JP3847460B2 - パルス電源装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、レーザ用パルス放電などに利用される磁気スイッチ(可飽和リアクトル)を用いたパルス電源装置に関し、特に高繰り返し周波数のパルスパワーを実現するための改良に関する。
【0002】
【従来の技術および発明が解決しようとする課題】
高出力パルスレーザや加速器用のパルス電源装置として、 近年、サイラトロン、GTOなどの主スイッチの耐久性の向上のために磁気パルス圧縮回路を使用したものが用いられることが多い。
【0003】
図9はパルスレーザのパルス電源に用いられる一般的な容量移行型の磁気パルス圧縮装置の等価回路を示すもので、図10は図9の回路各部における電圧及び電流の波形例を示すものである。
【0004】
この図9の放電回路は、可飽和リアクトルから成る3個の磁気スイッチAL0〜AL2の飽和現象を利用した2段の磁気パルス圧縮回路である。
【0005】
図9においては、まず、コンデンサC0に、磁気スイッチAL0、コイルL1を介して高電圧電源HVからの電荷をチャージしておく。
【0006】
この後、パルスレーザ発振の繰り返し周波数に同期してオンになるパルス発振同期信号(トリガ信号)TRが入力されると、この時点で主スイッチSWがオンにされる(図10時刻t0)。主スイッチSWがオンになると、主スイッチSWの電位VSWが0に急激に下がり、この後磁気スイッチAL0の両端電圧であるコンデンサC0と主スイッチSWの電圧差VC0−VSWの時間積(電圧VC0の時間積分値)S0が磁気スイッチAL0の設定特性で決まる限界値に達すると、この時点t1において磁気スイッチAL0は飽和し、コンデンサC0、磁気スイッチAL0、主スイッチSW、コンデンサC1のループに電流パルスi0が流れる。
【0007】
この電流パルスi0が流れ始めてから0になる(時刻t2)までの時間δ0、即ちコンデンサC0からコンデンサC1に電荷が完全に移行されるまでの電荷転送時間δ0は、主スイッチSWなどによる損失を無視すれば、磁気スイッチAL0の飽和時のインダクタンス、コンデンサC0、コンデンサC1の各容量によって決定される。
【0008】
一方、コンデンサC1の電圧VC1の時間積S1が磁気スイッチAL1の設定特性で決まる限界値に達すると、この時点t3において磁気スイッチAL1は飽和し、低インダクタンスとなる。これにより、コンデンサC1、コンデンサC2、磁気スイッチAL1のループに電流パルスi1が流れる。この電流パルスi1は、コンデンサC1、C2の容量および磁気スイッチAL1の飽和時のインダクタンスによって決定される所定の転送時間δ1を経由した後、時刻t4で0になる。
【0009】
また、コンデンサC2の電圧VC2の時間積S2が磁気スイッチAL2の設定特性で決まる限界値に達すると、この時点t5において磁気スイッチAL2は飽和し、これにより、コンデンサC2、ピーキングコンデンサCP、磁気スイッチAL2のループに電流パルスi2が流れる。
【0010】
その後、ピーキングコンデンサCpの電圧VCpは充電の進展とともに上昇し、この電圧VCpが所定の主放電開始電圧に達すると、この時点t6において主電極10間のレーザガスが絶縁破壊されて主放電が開始される。この主放電によってレーザ媒質が励起され、数nsec後にレーザ光が発生される。
【0011】
この後、主放電によってピーキングコンデンサCpの電圧は急速に低下し、所定時間経過後に充電開始前の状態に戻る。
【0012】
このような放電動作が、トリガ信号TRに同期した主スイッチSWのスイッチング動作によって繰り返し行われることにより、所定の繰り返し周波数(パルス発振周波数)でのパルスレーザ発振が行われる。
【0013】
