JP3950600B2 - フェニトロチオンのハプテン化合物、抗体及び測定方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、O,O−ジメチル−O−(3−メチル−4−ニトロフェニル)チオホスフェート(以下、本明細書中「フェニトロチオン」と言う)のハプテン化合物、抗原、抗体及び抗原と結合可能なそのフラグメントに関する。
【0002】
本発明はさらに、前記抗原、抗体及び抗原と結合可能なそのフラグメントを用いた免疫学的測定方法に関する。
【0003】
【従来の技術】
フェニトロチオンは、以下の式(3):
【0004】
【化4】
Figure 0003950600
【0005】
で表される構造を有する、有機リン系殺虫剤である。化学構造はパラチオンメチルに酷似しているが、人畜毒性は低い。高等動物の体内では容易に脱メチル化による解毒・代謝が起こるが、昆虫ではこの代謝が弱いのがその要因といわれている。稲作、果実、野菜、茶などの害虫に広く用いられている(農薬ハンドブック第2頁−第10頁及び第510頁、1994年版、日本植物防疫協会;「最新農薬の残留分析法」 第279頁−第281頁、農薬残留分析法研究班編集 中央法規出版)。
【0006】
また、フェニトロチオンに構造が類似する有機リン系殺虫剤の1種としてエチルパラニトロフェニルチオノベンゼンホスホエート(以下、「EPN」と言う)が知られている。EPNはイネを初めとして、そのほか果樹、野菜の広範囲の害虫に対し有効で、残効性もある。作用特性としては、パラチオン同様、コリンエステラーゼの阻害が殺虫機構の主体である。残効に富み、このため種子粉衣剤として土壌害虫の防除に用いることができる。接触毒、食毒、ガス毒として作用するが、残効が長いのでニカメイガを対象とするときは食入防止効果が大きいので少し早めに使う。浸透性も若干ある。野菜のヨトウガ老熟幼虫に対して効力を示す。ニカメイガ第2世代、サンカメイガ第2、第3世代には使用しない(農薬ハンドブック 第63頁−第64頁及び第610頁、1998年版、日本植物防疫協会)。
【0007】
さらに、O,O−ジエチル O−4−ニトロフェニル ホスフォロチオエート(以下、「パラチオン」と言う)もフェニトロチオンに構造が類似する有機リン系の殺虫剤である。日本では、昭和27年に登録され、ほとんどの害虫にすぐれた効果を示し、当時、難防除害虫であったニカメイチュウ、シンクイムシ類の防除に成功した。しかし、人畜毒性が強く、散布時の中毒による死亡事故が続出したため、昭和44年をもって、日本では製造中止となり、昭和46年には登録が失効となった。諸外国では使用されている(「最新農薬の残留分析法」 第470頁−第472頁、農薬残留分析法研究班編集 中央法規出版)。
【0008】
さらにまた、O,O−ジメチル O−4−ニトロフェニル ホスフォロチオエート(以下、「パラチオンメチル」と言う)もフェニトロチオンに構造が類似する有機リン系の殺虫剤である。パラチオンに近似しているが、パラチオンよりも不安定で分解しやすい。熱に対しても130℃以上では不安定である。殺虫力が室内施用ではパラチオンより強力であるが、圃場においてはやや劣り、パラチオンの60%程度の効果と言われている。これは分解しやすく、残効性が少ないためと考えられる。毒性はパラチオンの1/3程度である。パラチオン同様、昭和46年には登録が失効となっており、日本では使用されていない(「最新農薬の残留分析法」 第473頁−第475頁、農薬残留分析法研究班編集 中央法規出版)。
【0009】
近年、土壌、水、大気等の環境中での残留農薬や、最近特に増加してきた輸入農産物のポストハーベスト農薬等の残留に大きな社会的関心が寄せられている。フェニトロチオンについては、食品衛生法に基づき残留基準値が、米(0.2ppm)、穀類(1−10ppm)、豆類(0.2ppm)、果実(0.05−2ppm)、野菜(0.05−0.5ppm)、茶(0.2ppm)、小麦(1ppm)等定められている(「最新農薬の残留分析法」 同上)。さらに、水質に関しても、水道法における水道水質基準の監視項目として基準値が0.003mg/l、環境基本法の環境基準の要監視項目として基準値が0.003mg/lと定められている。さらに、環境庁による「ゴルフ場で使用される農薬による水質汚濁の防止に係る暫定指導指針」(1990年)において、フェニトロチオンのゴルフ場排水に係る暫定指導指針値が0.03mg/lと定められている。当該指針値の性格は、ゴルフ場の使用農薬が外部に流出することによる水質汚濁を防止する観点から、上限値として定められている(最新 農薬の規制・基準値便覧 1995年版 48頁、(社)日本植物防疫協会)。よって、環境や食品に関する安全確保のためには、これらに含有される、フェニトロチオンの量を迅速かつ正確に測定することが必要である。
【0010】
また、EPNについても残留基準値が、米(0.1ppm)、果実、野菜、茶(0.1ppm)、夏みかん果皮(0.5ppm)等定められている(「最新農薬の残留分析法」 第249頁−第251頁、農薬残留分析法研究班編集 中央法規出版)。
【0011】
さらに、パラチオンについては食品衛生法に基づき残留基準値が、米及びばれいしょ(それぞれ不検出)、穀類、豆類、果実、野菜および茶(ぞれぞれ0.3ppm)等定められている(「最新農薬の残留分析法」 第470頁−第472頁、農薬残留分析法研究班編集 中央法規出版)。
【0012】
さらにまた、パラチオンメチルについては食品衛生法に基づき残留基準値が、穀類、豆類およびいも類(0.1ppmないし1.0ppm)、果実(0.2ppmないし1.0ppm)、野菜(0.05ppmないし1.0ppm)、オイルシード(0.1ppmないし1.0ppm)、ナッツ類(0.1ppm)、茶(0.2ppm)、ホップ(0.05ppm)等と定められている(「最新農薬の残留分析法」 第473頁−第475頁、農薬残留分析法研究班編集 中央法規出版)。
【0013】
従来、例えば農作物中のフェニトロチオンは、穀類、豆類、種実類等の試料から抽出し、精製した後、ガスクロマトグラフィー(GC)により分析されてきた。即ち、試料をアセトンで抽出し、ヘキサンに転溶し、ヘキサン−アセトニトリル分配し、フロリジルカラムクロマトグラフィーで精製後、GCで測定する方法が採用されている。これらの方法は、試料の調製が煩雑で多大の手順と時間を必要とし、分析に熟練を要すること、並びに、測定装置や設備等に高額の費用を必要とする等の問題点がある。フェニトロチオンの測定は短時間で膨大な数の試料の分析結果を出す必要があり、精度面だけでなく、簡便性、迅速性及び経済性をも具備した新規測定方法が要求されてきている。同様に、EPN、パラチオン、パラチオンメチルについても簡便性、迅速性及び経済性をも具備した新規測定方法が要求されてきている。
【0014】
免疫学的測定方法は、抗体が抗原を特異的に認識する抗原抗体反応に基づいて抗原や抗体の検出を行う方法であり、その優れた精度、簡便性、迅速性、経済性から近年注目を集めてきている。免疫学的測定方法においては検出方法として非常に多種の標識、例えば、酵素、放射性トレーサー、化学発光あるいは蛍光物質、金属原子、ゾル、ラテックス及びバクテリオファージが適用されてきた。
【0015】
免疫学的測定方法の中でも、酵素を使用する酵素免疫測定法(EIA)は経済性・利便性から特に優れたものとして広く使用されるに至っている。酵素免疫測定法についての優れた論評が、Tijssen P,“Practice and theory of enzyme immunoassays” in Laboratory techniques in biochemistry and molecular biology, Elsevier Amsterdam New York, Oxford ISBN 0−7204−4200−1 (1990) に記載されている。
【0016】
一般に、分子量が大きな分子については、それ以上修飾することなく動物に接種することにより、適当な免疫反応を惹起し、抗原を認識する抗体を産生させることができる。しかし、フェニトロチオンのような低分子化合物は通常動物に接種したとき免疫応答を引き出すことができない。これらの分子は免疫原性を有する高分子化合物に結合させることによって初めて一団のエピトープとして行動し、T細胞受容体の存在下で免疫応答を起こし、その結果、一群のBリンパ球により抗体が産生される。このように高分子化合物と結合させて初めて免疫原性を生じる分子を総称して「ハプテン」と言う。
