JP3840834B2 - 熱可塑性樹脂フィルムの製造方法 - Google Patents

熱可塑性樹脂フィルムの製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、熱可塑性樹脂フィルムの製造方法に関するものである。
【0002】
本発明の方法で製造される熱可塑性樹脂フィルムは、代表的には、幅方向に物性ムラのないポリエステルやポリアミドで代表される優れたフィルムであり、このようなフィルムは、磁気記録媒体用途、包装用途、光学用途、受容紙用途、カード用途などの各種工業材料用フィルムとして優れた特性を発揮できるものであり、本発明は、そのような優れた熱可塑性樹脂フィルムを製造し得る新規な画期的な方法に関するものである。
【0003】
【従来の技術】
熱可塑性樹脂フィルムにおける幅方向の物性ムラは、通常、ボーイング現象と言われる現象に起因する。これは延伸前に幅方向に引いておいた一直線が、延伸・熱処理後においては弓なりに曲がっていることからボーイング現象と呼ばれ、このような現象を生ずるプロセスを経て製造されるフィルムは、フィルム幅方向で熱収縮率、強度や屈折率が異なることが常である。
【0004】
一方で、このようなフィルムを用いると、例えば2枚のフィルムを重ねて使用する包装用途やカード用途などではカールや歪みが生じて各種用途に使用することができない。そこで従来はこのようなボーイング現象をなくする方法として、幅方向延伸後に該樹脂のガラス転移温度以下に冷却して延伸張力をカットする方法(例えば特公昭62−43857など)、熱処理工程で長手方向に弛緩処理する方法(例えば特公昭63−1174など)、熱処理工程で幅方向に延伸しながら熱処理する方法(例えば特公平7−67740など)が提案されてきた。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、上記提案の方法等を用いても、幅方向の物性ムラは解消せず、さらなる新規技術の開発が求められているのが現状である。
【0006】
そこで、本発明の課題は、機械強度、熱寸法安定性に優れ、厚みむらも少ない、高品質の特性を持った熱可塑性樹脂フィルムにおいて、該物性が幅方向にムラのない熱可塑性樹脂フィルムの製造方法を提供することである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、熱可塑性樹脂フィルムの幅方向の特性ムラをほぼ極限まで小さくする高度な手法について鋭意検討した結果、本発明に到達した。
【0008】
すなわち、本発明の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法は、以下の(1)からなり、更に好ましい態様として、(2)〜(8)の態様例からなるものである。
(1)熱可塑性樹脂フィルムからなるフィルムをテンターを用いて延伸する方法において、同時二軸延伸する工程の後に、該フィルムの幅方向延伸工程と、長手方向の弛緩工程を同時に含む工程を有せしめることを特徴とする熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
(2)該同時二軸延伸する工程を含めた全延伸工程において、幅方向の全延伸倍率に対して該幅方向の延伸が70%以上達成された時点の以降にて、長手方向の弛緩工程を併用しながら幅方向に延伸する工程を有せしめた上記(1)記載の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
(3)該長手方向の弛緩率が0.5〜25%である上記(1)または(2)記載の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
(4)テンターに導入されるフィルムが無配向非晶フィルム、無配向結晶化フィルム、一軸延伸フィルムおよび二軸延伸フィルムから選ばれたいずれかのフィルムである上記(1)、(2)または(3)記載の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
(5)熱可塑性樹脂フィルムを、リニアモーター駆動方式の二軸延伸テンターを用いて延伸・弛緩処理することを特徴とする上記(1)、(2)、(3)または(4)記載の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
(6)熱可塑性樹脂が、ポリエステル樹脂である上記(1)、(2)、(3)、(4)または(5)記載の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