また、この場合、磁気スイッチおよびコンデンサで構成される各段の電荷転送回路のインダクタンスが後段にいくにつれ小さくなるように設定されているので、電流パルスi0〜i2のピーク値が順次高くなりかつその通電幅も順次狭くなるようなパルス圧縮動作が行われ、この結果主電極6間に短時間での強い放電が得られることになる。
【0014】
このような磁気圧縮回路において、例えばコンデンサC0からコンデンサC1への電荷転送を考えた場合、その電荷転送時間δ0は下式のようになる。
【0015】
δ0/2=2π√(LC) …(1)
ただし、C=C0・C1/(C0+C1)で、Lは磁気スイッチAL0の飽和時のインダクタンスである。
【0016】
コンデンサC1からコンデンサC2への電荷転送、コンデンサC2からコンデンサCpへの電荷転送も同様であり、それらの電荷転送時間も上式(1)によって決定される。
【0017】
このようにコンデンサ間の電荷転送時間は、磁気スイッチの飽和時のインダクタンスおよび転送側コンデンサ及び被転送側コンデンサの容量によって決定される。
【0018】
しかしながら、従来の磁気圧縮回路においては、各段毎に1個のコンデンサと1個の磁気スイッチを設け、これら1個のコンデンサ及び磁気スイッチから成る回路構成を多段接続することで電流パルスの圧縮を行なうようにしていたので、上記式(1)によって決定される電荷転送時間より短い電荷転送時間を実現することが困難であった。この転送時間を短くするには、上記(1)式のCまたはL或いはその双方を小さくしなければならない。Cを小さくすることはパルスエネルギーを小さくすることになり、Lは物理的な形状などからの制約故にこれを小さくすることは困難である。
【0019】
この発明はこのような実情に鑑みてなされたもので、高繰り返し周波数のパルスパワーを実現するパルス電源装置を提供することを目的とする。
【0020】
【課題を解決するための手段及び作用効果】
請求項1に対応する発明では、充電電源に対し直列に接続された複数の可飽和リアクトルと、充電電源によって充電される初段のコンデンサと、充電電源に対し並列に接続された複数のコンデンサとによって複数段のLC回路を構成し、初段のコンデンサの電荷を可飽和リアクトルの磁気飽和現象を利用して順次後段のコンデンサに磁気パルス圧縮して転送するパルス電源装置において、前記可飽和リアクトルおよびコンデンサを有して構成される各段のLC回路を複数個の可飽和リアクトルおよび複数個のコンデンサの並列回路に分割するようにしたことを特徴とする。
【0021】
かかる請求項1の発明によれば、可飽和リアクトルおよびコンデンサを有して構成される各段のLC回路を複数個(n個)の可飽和リアクトルおよび複数個(n個)のコンデンサの並列回路に分割する。
【0022】
転送側コンデンサ(容量C1)をn個のコンデンサの並列回路に分割しているので、各コンデンサの容量はC1/nとなる。被転送側コンデンサ(容量C2)も同様であり、各コンデンサの容量はC2/nとなる。
【0023】
従って、各段での電荷転送時間δは、次式のようになる。
【0024】
δ/2=2π√(L・(C/n))
ただし、C=C1・C2/(C1+C2)
このように、各段のLC回路をn個の可飽和リアクトルおよびn個のコンデンサの並列回路に分割するようにしているので、各段での電荷転送時間は、これと同じ容量の1個の転送コンデンサから被転送コンデンサへ電荷転送を行った場合に比べ、1/√(n)となる。
【0025】
したがって、この発明では、電荷転送量を増やすことなく電荷転送時間を従来に比べ短くすることができ、これにより高繰り返し周波数のパルスパワーを実現することができる。
【0026】
請求項2に対応する発明では、請求項1の発明において、同一段のLC回路に含まれる前記複数の過飽和リアクトルは、1つの共通の磁心と、この共通の磁心に巻回される複数のコイルとを有して構成されることを特徴とする