【0017】
しかし、低分子化合物を高分子化合物と結合させたものを抗原としても、得られた抗体は望む分子を認識しないか、あるいはごく低い親和性しかもたない場合がしばしばある。そのため、一般に低分子化合物そのものではなく、結合に利用できる官能基と共にスペーサーアーム(結合手)を導入したものをハプテンとして使用する必要がある。しかしその場合に、結合手/官能基の配置、結合手の大きさ等の全ての問題を考慮して導入が適切に行われたものを使用しないと、好ましい抗体は得られない。適切な導入は個々の分子に応じて工夫しなければならない。
【0018】
このように、フェニトロチオンについては、その必要性が非常に高かったにもかかわらず、適切な抗体はもとより、そのような抗体を作製するためのハプテンも本発明前には得られていなかった。
【0019】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、フェニトロチオンに反応する新規な抗体もしくは抗原と結合可能なそのフラグメント、及びその作製方法を提供することを目的とする。尚、本明細書において抗体の「フラグメント」とは、抗原と結合可能な抗体の一部分、例えばFab断片等を意味する。
【0020】
本発明はその一態様において、フェニトロチオンに反応性を有するモノクローナル抗体を提供する。
本発明は、また、フェニトロチオンに反応性を有する新規な抗体を作製するための抗原を構成するハプテン化合物となる、当該化合物の誘導体を提供することを目的とする。
【0021】
本発明は、さらに、フェニトロチオン誘導体と高分子化合物との結合体を提供することを目的とする。当該結合体はフェニトロチオンに反応性を有する抗体を作製するための抗原となる。
【0022】
本発明は、さらにまた、前記抗体を産生するハイブリドーマを提供することを目的とする。
本発明は、さらに、前記抗体もしくは抗原と結合可能なそのフラグメント及び/又は前記フェニトロチオン誘導体と高分子化合物との結合体を使用することを含む、フェニトロチオンの免疫学的測定方法を提供することを目的とする。
【0023】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、フェニトロチオン又はその部分にスペーサーアーム及び高分子化合物との結合に利用できる官能基を導入した、フェニトロチオンの誘導体をハプテンとして使用することにより、前記化合物に反応性を有する抗体を得ることに成功し、本発明の完成に至った。
【0024】
本発明の対象となるフェニトロチオンは、以下の式(3):
【0025】
【化5】
Figure 0003950600
【0026】
で表される化合物である。
本発明の抗体は、例えば、フェニトロチオンにスペーサーアーム及び結合に利用できる官能基を導入した誘導体をハプテンとして適当な高分子化合物と結合させたものを抗原として用いることによって得ることができる。例えば、以下の式(1):
【0027】
【化6】
Figure 0003950600
【0028】
[式(1)中、
Rは、メチル基またはエチル基であり;
Aは、以下の式(2):
【0029】
【化7】
Figure 0003950600
【0030】
からなるグループから選択され、ここにおいてnは1−10の整数である;そして
Bは、所望により1ないし3のハロゲンによって置換されていてもよいメチル基である。]
で表される構造を有する化合物を、抗体作製のためのハプテンとして使用する。
【0031】
式(1)中、Rは好ましくはエチル基であり。Aは好ましくはnが3のトリメチレン基である。そして、Bは好ましくはメチル基である。
本発明の抗体は、フェニトロチオンと反応性を有することを特徴とするが、フェニトロチオンのみに特異的に反応する抗体のみならず、フェニトロチオンを含む一群の類似化合物に反応性を有する抗体を含む。
【0032】
本発明の一態様において、有機リン系殺虫剤の内、数種類の殺虫剤を同時に測定できる抗体を作製するため、比較的構造の類似しているフェニトロチオン、EPN、パラチオン、パラチオンメチルに着目し、ハプテンの分子設計を試みた。これら4種類の農薬に共通の部分構造として、メチル基で置換されていてもよいニトロフェニル基、チオリン酸の骨格およびメトキシ基(又はエトキシ基)が挙げられる。抗原性の増大を図るため、全てのメトキシ基をエトキシ基で代替し、ニトロフェニル基、チオリン酸の骨格を残したハプテン構造をまず想定した。ついで、ハプテンの化学的安定性を増大させるため、チオリン酸の骨格に結合している1個のエトキシ基をアミド基に変換してそこにスペーサーアームを付加し、結果として式(1)で表される構造を有するハプテン化合物を合成した。
【0033】
式(1)のハプテン化合物と高分子化合物との結合体は、後述の実施例に示すようにフェニトロチオン、EPN、パラチオン及びパラチオンメチルの4種類の農薬を同時に測定できる抗体を産生するのに好適の免疫原となりうることが分かった。
【0034】
本発明は、前記ハプテン化合物、ハプテン化合物と高分子化合物との結合体、フェニトロチオンに反応する抗体及びその作製方法、ならびに該ハプテン化合物又は該抗体を用いるフェニトロチオンの免疫学的測定方法に関する。
【0035】
フェニトロチオン誘導体の作製
式(1)で表されるフェニトロチオン誘導体は、公知の方法に従って製造することができる。限定するわけではないが、例えば以下のような方法を用いることができる。
【0036】
まず、以下の式(X1):
【0037】
【化8】
Figure 0003950600
【0038】
[式(X1)中、
1及びL2はハロゲン原子であり(本明細書中、ハロゲン原子はF、Cl、Br又はIを意味する)、同一であっても、又は異なっていてもよい;そして
Rは先に定義した通りである]
で表されるジハロゲン化チオリン酸エステルに、以下の式(X2):
【0039】
【化9】
Figure 0003950600
【0040】
[式(X2)中、
Zはカルボキシル保護基であり;そして
Aは先に定義した通りである]
で表されるエステル化合物を有機溶媒中、塩基の存在下で反応させて、以下の式(X3):
【0041】
【化10】
Figure 0003950600
【0042】
[式(X3)中、A,R,ZおよびL1(L2)は先に定義した通りである]
で表される化合物を合成する。
式(X2)で表されるエステル化合物は、公知の方法、例えば、Skerritらの文献(J.Agric.Food Chem.1992,40,1466−1470)に記載されている方法に従って、容易に合成することができる。
【0043】
式(X3)の化合物の合成のための有機溶媒としては、例えば、アセトニトリル、アセトン、ヘキサン、ペンタン、ベンゼン、トルエン、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、酢酸エチル、ジグリム、N,N−ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルリン酸トリアミド等、又はこれらの混合溶媒を用いることができる。塩基としては、例えば、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸リチウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素ナトリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメチラート、ナトリウムエチラート、トリエチルアミン、N,N−ジメチルアニリン、水素化ナトリウム、ピリジン、リチウムジイソプロピルアミド等を用いることができる。
【0044】
反応は、マイナス78℃から溶媒の沸点の温度、好ましくは0℃から60℃で、1時間から50時間、好ましくは1時間から24時間行う。
Zで示されるカルボキシル基の保護基は公知のものでよく、具体例として、例えばメチル基、エチル基、tert−ブチル基、ベンジル基、p−メトキシベンジル基、3,4−ジメトキシベンジル基、トリクロロエチル基、トリメチルシリル基、tert−ブチルジメチルシリル基、tert−ブチルジフェニルシリル基、トリエチルシリル基、トリイソプロピルシリル基、トリメチルシリルエトキシメチル基等を挙げることができる。
