JP3777987B2 - ペリクル枠およびペリクル枠の製造方法 - Google Patents
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Description
本発明は、半導体基板にICやLSI回路配線図を転写するために用いられるペリクル装置のペリクル枠およびペリクル枠の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
硬質ガラス面に作図されたICやLSIの回路配線図を露光して半導体基板に転写する転写装置(ステッパー)には、回路配線図面に塵が付着して転写された配線図の鮮明さを妨げることのないように、ペリクル枠に透光性のペリクル膜が張着されたペリクルが回路配線図の原図全面をカバーするように貼着装備されている。このような関係にあるペリクルを図面を用いて以下に説明する。
【0003】
図1は、透明基板とペリクルを示し、(A)は透明基板にペリクルを貼着装備した状態の断面図、(B)はペリクルの断面図、(C)はペリクルの平面図である。
【0004】
図1(A)に示すように、透明基板である硬質ガラス2面に作図されたICやLSIなどの回路配線図(回路パターン)3が形成されたフォトレジストマスク5は、図示していない転写装置(ステッパー)に装備され、回路配線図3を露光して図示していない半導体基板に回路パターンを転写する。この場合、回路配線図3に塵が付着して転写された配線図が不鮮明となることを防止するため光学機器部品であるペリクル7が貼着される。
【0005】
図1(B)に示すように、ペリクル7は、透光性のペリクル膜9をペリクル枠(枠体)8に張着したもので、回路配線図の原図全面をカバーするように先のフォトレジストマスク5に貼着される。ペリクル枠8の大きさは、フォトレジストマスク5の大きさに対応したもので、例えば対角線長さは(25〜300)mm、高さHは(2〜10)mmのものが多い。なお、図1(B)において、符号13はペリクル枠8の高さ方向を示す。
【0006】
ペリクル枠8をフォトレジストマスク5に貼着装備する際は、ペリクル枠8に、前もって張られた貼着剤保護膜10を剥がして貼着剤11の付いたペリクル枠8を、図1(A)に示す硬質ガラス2面に作図された回路配線図の原図全面をカバーして貼着する。このようにペリクル7が貼着された回路配線図面においては、塵はペリクル膜9で遮られ回路配線図面に付着することはない。またペリクル膜9に塵が付着したとしても、レンズを通過した外部光源からの光により半導体基板面上に結像された回路配線図には、塵は焦点がぼけて結像されないから、原図通りの回路配線図が転写される。
【0007】
このように、ペリクル枠8にはペリクル膜9が張着されるので、このような状態を保持する機能が求められているため、ペリクル枠8は高強度を有するJISA 7075アルミニウム合金(以後「7075合金」という)が使用される。特に、上記の回路配線図の転写工程においては光源からの光の反射を防ぎ鮮明な転写配線図を得るために、金属材料からなる該ペリクル枠8には、陽極酸化処理を施した後黒色に染色処理される。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
上記7075合金は別系のアルミニウム合金と比較すると陽極酸化処理性に劣り、爾後の黒色染色に際して染色面に所謂白点と称呼される皮膜欠陥が発生する。近年益々配線図における線幅が0.1〜0.01μm程度と細線になるに従って、従来の白点の発生数及び大きさでは露光に際して光の反射が転写配線図を不鮮明にするという問題点が顕在化してきた。
【0009】
また、回路配線図を転写する前記転写装置においては、装置系部材に付着している塵は目視ないし機械検査でその存在を確認し取り除いているが、前記の白点は塵と紛らわしく、しかも近年の塵検査基準の厳しさから小さい塵まで検査対象とされることとなり、検査対象となる誤認白点数が多くなって作業進捗の妨げとなってきた。
【0010】
すなわち、本発明は、7075合金製ペリクル枠に生じる上記欠点を解決し、上記した白点の発生数を少なくし、その大きさも小さいペリクル枠およびペリクル枠を中空押出材から形成する場合のペリクル枠の製造方法を提供することを目的とするものである。
