金属塩による還元(2)金属水素化物による還元(3)金属水素錯化合物による還元(4)ジボランおよび置換ボランによる還元(5)ヒドラジンによる還元(6)ジイミド還元(7)リン化合物による還元(8)電解還元(9)接触還元等を挙げることができる。
【0056】
これらの中で、最も実用的方法は接触還元方法である。本発明で採用できる接触還元法は以下の通りである。触媒金属としては、周期律表第8族のパラジウム、ルテニウム、ロジウム、白金、ニッケル、コバルト及び鉄、又は第1族の銅等が使用できる。これらの金属は単独で、又は、他の元素と複合させた多元系で使用される。それらの使用形態は、各金属単身、ラネー型触媒、ケイソウ土、アルミナ、ゼオライト、炭素及びその他の担体に担持させた触媒及び錯体触媒等が挙げられる。
【0057】
具体的には、パラジウム/炭素、ルテニウム/炭素、ロジウム/炭素、白金/炭素、パラジウム/アルミナ、ルテニウム/アルミナ、ロジウム/アルミナ、白金/アルミナ、還元ニッケル、還元コバルト、ラネーニッケル、ラネーコバルト、ラネー銅、酸化銅、銅クロマト、クロロトリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム、クロロヒドリドトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム、ジクロロトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム及びヒドリドカルボニルトリス(トリフェニルホスフィン)イリジウム等が挙げられる。これらの中で特に好ましいものはパラジウム/炭素及びルテニウム/炭素等である。
【0058】
触媒の使用量は、5%金属担持触媒として基質に対し0.1〜30質量%が、特には、0.5〜20質量%が好ましい。溶媒は、メタノール、エタノール及びプロパノール等に代表されるアルコール類、ジオキサン、テトラヒドロフラン及びジメトキシエタン等に代表されるエーテル類及び酢酸エチル及び酢酸プロピル等に代表されるエステル類等が使用できる。
【0059】
その使用量は、原料に対し1〜50質量倍の範囲が、特には3〜10質量倍の範囲が好ましい。水素圧は常圧から10MPa(100kg/cm2)の範囲が、特には常圧から3MPa(30kg/cm2)の範囲が好ましい。反応温度は、0〜150℃の範囲が、特には10〜100℃の範囲が好ましい。
【0060】
反応は、水素吸収量によって追跡することができ、理論水素量の吸収後サンプリングしガスクロマトグラフィーで分析し確認することができる。反応後は、濾過により触媒を除いた後、濃縮後、再結晶又は、カラムクロマトグラフィー法で精製することができる。
【0061】
次に第4工程のTNAC化合物よりTNTC化合物への加水分解反応条件は、通常のアルキルエステルを加水分解してカルボン酸にする方法が適用できる。塩基としては、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の水酸化物を用いるのが経済的に好ましい。具体的には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム及び水酸化バリウム等であり、特には、水酸化ナトリウムが最も好ましい。
【0062】
その使用量は、基質に対し2〜3当量が、特には2〜2.4当量が好ましい。溶媒としては、アルコールと水の混合系が一般的である。アルコールの種類としては、メタノール、エタノール及びプロパノール等の低級アルコールが好ましい。その使用量は、基質に対し1〜20質量倍が、特には2〜10質量倍が好ましい。水の添加量は、基質に対し0.1〜20質量倍が、特には1〜10質量倍が好ましい。アルコールと水の混合比は、質量比で1対20から20対1の間で選択でき、特には1対5から5対1の間で選択するのが好ましい。
【0063】
反応後は、アルコールを留去した後、水を加えてから酸沈させてTNTC化合物の粗結晶が得られる。これを再結晶法で精製することにより、TNTC化合物の純品が得られる。
【0064】
又、酸によるTNAC化合物よりTNTC化合物への加水分解反応条件方法は、通常のアルキルエステルを加水分解してカルボン酸にする方法が適用できる。酸としては燐酸、塩酸及び硫酸等に代表される無機酸類、蟻酸や酢酸等に代表される脂肪酸類、メタンスルホン酸やp−トルエンスルホン酸等に代表されるスルホン酸類が挙げられる。これらの中で、塩酸や蟻酸を用いる方法が簡便である。反応条件は、過剰の酸を加えて100℃前後で加熱攪拌することにより目的物が生成する。反応後は、析出した結晶を濾取し、溶媒中で再結晶させることにより目的のTNTC化合物を精製することができる。