【0045】
次に、式(X3)の化合物と、以下の式(X4):
【0046】
【化11】
Figure 0003950600
【0047】
[式(X4)中、Bは先に定義した通りである]
で表される化合物とを、有機溶媒中、塩基の存在下で反応させることにより、以下の式(X5):
【0048】
【化12】
Figure 0003950600
【0049】
[式(X5)中、A,B,RおよびZは先に定義した通りである]
で表される化合物を合成する。
反応は、マイナス78℃から溶媒の沸点の温度、好ましくは0℃から80℃で、1時間から40時間、好ましくは1時間から24時間行う。有機溶媒及び塩基は、上述した式(X3)の化合物を合成する場合と同様のものを使用することができる。
【0050】
なお、式(X1)の化合物から式(X5)の化合物の合成は、式(X1)の化合物に式(X4)で表されるフェノール化合物を先ず反応させて、次に、式(X2)のエステル化合物を反応させることによって行ってもよい。
【0051】
さらに、式(X5)の化合物からZで表されるカルボキシル基の保護基を除去することにより、式(1)の化合物を得ることができる。カルボキシル基の保護基の除去は、アルカリ加水分解、酸加水分解等の公知の方法で行うことができる。
【0052】
すなわち、酸加水分解の場合は、式(X5)の化合物を、好ましくは酢酸、蟻酸、ベンゼン、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン等の有機溶媒に溶解し、次いで塩酸、硫酸、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体、トリフルオロ酢酸、トリフルオロメタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸等を加えて、0℃から溶媒の沸点の温度、好ましくは0℃から50℃で、5分から10時間、好ましくは1時間から5時間撹拌反応させることにより式(1)の化合物を得ることができる。
【0053】
また、アルカリ加水分解の場合は、式(X5)の化合物を、好ましくはメタノール、エタノール、テトラヒドロフラン、エチレングリコール等の有機溶媒に溶解し、次いで炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウム水溶液等を加えて、0℃から溶媒の沸点の温度、好ましくは0℃から室温で、5分から10時間、好ましくは1時間から2時間撹拌反応させることにより式(1)の化合物を得ることができる。
【0054】
更に、Zがベンジル基の場合、除去は水素による加水素分解によっても行うことができる。
更にまた、Zがシリル基の場合、脱保護はテトラ−n−ブチルアンモニウムフルオリド、ピリジニウムフルオリド等のフッ素アニオンを発生させる試薬によっても行うことができる。
【0055】
上述したような製造方法によって得られた化合物を、必要に応じシリカゲルクロマトグラフィー又は再結晶操作等を行うことにより、さらに高純度の精製品とすることができる。
【0056】
以下、本発明の抗原、抗体の作製、及び免疫化学的測定法について説明する。尚、これらの調製は公知の方法、例えば続生化学実験講座、免疫生化学研究法(日本生化学会編)等に記載の方法に従って行うことができる。
【0057】
フェニトロチオン誘導体と高分子化合物との結合体の作製
上述のように合成されたフェニトロチオン誘導体を適当な高分子化合物に結合させてから免疫用抗原として使用する。
【0058】
好ましい高分子化合物の例としては、スカシガイへモシアニン(以下、「KLH」と言う)、卵白アルブミン(以下、「OVA」と言う)、ウシ血清アルブミン(以下、「BSA」と言う)、ウサギ血清アルブミン(以下、「RSA」と言う)などがあるが、KLH及びBSAが好ましい。
【0059】
フェニトロチオン誘導体と高分子化合物との結合は、例えば、活性化エステル法(A.E.KARU et al.:J.Agric.Food Chem.42 301−309(1994))、又は混合酸無水物法(B.F.Erlanger et al.:J.Biol.Chem.234 1090‐1094(1954))等の公知の方法によって行うことができる。
【0060】
活性化エステル法は、一般に以下のように行うことができる。まず、ハプテン化合物を有機溶媒に溶解し、カップリング剤の存在下にてN−ヒドロキシこはく酸イミドと反応させ、N−ヒドロキシこはく酸イミド活性化エステルを生成させる。
【0061】
カップリング剤としては、縮合反応に慣用されている通常のカップリング剤を使用でき、例えば、ジシクロヘキシルカルボジイミド、カルボニルジイミダゾール、水溶性カルボジイミド等が含まれる。有機溶媒としては、例えば、ジメチルスルホキシド(以下、「DMSO」と言う)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ジオキサン等が使用できる。反応に使用するハプテン化合物とN−ヒドロキシこはく酸イミドのモル比は好ましくは1:10から10:1、より好ましくは1:1から1:10、最も好ましくは1:1である。反応温度は、0℃から100℃、好ましくは5℃から50℃、より好ましくは22℃から27℃で、反応時間は5分から24時間、好ましくは30分から6時間、より好ましくは1時間から2時間である。反応温度は各々の融点以上沸点以下の温度で行うことができる。
【0062】
カップリング反応後、反応液を高分子化合物を溶解した溶液に加え反応させると、例えば高分子化合物が遊離のアミノ基を有する場合、当該アミノ基とハプテン化合物のカルボキシル基の間に酸アミド結合が生成される。反応温度は、0℃から60℃、好ましくは5℃から40℃、より好ましくは22℃から27℃で、反応時間は5分から24時間、好ましくは1時間から16時間、より好ましくは1時間から2時間である。反応物を、透析、脱塩カラム等によって精製して、フェニトロチオン誘導体と高分子化合物との結合体を得ることができる。
【0063】
一方、混合酸無水物法において用いられる混合酸無水物は、通常のショッテン−バウマン反応により得られ、これを高分子化合物と反応させることにより目的とするハプテン−高分子化合物結合体が製造される。ショッテン−バウマン反応は塩基性化合物の存在下に行われる。塩基性化合物としては、ショッテン−バウマン反応において慣用されている化合物を使用することができる。例えば、トリブチルアミン、トリエチルアミン、トリメチルアミン、N−メチルモルホリン、ピリジン、N,N−ジメチルアニリン、DBN、DBU、DABCO等の有機塩基、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素ナトリウム等の無機塩基等が挙げられる。該反応は、通常マイナス20℃から100℃、好ましくは0℃から50℃において行われ、反応時間は5分から10時間、好ましくは5分から2時間である。得られた混合酸無水物と高分子化合物との反応は、通常マイナス20℃から150℃、好ましくは0℃から100℃において行われ、反応時間は5分から10時間、好ましくは5分から5時間である。混合酸無水物法は一般に溶媒中で行われる。溶媒としては、混合酸無水物法に慣用されているいずれの溶媒も使用可能であり、具体的にはジオキサン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン等のエーテル類、ジクロロメタン、クロロホルム、ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル類、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルリン酸トリアミド等の非プロトン性極性溶媒等が挙げられる。混合酸無水物法において使用されるハロ蟻酸エステルとしては、例えばクロロ蟻酸メチル、ブロモ蟻酸メチル、クロロ蟻酸エチル、ブロモ蟻酸エチル、クロロ蟻酸イソブチル等が挙げられる。当該方法におけるハプテンとハロ蟻酸エステルと高分子化合物の使用割合は、広い範囲から適宜選択され得る。
【0064】
また、上記と同様の方法により、酵素等の標識物質をフェニトロチオン誘導体に結合させたものを、免疫学的測定方法において使用することができる。標識物質としては、西洋わさびペルオキシダーゼ(以下「HRP」と言う)、アルカリフォスファターゼ等の酵素、フルオレセインイソシアネート、ローダミン等の蛍光物質、32P、125I等の放射性物質、化学発光物質などがある。