この請求項2の発明では、同一段のLC回路に含まれる複数の過飽和リアクトルの各コイルを共通の磁心(コア)に巻回することにより、同一段の複数の可飽和リアクトルが飽和するタイミングを一致させ、これにより並列に構成した同一段の複数の磁気パルス圧縮回路の電荷転送タイミングを一致させるようにしている。
【0027】
請求項3に対応する発明では、請求項1の発明において、同一段のLC回路に含まれる前記複数の可飽和リアクトルは、複数個の磁心と、これら複数個の磁心のうちの2つ以上の磁心にまたがるように巻回された複数のコイルを有して構成されることを特徴とする。
【0028】
この請求項3の発明では、同一段のLC回路に含まれる複数の過飽和リアクトルとして、複数個のコアを用い、各可飽和リアクトルのコイルを2つ以上のコアに跨るように巻回する磁気結合を利用することで、同一段の複数の可飽和リアクトルが飽和するタイミングを一致させ、これにより並列に構成した同一段の複数の磁気パルス圧縮回路の電荷転送タイミングを一致させるようにしている。
【0029】
【発明の実施の形態】
以下この発明の実施形態を添付図面に従って詳細に説明する。
【0030】
図1はこの発明にかかる磁気パルス圧縮回路の一実施形態を示す等価回路図である。この場合、磁気パルス圧縮回路は1段の圧縮回路である。
【0031】
図1においては、充電電源HVの出力端にサイラトロン、GTOなどの主スイッチが並列に接続されている。
【0032】
充電電源HVの電荷が最初に充電される初段のコンデンサは並列に接続された4つのコンデンサ1〜4に分割されている。これら4つのコンデンサの容量は、Ca/4であるので、その合成容量はCaとなる。各コンデンサ1〜4に対し直列に第1段目の可飽和リアクトル5〜8が接続されている。これら可飽和リアクトル5〜8の飽和時のインダクタンスはそれぞれLとする。
【0033】
初段のコンデンサ1〜4の電荷がそれぞれ転送される2段目のコンデンサは、並列接続された4つのコンデンサ11〜14に分割されている。これら4つのコンデンサ11〜14の各容量はCb/4であるので、それらの合成容量はCbとなる。
【0034】
第2段目の可飽和リアクトルは、並列接続された4つの可飽和リアクトル15〜18に分割されており、第2段目のコンデンサ11〜14にそれぞれ並列接続されている。
【0035】
第2段目のコンデンサ11〜14の電荷が転送される最終段のコンデンサ(ピーキングコンデンサ)Cpは分割されてはいない。このピーキングコンデンサCpに放電電極10、コイルLが並列に接続されている。
【0036】
図1の磁気パルス圧縮回路は次のように動作する。
【0037】
すなわち、まず、コンデンサ1〜4に、可飽和リアクトル5〜8、可飽和リアクトル15〜18、コイルLを介して高電圧電源HVからの電荷をチャージしておく。
【0038】
この後、主スイッチSWがオンになると、可飽和リアクトル5の両端にコンデンサ1による放電電圧がかかり、この放電電圧の時間積が可飽和リアクトル5の設定特性で決まる限界値に達すると、この時点に可飽和リアクトル5は飽和し、コンデンサ1、主スイッチSW、コンデンサ11、可飽和リアクトル5のループに電流パルスi11が流れる。
【0039】
また、主スイッチSWがオンになると、可飽和リアクトル6の両端にコンデンサ2による放電電圧がかかり、この放電電圧の時間積が可飽和リアクトル6の設定特性で決まる限界値に達すると、この時点に可飽和リアクトル6は飽和し、コンデンサ2、主スイッチSW、コンデンサ12、可飽和リアクトル6のループに電流パルスi12が流れる。
【0040】
また、同様にして、コンデンサ3、主スイッチSW、コンデンサ13、可飽和リアクトル7のループに電流パルスi13が流れ、コンデンサ4、主スイッチSW、コンデンサ14、可飽和リアクトル8のループに電流パルスi14が流れる。
【0041】
このようにして初段のコンデンサ1〜4の電荷が第2段目のコンデンサ11〜14に転送される。
