JP3740753B2 - 耐火性に優れた建築用電縫溶接鋼管 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、耐火性に優れた建築用電縫溶接鋼管の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
金属材料の降伏強度は、その使用温度が高くなると一般的に低下する。建築用等に使用される構造用鋼材においても同様であり、その使用温度が350℃を越えて高温になると、著しく低下することが知られている。そのため、火災時に高温状態になることが懸念される構造物、特に、人間が居住する建築物においては、法的規制が設けられている。
【0003】
例えば、使用する鋼材に耐火被覆を行い、環境が高温状態になった場合も、一定時間内は鋼材の温度が350℃を越えることがないこと、したがって、その間は建造物が破壊したり著しく変形することが無く、安全性が確保される様な設計および施工を行うことが義務付けられてきた。しかし、鋼材にロックウール等の耐火被覆を施すことは、工事費がかさむこと、施工の環境が悪いこと、室内容積の減少をもたらすこと、美観を損ねること等の問題点がある。
【0004】
これに対して近年になって、建築基準法の改正を機に、従来の設計思想である「火災の場合に耐火被覆により、鋼材の温度の上昇を防ぎ、鋼材の強度を維持する方法」に対して、「高温において強度の低下が少ない鋼を用いることにより、高温状態においても、構造物が破壊することを防止する方法」が注目を集め始めた。
【0005】
すなわち、鋼材の高温における降伏強度が保証される場合は、鋼材の温度が高くなることを可とする考え方の採用が、可能になったものである。例えば600℃程度の高温においても、一定程度の強度を有する鋼を用いて、構造物を製作する方法であり、これにより、従来は必須とされていた耐火被覆を削除したり、または、減少した設計を行うことが可能となった。
【0006】
従来より、高温における降伏強度が保証(高温における降伏強度が認められている。)されている鋼材はもちろん存在する。たとえば、JIS規格のG3462「ボイラ・熱交換器用合金鋼鋼管」には、CrやMoを含む耐熱電縫溶接鋼管が相当数載せられている。
【0007】
しかしながら、これらの鋼管は高温の伝熱管用や配管用等の、鋼の温度が常時500℃以上にもなるような環境において、年単位の長期間の使用を予定したものである。これは、本発明が対象としている「通常の使用環境は常温であるが、火災時等の極めて限られた時間内だけ高温になる環境での使用」を目的としたものではない。そのため、材料特性の中では、500℃以上の高温におけるクリープ強度を高く保つことに、重点を置いた合金設計が行われている。
【0008】
その結果、ボイラ・熱交換器用合金鋼鋼管には、次のような特徴がある。
▲1▼ Mo、Cr、Nb等の、高温長時間のクリープ強度を高く保つための合金元素を、比較的多量に含有させている。
▲2▼ 室温での強度を高くする合金設計は、ともすれば高温長時間の強度(クリープ強度)を低くすることが多く、特にプラント等の施工時において、曲げ加工性等に問題を生じる可能性があるため、好ましくないとされる。そのため、通常は、常温の降伏強度を下げることに重点を置いた熱処理が行われことが多く、その結果として、高温の降伏強度も低い。
▲3▼ 冷間加工は常温強度を上げ、逆に高温強度を下げる傾向にあるため、好ましくない。
【0009】
このように、これらの鋼管では、必然的に合金元素の含有量が高くなりがちであり、また、高温で安定した組織を得るために、熱処理は通常、高温で長時間行われることが多く、結果的に相当に高価な鋼となっている。そして、その常温の降伏強度は、20〜30kgf/mm2 程度であり、600℃の降伏強度も、15〜20kgf/mm2 程度と必ずしも高くはない。
【0010】
一方、上記した建築基準法の改正に対応して、短時間の高温強度を高めた、いわゆる耐火鋼が近年になって多数開発された。開示されている技術も多く、その中で電縫溶接鋼管に関するものには、特開平4−228520号公報や、特開平4−228521号公報に示されている技術がある。
【0011】
電縫溶接鋼管は、通常は鋼帯を冷間で成形して製品とする。したがって、鋼に耐火性を与えるための、C、Mn、Mo等の合金化と、冷間成形との関係が重要である。上記の公報に開示されている電縫溶接鋼管の実施例の内で、冷間成形後に焼き戻し処理を行っていないものの常温の降伏強度は、いずれも45kgf/mm2 を越えており、建築用の電縫溶接鋼管としては使いにくい。
【0012】