【0065】
ポリクローナル抗体の作製
フェニトロチオン誘導体と高分子化合物との結合体を使用して、慣用化された方法により本発明のポリクローナル抗体を作製することができる。例えば、フェニトロチオン誘導体−KLH結合体をリン酸ナトリウム緩衝液(以下、「PBS」と言う)に溶解し、フロイント完全アジュバント又は不完全アジュバント、あるいはミョウバン等の補助剤と混合したもので、動物を免疫することによって得ることができる。免疫される動物としては当該分野で常用されるものをいずれも使用できるが、例えば、マウス、ラット、ウサギ、ヤギ、ウマ等を挙げることができる。但し、ヒトは除く。
【0066】
免疫の際の投与法は、皮下注射、腹腔内注射、静脈内注射、皮内注射、筋肉内注射のいずれでもよいが、皮下注射又は腹腔内注射が好ましい。免疫は1回又は適当な間隔で、好ましくは1週間ないし5週間の問隔で複数回行うことができる。
【0067】
免疫した動物から血液を採取し、そこから分離した血清を用い、フェニトロチオンと反応するポリクローナル抗体の存在を評価することができる。
本発明においてフェニトロチオン誘導体と高分子化合物との結合体を免疫用抗原として得られた抗血清は、後述する間接競合阻害ELISA法において、約0.01μg/mlから約10μg/mlの濃度でフェニトロチオンと反応した(実施例7、図1)。
【0068】
モノクローナル抗体の作製
フェニトロチオン誘導体と高分子化合物との結合体を使用して、公知の方法により本発明のモノクローナル抗体を作製することができる。
【0069】
モノクローナル抗体の製造にあたっては、少なくとも下記のような作業工程が必要である。
(a)免疫用抗原として使用するフェニトロチオン誘導体と高分子化合物との結合体の作製
(b)動物への免疫
(c)血液の採取、アッセイ、及び抗体産生細胞の調製
(d)ミエローマ細胞の調製
(e)抗体産生細胞とミエローマ細胞との細胞融合とハイブリドーマの選択的培養
(f)目的とする抗体を産生するハイブリドーマのスクリーニングと細胞クローニング
(g)ハイブリドーマの培養又は動物へのハイブリドーマの移植によるモノクローナル抗体の調製
(h)調製されたモノクローナル抗体の反応性の測定等
モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを作製するための常法は、例えば、ハイブリドーマ テクニックス(Hybridoma Techniques),コールド スプリング ハーバー ラボラトリーズ(Cold Spring Harbor Laboratory,1980年版)、細胞組織化学(山下修二ら、日本組織細胞化学会編;学際企画、1986年)に記載されている。
【0070】
以下、本発明のフェニトロチオンに対するモノクローナル抗体の作製方法を説明するが、これに制限されないことは当業者によって明らかであろう。
(a)−(b)の工程は、ポリクローナル抗体に関して記述した方法とほぼ同様の方法によって行うことができる。
【0071】
(c)の工程における抗体産生細胞はリンパ球であり、これは一般には脾臓、胸腺、リンパ節、末梢血液又はこれらの組み合わせから得ることができるが脾細胞が最も一般的に用いられる。従って、最終免疫後、抗体産生が確認されたマウスより抗体産生細胞が存在する部位、例えば脾臓を摘出し、脾細胞を調製する。
【0072】
(d)の工程に用いることのできるミエローマ細胞としては、例えば、Balb/cマウス由来骨髄腫細胞株のP3/X63−Ag8(X63)(Nature,256,495−497(1975))、P3/X63−Ag8.U1(P3U1)(Current Topics.in Microbiology and Immunology,81, 1−7(1987))、P3/NSI−1−Ag 4−1(NS−1)(Eur.J.Immunol.,6,511−519(1976))、Sp2/O−Ag14(Sp2/O)(Nature, 276,269−270(1978))、FO(J.Immuno.Meth.,35, 1−21(1980))、MPC−11、X63.653、S194等の骨髄腫株化細胞、あるいはラット由来の210.RCY3.Ag 1.2.3.(Y3)(Nature, 277,131−133,(1979))等を使用できる。
【0073】
上述した株化細胞をウシ胎児血清を含むダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)又はイスコフ改変ダルベッコ培地(IMDM)で継代培養し、融合当日に約3×103以上の細胞数を確保する。
【0074】
(e)の工程の細胞融合は公知の方法、例えばミルスタイン(Milstein)らの方法(Methods in Enzymology,73,3(1981))等に準じて行うことができる。現在最も一般的に行われているのはポリエチレングリコール(PEG)を用いる方法である。PEG法については、例えば、細胞組織化学、山下修二ら(上述)に記載されている。別の融合方法としては、電気処理(電気融合)による方法を採用することもできる(大河内悦子ら、実験医学 5.1315−19、1987)。その他の方法を適宜採用することもできる。また、細胞の使用比率も公知の方法と同様でよく、例えばミエローマ細胞に対して脾細胞を3倍から10倍程度用いればよい。
【0075】
脾細胞とミエローマ細胞とが融合し、抗体分泌能及び増殖能を獲得したハイブリドーマ群の選択は、例えば、ミエローマ細胞株としてヒポキサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ欠損株を使用した場合、例えば上述のDMEMやIMDMにヒポキサンチン・アミノプテリン・チミジンを添加して調製したHAT培地の使用により行うことができる。
【0076】
(f)の工程では、選択されたハイブリドーマ群を含む培養上清の一部をとり、例えば後述するELISA法により、フェニトロチオンに対する抗体活性を測定する。
【0077】
さらに、測定によりフェニトロチオンに反応する抗体を産生することが判明したハイブリドーマの細胞クローニングを行う。この細胞クローニング法としては、限界希釈により1ウェルに1個のハイブリドーマが含まれるように希釈する方法「限界希釈法」;軟寒天培地上に撒きコロニーをとる方法;マイクロマニピュレーターによって1個の細胞を取り出す方法;セルソーターによって1個の細胞を分離する「ソータークローン法」等が挙げられる。限界希釈法が簡単であり、よく用いられる。
【0078】
抗体価の認められたウェルについて、例えば限界希釈法によりクローニングを1−4回繰り返して安定して抗体価の得られたものを、抗フェニトロチオンモノクローナル抗体産生ハイブリドーマ株として選択する。ハイブリドーマを培養する培地としては、例えば、ウシ胎児血清(FCS)を含むDMEM又はIMDM等が用いられる。ハイブリドーマの培養は、例えば二酸化炭素濃度5−7%程度及び37℃(100%湿度の恒温器中)で培養するのが好ましい。
【0079】
(g)の工程で抗体を調製するための大量培養は、フォローファイバー型の培養装置等によって行われる。又は、同系統のマウス(例えば、上述のBalb/c)あるいはNu/Nuマウスの腹腔内でハイブリドーマを増殖させ、腹水液より抗体を調製することも可能である。
【0080】
これらにより得られた培養上清液あるいは腹水液を抗フェニトロチオンモノクローナル抗体として使用することできるが、さらに透析、硫酸アンモニウムによる塩析、ゲル濾過、凍結乾燥等を行い、抗体画分を集め精製することにより抗フェニトロチオンモノクローナル抗体を得ることができる。さらに、精製が必要な場合には、イオン交換カラムクロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)などの慣用されている方法を組合わせることにより実施できる。
【0081】
以上のようにして得られた抗フェニトロチオンモノクローナル抗体は、例えば後述するELISA法などの公知の方法を使用して、サブクラス、抗体価等を決定することができる。
【0082】
抗体によるフェニトロチオンの測定