【0042】
つぎに、コンデンサ11の電圧の時間積が可飽和リアクトル15の設定特性で決まる限界値に達すると、この時点において可飽和リアクトル15は飽和し、これにより、コンデンサ11、ピーキングコンデンサCp、可飽和リアクトル15のループに電流パルスi21が流れる。
【0043】
同様にして、電流パルスi21と並行に、コンデンサ12、ピーキングコンデンサCp、可飽和リアクトル16のループに電流パルスi22が流れ、コンデンサ13、ピーキングコンデンサCp、可飽和リアクトル17のループに電流パルスi23が流れ、コンデンサ14、ピーキングコンデンサCp、可飽和リアクトル18のループに電流パルスi24が流れる。
【0044】
ピーキングコンデンサCpの電圧は充電の進展とともに上昇し、この電圧が所定の主放電開始電圧に達すると、主電極10間のレーザガスが絶縁破壊されて主放電が開始される。この主放電によってレーザ媒質が励起され、レーザ光が発生される。この後、主放電によってピーキングコンデンサCpの電圧は急速に低下し、所定時間経過後に充電開始前の状態に戻る。
【0045】
このような放電動作が、トリガ信号TRに同期した主スイッチSWのスイッチング動作によって繰り返し行われることにより、所定の繰り返し周波数(パルス発振周波数)でのパルスレーザ発振が行われる。
【0046】
このようにこの磁気パルス圧縮回路においては、可飽和リアクトルおよびコンデンサを有して構成される各段のLC回路を複数個の可飽和リアクトルおよび複数個のコンデンサの並列回路に分割するようにしている。
【0047】
ここで、初段のコンデンサ1〜4から第2段目のコンデンサ11〜14への電荷転送を考える。
【0048】
初段のコンデンサ1〜4の各容量はCa/4で、第2段目のコンデンサの各容量はCb/4であるので、これら電荷転送時間δは次式のようになる。
【0049】
δ/2=2π√(L・(C/4))
ただし、C=Ca・Cb/(Ca+Cb)
すなわち、この場合の電荷転送時間δは、これと同じ容量の1個の転送コンデンサから被転送コンデンサへ電荷転送を行った場合に比べ、1/√(4)となる。したがって、この実施形態では、電荷転送量を低下させずに電荷転送時間を従来に比べ短くすることができ、これにより高繰り返し周波数のパルスパワーを実現することができる。
【0050】
図2にこの発明の他の実施形態を示す。
【0051】
この図2に示す実施形態においては、同一段のLC回路に含まれる複数の可飽和リアクトルの磁心(コア)を共通にするようにしている。
【0052】
すなわち、図1に示したように、各段のLC回路を複数個に分割して、電荷転送を行ったとしても、最終段では各電流パルスを1つにまとめる必要がある。すなわち、各圧縮段で電流パルス幅を圧縮して短いパルスをつくったとしても、最終段でこれらをまとめるタイミングがずれると、これら短いパルスが時間がずれて重畳されることになり、最終的に目的とする短いパルスは得られない。そこで、図2の磁気パルス圧縮回路においては、同一段のLC回路に含まれる複数の可飽和リアクトルの磁心(コア)を共通にすることで、同一段の複数の可飽和リアクトルの飽和タイミングを一致させるようにしている。
【0053】
図3は、その具体的構成を示すもので、この場合は初段のLC回路の4個の可飽和リアクトル5〜8を示している。図3において、20は可飽和リアクトル5の巻き線で、21は可飽和リアクトル6の巻き線で、22は可飽和リアクトル7の巻き線で、23は可飽和リアクトル8の巻き線であり、これらの巻き線20〜23を共通の1つのコア25に巻回するようにしている。
【0054】
可飽和リアクトルにおいては、可飽和リアクトルに電圧が印加されたとしても最初はコアの透磁率が極めて大きいため巻き線のインダクタンスも充分大きく、このため巻き線を流れる電流は極めてゆっくり増えていく。この電流が作る磁束がコアの飽和磁束密度を超えたときコアは飽和し、これによりコアの透磁率が急激に小さくなって巻き線を流れる電流が一気に増加する。これが可飽和リアクトルの動作である。