(7)ポリエステル樹脂が、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、またはこれらの共重合体または変成体である上記(6)記載の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
(8)熱可塑性樹脂が、ポリアミド樹脂である上記(1)、(2)、(3)、(4)または(5)記載の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法の詳細について説明する。
【0010】
本発明における熱可塑性樹脂とは、加熱によって流動性を示す樹脂のことであり、代表的な樹脂としては、ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィン、ビニルポリマー、ポリエーテル、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリエステルアミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリケトン、ポリエーテルスルフォンなどで代表されるポリマーであり、特に本発明の場合ポリエステル、ポリアミド、ポリエステルアミド、ポリエステルエーテル、およびそれらの変成体、複合体等である。
【0011】
ポリエステルとは、芳香族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸または脂肪族ジカルボン酸などのジカルボン酸とジオールとからの縮重合により得られるポリマーを少なくとも80重量%含有するポリマーである。芳香族ジカルボン酸成分としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、1, 4―ナフタレンジカルボン酸、1, 5―ナフタレンジカルボン酸、2, 6―ナフタレンジカルボン酸、4, 4' ―ジフェニルジカルボン酸、4, 4' ―ジフェニルエーテルジカルボン酸、4, 4'―ジフェニルスルホンジカルボン酸等を用いることができ、なかでも好ましくは、テレフタル酸、フタル酸、2, 6―ナフタレンジカルボン酸を用いることが好ましく、また脂環族ジカルボン酸成分としては、例えば、シクロヘキサンジカルボン酸等を用いることができ、さらに脂肪族ジカルボン酸成分としては、例えば、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、エイコ酸、ダイマー酸等を用いることができる。これらの酸成分は一種のみを用いてもよく、二種以上を併用してもよい。さらに、ヒドロキシエトキシ安息香酸等のオキシ酸等を一部共重合してもよい。また、ジオール成分としては、例えば、エチレングリコール、1, 2―プロパンジオール、1, 3―プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、1, 3―ブタンジオール、1, 4―ブタンジオール、1, 5―ペンタンジオール、1, 6―ヘキサンジオール、1, 2―シクロヘキサンジメタノール、1, 3―シクロヘキサンジメタノール、1, 4―シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリアルキレングリコール、2, 2' ―ビス(4' ―β―ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン等を用いることができ、なかでもエチレングリコール、1, 4―ブタンジオール、1, 4―シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール等を用いることが好まし。これらのジオール成分は一種のみを用いてもよく、二種以上を併用してもよい。また、ポリエステルには、トリメリット酸、ピロメリット酸、グリセロール、ペンタエリスリトール、2, 4―ジオキシ安息香酸、ラウリルアルコール、イソシアン酸フェニル等の多官能化合物等の他の化合物を、ポリマーが実質的に線状である範囲内で共重合されていてもよい。
【0012】
本発明において、ポリエステル樹脂としては、特に限定されないが、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートおよびこれらの共重合体および変成体であることが、本発明効果の発現の観点から好ましい。該ポリエステルの固有粘度は0.6(dl/g)以上、好ましくは0.8以上、さらに1以上が本発明の効果を発揮する点で好ましい。
【0013】