本発明で使用する抗体によるフェニトロチオンの測定法としては、放射性同位元素免疫測定法(RIA法)、ELISA法(Engvall,E.,Methods in Enzymol.,70,419−439(1980))、蛍光抗体法、プラーク法、スポット法、凝集法、オクタロニー(Ouchterlony)等の一般に抗原の検出に使用されている種々の方法(「ハイブリドーマ法とモノクローナル抗体」、株式会社R&Dプラニング発行、第30頁−第53頁、昭和57年3月5日)が挙げられる。感度、簡便性等の観点からELISA法が汎用されている。
【0083】
フェニトロチオンの測定は、各種ELISA法のうち例えば間接競合阻害ELISA法により、以下のような手順により行うことができる。
(a)まず、抗原であるフェニトロチオン誘導体と高分子化合物との結合体を担体に固相化する。
【0084】
(b)抗原が吸着していない固相表面を抗原と無関係な、例えばタンパク質によりブロッキングする。
(c)これに各種濃度のフェニトロチオンを含む試料及び抗体を加え、該抗体を前記固相化抗原及びフェニトロチオンに競合的に反応させて、固相化抗原−抗体複合体及び、フェニトロチオン−抗体複合体を生成させる。
【0085】
(d)固相化抗原−抗体複合体の量を測定することにより、予め作成した検量線から試料中のフェニトロチオンの量を決定することができる。
(a)工程において、抗原を固相化する担体としては、特別な制限はなく、ELISA法において常用されるものをいずれも使用することができる。例えば、ポリスチレン製の96ウェルのマイクロタイタープレートが挙げられる。
【0086】
抗原を担体に固相化させるには、例えば、抗原を含む緩衝液を担体上に載せ、インキュベーションすればよい。緩衝液としては公知のものが使用でき、例えば、ダルベッコのリン酸緩衝液を挙げることができる。緩衝液中の抗原の濃度は広い範囲から選択できるが、通常0.01μg/mlから100μg/ml程度、好ましくは0.05μg/mlから5μg/mlが適している。また、担体として96ウェルのマイクロタイタープレートを使用する場合には、300μl/ウェル以下で20μl/ウェルから150μl/ウェル程度が望ましい。更に、インキュベーションの条件にも特に制限はないが、通常4℃程度で一晩インキュベーションが適している。
【0087】
なお、担体に固相化させる抗原としては、抗体を作製したフェニトロチオン誘導体と高分子化合物との結合体自体のみならず、式(1)で表される他の誘導体と高分子化合物との結合体を用いることもできる。例えば、式(1)で表されている化合物でR、AまたはBが相違する抗原を各々抗体作製用と固相化用に用いることもできる。さらに、式(1)に含まれない他のフェニトロチオン類似化合物も、固相化抗原として使用することも可能である。
【0088】
(b)工程のブロッキングは、抗原(フェニトロチオン誘導体と高分子化合物との結合体)を固相化した担体において、フェニトロチオン誘導体部分以外に後で添加する抗体が吸着され得る部分が存在する場合があり、もっぱらそれを防ぐ目的で行われる。ブロッキング剤として、例えば、BSAやスキムミルク溶液を使用できる。あるいは、ブロックエース(「Block‐Ace」、大日本製薬社製、コードNo.UK−25B)等のブロッキング剤として市販されているものを使用することもできる。具体的には、限定されるわけではないが、例えば抗原を固相化した部分に、ブロッキング剤を含む緩衝液[例えば、1%BSAと60mM NaClを添加した85mM ホウ酸緩衝液(pH8.0)]を適量加え、約4℃、室温で、1時間から5時間インキュベーションした後、洗浄液で洗浄することにより行われる。洗浄液としては特に制限はないが、例えば、60mMNaClを添加した85mM ホウ酸緩衝液(pH8.0)を用いることができる。
【0089】
次いで(c)工程において、フェニトロチオンを含む試料と抗体を固相化抗原と接触させ、抗体を固相化抗原及びフェニトロチオンと反応させることにより、固相化抗原−抗体複合体及びフェニトロチオン−抗体複合体が生成する。
【0090】
この際、抗体としては、第一抗体として本願発明のフェニトロチオンに対する抗体を加え、更に第二抗体として標識酵素を結合した第一抗体に対する抗体を順次加えて反応させる。
【0091】
第一抗体は緩衝液に溶解して添加する。限定されるわけではないが、反応は、10℃から40℃、好ましくは25℃から37℃で約1時間行えばよい。反応終了後、緩衝液で担体を洗浄し、固相化抗原に結合しなかった第一抗体を除去する。洗浄液としては、例えば、60mM NaClを添加した85mM ホウ酸緩衝液(pH8.0)を用いることができる。
【0092】
次いで第二抗体を添加する。例えば第一抗体としてマウスモノクローナル抗体を用いる場合、酵素(例えば、ペルオキシダーゼ又はアルカリホスファターゼ等)を結合した抗マウス−ヤギ抗体を用いるのが適当である。担体に結合した第一抗体に約500倍から約10000倍、好ましくは最終吸光度が4以下、より好ましくは0.5−3.0となるように希釈した第二抗体を反応させるのが望ましい。希釈には緩衝液を用いる。限定されるわけではないが、反応は室温で約1時間行い、反応後、緩衝液で洗浄する。以上の反応により、第二抗体が第一抗体に結合する。また、標識した第一抗体を用いてもよく、その場合、第二抗体は不要である。
【0093】
次いで(d)工程において担体に結合した第二抗体の標識物質と反応する発色基質溶液を加え、吸光度を測定することによって検量線からフェニトロチオンの量を算出することができる。
【0094】
第二抗体に結合する酵素としてペルオキシダーゼを使用する場合には、例えば、過酸化水素、並びに3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジン又はο−フェニレンジアミン(以下、「OPD」と言う)を含む発色基質溶液を使用することができる。限定されるわけではないが、発色基質溶液を加え室温で約10分間反応させた後、1Nの硫酸を加えることにより酵素反応を停止させる。3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジンを使用する場合、450nmの吸光度を測定する。OPDを使用する場合、492nmの吸光度を測定する。一方、第二抗体に結合する酵素としてアルカリホスファターゼを使用する場合には、例えばp−ニトロフェニルリン酸を基質として発色させ、2NのNaOHを加えて酵素反応を止め、415nmでの吸光度を測定する方法が適している。
【0095】
フェニトロチオンを添加しない反応溶液の吸光度に対して、それらを添加して抗体と反応させた溶液の吸光度の減少率を阻害率として計算する。既知の濃度のフェニトロチオンを添加した反応液の阻害率により予め作成しておいた検量線を用いて、試料中のフェニトロチオンの濃度を算出できる。
【0096】
本発明のモノクローナル抗体FNP11は、間接競合阻害ELISA法でフェニトロチオンの量を約1ng/mlから約20ng/ml、好ましくは約2ng/mlから約13ng/mlの範囲で測定できる。またFNP165は、約0.1ng/mlから約10ng/ml、好ましくは約0.2ng/mlから約6ng/mlの範囲で測定できる(実施例9、図2)。
【0097】
あるいはフェニトロチオンの測定は、例えば以下に述べるような本発明のモノクローナル抗体を用いた直接競合阻害ELISA法によって行うこともできる。
(a)まず、本発明のモノクローナル抗体を、担体に固相化する。
【0098】
(b)抗体が固相化されていない担体表面を抗原と無関係な、例えばタンパク質により、ブロッキングする。
(c)各種濃度のフェニトロチオンを含む試料及び、フェニトロチオン誘導体と酵素を結合させた酵素結合ハプテンを、担体に固相化した抗体と反応させる。
【0099】
(d)固相化抗体−酵素結合ハプテン複合体の量を測定することにより、あらかじめ作成した、検量線から試料中のフェニトロチオンの量を決定する。
(a)工程においてモノクローナル抗体を固相化する担体としては、特別な制限はなくELISA法において常用されるものを用いることができ、例えば96ウェルのマイクロタイタープレートが挙げられる。モノクローナル抗体の固相化は、例えばモノクローナル抗体を含む緩衝液を担体上にのせ、インキュベートすることによって行える。緩衝液の組成・濃度は前述の間接競合阻害ELISA法と同様のものを採用できる。
【0100】