【0065】
次に、第5工程のTNTC化合物からTCDA化合物への脱水法について述べる。脱水剤としては、脂肪族カルボン酸無水物、1,3−ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCCと略記)、2−クロロ−1,3−ジメチルイミダゾリニウムクロライド(DMCと略記)が用いられるが、好ましくは安価な脂肪族カルボン酸無水物、特に無水酢酸が用いられる。使用量は、TNTC化合物に対し1〜20当量、好ましくは1〜5当量である。
【0066】
溶媒は、脱水剤自身を過剰量加えて使用する場合もあるが、反応に直接関与しない有機溶媒を用いることもできる。例えば、トルエン、キシレン等の炭化水素類、1,2−ジクロロエタン、1,2−ジクロロプロパン等のハロゲン化炭化水素類、更に1,4−ジオキサン等が挙げられる。使用量は、TNTC化合物に対し1〜20質量倍、好ましくは1〜10質量倍である。
【0067】
反応温度は、通常脱水剤又は溶媒の沸点付近で行うのが一般的であるが、50〜200℃間で行うことができる。より好ましくは、60〜150℃である。反応時間は、反応温度との相関になるが、実用的には、1〜20時間、より好ましくは2〜10時間である。
【0068】
反応後、脱水剤を、場合により溶媒も一緒に留去すると高純度のTCNDA化合物が得られる。必要に応じ、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)と酢酸エチルの混合溶媒系から再結晶法により精製することもできる。
【0069】
以上述べた各工程の反応は、いずれも常圧又は加圧で行うこともでき、又回分式又は連続式でも可能である。
【0070】
以下に実施例を挙げ、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
実施例1
【0071】
【化28】
【0072】
内容積50ml三つ口反応フラスコにビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2,3−ジカルボン酸無水物(ハイミック酸:BHCA)4.92g(30mmol)と1,4−ジオキサン10gを加え、この溶液にトリストリフェニルホスフィンルテニウムジクロライド(RuCl2(PPh3)3)1.15g(1.2mmol)を加えた。
【0073】
この反応溶液を90〜95℃で加熱還流し、これにジメチルアセチレンジカルボキシレート(DMA)4.69g(33mmol)と1,4−ジオキサン10gとの溶液を3時間かけて滴下した。このまま2時間撹拌したところでさらにDMA2.56g(18mmol)と1,4−ジオキサン5.0gとの溶液を滴下し、3時間撹拌した。更にトリストリフェニルホスフィンルテニウムジクロライド(RuCl2(PPh3)3)0.58g(0.6mmol)を加えた後23時間加熱還流した。更に、DMA2.56g(18mmol)を滴下し7時間加熱還流した。反応終了後、溶媒を減圧下留去し、粗油状物を得た。
【0074】
この粗物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:酢酸エチル/ヘプタン=1/5〜1/0)で精製すると白色結晶6.11g(19.7mmol;単離収率66.6%)が得られた。この物質は以下に示す分析結果よりトリシクロ[4.2.1.02,5]ノナ−3−エン−3,4−ビス(メトキシカルボニル)−7,8−ジカルボン酸無水物(TNAA)であることを確認した。
【0075】
MASS(FAB+,m/z(%)):307([M+H]+,100),275(73).
1H-NMR(CDCl3,δppm):1.47(d,J=11.6Hz,1H),1.74(d,J=11.3Hz,1H),2.87(d,J=28.7Hz,4H),3.51(d,J=2.14Hz,2H),3.72(d,J=1.22Hz,6H).
13C-NMR(CDCl3,δppm):34.23,37.05(2C),42.18(2C),48.39(2C),52.05(2C),140.96(2C),160.33(2C),170.77(2C).
Mp(℃):159〜160.