本発明において、ポリアミド樹脂とは、主鎖中にアミド結合を有する高分子化合物であり、代表的なものとしては、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン12、ナイロン11、ナイロン7、ポリメタ/パラキシリレンアジパミド(MXD6)、ポリヘキサメチレンテレフタラミド/イソフタラミド(6T/6I)、ビスアミノメチルシクロヘキシルメタン(BAC)とアジピン酸とを主成分とするポリアミド(BAC6)、およびそれらの共重合体、混合体などから選ばれたポリアミド化合物である。本発明の場合、特に好ましくはナイロン6およびその共重合体である。ポリアミド樹脂の相対粘度は、成形後の期待する諸特性にもよるが、ηrで1〜5、好ましくは2〜4の範囲にあるのがよい。またこれらにポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどのポリエーテル化合物を共重合したポリアミドエーテルや、ポリエステルと共重合したポリエステルアミド化合物でもよく、さらに結晶化しにくい多元共重合体や、側鎖に長鎖、あるいは大きな置換基を有する非晶ポリアミド樹脂などに変性したものでもよい。
【0014】
また、本発明の熱可塑性樹脂フィルムには、本発明の効果が損なわれない範囲内で、無機粒子や有機粒子、その他の各種添加剤、例えば、結晶核剤、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、粘度調整剤、難燃剤、顔料、染料、脂肪酸エステル、ワックスなどの有機滑剤などを添加してもかまわない。無機粒子の具体例としては、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化チタンなどの酸化物、カオリン、タルク、モンモリロナイトなどの複合酸化物、炭酸カルシウム、炭酸バリウムなどの炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウムなどの硫酸塩、チタン酸バリウム、チタン酸カリウムなどのチタン酸塩、リン酸第3カルシウム、リン酸第2カルシウム、リン酸第1カルシウムなどのリン酸塩などを用いることができるが、これらに限定されるわけではない。また、これらは目的に応じて2種以上用いてもかまわない。有機粒子の具体例としては、ポリスチレンもしくは架橋ポリスチレン粒子、スチレン・アクリル系及びアクリル系架橋粒子、スチレン・メタクリル系及びメタクリル系架橋粒子などのビニル系粒子、ベンゾグアナミン・ホルムアルデヒド、シリコーン、ポリテトラフルオロエチレンなどの粒子を用いることができるが、これらに限定されるものではなく、粒子を構成する部分のうち少なくとも一部がポリエステルに対し不溶の有機高分子微粒子であれば如何なる粒子でもよい。
【0015】
また、有機粒子は、易滑性、フイルム表面の突起形成の均一性から粒子形状が球形状で均一な粒度分布のものが好ましい。これらの粒子の粒径、配合量、形状などは用途、目的に応じて選ぶことが可能であるが、通常は、平均粒子径としては0.05μm以上3μm以下、配合量としては、0.01重量%以上10重量%以下とするのが好ましい。
【0016】
本発明において、テンターとは、フィルムの両端をクリップやピンなどで把持しながら幅方向に配向を与えたり、熱処理するための装置であるが、本発明の場合、同時二軸延伸が行え、かつ、幅方向延伸と同時に長手方向にも弛緩処理のできるテンターであることが必要である。すなわち、同時二軸テンターのように長手方向および幅方向に同時に延伸および弛緩することのできるテンターが採用される。しかし、従来のような幅方向にしか延伸弛緩処理できないテンターであっても、用いるクリップとして把持されたフィルムが長手方向にスライド可能なスライドクリップなどを用いても良いのである。このスライドクリップは、通常の幅方向延伸のときにはフィルムがクリップからすり抜けてはいけないために、セルフロック式の通常クリップ機構を有しているが、長手方向に弛緩処理する部分ではクリップのセルフロック部の把持部を解除し、長手方向に移動できるロール状、算盤玉、ベルト、太鼓ロール、円盤状などのスライド可能なクリップにて把持することにより長手方向に弛緩処理することができるようにしたスライドクリップなどを用いることでできる。
【0017】