【0011】
【課題を解決するための手段】
発明者らは、陽極酸化皮膜に染色処理したペリクル枠の上記した如き皮膜欠陥は、陽極酸化処理工程から染色工程全般および種々の染色材料を用いて試験した結果、枠を形成する金属組織中の晶出物が陽極酸化処理後の染色工程において染色液によって腐食し、欠落することにより皮膜の欠陥が生じるものと推考し、この晶出物の大きさを小さくできれば染色液にことさら工夫を加えることなく、皮膜欠陥を解決できるものと考え本発明を完成したものである。
【0012】
すなわち、本発明は、Zn5.1〜6.1質量%、Mg2.1〜2.9質量%、Cu1.2〜2.0質量%、Cr0.18〜0.28質量%を含有し、さらにTi0.20質量%以下、またはTi0.20質量%以下およびB0.02質量%以下を含み、残部Alと不純物からなり、該不純物はFe0.20質量%以下、Si0.07質量%以下、Mn0.30質量%以下、V0.01質量%以下、Zr0.01質量%以下、Ti+Zr0.20質量%以下とし、その他の元素各々0.05質量%以下で合計0.15質量%以下であつて、晶出物のうち円相当径が1μm以上の晶出物の円相当径平均値が5μm未満であり、かつ該1μm以上の晶出物の占める面積比が5%未満であることを特徴とするペリクル枠である。なお、以下、便宜上、質量%をwt%と記す。
【0013】
Zn、Mg、CuおよびCrを特定量とすることにより、熱処理で最高レベルの強度を得ることができる。また、合金中の特定不純物、すなわちFe、Si、Mn、V、Zrの含有量を少なくすることにより晶出物の大きさと分布をコントロールし、それにより、皮膜欠陥、すなわち白点による問題が解決する。
【0014】
さらに、本発明は、表面が陽極酸化処理され、該処理によって生じる皮膜が黒色系染料で染色されていることを特徴とする前記記載のペリクル枠である。特定元素量を少なくすることにより晶出物の大きさをコントロールし、晶出物を均一に晶出させ、しかも晶出物のマトリックスに占める割合をコントロールすることにより、染色後に皮膜欠陥、すなわち白点による問題の解決したペリクル枠が得られる。
【0015】
そして、本発明は、陽極酸化皮膜が黒色系染料で染色される際、ペリクル枠全体が該染料液内で揺動させながら染色されたものであることを特徴とする上記発明に記載のペリクル枠である。これによりペリクル枠の陽極酸化皮膜を染色する際の染色治具との接触個所の染色抜けを防止でき、染色抜けのない黒色系染色されたペリクル枠が得られる。
【0016】
また、本発明は、上記発明と同じ化学組成成分からなるDC鋳造ビレットを460℃以上の温度に12時間以上加熱保持して均質化処理を施した後押出加工し、爾後溶体化焼入れ処理し、時効硬化処理することによって晶出物のうち円相当径が1μm以上の晶出物の円相当径平均値が5μm未満であり、かつ該1μm以上の晶出物の占める面積比が5%未満に調整することを特徴とするペリクル枠の製造方法である。これにより最高レベルの強度を持ち、合金中の特定不純物量を少なくすることにより晶出物を均一に晶出させ、晶出物の大きさと晶出物のマトリックスに占める割合をコントロールでき、陽極酸化皮膜を染色した時にペリクル枠に生じる白点による問題を確実に解決できるペリクル枠を製造することができる。
【0017】
次に、上記本発明の構成による作用をさらに詳しく説明する。
【0018】
ペリクル枠のアルミニウム合金は、Zn5.1〜6.1wt%、Mg2.1〜2.9wt%、Cu1.2〜2.0wt%を含んでいる。Zn、MgおよびCuは、合金の強度付与に寄与する元素で、析出硬化および固溶強化のために必須である。下限値未満では十分な強度が得られず、また上限値を超えると変形抵抗が増大して押出性が低下する。またCuは固溶による強度付与効果も有する。
【0019】
さらに、ペリクル枠のアルミニウム合金は、Cr0.18〜0.28wt%を含む。CrはDC鋳造ビレットの押出時の繊維状組織を微細化させると共に溶体化熱処理における再結晶粒の成長を防止し、一部再結晶組織が生じたとしても実質的に繊維状組織による強度を付与するためのもので、下限値未満ではその効果が少なく、上限値を超えると系の粗大な晶出粒が生じて、陽極酸化処理後の染色時に白点の欠陥を生じる。また押出性も低下させる。