【0076】
実施例2
内容積100ml三つ口反応フラスコにビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2,3−ジカルボン酸無水物(ハイミック酸:BHCA)5.00g(30.6mmol)と1,4−ジオキサン10gを加え、この溶液にトリストリフェニルホスフィンルテニウムジクロライド(RuCl2(PPh3)3)1.17g(1.22mmol)を加えた。
【0077】
この反応溶液を加熱還流し、これにジメチルアセチレンジカルボキシレート(DMA)4.76g(33.5mmol)と1,4−ジオキサン10gとの溶液を3時間20分かけて滴下した。このまま24時間撹拌したところでさらにDMA2.40g(16.9mmol)と1,4−ジオキサン5.0gとの溶液を滴下し、18時間撹拌した。反応終了後、溶媒を減圧下留去し、粗TNAA13.4gを得た。この粗TNAAの主成分は、ガスクロマトグラフィ(GLCと略記)の分析で面積比74.6%であった。
【0078】
実施例3
内容積1Lの三つ口反応フラスコにBHCA40.0g(243mmol)と1,4−ジオキサン80gとの溶液にRuCl3(PPh3)29.35g(9.75mmol)を加えた。この反応溶液を加熱還流し、これにDMA38.1g(268mmol)と1,4−ジオキサン80gとの溶液を21時間15分かけて滴下した。このまま23時間30分撹拌したところでさらにDMA22.5g(158mmol)と1,4−ジオキサン40gとの溶液を滴下し、22時間30分撹拌した。さらここでRuCl3(PPh3)24.67g(4.87mmol)とDMA22.5g(158mmol)と1,4−ジオキサン40gとの溶液を加え、21時間30分攪拌した。反応終了後、溶媒を減圧下留去し、粗TNAA90.0g(70.6%(GLC面積比)、反応収率85.4%)を得た。
【0079】
実施例4
内容積100ml三つ口反応フラスコにBHCA5.00g(30.6mmol)と1,4−ジオキサン10gとを加え、この溶液にRuCl3・3H2O319mg(1.22mmol)とPPh3960mg(3.66mol)を加えた。この反応溶液を加熱還流し、これにDMA4.76g(33.5mmol)と1,4−ジオキサン10gとの溶液を2時間50分かけて滴下した。このまま21時間30分撹拌したところで、更にDMA4.76g(33.5mmol)と1,4−ジオキサン5.0gとの溶液を滴下し、27時間撹拌した。反応終了後、溶媒を減圧下留去し、粗TNAA12.0g(65.6%(GLC面積比)、反応収率84.0%)を得た。
【0080】
実施例5
内容積50ml三つ口反応フラスコにBHCA1.00g(6.09mmol)と1,4−ジオキサン4.0gを加え、この溶液にDMA0.951g,(6.70mmolとRuCl3・3H2O50.5mg(0.244mmol)を加えた。この反応溶液を加熱還流し、8時間攪拌したところで、さらにDMA2.07g(14.6mmol)を加え21時間30分撹拌した。溶媒を減圧下留去し、粗物4.5g(TNAA:17.5%、DMA:36.6%,BHCA:25.9%(GLC面積比))を得た。
実施例6
【0081】
【化29】
【0082】
内容積200ml三つ口反応フラスコにTNAA3.06g(10mmol)、アセトニトリル20ml及びH2O5mlを加え、加熱還流下1時間攪拌した。その後、溶媒を減圧留去し、乾燥させることによりトリシクロ[4.2.1.02,5]ノナ−3−エン−3,4−ビス(メトキシカルボニル)−7,8−ジカルボン酸(TNEAC)3.18g(9.81mmol,反応収率98.1%)を得た。TNEACの構造は下記の分析結果から確認した。
【0083】
MASS(FAB-,m/z):323([M-H]+,100),279(42),181(29),153(42),115(34).
1H-NMR(300MHz,d6-DMSO,δppm):1.32(d,J=11.00Hz,1H),1.45(d,J=11.00Hz,1H),2.43(s,2H),3.08(s,2H),3.25(s,2H),3.70(s,6H),12.09(br-s,2H).
13C-NMR(300MHz,d6-DMSO,δppm):30.46(1C),36.68(2C),41.76(2C),44.82(2C),51.64(2C),140.74(2C),160.62(2C),172.63(2C).
【0084】
実施例7
内容積200ml三つ口反応フラスコにTNAA16.0g(65.6%(GLC面積比))、アセトニトリル20ml及びH2O5mlを加えた。加熱還流下1時間攪拌後、この反応溶液に飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加えた。水層を分離して、これに1規定塩酸を加えて、生成物を酢酸エチルで抽出した。抽出液を飽和食塩水で洗浄した後、無水硫酸ナトリウムを用いて乾燥した。溶媒を減圧留去し、TNEAC8.4g(89.0%(GLC面積比))を得た。
実施例8
【0085】
【化30】
【0086】
内容積100ml三つ口反応フラスコにTNEAC3.24g(10mmol)と酢酸エチル30mlを加え、この溶液に含水(52.8%)5%Pd/C2.26g(0.5mmol)を加えた。水素雰囲気下40℃で18時間攪拌した。反応終了後、セライト濾過により濾液を得た。この濾液から溶媒を減圧留去し、更に乾燥した。得られた白色結晶は、下記の分析結果からトリシクロ[4.2.1.02,5]ノナン−3,4−ビス(メトキシカルボニル)−7,8−ジカルボン酸(TNAC)3.09g(9.48mmol,反応収率94.8%)であることを確認した。
【0087】
MASS(FAB-,m/z):325((M-H)+,100),305(16),306(16),199(14),188(16),153(50)152(32).
1H-NMR(300MHz, d6-DMSO,δppm):1.38(d,J=11.01Hz,1H),2.10(d,J=11.01Hz,1H),2.65(s,2H),2.90(s,2H),2.98(m,2H),3.56(s,6H),3.75(m,2H),11.93(br-s,2H).