(b)工程のブロッキングは、抗体を固相化した担体において、後に添加する試料中のフェニトロチオン並びに酵素結合ハプテンが、抗原抗体反応とは無関係に吸着される部分が存在する場合があるので、それを防ぐ目的で行う。ブロッキング剤及びその方法は、前述の間接競合阻害ELISA法と同様のものを使用できる。
【0101】
(c)工程において用いる酵素結合ハプテンの調製は、フェニトロチオン誘導体を酵素に結合する方法であれば特に制限なく、いかなる方法で行ってもよい。例えば、前述した活性化エステル法を採用することができる。調製した酵素結合ハプテンは、フェニトロチオンを含む試料と混合する。
【0102】
なお、酵素等の標識物質に結合させるハプテンとしては、間接競合阻害ELISA法における固相化抗原の場合と同様に、抗体作製に使用したフェニトロチオン誘導体自体のみならず、式(1)で表される他の誘導体を用いることもできる。例えば、式(1)で表される化合物でR、AまたはBが相違する化合物を各々抗体作製用と標識競合用として用いることもできる。さらに、式(1)に含まれない他のフェニトロチオン類似化合物も、酵素に結合させるハプテンとして使用可能である。
【0103】
(c)工程においてフェニトロチオンを含む試料及び酵素結合ハプテンを抗体固相化担体に接触させ、フェニトロチオンと酵素結合ハプテンとの競合阻害反応により、これらと固相化担体との複合体が生成する。フェニトロチオンを含む試料は適当な緩衝液で希釈して使用する。限定されるわけではないが、反応は例えば、室温でおよそ1時間行う。反応終了後、緩衝液で担体を洗浄し、固相化抗体と結合しなかった酵素結合ハプテンを除去する。洗浄液は、例えば60mM NaClを添加した85mM ホウ酸緩衝液(pH8.0)を使用することができる。
【0104】
さらに、(d)工程において酵素結合ハプテンの酵素に反応する発色基質溶液を前述の間接競合阻害ELISA法と同様に加え、吸光度を測定することにより検量線からフェニトロチオンの量を算出することができる。
【0105】
本発明の抗体の交差反応性
上述した直接競合阻害ELISA法又は間接競合阻害ELISA法により、本発明のモノクローナル抗体の交差反応性を調べることができる。
【0106】
例えば、FNP11はフェニトロチオンの他にクロルチオンと高い反応性を示す。パラチオンメチルやパラチオンとは若干の交差反応性を示すが、フェンチオンとは全く反応しない。従って、FNP11を用いればより特異的にフェニトロチオンを測定することが可能である。
【0107】
一方、FNP165はFNP11より約10倍反応性が高いものの、クロルチオン、パラチオンメチル、パラチオンとも反応性を示す(実施例10、表1)。さらに、実施例11において、本発明のモノクローナル抗体の交差反応性を詳細に検討したところ、FNP165はフェニトロチオン、EPN、パラチオン及びパラチオンメチルと比較的高い反応性を示した(表2)。一方、フェニトロチオン及びパラチオンの主要代謝物(フェニトロオクソン、3−メチル−4−ニトロフェノールおよびパラオクソン)とはほとんど交差反応性を示さなかった(表3)。また、6種の有機リン系殺虫剤(ダイアジノン、クロルピリホス、シアノホス、ホキシム、フェンスルホチオンおよびフェンチオン)とはいずれも交差反応性が1%以下であった(表4)。
【0108】
従って、本発明のモノクローナル抗体FNP165を用いることにより、フェニトロチオン、EPN、パラチオン及びパラチオンメチルの4種の有機リン系殺虫剤を一群の化合物として特異的に測定することが可能である。農作物や環境水等の試料中にこれら4種の有機リン系殺虫剤が存在しているかどうかを調べるための効率的なスクリーニング法として、モノクローナル抗体FNP165は有効である。
【0109】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の技術的範囲を限定するためのものではない。当業者は本明細書の記載に基づいて容易に本発明に修飾、変更を加えることができ、それらは本発明の技術的範囲に含まれる。
【0110】
【実施例】
実施例1 フェニトロチオン誘導体−1の合成
【0111】
【化13】
Figure 0003950600
【0112】
(2)の合成
ジクロロチオリン酸エチル(1)1.8g(10mmol)と4−アミノ酪酸tert−ブチル1.6g(10mmol)をアセトニトリル150mlに溶解させ、炭酸カリウム4.3g(30mmol)を加えて室温で24時間撹拌した。反応液をセライトでろ過して、濃縮後、シリカゲルカラム(n−ヘキサン:酢酸エチル=4:1)で精製し、透明な油状物として1.6g(収率59%)の(2)を得た。
【0113】
(3)の合成
クロロチオリン酸誘導体(2)4.3g(15.9mmol)と3−メチル−4−ニトロフェノール2.43g(15.9mmol)のアセトニトリル溶液100mlに、炭酸カリウム6.0g(43.5mmol)を加えて60℃で3時間撹拌した。反応溶液をセライトでろ過し、ろ液を濃縮後にシリカゲルクロマトグラフィー(n−ヘキサン:酢酸エチル=9:1)で精製し、2.57g(収率42%)の(3)を得た。
【0114】
(4)の合成
ハプテンエステル(3)2.57g(6.64mmol)を150mlのジクロロメタンに溶解させ、トリフルオロ酢酸10mlを加えて室温で3時間撹拌した。反応溶液を減圧濃縮して、シリカゲルクロマトグラフィー(n−ヘキサン:酢酸エチル=4:1→1:1)で精製し、2.1g(収率95%)の(4)を得た。
【0115】
得られたフェニトロチオン誘導体−1の化学シフトデータを以下に示す。
1H−NMR(CDCl3
1.29−1.43(t,3H)、1.76−1.92(m,2H)
2.38−2.51(t,2H)、2.62(s,3H)
3.09−3.24(m,2H)、3.30−3.47(m,1H)
4.07−4.28(m,2H)、7.10−7.26(重複,2H)
7.98−8.09(d,1H)
実施例2 フェニトロチオン誘導体−2の合成
【0116】
【化14】
Figure 0003950600
【0117】
(5)の合成
ジクロロチオリン酸エチル(1)4.32g(24mmol)と3−トリフルオロメチル−4−ニトロフェノール5.0g(24mmol)をベンゼン150mlに溶解させ、炭酸カリウム8.6g(60mmol)を加えて80℃で2時間撹拌した。反応液をセライトでろ過して、濃縮後、シリカゲルカラム(n−ヘキサン→n−ヘキサン:酢酸エチル=49:1→19:1)で精製し、透明油状物として260mg(収率3%)の(5)を得た。
【0118】
(6)の合成
クロロチオリン酸誘導体(5)260mg(744μmol)と6−アミノカプロン酸tert−ブチル130mg(695μmol)のアセトニトリル溶液100mlに、炭酸カリウム300mg(2.2mmol)を加えて50℃以下で1時間撹拌した。反応溶液をセライトでろ過し、ろ液を濃縮後にシリカゲルクロマトグラフィー(n−ヘキサン:酢酸エチル=19:1→9:1→4:1)で精製し、290mg(収率78%)の(6)を得た。
【0119】
(7)の合成
ハプテンエステル(6)290mg(580μmol)を80mlのジクロロメタンに溶解させ、トリフルオロ酢酸5mlを加えて室温で2時間撹拌した。反応溶液を減圧濃縮して、シリカゲルクロマトグラフィー(n−ヘキサン:酢酸エチル=4:1→2:1→1:1)で精製し、200mg(収率78%)の(7)を得た。
【0120】
得られたフェニトロチオン誘導体−2の化学シフトデータを以下に示す。
1H−NMR(CDCl3
1.31−1.50(重複,5H)、1.50−1.76(m,4H)
2.31−2.42(t,2H)、 3.02−3.21(m,2H)
3.21−3.40(m,1H)、 4.09−4.28(m,2H)
7.52−7.67(重複,2H)、7.91−8.00(d,1H)
実施例3 フェニトロチオン誘導体−3の合成
【0121】
【化15】
Figure 0003950600
【0122】
(8)の合成
油性の水素化ナトリウム(60%)0.8g(20mmol)をTHF50mlに懸濁して、氷冷しながら3−メチル−4−ニトロフェノール3.1g(20mmol)のTHF溶液15mlを滴下した。30分撹拌後にジクロロチオリン酸エチル(1)3.7g(20mmol)のTHF溶液10mlを滴下した。3時間撹拌して、反応液をセライトでろ過、濃縮後にシリカゲルカラム(n−ヘキサン:酢酸エチル=19:1)で精製し、黄色油状物として3.6g(収率61%)の(8)を得た。