【0055】
この実施形態では、同一のコア25を用いて同一段の複数の可飽和リアクトルを構成しているために、各種のばらつき要因によってコアが飽和する前に、巻き線20〜23を流れる電流の変化に多少のばらつきがあったとしても、これら同一段の複数の可飽和リアクトルの飽和タイミングが一致し、これらの可飽和リアクトル20〜23が介在する電荷転送のタイミングを揃えることができる。
【0056】
なお、図2においては、第2段目の可飽和リアクトル15〜18に関しても、同一のコアが用いられている。
【0057】
次に、図4及び図5に、同一段の複数の可飽和リアクトルの飽和タイミングを一致させるための他の形態を示す。図5は、図4の平面図である。
【0058】
この図4及び図5の実施形態も、図2の初段のLC回路の4個の可飽和リアクトル5〜8を示している。この図4及び図5の実施形態では、複数(この場合4個)のコア30〜33を用い、2つのコアに跨って各可飽和リアクトル5〜8の巻き線35〜38を巻回するようにしている。35は可飽和リアクトル5の巻き線、36は可飽和リアクトル6の巻き線、37は可飽和リアクトル7の巻き線、38は可飽和リアクトル8の巻き線とする。
【0059】
すなわち、巻き線35をコア30および31に跨って巻き、巻き線36をコア31及び32に跨って巻き、巻き線37をコア32および33に跨って巻き、巻き線38をコア33及び30に跨って巻くようにしている。
【0060】
図5に付した矢印のうち巻き線に平行して付した矢印は電流の向きを示しており、各コア30〜33中に示した矢印は、各巻き線によって作られる磁界の向きを示している。ここで、これらの磁界の向きは、反時計方向→時計方向→反時計方向というように1個単位に逆向きになるようにコイルの巻き方向および電流の向きを調整する必要がある。また、このような1個単位に逆向きの磁界を実現するためには、図4の実施形態のようにコアを環状に結合した場合、コアの個数は偶数であることが必要となる。
【0061】
図4及び図5の可飽和リアクトル5〜8は次のように動作する。
【0062】
各巻き線35〜38を流れる電流にはばらつきがあり、また各コア30〜33の飽和密度にも差があるとする。
【0063】
各巻き線35〜38に電圧が印加されると、各コア30〜33の巻き線には、各巻き線を流れる電流を打ち消すように電圧が発生し、これが電流の増加を抑える。最初は各コア30〜33の透磁率が極めて大きいため巻き線のインダクタンスも充分大きく、このため巻き線を流れる電流は極めてゆっくり増えていく。この電流増加によって各コア30〜33の磁束密度も増加し、同じように飽和に近づいていく。そして、電流が作る磁束がコアの飽和磁束密度を超えたときコアは飽和する。
【0064】
仮に1つのコア30が飽和に達したとすると、このコア30に巻回されている巻き線35および38を流れる電流が急激に増加する。これらの電流増加によってコア30に隣接しているコア31および33の磁束密度も急激に増加し、これによってコア31及び33も直ちに飽和する。
【0065】
この結果、コア31及び33に巻回されている巻き線36および37を流れる電流が急激に増加する。
【0066】
そして、これらの電流増加によって残るコア32も直ちに飽和する。
【0067】
このようにして、4個のコアのうちのどれが先に飽和したとしても、残り3個のコアも直ちに飽和することになり、これら4個の可飽和リアクトル5〜8の飽和タイミングを一致させることが可能になる。
【0068】
この図4および図5に示す実施形態では、複数のコアを用いてこれら複数のコアの飽和タイミングを揃えるようにしているので、先の図3に示した1つのコアに複数の巻き線を巻く場合に比べ、並列回路の個数が多くなった場合の対処が容易である。