【0020】
さらに、アルミニウム合金は、Ti0.20wt%以下、またはTi0.20wt%以下およびB0.02wt%以下を含む。Ti、またはTiおよびBの添加はDC鋳造工程においてビレットの鋳造割れを防止するためのものである。すなわち、Ti、またはTiおよびBを添加含有させることにより溶湯中にAl−Ti系、またはTi−B系などの金属間化合物を形成し、これらが凝固結晶粒の核となり鋳塊組織を微細化し、ビレットの鋳造割れを防止するものである。
【0021】
Ti単独よりもTiおよびBの方が鋳造割れに対しては有効である。その含有量の下限値は鋳造条件で異なるが、概ねTi0.001wt%、好ましくは0.005wt%以上である。Bの下限は特に限定するものではないが、0.001wt%以上添加するとTiとの複合効果が顕在化する。下限値未満では効果が少なく、上限値を超えると、Al−Ti系およびTi−B系などの金属間化合物或いはAl−Ti系およびTi−B系などの粗大な金属間化合物が生じ、あるいは一部の未固溶のTiまたはBがマトリックスに存在し、これらが陽極酸化処理後の染色時の白点欠陥の原因となる。Tiの添加は金属TiまたはAl−Ti母合金を、またTi、Bの添加はAl−Ti−B母合金を使用すると容易に含有させることができる。
【0022】
さらに、ペリクル枠のアルミニウム合金は、Fe0.20wt%以下、Si0.07wt%以下、Mn0.30wt%以下、V0.01wt%以下、Zr0.01wt%以下、Ti+Zr0.20wt%以下、その他の元素各々0.05wt%以下で合計0.15wt%以下である。
【0023】
これらの不純物元素は溶製時の原材料から不純物として混入してくるもので、特にFe、Siは本発明においてはAl−Fe系、Al−Fe−Si系などの晶出物が陽極酸化処理後の染色処理で白点の発生原因になるところから、その含有量は可及的少量であることが好ましい。Feは、好ましくは0.14wt%以下、さらに好ましくは0.10wt%以下である。Siは、例えば0.05wt%未満とすることが好ましい。またMn、V、Zrも同様にその含有量は可及的少量であることが好ましく、上限値を超えると近年の厳しい検査基準に合格しなくなる。望ましくはMnは0.05wt%以下が好ましい。このようにFe、Si、VあるいはZrの含有量を少ないものにするには、溶製する原料地金および必要に応じて用いる返り材の純度の高いものを使用すれば良い。
【0024】
Zrは包晶系の元素でTiと同様の挙動を示すので、Tiとの合計値でも規制しておく必要があり、Ti+Zr0.20wt%以下とする。その他の元素も含有量が多い場合は、晶出物を形成し陽極酸化処理後の染色処理で白点の発生原因になるところから、その含有量は可及的少量であることが好ましく、その他の元素を各々0.05wt%以下で合計0.15wt%以下とする。
【0025】
次に、晶出物のうち円相当径が1μm以上の晶出物の円相当径平均値が5μm未満とする理由について説明する。陽極酸化処理後の染色処理で白点欠陥を生じる原因となる金属間化合物は、上記した化合物ばかりでなく、主要合金元素との化合物も原因となる。すなわちAlCuMg、Al7Cu2Fe、Al2CuMg、MgZn2などの化合物である。これらの化合物はX線回折で同定できる。これらの化合物の大きさが円相当径の平均値で5μm以上となると、近時の厳しい基準に対応できない。ここで円相当径は、ペリクル枠表面に存在する晶出物の各個の面積を円相当に置き換えた時の直径を指すものである。
【0026】
円相当径が1μm未満の晶出物は相当数在り、しかも白点欠陥には影響が少ないので、1μm以上の晶出物の円相当径平均値を限定するものである。なお、測定は画像解析処理で行うことができる。すなわち、晶出物の円相当径平均値が5μm未満であれば、陽極酸化処理後の染色処理で発生する晶出物が原因の白点欠陥は非常に小さく、自然光または光源からの光の反射による転写配線図の不鮮明さの程度が小さくなるからである。また塵と確認される確率も非常に少なくなる。