弛緩工程とは、フィルムの両端をクリップで把持しながら長手方向および/または幅方向にフィルム元寸法を弛ませて応力緩和させる操作をいう。本発明の場合、幅方向に延伸しながら、長手方向に弛緩するのである。幅方向延伸と長手方向弛緩を同時に施すが、該延伸弛緩操作の最終面積倍率は1を越えているのが良く、該値が1未満になると弛緩工程となるので有効な分子配向を与えることができない。ここで、面積倍率とは、縦方向の寸法変化率と横方向の寸法変化率の積である。従来の弛緩処理では、フィルムの延伸が完了した後、もしくは延伸・熱処理を施した後の冷却工程で主に施されてきたが、本発明では、同時二軸延伸する工程を含めて、フィルムに幅方向延伸を施してフィルムに分子配向を付与するとともに、該延伸工程後期で弛緩処理を同時に施す手段を採用するものである。該弛緩処理工程は、上記同時二軸延伸する工程を含めた全延伸工程での、幅方向の全延伸倍率に対して該幅方向延伸が70%以上、好ましくは85%以上達成された時点以降で行うのがよい。これは、延伸の最初の段階から、延伸と同時に弛緩工程を行う場合には、有効な分子配向が得られないことが多いためで、まず幅方向に有効な配向を与えてから長手方向に弛緩処理しながら最終の延伸をするのが良い。なお、本発明において、「幅方向の全延伸倍率」とは、一段または多段で幅方向に延伸・弛緩処理された熱処理前のフィルム幅に対して、幅方向の延伸前のフィルム幅に対する比率を言い、「長手方向の全延伸倍率」とは、熱処理前のフィルム速度に対して、長手方向延伸前のフィルム速度との比率を言う。
【0018】
このような延伸や弛緩の方向、延伸倍率、弛緩率を自由に変更できるような延伸機として、本発明ではパンタグラフ駆動式、スクリュウ駆動式、リニアモーター駆動方式の同時二軸テンターを使用することができるが、特に本発明の場合には、リニアーモーター駆動方式の同時二軸延伸機が好ましい。
【0019】
特に、リニアモーター駆動方式の同時二軸テンターを用いると、製膜速度や倍率変更、条件の多様性などの操作性を非常に高めることができたり、延伸、熱処理、弛緩工程でフィルムの変形パターンを自由に変更できることができるなどの点で有利であり、本発明を実施するテンターとして特に好ましいものである。
【0020】
フィルムを把持するクリップは、ベアリング方式、スライド方式のいずれであってもよい。なお、幅方向にしか延伸弛緩処理できないテンターを用いた場合は、長手方向に弛緩処理することができるスライドクリップを用いることが好ましい。
【0021】
また、弛緩率は、好ましくは0.5〜20%であり、より好ましくは1.0〜15%が良い。弛緩率が20%を越えると、延伸による分子配向効果が小さくなったり、フィルムの平面性や生産性が悪化したりする場合があり、また、弛緩率が0.5%未満であると、幅方向の物性ムラが解消されないためである。
【0022】
該テンターに導入するフィルムは、特に限定はされないが、無配向非晶フィルム、無配向結晶化フィルム、一軸延伸フィルム、二軸延伸フィルムなどの任意の配向・結晶化状態のフィルムでもよい。
【0023】
樹脂フィルムに対して延伸を施す場合の延伸温度は、特に限定されるものではないが、未延伸フィルムに対して延伸を施す場合は、(該樹脂のガラス転移温度Tg+10)〜(Tg+120)℃に保つことが好ましい。延伸温度が(Tg+10)℃未満では、延伸による配向が進みすぎて高倍率まで延伸しにくくなる場合があり、延伸温度が(Tg+120)℃を越えると、構造緩和に必要な微小配向をポリマー鎖に与えることが難しくなり、また延伸工程でもオリゴマーの飛散が激しくなる場合があるので、(Tg+10)〜(Tg+120)℃の範囲が好ましい。
【0024】
なお、本樹脂フィルムの延伸構造を固定化するために、(Tg+100)℃以上、融点未満の温度条件下で熱処理を行うことができる。このとき、熱処理を行いながら、同時に長手方向や幅方向に延伸や弛緩操作を行うことや、熱処理後の冷却工程でも同上の延伸や弛緩操作を行うこともできる。
【0025】
このようにして得られた樹脂フィルムの幅方向の物性、例えば熱収縮率、屈折率、ヤング率などの特性が実質上一定になっており、幅方向での物性のバラツキはなくなるために、後工程でのフィルムの歪み、カール、皺等の発生が全くなくなるのである。さらに本発明のフィルムの長手方向および幅方向の熱収縮率は、非常に小さくなっており、例えば、150℃の熱風下での30分後の熱収縮率は、0.01〜1%以下と小さくなっている。
【0026】
本発明により得られる樹脂フィルムは、それが最終的にも単膜のものでもよいが、これに他のポリマー層、例えば、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリ塩化ビニリデンおよびアクリル系ポリマーなどを直接、あるいは接着剤などの層を介して、2層以上に積層してもよい。特に、ポリエステル層を表層に積層する場合、積層部に粒子を含有することにより、走行性、易滑性および平滑性に優れたフィルムなどとすることができ、特に表面特性が重要な磁気記録媒体用のベースフィルムとして好ましい。