【0069】
なお、図4及び図5の場合は、巻き線を2つのコアに跨って巻回するようにしたが、3つ以上のコアに跨って巻き線を巻回するようにしてもよい。
【0070】
図6にこの発明の他の実施形態を示す。
【0071】
この図6の実施形態においても、各段のLC回路の可飽和リアクトルおよびコンデンサを複数の並列回路に分割した点は先の図1に示した実施形態と同様であるが、この図6の実施形態では電荷転送の手法が先の図1の実施形態と異なっている。
【0072】
まず、図7を用いて各段のLC回路の可飽和リアクトルおよびコンデンサを複数の並列回路に分割しない場合の電荷転送動作について説明する。
【0073】
図7に示す磁気パルス圧縮回路では、スイッチ素子SWと、直列接続された可飽和リアクトルSL1およびコンデンサC1とがそれぞれ充電用直流電源HVに並列接続される。また、直列接続された可飽和リアクトルSL2およびコンデンサC2はコンデンサC1に並列接続される。さらに、直列接続された可飽和リアクトルSL3、ダイオードD1およびピーキングコンデンサCpはコンデンサC2に並列接続される。また、レーザ放電部LDがピーキングコンデンサCpに並列接続される。この場合、ダイオードD1はピーキングコンデンサCpから可飽和リアクトルSL3への方向を導通方向としている。即ち、ダイオードD1は、パルス圧縮転送時におけるエネルギー転送方向を導通方向としている。
【0074】
この図7の磁気パルス圧縮回路の動作を図8のタイムチャートを用いて説明する。
【0075】
まず、図7において、充電用直流電源1によって印加される直流高電圧によってコンデンサC1およびコンデンサC2が充電される。コンデンサC1には、可飽和リアクトルSL1を介して充電され、コンデンサC2には、可飽和リアクトルSL1,SL2を介して充電される。この充電は、可飽和リアクトルSL1,SL2が飽和しなくても十分な時間をかけて直流高電圧を印加することによって実現できる。電流の急激な変動がない場合、インダクタンスは小さくなるからである。一方、ピーキングコンデンサCpは充電されない。ダイオードD1によってピーキングコンデンサCpへの電荷移動が阻止されるからである。
【0076】
従って、図8に示すように、充電が完了した段階におけるコンデンサC1,C2の端子電圧VC1,VC2はそれぞれ+Eボルト(点P1)、ピーキングコンデンサCpの端子電圧Vcpは0ボルト(点P2)となっている。
【0077】
その後、主スイッチSWをオンにするとコンデンサC1に蓄積された電荷の転送が開始される。すなわち、スイッチ素子SWのオンによって可飽和リアクトルSL1の端子電圧が急激に増大し、この後この電圧時間積が可飽和リアクトルSL1の飽和限界に達すると可飽和リアクトルSL1は飽和し、可飽和リアクトルSL1のインダクタンスが急激に減少してオン状態となる。
【0078】
この結果、コンデンサC1に蓄積された電荷は電流I1として流れ、コンデンサC1の極性が反転する。すなわち、図8に示すようにコンデンサC1の端子電圧VC1は+Eボルトから−Eボルトに変化する。このコンデンサC1の極性反転の期間T1において、コンデンサC2に蓄積されていた電荷は、可飽和リアクトルSL1,SL2間の電圧降下によって可飽和リアクトルSL2がオフ状態であるにもかかわらず、可飽和リアクトルSL1を介して放電し、またコンデンサC2、リアクトルSL2、コンデンサC1を経て放電して、微小な電圧降下が生じる(点P3)。
【0079】