【0027】
次に、晶出物のうち円相当径が1μm以上の晶出物の占める面積比が5%未満とする理由について説明する。陽極酸化処理後の染色処理で白点欠陥を生じる原因となる金属間化合物は、円相当径が1μm以上の晶出物の平均値が5μm未満であっても、組織中の狭い範囲に集合体として存在する場合、すなわち、分散性が悪く、組織全体に占める割合が一定の値以上に大きい場合は、微小な光の集合体として確認可能な程度の光の反射を呈することがある。このことから、晶出物の占める面積比が5%未満と分散して晶出していれば、光学的に集合体として大きな晶出物として検知されることがなく、自然光または光源からの光の反射による転写配線図の不鮮明さの程度が小さくなるからである。
【0028】
また塵と確認される確率も非常に少なくなる。従って晶出物のうち円相当径が1μm以上の晶出物の円相当径平均値が5μm未満でしかもそれらの占める面積比が5%未満であると良い。
【0029】
【発明の実施の形態】
次に、本発明に係るペリクル枠およびペリクル枠の好ましい製造方法の実施の形態を詳しく説明する。
【0030】
本実施形態のペリクル枠は、半導体基板にICやLSI回路配線図を転写するために用いられるペリクル装置に使用される。ペリクル枠およびその製造方法は、陽極酸化処理後の皮膜欠陥の発生が防止され、自然光ないし光源からの光を極力反射させない表面に染色され、表面処理性に優れたアルミニウム合金組織を有する。
【0031】
好ましいペリクル枠の製造方法は、本実施形態で規定する合金組成の溶湯を溶製する際に、例えばAl溶湯中に合金元素を金属のまま、または母合金で添加することができる。脱ガス処理後必要によりフィルターを通過してビレットに鋳造する。鋳造に際してはDC鋳造法が溶湯が急冷され晶出物が小さく晶出して好ましい。ビレットは次に加熱して460℃以上の温度で12時間以上保持する均質化処理を施す。より高い温度でより長い時間で処理することが好ましい。保持温度までの昇温速度は、急速加熱によるビレットのバーニング現象を防止するために50℃/時以下とすることが好ましい。この処理は鋳造時晶出した上記の晶出物を固溶させてより小径の晶出物とし、それによりペリクル枠に陽極酸化処理後の染色処理で生じる白点欠陥を解消するためのものである。460℃以上の温度で行う保持は、必ずしも一定の温度である必要はなく、460℃の温度で2時間保持後470℃の温度で10時間処理しても良い。また460℃未満の温度でも12時間以上保持すれば、鋳造時晶出した上記の晶出物を固溶させてより小径の晶出物とすることができ、上述の白点欠陥を解消することができるが、処理時間がかかりすぎて生産性が低下する。
【0032】
均質化処理したビレットは、所定の長さに切断された後、ペリクル枠の寸法に相当する中空押出加工がなされる。中空押出材は必要に応じて永久ひずみ付与の引張加工を加えて正直した後溶体化焼入処理を施し、その後1.5〜3%程度の永久ひずみ付与の引張加工を加えて正直した後人工時効硬化処理を施す。溶体化処理は合金元素を固溶させ爾後の処理で強度を出すためのもので、460℃以上で溶解しない程度の温度、例えば480℃程度の温度までの間で加熱し、0.5〜5時間程度保持する。焼入処理は高温で処理した固溶状態から急冷して室温において過飽和固溶状態とし爾後の処理で強度を出すためのもので、水冷が焼入効果が大きく最も好ましい。人工時効硬化処理は合金元素を含む化合物を時効析出させて強度を付与するためのもので、最も好ましくはJIS H0001に示される調質記号T651で処理することが望ましい。
【0033】
このようにして得られた中空押出材をペリクル枠の高さ(図1のH)方向に切断(輪切り)し、研削研磨などの機械加工を施してペリクル枠形状とする。得られたペリクル枠は、爾後陽極酸化処理して表面を硬化すると共に染色剤が保持され易くする。この陽極酸化処理は特に限定するものではないが硫酸液処理が安定した染色剤保持能力の高い皮膜が得られて好ましい。処理条件は限定されるものではないが、以下の処理条件の範囲から適宜選定すると良い。
【0034】
陽極酸化処理条件
硫酸液濃度 10〜20vol%水溶液
電流密度 1.0〜2.0A/dm2
液温度 10〜20℃