たとえば、建築用に用いる角鋼管であるボックスコラムロール鋼管(以下、BCR鋼管と呼ぶ)としては、常温の降伏強度が30〜45kgf/mm2 、600℃の降伏強度が20kgf/mm2 以上が一応の目安となる。これは、常温の降伏強度が、45kgf/mm2 を越えると施工しにくくなること、また、600℃の降伏強度が20kgf/mm2 未満の場合は、耐火被覆の削減効果が少なくなり、メリットが出てこないことによる。
【0013】
もちろん、焼き戻し処理が行われた場合は、上記のBCR鋼管に要求される条件を満足することは可能であるが、工程数の増加によるコスト増が懸念される。冷間加工後に焼き戻しを行っている例は、他にも、特開平4−128316号公報、特開平4−165017号公報、および特開平4−168219号公報等にも記載されている。
【0014】
また、特開平4−176821号公報には、冷間成形後に鋼管をAc3 変態点以上の温度に上げ、必要に応じて、さらに焼き戻しを行う技術が開示されている。これらの開示例は冷間加工のままでは、上記の常温の降伏強度の条件を満足することが困難なことを示している。
【0015】
一方、特開平4−176818号公報や、特開平4−176819号公報には、Ac3 変態点以上の温度で成形する技術が、また、特開平4−218615号公報には、(Ac3 −200℃)〜(Ac3 −20℃)の温度範囲で成形する技術が示されている。これらの場合は、常温の降伏強度は十分に低くなるが、この様な高温での加工が、コスト高になることは言うまでもない。
【0016】
同様の技術が、特開平4−218616号公報、特開平5−59435号公報、にも示されており、特開平4−218620号公報および特開平5−39436号公報は、さらに焼き戻しを行っている。上記の公報に開示されている多数の実施例は、いずれも600℃において、20kgf/mm2 以上の降伏強度を示している。
【0017】
【発明が解決しようとする課題】
本発明が目的としている建築用電縫溶接鋼管においては、火災時におけるような、比較的短時間の間の強度が一定値以上であれば十分であり、上記した耐熱鋼のような、高温における長時間の強度が高いことは必要でない。したがって、合金設計も当然異なってくる。
【0018】
一方、上記した従来の、いわゆる耐火性があるとされている電縫溶接鋼管は、厚板や形鋼等の、熱処理後に冷間加工を行わない鋼材と、同一の合金設計思想を基本としている。ここで、冷間加工とは、冷間歪みを与える加工のことであり、温度域としては、加工直後の機械的性質が実質的に変化しない温度域を指すものとする。したがって、いわゆる温間加工も含む。
【0019】
電縫溶接鋼管の製造においては、製造プロセス中に鋼材に加えられる冷間歪みを無視することはできない。従って、従来技術のように、通常のプロセスにより鋼管を製造する場合の合金設計は、鋼に必然的に相当量の冷間歪みが加えられる電縫溶接鋼管に対しては、最適の合金設計にはなっていない。
【0020】
この発明は、上記の従来技術の問題点を解決し、火災時の高温における降伏強度が高く、耐火被覆の簡略化または省略が可能な、建築用鋼材として適切な常温降伏強度および耐火強度を有する建築用電縫溶接鋼管を提供する。
【0021】
【課題を解決するための手段】
請求項1の発明は、重量%で、C:0.03〜0.07%、 Si:0.1%以下、Mn:0.05〜1.0%、 Al:0.1%以下、Mo:0.2〜0.7%、 V:0.01〜0.10%、を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物よりなるとともに、下記の式で表されるC当量Ceqが0.36以下、時効強化指数Aが0.3以上0.4未満であり、丸管もしくは角管への成形後の降伏強度が、常温で295MPa以上445MPa以下で、かつ、600℃で197MPa以上であることを特徴とする耐火性に優れた建築用電縫溶接鋼管である。
【0022】
Ceq=C+Si/24+Mn/6+Mo/4+V/14
A=4.8(C/2+0.1)×(Mn/5+Mo+V)
ここで、各元素記号はそれぞれの重量%を表す。
【0023】
この発明は、通常の鋼管では強度が低下する600℃前後の強度の低下を抑制する機構について、鋭意検討した結果なされたものである。発明者らは、600℃程度の高温での降伏強度に対して、冷間歪みが有効に作用することに着目した。冷間加工により鋼の内部に導入された格子欠陥と、鋼中の合金元素との相互作用が、高温における降伏強度と密接な関係を持つためである。
【0024】
合金元素の中では、C、Mn、Mo、Vが高温での強度低下を抑制する効果が強い。この効果は、特に加工歪(冷間加工歪)が存在する際に顕著である。この強度低下を抑制する効果について検討する中で、この発明のような合金元素の低い領域では、加工歪εを2〜5%の範囲で加えた鋼の600℃における降伏応力σ600(ε) が、次の式で表されることを見いだした。