【0027】
さらに本発明により得られるポリエステルフィルムは、必要に応じて、熱処理、成形、表面処理、ラミネート、コーティング、印刷、エンボス加工、エッチングなどの任意の加工を行ってもよい。
【0028】
本発明におけるポリエステルフィルムの全体厚みは、特に限定されないが、通常、1000μm以下であり、フィルムの用途、使用目的に応じて適宜選択できる。
【0029】
通常、磁気材料用途では1μm以上20μm以下が好ましく、中でもディジタルビデオ用塗布型磁気記録媒体用途では2μm以上8μm以下、ディジタルビデオ用蒸着型磁気記録媒体用途では3μm以上9μm以下が好ましい。また、工業材料用途の中では、熱転写リボン用途では1μm以上6μm以下、コンデンサ用途では0.5μm以上15μm以下、感熱孔版原紙用途では0.5μm以上5μm以下、包装用途では6μm以上150μm以下、需要紙用途では、25μm以上500μm以下であることが好ましい。
【0030】
本発明により得られる樹脂フィルムの用途は、特に限定されるものではないが、磁気記録媒体用、感熱転写リボン用、コンデンサー用、感熱孔版印刷用、需要紙用、カード用、光学用、包装用などに広く用いられる。
【0031】
次に、本発明の熱可塑性樹脂フィルムの製造法の具体的な例について説明するが、本発明は、かかる例に限定されるものでない。ここでは、熱可塑性ポリエステル樹脂として、ポリエチレンテレフタレート(PET)を用いたフィルム例を示す。
【0032】
ポリエチレンテレフタレート(PET)を得る方法を示す。まず、テレフタル酸とエチレングリコールからエステル化し、または、テレフタル酸ジメチルとエチレングリコールをエステル交換反応により、ビス―β―ヒドロキシエチルテレフタレート(BHT)を得る。次に、このBHTを重合槽に移行しながら、真空下で280℃に加熱して重合反応を進める。ここで、固有粘度が0.5程度のPETを得る。固相重合する場合は、あらかじめ180℃以下の温度で予備結晶化させた後、190〜250℃で1mmHg程度の減圧下、10〜50時間固相重合させることで、固有粘度が0.62のPETのペレットを得る。また、フィルムを構成するポリエステルに粒子を含有させる方法としては、エチレングリコールに粒子を所定割合にてスラリーの形で分散させ、このエチレングリコールをテレフタル酸と重合させる方法が好ましい。粒子を添加する際には、例えば、粒子を合成時に得られる水ゾルやアルコールゾルをいったん乾燥させることなく、ポリエステルに添加すると粒子の分散性がよい。また、粒子の水スラリーを直接所定のポリエステルペレットと混合し、ベント式2軸混練押出機を用いて、ポリエステルに練り込む方法も有効である。粒子の含有量、個数を調節する方法としては、上記方法で高濃度の粒子のマスターを作っておき、それを製膜時に粒子を実質的に含有しないポリエステルで希釈して粒子の含有量を調節する方法が有効である。
【0033】
次に、該ポリエステルの原料を、180℃で3時間以上真空乾燥した後、固有粘度が低下しないように窒素気流下あるいは真空下で280℃に加熱された押出機に供給し、常法に従い溶融押出製膜する。また、異物や変質ポリマーを除去するためにフィルター、例えば、焼結金属、多孔性セラミック、サンド、金網などの素材からなるフィルターを用いることが好ましい。また、必要に応じて、定量供給性を向上させるためにギアポンプを設けてもよい。未延伸フィルムは、スリット状のダイからシート状に押出し、静電荷を印加しながら表面温度が10〜40℃に冷却されたキャスティングロール上で密着冷却固化させて作る。また、積層フィルムの場合は、2台以上の押出機、口金マニホールド内または合流フィードブロックを用いて、溶融状態のポリエステルを積層したシートを押出し、キャスティングロール上で冷却して未延伸積層フィルムを作る。冷却ロールに密着させるために溶融シートに電気的な力として静電荷を印加したり、機械的な力としてエアーナイフ、バキュームチャンバー、プレスロールを用いたり、さらには冷却ロールと溶融シート間に水などの液体を介在させて表面張力による吸着力で密着させてもよい。
【0034】
未延伸フィルムの端部と中央部の厚みの比率(端部の厚み/中央部の厚み)は、好ましくは1以上、10以下であり、より好ましくは1以上、5未満、最も好ましくは1以上、3未満である。該厚みの比率が1未満であったり、10を越えるとフィルム破れまたはクリップ外れが多発するので、1以上10以下の範囲が好ましい。
【0035】