【0123】
(9)の合成
クロロチオリン酸誘導体(8)3.6g(12.2mmol)と4−アミノメチルシクロヘキサンカルボン酸tert−ブチル2.6g(12.2mmol)アセトニトリル溶液100mlに溶解し、炭酸カリウム1.8g(13mmol)を加えて50℃で1時間撹拌した。反応溶液をセライトでろ過し、ろ液を濃縮後にシリカゲルクロマトグラフィー(n−ヘキサン:酢酸エチル=19:1→9:1)で精製し、透明油状物として3.39g(収率59%)の(9)を得た。
【0124】
(10)の合成
ハプテンエステル(9)3.3g(7mmol)を80mlのジクロロメタンに溶解させ、トリフルオロ酢酸(TFA)5mlを加えて室温で2時間撹拌後に、再びTFAを5ml添加して更に1時間撹拌した。反応溶液を減圧濃縮して、シリカゲルクロマトグラフィー(酢酸エチル:ヘキサン=4:1→1:1)で精製し、白色結晶として2.56g(収率88%)の(10)を得た。
【0125】
得られたフェニトロチオン誘導体−3の化学シフトデータを以下に示す。
1H−NMR(CDCl3
0.87−1.07(m,2H)、1.30−1.53(重複,6H)
1.81−1.98(m,2H)、1.98−2.13(m,2H)
2.15−2.37(m,1H)、2.62(s,3H)
2.88−3.01(m,2H)、3.18−3.34(m,1H)
4.07−4.26(m,2H)、7.10−7.22(重複,2H)
7.96−8.18(d,1H)
実施例4 免疫用抗原及びスクリーニング用抗原の作製
実施例1ないし3で作製したフェニトロチオン誘導体−1ないし3をハプテンとして、各々3.5μmolをDMSO 50μlに溶解させた。次に、N−ヒドロキシこはく酸イミド(5μmol)をDMSO 10μlに溶解したものを当該溶液に添加した。さらに、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(4μmol)をDMSO 20μlに溶解して添加し、室温にて1.5時間反応させた。その後、当該反応溶液に85mMホウ酸緩衝液(pH8.0)500μlに溶解したKLHあるいはBSA各々10mgをさらに添加し、再び室温にて1.5時間反応させた。反応終了後、ダルベッコのリン酸緩衝液(以下、「PBS(−)」と言う)に対して透析し、フェニトロチオン誘導体1ないし3とKLHとの結合体(以下、「フェニトロチオン誘導体1ないし3−KLH」と言う)、フェニトロチオン誘導体1ないし3とBSAとの結合体(以下、「フェニトロチオン誘導体1ないし3−BSA」と言う)を各々調製した。
【0126】
実施例5 免疫感作
免疫には、Balb/cマウスを用いた。実施例4で調製したフェニトロチオン誘導体1ないし3−KLH100μgを、各々PBS(−)50μlに溶解し、等量のフロイント完全アジュバントと乳化混合した後、マウスの腹腔内に接種した。1カ月後に初回免疫の1/4量を追加免疫し、その一週間後、マウスの尾静脈から採血し、抗血清を調製した。また、さらにその10日後に追加免疫と同量を最終免疫した。
【0127】
実施例6 抗血清の力価の測定
実施例5で調製した抗血清の力価を、フェニトロチオン誘導体−BSAを用いたELISA法によって測定した。
【0128】
まず、PBS(−)に溶解したフェニトロチオン誘導体−BSA(4μg/ml)を、96ウェルのマイクロタイタープレートに100μl/ウェルで添加し、4℃で1晩静置することにより、固相化した。次に300μl/ウェルでブロッキング緩衝液{1%BSAと60mM NaClを添加した85mMホウ酸緩衝液(pH8.0)}に置き換え、室温で1時間ブロッキングした。このウェルを洗浄液(60mM NaClを添加した85mMホウ酸緩衝液(pH8.0))で洗浄した後、抗体希釈液{0.3%BSAと60mM NaClを添加した85mMホウ酸緩衝液(pH8.0)}で段階希釈した抗血清を100μl/ウェルで加え、室温で1時間反応させた。再び洗浄液で3回洗浄した後、抗体希釈液で1000倍希釈したペルオキシダーゼ結合抗マウスIgG抗体(カペル社製)を100μl/ウェルで添加し、室温で1時間反応させた。洗浄液で3回洗浄した後、ペルオキシダーゼの基質溶液{3,3’5,5’−テトラメチルベンチジン(100μg/ml)、0.006% 過酸化水素を添加した0.1M酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.5)}で10分間発色し、1N硫酸で反応停止後、450nmの吸光度を測定した。
【0129】
実施例7 抗血清のフェニトロチオンとの反応性
実施例6で活性の確認ができた抗血清について、フェニトロチオンに対する反応性を間接競合阻害ELISA法により評価した。
【0130】
まず実施例6と同様に固相化しブロッキングしたマイクロタイタープレートへ、希釈液{150mM NaClを添加した85mMホウ酸緩衝液(pH8.0)}で適当な濃度に希釈したフェニトロチオン溶液を50μl/ウェルで加えた。その後、実施例6のELISA法において、抗体過剰域で得られる吸光度の70%程度の吸光度を示すように希釈した抗体溶液を50μl/ウェルで加えて混合し、室温で1時間反応させた。3回洗浄した後、実施例6と同様に2次抗体と反応させ、発色後450nmの吸光度を測定した。
【0131】
結果を図1に示す。ここで、阻害率は以下の式で計算した。
【0132】
【化16】
Figure 0003950600
【0133】
フェニトロチオン誘導体1−KLHを用いて得られた抗血清は、フェニトロチオンと0.01μg/mlから10μg/mlの範囲でフェニトロチオンと反応した。また、フェニトロチオン誘導体2および3−KLHを各々用いて得られた抗血清は、0.1μg/mlから10μg/mlの範囲でフェニトロチオンと反応した。
【0134】
実施例8 モノクローナル抗体の作製
細胞融合には、 フェニトロチオン誘導体1−KLHで免疫したマウスを用いた。最終免疫後3日目のマウスの脾臓細胞をDMEM中に取り出し、DMEMにて3回洗浄した。洗浄後、同様に洗浄したマウスのミエロ−マ細胞P3−X63−Ag8.653と細胞数の比で5:1(脾臓細胞:ミエローマ細胞)となるように混合し、遠心(1,200rpm、5分間)して細胞沈殿物を回収した。当該細胞沈殿物に予め37℃に加温しておいた50%ポリエチレングリコール(分子量1,500)1mlを加え、細胞を融合した。次いで、DMEM 10mlを徐々に添加し、ウシ胎児血清(以下、「FBS」と言う)1mlを更に添加することにより、融合を停止した。DMEMにて1回洗浄後、10%FBSを添加したDMEMにヒポキサンチン(100μM)、アミノプテリン(0.4μM)、およびチミジン(16μM)を添加したHAT培地に懸濁し、96ウェルのポリスチレンプレートに2×105細胞/ウェルで分注し、37℃、5%二酸化炭素存在下で10ないし14日間培養した。培養後、ウェル中の抗体活性の有無を、実施例6に示したELISA法および実施例7に示した間接競合阻害ELISA法と同様の方法で、フェニトロチオンとの反応性を指標にスクリーニングした。
【0135】
フェニトロチオンとの反応性を認めたウェル中のハイブリドーマを、限界希釈法によって細胞クローニングし、モノクローナル抗体産生細胞とした。
このようにして、フェニトロチオンに反応するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを3株(FNP11、FNP165およびFNP232)分離した。これらから産生するモノクローナル抗体は、すべてIgG1だった。このうち、FNP165を平成10年10月29日に、寄託番号FERM P−17032で工業技術院生命工学工業技術研究所(〒305−0046 茨城県つくば市東1丁目1番3号)に寄託した。
【0136】
実施例9 間接競合ELISA法によるモノクローナル抗体FNP11及びFNP165のフェニトロチオンとの反応性
実施例8で得られた3株のハイブリドーマ細胞(FNP11、FNP165およびFNP232)が産生するモノクローナル抗体を精製し、抗フェニトロチオン抗体、FNP11、FNP165およびFNP232を得た(以後、モノクローナル抗体はこれらを産生するハイブリドーマと同一名称を用いる)。