【0025】
σ600(ε) =σ600(0) +41.2εA (1)
ここで、σ600(0) は加工歪が0%の場合の600℃における降伏応力、Aは時効強化指数、応力の単位はMPaである。時効強化指数Aは、冷間加工がない場合と比べた時効強化の大きさ、即ち歪時効による強化を表していると言うこともできる。
【0026】
これらC、Mn、Mo、V等の元素の効果は、従来技術のような降伏応力に対して加算的なものではなく、このような時効強化の機構と密接に結びついていることが明らかとなった。検討の結果、時効強化指数Aが次のように表されることを解明した。
【0027】
ここで、各元素記号はそれぞれの重量%を表す。
【0028】
この式の形から、右辺第1項は、Mn、Mo、Vが固溶状態で寄与する項、同第2項は、これらの元素とCとの相互作用が寄与する項と考えられる。ここで、Mn、Mo、VとCとの相互作用の寄与とは、炭化物あるいは炭素原子とのクラスター形成による降伏応力への寄与と考えられる。この式(2)の右辺を整理すると、請求項1の式が得られる。
【0029】
A=4.8(C/2+0.1)×(Mn/5+Mo+V) (3)
この時効強化指数Aが0.3未満では、時効強化が小さく歪導入後でも高温強度(600℃における降伏応力)の確保が困難となる。一方、時効強化指数Aが0.4を超える場合は、合金元素の添加量が多くなるため、常温での降伏強度が高くなりすぎ上限値以下にするのが困難となる。また、合金コストの観点からも好ましくない。
【0030】
Cは、鋼の常温および高温の降伏強度を確保するめに必要な元素である。しかし、0.07%を超えると、常温での降伏強度が高くなりすぎ、建築材料として必要な低い降伏応力が得られないので、この値を上限とする。
【0031】
C当量Ceqについては、BCR規格では、
Ceq=C+Si/24+Mn/6+Mo/4+V/14 (4)
とするとき、0.36以下であり、これに従った。また、成形後の降伏強度は、同じくBCR規格では、常温で295MPa以上445MPa以下であり、これに従い決定した。
【0033】
Cは、鋼の常温および高温の降伏強度を確保するめに必要な元素である。C量が0.03%未満では高温での耐力確保に必要な炭化物の析出が不十分となる。一方、0.07%を超えて含有させると、常温での降伏強度が高くなりすぎ、建築材料として必要な低い降伏応力が得られない。したがってC量の範囲は0.03〜0.07%とする。
【0034】
Siは、通常、脱酸元素として用いられるが、このSiの脱酸効果はAl等の他の元素によっても代替可能である。Siは、常温の降伏強度を上昇させるが高温強度への寄与は殆どない。したがって、常温の降伏強度に上限が規定されており、高温の降伏強度が高いことが要求される耐火鋼用の合金元素としては、必ずしも好ましいものではない。具体的にはSiの含有量が0.1%を越えると、常温の降伏強度は大きく上昇し、BCR鋼管の規格の上限を越えるため、その量を0.1%以下に制限する。
【0035】
Mnは、鋼中に含まれるSによる熱間圧延時の割れ防止に有効な元素であるため、少なくとも0.05%の添加が必要である。一方、1.0%を越えて含有させると常温の降伏強度が高くなりすぎ、また、溶接性や靱性が劣化する。したがって、Mn量の範囲は0.1〜1.0%とする。なお、Mnは高温強度への寄与があり、この観点からは0.5%以上の添加が望ましい。
【0036】
Moは、火災による温度上昇時に鋼中に炭化物として析出し、高温での耐力を上昇させる。Moの効果は含有量が0.2%未満の場合は効果が薄い。一方、0.7%を超えて含有させると、固溶強化により常温の降伏強度を上昇させる。また、製造コストも上昇する。したがって、Mo量の範囲は0.2〜0.7%とする。
【0037】
Vは、Moの析出を促進し、高温での耐力を上昇させるために非常に有用な元素である。しかし、V量が0.01%未満では、その効果は期待できない。また、0.10%を超えて添加しても効果が飽和する。したがって、V量の範囲は0.01〜0.10%とする。
【0038】
Alは、高温強度への寄与が少ないので、特に添加する必要はない。但し、Siと同様に脱酸元素であり、必要に応じて用いてよい。その場合、Al量が0.1%を超えると靱性を劣化させる等の悪影響が出てくるため、0.1%を上限とする。
【0039】
不可避的不純物については、その中で、P、S、Nは、高温強度へ大きな影響を与えないので、その量は特に規定しない。鋼の清浄度当の観点からは、Pは0.01%以下、Sは0.005%以下、Nは0.005%以下とするのが望ましい。