その後、コンデンサC1の極性反転による電荷転送終了直後に可飽和リアクトルSL2がオンとなり、極性反転によって転送されてコンデンサC1に蓄積された電荷およびコンデンサC2に蓄積された電荷が電流I2として流れ、コンデンサC2の極性が反転されるとともに、コンデンサC1の電荷がコンデンサC2に転送される。コンデンサC1とコンデンサC2との容量比が3:1のときには、図8に示すように、コンデンサC1の端子電圧VC1は−Eボルトから0ボルトとなり、コンデンサC2の端子電圧VC2はほぼ+Eボルトから−Eボルトに変化する。このコンデンサC1からコンデンサC2への電荷転送およびコンデンサC2の極性反転の期間T2において、ピーキングコンデンサCpの電荷は、ダイオードD1および可飽和リアクトルSL3を介して漏れることになるが、可飽和リアクトルSL2がオンになった時点では、可飽和リアクトルSL3の電位に対して可飽和リアクトルSL2の電位の方が高いため、ピーキングコンデンサCpの電荷は漏れない。そして、可飽和リアクトルSL2と可飽和リアクトルSL3との電位が同じとなった時点P5から、ピーキングコンデンサCpの電荷の漏れが開始する。この結果、ピーキングコンデンサCpの漏れ電荷による端子電圧Vcpの電圧降下ΔVの値は、可飽和リアクトルSL2がオンとなる時点P4から電荷漏れが開始した場合の電圧降下ΔV1の値に比較して半減あるいはそれ以下の微小な値となる。これにより、ピーキングコンデンサCpに電荷が転送される前のピーキングコンデンサCpの端子電圧Vcpの値は0ボルト近傍に効果的に抑えられることになる。
【0080】
ここで、通常、レーザ放電部LDからのレーザ発振出力を制御する場合、レーザ放電部LDに対する印加電圧を制御することが行われるが、上述したようにレーザ放電部LDに供給すべきピーキングコンデンサCpからの印加電圧量、電荷量等のエネルギー量を正確に把握することができ、精度の高い、安定したパルスレーザ出力に制御することが可能となる。
【0081】
その後、コンデンサC2への電荷転送終了直後に可飽和リアクトルSL3がオンとなり、コンデンサC2に蓄積された電荷が電流I3として流れ、コンデンサC2の電荷がピーキングコンデンサCpに転送される。すなわち、図8に示すように、期間T3において、コンデンサC2の端子電圧VC2は−Eボルトから0ボルトに向かい、ピーキングコンデンサCpの端子電圧VCPはほぼ0ボルトから−Eボルトに向かって変化する。
【0082】
そして、ピーキングコンデンサCpに転送された電荷は、電流I4としてレーザ放電部LDに印加され、レーザ放電部LDの放電によってレーザ媒質が励起され、レーザ発振することになる。レーザ放電部LDで消費された電流以外の残余の電流は、その後レーザ放電部LDとピーキングコンデンサCpおよびリアクトルSL1,SL2,SL3、コンデンサC1,C2間で数回共振するが、その都度ダイオードD1、可飽和リアクトルSL2,SL3を介して電流I5としてコンデンサC1,C2に回生される。しかも、ダイオードD1の整流作用によってダイオードD1を介してコンデンサC1,C2に回生された電荷はピーキングコンデンサCpに戻ることが阻止される。このため、ピーキングコンデンサCpの電位は負にバイアスされることはあっても、正にバイアスされることはない。
【0083】
このように、ピーキングコンデンサCpに転送された電荷は、レーザ放電部LDの放電に寄与するとともに、残余の電荷は再びコンデンサC1,C2に回生され、次の充電エネルギーを削減することができ、エネルギー消費効率を非常に大きくすることができる。
【0084】
図6の実施形態は、図7の磁気パルス圧縮回路の各段の可飽和リアクトル及びコンデンサを並列接続したものであり、第1段目のLC回路を複数の(この場合3個)可飽和リアクトルSL11〜SL13の並列回路および複数の初段コンデンサC11〜C13の並列回路によって分割し、第2段目のLC回路を複数の可飽和リアクトルSL21〜SL23の並列回路および複数のコンデンサC21〜C23の並列回路によって分割し、第3段目の可飽和リアクトルを複数の可飽和リアクトルSL31〜SL33によって並列分割し、第3段目の可飽和リアクトルSL31〜SL33に対して直列に図7のダイオードD1と同様の作用をなすダイオードD1〜D3を接続するようにしている。