通電時間 10〜30分
ペリクル枠は陽極酸化処理前に皮膜の密着性の向上および微細なキズの消去を目的として必要に応じてショットブラストをかける表面処理をしても良い。
【0035】
陽極酸化処理されたペリクル枠は、光の反射を防ぐために表面全体を黒色に染色処理する。この染色処理は染料を特に限定するものではないが、特にサンド社製サノダールディープブラックMLW(商品名)などの有機染料を用いる黒染めが変色が少なく、塵が少なくしかも安価で一般的である。染色処理は、ペリクル枠を掛けた治具を染料の入った処理槽内に浸漬して処理する。処理条件は限定されるものではないが、以下の処理条件の範囲から適宜選定すると良い。
【0036】
染色処理条件
染色液温度 55〜65℃
処理時間 5〜20分
染色処理に際しては、治具とペリクル枠が処理時間中に接触していると接触箇所に染料が染色されない虞があるので、治具またはペリクル枠、または両者を揺動させながら処理すると上述の虞が無く、全面が黒色に染色できる。染色後のペリクル枠は、封孔処理して耐食性と染料の保持効果を向上させる。封孔処理の条件は限定されるものではないが、以下の処理条件の範囲から適宜選定すると良い。
【0037】
封孔処理条件
処理液 70〜95℃熱水
処理時間 10〜30分
なお、以上のペリクル枠は、DC鋳造ビレットについて詳述したが、このビレットに限らず板に加工されるスラブでも良い。スラブの場合はスラブに鋳造後、上面と下面を各々厚さ10mm程度を面削した後均質化処理に供しても良いし、均質化処理した後に面削しても良い。爾後の処理はビレットと同じである。ただしスラブの場合はペリクル枠の形状に板から打ち抜くためにビレットより歩留が低下する。
【0038】
【実施例】
表1は、実施例および比較例で使用した合金成分組成(wt%)を示す。実施例1、2は、それぞれ合金符号A、Bについて、比較例1〜3は、それぞれ合金符号C、D、AについてDC鋳造法によりビレットを作製し、表3に示す条件で均質化処理を施した後、ビレットを所定の長さに切断し、押出加工を行い四角形の中空押出材とした。この後、JISH0001に示される調質条件T651を施した。さらに、切断(輪切り)、機械加工して図1に示すような枠型形状をなす外形寸法149mm×122mm×5.8mmのペリクレル枠を各例につき150枚作成した。これらのペリクレル枠にショットブラスト、陽極酸化処理および染色処理、封孔処理を施した。染色処理は硫酸陽極酸化処理後、有機染料により黒色に染色し、酢酸ニッケル系封孔剤による封孔処理を行ったもので、陽極酸化皮膜の膜厚は5〜10μmとなるよう印加電気量を制御した。
【0039】
処理条件を以下に示す。
これらのペリクル枠について蛍光灯下の目視および照度30万1x(ルックス)の集光灯下の目視により光の反射を伴う白点の発生している枚数(1点でも存在すれば1枚と数える)を確認した結果を表3に示す。前記した実施例1、2および比較例1〜3と同一処理された同一ロット内の押出材について、該押出材の組織中の晶出物の内、円相当径が1μm以上の晶出物の円相当径の平均値、組織中に占める晶出物のうち、円相当径が1μm以上の晶出物の面積比を測定した。
【0040】
晶出物の円相当径の平均値および組織中に占める晶出物の面積比については押出方向に平行な断面および押出方向に垂直な断面を測定面とし、画像解析によりもとめた結果を表3に示す。
【0041】
【表1】
【0042】
【表2】
【0043】
【表3】
表3の結果から、実施例1、2のペリクル枠において、組織中の晶出物のうち、円相当径が1μm以上の晶出物の円相当径の平均値は3.98〜4.57μmであり、かつ面積比は4.35〜4.57%であって、いずれも5μm未満および5%未満の値を示し、目視による白点検査では集光灯下においても150枚中3枚以下と少ない発生枚数であることが判る。
【0044】
一方、比較例1、2により得られたペリクル枠は、組織中の晶出物のうち、円相当径が1μm以上の晶出物の円相当径の平均値は、押出方向に垂直断面の値が4.38、4.29μmで5μm以下であったが、押出方向に平行断面の値は5.55、5.38μmで5μmを越えた。組織中に占める晶出物のうち、円相当径が1μm以上の晶出物の面積比も5.16〜9.69%で、いずれも5%を越えた値を示した。白点検査においても150枚中13〜23枚で実施例1、2の6〜8倍の発生枚数であることが判る。