【0040】
なお、不可避的不純物にはP、S、N以外にも、製鋼その他の製造工程で、スクラップ等から混入する種々の元素が含まれる(金属元素も含む)。これらは、通常の鋼管で許容できる範囲であれば、含まれていても差し支えないことは言うまでもない。
【0041】
【発明の実施の形態】
化学成分を請求項1記載のC当量と時効強化指数Aの範囲内、又はさらに請求項2記載の範囲内に調製した鋼をスラブとなし、この鋼スラブを高温のままもしくは1100〜1250℃に再加熱し、840〜950℃の仕上温度で熱延鋼板を製造する。熱延後は、冷却速度は5〜30℃/sで冷却し、650℃以下で巻き取る。この熱延鋼板を用いて、電縫溶接法により鋼管を製造すれば、この発明の耐火性に優れた建築用電縫溶接鋼管が得られる。
【0042】
【実施例】
表1に示す化学成分の鋼をスラブとなし、この鋼スラブを1200℃に再加熱して860℃の仕上温度で熱延鋼板を製造した。熱延後の巻取温度は550℃である。この熱延鋼板を、実際の電縫溶接法における造管の際の歪と同様の大きさの歪を実験室的に加えた。歪の導入は、実際のプロセスにおける歪(板厚/直径)に等しい伸長率2〜5%で圧延することにより行った。
【0043】
なお、実際の造管の際は複雑な加工歪が導入されるので、実際のプロセスで加工された管のデータと実験室的に歪を導入した場合のデータを比較した。その結果、常温および高温(600℃)の降伏強度および引張強度への歪の影響は、実際のプロセスにおける歪(板厚/直径)に等しい伸長率で圧延した場合と同等であることが、検討により判明した。
【0044】
このようにして導入した歪の大きさ(%)を、表1に示してある。歪の導入後の熱延鋼板からは、試験片を採取し常温および高温で引張試験を行った。常温での引張試験は、JIS規格のZ2241に基づき行った。
【0045】
引張試験結果を表1に示す。表の中で、YS−RTとTS−RTは常温における降伏強度と引張強度、YS−600とTS−600は高温(600℃)における降伏強度(σ600 )と引張強度をそれぞれ示す。なお、表1には、式(3)、(4)より計算した時効強化指数A、C当量Ceqも示してある。
【0046】
【表1】
【0047】
表1では、鋼符号1〜3は時効強化指数Aが発明の範囲0.3〜0.4の中に入っており、鋼符号5と7は時効強化指数Aが0.19〜0.22で発明の範囲より小さく、鋼符号6は時効強化指数Aが0.49で発明の範囲より大きい。
【0048】
表1からわかるように、発明の鋼は、常温における降伏強度YS−RTが323〜416MPaであり、高温(600℃)における降伏強度YS−600が201〜276MPaで、BCR規格(常温で295MPa以上445MPa以下600℃で197MPa以上)を満足している。
【0049】
これに対して、鋼符号5と7は、高温(600℃)における降伏強度YS−600が138〜195MPaで、上記BCR規格の範囲より低い。また、鋼符号6は、常温における降伏強度YS−RTが459〜508MPaであり、上記BCR規格の範囲より高い。このように、比較鋼はいずれも常温における降伏強度あるいは高温(600℃)における降伏強度が、BCR規格の範囲からはずれている。
【0050】
【発明の効果】
この発明では、C、Mn、Mo、V等の元素と時効強化の機構との関係から時効強化指数を求め、この指数を、常温における降伏強度が低く、高温(600℃)における降伏強度が高くなるよう、所定の範囲に規定している。これにより、目的とする鋼の化学成分が得られる。
【0051】
このようにして、建築等の構造物等に用いられる、火災時の高温における降伏強度が高く、耐火被覆の簡略化または省略が可能な、建築用鋼材として適切な常温降伏強度および耐火強度を有する電縫溶接鋼管が実現できる。
Claims (1)
- 重量%で、C:0.03〜0.07%、 Si:0.1%以下、Mn:0.05〜1.0%、 Al:0.1%以下、Mo:0.2〜0.7%、 V:0.01〜0.10%、を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物よりなるとともに、下記の式で表されるC当量Ceqが0.36以下、時効強化指数Aが0.3以上0.4未満であり、丸管もしくは角管への成形後の降伏強度が、常温で295MPa以上445MPa以下で、かつ、600℃で197MPa以上である耐火性に優れた建築用電縫溶接鋼管。
Ceq=C+Si/24+Mn/6+Mo/4+V/14
A=4.8(C/2+0.1)×(Mn/5+Mo+V)
ここで、各元素記号はそれぞれの重量%を表す。
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