【0085】
この図6の回路における電荷転送動作は先の図7のものと基本的には同じであるが、この図6の回路では、各段の可飽和リアクトル及びコンデンサを並列回路に分割するようにしているので、各段のコンデンサ容量がC/nとなり、各電荷転送段での電荷転送時間を図7の回路に比べ1/√nに短くすることが可能になる。また、図3に示した手法または図4に示した手法を用いて同一段の複数の可飽和リアクトルの飽和タイミングを揃えるようにしているので、パルス幅の狭い電流パルスを実現することができる。
【0086】
なお、上記図1、図2、あるいは図6に示す実施形態では、全ての段のコンデンサおよび過飽和リアクトルを並列回路に分割するようにしたが、図11(a)(b)に示すように、スピードが要求される2段目以降のみを並列回路に分割するようにしてもよく、また図11(c)(d)に示すように、最終団のLC回路のみを並列回路に分割するようにしてもよい。なお、図11(a)(c)の回路は図1または図2の実施形態の回路を基にしており、また図11(b)(d)の回路は図6の実施形態の回路を基にしている。
【0087】
また、上述した実施の形態におけるスイッチ素子SWは、高速動作が可能で大電力用のスイッチ素子であればよく、例えばサイリスタ、IGBT(絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)、バイポーラトランジスタ、MOSFET等の半導体電力デバイスが適用できる。
【0088】
また、スイッチ素子SWは、複数のスイッチ素子を直列接続した構成として各スイッチ素子にかかる耐圧を軽減するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の実施形態を示す等価回路図。
【図2】この発明の他の実施形態を示す等価回路図。
【図3】可飽和リアクトルの構造を示す斜視図。
【図4】可飽和リアクトルの他の構造例を示す斜視図。
【図5】図4の可飽和リアクトルの平面図。
【図6】この発明の他の実施形態を示す等価回路図。
【図7】図6の実施形態における基本的回路構成を示す等価回路図。
【図8】図7の回路の各部の電圧波形を示すタイムチャート。
【図9】従来技術を示す回路図。
【図10】図9の回路の各部の電圧電流波形を示すタイムチャート。
【図11】この発明の他の実施形態を示す等価回路図。
【符号の説明】
1〜4,11〜14…コンデンサ
5〜8,15〜18…可飽和リアクトル
HV…充電電源
SW…主スイッチ
Cp…ピーキングコンデンサ
10…放電電極
25、31〜33…コア
Claims (3)
- 充電電源に対し直列に接続された複数の可飽和リアクトルと、充電電源によって充電される初段のコンデンサと、充電電源に対し並列に接続された複数のコンデンサとによって複数段のLC回路を構成し、初段のコンデンサの電荷を可飽和リアクトルの磁気飽和現象を利用して順次後段のコンデンサに磁気パルス圧縮して転送するパルス電源装置において、
前記可飽和リアクトルおよびコンデンサを有して構成される各段のLC回路を複数個の可飽和リアクトルおよび複数個のコンデンサの並列回路に分割するようにしたことを特徴とするパルス電源装置。 - 同一段のLC回路に含まれる前記複数の過飽和リアクトルは、1つの共通の磁心と、この共通の磁心に巻回される複数のコイルとを有して構成されることを特徴とする請求項1記載のパルス電源装置。
- 同一段のLC回路に含まれる前記複数の可飽和リアクトルは、複数個の磁心と、これら複数個の磁心のうちの2つ以上の磁心にまたがるように巻回された複数のコイルを有して構成されることを特徴とする請求項1記載のパルス電源装置。
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