次いで、この未延伸フィルムを、リニアモーター方式の同時二軸延伸テンタークリップに把持させ、予熱ゾーンで結晶化温度以上に加熱して部分結晶化させた後に、該フィルムのガラス転移温度Tg以上、Tg+120℃未満に加熱し、フィルムの面積延伸倍率として4〜30倍程度の延伸を行うが、前半の延伸を同時二軸延伸をする工程で行い、この延伸終了までの延伸後期の70%以上の部分、つまり、該同時二軸延伸を含めた全延伸工程における幅方向の全延伸倍率に対して該幅方向延伸が70%以上に達成された時点以降において、長手方向に0.5〜20%未満の弛緩処理をしつつ幅方向延伸を同時に行ない、いったんTg以下に冷却するのである。
【0036】
続いて、二軸延伸された樹脂フィルムに幅方向物性の均一性、平面性、寸法安定性などを付与するために、樹脂フィルムの融点Tm以下の180〜250℃の温度範囲で、好ましくは200〜220℃の範囲で緊張下または弛緩しながら熱処理を施し、また、弛緩処理を行う場合は、熱固定温度からの冷却過程で、好ましくは100〜220℃の温度範囲で縦および横方向に、好ましくは各方向に対して1〜10%の範囲で弛緩処理を行う。この際、熱処理工程で延伸、弛緩、またはそのいずれの操作を繰り返して行うことも、フィルムのヤング率を高める上で好ましく行うことができる。その後、フィルムを室温まで、必要なら縦および横方向に弛緩処理を施しながら、フィルムを冷やして巻き取り、目的とするポリエステルフィルムを得るのである。
[物性の測定方法ならびに効果の評価方法]
(1)ポリエステルの固有粘度:
25℃で、オルトクロロフェノール中0.1g/ml濃度で測定した値である。単位は[dl/g]で示す。
(2)ポリアミドの相対粘度ηr:
JIS-K1860に従い測定する。
(3)ガラス転移温度Tg、融解温度Tm:
示差走査熱量計として、セイコー電子工業(株)製“ロボットDSC−RDC220”を用い、データー解析装置として、同社製“ディスクセッション”SSC/5200を用いて測定した。測定サンプルとして約5mg採取し、室温から昇温速度20℃/分で300℃まで加熱したときに得られる熱カーブのピーク値より、Tg、Tmを求めた。
(4)ヤング率:
オリエンテック(株)製フイルム強伸度自動測定装置“テンシロンAMF/RTA−100”を用いて、試料フィルムを幅10mm、試長間100mm、引張り速度200mm/分で引っ張った。得られた張力−歪曲線の立上がりの接線の勾配からヤング率を求めた。測定は25℃、65%RHの雰囲気下で行った。
(5)熱収縮率:
フィルムを幅10mm、測定長約200mmとなるように2本のラインを引き、この2本のライン間の距離を正確に測定しこれをL0 とする。このサンプルを所定の温度のオーブン中に30分間、300mgの荷重をかけた後、該2本のライン間の距離を測定しこれをL1 とし、下式により熱収縮率を求める。
【0037】
熱収縮率(%)={(L0 −L1)/L0 ]×100
(6)屈折率:
光源をナトリウムランプとして、フィルム面内の屈折率をアッベ式屈折計により求める。
(7)フィルムの長手方向厚みむら:
アンリツ株式会社製フィルムシックネステスター「KG601A」および電子マイクロメータ「K306C」を用い、フィルムの縦方向に30mm幅、10m長にサンプリングしたフィルムを連続的に厚みを測定する。フィルムの搬送速度は3m/分とした。10m長での厚み最大値Tmax(μm)、最小値Tmin(μm)から、
R=Tmax―Tmin
を求め、Rと10m長の平均厚みTave(μm)から、次式により厚みむらを求めた。
【0038】
厚みむら(%)=(R/Tave)x100
(8)ボーイング:
テンターに噛ませる前のフィルム表面に、幅方向に5mm間隔で多数の直線を引き、このフィルムを所定の延伸・熱処理を行った後、延伸前に引いた該直線が、延伸・熱処理後にフィルムの中央部が膨らんだ弓なりの曲線になった場合、このフィルム中央部の最大遅れ量、すなわち、一つの曲線で端部の位置と中央の位置の長手方向の距離の差をボーイング量(mm)とする。
【0039】
【実施例】
以下に、本発明を実施例、比較例に基づいて説明する。
実施例1
ポリエチレンテレフタレート(固有粘度0.65、ガラス転移温度75℃、融点260℃、平均径0.3μmの球状架橋ポリスチレン粒子0.1重量%配合)のペレットを180℃で2時間真空乾燥した後に、280℃に加熱された押出機に供給して溶融後、Tダイより押出したシートを表面温度25℃の冷却ドラム上に静電気力で密着させて冷却固化し、未延伸キャストフィルムを得た。この未延伸フィルムをリニアモーター駆動方式の同時二軸延伸テンターに導き、クリップで把持させながらフィルム温度を120℃に加熱して部分結晶化させた後、95℃に温調して長手方向に4.5倍、幅方向に3.5倍同時二軸延伸し、続いて、長手方向に8%の弛緩処理を行いながら幅方向に1.2倍の延伸を行い、すなわち、長手方向に4.14倍、幅方向に4.2倍の延伸を行なって後、いったん70℃以下に冷却した。従って、この長手方向に4.14倍、幅方向に4.2倍というのが、長手方向、幅方向のそれぞれの全延伸倍率ということになるものである。