【0045】
均質化処理時間の短い比較例3については、組織中の晶出物のうち、円相当径が1μm以上の晶出物の円相当径の平均値は4.16、4.73μmで5μm未満であったが、組織中に占める晶出物のうち、円相当径が1μm以上の晶出物の面積比については組織が伸長される押出方向に平行断面の観察においては5.22%で5%を超える値であって、その結果、白点発生枚数も比較例1、2に比較すると減少し白点の発生抑制が認められたものの、前述の実施例1、2よりは多くの白点が観察された。特に、集光灯下においてのみ確認される微少な白点においては8枚で不十分な値であった。
【0046】
また、比較例2において、蛍光灯下の目視検査にて観察された白点のSEM観察像を観察したところ、蛍光灯下の目視にて確認される白点の大きさは約30μm以上で、時には100μmを越えるものもあり組織中の晶出物の円相当径の数十倍を越える大きな値となる。これは、陽極酸化皮膜の皮膜欠陥が晶出物を起点に腐食・欠落する際、その周辺の皮膜にも広い範囲で影響をおよぼすためである。
【0047】
さらに、実施例2において、蛍光灯下の目視検査にて観察された白点のSEM観察像を観察すると、比較例2に比較して皮膜欠陥部の大きさが小さくなっていることが伺える。また、実施例2において、集光灯下の目視検査のみにて観察された白点のSEM観察像を観察すると、大きさは約10μm程度であり、実施例2に示した白点に比較してさらに小さな物となっており、蛍光灯下の目視検査では確認が極めて困難な白点であり、光輝度の集光灯下においてのみ確認されるものである。
【0048】
これらの白点の原因となる陽極酸化皮膜の欠陥部は、皮膜が欠落し皮膜下のアルミ素地が露出し黒色を示さないことから、光を反射し輝点上の白点として観察される。なお、実施例1、2および比較例1、2、3において観察された全ての白点についてSEM観察を行ったが、何れの白点も上記と同様の皮膜の欠落による形態のものであった。
【0049】
以上、表2、3およびSEM観察の結果から、本発明の実施例がペリクル枠における白点の発生抑制に優れた効果を奏していることが明らかである。
【0050】
前記した実施例2および比較例2の鋳造材のビレットおよび表3に示される条件で均質化処理されたビレットの押出加工後の押出材について晶出物の成分組成をX線解析により同定した。結果を表2に示す。
【0051】
表2に示すように、実施例2のビレット(合金B)の積分回折強度は、AlCuMg2.2、Al7Cu2Fe0.1、Al2CuMg4.5、MgZn246.7に対し、比較例2のビレット(合金D)の積分回折強度は、AlCuMg3.4、Al7Cu2Fe3.6、Al2CuMg −、MgZn257.6である。また、実施例2の押出材(合金B)の積分回折強度は、AlCuMg8.2、Al7Cu2Fe0.7、Al2CuMg −、MgZn23.5に対し、比較例2の押出材(合金D)の積分回折強度は、AlCuMg8.0、Al7Cu2Fe4.3、Al2CuMg −、MgZn23.5である。
【0052】
第2相化合物Al7Cu2Feは、鋳造工程以降の工程で固溶・消失しにくく、陽極酸化後の染色工程において腐食・欠落することにより皮膜欠陥を形成すると思われるが、比較例2の合金Dは鋳造後のビレットの段階において積分回折強度が高く、押出後の押出材においても同等に高い。このことから、実施例2の合金Bは、鋳造後のビレットの段階においてAl7Cu2Feの生成抑制を目的に、構成元素である3種類の元素の内、意図的に含まれない不純物のFeについてその含有量を減少させたものである。その結果、合金BビレットにおいてはAl7Cu2Feの積分回折強度が著しい低下を示した。
【0053】
さらに、合金BビレットにおいてはAl2CuMgが検出された。これはFeの含有量を減少させたためにFeを含む化合物であるAl7Cu2Feの形成が非常に少ないかわりに新たに形成されたものと考えられる。また、MgZn2(η相)とAlCuMg(Hexagonal)がともに検出されたが、実施例2と比較例2とでそれほど大きな差はなく析出量の差は小さい。