【0137】
これらのモノクローナル抗体うちFNP11、FNP165について、フェニトロチオンとの反応性を、上述した実施例7と同様の間接競合阻害ELISA法によって検討した。
【0138】
結果を図2に示す。FNP11は2ng/mlないし13ng/mlの測定範囲で、またFNP165は0.2ng/mlないし6ng/mlの測定範囲でフェニトロチオンと反応した。
【0139】
実施例10 モノクローナル抗体とフェニトロチオン類縁化合物との交差反応性
得られたモノクローナル抗体FNP11及びFNP165について、フェニトロチオンの類縁化合物(有機リン系化合物)との交差反応性を間接競合阻害ELISA法により調べた。交差反応性は、類縁化合物未添加時の反応を50%阻害する化合物の濃度を各々IC50値として調べた。結果を表1に示す。
【0140】
【表1】
Figure 0003950600
【0141】
表1に示したように、FNP11はフェニトロチオンの他にクロルチオンと高い反応性を示した。パラチオンメチルやパラチオンとは若干の交差反応性を示したが、フェンチオンとは全く反応しなかった。一方、FNP165はFNP11より約10倍反応性が高いものの、クロルチオン、パラチオンメチル、パラチオンとも反応性を示した。
【0142】
従って、FNP11を用いればより特異的にフェニトロチオンを測定することが可能であり、FNP165を用いればフェニトロチオンやその類縁化合物を広範囲かつ高感度に測定することが可能である。
【0143】
実施例11 モノクローナル抗体FNP11、FNP165及びFNP232の有機リン系殺虫剤との交差反応性
実施例8で分離した3株のハイブリドーマが産生するモノクローナル抗体(FNP11、FNP165およびFNP232)とフェニトロチオンを含む4種の有機リン系殺虫剤(フェニトロチオン、EPN、パラチオン及びパラチオンメチル)との交差反応性を間接競合ELISA法によって検討した。交差反応性は、有機リン系殺虫剤未添加時の反応を50%阻害する化合物の濃度を各々IC50値として、以下の表2に示した。
【0144】
【表2】
Figure 0003950600
【0145】
表2からわかるように、モノクローナル抗体FNP165は、フェニトロチオン、EPN、パラチオン及びパラチオンメチルと比較的高い反応性を示した。
また同様に、モノクローナル抗体FNP165の、フェニトロチオン及びパラチオンの主要代謝物(フェニトロオクソン、3−メチル−4−ニトロフェノールおよびパラオクソン)との交差反応性を以下の表3に示した。
【0146】
【表3】
Figure 0003950600
【0147】
表3からわかるように、モノクローナル抗体FNP165は、フェニトロチオン及びパラチオンの主要代謝物(フェニトロオクソン、3−メチル−4−ニトロフェノールおよびパラオクソン)とほとんど交差反応性を示さなかった。
【0148】
同様に、モノクローナル抗体FNP165の、6種の有機リン系殺虫剤(ダイアジノン、クロルピリホス、シアノホス、ホキシム、フェンスルホチオンおよびフェンチオン)との交差反応性を調べた。6種の有機リン系殺虫剤の構造を以下の表4に示した。
【0149】
【表4】
Figure 0003950600
【0150】
表4中にも記載したように、これらの6種の有機リン系殺虫剤(ダイアジノン、クロルピリホス、シアノホス、ホキシム、フェンスルホチオンおよびフェンチオン)はいずれも交差反応性が1%以下であった。
【0151】
従って、本発明のモノクローナル抗体FNP165を用いることにより、フェニトロチオン、EPN、パラチオン及びパラチオンメチルの4種の有機リン系殺虫剤を一群の化合物として特異的に測定することが可能である。農作物や環境水等の試料中にこれら4種の有機リン系殺虫剤が存在しているかどうかを調べるための効率的なスクリーニング法として、モノクローナル抗体FNP165は有効である。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、本発明のフェニトロチオン誘導体を用いて得られた抗血清の間接競合ELISA法によるフェニトロチオンとの反応性を示す。
【図2】図2は、本発明のモノクローナル抗体FNP11及びFNP165の間接競合阻害ELISA法によるフェニトロチオンとの反応性を示す。

Claims (8)

  1. 以下の式(1):
    Figure 0003950600
    [式(1)中、
    Rは、エチル基であり;
    Aは、以下の式(2):
    Figure 0003950600
    からなるグループから選択され、ここにおいてnは3−10の整数である;そして
    Bは、所望により1ないし3のハロゲンによって置換されていてもよいメチル基である。]
    で表される構造を有する化合物と高分子化合物を結合させることにより抗原を作製し、当該抗原を用いることにより、以下の式(3):
    Figure 0003950600
    で表される構造を有する化合物、パラチオンメチル、パラチオンおよびEPNに反応性を示すモノクローナル抗体を製造することを特徴とし、ここで製造されるモノクローナル抗体が、式(3)の化合物に対する結合活性を100%とした場合に、EPN、パラチオンまたはパラチオンメチルのうち最も結合活性が弱い化合物に対しても少なくとも25%の結合活性を有する、式(3)の化合物、パラチオンメチル、パラチオンおよびEPNに反応性を示すモノクローナル抗体又は抗原と結合可能なそのフラグメントの製造方法。
  2. 以下の式(1):
    Figure 0003950600
    [式(1)中、
    Rは、エチル基であり;
    Aは、以下の式(2):
    Figure 0003950600
    からなるグループから選択され、ここにおいてnは3−10の整数である;そして
    Bは、所望により1ないし3のハロゲンによって置換されていてもよいメチル基である。]
    で表される構造を有する化合物と高分子化合物又は標識物質との結合体を抗原として用いることにより製造された、式(3)の化合物、パラチオンメチル、パラチオンおよびEPNに反応性を示すモノクローナル抗体又は抗原と結合可能なそのフラグメントであって、ここでモノクローナル抗体又は抗原と結合可能なそのフラグメントが、式(3)の化合物に対する結合活性を100%とした場合に、EPN、パラチオンまたはパラチオンメチルのうち最も結合活性が弱い化合物に対しても少なくとも25%の結合活性を有する、前記モノクローナル抗体又は抗原と結合可能なそのフラグメント。
  3. 寄託番号FERM P−17032で寄託されているハイブリドーマによって産生されるモノクローナル抗体FNP165又はその抗原と結合可能なそのフラグメントである、請求項2に記載のモノクローナル抗体又は抗原と結合可能なそのフラグメント。
  4. 請求項2または3に記載のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ。
  5. 寄託番号FERM P−17032で寄託されている、請求項4に記載のハイブリドーマ。
  6. 請求項2または3に記載のモノクローナル抗体又は抗原と結合可能なそのフラグメントを用いることを特徴とする、式(3)で表される化合物、EPN、パラチオン、およびパラチオンメチルの免疫学的測定方法。
  7. 寄託番号FERM P−17032で寄託されているハイブリドーマによって産生されるモノクローナル抗体FNP165又は抗原と結合可能なそのフラグメントを用いることを特徴とする、請求項6に記載の免疫学的測定方法。
  8. さらに、以下の式(1):
    Figure 0003950600
    [式(1)中、
    Rは、エチル基であり;
    Aは、以下の式(2):
    Figure 0003950600
    からなるグループから選択され、ここにおいてnは3−10の整数である;そして
    Bは、所望により1ないし3のハロゲンによって置換されていてもよいメチル基である。]
    で表される構造を有する化合物、又は該化合物と高分子化合物もしくは標識物質との結合体を用いることを含む、請求項6または7に記載の免疫学的測定方法。
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