【0040】
その後、220℃の温度で長手方向、幅方向とも3%の弛緩熱処理を施した後、さらに100〜150℃に冷却する工程で長手方向に1%の弛緩熱処理をした後、室温に徐冷して幅5mの製品を巻取った。フイルム厚みは12μmであった。
【0041】
かくして得られたフィルムのボーイング量は0であり、幅方向の屈折率1.675、長手方向の屈折率1.681は如何なる場所でも一定であった。また、機械特性、熱特性などの物性は、幅方向で均一であり、しかも高いヤング率(長手方向、幅方向とも5GP)と熱寸法安定性(150℃の長手方向、幅方向とも0%)を両立した厚みむら(長手方向6%)の少ない高品質のフィルムであった。比較例1
実施例1で行った最初の同時二軸延伸倍率を、長手方向4.14倍、幅方向に4.2倍とし、それに続く長手方向の8%の弛緩処理と幅方向1.2倍延伸は行わず、その後の熱処理工程は実施例1と全く同様に弛緩熱処理して、幅5m、厚さ12μmの二軸延伸フィルムを得た。すなわち同時二軸延伸後、熱処理するという従来の方法で製膜した。
【0042】
このようにして得られたフィルムのボーイング量は5m当たり800mmと大きなものであった。また、フィルム端部から1m間隔で測定した屈折率は、長手方向/幅方向の測定は、1.64/1.69、1.65/1.68、1.67/1.67、1.67/1.68、1.65/1.68、1.64/1.69と大きくバラついていた。この中から選ばれた適当なフィルムを2枚重ね合わせて、100〜180℃程度に加熱して評価してみたところ、該積層フィルムがカールして平面性の悪いフィルムとなった。
【0043】
このように弛緩工程を導入しても、単なる熱処理工程で行ってもボーイング特性は改良できないことがわかる。
比較例2
実施例1で行った4.5×3.5倍の同時二軸延伸に続く長手方向8%弛緩処理と1.2倍の幅方向延伸を行う条件のうち、長手方向の8%の弛緩処理をせずに単に幅方向に1.2倍延伸するだけの条件に変更する以外は実施例1と全く同様にして熱処理をして、幅5m、厚さ12μmの二軸延伸フィルムを得た。すなわち同時二軸延伸後、熱処理するという従来の方法で製膜した。
【0044】
このようにして得られたフィルムのボーイング量は、5m当たり1000mmと大きなものであった。また、フィルム端部から1m間隔で測定した長手方向/幅方向の屈折率は、1.65/1.68、1.65/1.68、1.64/1.66、1.64/1.68、1.65/1.68、1.64/1.69と大きくバラツいていた。かくして得られたフィルムを2枚重ね合わせて、100〜180℃程度に加熱すると該積層フィルムはカールして平面性の悪いフィルムとなった。
【0045】
このように弛緩工程を導入しても、単なる熱処理工程で行ってもボーイング特性は改良できないことがわかる。
実施例2
ポリアミド樹脂B(相対粘度ηr2.6、ガラス転移温度40℃、添加剤として平均粒径0.2μmの球形シリカを0.1wt%添加)を用い、常法に従い、原料を乾燥後125mmの溶融押出機に供給して280℃で溶融させ、10μm以下の異物を除去するフィルターを通過させた。一方、このポリアミド樹脂B層の両面に積層するアイオノマー”サーリン”A(デュポン)を45mmの押出機に供給し265℃で溶融させ、これらの溶融樹脂A層をA/B/Aなる3層に積層する複合アダプターにて3層積層させ、これを2100mm幅のTダイ口金から表面温度15℃に保たれた、130m/minで回転する1800mm直径の表面に水滴を有したドラム(ドラム表面は最大粗さRt=0.1μmに鏡面化されたクロムメッキロールであり、そのドラム表面に飽和水蒸気を吹き付け表面に水滴を結露させたもの)と、そのドラムに接している直径150mmの水滴を有したニップロール(表面はマイクロクラック状態のクロムメッキをした親水化ロールで、そのロール表面に飽和水蒸気を吹き付け表面に水滴を結露させたもの)との接点に溶融体をそれぞれのドラムやロールに対して接線になるように着地・密着・冷却させた。
【0046】
かくして得られたキャストフィルムは、その厚みが150μmであり、厚みむらとしては長手方向、幅方向とも1%以下と小さいものであり、しかも、その厚みむらの周波数解析をしても着地点の振動に起因すると考えられている0.5〜10Hzの振動は皆無であり、厚み均質性に優れており、さらに平面性にも優れた、クレーターなどの表面欠点のない、結晶性の低いシートであり、また端部も幅変動もなく、透明で完全な非晶質のものであり、キャスト性に優れたものであった。