13C-NMR(300MHz,d6-DMSO,δppm):30.58(1C),36.74(2C),38.72(2C),40.03(2C),45.49(2C),50.95(2C),171.25(2C),173.04(2C).
【0088】
実施例9
内容積100ml三つ口反応フラスコにTNEAC1.11g(89.0%(GLC面積比))と酢酸エチル15mlを加えた。この溶液に含水(52.8%)5%Pd/C1.38g(0.31mmol)を加えた。水素雰囲気下40℃で5時間30分と室温で14時間攪拌した。反応終了後、セライト濾過を行い溶媒を減圧留去した。得られた粗生成物を酢酸エチルにより洗浄することにより白色結晶のTNAC0.55g(1.68mmol,反応収率54.5%)を得た。
実施例10
【0089】
【化31】
【0090】
内容積300mlナスフラスコにTNAC7.00g(21.2mmol)、エタノール40.0ml、1,4−ジオキサン60.0ml及びH2O10.0gを加えた。この溶液に0℃で水酸化ナトリウム10.0gを加え、室温で37.5時間攪拌した。反応終了後溶媒を減圧下留去し、得られた残査にH2O15.0gと濃塩酸15.0gを加えて晶析させた。濾過後H2Oで洗浄することにより、白色結晶のトリシクロ[4.2.1.02,5]ノナン−3,4,7,8−テトラカルボン酸(TNTC)4.56g(15.4mmol、収率72.7%)を得た。TNTCの構造は、下記の分析結果から確認した。
【0091】
1H-NMR(300MHz,d6-DMSO,δppm):1.42(d,J=10.55Hz,1H),1.94(d,J=10.55Hz,1H), 2.29(s,2H),2.90(s,2H),2.91(s,H),3.56(s,6H),12.01(s,4H).
13C-NMR(300MHz, d6-DMSO,δppm):33.45(1C),39.39(2C),41.67(2C),41.82(2C),44.94(2C),173.00(2C),173.91(2C).
【0092】
実施例11
【0093】
【化32】
【0094】
内容積200ml三つ口反応フラスコにTNTC1.0g(3.35mmol)、無水酢酸65.0g及びトルエン18gを加え、110℃で2時間攪拌した。反応終了後、濾過を行ない得られた残査を酢酸エチルで洗浄することにより、白色結晶のトリシクロ[4.2.1.02,5]ノナン−3,4,7,8−テトラカルボン酸−3,4:7,8−二無水物(TCNDA)390mg(1.49mmol、44.4%)を得た。TCNDAの構造は、下記の分析結果から確認した。
【0095】
MASS(FAB+,m/z):263([M+H]+,10),246(18),185(24),154(100),137(84.5).
1H-NMR(300MHz,d6-DMSO,δppm):1.80(d,J=11.58Hz,2H),2.05(d,J=11.58Hz,1H), 2.53(br-m,2H),2.81(m,2H),3.19(br-d,J=1.92Hz,H),3.56(dd,J1=2.20Hz,J2=3.30Hz,2H).
13C-NMR(300MHz,d6-DMSO,δppm):35.6,39.57(2C),41.06(2C),41.59(2C),48.16(2C),172.03,173.43.
Claims (10)
- ルテニウム触媒が、ハロゲン化ルテニウムである請求項3記載の(置換)トリシクロ[4.2.1.02,5]ノナ−3−エン−3,4−ビス(アルコキシカルボニル)−7,8−ジカルボン酸無水物の製造法。
- ルテニウム触媒が、三塩化ルテニウム又は三臭化ルテニウムあり、該ルテ ニウム触媒をトリフェニルホスフィン存在下で使用することを特徴とする請求項3記載の(置換)トリシクロ[4.2.1.02,5]ノナ−3−エン−3,4−ビス(アルコキシカルボニル)−7,8−ジカルボン酸無水物の製造法。
- ルテニウム触媒が、ジハロゲノトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム、又はジハロゲノテトラキス(トリフェニルホスフィン)ルテニウムである請求項3記載の(置換)トリシクロ[4.2.1.02,5]ノナ−3−エン−3,4−ビス(アルコキシカルボニル)−7,8−ジカルボン酸無水物の製造法。
- 加水分解触媒が塩基である請求項5記載の(置換)トリシクロ[4.2.1.02,5]ノナン−3,4−7,8−テトラカルボン酸−3,4:7,8−二無水物の製造法。
- 加水分解触媒が酸である請求項5記載の(置換)トリシクロ[4.2.1.02,5]ノナン−3,4−7,8−テトラカルボン酸−3,4:7,8−二無水物の製造法。
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