【0054】
さらに、同一合金でのビレットと押出形材を比較すると、合金Bビレットに存在したAl2CuMgが押出材では検出されなくなっている。これはAl2CuMgはAl7Cu2Feに比べ固溶し易いためであり、鋳造後の均質化処理、押出およびその後の溶体化処理の工程で固溶・消失したものと考えられる。また、MgZn2も同様の理由により押出材では大幅に減少しているのが確認された。
【0055】
他方、Al7Cu2Feはほとんど変化がなく鋳造後の晶出がその後の加工・熱処理においても残留することが確認された。また、AlCuMgについては逆に積分回折強度の増加を示し、鋳造後の複数の工程による新たな生成が考えられるが、これは合金強度の確保を目的に添加されている元素の挙動を示したものと考えられる。
【0056】
【発明の効果】
本発明のペリクル枠によれば、そのペリクル枠用アルミニウム合金は、組織中の晶出物のうち、円相当径が1μm以上の晶出物の大きさおよび分散性、特に晶出物の円相当径および組織中に占める面積比を適切に制御することによって、陽極酸化染色後の皮膜欠陥の形成を抑制し光の反射を伴う白点の発生抑制に優れたものとなり、半導体製造設備や光学機器などの構成部品、特にペリクル枠用合金として最適である。
【0057】
本発明のペリクル枠の製造方法によれば、上述のように陽極酸化染色後の皮膜欠陥の形成を抑制し光の反射を伴う白点の発生抑制に優れたペリクル枠を確実かつ安定してしかも安価に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のペリクル枠の一実施形態を示し、(A)は透明基板にペリクルを貼着装備した状態の断面図、(B)はペリクルの断面図、(C)はペリクルの平面図である。
【符号の説明】
2 硬質ガラス(透明基板)
3 回路配線図(回路パターン)
5 フォトレジストマスク
7 ペリクル
8 ペリクル枠
9 ペリクル膜
10 貼着剤保護膜
11 貼着剤
13 高さ方向
H ペリクル枠の高さ
Claims (4)
- Zn5.1〜6.1質量%、Mg2.1〜2.9質量%、Cu1.2〜2.0質量%、Cr0.18〜0.28質量%を含有し、さらにTi0.20質量%以下、またはTi0.20質量%以下およびB0.02質量%以下を含み、残部Alと不純物からなり、該不純物はFe0.20質量%以下、Si0.07質量%以下、Mn0.30質量%以下、V0.01質量%以下、Zr0.01質量%以下、Ti+Zr0.20質量%以下とし、その他の元素各々0.05質量%以下で合計0.15質量%以下であつて、晶出物のうち円相当径が1μm以上の晶出物の円相当径平均値が5μm未満であり、かつ該1μm以上の晶出物の占める面積比が5%未満であることを特徴とするペリクル枠。
- 表面が陽極酸化処理され、該皮膜が黒色系染料で染色されていることを特徴とする請求項1記載のペリクル枠。
- 前記皮膜が黒色系染料で染色される際、ペリクル枠全体が染料液内で揺動させながら染色されたものであることを特徴とする請求項2記載のペリクル枠。
- Zn5.1〜6.1質量%、Mg2.1〜2.9質量%、Cu1.2〜2.0質量%、Cr0.18〜0.28質量%を含有し、さらにTi0.20質量%以下、またはTi0.20質量%以下およびB0.02質量%以下を含み、残部Alと不純物からなり、該不純物はFe0.20質量%以下、Si0.07質量%以下、Mn0.30質量%以下、V0.01質量%以下、Zr0.01質量%以下、Ti+Zr0.20質量%以下とし、その他の元素各々0.05質量%以下で合計0.15質量%以下からなるDC鋳造ビレットを460℃以上の温度に12時間以上加熱保持して均質化処理を施した後押出加工し、爾後溶体化焼入れ処理し、時効硬化処理することによって晶出物のうち円相当径が1μm以上の晶出物の円相当径平均値が5μm未満であり、かつ該1μm以上の晶出物の占める面積比が5%未満に調整することを特徴とするペリクル枠の製造方法。
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