【0047】
続いて、該キャストフィルムをリニアー駆動式同時二軸延伸機に導入して延伸温度53℃で長手方向に3.2倍、幅方向に2.7倍同時二軸延伸し、さらに60℃に保たれた延伸ゾーンで長手方向に6%の弛緩処理をしながら幅方向に1.11倍延伸した。従って、長手方向に3.01倍、幅方向に3.00倍というのが、それぞれの全延伸倍率ということになるものである。
【0048】
かくして得られた二軸配向フィルムを、いったんTg以下の30℃に冷却後、210℃に加熱して長手方向、幅方向とも3%の弛緩熱処理後、さらに150℃で長手方向および幅方向にそれぞれ1.5%のリラックス熱固定し、エッジ端部をカットして、厚さ15μmの二軸配向積層ポリアミドフィルムを、破れることなく安定な状態で約380m/minという高速で巻取り、およびエッジ処理して製膜した。
【0049】
かくして得られたフィルムのボーイング量は0であり、幅方向の屈折率も長手方向の屈折率も1.57と如何なる場所でも実質的に一定であった。また、機械特性、熱特性などの物性は、幅方向および長手方向に均一であり、しかも、熱寸法安定性(100℃の長手方向、幅方向とも0%)に優れた厚みむら(長手方向4%)の少ない、表面欠点のない平面性の優れた高品質のフィルムであった。
【0050】
【発明の効果】
本発明の製造方法によれば、幅方向の屈折率や機械特性、熱特性などの特性が均一であり、幅方向の如何なる部分をとっても物性にバラツキのないものであった。したがって、このようなフィルムを複数枚重ね合わせても、カールや歪み、皺などの欠点を生じることがない。
【0051】
本発明により得られるフィルムは、このような特異な特徴を活かして、磁気記録用、感熱転写リボン用、感熱孔版印刷用、コンデンサー用、光学用、包装用など各種工業用、産業用フィルムとして広く活用が可能である。

Claims (8)

  1. 熱可塑性樹脂フィルムからなるフィルムをテンターを用いて延伸する方法において、同時二軸延伸する工程の後に、該フィルムの幅方向延伸工程と、長手方向の弛緩工程を同時に含む工程を有せしめることを特徴とする熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
  2. 該同時二軸延伸する工程を含めた全延伸工程において、幅方向の全延伸倍率に対して該幅方向の延伸が70%以上達成された時点の以降にて、長手方向の弛緩工程を併用しながら幅方向に延伸する工程を有せしめたことを特徴とする請求項1記載の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
  3. 該長手方向の弛緩率が0.5〜25%であることを特徴とする請求項1または2記載の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
  4. テンターに導入されるフィルムが無配向非晶フィルム、無配向結晶化フィルム、一軸延伸フィルムおよび二軸延伸フィルムから選ばれたいずれかのフィルムであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
  5. 熱可塑性樹脂フィルムを、リニアモーター駆動方式の二軸延伸テンターを用いて延伸・弛緩処理することを特徴とする請求項1、2、3または4記載の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
  6. 熱可塑性樹脂が、ポリエステル樹脂であることを特徴とする請求項1、2、3、4または5記載の記載の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
  7. ポリエステル樹脂が、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、またはこれらの共重合体または変成体であることを特徴とする請求項6記載の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
  8. 熱可塑性樹脂が、ポリアミド樹脂であることを特徴とする請求項1、2、3、4または5記載の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
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